説明

3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩の医療における新規使用方法

本発明は、3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのフマル酸水素塩と3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのリン酸二水素塩を用いた非常に効果的な虚血性心疾患の治療に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、虚血性心疾患の治療における3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのフマル酸水素塩と、3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのリン酸二水素塩の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
心筋梗塞は、長時間の虚血から生じる心筋の不可逆的な壊死の病気である。
【0003】
心筋梗塞(心臓発作)は、冠動脈疾患による重篤な疾患である。心筋梗塞(MI)は、長時間の虚血から続発する心筋の不可逆的な壊死である。心臓発作もしくは心筋梗塞は、心臓への血液の供給が突然かつ深刻に減少し、または断絶され、酸素不足から心筋が死に至るという医学的な緊急事態である。毎年百十万人を超える人々が心臓発作(心筋梗塞)に襲われ、そのうちの多くの人にとってその心臓発作が冠動脈疾患の初期症状である。心臓発作は、死を招くほど重症であることもあれば、無症状であることもある。軽い症状しかない人もしくは無症状の人が五人に一人もの数になり、心臓発作は、暫く後に定期的な心電図検査を受けたときにしか発見されない。
【0004】
心臓発作(心筋梗塞)は、通常、血栓が生じて心臓の動脈を閉塞することによって起こる。動脈は、壁に脂肪が堆積することによって、既に何度も狭められてきている。このような堆積物は、分裂したり広がったりすることで、血流を減少させ、血小板に粘りを生じさせ、更に血栓を生じやすくさせることがある。時には、心臓そのものの内部に血栓が形成されることもあり、それが剥がれて、その心臓に血液を供給する動脈に付着する。これらの動脈のうちの一本にでも痙攣が生じると血流が停止する。
【0005】
(メルドニウム二水和物という国際一般名称で知られている)3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの二水和物は、心臓保護特性のある化合物として知られている。3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートは、米国特許第4481218号明細書(INST ORGANICHESKOGO SINTEZA)に1984年11月6日に開示されている。
【0006】
二水和物としての3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートが、カルニチンとガンマ・ブチロベタインの濃度、ひいては体内の脂肪酸のベータ酸化速度をも制御するために広く用いられていることは周知である。DAMBROVA M.,LIEPINSH E.,KALVINSH I.I.ミルドロネート:カルニチン低減効果を通じての心臓保護作用。心臓血管医学における趨勢、2002,vol.12,no.6,p.275−279。
【0007】
これらの特性により、メルドニウム二水和物は、様々な心臓脈管疾患ならびにその他の組織虚血を伴う病理の治療において、抗虚血薬、ストレス保護薬また心保護薬として、医学上広く適用されている。KARPOV R.S.,KOSHELSKAYA O.A.,VRUBLEVSKY A.V.,SOKOLOV A.A.,TEPLYAKOV A.T.,SKARDA I.,DZERVE V.,KLINTSARE D.,VITOLS A.,KALNINS U.,KALVINSH I.,MATVEYA L.,URBANE D.。虚血性心疾患と慢性心不全の患者におけるミルドロネートの臨床効果と安全性。Kardiologiya.2000,no.6,p.69−74。心臓脈管疾患の治療において3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの作用機序は、カルニチン生合成速度の制限ならびに、関連する長鎖脂肪酸の運搬のミトコンドリア膜を介した制限に基づくものである。SIMKHOVICH B.Z.,SHUTENKO Z.V.,MEIRENA D.V.,KHAGI K.B.,MEZHAPUKE R.J.,MOLODCHINA T.N.,KALVINS I.J.,LUKEVICS E。3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナート(THP)−心臓保護特性を備えた新規なガンマ・ブチロベタイン水酸化酵素阻害薬。Biochemical Pharmacology.1988,vol.37,p.195−202.,KIRIMOTO T.,ASAKA N.,NAKANO M.,TAJIMA K.,MIYAKE H.,MATSUURA N.。心筋梗塞の後に生じた心不全を抱えるラットにおけるMET−88、ガンマ・ブチロベタイン水酸化酵素阻害薬の薬効。European Journal of Pharmacology.2000,vol.395,no.3,p.217−224。
【0008】
国際公開第00/003063号A(SIGMA TAU IND FARMACEUTI)において2000年6月2日に開示されたのは、多くの使用者および/または患者において臓器虚血が発症する危険性を減らし、また、特に心循環器系器官を害されるのを予防および/または治療するのに適した組成物をL−カルニチンのフマル酸塩とそのアルカノイル誘導体を用いて調製する方法である。L−カルニチンとメルドニウム二水和物の構造は非常に似ている。しかしながら、メルドニウム二水和物の薬理作用は、L−カルニチンの効果を相殺するものと考えられてきた。したがって、当業者にとって、逆転写酵素阻害薬をメルドニウム二水和物と組み合わせることが自明であるとは考えられない。
【0009】
メルドニウムのフマル酸水素塩およびリン酸二水素塩は、欧州特許出願公開第1667960号明細書(JOINT STOCK COMPANY GRINDEKS)ではメルドニウム二水和物よりも更に安定した物質として2006年6月14日に開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
どのようなメルドニウム二水和物が虚血性心疾患の治療に用いられるかは周知である。しかし、虚血性心疾患の治療にどのようなメルドニウムの塩が用いられるかのデータはない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、心筋梗塞および/または虚血の治療にフマル酸水素塩メルドニウムを用いたところ、予期せぬ効果を示し、インビボでの心筋梗塞モデルでメルドニウム二水和物を用いた場合よりも効果的であった。薬剤として受容可能な塩類であるメルドニウムのフマル酸水素塩およびリン酸二水素塩は、メルドニウム二水和物と生物学的に同等なものであるからメルドニウム二水和物と同じ医学的効果を示すはずだが、予期せぬことに、メルドニウム二水和物よりも統計的に治療効果が高かった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の数々の例により、更に発明を明らかにしていく。
【0013】
抗虚血性活性
【0014】
初期重量が300−350gの成熟した雄性のウィスターラットで実験を行なった。実験中、ラットたちは8頭ずつの組に分け、標準的な透かし箱に入れられた。餌は、標準化された餌R70(LABFOR,Lactamin AB,スェーデン)である。室温は21−23℃、相対湿度は65+−10%、明暗周期は12時間ごとである。
【0015】
実験手順は、欧州共同体の指針および現地の法令並びに政策にしたがって、ラトビア動物保護倫理委員会、食品獣医局の承認を得て行なった。
【0016】
実験1インビボでの心筋梗塞
【0017】
体重が約300gのラットを無作為に、それぞれ8頭ずつ4つの組に分けた。第一組に生理食塩水を経口投与し(対照群)、第二組にメルドニウム二水和物100mg/kgを経口投与し、第三組にフマル酸水素塩メルドニウム100mg/kgを経口投与し、第四組にリン酸二水素塩メルドニウム100mg/kgを経口投与し、これを14日間続けた。
【0018】
ラットらに、ペントバルビタールナトリウム(60mg/kg i.p.)で麻酔をかけた。そのラットらに挿管処置を施し、齧歯目のための呼吸装置(齧歯目のための人工呼吸器7025,Ugo Basile,イタリア)を用いて毎分55回の呼吸速度、15mL/kgの室内空気で、人工呼吸を行なった。
【0019】
胸郭を胸骨の左側で切開するが、必要であれば、第四と第五の肋骨を切る。心膜を切開し、5/0のポリプロピレン縫合糸(Surgipro II,Syneture)を、冠動脈の左前下行枝の下を通し、そして冠動脈の可逆的閉塞が起こるように小さなプラスチック管に通す。冠動脈の流量は、ADInstruments社製の超音波流量検出器(HSE)ならびにPowerLab8/30システムを用いて測定する。
【0020】
プラスチックの管を通した糸を締めつけることによって、血管閉塞を行なった。
【0021】
120分間の再灌流を行なった後に、心臓を切り取り、50mmHgの一定の圧力で、(mmol/LでNaClを118、CaClを2.52、MgClを1.64、NaHCOを24.88、KHPOを1.18、グルコースを10.0、EDTAを0.05含有する)37℃でpHが7.3−7.5の酸化されたクレブスヘンセレイト緩衝剤を用いて大動脈を介して逆に灌流した。つぎに、10分後に、冠動脈の左前下行枝を脇にやって、危惧される部分の輪郭を、大動脈根幹部を介して注入した0.1%のメチレンブルー溶液を含むクレブスヘンセレイト緩衝剤を4ml用いて描いた。心臓を先端から底辺まで、2mmの厚みで横手方向に区分し、1%の塩化トリフェニル・テトラゾリウムを含むリン酸塩緩衝剤(pH7.4,37℃)で10分間培養し、生育可能な組織を赤、壊死組織を白に染めた。その後、右心室を切除して、左心室の薄片の写真をミノルタ7Dカメラで撮影した。Image−Pro Plus4.5.1ソフトウェアを用いて写真をコンピューターの面積測定分析にかけて、危惧される領域(AR)と壊死領域(AN)の面積を左心室(LV)に占める割合の百分率で決定した。つぎに、そのようにして得られた値を用いて、以下の式により、梗塞面積(IS)を危惧領域の百分率として計算した。
IS(%)=(AN/AR)×100
【0022】
メルドニウム二水和物、フマル酸水素塩メルドニウムおよびリン酸二水素塩メルドニウムの14日間の投与によるインビボでの心筋梗塞の結果を以下の表1にまとめている。
【0023】
【表1】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許第4481218号明細書
【特許文献2】国際公開第00/003063号パンフレット
【特許文献3】欧州特許出願公開第1667960号明細書

【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性心疾患の治療薬の製造に、リン酸二水素塩とフマル酸水素塩からなるグループから選んだ3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩を用いる方法。
【請求項2】
虚血性心疾患の治療のための3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩。
【請求項3】
虚血性心疾患が心筋梗塞であることを特徴とする、請求項1または2に記載の3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩を用いる方法。
【請求項4】
3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのフマル酸水素塩であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩。
【請求項5】
3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートのリン酸二水素塩であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一つに記載の3−(2,2,2−トリメチルヒドラジニウム)プロピオナートの塩。

【公表番号】特表2011−506285(P2011−506285A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−536439(P2010−536439)
【出願日】平成20年12月3日(2008.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2008/066712
【国際公開番号】WO2009/071586
【国際公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【出願人】(509126117)グリンデクス,ア ジョイント ストック カンパニー (9)
【氏名又は名称原語表記】GRINDEKS,a joint stock company
【Fターム(参考)】