説明

2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの製造方法

【課題】2,3,3,3−テトラフルオロプロペン(HFO−1234yf)の合成のための、容易に入手でき安価な出発物質を変換する直接的なルートを提供することを目的とする。
【解決手段】CFCF=CHを含む反応生成物を製造するために有効な条件のもとで、CCl=CFCHClを含む反応物質をHFのようなフッ素化剤に接触させる工程を含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンを調製する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、その開示が参照により本明細書に組み込まれている2007年1月3日に出願の米国特許出願第11/619,592号(特許文献1)の一部継続出願に相当する。
【0002】
(技術分野)
本発明は、フッ素化された有機化合物の新規な調製方法に関し、より詳細には、フッ素化オレフィンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
テトラフルオロプロペン(例えば、2,3,3,3−テトラフルオロ−1−プロペン(HFO−1234yf))のような、特定のヒドロフルオロアルケンを含む、ヒドロフルオロカーボン類(HFCs)は、有効な冷媒、消火剤、熱伝達媒体、噴射剤、起泡剤、発泡剤、ガス状誘電体、滅菌剤担体、重合反応媒質、粒子除去流体、担体流体、バフ研磨剤、置換乾燥剤、及び動力サイクル作動流体である。共に地球のオゾン層に損傷を与える可能性があるクロロフルオロカーボン類(CFCs)やヒドロクロロフルオロカーボン類(HCFCs)とは異なり、HFO−1234yfは塩素を含まず、したがって、オゾン層に何ら脅威も与えない。また、HFO−1234yfは、大抵のCFCsやHCFCsに比べて、比較的低い地球温暖化係数(GWP)を有する。
【0004】
特定のHFO類の合成方法は公知である。例えば、トリフルオロアセチルアセトンと四フッ化硫黄からHFO−1234yfを調製することはすでに記載されている。Banksら、Journal of Fluorine Chemistry、82巻、第2号、171〜174頁(1997)を参照されたい(非特許文献1)。また、米国特許第5,162,594号明細書(Krespan)には、ポリフルオロオレフィン製品を製造するために、テトラフルオロエチレンを他のフッ素化エチレンと液相で反応させるプロセスが開示されている(特許文献2)。これらの出発物質は高価で、取り扱い難く、及び/又は低収率となり得る。しかしながら、以下の3段階のプロセスを用いて、CH=CFCFを調製するために、安価な、容易に入手できる出発物質としてCCl=CClCHClを使用し得る。
【0005】
【化1】

【0006】
しかしながら、このような多段階プロセスは、一般には、より短い合成ルートに比べて複雑で、経済的ではない。したがって、容易に入手でき、安価な出発物質を変換する直接的なルートの必要性がいまだ存在する。HFO−1234yfの合成のためのそうした出発物質はこれまで知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0197842A1号公報(米国特許出願番号第11/619,592号明細書)
【特許文献2】米国特許第5,162,594号明細書(Krespan)
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Banksら、Journal of Fluorine Chemistry、82巻、第2号、171〜174頁(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
出願人らは、CCl=CFCHClをフッ素化することを含むHFO−1234yfを合成する新規な方法を発見した。本発明においては、CFCF=CHの中央炭素上のフッ素原子は、CCl=CFCHClの調製過程(例えば、CH=CClCHCl若しくはCHCl=CClCHClへのHFの添加によるか、又はCH=CClCHClのクロロフッ素化による調整)において導入される。このことは、従来技術のプロセスに比べて、プロセス全体を短縮する。CCl=CFCHClは公知の化合物ではあるけれども、HFO−1234yfの合成における反応物質としてそれを有利に使用することは、そのような反応物質に対する要望があるにもかかわらず、公知ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明のある種の態様では、CFCF=CHを含む反応生成物を製造するために有効な条件のもとで、CCl=CFCHClを含む反応物質をフッ素化剤に接触させる工程を含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの調製方法が提供される。
【0011】
本発明の別の態様に従えば、少なくとも1つのテトラクロロフルオロプロパンを含む前駆体組成物を用意する工程;少なくとも1つのテトラクロロフルオロプロパンを脱塩化水素して、CCl=CFCHCl及びCH=CFCClからなる群から選択される少なくとも1つのトリクロロフルオロプロペンの第1の量を製造する工程;任意選択で、前記CH=CFCClを異性化触媒に接触させて、第2の量のCCl=CFCHClを製造する工程;及びCFCF=CHを含む反応生成物を製造するために有効な反応条件のもとで、前記第1の量の前記トリクロロフルオロプロペン、及び任意選択で、前記第2の量のCCl=CFCHClを含む反応物質をフッ素化剤に接触させる工程;を含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの調製方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般に、CFCF=CHを製造するための、CCl=CFCHClのHFを用いる触媒的フッ素化は、液相、気相、又は気相と液相の組合せで行うことができ、この反応は、バッチ(回分式)法、連続法、又はこれらの組合せで実施できることが意図されている。
【0013】
本明細書で使用する場合、「直接的に変換する」という用語は、ただ1つの反応で、又は実質的に1組の反応条件下で変換することを意味する。
【0014】
反応が液相反応を含む実施形態では、反応は触媒的でも非触媒的でもよい。好ましくは、触媒的プロセスが使用される。ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化タリウム、ハロゲン化鉄、及びこれらの2つ以上の組合せを含むハロゲン化金属触媒のようなルイス酸触媒が、ある特定の実施形態においては好ましい。金属塩化物及び金属フッ化物が特に好ましい。このタイプの特に好ましい触媒の例としては、SbCl、SbCl、SbF、SbCl5−n(式中、nは1から4の整数である)、SnCl、TiCl、FeCl、及びこれらの2つ以上の組合せを含む。
【0015】
反応が気相反応を含む実施形態では、反応は、好ましくは、少なくとも一部は触媒的であり、好ましくは、1つ又は複数の反応容器中に、1つ又は複数の流れとして、反応物質とフッ素化剤とを導入することによる連続法をベースとして行われる。ある特定の実施形態では、CCl=CFCHClの流れを(好ましくは、約150℃の温度に予熱して)、反応容器の中へ導入し、その中で、約200〜500℃(好ましくは、約250〜450℃、さらに好ましくは、約300〜400℃)の温度で触媒とHFとに接触させることにより、連続法で気相反応が行われる。HF対CCl=CFCHClのモル比は、(化学量論的な量である)約3:1から約20:1の範囲を取り得る。好ましい触媒は、クロム系の触媒(フッ素化酸化クロムを含むCrなど)、及び鉄系の触媒(FeClなど)、又はそれらの組合せである。そのほかの触媒は、活性炭、及び遷移金属塩(例えば、コバルト、鉄、銅及びマンガン)を含む活性炭、及び不活性担体材料(例えば、フッ化アルミニウム)上の遷移金属塩である。
【0016】
好ましい接触時間は、良好な変換を達成する時間であり、触媒の活性度により変化し得る。ある特定の実施形態では、接触時間は良好な生産性を与えるように選択され、通常約1〜約60秒、より好ましくは、約1〜約10秒、さらに好ましくは、約2〜約5秒の範囲となろう。
【0017】
液相及び気相反応のための反応容器は、ハステロイ(Hastelloy)、インコネル(Inconel)、及びモネル(Monel)のような、HF及びHClによる腐食に対して抵抗性の材料により構成される。
反応圧力は、所望のレベルの変換率と収率を達成するように接触時間を調整するためにかなりの範囲にわたって変化させ得る。
【0018】
好ましくは、本発明は、1つ又は複数の反応の使用を含み、少なくとも約50%、より好ましくは、少なくとも約75%、及びさらに好ましくは、少なくとも約90%の収率で、HFO−1234yfを有する反応生成物を製造するために有効な条件のもとで行われる。ある特定の好ましい実施形態では、変換率は少なくとも約95%であり、より好ましくは少なくとも97%である。
【0019】
化合物CHCFClCClは、脱塩化水素を経由してCH=CFCClに変換され、続いて、所望のCCl=CFCHClに異性化することができる。CHCFClCClの脱塩化水素は、液相又は気相触媒反応であってもよい。脱塩化水素の条件により、CHCFClCClから、2つの異性体、すなわち、CH=CFCCl及びCCl=CFCHClが生成し得る。CHCFClCClのNaOHを用いる低温での脱塩化水素は、CH=CFCClに導くが、液相及び気相触媒反応(例えば、活性炭又はFeCl触媒を用いて)からの生成物はCCl=CFCHClである。このように、ある特定の条件下では、脱塩化水素と異性化は1つの反応ステップで起こり得る。
【0020】
あるいは、CCl=CFCHClは、CHClCFClCHClの脱塩化水素により調製し得るが、この化合物の方は、CHClCFClCHClの塩素化により作製し得る(例えば、Zhurnal Organicheskoi Khimii(1971)、第7巻(9号)、1181頁を参照されたい)。
【実施例】
【0021】
実施例1.CCl=CFCHClの気相フッ素化によるCFCF=CH
チューブ加熱炉中で加熱されている長さ50cm、直径10mmのモネル管中に、あらかじめ乾燥しておいたフッ素化Cr触媒10cmを入れる。管の入り口側は、HFシリンダーとCCl=CFCHClを有するシリンジポンプに接続する。管の出口側は、ドライアイス−アセトンで冷却したトラップに、続いて酸スクラバー(酸洗浄装置)に接続する。反応の間、温度は350℃に制御し、一方、HFの添加は、1時間当り5g(0.25モル)に制御し、CCl=CFCHClの添加速度は、接触時間を2.3秒にするために、1時間当り10g(0.06モル)とする。反応後、冷却トラップ中の粗生成物をゆっくりと温め、HFと共に生成物を水中にバブリングし、さらに別の冷却トラップ中へ送り、生成物であるCFCF=CHを凝縮させる。
【0022】
実施例2.CH=CFCClのCCl=CFCHClへの異性化
50gのCH=CFCClと5gの4.6%FeCl/C触媒とを、フラスコ中で100℃で撹拌する。GC分析で確認して、反応が完了した後、触媒をろ別し、CCl=CFCHClはそのままフッ素化反応に用いる。
【0023】
実施例3.CH=CFCClを得るためのNaOHを用いるCHCFClCClの脱塩化水素
250mLの三つ口フラスコに、撹拌棒、固体添加ろうと、蒸留ヘッド、凝縮器、及び受容器を取り付ける。フラスコ中にCHCFClCCl(72g、0.36モル)を入れ、ろうと中に砕いた固体のNaOH(15g、0.36モル)を入れる。CHCFClCClを、オイルバスで約150〜175℃に加熱する。次いで、固体のNaOHを、約1時間をかけて、撹拌下で添加する。反応の間、CClCF=CHが生成するにつれて留出する。
【0024】
実施例4.CCl=CFCHClを得るためのCHCFClCClの液相での触媒的脱塩化水素
5gの無水FeClと100gのCHCFClCClを、還流凝縮器と撹拌棒を取り付けた250mLのフラスコに入れる。還流器の上端は酸スクラバーにつなぐ。フラスコをオイルバス中で、撹拌下、CHCFClCClが溶解するまで加熱し、次いで、この混合物を10時間、この温度(130〜140℃)に保つ。生成物を蒸留し、沸点129℃のCCl=CFCHClを回収する。
【0025】
実施例5.CCl=CFCHClを得るためのCHCFClCClの気相での触媒的脱塩化水素
10gの4.6%FeCl/C触媒を、チューブ加熱炉中で加熱されている直径10mmのモネル管に入れる。管の入り口側は、流量計及びN源、ならびにCHCFClCCl源に接続する。管の出口側は、ドライアイスで冷却され、HClスクラバーに接続された生成物受容器に接続する。反応の間、管を200℃に加熱する。窒素流量を10cc/分に保つ一方、CHCFClCClの添加速度は、0.2g/分である。冷却トラップ中の脱塩化水素粗生成物を蒸留し、純粋なCCl=CFCHClを得る。
【0026】
実施例6.CHCl=CClCHClを得るためのCHClCFClCHClの脱塩化水素
実施例5と同じ手順を使用する。
【0027】
実施例7.CHClCFClCHClのためのCHClCFClCHClの塩素化
250mLの三つ口フラスコに、撹拌棒、温度計、及び−5℃に保った還流凝縮器を取り付ける。塩素シリンダーからフラスコ中に、流量計でCl流を制御して、塩素を導入して供給を行う。凝縮器の上端は、HClとClのスクラバーに接続する。フラスコ中に、CHClCFClCHCl(126g又は0.76モル)を入れ、次いで、オイルバス中で140〜150℃に加熱する。Clを1時間当り10gで、CHClCFClCHCl中に表面下にバブリングする。54g(0.76モル)のClを加えた後、反応混合物を分留してCHClCFClCHClを分別する。
【0028】
実施例8.CHClCFClCHClを得るためのCHCl=CClCHClの液相HF添加
500mLのオートクレーブに、2モル(270g)のCHCl=CClCHClと2.2g(0.008モル)のTaFを入れる。反応器を閉じ、ドライアイス−アセトン下で排気する。40g(2モル)の無水HFを加える。反応混合物を24時間、室温で撹拌する。粗生成物混合物を砕いた氷の上に注意深く注ぎ、有機層を分離し、水洗して乾燥する。
【0029】
本発明のいくつかの特定の実施形態を上述したが、本明細書に含まれる教示に照らせば、明確に記載されてはいないが、様々な変更、改良、及び改善が、利用可能であり、本発明の範囲に含まれることは、当業者には明らかであろう。そのような変更、改良、及び改善は、本開示により明白であるように、本明細書に明示的には記述されてはいないがこの記載の一部であることを意図しており、本発明の精神と範囲に含まれることを意図している。したがって、以上の記述は単に例示のためのものであって、制限を加えるものではない。本発明は、以下の特許請求の範囲及びそれらの均等物において定義するようにのみ限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CFCF=CHを含む反応生成物を製造するために有効な条件のもとで、CCl=CFCHClを含む反応物質をフッ素化剤に接触させることを含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの調製方法。
【請求項2】
前記接触により、前記反応物質を前記反応生成物に直接変換する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記フッ素化剤がHFである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記接触が気相反応を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記気相反応が、酸化クロム(III)、フッ素化酸化クロム、塩化鉄(III)、活性炭、及び遷移金属ハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも1つの触媒を伴う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記気相反応の少なくとも一部の間において、前記HF及び前記CCl=CFCHClが、約3:1から約20:1のモル比で存在する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記接触が液相反応を伴う、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記液相反応が、SbCl、SbCl5−n、SnCl4、TiCl、及びFeClからなる群から選択される少なくとも1つの触媒を伴い、式中、nは0から4の整数である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
CH=CFCClを含む前駆体組成物を用意する工程;及び
前記前駆体組成物を異性化触媒に接触させて、前記CCl=CFCHClを製造する工程;
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記異性化触媒が、塩化鉄(III)/炭素触媒を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つのテトラクロロフルオロプロパンを含む前駆体組成物を用意する工程;
少なくとも1つのテトラクロロフルオロプロパンを脱塩化水素して、CCl=CFCHCl及びCH=CFCClからなる群から選択される少なくとも1つのトリクロロフルオロプロペンの第1の量を製造する工程;
任意選択で、前記CH=CFCClを異性化触媒に接触させて、第2の量のCCl=CFCHClを製造する工程;及び
CFCF=CHを含む反応生成物を製造するために有効な条件のもとで、前記第1の量の前記トリクロロフルオロプロペン、及び、任意選択で、前記第2の量のCCl=CFCHClを含む反応物質をフッ素化剤に接触させる工程;
を含む、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンの調製方法。
【請求項12】
前記テトラクロロフルオロプロパンが、CHCFClCCl、CHClCFClCHCl、又はそれらの組合せからなる群から選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記異性化触媒が、塩化鉄(III)/炭素触媒を含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記脱塩化水素する工程が、前記テトラクロロフルオロプロパンをNaOHに接触させることを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記脱塩化水素する工程が、液相触媒反応を伴う、請求項12に記載の方法。
【請求項16】
前記脱塩化水素する工程が、気相触媒反応を伴う、請求項12に記載の方法。

【公開番号】特開2010−43083(P2010−43083A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−187340(P2009−187340)
【出願日】平成21年8月12日(2009.8.12)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】