説明

C5Bの形成を妨害することなくC5及びC5Aに結合する補体経路阻害剤

【課題】C5及びC5aとは結合するが、C5の活性化を阻害せず、C5bの形成を防止せず又はC5bの活性を阻害しない阻害剤を提供する。
【解決手段】このような阻害剤の一例は、ヒトC5及びC5a上の共通のエピトープに結合する、MAb137-26と命名されたモノクローナル抗体である。これらの阻害剤分子は、過度の若しくは制御されていないC5aの生産を伴う疾患及び症状の治療用いることができる。これらの阻害剤分子はまた、C5又はC5aの存在/不存在の診断的検出又は定量に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、C5b及びC5b-9膜攻撃複合体(MAC)の形成を阻害することなく補体C5及びC5aに結合する、炎症阻害剤に関する。
【背景技術】
【0002】
補体系は、免疫複合物のクリアランス並びに感染物、外来抗原、ウイルス感染細胞及び主要細胞に対する免疫応答において中心的な役割を果たす。しかしながら、補体系が不適切又は過度に活性化されると、炎症及びその結果の組織破壊に起因する、有害な、生命に危険を及ぼす可能性さえある結果が引き起こされる。これらの結果は、敗血症性ショック、心筋及び腸虚血/再潅流傷害、移植片拒絶、臓器不全、腎炎、病的炎症及び自己免疫疾患を包含する種々の不全として臨床的に発現される。例えば、敗血症は、米国だけで毎年20万人を超える人々が死亡している、主な死因である。重大な感染症の治療が過去数年間で大いに進歩したが、敗血症の発生及び死亡率は引き続き上昇している。従って、補体カスケードの過度又は制御できない活性化を阻害することにより、これらの疾患及び状態の患者に臨床的な利益を与え得る。
【0003】
補体系は、不活性な状態で普通に血清中に存在する一群のタンパク質から成る。補体系の活性化は、古典経路及び代替経路と呼ばれる、主として2つの異なる経路を包含する(V.M. Holers, In Clinical Immunology: Principles and Practice, ed. R.R. Rich, Mosby Press; 1996, 363-391)。古典経路は、カルシウム/マグネシウム依存性カスケードであり、通常、抗原抗体複合物の形成により活性化される。それはまた、リガンドと複合化したC反応性タンパクによる結合、及び、グラム陰性最近を包含する多くの病原体によっても、抗体非依存的に活性化し得る。代替経路は、ある感受性表面(例えば、酵母及び細菌の細胞壁多糖類、並びにある生体高分子材料)上へのC3の沈着及び活性化により活性化されるマグネシウム依存性カスケードである。
【0004】
最近の研究により、補体はまた、レクチン経路によっても活性化され得ることが示された。レクチン経路は、最初のマンノース結合性レクチンの結合及びそれに続くC2及びC4の活性化を包含し、これらは古典経路に共通する(Matsushita, M. et al., J. Exp. Med. 176:1497-1502 (1992); Suankratay, C. et al., J. Immunol. 160: 3006-3013 (1998))。蓄積された証拠は、代替経路は、古典経路及びレクチン経路の両者の活性の増幅に関与していることを示している(Suankratay, C., ibid; Farries, T.C. et al., Mol. Immunol. 27:1155-1161(1990))。補体経路の活性化により、補体タンパク質の生物学的に活性な断片、例えば、C3a, C4a及びC5aアナフィラトキシン及びC5b-9膜攻撃複合物(MAC)を生成し、これらは白血球走化性、マクロファージ、好中球、血小板、マスト細胞及び内皮細胞の活性化、血管透過性の増大、細胞溶解及び組織傷害を介する炎症応答を媒介する。
【0005】
補体C5aは、補体経路の最も能力の高い前炎症メディエーターの1つである。C5aはC5から活性化される。補体C5(分子量190 kD)は、ヒト血清中に約80μg/mlの濃度で存在する(Kohler, P.F. et al., J. lmmunol. 99:1211-1216 (1967))。それは、分子量がそれぞれ約115 kD及び75 kDである2本のポリペプチド鎖α及びβから成る(Tack, B.F. et al., Biochemistry 18: 1490-1497 (1979))。C5は、単鎖の前駆分子として生合成され、プロセッシング及び分泌の間に酵素的に切断されて二本鎖構造になる。切断後、2本の鎖は少なくとも1つのジスルフィド結合及び非共有結合的相互作用により結合される(Ooi, Y.M. et al., J. lmmunol. 124: 2494-2498(1980)).
【0006】
ヒト及びマウスC5の一次アミノ酸構造は、cDNA配列データから得られた(Wetsel, R.A. et al., Biochemistry 27: 1474-1482 (1988); Haviland, D.L. et al., J. Immunol.146: 362-368 (1991); Wetsel, R.A. et al, Biochemistry 26: 737-743 (1987))。前駆ヒトプレ−プロ−C5の推定アミノ酸配列は、1676アミノ酸を有する。成熟C5のα鎖及びβ鎖は、それぞれ999個及び655個のアミノ酸を有する。C5は、C5α鎖、特に第64番目の残基のアスパラギンがグリコシル化される。
【0007】
C5は、補体経路の活性化の間にC5a及びC5b断片に切断される。C5活性化を担うコンバターゼ酵素は、古典経路についてはC4b, C2a及びC3bのマルチサブユニット複合物であり、代替経路については(C3b)2、Bb及びPのマルチサブユニット複合物である(Goldlust, M.B. et al., J. Immunol. 113: 998-1007 (1974); Schreiber, R. D. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. 75: 3948-3952 (1978))。C5は、α鎖の部位74-75 (Arg-Leu)で切断されることにより活性化される。活性化後、α鎖のN末端から74アミノ酸から成る、11.2 kDのペプチドであるC5aが放出される。このC5aペプチドは、C3aにより示されるアナフィラトキシン性と共通する性質を有するが、炎症反応を誘起するモル当りの能力は、C3aの100倍高い。C5a及びC3aの両方とも、好中球及び単球の強い刺激物質である(Schindler, R. et al., Blood 76:1631-1638 (1990); Haeffner-Cavaillon, N. et al., J. lmmunol. 138: 794-700 (1987); Cavaillon, J.M. et al., Eur. J. lmmunol. 20: 253-257 (1990))。さらに、C3aレセプターは、最近、マウスモデルにおいて、エンドトキシン誘起ショックに対する防護のために重要であることが示された(Kildsgaard, J. et al., J. lmmunol. 165: 5406-5409 (2000))。
【0008】
C5aは、アナフィラトキシン性に加え、好中球(Ward, P.A. et al., J. lmmunol. 102: 93-99 (1969))、好酸球(Kay, A.B. et al., lmmunol. 24: 969-976 (1973))、好塩基球(Left-Brown, M.A. et al., J. lmmunol. 117: 246-252 1976))及び単球(Snyderman, R. et al., Proc. Soc. Exp. Biol. Med. 138: 387-390 1971))の走化性遊走を誘起する。C5aの活性は、C5aのC末端のアルギニンを除去してC5a des Arg誘導体を生成する血漿酵素カルボキシペプチダーゼN(E.C. 3.4.12.7)により制御される(Goetzl, E.J. et al., J. Clin. Invest. 53: 591-599 (1974))。モル当りでは、ヒトC5a des Argのアナフィラキシー活性(Gerard, C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 78: 1833-1837 (1981))及び多形核走化活性は、非修飾C5aのわずか1%である(Chenoweth, D.E. et al., Mol. lmmunol. 17:151-161 (1980))。C5a及びC5b-9の両者とも内皮細胞を活性化して、組織炎症及び傷害を媒介する、活性化白血球の隔離(sequestration)に必須的な接着分子を発現させる(Foreman, K.E. et al., J. Clin. Invest. 94:1147-1155 (1994); Foreman, K.E. et al., Inflammation 20: 1-9 (1996); Rollins, S.A. et al., Transplantation 69: 1959-1967 (2000))。C5aはまた、平滑筋の収縮、血管透過性の増大、好塩基球及びマスト細胞の脱核の誘起、リソゾーム性プロテアーゼ及び酸化性フリーラジカルの放出の誘起を引き起こすことにより、炎症反応を媒介する(Gerard, C. et al., Ann. Rev. Immunol. 12: 775-808 (1994))。さらに、C5aは、肝臓の急性遺伝子発現を調節し、TNFα、IL-1β、IL-6及びIL-8の生産を増大させて全体的な免疫応答を増強する(Lambris, J.D. et al., In: The Human Complement System in Health and Disease, Volanakis, J.E. ed., Marcel Dekker, New York, pp. 83-118)。
【0009】
ヒトC5aレセプター(C5aR)はクローニングされている(Gerard, N.P. et al., Nature 349: 614-617 (1991); Boulay, F. et al., Biochemistry 30: 2993-2999 (1991))。それは、7回膜貫通ドメイン、Gタンパク結合レセプターのスーパーファミリーに属する。C5aRは、好中球、単球、好塩基球、好酸球、肝細胞、肺平滑筋及び内皮細胞並びに腎糸球組織上に発現する(Van-Epps, D.E. et al., J. Immunol. 132: 2862-2867 (1984); Haviland, D. L. et al., J. Immunol. 154:1861-1869 (1995); Wetsel, R.A., Immunol. Lett. 44: 183-187 (1995); Buchner, R.R. et al., J. Immunol. 155: 308-315 (1995); Chenoweth, D.E. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 75: 3943-3947 (1978); Zwirner, J. et al., Mol. Immunol. 36:877-884 (1999))。C5aRのリガンド結合部位は複雑で、少なくとも2個の、物理的に分離可能な結合ドメインから成る。1つはC5aのN末端(アミノ酸1-20)及びジスルフィド結合コア(アミノ酸21-61)に結合し、2番目のものはC5aのC末端(アミノ酸62-74)に結合する(Wetsel, R.A., Curr. Opin. Immunol. 7: 48-53 (1995))。
【0010】
C5aは、炎症及び組織傷害において重要な役割を果たす。心肺バイパス及び血液透析において、ヒト血液が心肺装置及び腎臓透析装置の人工表面と接触した際に補体代替経路が活性化される結果、C5aが形成される(Howard, R.J. et al,. Arch. Surg. 123: 1496-1501 (1988); Kirklin, J. K. et al., J. Cardiovasc. Surg. 86: 845-857 (1983); Craddock, P.R. et al., N. Engi. J. Med. 296: 769-774 (1977))。C5aは、毛管の透過性及び浮腫の増大、気管収縮、肺血管収縮、白血球及び血小板の活性化並びに組織、特に肺への浸潤を増大させる(Czermak, B.J. et al., J. Leukoc. Biol. 64: 40-48 (1998))。抗C5aモノクローナル抗体を投与することにより、心肺バイパス及び心臓麻痺により誘起される冠状内皮不全が減少されることが示された(Tofukuji, M. et al., J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 116:1060-1068 (1998))。
【0011】
C5aはまた、急性呼吸困難症候群(ARDS)及び多臓器不全(MOF)にも関与する(Hack, C.E. et al., Am. J. Med. 1989: 86: 20-26; Hammerschmidt DE et al. Lancet 1980; 1: 947--949; Heideman M. et al. J. Trauma 1984; 4: 1038-1043)。C5aは、2つの重要な前駆炎症性サイトカイン、TNFα及びIL-1の単球による生産を増強する。C5aはまた、敗血症ショックの動物モデルにおいて、組織傷害、特に肺傷害の発達に重要な役割を果たすことが示された(Smedegard G et al. Am. J. Pathol. 1989; 135:489-497)。ラット、ブタ及び非ヒト霊長類を用いた敗血症モデルにおいて、エンドトキシン又は大腸菌の投与の前に抗C5a抗体を動物に投与すると、組織傷害が減少し、IL-6の生産も減少した(Smedegard, G. et al., Am. J. Pathol. 135: 489-497 (1989); Hopken, U. et al., Eur. J. Immunol. 26: 1103-1109 (1996); Stevens, J.H. et al., J. Clin. Invest. 77: 1812-1816 (1986))。より重要なことには、抗C5aポリクローナル抗体でC5aをブロックすることにより、ラットにおける敗血症の盲腸結紮/穿刺モデルにおいて、生存率が有意に改善された(Czermak, B.J. et al., Nat. Med. 5: 788-792 (1999))。このモデルは、ヒトにおける敗血症の臨床徴候と多くの点で共通する(Parker, S.J. et al., Br. J. Surg. 88: 22-30 (2001))。同じ敗血症モデルにおいて、抗C5a抗体は、胸腺細胞のアポトーシスを阻害し(Guo, R.F. et al., J. Clin. Invest. 106: 1271-1280 (2000))、MOFを防止することが示された(Huber-Lang, M. et al., J. Immunol. 166: 1193-1199 (2001))。抗C5a抗体はまた、ラットにおける肺傷害のコブラ毒因子モデル及び免疫複合物により誘起された肺傷害において保護的であった(Mulligan, M.S. et al. J. Clin. Invest. 98: 503-512 (1996))。免疫複合物により媒介される肺傷害におけるC5aの重要性は、後にマウスにおいて確認された(Bozic, C.R. et al., Science 26: 1103-1109 (1996))。
【0012】
C5aは、心筋虚血−再潅流傷害における主たるメディエーターであることが見出される。補体の枯渇によりマウスにおける心筋梗塞サイズが減少し(Weisman, H.F. et al., Science 249: 146-151 (1990))、抗C5a抗体で処理することにより後足の虚血−再潅流ラットモデルにおける傷害が減少した(Bless, N.M. et al., Am. J. Physiol. 276: L57-L63 (1999))。モノクローナル抗C5aIgGで再処理したブタにおいて、心筋梗塞中の再潅流傷害は顕著に減少した(Amsterdam, E.A. et al., Am. J. Physiol. 268:H448-H457 (1995))。外科的血管再生のブタモデルにおいて、組換えヒトC5aRアンタゴニストは、梗塞サイズを減少させた(Riley, R.D. et al., J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 120: 350-358 (2000))。
【0013】
補体濃度は、リュウマチ性関節炎患者及び全身性ループスエリテマトーデス患者において増大している。C5a濃度は、病状の重症度に相関している(Jose, P.J. et al., Ann. Rheum. Dis. 49: 747-752 (1989); Porcel, J.M. et al., Clin. Immunol. Immunopathol. 74: 283-288 (1995))。従って、C5a及び/又はC5aレセプター(C5aR)を阻害することは、これらの慢性疾患の治療に有用であり得る。
【0014】
C5aRの発現は、炎症性ヒト中枢神経系中の反応性星状細胞、小グリア細胞及び内皮細胞において増大する(Gasque, P. et al., Am. J. Pathol. 150: 31-41 (1997))。C5aは、アルツハイマー病のような神経消耗性疾患に関与しているかもしれない(Mukherjee, P. et al., J. Neuroimmunol. 105: 124-130 (2000))。ニューロン性C5aRを活性化することにより、アポトーシスを誘起し得る(Farkas I et al. J. Physiol. 1998; 507: 679-687)。従って、C5a及び/又はC5aRを阻害することはまた、神経消耗性疾患の治療に有用であり得る。
【0015】
乾癬は、今や、T細胞媒介疾患であることが知られている(Gottlieb, E.L. et al., Nat. Med. 1: 442--447 (1995))。しかしながら、好中球及びマスト細胞もまた、この疾患の病因に関与しているかもしれない(Terui, T. et al., Exp. DermatoL 9: 1-10; 2000); Werfel, T. et al., Arch. Dermatol. Res. 289: 83-86 (1997))。高濃度のC5a des Argが乾癬の鱗中に見出され、このことは、補体の活性化が関与していることを示している。T細胞及び好中球がC5aに化学的に引きつけられる (Nataf, S. et al., J. Immunol. 162: 4018--4023 (1999); Tsuji, R.F. et al., J. Immunol. 165: 1588-1598 (2000); Cavaiilon, J.M. et al., Eur. J. Immunol. 20: 253-257 (1990))。従って、C5aは、乾癬の治療のための重要な治療ターゲットであり得る。
【0016】
免疫グロブリンG含有免疫複合物(IC)は、全身性エリテマトーデス、リウマチ性関節炎、グッドパスチャー症候群及び過敏性肺炎のような多数の自己免疫疾患の病態生理に寄与する(Madaio, M.P., Semin. Nephrol. 19: 48-56 (1999); Korganow, A.S. et al., Immunity 10: 451-459 (1999); Bolten, W.K., Kidney Int. 50: 1754-1760 (1996); Ando, M. et al., Curr. Opin. Pulm. Med. 3: 391-399 (1997))。これらの免疫複合体病における炎症反応のための古典的動物モデルは、多形白血球の浸潤、痔及び血漿浸出を特徴とするアルツス反応である(Arthus, M., C.R. Soc. Biol. 55: 817-824 (1903))。最近の研究により、C5aR欠損マウスが、ICにより誘起される組織傷害から保護されることが示されている(Kohl, J. et al., Mot. Immunol. 36:893-903 (1999); Baumann, U. et al., J. Immunol. 164:1065-1070 (2000))。これらの結果は、小さなペプチド性抗C5aRアンタゴニストが、ICの沈着により引き起こされる炎症反応を阻害するという観察と一貫している。そのレセプターと共に、C5aは、免疫複合体病の病因において重要な役割を果たす。C5a及びC5aRの阻害剤は、これらの疾患の治療に有用であり得る。
【0017】
WO 01/15731A1は、C5aに対する抗体を用いた敗血症の治療組成物及び方法を論じている。これらの抗体は、C5aペプチドのN末端領域とのみ反応し、C5とは交差反応しない。
【0018】
WO 86/05692は、C5a又はそのdes Arg誘導体に特異的な抗体で成人呼吸困難症候群(ARDS)の治療を行うことについて論じている。この抗体は、より免疫原性の高いC5a des Arg誘導体に応答して産生されたものであるが、C5aに対して交差反応する抗体を誘起するであろう。米国特許第5,853,722号は、C5の活性化、ひいてはC5a及びC5bの形成をブロックする抗C5抗体について論じている。
【0019】
米国特許第6,074,642号は、抗C5抗体を用いて腎炎を治療することについて論じている。これらの抗体はまた、C5a及びC5bの生成をブロックし、C5a及びC5b-9の形成の両者の効果を阻害する。米国特許第5,562,904号は、MACの形成を完全にブロックする抗C5抗体について論じている。
【0020】
抗C5抗体についての他の議論では、開示された抗体は、C5の活性化並びにC5a及びC5bを形成するその切断をブロックする(Vakeva, A.P. et al., Circulation 97:2259-2267 (1998); Thomas, T.C. et al., Mol. Immunol. 33:1389-1401 (1996); Wang, Y. et al., Proc Natl Acad Sci. 93:8563-8568 (1996); Kroshus, T. et al., Transplantation 60:1194-1202 (1995); Frei, Y. et al., Mol. Cell Probes 1:141-149 (1987))。
【0021】
C5、C5a又はC5a des Argに交差反応するモノクローナル抗体は報告されている(Schulze, M. et al., Complement 3: 25-39 (1986); Takeda, J, et al., J. Immunol. Meth. 101: 265-270 (1987); Inoue, K., Complement Inflamm. 6: 219-222 (1989)。C5及びC5aと交差反応するモノクローナル抗体が、モルモット血小板からのC5a媒介ATP放出を阻害したことも報告されている(Klos, A. et al., J. lmmunol. Meth. 111: 241-252 (1988); Oppermann, M. et al., Complement Inflamm. 8: 13-24 (1991))。
【発明の開示】
【0022】
C5の活性化は、通常、C5をC5aとC5bに切断することをもたらす。本発明の阻害剤分子は、C5及びC5aと高い親和性で結合し、C5の活性化を阻害せず、C5bの形成を防止せず又はC5bの活性を阻害しない。このような阻害剤の一例は、ヒトC5及びC5a上の共通のエピトープに結合するモノクローナル抗体MAb137-26である。モノクローナル抗体MAb137-26を産生するハイブリドーマは、2001年8月17日に、バージニア州20110-2209マナサス ユニバーシティ ブルバード10801のアメリカン タイプ カルチャー コレクションにPTA-3650の受託番号で寄託されている。
【0023】
本発明の阻害剤分子はまた、(i) C5及びC5aと高い親和性で結合し、C5の活性化を阻害せず、C5bの形成を防止せず又はC5bの活性を阻害しない、他の抗体若しくはその断片、ペプチド、オリゴヌクレオチド又はペプチド模倣物、又は(ii)モノクローナル抗体137-26と同一のエピトープに結合するあらゆる抗体を包含する。抗体断片は、Fab、F(ab')2、Fv又は単鎖Fvを包含し、本発明のモノクローナル抗体及び断片は、キメラ、Deimmunized(商標)、ヒト化又はヒト抗体及び断片、並びにヒトへの使用が許容できる他の形態を包含する。阻害剤分子は、医薬組成物の一部として含めることができる。
【0024】
本発明の阻害剤分子は、過度の若しくは制御されていないC5aの生産を伴う疾患及び症状の治療、又はC5aの存在の検出若しくは定量に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、ELISAにおける、精製ヒトC5aへのMAb137-26(抗C5a、黒四角)及びMAb137-76(抗C5β鎖、白丸)の結合を示す。アイソタイプが同じで無関係なモノクローナル抗体を陰性対照として用いた。Y軸は、450nmの吸光度(OD)として表された、MAbsとC5aの反応性を表し、X軸はMAbsの濃度を表す。MAb137-26はヒトC5aと反応したが、MAb137-76及び無関係な対照抗体は反応しなかった。
【図2】図2は、ELISAにおける、MAb137-26(黒四角)及びMAb137-76(白丸)の、精製ヒトC5への結合を示す。アイソタイプが同じで無関係なモノクローナル抗体を陰性対照として用いた。Y軸は、450nmの吸光度(OD)として表された、MAbsとC5aの反応性を表し、X軸はモノクローナル抗体の濃度を表す。MAb137-26及びMAb137-76の両方ともヒトC5と反応したが、無関係な抗体は反応しなかった。
【図3】図3は、抗C5aMAb137-26が、古典経路(CP)を介するニワトリ赤血球の補体媒介溶血を阻害できないことを示す。抗C2MAb175-62は、溶血を効果的に阻害した。アイソタイプが同じで無関係なモノクローナル抗体は効果を有していなかった。Y軸は、本文にさらに記載するように、溶血阻害の百分率を示す。X軸は、モノクローナル抗体の濃度を示す。
【図4】図4は、抗C5aMAb137-26が、代替経路(AP)を介するウサギ赤血球の補体媒介溶血を阻害できないことを示す。抗D因子MAb166-32は、溶血を効果的に阻害した。アイソタイプが同じで無関係なモノクローナル抗体は効果を有していなかった。Y軸は、本文にさらに記載するように、溶血阻害の百分率を示す。X軸は、モノクローナル抗体の濃度を示す。
【図5】図5は、放射ヨウ素化(125I)-ヒトC5aの精製ヒト好中球への結合の阻害を示す。陽性対照である精製組換えヒトC5a(rHuC5a)は、結合を阻害した。アイソタイプが同じで無関係なモノクローナル抗体は何の効果も示さなかった。Y軸は、本文にさらに記載するように、125I-C5a結合の阻害の百分率を示す。X軸は、競合剤の濃度を示す。
【図6】図6は、セルロース膜上の重複する合成ペプチドによりマッピングした、ヒトC5a上のMAb137-26の結合エピトープを示す。
【図7A】図7Aは、レピルジンで抗凝血処理された全血モデルにおける、オプソニン処理大腸菌により刺激されたヒト好中球上のCD11bの発現を示す。抗C5/C5aMAb137-26(黒丸)は、抗C5aMAb561(Jurg Kohl博士、黒四角)及び抗C5MAb137-30(黒三角)よりもCD11bの発現をより効果的に阻害した。後者の抗体はC5活性化を阻害した。無関係なMAb(黒逆三角)は、効果を有していなかった。Y軸は、免疫フローサイトメトリーにより測定された平均蛍光強度(MFI)を示す。X軸は、抗体の濃度(μg/ml)を表す。T-0=時間0分における全血試料のベースライン。T-10=大腸菌なしでPBSだけと共に10分間インキュベートした全血。阻害剤を含むものも含まないものも、他の試料は、添加された大腸菌を有していた。
【図7B】図7Bは、レピルジンで抗凝血処理された全血モデルにおける、オプソニン処理大腸菌により刺激されたヒト好中球上のCD11bの発現を示す。抗C5/C5aMAb137-26(黒丸)は、ペプチド性C5aRアンタゴニスト (Stephen Taylor博士)(黒四角)よりもCD11bの発現をより効果的に阻害した。無関係なペプチド(黒逆三角)は、効果を有していなかった。Y軸は、免疫フローサイトメトリーにより測定された平均蛍光強度(MFI)を示す。X軸は、抗体/ペプチドの濃度(μg/ml)を表す。T-0=時間0分における全血試料のベースライン。T-10=大腸菌なしでPBSだけと共に10分間インキュベートした全血。阻害剤を含むものも含まないものも、他の試料は、添加された大腸菌を有していた。
【図7C】図7Cは、レピルジンで抗凝血処理された全血モデルにおける、オプソニン処理大腸菌により刺激されたヒト好中球の酸化的バーストを示す。抗C5/C5aMAb137-26(黒丸)及び抗C5MAb137-30(黒三角)の両者とも、抗C5aMAb561(黒四角)よりも効果的に酸化的バーストを阻害した。無関係なMAb(黒逆三角)は、効果を有していなかった。Y軸は、免疫フローサイトメトリーにより測定された平均蛍光強度(MFI)を示す。X軸は、抗体の濃度(μg/ml)を表す。T-0=時間0分における全血試料のベースライン。T-10=大腸菌なしでPBSだけと共に10分間インキュベートした全血。阻害剤を含むものも含まないものも、他の試料は、添加された大腸菌を有していた。
【図7D】図7Dは、レピルジンで抗凝血処理された全血モデルにおける、オプソニン処理大腸菌により刺激されたヒト好中球の酸化的バーストを示す。抗C5/C5aMAb137-26は、ペプチド性C5aRアンタゴニスト(黒四角)よりも効果的に酸化的バーストを阻害した。無関係なペプチドは、効果を有していなかった。Y軸は、免疫フローサイトメトリーにより測定された平均蛍光強度(MFI)を示す。X軸は、抗体の濃度をnMで表す。T-0=時間0分における全血試料のベースライン。T-10=大腸菌なしでPBSだけと共に10分間インキュベートした全血。阻害剤を含むものも含まないものも、他の試料は、添加された大腸菌を有していた。
【図8】図8は、レピルジンで抗凝血処理された全血モデルにおける、Neisseria meningitidesのMAC-媒介殺菌を示す。細菌は、抗C5/C5aMAb137-26(黒丸)、無関係なMAb(黒三角)又はPBS(白四角)の存在下でヒト全血とインキュベートすることにより効果的に殺菌された。対照的に、C5活性化を阻害し、従ってMAC形成を阻害する抗C5MAb137-30(白菱形)で全血を処理した場合には殺菌されなかった。y軸は、血液寒天上で24時間37℃でインキュベートした100μLの全血当りのコロニー形成単位(CFU)を表す。X軸は、全血培養実験からの血液試料採取の異なる時点を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
詳細な説明
1. 本発明の有利性
モノクローナル抗体MAb137-26を包含する本発明の阻害剤は、補体により媒介される炎症及び組織損傷の治療のための公知のモノクローナル抗体阻害剤よりも有利である。MAb137-26は、C5が活性化される前にC5に結合することができる。C5が活性化されてC5aが形成された後は、該抗体は、アナフィラトキシンであるC5aを中和することができる。通常、C5aが形成されると、それは迅速に細胞上のC5aRに結合し、それによって炎症に導くシグナル伝達カスケードが開始される。MAb137-26は、C5が切断されてC5a及びC5bが形成されることは阻害しないが、C5aは引き続きMAb137-26に結合されたままであり、C5aのC5aRへの結合を阻害する。しかしながら、C5b-9の形成は影響を受けない。C5b-9は、殺菌に関与するMACの形成に必要であるので、C5b-9の生産を維持することは保護的免疫応答のために重要である。
【0027】
MAb137-26は、C5aの炎症効果を効果的に中和することができるが、C3及びC5b-9を包含する、補体カスケードの他の成分が抗菌機能を媒介することを許す。この薬理性質は、細菌性敗血症、慢性免疫複合体病及び乾癬の治療に関し非常に重要である。
【0028】
2.発明の製造及び使用
A.モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohler et al., Nature, 256:495 (1975)により初めて記載され、組換えDNA法(米国特許第4,816,567号)により製造することができる。
【0029】
ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適当な宿主動物を上記のように免疫し、免疫に用いたタンパク質に特異的に結合するであろう抗体を産生する又は産生することができるリンパ球を誘起する。動物はまた、特異抗体を誘起するために、生体内でコードタンパク質を発現するDNA構築物で免疫することもできる。あるいは、リンパ球を生体外で免疫することもできる。次に、ポリエチレングリコールのような適当な融合剤を用いてリンパ球をミエローマ細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。
【0030】
このように製造されたハイブリドーマ細胞を、好ましくは融合しなかった親ミエローマ細胞の増殖又は生存を阻害する1又は複数の物質を含む適当な培地に播種し、増殖させる。例えば、親ミエローマ細胞が、酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT又はHPRT)を欠損している場合には、ハイブリドーマのための培地は、HGPRT-欠損細胞の増殖を妨害する物質である、ヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを包含するであろう(HAT培地)。
【0031】
好ましいミエローマ細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞により高レベルの抗体生産が安定に持続し、HAT培地のような培地に対して感受性を有するものである。このようなミエローマセルラインとして、MOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍から誘導された、米国カリフォルニア州サンジエゴのSalk Institute Cell Distribution Centerから入手可能なマウスミエローマライン、並びに米国メリーランド州ロックビルのアメリカン タイプ カルチャー コレクションから入手可能なSP2/0又はX63-Ag8-653細胞がある。ヒトミエローマ及びマウス−ヒトヘテロミエローマセルラインもまた、そのヒトモノクローナル抗体生産について記載されている(Kozbor, J. Immunol. 133:3001 (1984); Brodeur et al., Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications, pp. 51-63 (Marcel Dekker, Inc., New York, 1987))。マウスミエローマセルラインNS0もまた用いることができる(英国ウィルトシアー サリスベリーのヨーロピアン コレクション オブ セルカルチャー)。
【0032】
ハイブリドーマ細胞を増殖させた培地は、抗原に対する抗体の生産について分析される。ハイブリドーマ細胞により生産んされたモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降又は、放射免疫測定(RIA)若しくは酵素結合免疫吸着測定(ELISA)のようなin vitro結合分析により測定することができる。
【0033】
所望の特異性、親和性及び/又は活性を有する抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、そのクローンを限界希釈法によりサブクローニングし、常法により増殖させることができる(Goding, Monoclonal Antibodies: Principles and Practice, pp.59-103 (Academic Press, 1986))。この目的のために適当な培地は、例えばD-MEM又はRPMI-1640培地である。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物内において腹水腫瘍として生体内で増殖させることもできる。
【0034】
サブクローンにより分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、プロテインA−セファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析又は親和性クロマトグラフィーのような従来の免疫グロブリン精製方法により培地、腹水又は血清から適切に分離される。
【0035】
モノクローナル抗体をコードするDNAは、常法により容易に単離し配列決定することができる(Innis M. et al. In PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic, San Diego, CA (1990), Sanger, F.S, et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 74:5463-5467 (1977))。ハイブリドーマ細胞は、このようなDNAの供給源として役立つ。DNAは、一旦単離されると、発現ベクターに入れられ、次いで、該ベクターは、大腸菌細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は免疫グロブリンタンパク質を産生していないミエローマ細胞のような宿主細胞にトランスフェクトされる。抗体の組換え生産は、以下により詳細に記載する。
【0036】
さらなる具体例において、抗体又は抗体断片は、McCafferty, et al., Nature 348:552-554 (1990)に記載された方法を用いて精製された抗体ファージライブラリーから単離することができる。Clackson, et al., Nature 352:624-628 (1991) and Marks, et al., J. Mol. BioL 222:581-597 (1991)は、ファージライブラリーを用いた、マウス及びヒト抗体の単離をそれぞれ記載している。その後の刊行物には、チェインシャフリング(Marks, et al., Bio/Technology 10:779-783 (1992))による高親和性(nM範囲)ヒト抗体の生産、及び、極めて大きいファージライブラリーの構築のための戦略としてコンビナトリアル感染及びin vivo組換え(Waterhouse, et al., Nuc. Acids. Res. 21:2265-2266 (1993))が記載されている。従って、これらの技術は、モノクローナル抗体の単離のための伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術の実行可能な代替法である。
【0037】
DNAは、例えば、ヒトH鎖及びL鎖定常領域をコードする配列で、相同的なマウス配列を置換する(米国特許第4,816,567号; Morrison, et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA 81:6851 (1984))ことにより、又は免疫グロブリンコード配列に、非免疫グロブリンタンパク質をコードする配列の全部又は一部を共有結合することにより修飾することもできる。
【0038】
典型的には、このような非免疫グロブリンポリペプチドは、抗体の定常領域を置換するものであり、又は、抗体の1つの抗原結合部位の可変領域を置換して1つの抗原に対する特異性を有する1つの抗原結合部位と、異なる抗原に対して特異性を有するもう1つの抗原結合部位とを含むキメラ二価抗体を創製するものである。
【0039】
他の代替法は、化学的融合ではなく電気的融合を用いてハイブリドーマを形成する方法である。この技術はよく確立されている。融合に代えて、例えばEpstein Barrウイルス又は形質転換遺伝子を用いてB細胞を形質転換することもできる(例えば、"Continuously Proliferating Human Cell Lines Synthesizing Antibody of Predetermined Specificity," Zurawaki, V. R. et al, in Monoclonal Antibodies, ed. by Kennett R. H. et al, Plenum Press, N.Y. 1980, pp 19-33を参照)。
【0040】
B.ヒト化及びヒト抗体
ヒト化抗体は、非ヒト供給源から導入された1又は2以上のアミノ酸残基を有する。これらの非ヒトアミノ酸残基は、しばしば「輸入」残基と呼ばれ、これらは、典型的には「輸入」可変領域から取られる。ヒト化は、齧歯動物CDRs又はCDR配列で、ヒト抗体の対応する配列を置換することによる、Winterと共同研究者(Jones et al., Nature 321:522-525 (1986); Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988); Verhoeyen, et al., Science, 239:1534-1536 (1988))の方法に本質的に従って行うことができる。従って、このような「ヒト化」抗体では、元のままのヒト可変領域のかなりの部分が非ヒト種からの対応配列により置換される。実際には、ヒト化抗体は、典型的には、いくつかのCDR残基及び場合によりいくつかのFR残基が、齧歯動物抗体中の類似の部位からの残基によって置換されている。
【0041】
ヒト化抗体の製造に用いられる、L鎖及びH鎖の両者のヒト可変領域を選択することは、抗原性を低減させるために極めて重要である。いわゆる「best-fit」法では、齧歯動物の抗体の可変領域の配列を、既知のヒト可変領域配列のライブラリー全体に対してスクリーニングする。次に、齧歯動物の配列に最も近いヒト配列が、ヒト化抗体のためのヒトフレームワーク (FR)として受け入れられる(Sims et al., J. Immunol., 151:2296 (1993); Chothia et al., J. Mol. Biol., 196:901 (1987))。他の方法では、L鎖及びH鎖の特定のサブグループの全てのヒト抗体のコンセンサス配列から誘導された特定のフレームワークが用いられる。同じフレームワークは、数種類の異なるヒト化抗体のために使用され得る(Carter et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89:4285 (1992); Presta et al., J. Immunol., 151:2623 (1993))。
【0042】
抗原に対する高い親和性を及び他の好ましい生物学的性質を維持したまま抗体をヒト化することがさらに重要である。この目的を達成するために、好ましい方法では、親及びヒト化配列の三次元モデルを用いて、親配列及び種々の概念的なヒト化産物を分析する方法によりヒト化抗体が調製される。三次元免疫グロブリンモデルは当業者が共通に利用することができ、よく知られている。選択された免疫グロブリン配列の候補の、予測される三次元構造を描いて表示するコンピュータープログラムが入手可能である。これらの表示を調べることにより、免疫グロブリン配列の候補の機能における、残基の予測される役割を分析すること、すなわち、免疫グロブリン候補がその抗原に結合する能力に対する残基の影響を分析することが可能になる。このようにして、標的抗原に対する増大された親和性のような、所望の抗体特性が達成されるようにFR残基を選択し、受容個体及び輸入配列を組み合わせることができる。一般的に、CDR配列は直接的にそして最も実質的に、抗原結合に影響する。
【0043】
あるいは、当業者は、内発的な免疫グロブリン生産を行なうことがなく、免疫するとヒト抗体の全レパートリーを生産することができる、トランスジェニック動物(例えばマウス)を生産することができる。このようなトランスジェニックマウスは、カリフォルニア州Fremont のAbgenix, Inc.及びニュージャージー州AnnandaleのMedarex, Inc.から入手可能である。キメラ及び生殖系列突然変異マウスの抗体のH鎖結合領域(JH)遺伝子をホモ接合で欠失させることにより、内発的な抗体生産が完全に阻害される。ヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子アレーをこのような生殖系列突然変異マウスに導入すると、抗原で攻撃すればヒト抗体が生産されるようになるであろう。例えば、Jakobovits et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:2551 (1993); Jakobovits et al., Nature 362:255-258 (1993); Bruggermann et al., Year in Immunol. 7:33 (1993); 及びDuchosal et al. Nature 355:258 (1992)を参照のこと。ヒト抗体はまた、ファージディスプレイライブラリーから誘導することもできる(Hoogenboom et al., J. Mol. Biol. 227:381 (1991); Marks et al., J. Mol. Biol. 222:581-597 (1991); Vaughan, et al., Nature Biotech 14:309 (1996))。
【0044】
C.Deimmunized(商標)抗体
Deimmunized(商標)抗体は、国際特許出願PCT/GB98/01473に記載されているように、潜在的なT細胞エピトープが除去されているものである。従って、これを生体に投与した場合に、ヒトにおける免疫原性が排除又は実質的に減少されている。
【0045】
さらに、抗体は、例えば、循環半減期を長くするために、共有結合によりポリマーに結合することにより化学的に修飾することもできる。好ましいポリマー及びそれらをペプチドに結合させる方法は、米国特許第4,766,106, 4,179,337, 4,495,285及び4,609,546に記載されており、これらの全体は、この明細書に組み入れられたものとする。好ましいポリマーは、ポリオキシエチル化ポリオールおよびポリエチレングリコール(PEG)である。PEGは室温で水に可溶であり、好ましい分子量は1000〜40000、さらに好ましくは2000〜20000、最も好ましくは3000〜12000である。
【0046】
D.抗C5/C5a MAbの生成
本発明の抗体は、この分野で広く知られた伝統的なハイブリドーマ技術により生成させることができる。短く述べると、免疫原としてヒト血清から精製され、フロインドの完全アジュバント中に乳濁したC5でマウスを免疫する。免疫は、10〜100μgのC5を皮下又は腹腔内注射することにより行なわれる。10〜14日後、フロインドの不完全アジュバントに乳濁したさらなるC5を動物に追加免疫する。その後、1週間又は2週間毎に定期的にマウスに追加免疫する。
【0047】
それぞれの融合のために、単一細胞懸濁液を、免疫した動物の脾臓から調製し、SP2/0ミエローマ細胞との融合に用いた。50%ポリエチレングリコール(M.W. 1450)(ニューヨーク州RochesterのKodak)及び5%ヂメチルスルホキシド(ミズリー州St. LouisのSigma Chemical)を含む培地中で、SP2/0細胞(1 x 108)と脾細胞(1 x 108)を融合した。次に、5%ウシ胎児血清及びHAT(10mMヒポキサンチンナトリウム、40μMアミノプテリン及び1.6mMチミジン)を添加したDMEM培地(ニューヨーク州Grand IslandのGibco)中で細胞濃度を1.7 x 106脾細胞/mlに調整した。250μLの細胞懸濁液を50枚の96穴マイクロテストプレートのそれぞれのウェルに添加した。約10日後、培養上清を吸引し、ELISAにより精製ヒトC5との反応性をスクリーニングした。
【0048】
Immulon II(バージニア州ChantillyのDynatech Laboratories)マイクロテストプレートのウェルを、0.1μg/ml(50μL/ウェル)のヒトC5で一夜被覆した。次いで、200μLのリン酸緩衝液(PBS)中5% BLOTTO(脱脂乾燥ミルク)溶液中で1時間インキュベートすることにより、ウェル中の非特異結合部位を飽和させた。次にウェルをPBST緩衝液(0.05% TWEEN(登録商標)20含有PBS)で洗浄した。各融合ウェルからの培養上清50μLを、50μLのBLOTTOと共に被覆ウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。次にウェルをPBSTで洗浄した。次に、希釈したセイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)結合ヤギ抗マウスIgG(Fc特異的)(ペンシルバニア州West GroveのJackson ImmunoResearch Laboratories)と室温で1時間反応させることにより、結合した抗体を検出した。次にウェルをPBSTで洗浄した。0.1M酢酸ナトリウムpH6.0中に0.1%の3,3,5,5テトラメチルベンジジン (ミズリー州St. LouisのSigma)及び0.003%の過酸化水素(ミズリー州St. LouisのSigma)を含むペルオキシダーゼ基質溶液をウェルに加え、30分間発色させた。各ウェルに50μLの2M H2SO4を添加することにより反応を停止した。450nmの吸光度(OD)をELISAリーダー(バージニア州ChantillyのDynatech Laboratories)で読んだ。
【0049】
C5との反応性が陽性であるウェル中のハイブリドーマを、限界希釈法により単一細胞クローニングした。次に、モノクローナルハイブリドーマを増殖させ、培養上清を回収してプロテインAクロマトグラフィーにより精製した。次に、精製した抗体について、C5及びC5aとの反応性をELISAにより調べ、親和性及び動的結合定数をBIAcoreにより測定し、古典及び代替経路の両方をそれぞれ介する、補体媒介溶血に対する効果を調べ、精製ヒト好中球への125I-C5a結合の阻害を調べて特徴付けた。
【0050】
抗体はまた、C5に結合するヒトscFvのライブラリーをパンニング(panning)することによっても選択することができる(Griffiths et. al., EMBO J. 12:725-734 (1993))。特定のクローンの特異性及び活性は、公知の分析法により調べることができる(Griffiths et. al.; Clarkson et. al., Nature, 352: 642-648 (1991))。最初のパンニング工程の後、C5への結合性が改善された、ファージ上にディスプレイされた複数の異なる単鎖抗体を含むファージのライブラリーが得られる。引き続きパンニング工程を行なうことにより、より高い結合親和性を有するさらなるライブラリーが提供される。結合力効果が問題である場合には、20%未満、10%未満又は1%未満のファージが、ファージの表面上に1コピーを超える抗体をディスプレイする、1価のファージディスプレイライブラリーを用いることができる。1価ディスプレイは、ファージミド及びヘルパーファージを用いることにより達成することができる。適当なファージは、M13, f1及びfd繊維状ファージを包含する。ウイルスコートタンパク質と共に融合タンパク質をディスプレイすることも公知であり、本発明において用いることができる。
【0051】
C5及びC5aに対する親和性が同等であるMAb137-26をさらに特徴付けた。MAb137-26は、C5活性化を阻害しないが、C5aの、精製ヒト好中球上のC5aRへの結合を非常に強く阻害する。これらの性質を示す実験は、下記実施例においてさらに説明する。
【0052】
目的抗原(例えば、ここで開示する、C5に対する抗体のいずれかの結合をブロックする)上の特定のエピトープに結合する抗体をスクリーニングするために、Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, Ed Harlow and David Lane (1988)に記載されたような、ルーチンな交差ブロッキングアッセイを行うことができる。あるいは、例えば、Champe et al., J. Biol. Chem. 270:1388-1394 (1995)に記載されたような、エピトープマッピングを行なって、抗体が目的のエピトープに結合するかどうかを調べることができる。
【0053】
E.本発明の他の阻害剤の製造
本発明に用いるのに適した他の分子は、例えば、ライブラリー中の化合物がC5/C5aに結合するか否かを調べ、次いでそれらがC5bの活性を阻害するか否かを調べることによる、従来の手段により化合物ライブラリーから単離又はスクリーニングすることができる。化合物ライブラリーを生成しスクリーニングする自動化システムは、米国特許第5,901,069号及び第5,463,564号に記載されている。より目的を絞った方法として、MAb137-26に対する競合スクリーニング、又は結合部位の三次元モデルを作り、次いで該モデルに合致する一群の分子を製造する方法が挙げられる。次にそれらについて、最適の結合特性をスクリーニングする。さらに、他の分子は競合アッセイによって、又はMAb137-26と同じ性質の阻害剤の機能的スクリーニングによって同定することができる。
【0054】
F.本発明の阻害剤の使用
本発明の分子は、多数の経路のいずれでも投与することができ、求められる効能又は目的において治療的に有効な濃度で投与することができる。この目的を達成するために、抗体は、この分野において知られている種々の許容できる賦形剤を用いて製剤することができる。典型的には、抗体は注射により投与される。この投与を達成する方法は、当業者に知られている。局所的又は経口的に投与される組成物、又は粘膜を介して移行することができる組成物を得ることも可能である。
【0055】
投与量及び形態は、個人及び投与される薬剤に依存するであろう。投与量は、ルーチンな臨床試験又は抗体が有効であった動物モデルからの予測により決定することができる。
【0056】
本発明の抗体は、C5aの過剰又は制御されない生産により媒介される疾患及び状態の治療に用いることができる。これらの疾患及び状態の治療における本発明の阻害剤の有用性の証拠を以下に記載する。
【実施例1】
【0057】
実施例1: MAb137-26のヒトC5及びC5aとの反応性
MAb137-26の、精製ヒトC5及び組換えC5a(ミズリー州St. LouisのSigma)との反応性を調べた。ELISAの方法は上記した通りである。MAb137-26は、高い力価で濃度依存的にC5aに結合する(図1)。ヒトC5のβ鎖に特異的な他の抗体である抗C5 MAb137-76は、C5aには結合しない。なぜならC5aは、C5のα鎖上に存在するからである。陰性コントロールとして用いた、同じアイソタイプの無関係な抗体もC5aと結合しない。一方、MAb137-26及び137-76はC5に結合する(図2)。
【0058】
MAb137-26の、C5a及びC5に対する親和性平衡定数及び動的結合定数(会合及び解離)も、BlAcore instrument (スウェーデン国Uppsala のPharmacia Biosensor AB)により測定した。全ての結合測定は、HEPES緩衝液(HBS) (10mM HEPES, pH 7.4, 150 mM NaCl, 3.4 mM EDTA, 0.005%界面活性剤P20)中で25℃で行なった。C5及びC5aのMAb137-26への結合速度定数を測定するために、N-ヒドロキシスクシンイミド及びN-エチル-N'-(3-ジエチルアミノプロピル)カルボジイミドを用いたアミンカプリングにより、CM5センサーチップ上にウサギ抗マウスIgG(Fc)抗体を不動化した。次に、C5を異なる濃度で注射する前に、MAb137-26を、被覆センサーチップ上に捕捉した。データを表1にまとめる。MAb137-26は、液相C5a及びC5に対して高い結合親和性を有する。結果はまた、MAb137-26がC5aとC5に共通するエピトープに結合することも示している。
【0059】
【表1】

kon, 動的会合定数
koff, 動的解離定数
KD 平衡乖離定数=koff/kon
【実施例2】
【0060】
実施例2: 補体媒介溶血
ヒト血清中のC5の活性化に対するMAb137-26の効果を試験するために、古典及び代替補体経路により媒介される溶血の、抗体による阻害について調べた。
【0061】
古典経路の実験のために、0.5mM MgCl2及び0.15mM CaCl2を含むゼラチン/ベロナール緩衝液(GVB++)中のニワトリRBCs(5 x 107細胞/ml)を、8μg/mlの精製ウサギ抗ニワトリRBC免疫グロブリン(ニュージャージー州Hoperwell のinter-Cell Technologies)で、4℃で15分間感作した。次に細胞をGVB++で洗浄した。洗浄した細胞を、同じ緩衝液に1.7 x 108細胞/mlの濃度で再懸濁した。丸底96穴マイクロテストプレートの各ウェル中で、50μLの正常ヒト血清(5.2%)を、低減希釈した50μLのGVB++中MAb137-26又は陽性対照としての抗C2MAb175-62と混合した。次いで、混合物を含むウェルに、30μLの洗浄した感作ニワトリRBCs懸濁液を添加した。50μLの正常ヒト血清(5.2%)を80μLのGVB++と混合して血清色バックグランドとした。同じアイソタイプの抗HIV-1 gp120 MAbを陰性対照として用いた。採用した最終ヒト血清濃度は2%であった。混合物を37℃で30分間インキュベートした。プレートはマイクロテストプレートシェーカー上で15秒間振とうした。次にプレートを300 x gで3分間遠心した。上清(80μL)を回収し、平底96穴マイクロテストプレートのウェルに移し、ELISAプレートリーダーで405nmにおけるODを測定した。溶血の阻害%は次の通り定義される。
100 x [(ODMAbなし−OD血清色バックグランド)−(ODMAbあり−OD血清色バックグランド)]/(ODMAbなし−OD血清色バックグランド)
【0062】
図3は、MAb137-26及び無関係な対照MAb G3-519が感作ニワトリRBCsの古典経路溶血を阻害せず、一方、陽性対照である抗C2 MAb175-62は溶血を効果的に阻害することを示している。C2は、古典補体経路に特異的に関与する。
【0063】
代替経路のために、2mM MgCl2及び1.6mM EGTAを含むゼラチン/ベロナール緩衝液(GVB/Mg-EGTA)で、未感作ウサギRBCsを3回洗浄した。古典経路を阻害するために、10mMの濃度のEGTAを用いた(K. Whaley et al., in A.W. Dodds (Ed.), Complement: A Practical Approach. Oxford University Press, Oxford, 1997, pp. 19-47)。アッセイ方法は、上記した古典経路溶血アッセイの場合と同様である。このアッセイで採用したヒト血清の最終濃度は10%であった。抗D因子MAb166-32を陽性対照として用いた。上記した、アイソタイプが同じの無関係な抗HIV-1 gp120 MAbを陰性対照として用いた。
【0064】
図4は、MAb137-26が未感作ウサギRBCsの代替経路溶血を阻害せず、一方、抗D因子MAb166-32は溶血を強く阻害することを示している。D因子は、代替補体経路に特異的である。陰性対照抗体は効果を有していない。
【0065】
総合すると、上記結果により、MAb137-26がC5活性化を阻害しないこと、従って、C5a及びC5b-9の形成を阻害しないことが確認される。MAb137-26は代替及び古典補体経路の活性化を阻害しない。
【実施例3】
【0066】
実施例3: MAb137-26による、125I-C5aの精製ヒト好中球への結合の阻害
ヒト好中球は、ヒト全血から精製し、Dextran T-500/saline溶液で希釈した。該混合物は、約20分間又は明瞭な表層が現れるまで室温でインキュベートした。この表層を50mlのポリプロピレン遠心管に移した。遠心後、細胞ペレットを30mlの冷PBSB(PBS中1% BSA)中に懸濁した。細胞懸濁液を、50mlのポリプロピレン遠心管中の10mlのHistopaque-1077(ミズリー州St. LouisのSigma)上に積層した。さらに遠心後、細胞ペレットを20mlの冷0.2% NaCl中に30秒間再懸濁してRBCsを溶解した。次に、20mlの冷1.6% NaClを細胞懸濁液に加え、再遠心し、好中球をPBSB中に再懸濁した。125I-C5a結合に用いるまで好中球は氷上に維持した。
【0067】
1.5mlのエッペンドルフ遠心管中で、MAb137-26を結合緩衝液(RPMI1640培地中1% BSA)で低減希釈し、終濃度を640nMから0.04nMにした。4μLの4nM 125I-C5a(マサチューセッツ州BostonのNEN Life Science Products, Inc.)を36μLの希釈MAb137-26に加え、室温で15分間インキュベートした。精製組換えヒトC5a(ミズリー州St. LouisのSigma)を陽性対照として用い、一方、アイソタイプが同じで無関係なモノクローナル抗体を陰性対照として用いた。125I-C5aの最大の結合を与えるために、抗体又はC5aを含まない36μLの結合緩衝液を代わりに用いた。50μLの好中球懸濁液を各管に加え、氷上でインキュベートした。40分間のインキュベーション終了時に各管からの混合物を、他のエッペンドルフ管中の800μLの分離緩衝液(PBS中6% BSA)の上に移した。次に、管を2000 x gで室温で3分間遠心した。上清を吸引後、細胞ペレットを0.5mlの脱イオン水中で再懸濁して細胞を溶解した。次に、細胞溶解物を3mlのUltima Gold scintillation fluid (コネチカット州Meriden のPackard Instrument)と混合し、放射能を計測した。
【0068】
125I-C5a結合の阻害%は次のように定義される。
[Cpmmax−Cpmbkg]−[Cpmca−Cpmbkg]/[Cpmmax−Cpmbkg] x 100
ただし、
Cpmmax=競合剤なしの場合の1分間当りの最大カウント
Cpmbkg125I-C5aを加えない場合のバックグランドcpm
Cpmca=競合剤有りの場合のcpm
【0069】
図5は、放射ヨウ素化(125I)-ヒトC5aの精製ヒト好中球への結合の阻害を示している。MAb137-26は、未標識C5aよりも125I-C5aの精製ヒト好中球への結合阻害活性が高かった。50%阻害(ID50)は、MAb137-26が0.45nMで、これと比較されるC5aが30nMであった。
【実施例4】
【0070】
実施例4: セルロース膜上のSPOTsペプチドによるヒトC5a上のMAb137-26の結合エピトープのマッピング
Sigma Genosys (テキサス州the Woodlands)により合成されたSPOTsペプチドを用いた技術により、ヒトC5a上のMAb137-26の結合エピトープをマッピングした。ヒトC5aの全体に亘る、重複するペプチド(12-mer)をセルロース膜上に合成した。このアッセイにおいて、膜を先ずブロッキング溶液TBSTB(10mM Trisクロリド、250mM塩化ナトリウム、1%ウシ血清アルブミン及び0.05% TWEEN(登録商標)20)で、1時間室温で処理して全ての非特異結合部位を飽和した。次に、ブロッキング溶液中に1μg/mlのMAb137-26を含む溶液を膜に加え、室温で1時間インキュベートした。次に、膜を洗浄緩衝液TBST(10mM Trisクロリド、250mM塩化ナトリウム及び0.05% TWEEN(登録商標)20)で完全に洗浄した。次に、膜をHRP-結合ヤギ抗マウスIgG(Fc)(ブロッキング緩衝液中に1:5000希釈)(ペンシルバニア州West GroveのJackson Immunoresearch)で1時間室温で処理した。次に膜を再度洗浄した。C5aの個々のSPOTsペプチドへのMAb137-26の結合は、Supersignal West Pico化学発光基質(イリノイ州RockfordのPierce)とインキュベートすることにより検出した。次に、Kodak X-OMAT ARフィルム(ニューヨーク州Rochester)に露光することにより化学発光強度を測定した。図6は、MAb137-26により結合されたエピトープの配列を示す。
【実施例5】
【0071】
実施例5: 補体媒介炎症を試験するための、生体外ヒト全血モデル: 大腸菌による好中球活性化及びNeisseria meningitidisの殺菌に対するMAb137-26の効果
複雑な炎症系ネットワークにおける補体の役割を調べるためには、全ての潜在的な細胞性及び液相メディエーターが存在する必要があり、従って、同時に相互作用する。このような実験環境をin vitroで作り出すために、ヒト全血を用いた。このモデルでは、トロンビン特異的ヒルジン類似体であるレピルジン(REFLUDAN(登録商標))を、ヘパリンに代わる抗凝固剤として用いた。ヘパリンとは異なり、レピルジンは補体活性化を妨害しない。
【0072】
このモデル系では、MAb137-26は、大腸菌による補体活性化の結果形成されたC5aの炎症効果をブロックした。該抗体は、MACにより媒介されるN. meningitidisの殺菌を阻害しなかった。従って、MAb137-26はC5の活性化及びそれに続くMACの形成を阻害することなくC5aを中和することができる。これは、本発明のモノクローナル抗体の重要な特徴である。
【0073】
レピルジン(50μg/ml)を含むポリプロピレン管中に全血を採取した。抗凝固処理した全血を、PBS又は抗C5阻害剤と4分間37℃で前インキュベートした。好中球上のCD11bの発現及び酸化的バーストを試験するために、オプソニン処理した大腸菌LE392株(ATCC 33572)を全血試料に加え、10分間37℃でインキュベートした。CD11b実験では大腸菌の濃度は1 x 107/mlであり、酸化的バースト実験では1 x 108/mlであった。T-0ベースライン試料は直ちに処理した。インキュベーション後、100μLの試料を用いて、免疫フローサイトメトリーにより好中球上のCD11b発現を測定した。基質ジヒドロローダミン123を用いてBurst-test procedure (ドイツ国HeidelbergのORPEGEN Pharma)に記載された通りに活性化好中球の酸化的バーストを測定した。
【0074】
図7A〜7Dは、CD11b発現及び酸化的バーストのための好中球活性化のフローサイトメトリーアッセイの結果を示す。抗C5/C5aMAb137-26は、炎症のヒト全血モデルにおいて大腸菌により誘起される好中球活性化を効果的に阻害した。これらのアッセイにおいて、MAb137-26は、抗C5aMAb561(Jurg Kohl博士)及びペプチド性C5aRアンタゴニスト(Stephen Taylor博士)よりも高力価であった。
【0075】
細菌アッセイのために、N. meningitidis H44/76-1をBHI寒天上で一夜増殖させ、継代培養し、4時間かけて対数期まで増殖させた。5000〜10000コロニー形成単位(CFUs)を、レピルジンで抗凝血処理され、PBS又は抗体と5分間前インキュベートした1.1mlの全血試料に加えた。各時間において、血液寒天を含む生物学的ペトリ皿上に100μLの全血を撒き、24時間37℃でインキュベートした。細菌の増殖を、添加した100μLの全血当りのCFUで表した。T-0試料は細菌を加えた直後に得た。
【0076】
図8は、MAb137-26が、Neisseria meningitidesのMAC媒介殺菌を阻害しなかったことを示している。対照的に、MAb137-30は、ヒト全血によるNeisseria meningitidesの殺菌を阻害した。この抗体はC5活性を阻害する。
【0077】
先のセクションで用いた用語及び表現は例示のためのみのものであって限定的ではなく、本発明の範囲は以下の請求の範囲のみにより定義されるものであり、これらの請求の範囲の主題の全ての均等物を含むことが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C5及びC5aとは結合するが、C5の活性化を阻害せず、C5bの形成を防止せず又はC5bの活性を阻害しない阻害剤。
【請求項2】
分子が、C5と同等又はそれよりも高い親和性で遊離のC5aに結合する、請求項1記載の阻害剤。
【請求項3】
分子がC5aのC5aRへの結合を阻害する、請求項1記載の阻害剤。
【請求項4】
モノクローナル抗体137-26と同じC5のエピトープに結合する阻害剤。
【請求項5】
阻害剤が抗体又はその断片である請求項1又は4記載の阻害剤。
【請求項6】
分子がモノクローナル抗体である請求項5記載の阻害剤。
【請求項7】
阻害剤が、Fab、F(ab')2、Fv及び単鎖Fvから成る群より選ばれる抗体断片である請求項5記載の阻害剤。
【請求項8】
抗体がキメラ性、deimmunized、ヒト化又はヒト抗体である請求項6記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
ATCCにPTA-3650の受託番号で寄託されているハイブリドーマから生産されるモノクローナル抗体137-26。
【請求項10】
請求項9記載のハイブリドーマセルライン。
【請求項11】
請求項1又は4記載の阻害剤と、薬理学的に許容できる担体、賦形剤、安定剤又は希釈剤を含む医薬組成物。
【請求項12】
請求項1又は4記載の阻害剤を投与することを含む、C5aの活性の阻害方法。
【請求項13】
C5aの阻害がin vitroで測定される請求項12記載の方法。
【請求項14】
生体内又は生体外で請求項1又は4記載の阻害剤を投与することを含む、C5aの過剰又は制御されない生産により媒介される疾患又は状態の治療方法。
【請求項15】
阻害剤分子が、静脈内注入、静脈内大量注射、腹腔内、皮内、筋肉内、皮下、経鼻、気管内、脊髄内、頭内又は経口投与される請求項12記載の方法。
【請求項16】
請求項1又は4記載の阻害剤分子で、試料中に存在するC5又はC5aの量を検出することを含む診断方法。
【請求項17】
阻害剤がモノクローナル抗体137-26である請求項16記載の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−51987(P2011−51987A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195807(P2010−195807)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【分割の表示】特願2003−520777(P2003−520777)の分割
【原出願日】平成14年8月17日(2002.8.17)
【出願人】(502285516)タノックス インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】