説明

Au極細線の巻き替え装置

【課題】トランジスタ、LSI、ICなど半導体素子のチップ電極と外部リード部とを接続するために用いるボンディングワイヤーとしてのAu極細線をスプールに巻き替える装置に関するものである。
【解決手段】繰出し機1と、第一固定シーブ2および第二固定シーブ2´と、該第一および第二固定シーブの間でかつ該第一および第二固定シーブよりも上方位置に取り付けられた上下動自在なダンサーシーブ5と、巻取り機6とを有するAu極細線の巻き替え装置であって、該ダンサーシーブ5は磁力により上方に付勢されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トランジスタ、LSI、ICなど半導体素子のチップ電極と外部リード部とを接続するために用いるAu極細線をスプールに巻き替える装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、トランジスタ、LSI、ICなど半導体素子のチップ電極と外部リード部とを接続するためのボンディングワイヤーとして、Au極細線が用いられており、このAu極細線は太径の素線材を圧延機および伸線機などで細径化し、細径化した細線は最終線径伸線機を経て最終線径:20〜100μmのAu極細線とし、この伸線されたAu極細線は一般に巻取り機によってスプールに巻き取られて貯蔵される。このAu極細線がボンディングワイヤーとして良く用いられる線径は20〜50μmである。そして、このスプールに巻かれていたAu極細線は、必要に応じて取り出され、Au極細線の組織を均一にして目的の強度を得るために温度:300〜700℃で焼鈍され、必要に応じて冷却液槽中の冷却液内を通過させてスプールに巻き取られる。前記スプールに巻き取られたAu極細線は、再び繰出されて半導体素子のチップ電極と外部リード部とを接続するボンディング装置に適する大きさのスプールに巻き取ることにより巻き替えが行われる。
【0003】
このボンディング装置に適する大きさのスプールに巻き取るための従来のAu極細線巻き替え装置を図5に基づいて一層具体的に説明する。まず、伸線されたAu極細線を巻き取ったスプール(図示せず)を繰出し機1にセットし、スプールに巻き取られているAu極細線3を繰り出し、このAu極細線3を第一固定シーブ2、ダンサーシーブ5、第二固定シーブ2´の順に掛けた後、ガイドシーブ4に掛け、巻取り機6にセットされているスプール(図示せず)に巻き取られるようになっている。従来のダンサーシーブ5は、図5に示されるように、第一固定シーブ2および第二固定シーブ2´よりも下方に設けられており、Au極細線3を巻き取っている間は、上昇および下降するダンサーシーブ5の変位量を検出することでAu極細線3の繰り出し速度を調整し、それによってAu極細線3にかかる張力を制御するようになっている。このダンサーシーブを上昇および下降させてAu極細線3の張力を制御する電磁式張力制御装置の一例が図4の断面側面図に示されている。この装置において、磁気コイル7に接して固定された固定板13が設けられており、一方、回転板14が前記固定板13に接近して回転軸8に固定され設けられている。回転板14は時計回りおよび反時計回りの回転が可能となっており、磁気コイル7に電流を流すことにより固定板13に発生した磁力によって元の位置に戻される力(以下、復元回転力という)が働くようになっている。この復元回転力は極めて小さく、Au極細線3にかかる張力変化にしたがってダンサーシ−ブ5が上下動し回転軸8が回転可能となるような極めて小さな復元回転力がかかるようになっている。また回転軸8の先端には揺動アーム9の一端側が固定して取り付けられており、この揺動アーム9の他端側にはダンサーシ−ブ5が回転可能に取り付けられている。
この場合、巻戻し機1からのAu極細線3の繰り出し速度が早すぎてダンサーシ−ブ5が基準位置よりも下動した場合には、下働したダンサーシ−ブ5の偏位量を磁気センサー12で検出し、巻戻し機1の繰り出し速度を下げる。他方、巻戻し機1からのAu極細線3の繰出し速度を下げると、ダンサーシーブ5が上動するが、基準位置を越えて上動した場合には、同じく磁気センサー12で検出され、巻戻し機1の繰り出し速度を上げることによって、たえずダンサーシーブ5を基準位置で保持するように制御されている。
この動作は、ダンサーシ−ブ5の上下動に伴う回転軸8の位相変化を磁気センサー12で検知して制御信号が繰出し機1に発せられ、繰出し機1の回転を制御してAu極細線3にかかる張力を調整できるようになっている。そしてこの電磁式張力制御装置10における揺動アーム9にはダンサーシーブ5の重量をバランスさせるためのウエイトバランススプリング11の一端が接続されており、さらにウエイトバランススプリング11の他端が支持棒12に接続されている。このウエイトバランススプリング11のばね力によって揺動アームを上方に付勢し、ダンサーシーブ5の重量を打ち消すように調整されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平11−171404号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のAu極細線巻き替え装置では、ダンサーシーブ5が第一固定シーブ2および第二固定シーブ2´よりも下方に設けられ、Au極細線を下方に付勢しながら制御しているため、Au極細線にはダンサーシーブの復元力を受けることになる。ここでAu極細線の受ける張力をダンサーシーブの重力より小さい張力で制御しようとした場合、ダンサーシーブの復元力をさらに小さくすることとなり、その結果、ダンサーシーブの振幅が大きくなってしまって、Au極細線の受ける張力が大きく変動するという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者は、かかる課題を解決すべく研究を行った結果、図1のAu極細線の巻き替え装置の説明図に示されるように、ダンサーシーブ5を第一固定シーブ2および第二固定シーブ2´よりも上方に設置し、巻戻し機1にセットされているスプール(図示せず)から巻戻されたAu極細線3を第一固定シーブ2の下側に掛けたのちダンサーシーブ5の上に掛け、さらに第二固定シーブ2´の下側に掛けたのちガイドシーブ4を通過させて巻取り機6にセットされているスプール(図示せず)に巻き取られるように供給し、Au極細線を上方に付勢するようにすれば、ダンサーシーブ5の重量より小さい低張力で制御する場合でも、ダンサーシーブ5の重量を加味して復元力を大きくすることができる結果、ダンサーシーブ5の振幅を小さくすることができ、Au極細線を低張力であっても安定して制御することができる、という研究結果が得られたのである。
【0006】
この発明は、かかる研究結果に基づいて成されたものであって、
(1)繰出し機と、第一固定シーブおよび第二固定シーブと、該第一および第二固定シーブの間でかつ該第一および第二固定シーブよりも上方位置に取り付けられた上下動自在なダンサーシーブと、巻取り機とを有するAu極細線の巻き替え装置であって、該ダンサーシーブは上方に付勢されているAu極細線の巻き替え装置、
(2)前記ダンサーシーブは磁力によって上方に付勢されている前記(1)記載のAu極細線の巻き替え装置、に特徴を有するものである。
【発明の効果】
【0007】
この発明のAu極細線の巻き替え装置によると、Au極細線をダンサーシーブの重量より小さい低張力で制御する場合でも、ダンサーシーブの重量を加味して復元力を大きくすることができる結果、ダンサーシーブの振幅を小さくすることができ、Au極細線を低張力であっても安定して制御することができるなど、産業上すぐれた効果をもたらすものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この発明のAu極細線の巻き替え装置を図1〜3に基づいて一層詳細に説明する。図1はこの発明のAu極細線の巻き替え装置の説明図であり、図2はこの発明のAu極細線の巻き替え装置で使用する電磁式張力制御装置の断面図であり、図3は図2におけるA方向から見た電磁式張力制御装置の正面図である。
図1に示されるように、この発明のAu極細線の巻き替え装置は、ダンサーシーブ5を第一固定シーブ2および第二固定シーブ2´の間でかつ第一固定シーブ2および第二固定シーブ2´よりも上方に位置して設置している。この発明のAu極細線の巻き替え装置を使用してAu極細線を巻き替えるには、まず、巻戻し機1にセットされているスプール(図示せず)から巻戻されたAu極細線3を第一固定シーブ2の下側に掛けたのちダンサーシーブ5の上側に掛け、さらに第二固定シーブ2´の下側に掛けたのちガイドシーブ4を通過させて巻取り機6にセットされているスプール(図示せず)に巻き取られるように配線する。Au極細線3を電磁式張力制御装置10に設けられたダンサーシーブ5に掛けるには、まず、図3の点線で示されるようにXの状態でAu極細線3をダンサーシーブ5に掛ける。その後、図3のYの位置までダンサーシーブ5を持ち上げると、位置検出センサー12が回転位置を検出し、繰出し機1を作動させてAu極細線の巻き替えが行われるようになっている。
【0009】
この発明で使用するダンサーシーブ5を上昇および下降させてAu極細線3の張力を制御する電磁式張力制御装置を図2に基づいて説明する。この電磁式張力制御装置10には磁気コイル7とともに固定された固定板13が設けられており、一方、回転板14が前記固定板13に接近して回転軸8に固定して設けられている。また回転軸8の先端には揺動アーム9の一端側が固定して取り付けられており、この揺動アーム9の他端側にはダンサーシ−ブ5が回転可能に取り付けられている。回転板14には磁気コイル7に電流を流すことにより固定板13に発生した磁力によって元の位置に戻される復元回転力が働くようになっている。この復元回転力は極めて小さく、ダンサーシ−ブ5がAu極細線3にかかる張力変化にしたがって上下動するのを妨げない程度の極めて小さな復元回転力である。
Au極細線の巻き替え中にAu極細線3にかかる張力が基準値よりも小さくなるとダンサーシ−ブ5が上動して回転軸8を反時計回りに回転させ、回転軸8の位相変化を磁気センサー12で検知して制御信号が繰出し機1に発せられ、繰出し機1の回転が小さくなるように制御してAu極細線3にかかる張力を基準値に戻し、一方、Au極細線3にかかる張力が基準値よりも大きくなるとダンサーシ−ブ5が下動して回転軸8を時計回りに回転させ、回転軸8の位相変化を磁気センサー12で検知して制御信号が繰出し機1に発せられ、繰出し機1の回転が速くなるように制御してAu極細線3にかかる張力を基準値に戻すことができるようになっている。この動作は、ダンサーシ−ブ5の上下動に伴う回転軸8の位相変化を磁気センサー12で検知して制御信号が繰出し機1に発せられ、繰出し機1の回転を制御してAu極細線3にかかる張力を調整できるようになっている。Au極細線3の巻き替えが行われている間、ダンサーシーブ5を磁力によりダンサーシーブ5の重量を磁力で打ち消すように常に付勢されているから、従来のようにダンサーシ−ブ5の振幅を抑えることができ、Au極細線を低張力であっても安定して制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明のAu極細線の巻き替え装置を説明するための側面説明図である。
【図2】この発明のAu極細線の巻き替え装置で使用する電磁式張力制御装置の断面説明図である。
【図3】この発明のAu極細線の巻き替え装置で使用する電磁式張力制御装置の正面説明図である。
【図4】従来のAu極細線の巻き替え装置で使用する電磁式張力制御装置の断面説明図である。
【図5】従来のAu極細線の巻き替え装置を説明するための側面説明図である。
【符号の説明】
【0011】
1 繰出し機
2 固定シーブ
2´ 固定シーブ
3 Au極細線
4 ガイドシーブ
5 ダンサーシーブ
6 巻取り機
7 磁気コイル
8 回転軸
9 回転アーム
10 電磁式張力制御装置
11 ウエイトバランススプリング
12 支持棒
13 固定板
14 回転板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰出し機と、第一固定シーブおよび第二固定シーブと、該第一および第二固定シーブの間でかつ該第一および第二固定シーブよりも上方位置に取り付けられた上下動自在なダンサーシーブと、巻取り機とを有するAu極細線の巻き替え装置であって、該ダンサーシーブは上方に付勢されていることを特徴とするAu極細線の巻き替え装置。
【請求項2】
前記ダンサーシーブは磁力によって上方に付勢されていることを特徴とする請求項1記載のAu極細線の巻き替え装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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