説明

3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システム

【課題】1つの振動子で、コリオリ力を利用して3軸方向の角速度を検出可能な3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムを提供する。
【解決手段】正方形状に配置された4本の振動アーム11〜14と、正方形状の頂点より対角線方向に伸びた4本の検出アーム21〜24とを備え、4本の振動アーム11〜14の振動によって生じる検出アームの21〜24形状の歪みを検知して、振動アーム11〜14に加わった3軸角速度を検出する。z軸を回転軸として振動アームが回転した場合に、z軸方向と垂直なx−y方向に働くコリオリ力により発生する検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。x(y)軸方向を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合に、z軸方向に働くコリオリ力により発生する検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムに係り、特にコリオリ力を利用して3軸方向の角速度を検出する3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
圧電材料を用いた角速度検出装置として、音片型、音叉型など様々な形状の振動式角速度検出装置が提案され実用化されている。特に、音叉型の振動式角速度検出装置はQ値が高く、安定した振動と高い感度が得られる。これらの角速度検出装置は、1つの振動子につき1軸方向の角速度のみ検出可能である。
【0003】
例えば、アーム(振動子)を振動させるための駆動電圧が印加される駆動電極と、アームに加えられた角速度に応じた検出信号を出力する検出電極とが、同一のアーム上に形成された音叉型振動式角速度検出装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
上記のような角速度検出装置では、アームの振動方向が水平方向の場合に検出方向は垂直方向であり、アームに角速度が加わらない状態では、検出電極から検出信号は出力されない。そして、アームが水平方向に振動している状態でアームに角速度が加えられると、コリオリ力によりアームが垂直方向に振動し、この垂直方向の振動に基づき角速度が検出される。
【0005】
しかしながら、実際にはプロセスばらつき等に起因して、僅かながら水平方向からずれた方向に角速度検出装置のアームが振動する。このため、垂直方向の成分が存在するので、アームに角速度が加えられていない状態でも検出電極からアームに角速度が加わっているように検出信号が出力される。このような、アームの振動方向が所定の方向からずれたために検出電極から出力される検出信号を、以下において「振動ノイズ」という。
【0006】
振動ノイズが発生した状態でアームに角速度を加えると、振動ノイズと角速度による信号が加算された検出信号が検出電極から出力される。このため、振動ノイズが大きいとS/N比が劣化し、感度が低下する。
【0007】
一方、検出する運動の自由度に多軸化が求められるようになり、直交する3軸の各成分(角速度)を検出する角速度センサが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0008】
特許文献2では、1つの振動子で3軸方向の角速度を検出する角速度センサが提案されている。しかしながら、3回対称を有する構造で、120°異なる方向に延在する構造を備えているため、例えば水晶のような3回対称を有する単結晶圧電体以外の材料では、作成が困難である。また、x軸、y軸の検出信号は異なっており、規格化するためには複雑な信号処理が必要である。
【0009】
例えば、振動子により3軸化を図ろうとする場合、角速度の検出原理であるコリオリ力を3軸全てについて発生させるため、素子は、駆動変位速度として少なくとも直交する2方向成分を有する必要がある。これを実現する技術として、1つの慣性体系を、時間的にも直交した2相駆動により円運動させる方式が提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0010】
非特許文献1の方式では、3軸の角速度センサが提案されているが、振動子を円運動させる必要があり、また、異なる成分を分離することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−351874号公報
【特許文献2】特開2006−17538号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】田村英樹、市村敏也、富川義朗、「2相駆動による3軸角速度検出ジャイロセンサ」、超音波TECNO、2002.1−2、pp.6−13(2002−01)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、1つの振動子で、コリオリ力を利用して3軸方向の角速度を検出可能な3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様によれば、正方形状に配置された4本の振動アームと、前記正方形状の頂点より対角線方向に伸びた4本の検出アームとを備え、前記4本の振動アームの振動によって生じる前記4本の検出アームの形状の歪みを検知して、前記4本の振動アームに加わった3軸角速度を検出する3軸角速度検出振動子が提供される。
【0015】
本発明の他の態様によれば、空洞を有する基板と、正方形状に配置された4本の振動アームと、一方の端部が前記正方形状の頂点より対角線方向に伸び、他方の端部が前記基板の前記空洞を囲む周辺部に固定された4本の検出アームとを備え、前記4本の振動アームの振動によって生じる前記4本の検出アームの形状の歪みを検知して、前記4本の振動アームに加わった3軸角速度を検出する3軸角速度検出装置が提供される。
【0016】
本発明の他の態様によれば、空洞を有する基板と、正方形状に配置された4本の振動アームと、一方の端部が前記正方形状の頂点より対角線方向に伸び、他方の端部が前記基板の前記空洞を囲む周辺部に固定された4本の検出アームと、前記4本の振動アームの振動によって生じる前記4本の検出アームの形状の歪みを検知して、前記4本の振動アームに加わった3軸角速度を検出する検出回路とを備える3軸角速度検出システムが提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、1つの振動子で、コリオリ力を利用して3軸方向の角速度を検出可能な3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の模式的平面パターン構成図。
【図2】図1のI−I線に沿う模式的断面構造図。
【図3】図1のII−II線に沿う模式的断面構造図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システムを説明する模式的ブロック構成図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システムの回路構成例を示す模式的ブロック構成図。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システムの検出信号の波形例を示すグラフ。
【図7】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の製造方法の一工程を説明する模式的ブロック構成図(その1)。
【図8】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の製造方法の一工程を説明する模式的ブロック構成図(その2)。
【図9】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の製造方法の一工程を説明する模式的ブロック構成図(その3)。
【図10】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の製造方法の一工程を説明する模式的ブロック構成図(その4)。
【図11】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の製造方法の一工程を説明する模式的ブロック構成図(その5)。
【図12】本発明の第1の実施の形態に係る角速度検出装置の他の製造方法を説明するための工程断面図である(その1)。
【図13】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の他の製造方法を説明するための工程断面図である(その2)。
【図14】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の他の製造方法を説明するための工程断面図である(その3)。
【図15】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の他の製造方法を説明するための工程断面図である(その4)。
【図16】本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の他の製造方法を説明するための工程断面図である(その5)。
【図17】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出素子および3軸角速度検出装置の模式的平面パターン構成図。
【図18】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置において、定常振動状態を示す模式的平面パターン構成図。
【図19】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置において、z軸方向を中心とする角速度が加わったz軸検出状態を示す模式的平面パターン構成図。
【図20】本発明の第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置において、(a)x(y)軸方向を中心とする角速度が加わったx(y)軸検出状態を示す模式的側面図、(b)(a)に対応する模式的鳥瞰図。
【図21】本発明の別の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の模式的平面パターン構成図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、図面を参照して、本発明の第1の実施の形態およびその変形例を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0020】
又、以下に示す第1の実施の形態およびその変形例は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0021】
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置の模式的平面パターン構成は、図1に示すように表され、図1のI−I線に沿う模式的断面構造は、図2に示すように表され、図1のII−II線に沿う模式的断面構造は、図3に示すように表される。
【0022】
(3軸角速度検出振動子)
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出振動子2は、図1に示すように、正方形状に配置された4本の振動アーム11〜14と、正方形状の頂点より対角線方向に伸びた4本の検出アーム21〜24とを備え、4本の振動アーム11〜14の振動によって生じる4本の検出アーム21〜24の形状の歪みを検知して、4本の振動アーム11〜14に加わった3軸角速度を検出する。
【0023】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出振動子2においては、振動アーム11〜14の振動する面に垂直なz軸を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合には、回転軸のz軸方向及び駆動振動方向(x−y面)と垂直方向に働くコリオリ力により発生する振動アーム11〜14の検出振動が検出アーム21〜24に伝達して生じる検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。
【0024】
また、第1の実施の形態に係る3軸角速度検出振動子2においては、振動アーム11〜14の長軸方向(x軸、y軸)を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合には、振動アーム11〜14の振動する面(x−y面)に垂直なz軸方向に働くコリオリ力により発生する振動アーム11〜14の検出振動が検出アーム21〜24に伝達して生じる検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。
【0025】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出振動子2においては、4本の振動アームは、振動アーム11と、振動アーム11の端部と連結部31を介して直角に連結された振動アーム12と、振動アーム12の端部と連結部32を介して直角に連結され、振動アーム11に対向して配置された振動アーム13と、振動アーム13の端部と連結部33を介して直角に連結され、かつ振動アーム11の他方の端部と連結部34を介して直角に連結され、振動アーム12に対向して配置された振動アーム14とを備える。
【0026】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出振動子2においては、4本の検出アームは、連結部31に一方の端部が接続された検出アーム21と、連結部32に一方の端部が接続された検出アーム22と、連結部33に一方の端部が接続された検出アーム23と、連結部34に一方の端部が接続された検出アーム24とを備える。
【0027】
(3軸角速度検出装置)
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4は、図1に示すように、空洞50を有する基板40と、正方形状に配置された4本の振動アーム11〜14と、一方の端部が正方形状の頂点より対角線方向に伸び、他方の端部が基板40の空洞を囲む周辺部に固定された4本の検出アーム21〜24とを備え、4本の振動アーム11〜14の振動によって生じる4本の検出アーム21〜24の形状の歪みを検知して、4本の振動アーム11〜14に加わった3軸角速度を検出する。
【0028】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4においては、振動アーム11〜14の振動する面(x−y面)に垂直なz軸を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合に、回転軸のz軸方向及び駆動振動方向(x−y面)と垂直方向に働くコリオリ力により発生する振動アーム11〜14の検出振動が検出アーム21〜24に伝達して生じる検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。
【0029】
また、第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4においては、振動アーム11〜14の長軸方向(x軸、y軸)を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合に、振動アーム11〜14の振動する面(x−y面)に垂直なz軸方向に働くコリオリ力により発生する振動アーム11〜14の検出振動が検出アーム21〜24に伝達して生じる検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。
【0030】
振動アーム11〜14は、外部からの駆動信号入力により駆動振動方向に振動(以下において「駆動振動」という。)する。「駆動振動方向」は、図1において紙面に平行で、かつ振動アーム11〜14の延伸する長軸方向に対して垂直な方向である。具体的には、図1において、振動アーム11、13の駆動振動方向は、y軸方向、振動アーム12、14の駆動振動方向は、x軸方向である。つまり、駆動振動方向を含む駆動振動面はx−y平面である。また、駆動振動面の法線方向をz軸方向とする。
【0031】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4は、3軸(x、y、z)方向に回転する角速度を検出するための構成として、3軸角速度検出振動子2の検出アーム21〜24の他端を基板40の空洞50を囲む周辺部に固定し、振動アーム11〜14と検出アーム2〜24を分離している。
【0032】
図1に示したように、振動アーム11の連結部31と連結部34に近い領域に、それぞれ駆動電極111と駆動電極112が配置されている。同様に、振動アーム12の連結部31と連結部32に近い領域に、それぞれ駆動電極121と駆動電極122が配置され、振動アーム13の連結部32と連結部33に近い領域に、それぞれ駆動電極131と駆動電極132が配置され、振動アーム14の連結部34と連結部33に近い領域に、それぞれ駆動電極141と駆動電極142が配置されている。
【0033】
駆動電極111、112は、振動アーム11上で互いに対向して配置された第1印加電極101と第2印加電極102を有する。同様に、駆動電極121、122は、振動アーム12上で互いに対向して配置された第1印加電極101と第2印加電極102を有し、駆動電極131、132は、振動アーム13上で互いに対向して配置された第1印加電極101と第2印加電極102を有し、駆動電極141、142は、振動アーム14上で互いに対向して配置された第1印加電極101と第2印加電極102を有する。
【0034】
図1に示すように、振動アーム11〜14の「内側」に第1印加電極101が配置され、内側と対向する面側(以下において「外側」という)に第2印加電極102が配置される。
【0035】
また、検出アーム21上の固定端Aに近い領域に検出電極211が配置され、検出アーム22上の固定端Bに近い領域に検出電極221が配置され、検出アーム23の固定端Cに近い領域に検出電極231が配置され、検出アーム24上の固定端Dに近い領域に検出電極241が配置されている。検出アーム21〜24上に配置される検知電極211〜214は、検出アーム21〜24を見て必ず同じ側に検知電極201または検知電極202が設けられている。したがって、z軸を中心に、検出アーム21〜24がゆがむと、必ず検知電極201は同じ側のゆがみを検出する。同様に、検知電極202も、必ず同じ側のゆがみを検出する。
【0036】
更に、図1では、煩雑となるため図示を省略しているが、連結部31〜34の付近に振動参照電極71〜74が配置されている(後述する図4参照)。
【0037】
図2に、図1のI−I線に沿った振動アーム12、14の断面構造を示す。図2に示すように、振動アーム12、14上の側面に近い領域に、第1印加電極101と第2印加電極102が対向して配置されている。第1印加電極101と第2印加電極102は、同一の層構造である。
【0038】
図3に、図1のII−II線に沿った検出アーム21の断面構造を示す。図3に示すように、検出アーム21上の側面に近い領域に、同一の層構造を有する検知電極201、202が対向して配置されている。図示を省略するが、検出アーム22、23、24の構造も検出アーム21の構造と同様である。
【0039】
図1〜図3に示すように、振動アーム11〜14および検出アーム21〜24は、基板40に形成された空洞50内に配置された3軸角速度検出振動子2を構成する。後述するように、基板40をエッチングして空洞50を形成する際に基板40の一部を残すことにより、振動アーム11〜14および検出アーム21〜24は形成される。
【0040】
基板40には、シリコン基板等が採用可能である。例えば振動アーム11〜14および検出アーム21〜24の基板40の幅wは150μm程度であり、膜厚dは150μm程度である。
【0041】
図2および図3に示すように、第1印加電極101、第2印加電極102、及び検知電極201、202は、それぞれ下部電極301、圧電体膜302、上部電極303の積層体である。下部電極301には、膜厚200nm程度の白金(Pt)/チタン(Ti)の積層膜等が採用可能であり、上部電極303には、膜厚200nm程度の酸化イリジウム(IrO2)/イリジウム(Ir)の積層膜や金(Au)膜等が採用可能である。圧電体膜302には、膜厚1〜3μm程度のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜やランタンドープジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)膜等が採用可能である。PZT膜やPLZT膜はゾルゲル法等により形成される。
【0042】
第1印加電極101、第2印加電極102、及び検知電極201、202は、基板40上に形成された酸化シリコン膜41上に配置され、周囲を保護膜45で覆われている。酸化シリコン膜41は、例えば基板40の表面を熱酸化して形成される。保護膜45は、例えばアルミナ(Al23)膜と酸化シリコン(SiO2)膜の積層膜である。
【0043】
駆動信号として駆動電圧Vdが第1印加電極101と第2印加電極102間に印加されると、逆圧電効果により第1印加電極101と第2印加電極102の圧電体膜302の形状が変形する。例えば、圧電体膜302はプラス電圧が印加されるとy軸方向に縮み、マイナス電圧が印加されるとy軸方向に伸びる。
【0044】
このため、振動アーム11〜14の側面近くに配置された第1印加電極101と第2印加電極102に極性の異なる電圧を印加することにより、振動アーム11〜14の外側が伸びる場合に内側が縮み、振動アーム11〜14の内側が伸びる場合に外側が縮む。つまり、振動アーム11〜14は、延伸する長軸方向に対して垂直な方向に屈曲する(後述する図18参照)。
【0045】
一方、検出アーム21〜24に形状の変化が生じると、検知電極201、202の圧電体膜302の形状が変形し、圧電効果により検出電極211〜241から電気信号が検出信号として出力される。検出信号は、圧電効果により検知電極201、202の圧電体膜302に生じる分極を検出して検出電極211〜241が出力する電流信号若しくは電圧信号である。
【0046】
(3軸角速度検出システム)
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システムを説明する模式的ブロック構成は、図4に示すように表される。また、第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システムの回路構成例を示す模式的ブロック構成は、図5に示すように表され、検出信号の波形例は、図6に示すように表される。
【0047】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システム1は、図4に示すように、空洞50を有する基板40と、正方形状に配置された4本の振動アーム11〜14と、一方の端部が正方形状の頂点より対角線方向に伸び、他方の端部が基板40の空洞50を囲む周辺部に固定された4本の検出アーム21〜24と、4本の振動アーム11〜14の振動によって生じる4本の検出アーム21〜24の形状の歪みを検知して、4本の振動アーム11〜14に加わった3軸角速度を検出する検出回路600とを備える。
【0048】
第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システム1において、検出回路600が、振動アーム11〜14の振動する面(x−y面)に垂直なz軸を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合に、回転軸のz軸方向及び駆動振動方向(x−y面)と垂直な方向に働くコリオリ力により発生する振動アーム11〜14の検出振動が検出アーム21〜24に伝達して生じる検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。
【0049】
また、第1の実施の形態に係る3軸角速度検出システム1において、検出回路600が、振動アーム11〜14の長軸方向(x軸、y軸)を回転軸として振動アーム11〜14が回転した場合に、振動アーム11〜14の振動する面(x−y面)に垂直なz軸方向に働くコリオリ力により発生する振動アーム11〜14の検出振動が検出アーム21〜24に伝達して生じる検出アーム21〜24の形状の歪みを検出する。
【0050】
また、検出回路600が出力する駆動電圧Vdによって、振動アーム11〜14が駆動振動方向に沿って振動する。
【0051】
駆動電圧Vdは、図4に示した検出回路600の駆動回路610から駆動電極111、112、121、122、131、132、141、142に出力される。駆動回路610は、駆動振動周波数fdの駆動電圧Vdを出力する。駆動振動周波数fdは、3軸角速度検出振動子2の駆動振動方向の共振周波数に設定される。
【0052】
また、振動アーム11〜14に3軸角速度が加えられたことによって検知電極201、202に生じる分極に基づいて、検出電極211〜241から検出回路600の検知回路620にそれぞれ検出信号Sd1、Sd2、Sd3、Sd4が出力される。ここで、各検出アーム21〜24から、検知電極201の検出信号および検知電極202の検出信号、それぞれが検知回路620に入力される。
【0053】
振動参照電極71、72、73、74は、図2、図3に示した駆動電極111、141、検出電極211と同様に、下部電極301、圧電体膜302及び上部電極303の積層構造を有する。そして、駆動振動に起因して生じる振動アーム11〜14の形状変化に比例する参照電圧Vrが、振動参照電極71〜74に発生する。つまり、参照電圧Vrの大きさは、駆動振動の大きさに比例する。参照電圧Vrは、振動参照電極71〜74から検出回路600の振動量検出回路640に出力される。振動量検出回路640は、参照電圧Vrに基づき、駆動振動の大きさを示す振動信号SFを駆動回路610に出力する。
【0054】
以下に、3軸角速度検出システム1の動作を説明する。
【0055】
駆動回路610により、第1印加電極101と第2印加電極102間に駆動振動周波数fdの駆動電圧Vdが印加されると、既に述べたように第1印加電極101及び第2印加電極102の圧電体膜302が変形し、振動アーム11〜14は屈曲する。即ち、振動アーム11〜14は、駆動振動周波数fdで駆動振動方向に沿って駆動振動する。
【0056】
駆動振動においては、振動アーム11〜14のそれぞれの第1印加電極101に同一極性の電圧が印加され、かつ第1印加電極101に印加される電圧と逆の極性の電圧が第2印加電極102に印加される。このため、振動アーム12と振動アーム14のいずれか一方がx軸方向に屈曲する場合には、他方が−x軸方向に屈曲する。同様に、振動アーム11と振動アーム13のいずれか一方がy軸方向に屈曲する場合には、他方が−y軸方向に屈曲する
つまり、振動アーム11と振動アーム13は、互いの両端部が振動アーム12および14で連結されて、且つ同一時刻におけるそれぞれの駆動振動方向が互いに逆向きである3軸角速度検出振動子2の一部を構成し、同様に、振動アーム12と振動アーム14は、互いの両端部が振動アーム11および13で連結されて、且つ同一時刻におけるそれぞれの駆動振動方向が互いに逆向きである3軸角速度検出振動子2の一部を構成する。この3軸角速度検出振動子2は、駆動振動周波数fdで駆動振動する。
【0057】
振動アーム12と振動アーム14の駆動方向が逆方向であり、振動アーム11と振動アーム13の駆動方向が逆方向であるため、振動アーム11〜14が駆動振動のみしている状態では、連結部31〜34の各中心部、つまり連結部31〜34と検出アーム21〜24との接続点は振動しない不動点である。このため、振動アーム11〜14が駆動振動のみしている状態では、検出アーム21〜24に形状の歪みは発生せず、検出電極211〜241は検出信号Sd1、Sd2、Sd3、Sd4を出力しない。
【0058】
振動アーム11〜14が駆動振動している状態で、駆動振動面(x−y面)に垂直なz軸を回転軸として3軸角速度検出振動子2が回転すると、振動アーム11〜14はコリオリ力を受ける。即ち、3軸角速度検出振動子2に加えられた回転の回転軸方向(z軸方向)及び駆動振動方向(x軸方向)に垂直な方向(y軸方向)、或いは駆動振動方向(y軸方向)に垂直な方向(x軸方向)、つまり振動アーム11〜14の長軸方向に、振動アーム11〜14はコリオリ力をそれぞれ受ける。
【0059】
駆動振動において、同一時刻の振動アーム11と振動アーム13および振動アーム12と振動アーム14の駆動方向は互いに逆向きである。このため、振動アーム11、13の受けるコリオリ力の向きは、同一時刻において互いに逆向きであり、同様に振動アーム12、14の受けるコリオリ力の向きは、同一時刻において互いに逆向きである。
【0060】
振動アーム11〜14にコリオリ力が働くと、検出アーム21〜24に形状の歪みが発生する。検出アーム21〜24に形状の歪みが発生すると、検知電極201、202の圧電体膜302の形状が変形し、圧電体膜302で分極が生じる。検出電極211〜241は、圧電体膜302で生じた分極により検知電極201、202間に流れる電流(検出電流)或いは検知電極201、202間に発生する電圧(検出電圧)を検出する。検出電極211、221は、検出電流或いは検出電圧を検出信号Sd1、Sd2として検出回路600に出力する。同様に、検出電極231、241は、検出電流或いは検出電圧を検出信号Sd3、Sd4として検出回路600に出力する。
【0061】
検出回路600は、検出電極211〜241が出力する検出信号Sd1〜Sd4に基づき、振動アーム11〜14に加えられた角速度を検出する。検出回路600の構成例の一部を図5に示す。図5においては、検出電極211、221が出力する検出信号Sd1、Sd2に基づく信号処理系を主として説明する。他の検出電極231、241が出力する検出信号Sd3、Sd4に基づく信号処理系についても図5と同様である。
【0062】
駆動回路610は駆動振動周波数fdの駆動電圧Vdを出力するが、駆動振動周波数fdは、振動量検出回路640から駆動回路610に出力される駆動振動の大きさを示す振動信号SFを参照して設定される。振動量検出回路640は、図5に示すように、電流アンプ641、自動利得制御回路(AGC)642を有する。振動アーム11、12の駆動振動により振動参照電極71、72に発生する参照電圧Vrは、電流アンプ641を介してAGC642に入力される。AGC642の出力が、駆動振動の大きさを示す振動信号SFとして駆動回路610に出力される。
【0063】
駆動回路610は、振動信号SFに基づき、駆動振動の大きさが最大になる駆動振動周波数fdを3軸角速度検出振動子2の共振周波数として設定し、駆動電圧Vdの駆動振動周波数fdが決定される。つまり、駆動振動の大きさが振3軸角速度検出振動子2から駆動回路610にフィードバックされて、駆動振動周波数fdが設定される。
【0064】
検知回路620は、図5に示すように、電流アンプ621、622及び差動アンプ623を有する。検出電極211に接続する電流アンプ621に検出信号Sd1が入力され、検出電極221に接続する電流アンプ622に検出信号Sd1が入力される。電流アンプ621の出力と電流アンプ622の出力は差動アンプ623に入力され、検出信号Sd1と検出信号Sd2を重ねた信号が検知信号STとして検波回路630に送信される。ここで、例えば、電流アンプ621には、各検出アーム21〜24の検知電極201の検出信号S41が入力される。また、電流アンプ622には、各検出アーム21〜24の検知電極202の検出信号S42が入力される。それぞれの電流アンプ621および622に入力される信号は、足し合わされる。
【0065】
検出信号Sd1、検出信号Sd2及び検知信号STの例を、図6に示す。検出信号Sd3、Sd4についても図6と同様である。図6に示した信号Swは3軸角速度検出振動子2の振動を示し、検出信号Sd1、Sd2は検出アーム21、検出アーム22の検出電圧をそれぞれ示す。図6に示すように、検出信号Sd1、Sd2は3軸角速度検出振動子2の振動周波数で振動する。検出信号Sd1と検出信号Sd2を重ね合わせることによって検知信号STは増幅され、同時に検出信号Sd1、Sd2に含まれるノイズが除去される。そのため、圧電体膜302の形状変化をより感度良く検知することができる。
【0066】
検波回路630は、同期検波631及び平滑回路632を有する。検波回路630は、検知回路620から送信される検知信号STを、振動量検出回路640から振動信号SFで送信される駆動振動周波数fdを用いた同期検波することにより、角速度ωを算出する。算出された角速度ωは、出力信号D1で検波回路630から出力される。
【0067】
なお、検出回路600を基板40と異なる基板上に形成してもよいし、検出回路600を基板40に形成してもよい。3軸角速度検出振動子2と検出回路600を基板40上に形成して1チップ化することにより、3軸角速度検出装置4を小型化することができる。
【0068】
以上に説明したように、本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4では、駆動振動する振動アーム11〜14と、コリオリ力により振動する検出アーム21〜24が異なり、駆動振動は検出アーム21〜24に伝わらない。また、3軸角速度検出装置4は、振動アーム11と13及び振動アーム12と14が互いに逆方向に振動する。このため、駆動振動の不動点である連結部31〜34に接続する検出アーム21〜24に駆動振動が伝達されにくい。
【0069】
(3軸角速度検出装置の製造方法)
図7〜図11を参照して、第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4の製造方法を説明する。図7〜図11は、図1のIII−III線方向に沿った工程断面図である。なお、以下に述べる3軸角速度検出装置4の製造方法は一例であり、この変形例を含めて、これ以外の種々の製造方法により実現可能であることは勿論である。
【0070】
(イ)まず、図7に示すように、厚さ700μm程度のシリコン基板である基板40の表面上に酸化シリコン膜41を形成し、裏面上に酸化シリコン膜42を形成する。酸化シリコン膜41及び酸化シリコン膜42は熱酸化により形成される。
【0071】
(ロ)次に、図8に示すように、基板40の表面上の酸化シリコン膜41上に、下部電極層311、圧電体膜層312及び上部電極層313を順に積層する。例えば、スパッタ法により、膜厚200nm程度のPt/Ti積層膜を下部電極層311として形成する。下部電極層311がTi膜を下層とするPt/Ti積層膜である場合に、Ti膜とシリコン基板との密着性が良くない。このため、基板40上に酸化シリコン膜41を形成して、基板40と下部電極層311との密着性を向上させている。下部電極層311上に、圧電体膜層312として例えばPLZT膜をゾルゲル法等により形成する。圧電体膜層312上に、スパッタ法によりIrO2膜を下層とするIrO2/Irの積層膜を上部電極層313として形成する。
【0072】
(ハ)次に、フォトリソグラフィ技術やエッチング等により、所望のパターンになるように下部電極層311、圧電体膜層312及び上部電極層313をパターニングして、図9に示すように、下部電極301、圧電体膜302及び上部電極303が積層された駆動電極111、112を形成する。図示を省略するが、駆動電極111、112と同様にして、駆動電極121、122や検出電極211、221も同時に形成される。その後、アルミナ膜と酸化シリコン膜の積層膜を保護膜45として全面に形成する。次いで、空洞50が形成される領域400の保護膜45及び酸化シリコン膜41を除去する。
【0073】
(ニ)次に、基板40の裏面上に形成された酸化シリコン膜42の一部をエッチングして、空洞50を形成する領域の基板40の裏面を露出させる。残った酸化シリコン膜42をエッチングマスクにしたウェットエッチングによって、3軸角速度検出振動子2が配置される領域である基板40の裏面の一部を除去する。その結果、振動アーム11、12と検出アーム21、22の裏面が露出される。その後、図10に示すように、基板40の裏面にエッチングストッパーとして酸化シリコン膜60をプラズマ化学気相成長(PCVD)法等により形成する。
【0074】
(ホ)次に、保護膜45をエッチングマスクとし、酸化シリコン膜60をエッチングストッパーとするドライエッチングによって基板40の表面の一部を除去し、図11に示すように空洞50を形成して振動アーム11、12と検出アーム21、22の側面を露出させる。その後、酸化シリコン膜60を除去する。以上により、図1に示す3軸角速度検出装置4が完成する。
【0075】
上記では、エッチングストッパーとして酸化シリコン膜60を基板40の裏面に形成する例を説明した。しかし、図12〜図16を参照して以下に説明するように、エッチングストッパーとしての絶縁膜を予め基板40に形成しておいてもよい。なお、図12〜図16は、図1のIII−III方向に沿った工程断面図である。
【0076】
(イ)図12に示すように、シリコン膜40a、酸化シリコン膜40b及びシリコン膜40cが積層されたSOI基板を、基板40として用意する。そして、基板40の表面上、即ちシリコン膜40c上に酸化シリコン膜41を形成する。更に、基板40の裏面上、即ちシリコン膜40a上に酸化シリコン膜42を形成する。酸化シリコン膜41及び酸化シリコン膜42は熱酸化により形成される。
【0077】
(ロ)図13に示すように、基板40の表面上の酸化シリコン膜41上に、下部電極311、圧電体膜312及び上部電極313を順に積層する。例えば、図10を参照して説明した例と同様に、下部電極311として形成したPt/Ti積層膜上に、圧電体膜312としてPLZT膜を形成する。そして、圧電体膜312上に、IrO2膜を下層とするIrO2/Irの積層膜を上部電極313として形成する。
【0078】
(ハ)図14に示すように、下部電極311、圧電体膜312及び上部電極313をパターニングして、下部電極301、圧電体膜302及び上部電極303が積層された第1印加電極101、第2印加電極102を形成する。図示を省略するが、第1印加電極101、第2印加電極102と同様にして、検知電極201、202も同時に形成される。その後、アルミナ膜と酸化シリコン膜の積層膜を保護膜45として全面に形成する。次いで、空洞50が形成される領域400の保護膜45及び酸化シリコン膜41を除去する。
【0079】
(ニ)基板40の裏面上に形成された酸化シリコン膜42の一部をフォトリソグラフィ技術等を用いてエッチングし、振動子10及び空洞50を形成する領域のシリコン膜40aを露出させる。残った酸化シリコン膜42をエッチングマスクにしたウェットエッチングによって、露出したシリコン膜40aを除去する。その結果、図15に示すように、振動子10が配置される領域及び空洞50を形成する領域の酸化シリコン膜40bが露出される。
【0080】
(ホ)保護膜45をエッチングマスクとし、酸化シリコン膜40bをエッチングストッパーとするドライエッチングによって、図16に示すように空洞50を形成する領域のシリコン膜40cを除去して、振動アーム11、12と検出アーム21、22の側面を露出させる。その後、空洞50領域の酸化シリコン膜40bを除去する。以上により、本発明の第1の実施形態に係る3軸角速度検出装置4が完成する。
【0081】
上記のような本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4の製造方法によれば、駆動振動する振動アーム11〜14と検出振動する検出アーム21〜24とが異なり、且つ、振動アーム11〜14の駆動振動の振動方向と検出アーム21〜24の検出振動の振動方向とが異なることにより、振動ノイズによる影響を低減できる3軸角速度検出装置4を提供することができる。
【0082】
第1の実施の形態およびその変形例によれば、1つの振動子で、コリオリ力を利用して3軸方向の角速度を検出可能な3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムを提供することができる。
【0083】
(変形例)
第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置の模式的平面パターン構成は、図17に示すように表される。図17中に示される3軸角速度検出振動子2は、振動アーム11〜14及び検出アーム21〜24にスリットSが形成されている点が、図1中に示される3軸角速度検出振動子2と異なる。スリットSは、振動アーム11〜14及び検出アーム21〜24の上面から下面まで貫通する空洞である。
【0084】
図1中に示した3軸角速度検出振動子2の振動アーム11〜14及び検出アーム21〜24のようにスリットの無いアームと比較して、スリットSのあるアームは変形しやすい。このため、図17中に示した3軸角速度検出振動子2では、図1中に示した3軸角速度検出振動子2よりも、3軸角速度が加えられた場合の振動アーム11〜14及び検出アーム21〜24の形状変化が大きく、検出信号Sd1〜Sd4が大きくなる。その結果、3軸角速度検出装置4の角速度検出感度が向上する。
【0085】
1つのアーム上に駆動電極と検出電極が並べて配置される角速度検出装置では、アーム上に電極が配置されていない領域が少ない。このため、スリットSを形成することは困難である。しかし、第1の実施形態に係る3軸角速度検出装置4では駆動電極と検出電極が異なるアーム上に配置されるため、振動アーム11〜14及び検出アーム21〜24にスリットSを形成することが可能である。
【0086】
(3軸角速度検出装置の動作モード)
3軸角速度検出動作は、図1に示す第1の実施の形態と同様であるが、各振動アーム11〜14および各検出アーム21〜24の変形状態がより柔軟な、図18に示される第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置4を例として、3軸角速度検出装置4の動作モードを説明する。
【0087】
第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置4において、定常振動状態を示す模式的平面パターン構成は、図18に示すように表される。
【0088】
対向する振動アーム12,14は、x−y平面上において、図18に示すように、x軸方向に位相が180°ずれた振動モード、即ち+x軸方向および−x軸方向に振動する。同様に、振動アーム11,13は、x−y平面上において、図18に示すように、y軸方向に位相が180°ずれた振動モード、即ち+y軸方向および−y軸方向に振動する。
【0089】
一方、第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置4において、z軸方向を中心とする角速度ωが加わったz軸検出状態を示す模式的平面パターン構成は、図19に示すように表される。
【0090】
z軸方向を中心とする角速度ωが加わると、対向する振動アーム12,14は、x−y平面上において、図19に示すように、−y軸方向のコリオリ力f3および+y軸方向のコリオリ力f1を受ける。同様に、振動アーム11,13は、x−y平面上において、図19に示すように、−x軸方向のコリオリ力f2および+y軸方向のコリオリ力f4を受ける。すなわち、z軸方向を中心とする角速度ωが加わると、各振動アームには、コリオリ力が90°ずれた方向に働き、検出アーム21〜24が変形する。
【0091】
さらに、第1の実施の形態の変形例に係る3軸角速度検出装置4において、y軸方向を中心とする角速度ωが加わったy軸検出状態を示す模式的側面構造は、図20(a)に示すように表される。図20(b)は、図20(a)に対応する鳥瞰図は、図20(b)に示すように表される。
【0092】
y軸方向を中心とする角速度ωが加わると、対向する振動アーム12,14は、z−x平面上において、図20に示すように、+z軸方向のコリオリ力fzおよび−z軸方向のコリオリ力−fzを受ける。同時に、振動アーム11,13は、z−x平面上において、図20に示すように、変形される。すなわち、y軸方向を中心とする角速度ωが加わると、対向する振動アーム12,14には、+z軸方向のコリオリ力fzおよび−z軸方向のコリオリ力−fzが働き、検出アーム21〜24が変形する。
【0093】
x軸方向を中心とする角速度ωが加わると、対向する振動アーム11,13は、z−y平面上において、+z軸方向のコリオリ力fzおよび−z軸方向のコリオリ力−fzを受ける。同時に、振動アーム12,14は、z−y平面上において、変形される。すなわち、x軸方向を中心とする角速度ωが加わると、対向する振動アーム11,13には、+z軸方向のコリオリ力fzおよび−z軸方向のコリオリ力−fzが働き、検出アーム21、22、23、24が変形する。
【0094】
外力Fにより3軸角速度検出振動子2にz軸方向の加速度が加わった場合における、3軸角速度検出振動子2の共振周波数fFと外力Fとの関係は、例えば以下の通りである。
【0095】
振動アームに外力Fを加えたときの共振周波数fFは、以下の式(1)で表される。
【0096】
F=f0{1−(KL2F)/(2EI)}1/2 (1)
式(1)で、f0は、外力が加えられていない状態での振動アームの共振周波数、Kは、基本波モードによる定数、Lは、振動アームの長さ、Eは、縦弾性定数、Iは、断面2次モーメント(I=dw3/12)をそれぞれ示す。
【0097】
振動アームの厚さをd、幅をw、断面積A=d×wとすると、式(2)が得られる。
【0098】
F=f0(1−FS1/2 (2)
ただし、式(2)において、式(3)、式(4)を用いている:
S=12(K/E)(L/w)2 (3)
σ=F/(2A) (4)
以上から、外力Fと共振周波数fFの関係は以下のようになる。即ち、3軸角速度検出振動子2に作用する外力Fを圧縮方向の時が負、伸張方向(引張り方向)の時を正とすると、外力Fが圧縮力では共振周波数fFが低くなり、外力Fが伸張(引張り)力では共振周波数fFが高くなる。また、応力感度FSは、振動アームのL/wの2乗に比例する。
【0099】
上記の外力Fと共振周波数fFとの関係を利用して、3軸角速度検出装置4は、3軸角速度検出振動子2に加わったz軸方向の加速度を検出できる。更に、3軸角速度検出装置4は、振動アーム11〜14が駆動振動している定常状態において3軸角速度検出振動子2に加わるz軸方向を回転軸とする回転の角速度ωを検出することができる。
【0100】
さらに、上記の外力Fと共振周波数fFとの関係を利用して、3軸角速度検出装置4は、3軸角速度検出振動子2に加わったx(y)軸方向の加速度を検出できる。更に、3軸角速度検出装置4は、振動アーム11〜14が駆動振動している定常状態において3軸角速度検出振動子2に加わるx(y)軸方向を回転軸とする回転の角速度ωを検出することができる。
【0101】
本発明の第1の実施の形態に係る3軸角速度検出装置4によれば、3軸角速度検出振動子2に加わる3軸角速度と、3軸角速度検出振動子2に3軸方向に加わる加速度とを検出することができる。このため、角速度を検出する部品と加速度を検出する部品をそれぞれ用意する必要がなく、検出装置の部品を減らすことができる。
【0102】
第1の実施の形態の変形例によれば、振動アーム11〜14および検出アーム21〜24にスリットSを有することから、第1の実施の形態に比べて更に検出感度が優れ、1つの振動子で、コリオリ力を利用して3軸方向の角速度を検出可能な3軸角速度検出振動子、3軸角速度検出装置および3軸角速度検出システムを提供することができる。
【0103】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明は第1の実施の形態およびその変形例によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0104】
既に述べた第1の実施の形態およびその変形例の説明においては、第1印加電極101と第2印加電極102間及び検知電極201と検知電極202間において下部電極301と圧電体膜302が分離している例を示した。しかし、第1印加電極101と第2印加電極102間や検知電極201と検知電極202間において下部電極301や圧電体膜302が連続していてもよい。対向する電極間の難エッチング物質である圧電体膜302を切断しないことにより、3軸角速度検出装置4を微細化することができる。
【0105】
さらに別の実施形態として、図21に示すように、検知電極201および検知電極202とは別の検知電極203を検知電極201と検知電極202の間に配置しても良い。この場合には、例えば、検知電極201および検知電極202は、図20で説明したように、z軸方向の動きを検知する検知電極として作用する。また、検知電極203は、図19で説明したように、x(y)軸方向の動きを検知する検知電極として作用する。このように、検知電極を分離することによって、検出後の信号処理が簡単化されるという利点がある。
【0106】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の3軸角速度検出装置は、角速度センサや、スチールカメラ、ビデオカメラの手ぶれ補正用角速度センサ、カーナビゲーション用角度センサ、モーションセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0108】
1…3軸角速度検出システム
2…3軸角速度検出振動子
4…3軸角速度検出装置
11,12,13,14…振動アーム
21,22,23,24…検出アーム
31,32,33,34…連結部
40…基板
40a,40c…シリコン膜
41、42、40b…酸化シリコン膜
45…保護膜
50…空洞
71,72,73,74…振動参照電極
101…第1印加電極
102…第2印加電極
111,112,121,122,131,132,141,142…駆動電極
201,202,203…検知電極
211,221,231,241…検出電極
301、311…下部電極
302、312…圧電体膜
303、313…上部電極
600…検出回路
610…駆動回路
620…検知回路
621、622…電流アンプ
623…差動アンプ
630…検波回路
631…同期検波
632…平滑回路
640…振動量検出回路
641…電流アンプ
642…AGC
650…周波数カウンタ
ω…角速度
F…振動信号
T…検知信号
S41、S42…検出信号
S…スリット
Vd…駆動電圧
Vr…参照電圧
f1,f2,f3,f4,fz…コリオリ力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正方形状に配置された4本の振動アームと、
前記正方形状の頂点より対角線方向に伸びた4本の検出アームと
を備え、前記4本の振動アームの振動によって生じる前記4本の検出アームの形状の歪みを検知して、前記4本の振動アームに加わった3軸角速度を検出することを特徴とする3軸角速度検出振動子。
【請求項2】
前記振動アームの振動する面に垂直な軸を回転軸として前記振動アームが回転した場合に、前記回転軸の軸方向及び前記駆動振動方向と垂直方向に働くコリオリ力により発生する前記振動アームの検出振動が前記検出アームに伝達して生じる前記検出アームの形状の歪みを検出することを特徴とする請求項1に記載の3軸角速度検出振動子。
【請求項3】
前記振動アームの長軸方向を回転軸として前記振動アームが回転した場合に、前記振動アームの振動する面に垂直方向に働くコリオリ力により発生する前記振動アームの検出振動が前記検出アームに伝達して生じる前記検出アームの形状の歪みを検出することを特徴とする請求項1に記載の3軸角速度検出振動子。
【請求項4】
前記4本の振動アームは、第1振動アームと、前記第1振動アームの端部と第1連結部を介して直角に連結された第2振動アームと、前記第2振動アームの端部と第2連結部を介して直角に連結され、前記第1振動アームに対向して配置された第3振動アームと、前記第3振動アームの端部と第3連結部を介して直角に連結され、かつ前記第1振動アームの他方の端部と第4連結部を介して直角に連結され、前記第2振動アームに対向して配置された第4振動アームとを備えることを特徴とする請求項1に記載の3軸角速度検出振動子。
【請求項5】
前記4本の検出アームは、前記第1連結部に一方の端部が接続された第1検出アームと、前記第2連結部に一方の端部が接続された第2検出アームと、前記第3連結部に一方の端部が接続された第3検出アームと、前記第4連結部に一方の端部が接続された第4検出アームとを備えることを特徴とする請求項2に記載の3軸角速度検出振動子。
【請求項6】
前記振動アーム及び前記検出アームが、圧電体膜を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の3軸角速度検出振動子。
【請求項7】
前記圧電体膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜又はランタンドープジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)膜であることを特徴とする請求項6に記載の3軸角速度検出振動子。
【請求項8】
空洞を有する基板と、
正方形状に配置された4本の振動アームと、
一方の端部が前記正方形状の頂点より対角線方向に伸び、他方の端部が前記基板の前記空洞を囲む周辺部に固定された4本の検出アームと
を備え、前記4本の振動アームの振動によって生じる前記4本の検出アームの形状の歪みを検知して、前記4本の振動アームに加わった3軸角速度を検出することを特徴とする3軸角速度検出装置。
【請求項9】
前記振動アームの振動する面に垂直な軸を回転軸として前記振動アームが回転した場合に、前記回転軸の軸方向及び前記駆動振動方向と垂直方向に働くコリオリ力により発生する前記振動アームの検出振動が前記検出アームに伝達して生じる前記検出アームの形状の歪みを検出することを特徴とする請求項8に記載の3軸角速度検出装置。
【請求項10】
前記振動アームの長軸方向を回転軸として前記振動アームが回転した場合に、前記振動アームの振動する面に垂直方向に働くコリオリ力により発生する前記振動アームの検出振動が前記検出アームに伝達して生じる前記検出アームの形状の歪みを検出することを特徴とする請求項8に記載の3軸角速度検出装置。
【請求項11】
前記4本の振動アームは、第1振動アームと、前記第1振動アームの端部と第1連結部を介して直角に連結された第2振動アームと、前記第2振動アームの端部と第2連結部を介して直角に連結され、前記第1振動アームに対向して配置された第3振動アームと、前記第3振動アームの端部と第3連結部を介して直角に連結され、かつ前記第1振動アームの他方の端部と第4連結部を介して直角に連結され、前記第2振動アームに対向して配置された第4振動アームとを備えることを特徴とする請求項8に記載の3軸角速度検出装置。
【請求項12】
前記4本の検出アームは、前記第1連結部に一方の端部が接続された第1検出アームと、前記第2連結部に一方の端部が接続された第2検出アームと、前記第3連結部に一方の端部が接続された第3検出アームと、前記第4連結部に一方の端部が接続された第4検出アームとを備えることを特徴とする請求項11に記載の3軸角速度検出装置。
【請求項13】
前記振動アーム及び前記検出アームが、圧電体膜を有することを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の3軸角速度検出装置。
【請求項14】
前記圧電体膜がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)膜又はランタンドープジルコン酸チタン酸鉛(PLZT)膜であることを特徴とする請求項13に記載の3軸角速度検出装置。
【請求項15】
空洞を有する基板と、
正方形状に配置された4本の振動アームと、
一方の端部が前記正方形状の頂点より対角線方向に伸び、他方の端部が前記基板の前記空洞を囲む周辺部に固定された4本の検出アームと、
前記4本の振動アームの振動によって生じる前記4本の検出アームの形状の歪みを検知して、前記4本の振動アームに加わった3軸角速度を検出する検出回路と
を備えることを特徴とする3軸角速度検出システム。
【請求項16】
前記検出回路が、前記振動アームの振動する面に垂直な軸を回転軸として前記振動アームが回転した場合に、前記回転軸の軸方向及び前記駆動振動方向と垂直方向に働くコリオリ力により発生する前記振動アームの検出振動が前記検出アームに伝達して生じる前記検出アームの形状の歪みを検出することを特徴とする請求項15に記載の3軸角速度検出システム。
【請求項17】
前記検出回路が、前記振動アームの長軸方向を回転軸として前記振動アームが回転した場合に、前記振動アームの振動する面に垂直方向に働くコリオリ力により発生する前記振動アームの検出振動が前記検出アームに伝達して生じる前記検出アームの形状の歪みを検出することを特徴とする請求項15に記載の3軸角速度検出システム。
【請求項18】
前記検出回路が出力する駆動電圧によって、前記振動アームが前記駆動振動方向に沿って振動することを特徴とする請求項15〜17のいずれか1項に記載の3軸角速度検出システム。
【請求項19】
前記4本の振動アームは、第1振動アームと、前記第1振動アームの端部と第1連結部を介して直角に連結された第2振動アームと、前記第2振動アームの端部と第2連結部を介して直角に連結され、前記第1振動アームに対向して配置された第3振動アームと、前記第3振動アームの端部と第3連結部を介して直角に連結され、かつ前記第1振動アームの他方の端部と第4連結部を介して直角に連結され、前記第2振動アームに対向して配置された第4振動アームとを備えることを特徴とする請求項15に記載の3軸角速度検出システム。
【請求項20】
前記4本の検出アームは、前記第1連結部に一方の端部が接続された第1検出アームと、前記第2連結部に一方の端部が接続された第2検出アームと、前記第3連結部に一方の端部が接続された第3検出アームと、前記第4連結部に一方の端部が接続された第4検出アームとを備えることを特徴とする請求項19に記載の3軸角速度検出システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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