説明

4波混合誘導散乱装置

【課題】従来の誘導散乱増幅器は増幅効率が低く、また4波混合誘導散乱過程は計測器に用いられていたが、光強度の空間的一様性に欠けていた。
【解決手段】4波混合誘導散乱過程を利用した装置であって、2本の励起光と1本のストークス光を、誘導散乱容器に入射するとともに、他の2本の励起光と1本のストークス光を入射し、それぞれが、ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称な方向で、ライトガイド入口面で重なるように入射させる。励起光、ストークス光、被増幅光を、入射するときは、増幅器として動作する。また、励起光とストークス光を、入射し、被増幅光を入射しないときは、生成器として動作する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大出力の4波混合誘導散乱光に効率よく変換する誘導散乱装置、増幅器および生成器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の誘導散乱増幅器は、誘導散乱波動を介して、励起光エネルギーをストークス光エネルギーに変換し、被増幅光強度を増加させるものであった。図10は従来の一般的な誘導散乱増幅器の例である。誘導散乱容器12に、励起光1と被増幅光41を波長選択鏡10で重ねて入射し、増幅された被増幅光41を、出力側の波長選択鏡11で分離して得ていた。このような従来の誘導散乱増幅器における誘導ラマン散乱過程のエネルギー準位を図11に示して増幅の原理を説明する。従来の誘導散乱増幅器では、基底エネルギーレベルAにあった誘導散乱媒質分子が、励起光1でエネルギーレベルCまで励起される。その分子が励起エネルギーレベルCからBへ遷移するとき、被増幅光のエネルギーと誘導散乱媒質分子の波動エネルギー9に分割され、被増幅光41のエネルギーを大きくしていた。
【0003】
また、反射鏡を中空の四角柱をなすように配置した誘導散乱増幅器として、本願発明者が開発した誘導ラマンパルス増幅器(特許文献1参照)が知られている。この誘導ラマンパルス増幅器は、励起光からの自発光、および被増幅光からの自発高次光の生成を抑制して、変換効率の高く、出力パワー密度の高い誘導散乱増幅器である。
【0004】
また、誘導散乱増幅を用いて多数本のレーザービームを高出力な1本のストークス光に変換するレーザービーム統合器として、本願発明者等が開発したライトガイドを構成する上下一組の反射鏡と左右一組の反射鏡を用いたレーザービーム統合器(特許文献2参照)がある。
【0005】
4波混合誘導散乱を用いた技術として、CARS(コヒーレントアンチストークス光ラマン散乱光生成)と呼ばれる反ストークス・ラマン分光法が知られ、媒質の構成成分の分析に用いられている。図12(a)はCARSの構成を示す図である。図12(a)に示すように、励起光1とストークス光2の交点である位置P点で、生成光42を生成させていた。
【0006】
CARS(コヒーレントアンチストークス光ラマン散乱光生成)の従来の4波混合誘導散乱では、図12(b)に示すような波数ベクトルの整合条件下記(式1)を満たす必要がある。K1、K2、K42は、それぞれ、励起光1、ストークス光2、生成光42の波数ベクトルである。波数ベクトルの方向はそれぞれの光の伝搬方向であり、波数ベクトルの大きさは波長の逆数である。
K1+K1=K2+K42 (式1)
【0007】
図13は4波混合誘導散乱におけるラマン散乱過程のエネルギー準位を示す図である。基底エネルギーレベルAにあった誘導散乱媒質分子(CARSの場合は分析するP地点での構成成分)は、励起光1とストークス光2によって励起エネルギーレベルBに励起される。励起エネルギーレベルBの誘導散乱媒質分子は、再度、励起光1でエネルギーレベルBからDに励起される。その励起分子がエネルギーレベルDからAに遷移するとき、生成光42が生成していた。図12(a)に示すように、生成光42は、励起光1とストークス光2で決まる特定の方向に伝搬するので計測が容易であった。
【特許文献1】特開平6−37407号公報
【特許文献2】特開平10−111525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の誘導散乱増幅器では、図11に示すように、励起光1エネルギーが被増幅光41エネルギーと誘導散乱媒質分子の波動エネルギー9に分割されることになるので、励起光から被増幅光エネルギーへの変換効率は、どうしても波動エネルギー分だけ小さくなるという問題があった。波長が赤外域のガラスレーザー光と水素ガス媒質を用いた場合は36%、紫外域のエキシマレーザーと水素ガス媒質を使用した場合は9%の効率低下がある。
【0009】
反射鏡を中空の四角柱をなすように配置した誘導散乱増幅器(特許文献1参照)では、図10の従来の誘導散乱増幅器と同じく、励起光から被増幅光エネルギーへの変換効率がどうしても波動エネルギー分だけ小さくなるという問題があった。また、従来のレーザービーム統合器(特許文献2参照)も、図10の従来の誘導散乱増幅器と同じく、励起光から被増幅光エネルギーへの変換効率がどうしても波動エネルギー分だけ小さくなるという問題があった。
【0010】
一方、CARSなどの計測分野で用いられている従来の4波混合誘導散乱においては、図12(b)に示すような波数ベクトルの整合条件(式1)を満たす必要がある。図12(c)は、励起光1とストークス光2が重なる測定点Pでの、励起光1とストークス光2の伝搬方向と生成光42の伝搬方向を示す。励起光1とストークス光2の交差角度はT1とすると、生成光42と励起光1との交差角度は、T2である。
【0011】
このように、4波混合誘導散乱生成では、励起光1、ストークス光2及び生成光42は、それぞれ伝搬方向が特定される。図14は、4波混合誘導散乱生成における励起光1、ストークス光2及び生成光42の伝搬方向の違いによる損失を示している。励起光1とストークス光2は、誘導散乱容器12の入射窓13(図14の左側)から入射する。その入射窓13上で、励起光1、ストークス光2を重ねている。生成光42は、誘導散乱容器中で励起光1とストークス光2により波数ベクトルの整合条件を満たす方向に生成される。誘導散乱容器の入射窓13上での、励起光1、ストークス光2及び生成光42のビーム断面を51と52の範囲で示している。4波混合誘導散乱は、励起光1、ストークス光2及び生成光42に、波数ベクトルの整合条件という伝搬方向に制約があるので、出射窓14上では、励起光1のビーム断面は55と58の範囲、ストークス光2のビーム断面は53と57の範囲、生成光42のビーム断面は56と59の範囲となる。励起光1、ストークス光2及び生成光42が完全に重なる部分(51、54、56、57を頂点する四辺形部分)以外では、生成光42が成長できない部分ができる。このため、変換効率の低下及びビームの空間強度分布の乱れという問題がある。
【0012】
また、4波混合誘導散乱を利用する生成器を含め、4波混合誘導散乱を利用する誘導散乱装置を考えた場合に、同様の問題が考えられる。
【0013】
本発明は、これらの問題を解決しようとするものであり、励起光から被増幅光エネルギーへの増幅効率が高く、または励起光から生成光への生成効率が高く、さらにビームの空間強度分布の一様性を向上させた、4波混合誘導散乱装置、増幅器及び生成器を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
そして、本発明は、上記目的を達成するために、以下の特徴を有するものである。
【0015】
本発明の4波混合誘導散乱装置は、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光、被増幅光及び生成光の波長の光を反射する対向する反射鏡で構成されるライトガイドを具備していることを特徴とする。ここで、反射鏡は、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡を用いることが望ましい。
【0016】
本発明の4波混合誘導散乱装置は、少なくとも励起光及びストークス光が、4波混合誘導散乱過程の波数ベクトルの整合条件を満たす方向で入射することを特徴とする。
【0017】
本発明の4波混合誘導散乱装置は、励起光及びストークス光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、別の励起光及びストークス光を追加して入射することを特徴とする。
【0018】
本発明の4波混合誘導散乱装置は、4波混合誘導散乱過程の波数ベクトルの整合条件を満たす方向に、励起光、ストークス光及び被増幅光を入射し、ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称の角度で、別の励起光、ストークス光及び被増幅光を入射するときは、4波混合誘導散乱増幅器として動作することを特徴とする。
【0019】
本発明の4波混合誘導散乱装置は、4波混合誘導散乱過程の波数ベクトルの整合条件を満たす方向に、励起光及びストークス光を入射し、ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称の角度で、別の励起光及びストークス光を入射し、被増幅光を入射しないときは、4波混合誘導散乱生成器として動作することを特徴とする。
【0020】
本発明の4波混合誘導散乱増幅器は、励起光、ストークス光及び被増幅光を入射する4波混合誘導散乱増幅器であって、励起光4本、ストークス光2本及び被増幅光2本を用い、励起光、ストークス光及び被増幅光を反射する対向する反射鏡で構成したライトガイドを具備した誘導散乱容器を用いることを特徴とする。ここで、励起光、ストークス光及び被増幅光を反射する反射鏡は、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡を用いることが望ましい。
【0021】
本発明の4波混合誘導散乱増幅器は、2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光は、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす角度で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射していることを特徴とする。
【0022】
本発明の4波混合誘導散乱増幅器は、2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に対して180度回転した軸対称の角度で、別の2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光を、ライトガイド入口面で重なるように入射することを特徴とする。
【0023】
本発明の4波混合誘導散乱生成器は、励起光及びストークス光を入射する4波混合誘導散乱生成器であって、励起光4本、ストークス光2本及び生成光2本を用い、励起光、ストークス光及び生成光を反射する対向する反射鏡で構成されたライトガイドを具備する誘導散乱容器を用いることを特徴とする。ここで、励起光、ストークス光及び生成光を反射する反射鏡は、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡を用いることが望ましい。
【0024】
本発明の4波混合誘導散乱生成器は、2本の励起光及び1本のストークス光は、誘導散乱容器中に配置したライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射していることを特徴とする。
【0025】
本発明の4波混合誘導散乱生成器は、2本の励起光及び1本のストークス光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、別の2本の励起光及び1本のストークス光を、ライトガイド入口面で重なるように入射することを特徴とする。
【0026】
上記の課題を解決するために、本発明の4波混合誘導散乱装置は、少なくとも励起光及びストークス光を入射する4波混合誘導散乱装置であって、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光、被増幅光及び生成光の波長の光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを具備し、少なくとも励起光及びストークス光を入射するとともに、該励起光及び該ストークス光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、励起光及びストークス光を入射することを特徴とする。
【0027】
上記の課題を解決するために、本発明の4波混合誘導散乱増幅器は、励起光、ストークス光及び被増幅光を入射する4波混合誘導散乱増幅器であって、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光および被増幅光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを具備し、2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光を、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射するとともに、該2本の励起光、該1本のストークス光及び該1本の被増幅光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に対して180度回転した軸対称の角度で、2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光を、ライトガイド入口面で重なるように入射することを特徴とする。
【0028】
上記の課題を解決するために、本発明の4波混合誘導散乱生成器は、励起光及びストークス光を入射する4波混合誘導散乱生成器であって、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光及び生成光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを具備し、2本の励起光及び1本のストークス光を、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射するとともに、該2本の励起光及び該1本のストークス光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、2本の励起光及び1本のストークス光を、ライトガイド入口面で重なるように入射することを特徴とする。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、4波混合誘導散乱装置において、励起光から出力されるアンチストークス光への変換効率の向上、及びビームの強度分布の空間的一様性を向上させることができる。また、4波混合誘導散乱増幅器において、励起光から被増幅光への増幅効率、及びビームの強度分布の空間的一様性を向上させることができる。また、4波混合誘導散乱生成器において、励起光から生成光への変換効率の向上、及びビームの空間強度分布の空間的一様性を向上させることができる。さらに、本発明の4波混合誘導散乱装置の反射鏡として、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡を用いることにより、励起光、ストークス光、被増幅光、生成光の波長以外の光の反射を低減させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
4波混合誘導散乱装置について図1を参照して以下説明する。
【0031】
4波混合誘導散乱装置は、図1に示すように、励起光(1、3、5、7)、ストークス光(2、6)、被増幅光(41、81)および生成光(42、82)の波長の光を反射する対向する反射鏡で構成されるライトガイド30を、誘導散乱容器中12に具備している。図1において、Xは、ライトガイドの入口面と平行の面上の上下方向であるX軸を示し、Yは、ライトガイドの入口面と平行の面上の左右方向であるY軸を示し、Zは、ライトガイドの中心軸方向であるZ軸を示している。2本の励起光(1、3)及び1本のストークス光(2)は、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で、4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、誘導散乱容器入口面で重なるように入射している。
【0032】
ここで、励起光1と3、ストークス光2、被増幅光41を、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で入射するとともに、別の励起光5と7、ストークス光6、被増幅光81を、上記の励起光1と3、ストークス光2、被増幅光41のそれぞれに対して、誘導散乱容器中のライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称の角度で、入射するときは、4波混合誘導散乱光増幅器として動作する。出力の被増幅光は、図1の紙面右側に記載された41と81として得られる。
【0033】
また、励起光1と3、ストークス光2を、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトルの整合条件を満たす方向で入射するとともに、別の励起光5と7、ストークス光6を、上記の励起光1と3、ストークス光2のそれぞれに対して、誘導散乱容器中のライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称の角度で、入射して、被増幅光を入射しないときは、4波混合誘導散乱生成器として動作する。出力の生成光は、図1の紙面右側に記載された42と82として得られる。図1において、ライトガイドの形状は断面が四角形であるが、四角形だけでなく他の多角形でもよい。また、反射鏡として、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡を用いると、励起光、ストークス光、被増幅光および生成光の波長以外の光の反射を低減することができる。
【0034】
つぎに、本発明の4波混合誘導散乱装置を増幅器に適用した4波混合誘導散乱増幅器について図2〜図5を参照して以下説明する。
【0035】
図2(a)は、励起光1、ストークス光2、励起光3及び被増幅光41のライトガイド30での光路を示す。図2(b)は、同じライトガイド30での励起光5、ストークス光6、励起光7及び被増幅光81の光路である。図の見やすさのために、別々の図で光路を示している。本発明の増幅器では、ライトガイド30に、励起光1、ストークス光2、励起光3、被増幅光41、励起光5、ストークス光6、励起光7及び被増幅光81を、図2(a)及び図2(b)の光路で入射する。図2(a)及び図2(b)において、励起光1と5の光路、ストークス光2と6の光路、励起光3と7の光路、被増幅光41と81の光路は、相互に、誘導散乱容器12中に配置したライトガイド30の中心軸に関して180度回転した軸対称の位置にある。誘導散乱容器12は、対向した反射鏡(38、39)で構成されるライトガイド30を具備し、誘導散乱媒質を充填した容器である。
【0036】
この4波混合誘導散乱増幅器では、2本の励起光(1、3)、1本のストークス光(2)及び1本の被増幅光(41)は、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射している。別の2本の励起光(5、7)、1本のストークス光(6)及び1本の被増幅光(81)は、他の2本の励起光(1、3)、1本のストークス光(2)及び1本の被増幅光(41)に対して、ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称な角度で、ライトガイド入口面で重なるように入射するものである。
【0037】
このように、励起光(1、3、5、7)、ストークス光(2、6)及び被増幅光(41、81)は、誘導散乱容器12の入射窓13に、図2(a)(b)図示の入射方向で入射し、誘導散乱容器12の出力窓14より、励起光(1、3、5、7)、ストークス光(2、6)及び被増幅光(41、81)が出射され、励起光のエネルギーを被増幅光のエネルギーに変換する。
【0038】
励起光(1、3、5、7)は、レーザー装置からの出力光を用いる。ストークス光(2、6)は、励起光エネルギーより誘導散乱媒質の波動エネルギー分少ない光であり、レーザー装置からの出力光を誘導散乱光生成器に集光して生成し、プリズムなどの波長分散素子を用いて分離される光を用いる。被増幅光は、励起光エネルギーより誘導散乱媒質の波動エネルギー分大きい光であり、被増幅光もレーザー装置からの出力光を誘導散乱光生成器に集光して生成し、プリズムなどの波長分散素子を用いて分離されるものを用いる。
【0039】
また、発振波長幅の広い色素レーザー装置やチタンサファイアレーザーの場合は、発振波長を励起光波長、励起光エネルギーより誘導散乱媒質の波動エネルギー分小さいストークス光波長、および、励起光エネルギーより誘導散乱媒質の波動エネルギー分大きな被増幅光波長に調整した3台のレーザー装置からの光を、励起光、ストークス光、被増幅光として用いることもできる。
【0040】
図3(a)は、励起光、ストークス光及び被増幅光の4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を示している。励起光1、3、5、7の波数ベクトルをそれぞれK1、K3、K5、K7とし、ストークス光2、6の波数ベクトルをそれぞれK2、K6とし、被増幅光41、81の波数ベクトルをそれぞれK41、K81とするとき、波数ベクトルは、下記(式2)及び(式3)の整合条件を満たしている。
K1+K3=K2+K41 (式2)
K5+K7=K6+K81 (式3)
【0041】
図3(b)(c)は、励起光、ストークス光及び被増幅光の、図2の誘導散乱容器中のライトガイドの入射窓の中心地点15での入射方向を示している。
【0042】
図4は、誘導散乱媒質分子のエネルギー遷移の様子を示している。基底エネルギーレベルAにあった誘導散乱媒質分子は、励起光1と5とストークス光2と6によって励起エネルギーレベルBに励起される。励起エネルギーレベルBの誘導散乱媒質分子は、励起光3と7によってエネルギーレベルBからDに励起される。その励起分子がエネルギーレベルDからAに遷移するとき、被増幅光41、81にエネルギーを与え、光エネルギーが増大する。
【0043】
図5(a)(b)は、ストークス光2と6のライトガイド中での光路を示す。図5(a)に示すように、ライトガイドの31、32の点で決まるライトガイドの入射断面(紙面に垂直な断面)からストークス光2は入射し、上部鏡38で反射し、ライトガイド中の34、35の点で決まる断面の位置に伝搬する。ライトガイドの34、35の点で決まる断面から後、36、37の点で決まる断面(ライトガイドの出射断面)までは、31、32の点で決まる断面からと同様に伝搬し、ライトガイドから出射する。ライトガイド中の32、33、35の点で囲まれた部分を、ストークス光2は伝搬しない。そこで、図5(b)で示すようにストークス光2と対称な方向に、ストークス光6を伝搬させ、ストークス光2の空白部分だった誘導散乱容器32、33、35の点で囲まれた部分に、ストークス光6を伝搬させる。
【0044】
ライトガイド中のストークス光の光路は、ライトガイド中の31、32、33の点で囲まれた部分では、ストークス光2と6で、容器の中心軸40に対して紙面上で対称な上向きと下向きのストークス光が伝搬している。ライトガイド中の31、33、34の点で囲まれた部分では、ストークス光2の上部鏡38で反射する前と後の光で、容器の中心軸に対して紙面上で対称な上向きと下向きのストークス光が伝搬している。ライトガイド中の32、33、35の点で囲まれた部分は、ストークス光6の下部鏡39で反射する前と後の光で、容器の中心軸40に対して紙面上で対称な上向きと下向きのストークス光が伝搬している。ライトガイド中の33、34、35の点で囲まれた部分は、ライトガイドで反射したストークス光2および6で、容器の中心軸40に関して紙面上で対称な上向きと下向きのストークス光が伝搬している。このようにして、図3(a)で示したストークス波数ベクトルK2とK6をライトガイドのすべての領域で存在させることができる。励起光1、3、5、7および被増幅光41、81も、ライトガイドの中心軸に関して軸対称の方向に入射することによって、同様に、ライトガイドのすべての領域で存在させることができる。本発明の4波混合誘導散乱光増幅器によって、被増幅光を空間的に均一に増幅することが可能となる。
【0045】
本発明の4波混合誘導散乱増幅器の効率について、従来の誘導散乱増幅器と比較して説明する。従来の誘導散乱増幅器では、図11に示すように、励起光1のエネルギーを被増幅光41と誘導散乱媒質の波動エネルギー9に分割している。これに対して、本発明の4波混合誘導散乱増幅器では、図4に示すように、励起光(1、5)のエネルギーはストークス光(2、6)と誘導散乱媒質の波動エネルギー9に分割される。エネルギーレベルBの誘導散乱媒質分子は、励起光(3、7)によりさらにエネルギーレベルDに励起され、励起光(3、7)のエネルギーに媒質の波動エネルギー9を加えて、被増幅光(41、81)のエネルギーに変換される。従って、4波混合誘導散乱増幅器では、媒質の波動エネルギー分の損失がなくなることで、効率の改善を図ることができる。
【0046】
また、4波混合誘導散乱増幅器のライトガイド中の対向する反射鏡38、39は、反射率に波長選択性があり、励起光、ストークス光、被増幅光の波長のみを反射する誘電体多層膜を使用している。このことにより、被増幅光が高強度になったときに被増幅光と励起光の4波混合誘導散乱光生成で、さらに短波長の光になることを抑制することができる。
【0047】
つぎに、4波混合誘導散乱生成器について図6〜9を参照して説明する。
図6(a)は、励起光1、ストークス光2、励起光3及び生成光42のライトガイド30での光路を示す。図6(b)は、同じライトガイド30での励起光5、ストークス光6、励起光7及び生成光82の光路を示す。図の見やすさのために、別々の図に示している。本発明の生成器では、ライトガイド30に、励起光1、ストークス光2、励起光3、励起光5、ストークス光6及び励起光7を、図6(a)(b)の光路で入射する。励起光1、3、5、7及びストークス光2、6は、ライトガイドの外から入射され、生成光42、82は、励起光とストークス光により4波混合誘導散乱過程の波数ベクトルの整合条件の満たす方向にライトガイド中で生成される。図6(a)(b)において、励起光1と5の光路、ストークス光2と6の光路、励起光3と7の光路、生成光42と82の光路は、相互に、誘導散乱容器12中に配置したライトガイド30の中心軸に関して180度回転した軸対称の位置にある。誘導散乱容器12は、対向した反射鏡(38、39)で構成されるライトガイド30を具備した、誘導散乱媒質を充填した容器である。
【0048】
この4波混合誘導散乱生成器では、2本の励起光(1、3)と1本のストークス光(2)は、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射している。1本の生成光(42)は、誘導散乱容器中のノイズレベル強度(励起光強度の10−11倍の強度)の光を種にして波数ベクトル整合条件を満たす角度方向に成長する。別の2本の励起光(5、7)と1本のストークス光(6)は、他の2本の励起光(1、3)と1本のストークス光(2)と、ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称な角度で、ライトガイド入口面で重なるように入射するものである。別の1本の生成光(82)は、上記生成光(42)とライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称の方向に成長する。
【0049】
励起光1、3、5、7は、レーザー装置からの出力光を用いる。ストークス光2、6は、励起光エネルギーより誘導散乱媒質の波動エネルギー分少ない光である。レーザー光を誘導散乱光生成器にレーザー光を集光し生成した出力光を分光して、ストークス光として用いることができる。また、励起光波長とストークス光波長に発振波長を調整した2台のレーザー装置の出力光を用いることもできる。
【0050】
図7(a)は、励起光、ストークス光及び生成光の4波混合誘導散乱過程の波数ベクトルの整合条件を示している。励起光(1、3、5、7)の波数ベクトルをそれぞれK1、K3、K5、K7とし、ストークス光(2、6)の波数ベクトルをそれぞれK2、K6とし、生成光(42、82)の波数ベクトルをそれぞれK42、K82とするとき、波数ベクトルは、下記(式4)及び(式5)の整合条件を満たしている。
K1+K3=K2+K42 (式4)
K5+K7=K6+K82 (式5)
【0051】
図7(b)(c)は、励起光、ストークス光及び生成光の、図6の誘導散乱容器中のライトガイドの入射窓の中心地点15での伝搬方向を示している。
【0052】
図8は、誘導散乱媒質分子のエネルギー遷移の様子を示している。基底エネルギーレベルAにあった誘導散乱媒質分子は、励起光(1、5)とストークス光(2、6)によって励起エネルギーレベルBに励起される。励起エネルギーレベルBの誘導散乱媒質分子は、励起光(3、7)によってエネルギーレベルBからDに励起される。その励起分子がエネルギーレベルDからAに遷移するとき、生成光(42、82)にエネルギーを与え、光エネルギーが増大する。
【0053】
図9(a)に、誘導散乱媒質中での、励起光とストークス光との波数ベクトルの整合条件を満たす角度方向に生成した生成光42の光路を示す。生成光42は、図9(a)のライトガイド中の61、62の点で決まるライトガイドの入射断面(紙面に垂直な断面)から右方向に伝搬し、下部鏡39で反射し、容器中の64、65の点で決まる断面(ライトガイドの出射断面)の位置に伝搬し、出射する。容器中の61、63、64の点で囲まれた部分を、生成光42は伝搬しない。そこで、図9(b)で示すように、生成光42と軸対称な方向に生成光82を伝搬させ、生成光42の空白部分だったライトガイド中の61、63、64の点で囲まれた部分に、生成光82を伝搬させる。
【0054】
ライトガイド中の生成光の光路は、ライトガイド中の61、62、63の点で囲まれた部分では、生成光42と82で、容器の中心軸40に対して紙面上で対称な上向きと下向きの生成光が伝搬している。ライトガイド中の61、63、64の点で囲まれた部分では、生成光82の上部鏡38で反射する前と後の光で、容器の中心軸に対して紙面上で対称な上向きと下向きの生成光が伝搬している。ライトガイド中の62、63、65の点で囲まれた部分は、生成光42の下部鏡39で反射する前と後の光で、容器の中心軸40に対して紙面上で対称な上向きと下向きの生成光が伝搬している。ライトガイド中の63、64、65の点で囲まれた部分は、ライトガイドで反射した生成光42と82で、容器の中心軸40に関して紙面上で対称な上向きと下向きの生成光が伝搬している。このようにして、図7(a)で示す生成光の波数ベクトルK42とK82をライトガイドのすべての領域で存在させることができる。励起光1、3、5、7およびストークス光2、6も、同様に、ライトガイドのすべての領域で存在させることができる。本発明の4波混合誘導散乱生成器によって、生成光を空間的に均一に成長させることが可能となる。
【0055】
本発明の4波混合誘導散乱生成器の効率について説明する。本発明の4波混合誘導散乱生成器では、図8に示すように、励起光(1、5)のエネルギーが、ストークス光(2、6)と誘導散乱媒質の波動エネルギー9に分割される。エネルギーレベルBの誘導散乱媒質分子は、励起光(3、7)によりさらにエネルギーレベルDに励起された後、エネルギーレベルDからAに遷移するとき、励起光(3、7)のエネルギーに媒質の波動エネルギー9を加えて、生成光(42、82)のエネルギーに変換される。従って、本発明の4波混合誘導散乱生成器では、媒質の波動エネルギー分の損失がなくなるので、効率の改善を図ることができる。
【0056】
また、4波混合誘導散乱生成器のライトガイド中の対向する反射鏡は、反射率に波長選択性があり、励起光、ストークス光、生成光の波長のみを反射する誘電体多層膜を使用している。このことにより、生成光が高強度になったときに生成光と励起光の4波混合誘導散乱光生成でさらに短波長の光になることを抑制することができる。
【0057】
4波混合誘導散乱装置として、増幅器と生成器の例を示してその作用効果を説明したように、4波混合誘導散乱光生成により、媒質の波動エネルギー分の損失がなくなることで、装置の効率の向上を図ることができる。また、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、励起光及びストークス光を追加して入射することにより、ライトガイドのすべての領域で励起光、ストークス光、被増幅光または生成光を存在させることができ、ビームの強度分布の空間的一様性を向上させることができる。
【実施例】
【0058】
(実施例1)
実施例の4波混合誘導散乱光増幅器は、誘導散乱容器の中に、誘導散乱媒質である水素ガスを充填したものを用いる。誘導散乱容器中の対向する面に、励起光、ストークス光及び被増幅光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを備えている。反射鏡は、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡で構成され、励起光波長(248.6nm)、ストークス光波長(277.2nm)、被増幅光波長(225.3nm)の反射率は95%以上、その他の波長での反射率は1%以下である。励起光、ストークス光、被増幅光のそれぞれの入射条件を下記に示す。ビーム形状は、対向する反射鏡で構成されるライトガイドの断面の形状と同じ1cm×1cmの四角形である。ライトガイドの入射窓の断面で、励起光、ストークス光、被増幅光の断面は重ねている。励起光1と3、ストークス光2、被増幅光41は、波数ベクトルの整合条件を満たしている角度で入射するとともに、励起光5と7、ストークス光6、被増幅光81を、ライトガイドの入射窓の断面で重ねて入射する。ここで、励起光5と7、ストークス光6、被増幅光81は、他の励起光1と3、ストークス光2及び被増幅光41のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称な角度で入射する。
【0059】
誘導散乱媒質 水素ガス(大気圧)
入射光の性質
(1)励起光1、5 波長 248.6nm
(2)ストークス光2、6 波長 277.2nm
(3)励起光3、7 波長 248.6nm
(4)被増幅光41、81 波長 225.3nm
(5)励起光1とストークス光2のなす角度T1
4.0mrad(0.23度)
(6)励起光1と励起光3のなす角度T2
3.5mrad(0.2度)
(7)励起光1と被増幅光41のなす角T3
0.05mrad(3×10−3度)
【0060】
ここで、励起光5とストークス光6のなす角度は、励起光1とストークス光2のなす角度T1と同じであり、励起光5と励起光7のなす角度は、励起光1と励起光3のなす角度T2と同じであり、励起光5と被増幅光81のなす角度は、励起光1と被増幅光41のなす角T3と同じである。ライトガイドの長さは、100cmで、ライトガイドの断面は、1cm×1cmの四角形である。誘導散乱容器の両端には、石英の窓がある。励起光1と3の強度は、それぞれ、5.7×10W/cmで、ストークス光2は1.1×10W/cm、被増幅光41は1.1×10W/cmで、これらをライトガイド入口で重ねて入射すると、容器出力端より、励起光を被増幅光に変換し、1.1×10W/cm の強度の被増幅光41が得られる。これらとライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称である、励起光5と7の強度は、それぞれ、5.7×10W/cmで、ストークス光6は1.1×10W/cm、被増幅光81は1.1×10W/cmで、ライトガイド入口に重ねて入射すると、容器出力端より、励起光を被増幅光に変換し、1.1×10W/cmの強度になった被増幅光81が得られる。このように、被増幅光の増幅効率が向上し、またライトガイドのすべての領域で励起光、ストークス光、被増幅光が存在するので、ビームの強度分布の空間的一様性が向上する。
【0061】
(実施例2)
励起光1と励起光3を同方向とすること以外は実施例1と同様に、下記の条件で4波混合誘導散乱光増幅器を作成した。
【0062】
誘導散乱媒質 水素ガス(大気圧)
入射光の性質
(1)励起光1、5 波長 248.6nm
(2)ストークス光2、6 波長 277.2nm
(3)励起光3、7 波長 248.6nm
(4)被増幅光41、81 波長 225.3nm
(5)励起光1とストークス光2のなす角度T1
1.4mrad(0.08度)
(6)励起光1と励起光3のなす角度T2
0mrad(励起光1と3は同方向)
(7)励起光1、5と被増幅光41、81のなす角T3
1.1mrad(0.06度)
【0063】
ライトガイドの長さは、100cmで、ライトガイドの断面は、1cm×1cmの四角形である。誘導散乱媒質容器の両端には、石英の窓がある。励起光1と3の強度は、合計で1.1×10W/cmで、ストークス光2の強度は1.1×10W/cmで、被増幅光41の強度は1.1×10W/cmで、これらをライトガイド入口で重ねて入射すると、容器出力端より、励起光を被増幅光に変換し、1.1×10W/cm の強度の被増幅光41が得られる。ライトガイドの中心軸で180度回転した軸対称の励起光5と7の強度は、合計で1.1×10W/cmで、ストークス光6の強度は1.1×10W/cmで、被増幅光81の強度は1.1×10W/cmで、ライトガイド入口に重ねて入射すると、容器出力端より、励起光を被増幅光に変換し、1.1×10W/cmの強度になった被増幅光81が得られる。このように、被増幅光の増幅効率が向上し、またライトガイドのすべての領域で、励起光、ストークス光及び被増幅光が存在するので、ビームの強度分布の空間的一様性が向上する。
【0064】
(実施例3)
本実施例3の4波混合誘導散乱光増幅器は、誘導散乱媒質として純水を用いた以外は実施例1と同様の誘導散乱媒質容器を用い、下記の条件で作成した。ライトガイドは、反射鏡として、下記の励起光波長、ストークス光波長及び被増幅光波長で、反射率に波長選択性がある誘電体多層膜鏡を備えている。
【0065】
誘導散乱媒質 純水
入射光の性質
(1)励起光1、5 波長 248.6nm
(2)ストークス光2、6 波長 271.7nm
(3)励起光3、7 波長 248.6nm
(4)被増幅光41、81 波長 229.1nm
(5)励起光1、5とストークス光2、6のなす角度T1
0.12rad(6.9度)
(6)励起光1、5と励起光3、7のなす角度T2
0.1rad(5.7度)
(7)励起光1、5と被増幅光41、81のなす角度T3
0.0063rad(0.36度)
【0066】
ライトガイドの長さは、100cmで、ライトガイドの断面は、1cm×1cmの四角形である。誘導散乱容器の両端には、石英の窓がある。励起光1、3、5、7の強度は、それぞれ、4.3×10W/cmで、ストークス光2、6の強度は8.5×10W/cmで、被増幅光41、81の強度は9.0×10W/cmで、ライトガイド入口に重ねて入射すると、容器出力端より、励起光を被増幅光に変換し、それぞれ8.6×10W/cmの強度に成長した被増幅光41、81が得られる。このように、被増幅光の増幅効率が向上し、またライトガイドのすべての領域で励起光、ストークス光、被増幅光が存在するので、ビームの強度分布の空間的一様性が向上する。
【0067】
(実施例4)
実施例の4波混合誘導散乱生成器は、誘導散乱容器の中に、誘導散乱媒質として水素ガスを充填したものを用いる。誘導散乱容器中の対向する面に、励起光、ストークス光及び生成光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを備えている。励起光、ストークス光の入射条件を下記に示す。ビーム形状は、ライトガイドの断面の形状と同じ1cm×1cmの四角形である。ライトガイド入口で、励起光及びストークス光の断面は重ねている。
【0068】
誘導散乱媒質 水素ガス(大気圧)
入射光の性質
(1)励起光1、5 波長 248.6nm
(2)ストークス光2、6 波長 277.2nm
(3)励起光3、7 波長 248.6nm
(4)励起光1とストークス光2のなす角度T1
4.0mrad(0.23度)
(5)励起光1と励起光3のなす角度T2
3.5mrad(0.2度)
【0069】
ライトガイドの長さは、100cmで、対向する反射鏡で構成される断面は、1cm×1cmの四角形である。誘導散乱容器の両端には、石英の窓がある。励起光1、3、5、7の強度は、それぞれ9.4×10W/cmで、ストークス光2、6の強度は、1.9×10W/cmで、これらを誘導散乱容器に重ねて入射すると、容器出力端より、励起光を生成光に変換し、それぞれ1.9×10W/cmの強度の下記の生成光42、82が得られる。
【0070】
生成光の性質
(1)生成光42、82 波長 225.3nm
(2)励起光1、5と生成光42、82のなす角T3
0.05mrad(3×10−3度)
このように、生成光の生成効率が向上し、またライトガイドのすべての領域で、励起光、ストークス光及び生成光が存在するので、ビームの強度分布の空間的一様性が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明によれば、4波混合誘導散乱増幅器での励起光から被増幅光への増幅効率、4波混合誘導散乱生成器での励起光から生成光への変換効率の向上、および、強度の空間的一様性の向上が可能となる。これらによって、計測の分野だけで利用されていた4波混合誘導散乱過程を、誘導散乱光の生成器や増幅器等の誘導散乱装置として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の4波混合誘導散乱装置を示す斜視図
【図2】(a)(b)は本発明の4波混合誘導散乱増幅器及び光路を示す図
【図3】本発明の4波混合誘導散乱増幅過程の機構を示す図。(a)は波数ベクトル整合条件を示し、(b)(c)は、誘導散乱容器中のライトガイドの入射窓の中心地点での入射方向を示す。
【図4】本発明の4波混合誘導散乱増幅過程の機構を説明する誘導散乱媒質分子のエネルギー準位の図
【図5】(a)(b)は本発明のストークス光のライトガイド中での光路を示す図
【図6】(a)(b)は本発明の4波混合誘導散乱生成器及び光路を示す図
【図7】本発明の4波混合誘導散乱生成過程の機構を示す図。(a)は波数ベクトル整合条件を示し、(b)(c)は、誘導散乱容器中のライトガイドの入射窓の中心地点での伝搬方向を示す。
【図8】本発明の4波混合誘導散乱生成過程の機構を説明する誘導散乱媒質分子のエネルギー準位の図
【図9】(a)(b)は本発明の生成光のライトガイド中での光路を示す図
【図10】従来の誘導散乱増幅器
【図11】従来の誘導散乱増幅器における誘導ラマン散乱過程のエネルギー準位の図
【図12】従来の4波混合誘導散乱過程の機構を示す図
【図13】従来の4波混合誘導散乱におけるラマン散乱過程のエネルギー準位を示す図
【図14】従来の4波混合誘導散乱光生成における励起光、ストークス光及び生成光の伝搬方向を示す図
【符号の説明】
【0073】
1、3、5、7 励起光
2、6 ストークス光
9 誘導散乱分子の波動エネルギー
10 励起光と被増幅光を重ねる波長選択鏡
11 励起光と被増幅光を分離する波長選択鏡
12 誘導散乱容器
13 誘導散乱容器の入射窓
14 誘導散乱容器の出射窓
15 誘導散乱容器中のライトガイドの入口面の中心位置
30 対向する反射鏡で構成されるライトガイド
31〜37 ストークス光の光路を示すライトガイド中の位置
38、39 反射鏡
40 ライトガイドの中心軸
41、81 被増幅光
42、82 生成光
51〜59 従来の誘導散乱容器中の励起光、ストークス光、生成光の光路
61〜65 生成光の光路を示すライトガイド中の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも励起光及びストークス光を入射する4波混合誘導散乱装置であって、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光、被増幅光及び生成光の波長の光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを具備し、少なくとも励起光及びストークス光を入射するとともに、該励起光及び該ストークス光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、励起光及びストークス光を入射することを特徴とする4波混合誘導散乱装置。
【請求項2】
励起光、ストークス光及び被増幅光を入射する4波混合誘導散乱増幅器であって、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光および被増幅光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを具備し、2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光を、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射するとともに、該2本の励起光、該1本のストークス光及び該1本の被増幅光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に対して180度回転した軸対称の角度で、2本の励起光、1本のストークス光及び1本の被増幅光を、ライトガイド入口面で重なるように入射することを特徴とする4波混合誘導散乱増幅器。
【請求項3】
励起光及びストークス光を入射する4波混合誘導散乱生成器であって、誘導散乱容器中に、励起光、ストークス光及び生成光を反射する反射鏡で構成されるライトガイドを具備し、2本の励起光及び1本のストークス光を、ライトガイドの対向する反射鏡の法線とライトガイドの中心軸を含む面上で4波混合誘導散乱過程の波数ベクトル整合条件を満たす方向で、かつ、ライトガイド入口面で重なるように入射するとともに、該2本の励起光及び該1本のストークス光のそれぞれに対して、ライトガイドの中心軸に関して180度回転した軸対称の角度で、2本の励起光及び1本のストークス光を、ライトガイド入口面で重なるように入射することを特徴とする4波混合誘導散乱生成器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2010−122547(P2010−122547A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297458(P2008−297458)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】