説明

ABS基材の塗装方法及び塗装物品

【課題】ABS基材上に水性上塗り塗料を直接塗装しても、塗料安定性・密着性・塗装時タレ性・塗膜硬さ等の問題を生じない水性塗料ベースを使用するABS基材の塗装方法を提供する。
【解決手段】ABS基材上にラッカー型水性ベース塗料を塗装する工程(工程1)及び工程1を行った基材上に2液硬化型トップクリヤー塗料を塗装する工程(工程2)を有するABS基材の塗装方法であって、ラッカー型水性ベース塗料は、下記(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)中において、水分散性樹脂(A−1)10〜35質量%、水溶性樹脂(A−2)5〜20質量%、コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)20〜35質量%、メラミン樹脂(A−4)7〜25質量%、水分散性ウレタン樹脂(A−5) 20〜35質量%からなる樹脂成分(A)を塗料中の全固形分に対して43〜95質量%、ウレタン会合型増粘剤(B)(固形分)を(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)に対して0.5〜2.0質量%、並びに、顔料重量濃度(PWC)が3〜55%となる量の顔料(C)を含有するものであり、コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸からなる群から選択された構成単位からなるシェル成分を有するものであり、2液硬化型トップクリヤー塗料は、アクリルポリオール樹脂(D−1)及びポリイソシアネート基含有化合物(D−2)を含有するABS基材の塗装方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ABS基材の塗装方法及び塗装物品に関し、更に詳細にはラッカー型水性ベース塗料を使用して好適にABS基材上に複層塗膜を形成する方法及びこの方法によって得られた塗装物品である。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野において、燃費向上や排気ガス削減の目的に対し、車両の軽量化を図るためにプラスチック部品が多く使われており、これらプラスチックの耐光性や意匠性付与のために塗装が行われている。このようなプラスチック基材としてはポリプロピレン基材、ABS素材やポリカーボネート基材等が使用されている。これらのうち、ポリプロピレン基材は、塗膜との密着が悪く酸変性塩素化ポリオレフィン樹脂を配合したプライマーが必須であり、提案されている(特許文献1)。
【0003】
他方、ABS基材については、ポリプロピレン基材と比較して塗膜密着性がよく、従来はプライマーを用いずに溶剤型上塗り塗料を直接塗装しても問題がなかった。例えば、特許文献2では、ABS基材上にラッカー型溶剤メタリック上塗りベース塗料を直接塗装し、さらにその上に紫外線硬化型トップクリヤーを塗装する塗膜形成方法が提案されている。市場においても、ABS基材については、現在まで溶剤型上塗りを直接基材上に塗装しても密着性などの問題は発生しなかった。
【0004】
一方、塗料の分野においては、塗料中に含まれる有機溶剤量の低減のために水性塗料化が検討されてきている。しかし、プラスチック基材で使用される塗料においては、水性化を行った場合、塗膜と基材との密着性が得られにくいという問題が生じる。ABS基材においても、ラッカー型アクリル系水性上塗りベース塗料を基材上に直接塗装し、その上に、2液型トップクリヤーコート塗料を塗装した複層塗膜では、温水浸漬後での密着試験において、基材とベース塗膜との間で剥がれるという問題があることが明らかになった。さらに、塗料安定性の確保のために、一般的に増粘剤を用いるが、増粘剤を使用することにより、塗装時粘度まで希釈する水の量が多くなり塗装時不揮発分が低く、結果、被塗物に塗装された塗膜の粘度が低くタレ発生の不具合が多くあった。また、素材との密着性を阻害する場合もあり、塗料安定性、タレ性及び耐水密着性等を並立することが困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開2004−947号公報
【特許文献2】特開2004−10779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、環境考慮の点から、ABS基材上に水性上塗り塗料を直接塗装しても、塗料安定性・密着性・塗装時タレ性・塗膜硬さ等の問題を生じない水性塗料ベースを使用するABS基材の塗装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ABS基材上にラッカー型水性ベース塗料を塗装する工程(工程1)及び工程1を行った基材上に2液硬化型トップクリヤー塗料を塗装する工程(工程2)を有するABS基材の塗装方法であって、ラッカー型水性ベース塗料は、下記(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)中において、
水分散性樹脂(A−1) 10〜35質量%
水溶性樹脂(A−2) 5〜20質量%
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3) 20〜35質量%
メラミン樹脂(A−4) 7〜25質量%
水分散性ウレタン樹脂(A−5) 20〜35質量%
からなる樹脂成分(A)を塗料中の全固形分に対して43〜95質量%、
ウレタン会合型増粘剤(B)(固形分)を(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)に対して0.5〜2.0質量%、並びに、
顔料重量濃度(PWC)が3〜55%となる量の顔料(C)を含有するものであり、
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸からなる群から選択された構成単位からなるシェル成分を有するものであり、
2液硬化型トップクリヤー塗料は、アクリルポリオール樹脂(D−1)及びポリイソシアネート基含有化合物(D−2)を含有することを特徴とするABS基材の塗装方法である。
【0008】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、
メチルメタクリレート 50〜79質量%、
n−ブチル(メタ)アクリレート 15〜40質量%
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル 5〜10質量%及び
メタクリル酸 1〜5質量%
からなる構成単位からなるシェル成分を有するものであることが好ましい。
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、コア成分を構成する樹脂が酸基を有さないことが好ましい。
【0009】
上記ラッカー型水性ベース塗料は、光輝性顔料を含有することが好ましい。
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、シェル成分の酸価が6〜30であることが好ましい。
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、コア/シェルの質量比が40/60〜60/40であることが好ましい。
【0010】
上述したいずれかに記載された方法によって得られた塗装物品も本発明の一部である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ABS基材上で水性上塗り塗料を直接塗装しているにもかかわらず、密着性・塗装時タレ性・塗膜硬さ、塗膜平滑性、耐水性、外観等に問題を生じないという利点を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いることの出来るABS基材については、市販されている基材であれば、いかなるABS樹脂からなるものであってもよい。より具体的には、自動車部品、家電製品やゲーム機器の部品等を挙げることができ、特に、自動車部品であるABS基材に好適に適用することができる。
【0013】
ABS素材の市販品としては、例えば、テクノポリマー株式会社製のテクノABS407、テクノABS 10、テクノABS10(タイプK4)、テクノABS 10A、テクノABS 10B、テクノABS 10B(タイプK1)、テクノABS 10J、テクノABS 10J(タイプK1、K2、K3、K4、K5、K6)、テクノABS440等が挙げられる。
【0014】
本発明のラッカー型水性ベース塗料中の水分散性樹脂(A−1)は、一定の酸価を有し、カルボキシル基を塩基性物質で中和することで水中に分散された樹脂である。上記水分散性樹脂(A−1)は、上記(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の固形分合計に対して固形分換算で10〜35%の範囲で使用するものである。10%未満では、塗装時にベース塗膜のタレが発生する。35%を超えると逆に、ベース塗膜肌がばさばさ状態となり、塗膜平滑性が損なわれる。上記(A−1)は、配合量の下限が15%であることがより好ましく、配合量の上限が30%であることがより好ましい。上記水分散性樹脂(A−1)は、酸価が20〜40であることが好ましい。酸価が20未満であると、樹脂の分散安定性が悪くなるおそれがあり、沈殿物など発生しやすくなるので好ましくない。一方、酸価が40を越えると、水溶性樹脂状態に近くなり、ディスパージョンの粘性効果が得られなくなるおそれや、親水性が増すことによって耐水性が悪化するおそれがあり好ましくない。上記酸価は、25〜35の範囲であることがより好ましい。上記水分散性樹脂(A−1)は、重量平均分子量(Mw)は20000〜70000の範囲が好ましい。20000未満であると、塗膜の強度が低下するおそれがあり、70000を超えると、水中に好適に分散させることができないおそれがあり好ましくない。
【0015】
上記水分散性樹脂(A−1)は、アクリル樹脂であることがより好ましい。アクリル樹脂としては特に限定されず、以下のモノマーからなるモノマー組成物を溶液重合後水中に分散させる方法等、公知の方法により得られた樹脂を使用することが好ましい。
【0016】
上記水分散性樹脂(A−1)に使用することができるモノマーとしては、水酸基含有不飽和モノマー、酸基含有不飽和モノマー、その他の不飽和モノマー等を挙げることができる。例えば、上記重合性モノマーを組み合わせ、溶液ラジカル重合を行い、塩基により中和して、水中に分散させることにより本発明の(A−1)を得ることができる。上記塩基としてはアミン類が好ましく、アルカノールアミン類がより好ましい。例えば、アルカノールアミンとして、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−n−ブチルエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−t−ブチルエタノールアミン、N−(β−アミノエチル)イソプロパノールアミン、N,N−ジエチルイソプロパノールアミン等を1種以上使用することができる。
【0017】
上記水酸基含有不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、プラクセルFM−1(ダイセル化学社製、ε−カプロラクトン変性メタクリル酸2−ヒドロキシエチル)、ポリエチレングリコールモノアクリレート又はモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート又はモノメタクリレート等を挙げることができる。
【0018】
上記酸基含有モノマーとしては特に限定されず、例えば、カルボン酸基を有するモノマー、スルホン酸基を有するモノマー、リン酸基を有するモノマー等を挙げることができる。上記カルボン酸基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、及びこれらの無水物等の不飽和カルボン酸類を挙げることができる。上記スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、スチレンスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等の不飽和スルホン酸類を挙げることができる。上記リン酸基を有するモノマーとしては、例えば、モノ(2−メタクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート、モノ(2−アクリロイロキシエチル)アシッドホスフェート等の不飽和リン酸類等を挙げることができる。なかでも、カルボン酸基を有するモノマーが耐水性に優れる点で好ましい。
【0019】
上記酸基含有モノマーとして特に好ましいのは、ディスパージョン樹脂の水中安定性を確保する水溶性部分を形成する酸基モノマーとしては、カルボキシル基含有モノマーが好ましく、その中でもメタクリル酸がより好ましい。ヒドロキシル基含有モノマーとしては、メタクリル系モノマーが好ましく、特にメタクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。メタクリレートのα位のメチル基がやや疎水性をもち耐水性や構造粘性発現に寄与しているからである。
【0020】
上記その他の不飽和モノマーとしては特に限定されず、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、等のアルキル(メタ)アクリレート類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド系モノマー等を挙げることができる。
【0021】
上記水性ベースに配合される水溶性樹脂(A−2)は、水に溶解する樹脂であり、主として顔料に吸着することによって顔料を水性媒体中に安定的に分散させる顔料分散樹脂としての機能を有する。上記水溶性樹脂(A−2)は、上記(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の固形分合計に対して固形分換算で5〜20%である。5%未満であると、顔料を充分に被覆できる量不足で顔料の分散不良となる恐れがあり好ましくない。一方、20%を超えると、耐水性が低下してしまう。また、塗装時に粘性が低くなりやすく、タレが生じるおそれがあるので、このような観点からも好ましくない。上記(A−2)は、配合量の下限が7%であることがより好ましく、配合量の上限が15%であることがより好ましい。
【0022】
上記水溶性樹脂(A−2)は、重量平均分子量が15000〜40000であることが好ましい。15000未満では顔料への吸着性能はよいが、顔料から脱着しやすくなるおそれがあり、40000を超えると、顔料への吸着力が低下するおそれがあり、顔料の安定化を損ねるおそれがあり、好ましくない。
【0023】
上記水溶性樹脂(A−2)は、好適な水溶性、耐水性を得る観点から酸価が40〜70であることが好ましい。酸価が40未満であると、水溶性とすることが困難であることから、顔料への吸着力を有する樹脂となりにくく好ましくない。70を超えると耐水性試験で溶出したり、ブリスターを発生するおそれがあり好ましくない。上記酸価は、より好ましくは45〜65である。
【0024】
上記水溶性樹脂(A−2)は、上記機能を有する水溶性樹脂であれば特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、アルキッド樹脂、ポリエステル樹脂を使用することができる。なかでもアクリル樹脂がより好ましい。水溶性樹脂(A−2)として使用することができるアクリル樹脂は、上述した水分散性樹脂(A−1)において使用することができるとしたモノマーを使用して通常の重合方法を行うことによって得ることができる。そして、溶液ラジカル重合を行った後、水溶化については塩基で中和し水中へ溶解させることにより、上記水溶性樹脂(A−2)を得ることができる。
【0025】
本発明におけるラッカー型水性ベース塗料におけるコア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、シェル側に水溶解部分をもって安定化のための水溶性官能基及び架橋反応用官能基をもつことを特徴とするコア・シェル型エマルションである。これらの官能基量を調整し、密着性、塗装時タレ性、塗膜硬さ、塗料の安定性等の安定した性能を得るために、特定のモノマー成分からなるシェル成分を有するものである。すなわち、塗装時タレを抑制したり、塗料安定性を確保したりするためのラッカー型水性ベース塗料組成物としての物理的性質と、密着性や塗膜硬さといった塗膜を形成した後の塗膜の物理的性質の双方において良好な物性を得る上で、特定のコア/シェル型エマルション樹脂(A−3)を使用することが本発明において重要である。
【0026】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、水性塗料としての塗料安定性及び構造粘性を付与するための樹脂である。即ち、ウレタン会合型増粘剤(B)との交互作用(疎水部相互作用)により、塗装時における高シェアーがかかっている場合は塗料の粘度が低くなり、被塗物に塗着してシェアーがゼロになると元の高い粘度に戻るという構造粘性を発現するために必要とされる樹脂である。そのためには、コア/シェルエマルション樹脂(A−3)のシェル部は、疎水部を持つ必要があり、一方、エマルションの安定化のために親水部を持たねばならない。このような疎水性、親水性のバランスを図り、本来、併存しにくい複数の性質をすべて備えた塗料組成物を得ることが本発明の重要な目的である。
【0027】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸からなる群から選択された構成単位からなるシェル成分を有するものである。すなわち、上述した特定のモノマーからなるモノマー組成物によって構成されたシェル成分を有するコア/シェル型エマルション樹脂を使用することによって、上述した複数の性能をすべて有する塗料組成物を得ることができるのである。
【0028】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)のシェル成分は、ぞれぞれの構成単位についてメチルメタクリレート50〜79質量%、n−ブチルアクリレート15〜40質量%、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル5〜10質量%、メタクリル酸1〜5質量%の割合で有するものであることがより好ましい。また、上述した成分以外の構成単位を実質的に有さないものであることが好ましい。上記範囲内のものとすることによって、好適な疎水性、親水性のバランスを得ることができ、本発明の塗料組成物における効果をもっとも良好に得ることができる。
【0029】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、コア成分もアクリル樹脂からなるものであることが好ましい。上記コア部分は、官能基をできるだけ持たないことが好ましく、特に、酸基を有さないことが好ましい。但し、重合反応において初期のミセル安定性を確保するために、少量のアミド系モノマーを用いてもよい。
【0030】
上記コア部分を構成するために使用されるモノマー成分としては、官能基を持たないラジカル重合性の(メタ)アクリル系モノマー及びビニル系モノマーを主体とするものであることが好ましい。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、等のアルキル(メタ)アクリレート類等を挙げることができる。
上記コア部分においては、水酸基含有モノマーを使用することができる。水酸基含有モノマーとしては、上述した水酸基含有不飽和モノマーを使用することができるが、シェル部と同様にメタクリル酸2−ヒドロキシエチルが好ましい。
【0031】
少量のアミド系モノマーとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド等を挙げることができる。これらのアミド系モノマーを使用する場合は、コア成分を形成する樹脂のうち、5質量%以下の割合で使用することが好ましい。
【0032】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、コア/シェルの質量比が40/60〜60/40であることが好ましい。上記範囲内とすることによって、塗膜の均一造膜性を得ることができ、膜の凝集力、すなわち強靭な膜が得られ、平滑な塗膜肌を得ることができる点で好ましい。
【0033】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、エマルション粒子の粒子径が0.05〜1.0μmであることが好ましい。上記範囲内とすることは、構造粘性の発現及び塗料安定性、肌平滑性という点で好ましい。
【0034】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、固形分酸価が6〜20であることが好ましい。上記範囲内のものとすることで、塗装時のタレを防止しつつ充分な耐水性を得ることができる。
【0035】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)の製造は、一般のコア・シェル型エマルション合成方法である2段合成方法によって行うことができる。コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)の水和安定化のために、耐水性を悪くしない程度にごく少量の界面活性剤を使用してもよい。
【0036】
上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、上記(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の固形分合計に対して20〜35%である。上記コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)が20%未満であるとウレタン会合型増粘剤との疎水性相互作用が少なく、構造粘性発現が小さくなる。これによって塗着した水性ベース塗膜がタレたり、顔料としてアルミペーストなどを使う場合にはアルミの配向ができずメタリック感を悪化させてしまう。逆に、35%を超えると、会合型増粘剤との相互作用が大きくなりすぎ、構造粘性発現が大きくなりすぎ、水性ベースの塗着膜がフローせずベース塗膜の肌荒れをおこしてしまう。また、肌荒れを起こさないようにするために、塗装時粘度を下げた場合、塗装時不揮発分が低くなり、結果、塗着膜の不揮発分が低く、タレが発生するおそれがあり好ましくない。上記(A−3)は、配合量の下限が23%であることがより好ましく、配合量の上限が32%であることがより好ましい。
【0037】
本発明において使用されるラッカー型水性ベース塗料中のメラミン樹脂(A−4)は、水分散性メラミン樹脂、水溶性メラミン樹脂等の水性メラミン樹脂であることが好ましい。上記水性メラミン樹脂は、一般の乳化剤や、水性アクリル樹脂或いは水性アルキッド樹脂を安定剤とするような方法を用いる必要がなく、直接水性塗料に配合できるので好ましい。上記水性メラミン樹脂としては特に限定されず、例えば、メトキシ型メラミン樹脂やメトキシ・ブトキシ混合型メラミン樹脂を挙げることができる。市販されている水性メラミン樹脂としては、例えば、日本サイテックインダストリーズ(株)社製のサイメルシリーズ: サイメル300、301、303、350、370、771、325、327、703、712、715、701、267、285、232、235、236、238、211、254、204、212、202、207、マイコート506、マイコート723等を挙げることができる。これらの中でも若干疎水性を有するメトキシ・ブトキシ混合エーテル化メラミン樹脂がより好ましい。
【0038】
本発明において使用されるラッカー型水性ベース塗料中のメラミン樹脂(A−4)は、上記(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の固形分合計に対して7〜25%である。7%未満では、耐水性が若干低下してしまい、また、構造粘性発現が小さくなるおそれもある。その結果、アルミ配向が好適に発現せず、良好なメタリック外観を得ることができない点で好ましくない。一方、25%を越えると、未反応メラミン樹脂多く残存することとなり、塗膜硬さが低下する恐れがあり好ましくない。上記(A−4)は、配合量の下限が9%であることがより好ましく、配合量の上限が20%であることがより好ましい。
【0039】
本発明において使用されるラッカー型水性ベース塗料中のポリウレタン水性樹脂(A−5)は、ディスパージョンタイプであっても、エマルションタイプであってもよいが、界面活性剤を用いないディスパージョンタイプであることがより好ましい。
【0040】
上記ポリウレタン水性樹脂(A−5)としては、例えば、多官能イソシアネート化合物、一分子中に2個以上の水酸基を有するポリオール(例えば、ジメチルプロパンジオール、ジメチロールブタンジオール)、及び、水酸基とカルボン酸基を共に有する親水化剤(例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸)をジブチル錫ジラウレート等の触媒の存在下、イソシアナート基過剰の状態で反応させて得られたウレタンプレポリマーに、アミン類等の有機塩基又は水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等の無機塩基によりカルボン酸を中和し、脱イオン水を加えて水性化した後、更に鎖伸長剤により高分子量化したウレタンディスパージョン;カルボン酸を含有しないウレタンプレポリマーを合成した後、カルボン酸、スルホン酸、エチレングリコール等の親水基を有したジオール又はジアミンを用いて鎖伸長した後、上記塩基性物質で中和して水性化し、必要により更に鎖伸長剤を用いて高分子量化したウレタンディスパージョン;必要により乳化剤も併用して得られたウレタンディスパージョン等を挙げることができる。
【0041】
上記多官能イソシアネート化合物としては1,6−ヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物及びこれらのアダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等の多官能イソシアネート化合物等を挙げることができる。
また、上記ポリオールとして、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボナートポリオール等を挙げることができる。
【0042】
上記鎖長延長剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、フランジメタノール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の低分子量ジオール化合物及びこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を付加重合させたポリエーテルジオール化合物;上記低分子量ジオール化合物と(無水)コハク酸、アジピン酸、(無水)フタル酸等のジカルボン酸及びこれらの無水物から得られる末端に水酸基を有するポリエステルジオール;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコール;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミノアルコール;エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、フェニレンジアミン、トルエンジアミン、キシレンジアミン、イソホロンジアミン等のジアミン化合物;水、アンモニア、ヒドラジン、二塩基酸ヒドラジド等を挙げることができる。
【0043】
上記ポリウレタン水性樹脂(A−5)は、市販のウレタンディスパージョンを使用することもできる。上記市販のウレタンディスパージョンとしては特に限定されず、例えば、アデカボンタイターHUX561、アデカボンタイターHUX210、アデカボンタイターHUX980(以上、ADEKA社製)、バイヒドロールVP LS2952(住化バイエルウレタン社製)、VONDIC 2260、VONDIC 2220、ハイドランWLS210、ハイドランWLS213(以上、大日本インキ化学工業社製)、NeoRez R9603(アビシア社製)等を挙げることができる。
【0044】
上記ポリウレタン水性樹脂(A−5)は、上記(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の固形分合計に対して20〜35%である。20%未満では、塗膜凝集力が小さくなり、塗膜の密着試験において凝集破壊をおこす恐れがあり、好ましくない。当然、耐水試験後の密着性評価においても凝集破壊をおこしやすくなり、好ましくない。一方、35%を超えると塗膜の乾燥性が速くなる傾向があり、塗装ガンのノズルまわりに付着した塗料滴が乾燥・皮張りして、スプレーエアーに飛ばされ、いわゆるスピットというブツとして塗膜外観を悪くするおそれがあり、好ましくない。上記(A−5)は、配合量の下限が22%であることがより好ましく、配合量の上限が32%であることがより好ましい。
【0045】
上記ラッカー型水性ベース塗料は、樹脂成分(A)、すなわち上記(A−1)、(A−2)、(A−3)、(A−4)、(A−5)の合計量(固形分換算)が塗料中の全固形分に対して43〜95質量%である。上記範囲とすることで塗料として必要な皮膜形成能、意匠性を得ることができる。上記樹脂成分(A)は、配合量の下限が50%であることがより好ましく、配合量の上限が90%であることがより好ましい。
【0046】
本発明で用いるラッカー型水性ベース塗料は、ウレタン会合型増粘剤(B)を含有するものである。ウレタン会合型増粘剤(B)は、エマルション樹脂やディスパージョン樹脂との疎水相互作用により、塗料の粘性を上げ、構造粘性を発現することができる。
【0047】
ウレタン会合型増粘剤(B)は、分子中に疎水基及び親水基を有する増粘剤であり、高分子型非イオン型界面活性剤と類似構造である。より好ましくは、分子中央に親水基を有し両末端に疎水基を有している増粘剤である。ウレタン会合型増粘剤は、その構造中に存在する疎水基が水性樹脂粒子(エマルション樹脂及びディスパージョン樹脂等の疎水基)と会合することにより、増粘効果を発現するものである。ウレタン会合型増粘剤は、アルカリ膨潤型増粘剤に比較し高シェア時の粘度が低いことが特徴である。これは、ウレタン会合型増粘剤の疎水基と水性樹脂粒子中の疎水基との会合による増粘挙動が、高シェア時に一部はずれることにより発現するものである。
【0048】
上記ウレタン会合型増粘剤(B)は、公知のウレタン化反応によって合成することができる。例えば、炭素数が12〜23のアルキル鎖を有するポリエーテルモノオールとジイソシアネートとを2〜10時間反応させる方法等を挙げることができる。また、ポリエーテルジオールとジイソシアネートとを反応させた後、炭素数12〜23のアルキル鎖を有するモノアルコールと反応させて合成することもできる。更に、ポリエーテルモノオール、ポリエーテルジオールとジイソシアネートを同時に混合して合成する方法によって得られたものであってもよい。ポリエーテルジオールとジイソシアネートとを反応させた後、ポリエーテルモノオールとを反応させる方法によって得られたものであってもよい。
【0049】
上記ウレタン会合型増粘剤(B)としては、市販のものを使用することもできる。市販のウレタン会合型増粘剤としては、例えば、アデカノールUH−140S,アデカノールUH−420,アデカノールUH−438、アデカノールUH−450、アデカノールUH−450VF、アデカノールUH−462、アデカノールUH−472、アデカノールUH−526、アデカノールUH−530、アデカノールUH−540、アデカノールUH−541、アデカノールUH−541VF、アデカノールUH−550、アデカノールUH−752等(各々、株式会社ADEKA製)プライマールRM−8W、プライマールRM−825、プライマールRM−2020NPR、プライマールRM−12W、プライマールSCT−275、プライマールRM−5000、プライマールRM−6000等(各々、Rohm & Haas社製)等を挙げることができる。
【0050】
上記ウレタン会合型増粘剤(B)は、(B)の固形分として(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)に対して0.5〜2.0質量%の割合である。0.5質量%未満であると、構造粘性特性が低く、例えば、スプレー塗装時の高シェアー状態においてもあまり粘性が低くならず、塗料の霧化程度が悪く、即ち微粒子化不足が発生し平滑な肌が得られないおそれがあったり、光輝性顔料の配向がなく、メタリック感や金属調意匠が得られないおそれがあり好ましくない。一方、2.0質量%を超えると、上記B型粘度計にて、6rpmの回転シェアーでかつ液温が20℃にて、5000mPasの塗装粘度にするためには多くの希釈水を添加することが必要となり、結果として塗装時不揮発分が低下して、塗装後、被塗物へ着いた塗膜中の水蒸気が少なく、そのため塗膜の粘度上昇が低くタレたり、メタルが動いて意匠性が低下するおそれがあり、好ましくない。
上記ウレタン会合型増粘剤(B)は、配合量の下限が0.6%であることがより好ましく、配合量の上限が1.8%であることがより好ましい。
【0051】
また、構造粘性は(Ti値)、コア/シェル型エマルションだけで発現されるものでなく、他樹脂の影響もある。たとえば、水溶性樹脂が多いとTi値が少し低下したり、メラミン樹脂が多いと逆にTi値が大きくなったりする。Ti値は、上記塗装粘度調整(上記B型粘度計にて液温20℃、6rpmシェアーにて500mPasの粘度)した塗料液を60rpmシェアーにての測定粘度にて徐した値である。即ち、Ti=5000(6rpmでの粘度)÷A(60rpmでの粘度)であらわされる。本発明においては、肌の平滑性やタレ性においてはこのTi値の影響が大きいことを考慮して、Ti値が4.5〜7.0の範囲内であることが好ましい。Ti値が4.5未満であると、塗装シェアーでの粘度があまり小さくならないので、塗料の微粒化があまり行われず、塗着塗膜の平滑性が得られにくいおそれがあり、好ましくない、一方、Ti値が7.0以上であると、塗装時粘度が低く、塗料の微粒化は充分となるが、塗着してからの粘度回復が遅く、塗着塗膜がタレるおそれがあり、好ましくない。
【0052】
本発明においては使用するラッカー型水性ベース塗料は、更に、顔料(C)を顔料重量濃度(PWC)が3〜55%となる量で含有するものである。すなわち、本発明はこのような顔料を含有するラッカー型水性ベース塗料において特に好適に適用することができるABS基材の塗装方法である。上記PWCは、下限が5%であることがより好ましく、上限が50%であることがより好ましい。
【0053】
顔料としては、着色顔料、光輝性顔料、体質顔料等の各種顔料を配合することができる。例えば、着色顔料としては、アゾレーキ系顔料、不溶性アゾ系顔料、縮合アゾ系顔料、フタロシアニン系顔料、インジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロン系顔料、ジオキサジン系顔料、キナクリドン系顔料、イソインドリノン系顔料、ベンゾイミダゾロン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、金属錯体顔料等の有機系着色顔料;黄色酸化鉄、ベンガラ、カーボンブラック、二酸化チタン等の無機系着色顔料等が挙げられる。上記光輝性顔料としては、コレステリック液晶ポリマーからなるフレーク状顔料、アルミニウムフレーク顔料、金属酸化物被覆アルミナフレーク顔料、フレーク状マイカ、金属酸化物被覆シリカフレーク顔料、グラファイト顔料、干渉マイカ顔料、着色マイカ顔料、金属チタンフレーク顔料、ステンレスフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、金属めっきガラスフレーク顔料、金属酸化物被覆めっきガラスフレーク顔料、ホログラム顔料が挙げられる。上記体質顔料としては、硫酸バリウム、タルク、カオリン、珪酸塩類等が挙げられる。
【0054】
上記ラッカー型水性ベース塗料は、光輝性顔料がはいっていないソリッドカラーベース塗料、又は、光輝性顔料が一部又は全部入っている光輝性カラーベース塗料である。特に光輝性顔料の塗膜中での配向性を得ることができるという利点を持つことから、光輝性カラー水性ベース塗料において好適に効果を発現することができる。
【0055】
上記顔料は、通常、顔料ペーストとして水性塗料組成物中に分散した状態で用いることができる。上記顔料ペーストは、通常、顔料及び樹脂に溶媒(有機溶媒および水)を加えて分散することによって調製することができる。また、市販の顔料ペーストを使用することもできる。上記顔料ペーストを調製する際に使用される顔料分散樹脂は、上記水溶性樹脂(A−2)であることが好ましい。
【0056】
上記顔料(C)は、顔料重量濃度(PWC)が3〜55%の割合で塗料中に含まれる。PWCが3%未満であると、充分な意匠性が得られないという問題があり、55%を超えると、塗膜凝集破壊し易く、密着性が悪化したり、顔料が表面層に出て肌平滑性を悪化させるおそれがあり、好ましくない。なお、PWCは、
PWC=[(含有顔料重量%)/(全塗料固形分重量%)]×100
の式によって算出される値である。
【0057】
本発明において使用するラッカー型ラッカー型水性ベース塗料は、効果に悪影響を及ぼさない範囲内で上記(A−1)〜(A−5)に加えて更に、その他の樹脂、分散剤、沈降防止剤、有機溶剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、ヒンダードアミン、メタリック顔料の水素ガス発生防止剤、表面調整剤等、公知の添加剤を適宜配合することができる。
【0058】
顔料としては、例えば、アルミニウム粉、フレーク状酸化アルミニウム、パールマイカ、フレーク状マイカ等のメタリック顔料を用いれば、メタリック調又はパール調の塗膜を形成することができる。上記ラッカー型ラッカー型水性ベース塗料における顔料の配合量は、5〜50%であるであることがより好ましい。
【0059】
上記ラッカー型水性ベース塗料を調製する方法としては、特に限定されず、上述した各成分をディスパーで攪拌しながら混合することによって得ることができる。上記ラッカー型水性ベース塗料は、pHが7.5〜9.0であることが好ましい。上記範囲内とすることによって、塗料の安定性を維持しつつ、耐水性良好な塗膜を得ることができる。pHを上記範囲内にするために上記各成分を混合した後、アンモニアや上記アミン類等の揮発性アミン化合物によってpHを調整してもよい。
【0060】
本発明のABS基材の塗装方法においては、工程1として上述したラッカー型水性ベース塗料を塗装する工程を行うものである。上記工程1における塗布方法としては特に限定されず、例えば、エアスプレー塗装、エアレススプレー法、静電塗装法、ベル塗装、カーテンコート法等を挙げることができ、通常、乾燥膜厚8〜30μmの範囲内で塗装することができる。より具体的には例えば、ベル塗装法が好ましく、塗装方法は、例えば、ベル回転速度25000〜40000回転min−1が好ましい。上記塗装後に、常温(室温)で適当な時間静置してセッティングしても良い。更に、40〜80℃にてプレヒートを行ってもよい。
【0061】
本発明のABS基材の塗装方法においては、上記工程1を行った基材上に2液硬化型トップクリヤー塗料を塗装する工程(工程2)を行うものである。上記2液硬化型トップクリヤー塗料は、アクリルポリオール樹脂(D−1)を含有する主剤及びポリイソシアネート基含有化合物(D−2)を含有する硬化剤の2液からなるものである。
【0062】
上記アクリルポリオール樹脂(D−1)は、水酸基を有するアクリル樹脂である。上記アクリルポリオール樹脂(D−1)は、ポリイソシアネートと反応するアクリルポリオールであれば特に限定されず、例えば、水酸基含有不飽和モノマー、酸基含有不飽和モノマー及びその他の不飽和モノマーから選択された不飽和モノマー混合物を重合させて得られるものである。これらの不飽和モノマーとして使用されるものとしては、上述した水酸基含有不飽和モノマー、酸基含有不飽和モノマー、その他の不飽和モノマー等を挙げることができる。
【0063】
上記アクリルポリオール樹脂(D−1)は、ガラス転位点温度(Tg)が10〜40℃であることが好ましい。Tgが40℃を超えると、塗膜が硬すぎて衝撃試験により、塗膜にクラックが生じるおそれがあり、好ましくない。Tgが10℃以上のアクリルポリオールを使用することによって、膜硬度を満足させ、耐傷付き性に優れた塗膜を形成することができる塗料組成物を得ることができる。本明細書においてTgは、重合によって得られたアクリルポリオールの溶剤を減圧蒸留して留去した後、示差走査熱量計(DSC)(熱分析装置SSC/5200H(セイコー電子社製))にて以下の工程により実測した値である。
1工程:20℃→100℃(昇温速度10℃/min)
2工程:100℃→−50℃(降温速度10℃/min)
3工程:−50℃→100℃(昇温速度10℃/min)
で測定し、3工程目の昇温時よりTgを求めた。
【0064】
上記アクリルポリオールは、水酸基価90〜200KOHmg/g、重量平均分子量3000〜5000のアクリルポリオールを使用することがより好ましい。即ち、揮発溶剤削減のハイドリッド用ポリオールがより好ましい。
【0065】
上記樹脂溶液は、更に、有機スズ系硬化触媒をアクリルポリオール溶液塗料(D1)とポリイソシアネート硬化剤(D2)の固形分合計100質量部に対して0.005〜0.1質量部含有するものであることが好ましい。上記有機スズ系硬化触媒は、上記アクリルポリオールと上記ポリイソシアネートとの硬化反応を促進するものであれば、特に限定されず、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート、ジブチルスズジマレエート、ジブチルスズラウレートマレエート等を挙げることができる。上記有機スズ系硬化触媒は、固形分100質量部に対して0.005質量部未満であると、乾燥後の硬化が不充分で初期硬度が低く、運搬作業時に作業者の軍手跡等がつき、外観不良となるおそれがあり好ましくない。0.1質量部を超えると、ポットライフが短くなるという問題を生じるおそれがある。
【0066】
本発明において上記樹脂溶液と併用して使用する硬化剤溶液は、ポリイソシアネート基含有化合物(D−2)を含有するものである。上記ポリイソシアネートは、イソシアネート基を二以上有する化合物である。上記ポリイソシアネートとしては、脂肪族又は脂環族系のポリイソシアネートが好ましい。
【0067】
上記脂肪族又は脂環族系のポリイソシアネートとしては特に限定されず、例えばイソシアヌレート基、ウレトジオン基、ウレタン基、アロファネート基、ビウレット基及び/又はオキサジアジン基を含むヘキサメチレンジイソシアネート又はイソホロンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0068】
上記樹脂溶液及び上記硬化剤溶液は、所望の物性を損なわない範囲で、その他の配合物を必要に応じて含有するものであってもよい。含有することができる配合物としては特に限定されず、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、アクリル変性酸グラフト塩素化ポリプロピレン樹脂等のバインダー樹脂;着色顔料、光輝性顔料、体質顔料等の顔料類;表面調整剤、沈降防止剤、艶消し剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、粘性調整剤等を添加するものであってもよい。上記添加剤は、上記樹脂溶液に添加するものであっても、上記硬化剤溶液に添加するものであってもよい。
【0069】
本発明のABS基材の塗装方法において使用することができる2液硬化型トップクリヤー塗料組成物は、上記樹脂溶液及び上記硬化剤溶液を使用直前に混合し、その後、塗装を行うものである。上記樹脂溶液及び上記硬化剤溶液を混合する際、上記アクリルポリオール及び上記ポリイソシアネートは、OH基/NCO基(当量比)が1/1〜1/2となる割合で混合することが好ましい。OH基量が当量比で1/1より大きくなると、塗膜の架橋の程度が小さく、塗膜硬度が低くなるという問題を生じるおそれがある。OH基/NCO基(当量比)が1/2より小さくなると、ポリイソシアネート化合物が未反応で残存する可能性が高く、塗膜硬度が低くなるおそれがあり好ましくない。
【0070】
上記2液硬化型トップクリヤー塗料組成物としては、市販のものを使用することもできる。
【0071】
工程2において2液硬化型トップクリヤー塗料組成物を上記基材に塗布する方法としては特に限定されず、例えば、スプレー塗装、ベル塗装、カーテンコート、ロールコーター法等を挙げることができ、通常、乾燥膜厚の下限20μm、上限45μmの範囲内で塗装することができる。
上記乾燥、塗膜化する方法として、常温硬化、焼き付け条件等を挙げることができる。焼き付け条件としては、60〜80℃で15〜60分等を挙げることができる。
本発明の塗装方法は、ABS基材の塗装方法であり、適用することができるABSとしては特に限定されず、自動車部品、家電製品、ゲーム機等の部品等に適用することができる。なお、上記塗装を行うことによって得られた塗装物品も本発明の一部である。
【実施例】
【0072】
以下本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」は特に断りのない限り「質量部」を、「%」は特に断りのない限り「質量%」を意味する。
【0073】
(1)樹脂製造例1 (水分散性樹脂(A−1))
攪拌機、温度計、還流管、滴下ロート、窒素導入管及びサーモスタット付き温度調整加熱装置を備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下PGMと記す)27質量部を仕込み、窒素ガスを流入させ、内部を攪拌しながら液内温を110℃まで昇温した。次いでメタクリル酸(以下MAAと記す)5質量部、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(以下、2HEMAと記す)8質量部、メチルメタクリレート(以下MMAと記す)25質量部、エチルアクリレート(以下EAと記す)52質量部、スチレンモノマー(以下Stと記す)10質量部からなるモノマー組成物を一つの滴下ロートに仕込んだ。もう一つの滴下ロートにPGM10質量部及びパーオキサイド系ラジカル重合開始剤(t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサナート;以下t−BPOと記す)2.2質量部からなる重合開始剤溶液を仕込んだ。上記モノマー組成物と開始剤溶液を反応内部溶液温度を110℃に保持しながら3時間かけて滴下し、樹脂合成を行った。重合温度の均一性保持のため、常に攪拌状態で反応を行った。滴下終了後、内部反応温度を110℃に保持し、1時間放置後、PGM5質量部及び重合開始剤(t−BPO)0.3質量部からなる後ショット開始剤溶液を滴下ロートから2時間かけて滴下し、残存モノマーの重合を行った。得られたアクリル樹脂をKOH溶液滴定方法で求めた固形分酸価は32で、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにてスチレン換算で求めた重量平均分子量(Mw)は40000であった。次いで上記重合樹脂溶液の液温を50℃に下げ、液内部を攪拌しながらジメチルエタノールアミン(DMEA)4質量部を徐々に滴下し樹脂中のカルボキシル基を中和した後、50℃の脱イオン水258質量部を15分かけて攪拌しながら滴下し、半濁状のハイドロディスパージョン水性樹脂(A−1)を得た。得られたハイドロディスパージョン樹脂の不揮発分は20%であった。なお、不揮発分は、JIS−K−5601−1−2に準じ、105℃で3時間加熱後の残存固形分から求めた。
【0074】
(2)樹脂製造例2 (水溶性アクリル樹脂A−2))
樹脂製造例1と同じ反応装置を用いて反応容器にPGDM55質量部を入れ、窒素ガスを内部流入させ内部攪拌しながら120℃まで昇温した。液内部攪拌及び窒素流入は製造終了まで行った。上記昇温後、MAA8.5質量部、2HEMA14.5質量部、MMA13質量部、EA55質量部、St9質量部からなるモノマー組成物及びPGM8質量部にt−BPO4質量部を溶解した開始剤溶液をそれぞれ別の滴下ロートに仕込んだ。反応容器液内部を120℃に維持しながら3時間かけてそれぞれを滴下して重合を行った。滴下終了後、1時間120℃で維持し、次いで、更にt−BPO0.4質量部 をPGM4質量部に溶解した開始剤溶液を1時間かけて反応溶液中へ滴下して後ショット重合を行った。次いで、重合用液内部を70℃に冷却し、GPC及び酸価測定用サンプルを取った後、DMEA9.5質量部を反応容器中へ滴下した。十分攪拌後、脱脱イオン水210質量部をゆっくりと20分かけて滴下し、相転移法により水溶性アクリル樹脂溶液を製造した。上記測定用サンプルの測定の結果、この樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィーにてスチレン換算で求めた重量平均分子量は27000で、固形分酸価は56であった。また、不揮発分は30%であった。
【0075】
(3−1)樹脂製造例3−1 (コア/シェル型エマルション樹脂(A−3))
樹脂製造例1で用いたものと同じ反応装置を用いて、まず、反応容器に脱イオン水140質量部を仕込んだ。次いで窒素気流中で反応容器の内部液を攪拌しながら80℃に昇温した。次いで、コア/シェル型エマルションの第1段(コア部)製造の重合性モノマー混合物として、MMA34質量部、アクリル酸n−ブチル(以下n−BA) 12.5質量部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル(以下2HEMA)3.5質量部、ポリオキシエチレン−l−(アリルオキシメチル)アルキル硫酸エステルアンモニウム塩(商品名:アクアロンKH−10;第-工業製薬社製)0.3質量部、α−ヒドロ−ω−(l−(アルコキシ)メチル―2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)―ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)(商品名:アデカリアソープER−20(80%水溶液);旭電化社製)0.5質量部及び脱イオン水40質量部からなる重合性モノマーの乳化物(プレエマルション)と、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び脱イオン水10質量部からなるエマルション重合開始剤水溶液とを、別々の滴下ロートから75分かけて、並行して反応容器に滴下した。この間、攪拌しながら内部液温を80℃に保持した。滴下終了後、同温度・撹拝条件下で1時間の熟成を行った。
【0076】
さらに第2段目(シェル部)製造のための重合性モノマー混合物として、MMA31質量部、n−BA14質量部、2−HEMA3.5質量部、MAA1.5質量部、アクアロンKH−10を0.9質量部及び脱イオン水32.5質量部からなる混合モノマー乳化物(プレエマルション)と、過硫酸アンモニウム0.2質量部及び脱イオン水10質量部からなるエマルション重合開始剤水溶液とを、75分間にわたり、別々の滴下ロートから並行して反容器中へ滴下した。この間、攪拌しながら内部液温は80℃を保持して反応を行った。次いで液温を40℃
に冷却し、400メッシュフィルターでろ過し、平均粒子径280nm、不揮発分30%、樹脂固形分酸価10のアクリルエマルションを得た。
【0077】
(3−2)樹脂製造例3−2 (コア/シェル型エマルション樹脂(A−3);比較例用)
製造方法は、樹脂製造例3−1に準じ、第1段目(コア製造)の重合性モノマー混合物としてMMA34質量部、アクリル酸エチル(以下EAと記す) 12.5質量部、2HEMA 3.5質量部とし、第2段目(シェル部)の重合性モノマー混合物として、MMA 31質量部、EA14.6 質量部、HEA3.1質量部、アクリル酸(以下AA)1.3質量部を用いて製造した。平均粒子径300nm、不揮発分30%、樹脂固形分酸価10のコア/シェル型アクリルエマルションを得た。
【0078】
(4)樹脂製造例4
(ポリエステル系ウレタンディスパージョン(A−5))
減圧装置、サーモスタット付き加熱温度調整装置、窒素導入管、滴下装置、攪拌装置及び温度計、サンプル採取管、還流管、水除去装置を備えた反応容器に、1,2−ドデカンジオール200質量部及びアジピン酸140質量部を仕込み、常圧下で窒素ガスを吹き込みながら徐々に昇温し、内容物が溶解した時点で攪拌しながら190℃まで昇温した。徐々に昇温しながらエステル化反応を進め、反応により出てくる水を留去しながら210℃までにした。途中に容器内反応混合物のサンプル採取を行い、酸価が1以下になったところで減圧度を5kPa・absとして製造を完結した。このポリエステル樹脂の酸価は0.5、水酸基価は55.2、数平均分子量はGPCのポリスチレン換算測定で2000であった。
【0079】
温度計、撹拝装置、冷却管、滴下ロート、サンプル採取管、窒素導入管、加熱温度調整付き反応容器に、上記ポリエステル樹脂226質量部、ジメチロールプロピオン酸17質量部、メチルエチルケトン70質量部、4,4‘−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート99質量部を仕込み、窒素ガスを導入しながら、75℃で5時間ウレタン化反応をおこなった。そしてNCO含有3.5%のウレタンプレポリマーを得た。このウレタンプレポリマーのNCO含有量は、滴定で定法により測定した。
次いでウレタンプレポリマーを50℃に冷却し、トリエチルアミン12.5質量部を徐々に添加し、30分攪拌した後、脱イオン水550質量部を加えて、転相乳化を行った。次にエチレンジアミン8.5質量部、脱イオン水85質量部からなるエチレンジアミン水溶液を30分かけて滴下した。さらに1時間熟成した後、減圧下50℃で脱溶剤を行い、ポリウレタンディスパージョンを得た。得られた樹脂の固形分は35%であった。
【0080】
(5)ウレタン会合型増粘剤(B)の製造
減圧可能反応容器に、セチルアルコールのエチレンオキサイド70モル付加物(数平均分子量3320)6645質量部を、減圧下100℃で3時間脱水し、上記付加物の水分量を0.005%以下にした。
【0081】
次いで、上記反応容器内部を大気圧とし、70℃に冷却し、ヘキサメチレンジイソシアネート168質量部及びジブチルチンジラウレート0.7質量部を加え、窒素雰囲気下で80℃に昇温し、この温度で5時間反応させた。得られたウレタン化合物は粘ちょう液状でポリスチレン換算でのGPC測定における重量平均分子量は、8000であった。このウレタン化合物15質量%、プロピレングリコール24質量%、脱イオン水61質量%混合物をディスパー攪拌し、会合型増粘剤を製造した。この不揮発分は15%であった。
【0082】
(6)光輝材ペーストの製造
2−エチルヘキサノール58質量部にアルミペーストMH8801(旭化成社製アルミニウムペースト、商品名;不揮発分65%)32質量部を溶解し、次に卓上ディスパーで攪拌しながら、サンニックスSP−750(三洋化成社製ポリエーテルポリオール、商品名)9.5質量部及びラウリルアシッドフォスフェート0.5質量部を徐々に添加し、固形分31重量%のアルミニウム顔料を含む光輝材ペーストを得た。
【0083】
(7)トップクリヤー主剤用アクリルポリオールの製造例(A−6)
樹脂製造例1(A−1)で用いたものと同じ装置類をつけた加圧可能反応容器に、酢酸n−ブチル32質量部を仕込み、攪拌しながら内部液相温度を100℃まで昇温した。ここで窒素を液相に吹き込みながら加圧し、内部液相温度を170℃まで昇温した。内部液相は常に攪拌状態にした。次いで、MAA1.2質量部、2−HEMA39.1質量部、St27.4質量部、MMA4.3質量部、ラウリルメタクリレート28質量部(以下、LMAと記す)からなるモノマー混合液と、t−BPO1.5質量部及び酢酸n−ブチル10質量部からなる重合開始剤溶液をそれぞれ別の滴下ロートから3時間かけて滴下して重合反応を行った。内部温度は170℃に維持した。更に30分間、内部液相温度を170℃に維持した後、120℃まで下げた。次に、t−BPO0.1質量部、酢酸n−ブチル3質量部からなる重合触媒溶液を滴下ロートから30分間かけて滴下し、そのあと30分間熟成反応を行い、重合反応を完了した。この時点で内部温度を80℃に下げた後、容器内圧力を常圧に戻してアクリル樹脂ワニスを得た。不揮発分は70%、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーのポリスチレン換算で4000、ポリマーのガラス転移温度は、上記測定方法で20℃、ヒドロキシル価はアクリル樹脂ワニスに一般的に用いられる無水酢酸−ピリジン法により測定し、170であった。
【0084】
(8)トップクリヤー塗料液(主剤と硬化剤・触媒・他混合物)の製造例
攪拌機のついたステンレス容器に、キシロール12.7質量部、酢酸n−ブチル22.7質量部を仕込み、内部攪拌しながら、紫外線吸収剤(チヌビン900;商品名、チバスペシャルティ・ケミカルズ社製0.3質量部、ヒンダードアミン(チヌビン292;商品名、チバスペシャルティ・ケミカルズ社製)0.2質量部、添加剤(BYK−310;商品名、ビッグケミー社製)を順に仕込み、次いで、上記製造例で得られたトップクリヤー主剤用アクリルポリオール樹脂溶液(A−6)を40.5質量部仕込んだ。次に、イソシアネート硬化剤23.1質量部(スミジュールN3300;商品名、住友バイエルウレタン社製;固形分100%)、硬化触媒(ジブチルスズラウレート1%濃度/酢酸n−ブチル溶液)0.5質量部を加えて充分攪拌して2液硬化型アクリルウレタントップクリヤー塗料液を製造した。この塗料液は塗装粘度に調整されている(固形分52%、NCO/OH当量比=1.4/1)。
【0085】
(9)黒顔料ペーストの製造例
攪拌機のついたステンレス容器に上記製造例(A−2)の水溶性アクリル樹脂溶液35質量部を仕込み、攪拌しながら脱イオン水36質量部、カーボンブラック(ラーベン5000;商品名、コロンビア社製)10.5質量部、顔料分散剤(EFKA4550;商品名、エフカ社製)18質量部、消泡剤(BYK−011;商品名、ビッグケミー社製)0.5質量部を順次仕込み、混合物が均一になるまで30分充分に攪拌し、ミルベースを作成した後、Willy A Bachofen AG Mashinenfabrik社のダイノーミル(DINO−MILL)で黒顔料分散を行い、黒顔料ペーストを製造した(不揮発分20%、顔料濃度(PWC)50%)。
【0086】
(10)白顔料(二酸化チタン)ペーストの製造例
攪拌機を備えたステンレス容器に水溶性アクリル樹脂(A−2)を10.9質量部、脱イオン水15.3質量部を仕込み、攪拌しながら二酸化チタン(CR−97;商品名、石原産業社製)65.6質量部、分散剤(DUSPERBYK 190;商品名、ビッグケミー社製、固形分40質量%)8.2質量部を仕込み、30分間均一になるまで攪拌を更に継続して、ミルベースを得た。次いで、上記ミルベースを上記黒顔料ペースト製造例で用いたものと同じ分散機(DINO−MILL)で白顔料を分散し、白顔料ペーストを得た(不揮発分72質量%、PWC92%)。
【0087】
(実施例1)
ラッカー型水性シルバーベース塗料の製造
先の樹脂製造例2によって得られた水溶性アクリル樹脂(A−2)を30質量部、先の製造例1で得られた水分散性アクリル樹脂(A−1)を115質量部を卓上ディスパーで攪拌しながらサイメル235(日本サイテック社製メチル・ブチル化メラミン樹脂、商品名、固形分100%)を14質量部、先の樹脂製造例3−1のコア/シェル型エマルション樹脂(A−3)93
質量部、上記(5)で製造された光輝材ペーストを14.6質量部、樹脂製造例4のポリエステル系ウレタンディスパージョン(A−5)74質量部、上記(5)によって製造されたウレタン会合型増粘剤6.7質量部を混合攪拌し、上記製造法によって製造された光輝材ペースト81質量部を加えて、更に10%ジメチルアミノエタノール(DMEA)水溶液を加えpH−8に調整し、均一に分散したラッカー型水性シルバーベース塗料を得た。
【0088】
この塗料を脱イオン水を用いて、東機産業社製TVB−10形粘度計TVB−10M ローター#2での6rpmの粘度が5000mPasになるように粘度調整した。この粘度調整に必要な脱イオン水は206質量部であった。またこのときに60rpmの粘度も測定し、6rpmの粘度を60rpmの粘度で除じた値をTi値とした。このスプレー塗料の不揮発分は20.0%であり、PWC=13%であった。
【0089】
(塗膜形成方法)
テクノABS407(テクノポリマー(株)製)15×10cmのテストピースを作成し、前処理としてイソプロピルアルコール(IPA)でワイプし常温下で乾燥させた後、上記で作成したラッカー型水性ベース塗料を乾燥膜厚15μmとなるようにスプレーガン(アネスト岩田社製 W−101;商品名)を用いて2ステージ塗装し、20℃で1分間セッティングした。その後80℃で5分間のプレヒートを行った。次に塗装板を室温まで冷却し、クリア塗料として上記製造例によって製造したトップクリヤー塗料液を乾燥膜厚30pmになるように上記のラッカー型水性ベース塗料と同じ機種のスプレーガンで1ステージ塗装し、5分間セッティングした。更に、得られた塗装板を熱風乾燥炉にて80℃で45分間焼き付けして、被塗物上に複層塗膜を形成した。
【0090】
(評価方法と評価判断基準)
(初期密着性)
試験方法上記で得られた塗板を室温で5日放置した後、JIS K5600−5−6の基準によって塗膜の各部材への付着性を試験した。結果は、下記の判断基準に従った。なお、クロスカットは、2mm幅で100マスメとした。
【0091】
判断基準
○:全く剥れがない。
×:1個以上の剥れがある。
【0092】
(耐水密着性)
上記試験方法で得られた塗板を室温で5日放置した後、40℃の温水に10日間浸漬した。引き上げて洗浄した後、上記初期密着性試験方法と同様の試験及び同様の評価を行った。
【0093】
(塗膜硬さ)
上記で得られた塗板を室温で5日放置した後、鉛筆引かき硬度を測定した。
鉛筆は三菱UNI 鉛筆引かき値試験用を使用した。測定操作は、塗板を水平な台の上に置き固定し、塗板と円柱上に芯を出した鉛筆の角度が45度の角度になるように鉛筆をもち、約1cm/秒の速度で芯が折れない程度にできるかぎり強く塗板に押し付けながら前方に押し出して塗面を引っかいた。この操作を同一の濃度の鉛筆で5回行い、濃度記号が互いに隣り合う二つの鉛筆について、傷または破れが2回以上と2回未満となる組をみつけ、2回未満となる鉛筆の濃度記号を塗膜の鉛筆硬度とした。
判断基準
HB以上 ○ (良好)
B以下 ×(不良)
【0094】
(塗料粘性 Ti値)
上記で得られたラッカー型水性ベース塗料(塗装粘度に調整)を測定した。より詳細には、6rpmにおける粘度が5000mPas/20℃となるように調整した塗料について、60rpm、20℃において測定した粘度をxmPaとすると、
Ti値=5000/x
によって求められる。
【0095】
(外観;アルミニウム顔料の配向)
上記で得られたテストピース塗膜をALCOPE LMR=200(関西ペイント社製)測定器でもってフリップフロップ(FF値)及び目視によるアルミ配向を評価した。
○:FF値が1.7以上で且つ塗膜の目視外観での色相が均一である。
×:FF値が1.7未満であるか、又は、目視外観の色相が不均一であったり、まだらや縞模様が見える。
【0096】
(平滑性)
直管の蛍光灯の真下にテストピースを置いて、前方斜め45°角から目視観察した。
○:蛍光灯ランプが直線になって見える。
×:蛍光灯ランプが波打って見える。
【0097】
(タレ性)
上記の塗装条件でテストピースに水性ベース塗料を塗装(乾燥膜厚15μm)した後、室温20℃にて垂直に塗装テストピースを立て、10分放置後にテストピースエッジ部や塗膜状態観察してタレ性を観察した。
○:どのエッジや塗膜面にも塗料タマリ部や塗料流れがない。
×:エッジ部や塗膜面に1ヵ所以上の塗料のタマリ部や流れが見られる。
【0098】
(塗料NV)
JIS−K−5601−1−2に準じ、アルミのサンプル缶(重量既知、Yg)に試料(Xg)を採取・秤量し、次いでこの試料入りサンプル缶を105℃にて3時間乾燥して試料中の揮発分を蒸発させた後、乾燥試料入りアルミ缶を秤量(Zg)して以下の式にて求めた。
不揮発分%={(Z−Y)/X}×100
【0099】
(実施例2〜12及び比較例1〜13)
実施例1と同様の方法によって、表1〜5に示した配合で塗料組成物を調製し、ABS基材の塗装を行い評価を行った。結果を表1〜5に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
【表2】

【0102】
【表3】

【0103】
【表4】

【0104】
【表5】

【0105】
(実施例13)
水性黒ベース塗料の製造例(ソリッドカラーベース塗料)
攪拌機のついたステンレス容器に、上記製造例(A−2)の水溶性アクリル樹脂溶液30質量部、上記製造例によって得られた水分散性樹脂(A−1)115質量部を仕込み、攪拌しながらメラミン樹脂(サイメル235;商品名、日本サイテック社製メラミン樹脂;不揮発分100%)14質量部を仕込み、次いで上記樹脂製造例3−1のコア・シェル型エマルション樹脂(A−3)93質量部、上記黒顔料ペースト39質量部、2−エチルヘキサノール30質量部、上記樹脂製造例4のポリエステル系ウレタンディスパージョン(A−5)74質量部、上記製造例5のウレタン会合型増粘剤6.7質量部を順に仕込み、充分に攪拌後、DMEA10%アミン水溶液で塗料液pHを8に調整した。次いで、上記B型粘度計にて6rpmシェアー、液温20℃での粘度が5000mPasになるよう調整したところ、脱イオン水が150質量部必要であった。この塗料液の上記B型粘度計60rpmでの粘度は769mPasであり、チキソトロピックインデックスファクター(Ti値)は6.5であった。また、塗料の不揮発分は20%で、PWCは3.6%であった。以後、水性ベース塗料の塗装粘度は、上述したものと同様に上記B型粘度計の6rpmシェアー、液温20℃にて5000mPasに調整した。
【0106】
上記水性黒ベース塗料を使用した以外は、実施例1と同様の方法によってABS基材の塗装を行い、評価を行った。結果を表6に示す。
【0107】
(実施例14)
水性白ベース塗料の製造例(ソリッドカラーベース塗料)
水溶性アクリル樹脂(A−2)を30質量部、水分散性樹脂(A−1)115質量部を攪拌機のついたステンレス槽に仕込み、攪拌しながらサイメル235(商品名、日本サイテック社製メチル・ブチル化メラミン樹脂;固形分100%)を14質量部、先の樹脂製造例3−1によって得られたコア/シェル型エマルション樹脂(A−3)93質量部、上記で製造した白顔料ペーストを137質量部、2−エチルヘキサノールを30.0質量部、樹脂製造例4のポリエステル系ウレタンディスパージョン(A−5)74質量部、上記(5)によって製造されたウレタン会合型増粘剤6.7質量部を混合攪拌し、1−%ジメチルエタノールアミン(DMEA)水溶液を加えpH8に調整し、脱イオン水を添加して上記B型粘度計で6rpmの粘度が5000mPasになるように塗料粘度を調整したところ、脱イオン水は72質量部必要であった。得られた水性塗料は、均一に分散したラッカー型水性塗料(固形分35%)であった。
【0108】
上記水性白ベース塗料を使用した以外は、実施例1と同様の方法によってABS基材の塗装を行い、評価を行った。結果を表6に示す。
【0109】
(比較例14)
実施例14と同様の方法によって、表6に示した配合で塗料組成物を調製し、ABS基材の塗装を行い評価を行った。結果を表6に示す。
【0110】
【表6】

【0111】
表1〜6の結果から、本発明のABS基材の塗装方法によって得られた塗装物品は密着性、硬度、塗料粘度(Ti値)、外観、平滑性、タレ性のすべての物性を兼ね備えたものであるのに対して、比較例のABS基材の塗装方法によって得られた塗装物品は、いずれかの物性において問題を有するものであることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明のABS基材の塗装方法は、自動車部品、家電製品やゲーム機器の部品等のABS基材を水性ベース塗料によって好適に塗装する方法として産業上利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABS基材上にラッカー型水性ベース塗料を塗装する工程(工程1)及び工程1を行った基材上に2液硬化型トップクリヤー塗料を塗装する工程(工程2)を有するABS基材の塗装方法であって、
ラッカー型水性ベース塗料は、下記(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)中において、
水分散性樹脂(A−1) 10〜35質量%
水溶性樹脂(A−2) 5〜20質量%
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3) 20〜35質量%
メラミン樹脂(A−4) 7〜25質量%
水分散性ウレタン樹脂(A−5) 20〜35質量%
からなる樹脂成分(A)を塗料中の全固形分に対して43〜95質量%、
ウレタン会合型増粘剤(B)(固形分)を(A−1)〜(A−5)の樹脂固形分合計(A)に対して0.5〜2.0質量%、並びに、
顔料重量濃度(PWC)が3〜55%となる量の顔料(C)
を含有するものであり、
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル及びメタクリル酸からなる群から選択された構成単位からなるシェル成分を有するものであり、
2液硬化型トップクリヤー塗料は、アクリルポリオール樹脂(D−1)及びポリイソシアネート基含有化合物(D−2)を含有する
ことを特徴とするABS基材の塗装方法。
【請求項2】
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、
メチルメタクリレート 50〜79質量%、
n−ブチルアクリレート 15〜40質量%
メタクリル酸2−ヒドロキシエチル 5〜10質量%及び
メタクリル酸 1〜5質量%
からなる構成単位からなるシェル成分を有するものである請求項1記載のABS基材の塗装方法。
【請求項3】
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、コア成分を構成する樹脂が酸基を有さない請求項1又は2記載のABS基材の塗装方法。
【請求項4】
ラッカー型水性ベース塗料は、光輝性顔料を含有する請求項1、2又は3記載のABS基材の塗装方法。
【請求項5】
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、シェル成分の酸価が6〜30である請求項1,2,3又は4記載のABS基材の塗装方法。
【請求項6】
コア/シェル型エマルション樹脂(A−3)は、コア/シェルの質量比が40/60〜60/40である請求項1,2,3,4又は5記載のABS基材の塗装方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載された方法によって得られた塗装物品。

【公開番号】特開2010−69372(P2010−69372A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−237497(P2008−237497)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【出願人】(593135125)日本ビー・ケミカル株式会社 (52)
【Fターム(参考)】