説明

Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子及びその作製方法

【課題】Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子及びその作製方法を提供する。
【解決手段】
前駆体ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)として、Zn(NO(1.0−xM),Al(NO(xM)及びurea(3.3M)を含む水溶液を調製し、約90℃程度で数日間保持し、Zn−Al系ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)を合成し、次に、この前駆体Zn−Al系ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)を、水洗後、大気中において約250℃程度で数時間加熱し、ZnOナノ粒子とアモルファスマトリックスのナノコンポジットを合成する方法、及びAl含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ZnOナノ粒子に関するものであり、更に詳しくは、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナオ粒子に関するものである。本発明は、ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性を満たすZnOナノ粒子高分散アモルファスマトリックスコンポジットを作製することにより、次世代発光デバイス材料として期待されている酸化亜鉛の高分散ナノ粒子を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は、紫外光及び可視光の蛍光特性を有することから、VFD、FED、ELD、LEDs、レーザーダイオードなどの発光デバイス向け材料として、高い期待が寄せられており、次世代発光デバイスへの応用に向けて、発光強度増大、発光波長の制御、単色化といった要求が挙げられている。
【0003】
これらの要請に対し、ZnOナノ粒子は、量子サイズ効果、表面効果、酸素欠陥濃度増加により、発光強度増大、発光波長制御が期待され、大きな注目を集めている。量子サイズ効果は、バンドギャップのシフトとしても議論できるが、この効果の発現するナノサイズ領域においては、粒径を変えることにより連続的にバンドギャップをチューニングすることも可能である。このバンドギャップエンジニアリングへの期待から、様々な実験及び理論計算により、ナノ結晶粒子が研究されている。
【0004】
表面効果の研究においては、溶液中に分散した粒子の蛍光発光強度や発光波長が、粒子表面に吸着したOH−イオンや有機物により、大きく影響を受けることが知られている。また、シリカエアロゾルやアルミナメンブラン等の多孔質固体中にZnOナノ粒子を分散させることにより、可視発光強度が増加することが報告されている。この高分散ZnOナノ粒子は、ナノ構造を持ったバルクのZnOに比べて、酸素欠陥濃度が高いことから、強い可視発光を示す。
【0005】
これらの様に、ZnOナノ粒子の微小化は、蛍光特性の向上に対して、高い可能性を有している。酸化亜鉛は、紫外光励起により可視発光を示すフォトルミネッセンス特性を有している(非特許文献1)。また、ZnOは、粒径をナノサイズまで小さくした際に、量子サイズ効果によって、発光特性が向上することが、理論的に予測されている。そこで、最近、酸化亜鉛粒子の粒子合成及び形態制御により、蛍光強度を向上させようとする試みが、例えば、先行技術文献に見られるように、提案されている(非特許文献2)。
【0006】
しかし、得られた酸化亜鉛粒子を見てみると、粒径は大きく、量子サイズ効果を得るには至っていない。また、ナノ粒子は、粒径の制御が困難であるだけではなく、溶液中などでナノサイズ粒子を合成した後にも、粉体として取り出す際に、粒子の凝集によって、発光特性は大きく低下してしまう。
【0007】
このように、ナノサイズ領域での結晶成長の制御と粒径の制御は、課題の多い領域である。また、ナノ粒子は容易に凝集するため、粒径が増大し、表面積が減少し、蛍光特性を低下させてしまう。この様な背景から、当技術分野では、これらの問題を解決し得る新しいコンセプトに基づいた新規プロセスが求められている。次世代発光デバイスの実現に向けて、ZnOの高い発光特性を活かすため、ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性が求められているのである。
【0008】
【非特許文献1】Time-resolved luminescence and photoconductivity of polycrystalline ZnO films, S. A. Studenikin and Michael Cocivera, Journal of Applied Physics, Volume 91, Number 8, 5060-5065
【非特許文献2】Y. Masuda, N. Kinoshita, F. Sato, K. Koumoto, Crystal Growth & Design, 2006, 6, 75
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性を満たすZnOナノ粒子を合成することを可能とする新しいZnOナノ粒子の合成方法及びそのZnO粒子を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を合成することにより所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、ZnOナノ粒子を凝集せずに、分散した状態のままAl含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性を満たしたZnOナノ粒子であって、Al含有アモルファス成分により、ZnOナノ粒子を凝集させず、分散した状態のまま固定化したことを特徴とするAl含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子。
(2)Al含有アモルファスマトリックスが、ハイドロタルサイトを230−300℃で加熱して得られるAlリッチ領域である、前記(1)記載のZnOナノ粒子。
(3)主にZnO結晶からなる領域と主にアモルファス成分からなる領域を有するZnOナノ粒子分散アモルファスマトリックスからなる、前記(1)記載のZnOナノ粒子。
(4)ZnOナノ粒子の粒径が、2−3nmである、前記(1)記載のZnOナノ粒子。
(5)UV光励起により蛍光発光する、前記(1)記載のZnOナノ粒子。
(6)Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を作製する方法であって、Zn(NO・(1.0−xM),Al(NO(xM)及び尿素を含む水溶液(ただし、xはZnに対するAlの比率で0〜1を表す。)を調製し、加熱、保持した後、析出物として析出させた前駆体ハイドロタルサイトを加熱して、ZnOナノ粒子とアモルファスマトリックスのナノコンポジットを合成することを特徴とするAl含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子の製造方法。
(7)Znに対するAlの比率を代えて、Al添加量の異なるナノコンポジットを合成する、前記(6)記載のZnOナノ粒子の製造方法。
(8)前駆体ハイドロタルサイトを、大気中で230〜300℃で加熱する、前記(6)記載のZnOナノ粒子の製造方法。
(9)Zn−Al系ハイドロタルサイト化合物を作製する方法であって、Zn(NO・(1.0−xM),Al(NO(xM)及び尿素を含む水溶液(ただし、xはZnに対するAlの比率で0〜1を示す。)を調製し、加熱、保持した後、析出物として析出させることを特徴とするZn−Al系ハイドロタルサイト化合物の作製方法。
(10)前記(1)から(5)のいずれかに記載のZnOナノ粒子からなることを特徴とする蛍光発光部材。
【0011】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性を満たしたZnOナノ粒子であって、Al含有アモルファス成分により、ZnOナノ粒子を凝集させず、分散した状態のまま固定化したことを特徴とするものである。また、本発明は、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子の作製方法であって、Zn(NO・(1.0−xM),Al(NO(xM)及び尿素を含む水溶液(ただし、xはZnに対するAlの比率で0〜1を表す。)を調製し、加熱、保持した後、析出物として析出させた前駆体ハイドロタルサイトを加熱して、ZnOナノ粒子とアモルファスマトリックスのナノコンポジットを合成することを特徴とするものである。
【0012】
本発明では、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を作製するために、前駆体ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)を合成する。まず、Zn(NO(1.0−xM),Al(NO(xM)及びUreaを含む水溶液を調製し、例えば、約90℃程度で数日間保持する。この場合、Znに対するAlの比率(x)は、0から1の範囲で変化させる。Al無添加水溶液からは、Zn(CO(OH)・HO粉末が得られる。一方、Al添加水溶液からは、ハイドロタルサイトが析出する。この場合、Al添加量の増加に伴い、ハイドロタルサイトのXRD回折線強度は減少し、粒径も、Al添加量に応じて、1μm以下にまで減少する。
【0013】
次に、上記前駆体ハイドロタルサイトを用いて、ZnOナノ粒子分散アモルファスマトリックスを合成する。前駆体ハイドロタルサイトを約250℃程度で加熱することにより、AnOナノ粒子とアモルファスマトリックスとのナノコンポジットが合成される。この場合、ZnOナノ粒子の粒径は、Al添加量の増加に伴い減少する。例えば、Al42%添加により合成したコンポジットの場合、直径2−3nmのZnOナノ粒子が得られるが、この粒子は、凝集しておらず、アモルファスマトリックス中で高い分散性を有している。これは、添加したAlによりZnOの結晶成長が抑制され、ZnO粒子が微小化したものと考えられる。上記粒子は無配向状態で分散している。本発明において、Al含有アモルファス成分とは、アルミニウム元素を含み、かつ非晶質物質を主たる(モル比50%以上)構成成分に持つ物質成分(0〜49%結晶成分が含まれている物質成分も含まれる。)を意味する。
【0014】
上記方法により、ZnOナノ粒子をアモルファスマトリックス中に高分散させて固定化したナノコンポジットが合成される。ZnO結晶からなる領域ではAlよりもZn量が高いZnリッチであり、また、アモルファス成分からなる領域ではAlリッチである。次に、Al添加量の影響について検討してみると、例えば、Alを42%添加した場合、2−3nmのZnO粒子が合成されたが、これよりもAlの添加量が増えると、ZnOの結晶化が十分に抑制されず、大きな粒径となる。このように、Al添加によりZnO粒子は微小化されることが分かった。本発明において、「Znリッチ領域」とは、AlよりもZn元素のモル比が多い成分領域、また、「Alリッチ領域」とは、ZnよりもAl元素のモル比が多い成分領域を意味するものとして定義される。また、主にZnO結晶からなる領域とは、モル比50%以上のZnO結晶を含んだ物質の領域、主にアモルファス成分からなる領域とは、モル比50%以上の非晶質成分を含んだ物質の領域を意味する。
【0015】
次に、蛍光特性について検討してみると、ZnO粒子の微細化により、蛍光特性が大幅に向上するが、Al無添加の場合は、極僅かしか蛍光を示さないが、Al添加により発光強度は大きく増加し、例えば、Al42%添加するZnOナノ粒子は、UV光励起により、強い蛍光特性を示す。しかし、過剰なAlの添加は、蛍光発光に必要なZnO結晶の生成が抑制されるため、発光強度を減少させる。
【0016】
Al添加により、ZnO粒子は、312nmのUV光による励起では、緑色の蛍光を示し、254nmのUV光による励起では、青色の蛍光発光を示す。Al添加のZnOナノ粒子は、励起波長を変えることにより、同じZnOナノ粒子から異なった波長の蛍光を容易に得ることができる。ZnOナノ粒子は、通常、500−530nm付近の蛍光を示すが、Alの添加量を増やしたZnOナノ粒子は、より短波長の蛍光を示す。このような蛍光波長のブルーシフトは、ZnOナノ粒子の微小化による量子サイズ効果によるものと考えられる。
【0017】
次に、ZnO結晶サイズの微小化によるバンドギャップについて検討すると、大きな単結晶ZnOのバンドギャップは3.37eVであるが、Al添加量の増加に伴い、光吸収の強度は減少し、吸収端も高エネルギー側へシフトする。例えば、Al添加42%によるZnOナノサイズでは、吸収端から3.5eVと見積もられる。バンドギャップの増大は、ZnOナノ粒子の微小化に伴う量子サイズ効果によると考えられる。
【0018】
次に、ZnOナノ粒子の微小化による表面効果を検討すると、ZnOナノ粒子の微小化により単位堆積当たりの表面積が増加し、それに伴い、表面におけるZnOの数も増加し、そのため、可視発光強度が増加する。量子サイズ効果に加え、単位体積当たりの表面Zn−O数の増加が、蛍光強度増加に寄与していると考えられる。
【0019】
次に、蛍光特性に対する加熱温度の影響について検討すると、前駆体ハイドロサルタイトを200−250℃の温度範囲で加熱すると、温度上昇に伴って、ZnOの核生成と結晶成長が促進され、蛍光強度が飛躍的に増大する。しかし、250−900℃の範囲では、過剰な結晶成長により、温度上昇に伴い、蛍光強度が緩やかに減少する。約250℃程度での加熱では、ZnOの結晶成長が好適に進行し、蛍光特性が飛躍的に向上する。しかし、温度が上昇すると、ZnOの結晶成長も進行するため、加熱時間は短い方が好ましい。
【0020】
本発明は、Zn−Al系ハイドロタルサイトを前駆体に用いて、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子の合成をすることを最も主要な特徴とする。Al含有アモルファス成分により、ZnOナノ粒子を凝集させずに、分散した状態のまま、固定化することが可能である。
【0021】
本発明では、ZnOナノ粒子を高分散状態でアモルファスマトリックス中に固定化する新しいプロセスを実現した。このプロセスでは、量子サイズ効果、表面効果、酸素欠陥増大により、ZnOナノ粒子に高い蛍光特性を発揮させるとともに、ナノ粒子の高分散状態での固定を実現し、特性劣化の原因となる粒子の凝集を抑制している。また、本プロセスは、結晶成長制御に基づいた、ユニークな水溶液プロセスと新規Al添加加熱処理プロセスにより構成されている。本発明は、次世代ナノ光学デバイスの実現に対し、ZnOナノ粒子マトリックスの高い蛍光特性を提供することを可能とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、アモルファスマトリックス中に高分散したZnOナノ粒子の合成が可能である。Al添加により、ZnOナノ粒子の蛍光強度は飛躍的に増大し、青色及び緑色の蛍光を示す。これらは、ZnOナノ粒子微小化や結晶成長制御による、量子サイズ効果、表面効果、酸素欠陥増大効果によりもたらされたと考えられる。アモルファスマトリックスにより、蛍光特性劣化の原因となるナノ粒子の凝集が抑えられ、また、Al添加により、ZnOナノ粒子の結晶化を適切に制御することができる。
【0023】
また、Al濃度、加熱温度、加熱時間、前駆体であるハイドロタルサイト組成等の条件調整により、ZnOの結晶成長を制御することが可能である。更に、ZnOナノ粒子を微小化することでバンドギャップ制御及び表面効果を得ることが実現可能である。本発明において開発した新規プロセスは、次世代蛍光デバイスに対して、更なる発展を期待させる新技術として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0025】
本実施例では、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を作製した。
(1)前駆体ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)の合成
Zn(NO(1.0−xM),Al(NO(xM)及びurea(3.3M)を含む水溶液を調製し、90℃にて2日間保持した。Znに対するAlの比率(x)は、0から1の範囲で変化させた。また、析出物中のZnに対するAlの比率は、ICP測定により、それぞれX=0,23,32,39,38,39,42,47,55,74,83,87,or94%(Zn:100−X%)と見積もられた。Al無添加水溶液からは、Zn(CO(OH)・HO粉末が得られ、XRDから、その回折パターンが観測された。SEM観察からは、生成物が直径10μm以上の、繊維凝集体であることも観察された。
【0026】
一方、Al添加水溶液からは、例えば、ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)が析出した。Al添加量の増加に伴い、ハイドロタルサイトのXRD回折線強度は減少し、粒径も、Al添加23%における約3μmから、Al添加55%以上では、1μm以下にまで減少した。
【0027】
(2)ZnOナノ粒子分散アモルファスマトリックスの合成
前駆体(Zn(CO(OH)・HO及びZnAl(OH)16CO・4HO)の場合を説明すると、これらは、水洗後、大気中において、200−900℃で3時間加熱した。Zn(CO(OH)・HOからは、250℃での加熱により、大きなZnO結晶粒子からなる多結晶体が合成された。
【0028】
一方、ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)からは、250℃での加熱により、ZnOナノ粒子とアモルファスマトリックスのナノコンポジットを合成することに成功した。また、同様に、Alの比率を変化させて合成した。ZnOナノ粒子の粒径は、Al添加量の増加に伴い減少した。Al42%添加により合成したコンポジットの加熱処理後のTEM観察からは、直径2−3nmのZnOナノ粒子が観察された(図1a)。
【0029】
この粒子は、凝集しておらず、アモルファスマトリックス中において、高い分散性を有していた。添加したAlによりZnOの結晶成長が抑制され、ZnO粒子の微小化が実現できたものと考えられる。また、電子線回折からは、不純物を含まず、ZnO結晶のみの回折が観測され、また、粒子が無配向状態で分散していることも示された。
【0030】
主に、ZnO結晶からなる領域においては、AlよりもZn量が高いZnリッチ(Al:Zn=0.23:0.77)であり、主にアモルファス成分からなる領域では、Alリッチ(Al:Zn=0.58:0.42)であることがEDSより示された。これは、添加したAlが主にアモルファス相に存在していることを示している。
【0031】
これらのプロセスにより、ZnOナノ粒子をアモルファスマトリックス中に高分散させて固定化することに成功した。また、この反応系では、AlがZnO粒子の微小化に対して、重要な効果を有しているものと考えられる。
【0032】
(3)評価
Al添加量の影響を調べたところ、Al23%添加により、直径4−7nmのZnO粒子が合成された(図1b)。これは、Al42%添加での合成(ZnO粒子2−3nm)(図1a)に比べて、ZnOの結晶化が十分には抑制されなかったことから、大きな粒径となったものと考えられる。
【0033】
Al添加によるZnO粒子の微小化は、XRD測定からも明らかになった。Al無添加溶液から析出したZn(CO(OH)・HOは、加熱処理によりZnO結晶へと相転移した。Al添加により合成したハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)も、また、ZnOに結晶化した。しかし、Al添加量の増加に伴い、回折線強度は減少し、ピークもブロード化した。
【0034】
また、回折線より、100、002及び101面に垂直方向の結晶子サイズをシェラーの式により見積もったところ、組成Zn:Al=(a)100:0,(b)77:23,(c)68:32or(d)58:42のコンポジットに対して、それぞれ、(a)12nm,17nm,12nm,(b)7nm,4nm,5nm,(c)5nm,3nm,4nmor(d)2nm,4nm,2nmと見積もられた。
【0035】
Al添加量増加に伴う連続的な結晶子サイズの減少により、ZnOナノ粒子の微小化に対するAl添加効果が示された。また、XRDによる評価結果は、TEM観察とも矛盾がない。
【0036】
(4)蛍光特性
ZnO粒子の微細化により、蛍光特性が大幅に向上した。Al添加により合成したZnOナノ粒子[(a)0%,(b)23%,(c)32%,(d)42%]の、可視光(Vis)、UV光(312nm)、UV光(254nm)下での、蛍光写真を図2に示す。UV光励起下において、Al無添加ZnOは、極僅かしか蛍光を示さないのに対し、Al添加により発光強度は大きく増加し、Al42%添加によるZnOナノ粒子は、UV光励起により強い蛍光発光を示した。
【0037】
Al増加に伴いZnOの発光強度は増加し、Al添加42%で最大値を示し、その後、Al添加量の増加に伴い、発光強度は減少した。蛍光発光に不可欠なZnO結晶の生成が、過剰なAl添加により抑制されたためと考えられる。Al42%添加によるZnOナノ粒子は、UV光(312nm)による励起では、緑色の蛍光を示し、UV光(254nm)励起では、青色の蛍光発光を示した。Al添加ZnOナノ粒子においては、励起光を変えることにより、同一ZnOナノ粒子から、異なった波長の蛍光を容易に得ることができた。
【0038】
更に、ZnOナノ粒子の蛍光特性向上を、蛍光スペクトルを用いて評価した(図3a)。蛍光スペクトルの定量評価においても、Al添加量の増加に伴い、ZnOナノ粒子の発光強度は増加し、Al添加42%において、最大値を示した。蛍光スペクトルの中心波長は、Al添加23%、32%、42%において、それぞれ、530nm、505nm、470nmであった。
【0039】
Al42%添加ZnOナノ粒子の蛍光スペクトルは、Al32%添加ZnOにおいて見られる505nm付近の発光スペクトルと、約465nmの強い発光スペクトルに分けることができる。ZnOは、Al無添加ZnOやAl23%添加ZnOに見られるように、通常、500−530nm付近の蛍光を示す(図3a)。しかし、Al添加32%や42%のZnOナノ粒子は、より短波長の蛍光を示した。蛍光波長のブルーシフトは、ZnOナノ粒子の微小化による量子サイズ効果がもたらしたものと考えられる。
【0040】
(5)ZnOナノ粒子の微小化によるバンドギャップシフトの評価
ZnO結晶サイズの微小化によるバンドギャップシフトは、下記の式により見積もることができる。
【0041】
【数1】

【0042】
ΔE(eV)は、ZnOナノ粒子の微小化によるバンドギャップのシフト量、E(d)(eV)は、半径d(nm)の粒子におけるバンドギャップ、E(eV)はバルクのバンドギャップとする。式(1)に基づけば、バンドギャップは、理論的に予測することが出来る。Al添加23%により合成される平均粒径5.5nm(TEM観察4−7nm)のZnOナノ粒子におけるバンドギャップシフト量ΔEgは、0.129eVと見積もられる。
【0043】
バンドギャップシフト量は、ZnOの粒径減少に伴い増加し、Al添加42%により合成される平均粒径2.5nm(TEM観察2−3nm)のZnOナノ粒子においては、0.465eVと見積もられる。一方、Al23%添加により合成したZnOの蛍光波長530nm及び、Al42%添加により合成したZnOの蛍光波長465nmは、それぞれエネルギーに換算すると2.339eV、2.666eVとなる。
【0044】
蛍光波長の相対変化は、両者の差より0.327eV(=2.666−2.339eV)と見積もられ、これは、粒径より算出されるバンドギャップシフト量の差0.336eV(=0.465−0.129eV)に近い値である。また、誤差は、主に粒径のラフな見積もりに起因していると考えられる。蛍光測定及び理論計算により見積もられるバンドギャップのシフト量は、粒子サイズ微小化によるバンドギャップ制御の効果を示している。
【0045】
(6)バンドギャップ評価
様々な粒径のZnOナノ粒子による光吸収スペクトルを図3bに示す。大きな単結晶ZnOのバンドギャップは3.37eVであるが、本プロセスによるAl無添加ZnOナノ粒子の光吸収スペクトルの吸収端からは、3.15eVと見積もられた。Al添加量の増加に伴い、光吸収の強度は減少し、吸収端も高エネルギー側へシフトした。
【0046】
また、Al添加42%によるZnOナノ粒子では、吸収端からは3.5eVと見積もられた。バンドギャップの増大は、ZnOナノ粒子の微小化に伴う量子サイズ効果によると考えられ、蛍光波長のブルーシフトは、このバンドギャップの増大によりもたらされたと考えられる(図3a)。
【0047】
(7)表面効果
更に、ナノ粒子の微小化により表面効果を得ることができる。ZnOナノ粒子の微小化により単位体積当たりの表面積が増加し、それに伴い表面におけるZn−Oの数も増加する。そのため、可視発光強度が増加する。表面でのZn−O数は、式(2)により見積もることができる。
【0048】
【数2】

【0049】
surfとNvolは、単位表面及び単位体積当たりのZn−O数、Sは表面積、Vは体積、Rは粒子の半径、RはZn−O結合距離(=0.18nm)とする。Al添加23%により合成される平均粒径5.5nm(TEM観察4−7nm)のZnOナノ粒子においては、体積当たりのZn−O数に対する表面でのZn−O数は、およそ24%と見積もられる。粒径の微小化に伴い、体積当たりの表面積が増加するため、体積当たりのZn−O数に対する表面のZn−O数の割合も増加する。
【0050】
Al添加42%により合成される平均粒径2.5nm(TEM観察2−3nm)のZnOナノ粒子においては、およそ76%と見積もられる。量子サイズ効果に加え、これらの見積もりにより示された単位体積当たりの表面Zn−O数の増加が、蛍光強度増加に寄与していると考えられる。ZnOナノ粒子の微小化に伴う量子サイズ効果、表面効果、酸素欠陥増加といった複数の因子が最適化され、急激な蛍光強度の増大をもたらしたものと考えられる。
【0051】
(8)低温での蛍光特性評価
Al添加42%により合成したZnOナノ粒子に対し、室温から低温でPL測定を行った。液体ヘリウムを用い15Kまで温度を下げ、266nmのYAGレーザーにより励起した。この蛍光体は室温から低温において蛍光強度及び蛍光波長には変化が見られなかった。通常、酸化亜鉛の励起子発光については、発光強度の温度依存性が見えたり、フォノンレプリカや他の束縛状態もはっきり見えるようになる。本例では、励起子発光が全くないサンプルのため、その辺りの様子は観測できなかった。
【0052】
また、可視領域の発光も、ピークシフトがなく、フォノンとカップルした構造が見られなかったが、これは、発光に関与する準位の温度変化が起こらないことと、発光準位の分布が均一でないために、幅広いスペクトルになり、フォノンサイドバンドが見られなかったと考えられる。また、量子化すると、バンドの温度変化が小さくなることから、これまでのXRDや拡散反射スペクトルなどとあわせて考えると、量子サイズになっているため、温度変化が見られなかったと推測できる。
【0053】
(9)蛍光特性に対する加熱処理の影響
更に、蛍光特性に対する加熱温度の影響を検討した。ハイドロタルサイト(ZnAl(OH)16CO・4HO)を、200−900℃(200,210,220,230,240,250,260,270,300,400,500,600,700,800,900℃の各温度).で大気中にて3時間加熱した。合成されたZnOナノ粒子の蛍光強度は、250℃での加熱処理により、最大の発光強度を示した。その強度は、200℃加熱処理後の発光強度の10倍であり、であり、300℃加熱処理後の4倍であった。
【0054】
前駆体であるハイドロタルサイトのX線回折ピーク強度は、加熱温度200℃以上で徐々に減少し、ZnOの弱い回折線が230℃以上で観察された。また、250℃以上においては、温度上昇に伴い、ZnO結晶子サイズの増大も観測された。200−250℃の温度範囲においては、温度上昇に伴って、ZnOの核生成と結晶成長が促進され、蛍光強度が飛躍的に増大した。その後、250−900℃の範囲においては、過剰な結晶成長により、温度上昇に伴い蛍光強度が緩やかに減少したものと考えられる。
【0055】
ハイドロタルサイトからZnOへの相転移及びZnOナノ粒子の結晶成長は、ZnOの蛍光特性に対して強い影響を有している。230℃以下の低温では、ZnOの結晶化が十分には進行せず、また、300℃以上の高温では、ZnOの結晶成長が過剰に進行するものと考えられる。250℃での加熱においては、最適なZnOの結晶成長が進行し、蛍光特性を飛躍的に向上させたものと考えられる。
【0056】
蛍光特性に対する結晶化の影響は、加熱処理時間の検討とも一致する。250℃で6時間加熱処理したZnOナノ粒子の蛍光強度は、250℃で3時間加熱したZnOの蛍光強度よりも低いものであり、加熱時間の増加に伴い、蛍光強度は更に減少した。ハイドロタルサイトからZnOへの結晶化には、250℃での加熱が必要ではあるものの、この温度においては、ZnOの更なる結晶成長も進行するため、加熱時間の増加に伴い結晶が過剰に大きく成長し、かつ、欠陥も減少させながら結晶性も向上したため、量子サイズ効果、表面効果、酸素欠陥が減少し、蛍光強度が減少したものと考えられる。
【0057】
一方、Al無添加のZnOは、加熱温度の上昇に伴い、蛍光強度が緩やかに増加した。ZnOのX線回折ピーク強度も、温度上昇に伴い増加した。温度上昇により前駆体からZnOへの相転移及びZnOの結晶成長が促進され、ZnOの析出量が増加したため、蛍光強度が増加したものと考えられる。これらの結果は、Al添加ZnOナノ粒子が、従来の純粋なZnOとは明らかに異なった材料系であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上詳述したように、本発明は、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子及びその作製方法に係るものであり、本発明により、Zn−Al系ハイドロタルサイトを前駆体に用いて、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を合成することができる。それにより、Al含有アモルファス成分により、ZnOナノ粒子を凝集させずに、分散した状態のまま、ZnOナノ粒子をAl含有アモルファスマトリックス中に固定化することが可能である。本発明により、次世代発光デバイスとして期待されている酸化亜鉛について、ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性を満たすZnOナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子の透過型電子顕微鏡像を示す。(a)はAl添加量42%、(b)はAl添加量23%。共に250℃にて大気中3時間加熱処理した。
【図2】100、002又は、101面の積層方向に対する結晶子サイズのAl濃度依存性を示す。結晶子サイズは、XRD及びTEM観察により見積もった。
【図3】Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子のフォトルミネッセンス像を示す。粒径は、(a)が14nm、(b)が5.5nm、(c)が4nm、(d)が2.5nm。励起光は、可視光、紫外光312nm又は紫外光UV light254nm。
【図4】Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子のフォトルミネッセンススペクトル(a)及び吸収スペクトル(b)を示す。粒径は、14nm,5.5nm,4nm又は2.5nm。(c)は、低温における、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子のフォトルミネッセンススペクトルを示し、(d)は、低温における、Al含有アモルファスマトリックス中に固定化されたZnOナノ粒子のフォトルミネッセンススペクトルの温度依存性を示す。
【図5】Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子のフォトルミネッセンス発光強度の加熱温度依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOナノ粒子の微小化、高分散性、高安定性を満たしたZnOナノ粒子であって、Al含有アモルファス成分により、ZnOナノ粒子を凝集させず、分散した状態のまま固定化したことを特徴とするAl含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子。
【請求項2】
Al含有アモルファスマトリックスが、ハイドロタルサイトを230−300℃で加熱して得られるAlリッチ領域である、請求項1記載のZnOナノ粒子。
【請求項3】
主にZnO結晶からなる領域と主にアモルファス成分からなる領域を有するZnOナノ粒子分散アモルファスマトリックスからなる、請求項1記載のZnOナノ粒子。
【請求項4】
ZnOナノ粒子の粒径が、2−3nmである、請求項1記載のZnOナノ粒子。
【請求項5】
UV光励起により蛍光発光する、請求項1記載のZnOナノ粒子。
【請求項6】
Al含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子を作製する方法であって、Zn(NO・(1.0−xM),Al(NO(xM)及び尿素を含む水溶液(ただし、xはZnに対するAlの比率で0〜1を表す。)を調製し、加熱、保持した後、析出物として析出させた前駆体ハイドロタルサイトを加熱して、ZnOナノ粒子とアモルファスマトリックスのナノコンポジットを合成することを特徴とするAl含有アモルファスマトリックス中に固定化したZnOナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
Znに対するAlの比率を代えて、Al添加量の異なるナノコンポジットを合成する、請求項6記載のZnOナノ粒子の製造方法。
【請求項8】
前駆体ハイドロタルサイトを、大気中で230〜300℃で加熱する、請求項6記載のZnOナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
Zn−Al系ハイドロタルサイト化合物を作製する方法であって、Zn(NO・(1.0−xM),Al(NO(xM)及び尿素を含む水溶液(ただし、xはZnに対するAlの比率で0〜1を示す。)を調製し、加熱、保持した後、析出物として析出させることを特徴とするZn−Al系ハイドロタルサイト化合物の作製方法。
【請求項10】
請求項1から5のいずれかに記載のZnOナノ粒子からなることを特徴とする蛍光発光部材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−169054(P2008−169054A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−1182(P2007−1182)
【出願日】平成19年1月9日(2007.1.9)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】