説明

AM4X8型遷移元素の四面体アグリゲートを有する空隙尖晶石を電子データ再書き込み可能不揮発性メモリに使用すること及び対応する物質

本発明は、AM4X8遷移元素の四面体アグリゲートを有する空隙尖晶石のクラスに属する物質を、電子データ不揮発性メモリの活物質として使用することに関する。ここで、Aは次の元素、即ち、Ga、Ge、Znのうちの少なくとも1つを備え、Mは次の元素、即ち、V、Nb、Ta、Moのうちの少なくとも1つを備え、Xは次の元素、即ち、S、Seのうちの少なくとも1つを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、電子データ不揮発性メモリの分野である。本発明は、特に、コンピュータ・データを記憶する電子データ再書き込み可能不揮発性メモリの活物質を形成する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性メモリ用の現在の技術は、「フラッシュ」メモリが圧倒的である。「フラッシュ」メモリは、全てのコンシューマアプリケーション(ディジタル・カメラ、USBフラッシュ・ドライブなど)で使用される。
【0003】
これらの「フラッシュ」メモリは、メモリの微細化に関して障害を提示する。これらの障害は、具体的には次の事項に関係する。限定された寿命、高速書き込み時間(<10μs)、要求される高電圧(>10V)である。
【0004】
RRAMメモリ(抵抗型ランダム・アクセス・メモリ)は、代替の解決策として最近出現したものである。
【0005】
事実として、RRAMメモリは密度及びコストに関して「フラッシュ」メモリと同等でありながら、終始、メモリ速度は早く、電力消費は少ない。
【0006】
RRAMシステムにおいて、非常に短い電気パルス(100ns)は、活物質によって分離された2つの電極からなる単純デバイスの抵抗において、容易に測定可能な変動を生成する(Rhigh>>Rlow)。
【0007】
RRAM用の活物質の幾つかの型が現在知られており、それらは次の物質を含む。「CMR」(巨大磁気抵抗)の名前で、よりよく知られたPrCaMnO(又はPCMO)、NiO、CuO、TiO。である。
【0008】
TiO型メモリの場合、TiOの層が2つの電極の間に置かれる。2つの電極を接続する物質の中にフィラメントが創出され、電流を伝導させる(低い抵抗)。正側に電圧を印加することによって、フィラメントの一部分が酸化され、それによって物質の抵抗を増加させる。逆に、ジュール効果によって、フィラメントの正側は還元され、抵抗を再び低減する。
【0009】
RRAMは、コンピュータ・データ記憶の分野で、その使用に関して非常に強い潜在力を有するが、現在は研究所の原型段階にあるに過ぎず、従って実験中である。
【0010】
従って、産業規模での開発に関して、ある種のデータが欠乏している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
具体的には、本発明は新しいタイプのRRAMを提案する目的を有する。
【0012】
更に正確には、本発明の目的は、電子及び/又はコンピュータ・データ再書き込み可能不揮発性メモリのための活物質として使用可能な物質を提案することである。この物質は、産業利用に現実的見込みを有する。
【0013】
この意味で、具体的に、本発明は、次のことを可能にする物質を提供する目的を有する。好ましくは0.1Vよりも低い低電圧を用いて電気抵抗の2つの状態の間で論理素子を切り換えること、先行技術の「フラッシュ」型メモリよりも低い2つの状態の間の切り換え時間を取得すること、集積度を増加させること、即ち、単位体積当たりに記憶される情報の量を増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
これらの目的及び下記で明らかになる他の目的は、本発明によって達成される。本発明は、AM遷移元素の四面体アグリゲートを有する空隙尖晶石の族に属する物質を、電子データ再書き込み可能不揮発性メモリの活物質として使用することに関する。ここで、Aは、次の元素、即ち、Ga、Ge、Znのうちの少なくとも1つを含み、Mは、次の元素、即ち、V、Nb、Ta、Moのうちの少なくとも1つを含み、Xは、次の元素、即ち、S、Seのうちの少なくとも1つを含む。
【0015】
非線形電流−電圧特性を有する化合物について遂行された研究の枠組みの中で、出願人は、実に驚くべきことに、AM遷移元素の四面体アグリゲートを有する空隙尖晶石の族において、電気パルスによって誘発される不揮発性抵抗遷移現象が存在することを発見した。
【0016】
これらの化合物の単結晶を合成して金属電極を堆積した後、電気パルスを印加すると、これらの物質の抵抗を不揮発的及び可逆的に変動させることができた。こうして、周囲温度において、高抵抗及び低抵抗の2つの状態の間を循環することが可能である。この循環は再現的に反復可能であり、再書き込み可能不揮発性メモリを産出するために、この効果を使用することができる。
【0017】
観察された特性は、これらの物質がRRAM型メモリの活物質として使用される産業利用の予期を可能にする。
【0018】
事実として、下記で示されるように、本発明に従って使用される物質は次の利点を有する。好ましくは、0.1Vよりも低い低電圧を用いて、電気抵抗の2つの状態の間で論理素子を切り換えること、先行技術の「フラッシュ」型メモリよりも低い2つの状態の間の切り換え時間を取得すること、集積度を増加させること。即ち、単位体積当たりに記憶される情報の量を増加させることである。
【0019】
本発明の範囲の中で、「活物質」とは、電気パルスの印加のもとで2つの別個の状態、具体的には抵抗状態を有し得る物質を意味するものと理解されることに注意されたい。
【0020】
好ましい応用によれば、上記物質は2つの金属電極の間に置かれ、上記2つの金属電極間の上記物質は、有利には2値情報ビットを形成する。
【0021】
こうして、そのような構造は、2つの状態を有する情報ビットの形成を可能にする。1つの状態は高い抵抗を有し、他の状態は低い抵抗を有する。2つの状態は論理0及び論理1として考えることができ、それによって、コンピュータ・メモリの分野で従来使用される2値論理での情報記憶を可能にする。
【0022】
加えて、そのような構造は、単位体積当たりに記憶される情報の量を増加させることに寄与する。そのような構造のジオメトリは、「フラッシュ」メモリで使用されるジオメトリよりも著しく単純であり、それによって、各ビットのサイズを縮小させることを可能にする。
【0023】
更に、本発明の1つの有利なアプローチによれば、A=Ga1−x−yGeZn、ここで0≦x+y≦1、0≦x≦1、及び0≦y≦1、M=V1−α−β−γNbαTaβMoγ、ここで0≦α+β+γ≦1、0≦α≦1、0≦β≦1、及び0≦γ≦1、X=S1−νSeν、ここで0≦ν≦1である。
【0024】
様々な有利な実施形態によれば、次のとおりである。
x=0、y=0、β=1、ν=1
x=0、y=0、α=0、β=0、γ=0、ν=0
x=0、y=0、α=1、ν=1
x=0、y=0、α=0、β=0、γ=0、ν=1
x=1、α=0、β=0、γ=0、ν=0
【0025】
本発明の他の特性及び利点は、例証及び非限定的目的で与えられる本発明の幾つかの実施形態の下記の説明を読むことによって、及び添付の図面から、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】「2接点」モードにおける本発明に従った物質の単結晶の定電流源及び電圧計の電気接続図である。
【図2】「4接点」モードにおける本発明に従った物質の単結晶の定電流源及び電圧計の電気接続図である。
【図3】情報ビットを形成し本発明に従った活物質を含むコンポーネントの概略表現である。
【図4】本発明に従った物質を切り換えるために使用されるプロトコルの図解である。
【図5】図4に示されるプロトコルを使用して取得された測定曲線のグラフである。
【図6】本発明に従った物質上で遂行された測定曲線のグラフであって、物質の初期状態と遷移状態との間の循環を示すグラフである。
【図7】本発明に従った物質上で遂行された測定曲線のグラフであって、様々な電気パルスを印加した後に測定された様々な低抵抗状態を示すグラフである。
【図8】図7の測定のモデリング・グラフである。
【図9】2つのコンダクタンスを有し、図8で示された測定をモデル化するために使用されるモデルの概略表現である。
【図10】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【図11】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【図12】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【図13】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【図14】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【図15】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【図16】本発明に従った様々な物質上で遂行された不揮発性巨大電気抵抗効果(CER)の測定のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
前に指摘したように、本発明の原理は、AM遷移元素の四面体アグリゲートを有する空隙尖晶石の族に属する物質を、電子データ再書き込み可能不揮発性メモリの活物質として使用することに基づく。
【0028】
更に正確には、A、M、及びXは、次のように特徴づけられる。Aは、次の元素、即ち、Ga、Ge、Znのうちの少なくとも1つを含み、Mは、次の元素、即ち、V、Nb、Ta、Moのうちの少なくとも1つを含み、Xは、次の元素、即ち、S、Seのうちの少なくとも1つを含む。
【0029】
近年、非常に強力な電流−電圧非線形性を有する物質の分野において、研究プロジェクトが出願人によって着手された。
【0030】
電流−電圧非線形性のこれらの効果は、5オーダの大きさよりも多い抵抗降下を有するインコメンスラブル(incommensurable)2D化合物(LaS)1.195VSにおいて低温で実証された(CER効果)。
【0031】
しかしながら、ヒステリシスが存在するにも拘わらず、(LaS)1.195VSにおいて不揮発性効果は観察されない。
【0032】
構造的に言えば、この化合物は距離V−Vの異常な変調によって特徴づけられる。最も短い距離は、バナジウムのクラスター化フラグメントを画定する。
【0033】
加えて、並行して遂行された作業は、この化合物がモット絶縁状態に近いことを示した。
【0034】
従って、CER効果、モット絶縁状態の近接性、及びバナジウム三角アグリゲートの存在の間にリンクの可能性を仮定して、化合物GaVの属性が探査された。この空隙尖晶石は、相互から絶縁されたバナジウム正四面体を有する。
【0035】
この化合物におけるCER効果の存在が発見された。
【0036】
しかしながら、更に注目される事実は、このCER効果が不揮発性であることを出願人が発見したことである。
【0037】
これらの物質の属性を実証する様々な作業プロジェクトが、下記で説明される。
【0038】
図1及び図2を参照すると、300μm×300μm×300μmの典型的寸法を有する等構造化合物AMの単結晶1が合成された。
【0039】
次に、これらの単結晶1の上に銀、金、又は炭素電極2が配置され、定電流源及び電圧計への電気接続を創出した。
【0040】
結果のデバイスは「2接点」モードで動作する(図1)。「4接点」モード(図2)が同じように産出され、切り換え属性が物質に固有であって、電極と物質間のインタフェース効果に無関係であることを検証した。
【0041】
本発明をマイクロエレクトロニクスへ応用するための好ましい代替案は、AM物質の薄い層(厚さはnmの数十倍のオーダ)を堆積することに関係する。関連するジオメトリは「MIM」型(金属−絶縁体−金属)であり、AM物質は2つの金属電極3の間に挟まれる(図3)。
【0042】
このように形成されたコンポーネントは、有利には2つの状態を有する情報ビットを備えることができることに注意されたい。1つの状態は高い抵抗を有し、他の状態は低い抵抗を有する。これらは論理0及び論理1として考えることができ、それによって情報を2値論理で記憶することができる。
【0043】
図4に示されるプロトコルを適用することによって、増加する強度Iの一連の電気パルスが試料へ印加され、各パルスの後に電気抵抗Rが測定された。
【0044】
このプロトコルの目的は、試料を高抵抗状態(≒30MΩ)から低抵抗状態(≒3kΩ)へ切り換えることである。
【0045】
測定は、85Kにおいて、化合物GaVに対し「4接点」モード(図2)で遂行された。
【0046】
図5は、初期の高抵抗状態及び低抵抗の遷移状態における温度に関係した試料の電気抵抗の測定記録である。
【0047】
従って、低強度パルス(1μAと3mAとの間)の場合、測定されたパルス後抵抗(≒30MΩ)は変動しない(揮発性遷移)ことが観察される。
【0048】
他方、閾値強度からスタートして、GaV4S8の測定されたパルス後電気抵抗は3kΩへ大幅に降下する。
【0049】
研究の開始時にはその観察が予想されなかったこの不揮発性挙動は、GaV4S8、並びに、図10から図14で示されるように、GaTa4Se8、GeVSe、GaVSe、及びGaNbSeに出現する。
【0050】
低抵抗遷移状態は不揮発性であり、その属性を数時間保持する。事実として、遷移状態の抵抗曲線は、温度の上昇時及び温度の下降時に再現可能であることが観察された。
【0051】
x、y、α、β、γ、νの値は、0と1との間の中間値として仮定できることに注意されたい。
【0052】
こうして、AMの元素Aについて、AMは次の形式であり得る。Ga0.95Zn0.05、例えば、M=Ta及びX=Seを有する。Ga1−xGe(xは約0.02に等しい)、例えば、M=Ta及びX=Seを有する。
【0053】
図15及び図16は、これらの物質の不揮発性挙動を示す。
【0054】
加えて、AM物質の他の代替実施形態が予想され得ることに注意されたい。AM物質は、次のように、より広範に定義可能である。
A=Ga1−x−yGeZn、ここで0≦x+y≦1、0≦x≦1、0≦y≦1
M=V1−α−β−γNbαTaβMoγ、ここで0≦α+β+γ≦1、0≦α≦1、0≦β≦1、及び0≦γ≦1
X=S1−νSeν、ここで0≦ν≦1
【0055】
図6は、周囲温度において、高抵抗状態と低抵抗状態との間を循環することが可能であることを示す。
【0056】
増加する強度(10〜24mA間)のパルスの効果のもとで、GaVSeの試料の電気抵抗が降下させられた後、次のパルスの電流方向が反転された(−10〜−17mA間)。そこで電気抵抗は再び上昇し、初期の高抵抗へと戻る。
【0057】
図6で明瞭に示されるように、この循環は数回反復され、良好な再現性を示した。
【0058】
図5で示されるように、低抵抗「遷移」状態は、初期の高抵抗状態とは異なる性質を有する。
【0059】
具体的には、2つの状態における抵抗の温度依存性が非常に異なる。
【0060】
初期状態における抵抗の温度依存性は、約0.1eVの活性化エネルギーを有する絶縁体の特徴である。
【0061】
遷移状態の場合、高温度では絶縁体の特徴である依存性が観察され、100Kよりも低い温度では(試料に依存して変動する)、温度によって非常に僅かに変動する抵抗が観察される。
【0062】
この挙動の変化は2つの流体を経由する電気伝導を示唆し、図9で概略的に示されるように、前に取得されたデータは2つのコンダクタンスを有するモデルからモデル化された。
【0063】
このモデルは並列回路からなる。この並列回路は、一方における絶縁体型抵抗R及び他方における粒状金属型抵抗Rgmからなる。
【0064】
図8は、100mAから2Aまでの範囲で増加する強度のパルスを、GaTa4Se8からなる結晶の上に印加した後に測定された様々な低抵抗状態を示す図7の実験曲線が、このモデルから十分に再現されたことを示す。
【0065】
従って、このモデルは、電気パルスが電子相分離を生成し、絶縁母体の中に浸された金属島が創出/再組成されることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Aが、Ga、Ge、Znのうちの少なくとも1つを含み、
Mが、V、Nb、Ta、Moのうちの少なくとも1つを含み、
Xが、S、Seのうちの少なくとも1つを含む、
AM遷移元素の四面体アグリゲートを有する空隙尖晶石の族に属する物質の、電子データ再書き込み可能不揮発性メモリの活物質としての使用。
【請求項2】
前記物質は、2つの金属電極の間に置かれる請求項1に記載の物質の使用。
【請求項3】
前記2つの金属電極の間の前記物質は、2値情報ビットを形成する請求項2に記載の物質の使用。
【請求項4】
A=Ga1−x−yGeZn、ここで0≦x+y≦1、0≦x≦1及び0≦y≦1、
M=V1−α−β−γNbαTaβMoγ、ここで0≦α+β+γ≦1、0≦α≦1、0≦β≦1、及び0≦γ≦1、
X=S1−νSeν、ここで0≦ν≦1、
である請求項1から3のいずれかに記載の物質の使用。
【請求項5】
x=0、y=0、β=1、ν=1である請求項4に記載の物質の使用。
【請求項6】
x=0、y=0、α=0、β=0、γ=0、ν=0である請求項4に記載の物質の使用。
【請求項7】
x=0、y=0、α=1、ν=1である請求項4に記載の物質の使用。
【請求項8】
x=0、y=0、α=0、β=0、γ=0、ν=1である請求項4に記載の物質の使用。
【請求項9】
x=1、α=0、β=0、γ=0、ν=0である請求項4に記載の物質の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2010−521069(P2010−521069A)
【公表日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−553141(P2009−553141)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【国際出願番号】PCT/EP2008/052968
【国際公開番号】WO2008/113734
【国際公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.RRAM
【出願人】(507421289)ユニヴェルシテ・ドゥ・ナント (6)
【Fターム(参考)】