説明

3−クロロ安息香酸を分解する能力を有する細菌

【課題】3−クロロ安息香酸を分解する能力を有する細菌を提供すること。
【解決手段】本発明は、3−クロロ安息香酸を分解する能力を有するバークホルデリア属細菌を提供する。本発明の細菌は、土壌中の難分解性芳香族塩素化合物の分解除去に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3−クロロ安息香酸を分解する能力を有する細菌に関する。
【背景技術】
【0002】
3−クロロ安息香酸(以下、「3CB」ともいう)は、ポリ塩化ビフェニル(PCB)の中間代謝物として生じ、細菌が有する安息香酸ジオキシゲナーゼによる水酸化反応を経て無機化される。したがって、3CBは、種々の難分解性芳香族塩素化合物のモデル化合物として、その微生物分解がよく研究されている。これまでに多くの3CB分解細菌が土壌から分離されているが、土壌環境中で実際にどのような細菌群が分解菌として主要な役割を果たしているかは明らかではなかった。
【0003】
活性汚泥、土壌などの種々の生物種が混合した環境サンプルにおける微生物群集を構成する微生物を同定するためには、培養を経ずに直接核酸を抽出し解析する分子生物学的手法が有効とされる。このような手法として、変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(以下、「DGGE」ともいう)法が挙げられる。例えば、特許文献1では、生物性汚泥内に棲息する微生物の核酸の一部を鋳型としたポリメラーゼ連鎖反応(以下、「PCR」ともいう)によって取得したDNA断片をDGGEに適用し、フタル酸化合物の分解時に出現したバンドを決定して、フタル酸化合物を分解する微生物を同定することが記載されている。
【0004】
本発明者らは、土壌中の3CB分解菌群を直接検出することを目指し、分解遺伝子を標的としたPCR−DGGE法の利用を試みた(非特許文献1および2)。安息香酸ジオキシゲナーゼをコードする遺伝子(benA)に基づいて設計したプライマーを用いて、3CB添加土壌から抽出したDNAを基にしたPCR−DGGEによって、土壌中の微生物群を解析した。この結果、3CBの添加によって新たに出現したバンドは、バークホルデリア(Burkholderia)属の細菌が有するbenAに近縁な配列であると推定された(非特許文献1)。また、16S rRNA遺伝子に基づいて設計したプライマーを用いてPCR−DGGEによって解析したところ、3CBの添加によって新たに出現した複数のバンドは、いずれもバークホルデリア属の種の微生物に最も近縁であった(非特許文献2)。
【0005】
しかし、土壌中の3CB分解に関与すると同定された菌株は、いまだ単離されていない。
【特許文献1】特開2003−319798号公報
【非特許文献1】農業環境研究成果情報第20集−8、「PCR−DGGE法による土壌中のクロロ安息香酸分解菌群の検出」(平成16年3月発行)
【非特許文献2】Morimoto, S.ら、Microbes and Environments, 2005年, 20巻, 3号, 151-159頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、3−クロロ安息香酸を分解する能力を有する細菌を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、3−クロロ安息香酸を分解する能力を有するバークホルデリア属細菌を提供する。
【0008】
本発明はまた、バークホルデリア属細菌FERM P−20838株を提供する。
【0009】
本発明はまた、バークホルデリア属細菌FERM P−20839株を提供する。
【0010】
本発明はまた、バークホルデリア属細菌FERM P−20792株を提供する。
【0011】
本発明はまた、バークホルデリア属細菌FERM P−20793株を提供する。
【0012】
本発明はまた、バークホルデリア属細菌FERM P−20794株を提供する。
【0013】
本発明はさらに、土壌中の難分解性芳香族塩素化合物を分解除去する方法を提供し、該方法は、上記のいずれかの細菌を該土壌に添加する工程を含む。
【0014】
1つの実施形態では、上記難分解性芳香族塩素化合物は3−クロロ安息香酸である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、3−クロロ安息香酸を分解する能力を有する細菌が提供される。この細菌は、土壌中の難分解性芳香族塩素化合物の分解除去に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、3−クロロ安息香酸を分解する能力を有するバークホルデリア属細菌を提供する(以下、「3CB分解バークホルデリア属細菌」ともいう)。本発明の3CB分解バークホルデリア属細菌は、3CBを繰り返し添加することによって選択圧を高めた土壌から分離し、そして3CB汚染土壌におけるそれらの3CB分解能を検証したことによって、初めて単離同定された細菌である。
【0017】
3CB分解バークホルデリア属細菌としては、バークホルデリアsp.ASS3(FERM P−20838)株、バークホルデリアsp.ASS7(FERM P−20839)株、バークホルデリアsp.ASS8(FERM P−20792)株、バークホルデリアsp.ASS11(FERM P−20793)株、およびバークホルデリアsp.ASS14(FERM P−20794)株が挙げられる。
【0018】
バークホルデリアsp.ASS3(FERM P−20838)株の菌学的性質は以下の通りである。
【0019】
(a)形態学的性質:
(1)細胞の形および大きさ:桿菌(0.8−1.0×1.5−2.0μm)
(2)胞子有無:−
(3)運動性:+
(b)培養的性質:ニュートリエント寒天(Nutrient Agar)培地で30℃−48hr培養後のコロニー形態
(1)形態:円形レンズ状
(2)色:不透明クリーム色
(3)表面形状:スムーズ
(4)直径:1.0mm
(5)粘稠度:バター様
(c)生理学的性質:
(1)グラム染色性:−
(2)カタラーゼ反応:+
(3)オキシダーゼ反応:+(弱い)
(4)グルコースからの酸/ガス産生:−/−
(5)O/Fテスト:−/−
(6)チトクロームオキシダーゼ:+
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(10)ウレアーゼ:−
(11)エスクリン加水分解:−
(12)ゼラチン加水分解:−
(13)β−ガラクトシダーゼ:+
(14)基質資化能
グルコース:+
L−アラビノース:+
D−マンニトール:+
D−マンノース:+
N−アセチル−D−グルコサミン:+
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:+
(15)3CB資化能:+。
【0020】
16SリボソームDNAの系統解析から、Burkholderia tuberum STM678が最近縁株であった(相同率98.0%)。この系統解析は、BLAST相同性検索およびClustal W(http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/clustalw-j.html)を使用した系統樹作成に基づく。
【0021】
本菌株は、バークホルデリア属に属する新種の細菌(Burkholderia sp.)であると考えられ、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、平成18年3月9日に受託番号FERM P−20838が付与された。
【0022】
ASS3(FERM P−20838)株は、常温で生育可能であり、好ましくは25〜30℃である。ASS3(FERM P−20838)株は、生育可能な温度範囲であれば、3CB分解能を発揮できる。
【0023】
ASS3(FERM P−20838)株は、pH7.2の液体培養条件で生育および3CB分解能の発現が確認されている。
【0024】
培地としては、Tryptic Soy Broth、ニュートリエント寒天培地、SCD寒天平板培地などの一般細菌用培地にて生育可能である。
【0025】
バークホルデリアsp.ASS7(FERM P−20839)株の菌学的性質は以下の通りである。
【0026】
(a)形態学的性質:
(1)細胞の形および大きさ:桿菌(0.7−0.8×1.0−1.5μm)
(2)胞子有無:−
(3)運動性:−
(b)培養的性質:SCD寒天培地で30℃−48hr培養後のコロニー形態
(1)形態:円形レンズ状
(2)色:半透明クリーム色
(3)表面形状:スムーズ
(4)直径:1.0mm
(5)粘稠度:バター様
(c)生理学的性質:
(1)グラム染色性:−
(2)カタラーゼ反応:+
(3)オキシダーゼ反応:+(弱い)
(4)グルコースからの酸/ガス産生:−/−
(5)O/Fテスト:−/−
(6)チトクロームオキシダーゼ:+
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(10)ウレアーゼ:−
(11)エスクリン加水分解:−
(12)ゼラチン加水分解:−
(13)β−ガラクトシダーゼ:+
(14)基質資化能
グルコース:+
L−アラビノース:+
D−マンニトール:+
D−マンノース:+
N−アセチル−D−グルコサミン:+
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:+
(15)3CB資化能:+。
【0027】
16SリボソームDNAの系統解析から、本菌株は、Burkholderia tuberum STM678が最近縁株であった(相同率97.1%)。系統解析は、上記の通りである。
【0028】
本菌株は、バークホルデリア属に属する新種の細菌(Burkholderia sp.)であると考えられ、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、平成18年3月9日に受託番号FERM P−20839が付与された。
【0029】
ASS7(FERM P−20839)株は、常温で生育可能であり、好ましくは25〜30℃である。ASS7(FERM P−20839)株は、生育可能な温度範囲であれば、3CB分解能を発揮できる。
【0030】
ASS7(FERM P−20839)株は、pH7.2の液体培養条件で生育および3CB分解能の発現が確認されている。
【0031】
培地としては、Tryptic Soy Broth、ニュートリエント寒天培地、SCD寒天平板培地などの一般細菌用培地にて生育可能である。
【0032】
バークホルデリアsp.ASS8(FERM P−20792)株の菌学的性質は以下の通りである。
【0033】
(a)形態学的性質:
(1)細胞の形および大きさ:桿菌(0.7−0.8×1.0−1.2μm)
(2)胞子有無:−
(3)運動性:+
(b)培養的性質:ニュートリエント寒天(Nutrient Agar)培地で30℃−48hr培養後のコロニー形態
(1)形態:円形レンズ状
(2)色:不透明クリーム色
(3)表面形状:スムーズ
(4)直径:1.0mm
(5)粘稠度:バター様
(c)生理学的性質:
(1)グラム染色性:−
(2)カタラーゼ反応:+
(3)オキシダーゼ反応:+(弱い)
(4)グルコースからの酸/ガス産生:−/−
(5)O/Fテスト:−/−
(6)チトクロームオキシダーゼ:+
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(10)ウレアーゼ:−
(11)エスクリン加水分解:−
(12)ゼラチン加水分解:−
(13)β−ガラクトシダーゼ:+
(14)基質資化能
グルコース:+
L−アラビノース:+
D−マンニトール:+
D−マンノース:+
N−アセチル−D−グルコサミン:+
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:+
(15)3CB資化能:+。
【0034】
16SリボソームDNAの系統解析から、Burkholderia caribensis MWAP64が最近縁株であった(相同率98.5%)。系統解析は、上記の通りである。
【0035】
本菌株は、バークホルデリア属に属する新種の細菌(Burkholderia sp.)であると考えられ、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、平成18年2月10日に受託番号FERM P−20792が付与された。
【0036】
ASS8(FERM P−20792)株は、常温で生育可能であり、好ましくは25〜30℃である。ASS8(FERM P−20792)株は、生育可能な温度範囲であれば、3CB分解能を発揮できる。
【0037】
ASS8(FERM P−20792)株は、pH7.2の液体培養条件で生育および3CB分解能の発現が確認されている。
【0038】
培地としては、Tryptic Soy Broth、ニュートリエント寒天培地、SCD寒天平板培地などの一般細菌用培地にて生育可能である。
【0039】
バークホルデリアsp.ASS11(FERM P−20793)株の菌学的性質は以下の通りである。
【0040】
(a)形態学的性質:
(1)細胞の形および大きさ:桿菌(0.7−0.8×1.5−2.5μm)
(2)胞子有無:−
(3)運動性:+
(b)培養的性質:ニュートリエント寒天(Nutrient Agar)培地で30℃−48hr培養後のコロニー形態
(1)形態:円形レンズ状
(2)色:不透明クリーム色
(3)表面形状:スムーズ
(4)直径:1.0mm
(5)粘稠度:バター様
(c)生理学的性質:
(1)グラム染色性:−
(2)カタラーゼ反応:+
(3)オキシダーゼ反応:+(弱い)
(4)グルコースからの酸/ガス産生:−/−
(5)O/Fテスト:−/−
(6)チトクロームオキシダーゼ:+
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(10)ウレアーゼ:−
(11)エスクリン加水分解:−
(12)ゼラチン加水分解:−
(13)β−ガラクトシダーゼ:+
(14)基質資化能
グルコース:+
L−アラビノース:+
D−マンニトール:+
D−マンノース:+
N−アセチル−D−グルコサミン:+
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:+
(15)3CB資化能:+。
【0041】
16SリボソームDNAの系統解析から、Burkholderia tuberum STM678が最近縁株であった(相同率97.4%)。系統解析は、上記の通りである。
【0042】
本菌株は、バークホルデリア属に属する新種の細菌(Burkholderia sp.)であると考えられ、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、平成18年2月10日に受託番号FERM P−20793が付与された。
【0043】
ASS11(FERM P−20793)株は、常温で生育可能であり、好ましくは25〜30℃である。ASS11(FERM P−20793)株は、生育可能な温度範囲であれば、3CB分解能を発揮できる。
【0044】
ASS11(FERM P−20793)株は、pH7.2の液体培養条件で生育および3CB分解能の発現が確認されている。
【0045】
培地としては、Tryptic Soy Broth、ニュートリエント寒天培地、SCD寒天平板培地などの一般細菌用培地にて生育可能である。
【0046】
バークホルデリアsp.ASS14(FERM P−20794)株の菌学的性質は以下の通りである。
【0047】
(a)形態学的性質:
(1)細胞の形および大きさ:桿菌(0.6−0.7×0.8−0.9μm)
(2)胞子有無:−
(3)運動性:+
(b)培養的性質:SCD寒天培地で30℃−48hr培養後のコロニー形態
(1)形態:円形レンズ状
(2)色:不透明クリーム色
(3)表面形状:スムーズ
(4)直径:1.0−2.0mm
(5)粘稠度:バター様
(c)生理学的性質:
(1)グラム染色性:−
(2)カタラーゼ反応:+
(3)オキシダーゼ反応:−
(4)グルコースからの酸/ガス産生:−/−
(5)O/Fテスト:−/−
(6)チトクロームオキシダーゼ:−
(7)硝酸塩還元:+
(8)インドール産生:−
(9)アルギニンジヒドロラーゼ:−
(10)ウレアーゼ:−
(11)エスクリン加水分解:−
(12)ゼラチン加水分解:−
(13)β−ガラクトシダーゼ:+
(14)基質資化能
グルコース:+
L−アラビノース:+
D−マンニトール:+
D−マンノース:+
N−アセチル−D−グルコサミン:+
マルトース:−
グルコン酸カリウム:+
n−カプリン酸:−
アジピン酸:−
dl−リンゴ酸:+
クエン酸ナトリウム:−
酢酸フェニル:+
(15)3CB資化能:+。
【0048】
16SリボソームDNAの系統解析から、Burkholderia phymatum STM815が最近縁株であった(相同率98.8%)。系統解析は、上記の通りである。
【0049】
本菌株は、バークホルデリア属に属する新種の細菌(Burkholderia sp.)であると考えられ、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに寄託し、平成18年2月10日に受託番号FERM FERM P−20794が付与された。
【0050】
ASS14(FERM P−20794)株は、常温で生育可能であり、好ましくは25〜30℃である。ASS14(FERM P−20794)株は、生育可能な温度範囲であれば、3CB分解能を発揮できる。
【0051】
ASS14(FERM P−20794)株は、pH7.2の液体培養条件で生育および3CB分解能の発現が確認されている。
【0052】
培地としては、Tryptic Soy Broth、ニュートリエント寒天培地、SCD寒天平板培地などの一般細菌用培地にて生育可能である。
【0053】
上記3CB分解バークホルデリア属細菌は、土壌中の難分解性芳香族化合物(例えば、3CB)の代謝分解に有用である。難分解性芳香族化合物を含む土壌に該細菌株を添加することにより、土壌中の難分解性芳香族化合物の分解除去が促進され得る。
【0054】
上記3CB分解バークホルデリア属細菌が難分解性芳香族化合物を分解除去するように該3CB分解バークホルデリア属細菌を培養する条件は、上述したような培養条件が用いられ得る。例えば、培地としては、グルコース、デンプン、スクロースなどの炭素源、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、酵母エキス、ペプトンなどの窒素源を含有し、好ましくは、リン酸カリウム、硝酸マグネシウム、塩化カルシウムなどの無機塩類、微量金属類、アミノ酸類、ビタミン類などの微量成分を含有する培地が用いられ得る。静置培養、振盪培養、通気培養、通気撹拌培養などの各種培養条件を用いて培養を行い得る。ここで、培養の最適条件に関しては、用いる3CB分解バークホルデリア属細菌株により異なるので、上記培地および培養方法は、用いる3CB分解バークホルデリア属細菌株に適するものに適宜選択および調整され得る。培養を行うために、温度、pH、培養期間などの他の培養条件も適宜選択され得る。また、上記3CB分解バークホルデリア属細菌は固体培養を行ってもよいし、液体培養を行ってもよい。
【0055】
上記3CB分解バークホルデリア属細菌は、その培養液のまま使用してもよいし、培養液を濾過、遠心分離、もしくは抽出などの精製処理を行って使用してもよいし、または培養液を水などで希釈して使用してもよい。
【0056】
上記3CB分解バークホルデリア属細菌は、汚染土壌の表面に散布する方法、注入管のような手段を通じて土壌中に注入する方法などにより汚染土壌に添加して作用させることができる。さらにまた、上記3CB分解バークホルデリア属細菌を不織布などに接種したものを汚染土壌上に静置して作用させてもよい。また、上記3CB分解バークホルデリア属細菌は、それぞれの菌株を単独で作用させてもよいし、または適切に組み合わせて作用させてもよい。
【0057】
添加される上記3CB分解バークホルデリア属細菌の量は、3CB分解バークホルデリア属細菌の種類、汚染土壌の汚染の程度を考慮して、望ましい浄化の結果が得られるように決定し得る。さらに、汚染土壌の浄化をさらに効率的に行うために、上記3CB分解バークホルデリア属細菌と共に他の追加成分を使用してもよく、そのような追加成分としては、3CB分解バークホルデリア属細菌の増殖を促進する培養液、グルコース溶液、リノール酸またはリノレン酸などの不飽和脂肪酸、アミノ酸、硫酸マンガンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明の3CB分解バークホルデリア属細菌は、土壌中の難分解性芳香族化合物の分解除去のために、PCBから3CBまで分解可能な微生物とさらに組み合わせて用いられ得る。
【実施例】
【0059】
(実施例1.土壌細菌群のPCR−DGGE解析)
つくば市の自然林から採取した黒ボク土壌300gに3−クロロ安息香酸(3CB)を500mg/kgの濃度で加え、人工汚染土壌(含水率40%)を作製した。土壌を900mL容量のガラスバイアル中で28℃にて静置培養した。コントロールとして、上記人工汚染土壌をオートクレーブで滅菌したものを用いた。培養の間、土壌中の3CB濃度を1週間ごとに測定した。3CB濃度の測定は、土壌試料2gに18mLの0.025M NaOHを加え1時間振盪抽出した溶液をHPLC分析することによって行なった。
【0060】
図1に、これらの土壌中の3CB濃度の経時変化を示す。生土壌(オートクレーブ滅菌していない)の結果を黒丸で表し、オートクレーブ滅菌した土壌の結果を白丸で表す。滅菌土中の3CB濃度が400mg/kgからあまり低下しないのに対し、生土壌では、培養開始から21日後に3CBがほぼ消失した。この時点で、同量の3CBを生土壌に再添加したところ、培養開始から35日後に3CBがほぼ消失した。さらに3CBを添加した後、38日後には3CBがほぼ消失した。
【0061】
図1の結果から、供試した土壌には生物的要因による3CB分解活性があることが分かる。また、3CBの反復添加によって、当初約3週間を要した分解時間が3日以下にまで短縮された。
【0062】
一方、培養期間中に土壌中で優占化する細菌群を調べるために、1週間ごとに土壌DNAを抽出し、細菌16S rDNAを標的としたPCR−DGGE解析を行なった。以下にその詳細を示す。
【0063】
土壌からのDNA抽出には、Q-BIOgene社製のFastDNA SPIN Kit for SoilおよびFastPrep FP120を使用し、上記のオートクレーブ滅菌していない土壌試料0.4gから80μLのDNA溶液を調製した。
【0064】
得られたDNA溶液をZYMO RESEARCH社製のDNA Clean & Concentrator Kitを用いて精製し、1μLの試料をPCRに供した。PCRには、TOYOBO社製のDNAポリメラーゼKOD-Plusと、真正細菌16S rDNAのV3−V5領域を増幅するプライマーGC-338f(配列番号1)および907r(配列番号2)とを用いた。使用したPCRの反応条件は、以下の通りである:94℃−2分、(94℃−30秒、50℃−30秒、68℃−30秒)×35サイクル、68℃−1分。
【0065】
得られたPCR産物をMO BIO社製のUltraClean PCR Clean-up Kitで精製し、各6μL(DNA約300〜400ngに相当)をDGGEに供した。DGGEには、BIO RAD社製のD-Codeを使用し、変性勾配45%−65%、ゲル濃度6%、電圧65V、温度60℃の条件で21時間泳動した。ゲルをSYBR Green Iで染色し、BIO RAD社製のMolecular Imager FXを用いて泳動像を可視化した(図2)。図2は、3CB添加土壌(オートクレーブ滅菌していない)におけるPCR−DGGEパターンの電気泳動写真である。各レーンの上方の数字は、3CB濃度測定の開始後の日数である。この電気泳動写真では、5本のバンドが、3CBの添加に伴って強く現れた(優勢化)。
【0066】
これらの5本のバンドについて、UVイルミネーター上で視認しながらゲルから切り出した。切り出したゲル片を滅菌蒸留水で洗浄し、その小片(1mm以下)を直接鋳型として再度上記のPCRを行なった。得られた増幅産物を再びDGGEに供し、切り出したバンドと同じDNA断片が回収できていることを確認し、アプライドバイオシステムズ社製のBigDye Terminator ver.3およびABI PRISM 3100 Genetic Analyzerを使用したダイレクトシークエンシングにより塩基配列を決定した。
【0067】
(実施例2.細菌の分離)
上記実施例1の3CB反復添加土壌から培養38日目に5gの土壌試料を採取し、希釈平板法によって細菌の分離を行なった。
【0068】
具体的には、上記土壌試料をpH6.8の10mMリン酸ナトリウム緩衝液で10−6倍に段階希釈し、懸濁液を得た。この懸濁液100μLを土壌煎汁寒天培地(3CBを500ppm含有)に塗布し、28℃で10日間培養し、生育したコロニーを単離および収集した。ここで用いた土壌煎汁培地の組成は、以下の通りである(単位は1L当たり):土壌煎汁990mL;KHPO 0.2g;Bacto Agar 20g;および3CB溶液(50g/L)10mL。これらを121℃にて20分間オートクレーブして使用した。土壌煎汁は、自然林土壌に5倍量の蒸留水を加え121℃にて20分間加熱した後、濾液をKOHでpH6.8に調整したものである。
【0069】
収集した菌株からGentra社製のCell and Tissue Kitを使用して全DNAを抽出し、実施例1と同様にしてPCR−DGGE解析を行なった。この結果、ASS3、ASS7、ASS8、ASS11、およびASS14の5菌株が、3CB反復添加土壌で優勢化したDGGEバンドと同じ位置にバンドを形成した(一致したバンドについては図2中に示す)。これらの単離株について、シークエンシングを行い、塩基配列を照合した。その結果、これらの単離株が、3CB反復添加土壌優勢化バンドと同じ16S rDNA配列を有することが確かめられた。
【0070】
(実施例3.土壌接種実験による3CB分解能評価)
上記実施例2で得られた5菌株(ASS3、ASS7、ASS8、ASS11、およびASS14)を、500ppmの3CBを含む1/10強度のTryptic Soy Broth(ベクトン・ディッキンソン社製)にそれぞれ植菌し、振盪培養(180rpm−28℃)した。対数増殖期後期に達した培養液から菌体を遠心分離し、リン酸ナトリウム緩衝液(10mM,pH6.8)で1回洗浄し、同緩衝液に再懸濁し、OD600=0.4の菌体懸濁液を調製した。
【0071】
続いて、上記実施例1と同様にして3CB人工汚染土壌を一菌株につき95g調製した。土壌をガラスバイアル(450mL容量)に詰め、菌体懸濁液5mLを接種して十分混和した。これを28℃で静置培養し、3CB濃度の変化を調べた。コントロールとして、リン酸緩衝液のみを加えた無接種土壌(「生土」)およびオートクレーブ滅菌(121℃−60分)した無接種土壌(「滅菌土」)を用いた。一方、接種菌株が速やかに土壌中に定着するかどうかを調べるために、上記実施例1と同様にして、接種直後および3日後の各土壌からDNAを抽出し、PCR−DGGE解析を行なった。これらの結果を図3に示す。
【0072】
図3は、各株を接種した土壌中の3CB濃度変化およびPCR−DGGEパターンを示す。なお、3CB濃度変化のグラフの縦軸は、土壌中の3CB濃度(mg/kg)を表す。いずれの菌株においても、菌株を接種した土壌では、無接種(滅菌土)および無接種(生土)に比べて土壌中の3CB濃度を顕著に低下させた。一方、接種3日後には、いずれの菌株においても、バンド(矢印で示す)が優勢化した。したがって、上記の5菌株は、土壌中で速やかに増殖し、3CB分解能を示したことが分かった。
【0073】
(実施例4:菌株の性状の決定)
1.菌株の性状についての評価
上記実施例で得られた各菌株の性状を決定するために、菌体をSCD寒天平板培地(ベクトン・ディッキンソン社製:ASS7、ASS14)またはニュートリエント寒天平板培地(オキソイド社製:ASS3、ASS8、ASS11)上で30℃にて48時間培養し、以下の分析に用いた。
【0074】
1−1.16S rDNA塩基配列解析
菌体からのゲノムDNAの抽出には、InstaGene Matrix(BIO RAD社製)を使用した。抽出したゲノムDNAを鋳型として、16SリボソームRNA遺伝子(16S rDNA)の全塩基配列をPCR増幅した。PCRには、PrimeSTAR HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)とプライマー9F(配列番号3)および1510R(配列番号4)を使用した。得られたPCR産物を、アプライドバイオシステムズ社製のBigDye Terminator ver.3.1およびABI PRISM 3100 Genetic Analyzerを使用したダイレクトシークエンシングに供した。得られた16S rDNA塩基配列についてBLASTによる相同性検索を行い、データベースから最近縁株を検索した。
【0075】
さらに、各株の16S rDNA配列に基づいて系統樹を作成した。系統樹作成のためのアライメントおよび計算には、Clustal W(http://www.ddbj.nig.ac.jp/search/clustalw-j.html)を使用した。
【0076】
1−2.生理または生化学性状試験
上記培養後、培地上でのコロニー形態を観察した。光学顕微鏡下で、細胞形態、グラム染色性、胞子の有無、鞭毛による運動性の有無を調べた。また、カタラーゼ反応、オキシダーゼ反応、ブドウ糖からの酸/ガス産生、ブドウ糖の酸化/発酵(O/F)について試験するとともに、APIキット(bioMerieux社製,http://www.biomerieux.com)による生理または生化学的検定を行なった。
【0077】
3CBの資化能を確認するために、3CB(500ppm)を唯一の炭素源として含む基礎塩類寒天培地に植菌して28℃で培養し、生育の可否を調べた。
【0078】
3CB添加基礎塩類寒天培地の組成は、以下の通りである(単位は1L当たり):精製寒天20g、蒸留水870mL、塩類ストック溶液I 100mL、塩類ストック溶液II 10mL、塩類ストック溶液III 10mL、および3CB溶液(50g/L)10mL。精製寒天および蒸留水をオートクレーブにかけた後50〜60℃に冷まし、塩類ストック溶液I、塩類ストック溶液II、塩類ストック溶液III、および3CB溶液を無菌的に添加した。塩類ストック溶液Iは、1000mLの蒸留水中に(NHSO 11g/L;KHPO 22.9g/L;KHPO 9g/Lを有し、塩類ストック溶液IIは、1000mLの蒸留水中にMgSO・7HO 10g/L;MnSO・4−6HO 2.5g/Lを有し、そして塩類ストック溶液IIIは、1000mLの蒸留水中にFeSO・7HO 0.5g/L;L−アスコルビン酸0.5g/Lを有する。塩類ストック溶液Iおよび塩類ストック溶液IIはオートクレーブにかけ、そして塩類ストック溶液IIIは、濾過滅菌(0.2μm)により、それぞれ滅菌した。
【0079】
2.各菌株の性状
上記1.の方法によって調べた5菌株の性状を表1から表5に示す。また、作成した系統樹を図4に示す。図4中の「0.02」は、塩基配列の置換率を示す。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
【表5】

【0085】
以上の結果より、これらの菌株はいずれも、バークホルデリア属に属する新種の細菌(Burkholderia sp.)であり、そして3CB資化能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の細菌は、3−クロロ安息香酸で汚染された土壌中で3−クロロ安息香酸を効果的に分解除去し得る。さらに、本発明の細菌は、毒性のために社会的に問題となっているPCBで汚染された土壌の浄化に有用であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】人工汚染した生土壌およびオートクレーブ滅菌土壌中の3CB濃度の経時変化を示すグラフである。
【図2】3CB添加生土壌におけるPCR−DGGEパターンの電気泳動写真である。
【図3】ASS3、ASS7、ASS8、ASS11、およびASS14の各菌株を接種した土壌中の3CB濃度の経時変化を示すグラフおよび該土壌におけるPCR−DGGEパターンの電気泳動写真を並べた図である。
【図4】ASS3、ASS7、ASS8、ASS11、およびASS14の分類位置を表す系統樹を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
3−クロロ安息香酸を分解する能力を有するバークホルデリア属細菌。
【請求項2】
バークホルデリア属細菌FERM P−20838株。
【請求項3】
バークホルデリア属細菌FERM P−20839株。
【請求項4】
バークホルデリア属細菌FERM P−20792株。
【請求項5】
バークホルデリア属細菌FERM P−20793株。
【請求項6】
バークホルデリア属細菌FERM P−20794株。
【請求項7】
土壌中の難分解性芳香族塩素化合物を分解除去する方法であって、請求項1から6のいずれかの項に記載の細菌を該土壌に添加する工程を含む、方法。
【請求項8】
前記難分解性芳香族塩素化合物が3−クロロ安息香酸である、請求項7に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−48606(P2008−48606A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−107773(P2006−107773)
【出願日】平成18年4月10日(2006.4.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年11月1日 日本微生物生態学会主催の「日本微生物生態学会第21回大会(平成17年度)」において文書をもって発表
【出願人】(501245414)独立行政法人農業環境技術研究所 (60)
【Fターム(参考)】