説明

3次元測位システム

【課題】単一の発信手段から発信される測定信号を単一の受信手段で受信することによって、高精度の3次元測位を可能とする。
【解決手段】単一の発信手段2において、アンテナ10a〜10dおよび10e〜10hを周期的に切替えながら、超音波信号あるいは高周波信号あるいは光信号に含まれた測定信号を放射し、単一の受信手段6によって受信する。前記受信手段6において、前記アンテナ10a〜10dおよび10e〜10hに対応して受信する測定信号から搬送波信号あるいは副搬送波信号を再生して位相差を測定し、前記発信手段2の複数組のアンテナからみた受信手段6の方向11および12の測定結果と、前記複数組のアンテナの間隔13とから、前記受信手段6の3次元の位置を高精度で測位する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、単一の発信手段から複数の指向性アンテナから構成された複数組の指向性アンテナを接続して周期的に切替えながら発信される同期信号および報知情報を含む測定信号を発信し、単一の受信手段で受信して前記測定信号の位相を測定することによって、前記発信手段からの距離と方向を算出することによって、高精度の3次元測位を可能とするものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の発信手段を用いて測位を行なうシステムが提案されている。(例えば、特許文献1〜3参照)
【特許文献1】特開2005−083888号
【特許文献2】特開2006−023261号
【特許文献3】特開2007−010639号
【0003】
図2は、特許文献1に記載されている従来の「RTK測位システム及びその測位方法」の実施例である。
図2において、1は、RTK(リアルタイムキネマティック)測位を利用して利用者の測位を行うRTK測位システムである。
このRTK測位システム1は、4基のスードライト2と、固定基準局受信手段3と移動基準局受信手段4とからなる2基の基準局受信手段と、ローバー受信手段5と、利用者処理ユニット6と、データリンク7とにより構成されている。
ここで、スードライト2は、衛星の代わりの信号源として使用され、利用者の3次元測位を行う場合は、少なくとも4基必要であり、2次元測位を行う場合は、少なくとも3基が必要であるとされている。
【0004】
上記のように、従来の「RTK測位システム及びその測位方法」では3次元の測位を行なうために少なくとも4基のスードライト(擬似衛星局)が必要であり、更に、利用者処理ユニット6の他に、固定基準局受信手段3と移動基準局受信手段4とからなる2基の基準局受信手段と、ローバー受信機5と、データリンク7が必要であることから、システムが複雑であり、取り扱いが煩雑であり、高価となる問題点があった。
【0005】
一方、特許文献2に記載されている従来の「アクティブタグ装置」では、発信手段1の指向性アンテナの方向31に対向して受信手段2の指向性アンテナ21aと21bを向け、発信手段1が高周波信号を発信中に指向性アンテナ21aと21bを切替えた時に受信した高周波信号のタイミングあるいは振幅あるいは周波数あるいは位相あるいはこれらの組合わせの変化をリアルタイムで検知し、当該発信手段1が位置する方向を検知し、当該発信手段1と受信手段2の距離を検知するとされているが、本発明では距離を検知する手段が異なるものである。
【0006】
また、特許文献3に記載されている従来の「アクティブタグ装置」では、固定される側の発信手段に複数のアンテナを接続し、当該アンテナから個別のシステム同期信号と同期しあるいは直交する複数の測定用信号を周期的に発信し、移動体が携帯する受信手段において当該システム同期信号を受信して相対距離と方向を検知し、相対距離が短いものの平均値から方向を検知することで高い精度で方向を検知するとされているが、本発明では距離を検知する手段が異なるものである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、単一の発信手段から発信される無線信号に含まれる測定信号を単一の受信手段で受信することによって、高精度の3次元測位を可能とする3次元測位システムを安価に実現するためのものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係わる3次元測位システムは、無線信号に含まれる測定信号を発信するための単一の発信手段と、前記発信手段から発信された測定信号を受信するための単一の受信手段とから構成され、前記発信手段には複数の指向性アンテナから構成される複数組の指向性アンテナを周期的に切り替えられており、前記受信手段において、前記複数の指向性アンテナおよび複数組の指向性アンテナに対応した測定信号の位相差を測定し前記複数組の指向性アンテナの間隔から前記複数組の指向性アンテナから見た前記受信手段の方向と距離を測定し、前記方向と距離の測定結果から、高精度の3次元測位を可能とするように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明の3次元測位システムでは、単一の発信手段から発信される測定信号を単一の受信手段で受信することによって、高い精度でしかも安価に3次元測位が実現できる利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この発明に係わる3次元測位システムは、図1および請求項1に本発明の第1の形態を示すように、単一の発信手段2から発信された同期信号と報知情報を含む測定信号を単一の受信手段6によって受信して位相を測定し、前記発信手段2からの角度11と12、および複数組の指向性アンテナの間隔13から、前記受信手段6の3次元の位置を高い精度で測位できる。
なお、前記報知情報には、少なくとも前記単一の発信手段2に接続された複数組の指向性アンテナの間隔12に関する情報と、現在測定信号を発信しているアンテナグループの識別情報を含むものとする。
また、前記報知情報には、前記複数組の指向性アンテナの設置位置および高さ、あるいは設置された方位などの局情報を含むものとする。
【0011】
また、前記受信手段において受信した測定信号の品質を常時監視する手段と、測定信号の品質に応じて測定結果を取捨選択するための手段を有し、前記受信手段に搭載された複数の指向性アンテナと、前記発信手段に搭載された複数の指向性アンテナから構成された複数組の指向性アンテナとの全ての組合せで冗長化された伝搬経路を経由して送受信される測定信号の品質を監視し、品質に応じて測定結果を取捨選択しあるいは平均化し、あるいは冗長化された無線信号の伝搬経路の中から最良の品質の回線を選択することで、マルチパスによる測位精度の劣化を抑制することができる。
また、前記冗長化した伝搬経路の位相を高速にリアルタイムで測定するために用いるSinのルックアップテーブルが0、1、0、−1、あるいは1、1、−1、−1、あるいはこれらの整数倍あるいは整数分の1の繰り返しであり、Cosのルックアップテーブルが1、0、−1、0あるいは1、−1、−1、1、あるいはこれらの整数倍あるいは整数分の1の繰り返しであり、前記測定信号と前記ルックアップテーブルとの積和演算を行う際に−1の乗算は補数を求めることができる。
【0012】
(実施の形態1)
図1は本発明の第1の形態による3次元測位システムの構成図である。図1において、2は単一の発信手段、6は受信手段、10a〜10dおよび10e〜10hは前記発信手段2に接続された2組の指向性アンテナ、11、12は前記複数組の指向性アンテナから見た受信手段6の方向、13は2組の指向性アンテナの間隔である。
アンテナ10a〜10dおよび10e〜10hは周期的に切替えられながら、無線信号に含まれる測定信号を放射し、受信手段6によって受信される。
【0013】
受信手段6において、前記複数組の指向性アンテナ10a〜10d、および10e〜10hに対応して受信する測定信号に含まれる搬送波信号あるいは副搬送波信号を再生し、前記搬送波信号あるいは副搬送波信号の位相を測定して前記複数組の指向性アンテナから見た受信手段6の方向11および12を測定し、前記受信手段6の3次元の位置を測位する。
前記方向11、12から次のように受信手段6の3次元の位置を求めることができる。
【0014】
(1)発信手段2のアンテナグループ10a〜10dおよび10e〜10hが真下を向いている場合
H =D*[(cosα1(X)*cosα2(X))/sin(α1(X)+α2(X))] −−−−(1)
Xx=X0-H*(tanα1(X)-tanα2(X)) −−−−(2)
Yy=Y0-H*[(tanα1(X)+tanα2(X))/2] −−−−(3)
Zz=Z0-H −−−−(4)

(2)発信手段2のアンテナグループ10a〜10dおよび10e〜10hがβ(Y)傾いている場合
H =D*[(cosα1(X)*cosα2(X))/sin(α1(X)+α2(X))] −−−−(5)
Xx=X0-H*(tanα1(X)-tanα2(X)) −−−−(6)
Yy=Y0-H*[(tan(γ1(Y))+tan(γ2(Y)))/2] −−−−(7)
Zz=Z0-H −−−−(8)

ただし、γ(Y)=α(Y)+β(Y) < 90°とする。
【0015】
ここで、前記位相差の測定精度が±0.5°程度が容易に実現できるので、相対距離の測定誤差は±30cm程度以下を実現できる。
また、発信手段2が単一の場合について説明したが、発信手段2が複数の場合で、カバー範囲が重複している場合には、各々独立に求めた3次元の位置を平均化することで測位精度を改善することができる。
また、前記発信手段2が擬似衛星局(スードライト)であり、前記擬似衛星局から送信される擬似GPS信号が、時間率1%以下の短いパルス信号、あるいは長くとも10%以下のパルス信号である場合、遠近問題が生じず、したがって、送信可能な電力を1mW/MHz程度まで高めることが可能である。
また、時間率1%以下の短いパルス信号の場合には、複数の発信手段間で同期を取らなくとも、相互に干渉する確率は低く非同期運転が可能となる。
【0016】
また、単一の発信手段2を利用して3次元測位が可能なことから、双曲線航法のように4基の発信手段からの信号を受信して3次元測位を行なう場合に比較して、マルチパスによる影響を飛躍的に軽減することができる。
また、複数の発信手段2を離散的に配置する場合でも、少なくとも1基の発信手段が見通せれば3次元測位が可能なことから、前記発信手段2の設置密度を低く抑えることが可能となり、経済的なシステム設計が可能となる。
【0017】
以上の説明では無線信号を用いるとしたが、超音波信号あるいは高周波信号あるいは光信号を用いても同様な効果が得られる。
また、発信手段の送信可能な電力として0dBmとしているが、GPS衛星から地上に到達する受信電力がー130dBmであるのに対して、発信手段から受信される受信電力はー70dBm程度であり、雑音による測位精度の劣化を飛躍的に軽減できるメリットがある。
また、前記擬似GPS信号がパルス信号であるため、従来のGPSと同様なBPSK変調の他に任意の変調方式が用いられ、かつ/またはC/AコードあるいはPコード以外にも任意のコード化が可能である。
【0018】
また、前記測定信号あるいは擬似GPS信号には、起動信号、MACレイヤ、同期確立信号、距離測定信号、および方向測定信号などの他に任意の信号を含むことが可能であり、あるいはこれらの全部あるいは任意の組合せによって構成できる。
また、前記MACレイヤには、少なくとも前記発信手段の識別符号あるいは識別番号が含まれ、その他の局情報が含まれ、時間率1%を越えない範囲で符号長を選択できる。
また、前記MACレイヤにはテキスト情報が含まれ、受信手段において、音声情報に変換してスピーカなどから放送することが出来る。
また、前記発信手段が単一のアンテナを有し、かつ前記受信手段が複数の指向性アンテナから構成される複数組の指向性アンテナを搭載して周期的に切替えながら受信することで、前記発信手段の3次元測位が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明は、上記のように構成されているため、単一の発信手段あるいは単一の擬似衛星局を用いて3次元測位が可能となることから、GPSのシームレス化に適用することが可能であり、屋外と屋内をシームレスにつなぐ高精度な3次元測位が経済的な方法で実現できる。
したがって、前記発信手段が屋外、屋内を問わず離散的に配置され、前記受信手段が歩行者によって携帯されると、歩行者の自律移動支援システム、あるいは歩行者ナビゲーションシステムに活用することができる他、ロボットの自律歩行にも応用できる。
また、本発明の3次元測位技術は基盤技術であり、その他の多くの分野での活用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1による3次元測位システムの構成図
【図2】従来の実施例を示す構成図
【符号の説明】
【0021】
1 RTK測位システム
2 発信手段または擬似衛星局
3 固定基準局受信手段
4 移動基準局受信手段
5 ローバー受信手段
6 利用者処理ユニットまたは受信手段
7 データリンク
10a〜10d 複数のアンテナから構成されるアンテナグループ1
10e〜10h 複数のアンテナから構成されるアンテナグループ2
11 アンテナグループ1から見た受信手段6の方向
12 アンテナグループ1から見た受信手段6の方向
13 アンテナグループ1とアンテナ群2の間の距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線信号を用いる測位システムにおいて、
複数の指向性アンテナから構成された複数組の指向性アンテナを搭載しあるいは接続して周期的に切替えながら、同期信号および報知情報を含む測定信号をバースト状に放射する単一の発信手段と、前記測定信号を受信して3次元測位を行なうための単一の受信手段から構成され、
前記複数の指向性アンテナの間隔が測定信号の1波長以下の間隔であり、前記複数組の指向性アンテナの間隔が測定信号の1波長以上の間隔であり、
前記報知情報に少なくとも前記複数組の指向性アンテナの間隔あるいは複数の発信手段の間隔を示す情報と、現在測定信号を発信しているアンテナグループの識別情報を含み、
前記受信手段で受信される前記測定信号から、前記発信手段の複数の指向性アンテナおよび前記発信手段の複数組の指向性アンテナに対応した測定信号の位相差を測定することによって、前記発信手段の複数組の指向性アンテナから見た前記受信手段の方向と距離を測定し、
前記受信手段において受信した測定信号の品質を常時監視する手段と、測定信号の品質に応じて測定結果を取捨選択しあるいは平均化するための手段を有し、
前記測定した複数組の指向性アンテナから見た方向の測定結果と前記複数組の指向性アンテナの間隔あるいは複数の発信手段の間隔とから、前記受信手段の3次元の位置を高精度で測位することを特徴とする3次元測位システム。
【請求項2】
前記品質を常時監視する手段において、前記受信手段に搭載された複数の指向性アンテナと、前記発信手段に搭載された複数の指向性アンテナから構成された複数組の指向性アンテナとの全ての組合せで冗長化された伝搬経路を経由して送受信される測定信号の品質を監視し、品質に応じて測定結果を取捨選択することを特徴とする請求項第1項に記載する3次元測位システム。
【請求項3】
遠近問題を解決するために、前記測定信号の送信時間率が毎秒当り1%以下であり、間欠発信されるパルス状の無線信号であることを特徴とする請求項第1項から第2項までのいずれかに該当する3次元測位システム。
【請求項4】
前記測定信号が変調されあるいは拡散されて送信される場合には、前記受信手段側において、搬送波信号あるいは副搬送波信号を再生して位相を測定することを特徴とする請求項第1項から第3項までのいずれかに該当する3次元測位システム。
【請求項5】
前記受信手段が複数の指向性アンテナを搭載して周期的に切替えながら受信することを特徴とする請求項第1項から第4項までのいずれかに該当する3次元測位システム。
【請求項6】
前記発信手段が複数の発信手段から構成され、各発信手段が複数の指向性アンテナを1組搭載し、前記複数の発信手段を近接して設置して非同期で前記測定信号を発信することを特徴とする請求項第1項から第5項までのいずれかに該当する3次元測位システム。
【請求項7】
前記冗長化した伝搬経路の位相を高速にリアルタイムで測定するために用いるSinのルックアップテーブルが0、1、0、−1、あるいは1、1、−1、−1、あるいはこれらの整数倍あるいは整数分の1の繰り返しであり、Cosのルックアップテーブルが1、0、−1、0あるいは1、−1、−1、1、あるいはこれらの整数倍あるいは整数分の1の繰り返しであり、前記測定信号と前記ルックアップテーブルとの積和演算を行う際に−1の乗算は補数を求めることを特徴とする請求項第1項から第6項までのいずれかに該当する3次元測位システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−101710(P2010−101710A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−272459(P2008−272459)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(395007299)有限会社アール・シー・エス (51)
【Fターム(参考)】