説明

3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法

本発明は、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法に関し、より詳細には、シアン化ナトリウムおよびクエン酸を使用してpH7.8〜8.3の範囲で1−置換−エチレンオキサイドの開環を実行し、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを高光学純度および高収率で提供することを含む、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法に関し、より詳細には、シアン基を使用するエポキシ化合物の開環によって3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルは、抗ガン剤の原料であるL−カルニチン、(S)−3−ヒドロキシテトラヒドロフランまたは(S)−1,2,4−ブタントリオール、アトルバスタチンの原料であるエチル(S)−クロロ−3−ヒドロキシブチレートまたはエチル(R)−シアノ−3−ヒドロキシブチレート等の薬品、農産物、バイオ製品および精密化学製品を製造するのに使用される必須の主要中間体である。特に、前記エチル(S)−クロロ−3−ヒドロキシブチレートは、明確な典型例である3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルであるエチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルから、HCl発生器またはHCl気体貯蔵庫から供給される気体状HClを、前記エチル(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの無水エタノール溶液に添加することによって容易に製造されうる。
【0003】
通常、前記3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルは、シアン基を伴うエポキシ化合物の開環反応を通じて製造される:
【0004】
【化1】

【0005】
前記エポキシ化合物の開環反応は、酸、塩基および溶媒を含む様々な条件で実行されうる。反応収率は反応条件に顕著に依存する。特に光学活性物質が出発物質として用いられる場合、光学純度ははるかに高い程度で反応条件に依存する。
【0006】
前記3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造に対する様々な方法が文献上知られている。Bull. Soc. Chim. Fr. 3、 138(1936)、Bull. Acad. R. Belg. 29、 256(1943)、Ber.,12、 23(1879)、または特開平11−39559号は、HCNを用いる方法を開示している。しかし、HCNは有毒物質であるため、HCNの取り扱いは非常に危険な段階である。特開昭63−316758号は、酢酸が用いられ、反応媒質がpH8.0〜10.0の範囲に維持されるという条件の下で、シアン塩を用いる開環反応を実行している。しかし、収率および純度が非常に低いことが明らかとなったため、本方法を工業生産に適用することはできない。前記方法の改良として、特開平5−310671号は、シアン塩および無機酸が使用され、pHが8.0〜10.0の範囲に維持される方法を開示している。この方法は、高い経済的効率性を与える最良の工程であると信じられているが、高濃度の硫酸およびシアン化カリウムの使用が作業者の安全を脅かすため、無機塩のろ過工程が付加的に要求され、特開平5−310671号(未公開)の明細書の実施例16に示されているようにキラルの出発物質の構造が維持されず、生成物の光学純度を低下させるという不利な点がある。
【発明の開示】
【0007】
発明の概要
本発明者らは、収率向上および安全な労働環境、そして特に原料物質の維持される光学純度を提供する、エポキシ開環反応の向上した条件を設定しようと研究努力を重ねた。その結果、毒性がなく容易に扱えるクエン酸およびシアン化ナトリウムを使用し、pHが7.8〜8.3の範囲に維持される、十分に向上した収率および前記原料物質の維持される光学純度を提供する、前記エポキシ開環反応の最適化条件を発見した。
【0008】
したがって、本発明の目的は、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルが高光学純度、高化学純度および高収率で製造される、改良された方法を提供することである。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、シアン基を伴うエポキシ化合物の開環による3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法に関し、この際、前記シアン基のソースがシアン化ナトリウムであり、前記シアン化ナトリウムをクエン酸と共に、前記エポキシ化合物を含む反応溶液に添加して、前記反応溶液のpHを7.8〜8.3の範囲に維持する。好ましくは、前記3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルおよび前記エポキシ化合物は、それぞれ式1および式2を有する:
【0010】
【化2】

【0011】
【化3】

【0012】
式中、RはC〜C10のアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのシクロアルキル基、C〜C10のアルコキシ基、フェニル基、カルボニル基、カルボキシル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、スルホニル基、または−(CH)−Rを示し;RはC〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基、フェニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロサイクルまたはポリサイクル、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、アミン基、イミン基、アミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、セレノエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、スルホニル基を示し、およびlは0から8までの整数である。
【0013】
シアン基を伴うエポキシ化合物の前記開環反応は、反応スキーム1に要約されうる:
【0014】
【化4】

【0015】
式中、Rは前記式1で定義したのと同様である。
【0016】
本発明を下記により詳しく説明する。式2を有する前記エポキシ化合物は、シアン化ナトリウムのシアン基と反応して、式1を有する3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを生成する。ここで、前記反応は水溶液系で実行され、前記シアン化ナトリウムをクエン酸と共に添加して、前記反応溶液のpHは7.8〜8.3の範囲に維持される。
【0017】
本発明の方法によると、反応媒質のpHを7.8〜8.3の範囲、好ましくは7.9〜8.2の範囲に維持することが重要であり、なぜなら高いpHは、副産物をはるかに多く生成させると共に反応収率を低下させ、低いpHもまた副産物を多少多く生成させると共に反応時間を長くしてしまう。pHを上記の範囲に調節するために様々な酸を使用することができる。本発明では、3個のカルボキシル基を有する3価酸であるクエン酸が使用され、これが本発明の技術的に際立った点の1つである。クエン酸は水溶媒中で容易に溶けるため、高濃度溶液として使用可能であり、工業上のもう一つの利点である。さらにクエン酸は、前記開環反応から得られる目的生成物と反応性が全くなく、したがってクエン酸と前記目的生産物との反応から生成されうる副産物を全く生成することがない。これに対して、有機酸の一つである酢酸は、前記目的生成物のヒドロキシル基へのクエン酸の付加から得られる3−置換−3’−アセトキシプロピオニトリルを副産物として生成し、前記3−置換−3’−アセトキシプロピオニトリルは前記目的生成物と類似の沸点を有しており、これが蒸留精製を通じて副産物を除去することを困難にしている。これらの理由から、クエン酸の代わりに酢酸を代替使用することにより、前記目的生成物の純度が低下する可能性があり、工業生産への適用に限界がある。
【0018】
以上説明したように、本発明にしたがって、クエン酸は副産物をほとんど生成させず、高化学純度での前記目的化合物の製造に有用である。特に、クエン酸は無機酸に比べてpKa値が多少高いために、前記出発物質の光学純度を維持させ、前記キラル化合物を高光学純度で生成させることができる。
【0019】
本発明の特徴によれば、シアン化ナトリウムをクエン酸と共に添加する。シアン化ナトリウムは、様々なシアン化塩の中でも一番毒性が少なく、取り扱いが容易である。シアン化ナトリウムは、1.0〜2.0当量の範囲で使用され、好ましくは1.3〜1.5当量である。
【0020】
本発明のエポキシ開環反応は、10〜30℃、好ましくは20〜25℃の温度で実行される。
【0021】
前記開環反応が完了すれば、反応容器に有機溶媒を入れて前記目的化合物を抽出し、前記有機溶媒を蒸発により除去した後、残留物を蒸留して目的とする3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを得る。この単純な後処理工程も本発明の長所の一つである。
【0022】
本発明の先行技術である、特開昭63−316758号および特開平5−301671号は、低収率、危険な作業環境、無機塩の付加的なろ過の必要性、そして特に、前記出発物質の光学的形態の維持が全くできないという不利な点を有している。それに対して本発明による方法は、以下の点で、向上した工程であり、増大した効果が提供される:前記方法は、危険性がなく容易に取り扱うことのできるクエン酸およびシアン化ナトリウムを使用することにより、工業的に有利な反応条件を有し;前記方法は、単純な後処理工程を含み;そして、前記方法は高光学純度および高化学純度ならびに高収率で、化学式1で表わされる目的の3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを提供する。
【0023】
以上で説明した本発明を以下の実施例を通じてさらに詳しく説明するが、以下の実施例によって本発明の技術範囲が限定されるものではない。
【0024】
実験例1:(S)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造
(S)−エピクロロヒドリン(99.3%ee)に3.75Lの水を入れて、撹拌しながら4.76kgの25%シアン化ナトリウム水溶液および3.30kgの50%クエン酸水溶液を、pH7.9〜8.2および22〜25℃の反応条件を維持しながら前記溶液に1時間50分滴下させた。さらに10時間撹拌した後、0.7kgの塩化ナトリウムを入れて溶解した。その溶液を20Lの酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層に0.2kgの無水硫酸ナトリウムを加えて、その後30分間撹拌し、ろ過した。酢酸エチルを減圧下で蒸発させ、残留物を薄膜蒸留器(110℃/1mbar)で蒸留して1.77kg(収率91.3%、化学純度99.1%)の目的化合物を得た。
光学純度(GC)= 99.3%ee
前記実験例1と同様な方法で、次の表1にまとめられた種々の条件の下で反応を実行した:
【0025】
【表1】

【0026】
実験例2:(R)−4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルの製造
(S)−エピクロロヒドリンの代わりに(R)−エピクロロヒドリン(99.5%ee)を使用したこと以外は、前記実験例1と同様な方法で反応を実施した。その結果、化学純度99.1%、光学純度(GC)99.5%eeおよび収率91.3%で目的化合物を得た。
【0027】
実験例3:ラセミック4−クロロ―3−ヒドロキシブチロニトリルの製造
(S)−エピクロロヒドリンの代わりにラセミックエピクロロヒドリンを使用したこと以外は、前記実験例1と同様な方法で反応を実施した。その結果、化学純度99.1%および収率91.4%で目的化合物を得た。
【0028】
実験例4:キラル3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造
表2に挙げた各キラルエポキシ化合物(>99%ee)1.62モルに0.36Lの水を添加して、撹拌しながら476gの25%シアン化ナトリウム水溶液および330gの50%クエン酸水溶液をpH7.9〜8.2および22〜25℃の反応条件を維持しながら前記溶液に1時間滴下した。室温で撹拌した後、70gの塩化ナトリウムを入れて溶解させた。その溶液を2Lの酢酸エチルで抽出した。酢酸エチル層に20gの無水硫酸ナトリウムを加えて、その後30分間撹拌し、ろ過した。酢酸エチルを減圧下で蒸発させた。残留物を高真空で分別蒸留して99%超の化学純度、99%ee超の光学純度、および99%超の収率で目的化合物を得た。
【0029】
【表2】

【0030】
以上で説明したように、本発明による方法は高光学純度および高化学純度で3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを提供する。さらに前記方法は、危険性がなく容易に取り扱うことのできるクエン酸およびシアン化ナトリウムを使用することにより、工業的に有利な反応条件を達成でき、単純な後処理工程および高い収率を有するので、製造における低コスト工程を達成できる。したがって、本発明による方法は、工業スケールでの3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シアン基を伴うエポキシ化合物の開環による、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法において、前記シアン基のソースがシアン化ナトリウムであり、前記シアン化ナトリウムをクエン酸と共に前記エポキシ化合物を含む反応溶液に添加して、前記反応溶液のpHを7.8〜8.3の範囲に維持する、3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記開環が水溶液系で実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記エポキシ化合物が式2:
【化1】

式中、RはC〜C10のアルキル基、C〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのシクロアルキル基、C〜C10のアルコキシ基、フェニル基、カルボニル基、カルボキシル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、スルホニル基、または−(CH-Rを示し;RはC〜Cのアルケニル基、C〜Cのアルキニル基、C〜Cのアルコキシ基、フェニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ヘテロサイクルまたはポリサイクル、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基、ニトロ基、アミン基、イミン基、アミド基、カルボニル基、カルボキシル基、シリル基、エーテル基、チオエーテル基、セレノエーテル基、ケトン基、アルデヒド基、エステル基、ホスホリル基、ホスホネート基、ホスフィン基、スルホニル基を示し、lは0から8までの整数である、
を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記エポキシ化合物がキラルである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
(a)エポキシ化合物の開環を実行して3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを生成し、この際、前記開環は水溶液系で実行され、前記シアン基のソースはシアン化ナトリウムであり、前記シアン化ナトリウムはクエン酸と共に前記エポキシ化合物を含む反応溶液に添加され、前記反応溶液のpHが7.8〜8.3の範囲に維持される;
(b)有機溶媒を用いて、生成された前記3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを抽出し;
(c)前記抽出液を蒸発させて前記有機溶媒を除去し、続いて蒸留により目的とする前記3−置換−3’−ヒドロキシプロピオニトリルを得ること、
を含む、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2007−528894(P2007−528894A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−502693(P2007−502693)
【出願日】平成16年3月13日(2004.3.13)
【国際出願番号】PCT/KR2004/000531
【国際公開番号】WO2005/087715
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(506310072)アールエステック コーポレイション (3)
【Fターム(参考)】