説明

Burkholderiacepaciaに対する保存剤

【課題】
気道投与製剤において問題となるBurkholderia cepaciaに対して優れた保存効力を有する保存剤を提供すること、及び当該保存剤を含有する点鼻剤、吸入剤を提供すること。
【解決手段】
本願発明は、四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルを有効成分として含有するBurkholderia cepaciaに対する保存剤であるとともに、四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルをBurkholderia cepaciaに対する保存剤として含有する点鼻剤又は吸入剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はBurkholderia cepacia (B.cepacia)に対する優れた保存効力を有する保存剤、及びそれを含有する点鼻剤又は吸入剤に関する。
【背景技術】
【0002】
点鼻剤、点眼剤、吸入剤および点耳剤を製剤化する場合、空気中、涙液中、鼻道、気管支、外耳道等に存在する微生物による二次汚染を防止する目的で保存剤を配合する。従来、保存剤としては、例えば塩化ベンザルコニウム等が配合されている。これらは、日本薬局方試験「保存効力試験」に指定された細菌、真菌に対する保存効力を有するものの、近年問題になっている、感染頻度が高く注意を要する日和見感染菌などに対して十分な保存効果が得られないという問題があった。とりわけ気道に投与する点鼻剤・吸入剤の場合、B.cepaciaに汚染されたエアロゾルを吸い込むことが特に嚢胞性線維症患者に対して急激な肺の悪化を伴う危険性があった(J.Clin.Microbiol., 34(3), 584-587(1996))。また、薬剤の保存性を高めるために保存剤の配合量を増やすと、生体への刺激の増大等、高濃度の保存剤による副作用を引き起こす可能性がある。
【0003】
例えば、抗菌効果を増す目的で、四級アンモニウム塩とパラオキシ安息香酸アルキルエステルとを組み合わせて使用する先行技術については工業用途に関する報告(特開平10−237317、特開平8−92013)が、また防腐効果を高めた点眼剤に関する報告(特開昭59−89616、特開平2−96515)が存在するものの、気道に投与する製剤特有の問題点であるB.cepaciaに対する抑制効果は知られていなかった。
【0004】
一方で、B.cepaciaに対する保存効力を有する保存剤として、塩化ベンザルコニウムとフェニルエチルアルコールを組み合わせた点鼻剤に関する報告(特表2003−506396)が存在するが、フェニルエチルアルコールは特有の不快臭を有するため、特に点鼻剤においては患者の服用性に難があり、コンプライアンス低下などの問題を引き起こしている。更にフェニルエチルアルコールは易揮発性の物質であり、経時的に容器から揮発し、処方量が変化するという問題も存在する。
【0005】
このように、点鼻剤、吸入剤の分野においては、保存剤に対する耐性が強く、かつ気道感染すると重篤な症状を引き起こす可能性が高い日和見感染菌、特にB.cepaciaに対して優れた保存効果を与える保存剤の開発が待ち望まれている。
【0006】
【特許文献1】特開平10−237317
【特許文献2】特開平8−92013
【特許文献3】特開昭59−89616
【特許文献4】特開平2−96515
【特許文献5】特表2003−506396
【非特許文献1】J.Clin.Microbiol., 34(3), 584-587(1996)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、気道投与製剤において問題となるB.cepaciaに対して優れた保存効力を有する保存剤を提供すること、及び当該保存剤を含有する点鼻剤、吸入剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルを配合すると、粘膜刺激性が問題にならない濃度域において、B.cepaciaはじめ、その他日和見感染菌に対して優れた保存効力を付与し得ることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、四級アンモニウム塩およびパラオキ安息香酸アルキルエステルを有効成分として含有するB.cepaciaに対する保存剤である。さらに、本発明は、四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルをB.cepaciaに対する保存剤として含有する点鼻剤又は吸入剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のB.cepaciaに対する保存剤は無臭であるため、服用性がよく、コンプライアンス低下などの問題を引き起こさない。また、低濃度の配合で、B.cepaciaをはじめとする日和見感染菌に対して優れた保存効果を有するため、本発明のB.cepaciaに対する保存剤を含有する点鼻剤又は吸入剤は、気道感染等を引き起こす心配がない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明のB.cepaciaに対する保存剤は、四級アンモニウム塩およびパラオキシ安息香酸アルキルエステルを有効成分として含有する。本発明で使用できる四級アンモニウム塩としては、例えば、塩化ベンザルコニウムが挙げられる。また、パラオキシ安息香酸アルキルエステルとしては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等が挙げられ、これらを単独で又は2以上を配合して使用することができる。中でも、パラオキシ安息香酸メチル又はパラオキシ安息香酸メチルにパラオキシ安息香酸プロピルを少量配合したものが好ましい。
【0012】
本発明のB.cepaciaに対する保存剤は、各種液剤において、低い配合濃度で優れた保存効力を与えることができる。このため、鼻、気管支に対する局所投与用の液剤、即ち、点鼻剤又は吸入剤に保存剤として添加することができる。これらの点鼻剤又は吸入剤において、四級アンモニウム塩の含有濃度は、通常0.005〜0.2%(w/v)であり、好ましくは0.01〜0.03%(w/v)である。また、パラオキ安息香酸アルキルエステルの含有濃度は、通常0.02〜0.5%(w/v)であり、好ましくは0.05〜0.3%(w/v)である。
【0013】
本発明の点鼻剤又は吸入剤においては、主薬とともに、四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルを含むものであれば、その用途は特に限定されない。主薬となる薬物にも特に制限されないが、局所ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、非ステロイド性抗炎症薬、抗生物質、血管収縮薬等の種々の薬物あるいはそれらの組み合わせが例示される。主薬となる薬物の含有量は、各薬物の種類によって異なるが、例えば局所ステロイド薬を有効成分として含有する本発明液剤の場合、その含有濃度は0.01〜0.10%(w/v)程度、好ましくは0.02〜0.07%(w/v)程度である。
【0014】
本発明の点鼻剤又は吸入剤においては、他に、例えば塩化ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール等の等張化剤、結晶セルロース・カルメロースナトリウム等の懸濁化剤、ポリソルベート80等の湿潤剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム等の緩衝剤等を配合することができる。
【0015】
本発明の点鼻剤又は吸入剤の調製は、公知の手法を用いて行えばよい。例えば、四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルを滅菌精製水または水性溶媒に溶解させる。この溶液に、必要に応じて上述した添加物及び主薬を配合することにより調製することができる。
【実施例】
【0016】
以下に、実施例および試験例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるわけではない。
【0017】
[実施例1、比較例1〜5の調製及び評価]
表1に示した組成の液剤を常法により調製し、8mLを点鼻スプレー容器に充填し、下記評価を行った。
【0018】
不快臭の有無については、健常成人3名に各処方液の臭いを嗅がせ、臭いの有無とそれが不快であるか否かを判定させた。2名以上が不快であると判定した場合、その処方液は不快臭ありと判断した。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例1、比較例1〜5の処方の液剤組成物について、第十四改正日本薬局方 第一追補 参考情報「保存効力試験法」に準拠し、保存効力試験を実施した。結果を表2に示す。ただし、菌株はBurkholderia cepacia NBRC14595を用い、生菌数測定は7、14、28日後に実施した。尚、接種菌液の生菌数測定結果から混合試料1mL当たりの菌数を算出して、試験開始時の生菌数とした。表中は試験開始時の生菌数を100とした場合の百分率を示した。
【0021】
【表2】

【0022】
比較例1、2のように、保存剤としてフェニルエチルアルコールまたはベンジルアルコールを塩化ベンザルコニウムと共に処方した場合、B.cepaciaに対する保存効力を有していたが、不快臭が発生する製剤となった。比較例3、4においては、パラオキシ安息香酸アルキルエステルを配合しておらず、B.cepaciaに対する保存効力は十分でなかった。また、比較例5においては、塩化ベンザルコニウムにパラオキシ安息香酸アルキルエステルを計0.0125%(w/v)配合しており、不快臭はないものの、その処方量ではB.cepaciaに対する保存効力は十分でなかった。一方、実施例1においては、塩化ベンザルコニウムにパラオキシ安息香酸アルキルエステルを計0.11%(w/v)配合しており、不快臭はなく、かつB.cepaciaに対する保存効力も有していた。
【0023】
[実施例2〜6の調製と評価]
次に粘膜刺激性を低減する目的で、保存剤含量を低減した処方を検討した。表3に示した組成の液剤を常法により調製し、8mLを点鼻スプレー容器に充填し、下記評価を行った。
【0024】
【表3】

【0025】
実施例2〜6の処方の液剤組成物について、第十四改正日本薬局方 第一追補 参考情報「保存効力試験法」に準拠し、保存効力試験を実施した。結果を表4に示す。ただし、菌株はBurkholderia cepacia NBRC14595を用い、生菌数測定は、2、7、14、28日後に実施した。尚、接種菌液の生菌数測定結果から混合試料1mL当たりの菌数を算出して、試験開始時の生菌数とした。表中は試験開始時の生菌数を100とした場合の百分率を示した。
【0026】
【表4】

【0027】
いずれの実施例もB.cepaciaに対する保存効力を有していた。パラオキシ安息香酸アルキルエステルがトータルで0.07%(w/v)においても、活性がみられた。
【0028】
[実施例6の評価]
前記実施例6について、第十四改正日本薬局方 第一追補 参考情報「保存効力試験法」に準拠し、保存効力試験を実施した。結果を表5に示す。ただし菌株はEscherichia coli IFO 3972、Pseudomonasu aeruginosa IFO 13275、Staphylococcus aureus IFO 13276、Candia albicans IFO 1594、Aspergillus niger IFO 9455を用い、生菌数測定は、2、7、14、28日後に実施した。尚、接種菌液の生菌数測定結果から混合試料1mL 当たりの菌数を算出して、試験開始時の生菌数とした。表中は試験開始時の生菌数を100とした場合の百分率を示した。
【0029】
【表5】

【0030】
実施例6は、B.cepaciaのみならずEscherichia coli、Pseudomonasu aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candia albicans、Aspergillus nigerに対する保存効力をも有していた。
【0031】
[実施例6の評価-2]
前記実施例6を40℃6ヶ月の加速試験にかけ、その加速試験品について、第十四改正日本薬局方 第一追補 参考情報「保存効力試験法」に準拠し、保存効力試験を実施した。結果を表6に示す。ただし、菌株はBurkholderia cepacia NBRC14595、Escherichia coli IFO 3972、Pseudomonasu aeruginosa IFO 13275、Staphylococcus aureus IFO 13276、Candia albicans IFO 1594、Aspergillus niger IFO 9455を用い、生菌数測定は、2、7、14、28日後に実施した。尚、接種菌液の生菌数測定結果から混合試料1mL 当たりの菌数を算出して、試験開始時の生菌数とした。表中は試験開始時の生菌数を100とした場合の百分率を示した。
【0032】
【表6】

【0033】
実施例6の処方の40℃6ヶ月の加速試験品は、Burkholderia cepacia、Escherichia coli、Pseudomonasu aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candia albicans、Aspergillus nigerに対する保存効力を保持していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルを有効成分として含有するBurkholderia cepaciaに対する保存剤。
【請求項2】
四級アンモニウム塩が塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸アルキルエステルがパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、及びパラオキシ安息香酸ブチルから選択されるものである、請求項1に記載のBurkholderia cepaciaに対する保存剤。
【請求項3】
四級アンモニウム塩及びパラオキシ安息香酸アルキルエステルをBurkholderia cepaciaに対する保存剤として含有する点鼻剤又は吸入剤。
【請求項4】
四級アンモニウム塩を0.005〜0.2%(w/v)、パラオキシ安息香酸アルキルエステルを0.02〜0.5%(w/v)含有してなる、請求項3に記載の点鼻剤又は吸入剤。
【請求項5】
四級アンモニウム塩が塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸アルキルエステルがパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、及びパラオキシ安息香酸ブチルから選択されるものである、請求項3又は4に記載の点鼻剤又は吸入剤。
【請求項6】
四級アンモニウム塩とパラオキシ安息香酸アルキルエステルとの配合組成物のBurkholderia cepaciaに対する保存剤としての使用。
【請求項7】
四級アンモニウム塩が塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸アルキルエステルがパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、及びパラオキシ安息香酸ブチルから選択されるものである、請求項6に記載の使用。

【公開番号】特開2006−348018(P2006−348018A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−134594(P2006−134594)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000144577)株式会社三和化学研究所 (29)
【Fターム(参考)】