BRIGHT/ARID3A機能の阻害による多能性細胞の作製方法
本発明は、細胞における多能性の調節に関与するBright/ARID3aを同定すること、および多能性の調節のためにその機能を標的とすることに関する。したがって、細胞を多能性細胞へと脱分化させる方法、およびそのような細胞を制御された様式で再分化させるための方法が提供される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本願は米国仮出願第61/080,451号(2008年7月14日出願)の優先権の恩典を主張し、その内容は全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援約款
本発明は、米国国立衛生研究所によって付与された助成金番号AI-44215およびAI-64886の下に、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は概して発生生物学および分子生物学の分野に関する。特に本発明は、細胞の多能性に関連するBright/ARID3a機能に関する。具体的には、本発明は、例えば細胞の脱分化および再分化との関連で、多能性を調節するためにBrightの阻害剤を使用することに関する。
【0004】
2.関連技術の説明
胚性幹細胞(ESC)は多能性であり、最終的にはあらゆる組織タイプの生成をもたらすことができる。したがってこれらの細胞は、変性疾患における組織置換療法に、大きな潜在的可能性を持っている。しかし克服すべき大きな障害がいくつかある。第1に、ESCの入手可能性は限られており、倫理的に議論の余地がある。第2に、ESCの成長は技術的に難易度が高く、他の細胞からなるフィーダー層を必要とする。第3に、特異的な細胞タイプについての分化制御に関する分子機序は明確には叙述されていないので、多能性細胞の成長を制御できない場合には、多能性細胞が最終的に不要な細胞タイプの生成および/または腫瘍形成をもたらす危険がある。最後に、組織の移植は主要組織適合抗原が同一である場合に最もうまくいくが、現在利用されているモデルでは厳密な組織マッチングが可能になっていない。
【0005】
多能性細胞を最終分化細胞から生成させることができるという報告が最近いくつかなされたことから、これがESCのもう一つの供給源になる可能性が切り開かれた。体細胞融合技術や、体細胞を多能性細胞から得られる抽出物と共にインキュベートすることも、ある程度の成功を収めているが、4つの調節因子、すなわちOct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4に焦点を合わせることにより、さらに有望な結果が得られている。Yu et al.(2007)は、これら4つの遺伝子を使って、ヒト胎児線維芽細胞を再プログラムすることに成功した。Takahashi et al.(2007)は、ヒト成人皮膚線維芽細胞を使って同様の結果を達成した。Nakagawa et al.(2008)は、Oct3/4、Sox2、およびKlf4だけでマウス線維芽細胞を再プログラムすることができたので、c-Mycがん遺伝子の使用に関する懸念が払拭された。ごく最近になって、Hanna et al.(2008)は、Oct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4を使って非最終分化マウスBリンパ球を再プログラムしたが、成熟リンパ球を再プログラムするには追加因子が必要だった。
【0006】
これらの成功にもかかわらず、4つの異なる導入遺伝子を使った再プログラミングの達成には、重大な制約がある。第1に、これらの方法は冗長で時間がかかり、宿主細胞中に留まるウイルスベクターによる導入を必要とする。効率は低く(<1%)、それはおそらく、多能性に要求される内在性遺伝子を再プログラムするのに必要な遺伝子量が明確でないからだろう。第2に、がん遺伝子の使用に関する上記の懸念は、ヒトにおけるいかなるインビボ応用にとっても、大きな障害になる可能性が高い。免疫不全マウスモデルへの多能性細胞の導入は、通例、奇形腫の形成につながる。そして第3に、ひとたび脱分化すると、Oct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4による形質転換が安定であるなら、すなわち一過性または可逆性でないなら、細胞を再分化させることは困難であるだろう。したがって、最終分化ヒト細胞において多能性を回復させる改良された方法が、今も必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
そこで、本発明によれば、(a)分化細胞を用意する工程;および(b)その細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、その細胞において脱分化を誘導する工程を含む、分化細胞を多能性にする方法であって、脱分化により細胞が多能性になる方法が、提供される。工程(a)の細胞は骨髄細胞、線維芽細胞または脾臓細胞、または末梢血細胞であってもよい。Bright/ARID3a機能の阻害剤は、Bright/ARID3aの発現の阻害剤、例えば干渉RNAなどであってもよい。あるいは、Bright/ARID3aの阻害剤はドミナントネガティブBright/ARID3a分子であってもよい。ドミナントネガティブBright/ARID3a分子は、ウイルス発現ベクターなどの発現ベクターによってコードされ得る。Bright/ARID3a阻害剤はBright/ARID3aペプチドであってもよい。
【0008】
Bright/ARID3a機能の阻害は可逆的であってもよい。一旦多能性になったら、再分化を誘導するシグナル、例えばケモカインまたは増殖因子などを用いて、その細胞をさらに処理してもよい。一旦処理されると、細胞は、外胚葉組織、内胚葉組織または中胚葉組織のマーカーを1つまたは複数発現し得る。再分化は脂肪細胞、神経細胞、筋細胞または内皮細胞の特徴を1つまたは複数発生させることを含むことができ、一旦再分化すれば、細胞中のBright/ARID3a機能は回復され得る。本方法は、その細胞を対象中に移植する工程をさらに含んでもよく、かつ/またはその対象は工程(a)における細胞の供給源であってもよい。
【0009】
もう一つの態様では、分化細胞を再プログラムする方法であって、(a)分化細胞を用意する工程;(b)その細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、その細胞において脱分化を誘導する工程;(c)脱分化後に、細胞を、再分化細胞の表現型が生じるように選択されたシグナルと接触させる工程;(d)該細胞を、そのシグナルと共に、再分化細胞の表現型が生じるのに十分な期間、培養する工程;および(e)該細胞における再分化細胞の表現型の1つまたは複数の面を同定する工程を含む方法が提供される。工程(a)の細胞は骨髄細胞、脾臓細胞、または末梢血細胞であってもよい。本方法は、工程(d)後にBright/ARID3a機能を回復させる工程をさらに含み得る。シグナルはケモカインであってもよい。再分化細胞の表現型は、脂肪細胞の表現型、神経細胞の表現型、筋細胞の表現型、膵臓細胞の表現型、造血細胞の表現型または内皮細胞の表現型であってもよい。
【0010】
さらにもう一つの態様では、幹細胞の成長を増強する方法であって、(a)幹細胞を用意する工程;(b)培養下の幹細胞をBright/ARID3a欠損細胞で馴化した培地と培養下で接触させる工程;および(c)その幹細胞を培養する工程を含む方法が提供される。幹細胞は胚性幹細胞または臍帯血幹細胞(chord blood stem cell)であってもよい。馴化培地は、Bright/ARID3a欠損細胞の培養によって前もって馴化されてもよい。馴化培地は、幹細胞およびBright/ARID3a欠損細胞の共培養によって馴化されてもよい。Bright/ARID3a欠損細胞は、ドミナントネガティブBright/ARID3aを発現させる発現コンストラクトを含有するか、Bright/ARID3a発現を妨げる干渉RNAを含有してもよい。本方法は、工程(c)後に、幹細胞を、分化を誘導するシグナルと接触させる工程をさらに含んでもよい。シグナルはケモカインであってもよい。Bright/ARID3a欠損細胞におけるBright/ARID3a機能は回復され得る。
【0011】
本発明には、適切な容器に入ったBright/ARID3aの阻害剤を含むキットも包含される。容器はバイアル、シリンジまたはチューブであってもよい。本キットは、薬学的に許容される緩衝剤、希釈剤または賦形剤、成長培地、サイトカインおよび/または増殖因子をさらに含んでもよく、かつ/または対象への投与に適した形態をしたBright/ARID3a阻害剤の調製に関する説明書をさらに含んでもよい。Bright/ARID3a阻害剤は、干渉RNA、ドミナントネガティブBright/ARID3a分子、Bright/ARID3aペプチド、またはそれらをコードする発現ベクターからなる群より選択することができる。
【0012】
本明細書において、「ある」(aまたはan)は、1つまたは複数を意味し得る。特許請求の範囲において、単語「ある」(aまたはan)が、単語「を含む」(comprising)と一緒に使用される場合、それは、1つまたは複数を意味し得る。本明細書において、「もう一つの」(another)は、少なくとも2つ目またはそれ以上を意味し得る。本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明白になるだろう。ただし、その詳細な説明および具体的実施例は、本発明の好ましい態様を示すものではあるが、単なる例示に過ぎない。なぜなら、この詳細な説明から、本発明の要旨および範囲に包含されるさまざまな改変および変更が、当業者には明白になるだろうからである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の一定の局面をさらに実証するために含めるものである。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示する具体的実施形態の詳細な説明と合わせて参照することによって、より良く理解されるだろう。
【0014】
【図1】ARID3a欠損マウス脾臓からの胚様体の形成。
【図2】ARID3a欠損細胞は複数の細胞タイプ(神経細胞(nerve cell)、内皮細胞、脂肪細胞)に分化する。(図2A)DN ARID3a脾臓培養物由来の内皮様細胞の管形成。(図2B)図2Aに示すDN ARID3a培養物由来の付着細胞。(図2Cおよび2D)マトリゲルで成長させた骨髄細胞に由来する神経系譜細胞を低倍率(図2C)および高倍率(図2D)で示す図。
【図3】RT-PCRによって示されるとおり、ARID3a欠損細胞培養物では、初期幹細胞遺伝子マーカーが発現される。(図3A)BCL2トランスジェニック(陰性対照)および脾臓ARID3a欠損培養物(BrSES)由来のLPS刺激脾臓細胞から得たcDNAを、Sox2発現に関して増幅した。(図3B)標準ES細胞株(+対照)、2つのドミナントネガティブARID3a脾臓細胞培養物(SCDND*36および50)ならびに非トランスジェニック対照脾臓に由来する培養物から得たmRNAにおいて、NanogおよびC-myc発現を測定した。(図3Cおよび3D)(図3B)で得た試料をLin28活性およびKLF-4活性について評価した。
【図4】ARID3a欠損脾臓細胞培養物から得られる馴化培地は標準ES細胞の成長と分化を増強する。標準ES細胞を懸滴培養物として開始(initiate)し、標準培地またはES細胞分化培地で成長させた(上側の2つのパネル)。並行培養物を、内皮細胞成長が増強されたARID3a欠損細胞から得た馴化培地(ENDO、左下)またはARID3a欠損脾臓細胞培養物から得た馴化標準RPMIで成長させた。
【図5】B細胞からの多能性幹細胞の作製。ドミナントネガティブBrightトランスジェニックマウスの骨髄プロB細胞を、フローサイトメトリーにより、CD43- IgM- B220+細胞(図5A)として、選別後解析(post sort in)(図5B)によって示されるように、>95%の純度で単離した。LIFを添加して照射マウス胚性線維芽細胞上で4週間成長させた後、対照C57Bl/6バックグラウンドプレB細胞は、図5Cに示すように、依然としてプレB細胞に似ていた。多細胞幹細胞様コロニーは、LIFの非存在下でも、ドミナントネガティブ培養物中に観察された(図5Dおよび5E)。
【図6】Bright欠損細胞は自発的に複能性(multipotent)である。(図6A)Bright-/-脾臓細胞エンブリオイド様ボディ(embryoid-like body)(スケールバー=50μm)。(図6B)Bright-/-脾臓細胞を10%FCSおよび内皮細胞増殖因子を含むDMEM中で成長させた(倍率は4倍である)。(図6C)フローサイトメトリーは、マウス血管腫細胞株(本研究機関のC.Esmonから分譲されたもの)ならびにBright-/-細胞における、マーカー、内皮プロテインC受容体(EPCR)、マウストロンボモジュリン(MTM)、およびCD31の、変動し得る発現レベルを示す。(図6D)5%FCSを含むRPMIで培養したBright-/-骨髄細胞をマトリゲルに播種し、3週間成長させた。クラスターを形成して成長する細胞から、分枝ニューロン様突起が発達した(左側のパネル、倍率10倍、右側のパネル、20倍)。(図6E)マトリゲルから単離されたニューロン様細胞をDAPI、抗ネスチンまたはアイソタイプ対照で染色した。
【図7】Bright欠損細胞はiPS様コロニーを形成し、キー幹細胞マーカーを発現する。(図7A)従来のES細胞、6週齢正常脾臓(WT1)および6ヶ月齢を超える2つのBright-/-脾臓培養物(BrSPS1およびBrSPS2)で、RT-PCRアッセイを行った。(図7B)Bright-/-腎臓細胞は、ES細胞と同様に、MEF上で、iPSC様コロニーを形成し、小さな核(DAPI染色、左側のパネル)と初期幹細胞マーカーSSEA-1の発現(右側のパネル)を伴った。同じ区画のMEF単層はSSEA-1で染色されなかった(スケールバー=50μm)。
【図8】DN Bright細胞株は再プログラミングの徴候を示し、Bリンパ球由来であると思われる。(図8A)DN Bright脾臓培養物は自発的にエンブリオイド様ボディを生成した(上側のパネル、明視野、下側のパネル、三次元多細胞構造を強調するためにアクチン反応性ファロイジンで染色)(倍率20倍)。(図8B)DN Bright脾臓培養物(DN1およびDN2)、対照脾臓培養物(WT1)およびES細胞を、RT-PCRにより、遺伝子発現について評価した。(図8C)新鮮脾臓細胞(脾臓)、培養下で8ヶ月後の代表的DN Bright細胞株(DN1)および陰性対照ESおよびMEF細胞(Con1およびCon2)のゲノムDNAを、生殖系列Ig重鎖座位のプライマー(GL)およびD-JHプライマー(D-JH4)を使って増幅した。矢印は予想される産物を示す。(図8D)Jκ再構成を検出するために、対照脾臓、脳およびDN1細胞株ゲノムDNAを複数のプライマーで増幅した(Ramsden et al., 1994)。DN1aは、DN1株のDN1b試料の50日前に調製された。矢印は予想される産物を示す。(図8E)DN-Brightマウスから得た、選別されたプレB細胞は、3週間後にIPS様コロニーを形成し(左側の2つのパネル)、対照プレB細胞は元の形態を維持した(右側のパネル)。(スケールバー=50μm)。
【図9】ARID3aノックダウンはヒト内皮細胞株におけるiPS様細胞の生成をもたらす。(図9A)ウェスタンブロッティングは、ARID3aが、ヒト線維芽細胞株(WL-38、BJ-h、BJおよびIM-R90)と比較して293T細胞において、より豊富に発現されることを示している。相対負荷量を示すために試料を抗アクチンで発色させた。レーン2は空である。(図9B)ARID3a RNAレベルのRT-PCRは、対照293T細胞と比較して、2つのBright阻害クローンにおける効率のよいノックダウンを示している。GAPDHを負荷量対照(loading control)とした。(図9C)Bright阻害293T細胞(BriPS)は、対照293T培養物と比較して、さらなる継代(p7対p10)で、iPS様コロニー形態の増加を示した。(スケールバー=100μm)。(図9D)2つのクローン(BriPS)と293T親細胞のqRT-PCRにより、GAPDHと比較したKLf4、Oct4、Sox2およびc-myc転写産物の誘導倍率レベルが示される。(図9E)核(DAPI)およびOct4に関するOct-4染色をBriPSおよび親293T細胞で行った。スケールバー=50μm。
【図10】ARID3aノックダウンiPS様クローンは、3つ全ての生殖細胞系譜のマーカーを発現している細胞へと分化する。従来のマウスES細胞(上段のパネル)、BriPS(クローンA2-P4、中段のパネル)および親293T細胞(下段のパネル)をα-フェトプロテイン(AFP)、平滑筋アクチン(SMA)、β-3-チューブリン(BIIIT)またはアイソタイプ対照(ISO)について染色した。倍率は20倍である。
【図11】DN Brightトランスジェニックマウスの骨髄からのプレB細胞の単離。CD43-IgM-B220lo DN Bright(左側のパネル)および正常対照プレB細胞(未掲載)をフローサイトメトリーで選別し、LIFの存在下でMEF上に蒔いた。DNプレB細胞の選別後解析を示す(右側のパネル)。
【図12】高発現マウスB細胞株におけるBright発現のshRNAノックダウンの最適化。(図12A)RT-PCRは、shRNAのうち3つ(表S2、shRNA1〜3)の発現が、影響を持たないスクランブル対照shRNA(Con)と比較して、形質導入の2日後および4日後に、Bright mRNA生産を阻害したことを示した。形質導入効率は>90%だった。アクチンレベルにより、試料負荷量は同等であることが示された。(図12B)(図12A)におけるBright mRNAのレベルをアクチンレベルに対して補正し、グラフ表示のために定量化したところ、>80%の阻害を示した。対照を任意に1に設定した。(図12C)(図12A)における細胞から得られるタンパク質を、ウイルス感染の2日後および4日後に、Brightとアクチンに関して、ウェスタンブロットした。
【図13】ARID3a欠損ヒトiPS細胞は、胚様体形成前に分化マーカーを発現させることができない。図10で使用したクローン(BriPS A2-P4)を核(DAPI、左側のパネル)、平滑筋アクチン(SMA)およびβ-III-チューブリン(βIII-T)染色に供した。スケールバーは50μmを示す。
【図14】ARID3a欠損細胞はNod/Scidマウスにおいて奇形腫を形成することができない。BriPS細胞から形成される初期新生物細胞(左側)および従来のES細胞から起こる奇形腫形成(右側)の代表的パネルを示す。倍率は40倍である。
【図15】成体Bright-/-生存個体(survivor)はBrightを発現させない。BrightおよびそのARID3bパラログBdpの転写産物発現を、RT-PCRにより、野生型(+/+)、ヘテロ接合型(+/-)およびホモ接合型ヌル(-/-)脾臓B細胞(成体マウスにおいてBright発現量が最も高い供給源)で評価した。390bpの産物をもたらすエキソン3および4をまたぐプライマー(フォワード5'-GCGGACCCCAAGAGGAAAGAGTT(SEQ ID NO:3))および(リバース5'-CTGGGTGAGTAGGCAAAGAGTGAGC(SEQ ID NO:4))を使って、Bright mRNAを30サイクル増幅した。RT-対照およびGAPDH負荷量対照を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
例示的態様の説明
いくつかの研究室による洗練された研究により、複数の系譜の成熟細胞を多能性状態へと再プログラムすることの実行可能性が実証されている(Meissner et al., 2007;Yu et al., 2007;Takahashi and Yamanaka, 2006)。ほんのここ3年間のこの分野における数多くの進歩がこれらの研究の重要性を際立たせているが、同時に、それらを十分に議論することを不可能にしている(Gurdon and Melton, 2008;Pei, 2009;Feng et al., 2009に概説されている)。Oct4、Sox2、Klf4、c-myc、Lin28およびNanogの組合せを成熟ヒトおよびマウス細胞に導入すると、胚性幹細胞(ES)に似た人工多能性幹(iPS)細胞への、それらの細胞の再プログラミングが起こる(Meissner et al., 2007;Yu et al., 2007;Takahashi and Yamanaka, 2006)。これらの因子のいくつかは、一部は、クロマチンに対するエピジェネティック効果を引き起こす化学的阻害剤の添加、または成長培地への追加タンパク質産物の添加によって置き換えることができる(Feng et al., 2009;Marson et al., 2008)。iPS細胞作製に使用されるプロトコール、細胞タイプおよび種の数が増加するにつれて、iPS細胞の厳密な定義および表現型の特徴を巡る議論が生じた(Maherali and Hochedlinger, 2008)。例えば、ヒトとマウスのiPS細胞は、増殖因子要求性、奇形腫形成を促進する効率、およびコロニーの形態が異なる(Pei et al., 2009;Feng et al., 2009)。同じ方法を使って異なる遺伝的背景から誘導されたマウスiPS細胞は表現型が異なることを、最近のデータは示唆している(Hanna et al., 2009)。これらの研究は全体として、iPS細胞作製に関与する重要な調節因子および機序的プロセスをより良く理解することの必要性を強調している。
【0016】
ここに、本発明者らは、ARID3aとも呼ばれる転写因子Bright(B cell regulator of immunoglobulin (Ig) heavy chain transcription(免疫グロブリン(Ig)重鎖転写のB細胞調節因子)(Webb et al., 1989;Webb et al., 1991;Herrscher et al., 1995))の阻害が、多能性をもたらす細胞の再プログラミングを開始することを、初めて示す。Bright/ARID3aは、15のメンバーからなるタンパク質のARID(A+T rich interaction domain(A+Tリッチ相互作用ドメイン))ファミリーの最初のメンバーである(Wilsker et al., 2002;Wilsker et al., 2005に概説されている)。大半のARIDファミリーメンバーの機能は解明が始まったばかりであり、これには、細胞周期制御(Flowers et al., 2009;Ho et al., 2009a;Ho et al., 2009b)、ARIDドメイン依存的デメチラーゼ活性(Tu et al., 2008)、ヒストンデアセチラーゼ活性(Wilsker et al., 2005;Gray et al., 2005)、およびクロマチンリモデリング(Wilsker et al., 2005)における役割が含まれる。これらの結果は、胚以外の容易に入手できる供給源から再生多能性細胞を誘導できることを裏付けている。そのうえ、これらのデータは、ESCがそのような組織を必要とする個体から直接誘導され得る可能性を示唆している。さらにまた、予備的データは、Bright欠損幹細胞から得られる上清が現在利用できるESC株の成長を増強することを示している。最後に、Bright機能の可逆的阻害は、幹細胞の作製、特異的組織経路への分化、および阻害的薬剤の除去後のBrightの再発現を可能にする。そのような細胞は、それらの多能性と、おそらくはあらゆる腫瘍原性特徴を失うはずである。本発明のこれらの局面および他の局面を以下に説明する。
【0017】
I.Bright/ARID3a
転写因子Bright(B cell regulator of IgH transcription(IgH転写のB細胞調節因子))は、高度に保存されたA+Tリッチ相互作用ドメイン、すなわちARIDを介してDNAと相互作用するタンパク質の増加しつつあるファミリーのメンバーである(Herrscher et al., 1995)。現在、Brightは、そのターゲット配列が同定されていて、配列特異的な様式でDNAに結合する、このファミリーの中の唯一のメンバーである。ARIDファミリータンパク質には、ミバエの消化管および眼瞼における系譜決定に重要な役割を果たし、胚分節化に要求される、ショウジョウバエ(Drosophila)タンパク質Dead ringerおよびeyelid(Gregory et al., 1996;Treisman et al., 1997);細胞周期特異的な様式で網膜芽細胞腫タンパク質と相互作用する網膜芽細胞腫結合タンパク質(Rbp1)(Fattaey et al., 1993);およびツーハイブリッドスクリーニングで、やはり網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)と相互作用する新規タンパク質として同定された遍在的に発現されるヒトタンパク質BDP(Numata et al., 1999)が含まれる。酵母タンパク質SWI/1はBrightに対するホモロジーを持ち、この生物におけるクロマチンの構成を調整する役割を果たす、より大きなタンパク質複合体の構成要素である(Peterson and Herskowitz, 1992;Burns and Peterson, 1997)。また、ヒトSWI-SNF複合体は、やはりARIDファミリーのメンバーである非配列特異的DNA結合活性を持つ270kDaタンパク質を含有する(Dallas et al., 2000)。このように、このファミリーのメンバーは、系譜決定、細胞周期制御、腫瘍抑制およびクロマチンの調整に参加し得る。これらの機能は相互に排他的ではなく、部分的に重なった機序に起因し得る。
【0018】
ヒトゲノムの配列決定により、ARID3aとも呼ばれるヒトBrightオルソログを含めて、このファミリーのメンバーが15個、同定された(Wilsker et al., 2005)。ARIDファミリータンパク質は、クロマチンリモデリング、網膜芽細胞腫タンパク質への結合、X-Y染色体機能の調節、および胚発生への参加を含む多様な機能を持つ(Wilsker et al., 2005)。一般に、これらのタンパク質は、大きなタンパク質複合体の構成要素であり、発生の間中、緻密に調節される。ヒトARID3aは、胚由来の細胞株においてE2Fに結合することができ、それは腫瘍抑制因子機能とも発がん機能とも関連づけられているので、その過剰発現は議論の的になっている(Peeper et al., 2002;Suzuki et al., 1998;Ma et al., 2003;Fukuyo et al., 2004)。最近の研究は、Bright活性が細胞内分割(intracellular partitioning)によって緻密に調節されること、およびそれが重鎖エンハンサーのクロマチンアクセシビリティ(chromatin accesibility)の一因であることを示している(Kim and Tucker, 2006;Lin et al., 2007)。Bright/ARID3aは、転写因子として機能すると共に、クロマチンアクセシビリティを変化させる役割も持つので、胚組織でも成体組織でも広範囲にわたる多様な調節機能に参加できる可能性が高い。
【0019】
大半のARIDファミリータンパク質は遍在的に発現される。しかし、マウスBrightは胚発生中は広く発現されるが、成体における発生はほとんどBリンパ球系譜に限られ、そこではその発現が緻密に調節されて、mRNAレベルでプレB細胞集団および高ピーナッツアグルチニン胚中心細胞集団に限定される(Herrscher et al., 1995;Webb et al., 1991;Webb et al., 1998)。マウスにおける活性化脾臓B細胞は、抗原結合後にBrightを発現するように誘導され得るが、末梢IgM+ B細胞の大部分にはこのタンパク質は存在しない(Webb et al., 1991;Webb et al., 1998)。リポ多糖または抗原を使ったB細胞株または成熟活性化Bリンパ球におけるBright発現の誘導は、基礎レベルより約3〜6倍高いIgH転写のアップレギュレーションをもたらす(Herrscher et al., 1995;Webb et al., 1991;Webb et al., 1989)。転写活性化は、いくつかのVHプロモーターの5'側またはイントロンEμエンハンサー内にあるDNA結合部位と、強く会合する。
【0020】
イントロンEμエンハンサーと会合するBright結合部位は、クロマチンを転写的に活性なドメインに構築するとされているA+Tリッチ領域、マトリックス会合領域(matrix association region)、すなわちMARとしても機能する(Herrscherら1995;Webb et al., 1991)。NFμNR(核因子μネガティブ調節因子)は、Bright結合部位と部分的に重なるDNA配列を結合するもう一つのMAR結合タンパク質複合体である。NFμNRは、遍在的に発現されるCAAAT置換タンパク質(displacement protein)(CDP/Cut/Cux)を含有する(Wang et al., 1999)。マウスにおいて、非B細胞はNFμNRを発現するが、Bリンパ球は一般にそのようなタンパク質複合体を示さない。これらのデータは、BrightおよびNFμNRが免疫グロブリン座位の調節において反対の役割を果たすという仮説につながった(Webb et al., 1999)。BrightとCDPを共発現させるトランスフェクション研究は、Brightの抑制を示した(Wang et al., 1999)。したがってBrightは、クロマチンリモデリングによって、または追加のタンパク質との、より複雑な相互作用によって、転写を直接的または間接的に活性化し得る。NFμNRはその活性とは反対に作用し得る(Wang et al., 1999)。
【0021】
本発明者は、ブルトン型チロシンキナーゼ、すなわちBtkが、活性化マウスBリンパ球において、Brightと会合することを示した(Webb et al., 2000)。Btkは、ヒトでもマウスでもBリンパ球の適正な発生と維持に不可欠なチロシンキナーゼをコードするX連鎖遺伝子である(Conley et al., 1994;Satterthwaite and Witte, 1996に概説されている)。この酵素の欠損は男性における重症B細胞免疫不全症の90%を占め、発生のプロB細胞段階におけるブロックおよび著しく低下した血清抗体レベルを特徴とする免疫不全状態であるX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)をもたらす(Conley et al., 1994)。ヒト疾患でもマウス疾患でもBtkが欠損遺伝子産物であることは明らかだが、Btk欠損がB細胞発生におけるブロックをもたらす分子機序は今のところわかっていない。興味深いことに、XLAのマウスモデルであるX連鎖性免疫不全(xid)マウスは、Brightとの安定な複合体を形成することができない突然変異型Btkタンパク質を産生する(Webb et al., 2000)。これらのデータは、Brightが、XLAにおいて重要な、同じシグナリング経路の構成要素として機能し得ることを示唆している。
【0022】
ヒトBrightタンパク質に関して利用できる情報はほとんどない。したがって本発明者らは、ヒトBrightホモログを特徴づけ、Bリンパ球亜集団におけるその発現を決定しようと試みた。BrightをヒトB細胞ライブラリーからクローニングし、その配列を決定したところ、以前にDril 1として公表されたものと同一であることがわかった(Kortschak et al., 1998)。これらの研究は、Dril 1、すなわちヒトBrightのmRNAが、複数の組織で発現されることを示唆したが(Kortschak et al., 1998)、タンパク質およびDNA結合活性は調べられなかった。本発明者のデータは、Bright/Dril 1 mRNAが以前考えられていた数より少ない成体組織で発現されるらしいことを示している。さらにまた、これらのデータは、このヒトタンパク質がBrightプロトタイプ配列モチーフを効果的に結合することを実証している。選別したB細胞亜集団を調べたところ、ヒトBright発現は多くの点でマウスホモログの発現に似ていること;ただしBright mRNAは、マウスより人の方が、正常なB細胞発生のわずかに早い段階で発現されることが明らかになった。これに対し、ヒト形質転換細胞株におけるBrightタンパク質の発現は、マウスで観察されたものとは劇的に異なった。最後に、ヒトBrightとBtkは会合して、さらにBtk基質TFII-Iが関与するDNA結合複合体を形成することが、明らかになった(Rajaiya et al., 2006)。
【0023】
II.ペプチドおよびポリペプチド
一定の態様において、本発明はBright/ARID3aタンパク質分子に関し得る。本明細書において「タンパク質」または「ポリペプチド」は、限定するわけではないが、一般的には約100アミノ酸以上のタンパク質、またはある遺伝子の完全長内在性配列翻訳型を指す。ペプチドは通常、約3〜約100アミノ酸である。上述した「タンパク質関連(proteinaceous)」用語は全て本明細書においては可換的に使用することができる。ヒトARID3aポリペプチド配列をSEQ ID NO:2に示す。
【0024】
タンパク質は、組換え生産するか、天然源から精製することができる。短いペプチド分子は、従来の技法に従って、溶液中でまたは固形支持体上で合成することができる。さまざまな自動合成装置が市販されており、それらを公知のプロトコールに従って使用することができる。例えば、Stewart and Young (1984);Tamら (1983);Merrifield (1986);ならびにBarany and Merrifield (1979)(これらはそれぞれ、参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0025】
一定の態様において、少なくとも一つのタンパク質性(proteinaceous)分子のサイズは、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、約100、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180、約190、約200、約210、約220、約230、約240、約250、約275、約300、約325、約350、約375、約400、約425、約450、約475、約500、約505、約525、約550、約575および593アミノ分子残基、およびそのなかで導き出すことができる任意の範囲を含み得るが、それらに限るわけではない。
【0026】
本明細書において「アミノ酸」とは、当業者には知られているであろう任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣物(mimic)を指す。一定の態様では、タンパク質性分子の残基は、アミノ分子残基の配列を中断する非アミノ分子を一切持つことなく、連続している。別の態様では、配列が1つまたは複数の非アミノ分子を含み得る。特定の態様では、タンパク質性分子の残基の配列が1つまたは複数の非アミノ分子部分で中断され得る。
【0027】
一定の態様では、タンパク質性組成物は、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含む。さらなる態様では、タンパク質性組成物が、生体適合性のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含む。本明細書において使用する用語「生体適合性」は、本明細書に記載する方法および量で所与の生物に適用または投与された場合に、著しい不都合な効果を生じない物質を指す。それらの不都合なまたは望ましくない効果は、例えば著しい毒性または有害な免疫反応などである。好ましい態様では、生体適合性のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含有する組成物が、一般には、哺乳動物タンパク質もしくはペプチドまたは合成タンパク質もしくはペプチド(それぞれ毒素、病原体および有害な免疫原を本質的に含まないもの)であるだろう。
【0028】
タンパク質性組成物は、標準的な分子生物学的技法によるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現、天然源からのタンパク質性化合物の単離、またはタンパク質性物質の化学合成など、当業者に公知の任意の技法によって製造することができる。さまざまな遺伝子について、ヌクレオチド配列ならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列が、以前から開示されており、それらは、当業者に公知のコンピュータ化データベースに見いだすことができる。そのようなデータベースの一つが、国立バイオテクノロジー情報センターのGenbankおよびGenPeptデータベースである(ワールドワイドウェブのncbi.nlm.nih.gov)。これら公知遺伝子のコード領域は、本明細書において開示する技法を使って、または当業者に知られているであろう方法で、増幅しかつ/または発現させることができる。あるいは、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドのさまざまな市販の調製物が、当業者に知られている。
【0029】
ペプチドは他のタンパク質性組成物に融合することによって、それらの性質を改変しまたは補足することもできる。特定の態様では、Bright由来ペプチドまたはポリペプチドの細胞輸送を容易にするターゲティング部分が与えられる。特に、Tatなどの配列は、核局在化シグナルになって、ペプチドを核内に輸送することができる。
【0030】
一定の態様では、タンパク質性化合物を精製することができる。一般に「精製された」とは、他のさまざまなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを除去するための分画に供された特異的なタンパク質、ポリペプチド、またはペプチド組成物であって、例えば、その特異的なまたは所望のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関して当業者に知られているであろうタンパク質アッセイなどによって評価され得るその活性を、実質的に保持しているものを指す。
【0031】
III.核酸
本発明の一定の態様では、Brightに由来するまたはBrightをコードする核酸が提供される。一定の局面では、核酸が、これらの遺伝子の野生型または突然変異体型を含み得る。特定の局面では、核酸が、転写される核酸をコードするか、転写される核酸を含む。別の局面では、核酸が、SEQ ID NO:1の核酸セグメントまたはその生物学的機能等価物(biologically functional equivalent)を含む。特定の局面では、核酸がタンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードする。
【0032】
用語「核酸」は当技術分野において周知である。本明細書において「核酸」とは、一般に、核酸塩基を含むDNA、RNAまたはその類似体の分子(すなわち鎖)を指す。核酸塩基には、例えば、DNA中に見出される天然のプリンまたはピリミジン塩基(例えばアデニン「A」、グアニン「G」、チミン「T」またはシトシン「C」)またはRNA中に見出される天然のプリンまたはピリミジン塩基(例えば「A」、「G」、ウラシル「U」または「C」)が含まれる。用語「核酸」は、用語「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」を、それぞれ用語「核酸」の下位概念(subgenus)として包含する。用語「オリゴヌクレオチド」は、長さが約3〜約100核酸塩基の分子を指す。用語「ポリヌクレオチド」は、長さが約100核酸塩基より大きい、少なくとも1つの分子を指す。
【0033】
これらの定義は一般に一本鎖分子を指すが、特別な態様では、一本鎖分子に部分的に、実質的に、または完全に相補的な追加の鎖も包含するだろう。したがって核酸は、ある分子を含む特定の配列の1つまたは複数の相補鎖または「相補体(complement)」を含む二本鎖分子または三本鎖分子を包含し得る。本明細書において一本鎖核酸は、接頭辞「ss」で表され、二本鎖核酸は接頭辞「ds」で表され、三本鎖核酸は接頭辞「ts」で表される場合がある。
【0034】
1.核酸の調製
核酸は、例えば化学合成、酵素的生産または生物学的生産など、当業者に公知の任意の技法によって作製することができる。合成核酸(例えば合成オリゴヌクレオチド)の限定でない例には、ホスホトリエステル、ホスファイトまたはホスホルアミダイトケミストリーと、参照により本明細書に組み入れられる欧州特許第266 032号に記載されているような固相技法とを用いるインビトロ化学合成によって作製された核酸、またはFroehler et al.(1986)および米国特許第5,705,629号(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)に記述されているようにデオキシヌクレオシドH-ホスホネート中間体を経由して作製された核酸が含まれる。本発明の方法では、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドを使用することができる。オリゴヌクレオチド合成のさまざまな異なる機序が、例えば米国特許第4,659,774号、同第4,816,571号、同第5,141,813号、同第5,264,566号、同第4,959,463号、同第5,428,148号、同第5,554,744号、同第5,574,146号、同第5,602,244号に開示されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0035】
酵素的に産生される核酸の限定でない例は、PCR(商標)などの増幅反応(例えばそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号および米国特許第4,682,195号を参照されたい)において、または参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,645,897号に記載のオリゴヌクレオチドの合成において、酵素によって産生されるものが含まれる。微生物学的に生産される核酸の限定でない例には、生細胞内で生産される(すなわち複製される)組換え核酸、例えば細菌内で複製される組換えDNA導入ベクターが含まれる(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrookら2001を参照されたい)。
【0036】
2.核酸の精製
核酸は、ポリアクリルアミドゲルで精製するか、塩化セシウム遠心分離勾配で精製するか、または当業者に公知の他の任意の手段によって精製することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001を参照されたい)。
【0037】
一定の局面において、本発明は、単離された核酸である核酸に関する。本明細書において使用する用語「単離された核酸」は、1つまたは複数の細胞の全ゲノム核酸および転写された核酸の大部分から単離された、またはそれらの大部分を他の何らかの形で含まない、核酸分子(例えばRNAまたはDNA分子)を指す。一定の態様において「単離された核酸」とは、細胞構成要素またはインビトロ反応構成要素、例えば脂質またはタンパク質などの高分子、小さな生体分子などの大部分から単離された、またはそれらの大部分を他の何らかの形で含まない、核酸を指す。
【0038】
3.核酸セグメント
一定の態様では、核酸が核酸セグメントである。本明細書において使用する用語「核酸セグメント」は、核酸の小さいフラグメントであり、例えば限定するわけではないが、Brightの一部しかコードしないものである。したがって「核酸セグメント」は、Brightの約2ヌクレオチドから全長まで、遺伝子配列の任意の部分を含み得る。一定の態様において、核酸セグメントはプローブまたはプライマーであることができる。本明細書において「プローブ」とは、一般に、検出方法または検出組成物に使用される核酸を指す。本明細書において「プライマー」とは、一般に、伸長もしくは増幅方法または伸長もしくは増幅組成物に使用される核酸を指す。
【0039】
4.核酸相補体
本発明は、Brightコード核酸に相補的な核酸も包含する。特定の態様において、本発明は、SEQ ID NO:1に示す配列に相補的な核酸または核酸セグメントを包含する。核酸は、それがもう一つの核酸と標準的なワトソン-クリック、フーグスティーンまたは逆フーグスティーン結合相補性規則に従って塩基対合できる場合に、当該もう一つの核酸に対して、「相補体」である、または「相補的」であるという。本明細書において「もう一つの核酸」とは、別個の分子を指すか、同じ分子の空間的に離れた配列を指し得る。
【0040】
本明細書において使用される用語「相補的な」または「相補体」は、たとえ核酸塩基の一部が対応する核酸塩基と塩基対合しないとしても、もう一つの核酸鎖または二重鎖にハイブリダイズする能力を持つ、連続的核酸塩基または半連続的核酸塩基(例えば1つまたは複数の核酸塩基部分が分子中に存在しない)の配列を含む核酸をも指す。一定の態様において、「相補的」核酸は、その核酸塩基配列の約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%〜約100%、およびそのなかで導き出すことができる任意の範囲が、ハイブリダイゼーション中に一本鎖または二本鎖核酸分子と塩基対合する能力を持つ配列を含む。一定の態様において、用語「相補的」は、当業者には理解されているであろうとおり、ストリンジェントな条件下でもう一つの核酸鎖または二重鎖にハイブリダイズし得る核酸を指す。
【0041】
一定の態様において、「部分的に相補的な」核酸は、一本鎖または二本鎖核酸に低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズし得る配列を含むか、その核酸塩基配列の約70%未満がハイブリダイゼーション中に一本鎖または二本鎖核酸分子と塩基対合する能力を持つ配列を含有する。
【0042】
5.ハイブリダイゼーション
本明細書において「ハイブリダイゼーション」「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイズする能力を持つ」とは、二本鎖もしくは三本鎖分子または部分的二本鎖性もしくは三本鎖性を持つ分子の形成を意味すると解釈される。本明細書において使用される用語「アニール」は「ハイブリダイズ」と同義である。用語「ハイブリダイゼーション」「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイズする能力を持つ」は、用語「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」および用語「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」を包含する。
【0043】
本明細書において「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」とは、相補的配列を含有する1つまたは複数の核酸鎖間またはそのような核酸鎖内でのハイブリダイゼーションは許すが、ランダムな配列のハイブリダイゼーションは妨げるような条件である。ストリンジェントな条件は、核酸とターゲット鎖との間のミスマッチを、全くないわけではないとしても、ほとんど許容しない。そのような条件は当業者には周知であり、高い選択性を要求する応用例には好ましい。限定でない応用例には、遺伝子またはその核酸セグメントなどの単離、または少なくとも1つの特異的mRNA転写産物またはその核酸セグメントの検出などが含まれる。
【0044】
ストリンジェントな条件は、低塩および/または高温条件、例えば約0.02M〜約0.15M NaCl、約50℃〜約70℃の温度によって得られるものを含み得る。所望するストリンジェンシーの温度およびイオン強度が、一つには、その核酸の長さ、ターゲット配列の長さおよび核酸塩基含有量、核酸の電荷組成、およびハイブリダイゼーション混合物中のホルムアミド、塩化テトラメチルアンモニウムまたは他の溶媒の存在または濃度によって決まることは理解される。
【0045】
ハイブリダイゼーションに関するこれらの範囲、組成および条件が限定ではない単なる例として挙げられていること、そしてある特定のハイブリダイゼーション反応にとって望ましいストリンジェンシーが、多くの場合、1つまたは複数の陽性対照または陰性対照との比較によって実験的に決定されることも、理解される。想定される応用例に応じて、ターゲット配列に対する核酸のさまざまな選択度を達成するために、さまざまなハイブリダイゼーション条件を使用することが好ましい。限定でない一例では、ストリンジェントな条件下で核酸にハイブリダイズしない関連ターゲット核酸の同定または単離を、低温および/または高イオン強度でのハイブリダイゼーションによって達成することができる。そのような条件を「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」と呼び、低ストリンジェンシーの限定でない例には、約0.15M〜約0.9M NaCl、約20℃〜約50℃の温度範囲で行われるハイブリダイゼーションが含まれる。もちろん、ある特定の応用例に適するように低または高ストリンジェンシー条件をさらに変更することは、当業者の技術の範囲内にある。
【0046】
本明細書において「野生型」とは、ある生物のゲノム中の遺伝子座位におけるある核酸の天然の配列またはそのような核酸から転写もしくは翻訳された配列を指す。したがって用語「野生型」は核酸によってコードされるアミノ酸配列も指し得る。遺伝子座位は個体の集団内に2つ以上の配列または対立遺伝子を持ち得るので、用語「野生型」は、そのような天然の対立遺伝子の全てを包含する。本明細書において使用する用語「多型」は、ある集団中の個体において、ある遺伝子座位に変異が存在すること(すなわち2つまたはそれ以上の対立遺伝子が存在すること)を意味する。本明細書において「突然変異体」とは、核酸またはそれがコードするタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの配列の変化であって、人の手によるものを指す。
【0047】
本発明は、当業者に公知の組換え核酸技術または本明細書に記載の組換え核酸技術の応用による、組換えコンストラクトまたは組換え宿主細胞の単離または作出にも関する。組換えコンストラクトまたは宿主細胞はBrightコード核酸を含むことができ、Brightタンパク質、ペプチドもしくはペプチド、または少なくとも一つのその生物学的機能等価物を発現させることができる。
【0048】
本明細書の一定の態様において、「遺伝子」は転写される核酸を指す。一定の局面において、遺伝子は、転写、またはメッセージの生産もしくは組成に関与する調節配列を含む。特定の態様において、遺伝子は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする転写配列を含む。当業者には理解されるであろうように、この機能的用語「遺伝子」には、遺伝子の非転写部分の核酸セグメント、例えば限定するわけではないが、遺伝子の非転写プロモーターまたはエンハンサー領域などを含む、ゲノム配列、RNAもしくはcDNA配列、またはそれより小さい工学的に操作された核酸セグメントが含まれる。小さい工学的に操作された遺伝子核酸セグメントは、核酸操作技術を使って、タンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質、突然変異体および/または同様のものを発現するか、それらを発現するように適合させることができる。
【0049】
「他のコード配列から実質的に単離された」とは、関心対象の遺伝子がその核酸のコード領域のかなりの部分を形成すること、または核酸が、天然のコード核酸の大きな部分、例えば大きな染色体フラグメント、他の機能的遺伝子、RNAまたはcDNAコード領域を含有しないことを意味する。もちろんこれは、最初に単離されたその核酸を指すが、人の手によってその核酸に後から付加された遺伝子またはコード領域を排除するものではない。
【0050】
本発明の核酸を、その配列そのものの長さとはかかわりなく、他の核酸配列、例えば限定するわけではないが、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、制限酵素部位、マルチクローニングサイト、コードセグメントなどと組み合わせて、1つまたは複数の核酸コンストラクトを作出することができる。本明細書において「核酸コンストラクト」とは、人の手によって工学的に操作されたまたは改変された核酸であり、一般に、人の手によって構築された1つまたは複数の核酸配列を含む。
【0051】
限定でない一例として、SEQ ID NO:1と同一または相補的なヌクレオチドの連続したストレッチを含む1つまたは複数の核酸コンストラクトを作製することができる。核酸コンストラクトは、約3、約5、約8、約10〜約14、または約15、約20、約30、約40、約50、約100、約200、約500、約1,000、約2,000、約3,000、約5,000、または約10,000ヌクレオチド長であることができ、当業者に公知の酵母人工染色体などの核酸コンストラクトの出現を考慮すると、さらに大きいサイズのコンストラクト、すなわち染色体サイズを含めて最大で染色体サイズまでの(全ての中間的長さおよび中間的範囲を含む)コンストラクトであることもできる。本明細書にいう「中間的長さ」および「中間的範囲」が、言及した値を含むまたは言及した値の間にある任意の長さまたは範囲(すなわちそのような値を含むまたはそのような値の間にある全ての整数)を意味することは、容易に理解されるだろう。中間的長さの限定でない例には、約11、約12、約13、約16、約17、約18、約19など;約21、約22、約23など;約31、約32など;約51、約52、約53など;約101、約102、約103など;約151、約152、約153など;約1,001、約1002など;約10,001、約10,002などが含まれる。中間的範囲の限定でない例には、約3〜約32、約150〜約500、または約5,000〜約15,000などが含まれる。
【0052】
用語「生物学的機能等価物」は当技術分野においてよく理解されている。したがって、SEQ ID NO:2のアミノ酸と同一なまたは機能的に等価なアミノ酸を約70%〜約80%;またはより好ましくは約81%〜約90%;またはさらに好ましくは約91%〜約99%有する配列は、そのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの生物学的活性が維持されている限りにおいて、「本質的にSEQ ID NO:2に示された」配列であるだろう。表1は好ましいヒトコドンのリストである。
【0053】
(表1)
【0054】
アミノ酸配列または核酸配列は、追加の残基、例えば追加のN-もしくはC-末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列、またはそれらのさまざまな組合せを含むことができ、それでもなお、その配列が上記の基準(タンパク質性組成物の発現が関与する場合には、生体タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド活性の維持を含む)に合致する限り、本質的に、本明細書において開示する配列の一つに記載されるとおりであることも理解されるだろう。末端配列の付加は、核酸配列(これは、例えば、コード領域の5'および/または3'部分のいずれかに隣接するさまざまな非コード配列を含んだり、遺伝子内に存在することが公知であるさまざまな内部配列、すなわちイントロンを含んだりし得る)には、特に当てはまる。
【0055】
イントロン領域および隣接領域を除外し、遺伝暗号の縮重を考慮すれば、本発明は、SEQ ID NO:1のヌクレオチド配列と同一なヌクレオチドを約70%〜約79%;またはより好ましくは約80%〜約89%;またはさらに好ましくは約90%〜約99%有する核酸配列も提供する。
【0056】
本発明が、SEQ ID NO:1または2に示す特定の核酸配列またはアミノ酸配列に限定されないことも理解されるだろう。それゆえに、組換えベクターおよび単離された核酸セグメントは、これらのコード領域そのもの、または選択された改変もしくは変更を基本コード領域中に持つコード領域を、さまざまな形で含むことができ、それらは、より大きなポリペプチドまたはペプチド(ただし、それでもなお、前記コード領域を含むもの)をコードするか、変異型アミノ酸配列を持つ生物学的機能等価なタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードすることができる。
【0057】
本発明の核酸は、生物学的機能が等価なタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを包含する。そのような配列は、核酸配列またはそれがコードするタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド内に自然に存在することが知られている、コドン縮重または機能等価性の結果として生じ得る。あるいは、機能的に等価なタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、交換されるアミノ酸の性質の考察に基づいてタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド構造の変化を工学的に作り出すことができる組換えDNA技術の適用によって、作製することもできる。例えばタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの抗原性に改良または改変を導入するなどの目的で、人が設計した変化を、例えば本明細書において後述する部位特異的突然変異誘発技法の応用などによって導入することができる。
【0058】
本発明には、比較的小さなペプチドまたは融合ペプチド、例えば、SEQ ID NO:2に示すような、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99〜約100アミノ酸長、またはより好ましくは約15〜約30アミノ酸長のペプチドなどをコードする核酸配列が包含される。
【0059】
IV.スクリーニング方法
本発明はさらに、分化細胞の再プログラミングに有用なBright活性の阻害剤を同定するための方法を含む。これらのアッセイは、候補物質の大きなライブラリーのランダムスクリーニングを含む。あるいは、Brightの機能を阻害する可能性を高めると考えられる構造的属性が得られるように選択された特定の化合物クラスに焦点を合わせるために、アッセイを使用することもできる。
【0060】
Brightの阻害剤を同定には、一般的には、候補物質の存在下および非存在下でBrightの機能を決定することになる。例えば、ある方法は、一般に、
(a)Brightを発現している細胞を用意する工程;
(b)該細胞を候補阻害剤物質と接触させる工程;および
(c)Bright関連活性を測定する工程、
を含み、ここでは、無処理細胞のBright活性と比較したBright関連活性の減少によって、その候補物質がBright活性の阻害剤であると同定される。活性には、免疫グロブリン生産の刺激、Brightホモ二量体化、Bright DNA結合、BrightとBtkとの相互作用、およびBrightとTFII-Iとの相互作用が含まれる。アッセイは、単離された細胞、細胞抽出物、臓器、または生きた生物で行うこともできる。
【0061】
もちろん、有効な候補が見つからない場合もあるという事実にもかかわらず、本発明のスクリーニング方法は全て、それ自体は有用であるということは、理解されるだろう。本発明は、そのような候補を発見する方法だけでなく、そのような候補をスクリーニングするための方法も提供する。
【0062】
A.調整因子
本明細書において使用する用語「候補物質」は、活性Brightを潜在的に阻害し得る任意の分子を指す。候補物質は、タンパク質またはそのフラグメント、小分子であることができ、さらにはその核酸であることもできる。最も有用な薬理学的化合物は、Bright/ARID3a、またはBright/ARID3a相互作用タンパク質、例えばBtkもしくはTFII-Iと構造的に関係する化合物であるだろうということが判明するかもしれない。リード化合物を使って、改良された化合物の開発に役立たせることは「合理的薬物設計」として公知であり、これには、公知の阻害剤および活性化剤との比較だけでなく、ターゲット分子の構造に関する予測が含まれる。
【0063】
合理的薬物設計の目標は、生物活性ポリペプチドまたはターゲット化合物の構造類似体を作り出すことである。そのような類似体を作り出すことにより、改変に対する感受性が異なる、またはさまざまな他の分子の機能に影響を及ぼし得る、天然分子より活性なまたは天然分子より安定な薬物を作りあげることができる。あるアプローチでは、ターゲット分子またはそのフラグメントの三次元構造が作成されるだろう。これは、x線結晶構造解析、コンピュータモデリング、または両方のアプローチの組合せによって達成されるだろう。
【0064】
ターゲット化合物、活性化剤、または阻害剤の構造を確認するために、抗体を使用することもできる。原則として、このアプローチでは、ファーマコア(pharmacore)が得られ、その後の薬物設計はそれに基づいて行うことができる。機能的な薬理学的に活性な抗体に対する抗イディオタイプ抗体を生成させることにより、タンパク質結晶構造解析を完全に回避することができる。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位は、元の抗原の類似体であると予想されるだろう。次に、抗イディオタイプを使って、化学的または生物学的に作製されたペプチドのバンクから、ペプチドを同定し単離することができるだろう。次に、選ばれたペプチドはファーマコアとして役立つだろう。抗イディオタイプは、本明細書において記載する抗体作製方法を使用し、抗体を抗原として用いることによって生成させることができる。
【0065】
これに対し、単にさまざまな商業的供給源から、有用な化合物の同定を「総当たり的に行う(brute force)」ことを目指して、有用な薬物の基本的基準を満たすと考えられる小分子ライブラリーを取得することもできる。コンビナトリアルに作成されたライブラリー(例えばペプチドライブラリー)を含むそのようなライブラリーのスクリーニングは、多数の関連(および無関連)化合物を活性に関してスクリーニングするための迅速で効率のよい方法である。コンビナトリアルアプローチは、活性ではあるが他の点で望ましくない化合物をモデルにした第2、第3、および第4世代の化合物の創成による潜在的薬物の迅速な進化にも役立つ。
【0066】
候補化合物は、天然化合物のフラグメントまたは部分を含むか、他の形では不活性な公知化合物の活性な組合せとして見いだされ得る。動物、細菌、真菌、植物源(葉および樹皮を含む)および海産物試料などの天然源から単離された化合物を、候補化合物として、潜在的に有用な薬学的作用物質の存在についてアッセイすることができると提案されている。スクリーニングされるべき薬学的作用物質が化学的組成物または人工的化合物からも誘導されまたは合成され得ることは理解されるだろう。したがって、本方法によって同定される候補化合物が、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子阻害剤または公知の阻害剤もしくは刺激因子から出発して合理的薬物設計によって設計され得る他の任意の化合物であり得ることは理解される。
【0067】
他の適切な調整因子には、アンチセンス分子、リボザイム、および抗体(単鎖抗体を含む)が含まれ、それらはそれぞれ、ターゲット分子に特異的であるだろう。本明細書では、そのような化合物を、項を改めて詳述する。例えば、翻訳開始部位もしくは転写開始部位またはスプライス接合部に結合するアンチセンス分子は理想的な候補阻害剤であるだろう。
【0068】
最初に同定される調整化合物に加えて、それら調整因子の構造の重要な部分を模倣するために、他の立体的に類似する化合物を作り出すこともできると、本発明者らは考えている。そのような化合物(ペプチド調整因子のペプチドミメティックを含み得る)は、最初の調整因子と同じように使用することができる。
【0069】
B.インビトロアッセイ
迅速で安価で簡単に実行できるアッセイは、インビトロアッセイである。そのようなアッセイは一般に単離された分子を使用し、迅速に数多く行うことによって、短い期間で得ることのできる情報の量を増加させることができる。アッセイの実施には、例えば試験管、プレート、ディッシュおよび他の表面、例えばディップスティックまたはビーズなど、さまざまな器を使用することができる。インビトロアッセイの一般的な形態は結合アッセイである。
【0070】
本発明者らが考える特定のフォーマットは、DNAへのBright/ARID3a結合の評価を伴う。両方の分子が、個別に検出することができる薬剤で、または蛍光エネルギー移動によって検出することができる薬剤で標識される。
【0071】
化合物のハイスループットスクリーニングに関する技法は国際公開公報第84/03564号に記載されている。多数の小ペプチド試験化合物が、固形基板(例えばプラスチックピンまたは他の何らかの表面)上で、合成される。
【0072】
C.インサイト(In cyto)アッセイ
本発明では、細胞におけるBright/ARID3aの機能を調整する能力について化合物をスクリーニングすることも考えられる。そのようなスクリーニングアッセイには、この目的のために特別に操作された細胞を含む、さまざまな細胞および細胞株を利用することができる。他の細胞には胚性線維芽細胞および他の胚性組織が含まれる。特に興味深いのは、選択可能なマーカー遺伝子またはスクリーニング可能なマーカー遺伝子に連結されたIgプロモーターを含有する細胞である。
【0073】
D.インビボアッセイ
インビボアッセイは、その生物内の異なる細胞に到達し影響を及ぼす候補物質の能力を測定するために使用することができる特異的欠損を持つかそのようなマーカーを保持するように操作されたトランスジェニック動物を含む、さまざまな動物モデルの使用を伴う。そのサイズ、取り扱いの容易さ、ならびに生理学および遺伝子構成に関する情報ゆえに、マウスは、特にトランスジェニック法にとっては、好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ(gerbil)、マーモット(woodchuck)、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマおよびサル(チンパンジー、テナガザルおよびヒヒを含む)を含む他の動物も、同様に適している。阻害剤に関するアッセイは、これらのうち任意の種に由来する動物モデルを使って実行することができる。
【0074】
試験化合物による動物の処置は、化合物を適当な形で動物に投与すること、またはそのような動物に由来する細胞に投与することを伴うだろう。投与は、臨床目的に利用することができるであろう任意の経路によって行われるだろう。インビボでの化合物の有効性の決定は、さまざまな異なる基準を伴い得る。また、毒性および用量応答の測定も、動物では、インビトロアッセイまたはインサイトアッセイよりも意味のある形で行うことができる。
【0075】
V.多能性を誘導するための分化細胞の処理
A.細胞源
細胞は、腎臓、単離されたB細胞亜集団、骨髄、および線維芽細胞を含む多種多様な供給源から得ることができる。
【0076】
B.Bright阻害剤
本発明では、Bright/ARID3a機能を阻害するであろう事実上任意の組成物の使用が考えられる。所望の効果を生み出す有機薬学的(organopharmaceutical)化合物は高い有用性を持つと思われ、そのような化合物は上述のスクリーニング方法に従って同定することができる。加えて、後述する生物学的阻害剤も、Bright/ARID3a機能の妨害に利用することができる。
【0077】
C.アンチセンスコンストラクト
アンチセンス法は、核酸が「相補的」配列と対合する性質を持つという事実を利用する。相補的とは、ポリヌクレオチドが標準的なワトソン-クリック相補性規則に従って塩基対合する能力を持つものであることを意味する。すなわち、大きいプリンは小さいピリミジンと塩基対合して、シトシンと対合したグアニン(G:C)、およびDNAの場合はチミンと対合したアデニン(A:T)、RNAの場合はウラシルと対合したアデニン(A:U)の組合せを形成する。ハイブリダイズする配列中にあまり一般的でない塩基、例えばイノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチンその他が組み入れられても対合は妨害されない。
【0078】
ポリヌクレオチドによる二本鎖(ds)DNAのターゲティングは三重らせんの形成につながり、RNAのターゲティングは二重らせん形成につながるだろう。アンチセンスポリヌクレオチドは、ターゲット細胞中に導入されると、それぞれのターゲットポリヌクレオチドに特異的に結合して、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/または安定性を妨害する。アンチセンスRNAコンストラクト、またはそのようなアンチセンスRNAをコードするDNAは、インビトロまたはインビボの宿主細胞内で、例えばヒト対象を含む宿主動物内で、遺伝子の転写もしくは翻訳またはその両方を阻害するために使用することができる。
【0079】
アンチセンスコンストラクトは、ある遺伝子のプロモーターおよび他の制御領域、エキソン、イントロン、さらにはエキソン-イントロン境界に結合するように設計することができる。最も効果的なアンチセンスコンストラクトは、イントロン/エキソンスプライス接合部に相補的な領域を含むだろうと考えられる。したがって、好ましい態様は、イントロン-エキソンスプライス接合部の50〜200塩基以内にある領域に対する相補性を持つアンチセンスコンストラクトを含むことが提案される。いくつかのエキソン配列は、コンストラクトに含めても、そのターゲット選択性に深刻な影響を及ぼさないことが観察されている。含まれるエキソン物質の量は、使用するそのエキソンおよびイントロン配列に依存して変動するだろう。含まれるエキソンDNAが多すぎるかどうかは、そのコンストラクトをインビトロで試験して、正常な細胞機能が影響を受けるかどうか、または相補的配列を持つ関連遺伝子の発現が影響を受けるかどうかを決定するだけで、容易に調べることができる。
【0080】
上述のように「相補的」または「アンチセンス」とは、その全長にわたって実質的に相補的であり、塩基ミスマッチを極めてわずかしか持たないポリヌクレオチド配列を意味する。例えば、15塩基長の配列は、それらが13または14の位置に相補的ヌクレオチドを持つ場合に、相補的であると呼ぶことができる。当然ながら、完全に相補的な配列は、その全長にわたって最初から最後までことごとく相補的であって塩基ミスマッチを持たない配列であるだろう。ホモロジーの度合が低い他の配列も考えられる。例えば、ホモロジーの高い限られた領域を持つが、非相同領域も含有するアンチセンスコンストラクト(例えばリボザイム;下記参照)を設計することができるだろう。これらの分子は、50%未満のホモロジーを持つが、適当な条件下ではターゲット配列に結合するだろう。
【0081】
ゲノムDNAの一部をcDNAまたは合成配列と組み合わせて特異的コンストラクトを生成させることが有利であるだろう。例えば、最終コンストラクト中にイントロンが所望される場合は、ゲノムクローンを使用する必要があるだろう。cDNAまたは合成ポリヌクレオチドは、コンストラクトの残りの部分に、より便利な制限部位を提供することができるので、配列の残りの部分に使用されるだろう。
【0082】
D.リボザイム
阻害剤のもう一つの一般クラスはリボザイムである。核酸の触媒反応には伝統的にタンパク質が使用されてきたが、この企てに役立つものとして、もう一つの種類の高分子が出現した。リボザイムは核酸を部位特異的に切断するRNA-タンパク質複合体である。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を有する特異的触媒ドメインを持つ(Kim and Cook, 1987;Gerlach et al., 1987;Forster and Symons, 1987)。例えば多数のリボザイムは、リン酸エステル転移反応を高い特異性で加速し、多くの場合、オリゴヌクレオチド基質中のいくつかのリン酸エステルのうちの1つだけを切断する(Cook et al., 1981;Michel and Westhof, 1990;Reinhold-Hurek and Shub, 1992)。この特異性は、化学反応に先だって、基質が、特異的塩基対合相互作用により、リボザイムの内部ガイド配列(internal guide sequence:「IGS」)に結合するという必要条件に起因すると考えられている。
【0083】
リボザイム触媒は、主として、核酸が関与する配列特異的切断/ライゲーション反応の一部として観察されてきた(Joyce, 1989;Cook et al., 1981)。例えば米国特許第5,354,855号は、一定のリボザイムが、エンドヌクレアーゼとして、公知のリボヌクレアーゼよりも高くDNA制限酵素のそれに近い配列特異性で、作用することができると報告している。したがって、配列特異的リボザイムによる遺伝子発現の阻害は、治療的応用には特に適し得る(Scanlon et al., 1991;Sarver et al., 1990)。リボザイムは、それらが適用されたいくつかの細胞株において遺伝的変化を惹起できることが示されており、改変された遺伝子には、がん遺伝子H-ras、c-fosおよびHIVの遺伝子が含まれている。この研究の大半は、特異的リボザイムによって切断される特異的変異体コドンに基づく、ターゲットmRNAの修飾が関わるものだった。
【0084】
E.RNAi
RNA干渉(「RNA媒介干渉(RNA-mediated interference)」またはRNAiともいう)は、タンパク質発現を減少させまたは排除することを可能にするもう一つの機序である。2本鎖RNA(dsRNA)は多段階プロセスであるこの減少を媒介することが観察されている。dsRNAは、ウイルス感染およびトランスポゾン活性から細胞を防御するように機能すると思われる転写後遺伝子発現サーベイランス機序を活性化する(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp et al., 2000;Tabara et al., 1999)。これらの機序の活性化は、成熟dsRNA相補的mRNAを、破壊のターゲットとする。RNAiは、遺伝子機能の研究にとって、大きな実験上の利点を提供する。これらの利点には、極めて高い特異性、細胞膜を横切る移動の容易さ、および標的遺伝子の長期間にわたるダウンレギュレーションが含まれる(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp, 1999;Sharp et al., 2000;Tabara et al., 1999)。さらにまた、dsRNAは、植物、原生動物、真菌、エレガンス線虫(C. elegans)、トリパノソーマ(Trypanasoma)、ショウジョウバエ(Drosophila)および哺乳動物を含む多種多様な系において、遺伝子をサイレンシングすることが示されている(Grishok et al., 2000;Sharp, 1999;Sharp et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。RNAiが、転写後に、RNA転写産物を破壊のターゲットとし、おそらくは翻訳を阻害することによって作用することは、一般に受け入れられている。核RNAと細胞質RNAはどちらもターゲットになり得るようである(Bosher et al., 2000)。
【0085】
siRNAは、関心対象遺伝子の発現を特異的かつ効果的に抑制するように、設計されなければならない。ターゲット配列(すなわち関心対象である1つまたは複数の遺伝子中に存在する配列であって、siRNAが分解機構をそこに導くことになる配列)を選択する方法は、siRNAのガイド機能を妨害し得る配列を避けつつ、当該1つまたは複数の遺伝子に特異的である配列を含むように行われる。通例、約21〜23ヌクレオチド長のsiRNAターゲット配列が最も効果的である。この長さは、上述のように、はるかに長いRNAのプロセシングによって生じる消化産物の長さを反映している(Montgomery et al., 1998)。特に興味深いのは、エキソン-イントロン接合部をまたぐsiRNAである。
【0086】
siRNAの作製は、主に、直接的化学合成によるか、ショウジョウバエ胚溶解物への曝露による長い二本鎖RNAのプロセシングによるか、S2細胞由来のインビトロ系によって行われてきた。細胞溶解物またはインビトロプロセッシングの使用は、引き続いて短い21〜23ヌクレオチドのsiRNAを溶解物などから単離することをさらに必要とすることで、多少煩雑であり費用のかかるプロセスになり得る。化学合成は、2本の一本鎖RNAオリゴマーを作製した後、それら2本の一本鎖オリゴマーをアニーリングして二本鎖RNAにすることによって行われる。化学合成の方法は多様である。限定するわけではないが、その例は、特に参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,889,136号、同第4,415,732号および同第4,458,066号、ならびにWincott et al.(1995)に記載されている。
【0087】
siRNAの安定性を変化させるために、またはそれらの有効性を改良するために、siRNA配列のさらなる修飾がいくつか提案されている。ジヌクレオチド突出部を持つ合成相補的21マーRNA(すなわち19個の相補的ヌクレオチド+3'非相補的ダイマー)は、最も高い抑制レベルを与え得ることが示唆されている。これらのプロトコールでは、ジヌクレオチド突出部として、主に、2つの(2'-デオキシ)チミジンヌクレオチドの配列を使用する。これらのジヌクレオチド突出部は、RNAに組み込まれる典型的ヌクレオチドと区別するために、dTdTと記載されることが多い。dT突出部を使用する動機は、主に、化学合成されるRNAのコストを下げる必要性であることが、文献に示されている。dTdT突出部がUU突出部より安定であるかもしれないことも示唆されているが、入手可能なデータでは、UU突出部を持つsiRNAと比較して、dTdT突出部には、わずか(<20%)な改善しかないことが示されている。
【0088】
化学的に合成されたsiRNAは、それが25〜100nMの濃度で細胞培養物中に存在する場合に、最適に働くことが見いだされる。これは、Elbashir et al.(2001)によって実証されており、そこでは、約100nMの濃度で、哺乳動物細胞における発現の有効な抑制が達成された。siRNAは哺乳動物細胞培養物においては約100nMで最も有効であった。しかしいくつかの例では、より低い濃度の化学合成siRNAが使用されている(Caplen et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。
【0089】
国際公開公報第99/32619号および国際公開公報第01/68836号には、siRNAに使用するためのRNAは化学的または酵素的に合成し得ることが示唆されている。これらの文書はどちらも参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。これらの参考文献で考えられている酵素合成は、当技術分野では知られているように、発現コンストラクトの使用および作製を介して、細胞RNAポリメラーゼまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)によって行われる。米国特許第5,795,715号を参照されたい。考えられるコンストラクトは、ターゲット遺伝子の一部と同じヌクレオチド配列を含有するRNAを生成させるテンプレートになる。これらの参考文献によって提供される同一配列の長さは少なくとも25塩基であり、400塩基またはそれ以上の長さであることもできる。この参考文献の重要な一局面は、その著者らが、インビボで長いdsRNAをsiRNAに転換する内在性ヌクレアーゼ複合体を使って、長いdsRNAを21〜25マーの長さに消化することを考えているという点である。彼らは、インビトロで転写された21〜25マーのdsRNAの合成および使用に関するデータについては、説明も、提示もなされていない。RNA干渉でのその使用において、化学的または酵素的に合成されたdsRNAの予想される性質が区別されることはない。
【0090】
同様に、参照により本明細書に組み入れられる国際公開公報第00/44914号は、RNAの一本鎖を酵素的にまたは部分/全有機合成によって作製できることを示唆している。好ましくは一本鎖RNAは、DNAテンプレート(好ましくはクローニングされたcDNAテンプレート)のPCR(商標)産物から酵素的に合成され、そのRNA産物はcDNAの完全な転写産物であって、何百というヌクレオチドを含み得る。参照により本明細書に組み入れられる国際公開公報第01/36646号は、siRNAを合成する方法を限定することなく、RNAは、手作業および/または自動化された手順を使ってインビトロまたはインビボで合成することができるとしている。この参考文献は、インビトロ合成は、化学的合成であってもよいし、例えば内在性DNA(またはcDNA)テンプレートの転写にクローン化RNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)を使用する酵素的合成であってもよいし、またはその両方の組合せであってもよいともしている。ここでも、化学的または酵素的に合成されたsiRNAの間で、RNA干渉における使用に関して、望ましい性質が区別されることはない。
【0091】
米国特許第5,795,715号には、単一の反応混合物における2つの相補的DNA鎖の同時転写が報告されており、そこではそれら2つの転写産物が直ちにハイブリダイズされる。使用されるテンプレートは、好ましくは40〜100塩基対であり、各末端にプロモーター配列が装備されている。テンプレートは固形表面に取り付けることができる。RNAポリメラーゼによる転写後、得られたdsRNAフラグメントは、核酸ターゲット配列の検出および/またはアッセイに使用することができる。
【0092】
具体的一態様として、本発明者らは、レンチウイルスベクター中のsiRNAまたはshRNAを使って、インビトロで、成体組織におけるARID3a発現を阻害することを提案する。GFPマーカーを利用して、細胞がベクターを取り込んだことを決定し、ARID3a生産の適当な阻害に関するチェックを可能にすることができる。B細胞株BCg3R-1dおよび/または過剰発現トランスジェニックマウス脾臓細胞を利用することができる。本発明者らは、ARID3aの阻害がこれらの細胞中で起こることを確認した後、マウス胚線維芽細胞におけるARID3a発現を阻害し、GFP+細胞を培養して、多能性幹細胞が発生することを確認するだろう。特別な成長条件下でのみ siRNAまたはshRNAの誘導を許す誘導性プロモーター(後述)の使用は、ARID3aの可逆的な阻害を可能にする。したがって細胞を、インビトロで多能性かつ自己複製状態に脱分化するように誘導することができ、次に、ARID3aの阻害を伴わない異なる成長条件下で成熟系譜細胞へと分化するように誘導することができる。これらの方法は、複数のウイルスコピーおよびウイルス遺伝子(そのうちのいくつかは発がん性であることが知られているもの)の導入を必要とする現在の方法論と比較して、かなりの利点を提供する。自己欠失性(self-deleting)ベクターも使用することができる。
【0093】
F.抗体
本発明の一定の局面において、抗体はBrightの阻害剤として役立ち得る。本明細書において使用される用語「抗体」は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEなど、任意の適当な免疫学的結合剤を、幅広く指すものとする。一般にIgGおよび/またはIgMは好ましい。なぜなら、これらは生理的状況下で最も一般的な抗体だからであり、実験室において作製が最も容易だからでもある。
【0094】
用語「抗体」は抗原結合領域を持つ任意の抗体様分子も指し、Fab'、Fab、F(ab')2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFV(単鎖Fv)などの抗体フラグメントを包含する。さまざまな抗体ベースのコンストラクトおよびフラグメントを作製し使用するための技法は当技術分野においては周知である。
【0095】
モノクローナル抗体(MAb)は、例えば再現性および大量生産など、一定の利点を持つと認められ、それらの使用は一般に好ましい。したがって本発明は、ヒト、マウス、サル、ラット、ハムスター、ウサギ、そしてさらにはニワトリ由来のモノクローナル抗体を提供する。調製が容易であることと試薬類が容易に入手できることから、マウスのモノクローナル抗体は、好ましいことが多いだろう。単鎖抗体は米国特許第4,946,778号および第5,888,773号に記載されており、これらの特許はそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、後述するように、発現ベクターから発現される単鎖抗体を利用する可能性が最も高いだろう。
【0096】
「ヒト化」抗体も、ヒト定常領域ドメインおよび/またはヒト可変領域ドメインを保有するマウス、ラットまたは他の種由来のキメラ抗体、二重特異性抗体、組換えおよび工学改変(engineered)抗体ならびにそれらのフラグメントと同様に考えられる。患者の歯科疾患に合わせて「特注された」(custom-tailored)抗体を開発するための方法も、同様に知られており、そのような特注抗体も考えられる。
【0097】
G.ペプチド
ペプチドは、DNA、Btk、TFII-Iまたは他の分子と結合しまたは相互作用するBrightドメインと競合するかそれらを模倣することによってBright/ARID3a機能の有用な阻害剤になること、またはBright二量体化配列と競合することが判明し得る。核シャトリング(nuclear shuttling)配列を含むBrightの領域も考えられる。したがって、Bright由来のペプチドは、Bright機能の阻害に有用であると判明し得る化合物の特定タイプである。ペプチドは既存の構造(すなわちBrightの一部)に近いところで設計するか、ランダムライブラリーからその機能で選択することができる。
【0098】
特に興味深いのは、残基444付近から残基549までの、より具体的には残基449〜544の、SEQ ID NO:1の領域である。この領域は、Bright/ARID3a二量体化に関与することが示されており、核シャトリング配列を含有することも示されている。これらの領域内で、8〜約40残基の可能なペプチドは全て考えられる。他のより具体的な領域には、残基444〜483、449〜488、510〜549、505〜544、444〜473、449〜473、531〜549および531〜544が含まれる。特定のペプチドを表2に例示する。
【0099】
一般に、ペプチドは50残基未満であり、Bright/ARID3aの少なくとも約10個の連続する残基を含むだろう。連続するBright/ARID3a残基の数は、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50であることができ、そこに追加の非Bright配列が取り付けられる。ペプチドの長さの範囲として10〜50残基、10〜40残基、15〜50残基、15〜40残基、15〜35残基、15〜30残基、15〜25残基、15〜20残基および20〜25残基が考えられる。追加の非Bright/ARID3a残基の数は5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20残基またはそれ以上であることができる。したがってペプチドの総サイズは8残基から75残基またはそれ以上に及ぶことができ、具体的には10〜70残基、10〜60残基、10〜50残基、10〜40残基、10〜30残基および15〜70残基、15〜60残基、15〜50残基、15〜40残基、15〜30残基、20〜70残基、20〜60残基、20〜50残基、20〜40残基、および20〜30残基が考えられる範囲である。
【0100】
ペプチドは、タンパク質分解酵素(トリプシン、キモトリプシンなど)または化学薬品を使った、Brightなどのポリペプチドの切断によって作製することができる。ペプチドはベクターおよび上述の技法を使って組換え生産することもできる。しかし、固相合成技法(Merrifield, 1963)を使ってペプチドを作製することが、最も有利であるだろう。他のペプチド合成技法は当業者に周知である(Bodanszky et al., 1976;Peptide Synthesis, 1985;Solid Phase Peptide Synthelia, 1984)。そのような合成において使用するための適当な保護基は、上記の教科書およびProtective Groups in Organic Chemistry, 1973に見いだされるだろう。これらの合成方法では、1つまたは複数のアミノ酸残基または適切な保護アミノ酸残基が、成長するペプチド鎖に逐次付加される。通常、第1アミノ酸残基のアミノ基またはカルボキシル基のどちらか一方が、適切な選択的に除去可能な保護基で保護される。反応性側鎖を含有するアミノ酸、例えばリジンなどには、それとは異なる選択的に除去可能な保護基を利用する。
【0101】
一例として、固相合成を使って、保護アミノ酸または誘導体化アミノ酸を、不活性固形支持体に、その保護されていないカルボキシル基またはアミノ基を介して取り付ける。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、適切に保護された相補(アミノまたはカルボキシル)基を持つ配列中の次のアミノ酸を、固形支持体に既に取り付けられている残基と混合し、反応させる。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を、この新たに付加されたアミノ酸残基から除去した後、次のアミノ酸(適切に保護されたもの)を加えるというようにする。所望のアミノ酸の全てが適正な順序で連結された後、残りの末端保護基および側基保護基(および固形支持体)を全て逐次的にまたは同時に除去して、最終ペプチドを得る。本発明のペプチドは、好ましくは、ベンジル化アミノ酸またはメチルベンジル化アミノ酸を含まない。そのような保護基部分を合成の過程で使用することはできるが、それらはペプチドを使用する前に除去される。コンフォメーションを制限するために分子内結合を形成させるには、どこか別の項で説明するように、追加の反応が必要になり得る。
【0102】
使用することができる20種類の標準的アミノ酸の他にも、膨大な数の「非標準的」アミノ酸がある。それらのうち2つは遺伝暗号によって指定することができるが、それらはタンパク質においてはかなり稀である。セレノシステインは、通常は停止コドンであるUGAコドンで、いくつかのタンパク質中に組み込まれる。ピロールリジン(pyrrolysine)は、いくつかのメタン生成古細菌により、それらがメタンを生成するために使用する酵素に使用される。これはコドンUAGでコードされる。タンパク質中に見いだされない非標準的アミノ酸の例には、ランチオニン、2-アミノイソ酪酸、デヒドロアラニンおよび神経伝達物質γ-アミノ酪酸が含まれる。非標準的アミノ酸は、標準的アミノ酸の代謝経路における中間体として見いだされることが多く、例えばオルニチンおよびシトルリンは、アミノ酸異化作用の一部である尿素回路に見いだされる。非標準的アミノ酸は通常は標準的アミノ酸の修飾によって形成される。例えばホモシステインは、含硫基移動経路によって形成されるか、メチオニンの脱メチル化により、中間代謝産物S-アデノシルメチオニンを経由して形成され、一方、ヒドロキシプロリンはプロリンの翻訳後修飾によって作られる。
【0103】
本発明では、L-立体配置のアミノ酸、D-立体配置のアミノ酸、またはその混合物を利用することができる。L-アミノ酸はタンパク質中に見いだされるアミノ酸の大部分に相当するが、D-アミノ酸も、イモガイ(cone snail)などの外来海生生物によって生産されるいくつかのタンパク質に見いだされる。D-アミノ酸は、細菌のペプチドグリカン細胞壁の豊富な構成要素でもある。D-セリンは脳内で神経伝達物質として作用し得る。アミノ酸立体配置に関してLおよびDという取り決めは、アミノ酸そのものの光学活性を指すのではなく、そのアミノ酸をそこから理論的に合成することができるグリセルアルデヒドの異性体の光学活性を指すものである(D-グリセルアルデヒドは右旋性であり;L-グリセルアルデヒドは左旋性である)。
【0104】
「全てがD-アミノ酸の(all-D)」ペプチドの一形態はレトロインベルソ型(retro-inverso)ペプチドである。天然ポリペプチドのレトロインベルソ型修飾では、対応するL-アミノ酸とは反対のα-炭素立体化学を持つアミノ酸、すなわちD-アミノ酸を、ネイティブペプチド配列とは逆の順序で、合成的に組み立てる。したがってレトロインベルソ型類似体は、ネイティブペプチド配列の場合と同じ側鎖のトポロジーをほぼ維持しつつ、逆になった末端と逆向きのペプチド結合(CO-NHではなくNH-CO)を持つ。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,261,569号を参照されたい。
【0105】
ペプチドは、一定の追加ペプチドセグメントに、それに付随する有益な性質が得られるように、取り付けまたは融合させることが有利な場合がある。特に、そのようなドメインは細胞送達ドメイン(cell delivery domain)である(細胞送達ベクター(cell delivery vector)または細胞形質導入ドメイン(cell transduction domain)とも呼ばれる)。これらのタイプのドメインは当技術分野において周知であり、一般に、短い両親媒性またはカチオン性ペプチドおよびペプチド誘導体と特徴づけられ、多くの場合、複数のリジン残基およびアルギニン残基を含有する(Fischer, 2007)。特に興味深いのは、ポリ-D-Arg配列およびポリ-D-Lys配列(例えば右旋性残基、8残基長)である。その他を下記表2に列挙する。
【0106】
(表2)
【0107】
リンカーまたは架橋剤を使ってペプチドを他のタンパク質性配列に融合してもよい。二官能性架橋試薬は、アフィニティマトリックスの調製、多様な構造の修飾および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定、ならびに構造研究を含むさまざまな目的に広く使用されてきた。2つの同一官能基を持つホモ二官能性試薬は、同一のおよび異なる高分子または高分子サブユニット間の架橋を誘発し、それらの特異的結合部位にポリペプチドリガンドを連結するのに極めて効率が良いことが判明している。ヘテロ二官能性試薬は、2つの異なる官能基を含有する。それら2つの異なる官能基の反応性が異なることを利用して、架橋を選択性と順序の両面で制御することができる。二官能性架橋試薬は、例えばアミノ特異性基、スルフヒドリル特異性基、グアニジノ特異性基、インドール特異性基、カルボキシル特異性基など、それらの官能基の特異性に従って分類することができる。もちろん、遊離アミノ基を指向する試薬は、それらが市販されており、合成が容易であり、温和な反応条件下で応用できることから、とりわけ普及している。ヘテロ二官能性架橋試薬の大半は、1級アミン反応性基およびチオール反応性基を含有する。
【0108】
もう一つの例として、ヘテロ二官能性架橋試薬とそれら架橋試薬を使用する方法が、米国特許第5,889,155号に記載されており、この特許は特に、参照により本明細書にそのまま組み入れられる。これらの架橋試薬は、求核性ヒドラジド残基と求電子性マレイミド残基とを併せ持ち、一例としてアルデヒドを遊離チオールにカップリングすることができる。これらの架橋試薬は、さまざまな官能基を架橋するために修飾することができるので、ポリペプチドの架橋に役立つ。特定のペプチドが所与の架橋試薬に適した残基をそのネイティブ配列中に含有しない場合は、一次配列における保存的な遺伝子的アミノ酸改変または合成的アミノ酸改変を利用することができる。
【0109】
インビボでのペプチドの残存を容易にするためのブロッキング剤をアミノ末端および/またはカルボキシル末端に付加することによってインビボ使用のために修飾されたペプチドが考えられる。これは、ペプチド末端が細胞取り込み前にプロテアーゼによる分解を受けやすい状況において役立ち得る。そのようなブロッキング剤には、投与しようとするペプチドのアミノ末端残基および/またはカルボキシル末端残基に付加することができる追加の関連または無関連ペプチド配列などを含めることができるが、これらに限るわけではない。これらの薬剤は、ペプチドの合成時に化学的に付加するか、当技術分野においてよく知られている方法により、組換えDNA技術によって付加することができる。あるいは、ピログルタミン酸などのブロッキング剤または当技術分野において公知の他の分子を、アミノ末端残基および/またはカルボキシル末端残基に取り付けることもできる。
【0110】
本発明者らは、一定の非天然アミノ酸が、本発明の阻害ペプチドの構造的制約を満たし、しかも生物学的機能の喪失を伴わず、ことによると生物学的機能の改善を伴うと考える。また、本発明者らは、Bright/ARID3aの重要な部分を模倣するように、構造的に類似する化合物を作り出すことができるとも考える。ペプチドミメティックと呼ぶことができるそのような化合物は、本発明のペプチドと同じ方法で使用することができ、それゆえに、機能等価物である。
【0111】
タンパク質二次構造および三次構造の要素を模倣する一定のミメティックは、Johnson et al.(1993)に記載されている。ペプチドミメティックの使用の背後にある基礎となる基本原理は、タンパク質のペプチド主鎖が、主として、抗体および/または抗原の相互作用などの分子相互作用を容易にするような形でアミノ酸側鎖を方向付けるために存在するということにある。したがってペプチドミメティックは、天然分子と類似する分子相互作用を許すように設計される。
【0112】
特定の構造を生成させるための方法は、当技術分野において開示されている。例えばαヘリックスミメティックは、米国特許第5,446,128号、同第5,710,245号、同第5,840,833号、および同第5,859,184号に開示されている。コンフォメーションが制限されたβ-ターンおよびβ-バルジを生成させるための方法は、例えば米国特許第5,440,013号、同第5,618,914号、および同第5,670,155号に記載されている。他のタイプのミメティックターンには、リバースターンおよびγターンが含まれる。リバースターンミメティックは米国特許第5,475,085号および同第5,929,237号に開示され、γ-ターンミメティックは米国特許第5,672,681号および同第5,674,976号に記載されている。
【0113】
「分子モデリング」とは、三次元構造情報およびタンパク質-タンパク質相互作用モデルに基づくタンパク質-タンパク質物理相互作用の構造および機能の定量的および/または定性的解析を意味する。これには、従来の数値ベースの分子動力学モデルおよびエネルギー最小化モデル、対話型コンピュータグラフィックモデル、改良分子力学モデル、距離幾何学(distance geometry)モデルおよび他の構造ベースの束縛(constraint)モデルが含まれる。分子モデリングは、通例、コンピュータを使って行われ、公知の方法を使ってさらに最適化することができる。X線結晶構造解析データを利用するコンピュータプログラムは、そのような化合物を設計するのにとりわけ有用である。RasMolなどのプログラムを使って三次元モデルを作成することができる。INSIGHT(Accelrys、マサチューセッツ州バーリントン)、GRASP(Anthony Nicholls、コロンビア大学)、Dock(Molecular Design Institute、カリフォルニア大学サンフランシスコ校)、およびAuto-Dock(Accelrys)などのコンピュータモデルを使えば、さらなる操作が可能であり、新しい構造を導入することもできる。これらの方法は、化合物の3D構造のモデルを出力装置に出力する追加工程を含むことができる。さらにまた、候補化合物の3Dデータを、例えば3D構造のコンピュータデータベースと比較することもできる。
【0114】
本発明の化合物は、本明細書に記載する化合物の構造情報から、他の構造ベースの設計/モデリング技法を使って、対話的に設計することもできる(例えばJackson, 1997;Jones et al., 1996を参照されたい)。次に、候補化合物を当業者によく知られている標準的アッセイで試験することができる。例示的なアッセイを本明細書において説明する。
【0115】
生体高分子(例えばタンパク質、核酸、糖質、および脂質)の3D構造は、さまざまな方法によって得られたデータから決定することができる。タンパク質の3D構造の評価に最も効果的に応用されてきたこれらの方法には、以下に挙げるものが含まれる:(a)x線結晶構造解析;(b)核磁気共鳴(NMR)分光法;(c)高分子上の所定の部位間に形成される物理的距離束縛(例えばタンパク質上の残基間の分子内化学架橋)の解析(例えばPCT/US00/14667、この文献の開示は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)、および(d)関心対象のタンパク質の一次構造の知識に基づく分子モデリング法、例えばホモロジーモデリング技法、またはMONSSTER(Modeling Of New Structures from Secondary and Tertiary Restraints)(例えば国際出願PCT/US99/11913、この文献の開示は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)などのコンピュータプログラムを使ったアブイニシオ(ab initio)構造モデリング。他の分子モデリング技法も本発明に従って使用することができる(例えばCohen et al., 1990;Navia et al., 1992を参照されたい。これらの文献の開示は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)。これらの方法は全て、コンピュータ解析に適したデータを生成する。本発明の方法に同様に役立ち得るが、現時点では生体分子に関して原子レベルの構造的詳細を与えない他の分光学的方法には、円偏光二色法、ならびに蛍光および紫外/可視光吸収分光法が含まれる。具体的分析方法の一つはx線結晶構造解析である。
【0116】
H.ドミナントネガティブBright/ARID3a
ドミナントネガティブタンパク質は、両者が同じ環境中に存在する場合に、正常な機能的タンパク質の効果を打ち消すことができる欠損タンパク質である。多くの場合、ドミナントネガティブタンパク質はホモ多量体化するので、1つまたは複数の機能的タンパク質を含有する複合体を「害する(poison)」ことができる。まさにこのようにして作用するドミナントネガティブ型のBrightが作製された。ドミナントネガティブBright分子を設計するにあたって、いくつかの領域が、有用な突然変異点を提示する。第1に、DNA結合をブロックする、DNA結合ドメイン(ARID)中の変化は、ドミナントネガティブ効果を生じる。第2に、核移行をブロックする、核局在化配列の改変も、ドミナントネガティブ型のBright/ARID3aをもたらす。第3に、相互作用および二量体化ドメインの操作は、ドミナントネガティブ機能を引き起こす。アミノ末端ドメインに妨害を加えることにより、他のドミナントネガティブタンパク質を作製することもできる。ドミナントネガティブ型のBrightはNixon et al.(2004)に記載されている。
【0117】
VI.幹細胞の培養
一局面において、本発明は、拡大のための、脱分化細胞の培養に取り組む。もう一つの局面では、再分化を目的として、複能性細胞の培養が行われる。さらにまた、本発明では、天然ESCの成長を増強するための、Bright/ARID3a欠損性である天然細胞または工学的に操作された細胞の使用も考えられる。そのような細胞は、培養下の幹細胞の成長/分化を刺激するシグナル/因子を与えることが判明した。
【0118】
A.細胞の同定および分離技法
混合細胞集団からESCを分離する方法は当技術分野において周知であり、本発明の細胞集団に応用することができる。この方法で精製された細胞は、次に、遺伝子工学/遺伝子補充療法に使用することができる。そのような細胞の供給源には、骨髄および臍帯血が含まれるが、これらに限るわけではない。さらにまた、それらを組織再生目的に使用することもできる。以下の説明では、さまざまなマーカーの表面発現に基づいて幹細胞を分離するための例示的な方法を述べる。
【0119】
i.蛍光活性化細胞選別(FACS)
FACSは表面マーカーに基づく細胞の亜集団の定量および/または分離を容易にする。選別しようとする細胞を、まず最初に、蛍光標識抗体または他のマーカー特異的リガンドでタグ付けする。一般に、標識された抗体およびリガンドは、表現型特異的細胞表面分子の発現に対して特異的である。あるいは、細胞を細胞内標識することもできる。次に、標識された細胞をレーザー光線に通し、各細胞の蛍光強度を決定する。選別機(sorter)は、毎秒約3000〜10,000細胞の流速で、陽性細胞と陰性細胞を、ラベルプラスウェルとラベルマイナスウェルに分配する。
【0120】
異なる波長で励起する複数の蛍光タグを使用することにより、複数の基準または代替的基準に基づく選別が可能になる。コンジュゲートとしての使用が考えられる蛍光ラベルには、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、Cascade Blue、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、Pacific Blue、REG、Rhodamine Green、Rhodamine Red、Renographin、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはTexas Redなどがある。したがって、例えば単一のPBMC試料を、代替的に標識された抗Ig抗体、抗CD3抗体、抗CD8抗体および抗CD4抗体で分析することにより、試料内のB細胞およびT細胞の存在についてスクリーニングすることができると共に、特異的T細胞サブセットが識別される。
【0121】
FACS分析および細胞選別はフローサイトメーターで行われる。フローサイトメーターは一般に光源、通常はレーザー、集光光学系(collection optics)、電子機器、およびシグナルをデータに変換するコンピュータからなる。散乱光および放出された蛍光を、2つのレンズ(一つは光源の正面に配置され、一つは直角に設置される)によって、また特定の帯域の蛍光を測定できるようにする一連の光学系、ビームスプリッター、およびフィルターによって集める。
【0122】
フローサイトメーター機器では、細胞の性質の定量的な多パラメータ分析を、毎秒数千細胞の速度で行うことができる。これらの計器により、細胞型を区別することが可能になる。データは、測定された変量の一次元的(ヒストグラム)または二次元的(等高線図、散布図)度数分布で表示されることが多い。多パラメータデータファイルの分割(partitioning)には対話型一次元または二次元画像プログラムを引き続いて使用する必要がある。
【0123】
迅速な細胞検出のための多パラメータフローサイトメトリーデータの定量的分析は、細胞クラス特徴づけ、および試料処理という、2つの段階からなる。一般に、細胞クラス特徴づけの工程では、細胞の特徴を、関心対象の細胞と関心対象でない細胞とに分割する。次に、試料処理において、各細胞は、それが属する領域に応じて、2つのカテゴリーのうちの1つに分類される。細胞の適当な特徴が得られる場合にのみ高い検出性能を期待することができるので、細胞のクラスの分析は極めて重要である。また、分離を目的として前方・側方散乱(forward side scatter)(粒度およびサイズ)を使用することもできる。
【0124】
フローサイトメトリーでは、細胞の分析が行われるだけでなく、細胞の選別も行われる。米国特許第3,826,364号には、粒子(例えば機能的に異なる細胞タイプ)を物理的に分離する機器が開示されている。この機械では、レーザーが照明を提供し、それが適切なレンズまたはレンズ系によって粒子の流れに集束されるので、そこに含まれる粒子から高度に局在化した散乱が起こる。さらにまた、粒子の流れに含まれる蛍光粒子を励起するために、高輝度源の照明がその流れに向けられる。流れの中の一定の粒子は、選択的に帯電させた後、それらを指定した容器へと偏向させることによって、分離することができる。この分離の古典的形態は、1つまたは複数の細胞タイプに分離用の印を付けるために使用される蛍光タグ付き抗体によるものである。
【0125】
フローサイトメトリーおよび蛍光抗体細胞選別を行うためのさらなる方法および代替的方法は、米国特許第4,284,412号、同第4,989,977 号、同第4,498,766号、同第5,478,722号、同第4,857,451号、同第4,774,189号、同第4,767,206号、同第 4,714,682号、同第5,160,974号、および同第4,661,913号に記載されており、これらの特許は特に参照により本明細書に組み入れられる。
【0126】
ii.マイクロビーズ分離
懸濁状態にある細胞は、マイクロビーズ技術を使用することにより、それらの表面抗原に従って、極めて高い純度に分離することができる。マイクロビーズ分離における基本概念は、関心対象の生体材料(biomaterial)(例えば特定の細胞、タンパク質、またはDNA配列)を粒子に選択的に結合させ、次にそれをその周囲のマトリックスから分離することである。マイクロビーズ分離では、細胞懸濁液を、細胞表面特異的な抗体またはリガンドで標識されたマイクロビーズのスラリーと接触させる。次に、マイクロビーズで標識された細胞を、そのビーズの何らかの性質に特異的なアフィニティー捕捉方法を使って分離する。このフォーマットは陽性選択および陰性選択の両方を容易にする。
【0127】
磁気ビーズは一般に、アフィニティータグ(例えばビオチン化免疫グロブリンまたはビオチン化された他の分子(例えばペプチド/タンパク質もしくはレクチン)を結合する組換えストレプトアビジン)でコーティングされた均一な超常磁性ビーズである。磁気ビーズは一般に、Fe3O4の均一なマイクロ粒子またはナノ粒子である。これらの粒子は超常磁性である。つまり、それらは磁場に引き寄せられるが、磁場が取り除かれた後は、残留磁力を保持しない。関心対象の細胞にタグ付けされ懸濁された超常磁性粒子は、磁場を使ってマトリックスから取り除くことが可能であるが、磁場の除去後にそれらが凝集することはない(すなわちそれらは懸濁状態に留まる)。
【0128】
超常磁性ナノ粒子が関わる分離の一般的フォーマットは、ビーズを、それより大きなマイクロ粒子の細孔内に分散させることである。これらのマイクロ粒子は、細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体でコーティングされる。次に、抗体でタグ付けした超常磁性微粒子を、細胞懸濁液中に導入する。これらの粒子は関心対象の表面抗原を発現している細胞に結合し、磁場の適用によって取り出すことができる。これは、強い磁場の下に置かれた高勾配磁気分離カラムに懸濁液を流すことによって、容易にすることができる。磁気標識された細胞はカラム内に留まり、非標識細胞は通過する。カラムが磁場から取り出されると、磁気的に保持されていた細胞が溶出する。標識画分と非標識画分の両方を完全に回収することができる。
【0129】
iii.アフィニティークロマトグラフィー
アフィニティークロマトグラフィーは、単離しようとする物質とそれが特異的に結合することのできる分子との間の特異的アフィニティーに依拠するクロマトグラフィー手法である。これは受容体-リガンド型の相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの一方を不溶性マトリックスに共有結合することによって合成される。そうすれば、そのカラム材料は、溶液からその物質を特異的に吸着することができる。溶出は、条件を結合が起こらないものに変える(pH、イオン強度、温度などを変化させる)ことによって起こる。
【0130】
マトリックスは、それ自体はほとんど分子を吸着せず、しかも広範囲にわたる化学的、物理的および熱的安定性を持つ物質であるべきである。リガンドは、その結合特性に影響を及ぼさないような方法で結合させるべきである。またリガンドは比較的強い結合をもたらすべきでもある。なおかつ試料またはリガンドを破壊せずに物質を溶出させることが可能であるべきである。アフィニティークロマトグラフィーの最も一般的な形態の一つは、免疫アフィニティークロマトグラフィーである。本発明に従って使用するのに適しているであろう抗体の作製は、本明細書では、項を改めて議論する。
【0131】
iv.ESCを選択するための表面マーカー
上述のように、細胞表面マーカーはしばしば同定に使用される。下記表3に、マーカーと、それらが最もよく関連づけられるESCタイプ、ならびに分化細胞のマーカーを列挙する。
【0132】
(表3)幹細胞の同定および分化細胞タイプの特徴づけに一般に使用されるマーカー
【0133】
B.細胞および細胞培養
幹細胞は、一般に、自己複製する(細胞分裂によってより多くの幹細胞を作る)能力を持つと共に、成熟し専門化した細胞に分化することもできると定義される。前駆細胞は、分化することしかできず、自分自身をそれ以上複製することはできない、幹細胞の初期の子孫である。これに対して、幹細胞は、自分自身を複製すること(細胞分裂によってより多くの幹細胞を作ること)または分化すること(分裂し、細胞分裂ごとにますます異なるタイプの細胞へと進展すること)が可能である。前駆細胞は、多くの場合、なることのできる細胞の種類が、幹細胞よりも限られている。科学的には、これを、前駆細胞は幹細胞よりも分化していると言う。
【0134】
細胞培養は、制御された条件下にインビトロで細胞を維持し増殖させることを容易にする。細胞は、例えばガラス製またはプラスチック製のさまざまなタイプの器で培養することができる。培養器の表面は、細胞付着を容易にするために、例えばゼラチン、コラーゲン、ポリリジン、または細胞外マトリクスの構成要素を用いて前処理またはコーティングすることができる。いくつかの高度な技法では、付着細胞(フィーダー細胞)の層全体が利用され、それらは、より多くの成長要件を要求する細胞の成長を支持するために使用される。
【0135】
細胞は通常、インビボで観察される条件を、綿密に模倣するよう設計された条件下で培養される。正常な生理的環境を模倣するために、細胞は一般に半合成成長培地を使ってCO2雰囲気下でインキュベートされる。培養培地は緩衝化され、なかんずく、アミノ酸、ヌクレオチド、塩類、ビタミンを含有し、ウシ胎仔血清(FCS)、ウマ血清、さらにはヒト血清などの血清のサプリメントも含有する。培養培地には、成長因子および阻害剤、例えばホルモン、トランスフェリン、インスリン、セレン、および付着因子などを、さらに補足することができる。
【0136】
概して、インビトロで成長させた細胞が、自らを組織化して組織になることはない。むしろ培養細胞は、組織培養ディッシュの表面で単層(またはいくつかの例では多層)として成長する。細胞は通常、それらが互いに接触して単層を形成し、それらが互いに接触した時に接触阻害によって成長を停止するまで、増加する。
【0137】
足場依存性細胞は付着という現象を示す。すなわちそれらは培養ディッシュまたは他の適切な支持体の不活性な表面に付着している場合にのみ、成長し増加する。そのような細胞は、通常、固形支持体なしでは成長することができない。多くの細胞はこの固形表面を必要とせず、足場非依存的成長として知られている現象を示す。したがって、これらの細胞を、培養下で成長させる変法の一つは、単一細胞が培地中に自由に浮遊し、絶えず撹拌または振とうすることによって懸濁状態に維持される、スピナー培養または懸濁培養の使用である。この技法は、バッチ培養で大量の細胞を成長させるのに特に有用である。
【0138】
足場非依存性細胞は通常、半固形培地(例えばマトリゲル)中でコロニーを形成する能力を持つ。スピナー培養で足場依存性細胞を成長させるためにも使用することのできる技法がいくつか開発されている。それらの技法では、これらの細胞が付着することのできる顕微鏡的に小さい正電荷デキストランビーズを利用する。
【0139】
細胞培養物を樹立するための出発材料は、滅菌条件下で得られる、適切なドナー由来の組織であることができる。これらの組織を切り刻み、トリプシン、コラゲナーゼまたはディスパーゼなどのタンパク質分解酵素で処理することにより、培養ディッシュの接種に使用することができる単一細胞懸濁液を得ることができる。いくつかの例では、EDTAを含有する緩衝液で処理することによっても、組織の分散が効果的に達成される。細胞培養開始の具体的一形態は、そこからインビトロで細胞が成長することのできる組織の小片を使用することである。
【0140】
数代にわたって継代維持された初代細胞培養物は、クライシス(ascrisis)を起こし得る。クライシスは通常、細胞の性質の変化を伴い、迅速に進行する場合も、何代にもわたる場合もある。接触阻害の喪失は、多くの場合、その正常な特徴を失っている細胞の指標になる。その場合、これらの細胞は組織培養ディッシュ中で多層として成長する。異常細胞の最も顕著な特徴は染色体数の変化であり、このプロセスを生き延びる多くの細胞は異数性である。異常染色体数への転換は通常、細胞形質転換と呼ばれ、このプロセスは、以後、連続継代によって無期限に培養することができる細胞を生じ得る。形質転換細胞は連続細胞株を生じる。
【0141】
本発明の一定の局面では、細胞を分化剤と一緒に培養する。細胞は、特定タイプの分化を達成するために、指定した条件下で培養され、所望の分化を助長するのに必要なさまざまな因子が与えられるだろう。
【0142】
C.細胞の成長と(再)分化
細胞増殖因子および分化因子は、細胞を刺激して、まずは複能性状態を維持したまま増殖させ、次に(再)分化を誘導する分子である。自発的な分化を妨げるために白血病阻害因子(LIF)を利用することができる。さらにまた、複能性細胞の、機能的に成熟した形態への、成長および分化を促進するための因子と共に培養することも試みることができる。成長および/または分化因子の投与は、必要に応じて繰り返すことができる。
【0143】
成長および/または分化因子は、細胞間伝達物質として作用するホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ヘマトポエチン(hematapoietin)、コロニー刺激因子、インターロイキン、インターフェロン、増殖因子、他の内分泌因子、またはそれらの組合せを構成し得ると考えられる。そのような細胞間伝達物質の例は、リンホカイン、モノカイン、増殖因子および伝統的ポリペプチドホルモンである。増殖因子には、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;糖タンパク質ホルモン、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体化ホルモン(LH);肝増殖因子(hepatic growth factor);プロスタグランジン、線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;OBタンパク質;腫瘍壊死因子αおよびβ;ミュラー阻害物質;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);神経成長因子、例えばNGF-β;血小板増殖因子;トランスフォーミング増殖因子(TGF)、例えばTGF-αおよびTGF-β;インスリン様成長因子IおよびII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子(osteoinductive factor);インターフェロン、例えばインターフェロンα、β、およびγ;コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球/マクロファージ-CSF(GM-CSF);ならびに顆粒球-CSF(G-CSF);インターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18が含まれる。CD14またはMyD88経路のシグナル伝達因子も考えられる。本明細書において使用する成長および/または分化因子という用語は、天然源由来のまたは組換え細胞培養物由来のタンパク質およびネイティブ配列の生物学的活性等価物(合成分子およびミメティックを含む)を包含する。
【0144】
天然幹細胞または本発明の脱分化細胞を培養する際は、支持体を使用することが望ましいだろう。支持体の一つはBD Biosciences Matrigel(商標)Basement Membrane Mixである。この材料は、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞およびニューロンの(再)分化に使用することができる(Biederer & Scheiffele, 2007;Li et al., 2005;Hadley et al., 1985;Ireland, 1997;McGuire & Orkin, 1987;Bissel, et al., 1987;Page et al., 2007;Li et al., 1987;Barcellof et al., 1989;Roskelley et al., 1994;Xu et al., 2007;Debnath et al., 2003;Muthuswamy et al., 2001;Madison et al., 1985;Xu et al., 1994;Fouad et al., 2005)。他の(再)分化法では、脾臓細胞の表現型および造血細胞の表現型を誘導することが求められるだろう。
【0145】
ビタミンA誘導体であるレチノイン酸は、B細胞(Chen et al., 2008)および神経細胞(Guan et al., 2001)を分化させるために使用することができる。さらにまた、Fico et al.(2008)は、ニューロンの一段階分化に役立つ方法および組成物を提供している。これらの論文の関連する教示内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0146】
VII.クローニング、遺伝子導入および発現のためのベクター
一定の態様では、発現ベクターを使って、Bright、ペプチド、ドミナントネガティブBrightタンパク質、抗体もしくはそのフラグメント、アンチセンス分子、リボザイムまたは干渉RNAなどの、さまざまな産物を発現させる。発現には、適当なシグナルがベクター中に用意されることが必要であり、そしてそれには、さまざまな調節要素が、例えば宿主細胞における関心対象の遺伝子の発現を駆動するウイルス源および哺乳動物源の両方に由来するエンハンサー/プロモーターが含まれる。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するように設計された要素も規定される。産物を発現している持続的安定細胞クローンを樹立するために、いくつかのドミナント薬物選択マーカーを使用するための条件も、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と連鎖させる要素も、提供される。
【0147】
A.調節要素
本願の全体を通して、用語「発現コンストラクト」は、ある遺伝子産物をコードする核酸を含有し、その核酸コード配列の一部または全部が転写され得る、任意のタイプの遺伝子コンストラクトを包含するものとする。転写産物はタンパク質に翻訳されてもよいが、その必要があるわけではない。一定の態様において、発現には、遺伝子の転写と、mRNAの遺伝子産物への翻訳が、どちらも含まれる。別の態様において、発現には、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写だけが含まれる。
【0148】
一定の態様において、遺伝子産物をコードする核酸は、プロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」とは、細胞の合成機構によって認識されるか、導入された合成機構によって認識される、遺伝子の特異的転写を開始させるのに必要なDNA配列を指す。「転写制御下」という表現は、そのプロモーターが、RNAポリメラーゼの反応開始および遺伝子の発現を制御するために、核酸に対して正しい位置および向きにあることを意味する。
【0149】
プロモーターという用語は、本明細書では、RNAポリメラーゼIIの開始部位の近くでクラスターを形成する一群の転写制御モジュールを指すために使用される。プロモーターがどのような構成を持つかに関する見解の多くは、いくつかのウイルスプロモーター(HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写ユニットのプロモーターを含む)の解析から導き出される。これらの研究は、最近の研究によって補強されており、プロモーターは、離散した機能的モジュールから構成され、各モジュールは約7〜20bpのDNAからなり、転写活性化タンパク質または転写抑制タンパク質に対する認識部位を1つまたは複数含有することが示されている。
【0150】
各プロモーター中の少なくとも1つのモジュールは、RNA合成の開始部位の位置を定めるように機能する。その最もよく知られた例はTATAボックスであるが、哺乳類末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターなど、TATAボックスを欠くいくつかのプロモーターでは、開始部位そのものに重なる離散した要素が、開始の位置を固定するのを助けている。
【0151】
追加のプロモーター要素は転写開始の頻度を調節する。通例、これらは、開始部位の上流30〜110bpの領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的要素を含有することが、最近になって示されている。プロモーター要素間の間隔は、多くの場合、融通が利くので、要素を互いに倒置するか、相対的に移動させても、プロモーター機能は保存される。tkプロモーターの場合、50bpの距離までは、活性が低下し始めることなく、プロモーター要素間の間隔を増加させることができる。プロモーターによって、個々のエレメントは、協同的に機能するか、または独立に機能して、転写を活性化することができるようである。
【0152】
一定の態様では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス長末端反復、ラットインスリンプロモーターおよびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを使って、関心対象のコード配列の高レベル発現を得ることができる。関心対象のコード配列の発現を達成するために当技術分野において周知の、他のウイルスプロモーターもしくは哺乳動物細胞プロモーターまたはバクテリオファージプロモーターを使用することも、その発現レベルが所与の目的にとって十分である限り、同様に考えられる。
【0153】
周知の性質を持つプロモーターを使用することにより、トランスフェクションまたは形質転換後に起こる関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを、最適化することができる。さらにまた、特異的な生理的シグナルに応答して調節されるプロモーターを選択すれば、遺伝子産物の誘導性発現を可能にすることもできる。表2および3に、本発明との関連で、関心対象の遺伝子の発現を調節するために使用することができる調節要素を、いくつか列挙する。このリストは、遺伝子発現の促進に関与する、考え得る要素の全てを網羅しようとするものではなく、単にその例示であるに過ぎない。
【0154】
エンハンサーは、同じDNA分子上の離れた位置にあるプロモーターからの転写を増加させる遺伝要素である。エンハンサーはプロモーターと同じような構成を持つ。すなわち、エンハンサーは、多くの個別要素から構成され、そのそれぞれが1つまたは複数の転写タンパク質に結合する。
【0155】
エンハンサーとプロモーターとの基本的差異は、作用上の差異である。エンハンサー領域は全体として、離れた位置で転写を刺激することができなければならないが、プロモーター領域またはその構成要素の場合は、これが当てはまるとは限らない。一方、プロモーターが、特定部位で特定の向きにRNA合成の開始を指示する1つまたは複数の要素を持たなければならないのに対して、エンハンサーはこれらの特異性を欠く。プロモーターとエンハンサーは、重なり合い、連続していることが多く、しばしば極めて類似するモジュール構成を持つようである。
【0156】
以下に、発現コンストラクト中で関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて使用することができるであろうウイルスプロモーター、細胞プロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーのリストを示す(表4および表5)。さらにまた、どのプロモーター/エンハンサーの組合せ(真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)も、遺伝子の発現を駆動するために使用することができる。適当な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部として、または追加の遺伝子発現コンストラクトとして、提供されるのであれば、真核細胞は、一定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支えることができる。
【0157】
(表4)プロモーターおよび/またはエンハンサー
【0158】
(表5)誘導性要素
【0159】
上記のリストのなかで特に興味深いのは、誘導性のプロモーター/調節領域である。本発明では、誘導された時にはBright/ARID3aの阻害剤を発現させるが、任意で、固体への再移植を目的として誘導剤を除去すれば、Bright/ARID3a阻害が緩和され、細胞が分化し、不死性を失い得るようなベクターの使用が考えられる。
【0160】
本発明者らは、レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターを使った核酸の送達を考えており、したがってこれらのベクター中にある内在性プロモーターの使用が予想される。
【0161】
B.ポリAおよび終止シグナル
cDNAインサートを使用する場合、通例、遺伝子転写産物の適正なポリアデニル化が達成されるように、ポリアデニル化シグナルを含むことが望まれるだろう。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功にとって決定的な問題であるとは考えられず、ヒト成長ホルモンおよびSV40ポリアデニル化シグナルなど、そのような配列はどれでも使用することができる。発現カセットの要素としてターミネーターも考えられる。これらの要素は、メッセージレベルを増強し、そのカセットから他の配列への読み過ごしを最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0162】
C.選択可能マーカー
本発明の一定の態様では、細胞が本発明の核酸コンストラクトを含有し、細胞は、発現カセットにマーカーを含めることによって、インビトロまたはインビボで同定することができる。そのようなマーカーは、細胞に同定可能な変化を与えて、発現コンストラクトを含有する細胞の容易な同定を可能にする。通常、薬物選択マーカーを含めるとクローニングおよび形質転換体の選択が容易になり、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、ヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子、GFP、およびlacZは、有用な選択可能マーカーである。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの酵素、またはHAT選択を使用することもできる。免疫学的マーカーも使用することができる。使用される選択可能マーカーは、それが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限り、重要であるとは考えられない。選択可能マーカーのさらなる例は、当業者には周知である。
【0163】
D.多重遺伝子コンストラクトおよびIRES
本発明の一定の態様では、内部リボソーム結合部位(internal ribosome binding site)(IRES)要素を使って多重遺伝子メッセージ、すなわちポリシストロン性メッセージを生成させる。IRES要素は、5'メチル化Cap依存的翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回して、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルス(picanovirus)ファミリーの2つのメンバー(ポリオウイルスおよび脳心筋炎ウイルス)に由来するIRES要素(Pelletier and Sonenberg, 1988)ならびに哺乳動物メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が記載されている。IRES要素は異種オープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームは、それぞれがIRESによって隔てられた形で一緒に転写され、ポリシストロン性メッセージを生成させることができる。IRES要素のおかげで、リボソームは各オープンリーディングフレームにアクセスすることができ、効率のよい翻訳が起こる。単一のプロモーター/エンハンサーを使って単一のメッセージを転写することにより、複数の遺伝子を効率よく発現させることができる。
【0164】
任意の異種オープンリーディングフレームをIRES要素に連結することができる。これには、分泌タンパク質、独立した遺伝子によってコードされた複数サブユニットタンパク質、細胞内または膜結合型タンパク質、および選択可能マーカーの遺伝子が含まれる。このようにして、単一のコンストラクトおよび単一の選択可能マーカーを使って、いくつかのタンパク質の発現を細胞中に同時に工作することができる。
【0165】
E.発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞中に導入する方法はいくつかある。本発明の一定の態様では、発現コンストラクトがウイルスまたはウイルスゲノム由来の工学的に操作されたコンストラクトを含む。一定のウイルスが持つ、受容体介在性エンドサイトーシスによって細胞に進入するという能力、宿主細胞ゲノムに組み込まれてウイルス遺伝子を安定にかつ効率よく発現させるという能力は、それらを、哺乳動物細胞への外来遺伝子の導入にとって魅力的な候補にしている(Ridgeway, 1988;Nicolas and Rubenstein, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして使用された最初のウイルスは、パポーバウイルス(シミアンウイルス40、ウシパピローマウイルス、およびポリオーマ)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986)およびアデノウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986)を含むDNAウイルスだった。これらは、外来DNA配列を収容する能力が比較的低く、宿主スペクトルも制限されている。さらにまた、許容細胞におけるそれらの発がん能および細胞変性効果は、安全上の懸念を生じる。これらは最大でも8kBの外来遺伝物質しか収容することができないが、さまざまな細胞株および実験動物に容易に導入することができる(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986)。
【0166】
i.アデノウイルスベクター
ある特定のインビボ送達様式ではアデノウイルス発現ベクターを使用する。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)コンストラクトのパッケージングを支えると共に(b)そこにクローニングされているアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含有するコンストラクトを包含するものとする。この場合、発現は、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0167】
発現ベクターは遺伝子操作された形態のアデノウイルスを含む。36kBの直線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知識から、アデノウイルスDNAの大きな断片を7kBまでの外来配列で置換することが可能である(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAは潜在的遺伝毒性を持つことなくエピソーム的に複製することができるので、宿主細胞のアデノウイルス感染では染色体組込みが起こらない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、大規模な増幅後もゲノム再構成は検出されていない。アデノウイルスは、事実上全ての上皮細胞に、それらの細胞周期段階とは無関係に感染することができる。今までのところ、アデノウイルス感染は、ヒトでは急性呼吸器疾患などの軽度疾患にのみ関連づけられているようである。
【0168】
アデノウイルスは、中ぐらいのサイズのゲノムを持ち、操作が容易であり、力価が高く、ターゲット細胞域が広く、感染性が高いことから、遺伝子導入ベクターとしての使用にとりわけ適している。このウイルスゲノムの両端は100〜200塩基対の逆方向反復配列(ITR)を含有し、それらは、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシス要素である。ゲノムの初期(E)領域と後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される、異なる転写単位を含有する。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよびいくつかの細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードしている。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞シャットオフに関与している(Renan, 1990)。ウイルスキャプシドタンパク質の大半を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって生じた単一主要転写産物が著しいプロセシングを受けて初めて発現される。MLP(16.8m.u.に位置する)は、感染の後期では、とりわけ効率がよく、このプロモーターから生じたmRNAは全て5'-トリパータイトリーダー(TPL)配列を有し、それがそれらを翻訳にとって好ましいmRNAにする。
【0169】
現在の系では、シャトルベクターとプロウイルスベクターの間の相同組換えによって、組換えアデノウイルスが作製される。2つのプロウイルスベクター間での組換えが考えられるので、この工程からは野生型アデノウイルスが生成し得る。したがって、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが決定的に重要である。
【0170】
複製欠損性である現在のアデノウイルスベクターの作製および増殖は、293と呼ばれるユニークなヘルパー細胞株(これは、ヒト胎児腎臓細胞からAd5 DNAフラグメントによって形質転換された細胞株で、E1タンパク質を構成的に発現させる)に依存する(Graham et al., 1977)。E3領域はアデノウイルスゲノムにとって必ずしも必要でないので(Jones and Shenk, 1978)、293細胞の助けを借りる現在のアデノウイルスベクターは、E1領域もしくはD3領域またはその両方に外来DNAを保持する(Graham and Prevec, 1991)。実際、アデノウイルスは野生型ゲノムの約105%をパッケージングすることができ(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2kb分の余分なDNAを収容する能力を持つ。E1領域およびE3領域中の置き換えることができる約5.5kbのDNAと合わせると、現在のアデノウイルスベクターの最大収容能力は7.5kb未満、またはベクターの全長の約15%である。アデノウイルスゲノムの80%超がベクターバックボーン中に留まり、ベクターが媒介する細胞毒性の原因になる。また、E1欠失ウイルスの複製欠損性も不完全である。
【0171】
ヘルパー細胞株は、ヒト胎児腎臓細胞、筋細胞、造血細胞または他のヒト胚性間葉もしくは上皮細胞などのヒト細胞に由来し得る。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに関して許容性である他の哺乳動物種の細胞にも由来し得る。そのような細胞には、例えばベロ細胞または他のサル胚性間葉もしくは上皮細胞が含まれる。上述のように、好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0172】
Racher et al.(1995)は、293細胞を培養しアデノウイルスを増殖させるための改良された方法を開示した。あるフォーマットでは、100〜200mlの培地を含有する1リットルシリコーン処理スピナーフラスコ(Techne、英国ケンブリッジ)に個々の細胞を接種することによって、天然の細胞凝集塊を成長させる。40rpmで撹拌した後、細胞生存度をトリパンブルーで見積もる。もう一つのフォーマットでは、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、英国ストーン)(5g/l)を、次のように使用する。5mlの培地に再懸濁した細胞接種材料を、250mlエルレンマイヤーフラスコ中の担体(50ml)に加え、ときおり撹拌しながら1〜4時間静置する。次に、培地を50mlの新鮮培地で置き換え、振とうを開始する。ウイルス生産のために、細胞を約80%コンフルエントまで成長させた後、培地を置き換え(最終体積の25%にする)、アデノウイルスを0.05のMOIで加える。培養物を一晩静置した後、体積を100%に増加し、さらに72時間の振とうを開始する。
【0173】
アデノウイルスベクターは複製欠損性であるか、少なくとも条件付きで欠損性であるべきという必要条件を除けば、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の実施の成功にとって決定的な問題であるとは考えられない。アデノウイルスは、42の異なる公知血清型または亜群A〜Fのどれであってもよい。本発明で使用するための条件付き複製欠損性アデノウイルスベクターを得るには、亜群Cのアデノウイルス5型は好ましい出発物質である。これは、アデノウイルス5型が、非常に多くの生化学的および遺伝学的情報が知られているヒトアデノウイルスであり、歴史的にもアデノウイルスをベクターとして用いる構築の大半に使用されてきたからである。
【0174】
上述のように、典型的な本発明のベクターは複製欠損性であり、アデノウイルスE1領域を持たない。したがってこれは、E1コード配列が除去された位置に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入するには、最も都合がよいだろう。しかし、アデノウイルス配列内のコンストラクトの挿入位置は、本発明にとって決定的な問題ではない。関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、Karlsson et al.(1986)に記載されているように、E3置換ベクターに、欠失させたE3領域の代わりに挿入してもよいし、ヘルパー細胞株またはヘルパーウイルスがE4欠損を補完する場合は、E4領域に挿入することもできる。
【0175】
アデノウイルスは、成長させるのも操作するのも容易であり、インビトロおよびインビボで広い宿主域を示す。このグループのウイルスは、高い力価(例えば109〜1012プラーク形成単位/ml)で得ることができ、感染性が高い。アデノウイルスの生活環は宿主細胞ゲノムへの組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソーム性であるため、宿主細胞に対する遺伝毒性は低い。野生型アデノウイルスのワクチン接種の研究において副作用が報告されていないこと(Couch et al., 1963;Top et al., 1971)は、インビボ遺伝子導入ベクターとしてのそれらの安全性および治療的有効性を示している。
【0176】
アデノウイルスベクターは真核生物遺伝子発現(Levrero et al., 1991;Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992;Graham and Prevec, 1991)において使用されている。最近、組換えアデノウイルスを遺伝子治療に使用できることが、動物試験によって示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991;Stratford-Perricaudet et al., 1990;Rich et al., 1993)。組換えアデノウイルスを異なる組織に投与する試験には、気管内注入(Rosenfeld et al., 1991;Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)および脳への定位的接種(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。
【0177】
ii.レトロウイルス/レンチウイルス
レトロウイルスは、逆転写のプロセスによって感染細胞中でそのRNAを二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする、一群の一本鎖RNAウイルスである(Coffin, 1990)。次に、その結果生じたDNAは、プロウイルスとして細胞染色体中に安定に組込まれ、ウイルスタンパク質の合成を指示する。この組込みの結果、レシピエント細胞およびその子孫では、ウイルス遺伝子配列が保持されることになる。レトロウイルスゲノムは、それぞれキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ構成要素をコードする3つの遺伝子、gag、polおよびenvを含有する。gag遺伝子の上流に見いだされる配列は、そのゲノムをビリオンにパッケージングするためのシグナルを含有する。ウイルスゲノムの5'端と3'端に2つの長末端反復(LTR)配列が存在する。これらは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含有し、宿主細胞ゲノムへの組込みにも要求される(Coffin, 1990)。
【0178】
レトロウイルスベクターを構築するには、複製欠損性であるウイルスが生じるように、一定のウイルス配列の代わりに、関心対象の遺伝子をコードする核酸を、ウイルスゲノム中に挿入する。ビリオンを生産するには、gag、polおよびenv遺伝子は含有するがLTRおよびパッケージング構成要素を持たないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., 1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と一緒にcDNAを含有する組換えプラスミドが(例えばリン酸カルシウム沈殿法によって)この細胞株に導入されると、そのパッケージング配列によって、組換えプラスミドのRNA転写産物は、ウイルス粒子にパッケージングされることが可能になり、次にそれが培養培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986;Mann et al., 1983)。次に、組換えレトロウイルスを含有する培地を収集し、任意で濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞タイプに感染することができる。ただし、組込みと安定な発現には、宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al., 1975)。
【0179】
レトロウイルスベクターの特異的ターゲティングが可能になるように設計されたアプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にすることができた。
【0180】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用する、組換えレトロウイルスのターゲティングに対する異なるアプローチが設計された。これらの抗体は、ストレプトアビジンを使用することにより、ビオチン構成要素を介して、カップリングされた(Roux et al., 1989)。主要組織適合性複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用することにより、これらの表面抗原を持つさまざまなヒト細胞が、インビトロで、エコトロピックウイルスによる感染を起こすことが実証された(Roux et al., 1989)。
【0181】
本発明の全ての局面において、レトロウイルスベクターの使用には、一定の制限がある。例えば、レトロウイルスベクターは通常、細胞ゲノムのランダムな部位に組み込まれる。これは、宿主遺伝子の中断による、または隣接遺伝子の機能を妨げることになり得るウイルス調節配列の挿入による、挿入突然変異誘発をもたらし得る(Varmus, et al., 1981)。欠損性レトロウイルスベクターの使用に伴うもう一つの懸念は、パッケージング細胞における野生型複製コンピテントウイルスの潜在的出現である。これは、組換えウイルス由来の無傷な配列が、宿主細胞ゲノムに組み込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入されるような組換え事象によって起こり得る。しかし、組換えの可能性を著しく低下させるに違いない新しいパッケージング細胞株が、現在では利用可能である(Markowitz et al., 1988;Hersdorffer et al., 1990)。
【0182】
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、polおよびenvに加えて、調節機能または構造機能を持つ他の遺伝子も含有する複合型レトロウイルスである。レンチウイルスベクターは当技術分野において周知である(例えばNaldini et al., 1996;Zufferey et al., 1997;Blomer et al., 1997;米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照されたい)。レンチウイルスの例をいくつか挙げると、ヒト免疫不全ウイルスHIV-1、HIV-2およびサル免疫不全ウイルスSIVなどがある。HIVビルレンス遺伝子を多重に弱毒化することによってレンチウイルスベクターが作製されている(例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefを欠失させると、ベクターが生物学的に安全になる)。
【0183】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染する能力を持ち、インビボとエクスビボの両方で遺伝子導入と核酸配列の発現に使用することができる。例えば、非分裂細胞に感染する能力を持つ組換えレンチウイルス(この場合は、適切な宿主細胞が、パッケージング機能、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatを保有する2つまたはそれ以上のベクターでトランスフェクトされる)が、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,136号に記載されている。エンベロープタンパク質を抗体と連結するか、特定細胞タイプの受容体にターゲティングするための特定リガンドと連結することにより、組換えウイルスをターゲティングすることができる。関心対象の配列(調節領域を含む)を、例えば特異的ターゲット細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子と一緒に、ウイルスベクター中に挿入することにより、そのベクターはターゲット特異的になる。
【0184】
iii.他のベクター
本発明では、他のウイルスベクターを発現コンストラクトとして使用することもできる。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Hermonat and Muzycska, 1984)およびヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターを使用することができる。これらは、さまざまな哺乳動物細胞にとって魅力的な特徴を、いくつか持っている(Friedmann, 1989;Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar 1988;Horwich et al., 1990)。
【0185】
しばしばEBVと呼ばれるエプシュタイン・バーウイルスは、ヘルペスウイルスファミリーのメンバーであり、最も一般的なヒトウイルスの一つである。このウイルスは世界中に存在し、大半の人々が生存中にいつかはEBV感染者になる。米国では、年齢35〜40歳の成人の95%もの人々が既に感染している。EBVによる感染が思春期または青年期に起こった場合、それは、その時点で35%〜50%に伝染性単核球症を引き起こす。EBVベクターを使ってDNA配列が細胞に、特にBリンパ球に、効率よく送達されている。Robertsonら(1986)に、遺伝子治療ベクターとしてのEBVの総説がある。
【0186】
欠損性B型肝炎ウイルスが認識されたことにより、異なるウイルス配列の構造機能相関への新しい洞察が得られた。インビトロ研究により、このウイルスは、そのゲノムの最大80%の欠失にもかかわらず、ヘルパー依存的パッケージングおよび逆転写の能力を保ち得ることが示された(Horwich et al., 1990)。これにより、そのゲノムの大部分を外来遺伝物質で置き換え得ることが示唆された。向肝性(hepatotropism)および持続性(組込み)は、肝臓を指向する遺伝子導入にとっては、とりわけ魅力的な性質だった。Changらは、アヒルB型肝炎ウイルスゲノムに、ポリメラーゼ、表面(surface)、およびプレ表面(pre-surface)コード配列の代わりに、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を導入した。これが野生型ウイルスと共にトリ肝細胞癌細胞株中にコトランスフェクトされた。高力価の組換えウイルスを含有する培養培地を使って、初代コガモ肝細胞を感染させた。安定なCAT遺伝子発現が、トランスフェクション後、少なくとも24日間は検出された(Chang et al., 1991)。
【0187】
iv.非ウイルス的方法
本発明では、発現コンストラクトを培養哺乳動物細胞に導入するための非ウイルス的方法もいくつか考えられる。これらには、リン酸カルシウム沈殿法(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン法(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984)、直接微量注入法(Harland and Weintraub, 1985)、DNA負荷リポソーム(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979)およびリポフェクトアミン-DNA複合体、細胞音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速微量マイクロプロジェクタイル(microprojectile)を使用する遺伝子ボンバードメント(bombardment)(Yang et al., 1990)、および受容体媒介トランスフェクション(Wu and Wu, 1987;Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの技法のいくつかは、インビボ用途またはエクスビボ用途に、うまく適合させることができる。
【0188】
発現コンストラクトが細胞中に送達されたら、関心対象の遺伝子をコードする核酸は、さまざまな部位に配置され、そこで発現され得る。一定の態様では、遺伝子をコードする核酸を、細胞のゲノム中に安定に組み込むことができる。この組込みは、相同組換えによってコグネイト(cognate)な位置および向きで起こるか(遺伝子置換)、ランダムな非特異的位置に組込まれる得る(遺伝子増強)。さらなる態様において、核酸は、DNAの独立したエピソームセグメントとして、細胞中に安定に維持され得る。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主の細胞周期とは独立して、または宿主の細胞周期と同期して、維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現コンストラクトが細胞にどのように送達されるか、細胞内のどこに核酸が留まるかは、使用される発現コンストラクトのタイプに依存する。
【0189】
さらにもう一つの本発明の態様では、発現コンストラクトが、単に裸の組換えDNAまたはプラスミドからなってもよい。このコンストラクトの導入は、細胞膜を物理的または化学的に透過処理する上述の方法のいずれかによって行うことができる。これは特にインビトロでの導入に応用できるが、インビボでの使用にも同様に応用することができる。Dubensky et al.(1984)は、成体マウスおよび新生仔マウスの肝臓および脾臓に、ポリオーマウイルスDNAを、リン酸カルシウム沈殿物の形で注入することに成功して、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。BenvenistyおよびNeshif(1986)も、リン酸カルシウム沈殿したプラスミドの直接腹腔内注射が、トランスフェクトされた遺伝子の発現をもたらすことを実証した。関心対象の遺伝子をコードするDNAも、同じようにしてインビボで導入され、遺伝子産物を発現させ得ると考えられる。
【0190】
本発明のさらにもう一つの態様では、裸のDNA発現コンストラクトを細胞に導入するために、粒子ボンバードメントを使用する。この方法は、DNAでコーティングされたマイクロプロジェクタイル(microprojectile)を高速に加速して、それらが細胞膜を貫通し細胞を殺さずに細胞内に進入できるようにする能力に依存する(Klein et al., 1987)。小さい粒子を加速するための装置はいくつか開発されている。そのような装置の一つは、高電圧放電によって電流を発生させ、それが結果として推進力を与える(Yang et al., 1990)。使用されるマイクロプロジェクタイルは、タングステンビーズまたは金ビーズなどの生物学的に不活性な物質からなっている。
【0191】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋肉組織を含む選ばれた臓器に対し、インビボで、ボンバードメントが行われている(Yang et al., 1990;Zelenin et al., 1991)。これは、銃とターゲット臓器の間に介在する組織を排除するために、組織または細胞を外科的に露出させること、すなわちエクスビボ処置を必要とし得る。ここでも、特定の遺伝子をコードするDNAを、この方法で送達することができ、やはり本発明によって包含される。
【0192】
本発明のさらなる態様では、発現コンストラクトをリポソーム中に封入することができる。リポソームは、リン脂質二重膜と内部の水性媒質とを特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒質によって隔てられた複数の脂質層を持つ。これらは、リン脂質を過剰量の水溶液に懸濁すると、自発的に形成される。脂質構成要素は、自己再構成を起こして閉じた構造を形成し、脂質二重層の間に水と溶解した溶質とを封入する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。リポフェクトアミン-DNA複合体も考えられる。
【0193】
インビトロでのリポソームによる核酸送達と外来DNAの発現では大変良い結果が得られている。Wong et al.(1980)は、培養ニワトリ胚、HeLa細胞および肝細胞癌細胞において、リポソームによる送達と外来DNAの発現が実施可能であることを実証した。Nicolau et al.(1987)は、ラットで、静脈内注射後のリポソームによる遺伝子導入に成功した。
【0194】
本発明の一定の態様では、リポソームを、赤血球凝集ウイルス(HVJ)との複合体にすることができる。これは、細胞膜との融合を容易にし、リポソームに封入されたDNAの細胞進入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。別の態様では、リポソームを、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)との複合体にするか、それと一緒に使用することができる(Kato et al., 1991)。さらなる態様では、リポソームを、HVJおよびHMG-1の両方との複合体にするか、それらと一緒に使用することができる。そのような発現コンストラクトは、インビトロおよびインビボで、核酸の導入および発現に使用され成功を収めているので、それらは本発明にも応用することができる。細菌プロモーターをDNAコンストラクト中に使用する場合は、リポソーム内に適当な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいだろう。
【0195】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞中に送達するために使用することができる他の発現コンストラクトに、受容体介在型送達媒体がある。これらは、ほとんど全ての真核細胞における受容体介在性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取込みを利用する。さまざまな受容体が細胞タイプ特異的に分布しているので、この送達は高い特異性を持つことができる(Wu and Wu, 1993)。
【0196】
受容体介在型遺伝子ターゲティング媒体は、一般に、2つの構成要素、すなわち細胞受容体特異的リガンドとDNA結合剤とからなる。受容体介在型遺伝子導入にはいくつかのリガンドが使用されている。最も詳細に特徴づけられたリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wagner et al., 1990)である。最近、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達媒体として使用されており(Ferkol et al., 1993;Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)も扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために使用されている(Myers, EPO 0273085)。
【0197】
別の態様では、送達媒体がリガンドおよびリポソームを含み得る。例えばNicolau et al.(1987)は、リポソームに組み込まれたラクトシルセラミド、ガラクトース末端アシアロガングリオシドを使って、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加を観察した。したがって、特定の遺伝子をコードする核酸は、リポソームを使って、またはリポソームを使わずに、いくつもの受容体-リガンド系により、ある細胞タイプ中に特異的に送達することもできると考えられる。例えば上皮増殖因子(EGF)は、EGF受容体のアップレギュレーションを示す細胞に核酸を仲介送達するための受容体として使用することができる。マンノースを使って、肝細胞上のマンノース受容体を標的にすることもできる。また、CD5(CLL)、CD22(リンパ腫)、CD25(T細胞白血病)およびMAA(メラノーマ)に対する抗体も、ターゲティング部分として、同様に使用することができる。
【0198】
一定の態様では、遺伝子導入を、エクスビボ条件下で、さらに容易に行うことができる。エクスビボ遺伝子治療とは、細胞を動物から単離し、その細胞にインビトロで核酸を送達した後、改変された細胞を動物中に戻すことを指す。これは、動物からの組織/臓器の外科的摘出、または細胞および組織の初代培養を必要とし得る。
【0199】
VIII.キット
本明細書に記載する応用例で使用するためのキットも本発明の範囲に包含される。そのようなキットは、バイアル、チューブなどの1つまたは複数の入れ物を収容するように区画化された担体、パッケージまたは入れ物を含むことができ、それらの入れ物のそれぞれは、本方法で使用される個別の要素の一つ、特にBright阻害剤を含む。本発明のキットは、通例、上述の入れ物と、販売時のエンドユーザーの立場から見て望ましい材料、例えば緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および取扱説明が記載された添付文書などを含む、1つまたは複数の他の入れ物とを含むだろう。さらにまた、その組成物が特殊な治療的応用のためのものであることを表示するラベルを入れ物の上に設けることもでき、それらのラベルは、上述したようなインビボ使用またはインビトロ使用に関する指示も表示することができる。指示および/または他の情報は、キットに同梱される添付文書に含めることもできる。
【実施例】
【0200】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな局面を、さらに例証するために記載するものである。以下の実施例で開示される技法は、本発明の実施においてうまく機能することを本発明者らが発見した技法および/または組成物を表し、したがって本発明を実施するための好ましい形態を構成するとみなし得ることは、当業者には理解されるはずである。ただし、ここに開示される具体的態様には、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、数多くの変更を加えることができ、それでもなお同様のまたは類似した結果が得られることを、当業者は本明細書の開示に照らして理解すべきである。
【0201】
実施例1:暫定的データ
ドミナントネガティブ(DN)ARID3aを発現するトランスジェニックマウスの解析に際し、本発明者らは全脾臓細胞を培養して、これらの培養物から得られる細胞が、非トランスジェニック脾臓細胞にはない自己複製能を持つことを発見した。実際、本発明者らは、それらの細胞を6ヶ月超培養することができ、複数の細胞タイプ-付着性線維芽細胞様および小リンパ球様-が、長期間にわたって維持されることに気付いた。複数の表面マーカーも存在し、複数の細胞タイプの通常ではない取り合わせが、長期間にわたって維持された。対照脾臓B細胞は約6週間で死んだ。また、通常の添加剤を含む5%RPMI成長培地で維持したARID3a欠損マウス由来の脾臓細胞(Ho et al., 2009)は、数ヶ月間の培養後に、胚様体(図1に示すもの)を自発的に生成することがわかった。複数の胚様体が特に飢餓期間後は自発的に発生することが観察されたが、現在までのところ、心臓組織を示すような周期的に拍動するものは観察されていない。これらの培養物には、表面染色および顕微鏡観察によって証明されるとおり、複数の細胞タイプが観察された(図2A〜2D)。EPCRおよび他の内皮細胞マーカーを発現させて管状構造を形成する内皮様細胞は、複数のARID3a欠損脾臓源から、容易に生成した(図2A)。異なる形態を持つ他の細胞も同じ培養物中に明確に認めることができた(図2B)。元の3つの脾臓培養物の一つから得られた細胞は、現在まで1年間にわたって維持されている。過去2ヶ月間生き続けた対照培養物はなかった。
【0202】
本発明者らは、自己複製する多能性細胞を、7つのARID3a欠損脾臓、4つのARID3a欠損骨髄培養物および1つの腎臓培養物から生成させた。したがってARID3a欠損は、複数の組織源から、自己複製能を持つ細胞をもたらすようである。骨髄培養物の1つを、マトリゲル培養において、内皮管を生成させる能力について試験したが、そうはならずに、2〜3週間の培養期間で神経球(neural sphere)および分化した神経様細胞を生じた(図2C〜D)。骨髄培養物は脂肪細胞および間質細胞もすぐに形成させた(未掲載)。腎臓培養物は、今のところまだ同定されていない複数の形態学的に異なる細胞タイプを含有した。これらの結果は、ARID3a阻害が、複数の細胞系譜に分化する能力を持つ幹細胞の派生またはそのような幹細胞への脱分化をもたらすという考えと合致する。
【0203】
いくつかの遺伝子産物は、幹細胞を作り出しかつ/または維持するのに極めて重要であることが知られており、それらにはSox-2、Oct-4、myc、nanog、Klf4およびlin28が含まれる。図3A〜Dは、本発明者らが、そのARID-3a欠損培養物において、Sox-2、nanog、myc、およびKlf4の発現を観察したことを示しており、これにより、初期多能性細胞が存在することが示唆される。幹細胞マーカーに関する表面染色でも、c-kit、sca-1およびCD9などの初期幹細胞系譜マーカーが示される(未掲載)。これらのデータは、これらの自己複製培養物内に多能性細胞が存在することを、さらに示している。
【0204】
多能性脾臓細胞から得た上清は、標準ES細胞株の成長および分化を誘導するのに有効であることが示された(図4)。したがって、ARID3a欠損培養物中の多能性細胞は、幹細胞の成長を増強するケモカインおよび/または増殖因子を産生する可能性が高い。そのような上清および/または精製増殖因子は、利用可能な標準ES細胞株を成長させるのに有益であることが判明するだろう。
【0205】
ノックアウトARID3a組織とドミナントネガティブARID3a組織の両方を使った結果から、ARID3a欠損は自発的な自己複製および多能性を引き起こすのに十分であることが示唆され、ARID3a阻害によって複数の成体組織から幹細胞を作製できることが示唆される。図5A〜FはB細胞からの多能性幹細胞生成を示している。ドミナントネガティブBrightトランスジェニックマウスから、骨髄プロB細胞を、フローサイトメトリーにより、CD43- IgM- B220+ 細胞として(図5A)、選別後解析(図5B)によって示されるように、>95%の純度で単離した。LIFを添加して、照射マウス胚性線維芽細胞上で4週間成長させた後に、対照C57Bl/6バックグラウンドプレB細胞は、図5Cに示すように、依然としてプレB細胞に似ていた。ドミナントネガティブ培養物には、LIFの非存在下でも、多細胞幹細胞様コロニーが観察された(図5Dおよび5E)。ドミナントネガティブマウス由来のバルク脾臓培養物(SCDND*36および50)から得られるゲノムDNAを増幅したところ、対照(SC57#1)培養物と比較して、D-J再構成の増加を示したことから、B細胞前駆体に由来する細胞の数が増加していることが示唆された。
【0206】
実施例2:材料および方法
マウス エクソン1〜7を除去してヌル対立遺伝子を作製する戦略を使って、129sV ES細胞における標準的なターゲティング技法によって作製された、従来型Bright-/-マウス(図15)(テキサス大学オースティン校のPhilip Tucker博士から提供された)。生殖系列遺伝Bright-/-子孫の99%以上が、E10.5〜E13.5の間に、赤血球生成の失敗によって死亡した。この研究で使用した稀な成体ホモ接合型生存個体は、混合C57BL6/129sVバックグラウンドを持ち、2〜5ヶ月齢だった。FVB/Nバックグラウンドを持つDN Brightトランスジェニックマウスは、以前に記載されており(Nixon et al., 2008)、現在では、C57Bl/6に10世代にわたって戻し交配されている。Nod.CB17-Prkdcscid/Jマウスは、Jackson Laboratoriesから入手した。動物は、施設の承認を得て、審査委員会が指定したガイドライン内で使用した。
【0207】
組織培養およびiPS誘導 Bright-/-マウスまたはDNトランスジェニックマウスから得た全脾臓、腎臓、リンパ節または骨髄を掻き裂いて単一細胞懸濁液とし、5%FBSと標準的補助剤とを含有するRPMI1640を、毎週2〜3回、供給した(Webb et al., 1989)。マウスES細胞およびiPS様細胞を、MEF上で、10ng/ml LIFを加えて成長させ、記載されているように、トリプシンを使って継代した(Meissner et al., 2009)。胚様体形成および分化アッセイは標準的プロトコールを使って行った(Meissner et al., 2009)。MEFは129svマウスから記載されているように調製した(Meissner et al., 2009)。奇形腫形成は2×106個の細胞をNod/Scidマウスに筋肉内注射することによって誘導した。外科的に切離した腫瘍をパラフィン包埋し、ヘマトキシリン(heamatoxylin)とエオシンで染色し、認可病理専門医(licensed pathologist)によって評価が行われた(S. Kosanke、OUHSC、オクラホマ州)。
【0208】
免疫蛍光染色および顕微鏡検査 細胞を4%PFA中、室温で20分間固定し、洗浄し、5%ロバ血清、1%BSA(Sigma)、および0.1%Triton X-100を含有するPBSで、室温で45分間処理した(Takahashi and Yamanaka, 2006;Takahashi et al., 2007)。一次抗体は、Sox2(MAB4343)、Oct4(MAB4305)、SSEA1(MAB4301)、ネスチン(MAB353)、およびβIII-T(CBL412)に対する抗体(Chemicon製);Nanogに対する抗体(AF2729、R&D Systems)、ならびにα-SMA(N1584)およびAFP(N1501)に対する抗体(Dako製)とした。ポリクローナルウサギおよびヤギ抗Bright試薬は、以前に記載されている(Herrscher et al., 1995;Nixon et al., 2004)。適当なアイソタイプ対照および発蛍光団で標識された二次抗体は、Molecular Probesから購入した。核染色にはDAPIを使用した(D1306、Molecular Probes)。
【0209】
RT-PCRおよびウェスタンブロッティング 全RNAをArrayGrade Total RNA Isolation Kit(SABiosciences、メリーランド州フレデリック)で単離し、DNase I(Promega、ウィスコンシン州マディソン)で処理し、First Strand Synthesisキット(Invitrogen)を使って、製造者のプロトコールに従って逆転写した。定量PCRは、SYBR Green/ROX qPCR Master Mix(SABiosciences、メリーランド州フレデリック)で行い、7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)で解析した。遺伝子発現をGAPDHに対して規格化した。マウスSox2およびLin28プライマーは、それぞれ
とした。他のヒトプライマー(Yu et al., 2007;Nixon et al., 2004;Park et al., 2008)およびマウスプライマー(Tanaka et al., 2007;Liu et al., 2007;Kinoshita et al., 2007;Shaffer et al., 2002)は、記載されているとおりとした。ウェスタンブロッティングは、記載されているように(Nixon et al., 2008)、ポリクローナル抗Brightおよび抗アクチンを使って行った。
【0210】
レンチウイルスの作製および形質導入 shRNA(表7)をpSIF-H1-copGFPレンチウイルスベクター(System Biosciences、カリフォルニア州マウンテンビュー)にサブクローニングし、LipoD293(商標)DNAトランスフェクション試薬(SignaGen Laboratories、メリーランド州ゲイサーズバーグ)で、製造者のプロトコールに従って、pFIV-34NプラスミドおよびpVSV-Gプラスミドと共にコトランスフェクトすることにより、パッケージングした。ウイルスを収集し、0.45μm滅菌フィルターを使って濾過し、48〜72時間後に限外濾過によって濃縮した。力価は、フローサイトメトリーにより、GFP陽性細胞の数で決定した。BCg3R-1d細胞または293T細胞をウイルスおよび6μg/mlポリブレン(Sigma)で24時間処理した。iPS様細胞に、10ng/ml LIFを含むES培地(20%FBS、0.1mM非必須アミノ酸、および0.1mMβ-メルカプトエタノールを含有するDMEM)を供給し、ゼラチン被覆プレート中の照射MEFフィーダー細胞上に播種した。培地は1日置きに替えた。
【0211】
実施例3:結果
Bright/ARID3a機能は、Bリンパ球におけるIgH転写活性へのその寄与を除けば(Rajaiya et al., 2006;Kaplan et al., 2001)、よくわからないままであった。ゼノパス(Xenopus)およびショウジョウバエ(Drosophila)におけるそのオルソログと同様に(Shandala et al., 1999;Callery et al., 2005)、ヌルBrightマウスは胚発生の初期に死亡した。しかし、稀(<1%)にBright-/-マウスは、死なずに生き延び、その組織全体のインビトロ成長は、複数の細胞タイプを生成する能力を維持した寿命の長い自己複製する培養物をもたらした。さらにまた、BrightのDNA結合機能を妨害するドミナントネガティブ(DN)型のBrightを発現するトランスジェニックマウスに由来する組織からも、類似する培養物が樹立された(Nixon et al., 2004;Nixon et al., 2008)。そのような培養物は、5%FBSを含有する通常のRPMI1640培地中で、増殖因子を何も追加しなくても、容易に維持され、脾臓、骨髄、リンパ節および腎臓を含む多種多様な成体組織から生成させることができた。これらの細胞は接触阻害を示し、ゆっくりと成長し、形質転換されていないようだった。しかし、それらは凍結後に回復させることができ、培養下で無期限に(場合によっては>1年)維持することができた(図6)。正常対照から得た細胞は、通例、6週間未満しか生き延びず、培養の最後まで、主として間質様の性質だった。これらのデータは、Bright機能の喪失が自己複製を促進するのに十分であることを示唆している。
【0212】
本発明者らは、Bright-/-組織に由来する過成長培養物が、複数の形態を持つ細胞を含有するエンブリオイド様ボディを、自発的に形成することを観察した(図6A)。強化培地により、そのボディは広がって、培養ディッシュに付着した状態になり、脱凝集し、さまざまな分化レベルを持つ複数の細胞タイプへと転換した。Bright-/-脾臓株は、枝分れして成長する内皮様細胞を、自発的に生成した。これらの培養物に、1%脳材料(brain food)およびヘパリンを含む内皮細胞添加剤を含有する成長培地を供給したところ、ノックアウト細胞は、形態学的にも(Bakre et al., 2007)、免疫組織学的にも、分化した内皮細胞の特徴をよく示す(図6C)、管状構造物を自発的に形成した(図6B)。マトリゲルに播種した3週間後に、Bright-/-骨髄培養物は、初期ニューロンマーカーネスチンに関して陽性な(図6E)長い軸索様の突起(図6D)を持つニューロン様細胞の大きな凝集塊を形成した。これらのデータは全体として、Brightの喪失が細胞の正常な分化パターンを破壊して、それらが予想外の可塑性を維持するようになることを示唆している。
【0213】
本発明者らはエンブリオイド様ボディと、外胚葉系譜および中胚葉系譜を代表する成熟細胞タイプを観察したので、これらのBright欠損培養物が幹細胞を含有するのかもしれないという仮説を立てた。Bright発現は胚様体の分化後に急速に増加することが以前に示されている(Wang et al., 2006)ということが、この考えをさらに後押しした。図2Aに見られるように、一般に多能性と関連づけられるいくつかの遺伝子が、Bright-/-組織では、ES細胞におけるそれに匹敵するレベルまで活性化された。通常の脾臓細胞由来培養物に存在しないNanog発現が全てのBright-/-培養物で強く誘導されたのに対し、Sox2はさまざまなアップレギュレーションを示した。Klf4およびc-myc転写産物は正常組織対照にもBright-/-培養物にも観察されたが、Oct4およびLin28発現は、マウスiPS様細胞には通例、観察されなかった。これらのデータはBright-/-細胞がiPS多能性マーカーのサブセットを発現していることを示唆している。
【0214】
これらの培養物は通常の培養条件下で複数の細胞タイプに自発的に分化し、したがって遺伝子発現パターンが経時的に変化したので、本発明者らは、通常のESおよびiPS細胞の維持で日常的に行われているように、Bright-/-細胞を、分化阻害サイトカイン白血病阻害因子(LIF)の存在下で、マウス胚性線維芽細胞フィーダー(MEF)上に蒔いた。4〜6週間の期間後に、本発明者らは、ES細胞マーカーSSEA-1(図7B)およびNanog(未掲載)を発現するiPS様の形態を持つクローンを単離することができた。これらの細胞は安定なiPS様表現型を示し、Bright-/-マウスの複数の組織からiPS様細胞を単離できることを示す。
【0215】
同様に、DN Brightトランスジェニックマウスから得られる脾臓および骨髄は、エンブリオイド様ボディを自発的に形成する能力(図8A)、ならびに種々の系譜表面マーカー発現(例えばCD3、Mac-1、およびGR-1;データ未掲載)およびNanogのアップレギュレーション(図8B)を持つ細胞に自発的に転換する能力を示した。本発明者らのトランスジェニックマウスは、B細胞特異的CD19プロモーターからDN Brightを発現させる(Nixon et al., 2008)。DNトランスジェニックマウスは、CD19+成熟DN Bright発現B細胞を生成しなかった(Nixon et al., 2008)。したがって、Bright機能の喪失は、正常なB細胞分化経路を辿る代わりに、これらのBリンパ球を停止させ、再プログラムするのだろう。これらのマウスから得たDN由来非B細胞含有組織(例えば腎臓および肝臓)が自己複製能および長期成長能を示し得なかったことは、自己複製細胞がBright欠損Bリンパ球から派生するという仮説と合致している。この仮説のさらなる裏付けとして、DNトランスジェニック骨髄および脾臓から樹立された長期細胞株は、そのIgH座位のD-JH再構成を示した(図8Cおよび未掲載データ)。再構成していない生殖系列バンドを示すPCR産物も存在したが、それは、再構成されていない対立遺伝子に起因するものであるか、または培養物内に非B細胞由来の間質細胞が存在することを示し得る。また、本発明者らは、脾臓由来のDN Bright培養物にはκ軽鎖再構成の証拠(図8D)を検出したが、骨髄由来のものにはそれがなかった。これは、このコンパートメントが主としてまだ軽鎖座位を再構成していない初期B細胞から構成されることと合致する。
【0216】
本発明者らは、DNトランスジェニックおよび対照C57Bl/6プレB細胞の両方を選別し(図11)、それらをLIFの存在下、MEF上で培養した。培養下で4週間後に、C57Bl/6培養物にはいくつかのリンパ球様細胞が残っていたが、DN BrightプレB細胞は、形態学的にiPS細胞コロニーに似たコロニーへと発生していた(図8E)。これらのコロニーは、培養下で持続的に保持することが、より困難であった。これらのコロニーは、その自己複製能を助長するために、まだ同定されていない追加の増殖因子および/または他の因子を必要とし得る。iPS作製のための標準的方法を使ってB系譜細胞を再プログラムするには、追加の因子が極めて重要であることがわかった(Hanna et al., 2008)。それでもなお、これらのデータは、B系譜細胞におけるBrightの選択的阻害も、これらの細胞を再プログラムし、iPS様細胞に転換させることを示唆している。
【0217】
ノックアウトおよび遺伝子導入の結果から、Brightの外因的な低下はiPS様状態への体細胞の再プログラミングを可能にすることが予測される。本発明者らが一群のshRNAを作製し、発現させ、試験したところ(表7および図12)、マウス型およびヒト型(以下、ARID3aと呼ぶ)のBrightを、どちらも効果的に阻害することができた。ARID3aは、そのショウジョウバエおよびゼノパス・オルソログのように、胚組織では広く発現されるが、成体の体組織では、より選択的に発現される(Webb et al., 1998;Nixon et al., 2004)。さらにまた、ヒト細胞の再プログラミングは、いくつかの実験では、SV40ラージT抗原の存在によって助長された(Yu et al., 2009)。ヒト胚性上皮細胞株293Tは、これらの基準をどちらも満たした。より一般的にiPS作製に使用されるヒト線維芽細胞株と比較して、293T上皮は、比較的高レベルのARID3aを構成的に発現させ(図9A)、ラージT抗原も同様である。本発明者らは、shRNAノックダウンがこれらの細胞におけるARID3a発現を効率よくサイレンシングすることを見いだした(図9B)。感染のわずか6日後に、細胞は形態学的変化を起こし、複数回の継代後には、典型的な293T付着単層ではなく、タイトなiPS様コロニーに似ていた(図9C)。それでもARID3a阻害クローンは元の293T形質転換核型を保っていた(データ未掲載)。スクランブル対照shRNA感染細胞は、形態的にもその他の点でもiPS様の特徴を示さなかった。qRT-PCR実験により、ARID3a阻害コロニーは親細胞株よりも有意に高いレベルのOct4、Sox2、c-mycおよびKlf4を発現することが確認された(図9D)。免疫蛍光染色も、shRNA阻害細胞ではOct4タンパク質が発現されるが、親細胞株ではバックグラウンド染色を上回るレベルでは検出されないことを示した(図9E)。これらの結果は、ヒト細胞におけるARID3aの異所的ノックダウンが、iPS様細胞への再プログラミングに必要なキー転写因子を誘導することを示している。
【0218】
ARID3a欠損性iPS様細胞が多能性であるかどうかを決定するために、継代第8代から得た細胞を懸滴培養して胚様体を誘導した。LIFなしで5日後に、本発明者らは、標準的マウスES培養物に観察されるものに匹敵する、中胚葉(平滑筋アクチン)、内胚葉(α-フェトプロテイン)および外胚葉(β-IIIチューブリン)を示すマーカーの自発的発現を観察した(図10)。親293T細胞株(図10)も、未分化BriPSクローン(図13)も、これらの分化マーカーは発現させなかった。これらのデータは、ヒト細胞を再プログラムしてそれらが複数の系譜の初期マーカーを発現する能力を持つようにするには、ARID3aの阻害で十分であることを示唆している。
【0219】
ヒトARID3a欠損性iPS様細胞をNod/Scidマウスに筋肉内注射することによって、多能性に関するさらなる試験を行った。腫瘍形成は、4〜6週間を要した親293T細胞と比較して、わずか17〜21日後に明白になった。しかし、対照マウスES細胞を注射されたマウスは奇形腫を発生させることを病理検査結果報告書が示したのに対して、ARID3a欠損性ヒト細胞腫瘍は未分化状態を維持し、転移性ではないようだった(図14)。この例において奇形腫を形成できなかったことは、ARID3a欠損性iPS様ヒト細胞が真に多能性ではないことを示すのかもしれないが、複能性であることは間違いない。さらにもう一つの可能性は、他のヒトiPS様細胞株で観察されているように(Shih et al., 2007)、ARID3a阻害がインビボでの奇形腫生成を伴わない細胞の再プログラミングをもたらすのかもしれないというものである。これらのデータは、ARID3a欠損細胞が、中胚葉、内胚葉、および外胚葉の初期マーカーを発現するその能力においてはiPS細胞に似ているが、複数タイプの最終分化組織に由来する奇形腫を形成しない点で真のiPS細胞とは異なることを示唆している。
【0220】
(表6)自己複製性Bright欠損細胞株
Bright欠損組織から生成させた細胞株を、DNマウスまたはノックアウト(K)マウスに由来するその起源に従い、固有の番号を付けて命名した。アスタリスク(*)は、そのマウスが導入遺伝子に関してホモ接合であったことを示す。2つのDNトランスジェニック株を作製した(BおよびD)。c57Bl/6バックグラウンドを持つトランスジェニックマウスには小文字のcを前に付けた。
【0221】
(表7)shRNAプライマー
Bright用のshRNAプライマー配列を列挙し、コード配列内でのそれらの開始点を示す。マウスBrightおよびヒトARID3aのDNA結合ドメインは、十分に相同であるので、これらのshRNAはARID3aを効果的に阻害した。
【0222】
実施例4:考察
本発明者らは、単一の転写因子Bright/ARID3aの阻害が体細胞のiPS様状態への再プログラミングを促進することを示す独立した3系列の証拠を与えた。第1に、複数の組織から得たBright-/-細胞が、自己複製的成長特性を示し、エンブリオイド様ボディを形成し、幹細胞マーカーを発現させ、複数の系譜の細胞に分化する潜在能力を示す。第2に、DN Brightトランスジェニックマウス由来の骨髄および脾臓細胞が類似する性質を示す。これらのiPS様細胞はIg組換えの証拠を持ち、それらが、DN Brightトランスジェニックタンパク質を特異的に発現するBリンパ球系譜細胞から派生したことを示す。第3に、ひと上皮細胞株におけるARID3aの直接ノックダウンは、再プログラミング因子のアップレギュレーション、iPS様の形態、およびインビトロで多能性マーカーを発現する能力をもたらした。これらのデータは、Bright/ARID3a阻害がマウスでもヒトでもiPS様細胞の生成に重要であることを示唆し、Bright/ARID3aが多能性の抑制因子として作用するというモデルの強い裏付けになる。
【0223】
Bright阻害によって作製されたiPS様細胞は、以前に報告されたものとはいくつかの点で異なる。他の研究では、Oct4がNanogおよびSox2を調節すること、そしてマウスにおけるiPSの作製にはOct4が決定的に必要であることが示されている(Takahashi and Yamanaka, 2006;Feng et ah, 2009)。本発明者らは、本発明者らのBright欠損マウス系のどちらにおいても、Oct4誘導をまれにしか観察しなかった。このことは、これらのiPS様細胞が従来のLIF要求性ES細胞よりもわずかに分化していて、Oct4発現を失っているのかもしれないことを示唆している。いくつかの例では幹細胞形成がOct4に依存するが、維持はそうではない(Pereira et al., 2008)。Oct4レベルは緻密に調節され、分化と共に迅速に変化する(Feng et al., 2009)。マウス細胞での状況とは異なり、本発明者らは、ヒトARID3a欠損クローンでは、タンパク質レベルとmRNAレベルの両方で、Oct4の著しい誘導を観察した。
【0224】
Brightの転写能に関してわずかながらもわかっていることは、IgH遺伝子調節の研究から得られた知見である(Webb et al., 1999に総説がある)。ヌクレオソーム集合に先だって起こるIgH座位にある核マトリックス関連領域(MAR)内のA+Tリッチ配列へのBrightの結合は、増強された転写を可能にし、BrightがIgHエンハンサーのアクセシビリティの一因であることを示唆した(Webb et al., 1991;Lin et al., 2007)。A+Tリッチ配列は、複数のキー多能性調節因子の動員にとって重要な部位であることが示されている(Kim et al., 2008)。興味深いことに、Sox2は、Brightと同様に、MAR結合タンパク質である(Iarovaia et al., 2005)。以前に提案された多能性ネットワークモデルでは、発現プロファイリング(Kim et al., 2008)またはタンパク質複合体分析(Wang et al., 2006)によって、Bright/ARID3aが、Klf4およびNanogに関連づけられている。しかし、どちらの研究も、その経路におけるBright/ARID3aの機能は、同定も、示唆もしていない。本発明者らは、現在の再プログラミング系において他の研究者が観察した多能性細胞の生成に要求される遅延時間が、ARID3a/Bright機能を消滅させるのに必要であるという仮説を立てている。これらのデータは、Klf4および他のキー調節因子を直接的または間接的にアップレギュレートするには、ARID3aの阻害で十分であることを示している。したがって現在のモデルは、Bright/ARID3aを自己複製/多能性の中心的上流抑制因子であるとみなすように、修正されなければならない。
【0225】
本明細書において開示され特許請求される組成物および方法はいずれも、本発明の開示に照らして、甚だしい実験を行わずに、製造し、実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明したが、それらの組成物および方法、ならびに本明細書において記載する方法の工程または工程の順番には、本発明の概念、要旨および範囲から逸脱することなく、変更を加え得ることは、当業者には明白であるだろう。より具体的に述べると、化学的にも生理学的にも関連する一定の薬剤を、本明細書において記載する薬剤の代わりに使用しても、同じまたは類似する結果が達成されるであろうことは、明白であるだろう。当業者にとって明白な、そのような類似する置換および変更は全て、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の要旨、範囲および概念に含まれるとみなされる。
【0226】
X.参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載したものを補う例示的手法または他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に特に組み入れられる。
【技術分野】
【0001】
優先権情報
本願は米国仮出願第61/080,451号(2008年7月14日出願)の優先権の恩典を主張し、その内容は全て参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
政府支援約款
本発明は、米国国立衛生研究所によって付与された助成金番号AI-44215およびAI-64886の下に、政府の支援を受けてなされた。政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
1.発明の分野
本発明は概して発生生物学および分子生物学の分野に関する。特に本発明は、細胞の多能性に関連するBright/ARID3a機能に関する。具体的には、本発明は、例えば細胞の脱分化および再分化との関連で、多能性を調節するためにBrightの阻害剤を使用することに関する。
【0004】
2.関連技術の説明
胚性幹細胞(ESC)は多能性であり、最終的にはあらゆる組織タイプの生成をもたらすことができる。したがってこれらの細胞は、変性疾患における組織置換療法に、大きな潜在的可能性を持っている。しかし克服すべき大きな障害がいくつかある。第1に、ESCの入手可能性は限られており、倫理的に議論の余地がある。第2に、ESCの成長は技術的に難易度が高く、他の細胞からなるフィーダー層を必要とする。第3に、特異的な細胞タイプについての分化制御に関する分子機序は明確には叙述されていないので、多能性細胞の成長を制御できない場合には、多能性細胞が最終的に不要な細胞タイプの生成および/または腫瘍形成をもたらす危険がある。最後に、組織の移植は主要組織適合抗原が同一である場合に最もうまくいくが、現在利用されているモデルでは厳密な組織マッチングが可能になっていない。
【0005】
多能性細胞を最終分化細胞から生成させることができるという報告が最近いくつかなされたことから、これがESCのもう一つの供給源になる可能性が切り開かれた。体細胞融合技術や、体細胞を多能性細胞から得られる抽出物と共にインキュベートすることも、ある程度の成功を収めているが、4つの調節因子、すなわちOct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4に焦点を合わせることにより、さらに有望な結果が得られている。Yu et al.(2007)は、これら4つの遺伝子を使って、ヒト胎児線維芽細胞を再プログラムすることに成功した。Takahashi et al.(2007)は、ヒト成人皮膚線維芽細胞を使って同様の結果を達成した。Nakagawa et al.(2008)は、Oct3/4、Sox2、およびKlf4だけでマウス線維芽細胞を再プログラムすることができたので、c-Mycがん遺伝子の使用に関する懸念が払拭された。ごく最近になって、Hanna et al.(2008)は、Oct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4を使って非最終分化マウスBリンパ球を再プログラムしたが、成熟リンパ球を再プログラムするには追加因子が必要だった。
【0006】
これらの成功にもかかわらず、4つの異なる導入遺伝子を使った再プログラミングの達成には、重大な制約がある。第1に、これらの方法は冗長で時間がかかり、宿主細胞中に留まるウイルスベクターによる導入を必要とする。効率は低く(<1%)、それはおそらく、多能性に要求される内在性遺伝子を再プログラムするのに必要な遺伝子量が明確でないからだろう。第2に、がん遺伝子の使用に関する上記の懸念は、ヒトにおけるいかなるインビボ応用にとっても、大きな障害になる可能性が高い。免疫不全マウスモデルへの多能性細胞の導入は、通例、奇形腫の形成につながる。そして第3に、ひとたび脱分化すると、Oct3/4、Sox2、c-MycおよびKlf4による形質転換が安定であるなら、すなわち一過性または可逆性でないなら、細胞を再分化させることは困難であるだろう。したがって、最終分化ヒト細胞において多能性を回復させる改良された方法が、今も必要とされている。
【発明の概要】
【0007】
そこで、本発明によれば、(a)分化細胞を用意する工程;および(b)その細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、その細胞において脱分化を誘導する工程を含む、分化細胞を多能性にする方法であって、脱分化により細胞が多能性になる方法が、提供される。工程(a)の細胞は骨髄細胞、線維芽細胞または脾臓細胞、または末梢血細胞であってもよい。Bright/ARID3a機能の阻害剤は、Bright/ARID3aの発現の阻害剤、例えば干渉RNAなどであってもよい。あるいは、Bright/ARID3aの阻害剤はドミナントネガティブBright/ARID3a分子であってもよい。ドミナントネガティブBright/ARID3a分子は、ウイルス発現ベクターなどの発現ベクターによってコードされ得る。Bright/ARID3a阻害剤はBright/ARID3aペプチドであってもよい。
【0008】
Bright/ARID3a機能の阻害は可逆的であってもよい。一旦多能性になったら、再分化を誘導するシグナル、例えばケモカインまたは増殖因子などを用いて、その細胞をさらに処理してもよい。一旦処理されると、細胞は、外胚葉組織、内胚葉組織または中胚葉組織のマーカーを1つまたは複数発現し得る。再分化は脂肪細胞、神経細胞、筋細胞または内皮細胞の特徴を1つまたは複数発生させることを含むことができ、一旦再分化すれば、細胞中のBright/ARID3a機能は回復され得る。本方法は、その細胞を対象中に移植する工程をさらに含んでもよく、かつ/またはその対象は工程(a)における細胞の供給源であってもよい。
【0009】
もう一つの態様では、分化細胞を再プログラムする方法であって、(a)分化細胞を用意する工程;(b)その細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、その細胞において脱分化を誘導する工程;(c)脱分化後に、細胞を、再分化細胞の表現型が生じるように選択されたシグナルと接触させる工程;(d)該細胞を、そのシグナルと共に、再分化細胞の表現型が生じるのに十分な期間、培養する工程;および(e)該細胞における再分化細胞の表現型の1つまたは複数の面を同定する工程を含む方法が提供される。工程(a)の細胞は骨髄細胞、脾臓細胞、または末梢血細胞であってもよい。本方法は、工程(d)後にBright/ARID3a機能を回復させる工程をさらに含み得る。シグナルはケモカインであってもよい。再分化細胞の表現型は、脂肪細胞の表現型、神経細胞の表現型、筋細胞の表現型、膵臓細胞の表現型、造血細胞の表現型または内皮細胞の表現型であってもよい。
【0010】
さらにもう一つの態様では、幹細胞の成長を増強する方法であって、(a)幹細胞を用意する工程;(b)培養下の幹細胞をBright/ARID3a欠損細胞で馴化した培地と培養下で接触させる工程;および(c)その幹細胞を培養する工程を含む方法が提供される。幹細胞は胚性幹細胞または臍帯血幹細胞(chord blood stem cell)であってもよい。馴化培地は、Bright/ARID3a欠損細胞の培養によって前もって馴化されてもよい。馴化培地は、幹細胞およびBright/ARID3a欠損細胞の共培養によって馴化されてもよい。Bright/ARID3a欠損細胞は、ドミナントネガティブBright/ARID3aを発現させる発現コンストラクトを含有するか、Bright/ARID3a発現を妨げる干渉RNAを含有してもよい。本方法は、工程(c)後に、幹細胞を、分化を誘導するシグナルと接触させる工程をさらに含んでもよい。シグナルはケモカインであってもよい。Bright/ARID3a欠損細胞におけるBright/ARID3a機能は回復され得る。
【0011】
本発明には、適切な容器に入ったBright/ARID3aの阻害剤を含むキットも包含される。容器はバイアル、シリンジまたはチューブであってもよい。本キットは、薬学的に許容される緩衝剤、希釈剤または賦形剤、成長培地、サイトカインおよび/または増殖因子をさらに含んでもよく、かつ/または対象への投与に適した形態をしたBright/ARID3a阻害剤の調製に関する説明書をさらに含んでもよい。Bright/ARID3a阻害剤は、干渉RNA、ドミナントネガティブBright/ARID3a分子、Bright/ARID3aペプチド、またはそれらをコードする発現ベクターからなる群より選択することができる。
【0012】
本明細書において、「ある」(aまたはan)は、1つまたは複数を意味し得る。特許請求の範囲において、単語「ある」(aまたはan)が、単語「を含む」(comprising)と一緒に使用される場合、それは、1つまたは複数を意味し得る。本明細書において、「もう一つの」(another)は、少なくとも2つ目またはそれ以上を意味し得る。本発明の他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明白になるだろう。ただし、その詳細な説明および具体的実施例は、本発明の好ましい態様を示すものではあるが、単なる例示に過ぎない。なぜなら、この詳細な説明から、本発明の要旨および範囲に包含されるさまざまな改変および変更が、当業者には明白になるだろうからである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
添付の図面は本明細書の一部を形成し、本発明の一定の局面をさらに実証するために含めるものである。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示する具体的実施形態の詳細な説明と合わせて参照することによって、より良く理解されるだろう。
【0014】
【図1】ARID3a欠損マウス脾臓からの胚様体の形成。
【図2】ARID3a欠損細胞は複数の細胞タイプ(神経細胞(nerve cell)、内皮細胞、脂肪細胞)に分化する。(図2A)DN ARID3a脾臓培養物由来の内皮様細胞の管形成。(図2B)図2Aに示すDN ARID3a培養物由来の付着細胞。(図2Cおよび2D)マトリゲルで成長させた骨髄細胞に由来する神経系譜細胞を低倍率(図2C)および高倍率(図2D)で示す図。
【図3】RT-PCRによって示されるとおり、ARID3a欠損細胞培養物では、初期幹細胞遺伝子マーカーが発現される。(図3A)BCL2トランスジェニック(陰性対照)および脾臓ARID3a欠損培養物(BrSES)由来のLPS刺激脾臓細胞から得たcDNAを、Sox2発現に関して増幅した。(図3B)標準ES細胞株(+対照)、2つのドミナントネガティブARID3a脾臓細胞培養物(SCDND*36および50)ならびに非トランスジェニック対照脾臓に由来する培養物から得たmRNAにおいて、NanogおよびC-myc発現を測定した。(図3Cおよび3D)(図3B)で得た試料をLin28活性およびKLF-4活性について評価した。
【図4】ARID3a欠損脾臓細胞培養物から得られる馴化培地は標準ES細胞の成長と分化を増強する。標準ES細胞を懸滴培養物として開始(initiate)し、標準培地またはES細胞分化培地で成長させた(上側の2つのパネル)。並行培養物を、内皮細胞成長が増強されたARID3a欠損細胞から得た馴化培地(ENDO、左下)またはARID3a欠損脾臓細胞培養物から得た馴化標準RPMIで成長させた。
【図5】B細胞からの多能性幹細胞の作製。ドミナントネガティブBrightトランスジェニックマウスの骨髄プロB細胞を、フローサイトメトリーにより、CD43- IgM- B220+細胞(図5A)として、選別後解析(post sort in)(図5B)によって示されるように、>95%の純度で単離した。LIFを添加して照射マウス胚性線維芽細胞上で4週間成長させた後、対照C57Bl/6バックグラウンドプレB細胞は、図5Cに示すように、依然としてプレB細胞に似ていた。多細胞幹細胞様コロニーは、LIFの非存在下でも、ドミナントネガティブ培養物中に観察された(図5Dおよび5E)。
【図6】Bright欠損細胞は自発的に複能性(multipotent)である。(図6A)Bright-/-脾臓細胞エンブリオイド様ボディ(embryoid-like body)(スケールバー=50μm)。(図6B)Bright-/-脾臓細胞を10%FCSおよび内皮細胞増殖因子を含むDMEM中で成長させた(倍率は4倍である)。(図6C)フローサイトメトリーは、マウス血管腫細胞株(本研究機関のC.Esmonから分譲されたもの)ならびにBright-/-細胞における、マーカー、内皮プロテインC受容体(EPCR)、マウストロンボモジュリン(MTM)、およびCD31の、変動し得る発現レベルを示す。(図6D)5%FCSを含むRPMIで培養したBright-/-骨髄細胞をマトリゲルに播種し、3週間成長させた。クラスターを形成して成長する細胞から、分枝ニューロン様突起が発達した(左側のパネル、倍率10倍、右側のパネル、20倍)。(図6E)マトリゲルから単離されたニューロン様細胞をDAPI、抗ネスチンまたはアイソタイプ対照で染色した。
【図7】Bright欠損細胞はiPS様コロニーを形成し、キー幹細胞マーカーを発現する。(図7A)従来のES細胞、6週齢正常脾臓(WT1)および6ヶ月齢を超える2つのBright-/-脾臓培養物(BrSPS1およびBrSPS2)で、RT-PCRアッセイを行った。(図7B)Bright-/-腎臓細胞は、ES細胞と同様に、MEF上で、iPSC様コロニーを形成し、小さな核(DAPI染色、左側のパネル)と初期幹細胞マーカーSSEA-1の発現(右側のパネル)を伴った。同じ区画のMEF単層はSSEA-1で染色されなかった(スケールバー=50μm)。
【図8】DN Bright細胞株は再プログラミングの徴候を示し、Bリンパ球由来であると思われる。(図8A)DN Bright脾臓培養物は自発的にエンブリオイド様ボディを生成した(上側のパネル、明視野、下側のパネル、三次元多細胞構造を強調するためにアクチン反応性ファロイジンで染色)(倍率20倍)。(図8B)DN Bright脾臓培養物(DN1およびDN2)、対照脾臓培養物(WT1)およびES細胞を、RT-PCRにより、遺伝子発現について評価した。(図8C)新鮮脾臓細胞(脾臓)、培養下で8ヶ月後の代表的DN Bright細胞株(DN1)および陰性対照ESおよびMEF細胞(Con1およびCon2)のゲノムDNAを、生殖系列Ig重鎖座位のプライマー(GL)およびD-JHプライマー(D-JH4)を使って増幅した。矢印は予想される産物を示す。(図8D)Jκ再構成を検出するために、対照脾臓、脳およびDN1細胞株ゲノムDNAを複数のプライマーで増幅した(Ramsden et al., 1994)。DN1aは、DN1株のDN1b試料の50日前に調製された。矢印は予想される産物を示す。(図8E)DN-Brightマウスから得た、選別されたプレB細胞は、3週間後にIPS様コロニーを形成し(左側の2つのパネル)、対照プレB細胞は元の形態を維持した(右側のパネル)。(スケールバー=50μm)。
【図9】ARID3aノックダウンはヒト内皮細胞株におけるiPS様細胞の生成をもたらす。(図9A)ウェスタンブロッティングは、ARID3aが、ヒト線維芽細胞株(WL-38、BJ-h、BJおよびIM-R90)と比較して293T細胞において、より豊富に発現されることを示している。相対負荷量を示すために試料を抗アクチンで発色させた。レーン2は空である。(図9B)ARID3a RNAレベルのRT-PCRは、対照293T細胞と比較して、2つのBright阻害クローンにおける効率のよいノックダウンを示している。GAPDHを負荷量対照(loading control)とした。(図9C)Bright阻害293T細胞(BriPS)は、対照293T培養物と比較して、さらなる継代(p7対p10)で、iPS様コロニー形態の増加を示した。(スケールバー=100μm)。(図9D)2つのクローン(BriPS)と293T親細胞のqRT-PCRにより、GAPDHと比較したKLf4、Oct4、Sox2およびc-myc転写産物の誘導倍率レベルが示される。(図9E)核(DAPI)およびOct4に関するOct-4染色をBriPSおよび親293T細胞で行った。スケールバー=50μm。
【図10】ARID3aノックダウンiPS様クローンは、3つ全ての生殖細胞系譜のマーカーを発現している細胞へと分化する。従来のマウスES細胞(上段のパネル)、BriPS(クローンA2-P4、中段のパネル)および親293T細胞(下段のパネル)をα-フェトプロテイン(AFP)、平滑筋アクチン(SMA)、β-3-チューブリン(BIIIT)またはアイソタイプ対照(ISO)について染色した。倍率は20倍である。
【図11】DN Brightトランスジェニックマウスの骨髄からのプレB細胞の単離。CD43-IgM-B220lo DN Bright(左側のパネル)および正常対照プレB細胞(未掲載)をフローサイトメトリーで選別し、LIFの存在下でMEF上に蒔いた。DNプレB細胞の選別後解析を示す(右側のパネル)。
【図12】高発現マウスB細胞株におけるBright発現のshRNAノックダウンの最適化。(図12A)RT-PCRは、shRNAのうち3つ(表S2、shRNA1〜3)の発現が、影響を持たないスクランブル対照shRNA(Con)と比較して、形質導入の2日後および4日後に、Bright mRNA生産を阻害したことを示した。形質導入効率は>90%だった。アクチンレベルにより、試料負荷量は同等であることが示された。(図12B)(図12A)におけるBright mRNAのレベルをアクチンレベルに対して補正し、グラフ表示のために定量化したところ、>80%の阻害を示した。対照を任意に1に設定した。(図12C)(図12A)における細胞から得られるタンパク質を、ウイルス感染の2日後および4日後に、Brightとアクチンに関して、ウェスタンブロットした。
【図13】ARID3a欠損ヒトiPS細胞は、胚様体形成前に分化マーカーを発現させることができない。図10で使用したクローン(BriPS A2-P4)を核(DAPI、左側のパネル)、平滑筋アクチン(SMA)およびβ-III-チューブリン(βIII-T)染色に供した。スケールバーは50μmを示す。
【図14】ARID3a欠損細胞はNod/Scidマウスにおいて奇形腫を形成することができない。BriPS細胞から形成される初期新生物細胞(左側)および従来のES細胞から起こる奇形腫形成(右側)の代表的パネルを示す。倍率は40倍である。
【図15】成体Bright-/-生存個体(survivor)はBrightを発現させない。BrightおよびそのARID3bパラログBdpの転写産物発現を、RT-PCRにより、野生型(+/+)、ヘテロ接合型(+/-)およびホモ接合型ヌル(-/-)脾臓B細胞(成体マウスにおいてBright発現量が最も高い供給源)で評価した。390bpの産物をもたらすエキソン3および4をまたぐプライマー(フォワード5'-GCGGACCCCAAGAGGAAAGAGTT(SEQ ID NO:3))および(リバース5'-CTGGGTGAGTAGGCAAAGAGTGAGC(SEQ ID NO:4))を使って、Bright mRNAを30サイクル増幅した。RT-対照およびGAPDH負荷量対照を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
例示的態様の説明
いくつかの研究室による洗練された研究により、複数の系譜の成熟細胞を多能性状態へと再プログラムすることの実行可能性が実証されている(Meissner et al., 2007;Yu et al., 2007;Takahashi and Yamanaka, 2006)。ほんのここ3年間のこの分野における数多くの進歩がこれらの研究の重要性を際立たせているが、同時に、それらを十分に議論することを不可能にしている(Gurdon and Melton, 2008;Pei, 2009;Feng et al., 2009に概説されている)。Oct4、Sox2、Klf4、c-myc、Lin28およびNanogの組合せを成熟ヒトおよびマウス細胞に導入すると、胚性幹細胞(ES)に似た人工多能性幹(iPS)細胞への、それらの細胞の再プログラミングが起こる(Meissner et al., 2007;Yu et al., 2007;Takahashi and Yamanaka, 2006)。これらの因子のいくつかは、一部は、クロマチンに対するエピジェネティック効果を引き起こす化学的阻害剤の添加、または成長培地への追加タンパク質産物の添加によって置き換えることができる(Feng et al., 2009;Marson et al., 2008)。iPS細胞作製に使用されるプロトコール、細胞タイプおよび種の数が増加するにつれて、iPS細胞の厳密な定義および表現型の特徴を巡る議論が生じた(Maherali and Hochedlinger, 2008)。例えば、ヒトとマウスのiPS細胞は、増殖因子要求性、奇形腫形成を促進する効率、およびコロニーの形態が異なる(Pei et al., 2009;Feng et al., 2009)。同じ方法を使って異なる遺伝的背景から誘導されたマウスiPS細胞は表現型が異なることを、最近のデータは示唆している(Hanna et al., 2009)。これらの研究は全体として、iPS細胞作製に関与する重要な調節因子および機序的プロセスをより良く理解することの必要性を強調している。
【0016】
ここに、本発明者らは、ARID3aとも呼ばれる転写因子Bright(B cell regulator of immunoglobulin (Ig) heavy chain transcription(免疫グロブリン(Ig)重鎖転写のB細胞調節因子)(Webb et al., 1989;Webb et al., 1991;Herrscher et al., 1995))の阻害が、多能性をもたらす細胞の再プログラミングを開始することを、初めて示す。Bright/ARID3aは、15のメンバーからなるタンパク質のARID(A+T rich interaction domain(A+Tリッチ相互作用ドメイン))ファミリーの最初のメンバーである(Wilsker et al., 2002;Wilsker et al., 2005に概説されている)。大半のARIDファミリーメンバーの機能は解明が始まったばかりであり、これには、細胞周期制御(Flowers et al., 2009;Ho et al., 2009a;Ho et al., 2009b)、ARIDドメイン依存的デメチラーゼ活性(Tu et al., 2008)、ヒストンデアセチラーゼ活性(Wilsker et al., 2005;Gray et al., 2005)、およびクロマチンリモデリング(Wilsker et al., 2005)における役割が含まれる。これらの結果は、胚以外の容易に入手できる供給源から再生多能性細胞を誘導できることを裏付けている。そのうえ、これらのデータは、ESCがそのような組織を必要とする個体から直接誘導され得る可能性を示唆している。さらにまた、予備的データは、Bright欠損幹細胞から得られる上清が現在利用できるESC株の成長を増強することを示している。最後に、Bright機能の可逆的阻害は、幹細胞の作製、特異的組織経路への分化、および阻害的薬剤の除去後のBrightの再発現を可能にする。そのような細胞は、それらの多能性と、おそらくはあらゆる腫瘍原性特徴を失うはずである。本発明のこれらの局面および他の局面を以下に説明する。
【0017】
I.Bright/ARID3a
転写因子Bright(B cell regulator of IgH transcription(IgH転写のB細胞調節因子))は、高度に保存されたA+Tリッチ相互作用ドメイン、すなわちARIDを介してDNAと相互作用するタンパク質の増加しつつあるファミリーのメンバーである(Herrscher et al., 1995)。現在、Brightは、そのターゲット配列が同定されていて、配列特異的な様式でDNAに結合する、このファミリーの中の唯一のメンバーである。ARIDファミリータンパク質には、ミバエの消化管および眼瞼における系譜決定に重要な役割を果たし、胚分節化に要求される、ショウジョウバエ(Drosophila)タンパク質Dead ringerおよびeyelid(Gregory et al., 1996;Treisman et al., 1997);細胞周期特異的な様式で網膜芽細胞腫タンパク質と相互作用する網膜芽細胞腫結合タンパク質(Rbp1)(Fattaey et al., 1993);およびツーハイブリッドスクリーニングで、やはり網膜芽細胞腫タンパク質(Rb)と相互作用する新規タンパク質として同定された遍在的に発現されるヒトタンパク質BDP(Numata et al., 1999)が含まれる。酵母タンパク質SWI/1はBrightに対するホモロジーを持ち、この生物におけるクロマチンの構成を調整する役割を果たす、より大きなタンパク質複合体の構成要素である(Peterson and Herskowitz, 1992;Burns and Peterson, 1997)。また、ヒトSWI-SNF複合体は、やはりARIDファミリーのメンバーである非配列特異的DNA結合活性を持つ270kDaタンパク質を含有する(Dallas et al., 2000)。このように、このファミリーのメンバーは、系譜決定、細胞周期制御、腫瘍抑制およびクロマチンの調整に参加し得る。これらの機能は相互に排他的ではなく、部分的に重なった機序に起因し得る。
【0018】
ヒトゲノムの配列決定により、ARID3aとも呼ばれるヒトBrightオルソログを含めて、このファミリーのメンバーが15個、同定された(Wilsker et al., 2005)。ARIDファミリータンパク質は、クロマチンリモデリング、網膜芽細胞腫タンパク質への結合、X-Y染色体機能の調節、および胚発生への参加を含む多様な機能を持つ(Wilsker et al., 2005)。一般に、これらのタンパク質は、大きなタンパク質複合体の構成要素であり、発生の間中、緻密に調節される。ヒトARID3aは、胚由来の細胞株においてE2Fに結合することができ、それは腫瘍抑制因子機能とも発がん機能とも関連づけられているので、その過剰発現は議論の的になっている(Peeper et al., 2002;Suzuki et al., 1998;Ma et al., 2003;Fukuyo et al., 2004)。最近の研究は、Bright活性が細胞内分割(intracellular partitioning)によって緻密に調節されること、およびそれが重鎖エンハンサーのクロマチンアクセシビリティ(chromatin accesibility)の一因であることを示している(Kim and Tucker, 2006;Lin et al., 2007)。Bright/ARID3aは、転写因子として機能すると共に、クロマチンアクセシビリティを変化させる役割も持つので、胚組織でも成体組織でも広範囲にわたる多様な調節機能に参加できる可能性が高い。
【0019】
大半のARIDファミリータンパク質は遍在的に発現される。しかし、マウスBrightは胚発生中は広く発現されるが、成体における発生はほとんどBリンパ球系譜に限られ、そこではその発現が緻密に調節されて、mRNAレベルでプレB細胞集団および高ピーナッツアグルチニン胚中心細胞集団に限定される(Herrscher et al., 1995;Webb et al., 1991;Webb et al., 1998)。マウスにおける活性化脾臓B細胞は、抗原結合後にBrightを発現するように誘導され得るが、末梢IgM+ B細胞の大部分にはこのタンパク質は存在しない(Webb et al., 1991;Webb et al., 1998)。リポ多糖または抗原を使ったB細胞株または成熟活性化Bリンパ球におけるBright発現の誘導は、基礎レベルより約3〜6倍高いIgH転写のアップレギュレーションをもたらす(Herrscher et al., 1995;Webb et al., 1991;Webb et al., 1989)。転写活性化は、いくつかのVHプロモーターの5'側またはイントロンEμエンハンサー内にあるDNA結合部位と、強く会合する。
【0020】
イントロンEμエンハンサーと会合するBright結合部位は、クロマチンを転写的に活性なドメインに構築するとされているA+Tリッチ領域、マトリックス会合領域(matrix association region)、すなわちMARとしても機能する(Herrscherら1995;Webb et al., 1991)。NFμNR(核因子μネガティブ調節因子)は、Bright結合部位と部分的に重なるDNA配列を結合するもう一つのMAR結合タンパク質複合体である。NFμNRは、遍在的に発現されるCAAAT置換タンパク質(displacement protein)(CDP/Cut/Cux)を含有する(Wang et al., 1999)。マウスにおいて、非B細胞はNFμNRを発現するが、Bリンパ球は一般にそのようなタンパク質複合体を示さない。これらのデータは、BrightおよびNFμNRが免疫グロブリン座位の調節において反対の役割を果たすという仮説につながった(Webb et al., 1999)。BrightとCDPを共発現させるトランスフェクション研究は、Brightの抑制を示した(Wang et al., 1999)。したがってBrightは、クロマチンリモデリングによって、または追加のタンパク質との、より複雑な相互作用によって、転写を直接的または間接的に活性化し得る。NFμNRはその活性とは反対に作用し得る(Wang et al., 1999)。
【0021】
本発明者は、ブルトン型チロシンキナーゼ、すなわちBtkが、活性化マウスBリンパ球において、Brightと会合することを示した(Webb et al., 2000)。Btkは、ヒトでもマウスでもBリンパ球の適正な発生と維持に不可欠なチロシンキナーゼをコードするX連鎖遺伝子である(Conley et al., 1994;Satterthwaite and Witte, 1996に概説されている)。この酵素の欠損は男性における重症B細胞免疫不全症の90%を占め、発生のプロB細胞段階におけるブロックおよび著しく低下した血清抗体レベルを特徴とする免疫不全状態であるX連鎖無ガンマグロブリン血症(XLA)をもたらす(Conley et al., 1994)。ヒト疾患でもマウス疾患でもBtkが欠損遺伝子産物であることは明らかだが、Btk欠損がB細胞発生におけるブロックをもたらす分子機序は今のところわかっていない。興味深いことに、XLAのマウスモデルであるX連鎖性免疫不全(xid)マウスは、Brightとの安定な複合体を形成することができない突然変異型Btkタンパク質を産生する(Webb et al., 2000)。これらのデータは、Brightが、XLAにおいて重要な、同じシグナリング経路の構成要素として機能し得ることを示唆している。
【0022】
ヒトBrightタンパク質に関して利用できる情報はほとんどない。したがって本発明者らは、ヒトBrightホモログを特徴づけ、Bリンパ球亜集団におけるその発現を決定しようと試みた。BrightをヒトB細胞ライブラリーからクローニングし、その配列を決定したところ、以前にDril 1として公表されたものと同一であることがわかった(Kortschak et al., 1998)。これらの研究は、Dril 1、すなわちヒトBrightのmRNAが、複数の組織で発現されることを示唆したが(Kortschak et al., 1998)、タンパク質およびDNA結合活性は調べられなかった。本発明者のデータは、Bright/Dril 1 mRNAが以前考えられていた数より少ない成体組織で発現されるらしいことを示している。さらにまた、これらのデータは、このヒトタンパク質がBrightプロトタイプ配列モチーフを効果的に結合することを実証している。選別したB細胞亜集団を調べたところ、ヒトBright発現は多くの点でマウスホモログの発現に似ていること;ただしBright mRNAは、マウスより人の方が、正常なB細胞発生のわずかに早い段階で発現されることが明らかになった。これに対し、ヒト形質転換細胞株におけるBrightタンパク質の発現は、マウスで観察されたものとは劇的に異なった。最後に、ヒトBrightとBtkは会合して、さらにBtk基質TFII-Iが関与するDNA結合複合体を形成することが、明らかになった(Rajaiya et al., 2006)。
【0023】
II.ペプチドおよびポリペプチド
一定の態様において、本発明はBright/ARID3aタンパク質分子に関し得る。本明細書において「タンパク質」または「ポリペプチド」は、限定するわけではないが、一般的には約100アミノ酸以上のタンパク質、またはある遺伝子の完全長内在性配列翻訳型を指す。ペプチドは通常、約3〜約100アミノ酸である。上述した「タンパク質関連(proteinaceous)」用語は全て本明細書においては可換的に使用することができる。ヒトARID3aポリペプチド配列をSEQ ID NO:2に示す。
【0024】
タンパク質は、組換え生産するか、天然源から精製することができる。短いペプチド分子は、従来の技法に従って、溶液中でまたは固形支持体上で合成することができる。さまざまな自動合成装置が市販されており、それらを公知のプロトコールに従って使用することができる。例えば、Stewart and Young (1984);Tamら (1983);Merrifield (1986);ならびにBarany and Merrifield (1979)(これらはそれぞれ、参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0025】
一定の態様において、少なくとも一つのタンパク質性(proteinaceous)分子のサイズは、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99、約100、約110、約120、約130、約140、約150、約160、約170、約180、約190、約200、約210、約220、約230、約240、約250、約275、約300、約325、約350、約375、約400、約425、約450、約475、約500、約505、約525、約550、約575および593アミノ分子残基、およびそのなかで導き出すことができる任意の範囲を含み得るが、それらに限るわけではない。
【0026】
本明細書において「アミノ酸」とは、当業者には知られているであろう任意のアミノ酸、アミノ酸誘導体またはアミノ酸模倣物(mimic)を指す。一定の態様では、タンパク質性分子の残基は、アミノ分子残基の配列を中断する非アミノ分子を一切持つことなく、連続している。別の態様では、配列が1つまたは複数の非アミノ分子を含み得る。特定の態様では、タンパク質性分子の残基の配列が1つまたは複数の非アミノ分子部分で中断され得る。
【0027】
一定の態様では、タンパク質性組成物は、少なくとも1つのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含む。さらなる態様では、タンパク質性組成物が、生体適合性のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含む。本明細書において使用する用語「生体適合性」は、本明細書に記載する方法および量で所与の生物に適用または投与された場合に、著しい不都合な効果を生じない物質を指す。それらの不都合なまたは望ましくない効果は、例えば著しい毒性または有害な免疫反応などである。好ましい態様では、生体適合性のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドを含有する組成物が、一般には、哺乳動物タンパク質もしくはペプチドまたは合成タンパク質もしくはペプチド(それぞれ毒素、病原体および有害な免疫原を本質的に含まないもの)であるだろう。
【0028】
タンパク質性組成物は、標準的な分子生物学的技法によるタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの発現、天然源からのタンパク質性化合物の単離、またはタンパク質性物質の化学合成など、当業者に公知の任意の技法によって製造することができる。さまざまな遺伝子について、ヌクレオチド配列ならびにタンパク質、ポリペプチドおよびペプチド配列が、以前から開示されており、それらは、当業者に公知のコンピュータ化データベースに見いだすことができる。そのようなデータベースの一つが、国立バイオテクノロジー情報センターのGenbankおよびGenPeptデータベースである(ワールドワイドウェブのncbi.nlm.nih.gov)。これら公知遺伝子のコード領域は、本明細書において開示する技法を使って、または当業者に知られているであろう方法で、増幅しかつ/または発現させることができる。あるいは、タンパク質、ポリペプチドおよびペプチドのさまざまな市販の調製物が、当業者に知られている。
【0029】
ペプチドは他のタンパク質性組成物に融合することによって、それらの性質を改変しまたは補足することもできる。特定の態様では、Bright由来ペプチドまたはポリペプチドの細胞輸送を容易にするターゲティング部分が与えられる。特に、Tatなどの配列は、核局在化シグナルになって、ペプチドを核内に輸送することができる。
【0030】
一定の態様では、タンパク質性化合物を精製することができる。一般に「精製された」とは、他のさまざまなタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを除去するための分画に供された特異的なタンパク質、ポリペプチド、またはペプチド組成物であって、例えば、その特異的なまたは所望のタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドに関して当業者に知られているであろうタンパク質アッセイなどによって評価され得るその活性を、実質的に保持しているものを指す。
【0031】
III.核酸
本発明の一定の態様では、Brightに由来するまたはBrightをコードする核酸が提供される。一定の局面では、核酸が、これらの遺伝子の野生型または突然変異体型を含み得る。特定の局面では、核酸が、転写される核酸をコードするか、転写される核酸を含む。別の局面では、核酸が、SEQ ID NO:1の核酸セグメントまたはその生物学的機能等価物(biologically functional equivalent)を含む。特定の局面では、核酸がタンパク質、ポリペプチド、ペプチドをコードする。
【0032】
用語「核酸」は当技術分野において周知である。本明細書において「核酸」とは、一般に、核酸塩基を含むDNA、RNAまたはその類似体の分子(すなわち鎖)を指す。核酸塩基には、例えば、DNA中に見出される天然のプリンまたはピリミジン塩基(例えばアデニン「A」、グアニン「G」、チミン「T」またはシトシン「C」)またはRNA中に見出される天然のプリンまたはピリミジン塩基(例えば「A」、「G」、ウラシル「U」または「C」)が含まれる。用語「核酸」は、用語「オリゴヌクレオチド」および「ポリヌクレオチド」を、それぞれ用語「核酸」の下位概念(subgenus)として包含する。用語「オリゴヌクレオチド」は、長さが約3〜約100核酸塩基の分子を指す。用語「ポリヌクレオチド」は、長さが約100核酸塩基より大きい、少なくとも1つの分子を指す。
【0033】
これらの定義は一般に一本鎖分子を指すが、特別な態様では、一本鎖分子に部分的に、実質的に、または完全に相補的な追加の鎖も包含するだろう。したがって核酸は、ある分子を含む特定の配列の1つまたは複数の相補鎖または「相補体(complement)」を含む二本鎖分子または三本鎖分子を包含し得る。本明細書において一本鎖核酸は、接頭辞「ss」で表され、二本鎖核酸は接頭辞「ds」で表され、三本鎖核酸は接頭辞「ts」で表される場合がある。
【0034】
1.核酸の調製
核酸は、例えば化学合成、酵素的生産または生物学的生産など、当業者に公知の任意の技法によって作製することができる。合成核酸(例えば合成オリゴヌクレオチド)の限定でない例には、ホスホトリエステル、ホスファイトまたはホスホルアミダイトケミストリーと、参照により本明細書に組み入れられる欧州特許第266 032号に記載されているような固相技法とを用いるインビトロ化学合成によって作製された核酸、またはFroehler et al.(1986)および米国特許第5,705,629号(それぞれ参照により本明細書に組み入れられる)に記述されているようにデオキシヌクレオシドH-ホスホネート中間体を経由して作製された核酸が含まれる。本発明の方法では、1つまたは複数のオリゴヌクレオチドを使用することができる。オリゴヌクレオチド合成のさまざまな異なる機序が、例えば米国特許第4,659,774号、同第4,816,571号、同第5,141,813号、同第5,264,566号、同第4,959,463号、同第5,428,148号、同第5,554,744号、同第5,574,146号、同第5,602,244号に開示されており、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。
【0035】
酵素的に産生される核酸の限定でない例は、PCR(商標)などの増幅反応(例えばそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる米国特許第4,683,202号および米国特許第4,682,195号を参照されたい)において、または参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,645,897号に記載のオリゴヌクレオチドの合成において、酵素によって産生されるものが含まれる。微生物学的に生産される核酸の限定でない例には、生細胞内で生産される(すなわち複製される)組換え核酸、例えば細菌内で複製される組換えDNA導入ベクターが含まれる(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrookら2001を参照されたい)。
【0036】
2.核酸の精製
核酸は、ポリアクリルアミドゲルで精製するか、塩化セシウム遠心分離勾配で精製するか、または当業者に公知の他の任意の手段によって精製することができる(例えば、参照により本明細書に組み入れられるSambrook et al., 2001を参照されたい)。
【0037】
一定の局面において、本発明は、単離された核酸である核酸に関する。本明細書において使用する用語「単離された核酸」は、1つまたは複数の細胞の全ゲノム核酸および転写された核酸の大部分から単離された、またはそれらの大部分を他の何らかの形で含まない、核酸分子(例えばRNAまたはDNA分子)を指す。一定の態様において「単離された核酸」とは、細胞構成要素またはインビトロ反応構成要素、例えば脂質またはタンパク質などの高分子、小さな生体分子などの大部分から単離された、またはそれらの大部分を他の何らかの形で含まない、核酸を指す。
【0038】
3.核酸セグメント
一定の態様では、核酸が核酸セグメントである。本明細書において使用する用語「核酸セグメント」は、核酸の小さいフラグメントであり、例えば限定するわけではないが、Brightの一部しかコードしないものである。したがって「核酸セグメント」は、Brightの約2ヌクレオチドから全長まで、遺伝子配列の任意の部分を含み得る。一定の態様において、核酸セグメントはプローブまたはプライマーであることができる。本明細書において「プローブ」とは、一般に、検出方法または検出組成物に使用される核酸を指す。本明細書において「プライマー」とは、一般に、伸長もしくは増幅方法または伸長もしくは増幅組成物に使用される核酸を指す。
【0039】
4.核酸相補体
本発明は、Brightコード核酸に相補的な核酸も包含する。特定の態様において、本発明は、SEQ ID NO:1に示す配列に相補的な核酸または核酸セグメントを包含する。核酸は、それがもう一つの核酸と標準的なワトソン-クリック、フーグスティーンまたは逆フーグスティーン結合相補性規則に従って塩基対合できる場合に、当該もう一つの核酸に対して、「相補体」である、または「相補的」であるという。本明細書において「もう一つの核酸」とは、別個の分子を指すか、同じ分子の空間的に離れた配列を指し得る。
【0040】
本明細書において使用される用語「相補的な」または「相補体」は、たとえ核酸塩基の一部が対応する核酸塩基と塩基対合しないとしても、もう一つの核酸鎖または二重鎖にハイブリダイズする能力を持つ、連続的核酸塩基または半連続的核酸塩基(例えば1つまたは複数の核酸塩基部分が分子中に存在しない)の配列を含む核酸をも指す。一定の態様において、「相補的」核酸は、その核酸塩基配列の約70%、約71%、約72%、約73%、約74%、約75%、約76%、約77%、約77%、約78%、約79%、約80%、約81%、約82%、約83%、約84%、約85%、約86%、約87%、約88%、約89%、約90%、約91%、約92%、約93%、約94%、約95%、約96%、約97%、約98%、約99%〜約100%、およびそのなかで導き出すことができる任意の範囲が、ハイブリダイゼーション中に一本鎖または二本鎖核酸分子と塩基対合する能力を持つ配列を含む。一定の態様において、用語「相補的」は、当業者には理解されているであろうとおり、ストリンジェントな条件下でもう一つの核酸鎖または二重鎖にハイブリダイズし得る核酸を指す。
【0041】
一定の態様において、「部分的に相補的な」核酸は、一本鎖または二本鎖核酸に低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズし得る配列を含むか、その核酸塩基配列の約70%未満がハイブリダイゼーション中に一本鎖または二本鎖核酸分子と塩基対合する能力を持つ配列を含有する。
【0042】
5.ハイブリダイゼーション
本明細書において「ハイブリダイゼーション」「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイズする能力を持つ」とは、二本鎖もしくは三本鎖分子または部分的二本鎖性もしくは三本鎖性を持つ分子の形成を意味すると解釈される。本明細書において使用される用語「アニール」は「ハイブリダイズ」と同義である。用語「ハイブリダイゼーション」「ハイブリダイズする」または「ハイブリダイズする能力を持つ」は、用語「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」および用語「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」を包含する。
【0043】
本明細書において「ストリンジェントな条件」または「高ストリンジェンシー」とは、相補的配列を含有する1つまたは複数の核酸鎖間またはそのような核酸鎖内でのハイブリダイゼーションは許すが、ランダムな配列のハイブリダイゼーションは妨げるような条件である。ストリンジェントな条件は、核酸とターゲット鎖との間のミスマッチを、全くないわけではないとしても、ほとんど許容しない。そのような条件は当業者には周知であり、高い選択性を要求する応用例には好ましい。限定でない応用例には、遺伝子またはその核酸セグメントなどの単離、または少なくとも1つの特異的mRNA転写産物またはその核酸セグメントの検出などが含まれる。
【0044】
ストリンジェントな条件は、低塩および/または高温条件、例えば約0.02M〜約0.15M NaCl、約50℃〜約70℃の温度によって得られるものを含み得る。所望するストリンジェンシーの温度およびイオン強度が、一つには、その核酸の長さ、ターゲット配列の長さおよび核酸塩基含有量、核酸の電荷組成、およびハイブリダイゼーション混合物中のホルムアミド、塩化テトラメチルアンモニウムまたは他の溶媒の存在または濃度によって決まることは理解される。
【0045】
ハイブリダイゼーションに関するこれらの範囲、組成および条件が限定ではない単なる例として挙げられていること、そしてある特定のハイブリダイゼーション反応にとって望ましいストリンジェンシーが、多くの場合、1つまたは複数の陽性対照または陰性対照との比較によって実験的に決定されることも、理解される。想定される応用例に応じて、ターゲット配列に対する核酸のさまざまな選択度を達成するために、さまざまなハイブリダイゼーション条件を使用することが好ましい。限定でない一例では、ストリンジェントな条件下で核酸にハイブリダイズしない関連ターゲット核酸の同定または単離を、低温および/または高イオン強度でのハイブリダイゼーションによって達成することができる。そのような条件を「低ストリンジェンシー」または「低ストリンジェンシー条件」と呼び、低ストリンジェンシーの限定でない例には、約0.15M〜約0.9M NaCl、約20℃〜約50℃の温度範囲で行われるハイブリダイゼーションが含まれる。もちろん、ある特定の応用例に適するように低または高ストリンジェンシー条件をさらに変更することは、当業者の技術の範囲内にある。
【0046】
本明細書において「野生型」とは、ある生物のゲノム中の遺伝子座位におけるある核酸の天然の配列またはそのような核酸から転写もしくは翻訳された配列を指す。したがって用語「野生型」は核酸によってコードされるアミノ酸配列も指し得る。遺伝子座位は個体の集団内に2つ以上の配列または対立遺伝子を持ち得るので、用語「野生型」は、そのような天然の対立遺伝子の全てを包含する。本明細書において使用する用語「多型」は、ある集団中の個体において、ある遺伝子座位に変異が存在すること(すなわち2つまたはそれ以上の対立遺伝子が存在すること)を意味する。本明細書において「突然変異体」とは、核酸またはそれがコードするタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチドの配列の変化であって、人の手によるものを指す。
【0047】
本発明は、当業者に公知の組換え核酸技術または本明細書に記載の組換え核酸技術の応用による、組換えコンストラクトまたは組換え宿主細胞の単離または作出にも関する。組換えコンストラクトまたは宿主細胞はBrightコード核酸を含むことができ、Brightタンパク質、ペプチドもしくはペプチド、または少なくとも一つのその生物学的機能等価物を発現させることができる。
【0048】
本明細書の一定の態様において、「遺伝子」は転写される核酸を指す。一定の局面において、遺伝子は、転写、またはメッセージの生産もしくは組成に関与する調節配列を含む。特定の態様において、遺伝子は、タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードする転写配列を含む。当業者には理解されるであろうように、この機能的用語「遺伝子」には、遺伝子の非転写部分の核酸セグメント、例えば限定するわけではないが、遺伝子の非転写プロモーターまたはエンハンサー領域などを含む、ゲノム配列、RNAもしくはcDNA配列、またはそれより小さい工学的に操作された核酸セグメントが含まれる。小さい工学的に操作された遺伝子核酸セグメントは、核酸操作技術を使って、タンパク質、ポリペプチド、ドメイン、ペプチド、融合タンパク質、突然変異体および/または同様のものを発現するか、それらを発現するように適合させることができる。
【0049】
「他のコード配列から実質的に単離された」とは、関心対象の遺伝子がその核酸のコード領域のかなりの部分を形成すること、または核酸が、天然のコード核酸の大きな部分、例えば大きな染色体フラグメント、他の機能的遺伝子、RNAまたはcDNAコード領域を含有しないことを意味する。もちろんこれは、最初に単離されたその核酸を指すが、人の手によってその核酸に後から付加された遺伝子またはコード領域を排除するものではない。
【0050】
本発明の核酸を、その配列そのものの長さとはかかわりなく、他の核酸配列、例えば限定するわけではないが、プロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、制限酵素部位、マルチクローニングサイト、コードセグメントなどと組み合わせて、1つまたは複数の核酸コンストラクトを作出することができる。本明細書において「核酸コンストラクト」とは、人の手によって工学的に操作されたまたは改変された核酸であり、一般に、人の手によって構築された1つまたは複数の核酸配列を含む。
【0051】
限定でない一例として、SEQ ID NO:1と同一または相補的なヌクレオチドの連続したストレッチを含む1つまたは複数の核酸コンストラクトを作製することができる。核酸コンストラクトは、約3、約5、約8、約10〜約14、または約15、約20、約30、約40、約50、約100、約200、約500、約1,000、約2,000、約3,000、約5,000、または約10,000ヌクレオチド長であることができ、当業者に公知の酵母人工染色体などの核酸コンストラクトの出現を考慮すると、さらに大きいサイズのコンストラクト、すなわち染色体サイズを含めて最大で染色体サイズまでの(全ての中間的長さおよび中間的範囲を含む)コンストラクトであることもできる。本明細書にいう「中間的長さ」および「中間的範囲」が、言及した値を含むまたは言及した値の間にある任意の長さまたは範囲(すなわちそのような値を含むまたはそのような値の間にある全ての整数)を意味することは、容易に理解されるだろう。中間的長さの限定でない例には、約11、約12、約13、約16、約17、約18、約19など;約21、約22、約23など;約31、約32など;約51、約52、約53など;約101、約102、約103など;約151、約152、約153など;約1,001、約1002など;約10,001、約10,002などが含まれる。中間的範囲の限定でない例には、約3〜約32、約150〜約500、または約5,000〜約15,000などが含まれる。
【0052】
用語「生物学的機能等価物」は当技術分野においてよく理解されている。したがって、SEQ ID NO:2のアミノ酸と同一なまたは機能的に等価なアミノ酸を約70%〜約80%;またはより好ましくは約81%〜約90%;またはさらに好ましくは約91%〜約99%有する配列は、そのタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの生物学的活性が維持されている限りにおいて、「本質的にSEQ ID NO:2に示された」配列であるだろう。表1は好ましいヒトコドンのリストである。
【0053】
(表1)
【0054】
アミノ酸配列または核酸配列は、追加の残基、例えば追加のN-もしくはC-末端アミノ酸、または5'もしくは3'配列、またはそれらのさまざまな組合せを含むことができ、それでもなお、その配列が上記の基準(タンパク質性組成物の発現が関与する場合には、生体タンパク質、ポリペプチドまたはペプチド活性の維持を含む)に合致する限り、本質的に、本明細書において開示する配列の一つに記載されるとおりであることも理解されるだろう。末端配列の付加は、核酸配列(これは、例えば、コード領域の5'および/または3'部分のいずれかに隣接するさまざまな非コード配列を含んだり、遺伝子内に存在することが公知であるさまざまな内部配列、すなわちイントロンを含んだりし得る)には、特に当てはまる。
【0055】
イントロン領域および隣接領域を除外し、遺伝暗号の縮重を考慮すれば、本発明は、SEQ ID NO:1のヌクレオチド配列と同一なヌクレオチドを約70%〜約79%;またはより好ましくは約80%〜約89%;またはさらに好ましくは約90%〜約99%有する核酸配列も提供する。
【0056】
本発明が、SEQ ID NO:1または2に示す特定の核酸配列またはアミノ酸配列に限定されないことも理解されるだろう。それゆえに、組換えベクターおよび単離された核酸セグメントは、これらのコード領域そのもの、または選択された改変もしくは変更を基本コード領域中に持つコード領域を、さまざまな形で含むことができ、それらは、より大きなポリペプチドまたはペプチド(ただし、それでもなお、前記コード領域を含むもの)をコードするか、変異型アミノ酸配列を持つ生物学的機能等価なタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドをコードすることができる。
【0057】
本発明の核酸は、生物学的機能が等価なタンパク質、ポリペプチド、またはペプチドを包含する。そのような配列は、核酸配列またはそれがコードするタンパク質、ポリペプチドもしくはペプチド内に自然に存在することが知られている、コドン縮重または機能等価性の結果として生じ得る。あるいは、機能的に等価なタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドは、交換されるアミノ酸の性質の考察に基づいてタンパク質、ポリペプチドまたはペプチド構造の変化を工学的に作り出すことができる組換えDNA技術の適用によって、作製することもできる。例えばタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドの抗原性に改良または改変を導入するなどの目的で、人が設計した変化を、例えば本明細書において後述する部位特異的突然変異誘発技法の応用などによって導入することができる。
【0058】
本発明には、比較的小さなペプチドまたは融合ペプチド、例えば、SEQ ID NO:2に示すような、約3、約4、約5、約6、約7、約8、約9、約10、約11、約12、約13、約14、約15、約16、約17、約18、約19、約20、約21、約22、約23、約24、約25、約26、約27、約28、約29、約30、約31、約32、約33、約34、約35、約35、約36、約37、約38、約39、約40、約41、約42、約43、約44、約45、約46、約47、約48、約49、約50、約51、約52、約53、約54、約55、約56、約57、約58、約59、約60、約61、約62、約63、約64、約65、約66、約67、約68、約69、約70、約71、約72、約73、約74、約75、約76、約77、約78、約79、約80、約81、約82、約83、約84、約85、約86、約87、約88、約89、約90、約91、約92、約93、約94、約95、約96、約97、約98、約99〜約100アミノ酸長、またはより好ましくは約15〜約30アミノ酸長のペプチドなどをコードする核酸配列が包含される。
【0059】
IV.スクリーニング方法
本発明はさらに、分化細胞の再プログラミングに有用なBright活性の阻害剤を同定するための方法を含む。これらのアッセイは、候補物質の大きなライブラリーのランダムスクリーニングを含む。あるいは、Brightの機能を阻害する可能性を高めると考えられる構造的属性が得られるように選択された特定の化合物クラスに焦点を合わせるために、アッセイを使用することもできる。
【0060】
Brightの阻害剤を同定には、一般的には、候補物質の存在下および非存在下でBrightの機能を決定することになる。例えば、ある方法は、一般に、
(a)Brightを発現している細胞を用意する工程;
(b)該細胞を候補阻害剤物質と接触させる工程;および
(c)Bright関連活性を測定する工程、
を含み、ここでは、無処理細胞のBright活性と比較したBright関連活性の減少によって、その候補物質がBright活性の阻害剤であると同定される。活性には、免疫グロブリン生産の刺激、Brightホモ二量体化、Bright DNA結合、BrightとBtkとの相互作用、およびBrightとTFII-Iとの相互作用が含まれる。アッセイは、単離された細胞、細胞抽出物、臓器、または生きた生物で行うこともできる。
【0061】
もちろん、有効な候補が見つからない場合もあるという事実にもかかわらず、本発明のスクリーニング方法は全て、それ自体は有用であるということは、理解されるだろう。本発明は、そのような候補を発見する方法だけでなく、そのような候補をスクリーニングするための方法も提供する。
【0062】
A.調整因子
本明細書において使用する用語「候補物質」は、活性Brightを潜在的に阻害し得る任意の分子を指す。候補物質は、タンパク質またはそのフラグメント、小分子であることができ、さらにはその核酸であることもできる。最も有用な薬理学的化合物は、Bright/ARID3a、またはBright/ARID3a相互作用タンパク質、例えばBtkもしくはTFII-Iと構造的に関係する化合物であるだろうということが判明するかもしれない。リード化合物を使って、改良された化合物の開発に役立たせることは「合理的薬物設計」として公知であり、これには、公知の阻害剤および活性化剤との比較だけでなく、ターゲット分子の構造に関する予測が含まれる。
【0063】
合理的薬物設計の目標は、生物活性ポリペプチドまたはターゲット化合物の構造類似体を作り出すことである。そのような類似体を作り出すことにより、改変に対する感受性が異なる、またはさまざまな他の分子の機能に影響を及ぼし得る、天然分子より活性なまたは天然分子より安定な薬物を作りあげることができる。あるアプローチでは、ターゲット分子またはそのフラグメントの三次元構造が作成されるだろう。これは、x線結晶構造解析、コンピュータモデリング、または両方のアプローチの組合せによって達成されるだろう。
【0064】
ターゲット化合物、活性化剤、または阻害剤の構造を確認するために、抗体を使用することもできる。原則として、このアプローチでは、ファーマコア(pharmacore)が得られ、その後の薬物設計はそれに基づいて行うことができる。機能的な薬理学的に活性な抗体に対する抗イディオタイプ抗体を生成させることにより、タンパク質結晶構造解析を完全に回避することができる。鏡像の鏡像として、抗イディオタイプの結合部位は、元の抗原の類似体であると予想されるだろう。次に、抗イディオタイプを使って、化学的または生物学的に作製されたペプチドのバンクから、ペプチドを同定し単離することができるだろう。次に、選ばれたペプチドはファーマコアとして役立つだろう。抗イディオタイプは、本明細書において記載する抗体作製方法を使用し、抗体を抗原として用いることによって生成させることができる。
【0065】
これに対し、単にさまざまな商業的供給源から、有用な化合物の同定を「総当たり的に行う(brute force)」ことを目指して、有用な薬物の基本的基準を満たすと考えられる小分子ライブラリーを取得することもできる。コンビナトリアルに作成されたライブラリー(例えばペプチドライブラリー)を含むそのようなライブラリーのスクリーニングは、多数の関連(および無関連)化合物を活性に関してスクリーニングするための迅速で効率のよい方法である。コンビナトリアルアプローチは、活性ではあるが他の点で望ましくない化合物をモデルにした第2、第3、および第4世代の化合物の創成による潜在的薬物の迅速な進化にも役立つ。
【0066】
候補化合物は、天然化合物のフラグメントまたは部分を含むか、他の形では不活性な公知化合物の活性な組合せとして見いだされ得る。動物、細菌、真菌、植物源(葉および樹皮を含む)および海産物試料などの天然源から単離された化合物を、候補化合物として、潜在的に有用な薬学的作用物質の存在についてアッセイすることができると提案されている。スクリーニングされるべき薬学的作用物質が化学的組成物または人工的化合物からも誘導されまたは合成され得ることは理解されるだろう。したがって、本方法によって同定される候補化合物が、ペプチド、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、小分子阻害剤または公知の阻害剤もしくは刺激因子から出発して合理的薬物設計によって設計され得る他の任意の化合物であり得ることは理解される。
【0067】
他の適切な調整因子には、アンチセンス分子、リボザイム、および抗体(単鎖抗体を含む)が含まれ、それらはそれぞれ、ターゲット分子に特異的であるだろう。本明細書では、そのような化合物を、項を改めて詳述する。例えば、翻訳開始部位もしくは転写開始部位またはスプライス接合部に結合するアンチセンス分子は理想的な候補阻害剤であるだろう。
【0068】
最初に同定される調整化合物に加えて、それら調整因子の構造の重要な部分を模倣するために、他の立体的に類似する化合物を作り出すこともできると、本発明者らは考えている。そのような化合物(ペプチド調整因子のペプチドミメティックを含み得る)は、最初の調整因子と同じように使用することができる。
【0069】
B.インビトロアッセイ
迅速で安価で簡単に実行できるアッセイは、インビトロアッセイである。そのようなアッセイは一般に単離された分子を使用し、迅速に数多く行うことによって、短い期間で得ることのできる情報の量を増加させることができる。アッセイの実施には、例えば試験管、プレート、ディッシュおよび他の表面、例えばディップスティックまたはビーズなど、さまざまな器を使用することができる。インビトロアッセイの一般的な形態は結合アッセイである。
【0070】
本発明者らが考える特定のフォーマットは、DNAへのBright/ARID3a結合の評価を伴う。両方の分子が、個別に検出することができる薬剤で、または蛍光エネルギー移動によって検出することができる薬剤で標識される。
【0071】
化合物のハイスループットスクリーニングに関する技法は国際公開公報第84/03564号に記載されている。多数の小ペプチド試験化合物が、固形基板(例えばプラスチックピンまたは他の何らかの表面)上で、合成される。
【0072】
C.インサイト(In cyto)アッセイ
本発明では、細胞におけるBright/ARID3aの機能を調整する能力について化合物をスクリーニングすることも考えられる。そのようなスクリーニングアッセイには、この目的のために特別に操作された細胞を含む、さまざまな細胞および細胞株を利用することができる。他の細胞には胚性線維芽細胞および他の胚性組織が含まれる。特に興味深いのは、選択可能なマーカー遺伝子またはスクリーニング可能なマーカー遺伝子に連結されたIgプロモーターを含有する細胞である。
【0073】
D.インビボアッセイ
インビボアッセイは、その生物内の異なる細胞に到達し影響を及ぼす候補物質の能力を測定するために使用することができる特異的欠損を持つかそのようなマーカーを保持するように操作されたトランスジェニック動物を含む、さまざまな動物モデルの使用を伴う。そのサイズ、取り扱いの容易さ、ならびに生理学および遺伝子構成に関する情報ゆえに、マウスは、特にトランスジェニック法にとっては、好ましい態様である。しかし、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、スナネズミ(gerbil)、マーモット(woodchuck)、ネコ、イヌ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマおよびサル(チンパンジー、テナガザルおよびヒヒを含む)を含む他の動物も、同様に適している。阻害剤に関するアッセイは、これらのうち任意の種に由来する動物モデルを使って実行することができる。
【0074】
試験化合物による動物の処置は、化合物を適当な形で動物に投与すること、またはそのような動物に由来する細胞に投与することを伴うだろう。投与は、臨床目的に利用することができるであろう任意の経路によって行われるだろう。インビボでの化合物の有効性の決定は、さまざまな異なる基準を伴い得る。また、毒性および用量応答の測定も、動物では、インビトロアッセイまたはインサイトアッセイよりも意味のある形で行うことができる。
【0075】
V.多能性を誘導するための分化細胞の処理
A.細胞源
細胞は、腎臓、単離されたB細胞亜集団、骨髄、および線維芽細胞を含む多種多様な供給源から得ることができる。
【0076】
B.Bright阻害剤
本発明では、Bright/ARID3a機能を阻害するであろう事実上任意の組成物の使用が考えられる。所望の効果を生み出す有機薬学的(organopharmaceutical)化合物は高い有用性を持つと思われ、そのような化合物は上述のスクリーニング方法に従って同定することができる。加えて、後述する生物学的阻害剤も、Bright/ARID3a機能の妨害に利用することができる。
【0077】
C.アンチセンスコンストラクト
アンチセンス法は、核酸が「相補的」配列と対合する性質を持つという事実を利用する。相補的とは、ポリヌクレオチドが標準的なワトソン-クリック相補性規則に従って塩基対合する能力を持つものであることを意味する。すなわち、大きいプリンは小さいピリミジンと塩基対合して、シトシンと対合したグアニン(G:C)、およびDNAの場合はチミンと対合したアデニン(A:T)、RNAの場合はウラシルと対合したアデニン(A:U)の組合せを形成する。ハイブリダイズする配列中にあまり一般的でない塩基、例えばイノシン、5-メチルシトシン、6-メチルアデニン、ヒポキサンチンその他が組み入れられても対合は妨害されない。
【0078】
ポリヌクレオチドによる二本鎖(ds)DNAのターゲティングは三重らせんの形成につながり、RNAのターゲティングは二重らせん形成につながるだろう。アンチセンスポリヌクレオチドは、ターゲット細胞中に導入されると、それぞれのターゲットポリヌクレオチドに特異的に結合して、転写、RNAプロセシング、輸送、翻訳および/または安定性を妨害する。アンチセンスRNAコンストラクト、またはそのようなアンチセンスRNAをコードするDNAは、インビトロまたはインビボの宿主細胞内で、例えばヒト対象を含む宿主動物内で、遺伝子の転写もしくは翻訳またはその両方を阻害するために使用することができる。
【0079】
アンチセンスコンストラクトは、ある遺伝子のプロモーターおよび他の制御領域、エキソン、イントロン、さらにはエキソン-イントロン境界に結合するように設計することができる。最も効果的なアンチセンスコンストラクトは、イントロン/エキソンスプライス接合部に相補的な領域を含むだろうと考えられる。したがって、好ましい態様は、イントロン-エキソンスプライス接合部の50〜200塩基以内にある領域に対する相補性を持つアンチセンスコンストラクトを含むことが提案される。いくつかのエキソン配列は、コンストラクトに含めても、そのターゲット選択性に深刻な影響を及ぼさないことが観察されている。含まれるエキソン物質の量は、使用するそのエキソンおよびイントロン配列に依存して変動するだろう。含まれるエキソンDNAが多すぎるかどうかは、そのコンストラクトをインビトロで試験して、正常な細胞機能が影響を受けるかどうか、または相補的配列を持つ関連遺伝子の発現が影響を受けるかどうかを決定するだけで、容易に調べることができる。
【0080】
上述のように「相補的」または「アンチセンス」とは、その全長にわたって実質的に相補的であり、塩基ミスマッチを極めてわずかしか持たないポリヌクレオチド配列を意味する。例えば、15塩基長の配列は、それらが13または14の位置に相補的ヌクレオチドを持つ場合に、相補的であると呼ぶことができる。当然ながら、完全に相補的な配列は、その全長にわたって最初から最後までことごとく相補的であって塩基ミスマッチを持たない配列であるだろう。ホモロジーの度合が低い他の配列も考えられる。例えば、ホモロジーの高い限られた領域を持つが、非相同領域も含有するアンチセンスコンストラクト(例えばリボザイム;下記参照)を設計することができるだろう。これらの分子は、50%未満のホモロジーを持つが、適当な条件下ではターゲット配列に結合するだろう。
【0081】
ゲノムDNAの一部をcDNAまたは合成配列と組み合わせて特異的コンストラクトを生成させることが有利であるだろう。例えば、最終コンストラクト中にイントロンが所望される場合は、ゲノムクローンを使用する必要があるだろう。cDNAまたは合成ポリヌクレオチドは、コンストラクトの残りの部分に、より便利な制限部位を提供することができるので、配列の残りの部分に使用されるだろう。
【0082】
D.リボザイム
阻害剤のもう一つの一般クラスはリボザイムである。核酸の触媒反応には伝統的にタンパク質が使用されてきたが、この企てに役立つものとして、もう一つの種類の高分子が出現した。リボザイムは核酸を部位特異的に切断するRNA-タンパク質複合体である。リボザイムは、エンドヌクレアーゼ活性を有する特異的触媒ドメインを持つ(Kim and Cook, 1987;Gerlach et al., 1987;Forster and Symons, 1987)。例えば多数のリボザイムは、リン酸エステル転移反応を高い特異性で加速し、多くの場合、オリゴヌクレオチド基質中のいくつかのリン酸エステルのうちの1つだけを切断する(Cook et al., 1981;Michel and Westhof, 1990;Reinhold-Hurek and Shub, 1992)。この特異性は、化学反応に先だって、基質が、特異的塩基対合相互作用により、リボザイムの内部ガイド配列(internal guide sequence:「IGS」)に結合するという必要条件に起因すると考えられている。
【0083】
リボザイム触媒は、主として、核酸が関与する配列特異的切断/ライゲーション反応の一部として観察されてきた(Joyce, 1989;Cook et al., 1981)。例えば米国特許第5,354,855号は、一定のリボザイムが、エンドヌクレアーゼとして、公知のリボヌクレアーゼよりも高くDNA制限酵素のそれに近い配列特異性で、作用することができると報告している。したがって、配列特異的リボザイムによる遺伝子発現の阻害は、治療的応用には特に適し得る(Scanlon et al., 1991;Sarver et al., 1990)。リボザイムは、それらが適用されたいくつかの細胞株において遺伝的変化を惹起できることが示されており、改変された遺伝子には、がん遺伝子H-ras、c-fosおよびHIVの遺伝子が含まれている。この研究の大半は、特異的リボザイムによって切断される特異的変異体コドンに基づく、ターゲットmRNAの修飾が関わるものだった。
【0084】
E.RNAi
RNA干渉(「RNA媒介干渉(RNA-mediated interference)」またはRNAiともいう)は、タンパク質発現を減少させまたは排除することを可能にするもう一つの機序である。2本鎖RNA(dsRNA)は多段階プロセスであるこの減少を媒介することが観察されている。dsRNAは、ウイルス感染およびトランスポゾン活性から細胞を防御するように機能すると思われる転写後遺伝子発現サーベイランス機序を活性化する(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp et al., 2000;Tabara et al., 1999)。これらの機序の活性化は、成熟dsRNA相補的mRNAを、破壊のターゲットとする。RNAiは、遺伝子機能の研究にとって、大きな実験上の利点を提供する。これらの利点には、極めて高い特異性、細胞膜を横切る移動の容易さ、および標的遺伝子の長期間にわたるダウンレギュレーションが含まれる(Fire et al., 1998;Grishok et al., 2000;Ketting et al., 1999;Lin et al., 1999;Montgomery et al., 1998;Sharp, 1999;Sharp et al., 2000;Tabara et al., 1999)。さらにまた、dsRNAは、植物、原生動物、真菌、エレガンス線虫(C. elegans)、トリパノソーマ(Trypanasoma)、ショウジョウバエ(Drosophila)および哺乳動物を含む多種多様な系において、遺伝子をサイレンシングすることが示されている(Grishok et al., 2000;Sharp, 1999;Sharp et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。RNAiが、転写後に、RNA転写産物を破壊のターゲットとし、おそらくは翻訳を阻害することによって作用することは、一般に受け入れられている。核RNAと細胞質RNAはどちらもターゲットになり得るようである(Bosher et al., 2000)。
【0085】
siRNAは、関心対象遺伝子の発現を特異的かつ効果的に抑制するように、設計されなければならない。ターゲット配列(すなわち関心対象である1つまたは複数の遺伝子中に存在する配列であって、siRNAが分解機構をそこに導くことになる配列)を選択する方法は、siRNAのガイド機能を妨害し得る配列を避けつつ、当該1つまたは複数の遺伝子に特異的である配列を含むように行われる。通例、約21〜23ヌクレオチド長のsiRNAターゲット配列が最も効果的である。この長さは、上述のように、はるかに長いRNAのプロセシングによって生じる消化産物の長さを反映している(Montgomery et al., 1998)。特に興味深いのは、エキソン-イントロン接合部をまたぐsiRNAである。
【0086】
siRNAの作製は、主に、直接的化学合成によるか、ショウジョウバエ胚溶解物への曝露による長い二本鎖RNAのプロセシングによるか、S2細胞由来のインビトロ系によって行われてきた。細胞溶解物またはインビトロプロセッシングの使用は、引き続いて短い21〜23ヌクレオチドのsiRNAを溶解物などから単離することをさらに必要とすることで、多少煩雑であり費用のかかるプロセスになり得る。化学合成は、2本の一本鎖RNAオリゴマーを作製した後、それら2本の一本鎖オリゴマーをアニーリングして二本鎖RNAにすることによって行われる。化学合成の方法は多様である。限定するわけではないが、その例は、特に参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,889,136号、同第4,415,732号および同第4,458,066号、ならびにWincott et al.(1995)に記載されている。
【0087】
siRNAの安定性を変化させるために、またはそれらの有効性を改良するために、siRNA配列のさらなる修飾がいくつか提案されている。ジヌクレオチド突出部を持つ合成相補的21マーRNA(すなわち19個の相補的ヌクレオチド+3'非相補的ダイマー)は、最も高い抑制レベルを与え得ることが示唆されている。これらのプロトコールでは、ジヌクレオチド突出部として、主に、2つの(2'-デオキシ)チミジンヌクレオチドの配列を使用する。これらのジヌクレオチド突出部は、RNAに組み込まれる典型的ヌクレオチドと区別するために、dTdTと記載されることが多い。dT突出部を使用する動機は、主に、化学合成されるRNAのコストを下げる必要性であることが、文献に示されている。dTdT突出部がUU突出部より安定であるかもしれないことも示唆されているが、入手可能なデータでは、UU突出部を持つsiRNAと比較して、dTdT突出部には、わずか(<20%)な改善しかないことが示されている。
【0088】
化学的に合成されたsiRNAは、それが25〜100nMの濃度で細胞培養物中に存在する場合に、最適に働くことが見いだされる。これは、Elbashir et al.(2001)によって実証されており、そこでは、約100nMの濃度で、哺乳動物細胞における発現の有効な抑制が達成された。siRNAは哺乳動物細胞培養物においては約100nMで最も有効であった。しかしいくつかの例では、より低い濃度の化学合成siRNAが使用されている(Caplen et al., 2000;Elbashir et al., 2001)。
【0089】
国際公開公報第99/32619号および国際公開公報第01/68836号には、siRNAに使用するためのRNAは化学的または酵素的に合成し得ることが示唆されている。これらの文書はどちらも参照によりそのまま本明細書に組み入れられる。これらの参考文献で考えられている酵素合成は、当技術分野では知られているように、発現コンストラクトの使用および作製を介して、細胞RNAポリメラーゼまたはバクテリオファージRNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)によって行われる。米国特許第5,795,715号を参照されたい。考えられるコンストラクトは、ターゲット遺伝子の一部と同じヌクレオチド配列を含有するRNAを生成させるテンプレートになる。これらの参考文献によって提供される同一配列の長さは少なくとも25塩基であり、400塩基またはそれ以上の長さであることもできる。この参考文献の重要な一局面は、その著者らが、インビボで長いdsRNAをsiRNAに転換する内在性ヌクレアーゼ複合体を使って、長いdsRNAを21〜25マーの長さに消化することを考えているという点である。彼らは、インビトロで転写された21〜25マーのdsRNAの合成および使用に関するデータについては、説明も、提示もなされていない。RNA干渉でのその使用において、化学的または酵素的に合成されたdsRNAの予想される性質が区別されることはない。
【0090】
同様に、参照により本明細書に組み入れられる国際公開公報第00/44914号は、RNAの一本鎖を酵素的にまたは部分/全有機合成によって作製できることを示唆している。好ましくは一本鎖RNAは、DNAテンプレート(好ましくはクローニングされたcDNAテンプレート)のPCR(商標)産物から酵素的に合成され、そのRNA産物はcDNAの完全な転写産物であって、何百というヌクレオチドを含み得る。参照により本明細書に組み入れられる国際公開公報第01/36646号は、siRNAを合成する方法を限定することなく、RNAは、手作業および/または自動化された手順を使ってインビトロまたはインビボで合成することができるとしている。この参考文献は、インビトロ合成は、化学的合成であってもよいし、例えば内在性DNA(またはcDNA)テンプレートの転写にクローン化RNAポリメラーゼ(例えばT3、T7、SP6)を使用する酵素的合成であってもよいし、またはその両方の組合せであってもよいともしている。ここでも、化学的または酵素的に合成されたsiRNAの間で、RNA干渉における使用に関して、望ましい性質が区別されることはない。
【0091】
米国特許第5,795,715号には、単一の反応混合物における2つの相補的DNA鎖の同時転写が報告されており、そこではそれら2つの転写産物が直ちにハイブリダイズされる。使用されるテンプレートは、好ましくは40〜100塩基対であり、各末端にプロモーター配列が装備されている。テンプレートは固形表面に取り付けることができる。RNAポリメラーゼによる転写後、得られたdsRNAフラグメントは、核酸ターゲット配列の検出および/またはアッセイに使用することができる。
【0092】
具体的一態様として、本発明者らは、レンチウイルスベクター中のsiRNAまたはshRNAを使って、インビトロで、成体組織におけるARID3a発現を阻害することを提案する。GFPマーカーを利用して、細胞がベクターを取り込んだことを決定し、ARID3a生産の適当な阻害に関するチェックを可能にすることができる。B細胞株BCg3R-1dおよび/または過剰発現トランスジェニックマウス脾臓細胞を利用することができる。本発明者らは、ARID3aの阻害がこれらの細胞中で起こることを確認した後、マウス胚線維芽細胞におけるARID3a発現を阻害し、GFP+細胞を培養して、多能性幹細胞が発生することを確認するだろう。特別な成長条件下でのみ siRNAまたはshRNAの誘導を許す誘導性プロモーター(後述)の使用は、ARID3aの可逆的な阻害を可能にする。したがって細胞を、インビトロで多能性かつ自己複製状態に脱分化するように誘導することができ、次に、ARID3aの阻害を伴わない異なる成長条件下で成熟系譜細胞へと分化するように誘導することができる。これらの方法は、複数のウイルスコピーおよびウイルス遺伝子(そのうちのいくつかは発がん性であることが知られているもの)の導入を必要とする現在の方法論と比較して、かなりの利点を提供する。自己欠失性(self-deleting)ベクターも使用することができる。
【0093】
F.抗体
本発明の一定の局面において、抗体はBrightの阻害剤として役立ち得る。本明細書において使用される用語「抗体」は、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEなど、任意の適当な免疫学的結合剤を、幅広く指すものとする。一般にIgGおよび/またはIgMは好ましい。なぜなら、これらは生理的状況下で最も一般的な抗体だからであり、実験室において作製が最も容易だからでもある。
【0094】
用語「抗体」は抗原結合領域を持つ任意の抗体様分子も指し、Fab'、Fab、F(ab')2、単一ドメイン抗体(DAB)、Fv、scFV(単鎖Fv)などの抗体フラグメントを包含する。さまざまな抗体ベースのコンストラクトおよびフラグメントを作製し使用するための技法は当技術分野においては周知である。
【0095】
モノクローナル抗体(MAb)は、例えば再現性および大量生産など、一定の利点を持つと認められ、それらの使用は一般に好ましい。したがって本発明は、ヒト、マウス、サル、ラット、ハムスター、ウサギ、そしてさらにはニワトリ由来のモノクローナル抗体を提供する。調製が容易であることと試薬類が容易に入手できることから、マウスのモノクローナル抗体は、好ましいことが多いだろう。単鎖抗体は米国特許第4,946,778号および第5,888,773号に記載されており、これらの特許はそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる。本発明は、後述するように、発現ベクターから発現される単鎖抗体を利用する可能性が最も高いだろう。
【0096】
「ヒト化」抗体も、ヒト定常領域ドメインおよび/またはヒト可変領域ドメインを保有するマウス、ラットまたは他の種由来のキメラ抗体、二重特異性抗体、組換えおよび工学改変(engineered)抗体ならびにそれらのフラグメントと同様に考えられる。患者の歯科疾患に合わせて「特注された」(custom-tailored)抗体を開発するための方法も、同様に知られており、そのような特注抗体も考えられる。
【0097】
G.ペプチド
ペプチドは、DNA、Btk、TFII-Iまたは他の分子と結合しまたは相互作用するBrightドメインと競合するかそれらを模倣することによってBright/ARID3a機能の有用な阻害剤になること、またはBright二量体化配列と競合することが判明し得る。核シャトリング(nuclear shuttling)配列を含むBrightの領域も考えられる。したがって、Bright由来のペプチドは、Bright機能の阻害に有用であると判明し得る化合物の特定タイプである。ペプチドは既存の構造(すなわちBrightの一部)に近いところで設計するか、ランダムライブラリーからその機能で選択することができる。
【0098】
特に興味深いのは、残基444付近から残基549までの、より具体的には残基449〜544の、SEQ ID NO:1の領域である。この領域は、Bright/ARID3a二量体化に関与することが示されており、核シャトリング配列を含有することも示されている。これらの領域内で、8〜約40残基の可能なペプチドは全て考えられる。他のより具体的な領域には、残基444〜483、449〜488、510〜549、505〜544、444〜473、449〜473、531〜549および531〜544が含まれる。特定のペプチドを表2に例示する。
【0099】
一般に、ペプチドは50残基未満であり、Bright/ARID3aの少なくとも約10個の連続する残基を含むだろう。連続するBright/ARID3a残基の数は、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、または50であることができ、そこに追加の非Bright配列が取り付けられる。ペプチドの長さの範囲として10〜50残基、10〜40残基、15〜50残基、15〜40残基、15〜35残基、15〜30残基、15〜25残基、15〜20残基および20〜25残基が考えられる。追加の非Bright/ARID3a残基の数は5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20残基またはそれ以上であることができる。したがってペプチドの総サイズは8残基から75残基またはそれ以上に及ぶことができ、具体的には10〜70残基、10〜60残基、10〜50残基、10〜40残基、10〜30残基および15〜70残基、15〜60残基、15〜50残基、15〜40残基、15〜30残基、20〜70残基、20〜60残基、20〜50残基、20〜40残基、および20〜30残基が考えられる範囲である。
【0100】
ペプチドは、タンパク質分解酵素(トリプシン、キモトリプシンなど)または化学薬品を使った、Brightなどのポリペプチドの切断によって作製することができる。ペプチドはベクターおよび上述の技法を使って組換え生産することもできる。しかし、固相合成技法(Merrifield, 1963)を使ってペプチドを作製することが、最も有利であるだろう。他のペプチド合成技法は当業者に周知である(Bodanszky et al., 1976;Peptide Synthesis, 1985;Solid Phase Peptide Synthelia, 1984)。そのような合成において使用するための適当な保護基は、上記の教科書およびProtective Groups in Organic Chemistry, 1973に見いだされるだろう。これらの合成方法では、1つまたは複数のアミノ酸残基または適切な保護アミノ酸残基が、成長するペプチド鎖に逐次付加される。通常、第1アミノ酸残基のアミノ基またはカルボキシル基のどちらか一方が、適切な選択的に除去可能な保護基で保護される。反応性側鎖を含有するアミノ酸、例えばリジンなどには、それとは異なる選択的に除去可能な保護基を利用する。
【0101】
一例として、固相合成を使って、保護アミノ酸または誘導体化アミノ酸を、不活性固形支持体に、その保護されていないカルボキシル基またはアミノ基を介して取り付ける。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を選択的に除去し、適切に保護された相補(アミノまたはカルボキシル)基を持つ配列中の次のアミノ酸を、固形支持体に既に取り付けられている残基と混合し、反応させる。次に、アミノ基またはカルボキシル基の保護基を、この新たに付加されたアミノ酸残基から除去した後、次のアミノ酸(適切に保護されたもの)を加えるというようにする。所望のアミノ酸の全てが適正な順序で連結された後、残りの末端保護基および側基保護基(および固形支持体)を全て逐次的にまたは同時に除去して、最終ペプチドを得る。本発明のペプチドは、好ましくは、ベンジル化アミノ酸またはメチルベンジル化アミノ酸を含まない。そのような保護基部分を合成の過程で使用することはできるが、それらはペプチドを使用する前に除去される。コンフォメーションを制限するために分子内結合を形成させるには、どこか別の項で説明するように、追加の反応が必要になり得る。
【0102】
使用することができる20種類の標準的アミノ酸の他にも、膨大な数の「非標準的」アミノ酸がある。それらのうち2つは遺伝暗号によって指定することができるが、それらはタンパク質においてはかなり稀である。セレノシステインは、通常は停止コドンであるUGAコドンで、いくつかのタンパク質中に組み込まれる。ピロールリジン(pyrrolysine)は、いくつかのメタン生成古細菌により、それらがメタンを生成するために使用する酵素に使用される。これはコドンUAGでコードされる。タンパク質中に見いだされない非標準的アミノ酸の例には、ランチオニン、2-アミノイソ酪酸、デヒドロアラニンおよび神経伝達物質γ-アミノ酪酸が含まれる。非標準的アミノ酸は、標準的アミノ酸の代謝経路における中間体として見いだされることが多く、例えばオルニチンおよびシトルリンは、アミノ酸異化作用の一部である尿素回路に見いだされる。非標準的アミノ酸は通常は標準的アミノ酸の修飾によって形成される。例えばホモシステインは、含硫基移動経路によって形成されるか、メチオニンの脱メチル化により、中間代謝産物S-アデノシルメチオニンを経由して形成され、一方、ヒドロキシプロリンはプロリンの翻訳後修飾によって作られる。
【0103】
本発明では、L-立体配置のアミノ酸、D-立体配置のアミノ酸、またはその混合物を利用することができる。L-アミノ酸はタンパク質中に見いだされるアミノ酸の大部分に相当するが、D-アミノ酸も、イモガイ(cone snail)などの外来海生生物によって生産されるいくつかのタンパク質に見いだされる。D-アミノ酸は、細菌のペプチドグリカン細胞壁の豊富な構成要素でもある。D-セリンは脳内で神経伝達物質として作用し得る。アミノ酸立体配置に関してLおよびDという取り決めは、アミノ酸そのものの光学活性を指すのではなく、そのアミノ酸をそこから理論的に合成することができるグリセルアルデヒドの異性体の光学活性を指すものである(D-グリセルアルデヒドは右旋性であり;L-グリセルアルデヒドは左旋性である)。
【0104】
「全てがD-アミノ酸の(all-D)」ペプチドの一形態はレトロインベルソ型(retro-inverso)ペプチドである。天然ポリペプチドのレトロインベルソ型修飾では、対応するL-アミノ酸とは反対のα-炭素立体化学を持つアミノ酸、すなわちD-アミノ酸を、ネイティブペプチド配列とは逆の順序で、合成的に組み立てる。したがってレトロインベルソ型類似体は、ネイティブペプチド配列の場合と同じ側鎖のトポロジーをほぼ維持しつつ、逆になった末端と逆向きのペプチド結合(CO-NHではなくNH-CO)を持つ。参照により本明細書に組み入れられる米国特許第6,261,569号を参照されたい。
【0105】
ペプチドは、一定の追加ペプチドセグメントに、それに付随する有益な性質が得られるように、取り付けまたは融合させることが有利な場合がある。特に、そのようなドメインは細胞送達ドメイン(cell delivery domain)である(細胞送達ベクター(cell delivery vector)または細胞形質導入ドメイン(cell transduction domain)とも呼ばれる)。これらのタイプのドメインは当技術分野において周知であり、一般に、短い両親媒性またはカチオン性ペプチドおよびペプチド誘導体と特徴づけられ、多くの場合、複数のリジン残基およびアルギニン残基を含有する(Fischer, 2007)。特に興味深いのは、ポリ-D-Arg配列およびポリ-D-Lys配列(例えば右旋性残基、8残基長)である。その他を下記表2に列挙する。
【0106】
(表2)
【0107】
リンカーまたは架橋剤を使ってペプチドを他のタンパク質性配列に融合してもよい。二官能性架橋試薬は、アフィニティマトリックスの調製、多様な構造の修飾および安定化、リガンドおよび受容体結合部位の同定、ならびに構造研究を含むさまざまな目的に広く使用されてきた。2つの同一官能基を持つホモ二官能性試薬は、同一のおよび異なる高分子または高分子サブユニット間の架橋を誘発し、それらの特異的結合部位にポリペプチドリガンドを連結するのに極めて効率が良いことが判明している。ヘテロ二官能性試薬は、2つの異なる官能基を含有する。それら2つの異なる官能基の反応性が異なることを利用して、架橋を選択性と順序の両面で制御することができる。二官能性架橋試薬は、例えばアミノ特異性基、スルフヒドリル特異性基、グアニジノ特異性基、インドール特異性基、カルボキシル特異性基など、それらの官能基の特異性に従って分類することができる。もちろん、遊離アミノ基を指向する試薬は、それらが市販されており、合成が容易であり、温和な反応条件下で応用できることから、とりわけ普及している。ヘテロ二官能性架橋試薬の大半は、1級アミン反応性基およびチオール反応性基を含有する。
【0108】
もう一つの例として、ヘテロ二官能性架橋試薬とそれら架橋試薬を使用する方法が、米国特許第5,889,155号に記載されており、この特許は特に、参照により本明細書にそのまま組み入れられる。これらの架橋試薬は、求核性ヒドラジド残基と求電子性マレイミド残基とを併せ持ち、一例としてアルデヒドを遊離チオールにカップリングすることができる。これらの架橋試薬は、さまざまな官能基を架橋するために修飾することができるので、ポリペプチドの架橋に役立つ。特定のペプチドが所与の架橋試薬に適した残基をそのネイティブ配列中に含有しない場合は、一次配列における保存的な遺伝子的アミノ酸改変または合成的アミノ酸改変を利用することができる。
【0109】
インビボでのペプチドの残存を容易にするためのブロッキング剤をアミノ末端および/またはカルボキシル末端に付加することによってインビボ使用のために修飾されたペプチドが考えられる。これは、ペプチド末端が細胞取り込み前にプロテアーゼによる分解を受けやすい状況において役立ち得る。そのようなブロッキング剤には、投与しようとするペプチドのアミノ末端残基および/またはカルボキシル末端残基に付加することができる追加の関連または無関連ペプチド配列などを含めることができるが、これらに限るわけではない。これらの薬剤は、ペプチドの合成時に化学的に付加するか、当技術分野においてよく知られている方法により、組換えDNA技術によって付加することができる。あるいは、ピログルタミン酸などのブロッキング剤または当技術分野において公知の他の分子を、アミノ末端残基および/またはカルボキシル末端残基に取り付けることもできる。
【0110】
本発明者らは、一定の非天然アミノ酸が、本発明の阻害ペプチドの構造的制約を満たし、しかも生物学的機能の喪失を伴わず、ことによると生物学的機能の改善を伴うと考える。また、本発明者らは、Bright/ARID3aの重要な部分を模倣するように、構造的に類似する化合物を作り出すことができるとも考える。ペプチドミメティックと呼ぶことができるそのような化合物は、本発明のペプチドと同じ方法で使用することができ、それゆえに、機能等価物である。
【0111】
タンパク質二次構造および三次構造の要素を模倣する一定のミメティックは、Johnson et al.(1993)に記載されている。ペプチドミメティックの使用の背後にある基礎となる基本原理は、タンパク質のペプチド主鎖が、主として、抗体および/または抗原の相互作用などの分子相互作用を容易にするような形でアミノ酸側鎖を方向付けるために存在するということにある。したがってペプチドミメティックは、天然分子と類似する分子相互作用を許すように設計される。
【0112】
特定の構造を生成させるための方法は、当技術分野において開示されている。例えばαヘリックスミメティックは、米国特許第5,446,128号、同第5,710,245号、同第5,840,833号、および同第5,859,184号に開示されている。コンフォメーションが制限されたβ-ターンおよびβ-バルジを生成させるための方法は、例えば米国特許第5,440,013号、同第5,618,914号、および同第5,670,155号に記載されている。他のタイプのミメティックターンには、リバースターンおよびγターンが含まれる。リバースターンミメティックは米国特許第5,475,085号および同第5,929,237号に開示され、γ-ターンミメティックは米国特許第5,672,681号および同第5,674,976号に記載されている。
【0113】
「分子モデリング」とは、三次元構造情報およびタンパク質-タンパク質相互作用モデルに基づくタンパク質-タンパク質物理相互作用の構造および機能の定量的および/または定性的解析を意味する。これには、従来の数値ベースの分子動力学モデルおよびエネルギー最小化モデル、対話型コンピュータグラフィックモデル、改良分子力学モデル、距離幾何学(distance geometry)モデルおよび他の構造ベースの束縛(constraint)モデルが含まれる。分子モデリングは、通例、コンピュータを使って行われ、公知の方法を使ってさらに最適化することができる。X線結晶構造解析データを利用するコンピュータプログラムは、そのような化合物を設計するのにとりわけ有用である。RasMolなどのプログラムを使って三次元モデルを作成することができる。INSIGHT(Accelrys、マサチューセッツ州バーリントン)、GRASP(Anthony Nicholls、コロンビア大学)、Dock(Molecular Design Institute、カリフォルニア大学サンフランシスコ校)、およびAuto-Dock(Accelrys)などのコンピュータモデルを使えば、さらなる操作が可能であり、新しい構造を導入することもできる。これらの方法は、化合物の3D構造のモデルを出力装置に出力する追加工程を含むことができる。さらにまた、候補化合物の3Dデータを、例えば3D構造のコンピュータデータベースと比較することもできる。
【0114】
本発明の化合物は、本明細書に記載する化合物の構造情報から、他の構造ベースの設計/モデリング技法を使って、対話的に設計することもできる(例えばJackson, 1997;Jones et al., 1996を参照されたい)。次に、候補化合物を当業者によく知られている標準的アッセイで試験することができる。例示的なアッセイを本明細書において説明する。
【0115】
生体高分子(例えばタンパク質、核酸、糖質、および脂質)の3D構造は、さまざまな方法によって得られたデータから決定することができる。タンパク質の3D構造の評価に最も効果的に応用されてきたこれらの方法には、以下に挙げるものが含まれる:(a)x線結晶構造解析;(b)核磁気共鳴(NMR)分光法;(c)高分子上の所定の部位間に形成される物理的距離束縛(例えばタンパク質上の残基間の分子内化学架橋)の解析(例えばPCT/US00/14667、この文献の開示は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)、および(d)関心対象のタンパク質の一次構造の知識に基づく分子モデリング法、例えばホモロジーモデリング技法、またはMONSSTER(Modeling Of New Structures from Secondary and Tertiary Restraints)(例えば国際出願PCT/US99/11913、この文献の開示は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)などのコンピュータプログラムを使ったアブイニシオ(ab initio)構造モデリング。他の分子モデリング技法も本発明に従って使用することができる(例えばCohen et al., 1990;Navia et al., 1992を参照されたい。これらの文献の開示は参照によりそのまま本明細書に組み入れられる)。これらの方法は全て、コンピュータ解析に適したデータを生成する。本発明の方法に同様に役立ち得るが、現時点では生体分子に関して原子レベルの構造的詳細を与えない他の分光学的方法には、円偏光二色法、ならびに蛍光および紫外/可視光吸収分光法が含まれる。具体的分析方法の一つはx線結晶構造解析である。
【0116】
H.ドミナントネガティブBright/ARID3a
ドミナントネガティブタンパク質は、両者が同じ環境中に存在する場合に、正常な機能的タンパク質の効果を打ち消すことができる欠損タンパク質である。多くの場合、ドミナントネガティブタンパク質はホモ多量体化するので、1つまたは複数の機能的タンパク質を含有する複合体を「害する(poison)」ことができる。まさにこのようにして作用するドミナントネガティブ型のBrightが作製された。ドミナントネガティブBright分子を設計するにあたって、いくつかの領域が、有用な突然変異点を提示する。第1に、DNA結合をブロックする、DNA結合ドメイン(ARID)中の変化は、ドミナントネガティブ効果を生じる。第2に、核移行をブロックする、核局在化配列の改変も、ドミナントネガティブ型のBright/ARID3aをもたらす。第3に、相互作用および二量体化ドメインの操作は、ドミナントネガティブ機能を引き起こす。アミノ末端ドメインに妨害を加えることにより、他のドミナントネガティブタンパク質を作製することもできる。ドミナントネガティブ型のBrightはNixon et al.(2004)に記載されている。
【0117】
VI.幹細胞の培養
一局面において、本発明は、拡大のための、脱分化細胞の培養に取り組む。もう一つの局面では、再分化を目的として、複能性細胞の培養が行われる。さらにまた、本発明では、天然ESCの成長を増強するための、Bright/ARID3a欠損性である天然細胞または工学的に操作された細胞の使用も考えられる。そのような細胞は、培養下の幹細胞の成長/分化を刺激するシグナル/因子を与えることが判明した。
【0118】
A.細胞の同定および分離技法
混合細胞集団からESCを分離する方法は当技術分野において周知であり、本発明の細胞集団に応用することができる。この方法で精製された細胞は、次に、遺伝子工学/遺伝子補充療法に使用することができる。そのような細胞の供給源には、骨髄および臍帯血が含まれるが、これらに限るわけではない。さらにまた、それらを組織再生目的に使用することもできる。以下の説明では、さまざまなマーカーの表面発現に基づいて幹細胞を分離するための例示的な方法を述べる。
【0119】
i.蛍光活性化細胞選別(FACS)
FACSは表面マーカーに基づく細胞の亜集団の定量および/または分離を容易にする。選別しようとする細胞を、まず最初に、蛍光標識抗体または他のマーカー特異的リガンドでタグ付けする。一般に、標識された抗体およびリガンドは、表現型特異的細胞表面分子の発現に対して特異的である。あるいは、細胞を細胞内標識することもできる。次に、標識された細胞をレーザー光線に通し、各細胞の蛍光強度を決定する。選別機(sorter)は、毎秒約3000〜10,000細胞の流速で、陽性細胞と陰性細胞を、ラベルプラスウェルとラベルマイナスウェルに分配する。
【0120】
異なる波長で励起する複数の蛍光タグを使用することにより、複数の基準または代替的基準に基づく選別が可能になる。コンジュゲートとしての使用が考えられる蛍光ラベルには、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、Cascade Blue、Cy3、Cy5、6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、Pacific Blue、REG、Rhodamine Green、Rhodamine Red、Renographin、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはTexas Redなどがある。したがって、例えば単一のPBMC試料を、代替的に標識された抗Ig抗体、抗CD3抗体、抗CD8抗体および抗CD4抗体で分析することにより、試料内のB細胞およびT細胞の存在についてスクリーニングすることができると共に、特異的T細胞サブセットが識別される。
【0121】
FACS分析および細胞選別はフローサイトメーターで行われる。フローサイトメーターは一般に光源、通常はレーザー、集光光学系(collection optics)、電子機器、およびシグナルをデータに変換するコンピュータからなる。散乱光および放出された蛍光を、2つのレンズ(一つは光源の正面に配置され、一つは直角に設置される)によって、また特定の帯域の蛍光を測定できるようにする一連の光学系、ビームスプリッター、およびフィルターによって集める。
【0122】
フローサイトメーター機器では、細胞の性質の定量的な多パラメータ分析を、毎秒数千細胞の速度で行うことができる。これらの計器により、細胞型を区別することが可能になる。データは、測定された変量の一次元的(ヒストグラム)または二次元的(等高線図、散布図)度数分布で表示されることが多い。多パラメータデータファイルの分割(partitioning)には対話型一次元または二次元画像プログラムを引き続いて使用する必要がある。
【0123】
迅速な細胞検出のための多パラメータフローサイトメトリーデータの定量的分析は、細胞クラス特徴づけ、および試料処理という、2つの段階からなる。一般に、細胞クラス特徴づけの工程では、細胞の特徴を、関心対象の細胞と関心対象でない細胞とに分割する。次に、試料処理において、各細胞は、それが属する領域に応じて、2つのカテゴリーのうちの1つに分類される。細胞の適当な特徴が得られる場合にのみ高い検出性能を期待することができるので、細胞のクラスの分析は極めて重要である。また、分離を目的として前方・側方散乱(forward side scatter)(粒度およびサイズ)を使用することもできる。
【0124】
フローサイトメトリーでは、細胞の分析が行われるだけでなく、細胞の選別も行われる。米国特許第3,826,364号には、粒子(例えば機能的に異なる細胞タイプ)を物理的に分離する機器が開示されている。この機械では、レーザーが照明を提供し、それが適切なレンズまたはレンズ系によって粒子の流れに集束されるので、そこに含まれる粒子から高度に局在化した散乱が起こる。さらにまた、粒子の流れに含まれる蛍光粒子を励起するために、高輝度源の照明がその流れに向けられる。流れの中の一定の粒子は、選択的に帯電させた後、それらを指定した容器へと偏向させることによって、分離することができる。この分離の古典的形態は、1つまたは複数の細胞タイプに分離用の印を付けるために使用される蛍光タグ付き抗体によるものである。
【0125】
フローサイトメトリーおよび蛍光抗体細胞選別を行うためのさらなる方法および代替的方法は、米国特許第4,284,412号、同第4,989,977 号、同第4,498,766号、同第5,478,722号、同第4,857,451号、同第4,774,189号、同第4,767,206号、同第 4,714,682号、同第5,160,974号、および同第4,661,913号に記載されており、これらの特許は特に参照により本明細書に組み入れられる。
【0126】
ii.マイクロビーズ分離
懸濁状態にある細胞は、マイクロビーズ技術を使用することにより、それらの表面抗原に従って、極めて高い純度に分離することができる。マイクロビーズ分離における基本概念は、関心対象の生体材料(biomaterial)(例えば特定の細胞、タンパク質、またはDNA配列)を粒子に選択的に結合させ、次にそれをその周囲のマトリックスから分離することである。マイクロビーズ分離では、細胞懸濁液を、細胞表面特異的な抗体またはリガンドで標識されたマイクロビーズのスラリーと接触させる。次に、マイクロビーズで標識された細胞を、そのビーズの何らかの性質に特異的なアフィニティー捕捉方法を使って分離する。このフォーマットは陽性選択および陰性選択の両方を容易にする。
【0127】
磁気ビーズは一般に、アフィニティータグ(例えばビオチン化免疫グロブリンまたはビオチン化された他の分子(例えばペプチド/タンパク質もしくはレクチン)を結合する組換えストレプトアビジン)でコーティングされた均一な超常磁性ビーズである。磁気ビーズは一般に、Fe3O4の均一なマイクロ粒子またはナノ粒子である。これらの粒子は超常磁性である。つまり、それらは磁場に引き寄せられるが、磁場が取り除かれた後は、残留磁力を保持しない。関心対象の細胞にタグ付けされ懸濁された超常磁性粒子は、磁場を使ってマトリックスから取り除くことが可能であるが、磁場の除去後にそれらが凝集することはない(すなわちそれらは懸濁状態に留まる)。
【0128】
超常磁性ナノ粒子が関わる分離の一般的フォーマットは、ビーズを、それより大きなマイクロ粒子の細孔内に分散させることである。これらのマイクロ粒子は、細胞表面抗原に対するモノクローナル抗体でコーティングされる。次に、抗体でタグ付けした超常磁性微粒子を、細胞懸濁液中に導入する。これらの粒子は関心対象の表面抗原を発現している細胞に結合し、磁場の適用によって取り出すことができる。これは、強い磁場の下に置かれた高勾配磁気分離カラムに懸濁液を流すことによって、容易にすることができる。磁気標識された細胞はカラム内に留まり、非標識細胞は通過する。カラムが磁場から取り出されると、磁気的に保持されていた細胞が溶出する。標識画分と非標識画分の両方を完全に回収することができる。
【0129】
iii.アフィニティークロマトグラフィー
アフィニティークロマトグラフィーは、単離しようとする物質とそれが特異的に結合することのできる分子との間の特異的アフィニティーに依拠するクロマトグラフィー手法である。これは受容体-リガンド型の相互作用である。カラム材料は、結合パートナーの一方を不溶性マトリックスに共有結合することによって合成される。そうすれば、そのカラム材料は、溶液からその物質を特異的に吸着することができる。溶出は、条件を結合が起こらないものに変える(pH、イオン強度、温度などを変化させる)ことによって起こる。
【0130】
マトリックスは、それ自体はほとんど分子を吸着せず、しかも広範囲にわたる化学的、物理的および熱的安定性を持つ物質であるべきである。リガンドは、その結合特性に影響を及ぼさないような方法で結合させるべきである。またリガンドは比較的強い結合をもたらすべきでもある。なおかつ試料またはリガンドを破壊せずに物質を溶出させることが可能であるべきである。アフィニティークロマトグラフィーの最も一般的な形態の一つは、免疫アフィニティークロマトグラフィーである。本発明に従って使用するのに適しているであろう抗体の作製は、本明細書では、項を改めて議論する。
【0131】
iv.ESCを選択するための表面マーカー
上述のように、細胞表面マーカーはしばしば同定に使用される。下記表3に、マーカーと、それらが最もよく関連づけられるESCタイプ、ならびに分化細胞のマーカーを列挙する。
【0132】
(表3)幹細胞の同定および分化細胞タイプの特徴づけに一般に使用されるマーカー
【0133】
B.細胞および細胞培養
幹細胞は、一般に、自己複製する(細胞分裂によってより多くの幹細胞を作る)能力を持つと共に、成熟し専門化した細胞に分化することもできると定義される。前駆細胞は、分化することしかできず、自分自身をそれ以上複製することはできない、幹細胞の初期の子孫である。これに対して、幹細胞は、自分自身を複製すること(細胞分裂によってより多くの幹細胞を作ること)または分化すること(分裂し、細胞分裂ごとにますます異なるタイプの細胞へと進展すること)が可能である。前駆細胞は、多くの場合、なることのできる細胞の種類が、幹細胞よりも限られている。科学的には、これを、前駆細胞は幹細胞よりも分化していると言う。
【0134】
細胞培養は、制御された条件下にインビトロで細胞を維持し増殖させることを容易にする。細胞は、例えばガラス製またはプラスチック製のさまざまなタイプの器で培養することができる。培養器の表面は、細胞付着を容易にするために、例えばゼラチン、コラーゲン、ポリリジン、または細胞外マトリクスの構成要素を用いて前処理またはコーティングすることができる。いくつかの高度な技法では、付着細胞(フィーダー細胞)の層全体が利用され、それらは、より多くの成長要件を要求する細胞の成長を支持するために使用される。
【0135】
細胞は通常、インビボで観察される条件を、綿密に模倣するよう設計された条件下で培養される。正常な生理的環境を模倣するために、細胞は一般に半合成成長培地を使ってCO2雰囲気下でインキュベートされる。培養培地は緩衝化され、なかんずく、アミノ酸、ヌクレオチド、塩類、ビタミンを含有し、ウシ胎仔血清(FCS)、ウマ血清、さらにはヒト血清などの血清のサプリメントも含有する。培養培地には、成長因子および阻害剤、例えばホルモン、トランスフェリン、インスリン、セレン、および付着因子などを、さらに補足することができる。
【0136】
概して、インビトロで成長させた細胞が、自らを組織化して組織になることはない。むしろ培養細胞は、組織培養ディッシュの表面で単層(またはいくつかの例では多層)として成長する。細胞は通常、それらが互いに接触して単層を形成し、それらが互いに接触した時に接触阻害によって成長を停止するまで、増加する。
【0137】
足場依存性細胞は付着という現象を示す。すなわちそれらは培養ディッシュまたは他の適切な支持体の不活性な表面に付着している場合にのみ、成長し増加する。そのような細胞は、通常、固形支持体なしでは成長することができない。多くの細胞はこの固形表面を必要とせず、足場非依存的成長として知られている現象を示す。したがって、これらの細胞を、培養下で成長させる変法の一つは、単一細胞が培地中に自由に浮遊し、絶えず撹拌または振とうすることによって懸濁状態に維持される、スピナー培養または懸濁培養の使用である。この技法は、バッチ培養で大量の細胞を成長させるのに特に有用である。
【0138】
足場非依存性細胞は通常、半固形培地(例えばマトリゲル)中でコロニーを形成する能力を持つ。スピナー培養で足場依存性細胞を成長させるためにも使用することのできる技法がいくつか開発されている。それらの技法では、これらの細胞が付着することのできる顕微鏡的に小さい正電荷デキストランビーズを利用する。
【0139】
細胞培養物を樹立するための出発材料は、滅菌条件下で得られる、適切なドナー由来の組織であることができる。これらの組織を切り刻み、トリプシン、コラゲナーゼまたはディスパーゼなどのタンパク質分解酵素で処理することにより、培養ディッシュの接種に使用することができる単一細胞懸濁液を得ることができる。いくつかの例では、EDTAを含有する緩衝液で処理することによっても、組織の分散が効果的に達成される。細胞培養開始の具体的一形態は、そこからインビトロで細胞が成長することのできる組織の小片を使用することである。
【0140】
数代にわたって継代維持された初代細胞培養物は、クライシス(ascrisis)を起こし得る。クライシスは通常、細胞の性質の変化を伴い、迅速に進行する場合も、何代にもわたる場合もある。接触阻害の喪失は、多くの場合、その正常な特徴を失っている細胞の指標になる。その場合、これらの細胞は組織培養ディッシュ中で多層として成長する。異常細胞の最も顕著な特徴は染色体数の変化であり、このプロセスを生き延びる多くの細胞は異数性である。異常染色体数への転換は通常、細胞形質転換と呼ばれ、このプロセスは、以後、連続継代によって無期限に培養することができる細胞を生じ得る。形質転換細胞は連続細胞株を生じる。
【0141】
本発明の一定の局面では、細胞を分化剤と一緒に培養する。細胞は、特定タイプの分化を達成するために、指定した条件下で培養され、所望の分化を助長するのに必要なさまざまな因子が与えられるだろう。
【0142】
C.細胞の成長と(再)分化
細胞増殖因子および分化因子は、細胞を刺激して、まずは複能性状態を維持したまま増殖させ、次に(再)分化を誘導する分子である。自発的な分化を妨げるために白血病阻害因子(LIF)を利用することができる。さらにまた、複能性細胞の、機能的に成熟した形態への、成長および分化を促進するための因子と共に培養することも試みることができる。成長および/または分化因子の投与は、必要に応じて繰り返すことができる。
【0143】
成長および/または分化因子は、細胞間伝達物質として作用するホルモン、サイトカイン、ケモカイン、ヘマトポエチン(hematapoietin)、コロニー刺激因子、インターロイキン、インターフェロン、増殖因子、他の内分泌因子、またはそれらの組合せを構成し得ると考えられる。そのような細胞間伝達物質の例は、リンホカイン、モノカイン、増殖因子および伝統的ポリペプチドホルモンである。増殖因子には、成長ホルモン、例えばヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン、およびウシ成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラキシン;プロリラキシン;糖タンパク質ホルモン、例えば卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、および黄体化ホルモン(LH);肝増殖因子(hepatic growth factor);プロスタグランジン、線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;OBタンパク質;腫瘍壊死因子αおよびβ;ミュラー阻害物質;マウス性腺刺激ホルモン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);神経成長因子、例えばNGF-β;血小板増殖因子;トランスフォーミング増殖因子(TGF)、例えばTGF-αおよびTGF-β;インスリン様成長因子IおよびII;エリスロポエチン(EPO);骨誘導因子(osteoinductive factor);インターフェロン、例えばインターフェロンα、β、およびγ;コロニー刺激因子(CSF)、例えばマクロファージ-CSF(M-CSF);顆粒球/マクロファージ-CSF(GM-CSF);ならびに顆粒球-CSF(G-CSF);インターロイキン(IL)、例えばIL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18が含まれる。CD14またはMyD88経路のシグナル伝達因子も考えられる。本明細書において使用する成長および/または分化因子という用語は、天然源由来のまたは組換え細胞培養物由来のタンパク質およびネイティブ配列の生物学的活性等価物(合成分子およびミメティックを含む)を包含する。
【0144】
天然幹細胞または本発明の脱分化細胞を培養する際は、支持体を使用することが望ましいだろう。支持体の一つはBD Biosciences Matrigel(商標)Basement Membrane Mixである。この材料は、肝細胞、上皮細胞、内皮細胞、平滑筋細胞およびニューロンの(再)分化に使用することができる(Biederer & Scheiffele, 2007;Li et al., 2005;Hadley et al., 1985;Ireland, 1997;McGuire & Orkin, 1987;Bissel, et al., 1987;Page et al., 2007;Li et al., 1987;Barcellof et al., 1989;Roskelley et al., 1994;Xu et al., 2007;Debnath et al., 2003;Muthuswamy et al., 2001;Madison et al., 1985;Xu et al., 1994;Fouad et al., 2005)。他の(再)分化法では、脾臓細胞の表現型および造血細胞の表現型を誘導することが求められるだろう。
【0145】
ビタミンA誘導体であるレチノイン酸は、B細胞(Chen et al., 2008)および神経細胞(Guan et al., 2001)を分化させるために使用することができる。さらにまた、Fico et al.(2008)は、ニューロンの一段階分化に役立つ方法および組成物を提供している。これらの論文の関連する教示内容は参照により本明細書に組み入れられる。
【0146】
VII.クローニング、遺伝子導入および発現のためのベクター
一定の態様では、発現ベクターを使って、Bright、ペプチド、ドミナントネガティブBrightタンパク質、抗体もしくはそのフラグメント、アンチセンス分子、リボザイムまたは干渉RNAなどの、さまざまな産物を発現させる。発現には、適当なシグナルがベクター中に用意されることが必要であり、そしてそれには、さまざまな調節要素が、例えば宿主細胞における関心対象の遺伝子の発現を駆動するウイルス源および哺乳動物源の両方に由来するエンハンサー/プロモーターが含まれる。宿主細胞におけるメッセンジャーRNAの安定性および翻訳可能性を最適化するように設計された要素も規定される。産物を発現している持続的安定細胞クローンを樹立するために、いくつかのドミナント薬物選択マーカーを使用するための条件も、薬物選択マーカーの発現をポリペプチドの発現と連鎖させる要素も、提供される。
【0147】
A.調節要素
本願の全体を通して、用語「発現コンストラクト」は、ある遺伝子産物をコードする核酸を含有し、その核酸コード配列の一部または全部が転写され得る、任意のタイプの遺伝子コンストラクトを包含するものとする。転写産物はタンパク質に翻訳されてもよいが、その必要があるわけではない。一定の態様において、発現には、遺伝子の転写と、mRNAの遺伝子産物への翻訳が、どちらも含まれる。別の態様において、発現には、関心対象の遺伝子をコードする核酸の転写だけが含まれる。
【0148】
一定の態様において、遺伝子産物をコードする核酸は、プロモーターの転写制御下にある。「プロモーター」とは、細胞の合成機構によって認識されるか、導入された合成機構によって認識される、遺伝子の特異的転写を開始させるのに必要なDNA配列を指す。「転写制御下」という表現は、そのプロモーターが、RNAポリメラーゼの反応開始および遺伝子の発現を制御するために、核酸に対して正しい位置および向きにあることを意味する。
【0149】
プロモーターという用語は、本明細書では、RNAポリメラーゼIIの開始部位の近くでクラスターを形成する一群の転写制御モジュールを指すために使用される。プロモーターがどのような構成を持つかに関する見解の多くは、いくつかのウイルスプロモーター(HSVチミジンキナーゼ(tk)およびSV40初期転写ユニットのプロモーターを含む)の解析から導き出される。これらの研究は、最近の研究によって補強されており、プロモーターは、離散した機能的モジュールから構成され、各モジュールは約7〜20bpのDNAからなり、転写活性化タンパク質または転写抑制タンパク質に対する認識部位を1つまたは複数含有することが示されている。
【0150】
各プロモーター中の少なくとも1つのモジュールは、RNA合成の開始部位の位置を定めるように機能する。その最もよく知られた例はTATAボックスであるが、哺乳類末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターおよびSV40後期遺伝子のプロモーターなど、TATAボックスを欠くいくつかのプロモーターでは、開始部位そのものに重なる離散した要素が、開始の位置を固定するのを助けている。
【0151】
追加のプロモーター要素は転写開始の頻度を調節する。通例、これらは、開始部位の上流30〜110bpの領域に位置するが、いくつかのプロモーターは、開始部位の下流にも機能的要素を含有することが、最近になって示されている。プロモーター要素間の間隔は、多くの場合、融通が利くので、要素を互いに倒置するか、相対的に移動させても、プロモーター機能は保存される。tkプロモーターの場合、50bpの距離までは、活性が低下し始めることなく、プロモーター要素間の間隔を増加させることができる。プロモーターによって、個々のエレメントは、協同的に機能するか、または独立に機能して、転写を活性化することができるようである。
【0152】
一定の態様では、ヒトサイトメガロウイルス(CMV)前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス長末端反復、ラットインスリンプロモーターおよびグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼを使って、関心対象のコード配列の高レベル発現を得ることができる。関心対象のコード配列の発現を達成するために当技術分野において周知の、他のウイルスプロモーターもしくは哺乳動物細胞プロモーターまたはバクテリオファージプロモーターを使用することも、その発現レベルが所与の目的にとって十分である限り、同様に考えられる。
【0153】
周知の性質を持つプロモーターを使用することにより、トランスフェクションまたは形質転換後に起こる関心対象のタンパク質の発現のレベルおよびパターンを、最適化することができる。さらにまた、特異的な生理的シグナルに応答して調節されるプロモーターを選択すれば、遺伝子産物の誘導性発現を可能にすることもできる。表2および3に、本発明との関連で、関心対象の遺伝子の発現を調節するために使用することができる調節要素を、いくつか列挙する。このリストは、遺伝子発現の促進に関与する、考え得る要素の全てを網羅しようとするものではなく、単にその例示であるに過ぎない。
【0154】
エンハンサーは、同じDNA分子上の離れた位置にあるプロモーターからの転写を増加させる遺伝要素である。エンハンサーはプロモーターと同じような構成を持つ。すなわち、エンハンサーは、多くの個別要素から構成され、そのそれぞれが1つまたは複数の転写タンパク質に結合する。
【0155】
エンハンサーとプロモーターとの基本的差異は、作用上の差異である。エンハンサー領域は全体として、離れた位置で転写を刺激することができなければならないが、プロモーター領域またはその構成要素の場合は、これが当てはまるとは限らない。一方、プロモーターが、特定部位で特定の向きにRNA合成の開始を指示する1つまたは複数の要素を持たなければならないのに対して、エンハンサーはこれらの特異性を欠く。プロモーターとエンハンサーは、重なり合い、連続していることが多く、しばしば極めて類似するモジュール構成を持つようである。
【0156】
以下に、発現コンストラクト中で関心対象の遺伝子をコードする核酸と組み合わせて使用することができるであろうウイルスプロモーター、細胞プロモーター/エンハンサーおよび誘導性プロモーター/エンハンサーのリストを示す(表4および表5)。さらにまた、どのプロモーター/エンハンサーの組合せ(真核生物プロモーターデータベースEPDBによる)も、遺伝子の発現を駆動するために使用することができる。適当な細菌ポリメラーゼが、送達複合体の一部として、または追加の遺伝子発現コンストラクトとして、提供されるのであれば、真核細胞は、一定の細菌プロモーターからの細胞質転写を支えることができる。
【0157】
(表4)プロモーターおよび/またはエンハンサー
【0158】
(表5)誘導性要素
【0159】
上記のリストのなかで特に興味深いのは、誘導性のプロモーター/調節領域である。本発明では、誘導された時にはBright/ARID3aの阻害剤を発現させるが、任意で、固体への再移植を目的として誘導剤を除去すれば、Bright/ARID3a阻害が緩和され、細胞が分化し、不死性を失い得るようなベクターの使用が考えられる。
【0160】
本発明者らは、レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターを使った核酸の送達を考えており、したがってこれらのベクター中にある内在性プロモーターの使用が予想される。
【0161】
B.ポリAおよび終止シグナル
cDNAインサートを使用する場合、通例、遺伝子転写産物の適正なポリアデニル化が達成されるように、ポリアデニル化シグナルを含むことが望まれるだろう。ポリアデニル化シグナルの性質は、本発明の実施の成功にとって決定的な問題であるとは考えられず、ヒト成長ホルモンおよびSV40ポリアデニル化シグナルなど、そのような配列はどれでも使用することができる。発現カセットの要素としてターミネーターも考えられる。これらの要素は、メッセージレベルを増強し、そのカセットから他の配列への読み過ごしを最小限に抑えるのに役立ち得る。
【0162】
C.選択可能マーカー
本発明の一定の態様では、細胞が本発明の核酸コンストラクトを含有し、細胞は、発現カセットにマーカーを含めることによって、インビトロまたはインビボで同定することができる。そのようなマーカーは、細胞に同定可能な変化を与えて、発現コンストラクトを含有する細胞の容易な同定を可能にする。通常、薬物選択マーカーを含めるとクローニングおよび形質転換体の選択が容易になり、例えばネオマイシン、ピューロマイシン、ハイグロマイシン、DHFR、GPT、ゼオシン、ヒスチジノールに対する耐性を付与する遺伝子、GFP、およびlacZは、有用な選択可能マーカーである。あるいは、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(tk)またはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)などの酵素、またはHAT選択を使用することもできる。免疫学的マーカーも使用することができる。使用される選択可能マーカーは、それが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現され得る限り、重要であるとは考えられない。選択可能マーカーのさらなる例は、当業者には周知である。
【0163】
D.多重遺伝子コンストラクトおよびIRES
本発明の一定の態様では、内部リボソーム結合部位(internal ribosome binding site)(IRES)要素を使って多重遺伝子メッセージ、すなわちポリシストロン性メッセージを生成させる。IRES要素は、5'メチル化Cap依存的翻訳のリボソームスキャニングモデルを迂回して、内部部位で翻訳を開始することができる(Pelletier and Sonenberg, 1988)。ピコルナウイルス(picanovirus)ファミリーの2つのメンバー(ポリオウイルスおよび脳心筋炎ウイルス)に由来するIRES要素(Pelletier and Sonenberg, 1988)ならびに哺乳動物メッセージ由来のIRES(Macejak and Sarnow, 1991)が記載されている。IRES要素は異種オープンリーディングフレームに連結することができる。複数のオープンリーディングフレームは、それぞれがIRESによって隔てられた形で一緒に転写され、ポリシストロン性メッセージを生成させることができる。IRES要素のおかげで、リボソームは各オープンリーディングフレームにアクセスすることができ、効率のよい翻訳が起こる。単一のプロモーター/エンハンサーを使って単一のメッセージを転写することにより、複数の遺伝子を効率よく発現させることができる。
【0164】
任意の異種オープンリーディングフレームをIRES要素に連結することができる。これには、分泌タンパク質、独立した遺伝子によってコードされた複数サブユニットタンパク質、細胞内または膜結合型タンパク質、および選択可能マーカーの遺伝子が含まれる。このようにして、単一のコンストラクトおよび単一の選択可能マーカーを使って、いくつかのタンパク質の発現を細胞中に同時に工作することができる。
【0165】
E.発現ベクターの送達
発現ベクターを細胞中に導入する方法はいくつかある。本発明の一定の態様では、発現コンストラクトがウイルスまたはウイルスゲノム由来の工学的に操作されたコンストラクトを含む。一定のウイルスが持つ、受容体介在性エンドサイトーシスによって細胞に進入するという能力、宿主細胞ゲノムに組み込まれてウイルス遺伝子を安定にかつ効率よく発現させるという能力は、それらを、哺乳動物細胞への外来遺伝子の導入にとって魅力的な候補にしている(Ridgeway, 1988;Nicolas and Rubenstein, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Temin, 1986)。遺伝子ベクターとして使用された最初のウイルスは、パポーバウイルス(シミアンウイルス40、ウシパピローマウイルス、およびポリオーマ)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986)およびアデノウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986)を含むDNAウイルスだった。これらは、外来DNA配列を収容する能力が比較的低く、宿主スペクトルも制限されている。さらにまた、許容細胞におけるそれらの発がん能および細胞変性効果は、安全上の懸念を生じる。これらは最大でも8kBの外来遺伝物質しか収容することができないが、さまざまな細胞株および実験動物に容易に導入することができる(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986)。
【0166】
i.アデノウイルスベクター
ある特定のインビボ送達様式ではアデノウイルス発現ベクターを使用する。「アデノウイルス発現ベクター」は、(a)コンストラクトのパッケージングを支えると共に(b)そこにクローニングされているアンチセンスポリヌクレオチドを発現させるのに十分なアデノウイルス配列を含有するコンストラクトを包含するものとする。この場合、発現は、遺伝子産物が合成されることを必要としない。
【0167】
発現ベクターは遺伝子操作された形態のアデノウイルスを含む。36kBの直線状二本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスの遺伝子構成の知識から、アデノウイルスDNAの大きな断片を7kBまでの外来配列で置換することが可能である(Grunhaus and Horwitz, 1992)。レトロウイルスとは対照的に、アデノウイルスDNAは潜在的遺伝毒性を持つことなくエピソーム的に複製することができるので、宿主細胞のアデノウイルス感染では染色体組込みが起こらない。また、アデノウイルスは構造的に安定であり、大規模な増幅後もゲノム再構成は検出されていない。アデノウイルスは、事実上全ての上皮細胞に、それらの細胞周期段階とは無関係に感染することができる。今までのところ、アデノウイルス感染は、ヒトでは急性呼吸器疾患などの軽度疾患にのみ関連づけられているようである。
【0168】
アデノウイルスは、中ぐらいのサイズのゲノムを持ち、操作が容易であり、力価が高く、ターゲット細胞域が広く、感染性が高いことから、遺伝子導入ベクターとしての使用にとりわけ適している。このウイルスゲノムの両端は100〜200塩基対の逆方向反復配列(ITR)を含有し、それらは、ウイルスDNAの複製およびパッケージングに必要なシス要素である。ゲノムの初期(E)領域と後期(L)領域は、ウイルスDNA複製の開始によって分割される、異なる転写単位を含有する。E1領域(E1AおよびE1B)は、ウイルスゲノムおよびいくつかの細胞遺伝子の転写の調節を担うタンパク質をコードしている。E2領域(E2AおよびE2B)の発現は、ウイルスDNA複製のためのタンパク質の合成をもたらす。これらのタンパク質は、DNA複製、後期遺伝子発現および宿主細胞シャットオフに関与している(Renan, 1990)。ウイルスキャプシドタンパク質の大半を含む後期遺伝子の産物は、主要後期プロモーター(MLP)によって生じた単一主要転写産物が著しいプロセシングを受けて初めて発現される。MLP(16.8m.u.に位置する)は、感染の後期では、とりわけ効率がよく、このプロモーターから生じたmRNAは全て5'-トリパータイトリーダー(TPL)配列を有し、それがそれらを翻訳にとって好ましいmRNAにする。
【0169】
現在の系では、シャトルベクターとプロウイルスベクターの間の相同組換えによって、組換えアデノウイルスが作製される。2つのプロウイルスベクター間での組換えが考えられるので、この工程からは野生型アデノウイルスが生成し得る。したがって、個々のプラークからウイルスの単一クローンを単離し、そのゲノム構造を調べることが決定的に重要である。
【0170】
複製欠損性である現在のアデノウイルスベクターの作製および増殖は、293と呼ばれるユニークなヘルパー細胞株(これは、ヒト胎児腎臓細胞からAd5 DNAフラグメントによって形質転換された細胞株で、E1タンパク質を構成的に発現させる)に依存する(Graham et al., 1977)。E3領域はアデノウイルスゲノムにとって必ずしも必要でないので(Jones and Shenk, 1978)、293細胞の助けを借りる現在のアデノウイルスベクターは、E1領域もしくはD3領域またはその両方に外来DNAを保持する(Graham and Prevec, 1991)。実際、アデノウイルスは野生型ゲノムの約105%をパッケージングすることができ(Ghosh-Choudhury et al., 1987)、約2kb分の余分なDNAを収容する能力を持つ。E1領域およびE3領域中の置き換えることができる約5.5kbのDNAと合わせると、現在のアデノウイルスベクターの最大収容能力は7.5kb未満、またはベクターの全長の約15%である。アデノウイルスゲノムの80%超がベクターバックボーン中に留まり、ベクターが媒介する細胞毒性の原因になる。また、E1欠失ウイルスの複製欠損性も不完全である。
【0171】
ヘルパー細胞株は、ヒト胎児腎臓細胞、筋細胞、造血細胞または他のヒト胚性間葉もしくは上皮細胞などのヒト細胞に由来し得る。あるいは、ヘルパー細胞は、ヒトアデノウイルスに関して許容性である他の哺乳動物種の細胞にも由来し得る。そのような細胞には、例えばベロ細胞または他のサル胚性間葉もしくは上皮細胞が含まれる。上述のように、好ましいヘルパー細胞株は293である。
【0172】
Racher et al.(1995)は、293細胞を培養しアデノウイルスを増殖させるための改良された方法を開示した。あるフォーマットでは、100〜200mlの培地を含有する1リットルシリコーン処理スピナーフラスコ(Techne、英国ケンブリッジ)に個々の細胞を接種することによって、天然の細胞凝集塊を成長させる。40rpmで撹拌した後、細胞生存度をトリパンブルーで見積もる。もう一つのフォーマットでは、Fibra-Celマイクロキャリア(Bibby Sterlin、英国ストーン)(5g/l)を、次のように使用する。5mlの培地に再懸濁した細胞接種材料を、250mlエルレンマイヤーフラスコ中の担体(50ml)に加え、ときおり撹拌しながら1〜4時間静置する。次に、培地を50mlの新鮮培地で置き換え、振とうを開始する。ウイルス生産のために、細胞を約80%コンフルエントまで成長させた後、培地を置き換え(最終体積の25%にする)、アデノウイルスを0.05のMOIで加える。培養物を一晩静置した後、体積を100%に増加し、さらに72時間の振とうを開始する。
【0173】
アデノウイルスベクターは複製欠損性であるか、少なくとも条件付きで欠損性であるべきという必要条件を除けば、アデノウイルスベクターの性質は、本発明の実施の成功にとって決定的な問題であるとは考えられない。アデノウイルスは、42の異なる公知血清型または亜群A〜Fのどれであってもよい。本発明で使用するための条件付き複製欠損性アデノウイルスベクターを得るには、亜群Cのアデノウイルス5型は好ましい出発物質である。これは、アデノウイルス5型が、非常に多くの生化学的および遺伝学的情報が知られているヒトアデノウイルスであり、歴史的にもアデノウイルスをベクターとして用いる構築の大半に使用されてきたからである。
【0174】
上述のように、典型的な本発明のベクターは複製欠損性であり、アデノウイルスE1領域を持たない。したがってこれは、E1コード配列が除去された位置に、関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドを導入するには、最も都合がよいだろう。しかし、アデノウイルス配列内のコンストラクトの挿入位置は、本発明にとって決定的な問題ではない。関心対象の遺伝子をコードするポリヌクレオチドは、Karlsson et al.(1986)に記載されているように、E3置換ベクターに、欠失させたE3領域の代わりに挿入してもよいし、ヘルパー細胞株またはヘルパーウイルスがE4欠損を補完する場合は、E4領域に挿入することもできる。
【0175】
アデノウイルスは、成長させるのも操作するのも容易であり、インビトロおよびインビボで広い宿主域を示す。このグループのウイルスは、高い力価(例えば109〜1012プラーク形成単位/ml)で得ることができ、感染性が高い。アデノウイルスの生活環は宿主細胞ゲノムへの組込みを必要としない。アデノウイルスベクターによって送達される外来遺伝子はエピソーム性であるため、宿主細胞に対する遺伝毒性は低い。野生型アデノウイルスのワクチン接種の研究において副作用が報告されていないこと(Couch et al., 1963;Top et al., 1971)は、インビボ遺伝子導入ベクターとしてのそれらの安全性および治療的有効性を示している。
【0176】
アデノウイルスベクターは真核生物遺伝子発現(Levrero et al., 1991;Gomez-Foix et al., 1992)およびワクチン開発(Grunhaus and Horwitz, 1992;Graham and Prevec, 1991)において使用されている。最近、組換えアデノウイルスを遺伝子治療に使用できることが、動物試験によって示唆された(Stratford-Perricaudet and Perricaudet, 1991;Stratford-Perricaudet et al., 1990;Rich et al., 1993)。組換えアデノウイルスを異なる組織に投与する試験には、気管内注入(Rosenfeld et al., 1991;Rosenfeld et al., 1992)、筋肉注射(Ragot et al., 1993)、末梢静脈内注射(Herz and Gerard, 1993)および脳への定位的接種(Le Gal La Salle et al., 1993)が含まれる。
【0177】
ii.レトロウイルス/レンチウイルス
レトロウイルスは、逆転写のプロセスによって感染細胞中でそのRNAを二本鎖DNAに変換する能力を特徴とする、一群の一本鎖RNAウイルスである(Coffin, 1990)。次に、その結果生じたDNAは、プロウイルスとして細胞染色体中に安定に組込まれ、ウイルスタンパク質の合成を指示する。この組込みの結果、レシピエント細胞およびその子孫では、ウイルス遺伝子配列が保持されることになる。レトロウイルスゲノムは、それぞれキャプシドタンパク質、ポリメラーゼ酵素およびエンベロープ構成要素をコードする3つの遺伝子、gag、polおよびenvを含有する。gag遺伝子の上流に見いだされる配列は、そのゲノムをビリオンにパッケージングするためのシグナルを含有する。ウイルスゲノムの5'端と3'端に2つの長末端反復(LTR)配列が存在する。これらは、強力なプロモーター配列およびエンハンサー配列を含有し、宿主細胞ゲノムへの組込みにも要求される(Coffin, 1990)。
【0178】
レトロウイルスベクターを構築するには、複製欠損性であるウイルスが生じるように、一定のウイルス配列の代わりに、関心対象の遺伝子をコードする核酸を、ウイルスゲノム中に挿入する。ビリオンを生産するには、gag、polおよびenv遺伝子は含有するがLTRおよびパッケージング構成要素を持たないパッケージング細胞株を構築する(Mann et al., 1983)。レトロウイルスLTRおよびパッケージング配列と一緒にcDNAを含有する組換えプラスミドが(例えばリン酸カルシウム沈殿法によって)この細胞株に導入されると、そのパッケージング配列によって、組換えプラスミドのRNA転写産物は、ウイルス粒子にパッケージングされることが可能になり、次にそれが培養培地中に分泌される(Nicolas and Rubenstein, 1988;Temin, 1986;Mann et al., 1983)。次に、組換えレトロウイルスを含有する培地を収集し、任意で濃縮し、遺伝子導入に使用する。レトロウイルスベクターは、多種多様な細胞タイプに感染することができる。ただし、組込みと安定な発現には、宿主細胞の分裂を必要とする(Paskind et al., 1975)。
【0179】
レトロウイルスベクターの特異的ターゲティングが可能になるように設計されたアプローチが、ウイルスエンベロープへのラクトース残基の化学的付加によるレトロウイルスの化学修飾に基づいて開発された。この修飾は、シアロ糖タンパク質受容体を介した肝細胞の特異的感染を可能にすることができた。
【0180】
レトロウイルスエンベロープタンパク質に対するビオチン化抗体および特異的細胞受容体に対するビオチン化抗体を使用する、組換えレトロウイルスのターゲティングに対する異なるアプローチが設計された。これらの抗体は、ストレプトアビジンを使用することにより、ビオチン構成要素を介して、カップリングされた(Roux et al., 1989)。主要組織適合性複合体クラスIおよびクラスII抗原に対する抗体を使用することにより、これらの表面抗原を持つさまざまなヒト細胞が、インビトロで、エコトロピックウイルスによる感染を起こすことが実証された(Roux et al., 1989)。
【0181】
本発明の全ての局面において、レトロウイルスベクターの使用には、一定の制限がある。例えば、レトロウイルスベクターは通常、細胞ゲノムのランダムな部位に組み込まれる。これは、宿主遺伝子の中断による、または隣接遺伝子の機能を妨げることになり得るウイルス調節配列の挿入による、挿入突然変異誘発をもたらし得る(Varmus, et al., 1981)。欠損性レトロウイルスベクターの使用に伴うもう一つの懸念は、パッケージング細胞における野生型複製コンピテントウイルスの潜在的出現である。これは、組換えウイルス由来の無傷な配列が、宿主細胞ゲノムに組み込まれたgag、pol、env配列の上流に挿入されるような組換え事象によって起こり得る。しかし、組換えの可能性を著しく低下させるに違いない新しいパッケージング細胞株が、現在では利用可能である(Markowitz et al., 1988;Hersdorffer et al., 1990)。
【0182】
レンチウイルスは、一般的なレトロウイルス遺伝子であるgag、polおよびenvに加えて、調節機能または構造機能を持つ他の遺伝子も含有する複合型レトロウイルスである。レンチウイルスベクターは当技術分野において周知である(例えばNaldini et al., 1996;Zufferey et al., 1997;Blomer et al., 1997;米国特許第6,013,516号および同第5,994,136号を参照されたい)。レンチウイルスの例をいくつか挙げると、ヒト免疫不全ウイルスHIV-1、HIV-2およびサル免疫不全ウイルスSIVなどがある。HIVビルレンス遺伝子を多重に弱毒化することによってレンチウイルスベクターが作製されている(例えば、遺伝子env、vif、vpr、vpuおよびnefを欠失させると、ベクターが生物学的に安全になる)。
【0183】
組換えレンチウイルスベクターは、非分裂細胞に感染する能力を持ち、インビボとエクスビボの両方で遺伝子導入と核酸配列の発現に使用することができる。例えば、非分裂細胞に感染する能力を持つ組換えレンチウイルス(この場合は、適切な宿主細胞が、パッケージング機能、すなわちgag、polおよびenv、ならびにrevおよびtatを保有する2つまたはそれ以上のベクターでトランスフェクトされる)が、参照により本明細書に組み入れられる米国特許第5,994,136号に記載されている。エンベロープタンパク質を抗体と連結するか、特定細胞タイプの受容体にターゲティングするための特定リガンドと連結することにより、組換えウイルスをターゲティングすることができる。関心対象の配列(調節領域を含む)を、例えば特異的ターゲット細胞上の受容体のリガンドをコードする別の遺伝子と一緒に、ウイルスベクター中に挿入することにより、そのベクターはターゲット特異的になる。
【0184】
iii.他のベクター
本発明では、他のウイルスベクターを発現コンストラクトとして使用することもできる。ワクシニアウイルス(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar et al., 1988)、アデノ随伴ウイルス(AAV)(Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Hermonat and Muzycska, 1984)およびヘルペスウイルスなどのウイルスに由来するベクターを使用することができる。これらは、さまざまな哺乳動物細胞にとって魅力的な特徴を、いくつか持っている(Friedmann, 1989;Ridgeway, 1988;Baichwal and Sugden, 1986;Coupar 1988;Horwich et al., 1990)。
【0185】
しばしばEBVと呼ばれるエプシュタイン・バーウイルスは、ヘルペスウイルスファミリーのメンバーであり、最も一般的なヒトウイルスの一つである。このウイルスは世界中に存在し、大半の人々が生存中にいつかはEBV感染者になる。米国では、年齢35〜40歳の成人の95%もの人々が既に感染している。EBVによる感染が思春期または青年期に起こった場合、それは、その時点で35%〜50%に伝染性単核球症を引き起こす。EBVベクターを使ってDNA配列が細胞に、特にBリンパ球に、効率よく送達されている。Robertsonら(1986)に、遺伝子治療ベクターとしてのEBVの総説がある。
【0186】
欠損性B型肝炎ウイルスが認識されたことにより、異なるウイルス配列の構造機能相関への新しい洞察が得られた。インビトロ研究により、このウイルスは、そのゲノムの最大80%の欠失にもかかわらず、ヘルパー依存的パッケージングおよび逆転写の能力を保ち得ることが示された(Horwich et al., 1990)。これにより、そのゲノムの大部分を外来遺伝物質で置き換え得ることが示唆された。向肝性(hepatotropism)および持続性(組込み)は、肝臓を指向する遺伝子導入にとっては、とりわけ魅力的な性質だった。Changらは、アヒルB型肝炎ウイルスゲノムに、ポリメラーゼ、表面(surface)、およびプレ表面(pre-surface)コード配列の代わりに、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子を導入した。これが野生型ウイルスと共にトリ肝細胞癌細胞株中にコトランスフェクトされた。高力価の組換えウイルスを含有する培養培地を使って、初代コガモ肝細胞を感染させた。安定なCAT遺伝子発現が、トランスフェクション後、少なくとも24日間は検出された(Chang et al., 1991)。
【0187】
iv.非ウイルス的方法
本発明では、発現コンストラクトを培養哺乳動物細胞に導入するための非ウイルス的方法もいくつか考えられる。これらには、リン酸カルシウム沈殿法(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990)、DEAE-デキストラン法(Gopal, 1985)、エレクトロポレーション(Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984)、直接微量注入法(Harland and Weintraub, 1985)、DNA負荷リポソーム(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979)およびリポフェクトアミン-DNA複合体、細胞音波処理(Fechheimer et al., 1987)、高速微量マイクロプロジェクタイル(microprojectile)を使用する遺伝子ボンバードメント(bombardment)(Yang et al., 1990)、および受容体媒介トランスフェクション(Wu and Wu, 1987;Wu and Wu, 1988)が含まれる。これらの技法のいくつかは、インビボ用途またはエクスビボ用途に、うまく適合させることができる。
【0188】
発現コンストラクトが細胞中に送達されたら、関心対象の遺伝子をコードする核酸は、さまざまな部位に配置され、そこで発現され得る。一定の態様では、遺伝子をコードする核酸を、細胞のゲノム中に安定に組み込むことができる。この組込みは、相同組換えによってコグネイト(cognate)な位置および向きで起こるか(遺伝子置換)、ランダムな非特異的位置に組込まれる得る(遺伝子増強)。さらなる態様において、核酸は、DNAの独立したエピソームセグメントとして、細胞中に安定に維持され得る。そのような核酸セグメントまたは「エピソーム」は、宿主の細胞周期とは独立して、または宿主の細胞周期と同期して、維持および複製を可能にするのに十分な配列をコードする。発現コンストラクトが細胞にどのように送達されるか、細胞内のどこに核酸が留まるかは、使用される発現コンストラクトのタイプに依存する。
【0189】
さらにもう一つの本発明の態様では、発現コンストラクトが、単に裸の組換えDNAまたはプラスミドからなってもよい。このコンストラクトの導入は、細胞膜を物理的または化学的に透過処理する上述の方法のいずれかによって行うことができる。これは特にインビトロでの導入に応用できるが、インビボでの使用にも同様に応用することができる。Dubensky et al.(1984)は、成体マウスおよび新生仔マウスの肝臓および脾臓に、ポリオーマウイルスDNAを、リン酸カルシウム沈殿物の形で注入することに成功して、活発なウイルス複製および急性感染を実証した。BenvenistyおよびNeshif(1986)も、リン酸カルシウム沈殿したプラスミドの直接腹腔内注射が、トランスフェクトされた遺伝子の発現をもたらすことを実証した。関心対象の遺伝子をコードするDNAも、同じようにしてインビボで導入され、遺伝子産物を発現させ得ると考えられる。
【0190】
本発明のさらにもう一つの態様では、裸のDNA発現コンストラクトを細胞に導入するために、粒子ボンバードメントを使用する。この方法は、DNAでコーティングされたマイクロプロジェクタイル(microprojectile)を高速に加速して、それらが細胞膜を貫通し細胞を殺さずに細胞内に進入できるようにする能力に依存する(Klein et al., 1987)。小さい粒子を加速するための装置はいくつか開発されている。そのような装置の一つは、高電圧放電によって電流を発生させ、それが結果として推進力を与える(Yang et al., 1990)。使用されるマイクロプロジェクタイルは、タングステンビーズまたは金ビーズなどの生物学的に不活性な物質からなっている。
【0191】
ラットおよびマウスの肝臓、皮膚および筋肉組織を含む選ばれた臓器に対し、インビボで、ボンバードメントが行われている(Yang et al., 1990;Zelenin et al., 1991)。これは、銃とターゲット臓器の間に介在する組織を排除するために、組織または細胞を外科的に露出させること、すなわちエクスビボ処置を必要とし得る。ここでも、特定の遺伝子をコードするDNAを、この方法で送達することができ、やはり本発明によって包含される。
【0192】
本発明のさらなる態様では、発現コンストラクトをリポソーム中に封入することができる。リポソームは、リン脂質二重膜と内部の水性媒質とを特徴とする小胞構造である。多重膜リポソームは、水性媒質によって隔てられた複数の脂質層を持つ。これらは、リン脂質を過剰量の水溶液に懸濁すると、自発的に形成される。脂質構成要素は、自己再構成を起こして閉じた構造を形成し、脂質二重層の間に水と溶解した溶質とを封入する(Ghosh and Bachhawat, 1991)。リポフェクトアミン-DNA複合体も考えられる。
【0193】
インビトロでのリポソームによる核酸送達と外来DNAの発現では大変良い結果が得られている。Wong et al.(1980)は、培養ニワトリ胚、HeLa細胞および肝細胞癌細胞において、リポソームによる送達と外来DNAの発現が実施可能であることを実証した。Nicolau et al.(1987)は、ラットで、静脈内注射後のリポソームによる遺伝子導入に成功した。
【0194】
本発明の一定の態様では、リポソームを、赤血球凝集ウイルス(HVJ)との複合体にすることができる。これは、細胞膜との融合を容易にし、リポソームに封入されたDNAの細胞進入を促進することが示されている(Kaneda et al., 1989)。別の態様では、リポソームを、核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG-1)との複合体にするか、それと一緒に使用することができる(Kato et al., 1991)。さらなる態様では、リポソームを、HVJおよびHMG-1の両方との複合体にするか、それらと一緒に使用することができる。そのような発現コンストラクトは、インビトロおよびインビボで、核酸の導入および発現に使用され成功を収めているので、それらは本発明にも応用することができる。細菌プロモーターをDNAコンストラクト中に使用する場合は、リポソーム内に適当な細菌ポリメラーゼを含めることも望ましいだろう。
【0195】
特定の遺伝子をコードする核酸を細胞中に送達するために使用することができる他の発現コンストラクトに、受容体介在型送達媒体がある。これらは、ほとんど全ての真核細胞における受容体介在性エンドサイトーシスによる高分子の選択的取込みを利用する。さまざまな受容体が細胞タイプ特異的に分布しているので、この送達は高い特異性を持つことができる(Wu and Wu, 1993)。
【0196】
受容体介在型遺伝子ターゲティング媒体は、一般に、2つの構成要素、すなわち細胞受容体特異的リガンドとDNA結合剤とからなる。受容体介在型遺伝子導入にはいくつかのリガンドが使用されている。最も詳細に特徴づけられたリガンドは、アシアロオロソムコイド(ASOR)(Wu and Wu, 1987)およびトランスフェリン(Wagner et al., 1990)である。最近、ASORと同じ受容体を認識する合成ネオ糖タンパク質が遺伝子送達媒体として使用されており(Ferkol et al., 1993;Perales et al., 1994)、上皮増殖因子(EGF)も扁平上皮癌細胞に遺伝子を送達するために使用されている(Myers, EPO 0273085)。
【0197】
別の態様では、送達媒体がリガンドおよびリポソームを含み得る。例えばNicolau et al.(1987)は、リポソームに組み込まれたラクトシルセラミド、ガラクトース末端アシアロガングリオシドを使って、肝細胞によるインスリン遺伝子の取り込みの増加を観察した。したがって、特定の遺伝子をコードする核酸は、リポソームを使って、またはリポソームを使わずに、いくつもの受容体-リガンド系により、ある細胞タイプ中に特異的に送達することもできると考えられる。例えば上皮増殖因子(EGF)は、EGF受容体のアップレギュレーションを示す細胞に核酸を仲介送達するための受容体として使用することができる。マンノースを使って、肝細胞上のマンノース受容体を標的にすることもできる。また、CD5(CLL)、CD22(リンパ腫)、CD25(T細胞白血病)およびMAA(メラノーマ)に対する抗体も、ターゲティング部分として、同様に使用することができる。
【0198】
一定の態様では、遺伝子導入を、エクスビボ条件下で、さらに容易に行うことができる。エクスビボ遺伝子治療とは、細胞を動物から単離し、その細胞にインビトロで核酸を送達した後、改変された細胞を動物中に戻すことを指す。これは、動物からの組織/臓器の外科的摘出、または細胞および組織の初代培養を必要とし得る。
【0199】
VIII.キット
本明細書に記載する応用例で使用するためのキットも本発明の範囲に包含される。そのようなキットは、バイアル、チューブなどの1つまたは複数の入れ物を収容するように区画化された担体、パッケージまたは入れ物を含むことができ、それらの入れ物のそれぞれは、本方法で使用される個別の要素の一つ、特にBright阻害剤を含む。本発明のキットは、通例、上述の入れ物と、販売時のエンドユーザーの立場から見て望ましい材料、例えば緩衝剤、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、および取扱説明が記載された添付文書などを含む、1つまたは複数の他の入れ物とを含むだろう。さらにまた、その組成物が特殊な治療的応用のためのものであることを表示するラベルを入れ物の上に設けることもでき、それらのラベルは、上述したようなインビボ使用またはインビトロ使用に関する指示も表示することができる。指示および/または他の情報は、キットに同梱される添付文書に含めることもできる。
【実施例】
【0200】
IX.実施例
以下の実施例は、本発明のさまざまな局面を、さらに例証するために記載するものである。以下の実施例で開示される技法は、本発明の実施においてうまく機能することを本発明者らが発見した技法および/または組成物を表し、したがって本発明を実施するための好ましい形態を構成するとみなし得ることは、当業者には理解されるはずである。ただし、ここに開示される具体的態様には、本発明の要旨および範囲から逸脱することなく、数多くの変更を加えることができ、それでもなお同様のまたは類似した結果が得られることを、当業者は本明細書の開示に照らして理解すべきである。
【0201】
実施例1:暫定的データ
ドミナントネガティブ(DN)ARID3aを発現するトランスジェニックマウスの解析に際し、本発明者らは全脾臓細胞を培養して、これらの培養物から得られる細胞が、非トランスジェニック脾臓細胞にはない自己複製能を持つことを発見した。実際、本発明者らは、それらの細胞を6ヶ月超培養することができ、複数の細胞タイプ-付着性線維芽細胞様および小リンパ球様-が、長期間にわたって維持されることに気付いた。複数の表面マーカーも存在し、複数の細胞タイプの通常ではない取り合わせが、長期間にわたって維持された。対照脾臓B細胞は約6週間で死んだ。また、通常の添加剤を含む5%RPMI成長培地で維持したARID3a欠損マウス由来の脾臓細胞(Ho et al., 2009)は、数ヶ月間の培養後に、胚様体(図1に示すもの)を自発的に生成することがわかった。複数の胚様体が特に飢餓期間後は自発的に発生することが観察されたが、現在までのところ、心臓組織を示すような周期的に拍動するものは観察されていない。これらの培養物には、表面染色および顕微鏡観察によって証明されるとおり、複数の細胞タイプが観察された(図2A〜2D)。EPCRおよび他の内皮細胞マーカーを発現させて管状構造を形成する内皮様細胞は、複数のARID3a欠損脾臓源から、容易に生成した(図2A)。異なる形態を持つ他の細胞も同じ培養物中に明確に認めることができた(図2B)。元の3つの脾臓培養物の一つから得られた細胞は、現在まで1年間にわたって維持されている。過去2ヶ月間生き続けた対照培養物はなかった。
【0202】
本発明者らは、自己複製する多能性細胞を、7つのARID3a欠損脾臓、4つのARID3a欠損骨髄培養物および1つの腎臓培養物から生成させた。したがってARID3a欠損は、複数の組織源から、自己複製能を持つ細胞をもたらすようである。骨髄培養物の1つを、マトリゲル培養において、内皮管を生成させる能力について試験したが、そうはならずに、2〜3週間の培養期間で神経球(neural sphere)および分化した神経様細胞を生じた(図2C〜D)。骨髄培養物は脂肪細胞および間質細胞もすぐに形成させた(未掲載)。腎臓培養物は、今のところまだ同定されていない複数の形態学的に異なる細胞タイプを含有した。これらの結果は、ARID3a阻害が、複数の細胞系譜に分化する能力を持つ幹細胞の派生またはそのような幹細胞への脱分化をもたらすという考えと合致する。
【0203】
いくつかの遺伝子産物は、幹細胞を作り出しかつ/または維持するのに極めて重要であることが知られており、それらにはSox-2、Oct-4、myc、nanog、Klf4およびlin28が含まれる。図3A〜Dは、本発明者らが、そのARID-3a欠損培養物において、Sox-2、nanog、myc、およびKlf4の発現を観察したことを示しており、これにより、初期多能性細胞が存在することが示唆される。幹細胞マーカーに関する表面染色でも、c-kit、sca-1およびCD9などの初期幹細胞系譜マーカーが示される(未掲載)。これらのデータは、これらの自己複製培養物内に多能性細胞が存在することを、さらに示している。
【0204】
多能性脾臓細胞から得た上清は、標準ES細胞株の成長および分化を誘導するのに有効であることが示された(図4)。したがって、ARID3a欠損培養物中の多能性細胞は、幹細胞の成長を増強するケモカインおよび/または増殖因子を産生する可能性が高い。そのような上清および/または精製増殖因子は、利用可能な標準ES細胞株を成長させるのに有益であることが判明するだろう。
【0205】
ノックアウトARID3a組織とドミナントネガティブARID3a組織の両方を使った結果から、ARID3a欠損は自発的な自己複製および多能性を引き起こすのに十分であることが示唆され、ARID3a阻害によって複数の成体組織から幹細胞を作製できることが示唆される。図5A〜FはB細胞からの多能性幹細胞生成を示している。ドミナントネガティブBrightトランスジェニックマウスから、骨髄プロB細胞を、フローサイトメトリーにより、CD43- IgM- B220+ 細胞として(図5A)、選別後解析(図5B)によって示されるように、>95%の純度で単離した。LIFを添加して、照射マウス胚性線維芽細胞上で4週間成長させた後に、対照C57Bl/6バックグラウンドプレB細胞は、図5Cに示すように、依然としてプレB細胞に似ていた。ドミナントネガティブ培養物には、LIFの非存在下でも、多細胞幹細胞様コロニーが観察された(図5Dおよび5E)。ドミナントネガティブマウス由来のバルク脾臓培養物(SCDND*36および50)から得られるゲノムDNAを増幅したところ、対照(SC57#1)培養物と比較して、D-J再構成の増加を示したことから、B細胞前駆体に由来する細胞の数が増加していることが示唆された。
【0206】
実施例2:材料および方法
マウス エクソン1〜7を除去してヌル対立遺伝子を作製する戦略を使って、129sV ES細胞における標準的なターゲティング技法によって作製された、従来型Bright-/-マウス(図15)(テキサス大学オースティン校のPhilip Tucker博士から提供された)。生殖系列遺伝Bright-/-子孫の99%以上が、E10.5〜E13.5の間に、赤血球生成の失敗によって死亡した。この研究で使用した稀な成体ホモ接合型生存個体は、混合C57BL6/129sVバックグラウンドを持ち、2〜5ヶ月齢だった。FVB/Nバックグラウンドを持つDN Brightトランスジェニックマウスは、以前に記載されており(Nixon et al., 2008)、現在では、C57Bl/6に10世代にわたって戻し交配されている。Nod.CB17-Prkdcscid/Jマウスは、Jackson Laboratoriesから入手した。動物は、施設の承認を得て、審査委員会が指定したガイドライン内で使用した。
【0207】
組織培養およびiPS誘導 Bright-/-マウスまたはDNトランスジェニックマウスから得た全脾臓、腎臓、リンパ節または骨髄を掻き裂いて単一細胞懸濁液とし、5%FBSと標準的補助剤とを含有するRPMI1640を、毎週2〜3回、供給した(Webb et al., 1989)。マウスES細胞およびiPS様細胞を、MEF上で、10ng/ml LIFを加えて成長させ、記載されているように、トリプシンを使って継代した(Meissner et al., 2009)。胚様体形成および分化アッセイは標準的プロトコールを使って行った(Meissner et al., 2009)。MEFは129svマウスから記載されているように調製した(Meissner et al., 2009)。奇形腫形成は2×106個の細胞をNod/Scidマウスに筋肉内注射することによって誘導した。外科的に切離した腫瘍をパラフィン包埋し、ヘマトキシリン(heamatoxylin)とエオシンで染色し、認可病理専門医(licensed pathologist)によって評価が行われた(S. Kosanke、OUHSC、オクラホマ州)。
【0208】
免疫蛍光染色および顕微鏡検査 細胞を4%PFA中、室温で20分間固定し、洗浄し、5%ロバ血清、1%BSA(Sigma)、および0.1%Triton X-100を含有するPBSで、室温で45分間処理した(Takahashi and Yamanaka, 2006;Takahashi et al., 2007)。一次抗体は、Sox2(MAB4343)、Oct4(MAB4305)、SSEA1(MAB4301)、ネスチン(MAB353)、およびβIII-T(CBL412)に対する抗体(Chemicon製);Nanogに対する抗体(AF2729、R&D Systems)、ならびにα-SMA(N1584)およびAFP(N1501)に対する抗体(Dako製)とした。ポリクローナルウサギおよびヤギ抗Bright試薬は、以前に記載されている(Herrscher et al., 1995;Nixon et al., 2004)。適当なアイソタイプ対照および発蛍光団で標識された二次抗体は、Molecular Probesから購入した。核染色にはDAPIを使用した(D1306、Molecular Probes)。
【0209】
RT-PCRおよびウェスタンブロッティング 全RNAをArrayGrade Total RNA Isolation Kit(SABiosciences、メリーランド州フレデリック)で単離し、DNase I(Promega、ウィスコンシン州マディソン)で処理し、First Strand Synthesisキット(Invitrogen)を使って、製造者のプロトコールに従って逆転写した。定量PCRは、SYBR Green/ROX qPCR Master Mix(SABiosciences、メリーランド州フレデリック)で行い、7500リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)で解析した。遺伝子発現をGAPDHに対して規格化した。マウスSox2およびLin28プライマーは、それぞれ
とした。他のヒトプライマー(Yu et al., 2007;Nixon et al., 2004;Park et al., 2008)およびマウスプライマー(Tanaka et al., 2007;Liu et al., 2007;Kinoshita et al., 2007;Shaffer et al., 2002)は、記載されているとおりとした。ウェスタンブロッティングは、記載されているように(Nixon et al., 2008)、ポリクローナル抗Brightおよび抗アクチンを使って行った。
【0210】
レンチウイルスの作製および形質導入 shRNA(表7)をpSIF-H1-copGFPレンチウイルスベクター(System Biosciences、カリフォルニア州マウンテンビュー)にサブクローニングし、LipoD293(商標)DNAトランスフェクション試薬(SignaGen Laboratories、メリーランド州ゲイサーズバーグ)で、製造者のプロトコールに従って、pFIV-34NプラスミドおよびpVSV-Gプラスミドと共にコトランスフェクトすることにより、パッケージングした。ウイルスを収集し、0.45μm滅菌フィルターを使って濾過し、48〜72時間後に限外濾過によって濃縮した。力価は、フローサイトメトリーにより、GFP陽性細胞の数で決定した。BCg3R-1d細胞または293T細胞をウイルスおよび6μg/mlポリブレン(Sigma)で24時間処理した。iPS様細胞に、10ng/ml LIFを含むES培地(20%FBS、0.1mM非必須アミノ酸、および0.1mMβ-メルカプトエタノールを含有するDMEM)を供給し、ゼラチン被覆プレート中の照射MEFフィーダー細胞上に播種した。培地は1日置きに替えた。
【0211】
実施例3:結果
Bright/ARID3a機能は、Bリンパ球におけるIgH転写活性へのその寄与を除けば(Rajaiya et al., 2006;Kaplan et al., 2001)、よくわからないままであった。ゼノパス(Xenopus)およびショウジョウバエ(Drosophila)におけるそのオルソログと同様に(Shandala et al., 1999;Callery et al., 2005)、ヌルBrightマウスは胚発生の初期に死亡した。しかし、稀(<1%)にBright-/-マウスは、死なずに生き延び、その組織全体のインビトロ成長は、複数の細胞タイプを生成する能力を維持した寿命の長い自己複製する培養物をもたらした。さらにまた、BrightのDNA結合機能を妨害するドミナントネガティブ(DN)型のBrightを発現するトランスジェニックマウスに由来する組織からも、類似する培養物が樹立された(Nixon et al., 2004;Nixon et al., 2008)。そのような培養物は、5%FBSを含有する通常のRPMI1640培地中で、増殖因子を何も追加しなくても、容易に維持され、脾臓、骨髄、リンパ節および腎臓を含む多種多様な成体組織から生成させることができた。これらの細胞は接触阻害を示し、ゆっくりと成長し、形質転換されていないようだった。しかし、それらは凍結後に回復させることができ、培養下で無期限に(場合によっては>1年)維持することができた(図6)。正常対照から得た細胞は、通例、6週間未満しか生き延びず、培養の最後まで、主として間質様の性質だった。これらのデータは、Bright機能の喪失が自己複製を促進するのに十分であることを示唆している。
【0212】
本発明者らは、Bright-/-組織に由来する過成長培養物が、複数の形態を持つ細胞を含有するエンブリオイド様ボディを、自発的に形成することを観察した(図6A)。強化培地により、そのボディは広がって、培養ディッシュに付着した状態になり、脱凝集し、さまざまな分化レベルを持つ複数の細胞タイプへと転換した。Bright-/-脾臓株は、枝分れして成長する内皮様細胞を、自発的に生成した。これらの培養物に、1%脳材料(brain food)およびヘパリンを含む内皮細胞添加剤を含有する成長培地を供給したところ、ノックアウト細胞は、形態学的にも(Bakre et al., 2007)、免疫組織学的にも、分化した内皮細胞の特徴をよく示す(図6C)、管状構造物を自発的に形成した(図6B)。マトリゲルに播種した3週間後に、Bright-/-骨髄培養物は、初期ニューロンマーカーネスチンに関して陽性な(図6E)長い軸索様の突起(図6D)を持つニューロン様細胞の大きな凝集塊を形成した。これらのデータは全体として、Brightの喪失が細胞の正常な分化パターンを破壊して、それらが予想外の可塑性を維持するようになることを示唆している。
【0213】
本発明者らはエンブリオイド様ボディと、外胚葉系譜および中胚葉系譜を代表する成熟細胞タイプを観察したので、これらのBright欠損培養物が幹細胞を含有するのかもしれないという仮説を立てた。Bright発現は胚様体の分化後に急速に増加することが以前に示されている(Wang et al., 2006)ということが、この考えをさらに後押しした。図2Aに見られるように、一般に多能性と関連づけられるいくつかの遺伝子が、Bright-/-組織では、ES細胞におけるそれに匹敵するレベルまで活性化された。通常の脾臓細胞由来培養物に存在しないNanog発現が全てのBright-/-培養物で強く誘導されたのに対し、Sox2はさまざまなアップレギュレーションを示した。Klf4およびc-myc転写産物は正常組織対照にもBright-/-培養物にも観察されたが、Oct4およびLin28発現は、マウスiPS様細胞には通例、観察されなかった。これらのデータはBright-/-細胞がiPS多能性マーカーのサブセットを発現していることを示唆している。
【0214】
これらの培養物は通常の培養条件下で複数の細胞タイプに自発的に分化し、したがって遺伝子発現パターンが経時的に変化したので、本発明者らは、通常のESおよびiPS細胞の維持で日常的に行われているように、Bright-/-細胞を、分化阻害サイトカイン白血病阻害因子(LIF)の存在下で、マウス胚性線維芽細胞フィーダー(MEF)上に蒔いた。4〜6週間の期間後に、本発明者らは、ES細胞マーカーSSEA-1(図7B)およびNanog(未掲載)を発現するiPS様の形態を持つクローンを単離することができた。これらの細胞は安定なiPS様表現型を示し、Bright-/-マウスの複数の組織からiPS様細胞を単離できることを示す。
【0215】
同様に、DN Brightトランスジェニックマウスから得られる脾臓および骨髄は、エンブリオイド様ボディを自発的に形成する能力(図8A)、ならびに種々の系譜表面マーカー発現(例えばCD3、Mac-1、およびGR-1;データ未掲載)およびNanogのアップレギュレーション(図8B)を持つ細胞に自発的に転換する能力を示した。本発明者らのトランスジェニックマウスは、B細胞特異的CD19プロモーターからDN Brightを発現させる(Nixon et al., 2008)。DNトランスジェニックマウスは、CD19+成熟DN Bright発現B細胞を生成しなかった(Nixon et al., 2008)。したがって、Bright機能の喪失は、正常なB細胞分化経路を辿る代わりに、これらのBリンパ球を停止させ、再プログラムするのだろう。これらのマウスから得たDN由来非B細胞含有組織(例えば腎臓および肝臓)が自己複製能および長期成長能を示し得なかったことは、自己複製細胞がBright欠損Bリンパ球から派生するという仮説と合致している。この仮説のさらなる裏付けとして、DNトランスジェニック骨髄および脾臓から樹立された長期細胞株は、そのIgH座位のD-JH再構成を示した(図8Cおよび未掲載データ)。再構成していない生殖系列バンドを示すPCR産物も存在したが、それは、再構成されていない対立遺伝子に起因するものであるか、または培養物内に非B細胞由来の間質細胞が存在することを示し得る。また、本発明者らは、脾臓由来のDN Bright培養物にはκ軽鎖再構成の証拠(図8D)を検出したが、骨髄由来のものにはそれがなかった。これは、このコンパートメントが主としてまだ軽鎖座位を再構成していない初期B細胞から構成されることと合致する。
【0216】
本発明者らは、DNトランスジェニックおよび対照C57Bl/6プレB細胞の両方を選別し(図11)、それらをLIFの存在下、MEF上で培養した。培養下で4週間後に、C57Bl/6培養物にはいくつかのリンパ球様細胞が残っていたが、DN BrightプレB細胞は、形態学的にiPS細胞コロニーに似たコロニーへと発生していた(図8E)。これらのコロニーは、培養下で持続的に保持することが、より困難であった。これらのコロニーは、その自己複製能を助長するために、まだ同定されていない追加の増殖因子および/または他の因子を必要とし得る。iPS作製のための標準的方法を使ってB系譜細胞を再プログラムするには、追加の因子が極めて重要であることがわかった(Hanna et al., 2008)。それでもなお、これらのデータは、B系譜細胞におけるBrightの選択的阻害も、これらの細胞を再プログラムし、iPS様細胞に転換させることを示唆している。
【0217】
ノックアウトおよび遺伝子導入の結果から、Brightの外因的な低下はiPS様状態への体細胞の再プログラミングを可能にすることが予測される。本発明者らが一群のshRNAを作製し、発現させ、試験したところ(表7および図12)、マウス型およびヒト型(以下、ARID3aと呼ぶ)のBrightを、どちらも効果的に阻害することができた。ARID3aは、そのショウジョウバエおよびゼノパス・オルソログのように、胚組織では広く発現されるが、成体の体組織では、より選択的に発現される(Webb et al., 1998;Nixon et al., 2004)。さらにまた、ヒト細胞の再プログラミングは、いくつかの実験では、SV40ラージT抗原の存在によって助長された(Yu et al., 2009)。ヒト胚性上皮細胞株293Tは、これらの基準をどちらも満たした。より一般的にiPS作製に使用されるヒト線維芽細胞株と比較して、293T上皮は、比較的高レベルのARID3aを構成的に発現させ(図9A)、ラージT抗原も同様である。本発明者らは、shRNAノックダウンがこれらの細胞におけるARID3a発現を効率よくサイレンシングすることを見いだした(図9B)。感染のわずか6日後に、細胞は形態学的変化を起こし、複数回の継代後には、典型的な293T付着単層ではなく、タイトなiPS様コロニーに似ていた(図9C)。それでもARID3a阻害クローンは元の293T形質転換核型を保っていた(データ未掲載)。スクランブル対照shRNA感染細胞は、形態的にもその他の点でもiPS様の特徴を示さなかった。qRT-PCR実験により、ARID3a阻害コロニーは親細胞株よりも有意に高いレベルのOct4、Sox2、c-mycおよびKlf4を発現することが確認された(図9D)。免疫蛍光染色も、shRNA阻害細胞ではOct4タンパク質が発現されるが、親細胞株ではバックグラウンド染色を上回るレベルでは検出されないことを示した(図9E)。これらの結果は、ヒト細胞におけるARID3aの異所的ノックダウンが、iPS様細胞への再プログラミングに必要なキー転写因子を誘導することを示している。
【0218】
ARID3a欠損性iPS様細胞が多能性であるかどうかを決定するために、継代第8代から得た細胞を懸滴培養して胚様体を誘導した。LIFなしで5日後に、本発明者らは、標準的マウスES培養物に観察されるものに匹敵する、中胚葉(平滑筋アクチン)、内胚葉(α-フェトプロテイン)および外胚葉(β-IIIチューブリン)を示すマーカーの自発的発現を観察した(図10)。親293T細胞株(図10)も、未分化BriPSクローン(図13)も、これらの分化マーカーは発現させなかった。これらのデータは、ヒト細胞を再プログラムしてそれらが複数の系譜の初期マーカーを発現する能力を持つようにするには、ARID3aの阻害で十分であることを示唆している。
【0219】
ヒトARID3a欠損性iPS様細胞をNod/Scidマウスに筋肉内注射することによって、多能性に関するさらなる試験を行った。腫瘍形成は、4〜6週間を要した親293T細胞と比較して、わずか17〜21日後に明白になった。しかし、対照マウスES細胞を注射されたマウスは奇形腫を発生させることを病理検査結果報告書が示したのに対して、ARID3a欠損性ヒト細胞腫瘍は未分化状態を維持し、転移性ではないようだった(図14)。この例において奇形腫を形成できなかったことは、ARID3a欠損性iPS様ヒト細胞が真に多能性ではないことを示すのかもしれないが、複能性であることは間違いない。さらにもう一つの可能性は、他のヒトiPS様細胞株で観察されているように(Shih et al., 2007)、ARID3a阻害がインビボでの奇形腫生成を伴わない細胞の再プログラミングをもたらすのかもしれないというものである。これらのデータは、ARID3a欠損細胞が、中胚葉、内胚葉、および外胚葉の初期マーカーを発現するその能力においてはiPS細胞に似ているが、複数タイプの最終分化組織に由来する奇形腫を形成しない点で真のiPS細胞とは異なることを示唆している。
【0220】
(表6)自己複製性Bright欠損細胞株
Bright欠損組織から生成させた細胞株を、DNマウスまたはノックアウト(K)マウスに由来するその起源に従い、固有の番号を付けて命名した。アスタリスク(*)は、そのマウスが導入遺伝子に関してホモ接合であったことを示す。2つのDNトランスジェニック株を作製した(BおよびD)。c57Bl/6バックグラウンドを持つトランスジェニックマウスには小文字のcを前に付けた。
【0221】
(表7)shRNAプライマー
Bright用のshRNAプライマー配列を列挙し、コード配列内でのそれらの開始点を示す。マウスBrightおよびヒトARID3aのDNA結合ドメインは、十分に相同であるので、これらのshRNAはARID3aを効果的に阻害した。
【0222】
実施例4:考察
本発明者らは、単一の転写因子Bright/ARID3aの阻害が体細胞のiPS様状態への再プログラミングを促進することを示す独立した3系列の証拠を与えた。第1に、複数の組織から得たBright-/-細胞が、自己複製的成長特性を示し、エンブリオイド様ボディを形成し、幹細胞マーカーを発現させ、複数の系譜の細胞に分化する潜在能力を示す。第2に、DN Brightトランスジェニックマウス由来の骨髄および脾臓細胞が類似する性質を示す。これらのiPS様細胞はIg組換えの証拠を持ち、それらが、DN Brightトランスジェニックタンパク質を特異的に発現するBリンパ球系譜細胞から派生したことを示す。第3に、ひと上皮細胞株におけるARID3aの直接ノックダウンは、再プログラミング因子のアップレギュレーション、iPS様の形態、およびインビトロで多能性マーカーを発現する能力をもたらした。これらのデータは、Bright/ARID3a阻害がマウスでもヒトでもiPS様細胞の生成に重要であることを示唆し、Bright/ARID3aが多能性の抑制因子として作用するというモデルの強い裏付けになる。
【0223】
Bright阻害によって作製されたiPS様細胞は、以前に報告されたものとはいくつかの点で異なる。他の研究では、Oct4がNanogおよびSox2を調節すること、そしてマウスにおけるiPSの作製にはOct4が決定的に必要であることが示されている(Takahashi and Yamanaka, 2006;Feng et ah, 2009)。本発明者らは、本発明者らのBright欠損マウス系のどちらにおいても、Oct4誘導をまれにしか観察しなかった。このことは、これらのiPS様細胞が従来のLIF要求性ES細胞よりもわずかに分化していて、Oct4発現を失っているのかもしれないことを示唆している。いくつかの例では幹細胞形成がOct4に依存するが、維持はそうではない(Pereira et al., 2008)。Oct4レベルは緻密に調節され、分化と共に迅速に変化する(Feng et al., 2009)。マウス細胞での状況とは異なり、本発明者らは、ヒトARID3a欠損クローンでは、タンパク質レベルとmRNAレベルの両方で、Oct4の著しい誘導を観察した。
【0224】
Brightの転写能に関してわずかながらもわかっていることは、IgH遺伝子調節の研究から得られた知見である(Webb et al., 1999に総説がある)。ヌクレオソーム集合に先だって起こるIgH座位にある核マトリックス関連領域(MAR)内のA+Tリッチ配列へのBrightの結合は、増強された転写を可能にし、BrightがIgHエンハンサーのアクセシビリティの一因であることを示唆した(Webb et al., 1991;Lin et al., 2007)。A+Tリッチ配列は、複数のキー多能性調節因子の動員にとって重要な部位であることが示されている(Kim et al., 2008)。興味深いことに、Sox2は、Brightと同様に、MAR結合タンパク質である(Iarovaia et al., 2005)。以前に提案された多能性ネットワークモデルでは、発現プロファイリング(Kim et al., 2008)またはタンパク質複合体分析(Wang et al., 2006)によって、Bright/ARID3aが、Klf4およびNanogに関連づけられている。しかし、どちらの研究も、その経路におけるBright/ARID3aの機能は、同定も、示唆もしていない。本発明者らは、現在の再プログラミング系において他の研究者が観察した多能性細胞の生成に要求される遅延時間が、ARID3a/Bright機能を消滅させるのに必要であるという仮説を立てている。これらのデータは、Klf4および他のキー調節因子を直接的または間接的にアップレギュレートするには、ARID3aの阻害で十分であることを示している。したがって現在のモデルは、Bright/ARID3aを自己複製/多能性の中心的上流抑制因子であるとみなすように、修正されなければならない。
【0225】
本明細書において開示され特許請求される組成物および方法はいずれも、本発明の開示に照らして、甚だしい実験を行わずに、製造し、実施することができる。本発明の組成物および方法を好ましい態様に関して説明したが、それらの組成物および方法、ならびに本明細書において記載する方法の工程または工程の順番には、本発明の概念、要旨および範囲から逸脱することなく、変更を加え得ることは、当業者には明白であるだろう。より具体的に述べると、化学的にも生理学的にも関連する一定の薬剤を、本明細書において記載する薬剤の代わりに使用しても、同じまたは類似する結果が達成されるであろうことは、明白であるだろう。当業者にとって明白な、そのような類似する置換および変更は全て、添付の特許請求の範囲によって規定される本発明の要旨、範囲および概念に含まれるとみなされる。
【0226】
X.参考文献
以下の参考文献は、本明細書に記載したものを補う例示的手法または他の詳細を提供する限りにおいて、参照により本明細書に特に組み入れられる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分化細胞を用意する工程;および
(b)該細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、該細胞において脱分化を誘導する工程
を含む、分化細胞を多能性にする方法であって、脱分化により該細胞が多能性になる、方法。
【請求項2】
工程(a)の細胞が骨髄細胞、線維芽細胞または脾臓細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の細胞が末梢血細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Bright/ARID3a機能の阻害剤がBright/ARID3aの発現の阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
Bright/ARID3aの発現の阻害剤が干渉RNAである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Bright/ARID3a機能の阻害剤がドミナントネガティブBright/ARID3a分子である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ドミナントネガティブBright/ARID3a分子が発現ベクターによってコードされる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
発現ベクターがウイルス発現ベクターである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
Bright/ARID3a機能の阻害剤がBright/ARID3aペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
Bright/ARID3a機能の阻害が可逆的である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、一旦多能性になったら、再分化を誘導するシグナルを用いてさらに処理される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
シグナルがケモカインである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
シグナルが増殖因子である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、一旦処理されると、中胚葉マーカーを発現する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、一旦処理されると、外胚葉マーカーを発現する、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、一旦処理されると、内胚葉マーカーを発現する、請求項11記載の方法。
【請求項17】
再分化が、脂肪細胞、神経細胞、筋細胞、膵臓細胞、造血細胞または内皮細胞の、1つまたは複数の特徴を発生させることを含む、請求項11記載の方法。
【請求項18】
一旦再分化すると、前記細胞におけるBright/ARID3a機能が回復される、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記細胞を対象中に移植する工程をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記対象が工程(a)の細胞の供給源であった、請求項19記載の方法。
【請求項21】
(a)分化細胞を用意する工程;
(b)該細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、該細胞において脱分化を誘導する、工程;
(c)脱分化後に、該細胞を、再分化細胞の表現型が生じるように選択されたシグナルと接触させる工程;
(d)該細胞を、該シグナルと共に、該再分化細胞の表現型が生じるのに十分な期間、培養する工程;および
(e)該細胞において、該再分化細胞の表現型の1つまたは複数の面を同定する工程
を含む、分化細胞を再プログラムする方法。
【請求項22】
工程(a)の細胞が骨髄細胞、脾臓細胞、または末梢血細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
工程(d)の後に、Bright/ARID3a機能を回復させる工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
シグナルがケモカインである、請求項21記載の方法。
【請求項25】
再分化細胞の表現型が、脂肪細胞の表現型、神経細胞の表現型、膵臓細胞の表現型、造血細胞の表現型、筋細胞の表現型または内皮細胞の表現型である、請求項21記載の方法。
【請求項26】
(a)幹細胞を用意する工程;
(b)培養下の該幹細胞を、Bright/ARID3a欠損細胞によって馴化した培地と接触させる工程;および
(c)該幹細胞を培養する工程
を含む、幹細胞の成長を増強する方法。
【請求項27】
幹細胞が胚性幹細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
幹細胞が臍帯血幹細胞(chord blood stem cell)である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
馴化培地が、Bright/ARID3a欠損細胞培地の培養によって前もって馴化される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
馴化培地が、前記幹細胞およびBright/ARID3a欠損細胞の共培養によって馴化される、請求項26記載の方法。
【請求項31】
Bright/ARID3a欠損細胞が、ドミナントネガティブBright/ARID3aを発現させる発現コンストラクトを含有する、請求項26記載の方法。
【請求項32】
Bright/ARID3a欠損細胞が、Bright/ARID3a発現を妨げる干渉RNAを含有する、請求項26記載の方法。
【請求項33】
工程(c)の後に、前記幹細胞を、分化を誘導するシグナルと接触させる工程をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項34】
シグナルがケモカインである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
Bright/ARID3a欠損細胞においてBright/ARID3a機能が回復される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
適切な容器に入ったBright/ARID3a阻害剤を含むキット。
【請求項37】
容器がバイアル、シリンジまたはチューブである、請求項36記載のキット。
【請求項38】
薬学的に許容される緩衝剤、希釈剤または賦形剤をさらに含む、請求項36記載のキット。
【請求項39】
対象への投与に適した形態のBright/ARID3a阻害剤の調製に関する説明書をさらに含む、請求項36記載のキット。
【請求項40】
Bright/ARID3a阻害剤が、干渉RNA、ドミナントネガティブBright/ARID3a分子、Bright/ARID3aペプチド、またはそれをコードする発現ベクターからなる群より選択される、請求項36記載のキット。
【請求項1】
(a)分化細胞を用意する工程;および
(b)該細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、該細胞において脱分化を誘導する工程
を含む、分化細胞を多能性にする方法であって、脱分化により該細胞が多能性になる、方法。
【請求項2】
工程(a)の細胞が骨髄細胞、線維芽細胞または脾臓細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
工程(a)の細胞が末梢血細胞である、請求項1記載の方法。
【請求項4】
Bright/ARID3a機能の阻害剤がBright/ARID3aの発現の阻害剤である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
Bright/ARID3aの発現の阻害剤が干渉RNAである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
Bright/ARID3a機能の阻害剤がドミナントネガティブBright/ARID3a分子である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ドミナントネガティブBright/ARID3a分子が発現ベクターによってコードされる、請求項6記載の方法。
【請求項8】
発現ベクターがウイルス発現ベクターである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
Bright/ARID3a機能の阻害剤がBright/ARID3aペプチドである、請求項1記載の方法。
【請求項10】
Bright/ARID3a機能の阻害が可逆的である、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記細胞が、一旦多能性になったら、再分化を誘導するシグナルを用いてさらに処理される、請求項1記載の方法。
【請求項12】
シグナルがケモカインである、請求項11記載の方法。
【請求項13】
シグナルが増殖因子である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記細胞が、一旦処理されると、中胚葉マーカーを発現する、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記細胞が、一旦処理されると、外胚葉マーカーを発現する、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記細胞が、一旦処理されると、内胚葉マーカーを発現する、請求項11記載の方法。
【請求項17】
再分化が、脂肪細胞、神経細胞、筋細胞、膵臓細胞、造血細胞または内皮細胞の、1つまたは複数の特徴を発生させることを含む、請求項11記載の方法。
【請求項18】
一旦再分化すると、前記細胞におけるBright/ARID3a機能が回復される、請求項11記載の方法。
【請求項19】
前記細胞を対象中に移植する工程をさらに含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記対象が工程(a)の細胞の供給源であった、請求項19記載の方法。
【請求項21】
(a)分化細胞を用意する工程;
(b)該細胞をBright/ARID3a機能の阻害剤と接触させて、該細胞において脱分化を誘導する、工程;
(c)脱分化後に、該細胞を、再分化細胞の表現型が生じるように選択されたシグナルと接触させる工程;
(d)該細胞を、該シグナルと共に、該再分化細胞の表現型が生じるのに十分な期間、培養する工程;および
(e)該細胞において、該再分化細胞の表現型の1つまたは複数の面を同定する工程
を含む、分化細胞を再プログラムする方法。
【請求項22】
工程(a)の細胞が骨髄細胞、脾臓細胞、または末梢血細胞である、請求項21記載の方法。
【請求項23】
工程(d)の後に、Bright/ARID3a機能を回復させる工程をさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項24】
シグナルがケモカインである、請求項21記載の方法。
【請求項25】
再分化細胞の表現型が、脂肪細胞の表現型、神経細胞の表現型、膵臓細胞の表現型、造血細胞の表現型、筋細胞の表現型または内皮細胞の表現型である、請求項21記載の方法。
【請求項26】
(a)幹細胞を用意する工程;
(b)培養下の該幹細胞を、Bright/ARID3a欠損細胞によって馴化した培地と接触させる工程;および
(c)該幹細胞を培養する工程
を含む、幹細胞の成長を増強する方法。
【請求項27】
幹細胞が胚性幹細胞である、請求項26記載の方法。
【請求項28】
幹細胞が臍帯血幹細胞(chord blood stem cell)である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
馴化培地が、Bright/ARID3a欠損細胞培地の培養によって前もって馴化される、請求項26記載の方法。
【請求項30】
馴化培地が、前記幹細胞およびBright/ARID3a欠損細胞の共培養によって馴化される、請求項26記載の方法。
【請求項31】
Bright/ARID3a欠損細胞が、ドミナントネガティブBright/ARID3aを発現させる発現コンストラクトを含有する、請求項26記載の方法。
【請求項32】
Bright/ARID3a欠損細胞が、Bright/ARID3a発現を妨げる干渉RNAを含有する、請求項26記載の方法。
【請求項33】
工程(c)の後に、前記幹細胞を、分化を誘導するシグナルと接触させる工程をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項34】
シグナルがケモカインである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
Bright/ARID3a欠損細胞においてBright/ARID3a機能が回復される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
適切な容器に入ったBright/ARID3a阻害剤を含むキット。
【請求項37】
容器がバイアル、シリンジまたはチューブである、請求項36記載のキット。
【請求項38】
薬学的に許容される緩衝剤、希釈剤または賦形剤をさらに含む、請求項36記載のキット。
【請求項39】
対象への投与に適した形態のBright/ARID3a阻害剤の調製に関する説明書をさらに含む、請求項36記載のキット。
【請求項40】
Bright/ARID3a阻害剤が、干渉RNA、ドミナントネガティブBright/ARID3a分子、Bright/ARID3aペプチド、またはそれをコードする発現ベクターからなる群より選択される、請求項36記載のキット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2011−527905(P2011−527905A)
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518808(P2011−518808)
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/050242
【国際公開番号】WO2010/009015
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(507140841)オクラホマ・メディカル・リサーチ・ファウンデーション (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月10日(2009.7.10)
【国際出願番号】PCT/US2009/050242
【国際公開番号】WO2010/009015
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(507140841)オクラホマ・メディカル・リサーチ・ファウンデーション (7)
【Fターム(参考)】
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