説明

4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法

【課題】医薬品等の合成中間体として有用な4−ハロフェニルアルキルスルホンを工業的に有利な簡便な方法で高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】フェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させて、式(2);


(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4−ハロフェニルアルキルスルフィドを得て、引き続き、酸化剤と反応させる式(3);


で表される4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、種々の医薬品用途に用いられる製造用中間体として有用な4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法としては、例えば、下式に示すように、ブロモベンゼンとメタンスルホニルクロライドとを塩化アルミニウム存在下で反応させて4−ブロモフェニルメチルスルホンを得る方法(非特許文献1)が知られている。
【0003】
【化1】

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 75,5032(1953)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1の方法は、56%と収率が低く、かつアルミニウム廃水が生じるため環境面で問題がある。
【0006】
また、下式に示すように、チオアニソールと臭素とを反応させた後、晶析して4−ブロモチオアニソールを得る方法(国際公開第01/070680号パンフレット)や、
【0007】
【化2】

【0008】
チオアニソールをテトラ−n−ブチルアンモニウムオキソン(TBA−OX)で酸化してフェニルメチルスルホンを得る方法(J. Org. Chem. 53,532(1988))
【0009】
【化3】

【0010】
が知られており、例えば、これらの方法を組み合わせて、チオアニソールと臭素とを反応させた後、晶析により精製して、4−ブロモチオアニソールを得た後、酸化して4−ブロモフェニルチオアニソールを得る方法が考えられる。しかしながら、当該方法によると、4−ブロモチオアニソールを単離した後、酸化して4−ブロモフェニルメチルスルホンを得て、再度、単離する必要があるため、処理工程が多くなり、工業的に有利でなく、高収率が得られにくくなるものと想定される。
【0011】
本発明は、4−ハロフェニルアルキルスルホンを簡便に、かつ高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、以下に示す通りの4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法に関する。
即ち、式(1);
【0013】
【化4】

【0014】
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で表されるフェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させて式(2);
【0015】
【化5】

【0016】
(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4−ハロフェニルアルキルスルフィドを得て、引き続き、酸化剤と反応させる式(3);
【0017】
【化6】

【0018】
(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Xは式(2)におけるXと同じハロゲン原子を示す。)で表される4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法に関する。
【0019】
以下本発明を詳細に説明する。本発明に用いられるフェニルアルキルスルフィドは前記式(1)で表される。
【0020】
式(1)において、Rで示される炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基およびsec−ブチル基等が挙げられる。
【0021】
フェニルアルキルスルフィドの具体例としては、例えば、チオアニソール、フェニルエチルスルフィド、フェニルプロピルスルフィド、フェニル(n−ブチル)スルフィドおよびフェニル(sec−ブチル)スルフィド等が挙げられる。中でも、医薬品としての有用性の観点から、チオアニソールであることが好ましい。
【0022】
本発明に用いられるハロゲンとしては、例えば、臭素、塩素、フッ素およびヨウ素が挙げられる。中でも、反応性および安全性の観点から、臭素であることが好ましい。
【0023】
前記ハロゲンの使用割合は、フェニルアルキルスルフィド1モルに対して、0.5〜2.0モルであることが好ましく、0.5〜1.5モルであることがより好ましく、0.5〜1.4モルであることがさらに好ましい。ハロゲンの使用割合が、0.5モル未満の場合、反応が完結せず収率が低下するおそれがあり、2.0モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的に有利でない。
【0024】
本発明において、フェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、ルイス酸触媒の存在下でフェニルアルキルスルフィドにハロゲンを添加して反応させる方法を挙げることができる。
【0025】
前記ルイス酸触媒としては、特に限定されず、例えば、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、鉄、塩化マグネシウムおよび塩化サマリウム等が挙げられる。中でも、経済的な観点から、塩化鉄(III)、塩化アルミニウムおよび三フッ化ホウ素が好適に用いられる。
【0026】
前記ルイス酸触媒の使用割合は、フェニルアルキルスルフィド1モルに対して、0.00001〜0.05モルであることが好ましく、0.00005〜0.02モルであることがより好ましい。ルイス酸触媒の使用割合が、0.00001モル未満の場合、触媒の効果が不十分になるおそれがあり、0.05モルを超える場合、使用割合に見合う効果がなく経済的に有利でない。
【0027】
前記フェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させる反応温度は、−50〜200℃であることが好ましく、−10〜100℃であることがより好ましい。反応温度が−50℃未満の場合、反応速度が遅く反応に長時間を要するおそれがあり、200℃を超える場合、副反応が起こり収率が低下するおそれがある。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、0.5〜20時間である。
【0028】
前記反応においては、無溶媒で反応させてもよいが、必要に応じて溶媒を用いてもよい。
【0029】
溶媒としては、特に限定されず、例えば、ヘキサン、シクロヘキサンおよびヘプタン等の炭化水素類、ジクロロメタン、ジクロロエタンおよびクロロホルム等のハロゲン化炭化水素類、並びに、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンおよびトリクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類等が挙げられる。
【0030】
前記溶媒を使用する場合の使用量は、特に限定されず、例えば、フェニルアルキルスルフィド100重量部に対して、10〜1000重量部であることが好ましい。前記溶媒の使用量が1000重量部を超える場合、容積効率が悪化するおそれがある。
【0031】
本発明において前記式(3)で表される4−ハロフェニルアルキルスルホンは、フェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させて前記式(2)で表される4−ハロフェニルアルキルスルフィドを得て、これを単離することなく、引き続き、酸化剤と反応させることにより製造することができる。
【0032】
4−ハロフェニルアルキルスルフィドの具体例としては、例えば、4−ブロモフェニルメチルスルフィド、4−ブロモフェニルエチルスルフィド、4−ブロモフェニルプロピルスルフィド、4−ブロモフェニル(n−ブチル)スルフィドおよび4−ブロモフェニル(sec−ブチル)スルフィドが挙げられる。
【0033】
前記酸化剤としては、特に限定されず、例えば、過次亜塩素酸塩、有機過酸化物、過カルボン酸類、過酸化水素および分子状酸素等が挙げられる。中でも、経済的な観点から過酸化水素が好適に用いられる。
【0034】
前記酸化剤の使用割合は、フェニルアルキルスルフィド1モルに対して、1.5〜4.0モルであることが好ましく、1.8.0〜3.0モルであることがより好ましく、2.0〜2.5モルであることがさらに好ましい。酸化剤の使用割合が1.5モル未満の場合、反応が完結せず収率が低下するおそれがあり、4.0モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的に有利でない。
【0035】
前記4−ハロフェニルアルキルスルフィドと酸化剤とを反応させる方法は、特に限定されるものではないが、例えば、酸存在下に酸化用触媒を用いて反応させる方法が好適である。
【0036】
前記酸としては、特に限定されず、例えば、硫酸、塩酸、硝酸および酢酸等が挙げられる。
【0037】
前記酸化用触媒としては、特に限定されず、例えば、周期律表第6族金属であるタングステン、クロムおよびモリブデン等の金属を成分とする化合物が挙げられる。具体的には、例えば、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物およびタングステン酸ナトリウム二水和物等のタングステン化合物、クロム酸、三酸化クロム、三硫化クロム、六塩化クロム、リンクロム酸、クロム酸アンモニウム、クロム酸カリウム二水和物およびクロム酸ナトリウム二水和物等のクロム化合物、並びにモリブデン酸、三酸化モリブデン、三硫化モリブデン、六塩化モリブデン、リンモリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム二水和物およびモリブデン酸ナトリウム二水和物等のモリブテン化合物等を挙げることができる。中でも、タングステン酸ナトリウム二水和物が好適に用いられる。
【0038】
前記酸化用触媒の使用割合は、フェニルアルキルスルフィド1モルに対して、0.00001〜0.05モルであることが好ましく、0.00005〜0.02モルであることがより好ましい。酸化用触媒の使用割合が、0.00001モル未満の場合、触媒の効果が不十分になるおそれがあり、0.05モルを超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的に有利でない。
【0039】
前記4−ハロフェニルアルキルスルフィドと、酸化剤とを反応させる反応温度は、−50〜200℃であることが好ましく、−10〜100℃であることがより好ましい。反応温度が−50℃未満の場合、反応速度が遅く反応に長時間を要するおそれがあり、200℃を超える場合、酸化剤が分解するおそれがある。反応時間は、反応温度により異なるが、通常、0.5〜20時間である。
【0040】
かくして得られるハロフェニルアルキルスルホンは、例えば、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウムおよび亜硫酸鉄等の亜硫酸塩等を用いて過剰の酸化剤を還元したのち、分取した有機層を晶析することにより単離することができる。このようにハロフェニルアルキルスルホンを含む反応物を晶析することにより、4−ハロフェニルアルキルスルホンから、副生成物である2−ハロフェニルアルキルスルホン、2−ハロフェニルアルキルスルホキシドおよび4−ハロフェニルアルキルスルホキシド等を分離し、高収率で4−ハロフェニルアルキルスルホンを得ることができる。
【0041】
本発明における4−ハロフェニルアルキルスルホンの具体例としては、例えば、4−ブロモフェニルメチルスルホン、4−ブロモフェニルエチルスルホン、4−ブロモフェニルプロピルスルホン、4−ブロモフェニル(n−ブチル)スルホンおよび4−ブロモフェニル(sec−ブチル)スルホン等が挙げられる。中でも、医薬品としての有用性の観点から、4−ブロモフェニルメチルスルホンであることが好ましい。
【0042】
本発明にかかる製造方法は、フェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させることにより得られる4−ハロフェニルアルキルスルフィドを単離することなく、引き続き、酸化剤と反応させるため、極めて安価で容易に4−ハロフェニルアルキルスルホンを得ることができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明によれば、例えば、医薬品等の合成中間体として有用な4−ハロフェニルアルキルスルホンを工業的に有利な簡便な方法で高収率で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0045】
実施例1
攪拌機、温度計、冷却管および滴下漏斗を備えた1L容の四つ口フラスコに、チオアニソール124.2g(1.00モル)、塩化鉄(III)0.8g(0.005モル)およびクロロベンゼン250gを仕込み、0℃に冷却保持して、攪拌しながら臭素160g(1.0モル)を10時間かけて滴下漏斗で滴下した。滴下後、さらに1時間反応させた。反応終了後、水50gを添加して有機層を分液して、粗4−ブロモチオアニソールの溶液を得た。得られた粗4−ブロモチオアニソールに、タングステン酸ナトリウム二水和物3.1g(0.01モル)、硫酸1.0g(0.01モル)を加え、50℃に昇温保持して攪拌しながら過酸化水素水261.1g(2.5モル)を滴下した。滴下後、さらに1時間反応させた。
【0046】
反応終了後、同温度にて有機層を分液し、得られた有機層に10重量%亜硫酸ナトリウム水溶液63.0g(0.05モル)を添加して有機層を分液し、得られた有機層を0℃まで冷却し、晶析した。晶析後、析出した結晶を濾別し、得られた結晶をクロロベンゼンとノルマルヘプタンの混合液で洗浄した後、乾燥して4−ブロモフェニルメチルスルホン(融点:103.7〜104.2℃)183.4を得た。得られた4−ブロモフェニルメチルスルホンの収率はチオアニソールに対して78%であった。得られた4−ブロモフェニルメチルスルホンの純度は、高速液体クロマトグラフィーで分析した結果、99.6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1);
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示す。)
で表されるフェニルアルキルスルフィドとハロゲンとを反応させて、式(2);
【化2】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Xはハロゲン原子を示す。)で表される4−ハロフェニルアルキルスルフィドを得て、引き続き、酸化剤と反応させる式(3);
【化3】

(式中、Rは式(1)におけるRと同じ基を示し、Xは式(2)におけるXと同じハロゲン原子を示す。)で表される4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法。
【請求項2】
式(1)で表されるフェニルアルキルスルフィドがチオアニソールであり、ハロゲンが臭素である請求項1に記載の4−ハロフェニルアルキルスルホンの製造方法。

【公開番号】特開2011−79766(P2011−79766A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232611(P2009−232611)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】