説明

CCR5に対する抗体およびそれらの使用

【課題】AIDSのための治療薬として使用される、CCR5に対する新規の抗体を提供する。
【解決手段】可変重鎖がCDR配列CDR1、CDR2、およびCDR3を含み、CDR1が特定のアミノ酸配列より選択され、CDR2が特定のアミノ酸配列より選択され、CDR3が特定のアミノ酸配列より選択され、ここで、該CDRがお互いに独立して選択される、または、キメラ、ヒト化変異体、もしくは抗体の断片であることを特徴とする、可変重鎖または可変軽鎖を含むヒトCCR5に結合する抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CCR5に対する抗体、それらの生産のための方法、該抗体を含む薬学的組成物、およびそれらの使用に関連する。
【背景技術】
【0002】
過去の数年に渡って、HIV-1が標的細胞に侵入するために使用する特異的なメカニズムについて増大する知識が明らかになってきた。これは、この過程における個々の段階を攻撃する薬物を開発するための努力を促進した。侵入を標的とする最初の薬物が、最近、臨床使用について認可された(エンフビルチド、T20;Lazzarin, A., et al., N. Engl J. Med. 348 (2003) 2186-2195)。エンフビルチドは、ケモカイン受容体結合に続く段階での融合を遮断するペプチド薬である。
【0003】
HIV-1の感染は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質(Env)と、CD4およびケモカイン受容体から構成される細胞受容体複合体との間の相互作用によって開始される(Pierson, T.C., and Doms, R.W., Immuno. Lett. 85 (2003) 113-118;およびKilby, J.M., and Eron, J.J., N. Engl. J. Med. 348 (2003) 2228-2238)。Envは、2個のサブユニットを有する:細胞CD4受容体と相互作用し、およびウイルス膜貫通サブユニットgp41と非共有結合性に会合する表面糖タンパク質gp120である。gp41はgp120をウイルス膜にアンカリングし、およびまた、融合の原因である。gp120の細胞上のCD4への結合は、gp120が細胞表面ケモカイン受容体、「共受容体」と相互作用することを可能にする結合部位を露出、または作製するコンフォメーション変化を引き起こす。ケモカイン受容体は、走化性、炎症性、および他の機能を有する小さなサイトカインであるケモカインに応答して、通常シグナルを伝達する、7回膜貫通Gタンパク質共役受容体(7 TM GPCR)である。
【0004】
臨床使用における薬物の多くの割合が、他の7TM GPCRに方向付けられ、および従って、ウイルスの侵入を遮断するためにこれらの分子を標的とすることは、過去の薬物開発プログラムの最も成功裡のタイプの延長である。HIV-1分離体(isolate)は、細胞に侵入し、かつ感染するために、CD4および共受容体を必要とする。CCケモカイン受容体CCR5は、マクロファージ向性(R5)株についての共受容体であり、HIV-1の性感染において重要な役割を果たす(Berger, E.A., AIDS 11 (Suppl. A)(1997) S3-S16; Bieniasz, P.D., and Cullen, B.R., Frontiers in Bioscience 3 (1998) 44-58; Littman, D.R., Cell 93 (1998) 677-680)。
【0005】
CCR5は、大抵のHIV-1プライマリー(primary)分離体により使用され、かつ、感染の確立および維持にとって重要である。加えて、CCR5の機能は、ヒトの健康には重要でない。変異CCR5対立遺伝子である「CCR5Δ32」は、切断型、非機能性タンパク質をコードする(Samson, M., et al., Nature 382 (1996) 722-725; Dean, M., et al., Science 273 (1996) 1856-1862)。変異についてホモ接合である個体は、CCR5の発現を欠き、かつ、HIV-1の感染から強く保護される。彼らは、明白な表現型事象を示さず、かつ、M向性HIV感染に対して高度に抵抗性であり、一方、ヘテロ接合個体は、遅延した疾患の進行を示す(Schwarz, M.K., and Wells, T.N., Nat. Rev. Drug Discov. 1 (2002) 347-358)。CCR5の欠損は明らかな有害事象を伴わない。なぜなら恐らく、CCR5は、部分的に重複する多くの機能を共有し、かつ、大抵が代替受容体を有するαケモカインMIP 1α、MIP-1β、およびRANTESについての受容体として、高度に重複性のケモカインネットワークの一部であるためである(Rossi, D., and Zlotnik, A., Annu. Rev. Immunol. 18 (2000) 217-243)。HIV-1共受容体としてのCCR5の同定は、そのリガンドであるMIP-1α、MIP-1βおよびRANTESの、R5による感染を遮断するが、R5X4またはX4分離体による感染を遮断しない能力に基づいた(Cocchi, F., et al., Science 270 (1995) 1811-1815)。
【0006】
CCR5はまた、炎症性応答の間に主として産生され、かつ、好中球(CXCケモカイン)およびマクロファージおよびT細胞のサブセット(TヘルパーTh1およびTh2細胞)の動員(recruitment)を制御する「クラスター」ケモカインの受容体である。Th1応答は、典型的に、例えばウイルスおよび腫瘍に対して有効な細胞性免疫を含むものであり、一方Th2応答は、アレルギーにおいて中心的であると信じられている。そのため、これらのケモカイン受容体の阻害剤は、免疫調節剤として有用である可能性がある。Th1応答については、例えば、慢性関節リウマチを含む自己免疫において、過活動性の応答が減衰され、または、Th2応答については、喘息の発作、もしくはアトピー性皮膚炎を含むアレルギー応答を軽減する(例えば、Schols, D., Curr. Top. Med. Chem. 4 (2004) 883-893; Mueller, A., and Strange, P.G., Int. J. Biochem. Cell Biol. 36 (2004) 35-38; Kazmierski, W.M., et al., Curr. Drug Targets Infect. Disord. 2 (2002) 265-278; Lehner, T., Trends Immunol. 23 (2002) 347-351参照)。
【0007】
CCR5に対する抗体は、例えば、PRO 140(Olson, W.C., et al., J. Virol. 73 (1999) 4145-4155)および2D7(Samson, M., et al., J. Biol. Chem 272 (1997) 24934-24941)である。追加的な抗体は、以下において言及される。

【0008】
本発明の目的は、主としてAIDSのための治療薬として使用される、CCR5に対する新規の抗体を提供することである。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、抗体の可変重鎖アミノ酸配列CDR3が、重鎖CDR3配列SEQ ID NO:16または17からなる群より選択されることを特徴とする、CCR5に結合する抗体を含む。
【0010】
本発明は、好ましくは、可変重鎖が、CDR配列CDR1、CDR2、およびCDR3を含み、ならびに、CDR1がSEQ ID NO:9、10、11、12からなる群より選択され、CDR2がSEQ ID NO:13、14、15からなる群より選択され、CDR3がSEQ ID NO:16、17からなる群より選択され、ここで、該CDRがお互いに独立して選択されることを特徴とする、可変重鎖および可変軽鎖を含む、CCR5に結合する抗体を提供する。
【0011】
本発明による抗体は、好ましくは、可変軽鎖がCDR配列CDR1、CDR2、およびCDR3を含み、ならびに、CDR1がSEQ ID NO:18、19、20より選択され、CDR2がSEQ ID NO:21、22、23より選択され、および、CDR3がSEQ ID NO:24または25より選択され、ここで、該CDRがお互いに独立して選択されることを特徴とする。
【0012】
抗体は、好ましくは、重鎖CDRとしてSEQ ID NO:1のCDRおよび軽鎖CDRとしてSEQ ID NO:2のCDR、重鎖CDRとしてSEQ ID NO:3のCDRおよび軽鎖CDRとしてSEQ ID NO:4のCDR、重鎖CDRとしてSEQ ID NO:5のCDRおよび軽鎖CDRとしてSEQ ID NO:6のCDR、重鎖CDRとしてSEQ ID NO:7のCDRおよび軽鎖CDRとしてSEQ ID NO:8のCDRを含むことを特徴とする。
【0013】
CDR配列は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的な定義によって決定され得る。SEQ ID NO:1〜8のCDRは、SEQ ID NO:9〜25において示される。
【0014】
各鎖上のCDRは、フレームワークアミノ酸によって分離される。
【0015】
本発明による抗体は、好ましくは、該抗体がCCR5に結合し、および、以下からなる群より独立して選択される可変重鎖および軽鎖領域、またはそれらのCCR5結合断片を含むことを特徴とする:
a)アミノ酸配列SEQ ID NO:1によって定義される重鎖(VH)可変ドメイン、およびSEQ ID NO:2によって定義される軽鎖(VH)可変ドメイン;
b)アミノ酸配列SEQ ID NO:3によって定義される重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO:4によって定義される軽鎖可変ドメイン;
c)アミノ酸配列SEQ ID NO:5によって定義される重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO:6によって定義される軽鎖可変ドメイン;
d)アミノ酸配列SEQ ID NO:7によって定義される重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO:8によって定義される軽鎖可変ドメイン。
【0016】
本発明による抗体は、好ましくは、重鎖可変領域が、SEQ ID NO:1、3、5、および7からなる群より独立して選択されるアミノ酸配列を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明による抗体は、好ましくは、軽鎖可変領域が、SEQ ID NO:2、4、6、および8からなる群より独立して選択されるアミノ酸を含むことを特徴とする。
【0018】
本発明による抗体は、好ましくは、定常鎖がヒト起源であることを特徴とする。そのような定常鎖は、当技術分野の最先端において周知であり、および、例えばKabatによって記述される(例えば、Johnson, G., and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218参照)。例えば、有用なヒト重鎖定常領域は、SEQ ID NO:26および27からなる群より独立して選択されるアミノ酸配列を含む。例えば、有用なヒト軽鎖定常領域は、SEQ ID NO:28のκ軽鎖定常領域のアミノ酸配列を含む。更に、抗体がマウス起源であり、かつ、Kabatによるマウス抗体の抗体可変配列フレームを含むことが好ましい(例えば、Johnson, G. and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218参照)。
【0019】
抗体は、CCR5へのリガンド結合、情報伝達活性(例えば、哺乳類Gタンパク質の活性化、細胞質フリーCa2+の濃度における急速かつ一過的な増加の誘導、および/または細胞応答の刺激(例えば、走化性の刺激、白血球によるエキソサイトーシスまたは炎症メディエーターの放出、インテグリン活性化))のようなヒトCCR5の一つまたは複数の機能を阻害する。抗体は、RANTES、MIP-1α、MIP-1β、および/またはHIVのヒトCCR5への結合を阻害し、かつ、白血球輸送、細胞へのHIVの侵入、T細胞活性化、炎症メディエーター放出および/または白血球脱顆粒のような、ヒトCCR5によって媒介される機能を阻害する。
【0020】
本発明による抗体は、特異的にヒトCCR5に結合し、かつ、ウイルスを、標的細胞の存在下で、ウイルスと該細胞との間の膜融合を阻害するのに有効な濃度の抗体と接触させる段階を含むアッセイにおいて、4.0μg/mlまたはより低いIC50値で、標的細胞とのHIVの融合を阻害する。
【0021】
本発明による抗体は、特異的にCCR5に結合し、かつ、CCR5およびCD4ポリペプチドを共発現する第一の細胞と、HIV envタンパク質を発現する第二の細胞との間の膜融合を、1.5μg/mlまたはより低い、好ましくは0.3μg/mlまたはより低いIC50値で、阻害する。
【0022】
本発明による抗体は、好ましくは、100μg/mlまでの抗体濃度において、CCR1、CCR2、CCR3、CCR4、CCR6、およびCXCR4との結合アッセイにおけるケモカイン結合を阻害しない。
【0023】
本発明による抗体は、好ましくは、50μg/mlまでの抗体濃度において、CCR5およびGα16を発現するCHO細胞において検出される細胞内Ca2+の増加を刺激しない。
【0024】
本発明による抗体は、好ましくは、ヒトアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4であり、それによってIgG1またはIgG4が好ましい。
【0025】
本発明による抗体は、好ましくはIgG4アイソタイプであり、好ましくは追加的な変異S228Pを伴い、または、好ましくは、CH1とCH2との間の約aa220〜240のヒンジ領域(Angal, S., et al., Mol. Immunol. 30 (1993) 105-108)、および/もしくは、CH2とCH3との間の約aa330の第二ドメイン間領域において改変されたIgG1アイソタイプである(Kabatによるナンバリング、例えば、Johnson, G., and Wu, T.T., Nucleic Acids Res. 28 (2000) 214-218参照)。そのような改変は、エフェクター機能(ADCCおよび/またはCDC)を回避する。IgGクラスのスイッチングは、IgG1変異体またはIgG4のような所望のクラスの抗体由来の重鎖および軽鎖による、抗体の定常重鎖および軽鎖の交換によって行われ得る。そのような方法は、当技術分野の最先端において周知である。
【0026】
本発明による抗体は、好ましくは、L234(アミノ酸234位のロイシン)、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、および/またはP329(EUインデックスによるナンバリング)における少なくとも一つの変異を含む、ヒトサブクラスIgG1であることによって特徴付けられる。好ましくは、抗体は、変異L234A(アミノ酸234位においてロイシンの代わりにアラニン)およびL235Aを含むヒトIgG1タイプである。
【0027】
本発明は、そのため、好ましくは、抗体がCCR5に結合し、ヒト起源由来のFc部分を含み、および、ヒト補体因子C1qに結合しない、および/またはC3を活性化することを特徴とする抗体に関連する。好ましくは、抗体は、少なくとも一つのヒトFcγ受容体に結合しない。
【0028】
本発明は更に、本発明によるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞株を提供する。本発明による好ましいハイブリドーマ細胞株は、Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH(DSMZ)、Germanyに寄託された。該細胞株より取得可能な抗体は、本発明の好ましい態様である。
【0029】
本発明の更なる態様は、細胞株m<CCR5>Pz01.F3、m<CCR5>Pz04.1F6、m<CCR5>Pz03.1C5、またはm<CCR5>Pz02.1C11より産生されることを特徴とする、CCR5に結合する抗体である。この寄託された材料に含まれるポリヌクレオチドの配列は、それによってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列と同様に、配列プロトコルにおいて記述される配列との任意の矛盾の場合において支配的である。
【0030】
本発明による抗体は、抗体A〜Eからなる群より選択される細胞株由来の抗体と競合して、ヒトCCR5に結合する。
【0031】
本発明は、更に、本発明による抗体鎖、可変鎖、またはそのCDRドメインをコードする核酸分子を含む。コードされたポリペプチドは、それぞれ他方の抗体鎖とともにアセンブルすることが可能であり、本発明によるCCR5に対する抗体分子をもたらす。
【0032】
本発明は、更に、該核酸を含む発現ベクター、および、該核酸を原核生物または真核生物宿主細胞において発現することが可能である、そのような抗体の組換え体生産のためのそのようなベクターを含む宿主細胞を提供する。
【0033】
本発明は、更に、本発明によるベクターを含む原核生物または真核生物宿主細胞を含む。
【0034】
本発明は、更に、本発明による核酸を原核生物または真核生物宿主細胞において発現させ、および、該抗体を該細胞から回収することによって特徴付けられる、本発明による組換えヒト抗体の生産のための方法を含む。本発明は、更に、そのような組換え方法によって取得可能な抗体を含む。
【0035】
本発明による抗体は、CCR5標的治療を必要とする患者のために恩典を示す。本発明による抗体は、そのような疾患を患う、特に免疫抑制を患う、特にHIV感染を患う患者のために恩典をもたらす、新たな、および発明的な性質を有する。
【0036】
本発明は、更に、免疫抑制を患う、特に、HIV感染を患う患者を処置するための、そのような疾患を有すると診断された(およびそのためにそのような治療を必要とする)患者に、有効量の本発明によるCCR5に結合する抗体を投与する段階を含む方法を提供する。抗体は、好ましくは、薬学的組成物において投与される。
【0037】
本発明は、更に、免疫抑制を患う患者の処置のため、および、本発明による薬学的組成物の製造のための、本発明による抗体の使用を含む。加えて、本発明は、本発明による薬学的組成物の製造のための方法を含む。
【0038】
本発明は、更に、本発明による抗体を、薬学的有効量において、任意で、薬学的目的のための抗体の製剤化に有用な緩衝液および/またはアジュバントとともに含む薬学的組成物を含む。
【0039】
本発明は、更に、薬学的に許容される担体においてそのような抗体を含む薬学的組成物を提供する。一つの態様において、薬学的組成物は、製造品またはキットに含まれてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】CCR5融合アッセイ、2D7および抗体Bの比較。
【図2】CCR5細胞ELISA、2D7ならびに抗体BおよびCの比較。
【発明を実施するための形態】
【0041】
発明の詳細な説明
「抗体」という用語は、抗体全体、抗体断片を含むがそれらに限定されない、様々な形態の抗体構造を包含する。本発明による抗体は、好ましくは、ヒト化抗体、キメラ抗体、または、本発明による特徴的性質が保持される限り更に遺伝子改変された抗体である。
【0042】
「抗体断片」は、全長抗体の一部、好ましくは、その可変領域、または少なくともその抗原結合部分を含む。抗体断片の例は、ダイアボディ(diabody)、一本鎖抗体分子、免疫毒素、および抗体断片から形成される多重特異性抗体を含む。加えて、抗体断片は、VH鎖の(すなわちVL鎖と共にアセンブルし得る)、または、CCR5に結合するVL鎖の(すなわちVH鎖と共にアセンブルし得る)、機能的な抗原結合ポケットを形成する特徴を有し、および、それによって、標的細胞との膜融合またはHIVの融合を阻害する性質を提供する一本鎖ポリペプチドを含む。
【0043】
「モノクローナル抗体」または「モノクローナル抗体組成物」という用語は、本明細書において使用されるとき、単一のアミノ酸組成の抗体分子の調製物を指す。「キメラ抗体」という用語は、マウス由来の可変領域、すなわち結合領域、および、異なる供給源または種由来の定常領域の少なくとも一部を含む、通常組換えDNA技術によって調製されるモノクローナル抗体を指す。マウス可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体が、特に好ましい。そのようなマウス/ヒトキメラ抗体は、発現された、マウスイムノグロブリン可変領域をコードするDNAセグメント、および、ヒトイムノグロブリン定常領域をコードするDNAセグメントを含むイムノグロブリン遺伝子の産物である。本発明によって包含される「キメラ抗体」の他の形態は、クラスまたはサブクラスが、元の抗体から改変された、または変更されたものである。そのような「キメラ」抗体はまた、「クラススイッチ抗体」として称される。キメラ抗体を生産するための方法は、今や当技術分野において周知である、通常の組換えDNAおよび遺伝子トランスフェクション技術を含む。例えば、Morrison, S.L., et al., Proc. Natl. Acad Sci. USA 81 (1984) 6851-6855;米国特許第5,202,238号および第5,204,244号を参照されたい。
【0044】
「ヒト化抗体」という用語は、親イムノグロブリンと比較されたとき異なる特異性のイムノグロブリンのCDRを含むように、フレームワークまたは「相補性決定領域」(CDR)が改変された抗体を指す。好ましい態様において、「ヒト化抗体」を調製するために、マウスCDRがヒト抗体のフレームワーク領域へ移植される。例えば、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327;およびNeuberger, M.S., et al., Nature 314 (1985) 268-270を参照されたい。特に好ましいCDRは、キメラおよび二機能性抗体について上記で言及された、抗原を認識する配列を代表するものに対応する。
【0045】
「CCR5への結合」という用語は、本明細書において使用されるとき、細胞ベースのインビトロELISAアッセイ(CCR5発現CHO細胞)におけるCCR5への抗体の結合を意味する。抗体が、100 ng/mlの抗体濃度で、5またはより大きい、好ましくは10またはより大きいS/N(シグナル/ノイズ)比をもたらす場合に、結合が見出される。
【0046】
本発明による抗体は、抗体A〜Eからなる群より選択される抗体が結合する、または、結合の立体障害のためにCCR5への結合において阻害されるのと同一のCCR5のエピトープへの結合を示す。エピトープマッピングのためにOlson, W.C. et al., J. Virol. 73 (1999)4145-4155によって記述された方法に従って、アラニン変異を用いてエピトープ結合が調査される。75%またはより大きいシグナルの減少は、変異されたアミノ酸が該抗体のエピトープに寄与していることを示す。調査された抗体のエピトープに寄与するアミノ酸、および抗体A、B、C、D、またはEのエピトープに寄与するアミノ酸が等しい場合、同一のエピトープへの結合が見出される。
【0047】
HIVアッセイにおいて抗体2D7よりも低いIC50値を示す抗体Cは、抗体2D7によって認識されるエピトープとは異なる、CCR5のECL2ドメイン上のアミノ酸を含むエピトープ(Lee, B., et al., J. Biol. Chem. 274 (1999) 9617-9626)に結合する(2D7は、ECL2Aのアミノ酸K171およびE172に結合するが、ECL2Bアミノ酸184〜189には結合しない)。抗体Cのエピトープ結合は、CCR5変異体K171AまたはE172A(glu 172がalaに変異された場合)について20%であることが見出される。100%のエピトープ結合が、野生型CCR5について定義される。そのため、本発明の更なる態様は、抗体Cが結合するのと同一のエピトープでCCR5に結合する抗体である。
【0048】
「7回膜貫通ケモカイン分子構造」という用語は、本明細書において使用されるとき、CCR5が細胞膜二重層に位置するときに示す天然の構造を指す(例えば、Oppermann, M., Cell. Sig. 16 (2004) 1201-1210参照)。他の1b Gタンパク質共役受容体のように、CCR5は、細胞外N末端ドメイン、膜貫通ドメイン、および細胞質C末端ドメインから構成される。膜貫通ドメインは、3個の細胞質セグメントおよび3個の細胞外セグメントによって連結される、7個の疎水性膜貫通セグメントからなる。本発明による抗体は、7回膜貫通ケモカイン分子構造においてCCR5に結合する。
【0049】
「エピトープ」という用語は、抗体への特異的結合が可能であるタンパク質抗原決定基を意味する。エピトープは、通常、アミノ酸または糖側鎖のような分子の化学的に活性を有する表面配置からなり、かつ、通常、特異的な三次元構造特性、ならびに特異的な電荷特性を有する。コンフォメーションおよび非コンフォメーションエピトープは、前者への結合は変性溶媒の存在下で失われるが、後者への結合は失われないことで識別される。好ましくは、本発明による抗体は、天然のCCR5に特異的に結合するが、変性されたCCR5には結合しない。そのような抗体は、好ましくは重鎖CDR3 SEQ ID NO:17、および、好ましくは加えて重鎖CDR SEQ ID NO:10、11、12、14、および/または15を含む。好ましくは、そのような抗体は、抗体B、C、D、またはEであり、または、抗体B、C、D、またはEの可変領域を含む。好ましくは、変性されたCCR5に結合する抗体は、抗体Aであり、または、抗体Aの可変領域を含む。
【0050】
「膜融合」という用語は、CCR5およびCD4ポリペプチドを共発現する第一の細胞と、HIV envタンパク質を発現する第二の細胞との間の融合を指す。膜融合は、ルシフェラーゼレポーター遺伝子アッセイによって決定される。
【0051】
「標的細胞とのHIVの融合を阻害する」という用語は、ウイルスを、該標的細胞の存在下で、ウイルスと該細胞との間の膜融合を阻害するのに有効な濃度の抗体と接触させる段階、および、ルシフェラーゼレポーター遺伝子活性を測定する段階を含むアッセイにおいて測定される、標的細胞とのHIVの融合を阻害することを指す。
【0052】
「核酸分子」という用語は、本明細書において使用されるとき、DNA分子およびRNA分子を含むように意図される。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0053】
「可変領域」(軽鎖の可変領域(VL)、重鎖の可変領域(VH))は、本明細書において使用されるとき、抗体を抗原に結合させることに直接関与する軽鎖および重鎖の対のそれぞれを示す。可変軽鎖および重鎖のドメインは、同一の一般構造を有し、および、各ドメインは、配列が広く保存され、3個の「超可変領域」(または、相補性決定領域、CDR)によって連結される、4個のフレームワーク(FR)領域を含む。フレームワーク領域は、βシートコンフォメーションを採り、および、CDRは、βシート構造を連結するループを形成してもよい。各鎖におけるCDRは、フレームワーク領域によって三次元構造に保持され、および、もう一方の鎖由来のCDRとともに抗原結合部位を形成する。抗体の重鎖および軽鎖CDR3領域は、本発明による抗体の結合特異性/親和性において特に重要な役割を果たし、およびそのために、本発明の更なる目的を提供する。
【0054】
「超可変領域」または「抗体の抗原結合部分」という用語は、本明細書において使用されるとき、抗原結合を担当する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、「相補性決定領域」または「CDR」由来のアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」または「FR」領域は、本明細書において定義されるとき、超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。そのため、抗体の軽鎖および重鎖可変鎖は、N末端からC末端へ、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4を含む。特に、重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与し、かつ、抗体を定義する領域であり、および、本発明による抗体は、重鎖可変領域においてCDR3配列SEQ ID NO:16またはSEQ ID NO:17を含むことによって特徴付けられる。CDRおよびFR領域は、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991)の標準的定義、および/または「超可変ループ」由来の残基によって決定される。
【0055】
「核酸」または「核酸分子」という用語は、本明細書において使用されるとき、DNA分子およびRNA分子を含むように意図される。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であってもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。
【0056】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置されるとき、「機能的に連結される」。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、ポリペプチドの分泌に関係するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに機能的に連結される;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に機能的に連結される;または、リボゾーム結合部位は、翻訳を促進するように配置される場合、コード配列に機能的に連結される。一般に、「機能的に連結される」とは、連結されるDNA配列が同一線上であり、および、分泌リーダーの場合には、隣接し、かつリーディングフレームにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接する必要は無い。連結は、適切な制限酵素部位でのライゲーションによって達成される。そのような部位が存在しない場合は、通常の実践に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが使用される。
【0057】
本明細書において使用されるとき、「細胞」、「細胞株」、および「細胞培養」という表現は、交換可能なように使用され、および、そのような名称のすべては、子孫を含む。このように、「形質転換体」および「形質転換された細胞」という単語は、プライマリーの対象細胞および、トランスファーの数に関係なくそれ由来の培養物を含む。計画的な、または偶然の変異のために、すべての子孫がDNAの内容において正確に同一ではない可能性があることもまた、理解される。当初形質転換された細胞についてスクリーニングされたのと同一の機能または生物活性を有する、変異体子孫が含まれる。
【0058】
「定常ドメイン」は、抗体を抗原に結合させることに直接関与しないが、様々なエフェクター機能を示す。重鎖の定常領域のアミノ酸配列に依存して、抗体またはイムノグロブリンは、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMのクラスに分類され、および、そのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)に更に分類されてもよい:例えば、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、IgA1およびIgA2。異なるクラスのイムノグロブリンに対応する重鎖定常領域は、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。本発明による抗体は、好ましくはIgGタイプである。
【0059】
本明細書において使用されるとき、「ヒト起源由来のFc部分」という用語は、サブクラスIgG4のヒト抗体のFc部分、または、下記で定義されるようにFcR(FcγRIIIa)結合および/またはC1q結合が検出され得ないような仕方で改変されるサブクラスIgG1、IgG2、もしくはIgG3のヒト抗体のFc部分のいずれかであるFc部分を示す。「抗体のFc部分」は、当業者に周知の用語であり、および、抗体のパパイン切断に基づいて定義される。本発明による抗体は、Fc部分として、ヒト起源由来のFc部分、および、好ましくはヒト定常領域のすべての他の部分を含む。好ましくは、Fc部分は、ヒトFc部分であり、および、特に好ましくは、ヒトIgG4サブクラス由来、または、ヒトIgG1サブクラス由来の変異Fc部分のいずれかである。SEQ ID NO:26および27、変異L234AおよびL235Aを有するSEQ ID NO:26、または、変異S228Pを有するSEQ ID NO:27に示されるFc部分および重鎖定常領域が、主として好ましい。
【0060】
IgG4は限定されたFc受容体(FcγRIIIa)結合を示すが、他のIgGサブクラスの抗体は、強い結合を示す。しかしながら、Pro238、Asp265、Asp270、Asn297(Fc糖の損失)、Pro329および234、235、236、および237、Ile253、Ser254、Lys288、Thr307、Gln311、Asn434、およびHis435は、変更された場合にまた限定されたFcR結合を提供する残基である(Shields, R.L., et al. J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604; Lund, J., et al. FASEB J. 9 (1995) 115-119; Morgan, A., et al. Immunology 86 (1995) 319-324およびEP 0307434)。好ましくは、本発明による抗体は、S228、L234、L235、および/またはD265における変異を有する、IgG4サブクラス、または、IgG1もしくはIgG2サブクラスのFcR結合に関し、ならびに/またはPVA236変異を含む。変異S228P、L234A、L235A、L235E、および/またはPVA236が好ましい。特に、IgG4のS228P、およびIgG1のL234A+L235Aの変異が好ましい。
【0061】
抗体のFc部分は、補体活性化およびC1q結合に直接関与する。補体系への抗体の影響は、一定の条件に依存するが、C1qへの結合は、Fc部分における定義された結合部位によってもたらされる。そのような結合部位は、当技術分野の最先端において公知であり、および、例えば、Lukas, T.J., et al., J. Immunol. 127 (1981) 2555-2560; Brunhouse, R., and Cebra, J.J., Mol. Immunol. 16 (1979) 907-917; Burton, D.R., et al., Nature 288 (1980) 338-344; Thommesen, J.E., et al., Mol. Immunol. 37 (2000) 995-1004; Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184; Hezareh, M., et al., J. Virol. 75 (2001) 12161-12168; Morgan, A., et al., Immunology 86 (1995) 319-324およびEP 0307434によって記述されている。そのような結合部位は、例えば、L234、L235、D270、N297、E318、K320、K322、P331、およびP329(KabatのEUインデックスによるナンバリング)である。サブクラスIgG1、IgG2およびIgG3の抗体は、通常、補体活性化、ならびに、C1qおよびC3結合を示し、一方、IgG4は、補体系を活性化せず、ならびに、C1qおよびC3に結合しない。
【0062】
本発明は、CCR5に結合し、かつ、Fc受容体および/または補体因子C1qに結合しない抗体に言及する。抗体は、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)および/または補体依存性細胞傷害(CDC)を誘発しない。好ましくは、本抗体は、CCR5に結合し、ヒト起源由来のFc部分を含み、かつ、Fc受容体および/または補体因子C1qに結合しないことを特徴とする。より好ましくは、本抗体は、ヒトもしくはヒト化抗体、または、例えばWO 98/52976およびWO 00/34317によるT細胞抗原除去(depleted)抗体である。C1q結合は、Idusogie, E.E., et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184により、測定され得る。OD 492-405 nmが、8μg/mlの抗体濃度で、改変されていない(野生型)Fc部分を有する抗体についてのヒトC1q結合の値の15%より低い場合、「C1q結合」は見出されない。ADCCは、ヒトNK細胞上のヒトFcγRIIIaへの抗体の結合として測定され得る。結合は、20μg/mlの抗体濃度で決定される。「FcR結合が無い、またはADCCが無い」とは、20μg/mlの抗体濃度で、ヒトIgG1(SEQ ID NO:26)と同一の抗体の結合と比較して、ヒトNK細胞上のヒトFcγRIIIaへの30%までの結合を意味する。
【0063】
本発明による抗体は、加えて、本発明による抗体の上述された特性に影響を及ぼさない、または変更しないヌクレオチドおよびアミノ酸配列改変である、「保存的配列改変」を有するような抗体(変異体抗体)を含む。改変は、部位特異的変異誘発およびPCR媒介変異誘発のような、当技術分野において公知である標準的技術によって導入され得る。保存的アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、類似した側鎖を有するアミノ酸残基と置換されるものを含む。類似した側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野において定義されている。これらのファミリーは、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、無極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖(例えば、スレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。このように、ヒト抗CCR5抗体において予想される非必須アミノ酸残基は、好ましくは、同一の側鎖ファミリー由来の別のアミノ酸残基と置換され得る。そのため、「変異体」抗CCR5抗体は、本明細書において、「親」抗CCR5抗体アミノ酸配列から、重鎖CDR3以外の親抗体の一つまたは複数の可変領域において、10個まで、好ましくは約2個〜約5個の付加、欠失、および/または置換によって、アミノ酸配列が異なる分子を指す。それぞれの他のCDR領域は、最大で1個の単一アミノ付加、欠失、および/または置換を含む。本発明は、CCR5に結合する親抗体のCDRアミノ酸配列を改変する方法であって、SEQ ID NO:1、3、5、および7からなる群より選択される重鎖CDR、および/または、SEQ ID NO:2、4、6、および8からなる群より選択される抗体軽鎖CDRを選択すること、該最初のアミノ酸CDR配列をコードする核酸を提供すること、重鎖CDR1において1個のアミノ酸が改変され、重鎖CDR2において1個のアミノ酸が改変され、軽鎖CDR1において1〜3個のアミノ酸が改変され、軽鎖CDR2において1〜3個のアミノ酸が改変され、および/または軽鎖CDR3において1〜3個のアミノ酸が改変されるように、該核酸を改変すること、該改変CDRアミノ酸配列を抗体構造において発現させること、該抗体がCCR5に結合するか否かを測定し、ならびに、抗体がCCR5に結合する場合に該改変CDRを選択すること、を特徴とする方法を含む。好ましくは、そのような改変は、保存的配列改変である。
【0064】
アミノ酸置換は、Riechmann, L., et al., Nature 332 (1988) 323-327およびQueen, C., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033によって記述されるような、分子モデリングに基づく変異誘発によって行われ得る。
【0065】
本発明の更なる態様は、Fcγ受容体および/またはC1qに結合しない、CCR5に対する抗体の生産のための方法であって、CCR5に結合するヒトIgG1タイプの抗体の重鎖をコードする核酸の配列が、改変抗体がC1qおよび/またはFcγ受容体に結合しないような様式で改変され、該改変核酸および該抗体の軽鎖をコードする核酸が発現ベクターに挿入され、該ベクターが真核生物宿主細胞に挿入され、コードされたタンパク質が発現され、および、宿主細胞または上清から回収されることを特徴とする、方法である。好ましくは、抗体は、「クラススイッチング」、すなわち、好ましくはIgG1v1(E233P; L234V; L235A; ΔG236; A327G; A330S; P331Sによって特定されるPVA-236; GLPSS331)、IgG1v2(L234A; L235A)、およびIgG4v1(S228P; L235E)、およびIgG4x(S228P)として定義されるFc部分の変更または変異(例えば、IgG1からIgG4および/またはIgG1/IgG4変異へ)によって、改変される。
【0066】
配列に関する同一性または相同性は、本明細書において、最大のパーセント配列同一性を達成するために、必要な場合、配列をアラインメントし、かつ、ギャップを導入した後、親抗体残基と同一である候補配列におけるアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。抗体配列へのN末端、C末端、または内部の延長、欠失または挿入のいずれも、配列の同一性または相同性に影響を及ぼすとして解釈されないものとする。変異体は、ヒトCCR5に結合する能力を保持し、および、好ましくは、親抗体より優秀な性質を有する。例えば、変異体は、処置の間の軽減された副作用を有してもよい。
【0067】
本明細書における「親」抗体は、変異体の調製のために使用されるアミノ酸配列によってコードされるものである。好ましくは、親抗体は、ヒトフレームワーク領域を有し、および、存在する場合は、ヒト抗体定常領域を有する。例えば、親抗体は、ヒト化またはヒト抗体であってもよい。
【0068】
本発明による抗体は、好ましくは、組換え手段によって生産される。そのような方法は、当技術分野の最先端において広く公知であり、かつ、その後の抗体ポリペプチドの単離、および、通常薬学的に許容される純度への精製を伴う、原核生物および真核生物細胞におけるタンパク質発現を含む。タンパク質発現のために、軽鎖および重鎖、またはそれらの断片をコードする核酸が、標準的方法によって発現ベクターに挿入される。発現は、CHO細胞、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞、酵母、または大腸菌(E.coli)細胞のような、適切な原核生物または真核生物宿主細胞において行われ、および、抗体が細胞(上清または溶解後の細胞)から回収される。
【0069】
抗体の組換え生産は、当技術分野の最先端において周知であり、かつ、例えば、Makrides,S.C., Protein Expr. Purif. 17 (1999) 183-202; Geisse, S., et al., Protein Expr. Purif. 8 (1996) 271-282; Kaufman, R.J., Mol. Biotechnol. 16 (2000) 151-161; Werner, R.G., Drug Res. 48 (1998) 870-880の総説論文において記述されている。
【0070】
抗体は、細胞全体、細胞溶解物、または、部分的に精製された、もしくは実質的に純粋な形態において存在してもよい。精製は、他の細胞成分または他の汚染物質、例えば、他の細胞核酸またはタンパク質を除去するために、アルカリ/SDS処理、CsClバンド形成、カラムクロマトグラフィー、アガロースゲル電気泳動、および、当技術分野において周知である他のものを含む、標準的技術によって行われる。Ausubel, F., et al., ed. Current Protocols in Molecular Biology, Greene Publishing and Wiley Interscience, New York (1987)を参照されたい。
【0071】
NS0細胞における発現は、例えば、Barnes, L.M., et al., Cytotechnology 32 (2000) 109-123およびBarnes, L.M., et al., Biotech. Bioeng. 73 (2001) 261-270によって記述されている。一過性発現は、例えば、Durocher, Y., et al., Nucl. Acids. Res. 30 (2002) E9によって記述されている。可変ドメインのクローニングは、Orlandi, R., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 3833-3837; Carter, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289およびNorderhaug, L., et al., J. Immunol. Methods 204 (1997) 77-87によって記述されている。好ましい一過性発現系(HEK293)は、Schlaeger, E.-J., and Christensen, K., in Cytotechnology 30 (1999) 71-83およびSchlaeger, E.-J., in J. Immunol. Methods 194 (1996) 191-199によって記述されている。
【0072】
核酸は、別の核酸配列と機能的な関係に配置されるとき、「機能的に連結される」。例えば、プレ配列または分泌リーダーのためのDNAは、ポリペプチドの分泌に関係するプレタンパク質として発現される場合、ポリペプチドのためのDNAに機能的に連結される;プロモーターまたはエンハンサーは、配列の転写に影響を及ぼす場合、コード配列に機能的に連結される;または、リボゾーム結合部位は、翻訳を促進するように配置される場合、コード配列に機能的に連結される。一般に、「機能的に連結される」とは、連結されるDNA配列が隣接し、および、分泌リーダーの場合には、隣接し、かつリーディングフレームにあることを意味する。しかしながら、エンハンサーは隣接する必要は無い。連結は、適切な制限酵素部位でのライゲーションによって達成される。そのような部位が存在しない場合は、通常の実践に従って、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーが使用される。
【0073】
モノクローナル抗体は、例えば、プロテインA‐Sepharose、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、またはアフィニティークロマトグラフィーのような通常のイムノグロブリン精製手順によって、培養培地から適当に分離される。モノクローナル抗体をコードするDNAおよびRNAは、通常の手順を用いて、容易に単離され、かつ、配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAおよびRNAの供給源として役立ち得る。DNAは、一度単離されると、発現ベクターに挿入されてもよく、その後、発現ベクターは、宿主細胞において組換えモノクローナル抗体の合成を得るために、さもなければイムノグロブリンタンパク質を産生しないHEK 293細胞、CHO細胞、または骨髄腫細胞のような宿主細胞にトランスフェクションされる。
【0074】
ヒトCCR5抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体DNAへの適切なヌクレオチド変更の導入によって、またはペプチド合成によって調製される。しかしながら、そのような改変は、例えば上記で説明されたように、非常に限定された範囲においてのみ行われ得る。例えば、改変は、IgGアイソタイプおよびエピトープ結合のような上述の抗体特性を変更しないが、組換え生産の収率、タンパク質安定性を改善し、または、精製を促進してもよい。
【0075】
抗CCR5抗体の適当なコンフォメーションを維持するのに関与しない任意のシステイン残基はまた、分子の酸化安定性を改善するため、および、異常な架橋を防ぐために、一般にセリンと置換されてもよい。逆に、安定性を改善するために、システイン結合が抗体に加えられてもよい(特に、抗体がFv断片のような抗体断片である場合)。
【0076】
抗体のアミノ酸変異体の別のタイプは、抗体の本来の糖鎖付加パターンを変更する。変更することによって、抗体において見出される一つまたは複数の糖鎖を欠失すること、および/または、抗体に存在しない一つまたは複数の糖鎖付加部位を付加することが意味される。抗体の糖鎖付加は、典型的にはN-結合型である。N-結合型は、アスパラギン残基の側鎖への糖鎖の付着を指す。トリペプチド配列、アスパラギン‐X‐セリンおよびアスパラギン‐X‐スレオニン(ここでXはプロリンを除いた任意のアミノ酸である)は、アスパラギン側鎖への糖鎖の酵素的付着のための認識配列である。このように、ポリペプチドにおけるこれらのトリペプチド配列のいずれかの存在は、潜在的な糖鎖付加部位を作製する。抗体への糖鎖付加部位の付加は、一つまたは複数の上記で説明されたトリペプチド配列を含むように(N-結合型糖鎖付加部位のために)アミノ酸配列を変更することによって、都合よく達成される。
【0077】
抗CCR5抗体のアミノ酸配列変異体をコードする核酸分子は、当技術分野において公知である様々な方法によって調製される。これらの方法は、天然供給源からの単離(天然に存在するアミノ酸配列変異体の場合)、または、ヒト化抗CCR5抗体の以前に調製された変異体または非変異体版のオリゴヌクレオチド媒介(もしくは部位特異的)変異誘発、PCR変異誘発、および、カセット変異誘発による調製を含むが、それらに限定されない。
【0078】
共有結合性改変の別のタイプは、化学的に、または酵素的に、抗体へグリコシドを共役させることを含む。これらの手順は、N-またはO-結合型糖鎖付加が可能である宿主細胞における抗体の生産を必要としない点において、有利である。使用される共役の方式に依存して、糖は、(a)アルギニンおよびヒスチジン、(b)フリーのカルボキシル基、(c)システインのもののようなフリーのスルフヒドリル基、(d)セリン、スレオニン、もしくはヒドロキシプロリンのもののようなフリーのヒドロキシル基、(e)フェニルアラニン、チロシン、もしくはトリプトファンのもののような芳香族残基、または、(f)グルタミンのアミド基、に付着されてもよい。これらの方法は、WO 87/05330、および、Aplin, J.D., and Wriston, J.C. Jr., CRC Crit. Rev. Biochem. 4 (1981) 259-306において記述されている。
【0079】
抗体上に存在する任意の糖鎖の除去は、化学的に、または酵素的に達成されてもよい。化学的糖鎖除去は、化合物トリフルオロメタンスルホン酸、または同等の化合物への抗体の曝露を必要とする。この処理は、抗体を無傷な状態にしておく一方、連結糖(linking sugar)(N-アセチルグルコサミンまたはN-アセチルガラクトサミン)を除くほとんどまたはすべての糖の切断をもたらす。化学的糖鎖除去は、Sojahr, H.T., and Bahl, O.P., Arch. Biochem. Biophys. 259 (1987) 52-57、およびEdge, A.S., et al. Anal. Biochem. 118 (1981) 131-137によって記述されている。抗体上の糖鎖の酵素的切断は、Thotakura, N.R., and Bahl, O.P., Meth. Enzymol. 138 (1987) 350-359によって記述されたように、様々なエンド‐およびエキソ‐グリコシダーゼの使用によって達成され得る。
【0080】
抗体の共有結合性改変の別のタイプは、米国特許第4,640,835号;第4,496,689号;第4,301,144号;第4,670,417号;第4,791,192号または第4,179,337号に示された様式において、抗体を、様々な非タンパク質性のポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、またはポリオキシアルキレンの一つに連結することを含む。
【0081】
再構築された重鎖および軽鎖可変領域は、発現ベクター構築物を形成するために、プロモーター、翻訳開始、定常領域、3'非翻訳、ポリアデニル化、および転写終結の配列と併用される。重鎖および軽鎖発現構築物は、単一のベクターに結合され得、コトランスフェクションされ得、連続的にトランスフェクションされ得、または、宿主細胞に別々にトランスフェクションされ得、その後、双方の鎖を発現する単一の宿主細胞を形成するように融合される。
【0082】
本発明は更に、好ましくはヒト血漿試料の可溶性CCR5(Tsimanis T., Immunology Letters 96 (2005) 55-61)と本発明による抗体との間の結合を決定する免疫学的アッセイによる、インビトロのAIDS感受性の診断のための、本発明による抗体の使用を含む。CCR5の発現は、疾患の進行との相関を有し、および、AIDS感受性について低い、または高いリスクの個体を同定するために使用され得る。診断的目的のために、抗体または抗原結合断片は、標識化、または非標識化され得る。典型的に、診断的アッセイは、抗体または断片のCCR5への結合に起因する複合体の形成を検出することを必要とする。
【0083】
もう一つの局面において、本発明は、本発明のモノクローナル抗体、またはその抗原結合部分の一つまたは組み合わせを含み、薬学的に許容される担体とともに製剤化された、組成物、例えば薬学的組成物を提供する。
【0084】
本明細書において使用されるとき、「薬学的に許容される担体」は、任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌および抗真菌剤、等張および吸収遅延剤、ならびに生理学的に適合性のある同様のものを含む。好ましくは、担体は、注射または点滴に適する。
【0085】
本発明の組成物は、当技術分野において公知である様々な方法によって投与され得る。当業者によって評価されるであろうように、投与の経路および/または形式は、所望の結果に依存して変化するであろう。
【0086】
薬学的に許容される担体は、無菌の水性溶液または分散物、および無菌の注射可能な溶液または分散物の調製のための無菌パウダーを含む。薬学的に活性を有する物質のための、そのような媒体および薬剤の使用は、当技術分野において公知である。担体は、水に加えて、例えば、等張緩衝生理食塩水であり得る。
【0087】
選択された投与の経路にかかわらず、適当な水和した形態において使用されてもよい本発明の化合物、および/または本発明の薬学的組成物は、当業者に公知である通常の方法によって、薬学的に許容される剤形に製剤化される。
【0088】
本発明の薬学的組成物における活性成分の実際の投与量レベルは、患者にとって毒性であること無く、特定の患者、組成物、および投与の形式について所望の治療応答を達成するのに有効である活性成分の量を得るために、変更されてもよい。選択された投与量レベルは、使用された本発明の特定の組成物、またはそれらのエステル、塩、もしくはアミドの活性、投与の経路、投与の時間、使用された特定の化合物、使用された特定の組成物と組み合わせて使用された他の薬物、化合物および/または材料の排出速度、処置される患者の年齢、性別、体重、条件、一般健康状態および事前治療歴、ならびに、医療技術分野において周知である同様の因子を含む様々な薬物動態因子に依存するであろう。
【0089】
本発明は、AIDSのような免疫不全症候群を有する患者、放射線療法、化学療法、自己免疫疾患のための療法、または、免疫抑制、GvHD、もしくはHvGD(例えば、移植後)を引き起こす他の薬物療法(例えば、コルチコステロイド療法)を経験する患者における免疫抑制のような、免疫抑制を患う患者の処置のための、本発明による抗体の使用を含む。本発明はまた、そのような免疫抑制を患う患者の処置のための方法を含む。
【0090】
本発明は更に、有効量の本発明による抗体を、薬学的に許容される担体とともに含む薬学的組成物の製造のための方法、および、そのような方法のための本発明による抗体の使用を提供する。
【0091】
本発明は更に、免疫抑制を患う患者の処置のために、好ましくは薬学的に許容される担体を伴う医薬品の製造のための有効量における、本発明による抗体の使用を提供する。
【0092】
以下の実施例、参照文献、および配列表は、本発明の理解を援助するために提供され、本発明の真の範囲は、添付の特許請求の範囲において示される。本発明の精神から逸脱することなく、示される手順において改変が作製され得ることが理解される。
【0093】
抗体寄託

【0094】
配列の説明
SEQ ID NO:1 <CCR5>Pz01.F3重鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:2 <CCR5>Pz01.F3軽鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:3 <CCR5>Pz02.1C11重鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:4 <CCR5>Pz02.1C11軽鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:5 <CCR5>Pz03.1C5重鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:6 <CCR5>Pz03.1C5軽鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:7 <CCR5>F3.1H12.2E5重鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:8 <CCR5>F3.1H12.2E5軽鎖、可変ドメイン
SEQ ID NO:9 重鎖CDR1
SEQ ID NO:10 重鎖CDR1
SEQ ID NO:11 重鎖CDR1
SEQ ID NO:12 重鎖CDR1
SEQ ID NO:13 重鎖CDR2
SEQ ID NO:14 重鎖CDR2
SEQ ID NO:15 重鎖CDR2
SEQ ID NO:16 重鎖CDR3
SEQ ID NO:17 重鎖CDR3
SEQ ID NO:18 軽鎖CDR1
SEQ ID NO:19 軽鎖CDR1
SEQ ID NO:20 軽鎖CDR1
SEQ ID NO:21 軽鎖CDR2
SEQ ID NO:22 軽鎖CDR2
SEQ ID NO:23 軽鎖CDR2
SEQ ID NO:24 軽鎖CDR3
SEQ ID NO:25 軽鎖CDR3
SEQ ID NO:26 γ1重鎖定常領域
SEQ ID NO:27 γ4重鎖定常領域
SEQ ID NO:28 κ軽鎖定常領域
【0095】
抗体名称

【実施例】
【0096】
実施例1
ヒトCCR5に対するモノクローナル抗体の生産
a)マウスの免疫
メスのBalb/cマウスに、アジュバントCFA(完全フロイントアジュバント)を伴う107個のCCR5発現細胞(CHOまたはL1.2)での第一次(primary)腹腔内免疫がなされる。続いて、4〜6週間後に、IFA(不完全フロイントアジュバント)を伴う再び同一の107個のCCR5発現細胞での1回の更なる腹腔内免疫がなされる。その後、各マウスには、4〜6週間間隔で、PBSにおける再び107個のCCR5発現細胞(CHOまたはL1.2)が投与される。その後、融合の3日または4日前に、最後の免疫が、再び107個のCCR5発現細胞で腹腔内に、または、2x106個のCCR5発現細胞を用いて静脈内に行われる。
【0097】
b)融合およびクローニング
a)に従って免疫されたマウスの脾臓細胞は、Galfre, Methods in Enzymology 73, 1981,3に従って骨髄腫細胞と融合される。免疫されたマウスの約1 x 108個の脾臓細胞が、およそ同一の数の骨髄腫細胞(P3X63-Ag8-653, ATCC CRL 1580)と混合され、融合されて、続いてHAZ培地(100 mmol/l ヒポキサンチン、1μg/ml アザセリンを含むRPMI 1640+10% FCS)において培養される。約10日後、初代培養が、特異的な抗体産生について試験される。細胞ELISAにおいてCCR5と陽性反応を示し、かつ、トランスフェクションされていない親細胞と交差反応を示さない初代培養が、限界希釈または蛍光活性化細胞選別器の手段によって、96ウェル細胞培養プレートにおいてクローン化される。寄託された細胞株は、この様式で取得された。
【0098】
c)抗体の組換え生産
マウス可変領域に連結されたヒト定常領域からなるキメラ抗体の発現のためのベクターは、以下のように構築され得る。発現ベクターpSVgptにおいて、ヒトIgG1およびヒトIgG4定常領域に連結された抗CCR5マウスVHからなる2個のキメラ重鎖発現ベクターが構築される。発現ベクターpSVhygにおいて、ヒトCκに連結された抗CCR5マウスVKからなるキメラ軽鎖ベクターが構築される。リーダーシグナルペプチド、リーダーイントロンおよびマウスイムノグロブリンプロモーターを含む5フランキング配列、ならびに、スプライス部位およびイントロン配列を含む3フランキング配列が、ベクターVH-PCR1およびVK-PCR1を鋳型として用いて導入される。重鎖および軽鎖発現ベクターは、NS0細胞(ECACC No 85110503、イムノグロブリンを産生しないマウス骨髄腫)にコトランスフェクションされる。トランスフェクションされた細胞クローンは、ヒトIgGのためのELISAによって、ヒト抗体の産生についてスクリーニングされる。
【0099】
実施例2
変異種(変異体)抗CCR5 IgG1およびIgG4のための発現プラスミドの構築
変異種抗CCR5γ1およびγ4重鎖をコードする発現プラスミドは、QuickChange(登録商標)Site-Directed mutagenesis Kit (Stratagene)を用いて、野生型発現プラスミドの部位特異的変異誘発によって作製され得、表1に記述される。アミノ酸は、EUナンバリング[Edelman, G.M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 63 (1969) 78-85; Kabat, E.A., et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, Fifth Ed., NIH Publication No. 91-3242 (1991)]によって、番号がつけられる。
【0100】
【表1】

変異の説明:S228Pは、Kabatアミノ酸228位のセリンが、プロリンに変更されることを意味する。
【0101】
実施例3
細胞‐細胞融合アッセイ
1日目に、gp160発現HeLa細胞(2 x 104細胞/50μl/ウェル)が、10% FCSおよび2μg/mlドキシサイクリンで補足されたDMEM培地において、白色96マイクロタイタープレートに播種される。2日目に、ウェルあたり100μlの上清試料または抗体対照が、透明の96マイクロタイタープレートに添加される。その後、培地中に8x104個のCEM-NKr-Luc浮遊細胞を含む100μlが添加され、30分、37℃でインキュベーションされる。Hela細胞培養培地が、96ウェルプレートから吸引され、200μl抗体/CEM-NKr-Luc混合物より100μlが添加されて、一晩、37℃でインキュベーションされる。3日目に、100μl/ウェルのBright-Glo(登録商標) Luciferase assay substrate(1,4-ジチオスレイトールおよび亜ジチオン酸ナトリウム;Promega Corp. USA)が添加され、RTでの最低15分のインキュベーションの後、発光が測定される。
【0102】
材料:
Hela-R5-16細胞(デオキシサイクリン誘導時にHIV gp160を発現する細胞株)は、400μg/ml G418および200μg/mlハイグロマイシンBとともに、栄養素および10%FCSを含むDMEM培地において培養される。
【0103】
CEM.NKR-CCR5-Luc(カタログ番号:5198)は、NIH AIDS Research & Reference Reagent Program McKesson BioServices Corporation, Germantown, MD 20874, USAより入手可能なT細胞株である。細胞タイプ: CEM.NKR-CCR5(Cat. #4376)が、HIV-2 LTRの転写制御の下でルシフェラーゼ遺伝子を発現するようにトランスフェクション(エレクトロポレーション)され、10%ウシ胎児血清、4 mMグルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン、および0.8 mg/ml geneticin sulfate(G418)を含むRPMI 1640において増殖した。増殖特性:円形のリンパ球系細胞で、形態はさほど可変性ではない。細胞は、浮遊して単一細胞として増殖し、小さな凝集塊を形成し得る。毎週2回、1:10に分割する。特別な特性:HIV-2 LTRのトランス活性化後にルシフェラーゼ活性を発現する。中和および薬物感受性アッセイのために、プライマリーHIV分離体での感染に適する(Spenlehauer, C., et al., Virology 280 (2001) 292-300; Trkola, A., et al., J. Virol. 73 (1999) 8966-8974)。細胞株は、NIH AIDS Research and Reference Reagent Program, NIAID, NIHを通して、Dr. John MooreおよびDr. Catherine Spenlehauerより取得された。
【0104】
Bright-Glo(登録商標) Luciferase assay buffer (Promega Corp. USA, Part No E2264B)
Bright-Glo(登録商標) Luciferase assay substrate (Promega Corp. USA, part No EE26B)
【0105】
結果:
抗体Bについての結果が、図1に示される。
【0106】
IC50値は、抗体Cについて0.38μg/ml、抗体Bについて0.79μg/ml、および抗体Aについて7.0μg/mlである。IC50値はまた、例えば、JRCSF株を用いてPhenoSenseHIVアッセイ(ViroLogic, Inc. USA)において測定される。IC50値は、抗体Cについて0.16μg/ml、抗体Bについて0.17μg/ml、抗体Aについて0.82μg/ml、および抗体2D7について1.4μg/mlである。
【0107】
実施例4
生ウイルスでの抗ウイルスアッセイ
PBMCは、Lymphoprep(登録商標)(Nycomed Pharma AG, Oslo, Norway)を用いた密度勾配遠心分離によって単離されたバフィーコートより調製される。4人の異なるドナー由来の細胞が混合されて、1日間PHAで刺激され、続いて、1%ペニシリン/ストレプトマイシン、1% glutamax、1%ピルビン酸ナトリウム、1%非必須アミノ酸、および10% FBSを含むRPMI培地において、2日間、5 U/ml IL-2の存在下で培養された。
【0108】
50μl中の100,000個のPBMCが、100μlの抗体溶液(補足されたRPMI培地における、0.006〜17.5μg/mlの間の範囲の連続希釈)に添加され、および、50μlの体積における、250 TCID50のNLBal(BaLのenv(gp120)を有するNL4.3株(Adachi, A., et al., J. Virol. 59 (1986) 284-291))、またはJRCSF(O'Brien, W.A., et al., Nature 348 (1990) 69-73)と感染させられる。混合物は、6日間、37℃でCO2インキュベーターにおいてインキュベーションされる。上清が採取され、続いて、5 U/ml IL-2で補足されたRPMI培地で1:50に希釈された。
【0109】
p24の測定は、HIV-1 p24 ELISA(Perkin-Elmer, USA)によって行われる。試料は、その後中和され、HIV-1 p24に対する高度に特異的なマウスモノクローナル抗体でコートされたマイクロプレートウェルに移される。固定化されたモノクローナル抗体が、HIV-1 p24を捕捉する。細胞培養試料は破砕を必要とせず、モノクローナル抗体でコートされたマイクロプレートウェルに直接添加される。捕捉された抗原は、HIV-1 p24に対するビオチン化ポリクローナル抗体と複合体を形成し、続いてストレプトアビジン‐HRP(西洋ワサビペルオキシダーゼ)抱合体と複合体を形成する。結果として生じる複合体は、捕捉されたHIV-1 p24の量に正比例する黄色を産生するオルソ‐フェニレンジアミン‐HCl(OPD)とのインキュベーションによって検出される。各マイクロプレートウェルの吸光度は、マイクロプレートリーダーを用いて決定され、HIV-1 p24抗原標準の吸光度または標準曲線に対して較正される。結果が、表2に示される。
【0110】
(表2)ヒトPBMCにおけるHIV増殖の阻害

【0111】
実施例5
CCR5細胞ELISA
組換えでCCR5を発現する20000個のCHO細胞が、96ウェルプレートにつき播種され、一晩37℃でインキュベーションされる。その後、培地が吸引されて、40μlの新鮮な培地が添加される。10μlの培地における希釈抗体が添加され、2時間、4℃でインキュベーションされる。培地が吸引され、100μlグルタルジアルデヒド(PBSにおいてc=0.05%)が添加されて、10分間室温でインキュベーションされる。200μl PBSで3回洗浄した後、50μlの検出抗体1(ELISAブロッキングにおいて1000倍希釈)が添加され、2時間、室温でインキュベーションされる。50μlの3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)が添加されて、7分後に反応が停止される。光学濃度が、450 nm(対620 nm)で測定される。
【0112】
一次抗体:Pharmingen 2D7(CD195;Cat. Nr. 555990)または抗体B/C
【0113】
二次抗体:検出抗体(マウスIgGに対する抗体およびPODの抱合体;Biorad, #170-6516、1:1000希釈)
【0114】
培地:Glutamax、10%FCS、200μg/mlハイグロマイシン(Roche Diagnostics GmbH, DE)を含むHAM's F-12またはGIBCO
【0115】
ELISA‐ブロッキング:Roche Diagnostics GmbH, DE #1112589、水における10%(v/v)溶液、PBSにおいて1/10希釈
【0116】
TMB:Roche Diagnostics GmbH, DE #1432559、使用のための溶液
【0117】
結果が、図2に示される。
【0118】
実施例6
NK細胞上のFcγRIIIaに結合するCCR5 Mabの能力
本発明の抗体の、ナチュラルキラー(NK)細胞上のFcγRIIIa(CD16)に結合する能力を決定するために、末梢血単核球(PBMC)が単離され、FcγRIIIaを介した結合を検証するために、20μg/mlのFcγRIIIaに対するブロッキングマウス抗体(抗CD16、クローン3G8、RDI, Flanders, NJ)の存在下または非存在下で、20μg/mlの抗体および対照抗体とインキュベーションされる。陰性対照として、FcγRIIIaに結合しないヒトIgG2およびIgG4(The Binding Site)が使用される。ヒトIgG1およびIgG3(The Binding Site)が、FcγRIIIa結合についての陽性対照として含まれる。NK細胞に結合した抗体は、PE標識マウス抗ヒトCD56(NK細胞表面マーカー)抗体(BD Biosciences Pharmingen, San Diego, CA)を、FITC標識ヤギF(ab)2抗ヒトIgG(Fc)抗体(Protos Immunoresearch, Burlingame, CA)と組み合わせて使用して、FACS解析によって検出される。最大結合(Bmax)は、20μg/mlの抗体濃度で決定される。対照抗体(ヒトIgG4)は、ヒトIgG1についての100% Bmaxと比較して、30%までのBmaxを示す。そのため、「FcγRIIIa結合が無い、またはADCCが無い」とは、20μg/mlの抗体濃度で、ヒトIgG1と比較して30%までのBmax値を意味する。
【0119】
参照文献の一覧表



【0120】

【0121】
C. 追加の表示(別紙)

出願人 :F. Hoffmann-La Roche AG, et al.
出願人の書類番号:23010 WO-SR
国際出願番号 :PCT/EP2006/002974

記載において参照される寄託された生物材料にかかわるエキスパート・ソリューションに関する表示

寄託された生物材料に関する表示は、すべて記載に含まれる。以下の追加の表示は、記載の部分であることを要求されず、「別個の表示」として取り扱われるべきである。これらはエキスパート・ソリューションにのみ関する。

下記の追加の表示は、以下に参照される寄託された生物材料に関する:
22頁の記載における、
m<CCR5)>Pz01.F3 DSM ACC2681
m<CCR5)>Pz02.1C11 DSM ACC2682
m<CCR5)>Pz03.1C5 DSM ACC2683
m<CCR5)>Pz04.1F6 DSM ACC2684

追加の表示:

指定国CA(カナダ)について:
カナダの指定に関して、寄託された生物材料の試料は、カナダ特許の許可まで、または、カナダ特許法の下、特許法施行規則第107および108条に基づいて、出願が、拒絶され、または放棄され回復が不能となり、または取り下げられた日まで、長官により任命された独立なエキスパートへの試料の提供のみにより、入手可能である(施行規則第104条(4))。

指定国EP(欧州特許)について:
欧州特許庁の指定に関して、寄託された生物材料の試料は、ヨーロッパ特許の許可通知が公開されるまで、または、欧州特許条約の下、施行規則第28条(3)に基づいて、出願が、拒絶され、または取り下げられ、または取り下げたと見なされたた日から20年後まで、依頼人により任命されたエキスパートへの試料の提供のみにより、入手可能である(EPC施行規則第28条(4))。

指定国SG(シンガポール)について:
出願人は、上に記載された培養物の試料について、特許法施行規則1995に対する第4スケジュールの第3段落に基づくエキスパートのみが入手可能であると意図することをここに表明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体の可変重鎖アミノ酸配列CDR3が、重鎖CDR3配列SEQ ID NO:16または17からなる群より選択されることを特徴とする、CCR5に結合する抗体。
【請求項2】
以下からなる群より独立して選択される可変重鎖および軽鎖領域、またはそれらのCCR5結合断片を含むことを特徴とする、請求項1記載の抗体:
a)アミノ酸配列SEQ ID NO:1によって定義される重鎖(VH)可変ドメイン、およびSEQ ID NO:2によって定義される軽鎖(VH)可変ドメイン;
b)アミノ酸配列SEQ ID NO:3によって定義される重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO:4によって定義される軽鎖可変ドメイン;
c)アミノ酸配列SEQ ID NO:5によって定義される重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO:6によって定義される軽鎖可変ドメイン;
d)アミノ酸配列SEQ ID NO:7によって定義される重鎖可変ドメイン、およびSEQ ID NO:8によって定義される軽鎖可変ドメイン。
【請求項3】
ハイブリドーマ細胞株m<CCR5>Pz01.F3、m<CCR5>Pz04.1F6、m<CCR5>Pz03.1C5、またはm<CCR5>Pz02.1C11によって産生されることを特徴とする、請求項1または2記載の抗体。
【請求項4】
ヒトIgG4アイソタイプ、またはヒトIgG1アイソタイプであり、IgG1が、CH1とCH2との間のaa220〜240のヒンジ領域、および/または、CH2とCH3との間のaa330の第二ドメイン間領域において任意で改変されることを特徴とする、請求項1〜3いずれか一項記載の抗体。
【請求項5】
ハイブリドーマ細胞株m<CCR5>Pz01.F3、m<CCR5>Pz04.1F6、m<CCR5>Pz03.1C5、またはm<CCR5>Pz02.1C11。
【請求項6】
薬学的有効量において請求項1〜4いずれか一項記載の抗体を含む、薬学的組成物。
【請求項7】
薬学的組成物の製造のための、請求項1〜4いずれか一項記載の抗体の使用。
【請求項8】
薬学的有効量の請求項1〜4いずれか一項記載の抗体を含む、薬学的組成物の製造のための方法。
【請求項9】
下記で定義されるそれぞれ他方の抗体鎖とともにアセンブルすることが可能であるポリペプチドをコードする核酸であって、該ポリペプチドが以下のいずれかであり、CDRがお互いに独立して選択される、核酸:
a)CDR配列としてCDR1、CDR2、およびCDR3を含み、ならびに、CDR1がSEQ ID NO:9、10、11、12からなる群より選択され、CDR2がSEQ ID NO:13、14、15からなる群より選択され、CDR3がSEQ ID NO:16、17からなる群より選択される、抗体重鎖、
b)CDR配列としてCDR1、CDR2、およびCDR3を含み、ならびに、CDR1がSEQ ID NO:18、19、20から選択され、CDR2がSEQ ID NO:21、22、23から選択され、およびCDR3がSEQ ID NO:24、25から選択される、抗体軽鎖可変軽鎖。
【請求項10】
治療的有効量の請求項1〜4いずれか一項記載の抗体を患者へ投与することによって特徴付けられる、免疫抑制性疾患を患う患者の処置のための方法。
【請求項11】
CCR5に結合する親抗体のCDR配列を改変する方法であって、
SEQ ID NO:1、3、5、および7からなる群より選択される重鎖CDR、および/またはSEQ ID NO:2、4、6、および8からなる群より選択される抗体軽鎖CDRを選択すること、
該アミノ酸CDR配列をコードする核酸を提供すること、
重鎖CDR1において1個のアミノ酸が改変され、重鎖CDR2において1個のアミノ酸が改変され、軽鎖CDR1において1〜3個のアミノ酸が改変され、軽鎖CDR2において1〜3個のアミノ酸が改変され、および/または軽鎖CDR3において1〜3個のアミノ酸が改変されるように該核酸を改変すること、
該改変CDRアミノ酸配列を抗体構造において発現させること、
該抗体がCCR5に結合するか否かを測定し、ならびに、抗体がCCR5に結合する場合に該改変CDRを選択すること
を特徴とする、方法。
【請求項12】
Fcγ受容体および/またはC1qに結合しない、CCR5に結合する抗体の生産のための方法であって、
CCR5に結合するヒトIgG1タイプの抗体の重鎖をコードする核酸の配列が、改変抗体がC1qおよび/またはFcγ受容体に結合しないような様式で改変され、該改変核酸および該抗体の軽鎖をコードする核酸が発現ベクターに挿入され、該ベクターが真核生物宿主細胞に挿入され、コードされたタンパク質が発現され、および、宿主細胞または上清から回収されることを特徴とする、方法。
【請求項13】
ヒトIgG1タイプであることを特徴とする、Fcγ受容体および/またはC1qに結合しない、CCR5に結合する抗体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79836(P2011−79836A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−238172(P2010−238172)
【出願日】平成22年10月25日(2010.10.25)
【分割の表示】特願2008−503436(P2008−503436)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】