説明

4−ヒドロキシ酸を含むポリヒドロキシアルカノエートポリマー製造のための生物学的システム

【課題】代替ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)のモノマー(例えば、4−ヒドロキシ酪酸/4HB)を合成する新たな株を作り出すために、さらなる遺伝子がPHBプロデューサーに導入され得る組換えプロセス、また唯一の構成物またはコモノマーいずれかとして4HBを含むPHAを合成する生物を、安定に作る方法を提供する。
【解決手段】PHAシンターゼ、および4HB−CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される、異種酵素をコードする遺伝子を、ゲノムに安定に取り込んだ、組換え宿主を用いる上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、1997年9月19日に出願された、Gjalt W.Huisman、Frank A.Skraly、David P.Martin、およびOliver P.Peoplesによる、4−ヒドロキシ酸を含むポリヒドロキシアルカノエートポリマー製造のための生物学的システムという名称の、米国特許出願第60/059,373号に対して優先権を主張する。
【背景技術】
【0002】
ポリ[(R)−3−ヒドロキアルカノエート](PHA)は、再生可能資源から生産される、生分解性および生体適合性の熱可塑性物質であり、広範な産業適用および生物医学適用を有する(WilliamsおよびPeoples,1996,CHEMTECH 26,38−44)。近年、単一ポリマーであると考えられたポリ−β−ヒドロキシ酪酸(PHB)が、異なるモノマー組成物および広範な物理的性質を有する、広範なクラスのポリエステルに発展した。現在まで、約100個の異なるモノマーが、PHAポリマーに取り込まれた(SteinbuchelおよびValentin,1995,FEMS Microbiol.Lett.128;219−228)。PHAを、それらの側鎖の長さおよびそれらの生合成経路によって2つのグループに大まかに分けることは、有用であった。短い側鎖を有するPHA、例えば、R−3−ヒドロキシ酪酸単位、−OCR(CRCO−ここで:nは、0または整数であり、そしてR、R、R、およびRの各々は、飽和および不飽和炭化水素ラジカル;ハロゲン置換およびヒドロキシ置換ラジカル;ヒドロキシラジカル;ハロゲンラジカル;窒素置換ラジカル;酸素置換ラジカル;ならびに水素原子から選択される、のホモポリマーであるポリヒドロキシ酪酸(PHB)は、結晶性の熱可塑性物質であるのに対して、長い側鎖を有するPHAはより弾性がある。前者は、約70年間知られているのに対して(LemoigneおよびRoukhelman,1925)、後者の物質は、1980年代初期に初めて同定された(deSmetら、1983,J.Bacteriol.,154;870−878)。しかし、この指摘の前に、(R)−3−ヒドロキシ酪酸および、5〜16個の炭素原子を含む1つ以上の長側鎖ヒドロキシ酸単位両方を含む細菌起源のPHAは同定されている(SteinbuchelおよびWiese,1992,Appl.Microbiol.Biotechnol.37:691−697;Valentinら、1992,Appl.Microbiol.Biotechnol.36:507−514;Valentinら、1994,Appl.Microbiol.Biotechnol.40:710−716;Leeら、1995、Appl.Microbiol.Biotechnol.42:901−909;Katoら、1996,Appl.Microbiol.Biotechnol.45:363−370;Abeら、1994,Int.J.Biol.Macromol.16:115−119;Valentinら、1996,Appl.Microbiol.Biotechnol.46:261−267;米国特許第4,876,331号)。恐らく、2つの生合成経路の組み合わせが、このヒドロキシ酸モノマーを提供する。これらの後者のコポリマーは、PHB−コ−HXと呼ばれる。特定の2成分コポリマーの有用な例は、PHB−コ−ヒドロキシヘキサン酸を含む(Brandlら、1989,Int.J.Biol.Macromol.11:49−55;AmosおよびMcInerey,1991,Arch.Microbiol.155:103−106;Shiotaniら、1994,米国特許第5,292,860号)。化学合成法もまた、適用試験のために、この型のラセミPHBコポリマーを調製するために使用されている(WO 95/20614、WO 95/20615、およびWO 96/20621)。
【0003】
非常に多くの微生物が、PHAポリマーの細胞内保存物を蓄積する能力を有する。ポリヒドロキシアルカノエートは、天然の熱可塑性ポリエステルであるので、それらの適用の大多数は、包装およびコーティング適用に現在使用されている石油化学ポリマーの代用としての適用である。ポリマー産業においてありきたりに行われるような混ぜ合わせおよびブレンドにより得られる性能の拡大に加えて、PHAポリマーファミリーの広範囲な物理的性質は、対応する広範囲な潜在的な最終用途適用を提供する。PHAは、ヒドロキシ酸モノマー組成に依存する広範な種々の型において生成され得る(SteinbuchelおよびValentin,1995,FEMS Microbiol.Lett.128:219−228)。この広範なポリマー組成物は、等しく広範なポリマー物理的性質(40℃〜180℃の融解温度範囲、−35〜5℃のガラス転移温度、結晶化率を制御する能力と関連する0%〜80%の結晶度、および5〜500%の破断伸び(elongation to break)を含む)を反映する。例えば、ポリ(3−ヒドロキシ酪酸)は、ポリプロピレンの特徴に類似した特徴を有するが、一方、ポリ(3−ヒドロキシオクタン酸(octanoate))((R)−3−ヒドロキシオクタン酸および(R)−3−ヒドロキシヘキサン酸のコポリマー)型は、エラストマーのようにふるまい、そしてより長い側鎖を有するPHAは、ワックスに近い挙動を生じる。PHAはまた、他のポリマーまたは薬剤により可塑性を持たせられ、そしてそれらとブレンドされ得る。1つの特に有用な形態は、水中のPHAラテックスとしての形態である。
【0004】
モノマー組成物はまた、有機溶媒中の可溶性に影響を及ぼし、これは、広範な溶媒の選択を可能にする。(R)−3−ヒドロキシ酪酸および他のヒドロキシ酸コモノマーのコポリマーは、PHBホモポリマーの可溶性とは著しく異なる可溶性特徴を有する。
【0005】
現在まで、PHAは、限定した商業的利用可能性を経験してきており、コポリマーポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−3−ヒドロキシ吉草酸)(PHBV)だけが有意な量で利用可能である。このコポリマーは、細菌Ralstonia eutropha(以前は、Alcaligenes eutrophus)の発酵により生成されてきた。他のPHAの発酵プロセスは開発されている(WilliamsおよびPeaples,1996,CHEMTECH 26:38−44)。植物作物もまた、これらのポリマーを生成するために遺伝子操作されている。そしてこれは、植物油と並ぶコスト構造(cost structure)、および石油に基づくポリマーとの直接的な価格競争力を提供する(WilliamsおよびPeaples,1996,CHEMTECH 26:38−44)。よりありきたりなポリマー合成アプローチ(対応するラクトンの直接縮合および開環重合を含む)もまた調べられた(JesudasonおよびMarchessault,1994,Macromolecules 27:2595−2602、米国特許第5,286,842号;米国特許第5,563,239号;米国特許第5,516,883号;米国特許第5,461,139号;カナダ特許出願2,006,508)。
【0006】
モノマー4−ヒドロキシ酪酸を含むPHAポリマー(PHB4HB、Doi,Y.1995,Macromol.Symp.98,585−599)、または4−ヒドロキシ吉草酸および4−ヒドロキシヘキサン酸含有PHAポリエステルの合成は記載されている(Valentinら、1992,Appl.Microbiol.Biotechnol.36:507−514およびValentinら、1994,Appl.Microbiol.Biotechnol.40:710−716)。これらのポリエステルは、PHBVについて最初に記載された方法と同様の方法を用いて製造され、ここで微生物は、モノマーのPHAポリエステルへの取り込みを促進するために、比較的高価な非炭水化物供給材料を与えられる。例えば、PHB4HB生成は、グルコースおよび4−ヒドロキシ酪酸または4−ヒドロキシ酪酸に変換される基質を、A.eutrophus(Kunioka,M.、Nakamura,Y.、およびDoi,Y.1988,Polym.Commun.29:174;Doi,Y.、Segawa,A.、およびKunioka,M.1990,Int.J.Biol.Macromo.12:106;Nakamura,S.、Doi,Y.、およびScandola,M.1992,Macromolecules 25:423)、A.latus(Hiramitsu,M.、Koyama,N.、およびDoi,Y.1993,Biotechnol.Lett.15:461)、Pseudomonas acidovorans(Kimura,H.、Yoshida,Y.およびDoi,Y.1992,Biotechnol.Lett.14:445)、ならびにComomonas acidovorans(Saito,Y.およびDoi,Y.,1994,Int.J.Biol.Macromol.16:18)に与えることにより達成された。4−ヒドロキシ酪酸に変換される基質は、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、および1,4−ブチロラクトンである。PHB4HBコポリマーは、ある範囲のポリマー特性をさらに提供する、ある範囲のモノマー組成物を用いて生成され得る。特に、4HB量が10重量%より上に増加すると、融解温度(T)は130℃以下に減少し、そして破断伸びは400%より上に増加する(Saito,Y.、Nakamura,S.、Hiramitsu,M.、およびDoi,Y.,1996,Polym.Int.39:169)。
【0007】
4HB含有ポリマーの形成はまた、Ralstonia eutrophaまたはE.coliにおけるPHB−4HB形成の改善を目的とする研究において、組換え株を用いて研究された。4−ヒドロキシ酪酸を炭素源として使用し得ないR.eutropha H16変異体が選択された。このような変異体は、コポリマー形成について試験された場合、84%までの4HBが蓄積PHAに取り込まれた(Kitamura SおよびY.Doi,1994.Biodegradable Plastics and Polyesters,12,373−378頁)。phb遺伝子のさらなるコピーを導入することにより、PHB−4HB蓄積が増強された(Lee,Y.−H.、Park,J.−S.、およびHuh,T.−L.1997,Biotechnol.Lett.19:771−774)。
【0008】
生物学的システムにより4HB含有PHAを生成する、より費用効率の高い方法を開発することが望ましい。いくつかの要因;基質費用、発酵時間、および下流プロセシング(downstream−processing)の効率が、PHAの経済的な生成に重要である。上記の細菌の一般的な特徴は、それらの増殖速度が遅いこと、多くの場合それらが破砕しにくいこと、そしてそれらの遺伝子工学に対する設備(amenity)が制限されていることである。従って、トランスジェニック生物を用いることによりPHA生成の経済性を改善するプロセスが開発されてきた。PHB4HB形成は、C.kluyveriに由来する4−ヒドロキシ酪酸経路を用いてE.coliにおいて達成された(Hein,S.、Sohling,B.、Gottschalk,G.、およびSteinbuchel,A.1997.FEMS Microbiol.Lett.153:411−418)。これらの研究において、4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼおよびPHAシンターゼの両方が、プラスミドによりコードされた。その後の研究により、C.kluyveriに由来する4−ヒドロキシ酪酸経路は、唯一の炭素源としてグルコースからの細胞乾燥重量の50%までの、そしてモノマーの2.8%が4HBである、E.coliにおけるPHB−4HB形成を支持することが示された。これらの株における4HBモノマーは、TCAサイクルの中間体であるコハク酸に由来することがもっともらしいようである(Valentin,H.E.およびDennis,D.1997.J.Biotechnol.58:33−38)。これらの研究は、組換え生成生物としてEscherichia coli、およびPHAプロデューサー(例えば、R.eutropha)に由来するPHA生合成遺伝子に基づいた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、組換えプロセスを提供することであり、それにより、代替PHAのモノマー(例えば、4HB)を合成する新たな株を作り出すために、さらなる遺伝子が、トランスジェニックPHBプロデューサーに導入され得る。
【0010】
本発明のさらなる目的は、唯一の構成物またはコモノマーいずれかとして4−ヒドロキシ酪酸を含むPHAを合成するトランスジェニック生物を安定に作る、技術および手順を提供することである。
【0011】
本発明の目的はまた、新たな4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子のスクリーニングシステムを提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、代替PHAモノマー内因合成のために、生物学的システムにおいて新たな経路を操作する技術および手順を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子をゲノムに安定に取り込んだ、組換え宿主を提供する。
【0014】
1つの実施形態において、上記宿主は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼの両方をそのゲノムに安定に組み込む。
【0015】
1つの実施形態において、上記宿主は、E.coliである。
【0016】
1つの実施形態において、上記異種酵素がポリヒドロキシアルカノエートシンターゼであり、上記宿主は、4HB−CoAトランスフェラーゼ活性を有する内因性酵素を発現する。
【0017】
1つの実施形態において、上記宿主は、β−ケトチオラーゼおよびアセトアセチルCoレダクターゼからなる群より選択される酵素を発現する遺伝子をさらに含む。
【0018】
別の局面において、本発明は、宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法を提供し、この方法は、以下の工程:ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、この宿主のゲノムに安定に取り込む工程、を包含する。
【0019】
1つの実施形態において、上記宿主は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼの両方をそのゲノムに安定に組み込む。
【0020】
1つの実施形態において、上記方法は、上記異種酵素の発現を増強する工程をさらに包含する。
【0021】
1つの実施形態において、上記発現は、上記宿主を変異させ、続いて基質として4HBを提供し、そして変異宿主によるポリマー生成についてスクリーニングすることにより増強される。
【0022】
1つの実施形態において、上記方法は、α−ケトグルタル酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸−コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、および4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼからなる群より選択される酵素を発現する宿主を提供する工程をさらに包含する。
【0023】
1つの実施形態において、上記方法は、アルギニン、グルタミン、またはプロリンを分解して、γアミノ酪酸を生成する酵素を発現する宿主を提供する工程をさらに包含する。
【0024】
別の局面において、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子をゲノムに安定に組み込んだ組換え宿主により生成された、4HBポリマーを提供する。
【0025】
別の局面において、本発明は、異種種宿主ゲノムへの組み込み後に発現を増強するための、プロモーター制御下の4HB−CoAトランスフェラーゼをコードする単離遺伝子を含む。
【0026】
トランスジェニック株を用いる、改善した4HB含有PHA生成プロセスが開発された。必要とされるphb遺伝子が染色体に組込まれたトランスジェニックE.coli株が記載される。4HBモノマー合成のために、さらなる遺伝子もまた染色体に組込まれる。後者の遺伝子は、4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼを有する広範な生物に由来し、そしてここに記載された操作E.coli株においてこの活性をスクリーニングすることにより同定され得る。さらに、4HB−CoAトランスフェラーゼ活性の目的のためにさらに改善され得る、内因性E.coli活性が開示される。新たな経路もまた、4HB生合成経路の中間体(例えば、α−ケトグルタル酸およびγ−アミノ酪酸)の供給のために開示される。これらの経路の多様性は、安価な炭素源(例えば、糖および脂肪酸)からの4HB含有PHAの首尾良い生成に重要である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
ポリ(3−ヒドロキシ酪酸−コ−4−ヒドロキシ酪酸)合成の最小の生物学的必要条件が定義された。R.eutrophaに由来するPHAシンターゼの基質の酵素的合成は、当モル量の(R)−3−ヒドロキシ酪酸および4−ヒドロキシ酪酸と、4−ヒドロキシ酪酸CoAトランスフェラーゼとのインキュベーションにより達成された。直接酵素的重合と一緒にされたインサイチュでのモノマー−CoA合成は、得られたポリマーのH−NMRにより決定されるように、PHB−4HBコポリマー形成をもたらす。唯一の構成物またはコモノマーいずれかとして4−ヒドロキシ酪酸を含むPHAを合成するトランスジェニック生物を操作する技術および手順が開発された。これらのシステムにおいて、トランスジェニック生物は、細菌(例えば、Escherichia coli、K.pneumoniae、Ralstonia eutropha(以前は、Alcaligenes eutrophus)、Alcaligenes latus、またはPHAを合成し得る他の微生物)、あるいは高等植物または植物構成部分(例えば、油糧穀物(アブラナ属、ヒマワリ、ダイズ、トウモロコシ、ベニバナ、アマ、ヤシもしくはココナツ、またはデンプン蓄積植物(ジャガイモ、タピオカ、キャッサバ))の種子)のいずれかである。4−ヒドロキシ酪酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換し得る酵素をコードする遺伝子の同定のためのスクリーニング手順、および正常代謝産物の流れを、(例えば、コハク酸および/またはグルタミン酸から4−ヒドロキシ酪酸に)向け直すための方法が開発された。グラム陽性絶対嫌気性細菌であるClostridium kluyveriに由来する4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ遺伝子をコードする遺伝子が同定され、そしてこれを使用して、4−ヒドロキシ酪酸を、E.coliにおいてポリ(4−ヒドロキシ酪酸)蓄積をもたらす4−ヒドロキシル−CoAに変換するために、この酵素活性をトランスジェニック生物において発現した。トランスジーンから機能的PHAシンターゼを発現する細菌、ならびにトランスジェニック植物作物においてこれらの遺伝子を発現するための方法が記載される。
【0028】
新たな4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子についてのスクリーニングシステムもまた記載される。PHAシンターゼをコードする遺伝子が染色体に組み込まれ、そしてPHA合成を維持するレベルまで発現された、トランスジェニックE.coli株が開発された。これらのトランスジェニック株を用いて、異なる生物学的供給源に由来するゲノムライブラリーが、代替PHA前駆体(例えば、4−ヒドロキシ酪酸)をPHAシンターゼの対応する基質に変換する活性についてスクリーニングされ得る。
【0029】
代替PHAモノマー内因合成のために、生物学的システムにおいて新たな経路を操作する技術および手順が提供される。任意のPHA生成生物(細菌および植物作物を含む)の代謝は、代謝工学によりPHA合成のための特定の代謝産物を供給するように向け直され得る。このアプローチを有効にするために、共通の代謝中間体のうちの1つから所望のモノマーに導く新たな生化学的経路を開発する必要がある。このような経路は、1つの生物に存在する必要はない。なぜなら、個々の工程が遺伝子工学技術を用いて選択した生成生物において再構成され得るからである。
【0030】
補充供給原料に由来する代替モノマーの取込みは、特定の欠点を有する。第1に、ファーメンターへの追加供給は、それらが基幹施設を拡大させ、そしてさらなる品質管理を課するので多額の費用がかかる。第2に、モノマー前駆体の追加は、モノマープールおよびPHA組成物の一定組成を達成するために、きちんと管理される必要がある。P(4HB)またはPHB−コ−4HB合成のようなE.coliを操作する方法は、唯一の炭素源としての安価な炭水化物供給原料(例えば、グルコース、スクロース、キシロース、およびラクトース)から生じる。λ−ヒドロキシ酪酸分路における酵素活性が高められる一方、この分路から中間体を排出する酵素活性が低減される。代替経路は、コハク酸から4HBを生じる。代謝工学における同様のアプローチにより、現在4−ヒドロキシ酪酸コポリマーを補基質(cosubstrate)から生成し得る生物(例えば、A.eutrophus、A.latus、およびComamonas)において、ならびに異種PHAシンターゼ遺伝子(単数または複数)からPHA合成を発現するトランスジェニック細菌および植物作物システムにおいて、4HB含有PHA生成が適応され得る。
【0031】
この経路に関与する全ての遺伝子の発現が適切であることは、組換えE.coli株における効率的なPHA合成に重要である。このために、目的の遺伝子は、染色体外DNA分子(例えば、プラスミド)(これは、本質的に、コピー数効果およびその結果として高発現レベルをもたらす)から発現され得るか、またはより好ましくは、それらは染色体から発現され得る。商品型産物の大規模発酵について、プラスミドに基づくシステムは、プラスミド維持の余分な負担および安定発現問題のために不十分であることが一般的に知られている。これらの欠点は、染色体によりコードされる酵素を使用して、発現が十分かつ安定であるように目的の遺伝子の前にある転写および翻訳シグナルを改善することにより克服され得る。
【0032】
(4HBコポリマー生成)
GerngrossおよびMartinは、PHAシンターゼ基質が、補酵素A(CoA)部分の存在を必要とすることを報告した(Gerngross,T.U.およびMartin,D.P.(1955)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6279)。従って、4HBの取り込みに必要とされる前駆体は、4HB−CoAである。4−ヒドロキシ酪酸含有PHA合成の最小必要条件を決定するために、4−ヒドロキシ酪酸、3−ヒドロキシ酪酸、Clostridium acetobutylicumから精製された4−ヒドロキシ酪酸CoAトランスフェラーゼ(WilladsenおよびBuckel、FEMS Microbiol.Lett.(1990)70:187−192)、およびPHBシンターゼ(Gerngrossら(1994)Biochemistry 33:9311により精製された)の混合物を、GerngrossおよびMartin(Gerngross,T.U.およびMartin,D.P.(1955)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:6279)により記載されたような条件下でインビトロでインキュベートした。反応産物は単離され、そして4−ヒドロキシ酪酸の取り込みが1H−NMRにより確認された。
【0033】
インビトロでの4−ヒドロキシ酪酸含有PHA合成の最小必要条件を確立したので、インビボでのこれらのPHA合成の最小必要条件は、4−ヒドロキシ酪酸CoAトランスフェラーゼまたは同様の活性をコードする遺伝子、および4−ヒドロキシ酪酸を含むことは明らかになる。基質4−ヒドロキシ酪酸は、PHA生成微生物に投与され得るか、または適切な基質から操作生合成経路によりインビボで合成され得る。精製4−ヒドロキシ酪酸CoAトランスフェラーゼのアミノ酸配列は決定された(ScherfおよびBuckel,Appl.Environ.Microbiol.(1991)57:2699−2701)。この精製タンパク質は酵素消化に供され、続いて得られたペプチドのうち3つのアミノ酸配列分析が行われた。これらのペプチドのアミノ酸配列およびインタクトなタンパク質のN末端は、その正体および機能が未知であったOrfZ遺伝子産物と著しい相同性を示し(図1A、1B、1C、および1D)、それによりorfZを、C.kluyveriにおける4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子として同定した。この遺伝子を、hbcTと新たに命名した。
【0034】
この遺伝子の、PHBシンターゼを発現するE.coli株への導入が、4−ヒドロキシ酪酸含有PHA合成に十分であるという確認は、以下の通りに行われた。Z.ramigeraに由来するPHBシンターゼは、E.coli MBX379株においてこの遺伝子の染色体組み込みコピーから発現される。PHAは、hbcTをコードするプラスミドの導入および増殖培地中への4−ヒドロキシ酪酸供給の際に細胞内で形成された。PHB経路の他の酵素を提供する遺伝子の非存在下で、蓄積PHAはP4HBである。E.coli MBX777株は、Z.ramigeraに由来するβ−ケトチオラーゼ、アセトアセチルCoAレダクターゼ、およびPHBシンターゼをコードする遺伝子を含む。hbcTをコードするプラスミドの導入および増殖培地中への4−ヒドロキシ酪酸供給の際に、PHB−4HBコポリマーが形成された。
【0035】
PHB−4HB生成システムのさらなる開発は、4−ヒドロキシ酪酸が外部から供給される代わりに、内因性中間体から合成されるように、トランスジェニック生物の代謝経路を操作することにより達成される。前駆体4HB−CoAへの2つの生化学的経路は、4HB含有PHA生成生物において確立され得る。第1の経路はα−ケトグルタル酸から生じ、第2の経路はコハク酸から生じる。両経路の基質はまた、アミノ酸分解により提供され得る。
【0036】
(α−ケトグルタル酸から4−ヒドロキシブチリルCoAへの経路)
α−ケトグルタル酸から4−ヒドロキシブチリルCoAへの変換を可能にする経路は、図2に示される。この経路に関与する酵素は、α−ケトグルタル酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、および4−ヒドロキシ酪酸CoAトランスフェラーゼである。
【0037】
これらの活性をコードする遺伝子は、複数の供給源から獲得され得る:
グルタミン酸デヒドロゲナーゼをコードするgdhA遺伝子:E.coli(Valleら、Gene(1984)27:193−199およびValleら、Gene(1983)23:199−209)、Klebsiella aerogenes(Mountainら、Mol.Gen.Genet.(1985)199:141−145)、Pyrococcus furiosus(DiRuggieroら、Appl.Environ.Microbiol.(1995)61:159−164;Eggenら、Gene(1993)132:143−148)、Sulfolobus shibatae(Benachenhouら(1994),Gene 140:17−24)、Rumonococcus flavefaciens(Duncanら、Appl,Environ.Microbiol.(1992)58:4032−4037)、Pseudomonas fluorescens(Miyamotoら、J.Biochem.(1992)112:52−56)、Clostridium symbiosum(Tellerら、Eur.J.Biochem.(1992)206:151−159)、Synechocystis(Plant Mol.Biol.(1995)28:173−188)、Corynebacterium glutamicum(Bormannら、Mol.Microbiol.(1992)6:301−308)、Peptostreptococcus asaccharolyticus(Snedecorら(1991)J.Bacteriol.173:6162−6167)、Salmonellatyphimurium(Millerら(1984)J.Bacteriol.157:171−178)、Chlorella sorokiniana(Cockら、Plant Mol.Biol.(1991)17:1023−144)、Saccharomyces cerevisiae(Nagasuら、Gene(1984)37:247−253)、Neurospora crassa(Kinnairdら、Gene(1983)26:253−260)、Giardia lamblia(Yeeら(1992)J.Biol.Chem.267:7539−7544)。
【0038】
グルタミン酸−コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼをコードするgadAおよび/またはgadB:E.coli(MetzerおよびHalpern,J.Bacteriol.(1990)172:3250−3256、およびBartschら、J.Bacteriol.(1990)172:7035−7042)、またはS.cerevisiae(AndreおよびJauniaux,Nucl.Acid Res.(1990)18:3049)。
【0039】
4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼをコードする4hbD遺伝子:C.Kluyveri(SohlingおよびGottschalk,1996,J.Bacteriol.178,871−880)。
【0040】
4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ遺伝子:C.aminobutyricum(WilladsenおよびBuckel,FEMS Microbiol.Lett.(1990)70:187−192)または:C.kluyveri(SohlingおよびGottschalk,1996,J.Bacteriol.178,871−880)。
【0041】
哺乳動物または植物起源である、列挙された微生物に加えて、これらの遺伝子の他の供給源:
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ:(Syntichakiら(1996)Gene 168:87−92)、トウモロコシ(Sakakibaraら(1995),Plant Cell Physiol.36:789−797)、ヒト(Tzimagiogisら(1993),Hum.Genet.91:433−438)、マウス(Tzimagiogisら(1991),Biochem.Biophys.Acta 1089:250−253)、Amuroら(1990),Biochem.Biophys.Acta 1049:216−218)。
【0042】
α−ケトグルタル酸トランスアミナーゼ:(Parkら(1993),J.Biol.Chem.268:7636−7639)、Kwonら(1992),J.Biol.Chem.267:7215−7216)、ラット(Thakurら(1988),Biochem.Int.16:235−243)、ウサギ(Kirbyら、(1985),Biochem.J.230:481−488)。
【0043】
グルタミン酸デカルボキシラーゼ:トマト(Gallegoら(1995),Plant Mol.Biol.27:1143−1151)、ヒト(Buら、(1994),Genomics 21:222−228)、ネコ(Chuら、(1994),Arch.Biochem.Biophys.313:287−295)、植物(Baumら(1993),J.Biol.Chem.268:19610−19617)。
【0044】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼ発現の調節は、主にE.coliにおいて研究された。対応するgdhA遺伝子は、グルコース/アンモニア最小培地において高発現され、そして中程度にカタボライト抑制される。過剰なグルタミン酸は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspCによりコードされる)により分解される。グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子下流の2つのREP配列はmRNA安定化に関与する。P.fluorescens グルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子は、グルコースによる同様の調節を示す。P.furiosusおよびC.glutamicumの両方に由来するグルタミン酸デヒドロゲナーゼは、E.coliにおいて発現される。なぜならそれらが、gdhA変異を相補するからである。
【0045】
gab遺伝子クラスターは、グルコースおよびアンモニアによるカタボライト抑制のために、低構成性レベルでしか発現されない。わずかな窒素源または炭素源としてのコハク酸が供給される場合、このオペロンは抑制解除される。従って、gabCによりコードされる特異的リプレッサーに加えて、cAMP/CRPおよびNtrCの両方は、このプロモーターを調節する。gabTを調節するプロモーターは、gabDの上流に位置する。コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼは、gabDおよびsadによりコードされる。これらの活性は、P4HBまたはPHB−4HB生成の目的に対して有害であり得るが、それらの発現は、十分なグルコースおよび窒素源の存在により抑制されることが予想される。グルタミン酸デカルボキシラーゼは、腸内細菌科の中で稀な酵素である。これは、ピリドキサールリン酸依存性であり、そして低pHで十分に発現される。
【0046】
(GABAを介したアルギニン、プトレシン、グルタミン、およびプロリンから4−ヒドロキシブチリル−CoAへの経路)
Escherichia coliのような細菌は、少なくとも4つの異なるアミノ酸(アルギニン、プロリン、グルタミン、およびグルタミン酸)を異化してGABAを生成し得、GABAは、上記のように4−ヒドロキシ−ブチリルCoAに変換され得る。異化経路は図3に示される。
【0047】
E.coliは、アルギニンを脱炭酸してアグマチンにし得る、speAおよびadiによりコードされる少なくとも2つの活性を含む。プトレシンおよび尿素は、speBによりコードされるアグマチンウレオヒドロラーゼの作用によりアグマチンから形成される。プトレシンは、pat遺伝子産物であるプトレシンアミノトランスフェラーゼにより触媒される反応において、アミノ基をα−ケトグルタル酸に与えて4−アミノブチルアルデヒドおよびグルタミン酸を形成する。4−アミノブチルアルデヒドは、prrによりコードされるアミノブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼによりGABAに酸化される。アグマチンウレオヒドロラーゼ、プトレシンアミノトランスフェラーゼ、およびアミノブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼの合成は、カタボライト抑制および窒素利用可能性により二重に制御される。アグマチンウレオヒドロラーゼのカタボライト抑制はcAMPにより軽減され得るが、プトレシンアミノトランスフェラーゼまたはアミノブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼのカタボライト抑制は、cAMPにより軽減され得ない。アグマチンウレオヒドロラーゼ合成は、アルギニンおよびアグマチンにより誘導される。アルギニンデカルボキシラーゼ合成は、カタボライト抑制にも窒素制限による刺激にも感受性でなく、基質誘導にも受けない(Shaibeら、J.Bacteriol.163:938,1995)。E.coliにおいて、アルギニン生合成よりもむしろ異化に特殊化したと思われる、第2のアルギニンデカルボキシラーゼがあり、そしてこのタンパク質は、adi遺伝子によりコードされる(StimおよびBennett,J.Bacteriol.175:1221,1993)。これは、酸性pH、嫌気生活、およびリッチな培地の条件下で誘導される。
【0048】
プロリンは、E.coliにおいてputA遺伝子産物により分解され、この遺伝子産物は、プロリンから、ピロリン5−カルボン酸、次いでグルタミン酸への連続酸化を触媒する。第1工程はFAD依存性であり、従って、PutAタンパク質は膜結合性である。この同じタンパク質はまた、プロリンの非存在下でputオペロンのリプレッサーとして働く。このputオペロンは、カタボライト抑制を受ける(McFallおよびNewman、358−379頁、Neidhardt編、Escherichia coli and Salmonella typhimurium;cellular and molecular biology,ASM Press,Washington,D.C.,1996)。
【0049】
E.coliにおいて、グルタミンは、gltBおよびgltD遺伝子産物であるグルタミン酸シンターゼによりグルタミン酸に変換される。2分子のグルタミン酸が、グルタミンがα−ケトグルタル酸へアミノ基を与えることにより形成される。E.coliグルタミン酸シンターゼ活性は、窒素が制限されている場合、この生物がアンモニア含有最小培地において増殖させられた場合に高く、そしてグルタミン酸またはグルタミン酸生成窒素源の存在下で増殖させられた場合に低い(Reitzer,391−407頁、Neidhardt編、Escherichia coli and Salmonella typhimurium;cellular and molecular biology,ASM Press,Washington,D.C.,1996)。
【0050】
これらの経路は、生物自身の遺伝子に依存するか、または別の供給源に由来するこのような遺伝子を目的の生物に移入することにより、E.coliのような生物におけるポリ(4−ヒドロキシ酪酸)生成のために実現され得る。これらの遺伝子は、以下ような多くの生物から獲得され得る:
例えば、アルギニンデカルボキシラーゼをコードするspeA:Escherichia coli(MooreおよびBoyle,J.Bacteriol.172:4631,1990)、Synechocystis sp.(Kanekoら、DNA Res.3:109,1996)、Helicobacter pylori(Tombら、Nature 388:539,1997)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)(Watsonら、Plant Physiol.114:1569,1997)、ダイズ(Glycine max)(Namら、Plant Cell Physiol.38:1156,1997)、カーネーション(Dianthus caryophyllus)(Changら、Plant Physiol.112:863,1996)、エンドウ(Pisum sativum)(Perez−Amadorら、Plant Mol.Biol.28:997,1995)、トマト(Lycopersicon esculentum)(Rastogiら、Plant Physiol.103:829,1993)、カラスムギ(Avena sativa)(BellおよびMalmberg,Mol.Gen.Genet.224:431,1990)、アブラナ科の植物(Barbarea vulgaris、Nasturtium officinale、Arabis drummondii、Aethionema grandiflora、Capsella bursa−pastoris、Arabidopsis arenosa、Sisymbrium altissimum、Thellungiella salsuginea、Polanisia dodecandra、Stanleya pinnata、Carica papaya、Brassica oleracea、Brassica nigra、Theobroma cacao)(Gallowayら、Mol.Biol.Evol.15,1998)、ラット(Morrisseyら、Kidney Int.47:1458,1995)。
【0051】
生分解性アルギニンデカルボキシラーゼをコードするadi:Escherichia coli(StimおよびBennett,J.Bacteriol.175:1221,1993)。
【0052】
アグマチンウレオヒドロラーゼをコードするspeB:Escherichia coli(SzumanskiおよびBoyle,J.Bacteriol.172:538,1990)、Streptomyces clavuligerus(Aidooら、Gene 147:41,1994)、Bacillus subtilis(Presecanら、Microbiology 143:3313,1997)、Synechocystis sp.(Kanekoら、DNA Res.3:109,1996)、Methanobacterium thermoautotrophicum(Smithら、J.Bacteriol.179:7135,1997)、Archaeoglobusfulgidus(Klenkら、Nature 390:364,1997)。
【0053】
プトレシンアミノトランスフェラーゼをコードするpatおよびアミノブチルアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするprr:Escherichia coli(Shaibeら、J.Bacteriol.163:938,1985)。
【0054】
グルタミン酸シンターゼをコードするgltBD:Escherichiacoli(Oliverら、Gene 60:1,1987)、Aquifexaeolicus(Deckertら、Nature 392:353,1998)、Azospirillum brasilense(Pelandaら、J.Biol.Chem.268:3099,1993)、アルファルファ(Medicago sativa)(Gregersonら、Plant Cell 5:215,1993)、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Fileticiら、Yeast 12:1359,1996;Cogoniら、J.Bacteriol.177:792,1995)、Methanococcus jannaschii(Bultら、Science 273:1058,1996)、Methanobacteriumthermoautotrophicum(Smithら、J.Bacteriol.179:7135,1997)、Bacillus subtilis(Petitら、Mol.Microbiol.29:261,1998)、Azospirillum brasilense(MandalおよびGhosh,J.Bacteriol.175:8024,1993)。
【0055】
ピロリン−5−カルボン酸レダクターゼをコードするputA:Streptomyces coelicolor(Redenbachら、Mol.Microbiol.21:77,1996)、Mycobacterium tuberculosis(Coleら、Nature 393:537,1998)、Haemophilus influenzae(Fleischmannら、Science 269:496,1995)、Escherichia coli(Blattnerら、Science 277:1453,1997)、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)(Science 265:2077,1994)、Vibrio alginolyticus(Nakamuraら、Biochim.Biophys.Acta 1277:201,1996)、Pseudomonas aeruginosa(Savoizら、Gene 86:107,1990)、Klebsiella pneumoniae(ChenおよびMaloy、J.Bacteriol.173;783,1991)、Salmonella typhimurium(Allenら、Nucleic Acids Res.21:1676,1993)、Agrobacterium tumefaciens(Choら、J.Bacteriol.178:1872,1996)、Sinorhizobium meliloti(Jimenez−Zurdoら、Mol.Microbiol.23:85,1997)、Rhodobacter capsulatus(Keuntjeら、J.Bacteriol.177:6432,1995)、Bradyrhizobium japonicum(Straubら、Appl.Environ.Microbiol.62:221,1996)、Synechocystis sp.(Kanekoら、DNA Res.3:109,1996)、Shewanella sp.(Katoら、J.Biochem.120:301,1996)、Photobacterium leiognathi(Linら、Biochem.Biophys.Res.Commun.219:868,1996)、Helicobacterpylori(Tombら、Nature 388:539,1997)、栽培キノコ(Agaricus bisporus)(Schaapら、Appl.Environ.Microbiol.63:57,1997)、ダイズ(Glycine max)(DelauneyおよびVerma,Mol.Gen.Genet.221:299,1990)、ヒト(Homo sapiens)(Campbellら、Hum.Genet.101:69,1997)。
【0056】
アルギニン、プロリン、グルタミン、またはグルタミン酸は、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)生成生物に外部から供給され得るか、または宿主において別の炭素源(好ましくは、安価な炭素源(例えば、グルコース))から合成され得る。例えば、E.coliは、これらの化合物全てをグルコースから合成するが、増殖に十分な程度しか合成しない。
【0057】
これらの化合物を過剰生成するE.coli株が開発された。Tujimotoら(米国特許第5,378,616号)は、グルタミンを蓄積するE.coli変異体を記載する。Momoseら(米国特許第4,430,430号)は、アルギニン蓄積を導く、E.coliにおけるargA遺伝子過剰発現を記載する。プロリン合成遺伝子を過剰発現する、E.coliプロリン耐性変異体はプロリンを蓄積し得る(Wangら、Chin.J.Biotechnol.6:27,1990)。細菌プロリン合成遺伝子を過剰発現するタバコ植物もまた、プロリンを蓄積することが示された(Sokhansandzhら、Genetika 33:906,1997)。さらに、E.coliおよび他の細菌は、高培地浸透圧モル濃度に対する応答としてグルタミン酸、GABA、およびプロリンを蓄積する(McLagganら、J.Biol.Chem.269:1911,1994;Measures,J.C.,Nature 257:398,1975;Schleyerら、Arch.Microbiol.160:424,1993;Botsfordら、Appl.Environ.Microbiol.60:2568,1994)。
【0058】
(コハク酸から4−ヒドロキシブチリルCoAへの経路)
コハク酸から4HB−CoAへの変換についての完全な生化学的経路(図4)は、Clostridium kluyveriにおいて特徴付けられている(SohlingおよびGottschalk,1993,Eur.J.Biochem.212,121−127;Wolffら、1993,Appl.Environ.Microbiol.59,1876−1882;Scherfら、1994,Arch.Microbiol.161.239−245)。最近、C.kluyveriのスクシニルCoA:CoAトランスフェラーゼ(cat1)、コハク酸−セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(sucD)、および4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ(4hbD)をコードする遺伝子が同定された(SohlingおよびGottschalk,1996,J.Bacteriol.178,871−880)。これらの遺伝子は、C.kluyveri染色体上の連続したDNA区間に位置し、そして未知機能の3つの遺伝子(orfZ、orfY、およびsigL)により隣接される。この遺伝子は、増殖培地中のコハク酸により誘導されるようである。4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、これらの研究において同定されなかった。
【0059】
(4−ヒドロキシ酪酸合成において作用する酵素をコードする代替遺伝子の同定)
α−ケトグルタル酸またはコハク酸いずれかから4HBへの変換において作用する酵素をコードする代替遺伝子は、相補性研究または発現研究により単離され得る:グルタミン酸−コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ遺伝子は、この遺伝子が、窒素源としてのγ−アミノ酪酸利用についてE.coli gabT変異を相補する能力により、遺伝子ライブラリーから単離され得る。同様に、E.coliにおけるグルタミン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子およびグルタミン酸デカルボキシラーゼ遺伝子の変異は相補され得る。代替的4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の発現は、E.coliが、炭素源として4−ヒドロキシ酪酸を利用するのを可能にする。BLASTPプログラムおよびGenBankデータベースを用いた酵素相同性検索により、E.coliゲノムにおける4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼホモログの存在が示唆される。これらのタンパク質は、遺伝子索引(index)番号:gi|1788795およびgi|1790015と同定された。
【0060】
(組み込みの重要性;ポリマー生成についてのスクリーニング)
株が、接種物計画(inoculum train)および生成操業の期間の間、バイオポリマーを合成する能力を失わないことは、効率的なPHA生成に重要である。任意のphb遺伝子の欠失が産物欠失をもたらすのに対して、新たなモノマーを提供する任意の遺伝子の欠失は、不均一な産物の形成をもたらす。どちらも望ましくなく、従って、株の安定な増殖が必要とされる。不運なことに、トランスフェラーゼまたはシンターゼをコードする遺伝子の単なる組み込みは、有意なポリマー生成をもたらさない。プロモーター領域改変、または変異誘発、または他の既知の技術、それに続くポリマー生成物についてのスクリーニングにより、酵素発現を増強することが必要である。これらの技術を用いて、実施例に記載された株における遺伝子の組み込みは、100,000L容器中での生成に十分な少なくとも50世代の間、安定であることが測定された。
【0061】
これらの組換え体PHAプロデューサーの増殖および形態は、染色体上のphb遺伝子の存在により損われない。選択手順の間、個々の組み込み体は、栄養要求株の単離を回避する最小培地プレート上で選択される。異なるphb組み込み体の増殖速度は、PHBプロデューサーが由来する野生型E.coli株のものと同様であった。phb遺伝子のE.coli染色体への付加は、これらの株が従来の方法によりなお容易に溶解されるので、その株の下流プロセシングに影響を及ぼさなかった。
【0062】
本発明は、以下の限定しない実施例を参照してさらに理解される。
【実施例】
【0063】
(実施例1:PHB−4HB合成の最小必要条件)
ポリ−(R−3−ヒドロキシ酪酸)(PHB)合成の最小必要条件は、A.eutrophusに由来する精製PHAシンターゼ、および基質(R)−3−ヒドロキシブチリルCoAであることが以前に示された。4−ヒドロキシブチリル−CoAは、Clostridium aminobutyricumから単離された酵素4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼにより触媒されるトランスチオエステル化反応を介して、アセチル−CoAおよび4−ヒドロキシ酪酸からインサイチュで調製され得る。この酵素はまた、遊離酸およびアセチル−CoAからの(R)−3−ヒドロキシブチリル−CoAの形成を触媒する。従って、P(3HB−コ−4HB)を形成するための、4−ヒドロキシブチリル−CoAのインサイチュ合成および(R)−3−ヒドロキシブチリル−CoAとのその共重合の最小必要条件は、緩衝化水溶液中のPHAシンターゼ、(R)−3−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ酪酸、アセチル−CoA、および4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼを含む。これは、以下のように実証された:リン酸カリウム緩衝液(1ml、100mM、pH7.5)に、以下を添加した:アセチル−CoA(0.5mL、30mM)
4−ヒドロキシ酪酸ナトリウム塩(50μl、2M)
(R)−3−ヒドロキシ酪酸ナトリウム塩(100μl、1M)
4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼ(10mg、25単位)PHAシンターゼ(0.05mg)
反応物を室温で一晩放置した。不溶性PHA顆粒の形成に注目した。不溶性物質を遠心分離によりペレット化し、そして凍結乾燥した(0.65mg)。この物質は、粘着性の粘調度を有した。有機物質をCDClで抽出し、そしてH−NMRにより分析した。NMR分析により、約20%の4−ヒドロキシ酪酸を含む、ポリ((R)−3−ヒドロキシ酪酸−コ−4−ヒドロキシ酪酸)の形成が確認された。NMRスペクトルは、ポリ((R)−3−ヒドロキシ酪酸−コ−4−ヒドロキシ酪酸)の文献スペクトル(Doi,Y.ら、Macromolecules 1988,21:2722−2727)と一致する。
【0064】
(実施例2:プラスミドによりコードされる経路を用いた、E.coliにおけるポリ(4−ヒドロキシ酪酸)(P4HB)合成)
C.kluyveriに由来するhbcT遺伝子を、標準的な分子生物学的技術を用いてE.coli中で発現した。この遺伝子は、強力なプロモーターの後ろに、そしてこのプロモーターから発現を駆動する条件下で適切なベクターに配置されている。4HBCTを生成する。
【0065】
E.coli株に、C.kluyveriに由来する4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子、およびR.eutrophaに由来するPHBシンターゼをコードする遺伝子を含むプラスミドpFS30を備え付けた。これらの遺伝子は、4−ヒドロキシ酪酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換し、続いて、4−ヒドロキシブチリル−CoAをポリ(4−ヒドロキシ酪酸)に重合すると予想される。株を、炭素源として4−ヒドロキシ酪酸単独またはグルコースと組み合せて有する、10%LB液体培地50〜100mlを含む、250mlエーレンマイアーフラスコ中で増殖させた。培養物を、150または200rpmで振盪しながら30〜33℃でインキュベートした。培養物を、インキュベーションの24時間後に採集し、そしてPHAについて分析した。pFS30を有するE.coli MBX1177(最小4−HB培地上での増殖について選択された、DH5α株の自然変異体)は、その細胞乾燥重量の67%をP4HBホモポリマーとして蓄積する。
【0066】
【表1】

(実施例3:プラスミドによりコードされるPHAシンターゼを用いた、E.coliにおけるポリ(4−ヒドロキシブチレート)(P4HB)合成)
E.coli株に、C.kluyveriに由来する4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含む、プラスミドpFS16を備え付けた。この遺伝子は、4−ヒドロキシ酪酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換し、続いて、4−ヒドロキシブチリル−CoAを、染色体によりコードされるPHBシンターゼによりP4HBに重合すると予想される。株を、炭素源として4−ヒドロキシ酪酸単独またはグルコースと組み合せて有する、10%LBまたは100%LB液体培地50〜100mlを含む、250mlエーレンマイアーフラスコ中で増殖させた。培養物を、0〜250rpmで振盪しながら32〜37℃でインキュベートした。培養物を、インキュベーションの24時間後に採集し、そしてPHAについて分析した。pFS16を有するE.coli MBX769は、その細胞乾燥重量の67%をP4HBホモポリマーとして蓄積する。従って、4HB含有PHAの形成は、プラスミドによりコードされるPHBシンターゼに依存しない。
【0067】
【表2】

(実施例4:phb遺伝子を染色体へ組み込むためのプラスミドの構築)
プラスミドpMUXCcatは、Z.ramigera由来のphbC遺伝子をレシピエント株の染色体に組み込むために、この遺伝子を転位因子上に含む(図5)。強力な翻訳配列を、pTrcベクター(Pharmacia)中で、P.oleovorans由来のphaC1をコードする、PHAシンターゼをコードするpKPS4から得た。この構築物において、phaC1の前には強力なリボソーム結合部位:AGGAGGTTTTT(−ATG)がある。上流の配列を含むphaC1遺伝子を、平滑末端を持つEcoRI−HindIII断片として、pUC18SfiのSmaI部位にクローニングし、pMSXCを作成した。次に平滑末端のcat遺伝子カセットを、平滑末端のSse8387II部位にクローニングし、pMSXCcatを得た。この時点で、5’末端の27塩基対を除く全てのphaC1をコードする領域を、PstI−BamHI断片として除去し、Z.ramigera由来のphbC遺伝子からの対応する断片と置換した。生じるプラスミドpMSXCcatは、P.oleovoransのPHAシンターゼ由来の9アミノ末端残基、およびZ.ramigera由来の残りの部分を有する、ハイブリッドPHBシンターゼ酵素をコードする。次にCcatカセットをAvrII断片として切除し、pUTHgの対応する部位にクローニングした。これにより、このベクターから水銀抵抗性のマーカーを除去した。生じるプラスミドpMUXCcatは、phbCの前にプロモーター配列の無いCcatミニトランスポゾンを含む。従って、組み込みの際のカセットの発現は、組込み部位に隣接したDNAによって与えられる転写配列に依存する。
【0068】
pMSXTpABkan2をpMSXTpkanから次のように構築した(図6および6A)。まず、pMSXTpkanをNdeIで消化し、クレノウ酵素で隙間を埋め、再び連結してNdeI部位が欠失したpMSXTpkan2を得た。この欠失は、クローニング手順の後の段階の間に、Z.ramigeraのphbAのすぐ上流にある唯一のNdeI部位を生じる。
【0069】
をpZT1由来のNarI断片としてクローニングし、そしてpUC18SfiのHincII部位にクローニングして、pMSXBを作成した。AをFseI/blunt−SalI断片としてEclI36II−SalI部位に挿入して、pMSXABを生じ、そしてZ.ramigeraのAB遺伝子間領域を再生した。プロモーターのないcatカセットをpMSXABのHindIII部位に挿入して、pMSXABcatを作成した。pMSXABcat由来のAB断片をEcoRI−PstI断片としてpMSXTpkan2のSamI部位にクローニングし、pMSXTpABkan2を与えた。
【0070】
phbAB5の発現を、これらの遺伝子の上流に強力なプロモーターを導入することによって改善した(図6および6A)。このプロモーターを、上流の活性化配列、−35プロモーター領域、転写開始部位を有する−10プロモーター領域、および安定化機能を有する可能性のあるmRNA配列を提供するオリゴヌクレオチドのセットを用いて生成した。プラスミドpMSXTpABkan2をPstI/XbaIで消化し、lacプロモーターの−10領域を含む断片を、オリゴヌクレオチド3A(5’GGCTCGTATAATGTGTGGAGGGAGAACCGCCGGGCTCGCGCCGTT)および3B(5’CTAGAACGGCGCGAGCCCGGCGGTTCTCCCTCCACACATTATACGAGCCTGCA)をアニーリングした後得られた断片として挿入した。次に、コンセンサスE.coli phoボックスおよび−35プロモーター領域を含む断片を、オリゴヌクレオチド2A(5’TCCCCTGTCATAAAGTTGTCACTGCA)および2B(5’GTGACAACTTTATGACAGGGGATGCA)をアニーリングした後得られた断片として、PstI部位に挿入した。次に、AB由来の転写開始部位を含むメッセンジャー安定化配列をオリゴヌクレオチド4A(5’CTAGTGCCGGACCCGGTTCCAAGGCCGGCCGCAAGGCTGCCAGAACTGAGGAAGCACA)および4B(5’TATGTGCTTCCTCAGTTCTGGCAGCCTTGCGGCCGGCCTTGGAACCGGGTCCGGCA)をアニーリングした後得られた断片としてXbaI−NdeI部位に挿入した。生じるプラスミドがpMSXp12ABkan2である。Tp12ABkan2を含むAvrII断片を、AvrIIで切断したpUTHgにクローニングし、MBX379およびMBX245のゲノムへの組込みに使用した。
【0071】
次にp12ABkan発現カセットを2.8kbのAvrII断片として除去し、pUTHgのAvrII部位へ連結し、E.coli株CC118λpirへ形質転換して、プラスミドpMUXp12ABkanを得た。次にこのプラスミドをE.coli S17−1λpirへ形質転換し、そしてp12ABkan発現カセットをE.coli株の染色体に接合によって挿入するのに使用した(Herreroら、J.Bateriol. 1990、172:6557−6567)。
【0072】
(実施例5:phb遺伝子のE.coli染色体への組込み)
(材料および方法)
E.coli株をLuria−Bertani培地(Sambrookら、Molecular Cloning,a laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)中で37℃もしくは30℃で、または最小E2培地(Lageveenら、Appl.Environ.Microbiol.1988、54:2924−2932)中で増殖させた。DNAの操作は、Qiagenプラスミド調製キットまたはQiagen染色体DNA調製キットを用いて製造会社の推奨に従って精製した、プラスミドおよび染色体DNAで行った。DNAは、制限酵素(New England Biolabs、Beverly、MA)を使用して、製造会社の推奨に従って消化した。DNA断片は、Qiagenキットを使用して0.7%アガロース−Tris/酢酸/EDTAゲルから単離した。
【0073】
プラスミドDNAを、E.coli細胞に形質転換またはエレクトロポレーションによって導入した(Sambrookら、Molecular Cloning,a laboratory manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)。プラスミドドナー株およびレシピエント株を交配することによって、phb遺伝子のpUTベクターからの転移を達成した(Herreroら、J.Bacteriol.(1990)172:6557)。使用されたレシピエント株は、LS5218またはMBX23のいずれかに由来の、自然のナリジクス酸(naladixic acid)またはリファンピシン抵抗性のE.coli変異体であった。MBX23は、rpoS::Tn10対立遺伝子が1106株(Eisenstark)からのP1形質導入によって導入された、LJ14 rpoS::Tn10である。phb遺伝子が染色体に組み込まれたレシピエントを、ミニトランスポゾン、カナマイシン、またはクロラムフェニコールによって特定される抗生物質耐性を補充したナリジクス酸(naladixic acid)またはリファンピシンプレート上で選択した。オリゴヌクレオチドは、BiosynthesisまたはGenesysから購入した。DNA配列をPerkin−Elmer ABI 373A配列分析装置を使用して、自動配列分析によって決定した。DNAを、シンターゼ連鎖反応を用いて50μlの容量で、Gibco−BRL(Gaithersburg、Md)のPCR混合物およびEricompDNA増幅装置を使用して増幅した。
【0074】
蓄積したPHAをガスクロマトグラフィー(GC)分析によって次のように決定した。凍結乾燥した細胞重量で約20mgを、内部標準として添加した2mg/mLの安息香酸と共に、(容量で)90%の1−ブタノールおよび10%の濃塩酸を含む混合物2mL中で、110℃、3時間の抽出およびブタノール分解(butanolysis)に同時に供した。生じた混合物の水溶性の成分は3mLの水で抽出して除去した。有機相(全体の流速が2mL/分で分離比が1:50の1μL)を、FID検出器を備えるHP 5890 GC(Hewlett−Packard Co、Palo Alto、CA)で、SPB−1融合シリカキャピラリーGCカラム(30m、内径0.32mm、0.25μmの膜、Supelco、Bellefonte、Pa.)を用いて、次のような温度プロファイルで分析した。80℃で2分間、1分間あたり10℃づつ250℃まで上昇、250℃で2分。ポリマー中の4−ヒドロキシ酪酸ユニットの存在を試験するための標準として、γ―ブチロラクトンを使用した。これは、ポリ(4−ヒドロキシ酪酸)のように、ブタノール分解の際にn−ブチル4−ヒドロキシ酪酸を生成する。ポリマー中の3−ヒドロキシ酪酸ユニットを試験するために使用した標準は、精製PHBであった。
【0075】
1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロソ−グアニジン(NTG)による突然変異誘発を、Miller(A short course in bacterial genetics、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY)によって述べられたように、99%を殺菌する1mg/mlのNTGで90分間の処理を用いることによって行った。
【0076】
(結果)Ccatを、S17−1λpir(pMUXCcat)ドナー株を使用して、MBX23の染色体に接合によって導入した。接合混合物をLB/N1/Cmプレートにまいて、組込み物(integrants)を得た。その40%はアンピシリンに感受性であり、これらの株にプラスミドが存在しないことを示している。5つの組込み物がpMSXABcat(Ap)によって形質転換され、PHBシンターゼの生合成活性を調べるために、LB/Ap/Cm/2%グルコース中で培養した。MBX326が最も高いシンターゼ活性を発現し、さらなる研究に使用した。PHBシンターゼの発現は、MBX326を100、200、500、および1000μg/mlのクロラムフェニコールを含むLBプレート上で、連続的に画線培養することによって増加した。MBX379株はMBX326由来であり、1000μg/mlまでクロラムフェニコール耐性を示す。
【0077】
pMUXp12ABkanを含むE.coli S17−1λpirをMBX379と交配した。phbABkanが染色体に組み込まれた遺伝子導入細胞株を、LB/N1/Kmプレート上で選択した。組込み物の中で、PHBを産生するものをLB/グルコースプレート上で同定し、MBX677(MBX379::p12ABkan)をさらなる研究に使用した。2%のグルコースを補充した最少培地中では38%のPHBが蓄積されたのに対し、Luria−Bertani/2%グルコース培地で培養されたこの株のPHB量は58%であった。
【0078】
(実施例6:PHB産生を高めるための遺伝子導入E.coli株の突然変異誘発)
NTGまたはEMSを用いた突然変異誘発を、MBX680におけるPHB形成を改善させるために使用した。MBX680をEMSおよびNTGで処理した後、それぞれMBX769およびMBX777株を選択した。これらの細胞株は1%グルコース、0.5%corn steep liquorおよび1mg/mlのクロラムフェニコールを補充したR2培地で培養し得る。MBX769を50mlのR−10培地/0.5%CSL中で2または3%のグルコースと共に、37℃で20から26時間培養した。PHBは細胞乾燥重量の71%蓄積した。同様に、MBX769を50mlのLB中で0.375g/LのKHPO、0.875のKHPO、および0.25の(NHSO、および全体で50g/Lのグルコースと共にまたは無しに、培養した(5つのアリコートをインキュベーションの間に加えた)。63時間インキュベートした後、PHBは細胞乾燥重量の96%まで蓄積した。2%グルコースを補充した最少培地中では57%のPBHが蓄積したのに対して、Luria−Bertani/2%グルコース培地で増殖させたMBX777株中のPHB量は67%であった。
【0079】
MBX379由来のC5cat対立遺伝子を、LS5218、LS5218fadAB101::Tn10およびLS5218fadRzcf117::Tn10へP1形質導入することによって、染色体phbC遺伝子を有する改良遺伝子導入E.coli株を得た。生じる株はそれぞれMBX816、MBX817およびMBX821である。
【0080】
(実施例7:内因性4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼ活性を用いたE.coliでのポリ(4−ヒドロキシ酪酸)(P4HB)の合成)
E.coliは4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼ活性を有する酵素をコードする内因性の遺伝子を含む。MBX821および1231株を、単独または炭素供給源としてグルコースと組み合わせた4−ヒドロキシ酪酸と共に、50から100mlの10%LB液体培地を含む250mlのエーレンマイヤーフラスコで増殖させた。MBX1231は、1−メチル−3−ニトロ−1−ニトロソグアニジンで処理した後、500μg/mlのクロラムフェニコールを含むプレート上で選択して得られた、MBX821の変異体である。培養物を32℃から33℃で、200rpmで振盪しながらインキュベートした。24時間インキュベートの後培養物を収集し、PHAに関して分析した。表xはこれらの株がP4HBホモポリマーとして細胞乾燥重量の2.5から3.5%を蓄積していることを示している。この株におけるP4HB形成は、PHBシンターゼをコードするプラスミドまたは異種由来の発現した4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼによらない。これらの株を固形培地上で培養すると、P4HB量は11%程度まで向上する。
【0081】
【表3】

(実施例8:空気非感受性4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼのスクリーニング方法)
C.kluyveri由来の4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼは空気、おそらく酸素によって阻害されるようである。高酸素条件下でP4HBを合成するために、4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼをコードするhbcT遺伝子をプラスミド上に有し、そしてPHAシンターゼ遺伝子を染色体上に有するE.coli株の変異体を増殖させ、そして細胞群の大多数が灰色のコロニーを形成する場合に、白色のコロニー(PHAの蓄積を示す)を探索することによって、酸素非感受性変異体をスクリーニングし得る。酸素非感受性細胞株MBX240[pFS16]、MBX379[pFS16]およびMBX830[pFS16]をこの方法を用いて同定した。変異体の集団は、インビボでもとの株をN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンまたはエチルメタンスルホン酸のような化学的突然変異原、または紫外線照射で処理することにより産生し得る。あるいは、hbcTを含むプラスミドに、インビトロでヒドロキシルアミンを用いて突然変異を誘発し得る。次に機能的な4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼを発現している変異体を、固形培地または高度に酸素添加した液体培地中で、4−ヒドロキシ酪酸からのP4HB形成に関してスクリーニングする。
【0082】
(実施例9:4−ヒドロキシブチリル−CoA生合成酵素をコードする追加のE.coli遺伝子のスクリーニング方法)
MBX821または1231中で、4HBを4HBCoAに変換する酵素活性の発現を、突然変異誘発によって増大させ得る。固形培地中で増殖させたMBX821および1231中のP4HBの出現には約150時間かかった。改善されたP4HBを蓄積する性質を有する変異体は、これらの細胞株をN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンまたはエチルメタンスルホン酸のような化学的突然変異原、または紫外線照射を用いて、無作為に突然変異誘発した後スクリーニングし得る。望ましい変異体は、4−ヒドロキシ酪酸存在下で、インキュベーションして2から5日以内に白色コロニーを形成する。
【0083】
(実施例10:4−ヒドロキシブチリル−CoA生合成酵素をコードする他の遺伝子のスクリーニング方法)
植物系が関与する適用には高GC含有量のDNAが必要であるので、代わりの4−ヒドロキシブチリル−CoA生合成遺伝子を同定および単離する必要がある。hbcT遺伝子の低いGC含有量は、他のATリッチなDNAを含む微生物から相同遺伝子を同定および単離するのに有用なプローブとなる。しかし、高GC含有量のhbcT遺伝子は、この方法によっては同定されない。染色体に組み込まれたPHAシンターゼをコードするphbC遺伝子を持つE.coli細胞株を、そのような遺伝子のスクリーニングに使用し得る。遺伝子を植物に導入する適用のためには、高GC含有量のDNAを使用することが望ましい(Perlak F.J.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1991)88:3324)。例えばhbcT遺伝子がE.coli MBX379で発現された場合、この細胞株は通常の栄養素に加えて4−ヒドロキシ酪酸を含む寒天プレート上でP4HBポリマーを産生し得る。P4HBの形成によってコロニーは簡単に区別できる白色の表現型を持つ。従って、例えば、R.eutropha、A.latus、P.acidovorans、C.testosteroniおよび他のPHB−co−4HB産生生物の遺伝子ライブラリーを、MBX379または同様の細胞株に導入し、4HBを含む増殖培地に直接プレートする。白色コロニーを選択し、蓄積したPHAの組成を決定する。遺伝子ライブラリーは、ゲノムDNAを単離し、DNA断片の代表的な集団をプラスミドベクターにクローニングすることによって、選択した生物から簡単に構築される。代表的なライブラリーは5,000から100,000個のコロニーを持つ。ライブラリーはpLAFR3のようなベクター中の広い宿主域のライブラリーとして、またはpUC19、pBR322のようなベクター中のE.coliライブラリーとしてのいずれかで作製される。ライブラリーのタイプおよびライブラリーを選択した宿主に導入する方法によって、ゲノムDNA断片は大きいか(17−30kb)または比較的小さいか(2−6kb)のいずれかである。ライブラリーを、宿主および使用するベクターに依存して、エレクトロポレーション、形質転換または接合によって、スクリーニング細胞株に導入する。
【0084】
代わりの4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼに加えて、4−ヒドロキシ酪酸を基質として利用し得るアシルCoAシンテターゼがこの方法によって単離される。そのような一般的な活性をもつ酵素をコードする遺伝子の例は、長側鎖脂肪酸の取り込みに関与するfadD、アセト酢酸および短側鎖脂肪酸の取り込みに関与するatoDA、芳香族化合物の分解に関与するcatE、スクシニルCoAシンテターゼをコードするaceAB、アセチルCoAシンテターゼをコードするacsAおよびacsB、およびそのような遺伝子の相同物である。あるいは、無作為に突然変異誘発したアシルCoAシンテターゼまたはトランスフェラーゼ遺伝子を持つプラスミドを導入することによって、これらの酵素の基質特異性を、4−ヒドロキシ酪酸を含むように拡大し得る。あるいは、C.kluyveri由来のhbcT遺伝子と有意な相同性を持つE.coli由来のygfH遺伝子を4−ヒドロキシブチリル−CoA活性に関して調査し得る。
【0085】
(実施例11:α−ケトグルタル酸からの4HB−CoAの内因性合成)
α−ケトグルタル酸は図7に示したように、4HBに変換し得る細胞代謝物である。その経路は、gabT、gadA/gadBおよびgdhA遺伝子産物によって触媒される回路反応からなる。一旦生成物が4−HBデヒドロゲナーゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼによってさらに4HB−CoAに変換され、PHAシンターゼによってPHAに重合されると、この回路からのコハク酸セミアルデヒドの形成に有利である。
【0086】
この目的のために、次のプラスミドをpMSXcatで構築した。
【0087】
1.pMSX−TD hbcT−4hbD2.pMSX−ABT gdhA−gadB−gabT3.pMTX−DBTT 4hbD−gadB−gabT−hbcT4.pMSX−ABTTD gdhA−gadA−gabT−hbcT−4hbD。
【0088】
1.4hbDをpCK3から次のプライマーを用いたPCRによって得た:4HBD−N:5’CTCTGAATTCAAGGAGGAAAAAATATGAAGTTATTAAAATTGGC(EcoRI)
4HBD−C:5’TTTCTCTGAGCTCGGGATATTTAATGATTGTAGG(SacI)。
【0089】
PCR産物をpCR2.1(pMBX−D)にクローニングした。hbcTをpCK3由来のSspI−EcoRI断片としてクローニングし、EcoRV/EcoRIで消化したpMBX−Dにクローニングして、pMBX−TDを得た。人工的なhbcT−4hbDオペロンをpMBX−TDからNotI−KpnI断片として切り出し、pUC18SfiまたはpMSX−TP1のこれらの部位へ連結した(それぞれpMSX−TDおよびpMSX−TPTD)(図8)。TDまたはTP−TD断片をAvrII断片として切り出し、AvrIIで消化したpUTkanに連結した(pMUX−TDおよびpMUX−TP−TD)。このプラスミドはTD/TP−TD構築物をE.coli染色体に無作為に挿入することを可能にする。組み込まれたTDの発現は、内因性のプロモーターによって進められ、一方、組み込まれたTP−TDの発現は、Pによって進められる。構築物が組み込まれた組換え体を、4−ヒドロキシ酪酸を唯一の炭素供給源として成育する能力に関して選択した。望ましい挿入物を選択するのに抗生物質耐性マーカーは必要でなかった。
【0090】
コハク酸セミアルデヒドから4−ヒドロキシブチリルCoAへの変換を促進する酵素をコードする他の遺伝子は、相補性による通常の手順で単離され得る。4hbD相同物の導入後、そのような遺伝子によって野生型E.coli細胞株は4HBを唯一の炭素供給源として利用する能力を得る。
【0091】
2.gdhA−gadA−gabTからなるオペロンをプラスミドpUC18Sfi中に作製し、pUTkanベクターを用いてE.coli染色体に挿入した。構築物の受容細胞をE2/グリセロール/_γ−ヒドロキシ酪酸/N1プレート上で単離した。受容細胞株は(gabT突然変異のために)γ−ヒドロキシ酪酸を窒素供給源として利用できないので、オペロンを発現している細胞株のみがこの培地中で成育する。gdhA遺伝子をE.coli染色体からPCRおよび次のプライマーを用いて得た:GH−Up:5’AACGAATTCAATTCAGGAGGTTTTTATGGATCAGACATATTCTCTGGAGTC(EcoRI)
GH−Dn:5’TTGGGAGCTCTACAGTAAGAAATGCCGTTGG(SacI)。
gadB遺伝子をE.coli染色体からPCRおよび次のプライマーを用いて得た:GB−Up:5’TAAGAGCTCAATTCAGGAGGTTTTTATGGATAAGAAGCAAGTAACGGATTTAAGG(SacI)
GB−Dn:5’TTCCCGGGTTATCAGGTATGCTTGAAGCTGTTCTGTTGGGC(XmaI)。
gabT遺伝子をE.coli染色体からPCRおよび次のプライマーを用いて得た:GT−Up:5’TCCGGATCCAATTCAGGAGGTTTTTATGAACAGCAATAAAGAGTTAATGCAG(BamHI)
GT−Dn:5’GATTCTAGATAGGAGCGGCGCTACTGCTTCGCC(XbaI)。
【0092】
上記のプライマーの設計に使用したDNA配列情報は、GenBank、受け入れ番号:K02499(gdhA)、M84025およびX71917(gadB)、M88334(gabT)から得た。
【0093】
3つのPCR産物を示された酵素で消化し、続いてpUC18Sfiベクターにクローニングした(pMSX−ABT)(図9)。オペロンをEcoRI−SalI断片として切り出し、pMSXTPにクローニングした(pMSX−TP−ABT)。ABTまたはTP−ABT挿入物のいずれかをpUTkanに移動させ、gdhA−gadA−gabTオペロンをE.coli MBX245のgabT変異体の染色体中に挿入するのを可能にした。うまく挿入されたものをE2/グリセロール/γ−ヒドロキシ酪酸/N1プレート上で選択した。
【0094】
gabTの発現はγ−ヒドロキシ酪酸を窒素供給源として利用することを可能にするので、この機能を発現する遺伝子は、γ−ヒドロキシ酪酸が唯一の窒素供給源である最少培地プレート上で簡単に選択できる。オペロンの末端にあるgabTの発現は、直接的に選択することができない上流遺伝子の転写を必要とする。
【0095】
グルタミン酸デヒドロゲナーゼはこの経路で、グルタミン酸を触媒量提供する供給源として機能する。十分なグルタミン酸が存在すれば、追加のGdhA活性は不必要であり得る。従って望ましい構築物へのこの遺伝子の組込みは任意である。
【0096】
3.1および2において述べられたオペロンを次のように組み合わせた。pMSX−TDをKpnIで消化し、T4ポリメラーゼ処理し、XhoIで消化した;pMSX−ABTまたはpMSX−BTをHindIIIで消化し、クレノウ処理し、SalIで消化した;次に、精製したTD断片を、調製したpMSX−ABTおよびpMSX−BTプラスミドに連結した(図9)。
【0097】
(実施例12:GABA前駆体からの4HBCoAの内因性合成)
通常の代謝物GABAはグルタミン酸由来であり、通常主要な代謝ではコハク酸セミアルデヒドを経てコハク酸に代謝される。P4HB形成の、高レベルの中間体を得るために、GABAへの経路を向上させることが望ましくあり得る。グルタミン酸デヒドロゲナーゼによるα−ケトグルタル酸からグルタミン酸への直接の変換の他に、この変換はまた、例えばグルタミン酸および他のアミノ酸、またはプトレッシンのような基質を用いた多くのアミノ基転移反応の一部である。従って、アルギニン(プトレッシンの前駆体)、グルタミン、またはプロリンを過剰に生成する組換えおよび変異生物は、上記で述べられたようにgabT、4hbD、およびhbcTを用いて4HB−CoAの方へ向けられ得るグルタミン酸およびGABAのレベルを増加させた(図10)。
【0098】
(実施例13:コハク酸からの4HBCoAの内因性合成)
おそらくSucD、4HBDおよびCat1の逆転作用が、4HBをE.coliでの主要な代謝物であるコハク酸に変換するため、cat1、4hbDおよびsucDが導入されている場合、HbcTは4−ヒドロキシ酪酸上でE.coliが成育するのには必要でない(SohlingおよびGottschalk、1996、J.Bacteriol. 178、871−880)。原則として、これらの遺伝子は共にコハク酸から4−HBへの変換を可能にする。そこで、図4に描かれた経路をC.kluyveriのcat1、sucD、4hbD、およびhbcT遺伝子から組み立て得る。あるいは、これらの遺伝子を、C.aminobutyricumのような他のClostridium種から単離し得る。E.coliは自身のスクシニルCoA:CoAトランスフェラーゼを持っているが(sucCD;Mat−Janら、Mol.Gen.Genet.(1989)215:276−280)、E.coliではこの活性は顕著でないので、この遺伝子を他の供給源から導入することが望ましい(AmarasinghamおよびDavis、J.Biol.Chem.(1965)240:3664−3668)。あるいは、E.coli遺伝子の発現をこの適用のために最適化し得る。
【0099】
hbcT−cat1−sucD−4hbDからなるオペロンを、E.coli染色体に組み込むために構築した。組込みが成功した細胞株は、4hbDが発現していれば、4HB上で成育し得る(SohlingおよびGottschalk、1996、J.Bacteriol. 178、871−880)。このオペロンの構築は次のように行った(図11):orfY、cat1、sucD、および4hbDの5’末端を含むpCK3由来のBamHI−PstI断片を、pMSXcatの対応する部位に連結した(pMSX−Y1D)。4hbD遺伝子を、pMSX−DのPstI−SacI断片をPstI−SphIで消化したpMSX−Y1Dに挿入することにより完成させた(pMSX−Y1DD)。これを行うために、この連結の断片を両方、SphIおよびSacI消化の後、T4ポリメラーゼで処理し、さらにPstI消化を始める前に平滑末端を作製した。pMSX−Y1DDをBamHIおよびPacIで消化し、次にクレノウ/T4ポリメラーゼで断片を平滑末端化し、脱リン酸し、次にSspI/EcoRI、クレノウ処理したhbcT断片をこのベクターに連結することによって、pMSX−Y1DDのorfYを、hbcTで置換した(pMSX−T1DD)。調節配列、ターミネーターおよびプロモーターを提供する断片を、平滑末端断片としてpMSX−T1DDのSmaI部位に挿入した。このオペロンの組込みプラスミドを、pMSX−T1DDの挿入配列をSfiI断片としてpUTkanにクローニングすることによって構築した。
【0100】
(実施例14:向上した内因性の4HBCoA合成)
中間体がこれらの新しい経路から出て行くのを防ぐために、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(aspC)、およびNADPおよびNAD依存性コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子(sadおよびgabD)を不活性化することが望ましいとされ得る。個々の遺伝子の変異を異なった供給源から得た:aspC13I変異を含む細胞株をE.coli GeneticStock CenterからCGSC5799細胞株として得る。aspC遺伝子は21.1分に位置し、従ってCAG12094(22.25分のzcc−282)またはCAG18478(20.00分のzbj−1230)のTn10(Tc)マーカー、およびCAG12130(21.00分のzcb−3111)のTn10Kmマーカーと連関する。gabD遺伝子の変異は知られておらず、PCRにより遺伝子をクローニングし、抗生物質耐性のような遺伝的マーカーを挿入し、recBC細胞株またはpMAK705のようなこの目的のために構築されたベクターを用いて組み込み、最後に、遺伝子を望ましい宿主に運ぶためにバクテリオファージP1形質導入することによって、この活性を欠失させ得る。
【0101】
(実施例15:脂肪種子作物におけるPHAシンターゼおよび4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼの発現)
PHAシンターゼ導入遺伝子を含むトランスジェニック植物で発現され得る、4−ヒドロキシ酪酸から4−ヒドロキシブチリルCoAを形成することができる(すなわち、4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ活性を持つ)酵素をコードする遺伝子の同定方法を、標準的な手順で開発した。ある場合には、β−ケトチオラーゼおよび/またはアセトアセチルCoA還元酵素のような他のPHA生合成遺伝子を関心のある植物作物で発現させることもまた、有用であり得る。PHAシンターゼ導入遺伝子を脂肪種子作物で発現させる方法は記載されており(米国特許第5,245,023号および米国特許第5,250,430号;米国特許第5,502,273号;米国特許第5,534,432号;米国特許第5,602,321号;米国特許第5,610,041号;米国特許第5,650,555号;米国特許第5,663,063号;国際公開第WO9100917号、国際公開第WO9219747号、国際公開第WO9302187号、国際公開第WO9302194号および国際公開第WO9412014号、Poirierら、1992 Science 256:520−523、WilliamsおよびPeoples、1996 Chemtech 26、38−44)、これらは全て本明細書中に参考として援用される。この目標を達成するために、PHAシンターゼをコードする遺伝子、または1つより多くのサブユニットを持つPHAシンターゼの場合は複数の遺伝子を微生物から植物細胞に運び、PHAシンターゼ酵素の適当な産生レベルを得ることが必要である。それに加えて、さらなるPHA生合成遺伝子、例えばアセトアセチルCoA還元酵素遺伝子、4−ヒドロキシブチリル−CoAトランスフェラーゼ遺伝子または、PHAシンターゼ酵素の基質を合成するのに必要な酵素をコードする他の遺伝子を提供することが必要であり得る。多くの場合、当業者に既知の方法で、異なった植物組織または細胞小器官での発現を調節することが望ましい(GasserおよびFraley、1989、Science 244;1293−1299;Gene Transfer to Plants(1995)、Potrykus,I.およびSpangenberg,G.編、Springer−Verlag Berlin Heidelberg New York.および“Transgenic Plants:A Production Systemfor Industrial and Pharmaceutical Proteins”(1996)、Owen,M.R.L.およびPen,J.編、John Wiley&Sons Ltd. England)。これらは全て本明細書中に参考として援用される。米国特許第5,610,041号は、核の遺伝子からプラスチドへ発現されたタンパク質を導くために、リーダーペプチドを加えることによる、プラスチドへ発現を記載している。より最近の技術は、外来性の遺伝子を組換えにより直接的にプラスチド染色体に入れる直接挿入を可能にする(Svabら、1990、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.87:8526−8530;McBrideら、1994、Proc.Natl.Acad.Sci.USA.91:7301−7305)。プラスチドRNAおよびタンパク質合成機構の原核生物的性質はまた、例えばA.eutrophusのphbCABオペロンのような、微生物のオペロンの発現を可能にする。この技術は、複数の酵素が関与する経路をコードする一連の遺伝子を、プラスチドゲノムに直接組み込むことを可能にする。mRNAの安定性および翻訳に関して、プラスチド遺伝子の5’非翻訳領域の重要性を考慮に入れることもまた、重要である(Hauserら、1996、J.Biol.Chem. 271:1486−1497)。ある場合には、オペロンによってコードされる導入遺伝子の発現を最大限にするために、5’非翻訳領域を再遺伝子操作すること、二次構造エレメントを除去すること、または高度に発現しているプラスチド遺伝子由来のエレメントを加えることが有用であり得る。
【0102】
(発明の効果)
本発明によって、組換えプロセスが提供され、それにより、代替PHAのモノマー(例えば、4HB)を合成する新たな株を作り出すために、さらなる遺伝子が、トランスジェニックPHBプロデューサーに導入され得る。
【0103】
本発明によってさらに、唯一の構成物またはコモノマーいずれかとして4−ヒドロキシ酪酸を含むPHAを合成するトランスジェニック生物を安定に作る、技術および手順が提供される。
【0104】
本発明によってまた、新たな4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼをコードする遺伝子のスクリーニングシステムが提供される。
【0105】
本発明によってまた、代替PHAモノマー内因合成のために、生物学的システムにおいて新たな経路を操作する技術および手順が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1A】図1Aは、C.kluyveri OrfZ配列と、C.aminobutyricumに由来する4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ(4HBCT)のN末端配列および内部配列とのアラインメントである(配列番号1および2)。同一残基を示し、類似残基はで示される。
【図1B】図1Bは、C.kluyeriに由来するorfZ遺伝子のヌクレオチド配列である。
【図1C】図1Cは、C.kluyeriに由来するorfZ遺伝子のヌクレオチド配列である。
【図1D】図1Dは、C.kluyeriに由来するorfZ遺伝子のアミノ酸配列である。
【図2】図2は、GABA分路によるα−ケトグルタル酸からの4−ヒドロキシブチリルCoA内因合成の模式図である。1.α−ケトグルタル酸アミノトランスフェラーゼ;2.グルタミン酸デカルボキシラーゼ;3.GABAトランスアミナーゼ;4.コハク酸セミアルデヒドレダクターゼ;5.4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ。
【図3】図3は、GABA前駆体からの4−ヒドロキシブチリル−CoA内因合成の模式図である。GABAは、アミノ酸(例えば、アルギニン、グルタミン、およびプロリン)分解における中間体である。アルギニン分解の遺伝子は、speA、adi、speB、pat、およびprrによりコードされ、グルタミン分解の遺伝子は、gltBDおよびgadBによりコードされ、プロリン分解の遺伝子は、putAおよびgadBによりコードされる。GABAは、gabT、4hbD、およびhbcTの遺伝子産物により4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換される。
【図4】図4は、コハク酸からの4−ヒドロキシブチリルCoAの内因合成の模式図である。1.スクシニルCoA−CoAトランスフェラーゼ;2.コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ;3.4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ;4.4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼ。
【図5】図5は、Z.ramigeraに由来するPHBシンターゼ(phbC)遺伝子の、E.coliおよび他のグラム陰性細菌染色体への組み込みのためのプラスミド構築の模式図である。
【図6】図6は、Z.ramigeraに由来する3−ケトアシル−CoAチオラーゼ(phbA)およびアセトアセチル−CoAレダクターゼ(phbB)遺伝子の、E.coliおよび他のグラム陰性細菌染色体への組み込みのためのプラスミド構築の模式図である。
【図6A】図6A(図6のつづき)は、Z.ramigeraに由来する3−ケトアシル−CoAチオラーゼ(phbA)およびアセトアセチル−CoAレダクターゼ(phbB)遺伝子の、E.coliおよび他のグラム陰性細菌染色体への組み込みのためのプラスミド構築の模式図である。
【図7】図7は、4−ヒドロキシブチリル−CoA合成のための操作生合成経路に関する代謝表示および遺伝子表示の模式図である。gabT、4hbD、およびhbcTの遺伝子産物はこの経路に必要とされ、gadABおよびgdhAは有用であるのに対して、aspC、sad、およびgabDの遺伝子産物は、好ましくは、欠失しているか、または不活性である。
【図8】図8は、プラスミドpMSX−TD、およびpMSXTp1−TD(これは、α−ケトグルタル酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換する酵素を発現する)構築の模式図である。
【図9】図9は、プラスミドpMSX−ABT、pMSXTp1−ABT、およびpMSXTp1−BT(これは、α−ケトグルタル酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換する酵素を発現する)構築の模式図である。
【図10】図10は、プラスミドpMSX−ABTおよびpMSX−ABT−TD(これは、α−ケトグルタル酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換する酵素を発現する)構築の模式図である。
【図11】図11は、コハク酸を4−ヒドロキシブチリル−CoAに変換する酵素を発現する、プラスミドpMSX−T1DD構築の模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
宿主において4HBを含むポリマーの生成を増強するための方法であって、該方法は、以下の工程:
ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼからなる群より選択される異種酵素をコードする遺伝子を、該宿主のゲノムに安定に取り込む工程、ならびに
該異種酵素の発現を増強する工程、
を包含する、方法。
【請求項2】
前記宿主が、ポリヒドロキシアルカノエートシンターゼおよび4HB−CoAトランスフェラーゼの両方をそのゲノムに安定に組み込んだ、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記発現が、前記宿主を変異させ、続いて基質として4HBを提供し、そして変異宿主によるポリマー生成についてスクリーニングすることにより増強される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
α−ケトグルタル酸トランスアミナーゼ、グルタミン酸−コハク酸セミアルデヒドトランスアミナーゼ、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、グルタミン酸デカルボキシラーゼ、4−ヒドロキシ酪酸デヒドロゲナーゼ、および4−ヒドロキシブチリルCoAトランスフェラーゼからなる群より選択される酵素を発現する宿主を提供する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
アルギニン、グルタミン、またはプロリンを分解して、γアミノ酪酸を生成する酵素を発現する宿主を提供する工程をさらに包含する、請求項1に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図1D】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図6A】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−171960(P2009−171960A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−328227(P2008−328227)
【出願日】平成20年12月24日(2008.12.24)
【分割の表示】特願2003−132325(P2003−132325)の分割
【原出願日】平成10年9月18日(1998.9.18)
【出願人】(398055233)メタボリックス,インコーポレイテッド (18)
【Fターム(参考)】