説明

B因子の抑制、補体活性化第二経路、およびそれに関連する方法

補体活性化第二経路の新規抑制剤、特に新規抗B因子抗体の開示。また、補体活性化第二経路を選択的に抑制して気道過敏性および/または気道炎症の緩和または予防を行い、それによって前記症状が関与する疾患を処理するための前記抑制剤の使用の開示。また、補体活性化第二経路を抑制して虚血再かん流傷害を含む他の疾患および症状を緩和または予防するための前記抑制剤の使用の開示。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、補体活性化第二経路の新規抑制剤に関し、より詳しくは新規抗B因子抗体に関する。また、本発明は概して、気道過敏性および気道炎症を緩和または予防し、それによってそのような症状が関与する疾患を処置するための前記抑制剤の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
補体活性化は主に3つの経路によって起こる。すなわち、いわゆる古典経路、レクチン経路、および第二経路である。第二経路の活性化に関係するキー・タンパク質は、B因子(fB)およびD因子(fD)である。これらのタンパク質は、協働してC3の活性化の開始および/または増幅を行い、多くの炎症性事象が生ずる原因となる。第3のタンパク質であるプロペルジンは、C3とB因子との複合体を安定化させるが、第二経路を機能させることには全く必要とされない。B因子も免疫複合体の可溶化を助け、B細胞増殖因子として作用すること、および単球を活性化させることが報告されている(Takahashi,1980;Hall,1982;Peters,1988)。B因子欠損マウス(fB−/−マウス)が作られており、これらのマウスではT細胞依存性抗原に対するIgG1抗体応答と内毒素性ショックに対する感受性とが正常に発現する(Matsumoto,1997)。
【0003】
補体活性化第二経路は通常、細菌、寄生虫、ウイルス、または菌類によって開始されるが、IgA抗体および特定の免疫グロブリンL鎖もこの経路を活性化させることが報告されている。第二経路の活性化は、循環するB因子が活性化C3(C3bまたはC3H2Oのいずれか)に結合する際に生ずる。次に、この複合体は循環D因子によって切断されて、酵素的に活性なフラグメントであるC3Bbを生じる。C3BbはC3を切断してC3bを生じ、それが炎症を促進させるとともに活性化プロセスをさらに増幅させて、正フィードバック・ループを生じる。第二経路の活性化を可能にするには、両方の構成要素(B因子およびD因子)が必要である。
【0004】
最近の研究は、いくつかの動物疾患モデルの発症機序で補体第二経路が重要な役割を演じることを示している。I/R後の腎臓内での補体活性化は、ほぼ全て第二経路によって媒介され(Thurman)、また第二経路は関節炎の発症で重要な役割を果たす。おそらく最も驚くべきことは、第二経路が欠けたマウスは、ループス腎炎のMRL/lprモデルにおける腎炎(Watanabe)および抗リン脂質媒介胎児死亡(Girardi)(これらは昔から補体古典経路によって媒介されると考えられていたモデルである)から守られることが示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
活性化の種々の段階で補体系を抑制するいくつかの抑制剤がすでに開発されている(Holers)。しかし、第二経路の特異的抑制剤は、本発明に先立って大きく報告されるようなことはなかった。国際公開第01/47963号パンフレット(2001年7月4日公開)には、生体外での補体活性化第二経路を抑制するとともに、古典的経路による補体活性化に対しては実質的な作用を示さない外寄生生物ヒル由来のポリペプチドが記載されている。これらのペプチドはD因子と結合することが示された。しかし、これらのポリペプチドの生体内適用については何ら示されていなかった。生体内で第二経路を特異的に抑制する性質を有する試薬は、補体カスケードの既存の抑制剤と比べて、理論的にはいくつかの利点を持つと考えられる。はじめに、第二経路によって主に媒介される腎臓I/Rおよび抗リン脂質媒介胎児死亡等のモデルについては、このような抑制剤は汎補体抑制剤と同様の効果はあるが免疫抑制副作用は少ないはずである。B因子が先天的に欠損している一人のヒト患者のみが報告されている(Densen)。しかし、遺伝子標的化B因子欠損マウス(fB−/−)の研究は、この因子に対する免疫調節効果について依然として何も示していない(Densen; Matsumoto)。対照的に、古典経路成分の先天性欠損患者には感染(最も一般的にはブドウ球菌および連鎖球菌)のリスク増加があるように見える。古典的経路成分またはC3(補体経路の全てに共通)の抑制もまた自己免疫に関連していると思われ(Figueroa)、おそらくB因子欠損によって糸球体腎炎の発症からMRL/lprマウスが守られるが、C3欠損では守られないことを説明している(Watanabe)。このように、第二経路の抑制は、より耐容性が高く、いくつかの例では古典経路補体抑制剤よりもよりいっそう効果的であろう。
【0006】
アレルギー性喘息は、気道炎症および気道過敏性(AHR)を伴う一般的な症状である(Busse)。アレルギー性喘息患者で、吸入されたアレルゲンへの暴露がAHRおよび気道炎症の増加をもたらし、また研究によって気管支肺胞洗浄(BAL)液中でタンパク質の補体C3、C4、およびC5ファミリー、特にC3a(Humbles)およびC5a(Krug)に由来する生物学的に活性のあるフラグメントの濃度が増加することが示されている。このことは、これらの患者で、アレルゲン暴露後、アレルゲンによって誘発された機構を介して補体経路の活性化が肺で生ずることを示唆している。動物モデルによって、アレルギー性気道疾患の発症に対する補体の役割がさらに洞察されている。C3欠損動物またはC3aレセプター動物は、アレルゲン性誘導気道疾患の発症から守られているように思われる(Humbles,Drouin;Bautsch;Walters)。
【0007】
アレルゲン暴露後の補体活性化の誘導について、いくつかの異なる可能性が提案されている。例えば、アレルゲン−IgG免疫複合体は古典経路の活性化を引き起こす可能性があり、特定の抗原が第二経路を経てC3を直接活性化させると思われる(Kohl)。さらに、肥満細胞または肺マクロファージから放出される中性トリプターゼは、C3またはC5のいずれかを直接(タンパク質分解的に)切断すると思われる(Schwartz;Mulligan)。補体活性化の3通りの経路(古典、第二、およびレクチン)は、中心補体成分C3に集中する。したがって、C3活性化の抑制は、活性C3フラグメントへの切断を妨げるが、C5の下流活性化およびC5由来活性化フラグメントの放出を著しく減少させる(Sahu)。最近の研究は、C3コンベルターゼ抑制剤を用いて感作動物のアレルゲン暴露中における補体活性化の抑制を示し、したがって3通りの活性経路を全て抑制することでAHRおよび気道炎症の発症(Taube)と同様に遅延気道反応(Abe)が減少する。国際公開第2004/022096号パンフレット(2004年3月18日公開)には、補体経路を抑制、好ましくは全ての経路で共有されるC5〜C9の終末補体成分を介して、最も好ましくはC5aを介して抑制することが記載されている。
【0008】
現在、中等度ないし重度の喘息および慢性閉塞性肺疾患等のAHRを伴う炎症性疾患を処置するための療法は、副腎皮質ステロイドおよび他の抗炎症薬の使用を主に必要とする。しかし、これらの薬剤には重大な副作用が生ずる可能性があり、このような副作用として、限定されるものではないが、感染症を起こしやすいこと、肝臓毒性、薬物性肺疾患、および骨髄抑制が挙げられる。したがって、そのような薬物は、気道過敏性を伴う肺疾患を処置するための臨床用途では制限されている。抗炎症性および症状軽減試薬の使用では、副作用があること、あるいは炎症反応の根本原因を攻めることができないことが深刻な問題である。有害性がより少なく、より効果的な、炎症を処置するための試薬が依然として求められている。したがって、副作用プロフィールがより低く、毒性が低く、さらに喘息およびAHRとして知られる症状等、アレルギー性気道疾患の根本原因に対してよりいっそう特異的である試薬を用いたプロセスの必要性が残されている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態は、第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に選択的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントに関し、この抗体がC3bBb複合体の形成を妨げる。一態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントはB因子に結合し、D因子による因子Bの切断を防止または抑制する。別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、ヒトB因子の第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合する。別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、B因子の第3のSCRドメインのエピトープに結合し、このエピトープは、(a)おおよその位置Tyr139からおおよその位置Ser185までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB因子配列のそれらに等価な位置を含むB因子のエピトープ、(b)おおよその位置Tyr139からおおよその位置Ser141までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分、または非ヒトB配列のそれらに等価な位置を含むB因子のエピトープ、(c)おおよその位置Glu182からおおよその位置Ser185までを含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB配列のそれらに等価な位置を含むB因子のエピトープ、あるいは(d)以下の位置のうち、任意の1つ以上を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分または非ヒトB配列のそれらに等価な位置を含むB因子のエピトープから選択される:Tyl39、Cys140、Ser141、Glu182、Gly184、またはSer185。さらに別の態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、以下のアミノ酸位置の1つ以上または非ヒトB配列のそれらに等価な位置を含むB因子(配列番号2)の第3のSCRドメインのエピトープに対して選択的に結合する:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192。別の態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、以下のアミノ酸位置または非ヒトB配列のそれらに等価な位置を含むB因子(配列番号2)の第3のSCRドメインのエピトープに対して選択的に結合する:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192。さらに別の態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、以下のアミノ酸位置または非ヒトB因子配列のそれらに等価な位置からなるB因子(配列番号2)の第3のSCRドメインのエピトープに対して選択的に結合する:Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192。抗体または抗原結合性フラグメントは、B因子の第3のSCRドメインの一部分の3次元構造内の非線形エピトープに結合することができ、上記部分が配列番号2の少なくともアミノ酸位置Ala137〜Ser192または非ヒトB因子配列の等価な位置によって規定される。別の態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、多数のほ乳類種(例えば、ヒトと、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、馬、およびウサギからなる群から選択される一種類の動物)由来のB因子に対して選択的に結合する。抗体または抗原結合性フラグメントは、非補体活性化アイソタイプまたはサブクラスのもの、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、二重特異性抗体、または一価抗体である。抗原結合性フラグメントはFabフラグメントを含むことができる。好ましい実施形態では、抗体はモノクローナル抗体1379(ATCC寄託番号PTA−6230によって産生)である。
【0010】
本発明の別の実施形態は、多数のほ乳類種に由来するB因子に対して選択的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントに関し、抗体がC3bBb複合体の形成を妨げる。一態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ヒトと、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、馬、およびウサギからなる群から選択される動物とに由来するB因子に対して、選択的に結合する。一態様では、抗体は非補体活性化アイソタイプまたはサブクラスである。別の態様では、抗体はモノクローナル抗体である。別の態様では、抗原結合性フラグメントはFabフラグメントである。
【0011】
本発明のさらに別の実施形態は、第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に対して選択的に結合する抗原結合ポリペプチドに関し、抗原結合ポリペプチドがC3bBb複合体の形成を妨げるか、または多数の哺乳類種に由来するB因子に対して選択的に結合する抗原結合ポリペプチドに関し、抗原結合ポリペプチドがC3bBb複合体の形成を妨げる。
【0012】
本発明の別の実施形態は、B因子に対して選択的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントに関し、抗体またはそのフラグメントが、ヒトB因子に対するモノクローナル抗体1379(ATCC寄託番号PTA−6230によって産生)の特異的結合を競合的に抑制し、さらに抗体またはその抗原結合性フラグメントがヒトB因子に結合する場合、補体活性化第二経路を抑制するモノクローナル抗体1379の性質が抑制される。一態様では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、ヒトB因子に対するモノクローナル抗体1379の結合を競合的に抑制し、比較結合特異性をヒトB因子の存在下、抗体−抗体競合アッセイによって決定する。
【0013】
本発明の別の実施形態は、ヒトB因子に対して選択的に結合する単離された抗体またはそのフラグメントに関し、単離された抗体またはそのフラグメントがヒトB因子に対する二次抗体またはその抗原結合性フラグメントの特異的結合を競合的に抑制し、二次抗体またはその抗原結合性フラグメントがヒトB因子の第3のSCRドメインに対して結合する。
【0014】
さらに本発明に包含されるものは、上記した抗体、抗原結合性フラグメント、または抗原結合ポリペプチドのいずれかを含む組成物である。
本発明のさらに別の実施形態は、動物の気道過敏性(AHR)または気道炎症を緩和または予防する方法に関する。この方法は、炎症を伴う気道過敏性または気道炎症を発症した、あるいは発症の危険性がある動物に対して、上記したような抗体またはその抗原結合性フラグメントを投与するステップを含む。一態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、経口、経鼻、局所、吸入、気管内、経皮、直腸、および非経口の経路からなる群から選択される経路によって投与される。別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントが、この抗体または抗原結合性フラグメントの投与前と比較して動物の気道過敏性を測定可能な程度に減少させるのに有効な量で動物に対して投与される。別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、この抗体または抗原結合性フラグメントが投与されず、炎症を有する動物の集団での気道過敏性の程度と比較して、動物での気道過敏性を測定可能な程度に減少させるのに有効な量で動物に対して投与される。一態様では、抗体または抗原結合性フラグメントの投与が、メタコリンまたはヒスタミンに対する動物の反応を減少させる。別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、分散可能な乾燥粉末、無水エタノール、小カプセル、リポソーム、噴霧化スプレー、および注射可能な賦形剤からなる群から選択される薬学的に許容可能な担体によって投与される。別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、無水エタノール、乾燥粉末吸入装置、超音波吸入装置、加圧定量吸入器、および定量溶液装置からなる群から選択される担体または装置で投与される。さらに別の態様では、抗体または抗原結合性フラグメントは、コルチコステロイド、β−アゴニスト(長期または短期作用)、ロイコトリエン修飾因子、抗ヒスタミン剤、フォスフォジエステラーゼ抑制剤、クロモグリク酸ナトリウム、ネドクロミル、テオフィリン、サイトカイン拮抗剤、サイトカイン受容体拮抗剤、抗IgE、およびT細胞機能抑制剤からなる群から選択される薬剤と併用して哺乳類に投与される。さらに別の態様では、気道過敏性または気道炎症は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、気腫、気管支炎、アレルギー気管支炎気管支拡張症、嚢胞性線維症、結核、過敏性肺炎、職業性喘息、サルコイド、反応性気道疾患症候群、間質性肺疾患、好酸球増多症候群、鼻炎、副鼻腔炎、運動誘発喘息、汚染誘発喘息、咳喘息、寄生虫性肺疾患、RSウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、ライノウイルス(RV)感染症、およびアデノウイルス感染症からなる群から選択される疾患を伴う。一態様では、気道過敏性はアレルギー性炎症を伴う。本発明の方法は、好ましい実施形態で、哺乳類、より好ましくはヒトに対して投与され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態は、補体活性化第二経路を選択的にブロックする新規のB因子抗体の提供と、そのような抗体による抑制の必要性または有用性がある、あるいは有用性があると思われる任意の状態または疾患の補体活性化第二経路で、該補体活性化第二経路の抑制に当該抗体を用いることに関する。具体的には、多くの疾患に対する処置方法に使用される補体活性化第二経路に特異的な抑制が潜在的に高い治療的有用性を持つことを鑑みて、本発明者はB因子に対するいくつかの新規な抑制性モノクローナル抗体を発明した。これらの抗体のいくつかを特徴づけ、さらにこれらの抗体の一つをより詳しく特徴づけた。この抗体を、アレルギー性炎症および喘息の周知モデルと、一般に虚血再かん流傷害に適用可能な腎臓虚血再かん流傷害のモデルとの両方で、生体内のみならず生体外で試験した。そのような抗体を産生するために、遺伝子標的化B因子欠損マウス(fB−/−)に対して、免疫グロブリンに結合したB因子の第2および第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメインから構成される融合タンパク質を注射した。B因子に対する免疫応答についてマウスをスクリーニングし、注射されたマウスの一匹から得た脾臓細胞をミエローマ細胞に融合させた。得られたハイブリドーマのうちの一つ(1379と命名)が、生体外および生体内での補体活性化第二経路活性化を抑制するIgG抗体を産生するが、本発明者は補体活性化第二経路を抑制する性質を持つ多数のモノクローナル抗体を生産し、且つ特徴づけた(表4を参照)。1379抗体(本願ではmAb1379ともいう)は、マウス、ラット、ヒト、ヒヒ、アカゲザル、カニクイザル、ブタ、ウサギ、および馬等の多数の動物種から得た血清で第二経路活性化を抑制する。この抗体から作られるFabフラグメントもまた、第二経路を完全に抑制する。本発明者によって、この抗体がヒト血清による赤血球の溶解を完全に抑制し得ることも示されたことから、この試薬が補体活性化第二経路活性化を完全にブロックする性質を持つと認められる。エピトープ・マッピングを用いて、この抗体が第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメイン内のB因子に結合すること、またこの抗体がC3bBb複合体の形成を阻害することを示した。この抗体によって認識されるエピトープについては以下に詳しく説明する。したがって、本発明の一実施形態は、広範囲に及ぶ種反応性を持ち、かつ生体外および生体内で有効性を示す、活性化第二経路の選択的阻害剤、特にそれら新規のB因子抗体と、補体経路の選択的抑制が有用、必要、および/または好ましい種々の状態および疾患のいずれかで使用する極めて有効な治療ツールとに関する(例えば、気道過敏性および気道炎症(以下を参照)、虚血再かん流傷害等の状態)。これらの抗体は、ヒト化、さもなければ免疫系による潜在的な副作用を減少させる操作が施されることで、有益な新規治療用薬剤となり得る。
【0016】
本発明者によって産生される抗体は、B因子上の部位を認識する。この部位は、前臨床での検証および原則的な試験が実施される哺乳類のいくつかの種(ヒトを含む)で共通した部位であり、ヒト疾患モデルでの発見をただちにヒトの治療に転換することを可能にする。本発明の前に、本発明者は、B因子に対するその他の抗体、すなわち本発明の抗体が行うような広範囲な種にわたるそのようなタンパク質の抑制を行う抗体については知見を得ていない。したがって、本発明者は、新規な抑制剤の開発が可能となるB因子上の特異部位も同定した。特異的な治療標的としてB因子および他のタンパク質を補体活性化第二経路内で同定することによって、合理的な治療戦略とともに、気道の炎症性疾患および他の疾患を治療するために追い求められるリード化合物が得られる。第二経路を選択的にブロックすることには利点がある。例えば、fB−/−(B因子欠損)ではないC4−/−マウス(古典経路、第二経路、およびレクチン補体経路にとって一般的であるC4補体成分が欠けたマウス)は、実験的な細菌感染症に対してより影響を受けやすくなり、古典経路をそのままにしておくことで、第二経路の抑制剤は重い感染症のリスクが少なくなることを示唆している。古典経路をブロックすることも自己免疫をもたらすと考えられ、古典経路を先天的に欠損した患者は感染および自己免疫のリスクが高い。第二経路を選択的に抑制することで、C3aレセプターに対するC3由来リガンドと補体レセプター1〜4およびC5aに対するものとの生成が妨げられる。第二経路をブロックする効果は、未だ特徴付けは不十分ではあるけれども、活性化プロセスの過程で生ずるB因子のBaまたはBb活性化産物に対するレセプターにより、実際により直接的である。
【0017】
本発明の別の実施形態は、第二経路を介する補体カスケードの活性化は重大であり、また実際に気道過敏性および気道炎症の発症にとって必要かつ十分であるという、本発明者による驚くべき発見に関する。より詳しくは、本発明者は、古典的補体経路ではなく第二経路の抑制が気道過敏性を予防し、気道炎症を減少させるという発見を本願で開示する。本発明者は、この発見を、B因子欠損のマウスを用いて(ノックアウト技術を介して)およびモノクローナル抗体によるB因子の抑制によって(すなわち、全身投与およびエアゾールによる送達を)示す。したがって、本発明者は、これによって、または他の任意の手段(例えば、D因子またはプロペルジンの欠損または抑制)によって補体活性化第二経路を選択的に抑制することで、気道過敏性および気道炎症を抑制することを本願で開示している。本発明者は、B因子が実験的な喘息の誘導に必要であることを示した。重要なことは、B因子がこのモデルの攻撃(またはエフェクター)相にとって必須であり、B因子に選択的に結合するモノクローナル抗体の肺への吸入または全身投与が、実験的喘息モデルで例示されるように、アレルギー性炎症疾患に伴う気道過敏性(AHR)および気道炎症の発症をブロックする。さらに、本発明者は、このモデル系で、C4ノックアウト(C4−/−)マウスがAHRから保護されなかった一方で、B因子ノックアウト(fB−1/−)マウスがAHRから保護されたことを別の結果が示したことから、この抑制が第二補体経路の抑制を介して特異的に達成されることを発見した。したがって、本発明者は、補体活性化第二経路の抑制(任意の手段によって)がAHRおよび気道炎症を抑制するのに必要かつ十分であること、これによって関連した状態および疾患の治療または予防が行われることを発見した。さらに、本発明者は、古典的補体経路の抑制がAHRまたは気道炎症の抑制に必要ではなく、そのため、上記したように古典的補体経路の抑制に伴う望ましくない結果が本発明の教示により回避され得ることを示す。
B因子抗体
したがって、本発明の第1の実施形態は、補体活性化第二経路を選択的に抑制する抗体またはその抗原結合性フラグメントに関し、より詳しくはB因子抗体に関する。同様に、同一の特性を持つ抗原結合ポリペプチドもまた、本発明での使用にとって好ましい。一つの態様では、この抗体は、補体活性化第二経路のタンパク質に対して、このタンパク質が正常に相互作用(自然な状態または生理的状態下で)する別のタンパク質に対して結合することを抑制または予防するようにして選択的に結合する。別の態様では、この抗体はタンパク質に対して選択的に結合し、このタンパク質が少なくとも部分的に他のタンパク質と結合することが可能であるけれども、この結合は正常に相互作用する別のタンパク質によって抗体が抑制または妨げられるようにして行われる。補体活性化第二経路の選択的抑制で使用される特に好ましい抗体およびその抗原結合性フラグメントとして、本願に記載されたB因子抗体と、特に本願中に詳しく記載されたmAb1379抗体とが挙げられる。
【0018】
本発明に基づいてB因子に対して選択的に結合し、且つ補体活性化第二経路を抑制する抗体(およびその抗原結合性フラグメント)を、本願中に詳しく記載および例証する。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、動物種の間、特に哺乳類種の間で保存されているそのようなタンパク質(例えばB因子)の保存結合面またはエピトープに結合する(すなわち、抗体は2種以上の異なる哺乳類種に由来するタンパク質と交差反応する)。特に、本発明は、少なくとも2つの哺乳類種、好ましくはいくつかの異なる哺乳類種に由来するB因子に対して結合する抗体を含み、そのような哺乳類種として、限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、馬、およびウサギが挙げられる。好ましくは、本発明は、ヒトと、少なくとも1つの別の動物種、好ましくは、限定されるものではないが、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、馬、およびウサギを含む別の哺乳類種の少なくとも1種類とに由来するB因子に結合する抗体を含む。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、B因子の第3の短コンセンサスリピート(SCR)に結合する。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、D因子によるB因子の切断を妨げるB因子の一領域に結合する。一実施形態では、抗体はモノクローナル抗体である。一実施形態では、抗体は本願で1379と呼ばれる抗体(すなわち、同一番号のハイブリドーマ細胞によって産生される抗体であり、ATCC寄託番号PTA−6230を含む)、あるいはその抗原結合性フラグメントである。
【0019】
1379として本願中に記載されたハイブリドーマ(またはmAb1379)は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約の規約に基づいて、2004年9月21日にアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC、10801 University Blvd, Manassas, VA 20110−2209に所在)に寄託されたものであり、ATCC寄託番号PTA−6230を有する。
【0020】
本発明によれば、タンパク質、タンパク質の一部(例えば、フラグメント、部分、ドメイン、その他)、またはタンパク質の領域もしくはエピトープの最小サイズが、生体外アッセイでの抗体または標的の生成のためのエピトープまたは保存結合面としての役割を果たす上で十分なサイズである。一実施形態では、本発明のタンパク質は、少なくとも約4、5、6、7、または8アミノ酸長(例えば、抗体エピトープに適しているか、アッセイで検出可能なペプチドとして)、または少なくとも約25アミノ酸長、または少なくとも約50アミノ酸長、または少なくとも約100アミノ酸長、または少なくとも約150アミノ酸長等であり、4アミノ酸から、最大でタンパク質またはその部分の全長以上であり、全整数(例えば、8、9、10、..25、26、..500、501、..)で表される。
【0021】
ヒトB因子および他の補体タンパク質をコードする遺伝子およびコード領域のヌクレオチド配列は、そのようなタンパク質のアミノ酸配列と同様に、当業者に周知である。例えば、ヒトB因子および他の補体タンパク質をコードする遺伝子は、NCBIデータベース受託番号NG_000013に見いだされる。B因子のコード配列は、NCBIデータベース受託番号NM_001710に見いだされ、またB因子プレタンパク質のアミノ酸配列はNCBIデータベース受託番号NP_001701またはP00751に見いだされる。NCBIデータベース受託番号P00751のアミノ酸配列(ヒト・プレタンパク質B因子配列)は、本願では配列番号1として表される。他の動物種由来の配列もまた公知である。比較を目的として、マウスB配列(例えば、NCBIデータベース受託番号P04186、本願では配列番号6で表す)では、第3のSCRドメインは、この761アミノ酸プレタンパク質の位置160〜217に配置され、成熟マウスB因子タンパク質は配列番号6の位置23〜761に延びる。
【0022】
配列番号1によって表されるヒトB因子プレタンパク質は、アミノ酸位置1〜25に延びるシグナル・ペプチドを有する764アミノ酸タンパク質である。B因子の成熟鎖は配列番号1の位置26〜764に一致し、本願では配列番号2によって表される。ヒトB因子の3つのSCRドメインは、本願では配列番号3(SCR1、Sushi1としても知られ、配列番号1の位置35付近から位置100付近まで延び、あるいは配列番号2の位置5付近から位置75付近まで延びる)、配列番号4(SCR2、Sushi2としても知られ、配列番号1の位置101付近から位置160付近まで延び、あるいは配列番号2の位置76付近から位置135付近まで延びる)、および配列番号5(SCR3、Sushi3としても知られ、配列番号1の位置163付近から位置220付近まで、または配列番号2の位置138付近から位置195付近まで延びる)で表される。
【0023】
好ましい一実施形態では、Hourcade,1995,J.Biol.Chem.(実施例を参照)に記載されたフラグメントを用いた本発明の典型的な抗体のエピトープ・マッピングに基づいて、本発明の抗B因子抗体が、好ましくは、第3のSCRドメインの一部内にあるか、または含まれるエピトープまたは保存結合面に対して、またより好ましくは、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関して位置Tyr139付近から位置Ser185付近までを含む配列の少なくとも一部分を含むヒトB因子のエピトープに対して、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関して位置Tyr139付近から位置Ser141付近までを含む配列の少なくとも一部分を含むヒトB因子のエピトープに対して、成熟B因子タンパク質(配列番号2)に関して位置Glu182付近から位置Ser185付近までを含む配列の少なくとも一部分を含むヒトB因子のエピトープに対して、以下の位置、Tyrl39、Cys140、Serl41、Glul82、Glyl84、もしくはSerl85、または非ヒトB因子配列にあるその等価な位置のいずれか1つ以上を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部分を含むヒトB因子のエピトープに対して、あるいは非ヒト動物種に関して等価な位置の少なくとも一部分を含むB因子のエピトープに対して結合する。当業者は、ヒトB因子の配列と、別の動物種に由来するB因子の配列とを容易に位置合わせ、上記のアミノ酸位置に一致する第3のSCR領域のSCR領域および特定部分の位置を決定することができる。例えば、本願に参照によって全体が組み込まれるTatusovaおよびMadden(1999)「Blast2配列−タンパク質とヌクレオチド配列とを比較するための新規ツール」、FEMS Microbiol Lett.174:247−250に記載されているBLAST2配列を用いて、2本の特異的配列を互いに位置合わせすることができる。
【0024】
本発明の典型的な抗体のマッピングおよび追加エピトープ・モデリングに基づいて、別の好ましい実施形態では、本発明の抗B因子抗体は、好ましくは配列番号2または非ヒトB配列にあるその等価位置に関して、以下のアミノ酸位置、A137、Y139、S141、E182、S185、T189、E190、およびS192の少なくとも1つ以上を含むB因子の第3のSCRドメインの一部または部分内にあるか、または含まれるエピトープ(保存結合面)に対して結合する。本発明の一態様では、エピトープは、配列番号2の以下のアミノ酸位置、Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192、の全てまたは実質的に全て(少なくとも5、6、または7つ)または非ヒトB因子配列のそれらの等価位置を含むB因子の第3のSCRドメインの部分の一部内にあるか、または含まれる。さらに別の態様では、本発明の抗B因子抗体によって認識されるエピトープは、配列番号2の以下のアミノ酸位置、Ala137、Tyr139、Ser141、Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、およびSer192、または非ヒトB配列にあるその等価位置からなるB因子の第3のSCRドメインの一部または部分内にあるか、または含まれる。
【0025】
一実施形態では、本発明のB因子抗体によって認識されるエピトープもまた、より詳しくは、B因子の第3のSCRドメインの一部分の3次元構造内に位置した非線形エピトープとして定義される。エピトープを含む部分は、配列番号2のアミノ酸位置Ala137〜Ser192の実質的に全て(少なくとも約90%)または非ヒトB配列にあるその等価位置によって、そのような配列が天然完全長B因子配列に生ずるにつれて立体的に配置される時に定義されるB因子の3次構造である。B因子の3次元構造のモデルはmAb1379のエピトープを例証するものであり、例えば図15および図16に例示されている。本願で用いられるように、タンパク質の「3次元構造」または「三次構造」は3次元タンパク質成分の配置のことをいう。そのような用語は当業者に周知である。本願で用いられるように、「モデル」という用語は、タンパク質、ポリペプチド、またはペプチドの3次元構造の有形的表現媒体による表現のことをいう。例えば、モデルは、電子ファイル内、コンピュータ・スクリーン上、紙面上(すなわち、2次元媒体上)、および/または棒線画としての3次元構造の表現である。
【0026】
本発明によれば、所定のタンパク質もしくはペプチドまたは他の分子の「エピトープ」は概して、抗体に関して、抗体またはその抗原結合性フラグメントが結合して抗体がそれに対して産生される、より大きな分子上の一部分または部位として定義される。エピトープという用語を、所定タンパク質または抗原の用語「抗原決定基」、「抗体結合部位」、または「保存結合面」と同義的に用いることができる。より詳しくは、エピトープは、抗体結合に関与するアミノ酸残基によって、また3次元空間での立体構造によって定義される(立体構造エピトープまたは保存結合面)。エピトープを約4〜6アミノ酸残基ほどの小さいペプチドに含めることができ、あるいはタンパク質のより大きなセグメントに含めることができ、エピトープの3次元構造に言及する場合、特に抗体結合エピトープに関して隣接アミノ酸残基から構成される必要はない。抗体結合エピトープは、連続エピトープ(すなわち、直線状エピトープ)よりはむしろ多くの場合立体構造エピトープであり、あるいは言い換えると、抗体が結合するタンパク質またはポリペプチドの表面上の3次元状に配列されたアミノ酸残基によって定義されるエピトープである。上記のように、立体構造エピトープは、アミノ酸残基の隣接配列から構成されるものではなく、その代わり残基がおそらく一次タンパク質配列で広く切り離され、3次元状態の天然立体構造にタンパク質が折りたたまれる方法によって集合して結合表面を形成する。mAb1379によって認識されるエピトープは、直線状エピトープではない立体構造エピトープである。
【0027】
当業者は、公知の技術を用いて立体構造エピトープおよび連続エピトープ、もしくは立体構造エピトープまたは連続エピトープを同定および組み立てる、もしくは同定または組み立てることができ、その技術として、限定されるものではないが、変異分析(例えば、部位特異的変異誘発)、タンパク質分解からの保護(タンパク質フットプリント法)、合成ペプチドおよびペプスキャン等を用い、BIACOREまたはELISAを用いるミモトープ分析、抗体競合マッピング、組み合わせペプチド・ライブラリー・スクリーニング、マトリックス支援レーザー脱着/イオン化飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析法、または3次元モデリング(例えば、任意の適当なソフトウェア・プログラムが挙げられ、限定されるものではないが、例えばMOLSCRIPT2.0(Avatar SoftwareAB,Heleneborgsgatan21C,SE−11731Stockholm,Sweden)、グラフィカル・ディスプレイ・プログラムO(Jones et. al.,Acta Crystallography,vol.A47,p.110,1991)、またはグラフィカル・ディスプレイ・プログラムGRASP、またはグラフィカル・ディスプレイ・プログラムINSIGHTが挙げられる。例えば、分子置換または他の技術と関連タンパク質の既知の3次元構造とを用いて、B因子の3次元構造のモデリングと、この構造に結合する抗体の立体構造エピトープの予測とを行うことができる。実際、そのような技術の一つまたは任意の組み合わせを用いて、抗体結合エピトープを定義することができる。図15および図16は、本発明のB因子抗体のエピトープを同定するために、ミモトープ分析および変異分析から得た情報を組み合わせて3次元モデリングの使用を説明する。
【0028】
本願で用いられるように、用語「選択的に結合」とは、一つのタンパク質が別のもの(例えば、抗体、そのフラグメント、または抗原に対する結合パートナー)に特異的に結合することをいい、結合のレベルは、任意の標準的アッセイ(例えば、免疫アッセイ)によって測定されるように、そのアッセイのバックグランド対照よりも統計学的に有意に高い。例えば、免疫アッセイを実施する場合、対照群として、一般に抗体または抗原結合性フラグメントのみを含む(すなわち、抗原が存在しない)反応ウエル/試験管が挙げられる。抗原の非存在下での抗体またはその抗原結合性フラグメントの反応(例えば、ウエルに対する非特異的結合)の量がバックグラウンドであると見なされる。結合の測定は、当該技術分野で標準的である種々の方法を用いて実施することができ、該方法として、限定されるものではないが、ウエスタンブロット、免疫ブロット、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)、放射免疫アッセイ(RIA)、免疫沈降、表面プラスモン共鳴法、化学発光、蛍光偏光、リン光、免疫組織化学的分析、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間(MALDI−TOF)質量分析法、ミクロ血球計算法、マイクロアレイ、鏡検、蛍光活性化セルソータ(FACS)、およびフローサイトメトリーが挙げられる。
【0029】
本発明の一実施形態は、抗B因子抗体(例えば、モノクローナル抗体1379)に対するB因子の結合の拮抗阻害剤である抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む。本発明によれば、本発明の抗B因子抗体に結合するB因子の拮抗阻害剤は、B因子に対する既知の抗B因子抗体の結合が阻害されるように、本発明の既知の抗B因子抗体(例えばmAb1379)と同一または同様のエピトープで、B因子に対して結合する阻害剤(例えば、別の抗体または抗原結合性フラグメントまたはポリペプチド)である。拮抗阻害剤は、標的に対する親和性が抗B因子抗体よりも高く、標的(例えば、B因子)に結合することが可能である。拮抗阻害剤を、抗B因子抗体1379について本願で以下についての記載と同様にして使用することができる(例えば、補体活性化第二経路を抑制する、動物の気道過敏性の抑制、動物の気道炎症の抑制、および動物の再かん流虚血障害の抑制を行う)。例えば、本発明の一実施形態は、B因子に特異的に結合する単離された抗体またはその抗原結合性フラグメントに関し、抗体またはそのフラグメントは、B因子に対する特異的結合に関してmAb1379を競合的に抑制し、あるいは抗体またはそのフラグメントがB因子に結合する際に、補体活性化第二経路を抑制するか、または補体活性化第二経路を抑制するmAb1379の性質を抑制する。別の実施形態は、B因子に特異的に結合する単離された抗体またはそのフラグメントに関し、単離された抗体またはそのフラグメントは、B因子に対する特異的結合に関して第2の抗体またはそのフラグメントを競合的に抑制し、第2の抗体またはそのフラグメントはB因子の第3のSCRドメインに結合する。
【0030】
競合アッセイは、当該技術分野の標準的技術(例えば、競合ELISAまたは他の結合アッセイ)を用いて行われる。例えば、拮抗阻害剤が検出され、既知の標識抗B因子抗体(例えば、mAb1379)に対するB因子の結合を抑制する性質によって定量化される。ヒトB因子の存在下での抗体−抗体競合アッセイは、例えば実施例3に記載されている。抗B因子1379に対するB因子の結合の拮抗阻害剤は、実施例3および表4に記載されている。
【0031】
本発明によれば、抗体は免疫グロブリン・ドメインから構成され、抗体はタンパク質の免疫グロブリン・スーパーファミリーの構成要素であるという特徴がある。一般的に言って、抗体分子は2種類の鎖から構成される。一方の鎖の種類は重鎖またはH鎖といい、他方は軽鎖またはL鎖という。2種類の鎖は、各々の抗体分子が概して2本のH鎖と2本のL鎖とを有することで、等モルの比率で存在する。2本のH鎖はジスルフィド結合によって互いに結合しており、各々のH鎖もジスルフィド結合によってL鎖に結合している。L鎖はラムダ(λ)鎖およびカッパ(κ)鎖と呼ばれる2種類の鎖のみしか存在しない。一方、H鎖はアイソタイプと呼ばれる5種類の主要H鎖クラスが存在する。これら5種類のクラスとして、免疫グロブリンM(IgMまたはμ)、免疫グロブリンD(IgDまたはδ)、免疫グロブリンG(IgGまたはλ)、免疫グロブリンA(IgAまたはα)、および免疫グロブリンE(IgEまたはε)が含まれる。それらのアイソタイプ間の顕著な特徴は免疫グロブリンの定常ドメインによって定まり、以下で詳細に説明する。ヒト免疫グロブリン分子は、9種類のアイソタイプ、IgM、IgD、IgE、IgGの4種類のサブクラス(IgG1(γ1)、IgG2(γ2)、IgG3(γ3)、およびIgG4(γ4)を含む)、ならびにIgAの2種類のサブクラス(IgA1(α1)およびIgA2(α2)を含む)から構成される。ヒトでは、IgGサブクラス3およびIgMは最も強力な補体活性化因子(古典的補体系)であり、一方IgGサブクラス1と、程度はより低くなるがIgGサブクラス2とが古典的補体系の中程度ないし低程度の活性化因子である。IgG4サブクラスは、補体系(古典的補体系または第二補体系)を活性化することはない。第二補体系を活性化させることが知られている唯一のヒト免疫グロブリン・アイソタイプはIgAである。マウスでは、IgGサブクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2b、およびIgG3である。マウスIgG1は補体を活性化させることはないが、IgG2a、IgG2b、およびIgG3は補体活性化因子である。
【0032】
免疫グロブリン分子のL鎖およびH鎖は、それぞれL鎖可変ドメイン(Vドメイン)およびL鎖定常ドメイン(Cドメイン)ならびにH鎖可変ドメイン(Vドメイン)およびH鎖定常ドメイン(Cドメイン)と呼ばれる2つのドメインから構成される。完全Cドメインは、3つのサブドメイン(CH1、CH2、CH3)とヒンジ領域とを有する。同時に、1本のH鎖および1本のL鎖は、免疫グロブリン可変領域を有する免疫グロブリンの腕を形成することができる。完全な免疫グロブリン分子では、2本の腕部が結合(例えば、ジスルフィド結合)している。したがって、全免疫グロブリンの腕部は、それぞれVH+L領域およびCH+L領域を有する。本願で用いられるように、「可変領域」または「V領域」という用語は、VH+L領域(Fvフラグメントとしても知られている)、V領域、またはV領域のことをいう。また、本願で用いられるように、「定常領域」または「C領域」という用語は、CH+L領域、C領域、またはC領域のことをいう。
【0033】
免疫グロブリンをプロテアーゼによって限定消化することで、2本のフラグメントを得ることが可能である。抗原結合性フラグメントのことをFab、Fab’、またはF(ab’)フラグメントという。抗原に結合する性質が欠けているフラグメントはFcフラグメントと呼ばれる。Fabフラグメントは、V領域およびC領域の一部分(CH1ドメイン)と対を形成したL鎖(Vドメイン+Cドメイン)を含む免疫グロブリン分子の1本の腕から構成される。Fab’フラグメントは、CH1ドメインに結合したヒンジ領域の一部を有するFabフラグメントに対応する。F(ab′)フラグメントは、特にヒンジ領域において、ジスフィルド結合を介して概ね共有結合した2本のFab′フラグメントに対応する。
【0034】
ドメインは免疫グロブリンのアイソタイプを定義し、アイソタイプに応じた異なる機能的特徴を与える。例えば、μ定常領域は、IgM分子の五量体集合を形成することを可能にし、α定常領域は二量体の形成を可能にする。
【0035】
免疫グロブリン分子の抗原特異性は、可変領域、すなわちV領域のアミノ酸配列によって与えられる。そのようなものとして、異なる免疫グロブリン分子のV領域は、それらの抗原特異性によって著しく異なる。V領域の特定の部分は他の部分よりもよりいっそう保存されており、フレームワーク領域(FW領域)と呼ばれる。一方、V領域の特定の部分は非常に可変的であり、超可変領域と称される。1つの免疫グロブリン分子内でVドメインとVドメインとが対をなす場合、各々の領域由来の超可変領域が結合し、抗原結合部位を形成する超可変ループが生成される。したがって、超可変ループは免疫グロブリンの特異性を決定し、表面が抗原に対して相補的であることから相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。
【0036】
さらに、V領域の可変性は、免疫グロブリンV領域をコードする遺伝子セグメントの可変性の組み合わせによって与えられる。免疫グロブリン遺伝子は複数の生殖系列遺伝子セグメントから構成され、これらのセグメントは、体細胞的に再配列されて免疫グロブリン分子をコードする再配列免疫グロブリン遺伝子を形成する。V領域は、L鎖V遺伝子セグメントおよびJ遺伝子セグメント(連結セグメント)によってコードされる。V領域は、H鎖V遺伝子セグメント、D遺伝子セグメント(多様性セグメント)、およびJ遺伝子セグメント(連結セグメント)によってコードされる。
【0037】
L鎖およびH鎖V遺伝子セグメントはともに、実質的にアミノ酸配列可変性を有する3つの領域を含む。そのような領域は、L鎖CDR1、CDR2、およびCDR3、ならびにH鎖CDR1、CDR2、およびCDR3とそれぞれ呼ばれる。L鎖CDR1の長さは、実質的に異なるV領域間で変動することができる。例えば、CDR1の長さは、約7アミノ酸ないし約17アミノ酸の間で変動することができる。一方、L鎖CDR2およびCDR3の長さは、異なるV領域間で通常は変動しない。H鎖CDR3の長さは、実質的に異なるV領域間で変動することができる。例えば、CDR3の長さは、約1アミノ酸から約20アミノ酸まで変動することができる。各HおよびL鎖CDR領域は、FW領域によってフランキングされる。
【0038】
免疫グロブリン分子の他の機能的な態様として、免疫グロブリン分子の結合価、免疫グロブリン分子の親和性、および免疫グロブリン分子の結合活性が挙げられる。本願で用いられるように、親和性とは、免疫グロブリン分子(すなわち、一価の抗原に対して結合している一価のFabフラグメント)上の単一の部位で免疫グロブリン分子が抗原に結合する強さのことをいう。親和性は結合活性とは異なり、結合活性は免疫グロブリンが抗原に結合する強さの総計のことをいう。当該技術分野で標準的な技術(例えば、競合的結合技術、平衡透析、またはBIAcore法)を用いて免疫グロブリン結合親和性を測定することができる。本願で用いられるように、結合価とは免疫グロブリン一分子あたりの異なる抗体結合部位の数(すなわち、抗原結合性フラグメントの一抗体分子あたりの抗原結合部位の数)のことをいう。例えば、一価の免疫グロブリン分子は、1つの抗原に一度に結合することができ、二価の免疫グロブリン分子は、2つ以上の抗原に一度に結合することができる。補体活性化第二経路のタンパク質に対して選択的に結合する一価および二価の抗体は本願に含まれる。
【0039】
一実施形態では、抗体は二重特異性抗体または多重特異性抗体である。二重特異性(または多重特異性)抗体は、二価(または多価)抗体と同様に、2つ(または多数)の抗原に結合することができる。しかし、この場合、これらの抗原は互いに異なる抗原である(すなわち、抗体は、二重またはそれよりも大きな特異性を示す)。例えば、本発明に係る補体活性化第二経路内のタンパク質に選択的に結合する抗体(例えば、本願に記載される抗B因子抗体)を二重特異性抗体として構築することができ、第2の抗原結合特異性は所望の標的のためである。したがって、本発明に包含される一つの二重特性抗体は、(a)補体活性化第二経路のタンパク質(例えば、B因子)と結合する第1の部分(例えば、第1の抗原結合部分)と、(b)細胞によって発現される細胞表面分子と結合する第2の部分とを有する抗原を含む。この実施形態では、第2の部分は任意の細胞表面分子と結合することができる。1つの好ましい細胞表面分子はレセプターまたリガンドであることから、抗体は該抗体が送達される動物の特定の細胞または組織タイプおよび/あるいは特定の部位を標的とする。一実施形態では、第2の抗原結合特異性は補体レセプターに対するものである。特に好ましい補体レセプターとして、限定されるものではないが、補体レセプター・タイプ2(CR2)が挙げられる。CR2に選択的に結合することで本発明のこの実施形態で使用可能である抗体は、例えば、米国特許第6,820,011号明細書に記載されている。
【0040】
一実施形態では、本発明の抗体としてヒト化抗体が挙げられる。ヒト化抗体は、非ヒト種の免疫グロブリンに由来する抗原結合部位を有するとともに、残りの免疫グロブリン由来部位がヒト免疫グロブリンに由来する分子である。抗原結合部位は、ヒトの定常領域に融合した完全可変領域または可変領域の適当なヒト・フレームワーク領域に移植された相補性決定領域(CDR)のみを含むものであってもよい。ヒト化抗体の生産を、例えば抗体可変領域をモデル化し、遺伝子工学技術(例えば、CDR移植技術(後述))を用いて抗体を産生することによって行うことができる。ヒト化抗体を生産するための種々の技術に関する記述は、例えば、Morrison et al.(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA81:6851−55;Whittle et al.(1987)Prot.Eng.1:499−505;Co et al.(1990)J.Immunool.148:1149−1154;Co et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA88:2869−2873;Carter et al.(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.89:4285−4289;Routledge et al.(1991)Eur.J.Immunol.21:2717−2725、ならびに国際公開第91/09967号パンフレット;国際公開第91/09968号パンフレット、および国際公開第92/113831号パンフレットに見いだされる。
【0041】
本発明の単離抗体として、そのような抗体を含む血清、または様々な度合いに精製された抗体を挙げることができる。本発明の全抗体は、ポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体であることが可能である。あるいは、全抗体の機能的等価物、例えば1つまたは2つ以上の抗体領域がトランケートされている、または不在である本発明の全抗体(例えば、Fv、Fab、Fab′、またはF(ab)フラグメント)であり、同様に、遺伝子工学的に得られた抗体またはその抗原結合性フラグメント(単鎖抗体、ヒト化抗体(上述)、2つ以上のエピトープに結合し得る抗体(例えば、二重特異性抗体)、あるいは1つまたは2つ以上の異なる抗原に結合し得る抗体(例えば、二重特性抗体または多重特性抗体)を含む)もまた本発明で用いられてもよい。
【0042】
遺伝子工学的に得られた本発明の抗体として、標準的な組み換えDNA技術によって生産されたものが挙げられ、そのような技術として抗体の可変領域および/または定常領域をコードするDNAの操作および再発現が含まれる。特定の例として、限定されるものではないが、抗体のVおよび/またはV領域は、抗体の残部およびCDR移植抗体(およびその抗原結合性フラグメント)と比較して異なる供給源から得られ、少なくとも1つのCDR配列と、必要に応じて少なくとも1つの可変領域フレームワーク・アミノ酸とは1つの供給源に由来し、可変および定常領域の残部(必要に応じて)は異なる供給源から得られる。キメラおよびCDR移植抗体の構成は、例えば欧州特許出願公開第0194276号明細書、欧州特許出願公開第0239400号明細書、欧州特許出願公開第0451216号明細書、および欧州特許出願公開第0460617号明細書に記載されている。
【0043】
一実施形態では、本発明にもとづいてキメラ抗体が生産される。このキメラ抗体は、補体活性化第二経路のタンパク質(例えば、B因子)に結合する抗体可変領域と、該領域に融合し、第2の標的部分として用いられるタンパク質とを含む。例えば、標的部分として、標的となる細胞または組織あるいは動物の特定の系に関連するタンパク質が挙げられる。例えば、補体レセプターの一部分をその標的部分とすることができる。本発明のこの態様での使用に好ましい補体レセプターの一例として、補体レセプター・タイプ2(CR2)が挙げられる。融合または(例えば、送達系としての)キメラタンパク質でのCR2およびその一部分の使用は、米国特許第6、820、011号明細書に詳細に記載されている。
【0044】
一般に、抗体の生産では、適当な実験動物、例えば、限定されるものではないが、ウサギ、ヒツジ、ハムスター、モルモット、マウス、ラット、またはニワトリが、抗体が求める抗原に曝される。概して、動物の免疫化は、動物に注射された有効量の抗原によって行われる。有効量の抗原とは、動物による抗体産生を誘導するのに必要な量のことをいう。次に、動物の免疫系が所定の期間にわたって応答可能となる。その抗原に対して免疫系が抗体を産生することが分かるまで、免疫化プロセスを繰り返すことができる。その抗原に対して特異的なポリクローナル抗体を得るために、所望の抗体を含む動物から血清が採取される(または、ニワトリの場合、抗体が卵から収集され得る)。そのような血清は試薬として有用である。この血清を、例えば硫酸アンモニウムで処理することによって、血清(または卵)からポリクローナル抗体をさらに精製することができる。
【0045】
モノクローナル抗体を、KohlerおよびMilstein(Nature256:495−497、1975)の方法に基づいて生産することが可能である。例えば、免疫動物のBリンパ球を脾臓(または任意の適当な組織)から回収し、続いてミエローマ細胞と融合させることで、適当な培地で継続的に増殖可能であるハイブリドーマ細胞の集団が得られる。所望の抗体を産生するハイブリドーマの選択は、ハイブリドーマによって産生された抗体の所望の抗原に結合する性質について試験することで行われる。
【0046】
本発明の抗体を生産する好ましい方法は、(a)有効量のタンパク質またはペプチド(例えば、B因子タンパク質またはそのドメインを含むペプチド)を動物に投与することで抗体を産生させる工程、および(b)抗体を回収する工程を含む。別の方法では、本発明の抗体は組み換え的に生産される。ひとたび、本発明に係る抗体を発現する細胞系統、例えばハイブリドーマが得られると、そこからcDNAをクローニングすること、および所望の抗体をコードする可変領域遺伝子(CDRをコードする配列を含む)を同定することが可能となる。これから、抗体重鎖または軽鎖の可変領域をコードするDNA配列と、任意に、必要に応じて重鎖および軽鎖、もしくは重鎖または軽鎖の残部をコードする他のDNA配列とを少なくとも含む1つまたは複数の複製可能な発現ベクターを調製し、抗体産生が生ずる適当な宿主細胞に対して形質移入/形質転換を行うことによって、本発明に係る抗体および抗原結合性フラグメントを得ることが可能である。適当な発現宿主として、細菌(例えば、大腸菌株)、菌類(特に酵母、例えば、ピチア、サッカロミセス、またはクルイベロマイセス属の菌類)、および哺乳類細胞系統、例えば非産生型ミエローマ細胞系統(マウスNSO系統、またはCHO細胞等)が挙げられる。転写および転換の効率を高めるために、適当な調節配列、特に可変領域配列に対して作用可能なかたちで結合したプロモーターおよびリーダー配列が各ベクターのDNA配列に含まれなければならない。このようにして抗体を生産するための特定の方法は一般に周知であり、日常的に用いられている。例えば、基本的な分子生物学的手法はManiatis et al.(Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,New York,1989)に記載されており、DNA塩基配列決定法はSanger et al.(PNAS 74,5463,(1977))およびAmersham International plc sequencing handbookの記載どおりに実施されることができ、部位特異的突然変異誘発法はKramer et al.(Nucl.Acids Res.12,9441,(1984))およびAnglian Biotechnology Ltd.handbookに基づいて実施され得る。さらに、特許明細書を含む数多くの出版物があり、これらは、DNA操作、発現ベクターの創造、および適当な細胞の形質転換による抗体の調製に適した技術を詳しく述べたものであり、例えばMountain A and AdairJ Rが、Biotechnology and Genetic Engineering Reviews(ed.Tombs,M P, 10,Chapter1,1992,Intercept,Andover,UK)および前述の欧州特許で概説している。
【0047】
別の方法は、例えば、ファージ・ディスプレイ法(例えば、米国特許第5969108号明細書、米国特許第5565332号明細書、米国特許第5871907号明細書、および米国特許第5858657号明細書を参照)または米国特許第5627052号明細書の選択リンパ球抗体法も本発明の抗体および抗原フラグメント、もしくは抗体または抗原フラグメントの生産に用いることが可能であり、このことは当業者に容易に理解されよう。
【0048】
したがって、本発明の別の態様は一般に、第二補体経路の活性化が作用する状態または疾患を呈する動物または発症する危険性がある動物の第二補体経路を選択的に抑制するための組成物および方法に関する(例えば、第二補体経路活性化は、状態または疾患の原因になり、状態または疾患の少なくとも1つの症状を悪化させたり、あるいは状態または疾患を生じたりする)。そのような方法として本発明の新規B因子の使用が挙げられ、このB因子の詳細については上記されている。そのような状態および疾患として、限定されるものではないが、過敏反応症(例えば、炎症を伴う気道過敏性)、虚血再かん流傷害、および胎児死亡が挙げられる。そのような抗体およびその抗原結合性フラグメントを含む組成物および製剤、本願に記載するB因子抗体の特異性を模倣する抗原結合ポリペプチド、ならびに投与の方法および投与量については以下に詳細に説明される。
気道過敏性および気道炎症の予防または抑制の方法
補体活性化第二経路が気道過敏性および気道炎症の抑制に対して必要かつ十分であるという本発明者らの発見に基づいて、本発明の別の実施形態は、炎症または気道炎症を伴う気道過敏性を呈する、またはその発症の危険性がある動物の気道過敏性および/または気道炎症を抑制する方法に関する。この方法は、炎症を伴う気道過敏性を含む気道過敏性(気道過敏性は、炎症または炎症過程の結果として生ずるか、気道で併発している炎症または以前に生じた炎症と連動して起こる)を呈する、またはその発症の危険性がある動物の補体活性化第二経路を選択的に抑制するステップを含む。
【0049】
以下の考察によって、動物の気道過敏性および/または気道炎症、あるいはそれに関連した状態または疾患を処置または予防する態様を詳しく述べる。しかし、阻害剤、投与経路、投与量、処置の指標、製剤の説明等に関する一般的な考察が、本願に記載される本発明のいずれの実施形態に対して(すなわち、気道過敏性および気道炎症に伴うもの以外の他の状態または疾患に対して)も適用され得ると理解すべきである。例えば、後述する発明の一般的な態様の多くは、虚血性再かん流傷害等の他の状態を処置するために対して補体活性化第二経路を特異的に抑制するために適用される。
【0050】
本発明によれば、動物の補体活性化第二経路を抑制することは、この補体活性化第二経路の一部である少なくとも1つのタンパク質の発現および/または生物活性を抑制することを指す。そのようなタンパク質として、限定されるものではないが、B因子、D因子、またはプロパージンが挙げられる。補体活性化第二経路を「選択的に」抑制するということは、本発明の方法が優先的または排他的に補体活性化第二経路を抑制することを意味するが、古典的補体経路またはレクチン経路を含む他の補体活性化経路を抑制または実質的に抑制するものではない。例えば、本発明の新規のB因子抗体およびその抗原結合性フラグメントは、補体活性化第二経路を選択的に抑制する試薬の一例である。この定義は、補体活性化第二経路が選択的に抑制される本願に記載の他の方法に適用される。
【0051】
本発明に係る補体活性化第二経路の抑制は、この補体活性化第二経路のタンパク質の発現(転写もしくは転換)または生物学的活性に直接作用することによって、あるいは補体活性化経路のタンパク質に結合またはこの第二経路を介した補体の活性化に対して、さもなければ貢献するタンパク質の性質に直接作用することによって達成される。より詳しくは、一実施形態では、タンパク質の発現とはタンパク質の転写またはタンパク質の転換のことをいう。したがって、本発明の方法は、あるタンパク質を本来発現する動物で、(例えば、タンパク質の発現を抑制する薬剤を投与すること、およびタンパク質発現を減少させるために動物を遺伝学的に改変することによって)そのタンパク質の転写および/または転換を阻害することができる。別の実施形態では、補体活性化第二経路の抑制は、例えば補体活性化第二経路内でのタンパク質の発現および/または生物学的活性を何らかの測定可能なかたちで減少させることによって、その経路の活性化が何らかの測定可能な(検出可能な)かたちで減少(すなわち、低下、下方制御、抑制)されていることと本願では定義される。
【0052】
したがって、本発明によれば、「気道過敏性」または「AHR」とは、気道を狭くして空気の流れの制限を誘導し得る刺激に対して容易および過剰、もしくは容易または過剰に反応させる気道の異常のことをいう。AHRは、気道の炎症(すなわち、炎症に伴うAHR)または気道再造形(例えば、コラーゲン堆積による)によって生ずる呼吸系の機能的変化である。空気の流れの制限とは、不可逆的または可逆的であり得る気道狭窄化のことをいう。空気の流れの制限または気道過敏性は、コラーゲン堆積、気管支けいれん、気道平滑筋栄養過度、気道平滑筋収縮、粘液分泌、細胞沈澱物、上皮破壊、上皮透過性に対する変化、平滑筋機能または感度に対する変化、肺実質の異常、および気道内外での浸潤性疾患に起因する。これらの原因因子の多くが炎症を伴うが、AHRは炎症とは区別可能な症状である(すなわち、AHRは上記したような特定の状態または症状ではあるが、以前の炎症または併発する気道の炎症を常に伴うとは限らない)。AHRは、誘発作用物質または刺激(本願ではAHR誘発刺激ともいう)に曝されることで、上記原因因子を伴う状態の患者で引き起こされる。そのような刺激として、限定されるものではないが、アレルゲン、メタコリン、ヒスタミン、ロイコトリエン、食塩水、過換気、運動、二酸化硫黄、アデノシン、プロプラノロール、冷気、抗原、ブラジキニン、アセチルコリン、プロスタグランジン、オゾン、環境性大気汚染物質、およびそれらの組み合わせが挙げられる。本発明は、炎症を含む何らかの呼吸器系の状態を伴う気道過敏性、特にアレルゲン誘発気道過敏性に関する。
【0053】
気道過敏性は一般に、アレルギー性炎症および/またはウイルス誘発炎症を伴う。アレルギー性炎症を伴う気道過敏性は、限定されるものではないが、何らかの気道閉塞性慢性疾患を呈するか、またはそのような疾患を発症する危険性のある患者で生じ得る。そのような状態として、限定されるものではないが、喘息、慢性閉塞性肺疾患、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、気腫、気管支炎、アレルギー気管支炎気管支拡張症、嚢胞性線維症、結核、過敏性肺炎、職業喘息、サルコイド、反応性気道疾患症候群、間質性肺疾患、好酸球増多症候群、鼻炎、副鼻腔炎、運動誘発喘息、汚染誘発喘息、および寄生虫性肺疾患が挙げられる。ウイルス誘発炎症を伴う気道過敏性は、ウイルスによる感染症を呈するか、またはそのような感染症の危険性がある患者で生じ得るものであり、該ウイルスとして、限定されるものではないが、呼吸器合胞体ウイルス(RSV)、パラインフルエンザウイルス(PIV)、ライノウイルス(RV)、およびアデノウイルスが挙げられる。本発明の方法および薬剤を使用して処置される他の疾患または状態として、全身性自己免疫疾患等の疾患に起因する炎症および気道過敏性、もしくは炎症または気道過敏性を伴う任意の肺状態または肺合併症が挙げられる。例えば、全身性エリテマトーデスにおいて、本発明を用いることで肺合併症を処置することができた。
【0054】
炎症は一般に、炎症伝達物質(例えば、サイトカインまたはケモカイン)の放出によって特徴づけられ、この炎症伝達物質は組織に対する炎症に関与する細胞を集める。気道炎症は、動物の気道(肺組織、呼吸細胞および組織)で生ずる炎症である。アレルギー炎症を伴う状態または疾患は、アレルゲン等の感作物質に対する免疫応答の一種(例えば、Th2型免疫応答)の誘発によって、炎症伝達物質の放出をもたらして該炎症伝達物質が動物の炎症に関与する細胞を集め、その存在によって組織損傷、また時には死をもたらされる状態または疾患である。上記のように、AHRは気道炎症をしばしば伴う(気道炎症と併発またはおそらくその結果として生ずる)。留意すべきことは、AHRの症状または状態が時には炎症の症状とは独立して処置され、またその逆も言えることである(例えば、AHRの処置は、炎症に影響を及ぼす可能性または及ぼさない可能性があるというように、分離可能な状態が存在する)。
【0055】
AHRの測定を、誘発作用物質(すなわち、刺激)に反応した動物の呼吸器系機能を測定することを含むストレス試験で行うことができる。誘発作用物質の投与量に対してプロットされた基線からの呼吸機能の変化として、AHRを測定することができる(そのような測定の手順およびそのために有用な哺乳動物モデルを以下に、実施例において詳細に説明する)。呼吸機能(したがって、AHRの生物学的特性)を、例えば、肺活量測定、プレチスモグラフ、最大流速、症状スコア、身体的徴候(すなわち、呼吸数)、喘鳴、運動耐性、救出薬物(すなわち、気管支拡張薬)の使用、咳、および血液ガスによって測定することができる。ヒトでは、肺活量測定法を用いて、誘発作用物質(例えば、メタコリンまたはヒスタミン)と連動する呼吸機能の変化を測定することができる。ヒトでは、肺活量測定は、ヒトに対して深呼吸して空気流および容積を測定するゲージ内に可能な限り長く、強く、速く、吹き出すことを指示することによって行われる。最初の1秒で放される空気の容積は最大努力呼気肺活量(FEV)として知られており、放された空気の総量は努力性肺活量(FVC)として知られている。ヒトでは、正常な予測FEVおよびFVCは利用可能であり、体重、身長、性、および人種によって標準化されている。疾患に罹っていないヒトは、FEVとFVCとが特定のヒトに対する正常予測値の少なくとも約80%であり、FEV/FVCの比率が約80%である。誘発作用物質の吸入前(すなわち、患者の安静時を示す)および吸入後(すなわち、患者の高肺抵抗時を示す)に値の測定を行う。結果として生ずる曲線の位置は、誘発作用物質に対する気道の感度を示す。
【0056】
肺機能に対する誘発作用物質投与量または濃度増加の効果は、誘発作用物質によって誘発される動物の1秒間の努力性肺活量(FEV)と、努力性肺活量(FEV/FVC比)を越えるFEVとを測定することによって決定される。ヒトでは、FEVで20%低下(PC20FEV)を生ずる誘発作用物質(すなわち、メタコリンまたはヒスタミン)の投与量または濃度は、AHRの程度を表す。FEVおよびFVCの値を、当業者に公知の方法を用いて測定することができる。
【0057】
気道抵抗(R)および動的コンプライアンス(C)の肺機能測定ならびに過敏症は、気道開口部と体幹体積変動計との間の圧力差として、肺内外圧力を測定することによって決定され得る。容積は体幹体積変動計の校正圧力変化であり、流れは容積シグナルのデジタル微分である。抵抗(R)およびコンプライアンス(C)は、当業者に公知の方法を用いて(例えば、運動方程式の再帰的最小二乗解を用いて)得られる。留意すべきことは、非ヒト哺乳類(例えば、マウス)での気道抵抗(R)測定を用いて、ヒトでのFEVおよびFEV/FVC比、もしくはFEVまたはFEV/FVC比の測定に類似した気道閉塞を診断することができるということである。
【0058】
種々の誘発作用物質がAHR値の測定に役立つ。適当な誘発作用物質として直接的および間接的な刺激が挙げられ、それらは一般に生体内でAHRを引き起こす誘発作用物質である。本願で用いられるように、「誘発作用物質」という語句は「AHR誘発刺激」という語句と同義的に用いられる。好ましい誘発作用物質または刺激として、例えば、アレルゲン、メタコリン、ヒスタミン、有機刺激物、刺激性ガスおよび化学製品、ロイコトリエン、食塩水、過換気、運動、二酸化硫黄、アデノシン、プロプラノロール、冷気、抗原、ブラジキニン、アセチルコリン、プロスタグランジン、オゾン、環境性大気汚染物質、ならびにそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、AHRの実験的誘導を目的として、メタコリン(McH)が誘発作用物質として用いられる。濃度反応曲線で使用するMchの好ましい濃度は、1ミリリットルあたり約0.001ミリグラムないし約100ミリグラム(mg/ml)である。濃度反応曲線で使用されるMchのより好ましい濃度は、約0.01ないし約50mg/mlである。濃度反応曲線で使用されるMchのさらに好ましい濃度は、約0.02ないし約25mg/mlである。Mchを誘発作用物質として用いる場合、AHRの度合いは、動物のFEVが20%低下するのに必要とされるMchの誘発濃度によって定まる(PC20メタコリンFEV)。例えば、ヒトでは、当該技術分野の標準的プロトコルを用いることで、健常なヒトは一般にPC20メタコリンFEV>8mg/mlのMchを有する。したがって、ヒトでは、AHRはPC20メタコリンFEV<8mg/mlのMchとして定義される。
【0059】
本発明によって、呼吸機能を種々の静的試験によって評価することもできる。これらの試験は、誘発作用物質の非存在下で動物の呼吸器系機能を測定することを含む。静的試験の例として、例えば、肺活量測定、プレチスモグラフィ、最大流速、排尿症状スコア、身体的徴候(すなわち、呼吸数)、喘鳴、運動耐性、救出薬物(すなわち、気管支拡張薬)、血液ガス、および咳が挙げられる。静的試験での肺機能の評価は、例えば、全肺気容量(TLC)、胸郭内ガス量(TgV)、機能的残気量(FRC)、肺容量の残気量(RV)および特異的コンダクタンス(SGL)、一酸化炭素に関する肺の核酸能(DLCO)、動脈血ガスが挙げられ、ガス交換のためのpH、PO2、およびPCO2が挙げられる。FEVおよびFEV/FVCとともに、空気流の制限を測定するために用いることができる。ヒトで肺活量測定を用いる場合、個々のヒトのFEVを予測値のFEVと比較することができる。予測されたFEV値は、動物の齢、性、体重、身長、および血統に基づいた標準のノルモグラムに利用可能である。正常動物のFEVは一般に、動物に対する予測FEVの少なくとも約80%である。空気流の制限によって、FEVまたはFVCが予測値の80%未満になる。空気流の制限を測定するための代替法は、FEVとFVCとの比(FEV/FVC)に基づいている。疾患を持たないヒトを、少なくとも約80%のFEV/PCV比を持つものと定義する。気流閉塞によってFEV/FVCの比が予測値の80%未満に低下する。したがって、空気流の制限された動物が約80%未満のFEV/FVCによって定義される。
【0060】
本願で用いられるように、気道過敏性を減少させるということは、気道過敏性の測定可能な程度に減少することおよび/あるいは患者で生ずる気道過敏性の発生または頻度の減少のことをいう。AHRの減少を、上記した技術のいずれか、あるいは公知の他の適当な方法を用いて測定することができる。好ましくは、気道過敏性、またはその可能性をある範囲まで最適に減少させることが可能であり、この範囲は気道過敏性によってもたらされ、またはそれに伴う不快感および機能変化、もしくは不快感または機能変化であり、動物がもはや苦しむこともない範囲である。気道過敏性を妨げることは、患者で実質的に検出または測定される本発明に記載されるような気道過敏性の生物学的特徴に先だって、気道過敏性の防止または停止させることをいう。ひとたび気道過敏性の1つまたは複数の生物学的特徴が実質的に検出または測定されると、急性発症気道過敏性が起こったと考えられる。
【0061】
一実施形態では、本発明の方法は、動物でのメタコリン反応性を低下させる。好ましくは、本発明の方法は、最初の濃度のメタコリンによって動物が誘発される際に本発明の方法を使用する前に得られたPC20メタコリンFEV値が、最初の濃度よりも2倍の濃度のメタコリンによって動物が誘発される際に本発明の使用後に得られたPC20メタコリンFEV値と同じになるように動物のPC20メタコリンFEV値の改善をもたらす。好ましくは、発明の方法は、約0.01mg/mlないし約8mg/mlのメタコリンによって動物が誘発される際に本発明の方法を使用する前に得られたPC20メタコリンFEV値が、約0.02mg/mlないし約16mg/mlのメタコリンによって動物が誘発される際に本発明の使用後に得られたPC20メタコリンFEV値と同じになるように動物のPC20メタコリンFEV値の改善をもたらす。
【0062】
別の実施形態では、本発明の方法は、動物のFEVを、その動物の予測FEVの少なくとも約5%、より好ましくは約6%ないし約100%、さらに好ましくは約7%ないし約100%、よりいっそう好ましくは約8%ないし約100%まで改善する。別の実施形態では、本発明の方法は、動物のFEVを、少なくとも約5%、好ましくは少なくとも約10%、さらにより好ましくは少なくとも約25%、さらにより好ましくは少なくとも50%、さらにより好ましくは少なくとも約75%まで改善する。
【0063】
さらに別の実施形態では、本発明の方法は、正常動物のPC20メタコリンFEVに対して濃度が約1回倍加するまでPC20メタコリンFEVの増加をもたらす。正常動物とは、異常なAHRに罹っていない、または起こしやすくないことが知られている動物のことをいう。患者または被験動物とは、異常なAHRに罹っている、または起こしやすいと思われる動物のことをいう。
【0064】
したがって、気道過敏性を呈する動物は、例えば、気道過敏性を測定するための上記方法の1つを用いて気道過敏性が測定または検出され得る動物であり、気道過敏性は、先に述べたように、AHR誘発刺激に曝されることで一般に誘導される。同様に、アレルゲン誘発気道過敏性を呈する動物は、例えば、気道過敏性を測定するための上記方法の1つを用いて気道過敏性が測定または検出され得る動物であり、気道過敏性は、先に述べたように、アレルゲンに曝されることで一般に誘導される。アレルゲン等のAHR誘発刺激によって誘発するために、気道過敏性は、見かけ上または明らかに、直接または間接的に、その刺激に曝されることで引き起こされる(例えば、起因する、症状を呈する、徴候を示す、または同時に発症する)。AHRの症状、または生物学的特徴として、限定されるものではないが、呼吸機能変化(上に詳しく記載)、呼吸数の変化、喘鳴、運動耐性低下、咳、および血液ガス変化の指標が挙げられる。そのような症状のいずれか1つまたは複数の検出または測定は、急性AHRの発症を示す。
【0065】
アレルゲンの場合、気道過敏性は、見かけ上または明らかに、直接または間接的に、動物が既に感作されたアレルゲンに曝されることで引き起こされる。感作とは、アレルゲンに対して免疫応答が生ずるようにアレルゲンに対して事前に1回または複数回アレルゲンに曝さらされることをいう。アレルギー反応に対する応答(例えば、ヒスタミン放出、鼻炎、浮腫、血管拡張、気管支の収縮または気道過敏性、気道炎症)は、未処置の個体が初めてアレルゲンに曝される場合、一般に生じないが、ひとたびアレルゲンに対して細胞性または液性免疫応答が生ずると、個体がアレルゲンに対して「感作」される。よって、感作された個体が同一のアレルゲンに再び曝される場合(例えば、アレルゲン攻撃誘発)、アレルギー反応が生ずる。ひとたび個体がアレルゲンによって感作されると、その後にアレルゲンに対して暴露するたびにアレルギー反応が悪化し始める。なぜなら、各々の再暴露は、アレルギー症状を生ずるのみならず、アレルゲンに対して産生される抗体のレベルとアレルゲンに対するT細胞応答のレベルとをさらに高める。
【0066】
概して、抗原(すなわち、アレルゲン)に対するアレルギー反応を伴う状態は、少なくとも部分的に肺組織の炎症によって特徴づけられる。そのような状態または疾患は上述されている。留意すべきことは、本発明の実施形態が具体的にはAHRの処置を対象としていることであり、そのようなものとして、AHR(アレルギー性炎症等)を引き起こす関連状態または原因因子が著しく減少または「治癒」されることを必要とするものではないが、本発明の方法の効果がおそらくアレルギー性炎症の抑制に及ぶことである。動物の肺での炎症反応が完全に確立された後でさえ、本発明の方法は、AHRを減らすことに対して十分に効果的である。気道過敏性を発症する危険性がある動物は、AHR誘発刺激に曝されている、またはそれに曝される危険性のある動物であり、このAHR誘発刺激はAHRを引き起こすのには十分ではあるが、気道過敏性の測定または検出を可能にする特徴または症状、例えば本願で既に記載されている症状を示すには不十分である。アレルギー誘発気道過敏性を発症する危険性のある動物はアレルゲンによって既に感作されており、AHRを引き起こすのには十分ではあるが、気道過敏性の測定または検出を可能にする特徴または症状を示すには不十分な量(すなわち、アレルゲンを引き起こす量または攻撃量)のアレルゲンに曝されている、または曝される危険性のある動物である。気道過敏性を発症する危険性のある動物として、そのような状態または症状に罹りやすい、またはそのような状態または症状を起こしやすいと確認されている動物も含まれる。
【0067】
本発明の方法は、動物の気道炎症を抑制または減少させることもできる。炎症、特に好酸性の炎症は、喘息を含む多くの呼吸器疾患の特徴である。いくつかのパラメーターを用いて気道炎症の評価を行うことができる。パラメーターとして、限定されるものではないが、肺内の炎症細胞(例えば、好酸球、マクロファージ、好中球、リンパ球)の集積、気管支肺胞洗浄液(BALF)中での種々のサイトカイン(例えば、IL−4、IL−5、IL−10、IL−12、IL−13、およびIFN−γ)レベルの変化、および肺の粘液生産の変化、もしくはレベルの変化、または肺の粘液生産の変化が挙げられる。これらのパラメーターの多くの測定は実施例で例示される。
【0068】
本発明の薬剤および製剤を任意の罹患動物、好ましくはヒトに対して投与することができる。本発明によれば、AHR、気道炎症の抑制、またはそのような状態を伴う疾患の治療に、薬剤または製剤の投与が有用である。本発明の方法にとって適当な候補者である患者は、限定されるものではないが、そのような状態または疾患を発症(または罹りやすい)している、またはそのような危険性がある患者である。上記のように、本発明はAHRおよび/または気道炎症の処置を主に対象とし、そのようなものとして、AHRもしくは気道炎症、またはこれらの症状を伴う疾患を生ずる状態または原因因子が著しく減少または「治癒」されることを必要とするものではないが、本発明の効果が患者にとって著しい治療的有用性にまで及ぶと思われる。この概念もまた、補体活性化第二経路が作用する他の状態または疾患に当てはまる。
【0069】
このように、治療的有用性は、特定の疾患または状態(本願に記載した疾患または状態のいずれも含まれる)にとって必ずしも治癒であるというわけではなく、むしろ最も一般的には、好ましくは疾患または状態の軽減、疾患または状態の除去、疾患または状態に伴う症状の減少、原疾患または状態の発症によって生ずる二次疾患または状態の予防または軽減、ならびに/あるいは疾患または状態の予防を包含する。本願で用いられるように、「疾患からの保護」という言い回しは、疾患の症状を軽減すること、疾患の発症を減少させること、および/または疾患の重症度を減らすことをいう。患者を保護することは、本発明の組成物の性質について言及することができ、患者に投与した場合、疾患の発症を防ぐこと、および/または疾患の症状、徴候、または原因を軽減することに言及することができる。そういうものとして、疾患から患者を保護することは、疾患の発症を防ぐこと(予防療法)、および疾患を呈する患者を処置すること(治療的処置)の両方を含む。有益な効果を、当業者および患者を処置する経験を積んだ臨床家、もしくは当業者または患者を処置する経験を積んだ臨床家が容易に評価することができる。「疾患」という用語は、哺乳類の正常な健康状態からの何らかの逸脱であり、疾患症状が存在する場合の状態、逸脱(例えば、感染、遺伝子突然変異、遺伝子欠失、その他)が生じたが、症状はまだ現れていない状態のことに言及している。
【0070】
したがって、本発明の方法は、補体活性化第二経路のタンパク質に直接作用し、気道過敏性および/または気道炎症が動物で減少するようにして、補体活性化第二経路の1つまたは複数のタンパク質の発現および/または生物学的活性を選択的に抑制することにより、種々の薬剤(すなわち、調節化合物)の使用を含む。本発明で有用な薬剤として、例えば、タンパク質、核酸分子、抗体、および合理的なドラッグ・デザインの産物である化合物(すなわち、薬物)が挙げられる。そのような薬剤は一般に、本願中で阻害剤と呼ばれる。本発明によれば、阻害剤は、タンパク質(例えば、補体活性化第二経路内のタンパク質)の発現および/または生物学的活性を直接的に抑制または競争的に抑制し、B因子、D因子、またはプロパージンに作用する薬剤を含む。本発明の一実施形態では、補体活性化第二経路の抑制または補体活性化第二経路のタンパク質は、本願中で、任意の測定可能な(検出可能な)減少(すなわち、低下、下方制御、抑制)として定義される。タンパク質の生物活性または生物学的作用とは、生体内(すなわち、タンパク質の自然な生理的環境内)または生体外(すなわち、実験室条件下)で測定または観察されるように、天然に生ずる形態のタンパク質によって表現または実行される任意の機能のことをいう。例えば、B因子の生物活性として、限定されるものではないが、活性化C3への結合、免疫複合体の可溶化、B細胞成長因子活性、および単球活性化を挙げることができる。本発明によれば、タンパク質の生物活性の抑制(減少、低下)は、このタンパク質が別のタンパク質(例えば、C3)に結合する、および/または活性化させる性質を直接的に妨害または抑制することによってなされ、その結合の結果生ずる下流イベントが抑制される。好ましくは、補体活性化第二経路の生物活性は薬剤の投与によって抑制され、この薬剤はその経路の少なくとも1つのタンパク質を抑制するものであり、そのような薬剤として、限定されるものではないが、その経路のタンパク質に結合、または別のタンパク質に結合する、およびそれを活性化させる、もしくは結合する、またはそれを活性化させるタンパク質の性質が抑制または妨害されるようにして、上記経路内のタンパク質に結合またはそのタンパク質と競合する薬剤が挙げられる。そのような薬剤として、限定されるものではないが、タンパク質のアンタゴニスト、抗体(その抗原結合性フラグメントを含む)、他の抗原結合ポリペプチド、および低分子(例えば、合成化合物または薬物)が挙げられる。
【0071】
本発明で有用な薬剤は補体活性化第二経路のアンタゴニストであり、この経路内のタンパク質のアンタゴニストが含まれる。本発明によれば、「アンタゴニスト」とは、所定のタンパク質の効果を抑制(例えば、アンタゴナイズ、減少、低下、阻止、逆転、または改変)する任意の化合物のことをいう。より詳しくは、所定のタンパク質の生物活性が、所定のタンパク質の本来の作用を対立する(例えば、に対して、逆に、反転し、反して)かたちで減少または抑制されるようにして、アンタゴニストは所定のタンパク質活性と関連させたかたちで活性化することが可能である。アンタゴニストとして、限定されるものではないが、抗体またはその抗原結合性フラグメント、タンパク質、ペプチド、核酸(リボザイムおよびアンチセンスを含む)、あるいはアンタゴニスト効果を及ぼす薬物/化合物/ペプチド設計もしくは選択の産物が挙げられる。例えば、本発明は、天然のタンパク質、B因子、D因子、またはプロパージンのアンタゴニストのいずれも含み、抗体アンタゴニスト、タンパク質/ペプチド・アンタゴニスト、核酸アンタゴニスト、または低分子アンタゴニスト(例えば、低分子阻害剤)が挙げられる。
【0072】
本発明の好ましい実施形態では、補体活性化第二経路のタンパク質を抑制するために使用される薬剤は、抗体またはその抗原結合性フラグメントである。同様に、抗原結合ポリペプチドもまた、本発明での使用に特に好ましい。一態様では、抗体は選択的に補体活性化第二経路のタンパク質に結合するものであり、この結合は、このタンパク質が正常(天然または生理的条件下で)に相互作用する別のタンパク質との結合を抑制または妨害されるようにして行われる。別の態様では、抗体は選択的にタンパク質に結合するものであり、この結合は、このタンパク質が正常に相互作用する別のタンパク質の活性化を、たとえそのタンパク質が少なくとも部分的に他のタンパク質に結合していたとしても、そのタンパク質が行うことを抑制または妨害するようにして行われる。補体活性化第二経路の選択的抑制に用いられる特に好ましい抗体およびその抗原結合性フラグメントは上に詳しく記載されている(例えば、本願に記載したB因子抗体、特に、本願に詳しく記載されたmAb1379抗体)。
【0073】
好ましくは、本発明に有用な抗体またはその抗原結合性フラグメントは、B因子、D因子、またはプロパージンから選択されるタンパク質に結合する。最も好ましくは、本発明は、B因子に結合する抗体またはその抗原結合性フラグメントを含む。本発明にもとづいてB因子に対して選択的に結合し、かつ補体活性化第二経路を抑制する抗体(およびその抗原結合性フラグメント)は、本願中に詳しく記述および例示されている。一実施形態では、抗体またはその抗原結合性フラグメントは、動物種、特に哺乳類の種の間で保存されているタンパク質(すなわち、抗体は2種類以上の異なる哺乳類の種に由来するタンパク質と交差反応する)の保存結合面またはエピトープに結合する。特に、本発明は、少なくとも2種類、好ましくは数種類の異なる哺乳類種(限定されるものではないが、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、馬、およびウサギが挙げられる)に由来する補体活性化第二経路のタンパク質に対して結合する抗体を含む。
【0074】
本発明は、抗原結合パートナーまたは抗原結合ポリペプチドともしばしば呼ばれる非抗体ポリペプチドにも及ぶものであり、該非抗体ポリペプチドは、本発明にもとづいてタンパク質に選択的に結合あるいは中和または抑制するように設計されている。所定のリガンド特異性を持つそのようなポリペプチドの設計例が、Beste et al.(Proc.Natl.Acad.Sci.96:1898−1903,1999)に記載されており、本願ではその全体を本願中に参照して援用する。
【0075】
本発明は、抗体、その抗原結合性フラグメント、および抗原結合ポリペプチドに加えて、補体活性化第二経路のタンパク質を抑制する他の薬剤を含む。そのような薬剤として、例えば、合理的なドラッグ・デザインの産物である化合物、天然物、および部分的に限定された調節特性を持つ化合物が挙げられる。調節剤(所定のタンパク質のアンタゴニストを含む)は、タンパク質系化合物、炭水化物系化合物、脂質系化合物、核酸系化合物、天然有機化合物、合成有機化合物、抗体、またはそのフラグメントである。一実施形態では、本発明のそのような調節剤として薬剤が挙げられ、薬剤にはペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物、および合成有機分子、もしくはペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物、または合成有機分子が含まれ、補体活性化第二経路の1つまたは複数のタンパク質の産生および機能、もしくはタンパク質の産生または機能を調節する。そのような薬剤を得ることができるのは、例えば、分子多様性戦略(関連した戦略の組み合わせであり、該戦略は、大きくて化学的多様性のある分子ライブラリーの迅速な構築を可能にする)、天然または合成化合物のライブラリー、特に化学または組み合わせライブラリー(すなわち、配列またはサイズが異なるが、同一の構成要素を持つ化合物のライブラリー)からであり、あるいは合理的ドラッグ・デザインによってである。例えば、Maulik et al.,1997,Molecular Biotechfaology:Therapeutic Applications and Strategies,Wiley−Liss,Inc.を参照せよ。本願ではその全体を本願中に参照して援用する。
【0076】
分子多様性戦略では、大きな化合物ライブラリーが、例えばペプチド、オリゴヌクレオチド、炭水化物および/または合成分子から、生物学的、酵素的、および/または化学的アプローチを用いて合成される。分子多様性戦略を開発する際の重要なパラメーターとして、サブユニット多様性、分子サイズ、およびライブラリー多様性が挙げられる。そのようなライブラリーをスクリーニングする上での大まかな目標は、組み合わせ選択の逐次適用を利用して所望の標的に対する高親和性リガンドを得て、次にランダム設計または有向設計のいずれかによってリード分子を最適化することである。分子多様性の方法は、Maulik, et al.(上掲)に詳しく記載されている。
【0077】
合理的なドラッグ・デザイン手法では、調節化合物の3次元構造を例えば核磁気共鳴(NMR)またはX線結晶学によって行うことができる。次に、この3次元構造を用いて、潜在的な調節剤等の潜在的な化合物の構造をコンピュータ・モデリング等によって予測することができる。予測された化合物構造は、分子多様性方法によって誘導されるリード化合物を最適化する際に用いられる。また、予測化合物は、キメラ合成、組み換えDNA技術等によって、あるいは天然の供給源(例えば、植物、動物、細菌、および菌類)からミメトープを単離することによって生産され得る。
【0078】
構造をベースとするドラッグ・デザインの種々の他の方法がMaulik et al.,1997(上掲)に開示されている。Maulik等は、例えば、適当に選択されたフラグメントのフラグメント・ライブラリーに由来する新規分子を精製するプロセスをユーザが指示することができる有向設計の方法と、ランダムに突然変異したフラグメントおよびそれらの組み合わせに対して遺伝的アルゴリズムまたは他のアルゴリズムをユーザが用い、その一方で候補リガンドの適応度を評価するために選択基準を同時に適用するランダム設計と、3次元レセプター構造と小さなフラグメント・プローブとの間の相互作用エネルギーをユーザが計算した後、好ましいプローブ部位によって連結するグリッド・ベースのアプローチとを開示している。
【0079】
補体活性化第二経路のタンパク質を抑制するための薬剤として有用である単離核酸分子は、アンチセンス核酸分子、リボザイム、またはsiRNAである。本願で用いられるように、アンチセンス核酸分子は、タンパク質をコードする遺伝子に対して高ストリンジェントな条件下で交配することにより、そのタンパク質の発現を減少させる単離核酸分子として定義される。そのような核酸分子はタンパク質をコードする遺伝子に対して十分に類似しており、その分子は、高ストリンジェントな条件下で、天然タンパク質をコードする遺伝子またはRNAのコード鎖または相補鎖と交配することができる。RNA干渉(RNAi)は、二本鎖RNA、さらにほ乳類系では低分子干渉RNA(siRNA)を用いて、相補的遺伝子の発現を抑制またはサイレント化するプロセスである。標的細胞では、siRNAがほどけてRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)に取り込まれ、RISCがsiRNAに相補的であるmRNA配列へ導かれ、このRISCによってmRNAが切断される。リボザイムは、標的RNA部分に結合することによって機能するRNAセグメントであり、特定の切断部位でリン酸ジエステル・バックボーンを切断することで標的RNA部分を不活性化させる。
【0080】
遺伝子は、コード領域自体と同様に、その遺伝子によってコードされるタンパク質の産生を制御する調節領域(例えば、限定されるものではないが、転写、翻訳、または後翻訳制御領域)を含む。補体活性化第二経路の種々のタンパク質(B因子、D因子、またはプロパージンが含まれる)をコードする遺伝子は同定されており、当該技術分野で公知になっている。単離核酸分子は、その自然環境から取り出された(すなわち、人為的操作を受けている)核酸分子であり、DNA、RNA、またはDNAもしくはRNAの誘導体を挙げることができる。そのようなことから、「単離」とは、核酸分子が精製される度合いを反映するものではない。本発明の単離核酸分子は、その天然の供給源から、あるいは組み換えDNA技術(例えば、ポリメラーゼ鎖反応(PCR)増幅、クローニング)もしくは化学合成を用いて生産することによって単離される。
【0081】
本願で用いられるように、交配条件への言及は、核酸分子が類似の核酸分子を特定するのに用いられる標準の交配条件のことに言及したものである。そのような標準的条件は、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Labs Press,1989に記載されており、Sambrook et al.(同書)の内容全体(特に、9.31〜9.62頁を参照せよ)を参照によって本願中に援用する。さらに、ヌクレオチドのミスマッチの度合いが変動するのを許容する交配を達成する上で適当な交配および洗浄条件を求めるための式が、例えば、Meinkoth et al.,1984,Anal.Biochem.138,267−284に開示されており、Meinkoth et al.(同書)の内容全体を参照によって本願中に援用する。
虚血再かん流傷害
本発明のさらに別の実施形態は、例えば、本願に記載した抗B因子またはその抗原結合性フラグメントを用いたB因子の抑制が、虚血再かん流傷害も抑制するという本発明者らによる発見に関する。このことは、腎虚血再かん流傷害に関するモデルで示された。したがって、本発明の方法および組成物はまた、虚血再かん流傷害、および本発明の一態様では腎虚血再かん流傷害を伴う状態での治療上の有用性を持つ。この方法を用いて予防または減少され得る虚血再かん流傷害の他のタイプとして、限定されるものではないが、心虚血再かん流傷害、中枢神経系虚血再かん流傷害、四肢もしくは指の虚血再かん流傷害、肺、肝臓、もしくは腸等の内臓器官の虚血再かん流、または任意の移植器官もしくは組織の虚血再かん流傷害が挙げられる。
【0082】
本発明のこの方法は、虚血再かん流を呈するか、または虚血再かん流を経験もしくは発症する危険性のある動物の補体活性第二経路を選択的に抑制するステップを含む。好ましくは、虚血再かん流による傷害の少なくとも1つの症状またはタイプを予防または抑制する。虚血再かん流傷害は、細胞および組織によって産生される潜在的に有害な種々の化合物の生産または酸化を増大させ、このことは細胞および組織の酸化的傷害または致死をもたらす。例えば、腎細管の障害および急性尿細管壊死に特有な変化を含む腎臓の組織学的損傷をもたらす。結果として生ずる腎機能異常によって、腎臓によって通常分泌される窒素廃棄物(例えば血清尿窒素(SUN))の集積が生じる。虚血再かん流は、肺等の遠位器官に対しても傷害を生ずる場合がある。この方法は、上記に詳述した本発明の新規B因子抗体を利用するものであり、虚血再かん流を呈するか、または虚血再かん流を経験もしくは発症する危険性のある動物にB因子抗体を投与した場合、虚血再かん流による傷害の少なくとも1つの症状が予防、減少、または抑制される。本願に記載された本発明のB因子抗体、またはその抗原結合性フラグメント、あるいは類似の結合特異性を持つ抗原結合ポリペプチドは、いずれもこの本発明の実施形態で有用である。本発明の種々の方法での好ましい投与量、投与経路、ならびにそのような抗体および関連試薬を含む組成物および試薬についての説明は本願中でなされており、またこの実施形態に含まれている。
【0083】
留意すべき点は、本発明のこの実施形態が特に虚血再かん流傷害の処置に関するものであり、そのようなことから、虚血再かん流傷害を生じさせた症状または原因因子を顕著に減少または「治癒」することは必要とされないことである。本発明の方法は、虚血再かん流に伴う損傷または傷害を予防または減少させること、あるいはそのような傷害の少なくとも1つの症状を改善または減少させることに十分に効果的である。したがって、本願中に記載された薬剤または製剤の投与は虚血再かん流傷害の予防または抑制に有用であり、そのような傷害の全てが完全には予防されることを必要とするものではないが、その薬剤または製剤を用いることで患者が少なくとも1つの治療的有用性を経験することが好ましい。
本発明の実施形態に関連した製剤、組成物、および方法
本発明の別の実施形態もまた、本願に記載したように、補体活性化第二経路の阻害剤、特に補体活性化第二経路の選択的阻害剤を含む製剤または組成物を含む。製剤または組成物を、本願に記載したいずれの方法でも使用することができ、また本願に記載したいずれの試薬(例えば、本願に記載した新規B因子)と併用することもできる。一実施形態では、組成物は動物の気道過敏性を減少または予防するのに有用である。別の実施形態では、組成物は動物の虚血再かん流傷害を減少または予防するのに有用である。さらに別の実施形態では、組成物は、補体活性化第二経路の選択的抑制によって、症状または疾患を処置または予防するのに有用である。製剤は、(a)本願に記載された補体活性化第二経路の阻害剤と、(b)医薬的に許容される担体とを含む。
【0084】
一実施形態では、製剤または組成物は、1つまたは複数の追加薬剤を含むことができ、例えば、気道過敏性、特に炎症を伴う気道過敏性を呈するか、またはそれを発症する危険性のある動物での炎症を減少させるのに適した抗炎症剤が挙げられる。抗炎症剤は、気道過敏性を伴う炎症状態を呈する患者の炎症を減少させる際の使用に適している任意の抗炎症剤であり、限定されるものではないが、コルチコステロイド(経口、吸入、および注射)、β−アゴニスト(長期および短期作用)、ロイコトリエン修飾因子(阻害剤または受容体アンタゴニスト)、サイトカインまたはサイトカイン受容体アンタゴニスト、抗IgE、フォスフォジエステラーゼ阻害剤、クロモグリク酸ナトリウム、ネドクリマル、テオフィリン、およびT細胞機能抑制剤が挙げられる。本発明の製剤での使用に特に好ましい抗炎症剤として、コルチコステロイド、ロイコトリエン修飾因子、およびサイトカインまたはサイトカイン受容体アンタゴニストが挙げられる。
【0085】
別の実施形態では、製剤または組成物は、1つまたは複数の追加薬剤、例えば動物の虚血再かん流傷害の予防または減少に適した追加薬剤を含む。そのような薬剤として、限定されるものではないが、抗炎症剤、または酸化およびフリー・ラジカル傷害の阻害剤が挙げられる。
【0086】
別の実施形態では、1つまたは複数の追加薬剤、例えば補体活性化第二経路の活性化を伴う別の疾患または状態を処置するのに適した追加薬剤を含む。
本発明によれば、「医薬的に許容される担体」として、医薬的に許容される賦形剤および医薬的に許容される送達ビヒクル、もしくは賦形剤または医薬的に許容される送達ビヒクルが挙げられ、これらは製剤または薬剤を適当な生体内部位へ投与する際の使用に適している。適当な生体内部位は、好ましくは、補体活性化第二経路が抑制され得る任意の部位である。好ましい一実施形態では、患者が気道過敏性および気道炎症、もしくは気道過敏性または気道炎症を呈するか、もしくは発症の危険性を持つ場合、適当な生体内部位は、好ましくは肺組織または気道にある。他の好ましい生体内部位として、補体活性化第二経路に関係した状態が集中する他の組織または器官が挙げられる。別の実施形態では、適当な生体内部位は虚血再かん流傷害が生ずる任意の部位であり、例えば、心臓もしくは肺系、中枢神経系、四肢もしくは指、または内臓器官(例えば、肺、肝臓、もしくは腸)にある部位、あるいは任意の移植器官または組織にある部位が挙げられる。好ましい医薬的に許容される担体は、本発明の製剤に使用される薬剤を維持することが可能であり、患者の標的部位に薬剤が到達すると直ちに、その薬剤が標的(例えば、補体活性化第二経路の成分であるタンパク質)に対して作用することができ、好ましくは患者に対して治療的有用性をもたらす形態にある。
【0087】
本発明の適当な賦形剤として、組成物を細胞または組織へ輸送する、またはその輸送を助けるが、特異的に標的化するものではない賦形剤または製剤(本願では、非標的化担体ともいう)が挙げられる。医薬的に許容される賦形剤の例として、限定されるものではないが、水、リン酸緩衝食塩水、リンガー液、ブドウ糖溶液、血清含有溶液、ハンク液、他の生理的平衡水溶液、油類、エステル類、およびグリコール類が挙げられる。水性担体は適当な補助剤を含むことができ、この補助剤は、例えば化学的安定性および等張性によってレシピエントの生理的状態に近いことが求められる。適当な補助剤として、例えば、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ならびにリン酸緩衝液、トリス緩衝液、および重炭酸塩緩衝液の作製に使用される他の物質が挙げられる。補助剤として、防腐剤(例えばチメロサール、m−またはo−クレゾール、ホルマリン、およびベンゾール・アルコール)も挙げることができる。本発明の製剤を、従来の方法によって安定化、および/または凍結乾燥することができる。
【0088】
医薬的に許容される担体の一種として徐放製剤が挙げられ、該徐放製剤は本発明の組成物を徐々に動物体内に放出することができる。本願で用いられるように、徐放製剤は、徐放ビヒクルに入った本発明の薬剤から構成される。適切に制御された徐放ビヒクルとして、限定されるものではないが、生体適合性ポリマー、他の高分子マトリックス、カプセル、マイクロカプセル、微小粒子、ボーラス製剤、浸透圧ポンプ、拡散デバイス、リボソーム、リポスフェア、および経皮送達系が挙げられる。他の適当な担体として、送達されるべき薬剤の半減期を延ばす薬剤に結合、または該薬剤を取り込むことができる任意の担体が挙げられる。そのような担体として、生体内で送達された場合にタンパク質の半減期を延ばす任意の適当なタンパク質あるいは融合セグメントさえも挙げられる。適当な送達ビヒクルは本願で既に説明されており、限定されるものではないが、リポソーム、ウイルス・ベクターまたは他の送達ビヒクル(リボゾームを含む)が挙げられる。天然の脂質含有送達ビヒクルとして、細胞および細胞膜が挙げられる。人工の脂質含有送達ビヒクルとして、リポソームおよびミセルが挙げられる。上記したように、本発明の送達ビヒクルを修飾して患者体内の特定の部位を標的化することができ、それによってその部位にある阻害剤を標的化または該阻害剤を利用することができる。適当な修飾として、送達ビヒクルの脂質部分の化学式に手を加えたり、および好ましい部位、例えば好ましい細胞型に対して送達ビヒクルを特異的に標的化したりすることができる標的剤、もしくは送達ビヒクルの脂質部分の化学式に手を加えたり、または好ましい部位、例えば好ましい細胞型に対して送達ビヒクルを特異的に標的化したりすることができる標的剤を、ビヒクルの中に導入することが挙げられる。他の適当な送達ビヒクルとして、金粒子、ポリ−L−リジン/DNA−分子コンジュゲート、および人工染色体が挙げられる。
【0089】
一実施形態では、本発明に有用な薬剤が、肺または経鼻送達、特にエアゾール送達に適した剤形(本願ではエアゾール化製剤ともいう)で投与される。そのような送達経路は、患者のAHRおよび気道炎症、もしくはAHRまたは気道炎症を予防または抑制するための方法で特に有用ではあるが、肺または気道への送達が求められる場合に他の状態で使用され得る。また、それらの製剤は、特に抗体の送達に有用である。そのような製剤は一般に担体、好ましくは医薬的に許容される担体を含む。本発明に基づくエアゾール送達にとって特に有用である担体として、限定されるものではないが、無水エタノール、分散性の乾燥粉末、小カプセル(例えば、マイクロカプセルまたは微粒子)、リポソーム、注射用賦形剤、および噴霧剤が挙げられる。タンパク質およびペプチドを送達するための無水エタノールは、例えば、Choi et al.,2001,PNAS USA98(20):11103−11107に記載されている。薬剤のエアゾール化送達に適している分散性の乾燥粉末については、例えば、米国特許第6,165,463号明細書に記載されており、本願ではその全体を本願中に参照して援用する(また、Inhale Therapeutic Systems, Inc.,現在はNektar, and Quadrant Technologyの製品を参照せよ)。エアゾールでの使用に適したリポソームとして、任意のリポソーム、特に本発明の方法でエアゾールによって送達されるのに十分なほどに小さい任意のリポソームが挙げられる。マイクロカプセルおよび微粒子は、当該技術分野で公知である。例えば、Alliance Pharmaceutical Corporationは、専用のスプレー乾燥プロセスを用いて調製されるPulmoSphereと呼ばれる中空かつ多孔に設計される粒子エンジニアリング技術を持っている。Ventolinによる製品は、CFCを主成分とする噴霧剤の混合物に懸濁された微小化アルブテロール(遊離塩基)からなる。プロベンチルHFAは、微小化アルブテロール硫酸と、安定化されたオレイン酸サーファクタントに対する低い割合のエタノール共溶媒とを含む。リポソームへの薬物の取り込みは、エアゾール送達にとっていくつかの利点がある。リポソームが比較的不溶性であることから、有効性を高めるために、いくつかの薬物の肺での滞留時間を延ばすことができる。リポソームはまた、食細胞によって主に取り込まれ、それによってリポソームがある種の薬物の送達にとって特に適したものとなる。噴霧化製剤は実施例で説明される。エアゾール化された製剤を送達するための装置として、限定されるものではないが、加圧定量吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、定量溶液装置(MSI)、および超音波吸入器が挙げられ、さらに噴霧器および吸入器である装置が挙げられる。そのような装置によって送達される製剤に、種々の薬剤を、タンパク質の送達にとって特に有用である懸濁補助剤および可溶化剤として用いることができる(例えば、オリゴ乳酸、アシル−アミド酸、および単官能M−PEGSであり、McKenzie and Oliver;2000;Formulating Therapeutic Proteins and Peptides in Pressurized Metered Dose Inhalers For Pulmonary Delivery;3M Health Care Ltd.,Morley Street,Loughborough,Leicesteshire LE11 1EP,UKを参照せよ)。
【0090】
標的化することができる医薬的に許容される担体を、本願では「標的化送達ビヒクル」という。本発明の標的化送達ビヒクルは、阻害剤等の製剤を患者体内の送達部位へ送達することができる。「標的部位」とは、治療用製剤の送達が求められる患者体内の部位のことをいう。例えば、標的部位は、本発明の抗体によって、あるいは直接注射またはリポソーム、ウイルス・ベクター、もしくは他の送達ビヒクル(リボザイムを含む)によって標的化される任意の細胞または組織である。本発明の送達ビヒクルまたは抗体を修飾して動物体内の特定部位を標的化することができ、それによって特定の化合物、抗体、タンパク質、または核酸分子がその部位を標的化するかまたはその部位で利用される。適当な修飾として、送達ビヒクルの脂質部分の化学式に手を加えること、および好ましい細胞または組織型等、好ましい部位に対して送達ビヒクルを特に標的化することができる化合物、もしくは送達ビヒクルの脂質部分の化学式に手を加えること、または好ましい細胞または組織型等、好ましい部位に対して送達ビヒクルを特に標的化することができる化合物をビヒクルに導入することが挙げられる。具体的には、標的化とは、送達ビヒクル内の化合物が特定の細胞の表面上にある分子と相互作用することによって、この細胞に対する送達ビヒクルの結合を生じさせることをいう。適当な標的化化合物として、特定の部位で別の分子に選択的に(すなわち、特異的に)結合することができるリガンドが挙げられる。そのようなリガンドの例として、抗体、抗原、受容体、および受容体リガンドが挙げられる。特に有用な例として、補体経路(例えば、CR2、C3、C3d、C3dg、iC3b、C3b)に関連する任意のリガンドまたは細胞型、組織型、もしくは処置すべき動物体内の部位が挙げられる。送達ビヒクルの脂質部分の化学式に手を加えることで、送達ビヒクルの細胞外または細胞内標的化を調整することができる。例えば、リポソームの脂質処方に対して化学物質を加えることで、リポソームが特定の帯電特性を持つ特定の細胞と融合するように、リポソームの脂質二重層の電荷を変えることができる。
【0091】
種々の投与経路および薬剤にとって有用な一種の送達ビヒクルはリポソームである。リポソームは、本発明に記載された核酸分子、またはタンパク質もしくは抗体さえも、動物体内の好ましい部位へ送達するのに十分な時間にわたって動物体内で安定状態を保つことができる。リポソームは、本発明によれば、動物体内の特定の、または選択された部位に対して、本発明に記載された核酸分子を送達する性質がある脂質組成物を含む。本発明に係るリポソームは、細胞内に核酸分子を送達するために、標的細胞の原形質膜に融合することができる脂質組成物を含む。本発明による使用に適したリポソームとして、任意のリポソームが挙げられる。本発明の好ましいリポソームとして、例えば、当業者に公知の遺伝子送達法で一般に使用されるリポソームが挙げられる。より好ましいリポソームは、ポリカチオン脂質組成物を有するリポソームおよびポリエチレングリコールに結合するコレステロール骨格を有するリポソーム、もしくはポリカチオン脂質組成物を有するリポソームまたはポリエチレングリコールに結合するコレステロール骨格を有するリポソームから構成される。本発明の核酸分子または阻害剤とリポソームとを複合体化することは、当該技術分野で標準的な方法を用いて達成される。
【0092】
別の送達ビヒクルはウイルス・ベクターから構成される。ウイルス・ベクターは本発明の方法で有用な単離核酸分子を含むものであり、該核酸分子がウイルス外被に包まれて細胞へのDNAの取り込みを可能にしている。多数のウイルス・ベクターを用いることができ、限定されるものではないが、アルファウイルス、ポックスウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびレトロウイルスをベースとしたものが挙げられる。
【0093】
本発明によれば、薬剤、組成物、および製剤を投与するために許容されるプロトコル(投与経路および動物に投与すべき薬剤の有効量を含む)の決定を当業者が行うことができる。本発明の薬剤は、生体内または生体外で投与され得る。適当な生体内投与経路として、限定されるものではないが、経口、経鼻、吸入、局所、気管内、経皮、直腸、および非経口経路を挙げることができる。好ましい非経口経路として、限定されるものではないが、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、腹腔内経路を挙げることができる。好ましい局所経路として、エアゾールによる吸入(すなわち、噴霧法)、または動物の皮膚への表面局所投与が挙げられる。好ましくは、薬剤が経鼻、吸入、気管内、局所、または全身経路(例えば、腹腔内、静脈内)で投与される。生体外とは患者の外側で投与段階の一部を実施することをいう。抗体投与の好ましい経路として、非経口経路およびエアゾール/経鼻/吸入が挙げられる。
【0094】
静脈内、腹腔内、および筋肉内投与を、当該技術分野で標準的な方法を用いて実施することができる。エアゾール(吸入)送達の実施を、当該技術分野で標準的な方法を用いて実施することができる(例えば、Stribling et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA189:11277−11281,1992を参照せよ。本願ではその全体を本願中に参照して援用する)。エアゾール送達に適した担体については既に述べられている。エアゾール化された製剤を送達するための装置として、限定されるものではないが、加圧定量吸入器(MDI)、乾燥粉末吸入器(DPI)、および定量溶液装置(MSI)が挙げられ、さらに噴霧器および吸入器である装置が挙げられる。経口送達は、本発明の治療組成物と、動物の腸での消化酵素による分解に耐えることができる担体とを複合体化させることで行われ得る。そのような担体の例として、可塑性のカプセルまたは錠剤、例えば当該技術分野で公知のものが挙げられる。直接注射技術は、外科手術によって到達可能である細胞または組織、特に身体の表面上もしくは該表面近傍に、組み換え体核酸分子を投与するのに特に有用である。標的細胞の領域内に局所的に組成物を投与することは、標的細胞または組織から数センチメートル、好ましくは数ミリメートルのところに組成物を注射することをいう。
【0095】
本願に開示される種々の投与方法および送達ビヒクルは、核酸分子を標的細胞または組織に送達することに対して有効であり、それによって核酸分子が細胞に移入されて発現することが示されている。異種遺伝子の送達および発現が、好ましい細胞型で、あるいは/または本発明の好ましい送達ビヒクルおよび投与経路を用いて成功裏に達成された。例えば、1998年1月6日にDow等に対して付与された米国特許第5,705,151号明細書では、リポソーム送達を用いて、超抗原をコードする核酸分子およびカチオン性リポソーム送達ビヒクルでサイトカインをコードする核酸分子の生体内静脈内送達が成功され、それによってコードされたタンパク質が動物の組織、特に肺組織で発現したことが示された。Liu et al.,1997は、遺伝子を含むコレステロール含有カチオン性リポソームの静脈内送達が肺組織を標的にし、この遺伝子の生体内での輸送および発現を効果的に媒介することを示した。多数の核酸配列の送達は、核酸配列をコードするウイルス・ベクターの投与によって行われている。
【0096】
本願に記載された任意の方法で使用されるタンパク質、低分子、および抗体を含む薬剤の好ましい単回投与量は、約0.01マイクログラム×キログラム−1ないし約10ミリグラム×キログラム−1動物体重から構成される。さらに好ましくは、約1マイクログラム×キログラム−1ないし約10ミリグラム×キログラム−1動物体重から構成される。よりいっそう好ましくは、約5マイクログラム×キログラム−1ないし約7ミリグラム×キログラム−1動物体重から構成される。薬剤のさらに好ましい単回投与量は、約10マイクログラム×キログラム−1ないし約5ミリグラム×キログラム−1動物体重から構成される。薬剤の特に好ましい単回投与量は約0.1マイクログラム×キログラム−1ないし約5ミリグラム×キログラム−1動物体重から構成され、薬剤がエアゾールによって送達される場合である。薬剤の別の特に好ましい単回投与量は約0.1マイクログラム×キログラム−1ないし約10ミリグラム×キログラム−1動物体重から構成され、薬剤が非経口的に送達される場合である。
【0097】
一実施形態では、本発明の核酸:リポソーム複合体の適当な単回投与量は、この複合体が投与される患者の体重1kgあたり約0.1μgないし約100μgである。別の実施形態では、適当な単回投与量は、体重1kgあたり約1μgないし約10μgである。別の実施形態では、核酸:脂質複合体の適当な単回投与量は、少なくとも約0.1μgの核酸、より好ましくは少なくとも約1μgの核酸、よりいっそう好ましくは少なくとも約10μgの核酸、さらにいっそう好ましくは少なくとも約50μgの核酸、さらにいっそう好ましくは少なくとも約100μgの核酸である。
【0098】
一実施形態では、本願に記載された任意の方法での使用にとって適当な本発明の薬剤(例えば、B因子、D因子、またはプロパージン)の投与量は、薬剤の投与がなされない場合と比較して、本願に記載されるように補体活性化第二経路の少なくとも1つのタンパク質の発現または活性を抑制するのに有効な投与量である。タンパク質の発現または生物学的活性を測定する方法は上述されている。別の実施形態では、本発明の薬剤の適当な投薬量は、本発明の補体活性化第二経路を測定可能なかたちで阻害する投与量である。補体の活性化およびその抑制が、当該技術分野で周知の技術/アッセイを用いて行われる。例えば、実施例に記載されるように、ザイモサンA粒子に対するC3堆積の生体内分析を実施することができる。また、ヒト血清による非感作赤血球の溶解を抑制する薬剤の性質を試験することもできる。これらのアッセイに基づいた生体内投与量に対する生体外結果の外挿は、当業者の能力の範囲内である。
【0099】
ヒトでは、エアゾール送達に従来の方法を用いた場合、たとえ吸入器を使用したとしても、一般に送達溶液の約10%のみしか気道深く入ることができないことは当該技術分野で知られている。もしエアゾール化送達が直接吸入によるものであるならば、噴霧法によって投与されるものの約10%の投与量であると考えることが可能である。最後に、当業者は、異種間物差し法を用いて、マウス投与量をヒト投与量に変換することを容易に行うことができよう。基本的に、マウスからヒトへの投与量の評価尺度は、化合物とマウスの体表面とのクリアランス率に基づいている。mg/kgの換算は、ヒト投与量の濃度を得るために「無影響量」(NOEL)の12分の1である。この計算は、マウスとヒトとの間で除去が同じであると仮定しており、そのことは抗体については事実であると考えられる。
【0100】
したがって、抗体の好ましい単回投与量は、動物の体重で約1ng×キログラム−1から約1mg×キログラム−1未満までの範囲から構成される。より好ましくは、抗体の単回投与量は、動物の体重で約20ng×キログラム−1から約600μg×キログラム−1までの範囲から構成される。より好ましくは、抗体の単回投与量は、特に抗体製剤が噴霧により送達される場合、動物の体重で約20ng×キログラム−1から約600μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約20ng×キログラム−1から約500μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約20ng×キログラム−1から約400μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約20ng×キログラム−1から約300μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約20ng×キログラム−1から約200μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約20ng×キログラム−1から約100μg×キログラム−1までの範囲であり、さらに動物の体重でより好ましくは約20ng×キログラム−1から約50μg×キログラム−1までの範囲から構成される。
【0101】
抗体の別の好ましい単回投与量は、特に抗体が噴霧により送達される場合、動物の体重で約200ng×キログラム−1から約600μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約200ng×キログラム−1から約500μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約200ng×キログラム−1から約400μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約200ng×キログラム−1から約300μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約200ng×キログラム−1から約200μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約200ng×キログラム−1から約100μg×キログラム−1までの範囲であり、さらに動物の体重でより好ましくは約200ng×キログラム−1から約50μg×キログラム−1までの範囲から構成される。
【0102】
抗体の別の好ましい単回投与量は、特に抗体が吸入器により直接吸入することによって送達される場合、動物の体重で約2ng×キログラム−1から約100μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約2ng×キログラム−1から約50μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約2ng×キログラム−1から約10μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約2ng×キログラム−1から約5μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約2ng×キログラム−1から約1μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約2ng×キログラム−1から約0.5μg×キログラム−1までの範囲であり、より好ましくは約2ng×キログラム−1から約0.25μg×キログラム−1までの範囲であり、さらに動物の体重でより好ましくは約2ng×キログラム−1から約0.1μg×キログラム−1までの範囲から構成される。
【0103】
別の実施形態では、抗体は、製剤1ミリリットルあたり約500μg未満であり、好ましくは製剤1ミリリットルあたり約250μg未満であり、より好ましくは製剤1ミリリットルあたり約100μg未満であり、より好ましくは製剤1ミリリットルあたり約50μg未満であり、より好ましくは製剤1ミリリットルあたり約40μg未満であり、より好ましくは製剤1ミリリットルあたり約30μg未満であり、より好ましくは製剤1ミリリットルあたり約20μg未満であり、より好ましくは製剤1ミリリットルあたり約10μg未満であり、さらにより好ましくは製剤1ミリリットルあたり約5μgから10μgまでの範囲の投与量で抗体を投与される。
【0104】
より詳しく、気道過敏性および気道炎症、もしくは気道過敏性または気道炎症、あるいはそれを伴う状態または疾患を減少または予防する方法を考慮することで、動物に投与される阻害剤の適当な単回投与量は、動物において、適当な時間間隔を置いて1回または複数回投与する場合、気道過敏性および気道炎症、もしくは気道過敏性または気道炎症を減少または予防すること、ならびに処置すべき疾患の少なくとも1つの症状(例えば、喘息)を減少させる投与量である。患者がAHRを呈しているか、もしくはそれを発症する危険性がある場合、抗原の適当な単回投与量は、誘発剤の倍化量によってAHRが改善する投与量または動物の静的呼吸機能を改善する投与量から構成される。
【0105】
本発明の方法によれば、動物に投与されるAHRを抑制する薬剤の有効量は、動物にとって毒性がない状態で気道過敏性(AHR)または気道炎症を減少させる量から構成される。動物に対して毒性を示す量は、動物の組織または機能に傷害を生ずる(すなわち、有毒である)任意の量から構成される。
【0106】
一実施形態では、AHRを呈するか、もしくはそれを発症する危険性のある動物で、AHRから動物を守るためのAHR阻害剤の有効性を倍化量で測定することができる。例えば、所定の薬剤の投与によってAHRから守られる動物の性質(すなわち、その減少またはそれに対する予防を経験)は、この動物のPC20メタコリンFEVが薬剤投与前に1mg/mlであり、かつ薬剤投与後に2mg/mlである場合に優れている。同様に、薬剤は、この動物のPC20メタコリンFEVが薬剤投与前に2mg/mlであり、かつ薬剤投与後に4mg/mlである場合に有効であると認められる。薬剤の好ましい有効量は、正常動物のPC20メタコリンFEVに対して、約1倍化濃度によって薬剤処理を受けた動物のPC20メタコリンFEVを増加させることができる量から構成される。上記したように、正常動物とは、異常AHRに罹っていない、または罹りやすくないことが知られている動物のことをいう。試験動物とは、異常AHRに罹っている疑いがあるか、それに罹りやすい動物のことをいう。
【0107】
本発明の一実施形態では、AHRを呈する動物において、動物に投与される薬剤の有効量は、薬剤投与前と比較して、動物でAHRを測定可能なほどに減少させる量である。別の実施形態では、動物に投与される薬剤の有効量は、薬剤を投与されていないAHRに伴う炎症を持つ動物の一群での気道AHRのレベルと比較して、その動物でAHRを測定可能なほどに減少させる量である。薬剤は、たとえこの薬剤をAHRの身体症状が発症した後に投与した場合(すなわち、急性発症AHR後)であっても、好ましくは動物でAHRを減少させることができる。最も好ましくは、薬剤の有効量は、AHRがもはや患者で検出されない点までAHRの症状を減少させる量である。別の実施形態では、薬剤の有効量は、薬剤が存在していない状態でAHRを誘発するのに十分な方法で患者をAHR誘発刺激(例えば、アレルゲン)に曝す前に薬剤を投与する場合に、AHRの発症を予防または実質的に抑制する量である。
【0108】
別の実施形態では、本発明の方法に係る薬剤の有効量は、最初の濃度のメタコリンの倍化量によって動物を誘発する際に薬剤の投与前に得られたPC20メタコリンFEV値が、メタコリンの最初の濃度の倍化量によって動物が誘発される際に薬剤の投与後に得られたPC20メタコリンFEV値と同じになるように、動物のPC20メタコリンFEV値の改善をもたらす量から構成される。薬剤の好ましい量は、薬剤の投与前に得られたPC20メタコリンFEV値(約0.01mg/mlないし約8mg/mlのメタコリン)が薬剤の投与後に得られたPC20メタコリンFEV値(約0.02mg/mlないし約16mg/mlのメタコリン)と同じになるように、動物のPC20メタコリンFEV値の改善をもたらす量から構成される。
【0109】
本願で既に説明したように、AHRを呈するか、もしくはそれに罹りやすい動物を保護することに対する薬剤の有効性は、薬剤の投与前後のFEV値および/またはFEV/FVC比の改善率によって判断することができる。一実施形態では、薬物の有効量は、動物のFEV/FVC値が少なくとも約80%になるように動物の空気流の制限を減少させることができる量から構成される。別の実施形態では、薬剤の有効量は、動物のFEV/FVC値が少なくとも約5%または少なくとも約100ccあるいはPGFRGが10L/minまで改善されるように、動物の空気流の制限を減少させることができる量から構成される。別の実施形態では、薬剤の有効量は、動物のFEVを、この動物の予測FEVの少なくとも約5%、より好ましくは約6%ないし約100%、より好ましくは約7%ないし約100%、さらにより好ましくは約8%ないし約100%(または約200ml)まで改善する量から構成される。別の実施形態では、薬剤の有効量は、少なくとも約5%、好ましくは約10%、より好ましくは約25%、さらにより好ましくは約50%、さらにより好ましくは約75%まで改善する量から構成される。
【0110】
当業者は、動物に投与される薬剤の投与回数を、気道過敏性の程度およびAHRの症状が根底にある状態での程度と、処置に対する個々の患者の応答とによって判断することが可能である。加えて、臨床医は、動物のAHRを減少させるのに有効な方法で、薬剤送達の適当なタイミングを決定することが可能である。好ましくは、薬物を送達させるのは、AHRを誘導するのに有効な刺激を誘発させる量のAHRに患者を曝すのに先立つ48時間以内、より好ましくは36時間以内、より好ましくは24時間以内、より好ましくは12時間以内であり、また、より好ましくは、AHRを誘導するのに有効な刺激を誘発する量のAHRに対して患者を曝すのに先立つ6時間、5時間、4時間、3時間、2時間、または1時間前である。一実施形態では、薬剤の投与は、患者がAHR誘発刺激、特に患者が感作されるAHR誘発刺激(すなわち、アレルゲン)に曝されているか、または曝されようとしていることを患者または臨床医によって認識されるやいなや(すなわち、直ちに)行われる。別の実施形態では、薬剤はAHR発症の最初の徴候(すなわち、急性発症AHR)に対して投与され、好ましくはAHRの症状が発症してから少なくとも2時間以内、より好ましくは少なくとも1時間以内、より好ましくは少なくとも30分以内、より好ましくは少なくとも10分以内、さらにより好ましくは、AHRの症状発症の少なくとも5分以内である。AHRの症状およびそのような症状を測定または検出する方法は上述されている。好ましくは、そのような投与はAHRの減少の徴候が現れるまで行われ、さらに、AHRの症状が消え去るまで必要に応じて行われる。
【0111】
虚血再かん流傷害を抑制または予防する方法を特に考慮すると、動物に投与される薬剤、特にB因子抗体またはその抗原結合性フラグメント(または抗原結合ポリペプチド)の有効量は、薬剤の投与がない場合と比較して、動物において酸化的傷害または細胞死を含む組織学的傷害を測定可能なほどに抑制する量である。腎臓虚血再かん流傷害の場合、動物に投与される薬剤の有効量は、その薬剤が投与されていないものと比較して、血清尿素窒素の増加を測定可能なほどに抑制する量、あるいは動物の腎臓の組織に対する組織学的傷害を測定可能なほどに減少させる量である。動物に投与する阻害剤の適当な単回投与量は、適当な時間間隔を置いて1回または複数回投与された場合に、動物での虚血再かん流傷害による少なくとも1つの症状、損傷のタイプ、または結果として生ずる傷害のタイプを減少または予防することができる投与量である。抗体の適当な投与量(種々の投与経路に関するものが含まれる)は上述されている。一態様では、動物に投与される虚血再かん流傷害を抑制する薬剤の量は、動物に対して毒性を示すことなく虚血再かん流傷害によって生ずる少なくとも1つの症状または傷害を抑制することができる量から構成される。
【0112】
本発明の方法はいずれも任意の動物で使用することができ、特に脊椎動物亜門、ほ乳網(すなわち、ほ乳類動物)の任意の動物であり、限定されるものではないが、霊長類、齧歯動物、家畜、および家庭内ペットが挙げられる。本発明の方法を用いた処置にとって好ましいほ乳類はヒトである。
【0113】
以下の実施例は、説明を目的として提供されるものであって、本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【実施例】
【0114】
実施例1
下記実施例は、補体活性化第二経路に対する新規阻害因子について記載されている。
本発明者等は、マウス由来B因子と結合するマウスモノクローナル抗体を産生するいくつかのハイブリドーマを作成した。同研究において発明者等は、これらの抗体の一つを、補体活性化第二経路を阻害する性質を有するように設計した。発明者等は更にこの抗体について抗リン脂質媒介胎児死亡モデルを用いて試験を行った。既報にて論じられている通り(Girardi)、B因子欠損マウスは本モデルにおいて胎児死亡症状から大変良好に保護されていることから、発明者等は補体活性化第二経路に対する外因性阻害因子が本疾病モデルにおいて有効な治療薬であると推定した。
試験方法
B因子−Ig 融合タンパクの構成とマウス由来B因子の精製
マウスIgG1アイソタイプのCH2とCH3蝶番部領域に連結するB因子遺伝子の短コンセンサスリピート(SCR)の2つをコードするプラスミドを設計した(図1)。これらのSCRドメインが選択されたのは、本試験で使用されたfB−/−マウスのB因子における削除区分に相当する部分であるからである。
マウス由来B因子の精製
補体B因子を、正常マウス血清から親和性精製法を用いて精製した。カラム製造元の使用説明書に従って、ヤギ抗ヒトプロパージンB因子(Diasorin社製、Stillwater,MN)をCNBr活性化セパロース(アマシャム社製、Arlington Heights,IL)に結合させて親和性カラムを作成した。C57/B6Jマウスを心臓穿刺により脱血処理し、第二経路の活性化を回避するために500mM EDTA 50μLを入れた注射器に血液を採取した。血液を2000rpm 15分回遠心分離して血漿を得た。次いで血漿を、緩衝液(EACA 50mM、EDTA 10mM、およびベンズアミジン 2mMを含有するPBS,pH7.4)にて1:1に希釈し、0.22μmフィルター(GE Water Technologies社製)にてろ過した。処理した血漿を親和性カラムに通し、カラム容量の10倍量の緩衝液で洗浄した。B因子を5M LiClにて溶出させ、一晩PBSの透析を行った。B因子の純度を、10%トリスーグリシンゲルにて電気泳動した後クーマジー染色して確認した(データ未記載)。
補体B因子を標的とする阻害性モノクローナル抗体の形成
マウス由来B因子の標的欠損を、既に報告されている方法で行った(Matsumoto)。B因子欠損マウスをSv129系統胚幹細胞により作出し、次いでF1コロニー増殖に先立ってC57BL/6マウスと交配させた。B因子欠損マウスをフロイント不完全アジュバントで乳化した125μgの組み換え型B因子−Ig融合タンパクによって免疫し、次いで3週間の期間を空けて4回追加免疫した。マウスB因子をコーティングしたプレートを用いて酵素免疫測定法(ELISA)によってマウスの血清を試験し、且つ補体第二経路の阻害を体外測定することにより(下記参照)、マウスにおけるB因子に対する阻害性抗体の形成をスクリーニングした。最後の注射1日後に、コロラド大学モノクローナル抗体センターでB因子に対して健全な免疫応答を有することが同定されたマウス脾臓細胞を骨髄腫セルラインと融合させた。候補ハイブリドーマを限界希釈法でクローン化し、第二経路活性の阻害機能を有するクローンを同定した。ハイブリドーマの一つであるA1379を実験に用いた。組織培養液上清からプロテイン−Gセファロースカラム(Pharmacia社製,Uppsala,Sweden)を用いてA1379を精製した。ポリミキシン(Sigma社製)を用いて、精製されたmAbからLPS(細胞内毒系リポ多糖;以下「LPS」)を除去した。リムルス変形細胞溶解測定法を製造元の使用手順書に従って実施し(BioWhittaker,Inc.製,Walkersville,MD)、mAb中にはLPSが1EU/mg−mAb以下であることを確認した。次いでmAbの純度を10%トリスーグリシンゲルにて電気泳動しクーマシー染色して確認した。
ELISAを用いた抗B因子抗体レベルの解析
免疫したマウスの免疫応答を、それらマウスの血清をサンプルとしB因子に対する酵素免疫吸着測定法(ELISA)を用いて調べた。96穴ELISA用プレート(Costar社製、Corning、NY)を、125ng精製B因子を含有するコーティング用緩衝液(15mM NaCO,35mM NaHCO)にてコーティングし、4℃で一晩保存した後、200μLのPBSで洗浄した。非特異的結合をブロックするために200uLの5% BSA(Sigma−Aldrich社製,St.Louis,MO)PBS溶液を用いてインキュベートした。プレートを0.1% Tween20を含むPBS溶液200μLにて2回洗浄し、希釈した血清を供して1時間インキュベートした。サンプルを、0.1% Tween20と0.1% BSAとを含有するPBS溶液によって100分の1に希釈した後、同緩衝液を用いて1:1の割合で7回連続希釈を行った。次いでプレートを2回洗浄した後、ペルオキシダーゼ結合ヤギ抗マウスIgG(Cappel社製、Durham,NC)50μLを加えてインキュベートした。プレートを次いで4回洗浄し、1:1000濃度のABTSを溶解させた30%過酸化水素水溶液(Sigma社製)100μLを加えてインキュベートし、マイクロプレートリーダー(Biorad社製、Richmond,CA)を用いて吸光波長405nm条件にて測定した。
補体活性化第二経路阻害測定
血清中の抗B因子抗体を滴定し、第二経路を阻害する性質についてスクリーニングを行った。この試験をザイモサンA粒子(Sigma社製、Quigg社製)にC3を沈着させる体外試験によって行った。50mgのザイモサン粒子を0.15M NaCl溶液10mLに加えて60分間沸騰させ、PBSにて2回洗浄した。1×10個のザイモサン粒子を最終濃度10mMのEGTAと5mMのMgCl溶液とに混合して血清の測定を行った。未処置のC57/B6マウスから採取した10μLの血清を補体の供給源として加えた。阻害の測定を、最大70μLの免疫されたマウスから採取した血清(阻害性抗体の産生をスクリーニングするため)もしくは精製した抗体を用いて、反応当り0.0625μgから8μgの範囲で滴定して行った。サンプルをPBSにて最終容量100μLに調整し、37℃にて30分間インキュベートした。1%ウシ胎児血清を含む冷PBSでザイモサン粒子を2回洗浄し、次いでFITC結合ヤギ抗マウスC3(Cappel社製,Durham,NC)を加えて氷上で1時間インキュベートした。サンプルを再度2回洗浄し、1%ウシ胎児血清を含むPBS 0.5mLによって再懸濁し、フローサイトメトリーによって解析した。阻害の割合は下記の計算式で算出した。
【0115】
【数1】

1379クローンのFab断片も、ザイモサン測定を用いて、その第二経路阻害能について試験を行った。Fab断片の作成を、精製した抗体をパパイン−アガロース(ICN Biomedicals社,Aurora,OH)に加え、使用説明書に従って行った。Fc断片と未消化IgGとを、抗体消化溶液をプロテインGカラムに通して除去した。Fab断片をカラム通過液から採取し、次いでFc断片と未消化IgGとを0.1Mグリシン塩酸溶液(pH=2.8)によって溶出させた。1μgのFabをザイモシン反応に使用した。本試験で使用したポリクローナル抗マウスC3抗体は、複数の種においてクロス活性を有することが分かっている。それゆえ阻害試験を行うためには、これらの種の第二経路の1379クローンを用いて阻害の測定を行った。阻害性抗体の滴定試験を上記の方法で行った。
【0116】
1379クローンが補体第二経路を阻害する性質を試験する他の方法として、発明者等は、ヒト血清を用いてこの抗体がウサギ不感作赤血球の溶解を阻害する性質について試験した。20.5gデキストロース、8.0gクエン酸ナトリウム(2水和物)、4.0g塩化ナトリウム、および0.55gクエン酸を1Lの蒸留水に溶解させて作成した緩衝液とウサギ全血とを1:1の割合で混合した。次いで、1.1%NaCl、0.0025% 5,5−ジエチルバルビツール酸ナトリウム(pH7.35)、8mM EGTA、及び2mM MgClを含む溶液と5mLの赤血球溶液とを1:9の割合で混合した。混合液を37℃で数分間インキュベートし、4℃ 1000×gで10分間遠心分離した。赤血球を更に3回洗浄してから40mLの同溶液にて再懸濁させた。上記懸濁液50μLをヒト血清(5から100μL)緩衝液溶液に加えて最終容量を150μLとした。血清を含まない緩衝液に赤血球を加えた溶液を陰性コントロールとし、100μLの蒸留水に赤血球を加えた溶液を陽性コントロールとした(完全溶解)。サンプルを37℃で30分間インキュベートし、その間時々振動させて細胞類の懸濁状態を維持させた。1.5mLの冷PBSを加えて反応を停止させ、サンプルを1000×gにて5分間遠心分離処理した。各上清の光学的濃度(OD)を、吸光光度計(Biorad社製)を用いて415nmの波長で測定した。赤血球の完全な溶解を起こすには10μLの血清が必要であることが分かった。同様の反応を10μLの血清を用いて1379クローンの濃度を増加させながら(反応当たり1μgから12μgまで)行った。補体第二経路阻害パーセントを下記の計算式で算出した。
【0117】
【数2】

1379クローンの体内薬物動態学
マウスを予め脱血処置し、抗体の1379クローン1gもしくは2mgを腹腔内(IP)もしくは静脈内(IV)注射投与した。これらの投与量を、B因子と等量モルになるように選択した。血清中B因子濃度を、およそ最大200μg/mL(もしくは最大2.2μM:B因子が90kDのタンパク質であるため)とした。1379抗体の分子量は150kDであり、成体マウスの血管容量はおよそ3mLであることから、1mgの注射投与(6.7pMol)によって体循環血中濃度は最大2.2μMとなる。抗体は2価抗体であることから、等量モルの注射投与は完全な第二経路阻害を起こすのに十分な量以上であると考えられる。阻害因子投与後、それぞれ1,2,6,24,48,96時間後にマウスを脱血処置した。これらの時間で得られた血清について、ザイモサン測定によって第二経路阻害活性を測定した。
結果
B因子のBa領域に対する阻害性モノクローナル抗体の産生
マウス由来B因子に対するモノクローナル抗体の産生法については試験方法の項に記載されている。免疫されたマウスから採取した血清を、抗B因子抗体(データ記載なし)の存在下で測定を行った。ハイブリドーマが急速に成長し、IgGサブクラスの抗体を作り(補体活性無し)その上清には補体第二経路阻害活性を有する事実が確認されていることから、1379指定の1個のクローンによって更なる定性試験を行った。抗体を精製した後(データ記載無し)、その抗体によって補体第二経路活性の2つの体内測定を行った(図2および図3)。ザイモサン測定によると、10μLの血清を含む反応系に3μgを加えた場合、補体第二経路活性を完全に阻害する因子が産生されることが分かった。抗B因子とB因子とはおよそ等量モル含まれていた(B因子がおよそ200μg/mL存在し分子量が90,000kDであると仮定すれば、10μL血清中に0.022nMol存在することになり、分子量150,000kDの抗体3μgがおよそ0.02nMolに相当する)。ウサギ赤血球溶解測定によると、ヒト血清10μL当たり抗体6μgで完全な阻害が起こることが分かった。次いで、1379クローンから作成したFabを用いた補体第二経路阻害測定を行った。1379クローンから作成したFab断片を過剰量(モル濃度)加えた場合、この測定により完全な補体第二経路阻害が起こることが観察された。
【0118】
次いで、1379が複数の異種哺乳類から採取した血清においても第二経路阻害活性を有することを調べるためにザイモサン測定を行った。表1に示す試験結果の通り、1379抗体は、ほとんどの哺乳類に対して補体第二経路を完全に阻害する活性を有することが分かっている。この抗体は、マウス、ラット、ヒト、何種類かのサルの補体第二経路を完全に阻害する活性を血清中に有することが分かっている。しかし、イヌやテンジクネズミの血清においては阻害効果を示さない。
【0119】
【表1】

1379抗体の薬物動態学
第二経路阻害活性について、マウスを用いて阻害性抗体を単回注射投与した後の時間経過に拠る効果を調べた。抗体1mgを静脈注射投与した場合は1時間以内に、腹腔内注射投与した場合は2時間以内に完全な阻害が観察された(図4)。抗体1mgを腹腔内単回注射投与したマウスは24時間後も、2mgを腹腔内単回注射投与したマウスは48時間後まで完全な第二経路阻害が観察された。1日おきに14日間、阻害因子である1379抗体2mgを繰り返し腹腔注射した場合、補体第二経路の完全な阻害は注射投与後少なくとも48時間観察された(データ記載無し)。これらのデータによって、このマウスmAbは“異物”として認識されることなく、長期にわたって体内投与が可能であることが強く推察される(データ記載無し)。最後に、この抗体のF(ab)断片の投与実験によって、完全に補体第二経路を阻害するには、完全体1379抗体とほぼ等量モル投与すればよいことが分かった(データ記載無し)。
BaのSCR3領域にあるエピトープに結合する1379
1379抗体がB因子変異体パネルに結合する機能によってmAb結合部位を見つけ出す方法は既に報告されている(Hourcade,1995,J.Biol.Chem)。実験によると、ヒトB因子のSCR1ではなくSCR2と3とに特定のアラニンが置換導入されることによって、1379抗体のB因子への結合が行われなくなる。25種の異なる変異体の実験によって、1379抗体はB17変異体とB23変異体とにはほぼ全く結合せず、B18変異体には結合特異性が20%以下に低下する。これらは全てSCR3の変異である。更に特異的に、B17変異体では139−Tyr−140−Cys−141−SerがHis−Cys−Proに置換され、これは成熟ヒトB因子の配列番号2として表記される箇所に相当し、B23変異体では182−Glu−183−Gly−184−Gly−185−SerがGly−Asn−Gly−Valに置換され,これも成熟ヒトB因子の配列番号2として表記される箇所に相当する。よって、1379抗体はB因子の第3SCRドメインに結合する。
結論
本発明者等は、マウス由来B因子に対するクローン1379として同定された新規モノクローナル抗体を作成した。この抗体は補体第二経路を特異的に阻害する因子であり、体外、体内試験において同経路を完全に阻害した。1mgの単回腹腔注射投与によって48時間まで第二経路活性を完全に阻害し、繰り返し注射投与によってこの経路の阻害効果を維持することが可能である。
【0120】
体外測定によれば、1379はマウス、ラット、サル、ヒト等の複数種の血清における第二経路活性を完全に阻害する効果を有する。B因子変異体パネルに対する抗体の結合親和性測定によって、抗原部位はfB−/−マウスにおいて一部欠損しているB因子のSCR3ドメインに存在することが分かった。B因子タンパクの同領域は因子D開裂箇所に近接している。1379のFab断片が補体第二経路を阻害する性質を有することは、1379が立体障害によって開裂を抑制しているだけではなく、因子Dの特定箇所にある特異的結合部位がタンパク開裂を誘起していることを示唆している。1379がこれほど多くの種の血清に対して活性を有することによって、同部位が高等哺乳類において高い保存性を有していることが推定される。
【0121】
他のいくつかの水溶性補体阻害因子が開発、同定されているが(Quigg;Weisman;Heller;Grange;Pratt)、本願に記された阻害因子こそが、広範囲の動物種の第二経路阻害に選択的に機能する初めてのものであると考えられる。第二経路を選択的に阻害するので、1379はC3転換酵素の量に応じて機能する他の阻害因子と比較していくつかの優位性を有する。この阻害因子は古典的経路に影響を与えないので、免疫抑制作用がより少ない。更には、古典的経路を遮断すると自己免疫を誘発することになる。選択的に第二経路を阻害することによりルーブス腎炎のマウスモデルに改善が観察されたが(Watanabe)、一方C3欠損モデルでは改善しなかった。第二経路は多くの疾病モデルにおいて特異的な関連性を持つので(Thurman;Watanabe;Girardi)、特異的第二経路阻害因子が治療薬として高い可能性を有することが予測される。
参照
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実施例2
下記の事例は、第二経路を介した補体の活性化が気道過敏性と気道炎症との亢進に重要な要因となっていることを示唆しており、更にはその補体活性化の第二経路を阻害することによって気道過敏性が抑制されることを示唆している。
【0122】
アレルゲンに曝露される前に補体活性化の阻害が成されるという前提で、本発明者等は補体活性化の経路について更なる検討を行った。本研究において発明者等は、第二経路を介した補体カスケードの活性化が気道過敏性と気道炎症との亢進に重要な要因となっていることを報告している。
試験方法
動物実験
8−12週齢のメスC57BL/6マウスをJackson Laboratories(Bar Harbor,ME)から購入して用いた。前述の通り、B因子へテロ接合型欠損マウス(fB+/−)をF1交雑し、次いでC57BL/6系統と第一世代交配し、次いで交雑しfB−/−系統を作成した。次いでこれらのマウスをC57BL/6マウスと7世代戻し交配した。対照用マウスとして、fB+/+類似遺伝子マウスの同腹子を用いた。C4欠損マウス((C4−/−)をC57BL/6マウスと17世代戻し交配し作成)を飼育して用いた。本実験に用いた全ての動物にオブアルブミン(OVA)除去食を摂食させ、採用した実験プロトコルをNational Jewish Medical and Research Centerの、Institutional Animal Care and Use Committeeの承認の下で行った。
実験プロトコル
マウスに、20μgのOVA(グレードV;Sigma Chemical社製,St.Louis,MO)もしくはブタクサ(Ambrosia artemisiifolia,Greer Laboratories製,Lenoir,NC)を2.25mg 水酸化アルミニウム(Alum Imuject;Pierce社製,Rockford,IL)に懸濁させた溶液を1日目と14日目とに腹腔内注射し、次いでOVAもしくはブタクサ(1%PBS溶液)を超音波ネブライザー(DeVilbiss Health Care製, Somerset,PA)で噴霧させ、27日目、28日目、29日目に気道を介して一日当たり20分間噴霧投与して感作処置した。
【0123】
fBの再構成は、10μg、1μg、もしくは0.1μgの精製fB(50μL PBS溶液)を気道感作処置の1時間前に、非感作および感作fB−/−マウスに鼻腔内投与した。対照実験群にはPBSを投与した。
【0124】
別の実験では、各OVA感作処置の2時間前にfBに対する抗体(抗fB抗体)を感作マウスに腹腔注射投与(2mg/処置/マウス)するか、もしくは噴霧投与した。噴霧投与では4匹のマウスをプレキシガラス容器に入れ、0.5mgの抗fB(5mL PBS溶液)を超音波ネブライザー(DeVilbiss Health Care製,Somerset,PA)で噴霧して投与した。対照群として、ラットIgGを同様の投与条件(時間ポイント、投与量)にて腹腔注射投与もしくは噴霧投与した。31日目にAHR評価し、同日動物はBAL液と血液と肺組織を採取するために殺した。
B因子の精製
B−/−マウスの第二経路活性を再構成するために、マウス補体B因子を正常マウスの血清を用いて親和性精製法によって精製した。使用説明書に基づいて、ヤギ抗ヒトプロパージンB因子(Diasorin社製,Stillwater,MN)をCNBr−活性化セパロース(Amersham社製,Arlington Heights, IL)に結合させて親和性カラムを作成した。C57/B6Jマウスを心臓穿刺により脱血処置し、第二経路の活性化を防ぐために500mM EDTA溶液50μLを入れた注射器によって血液を採取した。血液を2000rpmで15分間遠心分離して血漿を得た。血漿を緩衝液(EACA50mM,EDTA 10mM,ベンズアミジン2mM PBS溶液,pH=7.4)にて1:1に希釈し、0.22μmのフィルター(CE Water Technologies社製)でろ過した。血漿は親和性カラムに集められ、カラムをカラム容量の10倍量の緩衝液で洗浄した。次いでB因子を5M塩化リチウムによって溶出させ、一晩PBSを用いて透析した。10%トリスーグリシンゲルにて電気泳動した後クーマジー染色してB因子の純度を確認した。LPS濃度をリムルス変形細胞溶解測定法によって測定し(BioWhittaker,Inc.製,Walkersville,MD)、精製B因子中には1EU/mg以下であることを確認した。
抗B因子抗体の産生
抗マウスB因子モノクローナル抗体を実施例1に記載された手順で作成した。簡単に言えば、B因子欠損マウスを、B因子遺伝子と免疫グロブリンとに存在する二番目および三番目の短コンセンサスリピート(SCR)ドメインから作成した組み換え融合タンパクによって免疫した。SCRドメインを選択した理由は、それがfB−/−マウスのB因子遺伝子から欠損している断片の一部であるからである。次いで、fB−/−マウスをこのタンパクで免疫し3週間おきに4回追加免疫した。最後の注射の一日後に、コロラド大学モノクローナル抗体センターで脾臓細胞と骨髄腫とを融合させた。次いで、抗B因子モノクローナル抗体(mAb)分泌クローンを同定して定性した。ハイブリドーマの一つであるA1379を本実験に使用した。組織培養液の上清からプロテイン−Gセファロースカラム(Pharmacia社製,Uppsala,Sweden)を用いてA1379を精製した。精製したmAbからのLPS除去には、ポリミキシン(Sigma−Aldrich社製,St.Louis,MO)を使用した。リムルス変形細胞溶解測定法(BioWhittaker,Inc.製,Walkersville,MD)を測定キット製造元の使用手順書に従って行い、mAbにLPSがmAb1mg当たり1EU以下であることを確認した。10%トリスーグリシンゲルにて電気泳動した後クーマジー染色してmAbの純度を確認した。
気道機能の測定
気道反応性の評価を、エアゾール化したメタコリン(MCh)を10秒間噴霧投与(60呼吸/分,呼吸量500μL)し、濃度を増加させて投与量を変化させた処置(6.25,12.5,25.50,100mg/mL)後の気道機能の変化によって行った。マウスを麻酔(ペントバルビタール;腹腔投与,70から90mg/kg)もしくは気管開口処置(18Gカニューラ)し、機械的に呼吸をさせて(160呼吸/分、呼吸量150μL、終末呼気陽圧2−4cmHO)肺機能を評価した(Takeda,1997)。気道抵抗(RL)を、適合流量と、容量と、圧力とを運動方程式に適用して継続的に計測計算した(Labview,National Instruments社製,TX)。RLの最大値は、次いで行ったPBS噴霧による実験値をベースラインとした値からの変化分として計測して表記した。RLベースライン値はそれぞれの欠損マウスもしくは対照マウスで顕著な差異は無かった。
気管支肺胞洗浄とサイトカイン類の測定
気道機能の評価後、ハンクス平衡塩溶液(1×1mL、37℃)にて気管チューブを介して肺を洗浄した。気管支肺胞洗浄細胞(BAL細胞)の数をセルカウンター(Coulter Counter;Coulter Co.社製,Hialeah,FL)によって計測した。細胞数パーセントを細胞遠心処理によって計測し、各細胞タイプの細胞数パーセントと絶対数とを計算によって求めた。サイトカインの量を、BAL液をELISA法で解析して求めた(Tompkinson)。IFN−γ、IL−4、IL−5、IL−10、IL−12(全てPharMingen社製,San Diego,CA)、IL−13(R&D Systems社製,Minneapolis,MN)のELISA解析を製造元の使用手順書に従って行った。
【0125】
BAL液中のC3a desArg量について、1回目もしくは2回目のアレルゲン処置の24時間後に、そして3回目と最後の処置の24時間および48時間後に、製造元の使用手順書(Cedarlane Laboratories社製,Hornsby,Ontario,Canada)に従って、非感作マウスと感作マウスとをELISA法によって計測した。
組織学的検討と免疫組織化学的検討
BAL液を採取後、気管を介して2mLの10%ホルマリン溶液によって肺を膨張させ、同溶液によって浸漬して固定化した。組織部を、ヘマトキシリンーエオシン、過ヨウ素酸シッフ(PAS)により、そして免疫組織化学的観点から好酸球性の主要塩基性タンパク(MBP)を含む細胞をウサギ抗マウスMBP抗体(J.J.Mayo Lee,Clinic社製,Scottsdale,AZ)によりそれぞれ染色した。組織スライドを盲検法によって検討し、NIH Scion Image Software(Version1.62,米国National Institute of Healthとインターネット公開のソフトウェア)を用いて気管支周囲組織中および杯細胞の好酸球数を別々に解析した。
総IgEとOVA特異的抗体の計測
血清中の総IgE、OVA特異的IgE、およびOVA特異的IgG1を、上述のELISA法によって(Tompkinson)計測した。サンプルを滴定するOVA特異的抗体は内部プール標準物質に関連し、500ELISA単位(EU)になるように設定されている。総IgE量を、既知のマウスIgE標準物質(553481,PharMingen社製)と比較して計算した。
統計解析
全ての実験群の差異量を評価するために分散分析(ANOVA)を用いた。全ての比較解析をTurkey−Kramer HSD検定によって行った。有意性の確率値(p値)を0.05とした。全ての計測値を、標準誤差(SEM)を用いて表記した。
結論
第二経路を介する補体の活性化はアレルゲン刺激処置感作マウスのAHRの形成の重要な要因となる
AHRと気道炎症との形成に第二経路が果たす役割を評価するために、OVA感作マウスと非感作fB−/−マウスとに対応する対照マウス(fB+/+)に1%OVAエアゾールで連続3日間刺激処置した。感作と刺激処置とを施したfB+/+マウスは、fB+/+刺激処置しただけのマウスと比較して、MChに対する反応性の増加が観察された(図5)。それとは対照的に、感作と刺激処置とを施したfB−/−マウスは、感作と刺激処置とを施したfB+/+マウスと比較して、投与―反応曲線を指標としたMChに対する反応が顕著に低く(p<0.01)、これによって感作処置と刺激処置とを施した場合にAHRの生成が明らかに抑制されることが分かった。
【0126】
第二経路を介する補体の活性化はアレルゲン刺激処置感作マウスの気道炎症の発症に極めて重要な要因となる
気道炎症はアレルギー性気道疾病の特徴的な症状である。気道炎症を評価するために、最後の気道刺激処置の48時間後にBAL液と肺組織とを採取した。感作及び刺激処置を施したfB+/+マウスにおいては、刺激処置のみを施したマウスにはBAL液中に好酸球が存在しなかった結果と比較して、BAL液中の総細胞数と特に好酸球の数の増加が観察された(図6)。感作及び刺激処置を施したfB−/−マウスにおいては、感作及び刺激処置を施したfB+/+マウスと比較してBAL液中の総細胞数も好酸球数も顕著に低かった(p<0.01)が、刺激処置のみを施したマウスと比べると顕著に高い数値となった(p<0.01)。同様にブタクサによって感作と刺激処置とを施したfB−/−マウスにおいても、ブタクサによって感作と刺激処置とを施した対照マウス群に比べてBAL液中の好酸球数が低くなることが観察された(図6)。
【0127】
アレルゲン感作と気道刺激処置とによって、気管支周囲部の炎症と特に好酸球の浸潤とが、刺激処置のみの場合と比べて増加する様子が見受けられた(図4)。しかし、感作と刺激処置とを施したfB−/−マウスにおいては、感作と刺激処置とを施した対照マウス群に比べて、気管支周囲部の炎症が明らかに低くなることが観察された(表2)。好酸球の肺浸潤を定量化するために、組織部分を抗主要塩基性タンパクで染色して調べた(データ記載無し)。刺激処置のみを施したマウスでは、気管支周囲部の炎症はほとんど観察されなかった。感作と次いでアレルゲン刺激処置とを施したfB+/+マウスにおいては、気管支周囲部の好酸球数が顕著に増加した(表2)。それとは対照的に、感作と刺激処置とを施したfB−/−マウスにおいては、気管支周囲部の好酸球浸潤が顕著に低下した(表2)。
【0128】
その他のアレルギー性気道疾病の顕著な特徴としては、気道上皮細胞中の杯細胞の肥厚化がある。肺を過ヨウ素酸シッフ染色し、気道上皮の粘膜含有細胞を同定した。感作と刺激処置とを施したマウスにおいては、多量の細胞が染色されて粘膜含有性に対して陽性を示し(表2)たが、それと対照的に刺激処置のみのマウスではPAS(過ヨウ素酸シッフ染色)陽性を示す細胞は計測されなかった(表2)。感作と刺激処置とを施したfB−/−マウスにおいては、感作と刺激処置とを施した野生型マウスと比較して、気道上皮中に含有される粘膜は著しく少ない(p<0.001)ことが観察された。
【0129】
第二経路を介する補体活性化がBAL液中のサイトカイン産生に影響する
T細胞由来のTh2サイトカインの産生は、アレルギー性気道炎症とAHRとの誘発に重要な役割を果たしている。アレルゲン刺激処置に続いて応答するサイトカインを評価するために、最後のOVA刺激処置から48時間後のBAL液中のIL−4,IL−5,IL−10,IL−12,IL−13,IFN−γの濃度を調べた。感作と刺激処置とを施した野生型マウスにおいては、刺激処置のみを施したマウスに比べて、IL−4,IL−5,IL−13が顕著に増加し(p<0.05)、IL−10,IL−12,IFN−γが顕著に減少する(p<0.05)結果となった(データ記載無し)。fB−/−マウスにおいてはBAL液中のT2サイトカイン量(IL−4,IL−5,IL−13)が減少した(データ記載無し)。
【0130】
fB欠損は血清中の抗原特異的抗体類の量に影響しない
血清中の総IgEとOVA特異的IgEとOVA特異的IgG1との量を最後の刺激処置から48時間後に計測した。感作及び刺激処置を施したfB+/+マウスにおいては、刺激処置のみを施したマウスと比較して、総IgE、OVA特異的IgE、およびOVA特異的IgG1の量が増加することが観察された(表3)。同様に、fB−/−マウスにおいては、総IgE、OVA特異的IgE、およびOVA特異的IgG1の量が増加することが観察され、これは感作及び刺激処置を施したfB+/+マウスにおける結果と統計学的に差異は無く、これによって、アレルゲン感作及び刺激処置に対する体液の応答は、これらのマウスでは同じように保たれることが示唆された。
【0131】
【表2】

【0132】
【表3】

本モデルにおける古典的経路の活性化はアレルギー性疾病の亢進に重要ではない
感作及び刺激処置マウスの肺におけるアレルギー性応答の亢進に重要な補体経路を更に確定するために、本発明者等は古典的経路とレクチン経路との活性に必須である補体成分4を欠損する(C4−/−)マウスを用いて、fB−/−と比較試験を行った。
【0133】
補体経路の活性化を評価するために、BAL液中C3a desArg量を測定した。刺激処置のみを施したマウスではC3a desArgの量は低値であった(データ記載無し)。それとは対照的に、感作マウスでは第一回、二回、三回目の刺激処置後のBAL液中C3a desArg量は増加しており、最後の刺激処置から48時間後に最大値を示した(データ記載無し)。興味深いことに、感作及び刺激処置を施したC4−/−マウスでは、感作及び刺激処置を施した野生型マウスの場合と同等のC3a量が観察され、これとは対照的に感作及び刺激処置を施したfB−/−マウスでは、それぞれ感作及び刺激処置を施した野生型マウスと比較してC3a desArg量の低下が見受けられた(データ記載無し)。これらのデータから、感作マウスへのアレルゲンの曝露により補体活性化が第二経路を介して引き起こされることが示唆された。
【0134】
C4−/−マウスでは、感作及び刺激処置を施したC4+/+マウスと同レベルのAHRの症状が形成された(図13)。同様に、C4−/−マウスでは、総細胞数(平均値±SEM,n=10;163±35×10cells)もしくは気管支肺洗浄液(BAL液)中のリンパ球数(28±9×10cells)および好酸球数(98±23×10cells)の低下は、感作及び刺激処置を施した対照マウス群と比較して(それぞれn=10;175±53;35±12;115±32×10cells)一切観察されなかった(データ記載無し)。更には感作及び刺激処置を施したC4−/−マウスにおいては、感作及び刺激処置を施した野生型マウスと比較して気管支周囲部の好酸球数と杯細胞数とに同じレベルの増加が観察された(表2)。これらの知見から、本実験モデルにおける古典的経路の活性化はアレルギー性気道炎症の亢進に重要ではないことが示唆された。
【0135】
fB欠損マウスにおいてAHRと気道炎症との進行が見られないことはOVAに特異的ではない
アレルゲン感作及び刺激処置に拠る気道過敏性が起こらないことがOVAに対する特異的な非応答に基づくものであるかどうかの評価を行うために、fB−/−マウスと野生型マウスとをブタクサで感作及び刺激処置して検討した。ブタクサで感作及び刺激処置したfB−/−マウスにおいてはMChに対する応答の低下が観察されたが、一方fB+/+マウスにおいてはMChに対する応答が強化される(図7(A)および図7(B))。同様に、BAL液中の気道炎症は、ブタクサで感作及び刺激処置したfB−/−マウスにおいては、fB+/+マウスと比較して低下が観察された(図8)。
【0136】
fB−/−マウスにおいてB因子の投与がAHRと気道炎症とを再構成する効果がある
肺においてB因子を再構成するために、10μg、1μg、0.1μgのいずれかの精製したB因子(図9および図10)もしくはPBSを、各気道刺激処置の前にfB−/−マウスに鼻腔内単回投与した。各刺激処置前に予め0.1μgB因子にて感作及び刺激処置したfB−/−マウスにおいては、PBSにて予め感作及び刺激処置したfB−/−マウスと同様にMChに対する応答に低下が観察されたが、予め感作及び刺激処置したfB+/+マウスと比較すると著しく応答が低下した(図9)。1μgのB因子で予め感作及び刺激処置したマウスにおいては、fB−/−マウスおよびPBSもしくは0.1μgの精製したB因子で感作及び刺激処置したマウスと比較すると、僅かに但し統計的には差異が見られない程度の増加が観察された(図9)。それとは対照的に、各気道刺激処置の前に予め10μgの精製されたB因子で処置した感作及び刺激処置fB−/−マウスにおいては、予め感作及び刺激処置したfB+/+マウスと同様にMChに対する応答の増加が観察された。
【0137】
また、各気道刺激処置の前に予め10μgの精製されたB因子で処置した感作及び刺激処置fB−/−マウスにおいても、予め感作及び刺激処置したfB+/+マウスで観察されたのと同様に気道炎症の増加と特にBAL液中の好酸球数の増加とが観察された。一方、0.1μgもしくは1μgの精製されたB因子による処置ではBAL液中の好酸球数の増加が観察されなかった(図10)。もしB因子を各気道刺激処置の前に投与し但し感作処置を行わなかった場合には、AHRもしくは気道炎症応答は観察されなかったことから、刺激処置の進行に対する応答を得るには感作処置が必要であり、同じくfB−/−マウスには感作処置が必要であることを示唆している。これらのfB−/−マウスのデータから、第二経路のB因子はアレルギー性気道疾病に重要な役割を果たすことが明確に示される。
【0138】
fB中和抗体による処置が感作及び刺激処置マウスにおけるAHRの進行を阻害する
感作及び刺激処置された遺伝子欠損の無いマウスにおける第二経路を介した補体活性化の役割を評価するために、C57BL/6マウスを試験方法の項に記載した方法で感作処置した。実施例1に記載された1379抗B因子抗体を組織的にもしくは局所的に、既に報告されている他の補体阻害因子の効果的な投与経路を踏襲して噴霧投与した。刺激処置時にではなく感作処置後に組織的もしくは局所的に抗B因子を(噴霧)投与して処置した正常マウスにおいては、AHRの顕著な低下(図11(A)および図11(B))と同時に、気道における気道炎症と好酸球増加症状との抑制が観察された(図12)。更には、組織炎症については、これらの抗fB処置マウスにおいて、杯細胞数(表2)だけでなく気管支周囲部の好酸球数(表2)の減少も観察された。加えて、fB抗体処置したマウスにおいては、BAL液中のIL−4,IL−5,IL−13量の顕著な減少が観察された(データ記載無し)。同様に、抗B因子によって感作及び刺激処置を施したC4−/−マウスにおいては、気道過敏性と気道炎症とが低減された(図14)。これらの結果は、古典的経路と第二経路とを識別しないがAHRだけでなく後期気道応答の亢進をブロックする、補体阻害因子を使用した研究結果と相関する。
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48. Elsner et al.,1994,Eur J Immunol 24:518-22
実施例3
下記の実例は、本発明者等によって作成された抗B因子抗体パネルの結合データの追加である。マウス由来B因子とヒト由来B因子との様々な抗体との結合および阻害試験、もしくは結合または阻害試験の測定を行った。下記に示すとおり、mAb1379はマウス由来とヒト由来とのB因子と結合し、且つ阻害する。それとは対照的に、624に特定したmAbは、マウス由来とヒト由来のどちらのB因子とも結合するが、ヒトの第二経路の阻害機能が無い。更なる抗体の評価のために競合ELISAを行った。下記に示すとおり、抗体624,691,1231は1379との結合によって1379をブロックする機能は有していない。それゆえ、これらの抗体はタンパクの他の部位に結合するので、体外実験ではB因子と結合してもその機能を損なわない説明が可能である。しかし、抗体395,1322,1060は1379と競合阻害する。
【0139】
【表4】

実施例4
下記に示す実例は、ヒトB因子表面のmAb1379エピトープ・マッピングについてである。
【0140】
mAb1379抗体エピトープ・マッピングの最初の実験によって、B因子のエピトープもしくは抗体結合部位は一次構造ではないことが示唆された。抗体がELISAプレートに固定化されている場合は全長タンパクと強く結合する。結合が起こること(SCR2−3)が既知である領域の範囲に相当する長さである、アミノ酸10個分の長さを有するペプチドを作成した。これらのペプチドがELISAプレートに固定化された場合には抗体がそれらのペプチドを認識しないことから、これら一次配列はどれもエピトープとして認識されないことが示唆された。
【0141】
mAb1379によって認識されるヒトB因子における予測される保存結合表面もしくは保存結合エピトープをモデル化した。簡単に言えば、ヒトB因子の三次構造はCR2−SCR1−2の明確な三次元構造を基にして作成されている(Protein Data Bank(PDB)id1GHQ)。最終モデルは、各SCRに完全に保存されている4つのCys残基の位置固定による制約に基づいて最小のエネルギー状態になるように精緻化された。B因子SCR2−3の配列の同一性は、CR2SCR1−2に対しては30%(最大値)であり、H因子SCR15−16に対しては25%であり、CD46に対しては20%であった。図15には、mAb1379エピトープに対応するアミノ酸位置を有する因子、B因子構造(配列番号2に相対的)のモデルが例示されている。mAb1379抗体に立体配座するエピトープを形成すると考えられている残基は:Ala137、Tyr139,Ser141,Glu182、Ser185、Thr189、Glu190、Ser192などであり、エピトープがそれらを単に一部含むのか、ほとんど全部を含むのか、もっと他の残基が含まれるのかが図15に表記されている。
【0142】
本実験モデルは、現在ではHourcadeにより既に報告されているとおり、B因子変異体(Hourcade,1995,J.Biol.Chem.)の効果を予測することが可能であり、最初にはmAb1379抗体に対するエピトープの定性に用いた(実施例1参照)。下記に示しているのはこのパネルから得た4つの変異体であり、図15に例示しているmAb1379エピトープモデルに属する残基を有している。下記に示すとおり、B17とB23との変異体は実施例1に示されるようにmAb1379の結合を抑制するが、とりわけ(太字かイタリックで示してある)置換体を有しており、内面を向いていると予測されるのでmAb1379に対するエピトープ構造や保存性結合表面を妨げると考えられる。変異体B16/17にはmAb1379用にモデル化されたエピトープ内に残基類が含まれているとはいえ、エピトープ構造を妨害する変異は有していないと予測されており、それは何故この変異体が最初のマッピング実験の際に抗体に結合したかの説明にもなる。同様に、変異体B23/24もmAb1379用にモデル化されたエピトープ内に残基類を含んでおり、この変異体も最初のマッピング実験の際に抗体に結合し、抗体の結合部位を形成する残基類は変異により影響を受けにくい。この実験によって、本発明の抗体はB因子タンパクに結合するかもしくはその一部分に結合し、保存的変異もしくはこのエピトープを大きく阻害しないような変異を有することが分かった。
【0143】
【表5】

図16は、上記図15で定義された全長マッピングしたエピトープをカバーするようにモデル化されたFabの抗原結合側とともに、B因子と結合するmAb1379複合体(単Fab断片)のモデル化を図解したものである。
実施例5
下記の実例は、補体第二経路の阻害と特にB因子の阻害とが、動物の腎臓虚血再かん流障害を抑制かつ保護することを実証している。
【0144】
虚血性急性腎不全モデルにおける障害の改善におけるmAb1379の有効性を試験する実験を実施した。本モデルにおいて、虚血性急性腎不全を、マウスを麻酔して腎茎を24分間クランプ固定して誘発させた。障害誘発に先立つ1時間前に1mgのmAbをマウスに腹腔注射した。このプロトコルは虚血性急性腎不全の発症を可逆的に起こさせるものであり、障害のピークは腎茎からクランプの固定を外して血液が腎臓に再かん流されてから24時間後に起こるのが通例である。次いで、SUN(血清尿素窒素)のような窒素性老廃物の蓄積と血清クレアチニンとの測定、および腎臓病理学者による腎臓の形態学的障害の評価とによって腎臓障害の評価を行った。発明者等は、補体第二経路が腎臓の再かん流後即座に活性化し、この活性化が腎臓障害を結果として起こすのに寄与していることを実証した。
【0145】
腎臓を免疫蛍光法とウエスタンブロット法とで解析した実験により、ここで記されている1379抗体が、I/R(虚血/再循環;以下I/R)処理後、効果的に補体活性を防ぐことが確認された。図17に示したとおり、1379で予め処置したマウスは、野生型対照群と比較して(比較実験マウス群n=11、それぞれ78±15mg/dLと119±15mg/dL,P<0.05)、再かん流24時間後の血清尿素窒素(SUN)の上昇が緩やかであることが実証された。1379処置されたマウスでは組織学的障害についても緩やかであった。病理学者による盲検法を適用したグレード分類では、1379処置マウスは対照マウス群と比較して尿細管損傷が顕著に低いことが実証された(比較実験マウス群n=10、それぞれ3.3±0.5と4.9±0.1,P<0.01)。このように、1379はI/R処理後のマウス腎臓における補体活性化を効果的に防止し、予め1379で処置した場合はI/R処理後の機能的且つ組織学的障害を改善した。
【0146】
他の実験として、腎臓尿細管培養細胞をアンチマイシン存在下で化学的無酸素状態にて2時間インキュベートして行った。培養細胞は次いで新鮮なマウス血清に曝露し(補体源として)、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)を細胞死の指標とした測定を行い(Promega社製、Madison,WI)任意単位で計測した。アンチマイシンと血清とに曝露した培養細胞は、血清のみに曝露した培養細胞と比較して顕著に大量のLDHを遊離した(アンチマイシンと血清:100,140±3307対:69,255±9754、p<0.05;データ記載なし)。しかしながら、血清を、細胞とインキュベートする前にmAb1379とインキュベートした場合、LDHの遊離量は76,471±7720(「アンチマイシン+血清」で処理した細胞に対するp値:p<0.01;データ記載なし)に落ち込んだ。このように体内でも体外であっても、mAb1379は第二経路成分に曝露された低酸素状態の腎臓尿細管上皮細胞を保護する。
【0147】
本出願にて記載されている各参考文献は、統合されてはじめて完全なものとなる。それぞれ米国仮出願第60/543,594号明細書、米国仮出願第60/636,239号明細書、及び国際出願第PCT/US2004/015040号は統合されて本出願の参考文献となる。
【0148】
本発明に関する様々な実施例が詳説されているが、実施例の変更と翻案とが施され得るであろうことは当業者にとっては明白である。しかしながら、そのような変更と翻案とは下記の請求項に陳述されている本発明の主旨の範囲内で行なわれることは明らかな了解事項である。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【図1】B因子−Ig融合タンパク質の構成を示す模式図である。
【図2】10μlの血清を含有する反応物に対して3μgを添加した場合、ザイモサン分析で抗B因子が補体活性化第二経路を完全に抑制することを示す線グラフである。
【図3】10μlのヒト血清に対して6μgの抗体を添加した場合、ウサギ赤血球溶解分析で抗B因子が補体活性化第二経路を完全に抑制することを示す線グラフである。
【図4】マウスに対する抗B因子の投与が補体活性化第二経路を抑制することを示す線グラフである。
【図5】(A)は、アレルゲン感作および暴露fB+/+マウスが暴露のみのfB+/+マウスと比較してメタコリンに対する反応性の増加を示す一方で、fB−/−マウスではメタコリンに対する反応が著しく低いことを示す気道抵抗(R)の線グラフであり、(B)は、アレルゲン感作および暴露fB+/+マウスが暴露のみのfB+/+マウスと比較してメタコリンに対する反応性の増加を示す一方で、fB−/−マウスではメタコリンに対する反応が著しく低いことを示す動的コンプライアンス(Cdyn)の線グラフである。
【図6】気道感作および暴露後のfB−/−マウス由来のBAL液および肺組織の特徴を表す棒グラフである。
【図7】(A)は、ブタクサ感作および暴露fB−/−マウスがメタコリンに対する反応の減少を示した一方で、fB+/+がメタコリンに対する強い反応を発現したことを示す気道抵抗(R)の線グラフであり、(B)は、ブタクサ感作および暴露fB−/−マウスがメタコリンに対する反応の減少を示した一方で、fB+/+がメタコリンに対する強い反応を発現したことを示す動的コンプライアンス(Cdyn)の線グラフである。
【図8】BAL液および肺組織の特徴を表すとともに、fB+/+マウスと比較してBAL液での気道炎症がブタクサ感作および暴露fB−/−マウスで減少したことを示す棒グラフである。
【図9】各暴露前にB因子で処置された感作および暴露fB−/−マウスが、PBSで処置された感作および暴露fB−/−マウスと同様に、メタコリンに対する反応を減少させたが、感作および暴露fB+/+マウスと比較して著しく低くかったことを示す線グラフである。
【図10】B因子の投与によってfB−/−マウスでAHRおよび気道炎症を発症する性質が再構築されることを示す棒グラフである。
【図11】(A)は、B因子中和抗体の全身投与および噴霧投与の両方が感作および暴露マウスでのAHRの発症を抑制することを示す気道抵抗(R)の線グラフであり、(B)は、B因子中和抗体の全身投与および噴霧投与の両方が感作および暴露マウスでのAHRの発症を抑制することを示す動的コンプライアンス(Cdyn)の線グラフである。
【図12】全身または噴霧抗B因子のいずれかによる処置によって、BAL液中の好酸球の数、気管支周囲炎、気管支周囲好酸球数、同様に気道上皮の粘液陽性細胞数が減少することを示すBAL液および肺組織の特徴を表す棒グラフである。
【図13】感作および暴露C4−/−(黒菱形、n=10)は、吸入MChに対して、感作および暴露C4+/+マウス(黒四角、n=10)と同様の反応を示し、暴露のみのC4−/−マウス(白菱形、n=10)および暴露のみのC4+/+マウス(白四角、n=10)と比較して著しく高い反応を示したことを示す線グラフである(fB−/−感作および暴露、fB+/+暴露、ならびにfB−/−感作を比較した場合、p<0.05;fB+/+暴露およびfB−/−感作を比較した場合、#p<0.05;C4+/+暴露およびC4−/−暴露を比較した場合、¶p<0.05)。
【図14】感作および暴露C4−/−マウス(黒四角、n=8)は、吸入MChに対して、暴露のみのC4−/−マウス(白四角、n=8)と比較して気道抵抗の増加を示したこと、ならびに感作および暴露C4−/−マウスを全身性抗B因子モノクローナル抗体によって処置することでMChに対する気道反応(黒丸、n=8)が減少したことを示す線グラフである。
【図15】ヒトB因子表面上のmAb1379に対するエピトープ・マッピングのモデルを示す模式図である。
【図16】B因子に対して結合しているmAB1379(一つのFabフラグメント)と、マッピングされたエピトープ領域全体を覆うためにモデル化されているFabの抗原結合部位とのモデル化された複合体を示す模式図である。
【図17】1379による前処理を受けたマウスは、野生型対照群と比較した場合に、24時間の再灌流後の血清尿素窒素の増加がより穏やかであったことを示す棒グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
B因子の第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメインに選択的に結合してC3bBb複合体の形成を抑制する、単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項2】
B因子に結合してD因子によるB因子の開裂を抑制もしくは阻害する請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項3】
ヒトB因子の第3の短コンセンサスリピート(SCR)ドメインに結合する請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項4】
a)およその位置Tyr139からおよその位置Ser185まで、もしくはそれに相当する非ヒトB因子配列内の位置を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部を含有するB因子のエピトープと、
b)およその位置Tyr139からおよその位置Ser141まで、もしくはそれに相当する非ヒトB因子配列内の位置を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部を含有するB因子のエピトープと、
c)およその位置Glu182からおよその位置Ser185まで、もしくはそれに相当する非ヒトB因子配列内の位置を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部を含有するB因子のエピトープと、
d)非ヒトB因子配列内の、Tyrl39,Cys140,Serl41,G1u182,Glyl84,またはSerl85の位置の一つもしくはそれ以上の位置、もしくはそれらに相当する位置を含むヒトB因子(配列番号2)の少なくとも一部を含有するB因子のエピトープと
からなる群から選択されるB因子の第3のSCRドメイン内のエピトープに選択的に結合する請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項5】
複数種の哺乳類由来のB因子に選択的に結合する請求項1の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項6】
ヒト由来のB因子と、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマ及びウサギからなる群から選択される動物由来のB因子とに選択的に結合する請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項7】
前記抗体が非補体活性化アイソタイプもしくはサブクラスである請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項8】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項9】
前記抗原結合性フラグメントがFabフラグメントである請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項10】
前記抗体がヒト化抗体である請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項11】
前記抗体が二重特異性抗体である請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項12】
前記抗体が一価抗体である請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項13】
前記抗体がモノクローナル抗体1379(ATCC Deposit社製、No.PTA−6230)である請求項1に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項14】
複数種の哺乳類由来のB因子に選択的に結合してC3bBb複合体の形成を抑制する、単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項15】
ヒト由来のB因子と、非ヒト霊長類、マウス、ラット、ブタ、ウマ及びウサギからなる群から選択される動物由来のB因子とに選択的に結合する請求項14に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項16】
前記抗体が非補体活性化アイソタイプもしくはサブクラスである請求項14に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項17】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項14に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項18】
前記抗原結合性フラグメントがFabフラグメントである請求項14に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項19】
B因子に選択的に結合する、単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメントであって、モノクローナル抗体1379(ATCC Deposit社製、No.PTA−6230)のヒトB因子への特異的な結合を競合阻害し、前記抗体もしくはその抗原結合性フラグメントがヒトB因子に結合した場合には、補体第二経路活性を阻害するモノクローナル抗体1379の機能が阻害される、単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項20】
モノクローナル抗体1379のヒトB因子への結合を競合阻害し、ヒトB因子の存在下で競合結合する特異性が抗体―抗体競合アッセイによって確認されている請求項19に係る抗体もしくはその抗原結合性フラグメント。
【請求項21】
ヒトB因子に選択的に結合する、単離された抗体もしくは抗原結合性フラグメントであって、該単離された抗体もしくは抗原結合性フラグメントが第二抗体もしくはその抗原結合性フラグメントのヒトB因子への特異的な結合を競合阻害し、前期第二抗体もしくはその抗原結合性フラグメントがヒトB因子の第3のSCRドメインに結合する、単離された抗体もしくは抗原結合性フラグメント。
【請求項22】
請求項1から21のいずれか一項に記載の単離された抗体もしくはその抗原結合性フラグメントを含む組成。
【請求項23】
B因子の短コンセンサスリピート(SCR)ドメインに選択的に結合してC3bBb複合体の形成を抑制する抗原結合性ポリペプチド。
【請求項24】
複数種の哺乳類由来のB因子に選択的に結合してC3bBb複合体の形成を抑制する抗原結合性ポリペプチド。
【請求項25】
請求項23もしくは請求項24に記載の抗原結合性ポリペプチドを含む組成。
【請求項26】
炎症もしくは気道炎症を伴う気道過敏性(AHR)を有するか、もしくはその発症の危険性がある動物に対して、請求項1から18のいずれか一項に係る抗体もしくはその抗原結合性フラグメントを投与する工程を含む、動物の気道過敏性もしくは気道炎症を低減もしくは抑制する方法。
【請求項27】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントの投与前と比較して、動物における気道過敏性を適度に低減するために、抗体もしくは抗原結合性フラグメントが効果的な量で動物に投与される請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントが投与されない場合の炎症を有する動物の集団における気道過敏性のレベルと比較して、動物における気道過敏性を適度に低減するために、抗体もしくは抗原結合性フラグメントが効果的な量で動物に投与される請求項26に記載の方法。
【請求項29】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントの投与により、メタコリンもしくはヒスタミンに対する動物の応答性が低減する請求項26に記載の方法。
【請求項30】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントは、乾燥、分散可能な粉末、無水エタノール、小カプセル、リポソーム、噴霧化スプレー、および注射可能な賦形剤からなる群から選択される、薬学的に許容可能な担体を用いて投与される請求項26に記載の方法。
【請求項31】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントは、無水エタノール、乾燥粉末吸入システム、超音波吸入システム、加圧計量式吸入器、および計量式溶液装置からなる群から選択される担体または装置で投与される請求項26に記載の方法。
【請求項32】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントは、コルチコステロイド、β−アゴニスト(長期もしくは短期活性)、ロイコトリエン修飾因子、抗ヒスタミン剤、フォスフォジエステラーゼ阻害剤、クロモグリク酸ナトリウム、ネドクロミル、テオフィリン、サイトカイン拮抗剤、サイトカイン受容体拮抗剤、抗IgE、およびT細胞機能阻害剤からなる群から選択される薬剤とともに前記動物に投与される請求項26に記載の方法。
【請求項33】
前記気道過敏性もしくは気道炎症は、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、アレルギー性気管支肺アスペルギルス症、過敏性肺炎、好酸球性肺炎、気腫、気管支炎、アレルギー性気管支炎気管支拡張症、嚢泡性線維症、結核、過敏性肺炎、職業性喘息、サルコイド、反応性気道疾患症候群、間質性肺疾患、好酸球増多症候群、鼻炎、副鼻腔炎、運動誘発喘息、汚染誘発喘息、咳喘息、寄生虫性肺疾患、RSウイルス(RSV)感染症、パラインフルエンザウイルス(PIV)感染症、ライノウイルス(RV)感染症、およびアデノウイルス感染症からなる群から選択される疾病を伴う請求項26に記載の方法。
【請求項34】
前記気道過敏性がアレルギー性炎症を伴う請求項26に記載の方法。
【請求項35】
前記(AHR)もしくは気道炎症が喘息を伴う請求項26に記載の方法。
【請求項36】
前記(AHR)もしくは気道炎症がCOPDを伴う請求項26に記載の方法。
【請求項37】
炎症もしくは気道炎症を伴う気道過敏性を有するか、もしくはその発症の危険性がある動物の補体第二経路活性化を選択的に阻害する薬剤を投与する工程を含む、動物の気道過敏性(AHR)もしくは気道炎症を低減もしくは抑制する方法。
【請求項38】
虚血再かん流障害を有するか、もしくはその発症の危険性がある動物に対して、請求項1から18のいずれか一項に係る抗体もしくは抗原結合性フラグメントを投与する工程を含む、動物の虚血―再かん流障害を低減もしくは抑制する方法。
【請求項39】
前記虚血再かん流障害が腎虚血再かん流障害である請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントが投与されない場合と比較して、動物における血清尿素窒素の増加を適度に抑制するために、抗体もしくは抗原結合性フラグメントが効果的な量で動物に投与される請求項38に記載の方法。
【請求項41】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントが投与されない場合と比較して、動物の腎臓組織の組織学的障害を適度に低減するために、抗体もしくは抗原結合性フラグメントが効果的な量で動物に投与される請求項38に記載の方法。
【請求項42】
前記抗体もしくは抗原結合性フラグメントは、経口、経鼻、局所、吸入、気管内、経皮、直腸、および非経口の経路からなる群から選択される経路で投与される請求項26または請求項38に記載の方法。
【請求項43】
炎症もしくは気道炎症を伴う気道過敏性を有するか、もしくはその発症の危険性がある動物に、請求項23または請求項24に係る抗原結合性ポリペプチドを投与する工程を含む、動物における気道過敏性(AHR)もしくは気道炎症を低減もしくは抑制する方法。
【請求項44】
虚血再かん流障害を有するか、もしくはその発症の危険性がある動物に、請求項23または請求項24に係る抗原結合性ポリペプチドを投与する工程を含む、動物における虚血再かん流障害を低減もしくは抑制する方法。
【請求項45】
前記動物が哺乳類である請求項26から44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記動物がヒトである請求項26から44のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図17】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2007−522229(P2007−522229A)
【公表日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−553251(P2006−553251)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【国際出願番号】PCT/US2005/004346
【国際公開番号】WO2005/077417
【国際公開日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(303044077)ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ コロラド (11)
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of Colorado
【出願人】(500343614)ナショナル ジューイッシュ メディカル アンド リサーチ センター (6)
【出願人】(506274523)メディカル ユニバーシティ オブ サウス カロライナ ファンデーション フォー リサーチ ディベロップメント (1)
【氏名又は名称原語表記】MEDICAL UNIVERSITY OF SOUTH CAROLINA FOUNDATION FOR RESEARCH DEVELOPMENT
【Fターム(参考)】