説明

ADAMTS13活性検定用抗体及び活性検定方法

【課題】フォンヴィルブランド因子(VWF)切断酵素(ADAMTS13)活性を測定するために有用な抗体、とりわけモノクローナル抗体とADAMTS13活性の測定法を提供する。
【解決手段】基質であるVWFや基質となりうるVWFの部分ペプチドにADAMTS13を作用させたときに生じる、特定のアミノ酸配列を含む抗原決定部位に対して特異的反応性を有し、完全なVWF分子とは特異的反応性を有しないモノクローナル抗体。および、当該抗体を用いたADAMTS13活性の測定法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフォンヴィルブランド因子(以下「VWF」ともいう。)又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに、VWF切断酵素(以下「ADAMTS13」ともいう。)を作用させたときに生じる抗原決定部位に対して特異的反応性(結合性)を有し、ADAMTS13が作用していない前記VWF又は前記ペプチドとは有意な特異的反応性を有しない抗体、とりわけモノクローナル抗体、およびその製造方法、ならびにそれらの用途に関するものである。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの、日本特許出願特願2005‐036612号および特願2005‐157530号からの優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura; TTP)は、血小板減少、溶血性貧血、動揺性精神神経障害などを特徴とする症候群である。かつては約80%の患者が3ヶ月以内に死亡する予後不良の疾患であった。現在では血漿交換によって、予後が大幅に改善されるようになっている。
【0004】
最近、TTPの病因としてVWF切断酵素(ADAMTS13)の活性低下が報告された。すなわち、後天性のTTPは、VWF切断酵素に対するIgG型インヒビターが産生されることによって酵素活性が低下することが原因であることが明らかにされた(非特許文献1及び2)。また先天的なTTPであるUpshaw-Schulman症候群(USS)では、遺伝的にVWF切断酵素が欠損していることが判明した(非特許文献3)。このVWF切断酵素をコードする遺伝子は、ADAMTS13であることが判明した(非特許文献4及び5)。
【0005】
ADAMTS13は亜鉛型メタロプロテアーゼで、VWFサブユニットのTyr842‐Met843結合を特異的に切断する。この酵素活性の測定は、VWFを基質として生じたVWFフラグメントの検出を電気泳動法で行うVWFマルチマー解析により行われている。この方法は、ADMATS13活性を正確に測定できるという利点はあるが、操作が煩雑であるため、とりわけ簡便な測定法の開発が望まれていた。
非特許文献6〜8によれば、ADAMTS13の基質であるVWFのA2ドメイン又はその一部を用いたADAMTS13活性の測定法が報告されている。これらは天然の基質ではなく、遺伝子組換えにより大腸菌に発現させた基質である。上記測定法ではこれらの基質が、血漿試料中のADAMTS13により分解されることを利用して、電気泳動ウエスタンブロットによる基質分子の分子量の検定、および基質と酵素の反応後の未分解残存基質の免疫学的測定によるADAMTS13活性の検出、測定を行っている。しかし、これらの方法では、ADAMTS13の活性と得られるシグナル強度が逆相関し、いわゆる検量線が負の傾きをとるため、臨床的に重要な5%以下の低値領域での感度および再現性が得られず、課題となっていた。
これらの課題を改善する方法として、消光性蛍光基質を用いた血漿ADAMTS13活性の測定法が報告されている(非特許文献9)。この方法は、ADAMTS13の活性の増加に伴って蛍光強度が増加する正の傾きをしめす検量線を有する。しかし、化学合成した特殊な高価な基質を用いて、蛍光計を用いてレートアッセイしなければならないため、一般の臨床検査の検査室で用いるには課題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】New Engl. J. Med. 339, 1578-1584, 1998
【非特許文献2】New Engl. J. Med. 339, 1585-1594, 1988
【非特許文献3】J. Hematol. 74, 101-108, 2001
【非特許文献4】J Biochem. 130, 475-480, 2001
【非特許文献5】J. Biol. Chem. 276, 41059-41063, 2001
【非特許文献6】Blood, 103, 607-612, 2004
【非特許文献7】J. Thromb. Haemost. 2, 485-491, 2004
【非特許文献8】Thromb Haemost. 91, 806-811, 2004
【非特許文献9】日本血栓止血学会誌, 15, 421, 2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ADAMTS13活性を測定するために有用な抗体を提供することである。さらに具体的には、本発明の目的は、基質であるVWFまたは基質となりうるVWFの部分ペプチドがADAMTS13により水解されて生成するペプチドに、親和性を有する抗体の提供、ならびに当該抗体の用途を提供することであり、当該抗体をモノクローナル抗体として提供することである。また、本発明の別の目的は、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ADAMTS13活性の測定法を鋭意研究した結果、VWFまたは基質となりうるVWFの部分ペプチドにおいてADAMTS13により特異的に切断される切断部位に対してN末端側のアミノ酸配列をC末端に有するペプチドを、抗原として用いることによって、ADAMTS13により基質が切断されて生じる抗原決定部位を特異的に認識するモノクローナル抗体を得ることに成功し、当該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を確立し、さらに当該モノクローナル抗体の用途を見出した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
1.フォンヴィルブランド因子(VWF)又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに、VWF切断酵素(ADAMTS13)を作用させたときに生じる抗原決定部位に対して反応性を有し、VWF又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドとは有意な反応性を有しない抗体。
2.VWF又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに、ADAMTS13を作用させたときに生じる抗原決定部位は、前記VWF又は前記ペプチドがADAMTS13により切断されたときに生じる抗原決定部位である、前項第1項に記載の抗体。
3.前記抗原決定部位が、VWF又は前記ペプチドがADAMTS13により切断された切断部位おいて新たに生じたN末端側のペプチド断片又はC末端側のペプチド断片に存在する、前項第1項または第2項に記載の抗体。
4.配列表の配列番号2に記載のペプチドに対して反応性を有する、前項第1項〜第3項のいずれか1項に記載の抗体。
5.配列表の配列番号2に記載のペプチドのC末端より少なくとも4個のアミノ酸残基を含む領域に対して反応性を有する、前項第1項〜第4項のいずれか1項に記載の抗体。
6.配列表の配列番号2に記載のペプチドに対して反応性を有し、配列表の配列番号3〜8に記載のいずれか1項のペプチドに対して有意な反応性を有しない前項第1項〜第5項のいずれか1項に記載の抗体。
7.配列表の配列番号2に記載のペプチドに対する反応性が、ヒト血漿より精製したVWFに対する反応性よりも少なくとも5倍大きい、前項第1項〜第6項のいずれか1項に記載の抗体。
8.配列表の配列番号2に記載のペプチドに対する反応性が、配列表の配列番号1に記載の配列を含むペプチドに対する反応性よりも少なくとも3倍大きい、前項第1項〜第7項のいずれか1項に記載の抗体。
9.配列表の配列番号2に記載のペプチドに対する反応性が、配列表の配列番号8に記載のペプチドに対する反応性よりも少なくとも5倍大きい、前項第1項〜第8項のいずれか1項に記載の抗体。
10.配列表の配列番号9に記載のアミノ酸配列をC末端に有するペプチドを免疫原として得られる、前項第1項〜第9項のいずれか1項に記載の抗体。
11.配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するペプチドを免疫原として得られる、前項第1項〜第10項のいずれか1項に記載の抗体。
12.配列表の配列番号10に記載のペプチドに対して反応性を有する、前項第1項〜第3項のいずれか1項に記載の抗体。
13.配列表の配列番号10に記載のペプチドのN末端より少なくとも4個のアミノ酸残基を含む領域に対して反応性を有する、前項第1項〜第3項および第12項のいずれか1項に記載の抗体。
14.配列表の配列番号10に記載のペプチドに対して反応性を有し、配列表の配列番号2〜9に記載のいずれか1のペプチドに対して有意な反応性を有しない、前項第1項〜第3項、第12項、および第13項のいずれか1項に記載の抗体。
15.配列表の配列番号10に記載のペプチドに対する反応性が、ヒト血漿より精製したVWFに対する反応性よりも少なくとも5倍大きい、前項第1項〜第3項および第12項〜第14項のいずれか1項に記載の抗体。
16.配列表の配列番号10に記載のペプチドに対する反応性が、配列表の配列番号1に記載のペプチドに対する反応性よりも少なくとも3倍大きい、前項第1項〜第3項および第12項〜第15項のいずれか1項に記載の抗体。
17.配列表の配列番号10に記載のペプチドに対する反応性が配列表の配列番号8及び11に記載のペプチドに対する反応性よりも少なくとも5倍大きい、前項第1項〜第3項および第12項〜第16項のいずれか1項に記載の抗体。
18.配列表の配列番号12に記載のアミノ酸配列をN末端に有するペプチドを免疫原として得られる、前項第1項〜第3項および第12項〜第17項のいずれか1項に記載の抗体。
19.配列表の配列番号10に記載のペプチドを免疫原として得られる、前項第1項〜第3項および第12項〜第18項のいずれか1項に記載の抗体。
20.モノクローナル抗体である前項第1項〜第19項のいずれか1項に記載の抗体。
21.寄託番号がFERM BP‐10480又はFERM BP‐10479であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である、前項第1項〜第11項のいずれか1項に記載の抗体。
22.前項第20項に記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
23.寄託番号がFERM BP‐10480又はFERM BP‐10479である前項第22項に記載のハイブリドーマ。
24.ADAMTS13により切断されうる基質ペプチドを、ADAMTS13活性を検定しようとする検体と反応させる工程、及び該工程の反応生成物に前項第1項〜第21項のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体を反応させる工程を含む、ADAMTS13活性の測定方法。
25.配列表の配列番号1に記載の配列を含むペプチドとADAMTS13活性を検定しようとする検体とを反応させる工程、及び該工程の反応生成物に前項第1項〜第21項のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体を反応させる工程を含む試料中のADAMTS13活性の測定方法。
26.VWFとADAMTS13活性を検定しようとする検体とを反応させる工程、及び該工程の反応生成物に前項第1項〜第21項のいずれか1項に記載の少なくとも1種の抗体を反応させる工程を含む試料中のADAMTS13活性の測定方法。
27.前記抗体が標識物質で標識されている、前項第24項〜第26項のいずれか1項に記載の試料中のADAMTS13活性の測定方法。
28.前記抗体が固相担体に固定化されている、前項第24項〜第27項のいずれか1項に記載の試料中のADAMTS13活性の測定方法。
29.前記抗体が水不溶性の粒子に担持されている、前項第24項〜第28項のいずれか1項に記載の試料中のADAMTS13活性の測定方法。
30.前項第24項〜第29項のいずれか1項に記載の方法によって、微小血管障害性疾患を検査する方法。
31.前項第1項〜第21項のいずれか1項に記載の抗体を含む、試薬またはキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明の抗体は、VWF又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するペプチドにADAMTS13を作用させたときに生じる抗原決定部位を特異的に認識する抗体である。そして当該抗体は、ADAMTS13が作用していない前記VWF又は前記ペプチドとは有意な特異的反応性を有しないものである。当該抗体を用いることにより、ADAMTS13酵素活性の測定および検定が可能になる。即ち、本発明の抗体を用いることにより、(1)サンドイッチ免疫測定法によるADAMTS13活性の迅速、簡便な測定、(2)粒子標識免疫測定法によるADAMTS13活性の迅速、簡便な測定が可能となり、従って本発明は(3)これらの成果に基づく治療薬、診断薬等の開発等に大きな意義を持つ。また、本発明の抗体は、モノクローン化された融合細胞により安定して産生されることから、産業上の利用価値も高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のモノクローナル抗体を2次抗体として用いたADAMTS13活性測定の検量線とUSS例の測定結果を示した図である。(実施例7および8)
【図2】本発明のモノクローナル抗体を固相に用いたADAMTS13活性測定の検量線を示した図である。(実施例9)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において、抗体とは、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもを含む。モノクローナル抗体とは、公知の方法で調製されたモノクローン化された融合細胞より産生される抗体である。本発明の抗体には、全抗体分子または抗体活性を有する抗体分子の一部画分も含まれる。本発明の抗体を作製するために免疫原として用いる抗原は、本発明の課題を解決しうるものであれば特に限定されるものではないが、好適にはペプチドが用いられ、当該ペプチドにはキャリアー蛋白質に結合されているものも含まれる。なお、本明細書において「ペプチド」とは、2以上のアミノ酸がペプチド結合によって結合したものを示す。
【0013】
ADAMTS13は亜鉛型メタロプロテアーゼであって、VWF分子の1065番目のチロシン(Tyr1605)と1606番目のメチオニン(Met1606)の間の結合に該当する結合を、特異的に切断する。VWFが切断されることにより、アミノ酸配列上に新たなC末端とN末端が生じる。その結果、新たな抗原決定部位が生じる可能性がある。その抗原決定部位を認識する抗体を作製すれば、切断されたVWFに特異的に結合しうる抗体が得られることが予想される。本発明における抗体は、新たに生じるN末端側又はC末端側のペプチドのいずれかに生じた抗原決定部位に特異的反応性を有するものであれば、特に限定されるものではない。非特許文献6によれば、ADAMTS13は、VWF分子の1459番目のAspから1668番目のArgまでのペプチドを基質として、特異的にTyr1605‐Met1606の結合を切断することが報告されている。なかでも、1596番目のAspから1668番目のArgまでの73個のアミノ酸からなるペプチド(以下「VWF73」ともいう。配列表の配列番号1で示されるペプチド)が、効率よくADAMTS13による水解を受けることが、上記文献には示されている。配列表の配列番号1に示されるペプチドからなるVWF73にADAMTS13が働くと、10番目のTyrと11番目のMetの間が水解され、切断部位に対してN末端側の10個のアミノ酸からなるペプチドが遊離する。このN末端側の10個のアミノ酸からなるペプチドは、以下「N‐10ペプチド」ともいい、配列表の配列番号2に表されるアミノ酸配列からなるペプチドである。
上記N‐10ペプチドを免疫原として用いることにより、フォンヴィルブランド因子(VWF)又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドに、VWF切断酵素(ADAMTS13)を作用させたときに生じる抗原決定部位に対して特異的反応性を有し、ADAMTS13の作用を受けていないVWFまたは前記ペプチドとは有意な特異的反応性を有しない、本発明の抗体を得ることができた。本明細書においては、ADAMTS13の作用をうけておらず、切断されていないVWF又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを、まとめて「完全なVWF分子」ともいう。また、配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドは、ADAMTS13の水解を受けうるものであればよく、73個〜2050個のアミノ酸からなり、好ましくは73個〜210個、より好ましくは配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチド(アミノ酸数73個)である。
【0014】
かくして得られた本発明の抗体は、VWF又は配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドにADAMTS13を作用させたときに生じる抗原決定部位を認識する抗体であり、かつ完全なVWF分子とは有意な反応性を有しないものである。
かかる抗原決定部位の一例として、配列番号1に記載のペプチドがADAMTSにより水解された際に生じるN末端側のペプチド断片(配列番号2のペプチド)にできる抗原決定部位が挙げられる。N末端側の抗原決定部位は、C末端にチロシン(Tyr)が存在することを必須とする。また、配列番号2のN末端のアミノ酸が1つ少ないペプチドは抗原性を有するが、2つ少ないぺプチドは抗原性を有しないことから、上記N末端側の抗原決定部位は、少なくとも9個のアミノ酸からなる折れ曲がり構造のようなものと推測される。
また、「有意な反応性を有しない」とは、完全なVWF分子とは有意な結合性を有さないため、ウエスタンブロット、ELISA等の公知の免疫化学的手法により分析したときに、バックグランドの信号(抗体を含まない場合の信号、若しくは分析対象物に無関係な抗体により得られる信号)と比して同等程度の信号しか得られないものをいう。
【0015】
本発明の該抗体は、(a)該抗体をマイクロプレートウエルに固相化した配列表の配列番号2に記載のペプチド及びヒト血漿より精製したVWFとそれぞれ反応させたとき、配列表の配列番号2に記載のペプチドに対する反応性がヒト血漿より精製したVWFに対する反応性よりも少なくとも5倍大きいという性質、(b)該抗体をマイクロプレートウエルに固相化した配列表の配列番号2に記載のペプチド及び配列表の配列番号1に記載の配列を含むペプチドとそれぞれ反応させたとき、配列表の配列番号2に記載のペプチドに対する反応性が配列表の配列番号1に記載の配列を含むペプチドに対する反応性よりも少なくとも3倍大きいという性質、(c)該抗体をマイクロプレートウエルに固相化した配列表の配列番号2に記載のペプチド及び配列表の配列番号8に記載のペプチドとそれぞれ反応させたとき、配列表の配列番号2に記載のペプチドに対する反応性が配列表の配列番号8に記載のペプチドに対する反応性よりも少なくとも5倍大きいという性質の少なくとも1以上の性質を有することが好ましい。あるいは、本発明の該抗体は、(d)該抗体を、マイクロプレートウエルに固相化した配列表の配列番号10に記載のペプチド及びヒト血漿より精製したVWFとそれぞれ反応させたとき、配列表の配列番号10に記載のペプチドに対する反応性がヒト血漿より精製したVWFに対する反応性よりも少なくとも5倍大きいという性質、(e)該抗体を、マイクロプレートウエルに固相化した配列表の配列番号10に記載のペプチド及び配列表の配列番号1に記載のペプチドとそれぞれ反応させたとき、配列表の配列番号10に記載のペプチドに対する反応性が配列表の配列番号1に記載のペプチドに対する反応性よりも少なくとも3倍大きいという性質、(f)該抗体をマイクロプレートウエルに固相化した配列表の配列番号10に記載のペプチド及び配列表の配列番号8及び11に記載のペプチドとそれぞれ反応させたとき、配列表の配列番号10に記載のペプチドに対する反応性が配列表の配列番号8及び11に記載のペプチドに対する反応性よりも少なくとも5倍大きいという性質のいずれか1以上を有することが好ましい。これら(a)〜(f)の性質は、後述する実施例5〜8の方法を用いて確認することが可能である。
【0016】
本発明の抗体がモノクローナル抗体の場合、当該モノクローナル抗体は、当分野で通常実施されている方法により調製される。即ち、抗原(例えば、N‐10ペプチド)に特異的に親和性を有する抗体産生細胞を、骨髄腫細胞と融合させてハイブリドーマを形成させ、該ハイブリドーマをクローン化し、各蛋白質に特異的な抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
【0017】
抗原としては、例えばN‐10ペプチド全体を用いることができるが、少なくともC末端にチロシン(Tyr)を含み、かつ抗原性を保持する限り、N−10ペプチドに1〜数個のアミノ酸の欠失や置換、若しくは付加といった変更がなされていてもよい。抗原決定部位は少なくとも4個以上、好ましくは9個以上のアミノ酸からなるものと考えられる。あるいは、配列表の配列番号10のアミノ酸配列からなるペプチドを抗原として用いることもでき、少なくとも当該ペプチドのN末端の4個のアミノ酸を含み、かつ抗原性を保持している限り、抗原ペプチドのアミノ酸配列は、1〜数個のアミノ酸の欠失や置換、若しくは付加といった変更がなされていてもよい。
【0018】
当該抗原は選択した部分的なアミノ酸配列に基づいて合成あるいは遺伝子工学的手法によって調製することができる。感作抗原として、得られたペプチド抗原を、直接リン酸緩衝液(PBS)等の適当な緩衝液中に溶解、あるいは懸濁したものを用いることも可能であるが、より強い抗原性を得るために、アルブミンやキーホールリンペットヘモシアニン等の適当なキャリヤータンパク質に架橋して用いることが好ましい。抗原溶液は、通常、抗原物質の量として約50〜500μg/mlの濃度に調製すればよい。該抗原を免疫感作させる動物としては、マウス、ラット、ウマ、ヤギ、ウサギなどが例示される。好ましくはマウス、より好ましくはBALB/cマウスである。このとき、被免疫動物の抗原への応答性を高めるため、当該抗原溶液をアジュバントと混合して投与することができる。本発明において用いられるアジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussisvaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組合せが例示されるが、初回免疫時にFCA、追加免疫時にFIAを使用する組み合わせが特に好ましい。
【0019】
免疫方法は、使用する抗原の種類やアジュバント混合の有無等により、注射部位、スケジュールなどを適宜変化させることができる。例えば、被免疫動物としてマウスを用いる場合は、アジュバント混合抗原溶液0.05〜1ml(抗原物質10〜200μg)を腹腔内、皮下、筋肉内または(尾)静脈内に注射し、初回免疫から約4〜14日毎に1〜4回追加免疫を行い、さらに約1〜4週間後に最終免疫を行う。該抗原溶液をアジュバントを使用せずに投与する場合には、抗原量を多くして腹腔内注射してもよい。抗体価は追加免疫の約5〜6日後に採血して調べる。抗体価の測定は、後述の抗体アッセイに準じ、当分野で通常行われる方法で行うことができる。最終免疫より約3〜5日後に、該免疫動物から脾細胞を分離して抗体産生細胞を得る。
【0020】
骨髄腫細胞としては、マウス、ラット、ヒト等由来のものが使用される。例えばマウスミエローマP3X63‐Ag8、P3X63‐Ag8‐U1、P3NS1‐Ag4、SP2/0‐Ag14、P3X63‐Ag8・653等が例示されるが、抗体産生細胞と骨髄腫細胞とは同種動物、特に同系統の動物由来であることが好ましい。骨髄腫細胞は凍結保存するか、ウマ、ウサギまたはウシ胎児血清を添加した一般的な培地で継代して維持することができる。細胞融合には対数増殖期の細胞を用いるのが好ましい。
【0021】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させてハイブリドーマを形成させる方法としては、ポリエチレングリコール(PEG)を用いる方法、センダイウイルスを用いる方法、電気融合装置を用いる方法などが例示される。例えばPEG法の場合、約30〜60%のPEG(平均分子量1000〜6000)を含む適当な培地または緩衝液中に脾細胞と骨髄腫細胞を1〜10:1、好ましくは5〜10:1の混合比で懸濁し、温度約25〜37℃、pH6〜8の条件下で、約30秒〜3分間程度反応させればよい。反応終了後、PEG溶液を除いて培地に再懸濁し、セルウエルプレート中に播種して培養を続ける。
【0022】
融合操作後の細胞を選択培地で培養して、ハイブリドーマの選択を行う。選択培地は、親細胞株が死滅し、融合細胞のみが増殖し得る培地であり、通常ヒポキサンチン‐アミノプテリン‐チミジン(HAT)培地が使用される。ハイブリドーマの選択は、通常融合操作の1〜7日後に、培地の一部、好ましくは約半量を選択培地と交換することによって開始し、さらに2、3日毎に同様の培地交換を繰り返しながら培養することにより行う。顕微鏡観察によりコロニーが生育しているウエルを確認する。
【0023】
生育しているハイブリドーマが所望の抗体を産生しているかどうかを確認するには、培養上清を採取して抗体アッセイを行えばよい。例えば抗原にN‐10ペプチドを用いた場合、固相化したN‐10ペプチドに該上清を加えて反応させ、さらに蛍光物質、酵素、RI等で標識した二次抗体(抗グロブリン、抗IgG、抗IgM血清等)を反応させることにより、抗体価を測定することができる。このようにして適切な抗体を産生しているウエルを得る。そして、同時に固相化した配列表の配列番号8に記載のペプチド(以下「N‐15ぺプチド」ともいう)にも該上清を加えて反応させ、同様に測定する。N‐10ペプチドのシグナルとN‐15ペプチドのシグナルを比較し、前者のシグナルが後者のシグナルよりも少なくとも10倍大きいものを選択する。さらに、限界希釈法、軟寒天法、蛍光励起セルソーターを用いた方法等により単一クローンを分離する。例えば、限界希釈法の場合、ハイブリドーマコロニーを1細胞/ウエル前後となるように培地で段階希釈し、培養することにより、目的とするモノクローナル抗体を産生するクローンを単離することができる。得られた抗体産生ハイブリドーマは、約10%(v/v)ジメチルスルホキシド(DMSO)またはグリセリン等の凍結保護剤の共存下に凍結させて、−70〜−196℃で保存すると約半年〜半永久的に保存可能である。細胞は用時37℃前後の恒温槽中で急速融解して使用する。凍結保護剤の細胞毒性が残存しないようによく洗浄してから使用するのが望ましい。
【0024】
上記の方法で得られる本発明のモノクローナル抗体は、具体的には、例えばマウス由来かつIgGクラス又はIgMクラスのモノクローナル抗体であって、「VWF‐peptide Ab N10‐116」及び「VWF‐peptide Ab N10‐146」と命名されたものである。ハイブリドーマが産生する抗体のサブクラスを調べるためには、該ハイブリドーマを一般的な条件で培養し、その培養上清中に分泌された抗体のクラスを市販の抗体クラス・サブクラス判定用キットなどを用いて分析することにより調べることができる。
【0025】
本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのうち、モノクローナル抗体VWF‐peptide Ab N10‐116およびVWF‐peptide Ab N10‐146を産生するハイブリドーマVWF‐peptide Ab N10‐116株およびVWF‐peptide Ab N10‐146株は、本発明者らによって新たに分離され、具体的には、ブタペスト条約に基づく国際寄託機関である独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6)に2005年3月29日付けで国内寄託され、寄託番号としてFERM P‐20483およびFERM P‐20482が付され、その後、国際寄託されて受託番号としてFERM BP‐10479およびFERM BP‐10480が付されている。
【0026】
モノクローナル抗体の取得は、その必要量やハイブリドーマの性状等によってマウス腹水から取得するか、細胞培養によるかを、適宜選択できる。マウス腹腔内で増殖可能なハイブリドーマは腹水から数mg/mlの高濃度で得ることができる。インビボで増殖できないハイブリドーマは細胞培養の培養上清から取得すればよい。細胞培養によれば、抗体産生量はインビボより低いが、腹腔内に含まれる免疫グロブリンや他の夾雑物質の混入が少なく、精製が容易であるという利点がある。
【0027】
マウス腹腔内から取得する場合、例えば、予めプリスタン(2,6,10,14‐テトラメチルペンタデカン)等の免疫抑制作用を有する物質を投与したBALB/cマウスの腹腔内へ、ハイブリドーマ(約10個以上)を移植し、約1〜3週間後に貯留した腹水を採取する。異種ハイブリドーマ(例えばマウスとラット)の場合には、ヌードマウス、放射線処理マウスを使用することが好ましい。
【0028】
一方、細胞培養上清から抗体を取得する場合、例えば、細胞維持に用いられる静置培養法の他に、高密度培養方法またはスピンナーフラスコ培養方法などの培養法を用い、当該ハイブリドーマを培養し、抗体を含有する培養上清を得る。血清には、他の抗体やアルブミン等の夾雑物が含まれ、抗体精製に不便な点が多いので、培養液への添加は少なくすることが望ましい。
【0029】
腹水、培養上清からのモノクローナル抗体の精製は、免疫グロブリンの精製法として従来既知の硫酸アンモニウムや硫酸ナトリウムを用いた塩析による分画法、ポリエチレングリコール分画法、エタノール分画法、DEAEイオン交換クロマトグラフィー法、ゲル濾過法等を応用することで、容易に達成される。さらに、本発明の抗モノクローナル抗体が、マウスIgG抗体である場合には、プロテインA結合担体あるいは抗マウスイムノグロブリン結合担体を用いたアフィニティークロマトグラフィーにより精製することが可能であり、簡便である。
【0030】
本発明の新規抗体を用いて試料中のADAMTS13活性を迅速に測定することが可能である。該測定には、ADAMTS13の天然の基質であるVWFを用いることも可能である。また、配列表の配列番号1に表されたアミノ酸配列を含む73個〜2050個のアミノ酸からなるペプチド、好ましくは73個〜210個のアミノ酸からなるペプチド、さらに好ましくは配列番号1のアミノ酸配列からなるペプチド(VWF73)を基質として用いることができる。このような基質は遺伝子工学の手法を用いて、基質分子のN末端に例えばグルタチオン‐S‐トランスフェラーゼ(GST)タグをつけて発現、調製することが好ましい(以下「GST‐VWF73基質」ともいう。)。また、VWF73のN末端に酵素標識したもの、例えば、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)でN末端を標識したVWF73基質を用いることができる。HRP標識されたVWF73基質の調製は、VWF73ペプチドのN末端にアミノ酸を数個加え、そのうち1アミノ酸をシステイン(Cys)に変異させて、そのCysを介してHRP標識することにより行うことができる(J. Thromb. Haemost., 4, 129-136, 2006)。以下、これらの基質として用いるために調製したVWF73を、まとめて「VWF73基質」ということもある。
当該基質をADAMTS13活性を測定しようとする試料と一定時間反応させ、酵素基質反応混合液中に生成する生成物(例えば、VWF73基質を用いた場合はN‐10ペプチド)を含む画分を測定する。測定法は、本発明の抗体を用いる限り、限定されない。該方法には、通常当分野で行われる各種のイムノアッセイが利用され得る。該方法は、酵素基質反応混合液と本発明の抗体とを反応させ、形成される免疫複合体を測定する工程を含むものであれば特に限定されず、沈降反応もしくは凝集反応を光学的に検出する免疫比濁法、または分別検出の容易な物質で標識した抗体を用いる標識化免疫測定法などを用いることができる。
標識化免疫測定法には、免疫複合体の検出のための標識としてRIを用いるラジオイムノアッセイ、アルカリホスファターゼやパーオキシダーゼ等の酵素を用いるエンザイムイムノアッセイ、蛍光物質を用いる蛍光イムノアッセイなどが含まれる。標識する対象によって、検出すべき抗体を直接標識する直接法、検出すべき抗体の抗体つまり二次抗体を標識する間接法などを用いることができる。間接法を用いる場合、例えば、本発明の抗体がマウスIgGモノクローナル抗体である場合、二次抗体としては例えば抗マウスIgGポリクローナル抗体等を使用すればよい。該二次抗体の調製法、並びに抗体の蛍光物質、RIおよび酵素等による標識は、当分野で慣用の方法を用いて行うことができる。また、当該測定法にビオチン‐アビジン(又はストレプトアビジン)の反応を利用する方法も可能であり、高い感度が要求される測定の場合には好ましく採用される。当該方法としては、例えばビオチンで標識した本発明の抗体と蛍光物質等で標識したストレプトアビジンとを組み合わせて用いるものが挙げられる。本発明の抗体のビオチンでの標識、ストレプトアビジンの蛍光物質等での標識は、当分野で通常行われる方法を用いて行うことができ、例えば蛍光物質等で標識したストレプトアビジンは商業的にも入手可能である。
【0031】
本発明において、ポリクローナル抗体は次のようにして調製することができる。モノクローナル抗体と同様の抗原を用いて、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ラット、マウス等の動物に免疫し、抗血清を得る。一般に得られた抗血清中には、非特異反応を引き起こす抗体が含まれているため、ヒト血清、ヒトVWF、VWF73等の非特異反応の原因となりうる物質で吸収操作を行うことにより特異性をあげる。また、使用した免疫原によるアフィニティー精製によって、特異性の高い、本発明の目的に合致する抗体を得ることも可能である。得られた抗体は、モノクローナル抗体の場合と同様に、ADAMTS13活性の測定に用いることができる。
【0032】
本発明の抗体を用いたADAMTS13活性の測定方法の具体例を以下に説明する。ここでは、本発明の抗体として、N‐10ペプチドを免疫原に用いて得られたモノクローナル抗体(以下「抗N‐10モノクローナル抗体」ともいう)、基質として前述のGST‐VWF73基質を用いたADAMTS13活性の測定法を開示するが、抗体は本発明の抗体であれば良く、基質はADAMTS13に水解されうるペプチドであればよく、特に上記のものに限定されるものではない。
1、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗GST抗体を固相化しておき、固相上にGST‐VWF73基質を予め固定化する。その固相と反応用緩衝液及び検体を反応後、抗N‐10モノクローナル抗体を反応させ、固相上の抗N‐10モノクローナル抗体の量を測定することにより、検体中のADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
2、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗GST抗体を固相化しておき、固相上にGST‐VWF73基質を予め固定化する。その固相と反応用緩衝液、検体及び抗N‐10モノクローナル抗体を同時に反応させ、固相上の抗N‐10モノクローナル抗体の量を測定することにより、検体中のADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
3、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗GST抗体を固相化した抗GST固相に、GST‐VWF73基質、反応用緩衝液及び検体を反応させた後、抗N‐10モノクローナル抗体を反応させ、固相上の抗N‐10モノクローナル抗体の量を測定することにより、検体中のADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
4、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗GST抗体を固相化した抗GST固相に、GST‐VWF73基質、反応用緩衝液、検体及び抗N‐10モノクローナル抗体を同時に反応させ、固相上の抗モノクローナル抗体の量を測定することにより、検体中のADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
5、試験管等の容器中でGST‐VWF73基質、反応用緩衝液及び検体を反応させた後、その反応混合液を、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に予め固定化した抗GST抗体と反応させ、次いで抗N‐10モノクローナル抗体を反応させ、固相上に結合した抗N‐10モノクローナル抗体量を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
6、試験管等の容器中でGST‐VWF73基質、反応用緩衝液、検体及び抗N‐10モノクローナル抗体を反応させた後、その反応混合液を、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に予め固定化した抗GST抗体と反応させ、固相上に結合した抗N‐10モノクローナル抗体量を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
7、試験管等の容器中でGST‐VWF73基質、反応用緩衝液及び検体を反応させた後、その反応混合液を、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に予め固定化した抗N‐10モノクローナル抗体と反応させ、次いで抗GST抗体を反応させ、固相上に結合した抗GST抗体量を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗GST抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
8、試験管等の容器中でGST‐VWF73基質、反応用緩衝液、検体及び抗GST抗体を反応させた後、その反応混合液を、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に予め固定化した抗N‐10モノクローナル抗体と反応させ、固相上に結合した抗GST抗体量を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗GST抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。
9、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗N‐10モノクローナル抗体を固相化した抗N‐10モノクローナル抗体固相に、GST‐VWF73基質、反応用緩衝液及び検体を同時に反応させた後、次いで抗GST抗体を反応させ、固相上に結合した抗GST抗体量を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗GST抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。また、抗GST抗体とGST‐VWF73基質を予め反応させておくことも本測定方法の例において可能である。
10、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗N‐10モノクローナル抗体を固相化した抗N‐10モノクローナル抗体固相に、GST‐VWF73基質、反応用緩衝液、検体及び抗GST抗体を同時に反応させた後、固相上に結合した抗GST抗体量を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗GST抗体を公知の標識物質で標識しておくことが好適である。また、抗GST抗体とGST‐VWF73基質を予め反応させておくことも本測定方法の例において可能である。
11、抗GST抗体を金コロイド粒子又は着色ラテックス粒子等の肉眼的又は物理的検出可能な微粒子に固定化し、その上にGST‐VWF73基質を反応させ、さらに反応用緩衝液と検体を加え、酵素反応を行う。その後、抗N‐10モノクローナル抗体を固定化したろ紙、メンブラン等の多孔性担体に反応液を導き、多孔性担体上に捕獲される金コロイド粒子又は着色ラテックス粒子等の粒子を検出することによって、ADAMTS13活性を測定することが可能である。抗N‐10モノクローナル抗体を固定化したろ紙、メンブラン等の多孔性担体に反応液を導く方法には、公知のラテラルフロー法又はフロースルー法が好適に選択される。
12、公知のエバネッセント波光学検出に適した反応容器を固相担体として用い、上記4と同様に操作し、抗N‐10モノクローナル抗体をエバネッセント波検出に適した蛍光団で標識したものを用いると、エバネッセント波検出によるADAMTS13活性の測定が可能となる。さらにこの場合、経時的にエバネッセント波の強度を測定することにより、ADAMTS13酵素活性をレートアッセイすることも可能である。この方法を用いれば、洗浄操作やB/F分離操作を必要とせずに、ホジニアスアッセイが可能である。
13、抗GST抗体を金コロイド粒子またはラテックス粒子等に固定化し、その上にGST‐VWF73基質を反応させ、さらに反応用緩衝液と検体を加え酵素反応を行う。その後、抗N‐10モノクローナル抗体を反応液に加え、粒子の凝集反応を惹起させ、その凝集を光学的または肉眼的に検出することによって、ADAMTS13活性を測定することが可能である。
14、試験管等の容器中でGST‐VWF73基質、反応用緩衝液及び検体を反応させた後、その反応混合液に抗N‐10モノクローナル抗体を固定化した金コロイド粒子またはラテックス粒子を加えて反応させ、その後抗GST抗体、好適には抗GSTモノクローナル抗体を反応液に加え、粒子の凝集反応を惹起させ、その凝集を光学的または肉眼的に検出することによって、ADAMTS13活性を測定することが可能である。
15、ヒトまたは動物のVWFを基質として検体を反応させた後、反応液をゲル電気泳動で分離し、本発明の抗体を反応させてADAMTS13活性を測定することが可能である。
16、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗VWF抗体を固相化しておき、固相上にVWFを予め固定化する。その固相と反応用緩衝液及び検体を反応後、抗N‐10モノクローナル抗体を反応させ、固相上の抗モノクローナル抗体の量を測定することにより、検体中のADAMTS13活性を測定することが可能である。
【0033】
本発明の抗体を用いたADAMTS13活性の測定方法のさらなる具体例として、以下の方法を挙げることができる。本発明の抗体として、抗N‐10モノクローナル抗体を用い、基質としては前述したHRPでN末端を標識したVWF73基質を用いるが、これらに限定されるものではない。
1、試験管等の容器中でHRP標識VWF73基質、反応用緩衝液、検体を反応させた後、その反応混合液を、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に予め固定化した抗N‐10モノクローナル抗体と反応させ、洗浄後、固相上のHRP活性を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。
2、マイクロタイタープレート、チューブ又は磁性粒子等の固相担体に抗N‐10モノクローナル抗体を固相化した抗N‐10モノクローナル抗体固相に、HRP標識したVWF73基質、反応用緩衝液、及び検体を同時に反応させ、洗浄後、固相上のHRP活性を測定することにより、ADAMTS13活性を測定することが可能である。
【0034】
配列表の配列番号10に記載のペプチドに対して特異的反応性を有する抗体を用いる場合には、上記の抗GST抗体に代えて抗Hisタグ抗体を用いることにより、同様にして実施することができる。また、GST及びHisタグに代えて、異なるタグを用いた場合にはそれぞれのタグに特異的に結合しうる結合体を用いることで、前記方法が実施可能である。
【0035】
本発明の測定方法により測定される検体は特に制限はなく、血液が一般的であるが、当該測定は、細胞、組織レベルで測定可能である他、当該細胞、組織からの抽出物等の試料を検体として用いても測定可能である。これらの測定方法は通常当分野で行われている方法を適用し得る。
【0036】
さらに本発明の新規抗体を試薬またはキットに含めることができる。ここでいう試薬またはキットには、例えば試料中のADAMTS13活性の測定用試薬またはキット、臨床検査試薬またはキットが挙げられる。ここで用いる抗体は、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体のいずれもを指し、本発明の目的を達成しうるものであれば限定されるものではない。
【0037】
本発明の抗体は、ADAMTS13活性測定による臨床検査にも適用され、本発明は当該検査の方法にも及ぶ。適用される臨床検査は、血栓性血小板減少紫斑症(TTP)、溶血性尿毒症候群(HUS)、播種性血管内凝固症候群(DIC)、脳梗塞、慢性肝疾患、悪性腫瘍、HIV、心筋梗塞、自己免疫疾患、妊娠合併症、急性腎不全等の微小血管障害性疾患の病状進展のリスクファクターの検査に適用されうる。
【0038】
本発明は、ADAMTS13活性を測定するための試薬またはキット、および上述の検査用の試薬またはキットにも及ぶ。これらの試薬またはキットは、本発明の抗体を含み、所望により基質となりうるVWFもしくはペプチドを含む。試薬またはキットには、前記のADAMTS13の基質および基質の水解生成物であるN‐10ペプチドを含む画分を、本発明の抗N‐10モノクローナル抗体を用いて免疫学的測定するのに適したものを適宜選択して含めることができる。例えばEIA法であれば、抗体を固相化したマイクロプレートや磁性粒子等の固相試薬、標識抗体試薬、酵素基質試薬、標準液、洗浄液等を適宜組み合わせてキット化することが可能である。
【0039】
本発明には、例えばN‐10ペプチド(VWFまたはVWF73が切断されて生じるN末端側の部位を有するペプチド)を用いた抗N‐10モノクローナル抗体、およびこれらを用いたADAMTS13活性の測定法、および試薬もしくはキットのみならず、ADAMTS13により基質VWFまたはVWF73が切断されて新たに生じるC末端側の部位(切断後のC末端側のペプチドにおいてはN末端近傍の部位)に対する抗体も含まれる。より具体的には、配列表の配列番号10で示されたペプチドに対する抗体、あるいは配列表の配列番号12で示された配列をN末端側に含むペプチドに対する抗体で、完全長のVWFやVWF73とは実質的に有意な反応を示さない抗体、これらの抗体を用いたADAMTS13活性の測定法、およびこれらの抗体を含む試薬もしくはキットも含まれる。
【実施例】
【0040】
(実施例1)
ハイブリドーマおよび抗N‐10モノクローナル抗体の作製
ハイブリドーマの作製方法
(1)マウス:7〜8週令の近交系BALB/c系マウス雌を、動物飼育チェンバー内(23±1℃、湿度70%)で、標準ペレットを使用して飼育し、任意に給水して飼育した。
(2)免疫抗原:化学合成した配列表の配列番号2で示されたN‐10ペプチドをKLHに化学結合させたものをN‐10ペプチド抗原として用いた。
(3)免疫方法:N‐10ペプチド抗原を100μg/0.5mlとなる様にPBSで調製し、同量(0.5ml)のフロイント完全アジュバント(Freund's complete adjuvant)(Difco社製)を混合して乳化した。この乳化状の抗原を7週令の4匹の雌のBALB/cマウスの腹腔に1匹あたり200μl投与した。さらに2週間毎に、GERBUVANT(GERBU Biotechnik,GmbH,D‐6901 Guiberg,Germany製)で100μg/mlとなるように調製した上記抗原を、マウスあたり20μgずつ4回投与した。さらに1ヶ月後、GERBUVANTで100μg/mlとなるように調製した上記抗原を同様に追加免疫した後、マウスの抗体価を測定した。抗体価の高いマウスはさらに2週間後にPBSで100μg/mlに調製したN‐10ペプチド抗原を、マウス尾静脈より注射して最終免疫とした。尚、抗体価の測定は、当該抗原で免疫したマウスの血清を用いて、後述のスクリーニングの方法に準じて行った。
(4)細胞融合:最終免疫から3日後にBALB/cマウスの摘脾を行い、DMEM培養液中で脾細胞を浮遊させて、脾細胞の浮遊液を作製した。ついで、細胞数を算定し、1.9×10個の脾細胞を得た。細胞融合は、2‐アミノ‐6‐メルカプトプリン(6‐チオグアニン[2-amino-6-mercaptopurine])耐性のBALB/cマウス由来骨髄腫培養細胞株(P3‐X63‐Ag8・653、以下X63細胞ともいう)を親細胞株として用いた。X63細胞は、牛胎児血清(fetal calf serum: FCS)10%を含むDMEM培養液(5μg/ml、6‐チオグアニン含有)で継代培養し、細胞融合の3日前より6‐チオグアニンを含有しない10%FCS含有DMEM培養液でさらに培養し、対数増殖期の細胞を用いた。X63細胞の細胞数を算定し、1.9×10個の生細胞を得た。DMEM培養液で、ポリエチレングリコール‐1500が50(w/v)%濃度となるように溶解し、上記の脾細胞とX63細胞の比が1:1となるように混合し、公知の方法(ケラーとミルスタイン共著,Nature, 第256 巻,495-497頁, 1975年, Eur. J.Immunol. 第6巻, 511-519頁, 1976年)に準じて細胞融合を行った。その後、10%FCSおよび5%ブリクローン(Archport社製)を添加したDMEM培養液に、1×10−4Mのヒポキサンチン、4×10−7Mのアメソプテリン、および1.6×10−5Mのチミジンを含有するHAT選択液を加え、脾細胞が2.0×10個/mlとなるように浮遊させた。ついで、この細胞浮遊液の100μlを、96ウエルのマイクロタイタープレートの各ウエルに分注した後、CO無菌培養器において温度37℃、湿度100%、5%のCO条件下で培養を行った。培養開始後、3日目にHAT培地100μlを各ウエルに加え、その後3日おきに半分量のHAT培地を交換しながら培養を行った。2〜3週間後に、目的の抗ADAMTS13モノクローナル抗体を産生するクローンを、ADAMTS13抗原を固相に吸着させたマイクロプレートを用いたエライザ法による、後述のスクリーニングによって検索した。
(5)スクリーニング:上記ハイブリドーマ細胞の培養上清を用いて、N‐10ペプチド固相化エライザプレート及びN‐15ペプチドとの反応により選択した。尚、精製VWF及びVWF73固相化エライザプレートに反応する非特異反応性クローンを除去し、N‐10ペプチドに特異的に反応するクローンを選別した。N‐10ペプチドを2μg/mlの濃度に調製し、各々、1ウエル当たり100μlずつマイクロタイタープレートに添加し、一晩吸着させた後、Tween‐20を0.05%含むリン酸緩衝液(以下洗浄液と略す)で5回洗浄し、さらに10%ブロックエース(商品名)を含むリン酸緩衝液でブロッキングしN‐10ペプチド固相化プレートを調製した。上記で得られたハイブリドーマ細胞系の培養上清100μlを、当該固相化プレートに添加し、37℃で60分間反応させた後、洗浄液で5回洗浄し、さらにホースラディッシュペルオキシダーゼ(以下HRPと略す)標識した抗マウスイムノグロブリン抗体(ヤギ由来)を37℃で60分反応させた。この反応の後、洗浄液で4回洗浄し、基質液(o‐フェニレンジアミン0.4mg/ml及び0.02%Hを含む)を37℃で15分間反応させた後、この反応を2N硫酸で停止させ、主波長492nmでエライザ用プレートリーダーにて吸光度を測定した。N‐10ペプチドを固相化したエライザプレートに特異的に反応するハイブリドーマ細胞系を選別した後、限界希釈法によりクローニングし、受託番号FERM BP‐10480およびFERM BP‐10479のハイブリドーマより、それぞれ抗N‐10モノクローナル抗体、VWF‐peptide Ab N10‐146およびVWF‐peptide Ab N10‐116(以下、それぞれ「N10‐146」および「N10‐116」と略すこともある)を得た。
【0041】
(実施例2)
特異性の確認:N‐10ペプチド及びN‐15ペプチドを2μg/mlの濃度に調製し、各々、1ウエル当たり100μlずつマイクロタイタープレートに添加し、一晩吸着させた後、Tween‐20を0.05%含むリン酸緩衝液(以下「洗浄液」と略す)で5回洗浄し、さらに10%ブロックエース(商品名)を含むリン酸緩衝液でブロッキングしN‐10ペプチド固相化プレート及びN‐15ペプチド固相化プレートを調製した。各クローンの培養上清100μlを各固相プレートに添加し、37℃で60分間反応させた後、洗浄液で5回洗浄し、さらにホースラディッシュペルオキシダーゼ(以下「HRP」と略す)で標識した抗マウスイムノグロブリン抗体(ヤギ由来)を37℃で60分反応させた。この反応の後、洗浄液で4回洗浄し、基質液(o‐フェニレンジアミン0.4mg/ml及び0.02%Hを含む)を37℃で15分間反応させた後、この反応を2N硫酸で停止させ、主波長492nmでエライザ用プレートリーダーにて吸光度を測定した。
その結果を表1に示した。
【表1】

N‐15ペプチド固相で得られた吸光度はいずれも0.00であり、一方N‐10ペプチド固相で得られた吸光度は0.5以上を示した(表1)。
従って、本発明のモノクローナル抗体は、N‐10ペプチドのC末端近傍を特異的に認識する抗体であることが判った。
【0042】
(実施例3)
マウスイムノグロブリンサブクラスの同定:上記クローニングにより単一クローンとして得られたハイブリドーマ細胞系の産生するモノクローナル抗体について、マウスイムノグロブリンサブクラスを決定した。マウスイムノグロブリンサブクラスの同定には、各ハイブリドーマ細胞系の培養上清を用い、セロテック(Serotec)社製Mouse Monoclonal Antibody Isotyping kitを用いた。その結果、クローンVWF‐peptide Ab N10‐116及びVWF‐peptide Ab N10‐146は共にIgG2であることが判った。
【0043】
(実施例4)
マウスモノクローナル抗体の機能の確認:公知の方法により大腸菌で発現させたVWF73ペプチドのN末端側にGSTをタグとして融合させ、さらにC末端側にヒスチジン6残基(Hisタグ)を有するADAMTS13活性測定用基質(GST‐VWF73基質)、1μg/ml、100μlを抗GST抗体(ヤギ由来、ポリクローナル抗体)を固定化したマイクロタイタープレートに予め反応させ、固相化した基質に対して正常ヒト血漿30μlを加えて37℃で1時間反応させた。反応液は、ADAMTS13が金属酵素であり、活性発現には2価金属を必要とすることから、20mM塩化バリウムを含む5mM Tris塩酸緩衝液(pH=8)100μlを用いた。盲検用反応液は20mM塩化バリウムに代えて、20mMEDTAを含む5mM Tris塩酸緩衝液(pH=8)を用いた。反応終了後、酵素基質反応混合液を除去、洗浄し、抗N‐10モノクローナル抗体(クローン、VWF‐peptide Ab N10‐146、以下「N10‐146」と略す)を37℃で1時間反応させた。洗浄して抗N‐10モノクローナル抗体を除去した後、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)を標識した抗マウスイムノグロブリン抗体(ヤギ)を37℃で1時間反応させ、洗浄後、オルトフェニレンジアミン‐過酸化水素を反応させ、反応終了後、1M硫酸で反応を停止した。波長492nmの吸光度を測定した。
その結果を表2に示した。
【表2】

対照として用いたクローンN15AbではADAMTS13による酵素反応が進行している塩化バリウム含有反応液での吸光度と、反応が進行していないEDTA含有反応液での吸光度がほぼ等しく、ADAMTS13による酵素反応により生成するN‐10ペプチドをVWF73基質と分別して測定できないことがわかった。一方、本発明の抗N‐10モノクローナル抗体(N10‐146)では、ADAMTS13による酵素反応が進行している塩化バリウム含有反応液での吸光度は、酵素反応が起きていないEDTA含有反応液での吸光度のいずれも約14倍から63倍を示し、さらにEDTA含有反応液での吸光度はいずれのクローンでも0.2以下であった(表2)。これらのことから、本発明の抗N‐10モノクローナル抗体はVWF73基質との反応性が極微小であり、基質がADAMTS13により酵素的に水解されて生じるN‐10ペプチドと、非常に高い特異性を有して反応することが判った。従って、本発明の抗N‐10モノクローナル抗体を用いることにより、ADAMTS13活性を測定することが可能であることが明らかになった。
【0044】
(実施例5)
配列表の配列番号2〜8に示した7種類の各ペプチド(各々、N‐10ペプチド、N‐6ペプチド、N‐8ペプチド、N‐11ペプチド、N‐9ペプチド、N‐13ペプチド、N‐15ペプチド)を1μg/mlの濃度でマイクロタイタープレートのウエルに100μlずつ分注し、2〜8℃で一夜放置後、洗浄、ブロッキングして各ペプチド固相を調製した。各ペプチド固相に西洋ワサビ由来ペルオキシダーゼ(HRP)標識抗N‐10モノクローナル抗体(N10‐146)を反応させ、抗N10‐モノクローナル抗体と各ペプチドの反応性を調べた。
その結果を表3に示した。
【表3】

N‐10モノクローナル抗体はN‐10ペプチドとのみ反応性を示し、他のいずれのペプチドとも有意な反応性を示さなかった。従って、本発明のN‐10モノクローナル抗体はN‐10ペプチドに特異的で、しかも、N‐10ペプチドのC末端のチロシンを含む領域に特異的であることが判った。
【0045】
(実施例6)
上記の結果をさらに確認するために、各ペプチドを15.6、31.3、62.5、125、250、500、1000ng/mlの濃度でHRP標識抗N‐10モノクローナル抗体(N10‐146)と予め反応させた後、N‐10ペプチド固相と反応させた。
その結果を表4に示した。
【表4】

N‐10ペプチドを除いて、いずれのペプチドも抗N‐10モノクローナル抗体のN‐10ペプチド固相への反応を阻害することは無かった。従って、本発明の抗N10‐モノクローナル抗体はN‐10ペプチドに特異的で、しかも、N‐10ペプチドのC末端のチロシンを含む領域に特異的であることがより確かめられた。
【0046】
(実施例7)
正常ヒト血漿を、56℃で30分間熱処理したヒト血漿(加熱血漿)で×1、×2、×4、×8、×16、×32、×64倍希釈した試料及び加熱血漿を検体とした他は実施例4と同様に操作し、正常ヒト血漿の×1を、100%のADAMTS13活性としてADAMTS13活性測定の検量線を作成した。
その結果を、図1に示す。X軸はADAMTS13活性(%)を示し、Y軸は492nmの吸光度を示す。No.116は、抗N−10モノクローナル抗体のN10‐116を用いて測定を行った結果を示す。吸光度は、ADAMTS13活性に比例して上昇することが確認され、本発明の方法によりADAMTS13活性を測定することが可能であることが判った。
【0047】
(実施例8)
実施例4と同様に操作してADAMTS13活性の検量線を作成すると同時に、先天性ADAMTS13欠損症(USS例)の血漿中のADAMTS13活性を測定した。
その結果、USS例のADAMTS13活性は1%以下と算出された(図1の矢印)。この結果はVWFマルチマー解析の結果とよく一致していた。従って、本発明の方法により、ADMTS13活性を特異的に測定できることが判り、臨床検査に有用であることが明らかになった。
【0048】
(実施例9)
本発明の抗N‐10モノクローナル抗体(N10‐146)を1μg/mlの濃度で100μlずつマイクロタイタープレートの各ウエルに分注し一夜放置して、抗N‐10抗体固相を調製した。試験管にVWF73基質(1μg/ml)の100μlと、10μl被検血漿(実施例7と同様に正常ヒト血漿を加熱血漿で希釈して調製)とをとり、37℃で1時間反応させた後、50mM EDTAを20μlずつ加え反応を停止させた。反応物100μlを抗N‐10抗体固相と室温で1時間反応させ、洗浄後HRP標識抗GST抗体(ヤギ由来)を1時間反応させた。酵素反応により生じた吸光度を測定した。正常ヒト血漿の×1を、100%の被検血漿濃度(ADAMTS13活性)とした。
得られた吸光度と被検血漿濃度(ADAMTS13活性)との関係を図2に示した。X軸は被検血漿濃度(ADAMTS13活性)(%)を示し、Y軸は492nmの吸光度を示す。この結果、本発明の抗体を固相に用いることによって、ADAMTS13活性を特異的に測定できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の抗N‐10モノクローナル抗体を用いることにより、ADAMTS13活性の測定、検査が可能になり、それらの成果に基づく治療薬、診断薬等の開発に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2に記載のアミノ酸配列においてN末端のアミノ酸が1つ少ないアミノ酸配列を抗原決定部位として認識する抗体であって、ヒト血漿より精製したVWFには反応性を有さない、抗体。
【請求項2】
前記抗体が配列番号3〜8に記載のアミノ酸配列からなるペプチドには反応性を有さない、請求項1に記載の抗体。
【請求項3】
前記抗体と、配列番号3〜8に記載のアミノ酸配列からなるペプチドのいずれかと反応させた後、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドと反応させた場合に、前記抗体の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに対する反応性が阻害されない、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
前記抗体と、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドおよびヒト血漿より精製したVWFとをそれぞれ反応させたときに、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに対する反応性が、ヒト血漿より精製したVWFに対する反応性よりも少なくとも5倍大きい、請求項1〜3のいずれか1に記載の抗体。
【請求項5】
前記抗体と、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドとをそれぞれ反応させたときに、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに対する反応性が、配列番号1に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに対する反応性よりも少なくとも3倍大きい、請求項1〜4のいずれか1に記載の抗体。
【請求項6】
前記抗体と、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドおよび配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるペプチドとをそれぞれ反応させたときに、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに対する反応性が、配列番号8に記載のアミノ酸配列からなるペプチドに対する反応性よりも少なくとも5倍大きい、請求項1〜5のいずれか1に記載の抗体。
【請求項7】
配列番号2に記載のアミノ酸配列においてN末端のアミノ酸が2つ少ないアミノ酸配列からなるペプチドには反応性を有さない、請求項1〜6のいずれか1に記載の抗体。
【請求項8】
VWFまたは配列表の配列番号1に記載のアミノ酸配列を含むペプチドを、ADAMTS13活性を検定しようとする試料と反応させる工程、および該工程の反応生成物に請求項1〜7のいずれか1に記載の少なくとも1種の抗体を反応させる工程を含む、ADAMTS13活性の測定方法。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1に記載の抗体を含む、ADAMTS13活性測定用の試薬またはキット。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−82210(P2012−82210A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−264811(P2011−264811)
【出願日】平成23年12月2日(2011.12.2)
【分割の表示】特願2007−502561(P2007−502561)の分割
【原出願日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【出願人】(000231394)アルフレッサファーマ株式会社 (27)
【Fターム(参考)】