説明

Al−Li系赤外線吸収剤及びその製造法、農業用フィルム

【課題】 本発明は、赤外線吸収能が高く、樹脂に配合した場合に分散性が良く、屈折率が樹脂の屈折率に近く、吸湿白化を抑制することができる赤外線吸収剤、及び該赤外線吸収剤を配合したフィルムが保温性、透明性に優れ、さらには吸湿白化が抑制された農業用フィルムに関するものである。
【解決手段】 Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末において、層間アニオンとして、縮合ケイ酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン及び水酸化物イオンを含有するAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を有効成分として含有するAl−Li系赤外線吸収剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線吸収能が高く、樹脂に配合した場合に分散性が良く、屈折率が樹脂の屈折率に近いとともに、吸湿白化を抑制することができる赤外線吸収剤、及び該赤外線吸収剤を配合したフィルムが保温性、透明性に優れ、さらには吸湿白化が抑制された農業用フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ハウスやトンネルなどの温室栽培に用いられる農業用フィルムは昼間の太陽光線を高い透過率で効率よく透過させる一方、夜間は地面や植物から放射される赤外線を吸収や反射等によりハウスやトンネルの外に放出させないなどの特性が要求される。地面や植物から放出される赤外線の放射率は、5〜25μmの波長範囲が大きいことが知られている。農業用フィルムとしては、5〜25μmの波長範囲、特に、室温付近で放射率が最大となる10μm付近の波長の赤外線を効率良く吸収できる(保温性が高い)ことが必要である。
【0003】
前記農業用フィルムには、従来から塩化ビニル樹脂が多用されてきたが、使用後の焼却処理時に有害ガスが発生する等、環境負荷が大きいため、近年ではオレフィン系樹脂に変更される傾向が強い。
【0004】
オレフィン系樹脂は、塩化ビニル樹脂に比べて前記赤外線吸収能が低いため、農業用フィルムに成型加工する際には、各種赤外線吸収剤を配合することにより保温性を付与している。
【0005】
従来、赤外線吸収剤としては、炭酸マグネシウム、マグネシウムケイ酸塩、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、リン酸塩、ケイ酸塩、ハイドロタルサイト類などの無機粉体が用いられていた。
【0006】
しかしながら、従来の前記無機粉体にはそれぞれ一長一短があり、赤外線吸収能が高く、樹脂に配合した場合に分散性が良く、屈折率が樹脂の屈折率に近いなどの諸物性を充分に満足するものとは言い難いものである。例えば、二酸化ケイ素、アルミニウムケイ酸塩などは、赤外線吸収能は優れているが、屈折率、分散性などに問題があり、フィルムの透明性が損なわれるため、農業用フィルムとしては不適切なものであった。また、ハイドロタルサイト類は、分散性、屈折率などにおいては比較的優れているものの、赤外線吸収能については充分満足できるものではなかった。
【0007】
特許文献1には、リチウムアルミニウム複合水酸化物塩を用いて農業用フィルムの保温剤(赤外線吸収剤)とする技術が開示されている。
【0008】
また、特許文献2には、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(An−(1+x)・mHO(式中、M2+は2価の金属、An−はn価のアニオン、m、x、yは、0≦m<5、0.01≦x≦0.5、0≦y≦0.5の範囲内)で示される複合水酸化物塩を樹脂に配合することにより、農業用フィルムの保温性、透明性を高める技術が開示されている。
【0009】
また、特許文献3には、層間のアニオンとしてケイ素系、リン系及びホウ素系多量体酸素酸イオンの少なくとも一種のアニオンであり、且つその一部及び/または全部がケイ素系、リン系及びホウ素系多量体酸素酸イオンの少なくとも一種のアニオンとそれ以外のアニオンを保持していることを特徴とする式、[(Liy12+y2)Al(OH)x+[(A)z1(B)z2・bHO]x−(式中、G2+はMg、Zn、Ca及びNiの少なくとも1種の二価金属イオン、Aはケイ素系、リン系及びホウ素系多量体酸素酸イオンの少なくとも一種のアニオンを示し、BはA以外のアニオンの少なくとも1種のアニオンを示し、y1、y2、x、z1、z2及びbは、0<y1≦1、0≦y2<1、0.5≦(y1+y2)≦1、x=y1+2y2、z1>0、z2>0、0≦b<5の範囲内)で示されるLi−Al系ハイドロタルサイト系化合物を農業用フィルムに含有させることにより、保温性、透明性を高める技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献4には、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(SOz1(COz2(OH)z3・mHO(式中、M2+は2価の金属、m、x、y、z1、z2、z3は、0≦m<5、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、z1>0、z2>0、z3≧0、z1+z2+z3/2=1+xの範囲内)で示される複合水酸化物塩を樹脂に配合して、保温性、透明性、耐農薬性に優れた農業用フィルムを得る技術が開示されている。
【0011】
また、特許文献5には、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(An−(1+x)・mHO(式中、M2+は2価の金属、An−はn価のアニオン、m、x、yは、0≦m<10、0.5<x<1.0、0.5<y≦3.0の範囲内)で示される複合水酸化物塩を樹脂に配合して、保温性、透明性、耐酸性、吸湿白化が改善された農業用フィルムを得る技術が開示されている。
【0012】
また、特許文献6には、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(Si2m+1z1(SOz2(COz3(OH)z4・nHO(式中、M2+は2価の金属、x、y、z1、z2、z3、z4、m、nは、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、z1>0、z2>0、z3>0、z4>0、z1+z2+z3+z4/2=1+x、2≦m≦4、0≦n<5、0<SiO/Al≦0.5の範囲内)で示される複合水酸化物塩を樹脂に配合して、保温性、透明性、耐農薬性に優れた農業用フィルムを得る技術が開示されている。
【0013】
また、特許文献7には、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(An−(1+x)・mHO(式中、M2+は2価の金属、An−はn価のアニオン、0≦x<1.0、0≦y<3.0、m≧0の範囲内)で示される複合水酸化物塩に、1)高級脂肪酸類及び高級脂肪族系アルコールのリン酸エステル類の群から選ばれる1種又は2種以上で表面処理を施し、2)更に、高級脂肪酸類及び高級脂肪族系アルコールのリン酸エステル類の群から選ばれる1種又は2種以上を配合することを特徴とする着色改良用樹脂添加剤を樹脂に含有させることにより、マスターバッチやフィルムの着色性を改善する技術が開示されている。
【0014】
【特許文献1】特開平7−300313号公報
【特許文献2】国際公開WO98/17739号公報
【特許文献3】特開2001−2408号公報
【特許文献4】特開2002−146337号公報
【特許文献5】特開2003−165967号公報
【特許文献6】特開2004−043692号公報
【特許文献7】特開2004−043693号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
赤外線吸収能が高く、樹脂に配合した場合に分散性に優れ、屈折率が樹脂の屈折率に近いとともに、吸湿白化を抑制することができる赤外線吸収剤、及び該赤外線吸収剤を配合したフィルムが保温性、透明性に優れ、さらには吸湿白化が抑制された農業用フィルムは、現在、最も要求されているところであるが、この要求を満たすような赤外線吸収剤及び該赤外線吸収剤を配合した農業用フィルムは未だに提供されていない。
【0016】
即ち、前出特許文献1記載のリチウムアルミニウム複合水酸化物塩は、屈折率が1.55であってポリオレフィン樹脂の1.50付近の値からかけ離れているため、透明性が不十分であり、赤外線吸収能もハイドロタルサイト類に比べれば優れているものの充分満足できるものではなかった。
【0017】
前出特許文献2乃至3記載の複合水酸化物塩またはLi−Alハイドロタルサイト系化合物は、赤外線吸収能が高く、樹脂に配合した場合に分散性が良く、しかも屈折率が樹脂の屈折率に近く、農業用フィルムにした場合に保温性、透明性に優れたものであった。
【0018】
しかしながら、これらの赤外線吸収剤を配合した農業用フィルムは、吸湿すると白化して透明性が損なわれる(以下、吸湿白化という)欠点を有していた。
【0019】
前出特許文献4記載の複合水酸化物塩は、農業用フィルムにした場合に透明性、耐酸性には優れているが、フィルム自体が比較的保温性を有する樹脂、例えば酢酸ビニル含有量が15%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体に10重量部よりも少ない量を混練した場合、もしくは比較的保温性の低い樹脂、例えばポリエチレンに混練した場合、前出特許文献2の複合水酸化物塩を配合した農業用フィルムに比べ保温性が十分とは言い難いものであった。また、吸湿白化も抑制されていなかった。
【0020】
前出特許文献5記載の複合水酸化物塩は、Al−Li系複合層状復水酸化物粒子中のLiを多量の2価金属で置換し、層状復水酸化物と2価金属水酸化物を複合化させた粒子粉末である。該粒子粉末は農業用フィルムに配合した場合、吸湿白化は抑制されるものの、前記複合化の影響により、樹脂中での分散が不十分になる傾向があり、透明性・保温性が十分とは言い難いものであった。
【0021】
前出特許文献6記載の複合水酸化物塩は、農業用フィルムにした場合に透明性、保温性、耐酸性に優れているが、吸湿白化が抑制することが困難であった。
【0022】
前出特許文献7記載の着色改良樹脂添加剤は、マスターバッチやフィルムの着色性は改善されているが、フィルムの吸湿白化を抑制することは困難であった。
【0023】
そこで、本発明は、赤外線吸収能が高く、樹脂に配合した場合に分散性が良く、屈折率が樹脂の屈折率に近いとともに、吸湿白化を抑制することができる赤外線吸収剤及び該赤外線吸収剤を配合した農業用フィルムを得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記技術的課題は、次の通りの本発明によって達成できる。
【0025】
即ち、本発明は、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(Si2m+1z1(SOz2(COz3(OH)z4・nHO(式中、M2+は2価の金属、x、y、z1、z2、z3、z4、m、nは、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、z1>0、0≦z2≦0.1、0<z3≦0.7、z4≧0、0.5<SiO/Al≦1.2の範囲内)で示されるAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末であって、該粒子粉末が、高級脂肪酸類又はその塩類、高級脂肪酸族アルコールとリン酸とのエステル類又はその塩類、高級脂肪酸類リン酸エステル類又はその塩類及び有機シラン化合物から選ばれる2種以上の表面処理剤で処理されたAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を有効成分として含有することを特徴とするAl−Li系赤外線吸収剤である(本発明1)。
【0026】
また、本発明は、炭酸イオン型のAl−Li系層状複水酸化物粒子を含有する懸濁液に硫酸を添加して酸処理を行い、酸処理後の懸濁液のpHを7.0〜12.0に調整する中和処理を行った後、ケイ酸アルカリ水溶液を添加し、次いで、洗浄、乾燥してAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末を得る製造工程において、前記酸処理、中和処理又はケイ酸アルカリ水溶液による処理のいずれかの処理後の懸濁液に、高級脂肪酸塩類、高級脂肪酸族アルコールとリン酸とのエステル類の塩類及び高級脂肪酸類リン酸エステル類の塩類から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤を添加して湿式処理を行い、次いで、洗浄、乾燥したAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末と高級脂肪酸類、高級脂肪族アルコールとリン酸のエステル類、高級脂肪酸類リン酸エステル類及び有機シラン化合物から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤とを乾式処理することによりAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を得ることを特徴とするAl−Li系赤外線吸収剤の製造法である(本発明2)。
【0027】
また、本発明は、樹脂100重量部に対して、本発明1のAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末1〜50重量部を配合して成形することを特徴とする農業用フィルムである(本発明3)。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末からなる赤外線吸収剤は、樹脂フィルムに成型加工した場合、保温性、透明性に優れるとともに、吸湿白化が抑制されているので、農業用フィルム用の赤外線吸収剤として好適である。
【0029】
本発明に係る農業用フィルムは、本発明に係る赤外線吸収剤を含有することによって、保温性、透明性に優れるとともに、吸湿白化が抑制されているので、農業用フィルムとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明の構成をより詳しく説明すれば次の通りである。
【0031】
まず、本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末について述べる。
【0032】
本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末は、式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(Si2m+1z1(SOz2(COz3(OH)z4・nHO(式中、M2+は2価の金属、x、y、z1、z2、z3、z4、m、nは、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、z1>0、0≦z2≦0.1、0<z3≦0.7、z4≧0、0.5<SiO/Al≦1.2の範囲内)で示されるAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末であって、該粒子粉末が、高級脂肪酸類又はその塩類、高級脂肪酸族アルコールとリン酸とのエステル類又はその塩類、高級脂肪酸類リン酸エステル類又はその塩類及び有機シラン化合物から選ばれる2種以上の表面処理剤で処理されたものである。
【0033】
前記2価の金属(M2+)としては、特に限定されるものではないが、導入が容易であって、白色であり、且つフィルムに配合した際に透明性を満たすことから、Mg、Zn、Caなどが好ましい。
【0034】
前記式におけるxの値が0.5を越える場合には、粒子粉末の樹脂中での分散が不十分になる傾向があり、フィルム透明性及び保温性が低下するため好ましくない。好ましくは0≦x≦0.4である。
【0035】
前記式におけるyの値が0.5を越える場合には、粒子粉末の樹脂中での分散が不十分になる傾向があり、フィルム透明性及び保温性が低下するため好ましくない。好ましくは0≦y≦0.35である。
【0036】
前記式においてアニオンとしてケイ酸イオン又は縮合ケイ酸イオン(Si2m+1)を含有しない場合、保温性が低下する。z1>0であって、m=3の場合、その上限は0.9程度である。なお、本発明においては、前記式における(Si2m+1)のmの値は2〜4が好ましい。
【0037】
ケイ酸イオン又は縮合ケイ酸イオンの含有量は、[SiO/Al(モル比)]換算で、0.5<[SiO/Al]≦1.2の範囲内となることが好ましい。0.5以下の場合には、保温性が低下する。
1.2を越える場合には、層状複水酸化物の単一相を容易に得ることが困難となる。より好ましくは、0.6<[SiO/Al]≦1.2の範囲内である。
【0038】
前記式においてアニオンとしての硫酸イオン(SO2−)含有量が多い場合、フィルム吸湿白化性能が低下する。好ましくは0≦z2≦0.08であり、より好ましくは0.005≦z2≦0.08である。
【0039】
本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末のアニオンとしての炭酸イオン(CO2−)含有量は、前記式におけるz3として、0<z3≦0.7である。好ましくは0.01<z3≦0.65である。
【0040】
本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末のアニオンとしての水酸化物イオン(OH)含有量は、前記式におけるz4として、z4≧0である。好ましくはz4≧0.01である。
【0041】
なお、本発明においては、前記式において、z1+z2+z3+z4/2=1+xを満たすことが好ましい。また、本発明においては、前記式におけるnHOのnの値は0以上、5未満が好ましい。
【0042】
本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の粒子形状は板状である。
【0043】
本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の平均二次粒子径は0.1〜3.0μmが好ましい。平均二次粒子径が0.1μm未満の場合には、樹脂中の分散性が不十分である。3.0μmを超える場合には、農業用フィルムの透明性が低下する。より好ましくは0.1〜2.0μmである。
【0044】
本発明におけるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末のBET比表面積値は3〜50m/gが好ましく、より好ましくは3〜40m/gである。
【0045】
本発明における表面処理剤のうち高級脂肪酸類としては、ステアリン酸、ラウリル酸、オレイン酸等が使用できる。好ましくは、ステアリン酸、ラウリル酸である。
【0046】
本発明における表面処理剤のうち高級脂肪酸塩類としては、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル酸ベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム等が使用できる。好ましくは、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル酸ベンゼンスルホン酸ナトリウムである。
【0047】
本発明における表面処理剤のうち高級脂肪族アルコールとリン酸のエステル類としては、ラウリルエーテルリン酸、ステアリルエーテルリン酸、オレイルエーテルリン酸等のアルキルエーテルリン酸、ジアルキルエーテルリン酸、アルキルフェニルエーテルリン酸類、ジアルキルフェニルエーテルリン酸類等が使用できる。
【0048】
本発明における表面処理剤のうち高級脂肪酸族アルコールとリン酸のエステル類の塩類としては、前記高級脂肪酸族アルコールとリン酸のエステル類のナトリウム塩又はカリウム塩等が使用できる。
【0049】
本発明における表面処理剤のうち高級脂肪酸類リン酸エステル類としては、ステアリン酸リン酸エステルが使用できる。
【0050】
本発明における表面処理剤のうち高級脂肪酸類リン酸エステル類の塩類としては、ステアリン酸リン酸エステルのナトリウム塩又はカリウム塩等が使用できる。
【0051】
本発明における有機シラン化合物としては、デシルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が使用できる。好ましくは、デシルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランである。
【0052】
次に、本発明1に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末(2価金属がMgの場合)の製造法について述べる。
【0053】
まず、炭酸イオン型のAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末は、水酸化アルミニウムを水媒体中で、炭酸リチウムと炭酸マグネシウム又は塩基性炭酸マグネシウム等のマグネシウム炭酸塩と加熱処理するか、又は上記原料に塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウムなどの水溶性マグネシウム及び水酸化マグネシウムの中から選ばれる1種以上を加えて加熱処理することによって得ることができる。
この場合、炭酸リチウムと炭酸マグネシウム又は塩基性炭酸マグネシウムの使用量は、水酸化アルミニウム中のAl含有量に対し、[Li/Al(モル比)]+[MgO/Al(モル比)]=1となるように用いると良いが、リチウム成分については過剰に添加してもよい。
【0054】
加熱処理の温度範囲は、常温〜200℃の間の適宜な温度を選択すればよく、好ましくは90〜160℃、より好ましくは110〜160℃である。処理温度が常温よりも低い場合は微細で結晶性が低下した粒子が生成するので好ましくない。
【0055】
上記で得られた炭酸イオン型アルミニウムリチウムマグネシウム複合層状複水酸化物粒子を含有する水懸濁液に硫酸を添加し、一端液性を酸性にした後(酸処理)、苛性ソーダなどのアルカリ溶液を添加して液性を中性からアルカリ性に調整し(中和処理)、次いで、該懸濁液に3号水ガラスなどのケイ酸アルカリ溶液を添加した(ケイ酸アルカリ処理)後、洗浄・乾燥・粉砕することによって本発明におけるAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末が得られる。
【0056】
添加する硫酸の濃度は特に限定されないが、炭酸イオン型アルミニウムリチウムマグネシウム層状複水酸化物粒子を溶解させないことを考慮して、20重量%以下の濃度であることが好ましい。また、硫酸添加は懸濁液のpHが3.0〜6.0になるまで添加することが好ましく、より好ましくはpH3.0〜5.0である。
【0057】
添加するアルカリ溶液も特に限定されないが、工業化を考慮した場合、25重量%以下の濃度の苛性ソーダ溶液が好ましい。また、アルカリ溶液の添加は、懸濁液のpHが7.0〜12.0になるまで添加することが好ましく、より好ましくはpH9.0〜12.0である。
【0058】
ケイ酸アルカリ溶液は、前記炭酸イオン型アルミニウムリチウムマグネシウム層状複水酸化物粒子生成反応時に使用した水酸化アルミニウムのAl含有量に対し、0.5<[SiO/Al(モル比)]≦1.2の範囲内となるように添加することが好ましい。より好ましくは、0.6<[SiO/Al(モル比)]≦1.2の範囲内である。
【0059】
ケイ酸アルカリ溶液添加時の懸濁液の温度は常温〜100℃が好ましい。100℃を超える場合には耐圧容器が必要となるので経済的でない。より好ましくは、常温〜80℃の温度範囲である。
【0060】
ケイ酸アルカリ溶液を添加処理したアルミニウムリチウムマグネシウム層状複水酸化物粒子を含有した水懸濁液を水で洗浄し、乾燥・粉砕することにより本発明におけるAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末が得られるが、適当な濃度の苛性ソーダ、炭酸ソーダ、重炭酸ソーダ等で洗浄することにより、層状複水酸化物粒子層間の各種アニオンの含有比率を制御することができる。
【0061】
また、上記Al−Li系層状複水酸化物粒子粉末を120〜300℃で、空気中又はN、He等の不活性ガス雰囲気中で1〜24時間加熱処理をしても良い。
【0062】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末は、上記Al−Li系層状複水酸化物粒子粉末に前記表面処理剤によって表面処理することによって得ることができる。
【0063】
本発明における表面処理は、Al−Li系層状複水酸化物粒子の反応途中に、高級脂肪酸塩類、高級脂肪酸族アルコールとリン酸のエステル類の塩類及び高級脂肪酸類リン酸エステル類の塩類から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤で湿式処理を行い、洗浄、乾燥後のAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末に対し高級脂肪酸類、高級脂肪族アルコールとリン酸のエステル類、高級脂肪酸類リン酸エステル類及び有機シラン化合物から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤で乾式処理するものである。
【0064】
前記湿式処理は、前記Al−Li系層状複水酸化物粒子粉末の製造工程において、酸処理後、中和処理後又はケイ酸アルカリ処理後のいずれの段階で行ってもよい。好ましくは、中和処理後又はケイ酸アルカリ処理後である。
【0065】
湿式処理における表面処理剤の添加量は、Al−Li系層状複水酸化物粒子粉末に対してC換算で0.3〜15.0重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜12.0重量%である。添加量が0.2重量%未満の場合には、処理剤による効果が得られない。15.0重量%を超える場合には、効果が飽和するため、必要以上に添加する意味がない。
【0066】
前記乾式処理は、前記Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の製造工程において、乾燥後または粉砕後に行うことが好ましい。乾式処理は、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー等の混合機を用いて行ってもよいし、粉砕処理時に処理剤を同時添加しながら行ってもよい。
【0067】
乾式処理における表面処理剤の添加量は、Al−Li系層状複水酸化物粒子粉末に対してC換算で0.5〜20.0重量%が好ましく、より好ましくは0.7〜18.0重量%である。添加量が0.5重量%未満の場合には、処理剤による効果が得られない。20.0重量%を超える場合には、効果が飽和するため、必要以上に添加する意味がない。
【0068】
次に、本発明3に係る農業用フィルムについて述べる。
【0069】
本発明3に係る農業用フィルムに用いる樹脂としては、エチレン、プロピレン、ブテン−1、酢酸ビニル等のオレフィン類の重合体あるいは共重合体、例えば、LLPE、LDPE等のポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン−1共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、酢酸ビニル含有量が25重量%以下のエチレン−酢酸ビニル共重合体が、透明性、耐候性、価格面を考慮して好ましい。
【0070】
本発明3に係る農業用フィルムの製造に際しては、必要に応じて周知の滑剤、光安定剤、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、防霧剤、防曇剤、顔料、染料、熱安定剤等を適宜添加することができる。
【0071】
本発明3に係る農業用フィルムは、必要に応じて積層構造を有してもよい。
【0072】
本発明3に係る農業用フィルム中のAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の含有量は、樹脂100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、より好ましくは2〜25重量部である。1重量部未満の場合は保温性能向上の効果が不十分である。30重量部を超える場合には農業用フィルムの透明性が低下するため好ましくない。
【0073】
本発明3に係る農業用フィルムの保温性は、後述する評価法に従って測定した保温指数で、70%以上が好ましく、より好ましくは80%以上である。
【0074】
本発明3に係る農業用フィルムの透明性は、後述する評価法に従って測定した全光線透過率とヘイズ値で評価される。全光線透過率は80%以上が好ましく、より好ましくは82%以上である。ヘイズ値は、10%
以下が好ましく、より好ましくは9%以下である。
【0075】
本発明3に係る農業用フィルムは、吸湿白化が大幅に抑制されたものである。本発明に係るフィルム吸湿白化性能は、後述する評価法に従って測定した水浸漬後のヘイズ値で20%以下が好ましく、より好ましくは15%以下である。
【0076】
次に、本発明3に係る農業用フィルムの製造法について述べる。
【0077】
本発明に係る農業用フィルムは、本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末及び樹脂を、常法に従って、たとえばリボンブレンダー、ナウターミキサー、バンバリーミキサー、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサーなどの混合機に投入し、混合後、押出機、バンバリーミキサー、加圧ニーダーなどを用いて溶融混練した後、インフレーション法、Tダイ法等の方法により、フィルム状に製膜して製造することができる。
【0078】
また、本発明においては、あらかじめ前述した樹脂とAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を所定量混合したペレットを作製しておき、該ペレットを用いて前記農業用フィルムを作製してもよい。
【0079】
<作用>
本発明において重要な点は、本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を有効成分として含有する赤外線吸収剤を配合した農業用フィルムは、保温性及び透明性に優れるとともに、吸湿白化が抑制されていることである。
【0080】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を配合した農業用フィルムの吸湿白化が抑制される原因について、本発明者は以下のように推定している。
【0081】
通常、硫酸イオンを多量に含有したAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末は、200℃程度の加熱によって層間水の脱離が生じ、Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の層間距離が著しく減少する。層間距離が著しく減少した場合、Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の屈折率が増大する。
工業的に農業用フィルムを成型加工する場合、通常200℃付近まで加熱するため、赤外線吸収剤として前記粉末を配合すると、該粉末の屈折率が著しく増大することになる。このため、赤外線吸収剤と樹脂との屈折率の差が大きくなり、フィルム透明性が低下する。
また、フィルムが吸湿することによって、フィルム中に分散しているAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末に層間水が復水した場合、該粒子粉末の屈折率の減少効果が大きくなり、吸湿白化性能の低下の要因となる。
【0082】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末は、その製造工程において、硫酸による酸処理を行っているため、最終製品である粒子粉末中に硫酸イオンが層間アニオンとして残存するが、本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子が含有する硫酸イオン量は、ごく微量に制御されており、前記フィルムの透明性の低下並びに吸湿白化性能の低下に対して影響が少ないため、フィルムの透明性を維持できるとともに、吸湿白化の抑制効果が現れているものと本発明者は推定している。
【0083】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末は、前記表面処理剤による湿式処理及び乾式処理を行うことにより、本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末のフィルム吸湿白化をより抑制することができる。この理由について本発明者は、以下のように推定している。
【0084】
表面処理剤による湿式表面処理では、Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の粒子表面を表面処理剤の表面被覆により撥水化し、吸湿を防止する目的で行われる。本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末は板状形状を呈しているが、湿式表面処理剤は主に板状平面に吸着し、粒子側面には吸着しにくいと推定される。一方、複合層状複水酸化物粒子の層間水の復水は、主に粒子側面で起こる。層間水の復水に起因して層間距離が増大し屈折率が減少することは、フィルムの吸湿白化の要因となる。すなわち、表面処理剤によるAl−Li系複合層状複水酸化物粒子の湿式表面処理のみでは、フィルム吸湿白化のさらなる抑制効果が不十分である。
【0085】
そこで、さらに乾式で添加された表面処理剤がAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の表面近傍に存在することによって、該粉末と樹脂との間でスペーサーとして作用し、成型加工した農業用フィルム中で、該粉末の粒子側面からの層間水の復水を防止することにより、吸湿白化の抑制に寄与しているものと本発明者は推定している。
【実施例】
【0086】
本発明の代表的な実施例は次の通りである。
【0087】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末及び農業用フィルムの諸特性は、下記の方法により評価した。
【0088】
Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の平均二次粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置:SALD−2000J((株)島津製作所製)を用いて測定した。
【0089】
Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の結晶相同定は、X線回折装置:RAD−2A(理学電機(株)製)(管球:Fe、管電圧:40kV、管電流:20mA、ゴニオメーター:広角ゴニオメーター、サンプリング幅:0.020°、走査速度:2.000°/min、発散スリット:1°、散乱スリット:1°、受光スリット:0.30mm)を使用し、回折角2θが5〜90°で測定して評価した。
【0090】
BET比表面積値はBET法により測定した値で示した。
【0091】
Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を
式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(Si2m+1z1(SOz2(COz3(OH)z4・nH
と表記した場合のx、y、m、z1は、該粉末を酸で溶解し、プラズマ発光分光分析装置:SPS4000(セイコー電子工業(株))で測定して求めた。
[SiO/Al(モル比)]は、該粉末を酸で溶解し、プラズマ発光分光分析装置:SPS4000(セイコー電子工業(株))で測定して求めた。
z2、z3は、該粉末の炭素及び硫黄含有量(重量%)を、カーボン・サルファーアナライザー:EMIA−2200(HORIBA製)により測定して求めた。
【0092】
なお、表面処理剤による湿式表面処理及び乾式処理の表面処理量は、カーボン・サルファーアナライザー:EMIA−2200(HORIBA製)により、炭素含有量(重量%)を測定して評価した。すなわち、上記表面処理の前後での炭素含有量の増加分から評価した。
【0093】
農業用フィルムの保温性は、下記の方法により測定した。
【0094】
樹脂100重量部に対して、Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を所定重量部混合し、該混合物を熱間ロールを用いて練り込み、練り込みシートを得た後、熱間プレスで加圧処理することにより、厚さ100μmのプレスフィルムを作製した。熱間ロールの練り込み温度は140〜150℃、熱間プレスのプレス温度は160℃である。得られた農業用フィルムの保温性と透明性を下記の方法で測定し評価した。
【0095】
保温性は、保温指数で評価した。上記農業用フィルムの赤外線吸収スペクトルをフーリエ変換赤外分光光度計:FTIR−8700((株)島津製作所製)を用いて(2,000〜400cm−1の範囲で1cm−1毎に測定し、100μmの膜厚で補正して各波数の補正吸光率を求めた。この補正吸光率に各波数に対する15℃の相対黒体放射エネルギーをかけて、相対黒体放射エネルギー吸収率を計算した。各波数の相対黒体放射エネルギー吸収率を積算し、その値を2,000〜400cm−1の総相対黒体放射エネルギーで除して保温指数とした。農業用フィルムの保温効果は保温指数が高いものほど高い。
【0096】
透明性は、分光光度計:JASCO V−560(日本分光(株)製)を用いて、全光線透過率及びヘイズ値(曇価)を測定し、評価した。全光線透過率は100に近いほど可視光透過性が良く、ヘイズ値は小さいほど曇りが少ないことを意味する。
【0097】
また、フィルム吸湿白化性能は、下記の方法により評価した。
【0098】
上記農業用フィルムから試験片を切り出してイオン交換水に浸漬し、70℃で24時間経過した後、試験片を取り出してフィルム表面の水滴を軽く拭き取り、ヘイズ値を測定する。水浸漬テスト後のヘイズ値が小さいほど吸湿白化の程度が小さいことを意味する。
【0099】
実施例1
Alとして65重量%含有した水酸化アルミニウム粉末214.0gと、MgOとして42.0重量%含有した炭酸マグネシウム13.9gと、炭酸リチウム45.2gに水を加えて全量を3lとし、充分に攪拌しておく。この懸濁液を内容量5lのオートクレーブに挿入し、160℃で4時間加熱熟成して白色沈殿を生成した。得られた白色沈殿物の一部を取り出し、濾過、水洗乾燥した後にX線回折によって同定した結果、層状複水酸化物粒子であることを確認した(炭酸イオン型の層状複水酸化物粒子粉末)。
次いで、前記白色沈殿物を含有する懸濁液を60℃に冷却した後、濃度8重量%の硫酸をpHが4.0になるまで添加した(酸処理)。次いで、25%苛性ソーダ溶液を添加してpH11.0に調整した後(中和処理)、15%ケイ酸ソーダ水溶液3762gを添加した(ケイ酸アルカリ水溶液による処理)。得られた懸濁液の一部を取り出し、濾過、水洗乾燥した後にカーボン・サルファーアナライザーによって、炭素含有量を測定した結果、0.45wt%であった。
次いで、該懸濁液に、ステアリン酸リン酸エステルNa塩の1%溶液を1.05l加えて、湿式表面処理を行った。該懸濁液をヌッチェで濾過し、製品量に対して15倍量の濃度0.5%苛性ソーダ水溶液で洗浄し、さらに製品量に対して40倍量の水で洗浄した。洗浄後、110℃で20時間乾燥し、更に200℃で1時間乾燥し、100メッシュ篩で篩過した。得られた乾燥粉末に対して5.0重量%に相当する量のデシルトリメトキシシランをヘンシェルミキサーに投入し、乾式混合を行って、Al−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を得た。該粉末の平均粒子径は0.80μm、比表面積は11.1m/gであった。該粉末の組成は、[AlLi0.90Mg0.14(OH)6.08(Si0.65(SO0.06(CO0.21(OH)0.36・1.05HOであった。また、該粉末の炭素含有量は5.63wt%であった。
【0100】
実施例2〜9、比較例1〜4
2価金属の種類及び含有量、酸処理の条件、中和処理の条件、ケイ酸アルカリの添加量、洗浄条件などを種々変化させるとともに、表面処理剤による湿式表面処理及び乾式処理における表面処理剤の種類及び添加量を種々変化させた以外は、実施例1と同様にしてAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を得た。
【0101】
得られたAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末の諸特性を表1に示す。
【0102】
実施例10
実施例1で得られたAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末10重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂(商品名:PES−400、日本ユニカー(株)製)100重量部とを混合し、該混合物を熱間ロールを用いて練り込み、練り込みシートを得た後、熱間プレスで加圧処理することにより、厚さ100μmのプレスフィルムを作製した。熱間ロールの練り込み温度は150℃、熱間プレスのプレス温度は160℃である。
【0103】
得られた農業用フィルムの保温指数は86.6%、透明性は、全光線透過率が85.9%、ヘイズ値が6.3%、フィルム吸湿白化性能は水浸漬テスト後のヘイズ値で評価すると10.5%であった。
【0104】
実施例11〜18、比較例5〜8
実施例2〜9のAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末とポリオレフィン系樹脂を表2に示す組成で配合し、実施例10と同様にして農業用フィルムを作製した。
【0105】
得られた農業用フィルムの諸特性を表2に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明に係るAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を有効成分として含有する赤外線吸収剤は、樹脂に配合しフィルムに成型加工した場合、保温性、透明性に優れ、さらには吸湿白化が抑制されているので、農業用フィルム用途の赤外線吸収剤として好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式、[AlLi(1−x)2+(x+y)(OH)(6+2y)(Si2m+1z1(SOz2(COz3(OH)z4・nHO(式中、M2+は2価の金属、x、y、z1、z2、z3、z4、m、nは、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、z1>0、0≦z2≦0.1、0<z3≦0.7、z4≧0、0.5<SiO/Al≦1.2の範囲内)で示されるAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末であって、該粒子粉末が、高級脂肪酸類又はその塩類、高級脂肪酸族アルコールとリン酸とのエステル類又はその塩類、高級脂肪酸類リン酸エステル類又はその塩類及び有機シラン化合物から選ばれる2種以上の表面処理剤で処理されたAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を有効成分として含有することを特徴とするAl−Li系赤外線吸収剤。
【請求項2】
炭酸イオン型のAl−Li系層状複水酸化物粒子を含有する懸濁液に硫酸を添加して酸処理を行い、酸処理後の懸濁液のpHを7.0〜12.0に調整する中和処理を行った後、ケイ酸アルカリ水溶液を添加し、次いで、洗浄、乾燥してAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末を得る製造工程において、前記酸処理、中和処理又はケイ酸アルカリ水溶液による処理のいずれかの処理後の懸濁液に、高級脂肪酸塩類、高級脂肪酸族アルコールとリン酸とのエステル類の塩類及び高級脂肪酸類リン酸エステル類の塩類から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤を添加して湿式処理を行い、次いで、洗浄、乾燥したAl−Li系層状複水酸化物粒子粉末と高級脂肪酸類、高級脂肪族アルコールとリン酸のエステル類、高級脂肪酸類リン酸エステル類及び有機シラン化合物から選ばれる1種又は2種以上の表面処理剤とを乾式処理することによりAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末を得ることを特徴とするAl−Li系赤外線吸収剤の製造法。
【請求項3】
樹脂100重量部に対して、請求項1記載のAl−Li系複合層状複水酸化物粒子粉末1〜50重量部を配合したことを特徴とする農業用フィルム。


【公開番号】特開2006−104421(P2006−104421A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−296885(P2004−296885)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000166443)戸田工業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】