説明

C60−ポルフィリン共有結合体

【課題】有機太陽電池用色素として有用なフラーレンを機能化した新たな化合物及びこの化合物を用いた太陽電池及び光電荷分離素子の提供。
【解決手段】下記一般式で示される化合物(中心金属なしの化合物及び中心金属が亜鉛又ニッケルの化合物を含む)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフラーレンC60-ポルフィリン共有結合体とその利用法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の太陽電池の主流であるシリコン系太陽電池は、発電コストの高さ、高純度シリコン生成に大量のエネルギーが必要であるなどの問題がある。それに代わる太陽電池として、デバイス構造が簡単で有機顔料や有機色素を用いることで安価に製造できる環境調和型次世代有機太陽電池が注目されている。
【0003】
p型半導体分子として亜鉛フタロシアニンや導電性ポリマーを用いn型半導体分子としてフラーレンなどを組み合わせた有機薄膜半導体を用いる有機太陽電池は、構造や製法が簡便であり、次世代太陽電池として盛んに研究されている。
【0004】
p型半導体分子として亜鉛フタロシアニンは、有機溶剤に溶けないためその成膜作製条件に問題があった。それに対して、ピロール環拡張ポルフィリンは有機溶媒に可溶で可視領域に吸収を持つため金属フタロシアニンの代用化合物として有用である。ピロール環拡張ポルフィリンは、1996年にK. M. Smithらによって合成された(非特許文献1)。その反応性ならびに光物性に関連した研究が盛んに行われている(非特許文献2)。
【0005】
また、光合成型有機太陽電池としてフラーレンを電子受容体として内包する化合物であって、前記化合物は、具体的にはフラーレン、ポルフィリン及びフェロセンを直列に結合した化合物である(特許文献1、段落0017)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−261016号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】L. Jaquinod, C. Gros, M. M. Olmstead, M. Antolovich, K. M. Smith, Chem. Commun., 1996, p.1475-1476
【非特許文献2】K. Tan, L. Jaquinod, R. Paolesse, S. Nardis, C. D. Natale, A. D. Carlo, L. Prodi, M. Montalti, N Zaccheroni, K. M. Smith, Tetrahedron, 2004, 60, p.1099-1106
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、有機太陽電池用色素として有用なフラーレンを機能化した新たな化合物の提供と、この化合物を用いた太陽電池及び光電荷分離素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、有機太陽電池用色素として有用なフラーレンを機能化する方法として新たに、ピロール環拡張ポルフィリンとフラーレンを共有結合で結合することが可能であることを見し、新規なピロール環拡張ポルフィリンとフラーレンを共有結合した化合物の合成に成功して本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、下記一般式(A)または(B)で示される化合物に関する。
【化1】

【0011】
上記一般式(A)または式(B)中、Mはニッケルまたは亜鉛であり、Rはアリール基または4位に置換基を持つアリール基であり、C60はC60のフラーレンを示す。
【0012】
さらに本発明は、上記本発明の化合物を光電荷分離材料として用いる太陽電池及び導電性基板の表面に上記本発明の化合物の自己組織化単分子膜を有する光電荷分離素子に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、上記一般式(A)または式(B)で表される新規化合物を効率よく合成する条件を明らかにするとともに、合成した化合物の一部が蛍光を発する化合物であることを明らかにした。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実施例1の反応生成物の1H NMRスペクトルの高磁場側を示す。
【図2】実施例1の反応生成物の1H NMRスペクトルの低磁場側を示す。
【図3】実施例1の反応生成物の13C NMRスペクトルを示す。
【図4】実施例1の反応生成物のMALDI-TOF-MASSスペクトルを示す。
【図5】実施例1の反応生成物のZn-C60-COOEt及びNi-C60-COOEtのUV-visスペクトルを示す。
【図6】実施例1の反応生成物のZn-C60-COOEtの励起・蛍光スペクトルを示す。
【図7】実施例1の反応生成物のZn-CHO-COOEtの励起・蛍光スペクトルを示す。
【図8】実施例2の反応生成物の1H NMRスペクトルの全体図を示す。
【図9】実施例2の反応生成物の1H NMRスペクトルの高磁場側を示す。
【図10】化合物7aの1H NMRスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、下記一般式(A)または下記式(B)で示される化合物に関する。この化合物は、フラーレンC60とポルフィリンを共有結合した化合物である。
【化2】

【0016】
上記一般式(A)または式(B)中、Mはニッケルまたは亜鉛であり、Rはアリール基または4位に置換基を持つアリール基であり、C60はC60のフラーレンを示す。アリール基としてはフェニル基を例示できる。アリール基の4位における置換基としては、例えば、C1〜6のアルキル基やC1〜6のアルキル基を持つアルコキシ基を挙げることかできる。置換基を持つアリール基の具体例としては、例えば、トリル基を挙げることができる。
【0017】
上記一般式(A)で示される化合物は、例えば、式(1)で示されるピロール環拡張ポルフィリンとフラーレンを共有結合で結合することで合成できる。下記式(A)で示される化合物は、ポルフィリンの中心金属であるMがニッケルであり、Rがフェニル基の化合物である。ポルフィリンの中心金属であるMが亜鉛の場合も同様の反応により合成できる。
【0018】
【化3】

【0019】
上記反応は、詳細は実施例に示されているが、原料化合物(1)とフラーレンをサルコシンの存在下に有機溶媒中で所定時間、加熱還流することで合成できる。原料化合物(1)とフラーレンの比率は、例えば、原料化合物(3)1当量に対して、フラーレンを1〜30当量の範囲とすることができる。サルコシンは、アルデヒド基に効率よくフラーレンを結合するために必要であり、アゾメチンイリドを形成させる。次いでフラーレンと1,3-双極子付加反応を起こさせ、最終的にフラーレン上にピロリジン環が形成され、その使用量は、原料化合物(1)1当量に対して、サルコシン1〜50当量の範囲とすることができる。
【0020】
反応をモニタリングし、反応が終了したら、有機溶媒を留去して、目的生成物を得る。目的生成物は、必要により適宜常法により精製することができる。上記反応に用いる有機溶媒は、原料化合物(1)、フラーレン及びサルコシンを溶解できる溶媒から適宜選択でき、例えば、トルエンであることができる。但し、トルエンに限定される意図ではなく、キシレン、ベンゼン、塩化メチレン等の有機溶媒もトルエンの代りに、あるいはトルエンとの混合液として使用できる。
【0021】
式(1)で示されるピロール環拡張ポルフィリンは、非特許文献2の記載を参考に合成することかできる。また、ポルフィリンの中心金属であるMが亜鉛である式(3)で示されるピロール環拡張ポルフィリンは、式(1)の化合物から中心金属を酸中で脱メタルしたのち中和することで化合物(2)とし、次いで酢酸亜鉛を用いて化合物(3)とすることで合成できる。式(1)の化合物から中心金属取り除いた後中和した化合物(2)とする反応は、式(1)の化合物を溶媒に溶解し、例えば、トリフルオロ酢酸と濃硫酸を加え10分処理した後飽和の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和することで実施することができる。また、酢酸亜鉛を用いての化合物(3)の合成は、例えば、クロロホルム・メタノール(1:1)中、数時間加熱還流することで実施できる。
【0022】
【化4】

【0023】
式(B)で示される化合物は、一般式(A)で示される化合物の内中心金属が亜鉛である錯体をメタンスルホン酸のような有機酸で短時間処理した後、飽和の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて中和することで合成することができる。中和後は、分液抽出を行うことで、式(B)で示される化合物が得られる
【0024】
本発明は上記本発明の一般式(A)及び(B)で示される化合物を光電荷分離材料として用いる太陽電池に関する。さらに本発明は、導電性基板の表面に上記本発明の化合物の自己組織化単分子膜を有する光電荷分離素子に関する。
【実施例】
【0025】
以下に本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0026】
【化5】

【0027】
参考例1
化合物(1)の脱メタル化
ナスフラスコにスターラーバーを入れ、化合物(1) 400.6mgを塩化メチレン15 mlに溶かしたのを確認後、TFA(トリフルオロ酢酸)30 mlを加える攪拌する。その後濃硫酸3 mlを加え約10分間攪拌した後、分液漏斗で水洗する。その後シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離精製した後炭酸水素ナトリウムにより中和することで化合物(2)を240 mg yield 64 %で得た。
【0028】
化合物(2)への亜鉛の挿入
ナスフラスコにスターラーバーを入れ、化合物(2) 101.2 mgをクロロホルム−メタノール(1:1)混合溶媒に溶かし、酢酸亜鉛二水和物293.6 mgを加え110℃二時間加熱還流をおこなった後シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより単離精製し化合物(3)を得た。収量 82.3 mg 収率 75%
【0029】
実施例1
Zn-C60-COOEtの合成
【化6】

【0030】
実験方法
二口ナスフラスコにスターラーバーを入れ、参考例1で合成した原料化合物(3)(1 eq.)とフラーレンC60(3 eq.)及びサルコシン(30 eq.)を加え、リフラックスコンデンサをつけてアルゴン置換を行う。トルエンを加えて完全に溶かした後、リフラックスを130℃、TLCモニタリングで原料がなくなるまで行う。その後溶媒を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製を行う。
【0031】
【表1】

【0032】
図1〜7に、上記反応生成物の1H NMRスペクトルの高磁場側、1H NMRスペクトルの低磁場側、13C NMRスペクトル、MALDI-TOF-MASSスペクトル、Zn-C60-COOEt及びNi-C60-COOEtのUV-visスペクトル、Zn-C60-COOEtの励起・蛍光スペクトル及びZn-CHO-COOEtの励起・蛍光スペクトルをそれぞれ示す。
【0033】
実施例2
2H-C60-COOEtの合成
【化7】

【0034】
実験方法
分液ロートに原料(20 mg)を入れ、クロロホルム(5 ml)を加えて完全に溶かす。そこに酸を加え100回ほど振り、飽和の炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて完全に中和し、分液抽出を行う。硫酸ナトリウムを加えて乾燥し、溶媒を留去する。シリカシリカゲルカラムクロマトグラフィーロロホルム溶媒を用いて分離精製を行い、定量的に化合物を得た。
【0035】
【表2】

【0036】
図8及び9に、上記反応生成物の1H NMRスペクトルの全体図及び1H NMRスペクトルの高磁場側をそれぞれ示す。
【0037】
参考例2
Nickel(II) 5,10,15,20-tetraphenyl[1,2-c] formylpyrrolo-21-ethylcarboxyl porph
yrin(7a
【化8】

【0038】
【表3】

【0039】
図10に、化合物7aの1H NMRスペクトルを示す。上記化合物を原料として実施例1と同様の方法で、中心金属がニッケルである本発明の化合物を合成できる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、有機太陽電池等の光電荷分離材料が関連する分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)または(B)で示される化合物。
【化1】

上記一般式(A)または(B)中、Mはニッケルまたは亜鉛であり、Rはアリール基または4位に置換基を持つアリール基であり、C60はC60のフラーレンを示す。
【請求項2】
請求項1に記載の化合物を光電荷分離材料として用いる太陽電池。
【請求項3】
導電性基板の表面に請求項1に記載の化合物の自己組織化単分子膜を有する光電荷分離素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−111716(P2012−111716A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262174(P2010−262174)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】