説明

3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法

【課題】医農薬中間体及び機能性材料中間体として有用な3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法を提供する。
【解決手段】4−フルオロトルエンを出発原料として、これを次の工程に付して上記目的化合物に誘導する。
第1工程:4−フルオロベンゾトリクロリドにフッ化水素(HF)を反応させ、4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る工程。
第2工程:4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素(Cl2)を反応させ、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医農薬中間体及び機能性材料中間体として有用な3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドは、医薬、農薬の中間体として有用な化合物である。
【0003】
3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法は、これまで数多くの文献で開示されている。従来の方法として、特許文献1及び2に、3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドをジメチルスルホキシド(DMSO)溶媒中において、フッ化カリウムを加え、反応系を無水に保ち、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る方法が記載されている(スキーム1)。
【0004】
【化5】

【0005】
また、特許文献3において、4−ハロゲノ−3−ニトロベンゾトリフルオリドを非プロトン性極性溶媒中で、フッ化カリウムによりフッ素化して4−フルオロ−3−ニトロベンゾトリフルオリドを得、次いでHFトラップ剤及び脱水剤存在下でニトロ基を塩素ガスにより塩素置換し、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る方法が記載されている。(スキーム2)
【0006】
【化6】

【特許文献1】特開昭59/139329号公報
【特許文献2】特開平2/218629号公報
【特許文献3】特開昭61/126042号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2の方法では、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの異性体である4−クロロ−3−フルオロベンゾトリフルオリドが生成し、選択率が低下してしまう。さらに該異性体の沸点が目的物と近い為、精製操作が難しく純度を上げることが難しい。
【0008】
また、フッ素化剤であるフッ化カリウムや非プロトン性極性溶媒であるジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが用いられているが、例えば、特許文献1では、フッ化カリウムとの反応後に多量の塩化カリウムが副生する為、廃棄物の処理にも手間がかかり、また、目的生成物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを溶媒から分離するために、反応温度を高温(170〜240℃)に保ち、減圧下で留去する必要がある。また、当該文献の方法では、反応系内を無水条件下にすることが望ましく、原料、溶媒を予めベンゼンやトルエンなどの共弗蒸留により脱水を行い、反応液を実質的に無水にする必要があることからも、工業スケールで製造する際に負荷がかかる。
【0009】
上述の様に、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造に関しては、反応工程において使用する溶媒やフッ素化剤など廃液処理の問題点があり、より簡便な製造方法の確立が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。この結果、工業的に入手容易な4−フルオロトルエンを出発物質とし、安価である塩素やフッ素水素を用いてそれぞれ塩素化、フッ素化を行うことにより、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを高選択率かつ高収率で得ることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち本発明は、以下の[発明1]−[発明4]に記載する、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法を提供する。
[発明1]
以下の工程を含む、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法。
【0012】
第1工程:式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリド
【0013】
【化7】

【0014】
にフッ化水素(HF)を反応させ、式[2]で表される4−フルオロベンゾトリフルオリド
【0015】
【化8】

【0016】
を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた、4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素(Cl2)を反応させ、式[3]で表される3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリド
【0017】
【化9】

【0018】
を得る工程。
[発明2]
第1工程で得られた、4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素(Cl2)を反応させる(第2工程)際に、ヨウ素(I2)を共存させることにより反応を行うことを特徴とする、発明1に記載の方法。
[発明3]
式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリドが、式[4]で表される4−フルオロトルエン
【0019】
【化10】

【0020】
に、塩素(Cl2)を反応させることにより得られることを特徴とする、発明1又は2に記載の方法。
[発明4]
発明3の方法で得られた4−フルオロベンゾトリクロリドを、精製せずにそのまま第1工程に用いることを特徴とする、発明1乃至3の何れかに記載の方法。
【0021】
本発明者らは、式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリドにフッ化水素を反応させると、高収率で3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが得られる(第1工程)という知見を得た。
【0022】
第1工程の出発原料である4−フルオロベンゾトリクロリドは、4−フルオロトルエンを塩素化することにより容易に製造することができる。
【0023】
本発明の目的化合物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを製造するためには、4−フルオロベンゾトリクロリドに対し塩素化を行い、次に得られた3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドに対しフッ素化を行うことにより、簡便かつ良好に得られるものと考えられる。
【0024】
しかしながら、4−フルオロベンゾトリクロリドに対し塩素化反応を行った場合、塩素化の際の目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドが生成すると共に、副生成物である3、4−ジクロロベンゾトリクロリドが多量に生成し、続いて3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドにフッ素化を行っても、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの収率や選択率が低下するという問題点があった(以下のスキーム3参照)。
【0025】
【化11】

【0026】
そこで、本発明では、スキーム3の工程とは異なる方法として、塩素化とフッ素化の工程を入れ換える、すなわち、式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリドに対しフッ素化を行い(第1工程)、得られた式[2]で表される4−フルオロベンゾトリフルオリドに対して塩素化を行う(第2工程)ことで、副生成物が殆ど生成せずに、高選択率かつ高収率で目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを得るという、優れた知見を見出した(スキーム4)。
【0027】
【化12】

【0028】
また、本発明の第2工程は、第1工程で得られた、式[2]で表される4-フルオロベンゾトリフルオリドを塩素化する工程であるが、触媒を好適な条件下で反応させ、さらに反応系内にヨウ素(I2)を共存させることによって、第2工程の生成物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの収率を大幅に向上させることも見出した。
【0029】
このように、本発明は3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを工業的規模で効率良く製造する上で非常に優れた方法である。
【発明の効果】
【0030】
本発明は、工業用原料として入手の容易な4−フルオロトルエンから、良好な収率で医農薬中間体として、有用な3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを工業的規模で、高収率で製造するための方法を提供する。また、本発明は無溶媒で行うことができ、経済性、操作性の観点で優れており、従来技術よりも格段に有利に製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明では、式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリドにフッ化水素を反応させ、式[2]で表される4−フルオロベンゾトリフルオリドを得(第1工程。なお、本明細書において「フッ素化工程」とも言う)、第1工程で得られた式[2]で表される4−フルオロベンゾトリフルオリドを塩素(Cl2)と反応させ、式[3]で表される3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る(第2工程。なお、本明細書において「塩素化工程」とも言う)工程によってなる。
【0032】
本発明は、式[3]で表される3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法を必須の要素とし、第1工程の出発原料である4−フルオロベンゾトリクロリドを製造する工程として、式[4]で表される4−フルオロトルエンに、塩素(Cl2)を反応させる(以下、本明細書にて「A工程」とも言う)工程を加えることによってなる(スキーム5参照)。
【0033】
【化13】



【0034】
まず、A工程について説明する。A工程は、4−フルオロトルエンに塩素(Cl2)を反応させることで、4−フルオロベンゾトリクロリドを得る工程である。
【0035】
本工程における反応器としては、ガラス、又はガラスやフッ素樹脂などでライニングされた反応容器が好適に採用される。ステンレス鋼、鉄などが内壁となっている反応容器の場合も反応自体は進行するが、金属が塩化物に交換され(Feの場合、FeCl3)、これがルイス酸触媒となりフリーデルクラフト型の副反応を起こし、ベンゼン核にClが直接結合した化合物が生成することがあるので、可能な限り、ガラス、またはフッ素樹脂などでライニングされた反応容器を用いたほうがよい。
【0036】
反応方法は特に限定されず、流通系またはバッチ式あるいは半バッチ式で行うことができる。例を挙げれば、予め反応容器に仕込まれた4−フルオロトルエンに塩素ガスを吹き込むことで行うのが一般的であり、好適に採用される。反応に伴い発生する塩化水素ガスは、未反応の塩素ガスとともに、反応容器から排出させ、水、アルカリ性水溶液などでトラップすることができる。
【0037】
本反応を進行させるためにはラジカル開始剤、例えば、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、(1−フェニルエチル)アゾジフェニルメタン、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビスイソブチル酸ジメチル、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)等のアゾ系化合物、過酸化ベンゾイル、過酸化ドデカノイル、過酸化ジラウロイル、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−t−ブチルハイドロパーオキサイド、t−ブチル−クミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン、イソブチリルパーオキサイド、3,5,5−トリメチルヘキサノイルパーオキサイドなどの過酸化物などのラジカル開始剤、赤燐、五塩化燐、三塩化燐、トリフェニルフォスフィン、亜リン酸トリフェニルなどの燐化合物などが使用され、また、光を照射することで行われる。さらにこれらのラジカル開始の手法を適宜組み合わせて用いても良い。また上記ラジカル開始剤を添加しなくとも、高温(概ね160℃以上)に加熱することで、系内にラジカルが発生し、同様のラジカル反応を起こすことも可能である。
【0038】
触媒は通常、原料1モルに対して0.0001〜1モル添加するが、0.001〜0.1モルが好ましく、0.001〜0.05モルがより好ましい。触媒は反応の進行状況を観察して、適宜追加することもできる。ラジカル開始剤の量が原料1モルに対して0.0001モル未満では反応が途中で停止しやすく、収率が低下する恐れがあるため好ましくなく、1モルを超えると経済的に好ましくない。また、触媒は必要に応じて、反応の途中で追加することもできる。
【0039】
本塩素化反応の実施に際して光照射を行う場合の光源は高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、各種ハロゲン灯、タングステンランプ、発光ダイオードからなる群より選ばれる少なくとも一種であるが、これらのうち高圧水銀ランプ、タングステンランプが好ましい。
【0040】
本発明の塩素化は、原料基質に1.5原子のClが導入されるまでは比較的反応が速く、その後の塩素化は遅くなる傾向がある。このため、反応の初期(塩素化度が概ね1.5〜2の範囲の値(例えば1.6)となるまで)は触媒の種類により異なるが、比較的低温(通常30〜150℃、好ましくは50〜130℃、特に好ましくは60〜80℃)で行い、この温度で反応が進行しにくくなったら、より高い温度(通常140〜300℃、好ましくは150〜250℃、特に好ましくは160〜230℃)で行うことが効果的である。ここで「塩素化度」とは、その時点における反応混合物の組成から計算される、芳香環1個あたりに導入された塩素原子数の平均値を意味する。
【0041】
塩素化反応は発熱を伴うので反応温度は外部から加熱または冷却するとともに塩素導入速度を変化させたり、または塩素ガスを不活性ガスで希釈することで調節することができる。反応圧力は反応に殆ど影響を及ぼさないので特に加圧することは必要がなく、通常0.05〜1MPa(絶対圧基準。以下、本明細書において同じ。)であり、0.1〜0.3MPaで行うことができる。
【0042】
反応に使用する塩素量は、フルオロトルエン1モルに対し3モル以上であればよいが、おおよそ3〜6モル程度であり、反応装置あるいは反応操作を最適化することで3〜4モル程度とすることができる。最適化は反応条件を設定するとともに、塩素化反応が気−液接触反応であることから、接触効率を高めるための慣用の手段、例えば、ガスの導入速度の調節、撹拌装置、ガス吹き込み装置、スパージャーなどの使用、または多段塩素化反応装置による方法を適宜採用することは有効である。
【0043】
また、4−フルオロトルエンの塩素化は、溶媒の存在下で行うこともできるが、反応原料の4−フルオロトルエンは液体であり、また、生成物の4−フルオロベンゾトリクロリドも液体であり、かつ塩素や触媒を十分に溶解させ、溶媒の役割を兼ねるので、敢えて別途溶媒を使用する必要はなく、その方が経済的にも好ましい。
【0044】
塩素化反応で得られる4−フルオロベンゾトリクロリドは、通常、未完全反応体である4−フルオロベンザルクロリドを不純物として随伴している。これらの不純物はカラムクロマトグラフィー等の精製処理により分離することもできるが、本発明では第1工程後の蒸留にて十分に分離が可能となるので、本発明の利点を生かすためにも、4−フルオロトルエンを塩素化し、得た反応混合物は敢えて精製せずに、そのまま第1工程(フッ素化反応)の原料として用いる方が好ましい。
【0045】
以下、第1工程について説明する。第1工程は、A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリドをフッ化水素(HF)と反応させ、4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る工程である。
【0046】
本工程は、フッ素化反応で慣用される金属ハロゲン化物、例えば、五塩化アンチモン、四塩化スズなどを触媒として使用することもできるが、無触媒でもよい。触媒を用いると0℃以上の温度で反応し、反応が速くなるので例えば、室温以下で行うが必要となることがある等、反応操作が困難となるなど好ましくない場合がある。無触媒の場合、反応温度は通常0〜200℃であり、20〜120℃が好ましい。0℃未満では反応が遅く、200℃を以上では分解も起こることがあり、4−フルオロベンゾトリフルオリドの収率、純度を低下させるので好ましくない。また、フッ化水素の蒸気圧が高くなりすぎるため好ましくない。
【0047】
本工程は、4−フルオロベンゾトリクロリド1モルに対しフッ化水素を通常は3〜20モル、好ましくは3〜15モルを、さらに好ましくは4〜10モルを使用する。3モル未満では収率が低下するので好ましくなく、また20モル以上用いると、反応性の上では問題ないが、フッ化水素の量が増えることにより生産性を悪くするなどの工業的な問題が生じるので好ましくない。
【0048】
フッ素化反応は、モネル、ハステロイ、ニッケルまたはこれらの金属やポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロポリエーテル樹脂などのフッ素樹脂でライニングされた耐圧容器中で攪拌機を使用して行われ、バッチ式反応、連続式反応または半連続式反応の形式が採られる。
【0049】
反応圧力は通常0.1MPa〜10MPaであり、0.5MPa〜10MPaが好ましく、1MPa〜5MPaが特に好ましい。反応圧力は10MPa以上でも反応性の上では問題ないが、過大な装置が必要となり好ましくない。また、0.1MPa(常圧)未満では、上述した反応温度でフッ化水素が液化せず反応が進まないことがあり好ましくない。
【0050】
以上のことから、特に好ましい反応温度と反応圧力の組み合わせは20℃〜120℃、1MPa〜5MPaである。
【0051】
フッ素化反応を行う際には、不活性な溶媒を使用することもできる。その様な溶媒としては、例えば、トルエン、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオリド、1,4−ビストリフルオロメチルベンゼンなどが挙げられる。しかし、本工程の原料、生成物ともに液体であり、溶媒が存在しなくとも反応は円滑に進むので、経済性、操作性の観点から、無溶媒の方が好ましい。
【0052】
第1工程の反応で得られた反応物は通常の方法で後処理できる。すなわち、未反応のフッ化水素を分離除去した後、水洗、アルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)での洗浄を行い、フッ化水素を系内から除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することもできる。
【0053】
このようにして得た反応物はそのまま第2工程の原料として用いることもできるが、第1工程終了時の反応混合物中の各成分は、お互いの分離が特に容易であるので、蒸留等の精製を行って、純度の高い4−フルオロベンゾトリフルオリドを単離し、第2工程の原料に供することが特に好ましい。
【0054】
蒸留を行う場合には、通常、前記の後処理によってフッ化水素を除去したものを用いる。この場合、蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留塔の中には、充填剤を詰めることもできる。この蒸留に要求される段数に制限はないが、3〜50段が好ましく、さらに好ましくは5〜30段である。
【0055】
以下、第2工程について説明する。第2工程は、4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素(Cl2)を反応させ、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを得る工程である。
【0056】
本工程において、用いる反応容器は、ステンレス鋼、鉄、ガラス、又はガラスやフッ素樹脂などでライニングされた反応容器が好適に採用される。
【0057】
反応方法は特に限定されず、流通系またはバッチ式あるいは半バッチ式で行うことができる。例を挙げれば、予め反応容器に仕込まれた4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素ガスを吹き込むことで行うのが一般的であり、好適に採用される。反応に伴い発生する塩化水素ガスは、未反応の塩素ガスとともに、反応領域から排出させ、水、アルカリ性水溶液などでトラップすることができる。
【0058】
本工程は触媒を使用することができる。使用される触媒としては、ルイス酸として知られる、鉄(Fe)を含む触媒、アンチモンを含む触媒、アルミニウムを含む触媒等、公知のものが使用できる。例えば入手の容易な塩化第二鉄(FeCl3)、塩化アルミニウム、五塩化アンチモン、四塩化スズ等を使用するのが好ましい。
【0059】
触媒は通常、原料1モルに対して0.001〜1モル添加するが、0.01〜0.5モルが好ましく、0.01〜0.1モルがより好ましい。触媒は反応の進行状況を観察して、適宜追加することもできる。触媒の量が原料1モルに対して0.001モル未満では反応が途中で停止しやすく、収率が低下する恐れがあるため好ましくなく、1モル以上では経済的に好ましくない。また、触媒は必要に応じて、反応の途中で追加することもできる。
【0060】
反応温度は通常−20〜150℃で行うが、−10〜100℃が好ましく、0〜80℃が特に好ましい。
【0061】
また、本工程は、溶媒の存在下で行うこともできる。溶媒を用いる場合、使用される溶媒としては原料および生成物を溶解することができ、塩素化反応で不活性な溶媒であり、さらに生成物と充分な沸点差を有することが好ましく、例えば、四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロロエタン、モノクロロベンゼン、o−、m−、p−ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、モノブロモベンゼン、ジブロモベンゼン、2,3−、2,4−、2,5−、2,6−、3,4−、3,5−ジクロロベンゾトリフルオリド、3,4,5−トリクロロベンゾトリフルオリドまたはビストリフルオロメチルベンゼン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルリン酸トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒などが挙げられる。
【0062】
反応溶媒の使用量としては、特に制限はないが、4−フルオロベンゾトリフルオリド1モルに対して0.1L(リットル)以上を使用すればよく、通常は0.1〜20Lが好ましく、特に0.1〜10Lがより好ましい。
【0063】
しかし、4−フルオロベンゾトリフルオリドは液体であり、また、生成物の3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドも反応条件下において液体であり、かつ塩素化剤を十分に溶解させることで溶媒の役割を兼ねることから、敢えて別途溶媒を使用する必要はなく、その方が工業的にも負荷がかからず、経済的にも好ましい。
【0064】
本工程は前述した触媒と共に、助触媒としてヨウ素(I2)を共存させることで、高い選択率で該目的物を得ることができる。ここで助触媒とは、触媒の活性または選択性を増大させるために少量添加される物質をいう。
【0065】
助触媒の添加量は、4−フルオロベンゾトリフルオリド1モルに対し、0.001〜1モル、好ましくは0.01〜0.5モル、さらに好ましくは0.05〜0.3モルである。触媒量が0.001モルよりも少ないと助触媒の効果が弱くなる為、反応にそれほど影響を与えないことが多く、一方、1モルよりも多いと反応の進行について問題はないが、反応速度、収率の点でメリットはなく、後処理操作が煩雑になるので好ましくない。
【0066】
なお、本工程は前述の触媒、及び助触媒の量を好適な条件下で反応させることで、高選択率かつ高収率で該目的物を得ることが可能である。例えば、実施例に示すように、触媒を4−フルオロベンゾトリフルオリド1モルに対し0.01〜0.1モル、助触媒を4−フルオロベンゾトリフルオリド1モルに対し0.05〜0.3モルの条件下で反応を行うことは本工程において好ましい態様の一つである。
【0067】
塩素化反応は発熱を伴うので反応温度は外部から加熱または冷却するとともに塩素導入速度を変化させたり、または塩素ガスを不活性ガスで希釈することで調節することができる。反応圧力は反応に殆ど影響を及ぼさないので特に加圧することは必要がなく、通常0.05〜1MPaであり、0.1〜0.3MPaで行うことができる。
【0068】
反応に使用する塩素量は、4−フルオロベンゾトリフルオリド1モルに対し1モル以上であればよいが、おおよそ1〜4モル程度であり、反応装置あるいは反応操作を最適化することで1〜2モル程度とすることができる。最適化は反応条件を設定するとともに、塩素化反応が気−液接触反応であることから、接触効率を高めるための慣用の手段、例えば、ガスの導入速度の調節、撹拌装置、ガス吹き込み装置、スパージャーなどの使用、または多段塩素化反応装置による方法を適宜採用することは有効である。
【0069】
第2工程の反応で得られた反応物は、通常の方法で後処理できる。すなわち、水洗、アルカリ性水溶液(炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液など)での洗浄を行い、塩素、塩化水素を系内から除去する。その後、乾燥剤等で水分を除去することもできる。
【0070】
このようにして得た反応物は蒸留等の精製を行って、純度の高い3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドを単離することができる。
【0071】
蒸留を行う場合には、通常、前記の後処理によって塩素。塩化水素を除去したものを用いる。この場合、蒸留塔の材質には制限はなく、ガラス製のもの、ステンレス製のもの、四フッ化エチレン樹脂、クロロトリフルオロエチレン樹脂、フッ化ビニリデン樹脂、PFA樹脂、ガラスなどを内部にライニングしたもの等を、用いることができる。蒸留塔の中には、充填剤を詰めることもできる。この蒸留に要求される段数に制限はないが、5〜100段が好ましく、さらに好ましくは10〜50段である。
【0072】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されない。ここで、組成分析値の「%」とは、反応混合物を直接ガスクロマトグラフィー(GC。特に記述のない場合、検出器はFID)によって測定して得られた組成の「面積%」を表す。
【実施例1】
【0073】
A工程:4−フルオロベンゾトリクロリドの製造
【0074】
【化14】

【0075】
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコに4−フルオロトルエン:218.0g(2.0mol)及び2,2’−アゾビスブチロニトリル(AIBN):1.66g(0.25mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約1.0mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を65〜70℃に保ちながら、塩素ガスを3時間供給した。その結果、反応液の塩素化度は1.64となった。
【0076】
その後、内温を160℃に上げ、さらに8時間反応を継続した。反応継続後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である4−フルオロベンゾトリクロリドが99.0%、未完全塩素化体である4−フルオロベンザルクロリドが0.7%であった。回収した反応液の重量は410.0gであり、原料の4−フルオロトルエンからの収率は96.0%であった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続くフッ素化工程(第1工程)に使用した。
第1工程:4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
【0077】
【化15】

【0078】
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1Lオートクレーブに、A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリド408.7g(1.91mol)及び無水フッ化水素320.6g(16.03mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を60℃に昇温し、反応を開始した。内圧が1.9〜2.0MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら2時間反応した。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である4−フルオロベンゾトリフルオリドが99.5%であった。この他に、未完全フッ素化体である4−クロロジフルオロメチルフルオロベンゼンが0.2%であった。
【0079】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は296.2gであった。
【0080】
得られたフッ素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0081】
この蒸留によって温度102〜103℃の留分を分取したところ、純度99.9%の目的物が277.0g得られた。原料の塩素化物からの総合収率は87.2%であった。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
【0082】
【化16】

【0083】
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):8.1g(5.0mol%)及びヨウ素(I2):0.64g(0.5mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を60〜65℃に保ちながら、塩素ガスを9時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが86.9%、その他、原料である4−フルオロベンゾトリフルオリドが0.9%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが7.2%、その他未確認物質の合計が5.0であった。回収した反応液の重量は180.7gであった。
【0084】
得られた核塩素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0085】
この蒸留によって7200〜6200Pa、温度58〜61℃の留分を分取したところ、純度99.1%の目的物が139.9g得られた。原料の4−フルオロベンゾトリフルオリドからの収率は70.5%であった。
【実施例2】
【0086】
A工程:4−フルオロベンゾトリクロリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコに4−フルオロトルエン:218.0g(2.0mol)及び2,2’−アゾビスブチロニトリル(AIBN):1.66g(0.25mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約1.0mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を65〜72℃に保ちながら、塩素ガスを3時間供給した。その結果、反応液の塩素化度は1.66となった。
【0087】
その後、内温を180℃に上げ、さらに7時間反応を継続した。反応継続後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である4−フルオロベンゾトリクロリドが99.3%、未完全塩素化体である4−フルオロベンザルクロリドが0.4%であった。回収した反応液の重量は409.4gであり、原料の4−フルオロトルエンからの収率は95.9%であった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続くフッ素化(第1工程)に使用した。
第1工程:4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1Lオートクレーブに、A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリド409.1g(1.92mol)及び無水フッ化水素240.1g(12.00mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を40℃に昇温し、反応を開始した。内圧が1.9〜2.0MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら2時間反応した。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である4−フルオロベンゾトリフルオリドが98.9%であった。この他に、未完全フッ素化体である4−クロロジフルオロメチルフルオロベンゼンが0.5%であった。
【0088】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は291.1gであった。
【0089】
得られたフッ素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0090】
この蒸留によって温度102〜103℃の留分を分取したところ、純度99.9%の目的物が267.5g得られた。原料の塩素化物からの総合収率は85.1%であった。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第2工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):8.1g(5.0mol%)及びヨウ素(I2):0.64g(0.5mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を38〜41℃に保ちながら、塩素ガスを8時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが91.2%、その他、原料である4−フルオロベンゾトリフルオリドが0.6%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが2.4%、その他未確認物質の合計が5.8%であった。回収した反応液の重量は185.8gであった。
【0091】
得られた核塩素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0092】
この蒸留によって7000〜6000Pa、温度57〜61℃の留分を分取したところ、純度99.3%の目的物が151.8g得られた。原料の4−フルオロベンゾトリフルオリドからの収率は76.5%であった。
【実施例3】
【0093】
A工程:4−フルオロベンゾトリクロリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた500ml四つ口フラスコに4−フルオロトルエン:218.0g(2.0mol)及び2,2’−アゾビスブチロニトリル(AIBN):1.66g(0.25mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約1.0mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を65〜70℃に保ちながら、塩素ガスを3時間供給した。その結果、反応液の塩素化度は1.69となった。
【0094】
その後、内温を200℃に上げ、さらに5時間反応を継続した。反応継続後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である4−フルオロベンゾトリクロリドが98.8%、未完全塩素化体である4−フルオロベンザルクロリドが0.9%であった。回収した反応液の重量は406.3gであり、原料の4−フルオロトルエンからの収率は95.2%であった。この反応液(塩素化混合物)は精製することなく、続く第1工程に使用した。
第1工程:4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
攪拌機、圧力調整弁を備えた冷却還流管、熱電対、圧力計、サンプリング管を備えた金属製1Lオートクレーブに、A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリド407.9g(1.91mol)及び無水フッ化水素161.6g(8.08mol)を仕込み密閉とし、撹拌しながら内温を40℃に昇温し、反応を開始した。内圧が1.9〜2.0MPaになるように圧力調整弁を調整し、反応の進行と共に発生する塩化水素を圧力調整弁から系外へ放出しながら2時間反応した。この時の反応液(有機相)の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である4−フルオロベンゾトリフルオリドが99.1%であった。この他に、未完全フッ素化体である4−クロロジフルオロメチルフルオロベンゼンが0.3%であった。
【0095】
反応終了後、回収した反応液を、水洗浄、炭酸水素ナトリウム水溶液洗浄、さらに水洗浄した。洗浄後の反応液に硫酸マグネシウムを加え、攪拌後濾過をした。濾液で得られた反応液の重量は290.0gであった。
【0096】
得られたフッ素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0097】
この蒸留によって温度102〜103℃の留分を分取したところ、純度99.9%の目的物が269.1g得られた。原料の塩素化物からの総合収率は85.9%であった。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):8.1g(5.0mol%)及びヨウ素(I2):0.64g(0.5mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を18〜22℃に保ちながら、塩素ガスを8時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが88.2%、その他、原料である4−フルオロベンゾトリフルオリドが1.0%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが1.3%、その他未確認物質の合計が9.5%であった。回収した反応液の重量は187.6gであった。
【0098】
得られた核塩素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0099】
この蒸留によって6900〜6300Pa、温度58〜60℃の留分を分取したところ、純度99.3%の目的物が151.8g得られた。原料の4−フルオロベンゾトリフルオリドからの収率は74.4%であった。
【実施例4】
【0100】
A工程、及び第1工程については実施例1と同様に行った。第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリドを用い、以下の第2工程を行った。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):8.1g(5.0mol%)及びヨウ素(I2):1.28g(1.0mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を40℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を38〜40℃に保ちながら、塩素ガスを5時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4フルオロベンゾトリフルオリドが91.7%、その他、原料である4−フルオロベンゾトリフルオリドが0.4%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが2.4%、その他未確認物質の合計が5.5%であった。回収した反応液の重量は187.6gであった。
【0101】
得られた核塩素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0102】
この蒸留によって7200〜6400Pa、温度58〜61℃の留分を分取したところ、純度99.6%の目的物が153.5g得られた。原料の4−フルオロベンゾトリフルオリドからの収率は77.4%であった。
【実施例5】
【0103】
A工程、及び第1工程については実施例1と同様に行った。第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリドを用い、以下の第2工程を行った。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):8.1g(5.0mol%)及びヨウ素(I2):2.56g(2.0mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を40℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を36〜41℃に保ちながら、塩素ガスを4時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが92.3%、その他、原料である4−フルオロベンゾトリフルオリドが0.1%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが2.4%、その他未確認物質の合計が5.2%であった。回収した反応液の重量は190.4gであった。
【0104】
得られた核塩素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
【0105】
この蒸留によって6600〜6400Pa、温度56〜60℃の留分を分取したところ、純度99.3%の目的物が157.9g得られた。原料の4−フルオロベンゾトリフルオリドからの収率は79.6%であった。
【実施例6】
【0106】
A工程、及び第1工程については実施例1と同様に行った。第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリドを用い、以下の第2工程を行った。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):8.1g(5.0mol%)及びヨウ素(I2):3.84g(2.0mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を40℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を36〜42℃に保ちながら、塩素ガスを4時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが92.2%、その他、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが2.5%、その他未確認物質の合計が5.3%であった。回収した反応液の重量は188.9gであった。
【0107】
得られた核塩素化反応液はDixsonパッキンを充填した30cmの蒸留塔で蒸留精製した。
この蒸留によって7000〜6200Pa、温度56〜60℃の留分を分取したところ、純度99.6%の目的物が155.2g得られた。原料の4−フルオロベンゾトリフルオリドからの収率は78.2%であった。
【実施例7】
【0108】
A工程、及び第1工程については実施例1と同様に行った。第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリドを用い、以下の第2工程を行った。
第2工程:3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコに第1工程で得られた4−フルオロベンゾトリフルオリド:164.0g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):3.2g(2.0mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を60〜62℃に保ちながら、塩素ガスを6時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドが34.7%、その他、原料である4−フルオロベンゾトリフルオリドが60.7%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリフルオリドが3.6%、その他未確認物質の合計が1.0であった。
[参考例1]
A工程については実施例1と同様に行った。A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリドを用い、以下の塩素化を行った。
3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドの製造
【0109】
【化17】

【0110】
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコにA工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリド:213.5g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):3.2g(2.0mol%)及びヨウ素(I2):0.64g(0.5mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を60℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を58〜60℃に保ちながら、塩素ガスを4時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドが52.0%、その他、目的物が加水分解後塩素化された3−クロロ−4−フルオロベンゾイルクロライドが6.4%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリクロリドが8.6%、フッ素置換された3,4−ジフルオロベンゾトリクロリドが5.9%、構造未確認のトリフルオロ体が5.0%、過塩素化体の合計が7.5%、その他未確認物質の合計が14.6であった。
[参考例2]
A工程については実施例1と同様に行った。A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリドを用い、以下の塩素化を行った。
3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコにA工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリド:213.5g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):3.2g(2.0mol%)及びヨウ素(I2):0.64g(0.5mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を40℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を38〜43℃に保ちながら、塩素ガスを4時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドが47.6%、その他、目的物が加水分解後塩素化された3−クロロ−4−フルオロベンゾイルクロライドが7.5%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリクロリドが8.0%、フッ素置換された3,4−ジフルオロベンゾトリクロリドが8.1%、構造未確認のトリフルオロ体が3.5%、過塩素化体の合計が7.5%、その他未確認物質の合計が16.7であった。
[参考例3]
A工程については実施例1と同様に行った。A工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリドを用い、以下の塩素化を行った。
3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドの製造
ジムロート冷却管、温度計、塩素吹き込み管を備えた300ml四つ口フラスコにA工程で得られた4−フルオロベンゾトリクロリド:213.5g(1.0mol)及び塩化第二鉄(FeCl3):3.2g(2.0mol%)及びヨウ素(I2):0.64g(0.5mol%)を仕込み、攪拌しながら内温を20℃に昇温し、塩素ガスを約0.25mol/Hrの速度で導入し、反応を開始した。内温を19〜21℃に保ちながら、塩素ガスを4時間供給した。その結果、反応後の反応液の組成はガスクロマトグラフィーの分析から、目的物である3−クロロ−4−フルオロベンゾトリクロリドが51.2%、その他、目的物が加水分解後塩素化された3−クロロ−4−フルオロベンゾイルクロライドが8.8%、芳香環のフッ素基が塩素に置換された3,4−ジクロロベンゾトリクロリドが12.4%、フッ素置換された3,4−ジフルオロベンゾトリクロリドが7.9%、構造未確認のトリフルオロ体が3.5%、過塩素化体の合計が5.8%、その他未確認物質の合計が10.4であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリドの製造方法。
第1工程:式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリド
【化1】

にフッ化水素(HF)を反応させ、式[2]で表される4−フルオロベンゾトリフルオリド
【化2】

を得る工程。
第2工程:第1工程で得られた、4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素(Cl2)を反応させ、式[3]で表される3−クロロ−4−フルオロベンゾトリフルオリド
【化3】

を得る工程。
【請求項2】
第1工程で得られた、4−フルオロベンゾトリフルオリドに塩素(Cl2)を反応させる(第2工程)際に、ヨウ素(I2)を共存させることにより反応を行うことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
式[1]で表される4−フルオロベンゾトリクロリドが、式[4]で表される4−フルオロトルエン
【化4】

に、塩素(Cl2)を反応させることにより得られることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
請求項3の方法で得られた4−フルオロベンゾトリクロリドを、精製せずにそのまま第1工程に用いることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の方法。

【公開番号】特開2010−13388(P2010−13388A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174083(P2008−174083)
【出願日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】