説明

3元複合損傷診断法

【課題】複数種の損傷が組合さった場合の損傷度や余寿命を、高精度且つ簡便に診断する3元複合損傷診断法を提供する
【解決手段】複数種が組合さって生じる3元複合損傷診断法において,横軸を第1の損傷、縦軸を第2の損傷とし、第1の損傷度Φ1と第2の損傷度Φ2の和(Φ1+Φ2)が1.0となった時に寿命とする基本線図に対し、第3損傷の影響度(GI)をΦ1=1,Φ2=0とΦ1=0,Φ2=1を通る円の軌跡線で規定し、前記第3の損傷の影響度(GI)に応じて円の中心座標及び円の曲率を自動的に算定し、損傷度が円形線図上に位置した時を寿命とする円軌跡線を用いたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火力発電用ボイラなどの高温機器で生じる経年によるクリープと疲労,熱疲労と腐食疲労など複数種の損傷が組合さった場合の材料診断法に関する。
【背景技術】
【0002】
高温高圧蒸気を取扱う火力発電用ボイラでは、定期検査において構造、材料の検査診断による機器の健全性確認が義務づけられている。国内の火力発電プラントの60%以上は運転年数が15年を超え、多くのプラントで運転時間も10万時間を越えている。こうした経年ボイラでは、クリープ,疲労(熱疲労),腐食(酸化),摩耗,脆化といった様々な材料損傷の発生確率が高くなる。特に経年ボイラでは、合併症的な複合損傷が多く生じる。
【0003】
ボイラ管寄のスタッブ管でよく見られるクリープと疲労が重畳したクリープ・疲労を例にとって、現状の診断法を説明する。
【0004】
図6に、クリープ単独での損傷診断法の一例を示す。ボイラ用を含め高温用材料のクリープ寿命は、温度及び応力の関数であり、同図に示すように温度が550℃で負荷応力が90Mpaの場合、クリープ平均寿命は30,000時間となる。現時点での運転時間が15,000時間の場合、クリープ寿命との比の0.5(15,000/30,000=0.5)がクリープ損傷率ΦCとなる。このように温度,応力に応じたクリープ寿命に対する使用時間の比から損傷率を算定する。また発生確率を算定する場合は、クリープデータのばらつき,運転中温度の変化,内圧応力の変化を考慮し、統計確率論的に算定する。
【0005】
一方、疲労寿命は図7に示すように、応力振幅に応じた疲労寿命Nfと現在までの繰返し数Nとの割合(図7ではN/Nf=10,000/20,000=0.5)の0.5が疲労損傷率ΦFとなる。
【0006】
クリープと疲労が組合さったクリープ・疲労損傷では、図8に示すようにΦC+ΦF=1の線に到達した場合に寿命とする診断手法がとられる。図6のクリープ損傷(ΦC=0.5),図7の疲労損傷(ΦF=0.5)のケースでは、その和が1.0となることでクリープ-疲労上寿命に到達することになる。
【0007】
こうしたクリープ-疲労の場合、図8中にプロットしたように寿命線図に達する前に損傷や破壊が生じることがあり、ΦC+ΦF=1の線図では危険側の評価になることが多い。
【0008】
クリープ・疲労でΦC+ΦF=1以下で破損が生じることは、図9に例示したように文献でも示されている。同図中のASME Sec.III設計線図と記述した二本の折れ線を一義的に設計寿命線図とする手法を採用したものであり、データ点に対し数倍の裕度をもって線引きされている。このASME線図は設計段階での寿命の目安解析に用いるには有効であるが、データ点に対し過度に安全性評価になっている。このことは短時間や少繰返し数で寿命になり、設備更新すべきことを示しており、経済上の問題を引起すことになり、経年材の余寿命診断には使用できない。一方、折れ線より左下の条件での損傷に対しては非安全側の評価を与えることになる。
【0009】
クリープ・疲労損傷でΦC+ΦF=1以前に破壊損傷が生じるのは、単なる組合せ損傷による重畳効果だけではなく、第3の要因、例えばここでは、高温雰囲気による高温酸化や高温腐食の影響によるものであることを発明者らは経験している。
【0010】
火力発電用ボイラなどの高温機器のクリープ-疲労など複合損傷診断法として、下記の特許文献1,2などに記載された提案がある。
【特許文献1】特開平7-005086号公報
【特許文献2】特開平7-174681号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、これらはクリープ又は疲労の損傷度の高精度診断とそれを組合わせたマップ評価による診断手法であり、ここで課題になっている第3の損傷による影響の定量的評価や簡易且つ高精度損傷度診断は不可能である。
【0012】
本発明の目的は、火力発電用ボイラなど高温機器で生じやすいクリープ・疲労,熱疲労と腐食疲労,腐食疲労と管外摩耗などの複数種の損傷が組合さった場合の損傷度や余寿命を、高精度且つ簡便に診断する3元複合損傷診断法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、複数種が組合さって生じる3元複合損傷診断法において,横軸を第1の損傷、縦軸を第2の損傷とし、第1の損傷度Φ1と第2の損傷度Φ2の和(Φ1+Φ2)が1.0となった時に寿命とする基本線図に対し、第3損傷の影響度(GI)をΦ1=1,Φ2=0とΦ1=0,Φ2=1を通る円の軌跡線で規定し、前記第3の損傷の影響度(GI)に応じて円の中心座標及び円の曲率を自動的に算定し、損傷度が円形線図上に位置した時を寿命とする円軌跡線を用いたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第2の手段は前記第1の手段において、前記第3の影響度(GI)と複合損傷の破損限界円弧中心座標(a,b)と円半径(r)の関係式として下記式を用いることを特徴とするものである。
【0015】
r=10×(GI)-1 …………………………… (3)
a=b=(2+(4-8×(1-r2)0.5/4 …………… (4)
本発明の第3の手段は前記第1の手段において、前記第3の影響度(GI)を下記のような温度,時間及び環境係数(EI)によって算出することを特徴とするものである。
【0016】
GI=10×(t/300,000)×EI×(273+600)/(273+T) …… (2)
ここで、t:運転時間,EI:燃料に応じた環境係数,T:温度(℃)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、複数種の因子の損傷が組合さった場合の高温機器材料の損傷度や余寿命を高精度且つ簡便に診断でき、高温高圧火力発電設備の安定運転や経済的予防保全に貢献できる。
【0018】
クリープ・疲労+高温腐食の場合,材質,温度,燃料,運転時間,内圧,管寸法,繰返し応力振幅,繰返し数を入力することで、内圧応力の算出とクリープ損傷率,疲労損傷率,3Dクリープ寿命,3Dクリープ損傷率及び3Dクリープ破損確率が自動的に算定できるシステムである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
クリープ・疲労に高温酸化,クリープ・疲労に高温腐食,外面熱疲労と内面腐食疲労に外面高温腐食,管内面孔食と管外面熱疲労に摩耗といったような2種の複合材料損傷に第3の損傷が組合さった場合、第3の損傷の影響は運転条件,使用環境,運転時間などによって種々変化するが、その影響度を提示することにより第1及び第2の損傷度が種々変化しても一義的に限界損傷度が算定できれば、極めて有効な複合損傷診断法となる。
【0020】
図1は、円軌跡線を用いた3元複合損傷診断の一例を示す図である。横軸を第1の損傷率、縦軸を第2の損傷率としている。第3の損傷の影響がない場合は、Φ1+Φ2=1の線を寿命線とするが、第3の損傷の影響がある場合、同図において長破線で示すように、Φ1=1,Φ2=0とΦ1=0,Φ2=1を通る円の軌跡線で寿命を定義する手法である。第3の影響度は、円の中心座標及び曲率に反映することになる。
【0021】
図7中に示したASME Sec. IIIの設計線図のように、第3の影響による寿命線を2本の折れ線で表示することも考えられるが、折れ線では一義的な数式化が困難で自動計算ができないという問題がある。
【0022】
更に2本の直線よりも円曲率線の方が、第2又は第1のどちらかの損傷度が小さい場合に安全側の診断が可能となるという特徴がある。
【0023】
図2は、クリープ・疲労損傷に高温酸化損傷が組合さった場合の最も厳しい条件の線図である。ここでは第3損傷の影響度(GI)を最大の10と仮定義し、GIを入力すると円の半径r(1.0)と中心座標a,b(1,1)を円の方程式((x-a)2+(y-b)2=r2)により自動算定して、図視化できるようにしたものである。
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面により説明する。
図3は、本発明になる円軌跡線を用いた3元複合損傷診断法でのクリープ-疲労損傷の診断例を示す図である。ここでは、左側の表に条件を入力すると3元損傷線図及び損傷確率が自動的に計算,表示できるようにしたものである。
【0025】
材質STBA24,温度550℃,内圧による応力39.9N/mm2,疲労応力振幅300N/mm2の条件で現在まで100,000時間運転され、500回の繰返しされた場合の診断結果である。疲労損傷率ΦFが0.1のため、単純手法だとクリープ損傷率ΦC=0.9がクリープ寿命となるが、燃料によるガス雰囲気や時間から第3の損傷加速度(GI)を3.5となり、r=2.8,a=2.4,b=2.4の円弧が寿命線となり、3種複合状態でのクリープ損傷率限界(ΦC-Lim)は0.84となる。
【0026】
3Dクリープ寿命は429,119×0.84=361,530hで、現状100,000h経過していることから、Dクリープ損傷率ΦC-3Dは100,000/361,530=0.277と算定できる。クリープ損傷率ΦC-3Dは1.0で破損確率が50%となり、損傷率と破損確率の関係式(1)から、現時点での3Dクリープ破損確率は0.052(=5.2%)と診断できる。余寿命は、限界破損確率までの時間の計算で算定できる。
【0027】
Cp=0.003−0.17×ΦC3D+1.5×ΦC3D2−0.8×ΦC3D3 …… (1)
ここで、Cp:クリープ破損確率,ΦC3D:3元クリープ損傷率である。
【0028】
第3の損傷影響度(GI)は、温度,雰囲気条件,材質,損傷種によって変化するものであるが、図3は高温腐食(酸化)を対象としていることから下記式で算出している。
【0029】
GI=10×(t/300,000)×EI×(273+600)/(273+T) …… (2)
ここで、t:運転時間,EI:高温腐食に影響する燃料中のS量に応じた環境係数(高S油:3,低S油:2,石炭,ガス:1,図3では1を入力),T:温度(℃)である。
【0030】
管内面からの腐食疲労と管外面からの熱疲労に管内面腐食が重畳した場合のGIは、次式で示される。
【0031】
GI=10×(t1/100,000)×DO/8 …… (3)
ここで、t1:停止時間(h),DO:停止中の溶存酸素濃度(ppm)である。
【0032】
GIと評価円軌跡線の半径r及び中心点a,bの関係式は、円の方程式を展開して次式で算出できる。
【0033】
r=10×(GI)-1 …… (4)
a=b=(2+(4-8×(1-r2))0.5/4 …… (5)
図4も本発明になる円軌跡線を用いた3元複合損傷診断法でのクリープ-疲労損傷の診断例である。図3の計算例に対して、材質,温度,運転時間,応力値,応力振幅は同じであるが、疲労損傷に影響する疲労回数を1500回とし、高温腐食環境に影響する燃料係数を2にして試算した結果である。第3の高温酸化(腐食)の影響が大きいため、加速係数(GI)が7.0となった結果である。GI値からr=1.41,a=1.37,b=1.37の円弧が寿命線図となり、図3と同様の計算からクリープ破損確率は0.209(20.9%)と算定できる。
【0034】
図3と図4の比較から、疲労条件や環境条件に応じたクリープ損傷率やクリープ破損確率を簡易且つ高精度に診断できることになる。
【0035】
ここではクリープ-疲労+高温腐食の3元損傷の診断法を例にとって説明したが、熱疲労・腐食疲労+高温腐食や孔食-熱疲労+摩耗といった3元損傷に対しても同じ手法で診断が可能となる。
【0036】
ボイラ水壁管等で生じる管外面熱疲労と管内面腐食疲労が重畳した損傷の場合、Φ1の熱疲労損傷は材質,熱応力振幅,繰返し回数の関数であり、Φ2の腐食疲労損傷は、先の3因子の他にボイラ水質や停止中の環境条件がパラメータとなる。第3の損傷要因は運転及び停止中の腐食であり、運転又は停止時間,環境条件などが(GI)を決めるパラメータとなる。数式的には(1)式と同様のものである。
【0037】
本発明の一つの特徴である自動的な高精度診断は、(1)〜(4)式の設定によるものであり、必要数値を入力することで非専門家でも即座に診断が可能となる。
【0038】
図9で示したASMEの設計線図での診断の場合、前述したように1本の折れ線での評価のため、環境や時間条件が加味されておらず、全体的に過度に安全サイドの診断をすることになり、経済上好ましくない。
【0039】
2種類の損傷に第3の損傷が組合さった場合、通常は損傷は加速され、寿命は短くなるが、熱疲労に高温腐食が重畳し、き裂先端が鈍化すると疲労寿命が延長されることがある。
【0040】
図5は、こうした3種損傷組合せ時の寿命限界線の一例を示し、損傷軽減の診断例である。この場合の円弧線はΦA=1,ΦB=0とΦA=0,ΦB=1の点を通る円弧で、曲率により第3の損傷の影響度を考慮することになるが、円弧の中心点は次式のようにマイナス側に移行することになる。
【0041】
a=b=(((2+(4-8×(1-r2))0.5/4)×-1)+1 …… (6)
図5のように第3の損傷組合せで損傷度が緩和する例は余りないが、この場合も同様の入力で損傷率の算定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態に係る解析,診断例を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る解析,診断例を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る解析,診断例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る解析,診断例を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る解析,診断例を示す図である。
【図6】従来のクリープ損傷度評価例を示す図である。
【図7】従来の疲労損傷度評価例を示す図である。
【図8】従来のクリープ・疲労損傷度評価例を示す図である。
【図9】従来のクリープ・疲労損傷度評価例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種が組合さって生じる3元複合損傷診断法において,横軸を第1の損傷、縦軸を第2の損傷とし、第1の損傷度Φ1と第2の損傷度Φ2の和(Φ1+Φ2)が1.0となった時に寿命とする基本線図に対し、第3損傷の影響度(GI)をΦ1=1,Φ2=0とΦ1=0,Φ2=1を通る円の軌跡線で規定し、前記第3の損傷の影響度(GI)に応じて円の中心座標及び円の曲率を自動的に算定し、損傷度が円形線図上に位置した時を寿命とする円軌跡線を用いたことを特徴とする3元複合損傷診断法。
【請求項2】
請求項1記載の3元複合損傷診断法において、前記第3の影響度(GI)と複合損傷の破損限界円弧中心座標(a,b)と円半径(r)の関係式として下記式を用いることを特徴とする3元複合損傷診断法。
r=10×(GI)-1 …………………………… (3)
a=b=(2+(4-8×(1-r2)0.5/4 …………… (4)
【請求項3】
請求項1記載の3元複合損傷診断法において、前記第3の影響度(GI)を下記のような温度,時間及び環境係数(EI)によって算出することを特徴とする3元複合損傷診断法。
GI=10×(t/300,000)×EI×(273+600)/(273+T) …… (2)
ここで、t:運転時間,EI:燃料に応じた環境係数,T:温度(℃)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−132900(P2007−132900A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328813(P2005−328813)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005441)バブコック日立株式会社 (683)
【Fターム(参考)】