説明

4,4−ジフルオロ−3−オキソブタン酸エステルの調製方法

本発明は、式(I)の化合物(式中RはC1-12アルキルである)の調製方法に関し、当該方法は、一般式(II)の化合物(式中、R1及びR2は、それぞれ独立してC1-12アルキルであり;またはR1及びR2はそれらが結合する窒素原子と一緒になって連結し、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環またはモルホリン環を形成する)を一般式(III)CH3COOR(式中Rは式(I)で定義した通りである)の酢酸エステルと、塩基の存在中で接触させることによる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4,4-ジフルオロメチル-3-オキソブタン酸エステルを調製するための新規方法に関する。これらのエステルは、ピラゾールカルボキサニリド殺菌剤の製造のための重要な中間体である、3-ジフルオロメチル-4-ピラゾールカルボン酸エステルを調製するために有用である。
【背景技術】
【0002】
多様なピラゾールカルボキサニリド殺菌剤及びそれらの調製は、例えば、米国5,498,624及びWO01/42223に発表されている。それらの殺菌剤の多くの調製は、3-ジフルオロメチル-l-メチル-4-ピラゾールカルボン酸のエステルの使用を要求する。米国5,498,624では、このカルボン酸のエチルエステルは、エタノール中のメチルヒドラジンと2-(エトキシメチレン)-4,4-ジフルオロメチルアセト酢酸エチルの反応によって調製される。後者の化合物は、JACS, 73, 3684 (1951)に発表された方法によって調製され、それはオルトギ酸エチル及び無水酢酸の、ジフルオロアセト酢酸エチルとの縮合に関する。
【0003】
塩基性条件下で対応のフッ素化エステルを酢酸エステルと反応させることによる、4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸のメチル及びエチルエステルとしても公知であるジフルオロアセト酢酸メチル及びエチルの合成は、昔から知られており、そして例えば、JACS, 69, 1819 (1947)及びJACS, 75, 3152 (1953)に発表されている。より弱い塩基、例えばナトリウムエトキシドを使用する場合、この反応の収率は、商業的な大規模製造工程には十分でない。例えば、ナトリウムエトキシドを使用する場合の収率は、ほんの35%であると記載されている(JACS, 69, 1819 (1947))。これらのタイプの反応の収率は、より強い塩基、例えば、水素化ナトリウムの使用によって増加させることができることは文献において公知である。例えば、JACS, 75, 3152 (1953)を参照。そこでは、塩基として水素化ナトリムを使用する場合、この収率は75〜85%まで増加させることができると報告されている。しかしながら、商業生産のために水素化ナトリウムを使用することは所望されない。なぜなら、大規模での作業は危険であり、及び大量の爆発性の水素ガスの危険性が存在するからである。
【0004】
代替の合成経路は、EP-A-694526で発表されている。ここでは、ポリフルオロ酢酸メチル及びエチルは、第三アミンの塩基、例えばピリジンの存在中で、ポリフルオロカルボン酸の塩化物または無水物をカルボン酸塩化物と反応させることによって調製される。この反応は、アルコール、例えばメタノールまたはエタノールの付加によって完了する。この反応経路は、平均収率52%でのトリフルオロアセトアセテートの生産に都合よく使用され得るが、ジフルオロアセトアセテートの生産には不十分である。ジフルオロ酢酸塩化物または無水物は、これらの条件下で十分な安定性を有さない。例えば、EP-A-694526は、無水ジフルオロ酢酸の塩化ブチリルとの反応による、メチル2-ジフルオロアセチルブタノエートの合成を発表する。本反応の収率は、理論値の僅か25%である。かかる低い収率は、化合物の商業生産に利用できない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、単純な反応手順によって、且つ低い支出で、上記の公知方法の不都合がなく、かかる化合物を高収率且つ高品質で調製することが可能な手段によって、4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸のエステルの新規の一般的な調製方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
従って、本発明により、ここに式(I)の化合物
【化1】

(式中、RはC1-12アルキルである)の調製方法を提供する。当該方法は、一般式(II)の化合物
【化2】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立してC1-12アルキル;またはR1及びR2がそれらが結合している窒素原子と一緒になって連結して、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環、またはホルモリン環を形成する)を一般式(III)の化合物
CH3COOR (III )
(式中、Rは上記の意味を有する)の酢酸エステルと、塩基の存在中で接触させることを含んで成る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
Rは、1〜12個の炭素原子を含む分岐した、または分岐していないアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、iso-プロピル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシルまたはn-ドデシルである。都合が良いのはメチルまたはエチルである。
【0008】
R1及びR2は、1〜12個の炭素原子を含む分岐した、または分岐していないアルキル基であり、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、iso-プロピル、sec-ブチル、iso-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシルまたはn-ドデシルである。それらは同一であっても異なっていてもよい。典型的に、それは共にメチルであるか、共にエチルである。
【0009】
或いは、R1及びR2はそれらが結合する窒素原子と一緒になって連結して、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環またはモルホリン環を形成する。かかる脂環式アミン環の例は、ピロリジン及びピペリジンである。R1及びR2が、それらが結合する窒素原子によって連結して環を形成する場合、当該環はピロリジンまたはモルホリン環が都合がよい。
【0010】
Rは好適にはC1-6アルキルであり、より好適にはメチルまたはエチルである。
【0011】
好適な態様では、R1及びR2は、それぞれ独立して、C1-8アルキルであり;またはR1及びR2は、それらが結合する窒素原子と一緒になって連結して、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環、またはモルホリン環を形成する。
【0012】
更に好適な1つの態様では、R1及びR2はそれぞれ独立して、C1-8アルキル、好適には共にメチルであるか、共にエチルである。
【0013】
更に他の好適な態様では、R1及びR2は、それらが結合する窒素原子と一緒になって連結して、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環、またはモルホリン環を形成する。特に好適な態様では、R1及びR2は、それらが結合する窒素原子により連結し、ピロリジンまたはモルホリン環を形成する。
【0014】
当該方法は溶媒中で都合よく実行され、その溶媒は、過剰な酢酸エステル(III)もしくはそれとは異なる1種の溶媒または両方の混合物であってよい。溶媒が両方の混合物である場合、酢酸エステルは、共溶媒として作用する。適切な'異なる'溶媒は、C1-C8アルコール;芳香族またはハロゲン化された芳香族溶媒、例えばトルエン、キシレン及びクロロベンゼン等;及びエーテル、例えばテトラヒドロフラン、ジオキサン及びtert-ブチルメチルエーテル等を含む。
【0015】
酢酸エステル(III )が溶媒または共溶媒として使用される場合、大過剰量が使用され、典型的に、式(II)の化合物の10モル当量(好適には10-30モル当量)過剰で使用される。
【0016】
任意の適切な塩基を本発明の方法において使用してよいが、通常、アルコキシド塩基、典型的にアルカリ金属アルコキシド塩基、例えばアルカリ金属C1-4アルコキシド塩基であるだろう。例示すると、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、及びナトリウムtert-ブトキシドである。好適には、当該塩基は、ナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドである。製品(I)の収率を最適化するために使用される塩基の量は、式(II)の化合物の1〜4モル当量である。
【0017】
当該方法は、15℃〜8O℃の範囲の温度、例えば、45℃〜8O℃の温度、及び典型的には50℃〜7O℃の温度で都合よく実施される。従って、アルコキシド塩基のエタノール溶液が共溶媒としての酢酸エチルと共に使用される場合、当該方法は、組合せた溶媒の周囲温度から還流温度のいずれかで実施され得る。
【0018】
当該方法にかかる時間は、とりわけ、それが実施される調製規模及び温度に依存するだろう。例えば、半時間から24時間かかり得る。典型的に、モル規模を下回る実験室調製では、1〜6時間かかり得る。
【0019】
当該方法は、任意に他の溶媒の存在中において、式(II)の化合物を式(III )の酢酸エステルに溶かすことによって都合よく実施される。その後、アルコールまたは他の溶媒溶液の塩基を周囲温度または上昇させた温度で攪拌しながら付加する。その後、当該混合物を当該反応が完了するまで50〜7O℃に加熱する。冷却後、当該混合物を酸性化した氷水混合中に注ぎ、そして例えばジエチルエーテルまたは酢酸エチル等の適切な溶媒で抽出する。その後、製品はブラインで洗浄し、溶媒を蒸発させて、必要ならば減圧下での蒸留によって残りの製品を精製することにより有機抽出物から回収され得る。
【0020】
更に本発明は、4,4-ジフルオロメチル-3-オキソブタン酸エステルの混合物が生産する態様も包含する。例えば、エステルとしての酢酸エチル及び塩基としてのナトリウムメトキシドの使用は、4,4-ジフルオロメチル-3-オキソブタン酸エチルエステルと4,4-ジフルオロメチル-3-オキソブタン酸メチルエステルの混合物を導く。
【0021】
一般式(II)の化合物
【化3】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、C1-12アルキルであり;またはR1及びR2が、それらが結合する窒素原子と一緒になって連結して、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環、またはモルホリン環を形成する)は、JP-A-06228043に発表された方法によって調製され得る。これはN,N-ニ置換ジクロロ酢酸アミドのフッ素化に関与し、当該N,N-ニ置換ジクロロ酢酸アミドは、ジクロロアセチルクロライドの第ニ級アミンとの反応によって調製される。当該方法論は、以下の概略図に要約される。
【化4】

【0022】
一般式(III)の酢酸エステル
CH3COOR (III)
(式中、RはC1-12アルキルである)は公知であり、商業的に入手し得る。
【0023】
以下の限定的でない実施例は、本発明をより詳細に説明する。
【実施例1】
【0024】
2,2-ジクロロ-N,N-ジメチルアセトアミドの調製。
スルホン化フラスコ中で、ジクロロアセチルクロライド(11Og; 0.75mol)及びトルエン(100ml)から成る溶液を、最初は0℃で10℃未満の反応混合物の温度を維持しながら、1時間かけて、ジメチルアミン(68g;1.5mol)及びトルエン(1.21)の溶液にゆっくりと付加した。当該反応混合物を更に30分間、0〜5℃で攪拌し、その後、トルエン(11)で徐々に希釈した。有機相を連続して水(lx500ml)、塩酸(5%溶液;2x500ml)、水(lx500ml)、飽和した重炭酸ナトリウム溶液(2x500ml)及び最終的にブライン(lx500ml)で洗浄し、その後、硫酸ナトリウムで乾燥させた。蒸発は、高真空で蒸留された残渣を提供し、2,2-ジクロロ-N,N-ジメチルアセトアミドを無色のオイルとして産した。
収量78.6g (67.2%);0.3mbarでb.pt. 65-67℃。
【実施例2】
【0025】
2,2-ジフルオロ-N,N-ジメチルアセトアミドの調製。
スルホン化フラスコ中で、2,2-ジクロロ-N,N-ジメチルアセトアミド(23.4g; 0.15mol)、スプレー乾燥したフッ化カリウム(26.1g;0.45mol)及びジエチレングリコール(150ml)の混合物を、160 mbarで、VIGREUXカラム(10cm)を備え付けた蒸留装置中で、183℃に加熱した。これらの条件下で、所望される製品を無色のオイルとして、1時間かけて蒸留した。
収量12.3g (66.7%);160mbarで b.pt. 105-108℃。
【実施例3】
【0026】
4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸エチルエステルの調製
エタノール性のナトリウムエトキシド(15mlの21%溶液;40.2mmol)を滴下付加する前に、スルホン化フラスコ中で、N,N-ジエチル-2,2-ジフルオロアセトアミド(1.51g; lOmmol)を酢酸エチル(20ml)に溶かした。得られた混合物を60℃で、6時間攪拌した。冷却後、当該混合物を氷水(20ml)に注ぎ、塩酸(10%)で酸性化し、そして酢酸エチルで抽出した。有機相をブラインで洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、そしてウォータージェットバキューム中で蒸発させた。残渣を減圧下で蒸留することにより精製し、所望の4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸エチルエステルを無色のオイルの形態で得た。
収量1.09g (66%); 18mbarでb.pt. 50-53℃。
【実施例4】
【0027】
他の4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸エチルエステルの調製。
スルホン化フラスコ中で、エタノール中のナトリウムエトキシド(79mlの21%溶液;0.243mol)を、酢酸エチル(460ml)中の2,2-ジフルオロ-N,N-ジメチル-アセトアミド(27.2g; 0.22mol)の溶液に滴下付加した。当該反応混合物を還流温度で、l時間加熱し、そして出発原料の消失をGCでモニターした。その後、当該反応混合物を氷水(800ml)に注ぎ、塩酸(10%)で酸性化し、その後、酢酸エチルで2回抽出した(2x200ml)。分離後、有機層をブライン(200ml)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、そして減圧下で(lOOmbarで4O℃)濃縮した。
【0028】
エチル4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸エチルエステルを、不純物として少量のエタノールを含む黒色がかった(dark)オイルとして得た(34.8g; 72%);当該製品の純度は、GCの使用によって約75%と確定された。
【実施例5】
【0029】
4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸エチルエステル、及び4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸メチルエステルの混合物の調製。
スルホン化フラスコ中で、メタノール中のナトリウムメトキシド(165.7 gの30 % 溶液;0.92 mol)中のナトリウムメトキシドを、酢酸エチル(1570 ml)中の2,2-ジフルオロ-N,N--ジメチル-アセトアミド(98.5 g;0.8 mol)の溶液に、60℃で滴下付加した。反応混合物を還流温度で、3時間加熱し、そして出発原料の消失をGCでモニターした。その後、当該反応混合物を冷却した塩酸氷水(3 %、1100 ml)に注ぎ、そして、その後、酢酸エチル(640ml)で2回抽出した。組合せた有機層を減圧下(150mbarで4O℃)で濃縮した。
【0030】
4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸エチルエステルと4,4-ジフルオロ-3-オキソブタン酸メチルエステルの混合物を、81%のエチルエステル及び19%のメチルエステル(121.8 g;両エステルを組合せた収率90%)を含み、不純物として少量の酢酸エチルを含む黒色がかった(dark)オイルとして得た。
【0031】
本発明によれば、式Iの化合物を良好な収率で、且つ手間を殆どかけずに調製することが可能である。
【0032】
本発明に係る方法の特別な利点は、式IIの出発化合物が容易に得られ、且つ取り扱いやすいことである。
【0033】
本発明に係る方法の更に特別な利点は、式III の出発化合物が商業的に入手可能であり、安価であり、且つ取り扱いやすいことである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物
【化1】

(式中RはC1-12アルキルである)の調製方法であって、一般式(II)の化合物
【化2】

(式中R1及びR2は、それぞれ独立してC1-12アルキルであり;またはR1及びR2はそれらが結合する窒素原子と一緒になって連結して、4〜7個の炭素原子を含む脂環式アミン環またはモルホリン環を形成する)を一般式(III)の酢酸エステル
CH3COOR (III)
(式中、Rは式Iで定義した通りである)と、塩基の存在中で接触させることを含んで成る方法。
【請求項2】
前記Rが、メチルまたはエチルである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記R1及びR2が、共にメチルまたは共にエチルである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記R1及びR2が、それらが結合する窒素原子と一緒になって連結して、ピロリジンまたはモルホリン環を形成する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
溶媒中で実施される請求項1に記載の方法であって、当該溶媒が過剰な酢酸エステル(III)もしくはそれとは異なる溶媒または両方の混合物である方法。
【請求項6】
前記異なる溶媒が、C1-C8アルコール;芳香族もしくはハロゲン化された芳香族性溶媒;またはエーテルである、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記使用される酢酸エステル(III)の量が、式(II)の化合物の10モル当量の過剰である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記塩基が、アルカリ金属アルコキシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属アルコキシドが、ナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドである、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
15℃〜8O℃の範囲の温度で実施される、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2008−506650(P2008−506650A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−520754(P2007−520754)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2005/007635
【国際公開番号】WO2006/005612
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(500584309)シンジェンタ パーティシペーションズ アクチェンゲゼルシャフト (352)
【Fターム(参考)】