説明

4−ヒドロキシタモキシフェンを用いた良性乳房疾患の治療および予防

本発明は、4−ヒドロキシタモキシフェンを患者に投与することにより良性乳房疾患を治療および予防する方法を提供する。患者の乳房に経皮投与されると、4−ヒドロキシタモキシフェンは局所的に集中し、抗エストロゲン効果を発揮する。良性乳房疾患の患者では、この効果は疾患の緩解を引き起こす。乳癌になるリスクがある患者では、抗エストロゲン効果は、癌になる可能性がある良性乳房疾患の発症を予防する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4−ヒドロキシタモキシフェン(4−OHT)を用いた良性乳房疾患の治療および予防に関する。
【背景技術】
【0002】
良性乳房疾患は、乳房組織における発症頻度の高い非悪性のさまざまな異常を指す。これらの異常は、明確な組織学的特徴を有する非常に多くの病変を含み、増殖性または非増殖性に分類することができる。著名な例には、腺症、嚢胞、管拡張、線維腺腫、線維嚢胞症、線維症、過形成および化生が含まれる。良性乳房疾患はエストロゲンと関連があるため、罹患する個体群は主に閉経前の成人女性である。この個体群において、良性乳房疾患は出産および避妊を妨げることがあり、現在の治療の選択肢では患者の生活の質に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0003】
良性乳房疾患は、患者の健康に差し迫った脅威を与えることはめったにないが、持続性の情動不安および肉体的苦痛をしばしば引き起こす。特に、良性の病変は、これらを乳癌と区別するために組織学的に評価する必要がある。そのような評価は、費用がかかり、時間もかかり、しばしば侵襲性で(例えば、針吸引、生検および管洗浄の繰返し)、痛みがあって、患者に多大な情動ストレスを受けさせることになる。
【0004】
さらに、非常に多くの研究によって、良性乳房疾患の既往歴を有する女性は乳癌の危険性が高まることが実証されている(Dupont, 1985; Fitzgibbons, 1998; Carter, 1988; Krieger, 1992)。その危険性のレベルは良性病変の種類によって様々である。例えば、浸潤性乳癌の危険性は、線維腺腫では2.2倍に高まり、腺症では3.7倍に高まり、管異型では3.9倍に高まり、異型過形成では5.3倍に高まる(Dupont, 1985; Bodian, 1993; Dupont, 1994)。良性乳房疾患の存在が乳癌の家族歴と組み合わされた場合、乳癌を発症する危険性がさらに高まる。例えば、異型が乳癌の家族歴と組み合わされると、患者が乳癌を発症する危険性は11倍に高まる(Dupont, 1985)。
【0005】
乳癌薬、タモキシフェンを投与することにより、患者が良性乳房疾患を発症する危険性は有意に低減する(Tan-Chiu, 2003)。この点に関しては、タモキシフェンは、エストロゲン受容体に競合的に結合することによって作用し、それによって、エストロゲンが乳腺細胞に及ぼす影響を阻害する。全般的に見て、タモキシフェンは良性乳房疾患を発症する危険性を28%低減させるが、その低減率は疾患の種類によって様々である。ある最近の研究では、腺症で41%、嚢胞で34%、管拡張で28%、線維嚢胞症で33%、過形成で40%および化生で49%という統計的に有意な低減が報告された。50歳未満の女性については、タモキシフェンを投与することにより、乳房生検の必要性を41%低減した。このような低減の心理的および経済的な意味は非常に大きい。
【0006】
その利益にも関わらず、タモキシフェンは重大な欠点を有する。それの作用は、身体内の全てのエストロゲン受容体を有する細胞に影響を与える可能性があり、作働薬と拮抗薬の両方として、タモキシフェンは非常に広範囲の全身効果を誘発する。これらの効果は、子宮内膜癌および子宮内膜肉腫、子宮内膜増殖症およびポリープ、卵巣嚢腫、深部静脈血栓症および肺動脈塞栓症、肝臓酵素レベルにおける変化および肝脂肪症、高脂質血症、ならびに白内障などの眼毒性のリスクを高めるものである(Shushan, 1996; Nishino, 2003; Hoxumi, 1988)。経口のタモキシフェンの摂取は、治療を止めた2ヶ月後でも、妊娠を妨げ、ホルモン不妊法の使用をできなくする。さらに、経口タモキシフェン治療を受けた患者は、一過性熱感、膣帯下、抑鬱、無月経および吐き気があったと報告している(Ibis, 2002; Fentiman 1986, 1988, 1989)。
【0007】
従って、現在もなお、特に閉経前の個体群において、著しい有害な全身的な副作用を引き起こすことなく、良性乳房疾患を治療および予防する方法に対する強いニーズが存在する。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することにより良性乳房疾患を治療する方法を含む。この治療方法は、好ましくは局所的に実施され、経口タモキシフェンと比べて血漿薬物レベルが低くなる。
【0009】
本発明はまた、4−ヒドロキシタモキシフェンを投与することにより良性乳房疾患を予防する方法を含む。前記治療方法と同様に、予防方法も好ましくは局所的に実施される。
【0010】
予防または治療の目的のために、4−ヒドロキシタモキシフェンは、in vivoでエストロゲン受容体を有する細胞にその薬剤を送達させるどのような手段によっても投与することができる。前述のように、投与を経皮的に(局所的に)行って、4−ヒドロキシタモキシフェンの一次通過効果および関連する肝臓代謝を回避することが好ましい。経皮投与においては、4−ヒドロキシタモキシフェンはいずれの皮膚表面にも塗布することができる。4−ヒドロキシタモキシフェンは、経皮的に投与すると、エストロゲン受容体を有する局所皮下組織に集中する傾向があることから、乳房に塗布することが有利である。
【0011】
本発明を実施するのに、広範囲の局所的配合物が好適であるが、水性アルコール溶液および水性アルコールゲルが好ましい。これらの製剤における4−ヒドロキシタモキシフェンの濃度は変動し得るものであるが、用量は、エストロゲン誘発効果に有効に対抗する局所4−ヒドロキシタモキシフェン組織濃度を生じるものでなければならない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の重要な面は、経皮投与した場合に4−ヒドロキシタモキシフェンが良性乳房疾患の治療および予防の両方に有効であるという驚くべき発見である。さらに、経皮投与された4−ヒドロキシタモキシフェンによって、標準的用量の経口タモキシフェンと比較して血漿薬剤(4−OHT)レベルが低くなり、経口タモキシフェン摂取後に見られる他の代謝物質がほとんど無くなる。それはすなわち、有害な副作用が少ないということである(Lee, 2003)。従って、経皮4−ヒドロキシタモキシフェンは、この文脈において、治療と予防の両方でタモキシフェンの代替薬となる。
【0013】
化合物4−ヒドロキシタモキシフェン、すなわち1−[4−(2−N−ジメチルアミノエトキシ)フェニル]−1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニルブト−1−エンは、特性がよく分かっている抗エストロゲン化合物であるタモキシフェンの活性代謝物である。2個の炭素原子間に二重結合が存在することから、4−ヒドロキシタモキシフェンは2つの立体異性体の形態で存在する。医学文献および生化学文献によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンの異性体は一般に、シスおよびトランス異性体と称される。しかしながら、純粋に化学的な観点からすると、二重結合している炭素原子それぞれは同一の化学基を含まないので、この呼称は厳密には正確なものではない。従って、異性体をE(いわゆるシス型)およびZ(いわゆるトランス型)の配置と称する方がより適切である。本発明によれば、単独または組み合わせでの4−ヒドロキシタモキシフェンのE異性体およびZ異性体の両方が有用である。しかしながら、Z異性体の方がE異性体より活性が高いことから、Z異性体が好ましい。
【0014】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容組織に対する組織特異性を示す選択的エストロゲン受容体調節剤(SERM)として作用する。乳房組織では、それは、エストロゲン拮抗薬として機能する。4−ヒドロキシタモキシフェンが組織特異的活性に寄与する可能性があるエストロゲン関連受容体の転写活性を調節し得ることが研究から明らかになっている。in vitroにおいて、4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容体、すなわちERに対する結合アフィニティによる測定で、タモキシフェンより高い効力と、エストロゲン受容体に関してエストラジオールと同様の結合アフィニティを示す(Robertson et al., 1982; Kuiper et al., 1997)。Z−4−ヒドロキシタモキシフェンは、Z−タモキシフェンと比較して、正常ヒト上皮乳房細胞の培養での増殖を100倍阻害する(Malet et al., 1988)。
【0015】
4−ヒドロキシタモキシフェンはタモキシフェン代謝物であるが、良性乳房疾患に対してのそれの有用性は、タモキシフェン自体での以前の経験では予測されないものである。タモキシフェンは、図1に示すように、ヒトにおいて広範囲にわたって代謝される。従って、それのin vivoでの作用は、標的組織内における受容体の占有に関して競合する親化合物とそれの代謝化合物による個々の作用の正味の結果である。例えば、ジョーダンの報告(Jordan, 1982)を参照のこと。これらの各化合物は、各種細胞で多様かつ予測できない生物活性を示し、その一部は各化合物のエストロゲン受容体配座に対する個々の効果によって測定される。すなわち、各化合物のエストロゲン受容体結合により、特有の受容体−リガンド配座が生じ、それが各種補因子を召集することで、異なる化合物では薬理特性が変化することになる(Wijayaratne et al., 1999; Giambiagi et al., 1988)。
【0016】
これらの変化する効果の例がいくつか報告されている。例えば、タモキシフェンは強力なラット肝臓発癌物質であるが、4−ヒドロキシタモキシフェンはそうではない(Carthew et al., 2001; Sauvez et al., 1999)。さらに、伝えられるところによれば、タモキシフェンはp53(−)正常ヒト乳房上皮細胞でのアポプトシスを起こすが、4−ヒドロキシタモキシフェンはそうではない(Dietze et al., 2001)。対照的に、4−ヒドロキシタモキシフェンは乳癌細胞系でエストロンスルファターゼ活性に対する著しい阻害効果を示すが、一方、この点についてはタモキシフェンはほとんど、または全く効果がない(Chetrite et al., 1993)。
【0017】
4−ヒドロキシタモキシフェンの製造方法は、よく知られている。例えば、米国特許第4,919,937号には、Robertson and Katzenellenbogen, 1982 から導き出された合成が記載されている。その合成は、次の数段階で行われる。
【0018】
段階1 − 4−(β−ジメチルアミノエトキシ)−α−エチルデオキシベンゾインとp−(2−テトラヒドロピラニルオキシ)フェニルマグネシウムブロミドとの反応;
段階2 − 段階1とは別に、1,2−ジフェニル−1−ブタノンのヒドロキシル化による1−(4−ヒドロキシフェニル)−2−フェニル−1−ブタノンの形成;
段階3 − 段階1の生成物と段階2の生成物との反応による1−(4−ジメチルアミノエトキシフェニル)−1−[p−2−テトラヒドロピラニルオキシ)フェニル]−2−フェニルブタン−1−オールの形成;
段階4 − メタノール/塩酸を用いた脱水による、E異性体およびZ異性体の混合物である1−[p−(β−ジメチルアミノエトキシ)フェニル]−Z−1−(p−ヒドロキシフェニル)−2−フェニル−1−ブト−1−エン =4−OH−タモキシフェンの生成;
段階5 − 一定の比活性のためのクロマトグラフィーおよび結晶化によるE異性体およびZ異性体の分離。
【0019】
本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンを良性乳房疾患と診断された患者に投与することができる。本明細書において使用する場合、「良性乳房疾患」という用語は、乳房組織における非悪性のさまざまな異常を指す。この異常は、本質的に増殖性または非増殖性である。4−ヒドロキシタモキシフェンは、主に、エストロゲン受容体に作用することによってその効果を発揮すると考えられているので、これらの異常は、エストロゲンと関連している構成要素を含むことが好ましい。本方法によって治療可能な良性乳房疾患の具体例には、腺症、嚢胞、管拡張、線維腺腫、線維症、過形成、化生および他の線維嚢胞性変化が含まれる。これらの各疾患は、その有病率のために「変化(change)」または「状態(condition)」と呼ぶことが多く、明確な組織学的および臨床的特徴を有する。
【0020】
「腺症」は、広く見られる乳房の腺疾患を指す。一般的に、通常よりも多くの腺を含む乳腺小葉の膨張を伴う。「硬化性腺症」すなわち「線維化性腺症」では、膨張した小葉が瘢痕様の線維組織によって変形している。
【0021】
「嚢胞」は、流体または半固体の物質で満たされている異常な嚢であり、小葉構造から発生し、乳房上皮細胞で覆われている。これらは、乳腺内部の過剰な流体として始まるが、周囲の乳房組織を引っ張る大きさにまで成長し、痛みを引き起こすことがある。「線維性嚢胞」は、顕著な量の線維性結合組織で周囲が囲まれている、またはその内部に位置する嚢胞性の病変である。
【0022】
「管拡張」は、脂質残屑および細胞残屑による乳管の拡張を指す。管が破裂すると、顆粒球および形質細胞による浸潤が起こる。
【0023】
「線維腺腫」は、腺上皮から生じ、増殖性の線維芽細胞と結合組織の顕著な間質を含む良性腫瘍を指す。
【0024】
「線維症」は、単に乳房内の線維組織の隆起を指す。
【0025】
「過形成」は、細胞の異常増殖を指し、ここで、細胞のいくつかの層は、腫瘍を形成することなく、基底膜の内側を覆う。過形成によって、乳房組織の大きさが増大する。「上皮過形成」では、乳管および小葉の内側を覆う細胞が関係し、「乳管過形成」および「小葉過形成」という用語を生じさせる。組織学的決定に基づいて、過形成を「定型」または「非定型」とみなすことができる。
【0026】
「化生」は、ある種類の分化した組織が別の種類の分化した組織に変化する現象を指す。化生は環境の変化に起因することが多く、細胞がよりこの変化に耐えるのを可能にする。
【0027】
本発明はまた、4−ヒドロキシタモキシフェンを予防的に投与することを意図するものである。特に、乳癌になるリスクが高い患者において予防的に投与することは有効である。乳癌の多くの危険因子について、よく確認されている。例えば、乳癌の家族歴、乳癌の個人歴、過去の良性乳房疾患、および過去の乳房放射線照射はいずれも、患者を、乳癌発症リスクを高くする状態に置くものである。特定の遺伝的危険因子には、BRCA1、BRCA2、ATM、CHEK−2およびp53突然変異体などがある。女性における、ある種の生活様式に関連した危険因子には、30歳を超えた高齢出産、長期間の経口避妊薬の使用および長期間のホルモン置換療法の使用などがある。熟練の医師であれば、これらの危険因子および他の危険因子を評価して、患者が4−ヒドロキシタモキシフェンの予防的使用によって利益を得られるか否かを決定することができる。そのような評価をするにおいて、医師はゲイルモデル(Gail model)を用いることができる。
【0028】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、閉経前の女性において良性乳房疾患を予防するのに特に有用である。この個体群では、抗エストロゲンが多量の循環エストロゲンと競合して、エストロゲン受容体を占有するはずである。4−ヒドロキシタモキシフェンはタモキシフェンと比較してエストロゲン受容体に対して100倍の親和性を有することから、低用量で、より良好に受容体について競合することができる。低用量を用いることができるという点は、薬剤への患者の曝露が長期間であり、副作用の耐容性が比較的低い予防の状況において特に重要である。
【0029】
本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは、in vivoで活性化合物を乳房エストロゲン受容体に送達する、どのような剤形でも、およびどのような系を経てでも投与することができる。好ましくは、4−ヒドロキシタモキシフェンは「経皮投与」によって送達される。その表現は、患者の皮膚の表面から、角質層、表皮層および真皮層を通って、微小循環系に至る薬剤の送達方法すべてを意味する。それは典型的には、濃度勾配の下降に沿う拡散によって得られる。その拡散は、細胞内浸透(細胞を通って)、細胞間浸透(細胞間で)、経付属器浸透(毛嚢、汗および皮脂腺を通って)、またはそれらの任意の組合せを介して起こり得る。
【0030】
4−ヒドロキシタモキシフェンの経皮投与には、いくつか利点がある。第1に、それは、経口投与後に起こる肝臓代謝を回避するものである(Mauvais-Jarvis et al., 1986)。第2に、経皮投与は、全身薬剤曝露およびそれに伴う身体全体での非特異的なエストロゲン受容体の活性化によるリスクを大幅に低減させる。これは、局所4−ヒドロキシタモキシフェンが主として局所組織に吸収されるためである。特に、4−ヒドロキシタモキシフェンを乳房に経皮的に塗ると、おそらく多くのエストロゲン受容体が乳房組織内にあるために、高濃度が乳房組織に蓄積して、血漿濃度が高くならない(Mauvais-Jarvis et al., supra)。従って、本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンは任意の皮膚表面に塗布することができるが、好ましくは片方または両方の乳房に塗布する。
【0031】
本発明は特定の理論いずれにも拘束されるものではないが、抗エストロゲン剤が標的外の組織でエストラジオールに置き換わると、その薬剤の臨床的に重大な副作用が生じる。4−ヒドロキシタモキシフェンおよびエストラジオールはエストロゲン受容体に対して同様の結合アフィニティを有することから、受容体結合についてのそれらの間の競合は、各化合物の濃度が他方のものとほぼ同じである場合には、ほぼ同等であると考えられる。4−ヒドロキシタモキシフェン濃度がエストラジオール濃度より高い場合、前者の方が優先的にエストロゲン受容体に結合し、その逆もまた同様である。
【0032】
従って、約80pg/mL未満の血漿濃度または正常な閉経前の女性での平均エストラジオール濃度になる4−ヒドロキシタモキシフェンの用量が好ましい。より好ましくは、4−ヒドロキシタモキシフェンの用量は、約50pg/mL未満の血漿濃度になるものである。投与する1日用量は、最初に、4−ヒドロキシタモキシフェンの吸収係数、所望の乳房組織濃度、および超えてはならない血漿濃度に基づいて推定することができる。当然のことながら、初期用量は、個々の応答に応じて、各患者で最適化してもよい。
【0033】
上述のように、4−ヒドロキシタモキシフェンを乳房組織に向かわせることで、その組織で高濃度を達成しながら、同時にエストラジオール受容体に関する重大な全身的競合が起こるところまで4−ヒドロキシタモキシフェン血漿レベルが上昇しないようにすることができる。1mg/乳房/日の経皮用量で、乳房組織中の4−ヒドロキシタモキシフェン濃度は、乳房組織中の正常なエストラジオール濃度の4倍となる(Barrat et al., 1990; Pujol et al., supra)。さらに、このように塗布された4−ヒドロキシタモキシフェンは、乳房組織で、血漿中の濃度より一桁高い濃度、すなわち10:1の濃度に達する。それとは対照的に、タモキシフェンの経口投与後における4−ヒドロキシタモキシフェンの乳房組織/血漿の比率は、約5:1である。
【0034】
経皮製剤では、0.25〜2.0mg/乳房/日のオーダーの4−ヒドロキシタモキシフェンの用量によって所望の結果が得られるはずであり、約0.5〜1.0mg/乳房/日の用量が好ましい。特定の実施形態においては、4−ヒドロキシタモキシフェンの用量は、約0.25mg/乳房/日、0.5mg/乳房/日、0.75mg/乳房/日、1.0mg/乳房/日、1.5mg/乳房/日、または2.0mg/乳房/日である。
【0035】
経皮投与は、主として(i)治療活性化合物または無毒で薬剤として許容されるそれの塩と、好適な医薬担体および任意選択で浸透促進剤とを混合して、軟膏、乳濁液、ローション、液剤、クリーム、ゲルなどを形成し、その調剤薬の所定量を皮膚の特定の領域に塗布する、あるいは(ii)公知の技術に従って貼付剤または経皮投与系に治療活性物質を組み込むという2つの異なる方法で行うことができる。
【0036】
経皮薬剤投与の有効性は、薬剤濃度、塗布した表面積、塗布の時間および期間、過去の放射線照射、皮膚水和、皮膚温度、薬剤の物理化学的特性、ならびに調剤薬と皮膚の間の薬剤の分配などの多くの要素によって決まる。経皮での使用を意図した薬剤の製剤は、これらの要素を利用して、最適な送達を達成するものである。そのような製剤は、多くの場合、角質層の物理化学特性を可逆的に変えることにより角質層の抵抗を低下させることで、角質層の水化を変えることで、共溶媒として働くことで、あるいは細胞間の空間での脂質およびタンパク質の構成を変えることで経皮吸収を改善する浸透促進剤を含む。そのような経皮吸収の促進剤には、界面活性剤、DMSO、アルコール、アセトン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、脂肪酸または脂肪アルコール、およびそれらの誘導体、ヒドロキシ酸、ピロリドン類、尿素、精油、それらの混合物などがある。化学的促進剤以外に、物理的方法によって経皮吸収を増加させることができる。例えば、密封包帯によって皮膚の水分増加が誘発される。他の物理的方法にはイオン導入および超音波導入などがあり、それらはそれぞれ電場および高周波超音波を用いて、その大きさ及びイオン特性のためにほとんど吸収されない薬剤の吸収を高めるものである。
【0037】
経皮薬剤送達に関係する多くの要素および方法については、文献に総説がある(REMINGTON: THE SCIENCE AND PRACTICE OF PHARMACY, Alfonso R. Gennaro
(Lippincott Williams & Wilkins, 2000), pp.836-58; PERCUTANEOUS ABSORPTION:
DRUGS COSMETICS MECHANISMS METHODOLOGY, Bronaugh and Maibach (Marcel Dekker,
1999))。これらの刊行物が明らかにしているように、医薬分野での当業者は、各種の要素および方法を駆使して、有効な経皮送達を達成することができる。
【0038】
4−ヒドロキシタモキシフェンは、巨大で非常に親油性が高い分子である。このため、浸透促進剤の助けがなければ、それは皮膚にほとんど浸透しない。従って、本発明で用いられる4−ヒドロキシタモキシフェンの製剤は、好ましくは、1種以上の浸透促進剤を含む。4−ヒドロキシタモキシフェンはアルコールに可溶であることから、アルコールが好ましい促進剤である。ミリスチン酸イソプロピルも好ましい促進剤である。
【0039】
経皮投与のためには、4−ヒドロキシタモキシフェンは、軟膏、クリーム、ゲル、乳濁液(ローション)、散剤、オイルまたは同様の製剤で送達することができる。そのために、前記製剤は通常の賦形剤添加物を含むことができ、それには扁桃油、オリーブ油、桃仁油、落花生油、ヒマシ油などの植物性油、動物性油、DMSO、脂肪および脂肪様物質、ラノリンリポイド類、ホスファチド類、パラフィン類などの炭化水素類、ワセリン、ワックス類、洗剤乳化剤、レシチン、アルコール類、カロチン、グリセロール(すなわちグリセリン)などのポリオール類またはポリグリコール類、グリセロールエーテル類、グリコール類、グリコールエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、非揮発性脂肪アルコール類、酸類、エステル類、揮発性アルコール系化合物、尿素、タルク、セルロース誘導体、着色剤、酸化防止剤および防腐剤などがある。
【0040】
本発明によれば、4−ヒドロキシタモキシフェンはまた、経皮貼付剤を介して送達することもできる。一実施形態において、貼付剤は、4−ヒドロキシタモキシフェン製剤のための貯留部を有する。この貼付剤は、(a)溶液不透過性の裏材ホイル、(b)空洞部を有する層状様の要素、(c)微孔性膜または半透膜、(d)自己接着性層、および(e)任意選択で、取り外し可能な裏材フィルムを有することができる。空洞部を有する層状様の要素は、裏材ホイルと膜によって形成することができる。あるいは、この貼付剤は、(a)溶液不透過性の裏材ホイル、(b)貯留部としての開放孔発泡体、密閉孔発泡体、組織様層または繊維質のウェブ様層、(c)(b)の層が自己接着性でない場合には自己接着性層、および(d)任意選択で、取り外し可能な裏材フィルムを有することができる。
【0041】
本発明の好ましい実施形態においては、4−ヒドロキシタモキシフェンは水性アルコールゲル中に配合される。そのようなゲル中の4−ヒドロキシタモキシフェンの量は、ゲル100g当たり4−ヒドロキシタモキシフェンが約0.001g〜約1.0gの範囲とすることができる。好ましくは、ゲル100g当たり4−ヒドロキシタモキシフェンが約0.01g〜約0.20gの範囲である。従って、4−ヒドロキシタモキシフェンの量は、ゲル100g当たり約0.01g、0.02g、0.03g、0.04g、0.05g、0.06g、0.07g、0.08g、0.09g、0.10g、0.11g、0.12g、0.13g、0.14g、0.15g、0.16g、0.17g、0.18g、0.19gまたは0.20gとすることができる。
【0042】
4−ヒドロキシタモキシフェン製剤が浸透促進剤として1種以上の脂肪酸エステルを含むことも好ましい。脂肪酸エステル浸透促進剤の非常に好ましい一例は、ミリスチン酸イソプロピルである。ミリスチン酸イソプロピルをゲルで使用する場合、その量は、ゲル100g当たり約0.1g〜約5.0gの範囲とすることができる。好ましくは、ミリスチン酸イソプロピルの量は、ゲル100g当たり約0.5g〜約2.0gの範囲である。従って、ミリスチン酸イソプロピルの量は、ゲル100g当たり約0.5g、0.6g、0.7g、0.8g、0.9g、1.0g、1.1g、1.2g、1.3g、1.4g、1.5g、1.6g、1.7g、1.8g、1.9gまたは2.0gとすることができる。
【0043】
本発明の4−ヒドロキシタモキシフェン製剤は通常、1種以上のアルコール系媒体などの非水系媒体を含む。これらの媒体は、4−ヒドロキシタモキシフェンと使用される浸透促進剤のいずれも溶解できるものでなければならない。それらはまた、低い沸点、好ましくは大気圧下で100℃未満の沸点を有し、皮膚と接触した時に急速に蒸発できるものでなければならない。好適な非水系媒体の例には、エタノール、イソプロパノールおよび酢酸エチルなどがある。エタノールおよびイソプロパノールが好ましい。特に、エタノールは、皮膚と接触した時に急速に蒸発することにより、4−ヒドロキシタモキシフェンの経皮吸収に効果的に寄与する。ゲル製剤中の無水の非水系媒体の量は、通常、35重量%〜99.9重量%、好ましくは50重量%〜85重量%、より好ましくは60重量%〜75重量%の範囲である。従って、ゲル製剤中の無水の非水系媒体の量は、約60%、61%、62%、63%、64%、65%、66%、67%、68%、69%、70%、71%、72%、73%、74%または75%とすることができる。
【0044】
製剤はまた、製剤中の任意の親水性分子の可溶化を可能とし、さらに皮膚に潤いを与えるのを促進する水系媒体を含むこともできる。水系媒体はまた、pHを調節することができる。水系媒体には、アルカリ化および塩基性緩衝液などがあり、例えばリン酸緩衝液(例えば、リン酸二ナトリウムまたはリン酸一ナトリウム)、クエン酸緩衝液(例えば、クエン酸ナトリウムまたはクエン酸カリウム)および単なる純水がある。水系媒体の量は、好ましくは医薬組成物の0.1重量%〜65重量%、より好ましくは15重量%〜50重量%、さらに好ましくは25重量%〜40重量%の範囲である。従って、水系媒体の量は、約25%、26%、27%、28%、29%、30%、31%、32%、33%、34%、35%、36%、37%、38%、39%または40%とすることができる。製剤が水系媒体を含む場合、製剤中の無水アルコール媒体の量は、好ましくは約60%〜約75%である。
【0045】
さらに、4−ヒドロキシタモキシフェン製剤は、製剤の粘度を上昇させるため、および/または、可溶化剤として機能するための1種以上のゲル化剤を含むことができる。ゲル化剤の性質に応じて、それは、製剤の0.1重量%〜20重量%、好ましくは0.5重量%〜10重量%、さらに好ましくは0.5重量%〜5重量%を構成することができる。従って、ゲル化剤の量は、約0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、2.5%、3.0%、3.5%、4.0%、4.5%、5.0%、5.5%、6.0%、6.5%、7.0%、7.5%、8.0%、8.5%、9.0%、9.5%または10%とすることができる。好ましいゲル化剤には、カルボマー類、セルロース誘導体、ポロキサマー類およびポロキサミン類などがある。より詳細には、好ましいゲル化剤は、キトサン、デキストラン、ペクチン類、天然ゴム、ならびにエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース誘導体である。一つの非常に好ましいゲル化剤は、ヒドロキシプロピルセルロースである。
【0046】
製剤がゲル化剤、特に非前中和アクリルポリマーを含む場合、有利には、それは中和剤も含む。中和剤/ゲル化剤比は、好ましくは10:1〜0.1:1、より好ましくは7:1〜0.5:1、さらに好ましくは4:1〜1:1である。従って、中和剤/ゲル化剤比は、約7:1、6:1、5:1、4:1、3:1、2:1、1:1または0.5:1とすることができる。中和剤は、ポリマーの存在下、媒体に可溶な塩を形成するものでなければならない。中和剤はまた、電荷の中和およびポリマー塩の形成中にポリマー鎖の最適な膨潤を可能とするものでなければならない。有用な中和剤には、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アルギニン、アミノメチルプロパノール、トロラミンおよびトロメタミンなどがある。当業者であれば、製剤に用いられるゲル化剤の種類に応じて中和剤を選択するであろう。しかしながら、セルロース誘導体をゲル化剤として用いる場合、中和剤は必要ない。
【0047】
表1に、2つの非常に好ましい4−ヒドロキシタモキシフェンゲル製剤の組成を示す。
【0048】
【表1】

【実施例】
【0049】
下記の実例となる実施例への言及は、本発明についての理解をさらに深める上で役立つものである。
【0050】
実施例1:経皮4−ヒドロキシタモキシフェン投与の実証
乳癌患者4名に、12時間〜7日間の所定の間隔で乳房に直接塗布することでアルコール溶液での[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンを投与した後、患部組織の摘出手術を行った。手術後、摘出組織と腫瘍周囲の正常な乳房組織の両方に放射能が含まれていた(Kuttenn et al., 1985)。
【0051】
追跡調査で、ホルモン依存型乳癌の摘出手術の予定があった患者12名中の9名に、Z−[H]−4−ヒドロキシタモキシフェン(80μCi)の60%アルコール溶液の投与を行い、比較のために、患者3名にZ−[H]−タモキシフェン(80μCi)の投与を行った。患者には、12時間〜7日間の所定の間隔で患部乳房に直接塗布することで[H]−標識薬剤を投与した後、患部組織の摘出手術を行った。3つの領域からの乳房組織、すなわち腫瘍、その腫瘍を直接囲む組織、および正常組織を摘出し、液体窒素で直ちに冷凍した。さらに、血漿および尿のサンプルを予定の間隔で採取し、分析まで冷凍した。
【0052】
表2に、実施した分析からの結果を示す。4−ヒドロキシタモキシフェンは、エストロゲン受容体が存在する乳房組織のサイトゾル画分および核画分に主に集中されていた。これらの細胞内部位では、Z体からE体への限定的な異性化があった以外は、4−ヒドロキシタモキシフェンが代謝されずに残っていた。乳房での保持は、4−ヒドロキシタモキシフェン群ではほぼ4日間続いたが、タモキシフェン群ではそれより短く、かなり弱かった。
【0053】
【表2】

経皮投与後に乳房組織で[H]−4−ヒドロキシタモキシフェンとして確認された放射能のパーセントは、7日間かけて徐々に低下した(97%から65%)。その期間中、Z異性体からE異性体への異性化が徐々に起こり、第7日目で同様のパーセントとなった(32%と33%)。
【0054】
H]−4−ヒドロキシタモキシフェンによる血液中の放射能は徐々に増え、第4日〜第6日では横這い状態であった。これは、血液中に急速に現れ、第2日目で横這い状態となった[H]−タモキシフェンとは対照的である。経皮[H]−4−ヒドロキシタモキシフェン投与から36時間後では、投与した放射能の0.5%のみが血液中に現れた。
【0055】
乳房組織では4−ヒドロキシタモキシフェンの代謝はほとんどなかったのとは対照的に、血液中ではそのような代謝が顕著に起こった。投与から24時間後、血液中では、放射能の68%が4−ヒドロキシタモキシフェンによるものであり、18%がN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェンによるものであり、11%がビスフェノールによるものであった。
【0056】
ピークの尿排出は、4−ヒドロキシタモキシフェンの経皮投与後では、経皮タモキシフェンと比較して遅い時間に起こった。4−ヒドロキシタモキシフェン投与後、大部分がN−デスメチル−4−ヒドロキシタモキシフェンとビスフェノールである代謝物の漸増が尿中において認められた。
【0057】
本実施例は、4−ヒドロキシタモキシフェンの乳房への経皮投与により、薬剤の実質的かつ永続的局所組織集中が起こり、代謝はごく少量であり、安定かつ非常に低い血漿濃度であり、尿からの排出が遅いことを示している。
【0058】
実施例2:20mg経口タモキシフェンと比較した経皮投与4−OH−タモキシフェンの薬物動態学および薬力学の実証
この試験では、タモキシフェンの経口投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンの組織濃度および血漿濃度と、水性アルコールゲルでの経皮投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンの組織濃度および血漿濃度とを比較した(Pujol, 1995)。
乳癌手術の予定がある患者31名を5群中の1群に無作為に割り当てた。その患者に、表3に示したように経口タモキシフェンまたは経皮4−ヒドロキシタモキシフェンのいずれかを用いた処置を受けさせた。投与は1日1回行い、3〜4週間続けた後、手術を行った。この試験では、3つの異なる用量の4−ヒドロキシタモキシフェン(0.5、1または2mg/日)および2種類の塗布域(両方の乳房、または両腕、両前腕および両肩などの大面積の皮膚表面のいずれか)を評価した。1群の患者には、20mg/日(10mgを1日2回)の経口タモキシフェン(ノルバルデックス(Nolvaldex);登録商標)の投与を行った。
【0059】
【表3】

4−ヒドロキシタモキシフェンゲル(4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/水性アルコールゲル100g;Besins-International Laboratories)は、ゲル1.25g/計量用量(すなわち4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/用量)を送出する加圧計量式ポンプに充填した。
【0060】
手術中、乳房組織の検体2種類、その一方は腫瘍組織であり、他方は肉眼観察で正常な組織であるもの(それぞれ1cm)を摘出した。それらは、液体窒素で直ちに冷凍して、分析評価まで保存した。手術当日および手術前日に採血を行った。全ての組織および血漿検体について、ガスクロマトグラフィー/質量分析(GC−MS)によって4−ヒドロキシタモキシフェン濃度を分析した。
【0061】
投与前および投与後の血液検体について、全血球算定(CBC)、ビリルビン、血清グルタミン酸−ピルビン酸トランスアミナーゼ(SGPT)、血清グルタミン酸−オキザロ酢酸トランスアミナーゼ(SGOT)、アルカリホスファターゼ、クレアチニン、エストラジオール、卵胞刺激ホルモン(FSH)、黄体形成ホルモン(LH)、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)、コレステロール、高密度リポタンパク質(HDL)、低密度リポタンパク質(LDL)、トリグリセリド類、フィブリノゲンおよびアンチトロンビンIIIの分析を行った。
【0062】
下記の表4に、乳房組織および血漿で認められた4−ヒドロキシタモキシフェンの濃度をまとめて示す。正常乳房組織および腫瘍乳房組織は、5つの投与群のいずれにおいても同様の濃度の4−ヒドロキシタモキシフェンを含んでいた。4−ヒドロキシタモキシフェンは、ゲルを他の広い皮膚表面よりも乳房に直接塗布した場合に、乳房組織でより多量に濃縮されていた。
【0063】
【表4】

副作用によって重大な問題は生じなかった。皮膚投与によって局所的な刺激は全く起こらなかった。群2(0.5mg/日の4−ヒドロキシタモキシフェンゲル)の女性1名が、一時的な眩暈、膀胱炎および軽度の膣炎が投与第7日目に起こったと報告した。群1(経口タモキシフェン)の女性1名が、投与第5日目に一過性熱感および軽度の膣炎を報告した。
【0064】
4−ヒドロキシタモキシフェンゲルの投与を受けた患者では、血液学的評価あるいは血清化学評価のいずれについても、投与前血液検体と投与後血液検体の間に差はなかった。しかしながら、アンチトロンビンIIIおよびフィブリノゲンにおける統計的に有意な減少ならびに血小板数およびリンパ球数における統計的に有意な増加が経口タモキシフェン群で認められ、それは他の試験で認められたこの薬剤の生理効果と一致していた。
【0065】
実施例3:健常女性での経皮投与4−OH−タモキシフェンの耐容性および薬物動態の実証
この試験は、年齢18〜45歳の健常閉経前女性における局所投与4−ヒドロキシタモキシフェンゲルの耐容性および薬物動態を実証するものである。各参加者には、2月経周期の期間にわたり、1日1回、ゲルの投与を行った。
【0066】
表5にまとめたように、3種類の用量および2種類のゲル濃度を試験した。群A〜Cでは、4−ヒドロキシタモキシフェン20mg/100gを含むゲルを、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/用量を送出する加圧計量式ポンプから投薬した。片方の乳房に塗布するにはゲルの量が多すぎたことから、群Cの試験は中止した。群DおよびEには、4−ヒドロキシタモキシフェンをほぼ3倍含む(4−ヒドロキシタモキシフェン57mg/ゲル100g、すなわち4−ヒドロキシタモキシフェン50mg/ゲル100mL)より濃度の高いゲルを投与した。この濃度のより高いゲルも、4−ヒドロキシタモキシフェン0.25mg/用量を供給する計量式ポンプによって投薬した。
【0067】
【表5】

以下の月経の第1日に、2月経周期にわたる1日1回のゲル投与からなる処置を開始した。第1および第2の周期の第7日、第20日および第25日の午前のゲル投与から24時間後に採血を行った。投与の最終日、すなわち第2の月経周期の第25日に、投与前と、ゲル投与から0.5、1、1.5、2、3、4、6、12、18、24、36、48および72時間後に順次採血を行った。検体について、4−ヒドロキシタモキシフェン、エストラジオール、プロゲステロン、FSHおよびLHを分析した。
【0068】
最後のゲル投与から72時間後でも、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿濃度は検出可能であった。従って、4−ヒドロキシタモキシフェンが血液中で検出できなくなるまでデータポイントを得るようにするため、最後のゲル投与から92日後まで時々、一部の参加者から追加の採血を行った。
【0069】
表6に、4−ヒドロキシタモキシフェンの平均±標準偏差(SD)血漿濃度を示し、括弧内に範囲を示した。単一0.5mg用量では4−ヒドロキシタモキシフェンの検出可能な血漿濃度は生じなかったが、1mgの単一用量の後では患者12名中6名で血漿濃度が検出可能であった(>5pg/mL)。
【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

図2に、第2の月経周期の第25日での最後の投与後の血漿濃度−時間曲線を示す。表7に、第2の月経周期の第25日での最後の投与に関係する平均薬物動態パラメータを示す。
【0072】
【表8】

データは、試験した3種類の用量(0.5、1および2mg)を通じて用量応答と一致している。AUCおよびCavに基づいて、より濃度の高いゲルの方が、より濃度の低いゲルよりも良好に吸収され、ほぼ2倍であった。
【0073】
生物学的耐容性は、患者36名全員で非常に良好であった。この投与は、月経周期中のFSH、LH、エストラジオールまたはプロゲステロンホルモンのレベルに影響を及ぼさなかった。さらに、投与終了時の卵巣の超音波検査は患者全員において正常であり、正常な大きさの発育卵胞を示した。1名の患者がゲルに対するアレルギー反応を発症し、10名が顔面アクネを報告した(そのうち5名はアクネの既往歴を有していた)。
【0074】
要約すると、本試験は、局所投与後の4−ヒドロキシタモキシフェンへの曝露が用量に応じて増加し、4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿濃度が典型的なエストラジオール濃度(80pg/mL)より低く、全身効果を示す検出可能な臨床検査的および臨床的証拠がないことを示している。
【0075】
引用刊行物
【0076】
【表9】

【0077】
【表10】

【0078】
【表11】

【0079】
【表12】

【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】タモキシフェンの代謝を示す図である。
【図2】皮膚投与後の健常女性における4−ヒドロキシタモキシフェンの血漿濃度を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
良性乳房疾患の治療のための医薬の製造における4−ヒドロキシタモキシフェンの使用。
【請求項2】
前記医薬が経皮投与に好適な形態のものである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンが浸透促進剤を含む媒体中のものである請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
1日当たり約0.25〜2.0mg/乳房、好ましくは約0.5〜1.0mg/乳房の4−ヒドロキシタモキシフェンを患者に投与できる請求項1〜3のいずれかに記載の使用。
【請求項5】
1日当たり約0.25mg/乳房、好ましくは約0.5mg/乳房、より好ましくは約0.75mg/乳房、更により好ましくは約1.0mg/乳房の4−ヒドロキシタモキシフェンを患者に投与できる請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンが、水性アルコールゲル、水性アルコール溶液、貼付剤、軟膏、クリーム、乳濁液(ローション)、散剤またはオイル、好ましくは水性アルコールゲルに製剤されている請求項1〜5のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンが、浸透促進剤、水系媒体、アルコール系媒体およびゲル化剤を含む水性アルコール組成物に製剤されている請求項6に記載の使用。
【請求項8】
前記水性アルコール組成物が中和剤を含む請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記浸透促進剤が少なくとも1種類の脂肪酸エステルを含む請求項7または8に記載の使用。
【請求項10】
前記水性アルコール組成物が、
a)約0.01重量%〜0.20重量%の4−ヒドロキシタモキシフェン、
b)約0.5重量%〜2重量%のミリスチン酸イソプロピル、
c)約60重量%〜75重量%の無水アルコール、
d)約25重量%〜40重量%の水系媒体、
e)約0.5重量%〜5重量%のゲル化剤
を含み;
成分の前記パーセントが、前記組成物の重量に対する重量である請求項7〜9のいずれかに記載の使用。
【請求項11】
前記4−ヒドロキシタモキシフェンが、前記組成物の約0.01重量%、0.02重量%、0.03重量%、0.04重量%、0.05重量%、0.06重量%、0.07重量%、0.08重量%、0.09重量%、0.10重量%、0.11重量%、0.12重量%、0.13重量%、0.14重量%、0.15重量%、0.16重量%、0.17重量%、0.18重量%、0.19重量%または0.20重量%を占める請求項10に記載の使用。
【請求項12】
前記ミリスチン酸イソプロピルが、前記組成物の約0.5重量%、0.6重量%、0.7重量%、0.8重量%、0.9重量%、1.0重量%、1.1重量%、1.2重量%、1.3重量%、1.4重量%、1.5重量%、1.6重量%、1.7重量%、1.8重量%、1.9重量%または2.0重量%を占める請求項10または11に記載の使用。
【請求項13】
前記アルコールがエタノールまたはイソプロパノールであり、無水の形で前記組成物の約60重量%〜75重量%を占める請求項10〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
前記水系媒体がリン酸緩衝液であり、前記組成物の約25重量%〜40重量%を占める請求項10〜13のいずれかに記載の使用。
【請求項15】
前記ゲル化剤がポリアクリル酸、ヒドロキシプロピルセルロース、またはその他のセルロース誘導体であり、前記組成物の約0.5重量%〜5重量%を占める請求項10〜14のいずれかに記載の使用。
【請求項16】
前記水性アルコール組成物が、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アルギニン、アミノメチルプロパノール、トロラミンおよびトロメタミンからなる群から選択される中和剤をさらに含み、
前記中和剤が、約4:1〜1:1の間の中和剤/ゲル化剤の比で存在している請求項10〜15のいずれかに記載の使用。
【請求項17】
前記水性アルコール組成物が単位用量小袋内または計量ポンプ付きの複数用量容器内に入れられている請求項10〜16のいずれかに記載の使用。
【請求項18】
前記良性乳房疾患が増殖性乳房疾患である前記のいずれかに記載の使用。
【請求項19】
前記良性乳房疾患がエストロゲンと関連している構成要素を有する請求項1〜17のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
前記増殖性乳房疾患が、腺症、嚢胞、管拡張、線維腺腫、線維嚢胞症、線維症、過形成および化生からなる群から選択される請求項18に記載の使用。
【請求項21】
乳癌を発症する危険性がある患者における良性乳房疾患の予防のための医薬の製造における4−ヒドロキシタモキシフェンの使用。
【請求項22】
前記患者が閉経前である請求項21に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2007−535505(P2007−535505A)
【公表日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−504377(P2007−504377)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【国際出願番号】PCT/EP2005/003286
【国際公開番号】WO2005/092309
【国際公開日】平成17年10月6日(2005.10.6)
【出願人】(505233549)ラボラトワール ブザン アンテルナスィヨナル (9)
【Fターム(参考)】