説明

4,4’−メチレンジアニリンの製造方法

【課題】ゼオライト触媒存在下で、メチレンジアニリン誘導体の異性体のうち、最も有用な4,4’−メチレンジアニリンが高選択的に得られる製造方法を提供する。
【解決手段】N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを、触媒として、EMT構造を有する又はEMT構造を含むゼオライトの存在下で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4’−メチレンジアニリンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メチレンジアニリン(MDA)にはアミノ基の位置によりいくつかの異性体が存在し、例えば、2,2’―MDA、2,4’―MDA、4,4’―MDA等が知られている。工業的には4,4’―MDAが選択的に得られることが好ましい。
【0003】
従来、MDAの製造法としては、例えば、塩酸等の鉱酸を触媒として用い、アニリン又はその誘導体とホルムアルデヒドとを反応させる方法が用いられてきた。しかしながら、この方法では、装置の腐食、反応後に得られた反応液を中和するために鉱酸と等モル以上のアルカリを必要とし、塩として廃棄物が発生することが問題となっていた。
【0004】
このような問題点を解決する方法として、種々のゼオライトを触媒としたMDAの製造法が提案されているが(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)、これらの文献では、MDA異性体の選択性について何らの検討も行われていない。
【0005】
このように、工業的に最も有用な4,4’−MDAが高選択的に得られる製造法が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−26571号公報
【特許文献2】特表2003−529577号公報
【特許文献3】特表2005−521722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、ゼオライト触媒存在下で、MDA誘導体の異性体のうち、最も有用な4,4’−MDAが高選択的に得られる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりの4,4’−MDAの製造方法である。
【0010】
[1]N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを、触媒として、EMT構造を有する又はEMT構造を含むゼオライトの存在下で反応させることを特徴とする4,4’−メチレンジアニリンの製造方法。
【0011】
[2]EMT構造を有する又はEMT構造を含むゼオライトが、EMC−2、ECR−20、ZSM−2、ZSM−3、及びZSM−30からなる群より選択されることを特徴とする上記[1]に記載の4,4’−メチレンジアニリンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、ゼオライト触媒を用い、従来にない高い選択率で4,4’−MDAを製造できるため、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを、触媒として、EMT構造又はEMT構造を含むゼオライトの存在下で反応させて、4,4’−MDAを製造することをその特徴とする。
【0014】
本発明において、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを製造する方法は、特に限定するものではないが、例えば、アニリンとホルムアルデヒドを反応させることで製造できる。
【0015】
この反応で使用されるアニリンとしては、特に制限はなく、例えば、市販品、合成品、本発明の製造方法で用いられて後に回収されたもの、又はこれらの混合品等を用いることができる。一方、ホルムアルデヒドは、通常20〜50重量%のホルムアルデヒドを含有する水溶液の形で用いられる。このホルムアルデヒド水溶液はメタノール等の通常の安定剤を含有していても問題ない。アニリンとホルムアルデヒドの比は、特に限定するものではないが、アニリン/ホルムアルデヒドのモル比で2〜50の範囲が好ましい。アニリン/ホルムアルデヒドのモル比が2より小さい場合、ホルムアルデヒドが過剰に存在するため、効率が低下する。また50より大きい場合、大過剰のアニリンが存在するため、その後のゼオライト存在下で4,4’−MDAを製造する際の効率が低下する。
【0016】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる場合、触媒存在下で反応させても、無触媒下で反応させても良い。また、アニリンとホルムアルデヒドが十分に混合されれば良く、回分式、半回分式、連続式のいずれの方法でも良い。反応器は槽型、管型、いずれの形状でも良い。また、アニリンとホルムアルデヒドを混合する場合、アニリンにホルムアルデヒドを加えても、ホルムアルデヒドにアニリンを加えても、いかなる方法でも良い。
【0017】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる温度は、特に限定するものではないが、例えば、0℃〜80℃の範囲で実施することが好ましい。0℃より低温の場合、反応効率は問題ないが冷却のためのエネルギーが必要となり、経済的ではない。80℃より高温の場合、反応効率は問題ないが加熱のためのエネルギーが必要となり、やはり経済的ではない。
【0018】
また、その反応時間は特に限定するものではないが、例えば、0.5時間〜5時間で実施することが好ましい。0.5時間より短い場合、アニリンとホルムアルデヒドの反応が十分に進行しないおそれがある。また、反応時間を5時間より長くしても、それ以上の反応の進行は望めない。
【0019】
アニリンとホルムアルデヒドとを反応させる場合、溶媒を用いずに合成しても、溶媒を用いて合成しても良い。溶媒を使用する場合は、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、ペンタン、ヘキサン、オクタン等の脂肪族炭化水素、ジクロロメタン、四塩化炭素等のハロゲン系炭化水素を用いることができる。
【0020】
アニリンとホルムアルデヒドとの反応終了後、反応液は通常2相に分離する。水相にはホルムアルデヒド水溶液とメタノール等の水溶性のホルムアルデヒド安定剤が含まれる。有機相にはN,N’−ジフェニルメチレンジアミンとアニリン、及び若干の水が含まれる。このような2相からなる反応液から、アニリンとN,N’−ジフェニルメチレンジアミンの混合物を分離することが好ましい。分離する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、分液等の物理的な分離や、蒸留等の公知の方法を用いることができる。分液により水層を除去した場合、減圧乾燥や、脱水剤により水分を更に除去してもよい。溶媒を用いて反応させた場合、溶媒を除去してもしなくてもよい。
【0021】
本発明において、ゼオライトとは、一般式:M2/nO・Al・ySiO・zHO(式中、MはNa、K、Ca、Ba等の金属を表し、nは陽イオンMの原子価を表す。また、yは2以上の数を表し、zは0以上の数を表す。)で示される結晶性アルミノシリケートをいい、天然品及び合成品として多くの種類が知られている。
【0022】
本発明に用いられるゼオライトは、EMT構造を有する又はEMT構造を含むものである。EMT構造とは国際ゼオライト学会が規定する構造である。EMT構造を含むゼオライトとしては、EMC−2、ECR−20、ZSM−2、ZSM−3、ZSM−30が好ましい。EMT構造の含有率としては、特に限定するものではないが、高い4,4’−MDA選択率を得るためには、ゼオライト全体に対して、20重量%以上のEMT構造が含有されていることが好ましい。また、EMT構造と他の構造のゼオライトとを物理的に混合してもかまわない。
【0023】
本発明に用いられるゼオライトにおいて、イオン交換されているカチオンの種類は特に制限はなく、ナトリウムカチオン、カリウムカチオン等でイオン交換されていても良いし、プロトンでもかまわない。また、ゼオライトのSiO/Alモル比は特に限定されないが、高い耐久性を得るためには、SiO/Alモル比が5以上であることが好ましい。
【0024】
本発明において、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを、上記したゼオライトの存在下で反応させる場合、反応温度は特に限定するものではないが、例えば、50℃〜300℃の範囲で反応させることが好ましい。反応温度が50℃より低い場合、触媒作用が弱くなって、高い触媒性能を得られなくなるおそれがある。反応温度が300℃より高い温度の場合、反応温度を維持するために多量のエネルギーが必要となるため、経済的ではない。
【0025】
また、反応時間は特に限定されるものではなく、例えば、0.5時間〜50時間の範囲で反応させることが好ましい。反応時間が0.5時間より短い場合、触媒が十分に機能せず、高い触媒性能を得られなくなるおそれがある。反応時間を50時間より長くしても、それ以上の反応の進行は望めない。
【0026】
本発明の反応は、回分式、半回分式、または固定床のいずれの方法によって実施してもよい。
【0027】
本発明において、ゼオライトの形状は特に限定されず、粉末、ペレット、ビーズ等、公知の形状のものを用いることができる。また、ゼオライトに何らかの前処理を実施してもよい。ゼオライトの濃度としては、特に限定するものではないが、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを含有する反応液に対して、通常0.1〜500重量%、好ましくは1.0〜100重量%の範囲である。0.1重量%より少ないと十分な触媒性能が得られなくなるおそれがある。500重量%より多いと触媒が大量に必要となるため、経済的ではない。
【実施例】
【0028】
以下、本発明を実施例で説明するが、本発明はこれらの実施例に限定して解釈されるものではない。
【0029】
(4,4’−MDAの測定)
ガスクロマトグラフ分析には、ガスクロマトグラフGC−17A(島津製作所製)を用い、生成したMDA誘導体を測定した。カラムにはDB−5(アジレント・テクノロジー社製)、検出器にはFIDを用いた。ガスクロマト分析により求めたMDAの量に対する4,4’−MDAの量から4,4’−MDAの選択率を算出した。
【0030】
調製例.
アニリンとホルムアルデヒドのモル比が4となるように、アニリンと37重量%ホルムアルデヒドを常温にて混合し、50℃で2時間撹拌した。放冷後、水相を分液し、中間体であるN,N’−ジフェニルメチレンジアミンのアニリン溶液を得た。
【0031】
実施例1.
テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)、アルミニウム、水酸化リチウムを以下の組成で混合し、混合スラリー300gを得た。
【0032】
SiO:0.29Al:1.56TMAOH:101HO:0.51Li。
【0033】
混合スラリーをテフロン(登録商標)の内筒を装填したオートクレーブに入れ、100℃で30時間結晶化させた。結晶化後のスラリーは、濾過、洗浄後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、TMAOHを除去した。粉末X線回折によりEMT構造のゼオライトとFAU構造のゼオライトに対応するX線ピークが観測され、EMT構造とFAU構造の比は2:8であった。ゼオライトのSiO/Al(モル比)は5.0で、イオン交換されているカチオンの種類はプロトンであった。
【0034】
このようにして調製したゼオライト0.5gに対して、調製例で得た中間体のアニリン溶液10gを窒素雰囲気の室温にて加えた。
【0035】
この混合物を窒素雰囲気下、140℃で24時間撹拌した。室温まで放冷し、ゼオライト触媒を除去した反応液をガスクロマトグラフ分析した結果、4,4’−MDAの選択率は82%であった。
【0036】
実施例2.
テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAOH)、アルミニウム、水酸化リチウムを以下の組成で混合し、混合スラリー300gを得た。
【0037】
SiO:0.29Al:1.76TMAOH:101HO:0.31Li。
【0038】
混合スラリーをテフロン(登録商標)の内筒を装填したオートクレーブに入れ、100℃で30時間結晶化させた。結晶化後のスラリーは、濾過、洗浄後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、TMAOHを除去した。粉末X線回折によりEMT構造のゼオライトとFAU構造のゼオライトに対応するX線ピークが観測され、EMT構造とFAU構造の比は6:4であった。
【0039】
このようにして調製したゼオライトを用いた以外は実施例1と同様にした。ゼオライトのSiO/Al(モル比)は5.0で、イオン交換されているカチオンの種類はプロトンであった。ガスクロマトグラフ分析の結果、4,4’−MDAの選択率は82%であった。
【0040】
実施例3.
シリカゾル、クラウンエーテル(18−crown−6)、アルミン酸ナトリウムを以下の組成で混合し、混合スラリー300gを得た。
【0041】
SiO:0.2Al:0.0087クラウンエーテル:14HO。
【0042】
混合スラリーをテフロン(登録商標)の内筒を装填したオートクレーブに入れ、室温で1日放置した後、110℃に昇温し、12日間結晶化させた。結晶化後のスラリーは、濾過、洗浄後110℃で乾燥した。更に空気流通下、600℃で焼成することにより、クラウンエーテルを除去した。粉末X線回折によりEMT構造のゼオライトに対応するX線ピークのみが観測された。
【0043】
このようにして調製したゼオライトを用いた以外は実施例1と同様にした。ゼオライトのSiO/Al(モル比)は5.0で、イオン交換されているカチオンの種類はプロトンであった。ガスクロマトグラフ分析の結果、4,4’−MDAの選択率は90%であった。
【0044】
比較例1.
ゼオライトをFAU型ゼオライト(東ソー社製、製品名:HSZ320HOA)とした以外は実施例1と同様にした。ゼオライトのSiO/Al(モル比)は5.5で、イオン交換されているカチオンの種類はプロトンであった。
【0045】
ガスクロマトグラフ分析の結果、4,4’−MDAの選択率は75%であった。
【0046】
比較例2.
ゼオライトをBEA型ゼオライト(東ソー社製、製品名:HSZ930NHA)とした以外は実施例1と同様にした。ゼオライトのSiO/Al(モル比)は27で、イオン交換されているカチオンの種類はプロトンであった。
【0047】
ガスクロマトグラフ分析の結果、4,4’−MDAの選択率は58%であった。
【0048】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた4,4’−MDAの選択率を以下の表1にあわせて示す。
【0049】
【表1】

この表によれば、N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを、触媒として、EMT構造を有する又はEMT構造を含むゼオライトの存在下で反応させることで、高選択率で4,4’−MDAを製造できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明により製造された4,4’−MDAは、例えば、ポリウレタンの原料として広範に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N,N’−ジフェニルメチレンジアミンを、触媒として、EMT構造を有する又はEMT構造を含むゼオライトの存在下で反応させることを特徴とする4,4’−メチレンジアニリンの製造方法。
【請求項2】
EMT構造を有する又はEMT構造を含むゼオライトが、EMC−2、ECR−20、ZSM−2、ZSM−3、及びZSM−30からなる群より選択されることを特徴とする請求項1に記載の4,4’−メチレンジアニリンの製造方法。

【公開番号】特開2012−131721(P2012−131721A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283796(P2010−283796)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】