説明

3軸磁気センサ

【課題】 精度が高く、効率のよい調整ができ、且つ部品点数を増やすことなく構成した3軸磁気センサを提供すること。
【解決手段】
外縁が円弧状の鍔部を有したひとつ以上の磁気センサ素子と、前記鍔部の外縁に内接する円弧状の縁部を有する壁部を少なくとも一部に備えたガイド部と、前記磁気センサ素子を固定する、前記ガイド部を有したひとつ以上の固定用ブロックと、前記磁気センサ素子と前記固定用ブロックを固定するひとつ以上の取付け部材を備え、前記鍔部には前記取付部材を挿入することができる円弧状の長穴を備え、前記固定用ブロックには前記長穴と相対する位置に前記取付け部材を挿入する穴部が形成され、前記鍔部の外縁と前記壁部の内縁は当接し、前記壁部の円弧の中心を軸として回動可能に配し、前記磁気センサ素子を所望する回動位置で前記取付け部材を用いて固定可能に構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに直交するX軸方位、Y軸方位、Z軸方位の磁界の強さを検出するための3軸磁気センサに関するものであり、特に地磁気の検出等に好適な3軸磁気センサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3軸方位の磁界成分を検出する3軸磁気センサは、3軸方位に対応する3つの磁気センサ素子(以下、「センサ素子」と称す。)を組み合わせて構成されている。各々のセンサ素子の検出軸間の直交度を調整するために、ヘルムホルツコイル等で作る均一磁界空間内に3軸磁気センサを設置し、各軸の磁気センサの出力電圧を検出しながら各軸それぞれのセンサ素子の固定位置を、ねじ等を用いて機械的に微調整して直交度調整を行っている。
【0003】
図3は従来の3軸磁気センサの製品の概略斜視図であり、X軸方位センサ素子11、Y軸方位センサ素子12、Z軸方位センサ素子13をそれぞれの検出軸が直交するように調整し、固定用ブロック14に取付用ねじ15で固定している。ここで、X軸方位センサ素子11、Y軸方位センサ素子12、Z軸方位センサ素子13を固定用ブロック14に取り付ける際には、それぞれのセンサ素子の寸法上の中心(以下、「センサ素子の中心」と称す。)をそれぞれ3方位の固定用ブロック14の取付け面の寸法上の中心軸16a(以下、「中心軸16a」と称す。)上にくる様に配置する必要がある。そして、それぞれのセンサ素子を調整のために動かした時もセンサ素子の中心が出来るだけ中心軸16aからずれることなく直交度調整を行うことが調整工数を削減する上で重要である。
【0004】
また、図4は従来の3軸磁気センサにおける、X軸方位センサ素子11と固定用ブロック14のねじ止めの前の状態を示した概略斜視図である。各センサ素子の直交度調整においては、固定用ブロック14に取り付けるX軸方位センサ素子11の取付用穴17は取付用ねじ15の大きさよりも大きめに加工してあり、その遊びの範囲でX軸方位センサ素子11を回動して微調整し、取付用ねじ15で固定する手法をとっていた。
【0005】
図5(a)は直交度調整の際に、X軸方位センサ素子11の中心を、中心軸16aに一致させて理想的に回動した場合の図で、固定用ブロック14の取付用ねじ穴18に対し、取付用穴17が中心軸16aを軸として矢印に示すように回動するため、X軸方位センサ素子11の中心は変動しない。
【0006】
しかし、前述の通り、取付用穴17は取付用ねじ15の大きさよりも大きめに加工してあるため、実際に調整、固定する際には図5(b)に示すように取付用穴17の遊びでX軸方位センサ素子11の中心は本来の中心軸16aよりも、図中Aの分だけ変動した位置16bになってしまう場合がある。つまり、X軸方位センサ素子11の中心が本来あるべき中心軸16a上からずれてしまうため、X軸方位センサ素子11を正確な位置で固定できなくなり、そのずれが結果として調整誤差となってしまう。従って、その調整誤差を修正するために再調整という手直し工数がかかってしまうという欠点があった。
【0007】
この問題を解決するための一手段として、特許文献1には、センサ素子と固定用ブロックの間に回転板を設けるという技術が記載されている。
【0008】
図6を用いて特許文献1におけるセンサ素子の固定状態を説明する。
【0009】
回転板24は中心に円柱状突起25が設けてあり、またセンサ素子21を固定するための保持爪27を具備している。一方、センサ素子21は前記回転板24の保持爪27と嵌合する位置に保持凹部28を具備しており、また固定用ブロック23には前記回転板24の円柱状突起25を挿入するための円形穴29が設けてある。
【0010】
センサ素子21と回転板24は保持爪27と保持凹部28で予め固定されて、回転板24の円柱状突起25と固定用ブロック23の円形穴29を勘合させることにより、センサ素子21の中心が変動することなく回転板24を回動させることができ、任意の位置で取付用ねじ31をセンサ素子21の取付用穴22および回転板24の取付用穴26を介し、固定用ブロック23に設けられた取付用ねじ穴30に締め込み固定することにより、それぞれのセンサ素子の直交度を図3の構成の3軸磁気センサに比べ効率よく調整することができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】実用新案登録第2535764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、特許文献1の技術によれば、センサ素子と固定用ブロックの間に、新たに回転板という部品が必要となる。一般に、部品点数が増えるとコストの面だけでなく、完成品の製品重量の増加や、組立工程が増加してしまうため、できるだけ部品点数は少ない方が望ましい。
【0013】
したがって本発明の課題は、各々のセンサ素子の直交度調整において、調整時にセンサ素子の中心が変動することなく効率の良い調整ができ、且つ部品点数を増やすことなく構成した3軸磁気センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、各々のセンサ素子の直交度調整において、部品点数を増やさず、且つ調整時にセンサ素子の中心が変動することなく効率の良い調整ができるように3軸磁気センサの構造を検討したものである。
【0015】
すなわち、本発明の3軸磁気センサは、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3軸方位に対応する3つの磁気センサ素子を組み合わせ固定した3軸磁気センサであって、外縁が円弧状の鍔部を有したひとつ以上の磁気センサ素子と、前記鍔部の外縁に内接する円弧状の縁部を有する壁部を少なくとも一部に備えたガイド部と、前記磁気センサ素子を固定する、前記ガイド部を有したひとつ以上の固定用ブロックと、前記磁気センサ素子と前記固定用ブロックを固定するひとつ以上の取付け部材を備え、前記鍔部には前記取付部材を挿入することができる円弧状の長穴を備え、前記固定用ブロックには前記長穴と相対する位置に前記取付け部材を挿入する穴部が形成され、前記鍔部の外縁と前記壁部の内縁は当接し、前記壁部の円弧の中心を軸として回動可能に配し、前記磁気センサ素子を所望する回動位置で前記取付け部材を用いて固定可能に構成したことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の3軸磁気センサは、前記壁部の円弧の中心と、前記長穴の円弧の中心が、前記磁気センサ素子の前記回動の中心軸上にあることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の3軸磁気センサは、前記取付け部材が取付け用ねじであり、前記長穴は円弧状溝であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の3軸磁気センサは、前記ガイド部が円形凹部であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の3軸磁気センサは、前記ガイド部が長円形凹部であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の3軸磁気センサは、前記ガイド部が突出部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
以上、述べたように、本発明によれば3軸磁気センサの直交度調整において、調整時にセンサ素子の中心が変動してしまうという従来の欠点を改善することができる。また、センサ素子と固定用ブロックの間に回転板という新たな部品を使用することもないため、部品点数が増えることからくるコスト面でも有利となり、さらに製品重量の増加や組立工程の増加も抑えることができる。
【0022】
すなわち、本発明により、調整時にセンサ素子の中心が変動することなく効率的な直交度調整ができ、且つ部品点数を増やすことなく構成した3軸磁気センサおよび固定装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の3軸磁気センサの実施の形態1における任意の方位のセンサ素子と固定用ブロックの取り付け前の概略斜視図。
【図2】本発明の3軸磁気センサの実施の形態1における任意の方位のセンサ素子と固定用ブロックの概略斜視図であり、図2(a)はセンサ素子を固定用ブロックに組込み後、直交度調整している平面図、図2(b)は直交度調整が終り、センサ素子を固定用ブロックに固定した時の平面図。
【図3】従来の3軸磁気センサの製品の概略斜視図。
【図4】従来の3軸磁気センサにおけるX軸方位センサ素子と固定用ブロックの取り付け前の概略斜視図。
【図5】従来の3軸磁気センサにおけるX軸方位センサ素子であり、図5(a)はX軸方位センサ素子の中心を固定用ブロックの取付け面の中心軸に一致させて理想的に回動した場合の説明図、図5(b)はX軸センサ素子の中心が回動時に固定用ブロックの取付け面の中心軸からずれた場合の説明図。
【図6】従来(特許文献1)の3軸磁気センサにおける任意の方位のセンサ素子と回転板と固定用ブロックの取り付け前の概略斜視図。
【図7】本発明の3軸磁気センサの実施の形態2における固定用ブロックの概略斜視図。
【図8】本発明の3軸磁気センサの実施の形態3における固定用ブロックの概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0025】
図1は本発明の3軸磁気センサの実施の形態1における任意の方位のセンサ素子と固定用ブロックの概略斜視図である。磁気センサはセンサ素子1および、外縁が円弧状になっている鍔部3から成っている。また鍔部3には取付用ねじ6を挿入することができる溝幅の円弧状溝2を具備している。
【0026】
一方、固定用ブロック4には、センサ素子1を組み込んだ際に、鍔部3の円弧状の外縁が内接するようなガイド部である円形凹部5が形成されている。また、円形凹部5には、鍔部3に形成された円弧状溝2と相対する位置にセンサ素子1を固定するための取付用ねじ6を挿入する穴部(取付用ねじ穴)7が設けられている。取付用ねじ6の材質は非磁性の金属またはプラスチック樹脂などを用いるのが望ましい。なお、取付用ねじ6は固定状態を維持できれば良く、ボルトの他、リベットや割りピン等を用いてもかまわない。
【0027】
ここで、センサ素子1の寸法上の中心を通るようにセンサ素子1の取付け面側から延ばした垂線(図示なし)上に鍔部3の外縁の円弧および円弧状溝2の円弧の中心が存在し、かつ固定用ブロック4の円形凹部5の内径の中心は固定用ブロック14の取付け面の中心軸8上にある。なお、ここではセンサ素子1は任意の方位(例えば、X軸方位)のセンサ素子として説明しているが、図3に示したと同様に、他の2軸(Y軸方位、Z軸方位)のセンサ素子の中心も固定用ブロックの取付け面の中心軸上にある。
【0028】
図2(a)は本発明のセンサ素子を固定用ブロックに組み込み、直交度調整をしている時の平面図である。センサ素子1は鍔部3の外縁で円形凹部5に内接しているため、センサ素子1の中心が中心軸8からずれることなく回動させることができため、図2(b)に示すように、センサ素子1を回動させて効率よく直交度を調整することが可能となり、取付用ねじ6を鍔部3に形成された円弧状溝2を介して取付用ねじ穴7にねじ止めすることにより、出力特性の良好な位置でセンサ素子1を固定用ブロック4に固定することができる。
【0029】
また、部品点数も増えないため、製品コスト、製品重量、組立工数の増加も抑えることが可能となる。
【0030】
ここでは任意の1軸について説明したが、同様にして各軸のセンサ素子の直交度を揃えることにより3軸磁気センサが完成する。
【0031】
図7は本発明の3軸磁気センサの実施の形態2における任意の方位の固定用ブロック32の概略斜視図であり、センサ素子の鍔部の外縁に内接する円弧状の縁部を有する壁部を両端に備えた長円形凹部34が形成されている。この長円形凹部34にセンサ素子を組み込み回動させて、実施例1と同様に効率よく直交度を調整することが可能となり、3軸磁気センサが完成する。
【0032】
図8は本発明の3軸磁気センサの実施の形態3における任意の方位の固定用ブロック33の概略斜視図であり、センサ素子の鍔部の外縁に内接する円弧状の縁部を有する壁部を備えた突出部35が形成されている。この突出部35にセンサ素子を組み込み回動させて、実施例1と同様に効率よく直交度を調整することが可能となり、3軸磁気センサが完成する。
【実施例】
【0033】
以下に本発明の実施例を詳述する。
【0034】
まず、本発明を実施するために図1に示すようにX軸方位の磁気センサを作製した。センサ素子1の形状は縦26mm、横26mm、高さ12mmとし、鍔部3の外縁寸法は直径37mm、厚みは1.5mmとした。鍔部3と円弧状溝2はセンサ素子1のベークライト製のボビンを成型する際に一体で形成させた。他の方位の磁気センサも同様の寸法とした。円形凹部5の深さは2mmとした。
【0035】
また、固定用ブロック4の材質も磁気測定に影響を与えないようベークライトで作製し、取付用ねじ6は非磁性のステンレス鋼のボルトを使用した。
【0036】
つづいて、図2(a)に示すように本発明のセンサ素子1を固定用ブロック4の円形凹部5に組み込み、センサ素子1を回動させて直交度を調整し、最も出力特性が得られる位置で取付用ねじ6をねじ止めすることにより、センサ素子1を固定用ブロック4に固定した。
【0037】
同様にしてY、Z軸のセンサ素子1の直交度を調整し、固定することにより3軸磁気センサが完成した。なお、3軸磁気センサの作製数は10台とした。
【0038】
(比較例)
比較例として、図4に示す構成を比較例1とし、図6に示す回転板24を有した構成を比較例2として作製した。数量はそれぞれ10台とした。センサ素子11の形状は鍔部を有していない他は実施例と同様とした。
【0039】
本発明による実施例と比較例とにおいて組立工程で手直しが必要になった回数の結果を表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1から明らかなように、実施例は比較例より手直し実施の回数が減少しており、本発明の効果が認められる。また、製品重量も実施例では円形凹部を形成したため約10%の製品重量を比較例1より削減できた。なお、比較例2は回転板を有しているため製品重量は増加した。
【0042】
以上、実施例を用いて、この発明の実施の形態を説明したが、この発明は、これらの実施例に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含まれる。すなわち、当業者であれば、当然なしえるであろう各種変形、修正もまた本発明に含まれる。
【符号の説明】
【0043】
1、21 磁気センサ素子
2 円弧状溝
3 鍔部
4、14、23、32、33 固定用ブロック
5 円形凹部
6、15、31 取付用ねじ
7、18、30 取付用ねじ穴
11 X軸方位センサ素子
12 Y軸方位センサ素子
13 Z軸方位センサ素子
8、16a 固定用ブロックの取付け面の中心軸
16b 変動した位置
17 取付用穴
22 センサ素子の取付用穴
24 回転板
25 円柱状突起
26 回転板の取付用穴
27 保持爪
28 保持凹部
29 円形穴
34 長円形凹部
35 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3軸方位に対応する3つの磁気センサ素子を組み合わせ固定した3軸磁気センサであって、外縁が円弧状の鍔部を有したひとつ以上の磁気センサ素子と、前記鍔部の外縁に内接する円弧状の縁部を有する壁部を少なくとも一部に備えたガイド部と、前記磁気センサ素子を固定する、前記ガイド部を有したひとつ以上の固定用ブロックと、前記磁気センサ素子と前記固定用ブロックを固定するひとつ以上の取付け部材を備え、前記鍔部には前記取付部材を挿入することができる円弧状の長穴を備え、前記固定用ブロックには前記長穴と相対する位置に前記取付け部材を挿入する穴部が形成され、前記鍔部の外縁と前記壁部の内縁は当接し、前記壁部の円弧の中心を軸として回動可能に配し、前記磁気センサ素子を所望する回動位置で前記取付け部材を用いて固定可能に構成したことを特徴とする3軸磁気センサ。
【請求項2】
前記壁部の円弧の中心と、前記長穴の円弧の中心が、前記磁気センサ素子の前記回動の中心軸上にあることを特徴とする請求項1に記載の3軸磁気センサ。
【請求項3】
前記取付け部材は取付け用ねじであり、前記長穴は円弧状溝であることを特徴とする請求項1または2に記載の3軸磁気センサ。
【請求項4】
前記ガイド部は円形凹部であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の3軸磁気センサ。
【請求項5】
前記ガイド部は長円形凹部であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の3軸磁気センサ。
【請求項6】
前記ガイド部は突出部であることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか1項に記載の3軸磁気センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−93114(P2012−93114A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238543(P2010−238543)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】