説明

3Dマイクロスケールの人工組織モデルシステム

少なくとも1つの3次元多孔質足場と、該多孔質足場へのマイクロ流体チャネル入口と、該多孔質足場からのマイクロ流体チャネル出口とを有する、ポリマーチップ。一実施形態においては、ポリマーチップは、2つの3次元多孔質足場を有し、一方の足場は、肝細胞を備え、他方の足場は、癌細胞を備える。チップは、多臓器組織モデルシステムとして使用することができる。上記ポリマーチップは、該チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は、該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への参照)
本願は、2006年9月28日に出願された仮出願第60/848,263号の利益を主張し、この仮出願はその全体が本明細書において参照により援用される。
【0002】
(政府認可の権利の声明)
本発明は、米国国立科学財団により付与された契約番号第0348767号の下、政府支援によって行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
創薬および薬剤開発は、毒性および効能に基づき化合物をスクリーニングするための複雑なプロセスである。潜在的薬剤が特定されると、一連の生体外および生体内試験が行われる。ほとんどの生体外試験は、ペトリ皿または試験管内での細胞培養を使用して行われる。生体外試験の後、動物モデルを使用して生体内試験が行われる。
【0004】
動物モデルは、創薬および薬剤開発において広範囲に使用されている。しかし、薬剤検査のための動物の使用は費用を要する。さらに、ヒトと動物とでは代謝システムが異なるため、動物試験はたびたび不正確で誤りやすい結果をもたらす。動物に対し効果的な薬剤でも、ヒトに対しては効果的でない場合がある。一方、不適切な動物種の選択により、良好な化合物が排除されてしまう可能性がある。したがって、コスト効率が良く、ヒトにおける化合物の活性、吸収、および排出の正確な予測を提供する、薬剤スクリーニングモデルシステムの必要性がある。
【0005】
化合物に対するヒトの反応、安全性、および効能を予測するための動物モデルの使用における不正確性は、動物からヒトへの外挿には危険性があることを示す。薬剤候補の安全性は、臨床試験に認可され得る前に実験動物において広範囲に試験される。動物モデルからヒトへの外挿はほとんどの患者に対して有効であるが、一人一人のばらつきが、異なる患者における反応差を生じ得る。したがって、動物からヒトへの外挿の危険性を最小化し、一人一人の患者レベルでの化合物活性および毒性のより正確な予測を提供する薬剤スクリーニングモデルシステムの必要性がある。
【0006】
現在、実験化合物がヒトに対し有毒な副作用を有するかを予測する、迅速で信頼性のある手法はない。1つの解決法は、複雑な環境およびヒトの臓器系の相互作用を模擬したモデルシステムの開発である。生体内で実験薬剤に生じることを模擬するために、ヒトおよび動物の臓器系をシミュレートするための、生細胞で裏打ちされたマイクロ流体システムが開発されている。公知の「シリコン製モルモット(silicon Guinea pig)」デバイスは、シリコンマイクロチップ上の生体模擬の試行を表している。臓器系および循環系をシミュレートする様々なチャンバおよびチャネルによって、シリコン製モルモットは、生きたモルモットの主要な臓器機能を有し、薬剤毒性試験に使用することができる。実験薬剤は、生細胞で裏打ちされた室を通過する模造血液に注入することができる。これらの室内で生じている化学反応を検出することにより、実験薬剤が実際のヒトに投与された場合に有毒作用を有するか予測することが可能である。
【0007】
同じ概念に従い、ヒト肝細胞のウイルス性感染症を研究するための肝臓の生理学的モデルが開発されている。このモデルの主要な構成要素は、シリコンウエハのディープ反応性イオンエッチングにより形成されたマイクロウェルのアレイである。ウェルアレイは、細胞保持フィルタと組み合わされ、アレイの最上部を横切りウェルを通過して連続的潅流液を送達するように設計された生物反応器筐体内に支持される。生物反応器の機能は、培地で比較的均一に潅流されたマイクロウェル内の多くの微小組織ユニットへの細胞の分配である。
【0008】
薬剤開発における必要性にもかかわらず、上述のマイクロデバイスはすべてシリコンベースであり、細胞培養のためのマイクロウェルおよびチャンバを有する。これらの種類の構造では、細胞はウェルまたはチャンバの底部および側壁を裏打ちして、真の3D(3次元)組織構造物の代わりに、2次元単層を形成する傾向がある。これらの2次元凝集体は、組織特定の機能を実行する正常な組織アーキテクチャを有さない可能性があり、したがって、その組織の正確なモデルシステムを提供しない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、3次元組織構造物を提供し、創薬および薬剤開発のための動物モデルの安価な代替物を提供するモデルシステムに対する必要性がある。本発明は、これらの必要性を満たし、さらなる関連した利点を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の概要)
この概要は、詳細な説明においてさらに後述される様々な概念を単純化された形式で紹介するために提供される。この概要は、請求される対象の主要な特徴を特定することを意図せず、また請求される対象の範囲を決定する上での補助として使用されることを意図しない。
【0011】
一側面において、本発明は、ポリマーチップを提供する。
【0012】
一実施形態においては、ポリマーチップは、チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと、を備える。表面は、多孔質足場の上部境界または下部境界のいずれかにより画定される領域となり得る。第1の多孔質足場は、肝細胞等の複数の第1の生細胞を有することができ、第2の多孔質足場は、癌細胞等の複数の第2の生細胞を有することができる。
【0013】
一実施形態においては、ポリマーチップは、チップ内の2つ以上の多孔質足場であって、各多孔質足場は第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、各多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、少なくとも1つの多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと、を備える。表面は、多孔質足場の上部境界または下部境界のいずれかにより画定される領域となり得る。第1の多孔質足場は、肝細胞等の複数の第1の生細胞を有することができ、第2の多孔質足場は、癌細胞等の複数の第2の生細胞を有することができる。
【0014】
第2のマイクロ流体出口チャネルは、各多孔質足場の上記第2の表面と流体接続され得る。あるいは、ポリマーチップは、第3のマイクロ流体出口チャネルをさらに備えることができ、該第3のマイクロ流体出口チャネルは、少なくとも1つの多孔質足場の上記第2の表面と流体接続する。
【0015】
一実施形態においては、ポリマーチップは、チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと、を備える。表面は、多孔質足場の上部境界または下部境界のいずれかにより画定される領域となり得る。第1の多孔質足場は、肝細胞等の複数の第1の生細胞を有することができ、第2の多孔質足場は、癌細胞等の複数の第2の生細胞を有することができる。
【0016】
一実施形態においては、ポリマーチップ上の少なくとも1つの足場は、ウェルを含む。ウェルを有する足場は、直立壁により囲まれた下部から形成されて中央に空洞を形成し得る。
【0017】
他の側面において、本発明は、化合物の活性をアッセイするための方法を提供する。
【0018】
一実施形態においては、方法は、(a)ポリマーチップであって、チップ内の第1の多孔質足場と、該第1の多孔質足場から分離された、チップ内の第2の多孔質足場と、該第1の多孔質足場を該第2の多孔質足場に接続する第1のマイクロ流体チャネルと、該第1の多孔質足場への第2のマイクロ流体チャネル入口と、該第2の多孔質足場からの第3のマイクロ流体チャネル出口と、を備えるポリマーチップを提供することと、(b)第1の細胞培養を提供するように、該第1の多孔質足場に複数の第1の生細胞を播種することと、(c)第2の細胞培養を提供するように、該第2の多孔質足場に複数の第2の生細胞を播種することと、(d)液体培地を提供するように、細胞培養液に化合物を溶解させることと、(e)アッセイ溶液を提供するように、該第2のマイクロ流体チャネル入口、該第1の細胞培養、該第1のマイクロ流体チャネル、該第2の細胞培養、および該第3のマイクロ流体チャネル出口を連続的に通して、液体培地を流動させることと、を含む。
【0019】
一実施形態においては、第1の細胞培養は肝細胞を備え、第2の細胞培養は癌細胞を備える。
【0020】
一実施形態においては、方法は、癌細胞に対する化合物の阻害活性を決定するために、第2の細胞培養を分析することをさらに含む。一実施形態においては、方法は、アッセイ溶液を分析することをさらに含む。
【0021】
一実施形態においては、方法は、(a)ポリマーチップであって、チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと、を備えるポリマーチップを提供することと、(b)細胞培養を提供するように、該多孔質足場に複数の生細胞を播種することと、(c)液体培地を提供するように、細胞培養液に化合物を溶解させることと、(d)アッセイ溶液を提供するように、該第1のマイクロ流体入口チャネル、該細胞培養、および該第2のマイクロ流体出口チャネルを通して、該液体培地を流動させることとを含む。
【0022】
細胞培養は、肝細胞、癌細胞、または間質細胞および癌細胞の両方を含むことができる。
【0023】
上述の実施形態において、足場は、3次元構造を形成する微小セル細孔を含む。細孔は、約50μmから約200μmの平均直径を有することができる。細孔は、相互接続された開放セル型の細孔であってもよい。2つ以上の足場が提供される場合、各足場は同様の、または同じ細孔径を有することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
本発明の上記の側面および付随する利点の多くは、以下の詳細な説明を添付の図面と併せて参照することによってより良く理解されるため、より容易に理解されよう。
【図1】図1は、高密度超音波エネルギーによりポリマーチップ上に選択的に多孔質足場を生成するためのシステムの概略図である。
【図2】図2は、焦点式超音波デバイスの概略図である。
【図3】図3は、代表的なポリマーチップの概略図である。
【図4】図4は、血流をシミュレートするための潅流を有する肝臓代謝チップの概略設計を含む、本発明の一実施形態による代表的なポリマーチップの図である。
【図5A】図5Aおよび図5Bは、本発明の第2の実施形態による代表的なポリマーチップ、2臓器チップ設計の図であり、図5Aはチップの上面図、図5Bはチップの底面図である。
【図5B】図5Aおよび図5Bは、本発明の第2の実施形態による代表的なポリマーチップ、2臓器チップ設計の図であり、図5Aはチップの上面図、図5Bはチップの底面図である。
【図6A】図6A〜図6Eは、本発明の一実施形態による代表的なポリマーチップの製造プロセスの概略図である。
【図6B】図6A〜図6Eは、本発明の一実施形態による代表的なポリマーチップの製造プロセスの概略図である。
【図6C】図6A〜図6Eは、本発明の一実施形態による代表的なポリマーチップの製造プロセスの概略図である。
【図6D】図6A〜図6Eは、本発明の一実施形態による代表的なポリマーチップの製造プロセスの概略図である。
【図6E】図6A〜図6Eは、本発明の一実施形態による代表的なポリマーチップの製造プロセスの概略図である。
【図7】図7は、3次元細胞培養を形成するための代表的なポリマーチップの図である。
【図8】図8は、足場が培地中に浸され得るように培地が底部から流入される、図7に示されるポリマーチップの概略図である。
【図9A】図9A〜図9Cは、多孔質足場が異なる細孔径を有する、複数の多孔質足場を有する例示的なポリマーチップの図である。
【図9B】図9A〜図9Cは、多孔質足場が異なる細孔径を有する、複数の多孔質足場を有する例示的なポリマーチップの図である。
【図9C】図9A〜図9Cは、多孔質足場が異なる細孔径を有する、複数の多孔質足場を有する例示的なポリマーチップの図である。
【図10A】図10Aおよび図10Bは、細胞の生存を決定するための、ポリ(メチルメタクリレート)足場上の生きた/死んだ平滑筋細胞の染色の結果を示す図であり、図10Aは、平均細孔直径が200μmである多孔質足場での染色結果を示し、図10Bは、平均細孔直径が70μmの多孔質足場での染色結果を示す。
【図10B】図10Aおよび図10Bは、細胞の生存を決定するための、ポリ(メチルメタクリレート)足場上の生きた/死んだ平滑筋細胞の染色の結果を示す図であり、図10Aは、平均細孔直径が200μmである多孔質足場での染色結果を示し、図10Bは、平均細孔直径が70μmの多孔質足場での染色結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(発明の詳細な説明)
図1には、本発明のポリマーチップを作製するために使用することができる、高密度焦点式超音波(HIFU)システム100が示されている。システム100は、電力増幅器102に接続された高密度焦点式超音波トランスデューサ104を含む。図2を参照すると、高密度焦点式超音波トランスデューサ104の概略拡大図が示されている。高密度焦点式超音波トランスデューサ104は、集束焦点ゾーン126に超音波エネルギーを集束する凹状表面を有する焦点基板122を含む。高密度焦点式超音波トランスデューサ104の焦点距離は、「f」で示される。焦点面は「r」で示される。好ましくは、ポリマーチップに超音波エネルギーが照射された時に、ポリマーチップは焦点ゾーン126の任意の場所に位置する。高密度焦点式超音波トランスデューサ104は、焦点面が位置決めシステム106の平行移動ステージを目標とすることができるように集束可能な、密度超音波またはエネルギーを生成する。位置決めシステム106は、平行移動ステージを3次元に移動させる手段を含む。それらの方向は、焦点面内のxおよびy方向、ならびに焦点面の前後のz方向である。ガス含浸ポリマーチップ108bが、トランスデューサ104の焦点面の、またはその近くの平行移動ステージに、またはその上に設置される。ポリマーチップ108bは、高密度焦点式超音波トランスデューサ104の目標領域にある。理解されるように、ポリマーチップ108b上のいかなる場所も、高密度焦点式超音波トランスデューサ104により生成される超音波エネルギーに曝され得るように、ポリマーチップ108bを、x、y、およびz方向に移動させることができる。高密度焦点式超音波エネルギーは、ポリマーチップ108bの表面上に、または、ポリマーチップ108bの内部でかつチップ内のいかなる厚さ部分にも集束することができる。高密度焦点式超音波トランスデューサ104およびポリマーチップ108bは、超音波伝播用蒸留水のタンク110内に位置する。高密度焦点式超音波トランスデューサ104は、高密度焦点式超音波トランスデューサ104に接続された支持アーム112により固定される。電力増幅器102はコンピュータ114に接続され、それにより制御される。コンピュータ114は、パーソナルコンピュータデバイス、サーバベースコンピュータデバイス、小型およびメインフレームコンピュータ、ラップトップ、またはメモリの一種を有する他の電子デバイスを含むがこれらに限定されない、広範なデバイスのうちの任意の1つであり得る。コンピュータ114は、すべて通信バスにより互いに通信接続される、プロセッサ、メモリ、コンピュータ読み取り可能媒体ドライブ(例えば、ディスクドライブ、ハードドライブ、CD−ROM/DVD−ROM等)を含むことができる。コンピュータ114はまた、ディスプレイと、マウスやキーボード等の1つ以上のユーザ入力デバイスとを含むことができる。システム100を稼動するためのアプリケーションは、コンピュータ114のメモリに格納することができる。アプリケーションは、コンピュータ114により実行されるプログラムモジュール等、コンピュータで実行可能な命令に関連して説明することができる。そのようなアプリケーションは、高密度焦点式超音波トランスデューサ104に伝えられる電力増幅器102からの電力量を制御するために、また、位置決めシステム106の動きを制御することにより、高密度焦点式超音波トランスデューサ104の焦点面または焦点と相対的なポリマーチップ108bの位置を制御するために、使用することができる。この目的のために、コンピュータ114はまた、位置決めシステム106に接続され、それにより該システムと通信する。コンピュータ114は、ポリマーチップ108bがxy平面内のいずれの方向にも、またいかなる速度でも移動することを許可するコマンドを、位置決めシステム106に発行することができる。さらに、コンピュータ114は、高密度焦点式超音波トランスデューサ104の焦点面内、または焦点面の前方もしくは後方となるようにポリマーチップ108bを移動させるために、ポリマーチップ108bをz方向に移動させるコマンドを、位置決めシステム106に発行することができる。
【0026】
ガス飽和システム116は、圧力容器120と接続されたガスシリンダ118を含む。圧力容器120はガスを受け、圧力容器120の内部でのガス圧を制御する圧力調整手段を含むことができる。圧力容器120はまた、所与の圧力での時間を追跡するタイミング手段を含んでもよい。圧力容器120は、ポリマーチップ108aを所与の時間、および所与の圧力で保持するために使用することができる。ガス飽和システム116は、ポリマーチップ108aにガスを含浸させるために使用される。一実施形態においては、ポリマーチップ108aに含浸させるために使用される圧力は、室温で2MPaから10MPaの範囲となり得る。さらに、圧力容器120は、ポリマーチップ108aからガスを脱着させるために、大気に開放されてもよい。一度ポリマーチップ108aがガスシリンダ118からのガスで含浸されたら、ポリマーチップ108aは、ガスで完全に飽和されても、部分的に飽和されてもよい。ポリマーチップ108aに対し、さらに大気圧で所与の期間ガスの脱着を施してもよい。これは、ポリマーチップ108aの部分飽和に望ましいガス濃度を達成するより迅速な方法を可能にする。例えば、ポリマーチップ108aは、高圧で完全に飽和するまでガスで含浸することができる。その後、圧力容器120を大気に開放してポリマーチップ108aにガスを脱着させ、完全飽和より低い飽和レベルにすることができる。これは、最初により低圧でポリマーチップ108aにガスを含浸させる手法と比較して、ポリマーチップ108aにおけるより迅速な低いガス濃度レベルを達成する。圧力容器120から、ポリマーチップ108aを位置決めシステム106のアームに搬送し、高密度焦点式超音波エネルギーを照射してポリマーチップ108b内に局所的多孔質足場を形成することができる。ポリマーチップ108bの1つ以上の領域に高密度焦点式超音波エネルギーを照射して、多孔質足場の1つ以上の局所的および分離した領域を形成してもよい。多孔質足場は、ポリマーチップ108bと同じ材料から形成され、それと同じ材料であり、ポリマーチップ108bの内部または表面上にあってもよい。さらに、位置決めシステム106を制御することにより、1つ以上の多孔質足場を望ましいいかなる構成でもチップ上に配置することができる。これにより、同じポリマーチップ108b内で互いから分離および相異なることができる多孔質足場の形成が可能となる。これは、ポリマーチップ108bが位置決めシステム106の平行移動ステージに装着されるため可能であり、またさらに、コンピュータ114は、ポリマーチップ108b上の任意の所望位置における選択的な発泡を可能とするために、高密度超音波エネルギーの照射の開始および停止を制御することができる。さらに、多孔質足場における細孔の細孔直径に影響する1つ以上の変数を制御し、細孔が相互接続された開放セル型の細孔であることを確実とすることが可能である。これらの変数は、圧力容器120内のガス圧の制御、圧力下のガスにポリマーチップ108aが曝露される時間の制御、ガス含浸後にポリマーチップ108aにガスを脱着させる時間の制御、高密度焦点式超音波トランスデューサ104の電力の制御、超音波エネルギーの集束ビームと相対的に移動されるポリマーチップ108bの速度の制御、および焦点面または焦点と相対的なポリマーチップ108の距離の制御を含むが、これらに限定されない。相互接続された開放セル型の細孔を生成するために、方法は、3〜5重量%のガス濃度を有するポリマーチップを提供するステップを含む。この濃度は、平衡に達する前にポリマーチップ108aを圧力容器120から除去することにより得ることができるか、あるいは、ポリマーチップ108aを完全に飽和させ、次いで所望の部分飽和およびガス濃度を達成するためにガスを脱着させることができる。
【0027】
本発明の一実施形態によるマイクロセル細孔を有する足場を作製する方法は、ポリマーチップ108にガスを含浸させ、次に高密度焦点式超音波エネルギーをガス含浸チップに施すステップを含む。ガス含浸ステップにおいて、ポリマーチップ108aは、窒素または二酸化炭素等の不活性ガスが充填された高圧容器120に設置される。時間をかけて、チップ108aがガス含浸されるようにガス分子はポリマーチップ108aに溶出する。ガス圧および含浸時間(チップ108aが圧力容器120内に残る時間)によって、含浸ポリマーチップ108a内の最終ガス濃度を制御することができる。続くステップにおいて、ガス含浸ポリマーチップ108aは、圧力容器から取り出されて、高密度焦点式超音波トランスデューサ104による超音波照射のために、コンピュータ制御XYZステージ上に取り付けられる。超音波または超音波エネルギーにより誘発される加熱および爆縮の効果に起因して、ガス含浸ポリマーチップ108bは熱力学的に不安定となり、相分離を起こしてマイクロセル細孔を有する足場を生成する。
【0028】
高密度焦点式超音波ポリマー発泡効果は、高密度焦点式超音波加熱、および高密度焦点式超音波キャビテーションという、2つの超音波に関連したプロセスに基づき生じる。ポリマーチップが超音波照射下にあると、音波伝播の間、音響エネルギーがポリマーマトリックス中に蓄積(またはそれにより吸収)される。音響エネルギー散逸量は、例えば減衰係数および超音波振動数等、材料および音波の特性に依存し、一方で超音波加熱効果をもたらす。加熱効果に加え、高密度焦点式超音波は、粘性流体におけるキャビテーション効果を有する。高密度焦点式超音波キャビテーションは、(a)局所的な音圧がある圧力閾値を超え、そして(b)キャビテーション核として機能する媒体中の小さな空洞の存在という条件下で、音圧の負のサイクル中に生じる。
【0029】
図3を参照すると、多孔質足場130の単一の局所的領域を有するポリマーチップ180bの概略図が示されている。しかし、ポリマーチップ108bは、130等の任意の数の多孔質発泡領域を有することができる。本明細書に記載の選択的発泡方法を使用して、マイクロセル多孔質足場130の局所的領域を、ポリマーチップ180bのいかなる場所内または場所上にも形成することができる。記載される選択的高密度焦点式超音波法を使用して、側部に1mmという小さい領域を生成することができる。さらに、足場130がポリマーチップ180bから形成されるように、ポリマーチップ180bおよび多孔質足場130は同じモノリシック材料である。足場130は、50μmから200μmの平均直径を有する細孔を含む。細孔の平均直径Dは、以下のように計算される。
【0030】
【数1】

式中、Aはi番目の細孔の面積であり、Nは、発泡領域の断面の走査型電子顕微鏡(SEM)画像から測定される細孔の総数である。ポリマーチップ108bは、ポリ(乳酸)、ポリ(乳酸−コ−グリコール酸)、ポリ(メチルメタクリレート)、またはポリスチレン等であるがこれらに限定されない、熱可塑性ポリマーである。これらのポリマーは、生体適合性または生体分解性の材料であり、多くの医療または生物学的用途に有用である。
【0031】
上述のシステム100および方法は、以下にさらに説明されるポリマーチップにおいて多孔質足場を作製するために使用することができる。
【0032】
したがって、一側面において、本出願は、化合物の活性をアッセイするためのポリマーチップを提供する。
【0033】
一実施形態においては、ポリマーチップは、チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場を含む。例えば、図4および8に示されるように、第1の表面は、多孔質足場の境界により画定される上部表面または下部表面全体であってもよく、第2の表面は、第1の表面とは反対側にあり、また多孔質足場の境界により画定される。多孔質足場は、第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、多孔質足場の第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルを有する。多孔質足場は、第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、多孔質足場の第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルを有する。
【0034】
ポリマーチップは、1つ以上の多孔質足場を有することができる。一実施形態においては、ポリマーチップは、複数の多孔質足場を有することができる。チップ内の多孔質足場は、マイクロ流体入口チャネルを共有してもよい。さらに、チップ内の多孔質足場は、マイクロ流体出口チャネルを共有してもよい。あるいは、1つ以上の多孔質足場は、別個の各自のマイクロ流体出口チャネルを有してもよい。
【0035】
一実施形態においては、本発明のポリマーチップは、第1の多孔質足場と、該第1の多孔質足場から分離された、チップ内の第2の多孔質足場とを含む。第1の多孔質足場は、第1のマイクロ流体チャネルを通して第2の多孔質足場に接続される。チップは、第1の多孔質足場への第2のマイクロ流体チャネル入口と、第2の多孔質足場からの第3のマイクロ流体チャネル出口とを有する。
【0036】
本発明の実施形態は、創薬および薬剤開発のための3次元マイクロスケール培養組織モデルシステムとして使用可能なポリマーチップ、および該チップを作製および使用するための方法に関する。例えば、制癌剤選択に関しては、本明細書に記載の3次元組織モデルシステムの使用には、(1)3次元組織モデルは、生体内での癌の進行をより良好に模擬し、したがって腫瘍−間質相互作用および腫瘍−細胞外基質(ECM)相互作用の研究を可能にし、また(2)3次元組織モデルは、生体内腫瘍モデルの使用および薬剤選択試験のための動物の使用を低減する、という2つの利点が存在し得る。
【0037】
生体内での癌の進行は、間質細胞および細胞外基質(ECM)を含む、宿主および腫瘍の微小環境により変調することができることが十分確立されている。例えば、間質細胞は、良性上皮細胞を悪性細胞に変換し得ることが判明した。ECMは、腫瘍形成に影響することが判明した。両方の現象は、3次元組織においてのみ観察され得る。3次元培養において成長する細胞は、単一層の細胞よりも細胞毒性薬に対する耐性が高いことの証拠が増えてきている。したがって、3次元組織モデルは、癌細胞の元の成長特性のより良好なシミュレーションであり、生体内の腫瘍の真の薬剤感受性をより良好に反映する。
【0038】
創薬および薬剤開発に加え、本明細書に記載の3次元組織モデルはまた、基礎研究および臨床研究において有用である。例えば、3次元組織モデルは、腫瘍形成のメカニズムの研究に使用することができる。大規模遺伝学研究への適性がより低い動物モデルとは異なり、3次元組織モデルは、研究者が、遺伝子操作を行うことも、遺伝子が引き起こす一部の生物学的変化を観察することも可能とする。さらに、3次元組織モデルは、胚幹細胞の造血分化の効能を研究するために使用することができる。
【0039】
具体的には、本明細書に記載のポリマーチップの実施形態は、生細胞の真の生物学的環境をシミュレートするために、1つ以上の3次元多孔質足場と、接続するマイクロ流体チャネルとを有する。多孔質足場は、組織特定のアーキテクチャおよび機能が維持され得るように、様々な種類の細胞の3次元細胞培養を可能とする。
【0040】
本発明のポリマーチップを製造するために、いかなる好適なポリマー材料をも使用することができる。材料は、生体分解性であっても非生体分解性であってもよい。材料は、好ましくは生体適合性材料であり得る。本発明において有用な代表的材料は、(PMMA)ポリ(メチルメタクリレート)、(PLA)ポリスチレン、ポリ(乳酸)、および(PLGA)poly(lactic−co−glycolic acid)を含む。
【0041】
一実施形態においては、ポリマーチップの多孔質足場は、約50μmから約200μmの細孔径を有する。一実施形態においては、ポリマーチップの多孔質足場は、約70μmから約200μmの細孔径を有する。一実施形態においては、ポリマーチップの多孔質足場は、約100μmから約200μmの細孔径を有する。単一のチップ内の任意の2つ以上の多孔質足場の平均細孔直径は、同じであっても異なっていてもよい。
【0042】
多孔質足場は、細胞培養足場として使用可能である。したがって、多孔質足場は、生細胞を含むことができる。一実施形態においては、第1の多孔質足場は複数の第1の生細胞を備え、第2の多孔質足場は複数の第2の生細胞を備える。第1の多孔質足場で培養される生細胞は、第2の多孔質足場で培養される生細胞と同じであっても異なっていてもよい。一実施形態においては、第1の多孔質足場は肝細胞を備え、第2の多孔質足場は癌細胞を備える。
【0043】
図4は、本発明の代表的なポリマーチップ、肝臓および癌の2臓器組織モデルシステムを模擬した3次元組織モデルシステムの一実施形態を示す。
【0044】
肝臓代謝は、個々の患者レベルでの薬剤反応において重要な役割を果たすことが十分確立されている。ヒトチトクロームP450アイソエンザイム(CYPs)の活性は、治療効力、安全性、および薬剤反応の個人間の変動性の決定に重大な因子である。したがって、薬剤開発プロセスにおいては、肝臓内での薬物代謝の変動性を慎重に考慮する必要がある。臨床試験においては、極めて急速な広範囲にわたる薬物代謝活性を示す患者の部分母集団もあれば、一方低い代謝活性を示す集団も存在することがしばしばある(例えばCYP2C8およびCYP3A4遺伝子型により)。したがって、制癌剤に対する肝臓代謝効果を研究するには、肝臓および癌の生理学的環境を模擬した2臓器モデルシステムが有用である。
【0045】
図4に示されるように、3次元組織モデルシステム200は、互いから分離され相異なる第1の多孔質足場205および第2の多孔質足場210を有する。各多孔質足場は、相互接続された開放セル型の細孔を有する多孔質領域を含む。各多孔質足場は、非多孔質ポリマー材料が結合する境界を画定する。2つの多孔質足場205および210は、その下の第1のマイクロ流体チャネル220と接続される。チャネル220は、各多孔質足場の下部表面を互いに接続する。第2のマイクロ流体チャネル入口230は、第1の多孔質足場205にのみ接続される。第3のマイクロ流体チャネル出口240は、第2の多孔質足場210にのみ接続される。さらに、3次元組織モデルシステムは、それぞれ各多孔質足場の上部表面および下部表面を覆うが、マイクロ流体チャネルとして機能する通路を許容する、上部カバープレート250および底部カバープレート260を有する。
【0046】
図5は、多孔質足場205および210を有する3次元組織モデルシステム200の上面図および底面図である。
【0047】
血流を介した薬剤の送達および薬剤反応に対する肝臓代謝の効果を模擬するために、3次元組織モデルシステム200は、2つの3次元組織足場、多孔質足場205および210を、成長する肝細胞および癌細胞に別個に接続する、230、220、および240を含む循環マイクロ流体チャネルを有する。
【0048】
播種の間、肝細胞および癌細胞は、2つの多孔質足場205および210に、入口230および出口240から別個に注入することができる。細胞は、足場の表面に付着させるために24時間放置される。細胞付着後、培地での潅流を開始して細胞の成長および増殖を促進する。潅流の間、流入培地を、入口230から多孔質足場205の上部表面上に注入する。培地は多孔質足場205の厚みを通して流動し、下部表面から多孔質足場205を出て、マイクロ流体チャネル220に流入する。次に、培地はチャネル220から多孔質足場210内に流入し、上部表面を出てマイクロ流体チャネル240に流入する。細胞型に依存して、3日から5日の細胞培養後に、薬剤を同様に送達することができる。細胞培養は、インキュベータ内で行われる。蠕動ポンプを使用して潅流を提供することができる。
【0049】
3次元組織モデルシステム200等のポリマーチップは、費用を要する臨床試験と置き換えるか、またはその必要性を低減するという利点を有する。さらに、システムは、抗癌剤療法の改善および個人化、すなわち個人の薬剤用量の選択を可能にする。例えば、3次元組織モデルシステムによって、臨床医学者は、特定のCYP遺伝子型を有する人々に対し、最善の薬剤用量を選択することができる。さらに、このシステムは、抗癌剤の投薬計画の組み合わせにおいて、薬剤間相互作用を予測するために使用することができる。
【0050】
図6A〜Eは、ポリマーチップ200の製造プロセスを概略的に示す。図6Aは、ポリ(メチルメタクリレート)チップを示す。まず、ポリ(メチルメタクリレート)チップは、選択的に発泡されて、図6Bに示されるように、同じチップ内に制御された細孔径の2つの別個の相異なる多孔質足場205および210を形成する。細孔は、好ましくは、ポリマーチップ200を部分的に飽和し、高密度超音波エネルギーを部分的に飽和したポリマーチップ上に適用することにより作製された、相互接続された開放セル型の細孔である。次いで、マイクロミリングを行って多孔質足場を成形し、図6Cに示されるように、接続するマイクロ流体チャネルを構築する。図5Aおよび5Bにおいて最もよく分かるように、マイクロミリングは、各多孔性足場の各上部および下部表面を取り囲むウェルを生成し、各ウェルは、多孔質足場の直径よりも大きい直径を有する。マイクロミリング後、細胞保持膜280および290、ならびに底部カバープレート260がポリマーチップに接合される。細胞保持膜280および290は、多孔質足場205および210に接合される。細胞保持膜は、栄養物は通過させるが細胞は通過させない。保持膜は、細胞がマイクロ流体チャネルの底部に落ちずに足場表面に付着するように、3次元多孔質足場が十分長い間内部に細胞を保持するかどうかに依存して、必要な場合も必要でない場合もある。
【0051】
底部カバープレート260および上部カバープレート250は、両面接着アクリル系テープでポリマーチップに接合することができる。保持膜280および290、マイクロ流体チャネル入口管270、およびマイクロ流体チャネル出口管275は、アクリル系接着剤で接合することができる。保持膜280および290を多孔質足場205および210に接着する際、足場および膜の両方の中心で細孔を密封することを避けるために、接着剤を縁部に塗布してもよい。あるいは、拡散接合を使用して保持膜を接着することができる。
【0052】
ポリマーチップは、単回使用後に破棄することができる。したがって、3次元多孔質足場における細胞の付着および成長を評価するために破壊的な分割を行うことができる。
【0053】
他の実施形態において、ポリマーチップは、チップ内の2つ以上の多孔質足場を含んでもよい。各多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含む。第1の表面は、第2の表面とは反対側にある。第1のマイクロ流体入口チャネルは、第1のマイクロ流体入口チャネルを介して各多孔質足場の前記第1の表面と流体接続する。第2のマイクロ流体出口チャネルは、第2のマイクロ流体出口チャネルを介して、少なくとも1つの多孔質足場の第2の表面と流体接続する。
【0054】
ポリマーチップ内の多孔質足場は、共通のマイクロ流体チャネル出口を共有するか、もしくは個々のマイクロ流体チャネル出口を有することができ、または、一部の多孔質足場が共通のマイクロ流体チャネル出口を共有し、他が個々のマイクロ流体チャネル出口を有することができる。個々のマイクロ流体チャネル出口は、分析のための個々の多孔質足場からの流出流体の回収を可能とする。一実施形態においては、第2のマイクロ流体出口チャネルは、各多孔質足場の第2の表面と流体接続する。一実施形態においては、ポリマーチップは、第3のマイクロ流体出口チャネルであって、少なくとも1つの多孔質足場の第2の表面と流体接続する、第3のマイクロ流体出口チャネルをさらに備える。
【0055】
ポリマーチップの各多孔質足場は、約50μmから約200μmの平均細孔径を有する3次元体積を備える。各多孔質足場での細孔径は、異なってもよい。
【0056】
一実施形態においては、ポリマーチップの各多孔質足場は、生細胞を備える。
【0057】
代表的なポリマーチップ300を、図7に示す。多孔質足場302は、マイクロ流体チャネル304と接続され得る。多孔質足場上に生細胞を播種することができ、一方チャネルを介して栄養物を供給することができる。
【0058】
図8は、ポリマーチップの断面図を示す。ポリマーチップ300は、互いから分離され相異なる3つの多孔質足場310、320、および330を含有する。各多孔質足場は、下部表面および上部表面を含む。下部表面および上部表面のそれぞれは、多孔質足場の全領域にわたり延在する。第1のマイクロ流体入口チャネル340は、各多孔質足場の各下部表面と流体接続している。第2のマイクロ流体出口チャネル350は、各多孔質足場の各上部表面と流体接続している。多孔質足場310、320、および330のそれぞれが培地中に浸され得るように、細胞培地は下部表面から流入される。
【0059】
一実施形態においては、ポリマーチップ300は3つの相異なる多孔質足場を含む。最初の2つ310、320は、異なる細孔径を有し、細胞挙動に対する細孔径の効果を試験するために使用することができる。第3の多孔質足場330は、ウェル335を含み、異なる細胞の共培養に使用することができる。一実施形態においては、ポリマーチップ上の少なくとも1つの足場は、ウェルを含む。ウェルを有する足場は、直立壁により囲まれた下部から形成されて中央に空洞を形成し得る。例えば、ウェルの外層には間質細胞を播種することができ、ウェルの内部中心には癌細胞を播種することができる。このモデルは、間質−癌細胞相互作用ならびに薬物透過および耐性の研究に使用することができる。
【0060】
一実施形態においては、チップ内の1つ以上の多孔質足場は、別個の各自のマイクロ流体チャネルを有することができ、これは、分析のための個々の多孔質足場からの流体試料の回収を可能とする。
【0061】
本発明のポリマーチップ内の多孔質足場は、選択的高密度焦点式超音波(HIFU)システムおよび上述の方法を使用して形成することができる。選択的HIFUプロセスは、制御された細孔径を有する、ポリマーチップの設計された場所での多孔質構造を形成する。選択的発泡技術は、高密度焦点式超音波を使用してガス含浸ポリマーを選択的に加熱および爆縮し、好適な足場を形成する多孔質構造を生成する。元となるポリマー検体は、まず、高圧不活性ガスが充填された圧力容器内に装填される。時間をかけてガス分子がポリマーマトリックス中に溶出し、過飽和ポリマー試料を生成する。平衡ガス濃度に達した後、容器から試料を取り出し、超音波照射のためにHIFU発泡システムに装填する。
【0062】
理論により制限されることを望まないが、ガス飽和ポリマーのHIFU照射の間、発泡プロセスに寄与し得る2つのメカニズムが存在すると考えられる。1つは、飽和に起因してポリマーマトリックス内に極めて多く存在するガス分子により促進される、超音波キャビテーション効果である。2つ目は、ポリマーマトリックスの温度を上げる超音波加熱効果である。高温に曝されると、飽和ポリマー試料は熱力学的に不安定となり、相分離を起こす。その結果、ガスバブルが形成され、したがってポリマーの発泡が生じる。両方のメカニズムが、飽和ポリマーの急速かつ効果的なHIFU発泡をもたらす。
【0063】
複数の多孔質足場を有する例示的なポリマーチップを、図9A、9B、および9Cに示す。図9Cは、ポリマーチップの概要を示す。図9Aおよび9Bは、チップ上の多孔質足場が異なる細孔径を有することを示している。
【0064】
多孔質足場は、設計された形状を形成するために、マイクロミリングプロセスを使用することにより機械加工することができる。マイクロミリングプロセスは通常の機械的ミリングプロセスであるが、ただし位置決めの正確性、スピンドルの逃げの誤差、およびミルカッターの大きさがすべて従来のミリング機械よりも大幅に小さい。マイクロミリングプロセスは、発泡領域、すなわち多孔質足場を接続するミクロ孔およびチャネルを形成するために使用される。このように、異なる組織または器官が関与する複雑な生物学的システムをシミュレートすることができる。
【0065】
他の側面において、本発明は、化合物の活性をアッセイするための方法を提供する。
【0066】
一実施形態においては、方法は、ポリマーチップを提供するステップを含む。チップは、第1の多孔質足場と、該第1の多孔質足場から分離された、チップ内の第2の多孔質足場とを含む。第1の多孔質足場は、第1のマイクロ流体チャネルを通して第2の多孔質足場に接続される。チップは、第1の多孔質足場への第2のマイクロ流体チャネル入口と、第2の多孔質足場からの第3のマイクロ流体チャネル出口とを有する。第1の細胞培養を提供するように、複数の第1の生細胞が第1の多孔質足場に播種される。第2の細胞培養を提供するように、複数の第2の生細胞が第2の多孔質足場に播種される。液体培地を提供するように、化合物が細胞培養液に溶解される。アッセイ溶液を提供するように、第2のマイクロ流体チャネル入口、第1の細胞培養、第1のマイクロ流体チャネル、第2の細胞培養、および第3のマイクロ流体チャネル出口を連続的に通して、液体培地が流動される。
【0067】
一実施形態においては、第1の細胞培養は肝細胞を備え、第2の細胞培養は癌細胞を備える。
【0068】
一実施形態においては、本発明の方法は、癌細胞に対する化合物の阻害活性を決定するために、第2の細胞培養を分析するステップをさらに含む。
【0069】
一実施形態においては、本発明の方法は、アッセイ溶液を分析するステップをさらに含む。
【0070】
別の実施形態においては、方法は、ポリマーチップを提供するステップを含む。チップは、チップ内に少なくとも1つの多孔質足場を含む。多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含む。第1の表面は、第2の表面とは反対側にある。第1のマイクロ流体入口チャネルは、多孔質足場の第1の表面と流体接続する。第2のマイクロ流体出口チャネルは、多孔質足場の第2の表面と流体接続する。細胞培養を提供するように、複数の生細胞が多孔質足場に播種される。液体培地を提供するように、化合物が細胞培養液に溶解される。アッセイ溶液を提供するように、第1のマイクロ流体入口チャネル、細胞培養、および第2のマイクロ流体出口チャネルを通して、液体培地が流動される。
【0071】
一実施形態においては、細胞培養は肝細胞を備える。一実施形態においては、細胞培養は癌細胞を備える。一実施形態においては、細胞培養は間質細胞および癌細胞の両方を備える。
【0072】
一実施形態においては、方法は、細胞に対する化合物の阻害活性を決定するために、細胞培養を分析するステップをさらに含む。
【0073】
別の実施形態においては、方法は、ポリマーチップを提供するステップを含む。チップは、2つ以上の多孔質足場を含む。各多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含む。第1の表面は、第2の表面とは反対側にある。第1のマイクロ流体入口チャネルは、各多孔質足場の第1の表面と流体接続する。第2のマイクロ流体出口チャネルは、少なくとも1つの多孔質足場の第2の表面と流体接続する。第2のマイクロ流体出口チャネルは、各多孔質足場の上記第2の表面と流体接続され得る。チップは、少なくとも1つの多孔質足場の第2の表面と流体接続する、第3のマイクロ流体出口チャネルをさらに含んでもよい。
【0074】
細胞培養を提供するように、生細胞を多孔質足場に播種することができる。2つ以上の多孔質足場は、同じかまたは異なる生細胞を含み得る。第1の細胞培養を提供するように、複数の第1の生細胞が第1の多孔質足場に播種される。第2の細胞培養を提供するように、複数の第2の生細胞が第2の多孔質足場に播種される。液体培地を提供するように、化合物が細胞培養液に溶解される。1つ以上のアッセイ溶液を提供するように、細胞培養もしくは第2のマイクロ流体出力チャネルを通ると同時に、または、該当する場合は第3のマイクロ流体出力チャネルを通ると同時に、液体培地が第1のマイクロ流体入口チャネルを通して流動される。
【実施例】
【0075】
製造した多孔質足場を使用して、細胞培養試験を行った。細胞反応および細胞成長挙動に対するその効果を実証するために、細胞培養試験用に異なる細孔径(70μmおよび200μm)を有する足場を選択した。4代継代のヒト大動脈(SMC)平滑筋細胞を液体窒素から取り出し、完全なコンフルエンスに達するまでT75フラスコ内に継代する。製造した多孔質ポリ(メチルメタクリレート)検体をUV光の下で15分間滅菌し、次いでウシ胎仔血清で一晩インキュベートした。それぞれ1つのポリ(メチルメタクリレート)検体を含有する12ウェルプレートに、約75,000細胞を播種した。Dulbecco’s Modified Eagle Medium(DMEM)内で細胞を5日間培養し、次いで移行および生存能力試験のための生/死染色用に処理した。図10Aおよび10Bは、多孔質足場上の平滑筋細胞の生/死染色結果を示す。生細胞は、灰色と白色のスポットで示される。円410および420は、多孔質ポリマーの細孔に対応し、円400は生細胞に対応する。
【0076】
細胞は、多孔質足場上で生存していた。これは、選択的超音波発泡プロセスの生体適合性を示す。さらに、大きい細孔では、より小さい細孔の場合と比較して、細胞の形態が異なっていた。図10Aに示される200μmの細孔では、細胞は細孔の壁に位置する傾向があり、一方図10Bに示される70μmの細孔では、細胞は細孔の縁部に付着してより分散する傾向があった。したがって、細孔径の選択により、細胞成長の挙動を操作することができる。
【0077】
例示的な実施形態を図示し説明したが、本発明の精神および範囲から逸脱しない範囲で様々な変更を行うことができることが理解される。
【0078】
独占的権利または特権が請求される本発明の実施形態を以下のように定義する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーチップであって、
該チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は、該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、
第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、
第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと
を備える、ポリマーチップ。
【請求項2】
各表面は、前記多孔質足場の上部境界または下部境界のいずれかにより画定される領域である、請求項1に記載のポリマーチップ。
【請求項3】
前記第1の多孔質足場は、約50μmから約200μmの細孔径を有する、請求項1に記載のポリマーチップ。
【請求項4】
前記第2の多孔質足場は、約50μmから約200μmの細孔径を有する、請求項1に記載のポリマーチップ。
【請求項5】
前記第1の多孔質足場は、複数の第1の生細胞を備え、前記第2の多孔質足場は、複数の第2の生細胞を備える、請求項1に記載のポリマーチップ。
【請求項6】
前記第1の多孔質足場は、肝細胞を備え、前記第2の多孔質足場は、癌細胞を備える、請求項1に記載のポリマーチップ。
【請求項7】
前記チップは、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ(乳酸)、またはポリ(乳酸/グリコール酸)を備える、請求項1に記載のポリマーチップ。
【請求項8】
ポリマーチップであって、
該チップ内の2つ以上の多孔質足場であって、各多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は、該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、
第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、各多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、
第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、少なくとも1つの多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと
を備える、ポリマーチップ。
【請求項9】
前記第2のマイクロ流体出口チャネルは、各多孔質足場の前記第2の表面と流体接続する、請求項8に記載のポリマーチップ。
【請求項10】
第3のマイクロ流体出口チャネルをさらに備え、該第3のマイクロ流体出口チャネルは、少なくとも1つの多孔質足場の前記第2の表面と流体接続する、請求項8に記載のポリマーチップ。
【請求項11】
各多孔質足場は、約50μmから約200μmの平均径を有する細孔を備える3次元体積を備える、請求項8に記載のポリマーチップ。
【請求項12】
各多孔質足場は、生細胞を備える、請求項8に記載のポリマーチップ。
【請求項13】
ポリマーチップであって、
該チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は、該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、
第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、
第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと
を備える、ポリマーチップ。
【請求項14】
少なくとも1つの足場は、ウェルを含む、請求項13に記載のポリマーチップ。
【請求項15】
直立壁により囲まれた底面を有する空洞を伴う足場を備える、請求項13に記載のポリマーチップ。
【請求項16】
化合物の活性をアッセイするための方法であって、
(a)ポリマーチップを提供することであって、該ポリマーチップは、
該チップ内の第1の多孔質足場と、
該第1の多孔質足場から分離された、該チップ内の第2の多孔質足場と、
該第1の多孔質足場を該第2の多孔質足場に接続する、第1のマイクロ流体チャネルと、
該第1の多孔質足場への第2のマイクロ流体チャネル入口と、
該第2の多孔質足場からの第3のマイクロ流体チャネル出口と
を備える、ことと、
(b)第1の細胞培養を提供するように、該第1の多孔質足場に複数の第1の生細胞を播種することと、
(c)第2の細胞培養を提供するように、該第2の多孔質足場に複数の第2の生細胞を播種することと、
(d)液体培地を提供するように、細胞培養液に化合物を溶解させることと、
(e)アッセイ溶液を提供するように、該第2のマイクロ流体チャネル入口、該第1の細胞培養、該第1のマイクロ流体チャネル、該第2の細胞培養、および該第3のマイクロ流体チャネル出口を連続的に通して、該液体培地を流動させることと
を含む、方法。
【請求項17】
前記第1の細胞培養は、肝細胞を備え、前記第2の細胞培養は、癌細胞を備える、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記癌細胞における前記化合物の阻害活性を決定するように、前記第2の細胞培養を分析することをさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記アッセイ溶液を分析することをさらに含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
化合物の活性をアッセイするための方法であって、
(a)ポリマーチップを提供することであって、該ポリマーチップは、
該チップ内の少なくとも1つの多孔質足場であって、該多孔質足場は、第1の表面および第2の表面を含み、該第1の表面は、該第2の表面とは反対側にある、多孔質足場と、
第1のマイクロ流体入口チャネルであって、該第1のマイクロ流体入口チャネルは、該多孔質足場の該第1の表面と流体接続する、第1のマイクロ流体入口チャネルと、
第2のマイクロ流体出口チャネルであって、該第2のマイクロ流体出口チャネルは、該多孔質足場の該第2の表面と流体接続する、第2のマイクロ流体出口チャネルと
を備える、ことと、
(b)細胞培養を提供するように、該多孔質足場に複数の生細胞を播種することと、
(c)液体培地を提供するように、細胞培養液に化合物を溶解させることと、
(d)アッセイ溶液を提供するように、該第1のマイクロ流体入口チャネル、該細胞培養、および該第2のマイクロ流体出口チャネルを通して、該液体培地を流動させることと
を含む、方法。
【請求項21】
前記細胞培養は、肝細胞を備える、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記細胞培養は、癌細胞を備える、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記第1の細胞培養は、間質細胞および癌細胞の両方を備える、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞における前記化合物の阻害活性を決定するように、前記細胞培養を分析することをさらに含む、請求項20に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図7】
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【図8】
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【図9A−9C】
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【図10A】
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【図10B】
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【公表番号】特表2010−505393(P2010−505393A)
【公表日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530655(P2009−530655)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/079979
【国際公開番号】WO2008/040015
【国際公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【出願人】(502457803)ユニヴァーシティ オブ ワシントン (93)
【Fターム(参考)】