AAVベクター組成物および免疫グロブリンの発現の増強のための方法ならびにその使用方法
免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの発現のための1つのAAVベクター構築物、およびそれを作製し使用する方法が記載される。AAVベクターには、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間に自己プロセシング切断配列が含まれており、これによって、1つのプロモーターを使用して機能性の抗体分子を発現することができる。ベクター構築物にはさらに、さらなるタンパク質分解的切断配列が含まれる場合があり、この切断配列は、発現させられた免疫グロブリン分子またはそのフラグメントから自己プロセシングペプチド配列を除去するための手段を提供する。ベクター構築物は、インビトロおよびインビボでの生物学的に活性な免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生の増強において有用性を見出す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/587,082号(2004年7月13日出願)および同第60/659,871号(2005年3月10日出願)の優先権を主張する。これらの仮特許出願の全体は、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、組換え体である全長の免疫グロブリンまたはそのフラグメントを発現させるように設計された、新規なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター構築物に関する。AAVベクターは、細胞または器官による異種免疫グロブリンコード配列のエキソビボまたはインビボでの発現のために使用することができ、あるいは、AAVが形質導入された細胞による組換え免疫グロブリンの産生のためにインビトロで使用することができる。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)
モノクローナル抗体は、ガンおよび他の疾患の有効な治療薬であることが証明されている。現在の抗体療法には、多くの場合には、反復投与と長期処置計画が含まれ、これらには多数の不利益(例えば、一貫しない血清レベル、1回の投与の効力の持続時間が限られており、その結果、頻繁な再投与が必要とされることならびに高いコスト)が伴う。診断ツールおよび治療様式としての抗体の使用は、近年、その使用が拡大していることが明らかになっている。ガン処置について最初にFDAによって承認されたモノクローナル抗体であるRituxan(登録商標)(リツキシマブ)は、1997年に、非ホジキンリンパ腫の患者の処置について承認され、その直後、1998年に、転移性乳ガンの患者の処置のためのヒト化モノクローナル抗体であるHerceptin(登録商標)が承認された。様々な臨床開発段階にある多数の抗体による治療は将来性を示している。抗体技術の幅広い臨床的応用に対する1つの制限は、通常は、多量の抗体が治療効果のためには必要であり、産生に伴うコストがかなりかかることである。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、SP20、およびNSO2骨髄腫細胞は、グリコシル化されたヒトタンパク質(例えば、抗体)の商業的規模での産生のために最も一般的に使用されている哺乳動物細胞株である。哺乳動物細胞株での産生によって得られる収量は、通常は、回分培養用の発酵槽での5〜7日間の培養については50〜250mg/Lの範囲、または流加培養用の発酵槽での7〜12日間では300〜1000mg/Lの範囲である。高レベルの産生は、多くの場合は遺伝子増幅と優良(best performing)クローンの選択とに依存し、これらは、時間がかかり、そして開発および産生のコストをさらに増加させる。加えて、抗体を産生する細胞株に関する安定性の問題が、多くの場合は、何代もの継代の後に生じる。
【0004】
治療的な使用のためにインビトロおよびインビボで全長の免疫グロブリンおよびそのフラグメントを産生するための改良されたシステムが依然として必要とされている。
【0005】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、その安全性プロフィールおよびインビボでの長期にわたる遺伝子発現の能力の理由から、治療用遺伝子の送達のための好ましいベクターである。単鎖抗体をインビボで発現させるためは、組換えAAVベクター(rAAV)が以前から使用されている。AAVの限られたトランスジーンパッケージング能力およびその低い形質導入効率に起因して、全長の抗体を作製するために1つのAAVベクターを使用して抗体の重鎖および軽鎖を発現させるための技術的な挑戦が行われている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、組換えAAVベクターの単回注射後に、全長の抗体について高く一貫した血清レベルを得るための新規なアプローチの実現可能性を実証することにより、この必要性に取り組む。
【0007】
(発明の要旨)
本発明により、単一のプロモーターの転写制御下での免疫グロブリンの重鎖および軽鎖をコードする配列の発現に基づく、全長の免疫グロブリンまたはそのフラグメントの高レベルでの発現のためのAAVベクター組成物、ならびにそのための方法が提供される。
【0008】
本発明により、組換え免疫グロブリンの発現のためのAAVベクター(例えば、AAV6またはAAV8)が提供される。ここでは、AAVベクターには、作動可能に連結された構成成分として、プロモーター、免疫グロブリン分子の第1鎖のコード配列の一部または全体、自己プロセシング切断部位をコードする配列、免疫グロブリン分子の第2鎖のコード配列の一部または全体が含まれる。ここでは、自己プロセシング切断部位をコードする配列は、免疫グロブリン分子の第1鎖のコード配列と第2鎖のコード配列との間に配置される。関連する態様においては、本発明により、組換え免疫グロブリン分子、および本発明のAAVベクターを使用して作製された細胞、およびこのAAVベクターを作製するための方法が提供される。
【0009】
1つの好ましい態様においては、自己プロセシング切断部位には、2A配列(例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)配列)が含まれる。例示的な2Aペプチド配列は、配列番号1および配列番号2として示される。
【0010】
別の好ましい態様においては、AAVベクターには、さらなるタンパク質分解的切断部位(例えば、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン(furin)切断部位)が含まれる。
【0011】
本発明のAAVベクターは、以下を含むがこれらに限定はされない多数のプロモーターの任意のものを含み得る:伸張因子1−αプロモーター(EF1−α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1プロモーター(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーター(CAG)、テトラサイクリン反応性プロモーター(TRE)、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、およびCK6プロモーター。
【0012】
さらに好ましい態様においては、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖をコードする配列は、等モル比で、またはほぼ等モル比で発現される。
【0013】
本発明により、さらに、ガンの処置;感染性疾患の処置および予防;自己免疫疾患の処置および予防;ならびに本明細書中に記載されるAAVを使用する予防ワクチンの開発のために、インビボでの組換え免疫グロブリンの長期にわたる発現のための方法が提供される。ここでは、ベクターは、門脈(PV)注射、筋肉内(im)注射、腫瘍内(it)注射、または腹腔内(ip)注射を含むがこれらに限定されない多数の経路のいずれかによって投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明により、組換え体である免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現のためのAAVウイルスベクター構築物、ならびに、これをインビトロまたはインビボで使用するための方法が提供される。このベクターは、1つのプロモーターによって駆動される1つの発現カセットからの機能性の抗体分子の発現を可能にする自己プロセシング配列を免疫グロブリンの重鎖コード配列と軽鎖コード配列との間に有している。例示的なAAVベクター構築物には、2つのIgポリペプチド鎖の間に自己プロセシング切断部位をコードする配列が含まれており、そして、切断後に残っている自己プロセシング部位から導かれたアミノ酸を除去するための、自己プロセシング切断部位に隣接しているさらなるタンパク質分解的切断部位がさらに含まれ得る。本発明のAAVベクター構築物は、インビトロおよびインビボでの全長の生物学的に活性な免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生の増強に関係する方法において有用性を見出す。
【0015】
本発明の種々の組成物および方法は以下に記載される。特定の組成物と方法とが本明細書中で説明されるが、任意の多数の代替の組成物および方法が適用可能であり、本発明の実施での使用に適していることが理解される。本発明のAAV免疫グロブリン発現構築物および方法の評価は、当該分野で標準である手順を使用して行うことができることもまた理解されるであろう。
【0016】
本発明の実施には、他の場所に明確に記載されていない限りは、細胞生物学、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、生化学、および免疫学の従来技術が使用されるであろう。これらは、当業者の範囲内である。このような技術は、文献、例えば、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,第2版(Sambrookら,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,編,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,編,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Handbook of Experimental Immunology”(D.M.Weir & C.C.Blackwell,編,);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(J.M.Miller & M.P.Calos,編,1987);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubelら,編,1987);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullisら,編,1994);および“Current Protocols in Immunology”(J.E.Coliganら,編,1991)(これらのそれぞれは参考として本明細書中で援用される)に完全に説明されている。
【0017】
(定義)
他の場所に明記されていない限りは、本明細書中で使用される全ての用語は、その分野の当業者が使用する意味と同じ意味を有し、そして、本発明の実施では、当業者の知識の範囲内にある微生物学および組換えDNA技術の従来技術が使用されるであろう。
【0018】
用語「ベクター」は、本明細書中で使用される場合は、1つ以上の異種DNA配列または組換えDNA配列を含む、プラスミド、ウイルス、または他のビヒクルのようなDNA分子またはRNA分子を意味する。ベクターは、種々の宿主細胞間での輸送のために設計される。用語「AAV発現ベクター」および「AAV遺伝子治療ベクター」は、細胞内に異種DNA配列を取り込み、これを発現させるために有効である任意のAAVベクターを意味する。細胞内への核酸の導入に有効であり、その結果、タンパク質またはポリペプチドの発現をもたらす任意の適切なAAVベクターを使用することができる。発現のために有効な任意の細胞(例えば、昆虫細胞、および酵母もしくは哺乳動物細胞のような真核生物細胞)が本発明の実施に有用である。
【0019】
用語「異種DNA」および「異種RNA」は、それらが存在する細胞またはゲノムの一部に対して内因性(天然)ではないヌクレオチドを意味する。一般的には、異種DNAまたは異種RNAは、以下にさらに記載されるように、形質導入、感染、トランスフェクション、形質転換などによって細胞に加えられる。このようなヌクレオチドには、通常、少なくとも1つのコード配列が含まれるが、このコード配列は必ずしも発現される必要はない。用語「異種DNA」は「異種コード配列」または「トランスジーン」を意味し得る。
【0020】
本明細書中で使用される場合は、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は交換可能に使用することができ、通常は、本発明の自己プロセシング切断部位を含むベクターを使用して発現させられる目的の「タンパク質」および「ポリペプチド」を意味する。このような「タンパク質」および「ポリペプチド」は、さらに以下に記載されるように、研究、診断、または治療の目的に有用なタンパク質またはポリペプチドであり得る。
【0021】
用語「複製欠損」は、本明細書中で使用される場合には、本発明のAAVウイルスベクターと比較して、そのゲノムから独立して複製することはできず、そしてそのゲノムをパッケージすることができないAAVベクターを意味する。例えば、被験体の細胞がrAAVビリオンで感染させられ、異種遺伝子が感染細胞の中で発現させられる。しかし、感染細胞はAAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子、ならびにアクセサリー機能遺伝子を有していないという事実が原因で、rAAVをさらに複製することはできない。
【0022】
用語「作動可能に連結された」は、本明細書中で使用される場合には、組換えDNA構築物またはベクターに関して、組換えDNA構築物またはベクターのヌクレオチド構成成分が、選択されたコード配列の作動可能な制御のために別の配列に対して機能できるような関係にあることを意味する。一般的には、「作動可能に連結された」DNA配列は連続しており、そして分泌リーダーの場合には、連続しておりかつリーディングフレームの中にある。しかし、エンハンサーは連続している必要はない。
【0023】
本明細書中で使用される場合は、用語「遺伝子」または「コード配列」は、適切な調節配列に作動可能に連結されている、インビトロまたはインビボのヌクレオチドポリペプチドを意味する。この遺伝子には、コード領域の前および後の領域、例えば、5’非翻訳(5’UTR)(すなわち、「リーダー」)配列および3’UTR(すなわち、「トレイラー」)配列、さらには、個々のコードセグメント(エキソン)の間の介在配列(イントロン)が含まれる場合も、またそれらが含まれない場合もある。
【0024】
本明細書中で使用される場合は、「免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列」は、タンパク質分子をコードするヌクレオチド配列を意味する。これには、抗体または免疫グロブリンの軽鎖または重鎖、あるいはそれらのフラグメントが含まれるが、これらに限定はされない。
【0025】
本明細書中で使用される場合は、「免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第2鎖のコード配列」は、タンパク質分子をコードするヌクレオチド配列を意味する。これには、抗体または免疫グロブリンの軽鎖または重鎖、あるいはそれらのフラグメントが含まれるが、これらに限定はされない。
【0026】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合を指向し、それによってRNA合成を促進するDNA配列、すなわち、転写を指示するために十分な最小配列である。プロモーターおよび対応するタンパク質またはポリペプチドの発現は細胞型特異的、組織特異的、または種特異的であり得る。本発明の核酸構築物またはベクターには、エンハンサー配列もまた含まれ、これは、プロモーター配列と連続している場合も、また連続していない場合もある。エンハンサー配列は、プロモーター依存性の遺伝子発現に影響を与え、そして天然の遺伝子の5’または3’領域に配置され得る。
【0027】
「エンハンサー」はシス作用性エレメントであり、これは、隣接している遺伝子の転写を刺激または阻害する。転写を阻害するエンハンサーはまた「サイレンサー」とも呼ばれる。エンハンサーは、いずれの方向でも、コード配列から数キロ塩基対(kb)までの距離を越えて、かつ転写される領域の下流の位置から、機能し得る(すなわち、コード配列と関係し得る)。
【0028】
「調節可能プロモーター」は、その活性がシス作用性因子またはトランス作用性因子(例えば、外部シグナルまたは外来物質のような誘導性プロモーター)によって影響を受ける任意のプロモーターである。
【0029】
「構成性プロモーター」は、ほとんどの場合、多くまたはすべての組織型/細胞型においてRNAの産生を指示する任意のプロモーターであり、例えば、哺乳動物細胞中にクローニングされたDNA挿入物の構成的発現を促進するヒトCMV前期初期エンハンサー/プロモーター領域である。
【0030】
用語「転写調節タンパク質」、「転写調節因子」、および「転写因子」は本明細書中では交換可能に使用され、そしてDNA応答エレメントに結合し、それによって関連する遺伝子(単数または複数)の発現を転写によって調節する核タンパク質を意味する。転写調節タンパク質は、一般的には、DNA応答エレメントに直接結合するが、いくつかの場合には、DNAへの結合は、別のタンパク質への結合によって間接的に行われ得、続いてこれがDNA応答エレメントに結合するかまたはDNA応答エレメントに結合される。
【0031】
本発明の意味における「終結シグナル配列」は、任意の遺伝的エレメントであり、これは、RNAポリメラーゼに転写を終結させる(例えば、ポリアデニル化シグナル配列)。ポリアデニル化シグナル配列は、RNA転写物のエンドヌクレアーゼの切断に不可欠な認識領域であり、これにはその後にポリアデニル化コンセンサス配列AATAAAが続く。ポリアデニル化シグナル配列によって「ポリA部位」、すなわち、翻訳後のポリアデニル化によってアデニン残基が付加されるRNA転写物上の部位が提供される。
【0032】
本明細書中で使用される場合は、「内部リボソーム侵入部位」すなわち「IRES」は、シストロン(タンパク質をコードする領域)の開始コドン(例えば、ATG)への直接の内部リボソームの侵入を促進し、それによって遺伝子のcap非依存性翻訳を導くエレメントを意味する。例えば、Jackson RJ,Howell M T,Kaminski,A.(1990)Trends Biochem Sci 15(12):477−83)およびJackson R JおよびKaminski,A.(1995)RNA 1(10):985−1000を参照のこと。本明細書中に記載される実施例は、任意のIRESエレメントの使用に関し、このIRESエレメントは、シストロンの開始コドンへの直接の内部リボソームの侵入を促進することができる。「IRESの翻訳制御下」は、本明細書中で使用される場合には、翻訳はIRESに関係しており、cap依存性様式で進行することを意味する。
【0033】
「自己プロセシング切断部位」または「自己プロセシング切断配列」は、翻訳後または翻訳と同時のプロセシング切断部位または配列として本明細書中で定義される。このような「自己プロセシング切断」部位または配列は、DNAまたはアミノ酸配列を意味し、本明細書中では、2A部位、2A配列、もしくは2Aドメイン、または2A様部位、2A様配列、もしくは2A様ドメインによって例示される。本明細書中で使用される場合は、「自己プロセシングペプチド」は、本明細書中では、自己プロセシング切断部位または自己プロセシング切断配列をコードするDNA配列のペプチド発現産物として定義される。このDNA配列は、翻訳されると、自己プロセシング切断部位を含むタンパク質またはポリペプチドの迅速な分子内(シス)切断を媒介して、成熟タンパク質産物または成熟ポリペプチド産物の分泌を生じる。
【0034】
本明細書中で使用される場合は、用語「さらなるタンパク質分解的切断部位」は、2A配列または2A様配列のような自己プロセシング切断部位に隣接して本発明の発現構築物の中に組み込まれ、そして自己プロセシング切断配列による切断の後も維持されるさらなるアミノ酸を除去するための手段を提供する配列を意味する。例示的な「さらなるタンパク質分解的切断部位」は本明細書中に記載され、これには、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位(配列番号10)が含まれるがこれに限定はされない。このようなフリン切断部位は、内因性サブチリシン様プロテアーゼ(例えば、フリンおよびタンパク質分泌経路の中の他のセリンプロテアーゼ)によって切断することができる。
【0035】
本明細書中で使用される場合は、用語「免疫グロブリン」および「抗体」は、完全な分子、ならびにそれらのフラグメント(例えば、Fa、F(ab’)2、およびFv)を意味し、これらは抗原決定基に結合することができる。このような「免疫グロブリン」および「抗体」は、およそ23,000ダルトンの分子量の2つの同一の軽鎖ポリペプチド鎖と、53,000〜70,000ダルトンの分子量の2つの同一の重鎖から構成される。4つの鎖は「Y」配置のジスルフィド結合によって連結されている。重鎖はγ(IgG)、μ(IgM)、α(IgA)、δ(IgD)、またはε(IgE)として分類され、そして免疫グロブリンのクラスの名称の根拠となっている。これによって、所定の抗体のエフェクター機能が決定される。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。「免疫グロブリンまたはそのフラグメント」について本明細書中で言及が行われる場合には、このような「そのフラグメント」は免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントであることが理解されるであろう。
【0036】
用語「ヒト化抗体」は、その中の1つ以上のアミノ酸が、ヒト抗体により似せるために非抗原結合領域において置き換えられているが、抗体のもともとの結合活性はなおも残っている抗体分子を意味する。例えば、米国特許第6,602,503号を参照のこと。
【0037】
用語「抗原決定基」は、本明細書中で使用される場合は、特定の抗体との接触をもたらす分子のフラグメント(すなわち、エピトープ)を意味する。タンパク質またはタンパク質のフラグメントの多数の領域は、タンパク質上の所定の領域またはタンパク質の三次元構造に特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る。これらの領域または構造は、抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、抗体への結合について完全な抗原(すなわち、免疫応答を誘発させるために使用される免疫原)と競合し得る。
【0038】
用語「フラグメント」は、本発明の組換えタンパク質または組換えポリペプチドについて言及される場合には、対応する全長のタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列の一部(全てではない)と同じであり、対応する全長のタンパク質またはポリペプチドの機能または活性の少なくとも1つを保持しているアミノ酸配列を有しているポリペプチドを意味する。フラグメントには、好ましくは、全長のタンパク質またはポリペプチドの少なくとも20〜100個の連続しているアミノ酸残基が含まれる。
【0039】
用語「投与する」または「導入する」は、本明細書中で使用される場合は、細胞に対する、または被験体の細胞および/または器官に対する、組換えタンパク質の発現用のベクターの送達を意味する。このような投与または導入は、インビボ、インビトロ、またはエキソビボで行われ得る。組換えタンパク質または組換えポリペプチドの発現用のベクターは、トランスフェクションによって細胞に導入することができる。通常、これは、物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、またはリポフェクション);感染(通常、これは感染因子、すなわち、ウイルスによる導入を意味する);または形質導入(通常、これはウイルスを用いた細胞の安定的な感染、またはウイルス因子(例えば、バクテリオファージ)による1つの微生物から別の微生物への遺伝的物質の移動を意味する)による、細胞への異種DNAの挿入を意味する。
【0040】
「形質転換」は、通常、異種DNAを含む細菌を意味するか、またはオンコジーンを発現し、それによって、腫瘍細胞のように連続的な増殖形式に変換されている細胞を意味するために使用される。細胞を「形質転換」するために使用されるベクターは、プラスミド、ウイルス、または他のビヒクルであり得る。
【0041】
通常、細胞は、細胞内への異種DNA(すなわち、ベクター)の投与、導入、または挿入のために使用された手段に応じて、「形質導入された」、「感染させられた」、「トランスフェクトされた」、または「形質転換された」と呼ばれる。用語「形質導入された」、「トランスフェクトされた」、および「形質転換された」は、異種DNAの導入方法とは無関係に、本明細書中では交換可能に使用することができる。
【0042】
本明細書中で使用される場合は、用語「安定的に形質転換された」、「安定的にトランスフェクトされた」および「トランスジェニック」は、ゲノムの中非天然(異種)核酸配列が組み込まれている細胞を意味する。安定なトランスフェクションは、それらのゲノムの中に安定的に組み込まれたトランスフェクトされたDNAを含んでいる娘細胞の集団から構成される細胞株またはクローンの確立によって実証される。いくつかの場合には、「トランスフェクション」は安定的ではなく、すなわち、一時的である。一時的なトランスフェクションの場合には、外因性DNAまたは異種DNAは発現させられるが、導入された配列はゲノムには組み込まれず、エピソームとみなされる。
【0043】
本明細書中で使用される場合は、「エキソビボ投与」は、初代細胞が被験体から取り出され、ベクターが細胞に投与されて、形質導入された組換え細胞、感染させられた組換え細胞、またはトランスフェクトされた組換え細胞が作られ、そして組換え細胞が同じ被験体または異なる被験体に再度投与されるプロセスを意味する。
「多シストロン性転写物」は、1つより多いタンパク質コード領域すなわちシストロンを含むmRNA分子を意味する。2つのコード領域を含むmRNAは、「2シストロン性転写物」と記載される。「5’−近位」コード領域またはシストロンは、その翻訳開始コドン(通常は、AUG)が多シストロン性mRNA分子の5’末端の最も近くにあるコード領域である。「5’−遠位」コード領域またはシストロンは、その翻訳開始コドン(通常は、AUG)がmRNAの5’末端に最も近い開始コドンではないコード領域である。用語「5’−遠位」および「下流」は、mRNA分子の5’末端に隣接していないコード領域を言うように同義的に使用される。
【0044】
本明細書中で使用される場合は、「同時転写される」は、2つ(またはそれより多く)のコード領域またはポリヌクレオチドが、1つの転写制御エレメントまたは転写調節エレメントの転写制御下にあることを意味する。
【0045】
本明細書中で使用される場合は、「治療用」遺伝子は、発現した場合、この遺伝子が中に存在する細胞または組織に対して、あるいは、この遺伝子が中で発現される哺乳動物に対して、有用な効果を付与する遺伝子を意味する。有用な効果の例としては、症状または疾患の兆候もしくは症候の緩和、症状または疾患の予防もしくは阻害、あるいは、所望される特性の付与が挙げられる。治療用遺伝子としては、細胞または哺乳動物の遺伝的欠損を補正する遺伝子が挙げられる。
【0046】
用語「異種」および「外来性」は、プロモーターおよびコード配列のような核酸分子に関して本明細書中で使用される場合は、特定のベクター、ウイルス、または宿主細胞に対して外来である供給源に起源する配列を意味するか、または、同じ供給源に由来する場合は、そのもともとの形態から改変されている配列を意味する。したがって、ウイルスまたは細胞内の異種遺伝子としては、特定のウイルスまたは細胞に対して内因性であるが、例えば、コドン最適化によって改変されている遺伝子が挙げられる。この用語にはまた、天然に存在している核酸配列の天然には存在しない多コピー数も含まれる。したがって、この用語は、ベクター、ウイルス、または細胞に対して外来性であるかまたは異種である核酸セグメント、あるいは、ベクター、ウイルス、または細胞に対して同種の核酸セグメントであるが、このセグメントが通常では見出されないベクターまたは細胞性ゲノム中の位置にある核酸セグメントを意味する。
【0047】
用語「同種」は、核酸分子に関して本明細書中で使用される場合には、宿主ウイルスまたは細胞に天然において付随している核酸を意味する。
【0048】
用語「同一」またはパーセント「同一性」は、2つ以上のヌクレオチド配列に関しては、最大の態様について比較しかつ並べた場合に、本明細書中に記載される配列比較アルゴリズム(例えば、Smith−Watermanアルゴリズム、または目視試験)の1つを使用して測定した場合に、同じであるかまたは特定の割合の同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを有していることを意味する。
【0049】
本明細書中で使用される場合には、用語「配列同一性」は、配列アラインメントプログラムを使用して並べられた場合、2つ以上の並べられた配列の中のヌクレオチド間の同一の程度を意味する。用語「%相同性」は、本明細書においては、本明細書中の用語「%同一性」と交換可能に使用され、配列アラインメントプログラムを使用して並べられた、2つ以上の並べられた配列の間での核酸またはアミノ酸配列同一性のレベルを意味する。例えば、本明細書中で使用される場合には、80%の相同性は、定義されたアルゴリズムによって決定された80%の配列同一性と同じことを意味し、したがって、所定の配列のホモログが所定の配列の長さにわたって80%を超える配列同一性を有していることを意味する。
【0050】
用語「相補的」および「相補性」は、逆平行なヌクレオチド配列における相補的な塩基残基の間で水素結合の形成の際に互いに対合することができる2つの逆平行ヌクレオチド配列を意味する。
【0051】
用語「天然に存在している」は、野生型のウイルスまたは細胞のゲノム中に存在している遺伝子またはタンパク質を意味する。
【0052】
用語「宿主細胞」は、本明細書中で使用される場合は、ベクターによって、形質導入された細胞、感染させられた細胞、トランスフェクトされた細胞、または形質転換された細胞を意味する。ベクターは、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどであり得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞とともに以前使用されたものであり、当業者に明らかであろう。用語「宿主細胞」が、もともと形質導入されていた細胞、感染させられていた細胞、トランスフェクトされていた細胞、または形質転換されていた細胞、およびそれらの子孫を意味することが明らかであろう。
【0053】
用語「発現」は、細胞内での内因性遺伝子、トランスジーン、またはコード領域の転写および/または翻訳を意味する。アンチセンス構築物の場合には、発現は、アンチセンスDNAのみの転写を意味し得る。
【0054】
本明細書中で使用される場合は、用語「生物学的活性」および「生物学的に活性」は、培養物中の細胞株の中またはインビボでの、特定のタンパク質に起因すると考えられる活性を意味する。「免疫グロブリン」、「抗体」、またはそれらのフラグメントの「生物学的活性」は、抗原決定基に結合し、それによって免疫グロブリン機能を促進する能力を意味する。
【0055】
本明細書中で使用される場合は、用語「腫瘍」および「ガン」は、制御されていない増殖を示し、異常なほどの大きさの細胞のクローンを形成する細胞を意味する。腫瘍細胞またはガン細胞は、通常、接触阻止が欠損しており、そして侵襲性であり得、そして/または転移する能力を有し得る。
【0056】
(免疫グロブリンおよびそのフラグメント)
抗体は、重鎖および軽鎖のヘテロ二量体であり、哺乳動物培養発現システムにおいては1つのベクターから全長形態で発現させることが難しいことが証明されている、免疫グロブリンタンパク質である。脊椎動物の抗体の産生のためには、現在、3つの方法が使用されている:「ポリクローナル」抗体を産生するための動物のインビボでの免疫化、モノクローナル抗体を産生するためのB細胞ハイブリドーマのインビトロでの細胞培養(Kohler,ら,Eur.J.Immunol.,6:511,1976;Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988;参考として本明細書中で援用される)、および組換えDNA技術(例えば、Cabillyら,米国特許第6,331,415号(参考として本明細書中で援用される)に記載されている)。
【0057】
免疫グロブリンポリペプチドの基本的な分子構造は、およそ23,000ダルトンの分子量の2つの同一の軽鎖と、53,000〜70,000ダルトンの分子量の2つの同一の重鎖を含んでいることが周知である。4つの鎖は「Y」配置のジスルフィド結合によって連結されている。アミノ酸配列は、Yの先端にあるN末端からそれぞれの鎖の下端にあるC末端に向かって続く。N末端には、抗原結合の特異性を提供する(およそ100アミノ酸の長さの)可変領域が存在している。
【0058】
本発明は、全てのタイプの免疫グロブリンの産生のための改良された方法に関する。この免疫グロブリンには、天然に存在している配列を有している全長の抗体および抗体フラグメント(すなわち、抗原による刺激に応答して産生される配列)、単鎖抗体(これは、一本鎖の安定的に折り畳まれたポリペプチド鎖の中に重鎖と軽鎖の両方の抗原結合可変領域が組み合わせられている);一価抗体(これには、第2の重鎖のFc領域に結合させられた重鎖/軽鎖二量体が含まれている);「Fabフラグメント」(これには、免疫グロブリン分子の「Y」領域全体、すなわち、「Y」の分岐、軽鎖または重鎖のいずれかだけ、またはそれらの一部(すなわち、Fab’として一般に公知である1つの重鎖と1つの軽鎖の凝集物)が含まれている);「ハイブリッド免疫グロブリン」(これは、2つ以上の異なる抗原に対する特異性を有している(例えば、例えば米国特許第6,623,940号に記載されているようなクアドローマ(quadroma)または二重特異的抗体));「複合免疫グロブリン」(ここでは、重鎖および軽鎖が異なる種または特異性に由来するものを模倣する);ならびに「キメラ抗体」(ここでは、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの部分が1つより多い種に由来する(すなわち、可変領域はマウス抗体のような1つの供給源に由来し、一方、定常領域はヒト抗体のような別の供給源に由来する))が含まれるが、これらに限定はされない。
【0059】
本発明の組成物および方法は、重鎖または軽鎖が「哺乳動物」であるか、「キメラ」であるか、またはその効率を高めるための様式で改変されている、免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生において、有用性を見出す。改変された抗体には、未改変の形態の抗体と同じ生物学的活性を保持しているアミノ酸配列改変体およびヌクレオチド配列改変体、ならびに、活性が変化する(すなわち、補体結合、膜との相互作用、および他のエフェクター機能を改善する、定常領域内での変化、または抗原結合特性を改善する可変領域内での変化)ように改変された抗体の両方が含まれる。本発明の組成物および方法には、さらに、触媒性免疫グロブリンまたはそのフラグメントが含まれる。
【0060】
「改変体」免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチド配列は、参照ポリペプチド配列から1つ以上のアミノ酸が変化させられた「改変体」免疫グロブリンアミノ酸配列をコードし得る。改変体ポリヌクレオチド配列は、「保存的」置換を含む改変体アミノ酸配列をコードし得る。この場合、置換されたアミノ酸は、置き換わるアミノ酸と類似する構造的または化学的特性を有している。さらに、またはあるいは、改変体ポリヌクレオチド配列は、「非保存的」置換を含む改変体アミノ酸配列をコードし得る。この場合、置換されたアミノ酸は、置き換わるアミノ酸とは類似していない構造的または化学的特性を有する。改変体免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドはまた、アミノ酸の挿入もしくは欠失、またはそれらの両方を含む改変体アミノ酸配列をコードし得る。さらに、「改変体」免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドは、参照ポリヌクレオチド配列と同じポリペプチドをコードし得るが、遺伝子コードの縮重が原因で、参照ポリヌクレオチド配列から1つ以上の塩基が変化させられたポリヌクレオチド配列を有し得る。
【0061】
用語「フラグメント」は、本発明の組換え免疫グロブリンについて言及される場合には、対応する全長の免疫グロブリンタンパク質のアミノ酸配列全体ではなく一部と同じである、アミノ酸配列を有しているポリペプチドを意味する。これは、対応する全長のタンパク質と同じ生物学的機能または活性を本質的に保持しているか、あるいは、対応する全長のタンパク質の機能または活性の少なくとも1つを保持しているかのいずれかである。フラグメントには、全長の免疫グロブリンの少なくとも20〜100個の連続するアミノ酸残基が含まれることが好ましい。
【0062】
治療様式としての抗体の可能性は、現在は、現行技術の産生能力と高すぎるコストによって制限されている。本発明の一rAAVベクター免疫グロブリン発現システムは、2つ以上のコード配列(すなわち、1つのAAVベクターからの二重特異性または多特異性を有している免疫グロブリン)の発現および送達を可能にする。本発明は、先行技術の制限に取り組み、そして本明細書にさらに詳細に記載されるように、操作された抗体(例えば、単鎖抗体、全長の抗体、または抗体フラグメントを含む)任意の免疫グロブリン(すなわち、抗体)またはそのフラグメントに適用可能である。
【0063】
本発明は、1つのプロモーターを使用する免疫グロブリン重鎖および軽鎖の発現を利用する。この場合、重鎖および軽鎖は、実質的に等しい割合で発現させられる。ポリタンパク質の形態でのタンパク質の連結は、ピコルナウイルス科を含む多くのウイルスの複製に適応させられた戦略である。翻訳されると、ウイルスによってコードされる自己プロセシングペプチドによってポリタンパク質の迅速な分子内(シス)切断が媒介されて、成熟タンパク質産物の分泌がもたらされる。本発明により、1つのプロモーターを使用して免疫グロブリン重鎖コード配列および軽鎖コード配列の発現を促進する、自己プロセシングペプチド(本明細書中では2Aペプチドによって例示される)を含む組換え免疫グロブリンの発現のためのベクターが提供されるという点でIRESの使用を上回る利点が提供される。この場合、免疫グロブリン重鎖コード配列と軽鎖コード配列は、実質的に等しいモル比で発現させられる。実質的に等しいモル比での重鎖と軽鎖の発現は、例えば、ウェスタンブロット分析によって実証され得る。ウエスタンブロット分析において、重鎖タンパク質および軽鎖タンパク質は還元条件下でSDS−PAGEによって分離させられ、抗ラットIgGポリクローナル抗体または抗ヒトIgGポリクローナル抗体を使用してプローブ探査(probe)され、そして市販されているキットを使用して製造業者の説明書にしたがって視覚化される。
【0064】
(アゴニスト抗VEGFR2抗体)
本発明により、本質的に任意の免疫グロブリンの産生のためのAAV組成物および方法が提供される。本発明の組成物および方法を使用して産生することができる、臨床的有用性を有している免疫グロブリンの一例は、アゴニスト抗VEGFR2抗体である。
【0065】
背景としては、血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管系の発達および新脈菅形成(血管形成)において重要な役割を担っている増殖因子である。VEGFは、血管内皮細胞の増殖、移動、および分化を刺激し、そして生理学的条件および病理学的条件の両方において血管の形成を誘導する。VEGFは3種類の細胞表面チロシンレセプター:VEGFR1、VEGFR2(KDR)、およびVEGFR3に結合する。VEGFR2はVEGFによって活性化されるシグナル伝達を媒介することにおいて重要である。
【0066】
血液の供給が不十分である病理学的条件(例えば、冠状動脈疾患、骨格虚血、心筋虚血、脳虚血、四肢虚血、抹消血管疾患、虚血性皮膚創傷など)において、多くの場合、血管形成および新脈菅形成が、局所的な血液循環を改善するために所望される。血管由来増殖因子(特に、VEGF)の投与が新脈菅形成が行われている虚血組織において有効であることが、前臨床的モデルにおいて示されている。VEGFは、現在、心虚血および骨格虚血についての臨床評価の段階にある。しかし、組換えVEGFはヒトにおいておよそ30分間の半減期を有する。VEGFの短い半減期によってその臨床応用が制限されている。したがって、VEGF機能を提供するが、長い半減期を有しているアゴニスト抗KDR抗体によって血管形成治療が改良されるであろう。
【0067】
本発明の組成物および方法により、免疫グロブリンの高レベルの発現のための手段が提供される。その一例は、インビボでのアゴニストヒト抗VEGFR2抗体である。本発明は、抗体自体が投与される際の、短い半減期およびそれによって生じるインビボでの一貫しない免疫グロブリンレベルが原因である低い治療効率、加えて、反復投与の不便およびコストを示し得る状況において、特定の有用性を見出す。組換えタンパク質としてVEGFが投与され得るが、本発明のAAVベクターを使用したアゴニスト抗VEGFR抗体の発現は一貫した高レベルの免疫グロブリン発現の利点を提供する。
【0068】
本発明により、CGI2.20と命名されたアゴニストヒト抗VEGFR2抗体が提供される。この抗体は、VEGFによって媒介される血管形成についての主要なレセプターであるヒトVEGFR2に特異的に結合する。CGI2.20は、用量依存性の様式でインビトロでの血管内皮細胞の増殖を刺激し、そしてVEGF機能を模倣できることが観察されている。さらに、CGI2.20は、ヒトIgG遺伝子を有しているトランスジェニックマウス(XenoMouse)において発現させられており、したがって、ヒト患者にインビボで投与された場合に宿主免疫応答を引き起こすことはおそらくない完全なヒト抗体である。この抗体は、血管疾患において新脈菅形成を誘導するための血管形成促進剤(pro−angiogenic agent)として使用され得る。
【0069】
CGI2.20 mAbは、当業者に慣用的に使用されている任意のベクターシステム(ウイルスまたは非ウイルス)によって、局所的または全身的に投与され得る。ベクターとしては、AAV、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなどのようなウイルスベクター、およびプラスミドのような非ウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0070】
CGI2.20 mAbは、冠状動脈疾患、骨格虚血、心筋虚血、脳虚血、四肢虚血、抹消血管疾患、虚血性皮膚創傷などを含むがこれらに限定はされない疾患の処置のために新脈菅形成を誘導するための手段として治療的に使用され得る。組換え体抗体は、抗体全体または抗体フラグメント(例えば、単鎖抗体、Fab、F(ab)2など)であり得る。実施例7には、CGI2.20 mAbを使用する研究が記載される。
【0071】
(自己プロセシング切断部位または自己プロセシング切断配列)
「自己プロセシング切断部位」または「自己プロセシング切断配列」は、上記で定義されたように、DNAまたはアミノ酸を意味し、ここで、翻訳の際、自己プロセシング切断部位を含むポリペプチドの迅速な分子内(シス)切断が起こって、成熟タンパク質産物の分泌がもたらされる。このような「自己プロセシング切断部位」はまた、翻訳後、または翻訳と同時のプロセシング切断部位とも呼ばれ、本明細書中では2A部位、2A配列、もしくは2Aドメインによって例示される。2A部位、2A配列、または2Aドメインは、リボソームの活性を改変してエステル結合の加水分解を促進し、それによって分離した下流での翻訳産物の合成を進行させるような様式で翻訳複合体からポリペプチドを放出することにより、翻訳に対する効果を示す(Donnelly,2001)。あるいは、2A部位または2Aドメインは、シスでその自身のC末端を切断して一次切断産物を生じることにより、「自動タンパク質分解」または「切断」を示す(Furler;Palmenberg,Ann.Rev.Microbiol.44:603−623(1990))。
【0072】
メカニズムは本発明の一部ではないが、2Aの活性は、コドンの間のリボソームスキップ(ribosomal skipping)に関係し得、これはペプチド結合の形成を妨げる(de Felipeら,Human Gene Therapy 11:1921−1931(2000);Donnellyら,J.Gen.Virol.82:1013−1025(2001));しかし、このドメインはむしろ自己分解酵素のように作用すると考えられている(Ryanら,Virol.173:35−45(1989))。口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域が発現ベクター内にクローニングされ、標的細胞の中にトランスフェクトされた実験により、人工のレポーターポリタンパク質のFMDV 2A切断が広い範囲の異種発現システムにおいて有効であることが確立された(小麦胚芽溶解物およびタバコトランスジェニック植物(Haplinら,USPN 5,846,767(1998)、およびHaplinら,The Plant Journal 17:453−459(1999));Hs 683ヒト神経膠腫細胞株(de Felipeら,Gene Therapy 6:198−208(1999);本明細書中では以後、「de Felipe II」と呼ばれる);ウサギ網状赤血球溶解物およびヒトHTK−143細胞(Ryanら,EMBO J.13:928−933(1994));ならびに昆虫細胞(Roosienら,J.Gen.Virol.71:1703−1711(1990)))。異種ポリタンパク質のFMDV 2Aによって媒介される切断は、IL−2について明らかにされている(p40/p35ヘテロ二量体;Chaplinら,J.Interferon Cytokine Res.19:235−241(1999))。トランスフェクトされたCOS−7細胞においては、FMDV 2Aによって、p40−2A−p35ポリタンパク質の、IL−12と関連する活性を有している生物学的に機能的なサブユニットp40およびp35への切断が媒介された。
【0073】
FMDV 2A配列は、2シストロン性ベクター、3シストロン性ベクター、および4シストロン性ベクターを構築するために、単独で、または種々のIRES配列と組み合わせてレトロウイルスベクターに取り込まれている。動物の中での2Aによって媒介される遺伝子発現の効率は、FMDV 2A配列を介して連結された、a−シヌクレイン(a−synuclein)およびEGFP、またはCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD−1)およびEGFPをコードする組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して、Furler(2001)によって明らかにされた。EGFPおよびa−シヌクレインは、対応するIRESをベースとするベクターと比較して2A配列が含まれるベクターからは実質的に高いレベルで発現され、一方、SOD−1は同等かまたはわずかに高いレベルで発現された。Furlerはさらに、2A配列が、2Aを含むAAVベクターのラットの黒質への注射後にインビボで2シストロン性遺伝子の発現を生じることも明らかにした。最近、2Aペプチドおよび2A様配列がレトロウイルスベクターを使用する4シストロンの効率のよい翻訳に有効であることが明らかにされた(Szymczak ALら,Nat Biotechnol.2004 May 22(5):589−94)。
【0074】
本発明については、自己プロセシング切断部位をコードするDNA配列は、ピコルナウイルスに由来するウイルス配列によって例示され、このピコナウイルスには、エンテロウイルス、ライノウイルス、カルジオウイルス、アフトウイルス、または口蹄病ウイルス(FMDV)が含まれるが、これらに限定はされない。好ましい実施形態においては、自己プロセシング切断部位をコードする配列は、FMDVに由来する。自己プロセシング切断部位としては、2Aドメインおよび2A様ドメイン(Donnellyら,J.Gen.Virol.82:1027−1041(2001))(その全体が参考として本明細書中で援用される)が挙げられるが、これに限定はされない。
【0075】
本発明のベクター構築物についての2つ以上の異種DNA配列の間の2A配列の位置的なサブクローニングにより、1つの発現ベクターを介した2つ以上の遺伝子の送達および発現が可能である。好ましくは、自己プロセシング切断部位(例えば、FMDV 2A配列)により、1つのウイルスベクターから、例えば、抗体、ヘテロ二量体レセプター、またはヘテロ二量体タンパク質の別々の部分であり得る2つまたは複数のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを発現させ、そして送達するための特有の手段が提供される。
【0076】
FMDV 2Aは、自身のC末端での1つの切断を指示し、したがってシスで作用するようにFMDVゲノムの中で機能するポリタンパク質領域である。FMDV 2Aドメインは通常、約19アミノ酸の長さであることが報告されている(LLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号1);(TLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号2;Ryanら,J.Gen.Virol.72:2727−2732(1991))。しかし、14個のアミノ酸残基(LLKLAGDVESNPGP;配列番号3)のような短いオリゴペプチドが、天然に存在しているFMDVポリタンパク質のプロセシングにおける役割と同様の様式で2A C末端での切断を媒介することが示されている。
【0077】
2A配列のバリエーションが、ポリタンパク質の効率のよいプロセシングを媒介するそれらの能力について研究されている(Donnelly MLら,2001)。2A配列のホモログおよび改変体は本発明の範囲に含まれ、そしてこれには以下の表1に示される配列が含まれるが、これらに限定はされない。
【0078】
(表1.例示的な2A配列の表)
【0079】
【表1】
2A配列およびその改変体の特徴的な利点は、ポリタンパク質の自己プロセシングの促進におけるそれらの使用である。本発明には、自己プロセシング切断部位を介して連結されたタンパク質またはポリペプチドのコード配列を含み、その結果、個々のタンパク質が自己プロセシング切断部位(例えば、2Aドメイン)の存在が原因でポリタンパク質の切断後に等モルで発現させられるかまたはほぼ等モルで発現させられる、任意のベクター(プラスミドまたはウイルスをベースとするもの)が含まれる。これらのタンパク質は、ベクター自体に対しては互いに異種であってもよく、また、自己プロセシング切断部位に対して異種であってもよい(例えば、FMDV)。
【0080】
2Aコード配列の大きさが小さいことにより、さらに、AAVのようなコード配列について限られたパッケージング能力を有しているベクターにおいて2Aコード配列を使用することができる。AAVベクターの有用性は、2A配列によって二重プロモーターの必要性が排除されるので、さらに拡大することができる。2Aと組み合わせた2つより多いコード配列を含む1つのオープンリーディングフレームを駆動するプロモーターからの個々のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの発現レベルは、IRES配列または二重プロモーターを使用して達成することができる発現レベルと比較して、ほぼ等モルである。二重プロモーターの排除によってはまた、各コード配列の発現レベルの低下および/または減少を生じ得るプロモーターの干渉も減少させられる。
【0081】
1つの好ましい実施形態においては、本発明に従うベクターに含まれるFMDV 2A配列は、LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)を含むアミノ酸残基をコードする。あるいは、本発明に従うベクターは、Donnellyら,J.Gen.Virol.82:1027−1041(2001)で議論されているような他の2A様領域のアミノ酸残基をコードし得る。これには、ピコルナウイルス、昆虫ウイルス、C型ロタウイルス、トリパノソーマ反復配列、または細菌、Thermatoga maritimaに由来する、2A様ドメインが含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明により、2Aポリペプチドまたは2A様ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列改変体、(例えば、親ヌクレオチドのコドンと比較して1つ以上のアミノ酸について異なるコドンを有している2Aポリペプチドまたは2A様ポリペプチドについての核酸コード配列)の使用が想定される。このような改変体は、本発明によって具体的に想定され、包含される。2Aペプチドおよびポリペプチドの配列改変体も、本発明の範囲内に含まれる。
【0083】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch,J Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,85:2444(1988)の類似性の検索方法によって、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実行(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によって、BLASTアルゴリズム(Altschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))によって、the National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公に入手可能なソフトウェアを用いて、あるいは、目視検査(一般的には、Ausubelら,後出を参照のこと)によって行うことができる。本発明の目的のために、比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって行われることが最も好ましい。Altschul,S.F.ら,1990およびAltschul、S.F.ら,1997もまた参照のこと。
【0084】
本発明にしたがい、天然に存在している配列に対して80、85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%、またはそれ以上の配列同一性を有している自己プロセシング切断ポリペプチドをコードする配列改変体およびポリペプチド自体もまた含まれる。
【0085】
核酸配列は、2つの配列が中程度から高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で互いに特異的にハイブリダイズする場合には、参照ヌクレオチド配列に対して「選択的にハイブリダイズできる」と考えられる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体またはプローブの融解温度(Tm)に基づく。例えば、「最大ストリンジェンシー」は、通常、およそTm−5℃(プローブのTmよりも5℃低い)で生じる;「高いストリンジェンシー」は、Tmよりも約5〜10℃低く;「中程度のストリンジェンシー」はプローブのTmよりも約10〜20℃低く;そして「低いストリンジェンシー」はTmよりも約20〜25℃低い。機能的には、最大ストリンジェンシーの条件は、ハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性またはほぼ厳密な同一性を有している配列を同定するために使用することができる;一方、高いストリンジェンシーの条件は、プローブと約80%以上の配列同一性を有している配列を同定するために使用される。
【0086】
中程度および高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は当該分野では周知である(例えば、Sambrook,ら,1989,第9章および第11章,ならびにAusubel,F.M.,ら,1993を参照のこと)。高いストリンジェンシーの条件の一例としては、50%のホルムアミド、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%のSDS、および100mg/mlの変性させられたキャリアーDNAの中で約42℃でのハイブリダイゼーション、その後の、2×SSCおよび0.5%のSDS中で室温での2回の洗浄、および0.1×SSCおよび0.5%のSDSの中での42℃での2回のさらなる洗浄が挙げられる。本明細書中に記載される2Aポリペプチドと同じ生物学的活性を有しているポリペプチドをコードし、そして中程度から高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする2A配列改変体は、本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0087】
遺伝子コードの縮重の結果として、同じ2Aポリペプチドまたは2A様ポリペプチドをコードする多数のコード配列が生じ得る。例えば、トリプレットCGTはアミノ酸アルギニンをコードする。アルギニンは、また、CGA、CGC、CGG、AGA、およびAGGによってもコードされる。したがって、コード領域の中のこのような置換が本発明にカバーされる配列改変体に入ることは明らかである。
【0088】
さらに、このような配列改変体は、高いストリンジェンシーの条件下で親配列にハイブリダイズしても、またハイブリダイズしなくてもよいことが理解される。これは、例えば、配列改変体に親ヌクレオチドによってコードされるアミノ酸の各々について異なるコドンが含まれる場合に起こり得る。それでもなお、このような改変体は、本発明によって具体的に想定され、包含される。
【0089】
(自己プロセシングペプチド配列の除去)
自己プロセシングペプチド(例えば、2A配列または2A様配列)の使用に伴う1つの懸念は、最初のポリペプチドのN末端に自己プロセシングペプチドに由来するアミノ酸(すなわち、2A由来のアミノ酸残基)が含まれることである。これらのアミノ酸残基は、宿主にとっては「外来性」であり、そして組換えタンパク質がインビボで発現させられたかまたは送達された(すなわち、遺伝子治療に関連してウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによって発現させられたか、あるいは、インビトロで産生された組換えタンパク質として投与された)場合には免疫応答を誘発し得る。加えて、2A由来のアミノ酸残基は、除去されない場合、産生細胞においてタンパク質の分泌を妨害し得るか、そして/またはタンパク質の立体構造を変化させ得、組換えタンパク質の最適な発現レベルの低下、および/または組換えタンパク質の生物学的活性の低下をもたらし得る。本発明には、切断後に残っている自己プロセシング切断部位由来アミノ酸残基の除去のための手段として、ポリペプチドをコードする配列と自己プロセシング切断部位(すなわち、2A配列)の間にさらなるタンパク質分解的切断部位が提供されるように操作された、遺伝子発現構築物が含まれる。
【0090】
さらなるタンパク質分解的切断部位の例は、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である。これは、内因性のサブチリシン様プロテアーゼ(例えば、フリン)およびタンパク質分泌経路の中の他のセリンプロテアーゼによって切断することができる。USSN 10/831302(参考として本明細書中で援用される)に示されているように、本発明者らにより、第1のポリペプチドと2A配列との間にフリン切断部位RAKR(配列番号11)を導入することによって、第1のタンパク質のN末端にある2A残基を効率よく除去できることが明らかにされた。加えて、2A配列をコードするヌクレオチド配列と2A部位に隣接しているフリン切断部位を含むプラスミドの使用により、2A配列のみを含むプラスミドよりも高いレベルのタンパク質の発現を生じることが示された。この改良により、2A残基がタンパク質のN末端から除去される場合には、より長い2A配列もしくは2A様配列または他の自己プロセシング配列を使用できるというさらなる利点が提供される。このようなより長い自己プロセシング配列(例えば、2A配列または2A様配列)によって、1つのプロモーターにより2つ以上のポリペプチドの良好な等モル量での発現を促進させることができる。
【0091】
完全なヒトの特性を有している抗体またはそのアナログを使用することは有利である。これらの試薬によって、非ヒト種を起源とする抗体またはアナログによって誘導される望ましくない免疫応答が回避される。自己プロセシングペプチド由来のアミノ酸残基に対して起こり得る宿主免疫応答を解決するために、タンパク質分解的切断部位のコード配列が、第1のタンパク質のコード配列と自己プロセシングペプチドのコード配列との間に(当該分野で公知の標準的な方法論を使用して)挿入され得、それによって、発現させられたポリペプチド(すなわち、抗体)から自己プロセシングペプチド配列を除去する。このことは、インビボでの使用のための治療用抗体または診断用抗体における特定の有用性を見出す。
【0092】
組換えDNA技術ベクターを使用して発現させることができる当該分野で公知の任意のさらなるタンパク質分解的切断部位が、本発明の実施において使用され得る。ポリペプチドまたはタンパク質をコードする配列と自己プロセシング切断配列(例えば、2A配列)との間に挿入することができる例示的なさらなるタンパク質分解的切断部位としては、以下が挙げられるがこれらに限定はされない:
a)フリン切断部位:RXK(R)R(配列番号10);
b)第Xa因子切断部位:IE(D)GR(配列番号12);
c)シグナルペプチダーゼI切断部位:例えば、LAGFATVAQA(配列番号13);および
d).トロンビン切断部位:LVPRGS(配列番号14)。
【0093】
本明細書中に詳細に記載されるように、2Aペプチド配列により、翻訳プロセスの間の免疫グロブリンの両方の鎖または他のタンパク質の作製を促進する「切断」部位が提供される。1つの例示的な実施形態においては、第1のタンパク質(例えば、免疫グロブリン重鎖)のC末端には、2A配列自体に由来するおよそ13個のアミノ酸残基が含まれる。残っているアミノ酸の数は使用される2A配列に依存する。上記に示されており、そして実施例で示されるように、フリン切断部位配列(例えば、RAKR(配列番号11))が第1のタンパク質と2A配列との間に挿入されている場合には、2A残基は第1のタンパク質のC末端から除去される。しかし、質量スペクトル分析データは、RAKR−2A構築物(配列番号11として開示されたRAKR)から発現させられた第1のタンパク質のC末端に、フリン切断部位RAKR(配列番号11)に由来するさらなる2つのアミノ酸残基RAが含まれていることを示している。
【0094】
1つの実施形態においては、本発明により、残っているアミノ酸の除去のための方法、およびその発現のための組成物が提供される。タンパク質のC末端からのこれらのさらなるアミノ酸の除去を提供する多数の新規な構築物が設計されている。フリンによる切断は、コンセンサス配列RXR(K)R(配列番号27)を有している切断部位のC末端で生じ、ここでは、Xは任意のアミノ酸である。1つの態様においては、本発明により、カルボキシペプチダーゼ(CP)(これには、カルボキシペプチダーゼD、E、およびH(CPD、CPE、CPH)が含まれるがこれらに限定はされない)と呼ばれる酵素のグループから選択される酵素の使用による、タンパク質のC末端からの新たに露出させられた塩基性アミノ酸残基RまたはKの除去のための手段が提供される。CPはタンパク質のC末端にある塩基性アミノ酸残基を除去することができるので、塩基性アミノ酸RまたはKだけを含むフリン切断部位(例えば、RKKR(配列番号15)、RKRR(配列番号16)、またはRRRR(配列番号17)など)に由来する全てのアミノ酸残基を、CPによって除去することができる。2A配列およびフリン切断部位を含み、そしてC末端に塩基性アミノ酸残基を有している一連の免疫グロブリン発現構築物が、切断および残基の除去の効率を評価するために構築されている。例示的な構築物の設計は以下である:H鎖−フリン(例えば、RKKR(配列番号15)、RKRR(配列番号16)、RRKR(配列番号18)、またはRRRR(配列番号17))−2A−L鎖、またはL鎖−フリン(例えば、RKKR(配列番号15)、RKRR(配列番号16)、RRKR(配列番号18)、またはRRRR(配列番号17))−2A−H鎖。例示的な構築物の模式図は、それぞれ図14および15に提供される。
【0095】
当業者に明らかであるように、免疫グロブリン重(H)鎖のC末端には塩基性アミノ酸残基(K)(H鎖をカルボキシペプチダーゼによる切断に供する)が存在し、一方、免疫グロブリン軽(L)鎖には、塩基性ではないアミノ酸Cが末端にある。本発明の1つの好ましい実施形態においては、フリン部位および2A配列を含む抗体発現構築物が提供され、ここでは、免疫グロブリンL鎖は免疫グロブリンH鎖に対して5’の位置にあり、その結果、翻訳後には、さらなるフリンアミノ酸残基がカルボキシペプチダーゼによって切断される。
【0096】
(本発明の実施において使用されるベクター)
本発明により、免疫グロブリンの発現が生じる限りは、免疫グロブリン重鎖および軽鎖のコード配列および自己プロプロセシング切断配列を含む構築物を細胞内に導入するための任意のAAVウイルスベクター血清型の使用が想定される。多数のAAVベクターが当該分野で公知である。組換えAAVウイルスベクターの作製においては、必須ではない遺伝子が目的のタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子と置き換えられる。初期の研究はAAV2血清型を使用して行われていた。しかし、AAV2以外の代替のAAV血清型の使用により(Davidsonら,(2000),PNAS 97(7)3428−32;Passiniら,(2003),J.Virol 77(12):7034−40)は、種々の細胞向性と形質導入能力の増大が示された。1つの態様においては、本発明は、インビトロまたはインビボでの免疫グロブリンまたは他の治療用化合物の最適なAAVベクターによって媒介される送達および発現を可能にする、AAVベクターならびに方法に関する。
【0097】
ベクターには、通常、複製起点が含まれ、そしてベクターには、さらに、ベクターを同定および選択することができる「マーカー」すなわち「選択マーカー」機能が含まれても、または含まれなくてもよい。任意の選択マーカーを使用することができるが、組換えベクターにおいて使用される選択マーカーは当該分野で一般的に公知であり、適切な選択マーカーの選択は宿主細胞に依存するであろう。抗生物質または他の毒素に対する耐性を付与するタンパク質をコードする選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン、メトトレキセート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southernら,J.,J Mol Appl Genet.1982;1(4):327−41(1982))、ミコフェノール酸(Mulliganら,Science 209:1422−7(1980))、ピューロマイシン、ゼオマイシン、ハイグロマイシン(Sugdenら,Mol Cell Biol.5(2):410−3(1985))、およびG418が挙げられるが、これらに限定はされない。当業者に理解されるように、発現ベクターには、通常、複製起点、発現させられるコード配列(単数または複数)に作動可能に連結させられたプロモーター、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライシング部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列が、発現させられるコード配列(単数または複数)に適切であるように含まれる。
【0098】
ベクターまたは他のDNA配列についての「組換え体」との言及は、通常は作動可能に連結されない(天然から単離されるか、または天然において見出される)DNA配列の、動可能な連結を認めるに過ぎない。調節(発現および/または制御)配列は、発現配列および/または制御配列が、ヌクレオチド配列の転写を調節し、そして適切である場合には翻訳を調節する場合に、核酸コード配列に作動可能に連結されている。したがって、発現調節および/または制御配列には、プロモーター、エンハンサー、転写終結因子、コード配列の5’にある開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、および終止コドンが含まれ得る。
【0099】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、染色体への組み込みによって細胞に潜在的に感染することができる、ヘルパー依存性ヒトパルボウイルスである。染色体に組み込むその能力と、その非病原性の性質が原因で、AAVはヒト用の遺伝子治療ベクターとしてかなりの可能性を有している。本発明の実施における使用のためには、rAAVビリオンは、当業者に公知である標準的な方法論を使用して産生され得、そして、転写の方向で、転写開始配列および転写終結配列を含む制御配列、目的の免疫グロブリンコード配列(単数または複数)、および自己プロセシング切断配列を、作動可能に連結された成分として含むように、構築され得る。より具体的には、本発明の組換えAAVベクターには以下が含まれる:(1)複製欠損AAVビリオンにベクターが取り込まれることを可能にするパッケージング部位;(2)2つ以上の目的のポリペプチドまたはタンパク質(例えば、目的の免疫グロブリンの重鎖および軽鎖)のコード配列;ならびに(3)単独の、またはさらなるタンパク質分解的切断部位と組み合わせられた、自己プロセシング切断部位をコードする配列。本発明の実施において使用されるAAVベクターはまた、転写の方向で作動可能に連結された成分として、転写開始配列および転写終結配列を含む制御配列をも含むように構築される。これらの成分には、機能性AAV ITR配列が5’末端および3’末端に隣接している。「機能性AAV ITR配列」により、ITR配列がAAVビリオンのレスキュー、複製、およびパッケージングを意図するように機能することが意味される。
【0100】
組換えAAVベクターはまた、それらが標的細胞の中での組換え免疫グロブリンの発現および産生を指向し得ることによっても特徴付けられる。したがって、組換えベクターには、少なくとも、キャプシド化に不可欠なAAV配列全体、および組換えAAV(rAAV)ビリオンの感染のための物理的構造が含まれる。したがって、本発明のベクターにおいて使用されるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく(例えば、Kotin,Hum.Gene.Ther.,5:793−801,1994に記載されている)、そしてヌクレオチドの挿入、欠失、もしくは置換によって変化させられ得るか、あるいは、AAV ITRはいくつかのAAV血清型のいずれかに由来し得る。一般的には、AAVベクターはアデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターであり、これには、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8などが含まれるがこれらに限定はされない。好ましいrAAVベクターは、全体または一部が欠失している野生型REP遺伝子および野生型CAP遺伝子を有しているが、機能性の隣接ITR配列は維持している。表2には、本発明の実施において使用される例示的なAAV血清型が示される。
【0101】
(表2.遺伝子導入に使用されるAAV血清型)
【0102】
【表2】
通常、AAV発現ベクターは、産生細胞に導入され、その後、AAVヘルパー構築物が導入される。ここでは、へルパー構築物には、産生細胞中で発現させることができるAAVコード領域が含まれ、そして補体AAVヘルパー機能はAAVベクターにおいては存在しない。ヘルパー構築物は、大きなRepタンパク質(Rep78およびRep68)の発現を、通常は、米国特許第6,548,286号(参考として本明細書中で援用される)に記載されているようにATGからACGに開始コドンの後のp5を変異させることによって、ダウンレギュレートさせるように設計することができる。これにはその後に、産生細胞へのへルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターの導入が続く。ここでは、ヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターにより、効率的なrAAVウイルスの産生を支持し得るアクセサリー機能が提供される。その後、産生細胞が培養されてrAAVが産生される。これらの工程は、標準的な方法論を使用して行われる。本発明の組換えAAVベクターをカプセル化する複製欠損AAVビリオンは、AAVパッケージング細胞およびパッケージング技術を使用して当該分野で公知の標準的な技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,436,146号;同第5,753,500号、同第6,040,183号、同第6,093,570号、および同第6,548,286号(これらはそれらの全体が参考として本明細書中で援用される)において見出され得る。パッケージングのためのさらなる組成物および方法は、Wangら,(US2002/0168342)(これもまたその全体が参考として本明細書中で援用される)に記載されており、これには、当業者の知識の範囲内にある技術が含まれる。
【0103】
AAVのおよそ40種類の血清型が現在公知である。しかし、新規な血清型、および既存の血清型の改変体が、今日もなお同定されており、本発明の範囲内に含まれるとみなされる。Gaoら,(2002),PNAS 99(18):11854−6;Gaoら,(2003),PNAS 100(10):6081−6;BossisおよびChiorini(2003),J.Virol.77(12):6799−810を参照のこと。種々のAAV血清型は、特定の標的細胞の形質導入を最適化するため、または特定の標的組織内の特異的な細胞型を標的化するために使用される。種々のAAV血清型の使用により、疾患組織の標的化が促進され得る。特定のAAV血清型は、特異的な標的組織型または細胞をより効率よく標的化し得、そして/または複製し得る。1つの自己相補性AAVベクターが、形質導入効率を増大させるために本発明の実施において使用され得、トランスジーンの発現のより早い開始をもたらし得る(MaCartyら,Gene Ther.2001 Aug;8(16):1248−54)。
【0104】
本発明の実施においては、rAAVビリオンを産生するための宿主として、哺乳動物細胞、昆虫細胞、微生物、および酵母が挙げられる。宿主細胞はまた、AAVベクターのゲノムが安定的に維持されそしてパッケージされる宿主細胞または産生細胞の中で、AAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子が安定的に維持される、パッケージング細胞であってもよい。例示的なパッケージング細胞および産生細胞は、293細胞、A549細胞、またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当該分野で公知の標準的な技術を使用して精製され、そして処方される。
【0105】
本発明のベクターには、通常、異種制御配列が含まれ、異種制御配列としては、構成性プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、およびPGKプロモーター、組織特異的プロモーターまたは細胞型特異的プロモーター(mTTR、TK、HBV、hAATを含む)、調節性プロモーターまたは誘導性プロモーター、エンハンサーなどが挙げられるが、これらに限定はされない。好ましいプロモーターとしては、LSPプロモーター(Illら,Blood Coagul.Fibrinolysis 8S2:23−30(1997))、EF1−αプロモーター(Kimら,Gene 91(2):217−23(1990))、およびGuoら,Gene Ther.3(9):802−10(1996))が挙げられる。最も好ましいプロモーターとしては、伸張因子1−α(EF1a)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子(CMV)プロモーター、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター、テトラサイクリン反応性プロモーター(TRE)、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、およびCK6プロモーターが挙げられる。これらおよび多数のさらなるプロモーターのヌクレオチド配列が当該分野で公知である。関連する配列は、公的なデータベースから容易に入手することができ、そして本発明の実施において使用されるAAVベクターに組み入れられ得る。
【0106】
本発明により、また、免疫グロブリンコード配列の制御された発現のための遺伝子調節システムを含めることも企図される。遺伝子調節システムは、特定の遺伝子(単数または複数)の調節された発現に有用である。1つの例示的なアプローチにおいては、遺伝子調節システムまたはスイッチには、リガンド結合ドメイン、転写活性化ドメイン、およびDNA結合ドメインを有しているキメラ転写因子が含まれる。これらのドメインは、実質的にあらゆる供給源から得ることができ、そして新規なタンパク質を得るための多数の方法のいずれかにおいて組み合わせることができる。調節可能な遺伝子システムにはまた、キメラ転写因子と相互作用するDNA応答エレメントも含まれる。このエレメントは調節される遺伝子に隣接して配置される。
【0107】
本発明の実施において使用することができる例示的な遺伝子調節システムとしては、ショウジョウバエのエクジソンシステム(Yaoら,Proc.Nat.Acad.Sci.,93:3346(1996))、カイコガのエクジソンシステム(Suhrら,Proc.Nat.Acad.Sci.,95:7999(1998))、Valentis GeneSwitch(登録商標)合成プロゲステロンレセプターシステム(RU−486をインデューサーとして使用する)(Osterwalderら,Proc Natl Acad Sci 98(22):12596−601(2001));TetO & RevTetOシステム(BD Biosciences Clontech)(標的の転写を調節する(オンにするか、またはオフにする)ためにテトラサイクリン(Tc)またはアナログ(例えば、ドキシサイクリンまたはアンヒドロテトラサイクリン)のような小さい分子を使用する)(Knottら,Biotechniques 32(4):796,798,800(2002));ARIAD調節技術(2つの細胞内分子を一緒に輸送するための低分子の使用に基づき、これら分子のそれぞれは転写活性化因子またはDNA結合タンパク質のいずれかに連結される)。これらの成分が一緒に連結されると、目的の遺伝子の転写が活性化される。Ariadは2つの主要なシステムを有する:ホモ二量体化に基づくシステム、およびヘテロ二量体化に基づくシステム(Riveraら,Nature Med,2(9):1028−1032(1996);Yeら,Science 283:88−91(2000))。これら両方が、本発明の実施において使用され得る。
【0108】
本発明の実施において使用される好ましい遺伝子調節システムは、ARIAD調節技術およびTetO & RevTetOシステムである。
【0109】
(免疫グロブリンをコードする配列を含む核酸構築物の細胞への送達)
自己プロセシング組換えポリペプチドの形態で抗体またはそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含む本発明のrAAVベクター構築物は、細胞(例えば、体細胞)への治療用遺伝子の送達のために、またはAAVベクターが形質導入された細胞による組換え免疫グロブリンの産生のために、インビトロ、エキソビボ、またはインビボで細胞に導入され得る。
【0110】
本発明のrAAVベクター構築物は、当該分野で公知の標準的な方法論を使用して、インビトロまたはエキソビボで細胞に導入され得る。このような技術としては、リン酸カルシウムを使用するトランスフェクション、培養細胞へのマイクロインジェクション(Capecchi,Cell 22:479−488(1980))、エレクトロポレーション(Shigekawaら,Bio Techn.,6:742−751(1988))、リポソーム媒介遺伝子導入(Manninoら,BioTechn.,6:682−690(1988))、脂質媒介形質導入(Felgnerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:7413−7417(1987))、および高速マイクロプロジェクタイル(microprojectile)を使用する核酸の送達(Kleinら,Nature 327:70−73(1987))が挙げられる。
【0111】
本発明のrAAV構築物は、当業者によって慣用的に使用されている標準的な感染技術を使用して細胞に導入され得る。
【0112】
インビトロまたはエキソビボでの発現のためには、機能性免疫グロブリンを発現させるために有効な任意の細胞を使用することができる。タンパク質の発現に使用される細胞および細胞株の多数の例は当該分野で公知である。例えば、原核生物細胞および昆虫細胞が発現のために使用され得る。加えて、真核生物である微生物(例えば、酵母)が使用され得る。原核生物システム、昆虫システム、および酵母システムでの組換えタンパク質の発現は、当該分野で一般的に公知であり、本発明の組成物および方法を使用して抗体の発現に適応させることができる。
【0113】
免疫グロブリンの発現に有用な細胞の例としては、さらに、哺乳動物細胞(例えば、線維芽細胞、非ヒト哺乳動物に由来する細胞(例えば、ヒツジ、ブタ、マウス、およびウシの細胞)、昆虫細胞などが挙げられる。哺乳動物細胞の特異的な例としては、COS細胞、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、293細胞、NSO細胞、SP20細胞、3T3線維芽細胞、W138細胞、BHK細胞、HEPG2細胞、DUX細胞、およびMDCK細胞が挙げられる。
【0114】
宿主細胞は、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望される配列をコードする遺伝子の増幅のために適切であるように改変された従来の栄養培地の中で培養される。哺乳動物宿主細胞は、種々の培地で培養することができる。市販されている培地(例えば、Ham’s F10(Sigma)、最小必須培地(MEM、Sigma)、RPMI 1640(Sigma)、およびDalbecco改変イーグル培地(DMEM,Sigma)が、通常は宿主細胞の培養に適している。任意の培地には、通常、ホルモンおよび/または他の増殖因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または表皮増殖因子)、DHFR、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質、微量元素、およびグルコースもしくは同等のエネルギー源が必要に応じて補充される。任意の他の必須の補助物質もまた、当業者に公知である適切な濃度で含まれ得る。特定の細胞株についての適切な培養条件(例えば、温度、pHなど)は当該分野で一般的に公知であり、例えば、<“http://www.atcc.org/Search catalogs/AllCollections.cfm.”>でオンラインで入手することができるATCCカタログに提供されている多数の細胞株の培養について提案されている培養条件が用いられる。本発明のrAAVベクターは、動物モデルまたはヒト被験体にrAAVを送達するために有効な多数の経路(例えば、皮内、静脈内、腫瘍内、脳内、門脈内、腹腔内、筋肉内、膀胱内など)のいずれかによってインビボで投与され得る。投与経路に応じて、組換え免疫グロブリンは局所的または全身的に作用を誘発するであろう。免疫グロブリンのオープンリーディングフレーム(単数または複数)に対して5’の位置での組織特異的プロモーターの使用は、組織非特異的プロモーターの制御下で発現させられる組換え免疫グロブリンの発現に関して、より大きな組織特異性をもたらす。
【0115】
例えば、本発明の組換えAAVベクターのインビボでの送達は、脳、肝臓、血管、筋肉、心臓、肺、および皮膚を含むがこれらに限定はされない広い範囲の様々な器官のタイプに対して標的化され得る。本発明の組換えAAVベクターのインビボでの送達はまた、細胞の状態に基づいて広い範囲の様々な細胞のタイプに対しても標的化され得る。すなわち、ガン細胞は、細胞周期、細胞環境の低酸素状態、またはガン性ではない場合の(正常な生理学的条件下にある分裂していないかまたは調節されて分裂している状態である)同じ細胞の典型的な生理学的状態または正常な生理学的状態とは異なる他の生理学的状態に基づいて、標的化され得る。細胞状態に関係するプロモーターの例は、テロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(TERT)およびE2Fプロモーターである。
【0116】
エキソビボでの遺伝子の導入の場合には、標的細胞は、本発明の組換えAAVベクターおよび当該分野で周知の方法を使用して宿主細胞から取り出され、そして研究室において遺伝子改変される。
【0117】
本発明の組換えAAVベクターは、上記の形式を含むがそれらに限定はされない従来の投与形式を使用して投与され得、そして様々な処方物中に存在し得る。この処方物としては、液体溶液および懸濁液、微小胞、リポソーム、および注射可能溶液もしくは注入可能溶液が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましい形態は、投与の形式および治療用途に依存する。
【0118】
本明細書中に提供される実験結果が示すように、本発明の組換えAAVベクター構築物をインビボでの免疫グロブリンの産生において使用すること(例えば、長期間にわたる1つのベクターの投与および患者の中での持続的な抗体の発現、あるいは抗体または完全な生物学的活性を有しているそのフラグメントのインビボでの発現であって、ここで、抗体の天然の翻訳後修飾は、ヒト細胞の中で起こる)において、実現される多くの利点がある。
【0119】
本発明の組換えAAVベクター構築物は、さらに、治療で使用される組換え体抗体のインビトロでの産生においても有用性を見出す。組換えタンパク質の産生のための方法は当該分野で周知であり、そして、本明細書中に記載される自己プロセシング切断部位を含むベクター構築物を使用する組換え抗体の発現に利用することができる。
【0120】
1つの態様においては、本発明により、上記のようなAAVベクターを細胞の中に導入してAAVに感染した細胞を得ることによる、組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生のための方法が提供される。ここでは、ベクターには、5’から3’の方向に向かって:免疫グロブリン重鎖もしくは軽鎖またはそれらのフラグメントのコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、自己プロセシング配列(例えば、2A配列または2A様配列)、ならびに免疫グロブリン重鎖もしくは軽鎖またはそれらのフラグメントのコード配列が含まれ、ここでは、自己プロセシング切断配列は、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間に挿入される。免疫グロブリンの重鎖のコード配列、または免疫グロブリン軽鎖のコード配列のいずれかが、所定のAAV構築物において2A配列に対して5’(すなわち、第1)の位置に存在し得ることが理解されるであろう。
【0121】
関連する態様においては、本発明により、細胞に上記のようなAAVベクターを導入することによる、組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントを産生するための方法が提供される。ここでは、AAVベクターには、さらに、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間にさらなるタンパク質分解的切断部位が含まれる。好ましいさらなるタンパク質分解的切断部位は、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である。
【0122】
本発明の1つの例示的な態様においては、インビトロでの細胞へのAAVベクターの導入の後に、以下の工程の1つ以上が続く:
(1)免疫グロブリンまたはそのフラグメントを発現する細胞を選択するための条件下で、トランスフェクトされた細胞を培養する工程;
(2)免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現を測定する工程;および
(3)免疫グロブリンまたはそのフラグメントを収集する工程。
【0123】
本発明の別の例示的な態様においては、インビボでの患者へのAAVベクターの投与の後には、以下の工程の1つ以上が続く:
(1)患者から血清、血漿、または他の組織試料を収集する工程;
(2)免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現レベルを測定する工程;および
(3)免疫グロブリンまたはそのフラグメントの検出レベルに依存して治療レジメンを調整する工程。
【0124】
本発明の別の態様により、組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントを発現させるための細胞が提供される。ここでは、細胞には、2つ以上の免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメントの第1のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、自己プロセシング切断配列(例えば、2A配列または2A様配列)、ならびに免疫グロブリン鎖またはそのフラグメントの第2のコード配列の発現のためのAAVベクターが含まれる。ここでは、自己プロセシング切断配列は、第1のコード配列と第2のコード配列との間に挿入される。関連する態様においては、細胞には、上記のようなAAVベクターが含まれる。ここでは、発現ベクターには、さらに、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間にさらなるタンパク質分解的切断部位が含まれる。好ましいさらなるタンパク質分解的切断部位は、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である。
【0125】
なお別の態様においては、本発明により、本発明のAAVベクターで宿主細胞を形質導入することによる、インビボで組換え免疫グロブリン分子を産生させるための方法が提供される。ここでは、第1の免疫グロブリンコード配列および第2の免疫グロブリンコード配列は、実質的に等しいモル比で発現させられる。いくつかの用途において、本発明の方法は、ガンの処置、または組換え抗体ワクチンの調製における有用性を見出す。
【0126】
(抗体の産生)
抗体もしくは免疫グロブリンまたはそれらのフラグメントの第1鎖または第2鎖をコードするヌクレオチド配列には、IgG、IgM、IgD、IgE、またはIgAの重鎖もしくはそのフラグメントが含まれる。抗体もしくは免疫グロブリンまたはそれらのフラグメントの鎖をコードする配列にはまた、IgG、IgM、IgD、IgE、またはIgAの軽鎖もしくはそのフラグメントも含まれる。抗体分子全体についての遺伝子、ならびにその改変形態または誘導された形態についての遺伝子には、Fab、単鎖Fv(scFv)、およびF(ab’)2のようなフラグメントが含まれる。抗体およびフラグメントは動物に由来するものであっても、ヒト−マウスキメラであっても、ヒト化されたものであっても、DeImmunizedOであっても、または、完全なヒトのものであってもよい。抗体は二重特異的であり得、これには、ダイアボディー(diabody)、クアドローマ(quadroma)、ミニ抗体、ScBs抗体、およびknobs−into−holes抗体が含まれるがこれらに限定はされない。
【0127】
抗体自体の産生および回収は、当該分野で公知の種々の方法で行うことができる(Harlowら,“Antibodies,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Lab,(1988))。
【0128】
本発明の実施においては、組換えDNA技術を使用する抗体またはその改変体(アナログ)の産生は、宿主細胞の増殖およびコード配列の発現に適切な培養条件下で改変組換え宿主細胞を培養することによって得ることができる。発現の成功をモニタリングするために、抗原に対する抗体レベルが、ELISA、RIAなどのような標準的な技術を使用してモニタリングされ得る。抗体は、当該分野で公知の標準的な技術を使用して培養上清から回収される。これらの抗体の精製された形態は、もちろん、標準的な精製技術によって容易に調製することができ、これには好ましくは、プロテインAカラム、プロテインGカラム、またはプロテインLカラムを介するアフィニティークロマトグラフィー、あるいは、特定の抗原に対するアフィニティークロマトグラフィー、またはさらには、特異性が所望される抗原の特定のエピトープに対するアフィニティークロマトグラフィーが含まれる。抗体は、他の技術(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、およびサイズ限定膜濾過)と組み合わせた従来のクロマトグラフィー(例えば、イオン交換カラムまたはサイズ排除カラム)でもまた精製することができる。好ましい発現システムは、得られる抗体が培養培地または上清の中に分泌されるようにシグナルペプチドを含むように設計されるが、細胞内産生もまた可能である。
【0129】
ヒトIg遺伝子座で操作されたマウス由来の抗原特異的完全ヒトモノクローナル抗体の産生および選択は以前に記載されている(Jakobovits A.ら,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.31,pp.33−42(1998);Mendez M,ら,Nature Genetics Vol.15,pp:146−156(1997);Jakobovits A.ら,Current Opinion in Biotechnology Vol.6,No.5,pp:561−566(1995);Green L,ら,Nature Genetics Vol.7,No.1,pp:13−21(1994))。
【0130】
自己プロセシングペプチドのコード配列を単独で、またはタンパク質分解的切断部位についてのさらなるコード配列と組み合わせて含む本発明のAAVベクターは、インビトロでの任意の細胞型の中での組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現、その後の多数のインビボ経路のいずれかによる投与(多数のインビボ経路が当該分野で公知であり、その例が本明細書中に記載される)において有用性を見出す。当業者は、任意のタンパク質発現システムにおける使用のために本発明のベクターを容易に適応させることができる。
【0131】
本発明の目的は一連の実験によって達成されており、そのいくつかが以下の限定ではない実施例によって記載される。
【実施例】
【0132】
(実施例1)
(AAV 2A発現構築物の構築)
自己プロセシング切断配列(2A)を有している、ラット抗FLK−1モノクローナル抗体および完全ヒト抗KDRモノクローナル抗体の全長の重鎖および軽鎖をコードするAAVベクターを、図1Aに示すように構築した。抗体重鎖および軽鎖の可変領域と定常領域を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して親ハイブリドーマ細胞のcDNAからクローニングした。cDNAは、Qiagenの全RNA精製キットを使用してハイブリドーマ細胞から単離した全RNAから逆転写酵素を用いて合成した。モノクローナル抗体のヌクレオチド配列を、自動配列決定システム(Applied Biosystems)を使用して分析し、そしてコンセンサス配列を、複数回の独立したPCR反応から導いた配列データから得た。
【0133】
重鎖、2A配列、およびラットmAbまたはヒトmAbのいずれかの抗体軽鎖をコードするDNAフラグメントを、PCRによる伸張によって互いに連結させた。人工のFMDV 2Aオリゴヌクレオチドを、2Aペプチド配列APVKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号6)に基づいて合成した。重鎖および軽鎖のフラグメントを、それぞれ、全長の抗体重鎖および軽鎖をコードするクローニングしたプラスミドから増幅した。PCRの際に、EcoRI制限エンドヌクレアーゼ部位を重鎖の5’末端および軽鎖の3’末端に付け加えた。融合重鎖−2A−軽鎖DNAフラグメントをEcoRIで消化し、アガロースゲルから精製した。精製されたDNAフラグメントを、EcoRI部位が隣接しているAAVプラスミド骨格の中に、T4 DNAリガーゼを使用して挿入した。抗体重鎖−2A配列−軽鎖の発現を駆動するEF1−αプロモーターまたはCAGプロモーターを含むAAVベクター構築物を調製した。改変体形態には、天然のシグナルペプチド(リーダー)をそれぞれ、重鎖または軽鎖の中に含め、これによって合成されたポリペプチドの分泌を容易にした。
【0134】
(実施例2)
(フリン切断部位を有しているAAV 2A発現構築物の構築)
上記のH−2A−L構築物から発現させられた抗体重鎖は、自己切断後には2A配列由来の残留アミノ酸をそれらのC末端に残している。発現システムをさらに最適化して、宿主に対して外来性であるアミノ酸/配列を排除するために、第1のポリペプチド(すなわち、この例示的な構築物中では免疫グロブリン重鎖)と2A配列との間にプロテアーゼ切断部位を含むベクターを構築した。使用した切断部位は、RAKR(配列番号11)であり、これはフリンコンセンサス切断配列のカテゴリーに属する。実施例1に記載した方法を使用して、抗体重鎖−フリン切断部位−2A−ラット抗体FLK−1抗体およびヒト抗KDR抗体の両方の軽鎖DNAフラグメントをPCRによって融合させ、それぞれをAAV骨格プラスミド内にクローニングした。構築物は、5’から3’の方向に向かって、5’AAV ITR、プロモーター、抗体重鎖(H)のコード配列、さらなるタンパク質分解的切断部位のコード配列(例えば、この場合はフリン切断部位のコード配列)、自己プロセシング切断配列のコード配列(この場合は2A配列)、抗体軽鎖(L)のコード配列、およびポリA配列(例えば、CAG H−F2A−L)から構成されている(図1B)。
【0135】
(実施例3)
(インビトロでのAAV H−2A−LウイルスおよびAAV H−F−2A−LウイルスからのAAVの産生およびラットIgGの発現)
本発明により、抗FLK−1重鎖−2A−軽鎖(H−2A−L)または抗FLK−1重鎖フリン切断部位−2A−軽鎖(H−F−2A−L)の発現のために1つのプロモーターを使用することにより、生物学的に活性な抗体を高レベルで産生するAAVベクターが提供される。これによって、抗体重鎖および軽鎖を同じ細胞の中で1つのオープンリーディングフレームとして発現させることができる。AAVベクターは293細胞の中で産生させた。AAV DNAは、プラスミドDNAメガ精製キット(Qiagen)を使用して精製した。293細胞を15cmの組織培養プレートの中でコンフルエンス未満まで増殖させ、その後、AAV6ベクタープラスミドまたはAAV8ベクタープラスミド(AAV H−2A−LまたはAAV H−F−2A−L)、AAV6またはAAV8のためのRep/Capプラスミドおよびアデノウイルスヘルパープラスミドで同時トランスフェクションした。トランスフェクションの後、AAVウイルスを、二重CsCl勾配遠心分離によって293細胞溶解物から精製し、その後、PBSに対して一晩、十分に透析した。rAAVウイルスの物理学的力価を、鋳型としてAAVプラスミドを使用してプローブ探査したドットブロット分析によって決定した。全長のラット抗FLK−1 mAbのためのAAVベクターを、AAV6骨格およびCAGプロモーター(AAV6 CAG H2AL)、AAV8骨格およびEF1−αプロモーター(AAV8 EF1α H2AL)、AAV8骨格およびCAGプロモーター(AAV8 CAG H2AL)、ならびにCAGプロモーターを有しているAAV8骨格(ここで、このベクターにはさらに、例示的なさらなるタンパク質分解的切断部位としてフリン切断部位が含まれる)(AAV8 CAG H−F−2A−L)を使用して調製した。
【0136】
種々のAAVベクターからインビトロでモノクローナル抗体を発現させるために、293細胞またはHuH7細胞を6ウェルプレートで培養した。細胞を、それぞれの精製したAAVベクターを、(ヘルパーとしての)アデノウイルス−5とともに、またはアデノウイルス−5を伴わずに、培養プレートに添加することによって、AAVベクターに感染させた。48時間後、細胞培養上清を収集し、IgG1を定量した。Bethyl LaboratoriesによるラットIgG1 ELISAキットをラットIgG1の分析に使用した。ラットモノクローナル抗体タンパク質を、1×105vpのAAV6 CAG H2ALウイルス、AAV8 EF1α H2ALウイルス、AAV8 CAG H2ALウイルス、およびAAV8 CAG H−F−2A−Lウイルスにそれぞれ感染させた293細胞またはHuH7細胞の細胞培養上清中で検出した(表3)。しかし、抗体をコードするAAVウイルスに感染させなかった対照ウェルから採取した上清の中では検出されなかった(上記)。
【0137】
表3に示す結果は、様々な血清型(例えば、AAV6およびAAV8)のAAVウイルスベクターを使用して全長の抗体をインビトロで発現させることができたことを示している。ここでは、抗体重鎖および軽鎖を、2Aのような自己プロセシング配列を使用して1つのオープンリーディングフレームとして発現させた。
【0138】
(表3.AAV感染(1×105vp/ウェル)後のインビトロでのラットIgG1の発現)
【0139】
【表3】
(実施例4)
(ヌードマウスでのAAV H2ALベクターまたはAAV H−F−2A−Lベクターからのラット抗FLK−1 mAbの発現)
この実験では、1つのプロモーターおよび抗体重鎖コード配列と抗体軽鎖コード配列との間に配置された自己プロセシング切断配列(本明細書中では2Aによって例示する)を使用することによって発現が生じるモノクローナル抗体をコードするAAVウイルスベクターの投与後に、マウスにおいて抗体の高い血清レベルが得られたことを示す。高レベルの抗体発現は、ラット抗FLK−1 mAb重鎖−2A−軽鎖(H−2A−L)AAVベクターおよびmAb重鎖−フリン切断部位−2A−軽鎖(H−F−2A−L)AAVベクターを使用してそれぞれ示された。
【0140】
抗体レベルは、実施例3に記載したようにラットIgG1キットを使用して分析した。
【0141】
図2に示すように、2×1011vpのAAV6 CAGラットmAb H−F−Lウイルスベクターの筋肉内(i.m.)注射による投与によっては、マウス血清中で4.5μg/mlまでの抗体レベルが生じ、少なくとも50日目まで発現が持続した。
【0142】
図3に示すように、4×1011vpのAAV8 EF1αラットmAb H−2A−Lウイルスベクターの門脈(pv)注射による投与によっては、マウス血清中で約100μg/mlのIgG1レベルが生じ、ここで、注射後200日を越えてIgG1が持続し、そして30μg/mlを上回るIgG1レベルが320日よりも長い期間観察された。
【0143】
図4に示すように、1×1011vp、2×1011vp、または4×1011vpのAAV8 CAGラットmAb H−2A−Lウイルスベクターの門脈注射による投与によっては、試験した3種類の用量(1×1011vp、2×1011vp、および4×1011vp)の全てで、マウスの血清中で高いレベルの用量依存性のIgGの発現が生じた。4×1011vpで処置した動物においては、血清mAb(IgG)レベルは28日目に2倍を上回るレベルに達し、3ヶ月よりも長くにわたって500μg/mlよりも高いままであり、320日を越えても210μg/mlを上回るレベルで持続した。
【0144】
最初の100日間のうちで最も高い抗体発現レベルは、CAGプロモーターの制御下でラットmAbをコードし、フリン切断配列および2A配列をも含むAAV8ウイルスベクターを注射した動物から採取したマウスの血清の中で観察された。図5に示すように、AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lウイルスの門脈注射による投与によっては、マウスの血清中で極めて高レベルの抗体発現が生じ、これは用量依存性の発現であった。2×1011ウイルス粒子/マウスおよび4×1011ウイルス粒子/マウスを注射したマウスのグループについては、約10mg/mlのラットmAbが28日目に検出され、1mg/mlよりも高い発現レベルの持続的な発現が、AAVウイルスベクターの注射後3ヶ月よりも長く検出され、100μg/mlを超えるIgG1レベルが320日目にも存在していた。
【0145】
これらの結果は、全長の抗体を、免疫グロブリン重鎖cDNAおよび免疫グロブリン軽鎖cDNAの1つのオープンリーディングフレームを駆動するAAVベクターからインビボで極めて高レベルで発現させることができたことを示している。ここでは、ベクターには、2つの鎖の間に配置された自己プロセシング切断配列(例えば、2A)とともに1つのプロモーターが含まれている。5’コード配列と2A配列との間にタンパク質分解的切断部位(例えば、フリン切断部位)を加えることによっては、第1のポリペプチドからの2A残基の除去を容易にしただけではなく、インビボでの血清モノクローナル抗体(mAb)の発現レベルの増大もまた生じた。この方法論はUSSN10/831302およびUSSN10/831304に詳細に記載されており、これらのそれぞれはそれらの全体が参考として本明細書中で援用される。以前の研究の結果により、自己プロセシング切断配列(例えば、2A)および、5’コード配列と2A配列との間のさらなるタンパク質分解的切断部位(例えば、フリン切断部位)の両方を含むAAV8ベクター(例えば、AAV8−CAG−H−F−2A−Lベクター)を使用した場合には、最初の100日間にインビボで検出されたmAbの血清レベルが一貫して高かったことを確認した。
【0146】
(実施例5)
(2A自己プロセシング配列およびフリン切断部位を有しているAAV8 CAGベクターによって誘導されるラット抗FLK−1 mAbによるインビボでの腫瘍の増殖の阻害)
さらなる研究を、本発明のAAVベクターを使用して発現させたモノクローナル抗体の生物学的活性を評価するために行った。これらの研究では、全長のラット抗FLK−1 mAbをコードするヌクレオチド配列のAAVによって媒介される遺伝子導入は、インビボのマウス腫瘍モデルにおいて腫瘍の増殖を抑制することが示された。
【0147】
AAV8−CAG−H−F−2A−Lベクターを実施例3に記載したように293細胞中で産生させた。ウイルス感染を、AAV感染後のHuH7細胞中でのmAbの発現によって確認した。AAV8−CAG−H−F−2A−Lベクター、またはAAV8対照ベクター(2×1011ウイルス粒子/マウス)をヌードマウスに静脈内投与した。ELISA(Bethyl Laboratories、上記)によるラット抗体の血清レベルを決定するために、マウスを毎週採血した。ベクターの投与後23日目に、マウスに1×105個のB16F10黒色腫細胞または5×106のU87神経膠腫細胞(Madrigalで1:1の容積で混合した)のいずれかを皮下注射し、腫瘍の大きさをキャリパーを使用して1週間に2回測定した。高い血清mAb濃度が、AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lウイルスで処置したマウスにおいて検出された(図6)。対照マウスに由来する血清においてはラットmAbは検出されなかった。AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターを注射したマウスにおいては、有意な抗腫瘍活性がB16黒色腫モデルにおいて観察された(P<0.05;図7)。B16F10黒色腫モデルにおけるAAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターの投与もまた、マウスの生存時間中央値を有意に延長させた(P<0.01;図8)。さらに、AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターを注射したマウスにおいては、有意な抗腫瘍活性がU87神経膠腫モデルにおいて観察された(P<0.05;図9)。U87神経膠腫モデルにおけるAAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターの投与によってもまた、マウスの生存時間中央値が有意に延長させられた(P<0.01;図10)。
【0148】
これらの結果は、生物学的に活性な全長のモノクローナル抗体を、インビボでの1つのAAVベクターの投与によって導くことができ、これによって、マウスの血清の中で長期間にわたる治療的な抗体の発現レベルが生じることを示している。
【0149】
(実施例6)
(AAVベクターの調製およびインビトロでのAAV H−F−2A−LウイルスからのヒトIgGの発現)
本発明の別の実施例においては、全長のヒト抗KDR mAbを、ラットモノクローナル抗体について上記に記載したものと同様のAAVベクターから発現させた。AAV−8ベクターには、抗体重鎖をコードする配列、フリン切断部位、2A配列、および全長のヒト抗KDR mAbの抗体軽鎖をコードする配列から構成される1つのオープンリーディングフレームを駆動する1つのプロモーター(CAG)が含まれる。CAGプロモーターによって駆動されるヒト抗KDR mAbをコードし、そして自己プロセシング切断配列(2A)およびさらなるタンパク質分解的切断部位(例えば、フリン)をさらに含む、AAVプラスミドを、実施例1に記載したように構築した。AAVベクターを産生するために、AAVプラスミドをプラスミドDNAメガ精製キット(Qiagen)を使用して精製した。293細胞をAAVベクタープラスミド、AAV8のためのRep/Capプラスミド、およびアデノウイルスヘルパープラスミドで同時トランスフェクトした。トランスフェクション後、AAVウイルスを、二重CsCl勾配遠心分離によって細胞溶解物から精製し、その後、PBSに対して十分に透析した。rAAVウイルスの物理的力価を、鋳型としてAAVプラスミドを使用したプローブを用いたドットブロットによって決定した。
【0150】
AAVウイルスベクターを使用してインビトロでヒト抗KDR mAbを発現させるために、HuH7神経膠腫細胞を6ウェルプレートで培養し、精製したAAV8 CAGヒトmAb H−F−2A−Lベクターを細胞に対して加えることによってAAVベクターに感染させた。72時間後、ヒトIgG1キット(Zymed laboratories)を使用したヒトIgG1の発現の分析のために細胞培養上清を収集した。KDRに対するヒトモノクローナル抗体は、1×105vpのAAV8 CAG H−F−2A−Lベクターに感染させた細胞培養上清の中で検出されたが、いずれのトランスジーンをも発現しない対照ベクターに感染させた上清の中では検出されなかった(図11)。
【0151】
(実施例7)
(インビボでのAAV H−F−2A−Lウイルスからの2つのヒトIgGサブクラスの発現)
実施例2に記載し、そして生物学的に活性な全長のIgG4抗体をインビトロで産生することを実施例6において明らかにした、全長のヒト抗KDR mAbをコードするAAVベクターを、ヌードマウスにおいて全長のIgG4抗体をインビボで発現させるために使用した。AAV8 CAG H−F−2A−LベクターまたはAAV対照ベクター(1×1011ウイルス粒子/マウスまたは2×1011ウイルス粒子/マウス)をヌードマウスに静脈内(i.v.)または筋肉内(i.m.)に投与した。マウスを示した間隔で採血し、ヒト抗KDR mAbの血清レベルを、抗ヒトIgG4抗体およびヒトIgG4タンパク質標準物を使用したことを除いて、本質的に実施例5でラット抗体レベルについて記載したように、ELISAによって決定した。いずれの投与経路によっても、2×1011vp/マウスを注射したマウスは1mg/mlよりも高い血清mAb(IgG4)濃度を示し、静脈内注射については881μg/mlのヒト抗体の持続的レベル、または筋肉内注射については459μg/mlのヒト抗体の持続的レベルが、18週間目に観察された(図12)。ヒトmAbは対照マウスの血清の中では検出されなかった(データは示さない)。
【0152】
IgG1サブクラスの発現のために、上記のAAV8 CAG H−F−2A−Lベクターのヒト抗KDR抗体の重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を、ヒトIgG1サブクラスの重鎖の定常領域をコードする対応するヌクレオチド配列で置き換えた。IgG1をコードするAAV8ベクターを、本質的に実施例6に記載したように調製しそして精製し、そして2×1011vp/マウスをヌードマウスに静脈内(i.v.)で投与した。マウスを、10日目、21日目、および35日目に採血し、ヒトIgG1 mAb血清レベルを、抗ヒトIgG1抗体およびヒトIgG1タンパク質標準物を使用したことを除いて、本質的に上記に記載したように、ELISAによって決定した。漸増濃度のヒト抗KDR(IgG1)mAbが血清中で観察され、35日目には約100μg/mlのヒト抗体のレベルであった。
【0153】
これらの実験の結果は、種々のIgGサブクラスの全長のヒト抗体が本発明のAAVベクターの単回投与によってインビボで高レベルで発現され得ることを示している。
【0154】
(実施例8)
(ヒト抗KDR mAbはインビトロでヒト内皮細胞の増殖を刺激する)
ヒトIgGを発現するXenoMouseトランスジェニックマウスを、ヒト抗KDR抗体を作製するために組換えKDRで免疫化した。免疫化したマウスに由来するリンパ球を収集してハイブリドーマ細胞を作製した。抗体クローンをELISAをベースとするアッセイにおいてKDRに対するそれらの結合に基づいてスクリーニングした。クローンの1つであるCG2.20はKDRに対して高い親和性を示し、内皮細胞アッセイでアゴニスト効果を示した(以下にさらに記載する)。この抗体をIgG4κおよび全ヒトとして性質決定した。
【0155】
抗KDR抗体(CG2.20)の生物学的活性をヒト内皮細胞増殖アッセイにおいて決定した。このアッセイにおいて、HUVEC細胞(Clonetics)を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルで播種し、そしてEGM完全培地で一晩培養した。翌日、各ウェルをPBSでリンスし、1%のウシ胎児血清および種々の量の精製した抗KDR抗体(CG2.20)または対照IgGを含む200μlのEBM基本培地を供給した。VEGFまたは他の成長因子は培地には含めなかった。3日後、CCK8試薬(CCK8キット、Dojindo Laboratories)を添加し、相対的な細胞密度を450nmでのODの読取値に基づいて決定した。図13に示すように、CG2.20抗体の添加によって用量依存性の様式でHUVEC細胞の細胞増殖が増大した。
【0156】
(表4.配列の簡単な表)
【0157】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1AおよびBは、実施例1に記載されるような、抗体の重鎖および軽鎖をコードするAAV発現カセットを示す。ここでは、このカセットには、5’AAV ITR、プロモーター、抗体重鎖のコード配列、自己プロセシング切断配列のコード配列(2Aによって例示される)、抗体軽鎖のコード配列(H−2A−L)、ポリA配列、および3’ITRが含まれる(図1A)。いくつかの実施形態においては、ベクターにはまた、自己プロセシング切断配列のコード配列に対して5’にあるさらなるタンパク質分解的切断部位(フリン切断部位によって例示される)のコード配列も含まれる(図1B)。
【図2】図2は、抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(H2AL)をコードする、2×1011vp(ウイルス粒子)のAAV6ベクターの筋肉内(i.m.)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図3】図3は、抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(H2AL)をコードする、4×1011vpのAAV8ベクターの門脈(pv)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(IgG1)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、伸張因子1−α(EF1a)プロモーターの制御下で発現させられる。
【図4】図4は、抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(H2AL)をコードする、1×1011vp、2×1011vp、または4×1011vpのAAV8ベクターの門脈(pv)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(DC101)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図5】図5は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、1×1011vp、2×1011vp、または4×1011vpのAAV8ベクターの門脈(pv)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(DC101)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図6】図6は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後7、14、21、30、37、および44日目のマウスの血清中でのインビボでの抗体(ラットIgG)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図7】図7は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後24日までに、B16F10腫瘍モデルにおいてAAV8によって媒介されるラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、擬似処置した対照において観察された発現と比較して、B16F10腫瘍の増殖を減少させたことを示している。
【図8】図8は、擬似処置した対照動物と比較して、B16F10腫瘍でチャレンジした動物においてAAV8によって媒介されたラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、このような動物の高い生存を導いたことを示している。抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)を発現する、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射を投与した4匹の動物は、より大きな腫瘍を負っていることが原因で32日目までに全てが死亡した擬似処置した対照動物と比較して長い期間生存していた。
【図9】図9は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後に、U87神経膠腫モデルにおいてAAV8によって媒介されたラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、擬似処置した対照において観察された発現と比較して、U87腫瘍の増殖の減少を生じたことを示している。
【図10】図10は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後に、U87神経膠腫モデルにおいてAAV8によって媒介されたラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、擬似処置した対照について観察された生存と比較して、高い生存をもたらしたことを示している。
【図11】図11は、実施例6に記載されるような、ヒト抗KDRモノクローナル抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、および抗体軽鎖(HF2AL)をコードするAAV8ベクターが形質導入されたU87細胞の細胞培養上清の中の全長のヒト抗KDR抗体の発現レベルを示す。
【図12】図12は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびヒト抗KDR抗体の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、1×1011vpまたは2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(i.v.)注射または筋肉内(i.m.)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(IgG4)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図13】図13は、例示的なアゴニスト抗KDRモノクローナル抗体CG2.20のインビトロでのHUVEC細胞の増殖に対する用量応答効果を示す。
【図14】図14は、ヒト抗体H−F−2A−L構築物中の、2A、フリン、およびカルボキシペプチダーゼ(CP)の連続する分子内切断の模式図である。この図面は、表示の順に、配列番号19〜配列番号22をそれぞれ開示する。
【図15】図15は、ヒト抗体L−F−2A−H構築物中の2A切断、フリン切断、およびCP切断の模式図である。この図面は、表示の順に、配列番号23〜配列番号36をそれぞれ開示する。
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/587,082号(2004年7月13日出願)および同第60/659,871号(2005年3月10日出願)の優先権を主張する。これらの仮特許出願の全体は、本明細書中で参考として援用される。
【0002】
(発明の背景)
(発明の分野)
本発明は、組換え体である全長の免疫グロブリンまたはそのフラグメントを発現させるように設計された、新規なアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター構築物に関する。AAVベクターは、細胞または器官による異種免疫グロブリンコード配列のエキソビボまたはインビボでの発現のために使用することができ、あるいは、AAVが形質導入された細胞による組換え免疫グロブリンの産生のためにインビトロで使用することができる。
【背景技術】
【0003】
(背景技術)
モノクローナル抗体は、ガンおよび他の疾患の有効な治療薬であることが証明されている。現在の抗体療法には、多くの場合には、反復投与と長期処置計画が含まれ、これらには多数の不利益(例えば、一貫しない血清レベル、1回の投与の効力の持続時間が限られており、その結果、頻繁な再投与が必要とされることならびに高いコスト)が伴う。診断ツールおよび治療様式としての抗体の使用は、近年、その使用が拡大していることが明らかになっている。ガン処置について最初にFDAによって承認されたモノクローナル抗体であるRituxan(登録商標)(リツキシマブ)は、1997年に、非ホジキンリンパ腫の患者の処置について承認され、その直後、1998年に、転移性乳ガンの患者の処置のためのヒト化モノクローナル抗体であるHerceptin(登録商標)が承認された。様々な臨床開発段階にある多数の抗体による治療は将来性を示している。抗体技術の幅広い臨床的応用に対する1つの制限は、通常は、多量の抗体が治療効果のためには必要であり、産生に伴うコストがかなりかかることである。チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、SP20、およびNSO2骨髄腫細胞は、グリコシル化されたヒトタンパク質(例えば、抗体)の商業的規模での産生のために最も一般的に使用されている哺乳動物細胞株である。哺乳動物細胞株での産生によって得られる収量は、通常は、回分培養用の発酵槽での5〜7日間の培養については50〜250mg/Lの範囲、または流加培養用の発酵槽での7〜12日間では300〜1000mg/Lの範囲である。高レベルの産生は、多くの場合は遺伝子増幅と優良(best performing)クローンの選択とに依存し、これらは、時間がかかり、そして開発および産生のコストをさらに増加させる。加えて、抗体を産生する細胞株に関する安定性の問題が、多くの場合は、何代もの継代の後に生じる。
【0004】
治療的な使用のためにインビトロおよびインビボで全長の免疫グロブリンおよびそのフラグメントを産生するための改良されたシステムが依然として必要とされている。
【0005】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、その安全性プロフィールおよびインビボでの長期にわたる遺伝子発現の能力の理由から、治療用遺伝子の送達のための好ましいベクターである。単鎖抗体をインビボで発現させるためは、組換えAAVベクター(rAAV)が以前から使用されている。AAVの限られたトランスジーンパッケージング能力およびその低い形質導入効率に起因して、全長の抗体を作製するために1つのAAVベクターを使用して抗体の重鎖および軽鎖を発現させるための技術的な挑戦が行われている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、組換えAAVベクターの単回注射後に、全長の抗体について高く一貫した血清レベルを得るための新規なアプローチの実現可能性を実証することにより、この必要性に取り組む。
【0007】
(発明の要旨)
本発明により、単一のプロモーターの転写制御下での免疫グロブリンの重鎖および軽鎖をコードする配列の発現に基づく、全長の免疫グロブリンまたはそのフラグメントの高レベルでの発現のためのAAVベクター組成物、ならびにそのための方法が提供される。
【0008】
本発明により、組換え免疫グロブリンの発現のためのAAVベクター(例えば、AAV6またはAAV8)が提供される。ここでは、AAVベクターには、作動可能に連結された構成成分として、プロモーター、免疫グロブリン分子の第1鎖のコード配列の一部または全体、自己プロセシング切断部位をコードする配列、免疫グロブリン分子の第2鎖のコード配列の一部または全体が含まれる。ここでは、自己プロセシング切断部位をコードする配列は、免疫グロブリン分子の第1鎖のコード配列と第2鎖のコード配列との間に配置される。関連する態様においては、本発明により、組換え免疫グロブリン分子、および本発明のAAVベクターを使用して作製された細胞、およびこのAAVベクターを作製するための方法が提供される。
【0009】
1つの好ましい態様においては、自己プロセシング切断部位には、2A配列(例えば、口蹄疫ウイルス(FMDV)配列)が含まれる。例示的な2Aペプチド配列は、配列番号1および配列番号2として示される。
【0010】
別の好ましい態様においては、AAVベクターには、さらなるタンパク質分解的切断部位(例えば、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン(furin)切断部位)が含まれる。
【0011】
本発明のAAVベクターは、以下を含むがこれらに限定はされない多数のプロモーターの任意のものを含み得る:伸張因子1−αプロモーター(EF1−α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1プロモーター(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーター(CAG)、テトラサイクリン反応性プロモーター(TRE)、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、およびCK6プロモーター。
【0012】
さらに好ましい態様においては、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖をコードする配列は、等モル比で、またはほぼ等モル比で発現される。
【0013】
本発明により、さらに、ガンの処置;感染性疾患の処置および予防;自己免疫疾患の処置および予防;ならびに本明細書中に記載されるAAVを使用する予防ワクチンの開発のために、インビボでの組換え免疫グロブリンの長期にわたる発現のための方法が提供される。ここでは、ベクターは、門脈(PV)注射、筋肉内(im)注射、腫瘍内(it)注射、または腹腔内(ip)注射を含むがこれらに限定されない多数の経路のいずれかによって投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明により、組換え体である免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現のためのAAVウイルスベクター構築物、ならびに、これをインビトロまたはインビボで使用するための方法が提供される。このベクターは、1つのプロモーターによって駆動される1つの発現カセットからの機能性の抗体分子の発現を可能にする自己プロセシング配列を免疫グロブリンの重鎖コード配列と軽鎖コード配列との間に有している。例示的なAAVベクター構築物には、2つのIgポリペプチド鎖の間に自己プロセシング切断部位をコードする配列が含まれており、そして、切断後に残っている自己プロセシング部位から導かれたアミノ酸を除去するための、自己プロセシング切断部位に隣接しているさらなるタンパク質分解的切断部位がさらに含まれ得る。本発明のAAVベクター構築物は、インビトロおよびインビボでの全長の生物学的に活性な免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生の増強に関係する方法において有用性を見出す。
【0015】
本発明の種々の組成物および方法は以下に記載される。特定の組成物と方法とが本明細書中で説明されるが、任意の多数の代替の組成物および方法が適用可能であり、本発明の実施での使用に適していることが理解される。本発明のAAV免疫グロブリン発現構築物および方法の評価は、当該分野で標準である手順を使用して行うことができることもまた理解されるであろう。
【0016】
本発明の実施には、他の場所に明確に記載されていない限りは、細胞生物学、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、生化学、および免疫学の従来技術が使用されるであろう。これらは、当業者の範囲内である。このような技術は、文献、例えば、“Molecular Cloning:A Laboratory Manual”,第2版(Sambrookら,1989);“Oligonucleotide Synthesis”(M.J.Gait,編,1984);“Animal Cell Culture”(R.I.Freshney,編,1987);“Methods in Enzymology”(Academic Press,Inc.);“Handbook of Experimental Immunology”(D.M.Weir & C.C.Blackwell,編,);“Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells”(J.M.Miller & M.P.Calos,編,1987);“Current Protocols in Molecular Biology”(F.M.Ausubelら,編,1987);“PCR:The Polymerase Chain Reaction”,(Mullisら,編,1994);および“Current Protocols in Immunology”(J.E.Coliganら,編,1991)(これらのそれぞれは参考として本明細書中で援用される)に完全に説明されている。
【0017】
(定義)
他の場所に明記されていない限りは、本明細書中で使用される全ての用語は、その分野の当業者が使用する意味と同じ意味を有し、そして、本発明の実施では、当業者の知識の範囲内にある微生物学および組換えDNA技術の従来技術が使用されるであろう。
【0018】
用語「ベクター」は、本明細書中で使用される場合は、1つ以上の異種DNA配列または組換えDNA配列を含む、プラスミド、ウイルス、または他のビヒクルのようなDNA分子またはRNA分子を意味する。ベクターは、種々の宿主細胞間での輸送のために設計される。用語「AAV発現ベクター」および「AAV遺伝子治療ベクター」は、細胞内に異種DNA配列を取り込み、これを発現させるために有効である任意のAAVベクターを意味する。細胞内への核酸の導入に有効であり、その結果、タンパク質またはポリペプチドの発現をもたらす任意の適切なAAVベクターを使用することができる。発現のために有効な任意の細胞(例えば、昆虫細胞、および酵母もしくは哺乳動物細胞のような真核生物細胞)が本発明の実施に有用である。
【0019】
用語「異種DNA」および「異種RNA」は、それらが存在する細胞またはゲノムの一部に対して内因性(天然)ではないヌクレオチドを意味する。一般的には、異種DNAまたは異種RNAは、以下にさらに記載されるように、形質導入、感染、トランスフェクション、形質転換などによって細胞に加えられる。このようなヌクレオチドには、通常、少なくとも1つのコード配列が含まれるが、このコード配列は必ずしも発現される必要はない。用語「異種DNA」は「異種コード配列」または「トランスジーン」を意味し得る。
【0020】
本明細書中で使用される場合は、用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は交換可能に使用することができ、通常は、本発明の自己プロセシング切断部位を含むベクターを使用して発現させられる目的の「タンパク質」および「ポリペプチド」を意味する。このような「タンパク質」および「ポリペプチド」は、さらに以下に記載されるように、研究、診断、または治療の目的に有用なタンパク質またはポリペプチドであり得る。
【0021】
用語「複製欠損」は、本明細書中で使用される場合には、本発明のAAVウイルスベクターと比較して、そのゲノムから独立して複製することはできず、そしてそのゲノムをパッケージすることができないAAVベクターを意味する。例えば、被験体の細胞がrAAVビリオンで感染させられ、異種遺伝子が感染細胞の中で発現させられる。しかし、感染細胞はAAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子、ならびにアクセサリー機能遺伝子を有していないという事実が原因で、rAAVをさらに複製することはできない。
【0022】
用語「作動可能に連結された」は、本明細書中で使用される場合には、組換えDNA構築物またはベクターに関して、組換えDNA構築物またはベクターのヌクレオチド構成成分が、選択されたコード配列の作動可能な制御のために別の配列に対して機能できるような関係にあることを意味する。一般的には、「作動可能に連結された」DNA配列は連続しており、そして分泌リーダーの場合には、連続しておりかつリーディングフレームの中にある。しかし、エンハンサーは連続している必要はない。
【0023】
本明細書中で使用される場合は、用語「遺伝子」または「コード配列」は、適切な調節配列に作動可能に連結されている、インビトロまたはインビボのヌクレオチドポリペプチドを意味する。この遺伝子には、コード領域の前および後の領域、例えば、5’非翻訳(5’UTR)(すなわち、「リーダー」)配列および3’UTR(すなわち、「トレイラー」)配列、さらには、個々のコードセグメント(エキソン)の間の介在配列(イントロン)が含まれる場合も、またそれらが含まれない場合もある。
【0024】
本明細書中で使用される場合は、「免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列」は、タンパク質分子をコードするヌクレオチド配列を意味する。これには、抗体または免疫グロブリンの軽鎖または重鎖、あるいはそれらのフラグメントが含まれるが、これらに限定はされない。
【0025】
本明細書中で使用される場合は、「免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第2鎖のコード配列」は、タンパク質分子をコードするヌクレオチド配列を意味する。これには、抗体または免疫グロブリンの軽鎖または重鎖、あるいはそれらのフラグメントが含まれるが、これらに限定はされない。
【0026】
「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合を指向し、それによってRNA合成を促進するDNA配列、すなわち、転写を指示するために十分な最小配列である。プロモーターおよび対応するタンパク質またはポリペプチドの発現は細胞型特異的、組織特異的、または種特異的であり得る。本発明の核酸構築物またはベクターには、エンハンサー配列もまた含まれ、これは、プロモーター配列と連続している場合も、また連続していない場合もある。エンハンサー配列は、プロモーター依存性の遺伝子発現に影響を与え、そして天然の遺伝子の5’または3’領域に配置され得る。
【0027】
「エンハンサー」はシス作用性エレメントであり、これは、隣接している遺伝子の転写を刺激または阻害する。転写を阻害するエンハンサーはまた「サイレンサー」とも呼ばれる。エンハンサーは、いずれの方向でも、コード配列から数キロ塩基対(kb)までの距離を越えて、かつ転写される領域の下流の位置から、機能し得る(すなわち、コード配列と関係し得る)。
【0028】
「調節可能プロモーター」は、その活性がシス作用性因子またはトランス作用性因子(例えば、外部シグナルまたは外来物質のような誘導性プロモーター)によって影響を受ける任意のプロモーターである。
【0029】
「構成性プロモーター」は、ほとんどの場合、多くまたはすべての組織型/細胞型においてRNAの産生を指示する任意のプロモーターであり、例えば、哺乳動物細胞中にクローニングされたDNA挿入物の構成的発現を促進するヒトCMV前期初期エンハンサー/プロモーター領域である。
【0030】
用語「転写調節タンパク質」、「転写調節因子」、および「転写因子」は本明細書中では交換可能に使用され、そしてDNA応答エレメントに結合し、それによって関連する遺伝子(単数または複数)の発現を転写によって調節する核タンパク質を意味する。転写調節タンパク質は、一般的には、DNA応答エレメントに直接結合するが、いくつかの場合には、DNAへの結合は、別のタンパク質への結合によって間接的に行われ得、続いてこれがDNA応答エレメントに結合するかまたはDNA応答エレメントに結合される。
【0031】
本発明の意味における「終結シグナル配列」は、任意の遺伝的エレメントであり、これは、RNAポリメラーゼに転写を終結させる(例えば、ポリアデニル化シグナル配列)。ポリアデニル化シグナル配列は、RNA転写物のエンドヌクレアーゼの切断に不可欠な認識領域であり、これにはその後にポリアデニル化コンセンサス配列AATAAAが続く。ポリアデニル化シグナル配列によって「ポリA部位」、すなわち、翻訳後のポリアデニル化によってアデニン残基が付加されるRNA転写物上の部位が提供される。
【0032】
本明細書中で使用される場合は、「内部リボソーム侵入部位」すなわち「IRES」は、シストロン(タンパク質をコードする領域)の開始コドン(例えば、ATG)への直接の内部リボソームの侵入を促進し、それによって遺伝子のcap非依存性翻訳を導くエレメントを意味する。例えば、Jackson RJ,Howell M T,Kaminski,A.(1990)Trends Biochem Sci 15(12):477−83)およびJackson R JおよびKaminski,A.(1995)RNA 1(10):985−1000を参照のこと。本明細書中に記載される実施例は、任意のIRESエレメントの使用に関し、このIRESエレメントは、シストロンの開始コドンへの直接の内部リボソームの侵入を促進することができる。「IRESの翻訳制御下」は、本明細書中で使用される場合には、翻訳はIRESに関係しており、cap依存性様式で進行することを意味する。
【0033】
「自己プロセシング切断部位」または「自己プロセシング切断配列」は、翻訳後または翻訳と同時のプロセシング切断部位または配列として本明細書中で定義される。このような「自己プロセシング切断」部位または配列は、DNAまたはアミノ酸配列を意味し、本明細書中では、2A部位、2A配列、もしくは2Aドメイン、または2A様部位、2A様配列、もしくは2A様ドメインによって例示される。本明細書中で使用される場合は、「自己プロセシングペプチド」は、本明細書中では、自己プロセシング切断部位または自己プロセシング切断配列をコードするDNA配列のペプチド発現産物として定義される。このDNA配列は、翻訳されると、自己プロセシング切断部位を含むタンパク質またはポリペプチドの迅速な分子内(シス)切断を媒介して、成熟タンパク質産物または成熟ポリペプチド産物の分泌を生じる。
【0034】
本明細書中で使用される場合は、用語「さらなるタンパク質分解的切断部位」は、2A配列または2A様配列のような自己プロセシング切断部位に隣接して本発明の発現構築物の中に組み込まれ、そして自己プロセシング切断配列による切断の後も維持されるさらなるアミノ酸を除去するための手段を提供する配列を意味する。例示的な「さらなるタンパク質分解的切断部位」は本明細書中に記載され、これには、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位(配列番号10)が含まれるがこれに限定はされない。このようなフリン切断部位は、内因性サブチリシン様プロテアーゼ(例えば、フリンおよびタンパク質分泌経路の中の他のセリンプロテアーゼ)によって切断することができる。
【0035】
本明細書中で使用される場合は、用語「免疫グロブリン」および「抗体」は、完全な分子、ならびにそれらのフラグメント(例えば、Fa、F(ab’)2、およびFv)を意味し、これらは抗原決定基に結合することができる。このような「免疫グロブリン」および「抗体」は、およそ23,000ダルトンの分子量の2つの同一の軽鎖ポリペプチド鎖と、53,000〜70,000ダルトンの分子量の2つの同一の重鎖から構成される。4つの鎖は「Y」配置のジスルフィド結合によって連結されている。重鎖はγ(IgG)、μ(IgM)、α(IgA)、δ(IgD)、またはε(IgE)として分類され、そして免疫グロブリンのクラスの名称の根拠となっている。これによって、所定の抗体のエフェクター機能が決定される。軽鎖は、κまたはλのいずれかに分類される。「免疫グロブリンまたはそのフラグメント」について本明細書中で言及が行われる場合には、このような「そのフラグメント」は免疫学的に機能的な免疫グロブリンフラグメントであることが理解されるであろう。
【0036】
用語「ヒト化抗体」は、その中の1つ以上のアミノ酸が、ヒト抗体により似せるために非抗原結合領域において置き換えられているが、抗体のもともとの結合活性はなおも残っている抗体分子を意味する。例えば、米国特許第6,602,503号を参照のこと。
【0037】
用語「抗原決定基」は、本明細書中で使用される場合は、特定の抗体との接触をもたらす分子のフラグメント(すなわち、エピトープ)を意味する。タンパク質またはタンパク質のフラグメントの多数の領域は、タンパク質上の所定の領域またはタンパク質の三次元構造に特異的に結合する抗体の産生を誘導し得る。これらの領域または構造は、抗原決定基と呼ばれる。抗原決定基は、抗体への結合について完全な抗原(すなわち、免疫応答を誘発させるために使用される免疫原)と競合し得る。
【0038】
用語「フラグメント」は、本発明の組換えタンパク質または組換えポリペプチドについて言及される場合には、対応する全長のタンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列の一部(全てではない)と同じであり、対応する全長のタンパク質またはポリペプチドの機能または活性の少なくとも1つを保持しているアミノ酸配列を有しているポリペプチドを意味する。フラグメントには、好ましくは、全長のタンパク質またはポリペプチドの少なくとも20〜100個の連続しているアミノ酸残基が含まれる。
【0039】
用語「投与する」または「導入する」は、本明細書中で使用される場合は、細胞に対する、または被験体の細胞および/または器官に対する、組換えタンパク質の発現用のベクターの送達を意味する。このような投与または導入は、インビボ、インビトロ、またはエキソビボで行われ得る。組換えタンパク質または組換えポリペプチドの発現用のベクターは、トランスフェクションによって細胞に導入することができる。通常、これは、物理的手段(例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、またはリポフェクション);感染(通常、これは感染因子、すなわち、ウイルスによる導入を意味する);または形質導入(通常、これはウイルスを用いた細胞の安定的な感染、またはウイルス因子(例えば、バクテリオファージ)による1つの微生物から別の微生物への遺伝的物質の移動を意味する)による、細胞への異種DNAの挿入を意味する。
【0040】
「形質転換」は、通常、異種DNAを含む細菌を意味するか、またはオンコジーンを発現し、それによって、腫瘍細胞のように連続的な増殖形式に変換されている細胞を意味するために使用される。細胞を「形質転換」するために使用されるベクターは、プラスミド、ウイルス、または他のビヒクルであり得る。
【0041】
通常、細胞は、細胞内への異種DNA(すなわち、ベクター)の投与、導入、または挿入のために使用された手段に応じて、「形質導入された」、「感染させられた」、「トランスフェクトされた」、または「形質転換された」と呼ばれる。用語「形質導入された」、「トランスフェクトされた」、および「形質転換された」は、異種DNAの導入方法とは無関係に、本明細書中では交換可能に使用することができる。
【0042】
本明細書中で使用される場合は、用語「安定的に形質転換された」、「安定的にトランスフェクトされた」および「トランスジェニック」は、ゲノムの中非天然(異種)核酸配列が組み込まれている細胞を意味する。安定なトランスフェクションは、それらのゲノムの中に安定的に組み込まれたトランスフェクトされたDNAを含んでいる娘細胞の集団から構成される細胞株またはクローンの確立によって実証される。いくつかの場合には、「トランスフェクション」は安定的ではなく、すなわち、一時的である。一時的なトランスフェクションの場合には、外因性DNAまたは異種DNAは発現させられるが、導入された配列はゲノムには組み込まれず、エピソームとみなされる。
【0043】
本明細書中で使用される場合は、「エキソビボ投与」は、初代細胞が被験体から取り出され、ベクターが細胞に投与されて、形質導入された組換え細胞、感染させられた組換え細胞、またはトランスフェクトされた組換え細胞が作られ、そして組換え細胞が同じ被験体または異なる被験体に再度投与されるプロセスを意味する。
「多シストロン性転写物」は、1つより多いタンパク質コード領域すなわちシストロンを含むmRNA分子を意味する。2つのコード領域を含むmRNAは、「2シストロン性転写物」と記載される。「5’−近位」コード領域またはシストロンは、その翻訳開始コドン(通常は、AUG)が多シストロン性mRNA分子の5’末端の最も近くにあるコード領域である。「5’−遠位」コード領域またはシストロンは、その翻訳開始コドン(通常は、AUG)がmRNAの5’末端に最も近い開始コドンではないコード領域である。用語「5’−遠位」および「下流」は、mRNA分子の5’末端に隣接していないコード領域を言うように同義的に使用される。
【0044】
本明細書中で使用される場合は、「同時転写される」は、2つ(またはそれより多く)のコード領域またはポリヌクレオチドが、1つの転写制御エレメントまたは転写調節エレメントの転写制御下にあることを意味する。
【0045】
本明細書中で使用される場合は、「治療用」遺伝子は、発現した場合、この遺伝子が中に存在する細胞または組織に対して、あるいは、この遺伝子が中で発現される哺乳動物に対して、有用な効果を付与する遺伝子を意味する。有用な効果の例としては、症状または疾患の兆候もしくは症候の緩和、症状または疾患の予防もしくは阻害、あるいは、所望される特性の付与が挙げられる。治療用遺伝子としては、細胞または哺乳動物の遺伝的欠損を補正する遺伝子が挙げられる。
【0046】
用語「異種」および「外来性」は、プロモーターおよびコード配列のような核酸分子に関して本明細書中で使用される場合は、特定のベクター、ウイルス、または宿主細胞に対して外来である供給源に起源する配列を意味するか、または、同じ供給源に由来する場合は、そのもともとの形態から改変されている配列を意味する。したがって、ウイルスまたは細胞内の異種遺伝子としては、特定のウイルスまたは細胞に対して内因性であるが、例えば、コドン最適化によって改変されている遺伝子が挙げられる。この用語にはまた、天然に存在している核酸配列の天然には存在しない多コピー数も含まれる。したがって、この用語は、ベクター、ウイルス、または細胞に対して外来性であるかまたは異種である核酸セグメント、あるいは、ベクター、ウイルス、または細胞に対して同種の核酸セグメントであるが、このセグメントが通常では見出されないベクターまたは細胞性ゲノム中の位置にある核酸セグメントを意味する。
【0047】
用語「同種」は、核酸分子に関して本明細書中で使用される場合には、宿主ウイルスまたは細胞に天然において付随している核酸を意味する。
【0048】
用語「同一」またはパーセント「同一性」は、2つ以上のヌクレオチド配列に関しては、最大の態様について比較しかつ並べた場合に、本明細書中に記載される配列比較アルゴリズム(例えば、Smith−Watermanアルゴリズム、または目視試験)の1つを使用して測定した場合に、同じであるかまたは特定の割合の同じであるアミノ酸残基もしくはヌクレオチドを有していることを意味する。
【0049】
本明細書中で使用される場合には、用語「配列同一性」は、配列アラインメントプログラムを使用して並べられた場合、2つ以上の並べられた配列の中のヌクレオチド間の同一の程度を意味する。用語「%相同性」は、本明細書においては、本明細書中の用語「%同一性」と交換可能に使用され、配列アラインメントプログラムを使用して並べられた、2つ以上の並べられた配列の間での核酸またはアミノ酸配列同一性のレベルを意味する。例えば、本明細書中で使用される場合には、80%の相同性は、定義されたアルゴリズムによって決定された80%の配列同一性と同じことを意味し、したがって、所定の配列のホモログが所定の配列の長さにわたって80%を超える配列同一性を有していることを意味する。
【0050】
用語「相補的」および「相補性」は、逆平行なヌクレオチド配列における相補的な塩基残基の間で水素結合の形成の際に互いに対合することができる2つの逆平行ヌクレオチド配列を意味する。
【0051】
用語「天然に存在している」は、野生型のウイルスまたは細胞のゲノム中に存在している遺伝子またはタンパク質を意味する。
【0052】
用語「宿主細胞」は、本明細書中で使用される場合は、ベクターによって、形質導入された細胞、感染させられた細胞、トランスフェクトされた細胞、または形質転換された細胞を意味する。ベクターは、プラスミド、ウイルス粒子、ファージなどであり得る。温度、pHなどの培養条件は、発現のために選択された宿主細胞とともに以前使用されたものであり、当業者に明らかであろう。用語「宿主細胞」が、もともと形質導入されていた細胞、感染させられていた細胞、トランスフェクトされていた細胞、または形質転換されていた細胞、およびそれらの子孫を意味することが明らかであろう。
【0053】
用語「発現」は、細胞内での内因性遺伝子、トランスジーン、またはコード領域の転写および/または翻訳を意味する。アンチセンス構築物の場合には、発現は、アンチセンスDNAのみの転写を意味し得る。
【0054】
本明細書中で使用される場合は、用語「生物学的活性」および「生物学的に活性」は、培養物中の細胞株の中またはインビボでの、特定のタンパク質に起因すると考えられる活性を意味する。「免疫グロブリン」、「抗体」、またはそれらのフラグメントの「生物学的活性」は、抗原決定基に結合し、それによって免疫グロブリン機能を促進する能力を意味する。
【0055】
本明細書中で使用される場合は、用語「腫瘍」および「ガン」は、制御されていない増殖を示し、異常なほどの大きさの細胞のクローンを形成する細胞を意味する。腫瘍細胞またはガン細胞は、通常、接触阻止が欠損しており、そして侵襲性であり得、そして/または転移する能力を有し得る。
【0056】
(免疫グロブリンおよびそのフラグメント)
抗体は、重鎖および軽鎖のヘテロ二量体であり、哺乳動物培養発現システムにおいては1つのベクターから全長形態で発現させることが難しいことが証明されている、免疫グロブリンタンパク質である。脊椎動物の抗体の産生のためには、現在、3つの方法が使用されている:「ポリクローナル」抗体を産生するための動物のインビボでの免疫化、モノクローナル抗体を産生するためのB細胞ハイブリドーマのインビトロでの細胞培養(Kohler,ら,Eur.J.Immunol.,6:511,1976;Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,1988;参考として本明細書中で援用される)、および組換えDNA技術(例えば、Cabillyら,米国特許第6,331,415号(参考として本明細書中で援用される)に記載されている)。
【0057】
免疫グロブリンポリペプチドの基本的な分子構造は、およそ23,000ダルトンの分子量の2つの同一の軽鎖と、53,000〜70,000ダルトンの分子量の2つの同一の重鎖を含んでいることが周知である。4つの鎖は「Y」配置のジスルフィド結合によって連結されている。アミノ酸配列は、Yの先端にあるN末端からそれぞれの鎖の下端にあるC末端に向かって続く。N末端には、抗原結合の特異性を提供する(およそ100アミノ酸の長さの)可変領域が存在している。
【0058】
本発明は、全てのタイプの免疫グロブリンの産生のための改良された方法に関する。この免疫グロブリンには、天然に存在している配列を有している全長の抗体および抗体フラグメント(すなわち、抗原による刺激に応答して産生される配列)、単鎖抗体(これは、一本鎖の安定的に折り畳まれたポリペプチド鎖の中に重鎖と軽鎖の両方の抗原結合可変領域が組み合わせられている);一価抗体(これには、第2の重鎖のFc領域に結合させられた重鎖/軽鎖二量体が含まれている);「Fabフラグメント」(これには、免疫グロブリン分子の「Y」領域全体、すなわち、「Y」の分岐、軽鎖または重鎖のいずれかだけ、またはそれらの一部(すなわち、Fab’として一般に公知である1つの重鎖と1つの軽鎖の凝集物)が含まれている);「ハイブリッド免疫グロブリン」(これは、2つ以上の異なる抗原に対する特異性を有している(例えば、例えば米国特許第6,623,940号に記載されているようなクアドローマ(quadroma)または二重特異的抗体));「複合免疫グロブリン」(ここでは、重鎖および軽鎖が異なる種または特異性に由来するものを模倣する);ならびに「キメラ抗体」(ここでは、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの部分が1つより多い種に由来する(すなわち、可変領域はマウス抗体のような1つの供給源に由来し、一方、定常領域はヒト抗体のような別の供給源に由来する))が含まれるが、これらに限定はされない。
【0059】
本発明の組成物および方法は、重鎖または軽鎖が「哺乳動物」であるか、「キメラ」であるか、またはその効率を高めるための様式で改変されている、免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生において、有用性を見出す。改変された抗体には、未改変の形態の抗体と同じ生物学的活性を保持しているアミノ酸配列改変体およびヌクレオチド配列改変体、ならびに、活性が変化する(すなわち、補体結合、膜との相互作用、および他のエフェクター機能を改善する、定常領域内での変化、または抗原結合特性を改善する可変領域内での変化)ように改変された抗体の両方が含まれる。本発明の組成物および方法には、さらに、触媒性免疫グロブリンまたはそのフラグメントが含まれる。
【0060】
「改変体」免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチド配列は、参照ポリペプチド配列から1つ以上のアミノ酸が変化させられた「改変体」免疫グロブリンアミノ酸配列をコードし得る。改変体ポリヌクレオチド配列は、「保存的」置換を含む改変体アミノ酸配列をコードし得る。この場合、置換されたアミノ酸は、置き換わるアミノ酸と類似する構造的または化学的特性を有している。さらに、またはあるいは、改変体ポリヌクレオチド配列は、「非保存的」置換を含む改変体アミノ酸配列をコードし得る。この場合、置換されたアミノ酸は、置き換わるアミノ酸とは類似していない構造的または化学的特性を有する。改変体免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドはまた、アミノ酸の挿入もしくは欠失、またはそれらの両方を含む改変体アミノ酸配列をコードし得る。さらに、「改変体」免疫グロブリンをコードするポリヌクレオチドは、参照ポリヌクレオチド配列と同じポリペプチドをコードし得るが、遺伝子コードの縮重が原因で、参照ポリヌクレオチド配列から1つ以上の塩基が変化させられたポリヌクレオチド配列を有し得る。
【0061】
用語「フラグメント」は、本発明の組換え免疫グロブリンについて言及される場合には、対応する全長の免疫グロブリンタンパク質のアミノ酸配列全体ではなく一部と同じである、アミノ酸配列を有しているポリペプチドを意味する。これは、対応する全長のタンパク質と同じ生物学的機能または活性を本質的に保持しているか、あるいは、対応する全長のタンパク質の機能または活性の少なくとも1つを保持しているかのいずれかである。フラグメントには、全長の免疫グロブリンの少なくとも20〜100個の連続するアミノ酸残基が含まれることが好ましい。
【0062】
治療様式としての抗体の可能性は、現在は、現行技術の産生能力と高すぎるコストによって制限されている。本発明の一rAAVベクター免疫グロブリン発現システムは、2つ以上のコード配列(すなわち、1つのAAVベクターからの二重特異性または多特異性を有している免疫グロブリン)の発現および送達を可能にする。本発明は、先行技術の制限に取り組み、そして本明細書にさらに詳細に記載されるように、操作された抗体(例えば、単鎖抗体、全長の抗体、または抗体フラグメントを含む)任意の免疫グロブリン(すなわち、抗体)またはそのフラグメントに適用可能である。
【0063】
本発明は、1つのプロモーターを使用する免疫グロブリン重鎖および軽鎖の発現を利用する。この場合、重鎖および軽鎖は、実質的に等しい割合で発現させられる。ポリタンパク質の形態でのタンパク質の連結は、ピコルナウイルス科を含む多くのウイルスの複製に適応させられた戦略である。翻訳されると、ウイルスによってコードされる自己プロセシングペプチドによってポリタンパク質の迅速な分子内(シス)切断が媒介されて、成熟タンパク質産物の分泌がもたらされる。本発明により、1つのプロモーターを使用して免疫グロブリン重鎖コード配列および軽鎖コード配列の発現を促進する、自己プロセシングペプチド(本明細書中では2Aペプチドによって例示される)を含む組換え免疫グロブリンの発現のためのベクターが提供されるという点でIRESの使用を上回る利点が提供される。この場合、免疫グロブリン重鎖コード配列と軽鎖コード配列は、実質的に等しいモル比で発現させられる。実質的に等しいモル比での重鎖と軽鎖の発現は、例えば、ウェスタンブロット分析によって実証され得る。ウエスタンブロット分析において、重鎖タンパク質および軽鎖タンパク質は還元条件下でSDS−PAGEによって分離させられ、抗ラットIgGポリクローナル抗体または抗ヒトIgGポリクローナル抗体を使用してプローブ探査(probe)され、そして市販されているキットを使用して製造業者の説明書にしたがって視覚化される。
【0064】
(アゴニスト抗VEGFR2抗体)
本発明により、本質的に任意の免疫グロブリンの産生のためのAAV組成物および方法が提供される。本発明の組成物および方法を使用して産生することができる、臨床的有用性を有している免疫グロブリンの一例は、アゴニスト抗VEGFR2抗体である。
【0065】
背景としては、血管内皮増殖因子(VEGF)は、血管系の発達および新脈菅形成(血管形成)において重要な役割を担っている増殖因子である。VEGFは、血管内皮細胞の増殖、移動、および分化を刺激し、そして生理学的条件および病理学的条件の両方において血管の形成を誘導する。VEGFは3種類の細胞表面チロシンレセプター:VEGFR1、VEGFR2(KDR)、およびVEGFR3に結合する。VEGFR2はVEGFによって活性化されるシグナル伝達を媒介することにおいて重要である。
【0066】
血液の供給が不十分である病理学的条件(例えば、冠状動脈疾患、骨格虚血、心筋虚血、脳虚血、四肢虚血、抹消血管疾患、虚血性皮膚創傷など)において、多くの場合、血管形成および新脈菅形成が、局所的な血液循環を改善するために所望される。血管由来増殖因子(特に、VEGF)の投与が新脈菅形成が行われている虚血組織において有効であることが、前臨床的モデルにおいて示されている。VEGFは、現在、心虚血および骨格虚血についての臨床評価の段階にある。しかし、組換えVEGFはヒトにおいておよそ30分間の半減期を有する。VEGFの短い半減期によってその臨床応用が制限されている。したがって、VEGF機能を提供するが、長い半減期を有しているアゴニスト抗KDR抗体によって血管形成治療が改良されるであろう。
【0067】
本発明の組成物および方法により、免疫グロブリンの高レベルの発現のための手段が提供される。その一例は、インビボでのアゴニストヒト抗VEGFR2抗体である。本発明は、抗体自体が投与される際の、短い半減期およびそれによって生じるインビボでの一貫しない免疫グロブリンレベルが原因である低い治療効率、加えて、反復投与の不便およびコストを示し得る状況において、特定の有用性を見出す。組換えタンパク質としてVEGFが投与され得るが、本発明のAAVベクターを使用したアゴニスト抗VEGFR抗体の発現は一貫した高レベルの免疫グロブリン発現の利点を提供する。
【0068】
本発明により、CGI2.20と命名されたアゴニストヒト抗VEGFR2抗体が提供される。この抗体は、VEGFによって媒介される血管形成についての主要なレセプターであるヒトVEGFR2に特異的に結合する。CGI2.20は、用量依存性の様式でインビトロでの血管内皮細胞の増殖を刺激し、そしてVEGF機能を模倣できることが観察されている。さらに、CGI2.20は、ヒトIgG遺伝子を有しているトランスジェニックマウス(XenoMouse)において発現させられており、したがって、ヒト患者にインビボで投与された場合に宿主免疫応答を引き起こすことはおそらくない完全なヒト抗体である。この抗体は、血管疾患において新脈菅形成を誘導するための血管形成促進剤(pro−angiogenic agent)として使用され得る。
【0069】
CGI2.20 mAbは、当業者に慣用的に使用されている任意のベクターシステム(ウイルスまたは非ウイルス)によって、局所的または全身的に投与され得る。ベクターとしては、AAV、アデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなどのようなウイルスベクター、およびプラスミドのような非ウイルスベクターが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0070】
CGI2.20 mAbは、冠状動脈疾患、骨格虚血、心筋虚血、脳虚血、四肢虚血、抹消血管疾患、虚血性皮膚創傷などを含むがこれらに限定はされない疾患の処置のために新脈菅形成を誘導するための手段として治療的に使用され得る。組換え体抗体は、抗体全体または抗体フラグメント(例えば、単鎖抗体、Fab、F(ab)2など)であり得る。実施例7には、CGI2.20 mAbを使用する研究が記載される。
【0071】
(自己プロセシング切断部位または自己プロセシング切断配列)
「自己プロセシング切断部位」または「自己プロセシング切断配列」は、上記で定義されたように、DNAまたはアミノ酸を意味し、ここで、翻訳の際、自己プロセシング切断部位を含むポリペプチドの迅速な分子内(シス)切断が起こって、成熟タンパク質産物の分泌がもたらされる。このような「自己プロセシング切断部位」はまた、翻訳後、または翻訳と同時のプロセシング切断部位とも呼ばれ、本明細書中では2A部位、2A配列、もしくは2Aドメインによって例示される。2A部位、2A配列、または2Aドメインは、リボソームの活性を改変してエステル結合の加水分解を促進し、それによって分離した下流での翻訳産物の合成を進行させるような様式で翻訳複合体からポリペプチドを放出することにより、翻訳に対する効果を示す(Donnelly,2001)。あるいは、2A部位または2Aドメインは、シスでその自身のC末端を切断して一次切断産物を生じることにより、「自動タンパク質分解」または「切断」を示す(Furler;Palmenberg,Ann.Rev.Microbiol.44:603−623(1990))。
【0072】
メカニズムは本発明の一部ではないが、2Aの活性は、コドンの間のリボソームスキップ(ribosomal skipping)に関係し得、これはペプチド結合の形成を妨げる(de Felipeら,Human Gene Therapy 11:1921−1931(2000);Donnellyら,J.Gen.Virol.82:1013−1025(2001));しかし、このドメインはむしろ自己分解酵素のように作用すると考えられている(Ryanら,Virol.173:35−45(1989))。口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域が発現ベクター内にクローニングされ、標的細胞の中にトランスフェクトされた実験により、人工のレポーターポリタンパク質のFMDV 2A切断が広い範囲の異種発現システムにおいて有効であることが確立された(小麦胚芽溶解物およびタバコトランスジェニック植物(Haplinら,USPN 5,846,767(1998)、およびHaplinら,The Plant Journal 17:453−459(1999));Hs 683ヒト神経膠腫細胞株(de Felipeら,Gene Therapy 6:198−208(1999);本明細書中では以後、「de Felipe II」と呼ばれる);ウサギ網状赤血球溶解物およびヒトHTK−143細胞(Ryanら,EMBO J.13:928−933(1994));ならびに昆虫細胞(Roosienら,J.Gen.Virol.71:1703−1711(1990)))。異種ポリタンパク質のFMDV 2Aによって媒介される切断は、IL−2について明らかにされている(p40/p35ヘテロ二量体;Chaplinら,J.Interferon Cytokine Res.19:235−241(1999))。トランスフェクトされたCOS−7細胞においては、FMDV 2Aによって、p40−2A−p35ポリタンパク質の、IL−12と関連する活性を有している生物学的に機能的なサブユニットp40およびp35への切断が媒介された。
【0073】
FMDV 2A配列は、2シストロン性ベクター、3シストロン性ベクター、および4シストロン性ベクターを構築するために、単独で、または種々のIRES配列と組み合わせてレトロウイルスベクターに取り込まれている。動物の中での2Aによって媒介される遺伝子発現の効率は、FMDV 2A配列を介して連結された、a−シヌクレイン(a−synuclein)およびEGFP、またはCu/Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD−1)およびEGFPをコードする組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを使用して、Furler(2001)によって明らかにされた。EGFPおよびa−シヌクレインは、対応するIRESをベースとするベクターと比較して2A配列が含まれるベクターからは実質的に高いレベルで発現され、一方、SOD−1は同等かまたはわずかに高いレベルで発現された。Furlerはさらに、2A配列が、2Aを含むAAVベクターのラットの黒質への注射後にインビボで2シストロン性遺伝子の発現を生じることも明らかにした。最近、2Aペプチドおよび2A様配列がレトロウイルスベクターを使用する4シストロンの効率のよい翻訳に有効であることが明らかにされた(Szymczak ALら,Nat Biotechnol.2004 May 22(5):589−94)。
【0074】
本発明については、自己プロセシング切断部位をコードするDNA配列は、ピコルナウイルスに由来するウイルス配列によって例示され、このピコナウイルスには、エンテロウイルス、ライノウイルス、カルジオウイルス、アフトウイルス、または口蹄病ウイルス(FMDV)が含まれるが、これらに限定はされない。好ましい実施形態においては、自己プロセシング切断部位をコードする配列は、FMDVに由来する。自己プロセシング切断部位としては、2Aドメインおよび2A様ドメイン(Donnellyら,J.Gen.Virol.82:1027−1041(2001))(その全体が参考として本明細書中で援用される)が挙げられるが、これに限定はされない。
【0075】
本発明のベクター構築物についての2つ以上の異種DNA配列の間の2A配列の位置的なサブクローニングにより、1つの発現ベクターを介した2つ以上の遺伝子の送達および発現が可能である。好ましくは、自己プロセシング切断部位(例えば、FMDV 2A配列)により、1つのウイルスベクターから、例えば、抗体、ヘテロ二量体レセプター、またはヘテロ二量体タンパク質の別々の部分であり得る2つまたは複数のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを発現させ、そして送達するための特有の手段が提供される。
【0076】
FMDV 2Aは、自身のC末端での1つの切断を指示し、したがってシスで作用するようにFMDVゲノムの中で機能するポリタンパク質領域である。FMDV 2Aドメインは通常、約19アミノ酸の長さであることが報告されている(LLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号1);(TLNFDLLKLAGDVESNPGP;配列番号2;Ryanら,J.Gen.Virol.72:2727−2732(1991))。しかし、14個のアミノ酸残基(LLKLAGDVESNPGP;配列番号3)のような短いオリゴペプチドが、天然に存在しているFMDVポリタンパク質のプロセシングにおける役割と同様の様式で2A C末端での切断を媒介することが示されている。
【0077】
2A配列のバリエーションが、ポリタンパク質の効率のよいプロセシングを媒介するそれらの能力について研究されている(Donnelly MLら,2001)。2A配列のホモログおよび改変体は本発明の範囲に含まれ、そしてこれには以下の表1に示される配列が含まれるが、これらに限定はされない。
【0078】
(表1.例示的な2A配列の表)
【0079】
【表1】
2A配列およびその改変体の特徴的な利点は、ポリタンパク質の自己プロセシングの促進におけるそれらの使用である。本発明には、自己プロセシング切断部位を介して連結されたタンパク質またはポリペプチドのコード配列を含み、その結果、個々のタンパク質が自己プロセシング切断部位(例えば、2Aドメイン)の存在が原因でポリタンパク質の切断後に等モルで発現させられるかまたはほぼ等モルで発現させられる、任意のベクター(プラスミドまたはウイルスをベースとするもの)が含まれる。これらのタンパク質は、ベクター自体に対しては互いに異種であってもよく、また、自己プロセシング切断部位に対して異種であってもよい(例えば、FMDV)。
【0080】
2Aコード配列の大きさが小さいことにより、さらに、AAVのようなコード配列について限られたパッケージング能力を有しているベクターにおいて2Aコード配列を使用することができる。AAVベクターの有用性は、2A配列によって二重プロモーターの必要性が排除されるので、さらに拡大することができる。2Aと組み合わせた2つより多いコード配列を含む1つのオープンリーディングフレームを駆動するプロモーターからの個々のタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの発現レベルは、IRES配列または二重プロモーターを使用して達成することができる発現レベルと比較して、ほぼ等モルである。二重プロモーターの排除によってはまた、各コード配列の発現レベルの低下および/または減少を生じ得るプロモーターの干渉も減少させられる。
【0081】
1つの好ましい実施形態においては、本発明に従うベクターに含まれるFMDV 2A配列は、LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)を含むアミノ酸残基をコードする。あるいは、本発明に従うベクターは、Donnellyら,J.Gen.Virol.82:1027−1041(2001)で議論されているような他の2A様領域のアミノ酸残基をコードし得る。これには、ピコルナウイルス、昆虫ウイルス、C型ロタウイルス、トリパノソーマ反復配列、または細菌、Thermatoga maritimaに由来する、2A様ドメインが含まれるが、これらに限定されない。
【0082】
本発明により、2Aポリペプチドまたは2A様ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列改変体、(例えば、親ヌクレオチドのコドンと比較して1つ以上のアミノ酸について異なるコドンを有している2Aポリペプチドまたは2A様ポリペプチドについての核酸コード配列)の使用が想定される。このような改変体は、本発明によって具体的に想定され、包含される。2Aペプチドおよびポリペプチドの配列改変体も、本発明の範囲内に含まれる。
【0083】
比較のための配列の最適なアラインメントは、例えば、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって、Needleman & Wunsch,J Mol.Biol.48:443(1970)の相同性アラインメントアルゴリズムによって、Pearson & Lipman,Proc.Nat’l.Acad.Sci.USA,85:2444(1988)の類似性の検索方法によって、これらのアルゴリズムのコンピューターによる実行(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Dr.Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、およびTFASTA)によって、BLASTアルゴリズム(Altschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))によって、the National Center for Biotechnology Information(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)を通じて公に入手可能なソフトウェアを用いて、あるいは、目視検査(一般的には、Ausubelら,後出を参照のこと)によって行うことができる。本発明の目的のために、比較のための配列の最適なアラインメントは、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2:482(1981)の局所相同性アルゴリズムによって行われることが最も好ましい。Altschul,S.F.ら,1990およびAltschul、S.F.ら,1997もまた参照のこと。
【0084】
本発明にしたがい、天然に存在している配列に対して80、85、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、99%、またはそれ以上の配列同一性を有している自己プロセシング切断ポリペプチドをコードする配列改変体およびポリペプチド自体もまた含まれる。
【0085】
核酸配列は、2つの配列が中程度から高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーションおよび洗浄条件下で互いに特異的にハイブリダイズする場合には、参照ヌクレオチド配列に対して「選択的にハイブリダイズできる」と考えられる。ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体またはプローブの融解温度(Tm)に基づく。例えば、「最大ストリンジェンシー」は、通常、およそTm−5℃(プローブのTmよりも5℃低い)で生じる;「高いストリンジェンシー」は、Tmよりも約5〜10℃低く;「中程度のストリンジェンシー」はプローブのTmよりも約10〜20℃低く;そして「低いストリンジェンシー」はTmよりも約20〜25℃低い。機能的には、最大ストリンジェンシーの条件は、ハイブリダイゼーションプローブと厳密な同一性またはほぼ厳密な同一性を有している配列を同定するために使用することができる;一方、高いストリンジェンシーの条件は、プローブと約80%以上の配列同一性を有している配列を同定するために使用される。
【0086】
中程度および高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は当該分野では周知である(例えば、Sambrook,ら,1989,第9章および第11章,ならびにAusubel,F.M.,ら,1993を参照のこと)。高いストリンジェンシーの条件の一例としては、50%のホルムアミド、5×SSC、5×デンハルト溶液、0.5%のSDS、および100mg/mlの変性させられたキャリアーDNAの中で約42℃でのハイブリダイゼーション、その後の、2×SSCおよび0.5%のSDS中で室温での2回の洗浄、および0.1×SSCおよび0.5%のSDSの中での42℃での2回のさらなる洗浄が挙げられる。本明細書中に記載される2Aポリペプチドと同じ生物学的活性を有しているポリペプチドをコードし、そして中程度から高いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズする2A配列改変体は、本発明の範囲内に含まれると考えられる。
【0087】
遺伝子コードの縮重の結果として、同じ2Aポリペプチドまたは2A様ポリペプチドをコードする多数のコード配列が生じ得る。例えば、トリプレットCGTはアミノ酸アルギニンをコードする。アルギニンは、また、CGA、CGC、CGG、AGA、およびAGGによってもコードされる。したがって、コード領域の中のこのような置換が本発明にカバーされる配列改変体に入ることは明らかである。
【0088】
さらに、このような配列改変体は、高いストリンジェンシーの条件下で親配列にハイブリダイズしても、またハイブリダイズしなくてもよいことが理解される。これは、例えば、配列改変体に親ヌクレオチドによってコードされるアミノ酸の各々について異なるコドンが含まれる場合に起こり得る。それでもなお、このような改変体は、本発明によって具体的に想定され、包含される。
【0089】
(自己プロセシングペプチド配列の除去)
自己プロセシングペプチド(例えば、2A配列または2A様配列)の使用に伴う1つの懸念は、最初のポリペプチドのN末端に自己プロセシングペプチドに由来するアミノ酸(すなわち、2A由来のアミノ酸残基)が含まれることである。これらのアミノ酸残基は、宿主にとっては「外来性」であり、そして組換えタンパク質がインビボで発現させられたかまたは送達された(すなわち、遺伝子治療に関連してウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによって発現させられたか、あるいは、インビトロで産生された組換えタンパク質として投与された)場合には免疫応答を誘発し得る。加えて、2A由来のアミノ酸残基は、除去されない場合、産生細胞においてタンパク質の分泌を妨害し得るか、そして/またはタンパク質の立体構造を変化させ得、組換えタンパク質の最適な発現レベルの低下、および/または組換えタンパク質の生物学的活性の低下をもたらし得る。本発明には、切断後に残っている自己プロセシング切断部位由来アミノ酸残基の除去のための手段として、ポリペプチドをコードする配列と自己プロセシング切断部位(すなわち、2A配列)の間にさらなるタンパク質分解的切断部位が提供されるように操作された、遺伝子発現構築物が含まれる。
【0090】
さらなるタンパク質分解的切断部位の例は、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である。これは、内因性のサブチリシン様プロテアーゼ(例えば、フリン)およびタンパク質分泌経路の中の他のセリンプロテアーゼによって切断することができる。USSN 10/831302(参考として本明細書中で援用される)に示されているように、本発明者らにより、第1のポリペプチドと2A配列との間にフリン切断部位RAKR(配列番号11)を導入することによって、第1のタンパク質のN末端にある2A残基を効率よく除去できることが明らかにされた。加えて、2A配列をコードするヌクレオチド配列と2A部位に隣接しているフリン切断部位を含むプラスミドの使用により、2A配列のみを含むプラスミドよりも高いレベルのタンパク質の発現を生じることが示された。この改良により、2A残基がタンパク質のN末端から除去される場合には、より長い2A配列もしくは2A様配列または他の自己プロセシング配列を使用できるというさらなる利点が提供される。このようなより長い自己プロセシング配列(例えば、2A配列または2A様配列)によって、1つのプロモーターにより2つ以上のポリペプチドの良好な等モル量での発現を促進させることができる。
【0091】
完全なヒトの特性を有している抗体またはそのアナログを使用することは有利である。これらの試薬によって、非ヒト種を起源とする抗体またはアナログによって誘導される望ましくない免疫応答が回避される。自己プロセシングペプチド由来のアミノ酸残基に対して起こり得る宿主免疫応答を解決するために、タンパク質分解的切断部位のコード配列が、第1のタンパク質のコード配列と自己プロセシングペプチドのコード配列との間に(当該分野で公知の標準的な方法論を使用して)挿入され得、それによって、発現させられたポリペプチド(すなわち、抗体)から自己プロセシングペプチド配列を除去する。このことは、インビボでの使用のための治療用抗体または診断用抗体における特定の有用性を見出す。
【0092】
組換えDNA技術ベクターを使用して発現させることができる当該分野で公知の任意のさらなるタンパク質分解的切断部位が、本発明の実施において使用され得る。ポリペプチドまたはタンパク質をコードする配列と自己プロセシング切断配列(例えば、2A配列)との間に挿入することができる例示的なさらなるタンパク質分解的切断部位としては、以下が挙げられるがこれらに限定はされない:
a)フリン切断部位:RXK(R)R(配列番号10);
b)第Xa因子切断部位:IE(D)GR(配列番号12);
c)シグナルペプチダーゼI切断部位:例えば、LAGFATVAQA(配列番号13);および
d).トロンビン切断部位:LVPRGS(配列番号14)。
【0093】
本明細書中に詳細に記載されるように、2Aペプチド配列により、翻訳プロセスの間の免疫グロブリンの両方の鎖または他のタンパク質の作製を促進する「切断」部位が提供される。1つの例示的な実施形態においては、第1のタンパク質(例えば、免疫グロブリン重鎖)のC末端には、2A配列自体に由来するおよそ13個のアミノ酸残基が含まれる。残っているアミノ酸の数は使用される2A配列に依存する。上記に示されており、そして実施例で示されるように、フリン切断部位配列(例えば、RAKR(配列番号11))が第1のタンパク質と2A配列との間に挿入されている場合には、2A残基は第1のタンパク質のC末端から除去される。しかし、質量スペクトル分析データは、RAKR−2A構築物(配列番号11として開示されたRAKR)から発現させられた第1のタンパク質のC末端に、フリン切断部位RAKR(配列番号11)に由来するさらなる2つのアミノ酸残基RAが含まれていることを示している。
【0094】
1つの実施形態においては、本発明により、残っているアミノ酸の除去のための方法、およびその発現のための組成物が提供される。タンパク質のC末端からのこれらのさらなるアミノ酸の除去を提供する多数の新規な構築物が設計されている。フリンによる切断は、コンセンサス配列RXR(K)R(配列番号27)を有している切断部位のC末端で生じ、ここでは、Xは任意のアミノ酸である。1つの態様においては、本発明により、カルボキシペプチダーゼ(CP)(これには、カルボキシペプチダーゼD、E、およびH(CPD、CPE、CPH)が含まれるがこれらに限定はされない)と呼ばれる酵素のグループから選択される酵素の使用による、タンパク質のC末端からの新たに露出させられた塩基性アミノ酸残基RまたはKの除去のための手段が提供される。CPはタンパク質のC末端にある塩基性アミノ酸残基を除去することができるので、塩基性アミノ酸RまたはKだけを含むフリン切断部位(例えば、RKKR(配列番号15)、RKRR(配列番号16)、またはRRRR(配列番号17)など)に由来する全てのアミノ酸残基を、CPによって除去することができる。2A配列およびフリン切断部位を含み、そしてC末端に塩基性アミノ酸残基を有している一連の免疫グロブリン発現構築物が、切断および残基の除去の効率を評価するために構築されている。例示的な構築物の設計は以下である:H鎖−フリン(例えば、RKKR(配列番号15)、RKRR(配列番号16)、RRKR(配列番号18)、またはRRRR(配列番号17))−2A−L鎖、またはL鎖−フリン(例えば、RKKR(配列番号15)、RKRR(配列番号16)、RRKR(配列番号18)、またはRRRR(配列番号17))−2A−H鎖。例示的な構築物の模式図は、それぞれ図14および15に提供される。
【0095】
当業者に明らかであるように、免疫グロブリン重(H)鎖のC末端には塩基性アミノ酸残基(K)(H鎖をカルボキシペプチダーゼによる切断に供する)が存在し、一方、免疫グロブリン軽(L)鎖には、塩基性ではないアミノ酸Cが末端にある。本発明の1つの好ましい実施形態においては、フリン部位および2A配列を含む抗体発現構築物が提供され、ここでは、免疫グロブリンL鎖は免疫グロブリンH鎖に対して5’の位置にあり、その結果、翻訳後には、さらなるフリンアミノ酸残基がカルボキシペプチダーゼによって切断される。
【0096】
(本発明の実施において使用されるベクター)
本発明により、免疫グロブリンの発現が生じる限りは、免疫グロブリン重鎖および軽鎖のコード配列および自己プロプロセシング切断配列を含む構築物を細胞内に導入するための任意のAAVウイルスベクター血清型の使用が想定される。多数のAAVベクターが当該分野で公知である。組換えAAVウイルスベクターの作製においては、必須ではない遺伝子が目的のタンパク質またはポリペプチドをコードする遺伝子と置き換えられる。初期の研究はAAV2血清型を使用して行われていた。しかし、AAV2以外の代替のAAV血清型の使用により(Davidsonら,(2000),PNAS 97(7)3428−32;Passiniら,(2003),J.Virol 77(12):7034−40)は、種々の細胞向性と形質導入能力の増大が示された。1つの態様においては、本発明は、インビトロまたはインビボでの免疫グロブリンまたは他の治療用化合物の最適なAAVベクターによって媒介される送達および発現を可能にする、AAVベクターならびに方法に関する。
【0097】
ベクターには、通常、複製起点が含まれ、そしてベクターには、さらに、ベクターを同定および選択することができる「マーカー」すなわち「選択マーカー」機能が含まれても、または含まれなくてもよい。任意の選択マーカーを使用することができるが、組換えベクターにおいて使用される選択マーカーは当該分野で一般的に公知であり、適切な選択マーカーの選択は宿主細胞に依存するであろう。抗生物質または他の毒素に対する耐性を付与するタンパク質をコードする選択マーカー遺伝子の例としては、アンピシリン、メトトレキセート、テトラサイクリン、ネオマイシン(Southernら,J.,J Mol Appl Genet.1982;1(4):327−41(1982))、ミコフェノール酸(Mulliganら,Science 209:1422−7(1980))、ピューロマイシン、ゼオマイシン、ハイグロマイシン(Sugdenら,Mol Cell Biol.5(2):410−3(1985))、およびG418が挙げられるが、これらに限定はされない。当業者に理解されるように、発現ベクターには、通常、複製起点、発現させられるコード配列(単数または複数)に作動可能に連結させられたプロモーター、ならびにリボソーム結合部位、RNAスプライシング部位、ポリアデニル化部位、および転写終結配列が、発現させられるコード配列(単数または複数)に適切であるように含まれる。
【0098】
ベクターまたは他のDNA配列についての「組換え体」との言及は、通常は作動可能に連結されない(天然から単離されるか、または天然において見出される)DNA配列の、動可能な連結を認めるに過ぎない。調節(発現および/または制御)配列は、発現配列および/または制御配列が、ヌクレオチド配列の転写を調節し、そして適切である場合には翻訳を調節する場合に、核酸コード配列に作動可能に連結されている。したがって、発現調節および/または制御配列には、プロモーター、エンハンサー、転写終結因子、コード配列の5’にある開始コドン(すなわち、ATG)、イントロンのスプライシングシグナル、および終止コドンが含まれ得る。
【0099】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、染色体への組み込みによって細胞に潜在的に感染することができる、ヘルパー依存性ヒトパルボウイルスである。染色体に組み込むその能力と、その非病原性の性質が原因で、AAVはヒト用の遺伝子治療ベクターとしてかなりの可能性を有している。本発明の実施における使用のためには、rAAVビリオンは、当業者に公知である標準的な方法論を使用して産生され得、そして、転写の方向で、転写開始配列および転写終結配列を含む制御配列、目的の免疫グロブリンコード配列(単数または複数)、および自己プロセシング切断配列を、作動可能に連結された成分として含むように、構築され得る。より具体的には、本発明の組換えAAVベクターには以下が含まれる:(1)複製欠損AAVビリオンにベクターが取り込まれることを可能にするパッケージング部位;(2)2つ以上の目的のポリペプチドまたはタンパク質(例えば、目的の免疫グロブリンの重鎖および軽鎖)のコード配列;ならびに(3)単独の、またはさらなるタンパク質分解的切断部位と組み合わせられた、自己プロセシング切断部位をコードする配列。本発明の実施において使用されるAAVベクターはまた、転写の方向で作動可能に連結された成分として、転写開始配列および転写終結配列を含む制御配列をも含むように構築される。これらの成分には、機能性AAV ITR配列が5’末端および3’末端に隣接している。「機能性AAV ITR配列」により、ITR配列がAAVビリオンのレスキュー、複製、およびパッケージングを意図するように機能することが意味される。
【0100】
組換えAAVベクターはまた、それらが標的細胞の中での組換え免疫グロブリンの発現および産生を指向し得ることによっても特徴付けられる。したがって、組換えベクターには、少なくとも、キャプシド化に不可欠なAAV配列全体、および組換えAAV(rAAV)ビリオンの感染のための物理的構造が含まれる。したがって、本発明のベクターにおいて使用されるAAV ITRは、野生型ヌクレオチド配列を有する必要はなく(例えば、Kotin,Hum.Gene.Ther.,5:793−801,1994に記載されている)、そしてヌクレオチドの挿入、欠失、もしくは置換によって変化させられ得るか、あるいは、AAV ITRはいくつかのAAV血清型のいずれかに由来し得る。一般的には、AAVベクターはアデノ随伴ウイルス血清型に由来するベクターであり、これには、AAV−1、AAV−2、AAV−3、AAV−4、AAV−5、AAV−6、AAV−7、AAV−8などが含まれるがこれらに限定はされない。好ましいrAAVベクターは、全体または一部が欠失している野生型REP遺伝子および野生型CAP遺伝子を有しているが、機能性の隣接ITR配列は維持している。表2には、本発明の実施において使用される例示的なAAV血清型が示される。
【0101】
(表2.遺伝子導入に使用されるAAV血清型)
【0102】
【表2】
通常、AAV発現ベクターは、産生細胞に導入され、その後、AAVヘルパー構築物が導入される。ここでは、へルパー構築物には、産生細胞中で発現させることができるAAVコード領域が含まれ、そして補体AAVヘルパー機能はAAVベクターにおいては存在しない。ヘルパー構築物は、大きなRepタンパク質(Rep78およびRep68)の発現を、通常は、米国特許第6,548,286号(参考として本明細書中で援用される)に記載されているようにATGからACGに開始コドンの後のp5を変異させることによって、ダウンレギュレートさせるように設計することができる。これにはその後に、産生細胞へのへルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターの導入が続く。ここでは、ヘルパーウイルスおよび/またはさらなるベクターにより、効率的なrAAVウイルスの産生を支持し得るアクセサリー機能が提供される。その後、産生細胞が培養されてrAAVが産生される。これらの工程は、標準的な方法論を使用して行われる。本発明の組換えAAVベクターをカプセル化する複製欠損AAVビリオンは、AAVパッケージング細胞およびパッケージング技術を使用して当該分野で公知の標準的な技術によって作製される。これらの方法の例は、例えば、米国特許第5,436,146号;同第5,753,500号、同第6,040,183号、同第6,093,570号、および同第6,548,286号(これらはそれらの全体が参考として本明細書中で援用される)において見出され得る。パッケージングのためのさらなる組成物および方法は、Wangら,(US2002/0168342)(これもまたその全体が参考として本明細書中で援用される)に記載されており、これには、当業者の知識の範囲内にある技術が含まれる。
【0103】
AAVのおよそ40種類の血清型が現在公知である。しかし、新規な血清型、および既存の血清型の改変体が、今日もなお同定されており、本発明の範囲内に含まれるとみなされる。Gaoら,(2002),PNAS 99(18):11854−6;Gaoら,(2003),PNAS 100(10):6081−6;BossisおよびChiorini(2003),J.Virol.77(12):6799−810を参照のこと。種々のAAV血清型は、特定の標的細胞の形質導入を最適化するため、または特定の標的組織内の特異的な細胞型を標的化するために使用される。種々のAAV血清型の使用により、疾患組織の標的化が促進され得る。特定のAAV血清型は、特異的な標的組織型または細胞をより効率よく標的化し得、そして/または複製し得る。1つの自己相補性AAVベクターが、形質導入効率を増大させるために本発明の実施において使用され得、トランスジーンの発現のより早い開始をもたらし得る(MaCartyら,Gene Ther.2001 Aug;8(16):1248−54)。
【0104】
本発明の実施においては、rAAVビリオンを産生するための宿主として、哺乳動物細胞、昆虫細胞、微生物、および酵母が挙げられる。宿主細胞はまた、AAVベクターのゲノムが安定的に維持されそしてパッケージされる宿主細胞または産生細胞の中で、AAV rep遺伝子およびAAV cap遺伝子が安定的に維持される、パッケージング細胞であってもよい。例示的なパッケージング細胞および産生細胞は、293細胞、A549細胞、またはHeLa細胞に由来する。AAVベクターは、当該分野で公知の標準的な技術を使用して精製され、そして処方される。
【0105】
本発明のベクターには、通常、異種制御配列が含まれ、異種制御配列としては、構成性プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、RSV LTR、MoMLV LTR、およびPGKプロモーター、組織特異的プロモーターまたは細胞型特異的プロモーター(mTTR、TK、HBV、hAATを含む)、調節性プロモーターまたは誘導性プロモーター、エンハンサーなどが挙げられるが、これらに限定はされない。好ましいプロモーターとしては、LSPプロモーター(Illら,Blood Coagul.Fibrinolysis 8S2:23−30(1997))、EF1−αプロモーター(Kimら,Gene 91(2):217−23(1990))、およびGuoら,Gene Ther.3(9):802−10(1996))が挙げられる。最も好ましいプロモーターとしては、伸張因子1−α(EF1a)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子(CMV)プロモーター、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター、テトラサイクリン反応性プロモーター(TRE)、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、およびCK6プロモーターが挙げられる。これらおよび多数のさらなるプロモーターのヌクレオチド配列が当該分野で公知である。関連する配列は、公的なデータベースから容易に入手することができ、そして本発明の実施において使用されるAAVベクターに組み入れられ得る。
【0106】
本発明により、また、免疫グロブリンコード配列の制御された発現のための遺伝子調節システムを含めることも企図される。遺伝子調節システムは、特定の遺伝子(単数または複数)の調節された発現に有用である。1つの例示的なアプローチにおいては、遺伝子調節システムまたはスイッチには、リガンド結合ドメイン、転写活性化ドメイン、およびDNA結合ドメインを有しているキメラ転写因子が含まれる。これらのドメインは、実質的にあらゆる供給源から得ることができ、そして新規なタンパク質を得るための多数の方法のいずれかにおいて組み合わせることができる。調節可能な遺伝子システムにはまた、キメラ転写因子と相互作用するDNA応答エレメントも含まれる。このエレメントは調節される遺伝子に隣接して配置される。
【0107】
本発明の実施において使用することができる例示的な遺伝子調節システムとしては、ショウジョウバエのエクジソンシステム(Yaoら,Proc.Nat.Acad.Sci.,93:3346(1996))、カイコガのエクジソンシステム(Suhrら,Proc.Nat.Acad.Sci.,95:7999(1998))、Valentis GeneSwitch(登録商標)合成プロゲステロンレセプターシステム(RU−486をインデューサーとして使用する)(Osterwalderら,Proc Natl Acad Sci 98(22):12596−601(2001));TetO & RevTetOシステム(BD Biosciences Clontech)(標的の転写を調節する(オンにするか、またはオフにする)ためにテトラサイクリン(Tc)またはアナログ(例えば、ドキシサイクリンまたはアンヒドロテトラサイクリン)のような小さい分子を使用する)(Knottら,Biotechniques 32(4):796,798,800(2002));ARIAD調節技術(2つの細胞内分子を一緒に輸送するための低分子の使用に基づき、これら分子のそれぞれは転写活性化因子またはDNA結合タンパク質のいずれかに連結される)。これらの成分が一緒に連結されると、目的の遺伝子の転写が活性化される。Ariadは2つの主要なシステムを有する:ホモ二量体化に基づくシステム、およびヘテロ二量体化に基づくシステム(Riveraら,Nature Med,2(9):1028−1032(1996);Yeら,Science 283:88−91(2000))。これら両方が、本発明の実施において使用され得る。
【0108】
本発明の実施において使用される好ましい遺伝子調節システムは、ARIAD調節技術およびTetO & RevTetOシステムである。
【0109】
(免疫グロブリンをコードする配列を含む核酸構築物の細胞への送達)
自己プロセシング組換えポリペプチドの形態で抗体またはそのフラグメントをコードするヌクレオチド配列を含む本発明のrAAVベクター構築物は、細胞(例えば、体細胞)への治療用遺伝子の送達のために、またはAAVベクターが形質導入された細胞による組換え免疫グロブリンの産生のために、インビトロ、エキソビボ、またはインビボで細胞に導入され得る。
【0110】
本発明のrAAVベクター構築物は、当該分野で公知の標準的な方法論を使用して、インビトロまたはエキソビボで細胞に導入され得る。このような技術としては、リン酸カルシウムを使用するトランスフェクション、培養細胞へのマイクロインジェクション(Capecchi,Cell 22:479−488(1980))、エレクトロポレーション(Shigekawaら,Bio Techn.,6:742−751(1988))、リポソーム媒介遺伝子導入(Manninoら,BioTechn.,6:682−690(1988))、脂質媒介形質導入(Felgnerら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84:7413−7417(1987))、および高速マイクロプロジェクタイル(microprojectile)を使用する核酸の送達(Kleinら,Nature 327:70−73(1987))が挙げられる。
【0111】
本発明のrAAV構築物は、当業者によって慣用的に使用されている標準的な感染技術を使用して細胞に導入され得る。
【0112】
インビトロまたはエキソビボでの発現のためには、機能性免疫グロブリンを発現させるために有効な任意の細胞を使用することができる。タンパク質の発現に使用される細胞および細胞株の多数の例は当該分野で公知である。例えば、原核生物細胞および昆虫細胞が発現のために使用され得る。加えて、真核生物である微生物(例えば、酵母)が使用され得る。原核生物システム、昆虫システム、および酵母システムでの組換えタンパク質の発現は、当該分野で一般的に公知であり、本発明の組成物および方法を使用して抗体の発現に適応させることができる。
【0113】
免疫グロブリンの発現に有用な細胞の例としては、さらに、哺乳動物細胞(例えば、線維芽細胞、非ヒト哺乳動物に由来する細胞(例えば、ヒツジ、ブタ、マウス、およびウシの細胞)、昆虫細胞などが挙げられる。哺乳動物細胞の特異的な例としては、COS細胞、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、293細胞、NSO細胞、SP20細胞、3T3線維芽細胞、W138細胞、BHK細胞、HEPG2細胞、DUX細胞、およびMDCK細胞が挙げられる。
【0114】
宿主細胞は、プロモーターの誘導、形質転換体の選択、または所望される配列をコードする遺伝子の増幅のために適切であるように改変された従来の栄養培地の中で培養される。哺乳動物宿主細胞は、種々の培地で培養することができる。市販されている培地(例えば、Ham’s F10(Sigma)、最小必須培地(MEM、Sigma)、RPMI 1640(Sigma)、およびDalbecco改変イーグル培地(DMEM,Sigma)が、通常は宿主細胞の培養に適している。任意の培地には、通常、ホルモンおよび/または他の増殖因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または表皮増殖因子)、DHFR、塩(例えば、塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、緩衝液(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、抗生物質、微量元素、およびグルコースもしくは同等のエネルギー源が必要に応じて補充される。任意の他の必須の補助物質もまた、当業者に公知である適切な濃度で含まれ得る。特定の細胞株についての適切な培養条件(例えば、温度、pHなど)は当該分野で一般的に公知であり、例えば、<“http://www.atcc.org/Search catalogs/AllCollections.cfm.”>でオンラインで入手することができるATCCカタログに提供されている多数の細胞株の培養について提案されている培養条件が用いられる。本発明のrAAVベクターは、動物モデルまたはヒト被験体にrAAVを送達するために有効な多数の経路(例えば、皮内、静脈内、腫瘍内、脳内、門脈内、腹腔内、筋肉内、膀胱内など)のいずれかによってインビボで投与され得る。投与経路に応じて、組換え免疫グロブリンは局所的または全身的に作用を誘発するであろう。免疫グロブリンのオープンリーディングフレーム(単数または複数)に対して5’の位置での組織特異的プロモーターの使用は、組織非特異的プロモーターの制御下で発現させられる組換え免疫グロブリンの発現に関して、より大きな組織特異性をもたらす。
【0115】
例えば、本発明の組換えAAVベクターのインビボでの送達は、脳、肝臓、血管、筋肉、心臓、肺、および皮膚を含むがこれらに限定はされない広い範囲の様々な器官のタイプに対して標的化され得る。本発明の組換えAAVベクターのインビボでの送達はまた、細胞の状態に基づいて広い範囲の様々な細胞のタイプに対しても標的化され得る。すなわち、ガン細胞は、細胞周期、細胞環境の低酸素状態、またはガン性ではない場合の(正常な生理学的条件下にある分裂していないかまたは調節されて分裂している状態である)同じ細胞の典型的な生理学的状態または正常な生理学的状態とは異なる他の生理学的状態に基づいて、標的化され得る。細胞状態に関係するプロモーターの例は、テロメラーゼ逆転写酵素プロモーター(TERT)およびE2Fプロモーターである。
【0116】
エキソビボでの遺伝子の導入の場合には、標的細胞は、本発明の組換えAAVベクターおよび当該分野で周知の方法を使用して宿主細胞から取り出され、そして研究室において遺伝子改変される。
【0117】
本発明の組換えAAVベクターは、上記の形式を含むがそれらに限定はされない従来の投与形式を使用して投与され得、そして様々な処方物中に存在し得る。この処方物としては、液体溶液および懸濁液、微小胞、リポソーム、および注射可能溶液もしくは注入可能溶液が挙げられるが、これらに限定はされない。好ましい形態は、投与の形式および治療用途に依存する。
【0118】
本明細書中に提供される実験結果が示すように、本発明の組換えAAVベクター構築物をインビボでの免疫グロブリンの産生において使用すること(例えば、長期間にわたる1つのベクターの投与および患者の中での持続的な抗体の発現、あるいは抗体または完全な生物学的活性を有しているそのフラグメントのインビボでの発現であって、ここで、抗体の天然の翻訳後修飾は、ヒト細胞の中で起こる)において、実現される多くの利点がある。
【0119】
本発明の組換えAAVベクター構築物は、さらに、治療で使用される組換え体抗体のインビトロでの産生においても有用性を見出す。組換えタンパク質の産生のための方法は当該分野で周知であり、そして、本明細書中に記載される自己プロセシング切断部位を含むベクター構築物を使用する組換え抗体の発現に利用することができる。
【0120】
1つの態様においては、本発明により、上記のようなAAVベクターを細胞の中に導入してAAVに感染した細胞を得ることによる、組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントの産生のための方法が提供される。ここでは、ベクターには、5’から3’の方向に向かって:免疫グロブリン重鎖もしくは軽鎖またはそれらのフラグメントのコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、自己プロセシング配列(例えば、2A配列または2A様配列)、ならびに免疫グロブリン重鎖もしくは軽鎖またはそれらのフラグメントのコード配列が含まれ、ここでは、自己プロセシング切断配列は、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間に挿入される。免疫グロブリンの重鎖のコード配列、または免疫グロブリン軽鎖のコード配列のいずれかが、所定のAAV構築物において2A配列に対して5’(すなわち、第1)の位置に存在し得ることが理解されるであろう。
【0121】
関連する態様においては、本発明により、細胞に上記のようなAAVベクターを導入することによる、組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントを産生するための方法が提供される。ここでは、AAVベクターには、さらに、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間にさらなるタンパク質分解的切断部位が含まれる。好ましいさらなるタンパク質分解的切断部位は、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である。
【0122】
本発明の1つの例示的な態様においては、インビトロでの細胞へのAAVベクターの導入の後に、以下の工程の1つ以上が続く:
(1)免疫グロブリンまたはそのフラグメントを発現する細胞を選択するための条件下で、トランスフェクトされた細胞を培養する工程;
(2)免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現を測定する工程;および
(3)免疫グロブリンまたはそのフラグメントを収集する工程。
【0123】
本発明の別の例示的な態様においては、インビボでの患者へのAAVベクターの投与の後には、以下の工程の1つ以上が続く:
(1)患者から血清、血漿、または他の組織試料を収集する工程;
(2)免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現レベルを測定する工程;および
(3)免疫グロブリンまたはそのフラグメントの検出レベルに依存して治療レジメンを調整する工程。
【0124】
本発明の別の態様により、組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントを発現させるための細胞が提供される。ここでは、細胞には、2つ以上の免疫グロブリン鎖またはそのフラグメント、免疫グロブリン鎖またはそのフラグメントの第1のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、自己プロセシング切断配列(例えば、2A配列または2A様配列)、ならびに免疫グロブリン鎖またはそのフラグメントの第2のコード配列の発現のためのAAVベクターが含まれる。ここでは、自己プロセシング切断配列は、第1のコード配列と第2のコード配列との間に挿入される。関連する態様においては、細胞には、上記のようなAAVベクターが含まれる。ここでは、発現ベクターには、さらに、第1の免疫グロブリンコード配列と第2の免疫グロブリンコード配列との間にさらなるタンパク質分解的切断部位が含まれる。好ましいさらなるタンパク質分解的切断部位は、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である。
【0125】
なお別の態様においては、本発明により、本発明のAAVベクターで宿主細胞を形質導入することによる、インビボで組換え免疫グロブリン分子を産生させるための方法が提供される。ここでは、第1の免疫グロブリンコード配列および第2の免疫グロブリンコード配列は、実質的に等しいモル比で発現させられる。いくつかの用途において、本発明の方法は、ガンの処置、または組換え抗体ワクチンの調製における有用性を見出す。
【0126】
(抗体の産生)
抗体もしくは免疫グロブリンまたはそれらのフラグメントの第1鎖または第2鎖をコードするヌクレオチド配列には、IgG、IgM、IgD、IgE、またはIgAの重鎖もしくはそのフラグメントが含まれる。抗体もしくは免疫グロブリンまたはそれらのフラグメントの鎖をコードする配列にはまた、IgG、IgM、IgD、IgE、またはIgAの軽鎖もしくはそのフラグメントも含まれる。抗体分子全体についての遺伝子、ならびにその改変形態または誘導された形態についての遺伝子には、Fab、単鎖Fv(scFv)、およびF(ab’)2のようなフラグメントが含まれる。抗体およびフラグメントは動物に由来するものであっても、ヒト−マウスキメラであっても、ヒト化されたものであっても、DeImmunizedOであっても、または、完全なヒトのものであってもよい。抗体は二重特異的であり得、これには、ダイアボディー(diabody)、クアドローマ(quadroma)、ミニ抗体、ScBs抗体、およびknobs−into−holes抗体が含まれるがこれらに限定はされない。
【0127】
抗体自体の産生および回収は、当該分野で公知の種々の方法で行うことができる(Harlowら,“Antibodies,A Laboratory Manual”,Cold Spring Harbor Lab,(1988))。
【0128】
本発明の実施においては、組換えDNA技術を使用する抗体またはその改変体(アナログ)の産生は、宿主細胞の増殖およびコード配列の発現に適切な培養条件下で改変組換え宿主細胞を培養することによって得ることができる。発現の成功をモニタリングするために、抗原に対する抗体レベルが、ELISA、RIAなどのような標準的な技術を使用してモニタリングされ得る。抗体は、当該分野で公知の標準的な技術を使用して培養上清から回収される。これらの抗体の精製された形態は、もちろん、標準的な精製技術によって容易に調製することができ、これには好ましくは、プロテインAカラム、プロテインGカラム、またはプロテインLカラムを介するアフィニティークロマトグラフィー、あるいは、特定の抗原に対するアフィニティークロマトグラフィー、またはさらには、特異性が所望される抗原の特定のエピトープに対するアフィニティークロマトグラフィーが含まれる。抗体は、他の技術(例えば、硫酸アンモニウム沈殿、およびサイズ限定膜濾過)と組み合わせた従来のクロマトグラフィー(例えば、イオン交換カラムまたはサイズ排除カラム)でもまた精製することができる。好ましい発現システムは、得られる抗体が培養培地または上清の中に分泌されるようにシグナルペプチドを含むように設計されるが、細胞内産生もまた可能である。
【0129】
ヒトIg遺伝子座で操作されたマウス由来の抗原特異的完全ヒトモノクローナル抗体の産生および選択は以前に記載されている(Jakobovits A.ら,Advanced Drug Delivery Reviews,Vol.31,pp.33−42(1998);Mendez M,ら,Nature Genetics Vol.15,pp:146−156(1997);Jakobovits A.ら,Current Opinion in Biotechnology Vol.6,No.5,pp:561−566(1995);Green L,ら,Nature Genetics Vol.7,No.1,pp:13−21(1994))。
【0130】
自己プロセシングペプチドのコード配列を単独で、またはタンパク質分解的切断部位についてのさらなるコード配列と組み合わせて含む本発明のAAVベクターは、インビトロでの任意の細胞型の中での組換え免疫グロブリンまたはそのフラグメントの発現、その後の多数のインビボ経路のいずれかによる投与(多数のインビボ経路が当該分野で公知であり、その例が本明細書中に記載される)において有用性を見出す。当業者は、任意のタンパク質発現システムにおける使用のために本発明のベクターを容易に適応させることができる。
【0131】
本発明の目的は一連の実験によって達成されており、そのいくつかが以下の限定ではない実施例によって記載される。
【実施例】
【0132】
(実施例1)
(AAV 2A発現構築物の構築)
自己プロセシング切断配列(2A)を有している、ラット抗FLK−1モノクローナル抗体および完全ヒト抗KDRモノクローナル抗体の全長の重鎖および軽鎖をコードするAAVベクターを、図1Aに示すように構築した。抗体重鎖および軽鎖の可変領域と定常領域を、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を使用して親ハイブリドーマ細胞のcDNAからクローニングした。cDNAは、Qiagenの全RNA精製キットを使用してハイブリドーマ細胞から単離した全RNAから逆転写酵素を用いて合成した。モノクローナル抗体のヌクレオチド配列を、自動配列決定システム(Applied Biosystems)を使用して分析し、そしてコンセンサス配列を、複数回の独立したPCR反応から導いた配列データから得た。
【0133】
重鎖、2A配列、およびラットmAbまたはヒトmAbのいずれかの抗体軽鎖をコードするDNAフラグメントを、PCRによる伸張によって互いに連結させた。人工のFMDV 2Aオリゴヌクレオチドを、2Aペプチド配列APVKQTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号6)に基づいて合成した。重鎖および軽鎖のフラグメントを、それぞれ、全長の抗体重鎖および軽鎖をコードするクローニングしたプラスミドから増幅した。PCRの際に、EcoRI制限エンドヌクレアーゼ部位を重鎖の5’末端および軽鎖の3’末端に付け加えた。融合重鎖−2A−軽鎖DNAフラグメントをEcoRIで消化し、アガロースゲルから精製した。精製されたDNAフラグメントを、EcoRI部位が隣接しているAAVプラスミド骨格の中に、T4 DNAリガーゼを使用して挿入した。抗体重鎖−2A配列−軽鎖の発現を駆動するEF1−αプロモーターまたはCAGプロモーターを含むAAVベクター構築物を調製した。改変体形態には、天然のシグナルペプチド(リーダー)をそれぞれ、重鎖または軽鎖の中に含め、これによって合成されたポリペプチドの分泌を容易にした。
【0134】
(実施例2)
(フリン切断部位を有しているAAV 2A発現構築物の構築)
上記のH−2A−L構築物から発現させられた抗体重鎖は、自己切断後には2A配列由来の残留アミノ酸をそれらのC末端に残している。発現システムをさらに最適化して、宿主に対して外来性であるアミノ酸/配列を排除するために、第1のポリペプチド(すなわち、この例示的な構築物中では免疫グロブリン重鎖)と2A配列との間にプロテアーゼ切断部位を含むベクターを構築した。使用した切断部位は、RAKR(配列番号11)であり、これはフリンコンセンサス切断配列のカテゴリーに属する。実施例1に記載した方法を使用して、抗体重鎖−フリン切断部位−2A−ラット抗体FLK−1抗体およびヒト抗KDR抗体の両方の軽鎖DNAフラグメントをPCRによって融合させ、それぞれをAAV骨格プラスミド内にクローニングした。構築物は、5’から3’の方向に向かって、5’AAV ITR、プロモーター、抗体重鎖(H)のコード配列、さらなるタンパク質分解的切断部位のコード配列(例えば、この場合はフリン切断部位のコード配列)、自己プロセシング切断配列のコード配列(この場合は2A配列)、抗体軽鎖(L)のコード配列、およびポリA配列(例えば、CAG H−F2A−L)から構成されている(図1B)。
【0135】
(実施例3)
(インビトロでのAAV H−2A−LウイルスおよびAAV H−F−2A−LウイルスからのAAVの産生およびラットIgGの発現)
本発明により、抗FLK−1重鎖−2A−軽鎖(H−2A−L)または抗FLK−1重鎖フリン切断部位−2A−軽鎖(H−F−2A−L)の発現のために1つのプロモーターを使用することにより、生物学的に活性な抗体を高レベルで産生するAAVベクターが提供される。これによって、抗体重鎖および軽鎖を同じ細胞の中で1つのオープンリーディングフレームとして発現させることができる。AAVベクターは293細胞の中で産生させた。AAV DNAは、プラスミドDNAメガ精製キット(Qiagen)を使用して精製した。293細胞を15cmの組織培養プレートの中でコンフルエンス未満まで増殖させ、その後、AAV6ベクタープラスミドまたはAAV8ベクタープラスミド(AAV H−2A−LまたはAAV H−F−2A−L)、AAV6またはAAV8のためのRep/Capプラスミドおよびアデノウイルスヘルパープラスミドで同時トランスフェクションした。トランスフェクションの後、AAVウイルスを、二重CsCl勾配遠心分離によって293細胞溶解物から精製し、その後、PBSに対して一晩、十分に透析した。rAAVウイルスの物理学的力価を、鋳型としてAAVプラスミドを使用してプローブ探査したドットブロット分析によって決定した。全長のラット抗FLK−1 mAbのためのAAVベクターを、AAV6骨格およびCAGプロモーター(AAV6 CAG H2AL)、AAV8骨格およびEF1−αプロモーター(AAV8 EF1α H2AL)、AAV8骨格およびCAGプロモーター(AAV8 CAG H2AL)、ならびにCAGプロモーターを有しているAAV8骨格(ここで、このベクターにはさらに、例示的なさらなるタンパク質分解的切断部位としてフリン切断部位が含まれる)(AAV8 CAG H−F−2A−L)を使用して調製した。
【0136】
種々のAAVベクターからインビトロでモノクローナル抗体を発現させるために、293細胞またはHuH7細胞を6ウェルプレートで培養した。細胞を、それぞれの精製したAAVベクターを、(ヘルパーとしての)アデノウイルス−5とともに、またはアデノウイルス−5を伴わずに、培養プレートに添加することによって、AAVベクターに感染させた。48時間後、細胞培養上清を収集し、IgG1を定量した。Bethyl LaboratoriesによるラットIgG1 ELISAキットをラットIgG1の分析に使用した。ラットモノクローナル抗体タンパク質を、1×105vpのAAV6 CAG H2ALウイルス、AAV8 EF1α H2ALウイルス、AAV8 CAG H2ALウイルス、およびAAV8 CAG H−F−2A−Lウイルスにそれぞれ感染させた293細胞またはHuH7細胞の細胞培養上清中で検出した(表3)。しかし、抗体をコードするAAVウイルスに感染させなかった対照ウェルから採取した上清の中では検出されなかった(上記)。
【0137】
表3に示す結果は、様々な血清型(例えば、AAV6およびAAV8)のAAVウイルスベクターを使用して全長の抗体をインビトロで発現させることができたことを示している。ここでは、抗体重鎖および軽鎖を、2Aのような自己プロセシング配列を使用して1つのオープンリーディングフレームとして発現させた。
【0138】
(表3.AAV感染(1×105vp/ウェル)後のインビトロでのラットIgG1の発現)
【0139】
【表3】
(実施例4)
(ヌードマウスでのAAV H2ALベクターまたはAAV H−F−2A−Lベクターからのラット抗FLK−1 mAbの発現)
この実験では、1つのプロモーターおよび抗体重鎖コード配列と抗体軽鎖コード配列との間に配置された自己プロセシング切断配列(本明細書中では2Aによって例示する)を使用することによって発現が生じるモノクローナル抗体をコードするAAVウイルスベクターの投与後に、マウスにおいて抗体の高い血清レベルが得られたことを示す。高レベルの抗体発現は、ラット抗FLK−1 mAb重鎖−2A−軽鎖(H−2A−L)AAVベクターおよびmAb重鎖−フリン切断部位−2A−軽鎖(H−F−2A−L)AAVベクターを使用してそれぞれ示された。
【0140】
抗体レベルは、実施例3に記載したようにラットIgG1キットを使用して分析した。
【0141】
図2に示すように、2×1011vpのAAV6 CAGラットmAb H−F−Lウイルスベクターの筋肉内(i.m.)注射による投与によっては、マウス血清中で4.5μg/mlまでの抗体レベルが生じ、少なくとも50日目まで発現が持続した。
【0142】
図3に示すように、4×1011vpのAAV8 EF1αラットmAb H−2A−Lウイルスベクターの門脈(pv)注射による投与によっては、マウス血清中で約100μg/mlのIgG1レベルが生じ、ここで、注射後200日を越えてIgG1が持続し、そして30μg/mlを上回るIgG1レベルが320日よりも長い期間観察された。
【0143】
図4に示すように、1×1011vp、2×1011vp、または4×1011vpのAAV8 CAGラットmAb H−2A−Lウイルスベクターの門脈注射による投与によっては、試験した3種類の用量(1×1011vp、2×1011vp、および4×1011vp)の全てで、マウスの血清中で高いレベルの用量依存性のIgGの発現が生じた。4×1011vpで処置した動物においては、血清mAb(IgG)レベルは28日目に2倍を上回るレベルに達し、3ヶ月よりも長くにわたって500μg/mlよりも高いままであり、320日を越えても210μg/mlを上回るレベルで持続した。
【0144】
最初の100日間のうちで最も高い抗体発現レベルは、CAGプロモーターの制御下でラットmAbをコードし、フリン切断配列および2A配列をも含むAAV8ウイルスベクターを注射した動物から採取したマウスの血清の中で観察された。図5に示すように、AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lウイルスの門脈注射による投与によっては、マウスの血清中で極めて高レベルの抗体発現が生じ、これは用量依存性の発現であった。2×1011ウイルス粒子/マウスおよび4×1011ウイルス粒子/マウスを注射したマウスのグループについては、約10mg/mlのラットmAbが28日目に検出され、1mg/mlよりも高い発現レベルの持続的な発現が、AAVウイルスベクターの注射後3ヶ月よりも長く検出され、100μg/mlを超えるIgG1レベルが320日目にも存在していた。
【0145】
これらの結果は、全長の抗体を、免疫グロブリン重鎖cDNAおよび免疫グロブリン軽鎖cDNAの1つのオープンリーディングフレームを駆動するAAVベクターからインビボで極めて高レベルで発現させることができたことを示している。ここでは、ベクターには、2つの鎖の間に配置された自己プロセシング切断配列(例えば、2A)とともに1つのプロモーターが含まれている。5’コード配列と2A配列との間にタンパク質分解的切断部位(例えば、フリン切断部位)を加えることによっては、第1のポリペプチドからの2A残基の除去を容易にしただけではなく、インビボでの血清モノクローナル抗体(mAb)の発現レベルの増大もまた生じた。この方法論はUSSN10/831302およびUSSN10/831304に詳細に記載されており、これらのそれぞれはそれらの全体が参考として本明細書中で援用される。以前の研究の結果により、自己プロセシング切断配列(例えば、2A)および、5’コード配列と2A配列との間のさらなるタンパク質分解的切断部位(例えば、フリン切断部位)の両方を含むAAV8ベクター(例えば、AAV8−CAG−H−F−2A−Lベクター)を使用した場合には、最初の100日間にインビボで検出されたmAbの血清レベルが一貫して高かったことを確認した。
【0146】
(実施例5)
(2A自己プロセシング配列およびフリン切断部位を有しているAAV8 CAGベクターによって誘導されるラット抗FLK−1 mAbによるインビボでの腫瘍の増殖の阻害)
さらなる研究を、本発明のAAVベクターを使用して発現させたモノクローナル抗体の生物学的活性を評価するために行った。これらの研究では、全長のラット抗FLK−1 mAbをコードするヌクレオチド配列のAAVによって媒介される遺伝子導入は、インビボのマウス腫瘍モデルにおいて腫瘍の増殖を抑制することが示された。
【0147】
AAV8−CAG−H−F−2A−Lベクターを実施例3に記載したように293細胞中で産生させた。ウイルス感染を、AAV感染後のHuH7細胞中でのmAbの発現によって確認した。AAV8−CAG−H−F−2A−Lベクター、またはAAV8対照ベクター(2×1011ウイルス粒子/マウス)をヌードマウスに静脈内投与した。ELISA(Bethyl Laboratories、上記)によるラット抗体の血清レベルを決定するために、マウスを毎週採血した。ベクターの投与後23日目に、マウスに1×105個のB16F10黒色腫細胞または5×106のU87神経膠腫細胞(Madrigalで1:1の容積で混合した)のいずれかを皮下注射し、腫瘍の大きさをキャリパーを使用して1週間に2回測定した。高い血清mAb濃度が、AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lウイルスで処置したマウスにおいて検出された(図6)。対照マウスに由来する血清においてはラットmAbは検出されなかった。AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターを注射したマウスにおいては、有意な抗腫瘍活性がB16黒色腫モデルにおいて観察された(P<0.05;図7)。B16F10黒色腫モデルにおけるAAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターの投与もまた、マウスの生存時間中央値を有意に延長させた(P<0.01;図8)。さらに、AAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターを注射したマウスにおいては、有意な抗腫瘍活性がU87神経膠腫モデルにおいて観察された(P<0.05;図9)。U87神経膠腫モデルにおけるAAV8 CAGラットmAb H−F−2A−Lベクターの投与によってもまた、マウスの生存時間中央値が有意に延長させられた(P<0.01;図10)。
【0148】
これらの結果は、生物学的に活性な全長のモノクローナル抗体を、インビボでの1つのAAVベクターの投与によって導くことができ、これによって、マウスの血清の中で長期間にわたる治療的な抗体の発現レベルが生じることを示している。
【0149】
(実施例6)
(AAVベクターの調製およびインビトロでのAAV H−F−2A−LウイルスからのヒトIgGの発現)
本発明の別の実施例においては、全長のヒト抗KDR mAbを、ラットモノクローナル抗体について上記に記載したものと同様のAAVベクターから発現させた。AAV−8ベクターには、抗体重鎖をコードする配列、フリン切断部位、2A配列、および全長のヒト抗KDR mAbの抗体軽鎖をコードする配列から構成される1つのオープンリーディングフレームを駆動する1つのプロモーター(CAG)が含まれる。CAGプロモーターによって駆動されるヒト抗KDR mAbをコードし、そして自己プロセシング切断配列(2A)およびさらなるタンパク質分解的切断部位(例えば、フリン)をさらに含む、AAVプラスミドを、実施例1に記載したように構築した。AAVベクターを産生するために、AAVプラスミドをプラスミドDNAメガ精製キット(Qiagen)を使用して精製した。293細胞をAAVベクタープラスミド、AAV8のためのRep/Capプラスミド、およびアデノウイルスヘルパープラスミドで同時トランスフェクトした。トランスフェクション後、AAVウイルスを、二重CsCl勾配遠心分離によって細胞溶解物から精製し、その後、PBSに対して十分に透析した。rAAVウイルスの物理的力価を、鋳型としてAAVプラスミドを使用したプローブを用いたドットブロットによって決定した。
【0150】
AAVウイルスベクターを使用してインビトロでヒト抗KDR mAbを発現させるために、HuH7神経膠腫細胞を6ウェルプレートで培養し、精製したAAV8 CAGヒトmAb H−F−2A−Lベクターを細胞に対して加えることによってAAVベクターに感染させた。72時間後、ヒトIgG1キット(Zymed laboratories)を使用したヒトIgG1の発現の分析のために細胞培養上清を収集した。KDRに対するヒトモノクローナル抗体は、1×105vpのAAV8 CAG H−F−2A−Lベクターに感染させた細胞培養上清の中で検出されたが、いずれのトランスジーンをも発現しない対照ベクターに感染させた上清の中では検出されなかった(図11)。
【0151】
(実施例7)
(インビボでのAAV H−F−2A−Lウイルスからの2つのヒトIgGサブクラスの発現)
実施例2に記載し、そして生物学的に活性な全長のIgG4抗体をインビトロで産生することを実施例6において明らかにした、全長のヒト抗KDR mAbをコードするAAVベクターを、ヌードマウスにおいて全長のIgG4抗体をインビボで発現させるために使用した。AAV8 CAG H−F−2A−LベクターまたはAAV対照ベクター(1×1011ウイルス粒子/マウスまたは2×1011ウイルス粒子/マウス)をヌードマウスに静脈内(i.v.)または筋肉内(i.m.)に投与した。マウスを示した間隔で採血し、ヒト抗KDR mAbの血清レベルを、抗ヒトIgG4抗体およびヒトIgG4タンパク質標準物を使用したことを除いて、本質的に実施例5でラット抗体レベルについて記載したように、ELISAによって決定した。いずれの投与経路によっても、2×1011vp/マウスを注射したマウスは1mg/mlよりも高い血清mAb(IgG4)濃度を示し、静脈内注射については881μg/mlのヒト抗体の持続的レベル、または筋肉内注射については459μg/mlのヒト抗体の持続的レベルが、18週間目に観察された(図12)。ヒトmAbは対照マウスの血清の中では検出されなかった(データは示さない)。
【0152】
IgG1サブクラスの発現のために、上記のAAV8 CAG H−F−2A−Lベクターのヒト抗KDR抗体の重鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を、ヒトIgG1サブクラスの重鎖の定常領域をコードする対応するヌクレオチド配列で置き換えた。IgG1をコードするAAV8ベクターを、本質的に実施例6に記載したように調製しそして精製し、そして2×1011vp/マウスをヌードマウスに静脈内(i.v.)で投与した。マウスを、10日目、21日目、および35日目に採血し、ヒトIgG1 mAb血清レベルを、抗ヒトIgG1抗体およびヒトIgG1タンパク質標準物を使用したことを除いて、本質的に上記に記載したように、ELISAによって決定した。漸増濃度のヒト抗KDR(IgG1)mAbが血清中で観察され、35日目には約100μg/mlのヒト抗体のレベルであった。
【0153】
これらの実験の結果は、種々のIgGサブクラスの全長のヒト抗体が本発明のAAVベクターの単回投与によってインビボで高レベルで発現され得ることを示している。
【0154】
(実施例8)
(ヒト抗KDR mAbはインビトロでヒト内皮細胞の増殖を刺激する)
ヒトIgGを発現するXenoMouseトランスジェニックマウスを、ヒト抗KDR抗体を作製するために組換えKDRで免疫化した。免疫化したマウスに由来するリンパ球を収集してハイブリドーマ細胞を作製した。抗体クローンをELISAをベースとするアッセイにおいてKDRに対するそれらの結合に基づいてスクリーニングした。クローンの1つであるCG2.20はKDRに対して高い親和性を示し、内皮細胞アッセイでアゴニスト効果を示した(以下にさらに記載する)。この抗体をIgG4κおよび全ヒトとして性質決定した。
【0155】
抗KDR抗体(CG2.20)の生物学的活性をヒト内皮細胞増殖アッセイにおいて決定した。このアッセイにおいて、HUVEC細胞(Clonetics)を96ウェルプレートに5000細胞/ウェルで播種し、そしてEGM完全培地で一晩培養した。翌日、各ウェルをPBSでリンスし、1%のウシ胎児血清および種々の量の精製した抗KDR抗体(CG2.20)または対照IgGを含む200μlのEBM基本培地を供給した。VEGFまたは他の成長因子は培地には含めなかった。3日後、CCK8試薬(CCK8キット、Dojindo Laboratories)を添加し、相対的な細胞密度を450nmでのODの読取値に基づいて決定した。図13に示すように、CG2.20抗体の添加によって用量依存性の様式でHUVEC細胞の細胞増殖が増大した。
【0156】
(表4.配列の簡単な表)
【0157】
【表4】
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】図1AおよびBは、実施例1に記載されるような、抗体の重鎖および軽鎖をコードするAAV発現カセットを示す。ここでは、このカセットには、5’AAV ITR、プロモーター、抗体重鎖のコード配列、自己プロセシング切断配列のコード配列(2Aによって例示される)、抗体軽鎖のコード配列(H−2A−L)、ポリA配列、および3’ITRが含まれる(図1A)。いくつかの実施形態においては、ベクターにはまた、自己プロセシング切断配列のコード配列に対して5’にあるさらなるタンパク質分解的切断部位(フリン切断部位によって例示される)のコード配列も含まれる(図1B)。
【図2】図2は、抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(H2AL)をコードする、2×1011vp(ウイルス粒子)のAAV6ベクターの筋肉内(i.m.)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図3】図3は、抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(H2AL)をコードする、4×1011vpのAAV8ベクターの門脈(pv)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(IgG1)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、伸張因子1−α(EF1a)プロモーターの制御下で発現させられる。
【図4】図4は、抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(H2AL)をコードする、1×1011vp、2×1011vp、または4×1011vpのAAV8ベクターの門脈(pv)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(DC101)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図5】図5は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、1×1011vp、2×1011vp、または4×1011vpのAAV8ベクターの門脈(pv)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(DC101)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図6】図6は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後7、14、21、30、37、および44日目のマウスの血清中でのインビボでの抗体(ラットIgG)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図7】図7は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後24日までに、B16F10腫瘍モデルにおいてAAV8によって媒介されるラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、擬似処置した対照において観察された発現と比較して、B16F10腫瘍の増殖を減少させたことを示している。
【図8】図8は、擬似処置した対照動物と比較して、B16F10腫瘍でチャレンジした動物においてAAV8によって媒介されたラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、このような動物の高い生存を導いたことを示している。抗体重鎖、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)を発現する、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射を投与した4匹の動物は、より大きな腫瘍を負っていることが原因で32日目までに全てが死亡した擬似処置した対照動物と比較して長い期間生存していた。
【図9】図9は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後に、U87神経膠腫モデルにおいてAAV8によって媒介されたラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、擬似処置した対照において観察された発現と比較して、U87腫瘍の増殖の減少を生じたことを示している。
【図10】図10は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびラット抗FLK−1抗体(DC101)の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(iv)注射後に、U87神経膠腫モデルにおいてAAV8によって媒介されたラット抗FLK−1抗体(DC101)の発現が、擬似処置した対照について観察された生存と比較して、高い生存をもたらしたことを示している。
【図11】図11は、実施例6に記載されるような、ヒト抗KDRモノクローナル抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、および抗体軽鎖(HF2AL)をコードするAAV8ベクターが形質導入されたU87細胞の細胞培養上清の中の全長のヒト抗KDR抗体の発現レベルを示す。
【図12】図12は、抗体重鎖、フリン切断部位、2A配列、およびヒト抗KDR抗体の抗体軽鎖(HF2AL)をコードする、1×1011vpまたは2×1011vpのAAV8ベクターの静脈内(i.v.)注射または筋肉内(i.m.)注射後のマウスの血清中のインビボでの抗体(IgG4)発現レベル(μg/ml)を示す。ここでは、抗体は、サイトメガロウイルスプロモーター配列およびサイトメガロウイルスエンハンサー配列、ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター配列およびCAGエンハンサー配列、ならびにキメライントロンから構成されるハイブリッドプロモーター/エンハンサーの制御下で発現させられる。
【図13】図13は、例示的なアゴニスト抗KDRモノクローナル抗体CG2.20のインビトロでのHUVEC細胞の増殖に対する用量応答効果を示す。
【図14】図14は、ヒト抗体H−F−2A−L構築物中の、2A、フリン、およびカルボキシペプチダーゼ(CP)の連続する分子内切断の模式図である。この図面は、表示の順に、配列番号19〜配列番号22をそれぞれ開示する。
【図15】図15は、ヒト抗体L−F−2A−H構築物中の2A切断、フリン切断、およびCP切断の模式図である。この図面は、表示の順に、配列番号23〜配列番号36をそれぞれ開示する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’から3’の方向に向かって、免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、自己プロセシング切断部位をコードする配列、および免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第2鎖のコード配列を含む、組換え免疫グロブリンの発現のためのAAVベクターであって、ここで、該自己プロセシング切断部位をコードする配列は、該免疫グロブリン分子の該第1鎖のコード配列と該第2鎖のコード配列との間に挿入されている、AAVベクター。
【請求項2】
前記自己プロセシング切断部位をコードする配列は2A配列を含む、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項3】
前記2A配列が口蹄疫ウイルス(FMDV)配列である、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項4】
前記2A配列が、アミノ酸残基LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)またはTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号2)を含むペプチドをコードする、請求項3に記載のAAVベクター。
【請求項5】
前記免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列が免疫グロブリン重鎖をコードする、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項6】
前記免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列が免疫グロブリン軽鎖をコードする、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項7】
免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの前記第1鎖のコード配列と免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの前記第2鎖のコード配列のと間にさらなるタンパク質分解的切断部位をさらに含む、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項8】
前記さらなるタンパク質分解的切断部位が、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である、請求項7に記載のAAVベクター。
【請求項9】
前記プロモーターが、伸張因子1−αプロモーター(EF1−α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1プロモーター(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーター(CAG)、テトラサイクリン反応性プロモーター(TRE)、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、およびCK6プロモーターからなる群より選択される、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項10】
前記プロモーターがCAGハイブリッドプロモーター/エンハンサーである、請求項9に記載のAAVベクター。
【請求項11】
前記プロモーターが伸張因子1−α(EF1α)プロモーターである、請求項9に記載のAAVベクター。
【請求項12】
前記免疫グロブリンコード配列の重鎖および軽鎖が、等モル比またはほぼ等しいモル比で発現させられる、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項13】
前記AAVベクターがAAV6ベクターである、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項14】
前記AAVベクターがAAV8ベクターである、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項15】
請求項10に記載のベクターが形質導入された細胞によって産生された組換え免疫グロブリン分子。
【請求項16】
請求項12に記載のベクターが形質導入された細胞によって産生された組換え免疫グロブリン分子。
【請求項17】
請求項10に記載のベクターが形質導入された宿主細胞。
【請求項18】
請求項12に記載のベクターが形質導入された宿主細胞。
【請求項19】
組換え免疫グロブリン分子を産生するための方法出会って、該方法は、以下:
a.請求項2に記載のベクターを宿主細胞に形質導入する工程;および
b.該形質導入された宿主細胞中で該組換え免疫グロブリンを発現させる工程であって、ここで、前記第1の免疫グロブリンコード配列と前記第2の免疫グロブリンコード配列は実質的に等モル比で発現させられる工程、
を、包含する方法。
【請求項20】
前記自己プロセシング切断部位をコードする配列が2A配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記2A配列が口蹄疫ウイルス(FMDV)配列である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記2A配列が、アミノ酸残基LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)またはTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号2)を含むペプチドをコードする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ベクターは、前記第1のタンパク質またはポリペプチド鎖のコード配列と前記自己プロセシング部位をコードする配列との間にさらなるタンパク質分解的切断部位をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記さらなるタンパク質分解的切断部位が、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
カルボキシペプチダーゼで発現させられた前記免疫グロブリンを処理する工程がさらに包含される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記AAVが、門脈注射、筋肉内注射、腫瘍内注射、および腹腔内注射からなる群より選択される経路によってインビボで投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記全長の組換え免疫グロブリンが少なくとも3ヶ月間インビボで発現させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記全長の組換え免疫グロブリンが少なくとも1mg/mlのレベルで発現させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項1】
5’から3’の方向に向かって、免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列に作動可能に連結されたプロモーター、自己プロセシング切断部位をコードする配列、および免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第2鎖のコード配列を含む、組換え免疫グロブリンの発現のためのAAVベクターであって、ここで、該自己プロセシング切断部位をコードする配列は、該免疫グロブリン分子の該第1鎖のコード配列と該第2鎖のコード配列との間に挿入されている、AAVベクター。
【請求項2】
前記自己プロセシング切断部位をコードする配列は2A配列を含む、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項3】
前記2A配列が口蹄疫ウイルス(FMDV)配列である、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項4】
前記2A配列が、アミノ酸残基LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)またはTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号2)を含むペプチドをコードする、請求項3に記載のAAVベクター。
【請求項5】
前記免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列が免疫グロブリン重鎖をコードする、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項6】
前記免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの第1鎖のコード配列が免疫グロブリン軽鎖をコードする、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項7】
免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの前記第1鎖のコード配列と免疫グロブリン分子またはそのフラグメントの前記第2鎖のコード配列のと間にさらなるタンパク質分解的切断部位をさらに含む、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項8】
前記さらなるタンパク質分解的切断部位が、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である、請求項7に記載のAAVベクター。
【請求項9】
前記プロモーターが、伸張因子1−αプロモーター(EF1−α)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1プロモーター(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルス前初期遺伝子プロモーター(CMV)、キメラ肝臓特異的プロモーター(LSP)、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチンプロモーター(CAG)、テトラサイクリン反応性プロモーター(TRE)、トランスサイレチンプロモーター(TTR)、シミアンウイルス40プロモーター(SV40)、およびCK6プロモーターからなる群より選択される、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項10】
前記プロモーターがCAGハイブリッドプロモーター/エンハンサーである、請求項9に記載のAAVベクター。
【請求項11】
前記プロモーターが伸張因子1−α(EF1α)プロモーターである、請求項9に記載のAAVベクター。
【請求項12】
前記免疫グロブリンコード配列の重鎖および軽鎖が、等モル比またはほぼ等しいモル比で発現させられる、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項13】
前記AAVベクターがAAV6ベクターである、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項14】
前記AAVベクターがAAV8ベクターである、請求項2に記載のAAVベクター。
【請求項15】
請求項10に記載のベクターが形質導入された細胞によって産生された組換え免疫グロブリン分子。
【請求項16】
請求項12に記載のベクターが形質導入された細胞によって産生された組換え免疫グロブリン分子。
【請求項17】
請求項10に記載のベクターが形質導入された宿主細胞。
【請求項18】
請求項12に記載のベクターが形質導入された宿主細胞。
【請求項19】
組換え免疫グロブリン分子を産生するための方法出会って、該方法は、以下:
a.請求項2に記載のベクターを宿主細胞に形質導入する工程;および
b.該形質導入された宿主細胞中で該組換え免疫グロブリンを発現させる工程であって、ここで、前記第1の免疫グロブリンコード配列と前記第2の免疫グロブリンコード配列は実質的に等モル比で発現させられる工程、
を、包含する方法。
【請求項20】
前記自己プロセシング切断部位をコードする配列が2A配列を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記2A配列が口蹄疫ウイルス(FMDV)配列である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記2A配列が、アミノ酸残基LLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号1)またはTLNFDLLKLAGDVESNPGP(配列番号2)を含むペプチドをコードする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記ベクターは、前記第1のタンパク質またはポリペプチド鎖のコード配列と前記自己プロセシング部位をコードする配列との間にさらなるタンパク質分解的切断部位をさらに含む、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記さらなるタンパク質分解的切断部位が、コンセンサス配列RXK(R)R(配列番号10)を有しているフリン切断部位である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
カルボキシペプチダーゼで発現させられた前記免疫グロブリンを処理する工程がさらに包含される、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記AAVが、門脈注射、筋肉内注射、腫瘍内注射、および腹腔内注射からなる群より選択される経路によってインビボで投与される、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記全長の組換え免疫グロブリンが少なくとも3ヶ月間インビボで発現させられる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記全長の組換え免疫グロブリンが少なくとも1mg/mlのレベルで発現させられる、請求項26に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2008−506389(P2008−506389A)
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−521594(P2007−521594)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/024798
【国際公開番号】WO2006/017325
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(597078983)セル ジェネシス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【国際出願番号】PCT/US2005/024798
【国際公開番号】WO2006/017325
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(597078983)セル ジェネシス インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】
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