説明

CD14媒介細胞活性化を抑制するための方法および組成物

【課題】CD14媒介細胞活性化を抑制することが可能なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系の提供。
【解決手段】CD14受容体を発現する細胞のCD14媒介活性化を抑制する方法であって、有効量の抗体またはその生物学的に活性な断片と該細胞とを接触させることを含み、該抗体が、細胞表面のCD14に結合し、リガンドによるCD14媒介活性化を抑制するものであり、該リガンドは該抗体の存在下では該細胞のCD14に結合し、該抗体の不在下では細胞活性化を刺激するものであり、該リガンドの少なくとも50%は該抗体の存在下で細胞表面CD14に結合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の属する技術分野
本発明はCD14媒介細胞活性化を抑制するための方法および組成物に関する。より具体的には、本発明はCD14媒介細胞活性化を抑制する部位でCD14単球抗原に結合する分子に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
細胞の正しい機能は、環境とコミュニケートする細胞の能力に部分的に依存している。外部刺激は膜受容体としばしば相互作用し、次に膜受容体は最終的に転写因子に影響を及ぼす第2のメッッセンジャーを誘導する。次に、転写因子はある遺伝子の発現を活性化または抑制し、所与の細胞におけるタンパク質の特異的パターンをもたらす。
【0003】
転写因子NF-κB(核因子-κB)はこの因子のDNA結合モチーフに接触して、免疫受容体、サイトカインおよびウイルスタンパク質をコードする一組の遺伝子を調節する種々の刺激によって誘導される。NF-κBを活性化できる種々の因子には、リポ多糖(LPS)が含まれる。次に、LPSは敗血性ショック、全身性炎症応答症候群および多臓器不全を含む敗血症症候群の誘発に密接に関連している。
【0004】
敗血症は毒素によって誘発される病的状態であり、この誘発または累積は最も一般的には感染または外傷によって引き起こされる。敗血症の初期症状は典型的には、悪寒、大量の発汗、不規則に上下する熱、衰弱、等を含み、これらに続いて持続性熱、低血圧が起こり、ショック、好中球減少症、白血球減少症、汎発性血管内凝固症候群、急性呼吸促進症候群および多臓器不全に至る。
【0005】
リポ多糖、つまり内毒素は、すべてのグラム陰性細菌〔例えば、大腸菌、肺炎桿菌(Klebsiella pneumonia)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)]の外膜に見いだされる毒性成分である。LPSは免疫細胞にとってin vitroにおいてもin vivo においても、強力で多面発現性(pleiotropic)の刺激物質であることが確認されている(Morrison, D.C. &J.L. Ryan, Annu. Rev. Med., 38:417, 1987; Bone, R.C., Ann. Intern. Med., 115:457, 1991)。グラム陰性敗血症を患うヒトにおいて見られる病態生理学的影響のすべては、精製LPSによって完全に倍増しうるという点で、反論できない証拠がLPSの毒性的役割を支持する。この毒性成分が応答細胞を活性化する作用機構は複雑で、十分理解されていない。グラム陰性菌感染への宿主応答は、エフェクター細胞によるこれらの細菌および/またはLPSの認識に依存しており、血清タンパク質および細胞膜受容体に密接に関連している。細菌およびLPSの一掃は細網内皮細胞によるエンドサイトーシスおよび食作用によって行なわれるが、LPSによる宿主免疫応答の付随的活性化は活性化マクロファージによるサイトカインの分泌をもたらし、これがグラム陰性菌感染の間に起こる異常に増大された宿主応答の引き金を引きうる。
【0006】
Tobiasら(J. Exp. Med., 164:777, 1986)によるLPS結合タンパク質(LBP)〔LPSへの高親和性結合を示す(K=10-9-1)〕として同定された血清タンパク質の発見は、in vivo でいったん放出されたLPSの運命を明らかにするのに役立った。肝臓で合成され、分子量が約 60 kDのこの新規タンパク質は、ヒトにおいて200 μg/mlのレベルに達する急性期血清タンパク質であることが示された。高親和性LPS/LBP複合体の形成に続いて、マクロファージによる認識がなされ、次にTNF-αおよび他のマクロファージ分泌産物の放出が伴う(Schumann, R.R. ら,Science, 249:1429,1990)。LPBと結合したLPSの効果に関するさらなる研究は、単球およびマクロファージの表面におけるそれの特異的受容体、すなわちCD14の発見をもたらした(Wright, S.D.ら,Science, 249:1431, 1990)。CD14に特異的なモノクローナル抗体(mAb)を用いたさらなる分析により、1個の抗CD14mAb(3C10; VanVoorhis, W.C.ら,J. Exp. Med., 158:126, 1983)が結合したドメインはCD14上のLPS/LBP結合部位の一部であるか、またはそれに極めて接近していたことが示された。モノクローナル抗体3C10は、LPS/LBPのCD14への結合を妨げる能力の性質により、LPSで刺激した後のヒト全血アッセイにおいてTNF-α放出を抑制することができた。この発見によって、たとえヒト全血に含まれる他のすべての細胞、タンパク質および因子の存在下であっても、1個のタンパク質決定基(CD14上のリガンド結合部位)をブロックすれば、LPSに応答するTNF-α(敗血性ショックの重要な媒介物質であることが公知である)および他のマクロファージ分泌産物の放出を抑制するのに十分であることが示唆されている。
【0007】
敗血症等のCD14媒介細胞活性化疾患の性質を理解することにおいて進歩があったにもかかわらず、そのような活性化を抑制し、またこれらの疾患を診断するために使用することができる組成物に対するかなりの必要が残っている。本発明はそのような組成物を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Morrison, D.C. &J.L. Ryan, Annu. Rev. Med., 38:417, 1987; Bone, R.C., Ann. Intern. Med., 115:457, 1991
【非特許文献2】J. Exp. Med., 164:777, 1986
【非特許文献3】Schumann, R.R. ら,Science, 249:1429,1990
【非特許文献4】Wright, S.D.ら,Science, 249:1431, 1990
【非特許文献5】VanVoorhis, W.C.ら,J. Exp. Med., 158:126, 1983
【発明の概要】
【0009】
本発明は、CD14媒介細胞活性化を抑制することが可能なモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞系を提供する。これらの細胞系によって産生されたモノクローナル抗体もまた提供される。これらのモノクローナル抗体は、CD14に結合して、もし抑制されなければNF-κB活性化を誘導しうるリガンドによるNF-κB活性化を抑制するのに広く有用である。上記モノクローナル抗体の生物学的に活性な断片が提供される。これらの抗体および断片は、試料中の細胞表面関連および可溶性CD14の存在を検出するのに有用である。上記モノクローナル抗体より作成されるキメラおよびCDRグラフト(grafted)抗体もまた提供される。
【0010】
上記の生物学的組成物を含有する医薬組成物が提供される。これらは、敗血症等のLPS関連疾患を治療および予防するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1はヒト可溶性CD14受容体の核酸配列である(配列番号:9)。
【図2】図2は28C5 H鎖の核酸配列およびアミノ酸配列である(それぞれ配列番号:1および2)。
【図3】図3は28C5 L鎖の核酸配列およびアミノ酸配列である(それぞれ配列番号:3および4)。
【図4】図4は18E12 H鎖の核酸配列およびアミノ酸配列である(それぞれ配列番号:5および6)。
【図5】図5は18E12 L鎖の核酸配列およびアミノ酸配列である(それぞれ配列番号:7および8)。
【図6A】図6は対照THP−1細胞単独のFACS分析である。
【図6B】図6は対照THP−1細胞単独のFACS分析である。
【図6C】図6は対照THP−1細胞単独のFACS分析である。
【図6D】図6は対照THP−1細胞単独のFACS分析である。
【図7A】図7は対照THP−1細胞およびFiTC結合体単独のFACS分析である。
【図7B】図7は対照THP−1細胞およびFiTC結合体単独のFACS分析である。
【図7C】図7は対照THP−1細胞およびFiTC結合体単独のFACS分析である。
【図7D】図7は対照THP−1細胞およびFiTC結合体単独のFACS分析である。
【図8A】図8は陽性対照THP−1およびMY4抗体のFACS分析である。
【図8B】図8は陽性対照THP−1およびMY4抗体のFACS分析である。
【図8C】図8は陽性対照THP−1およびMY4抗体のFACS分析である。
【図8D】図8は陽性対照THP−1およびMY4抗体のFACS分析である。
【図9A】図9は28C5抗体のFACS分析である。
【図9B】図9は28C5抗体のFACS分析である。
【図9C】図9は28C5抗体のFACS分析である。
【図9D】図9は28C5抗体のFACS分析である。
【図10A】図10は18E12抗体のFACS分析である。
【図10B】図10は18E12抗体のFACS分析である。
【図10C】図10は18E12抗体のFACS分析である。
【図10D】図10は18E12抗体のFACS分析である。
【図11】図11はsCD14に対する種々のmAbの力価である。
【図12】図12は、mAb3C10と一団の抗CD14mAbとの競合アッセイの結果を示す。
【図13】図13は、抗CD14mAbによるLPS/LBPのCD14への結合のブロックを示す。
【図14】図14は、HL−60細胞におけるサイトカイン放出をブロックする抗CD14mAbの能力の評価結果を示す。
【図15】図15は、LPSの細胞性CD14への結合を抑制する抗CD14mAbの効果を示す。
【図16】図16は、LPS依存性、CD14媒介細胞活性化に及ぼす抗CD14mAbの効果を示す。
【図17A】図17は、LPSを用いて抗原投与し、18E12(・)、28C5(■)またはIgG1(×)を用いて処理したサルの平均動脈圧を示す。
【図17B】図17は、LPSを用いて抗原投与し、18E12(・)、28C5(■)またはIgG1(×)を用いて処理したサルの平均動脈圧を示す。
【図18A】図18は、サルにおけるヒトIFN-γによる処理の前および後のCD14レベルおよびLBPレベルを示す。
【図18B】図18は、サルにおけるヒトIFN-γによる処理の前および後のCD14レベルおよびLBPレベルを示す。
【図19】図19は、18E12、28C5またはIgG1を用いて処理したサルにおけるBSAの洗浄液(lavage)/血漿の比を示す。
【図20】図20はサルにおける18E12、28C5およびIgG1の抗体半減期を示す。
【図21A】図21は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図21A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図21B)におけるCD14レベルを示す。
【図21B】図21は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図21A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図21B)におけるCD14レベルを示す。
【図22A】図22は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図22A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図22B)におけるLBPレベルを示す。
【図22B】図22は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図22A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図22B)におけるLBPレベルを示す。
【図23A】図23は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図23A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図23B)におけるALT/GPTレベルを示す。
【図23B】図23は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図23A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図23B)におけるALT/GPTレベルを示す。
【図24A】図24は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図24A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図24B)におけるE−セレクチンレベルを示す。
【図24B】図24は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)単独で処理したサル(図24A)、または抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサル(図24B)におけるE−セレクチンレベルを示す。
【図25A】図25は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつLPSを用いて抗原投与したサルにおけるTNFレベル(図25A)、および抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつ抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサルにおけるIL−1レベル(図25B)を示す。
【図25B】図25は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつLPSを用いて抗原投与したサルにおけるTNFレベル(図25A)、および抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつ抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサルにおけるIL−1レベル(図25B)を示す。
【図26A】図26は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつLPSを用いて抗原投与したサルにおけるIL−6レベル(図26A)、および抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつ抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサルにおけるIL−8レベル(図26B)を示す。
【図26B】図26は、抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつLPSを用いて抗原投与したサルにおけるIL−6レベル(図26A)、および抗体(18E12、28C5およびIgG1)で処理し、かつ抗体処理の後にLPSを用いて抗原投与したサルにおけるIL−8レベル(図26B)を示す。
【図27】図27は、18E12(●)、28C5(▲)または23G4(■)を用いた処理による、LPSで刺激したヒト全血におけるTNF放出の抑制を示す。
【図28】図28は、ヒヒ血液におけるLPS誘導TNF分泌に及ぼす抗CD14抗体の効果を示す〔23G4(●)、28C5(▽)および18E12(▼)〕。
【図29】図29は、モノクローナル抗体3C10、28C5、23G4および18E12のL鎖のアミノ酸配列を示す。
【図30】図30は、モノクローナル抗体3C10、28C5および18E12のH鎖のアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
ヒト可溶性CD14(「sCD14」)の全長ポリペプチドが本開示によって提供される。本明細書で用いる「CD14」という用語は、LPSがLPS:LBP複合体として存在する時のLPSの結合部位であるとして同定された細胞表面受容体を意味する。CD14細胞表面受容体は、成熟単球、好中球およびマクロファージの表面に存在するグリセロホスファチジルイノシトール(GPI)結合タンパク質である。天然のCD14もまた、成熟単球およびマクロファージの表面から可溶性形態で自然に放出される。天然のsCD14はGPIアンカーを欠き、血清中に存在する。sCD14の生物学的起源および機能はまだ十分に明らかにされていない(Bazil, Europ. J. Immunol., 16:1583-1589, 1986) 。
【0013】
本明細書で用いる「可溶性」という用語は、細胞表面に関連しない、と定義される。「可溶性CD14」とは、LPS:LBP複合体および/またはLPS単独に特異的に結合するものとしてさらに特徴付けられる、非細胞関連CD14分子である。「組換えヒトsCD14」は、図1に記載の核酸配列(配列番号:9)によってコードされる全長のアミノ酸可溶性ヒトCD14タンパク質、およびその端を切断されたものの両方を含む。同定する目的のためのみに、上記全長タンパク質を523と称し、端部切断タンパク質を847と称する。このヒトsCD14は免疫原としてポリクローナルおよびモノクローナル抗体の作成に有用であり、また患者の試料中におけるLPSの存在を検出するためにも有用である。免疫原として使用する場合、523は従来のCD14免疫原よりも有利な点を提供した。例えば、523はより多数のCD14特異的陽性クローンを提供した;523は全細胞抽出物中に存在するであろう他の免疫原性タンパク質に対する多数の非特異的応答を排除した;そして、523は興味の対象である抗体を得るために必要とされるスクリーニングの回数を減らした。この全長ヒトsCD14ポリペプチドは、図1に記載の核酸配列(配列番号:9)を有する。この配列を用いて、当業者は類似の配列を有するポリペプチドを化学合成または遺伝子組換えにより作成することができる。端部切断タンパク質(「847」)は、除去された配列のカルボキシル末端由来の8個のアミノ酸を有する。
【0014】
sCD14の1次アミノ酸配列の小変異は、本明細書に記述されるsCD14タンパク質と比較して実質的に等しい機能を有するタンパク質をもたらす可能性がある。このような修飾は、部位特異的突然変異誘発によるもののように精巧であることもあるし、また自然発生的なものでもありうる。これらの修飾によって産生されたすべてのタンパク質は、CD14機能が存在するかぎり本発明に含まれる。
【0015】
sCD14の1次アミノ酸配列の修飾はまた保存性変異を包含する。本明細書に用いられる「保存性変異」という用語は、あるアミノ酸残基の別の生物学的に類似したアミノ酸残基による置換を意味する。保存性変異の例は、イソロイシン、バリン、ロイシン若しくはメチオニン等の疎水性残基が別の疎水性残基に置換すること、またはアルギニンがリシンに、グルタミン酸がアスラギン酸に、グルタミンがアスパラギンに置換する等の極性残基が別の極性残基に置換することを含む。「保存性変異」という用語は、置換ポリペプチドに対して作成された抗体が非置換ポリペプチドに対しても免疫反応を示すならば、置換アミノ酸を非置換親アミノ酸の代わりに使用することをも含む。
【0016】
本発明は図1(配列番号:9)に記載の、ヒト可溶性CD14ポリペプチドをコードする核酸分子を提供する。本発明はまた、図1に記載の核酸分子とは異なるが、発現されるとこの核酸分子と同一の表現型効果または免疫原性効果を奏する核酸分子をも包含する。本発明は、上記の核酸分子と比較したとき、産生されるポリペプチドの表現型を変更しない非コード領域における変化によって特徴付けられる核酸分子を包含する。それゆえ、sCD14の全体または一部をコードする全てのポリヌクレオチドも、sCD14の機能(抗体を誘導する、または抗体と結合するなど)を示すものであれば本発明に含まれると解釈される。そのようなポリヌクレオチドは、天然に存在する、および意図的に操作された(例えば突然変異誘発された)ポリヌクレオチドを含む。このようなポリヌクレオチドは上記タンパク質をコードするDNAおよびRNA配列を含む。
【0017】
本発明はさらに、本発明の核酸分子とハイブリダイズする核酸分子を包含する。本明細書に使用する「核酸」という用語は、RNAならびに一本鎖および2本鎖のDNAおよびcDNAを含む。
【0018】
図1に記載の配列および当業者に周知の方法(参照として全体をここに組み入れる Sambrookら,Molecular Cloning, A LaboratoryManual, Cold Springs Harbor Laboratory, New York (1989) に例示される)を用いて、ヒトsCD14を遺伝子組換えによって作成し、単離することができる。この配列を含有する発現ベクター、およびそのベクターを含有する宿主細胞もまた本発明により提供される。本明細書に使用する「ベクター」または「発現ベクター」という用語は、プロモーターおよびエンハンサー配列等の発現をもたらすことが可能な他の配列との機能的な共同により、選択された宿主細胞において発現されうる異種の核酸配列をいう。説明の目的のためのみに例を挙げると、これらの発現ベクターは細菌プラスミド、細菌ファージ、動物ウイルス、バキュロウイルスまたはコスミドでありうる。ベクターが細菌プラスミドまたは細菌ファージの場合は、上記のポリペプチドを遺伝子組換えによって産生するために大腸菌等の原核生物宿主細胞が使用できる。真核生物宿主細胞は、例えばチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)等の哺乳動物細胞またはバキュロウイルス発現のための昆虫細胞でありうるが、これらに限定されない。
【0019】
ヒトsCD14を遺伝子組換えによって産生する方法が本発明により提供される。この方法は、上記の宿主細胞を、sCD14核酸分子が転写され、かつ翻訳されるのに適切な条件下で培養することを要する。発現後、市販のCD14モノクローナル抗体からなるアフィニティーカラムを使用して、組換えsCD14を細胞培養物より単離することができる。
【0020】
本発明はまた、細胞表面CD14受容体および可溶性CD14と特異的に反応するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を提供する。本発明の抗体は、抑制されなければCD14受容体に結合し、細胞を活性化して、例えばNF-κB活性を誘導またはサイトカインを産生および放出することが可能なリガンドによるCD14媒介細胞活性化を抑制する。本発明によって提供されるモノクローナル抗体は、リガンドがCD14に結合してしまった後でも、リガンドによるCD14媒介細胞活性化を抑制することができる。これらのモノクローナル抗体はリガンドとCD14との間に少なくとも約80%のリガンド結合を起こさせ、それでもなおCD14媒介細胞活性化を抑制することができるが、これらの抗体はリガンドとCD14との間に少なくとも約50%のリガンド結合が起こるのを許しうる。
【0021】
本明細書に使用する「抗体またはポリクローナル抗体」という用語は、抗原を用いた免疫感作に応答して、または組換えクローニング技法により作られるタンパク質を意味する。「モノクローナル抗体」という用語は、細胞の単一クローンより誘導された免疫グロブリンを意味する。そのクローンから誘導されたすべてのモノクローナル抗体は化学的および構造的に同一で、1個の抗原決定基に特異的である。
【0022】
実験室においてポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を作成するための方法は、当分野の技術では公知である〔参照としてここに組み入れる Harlow および Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New Yord (1988)参照〕。本発明のモノクローナル抗体は、可溶性CD14の全長ヒト組換えポリペプチドを動物、例えばマウスまたはウサギに導入することにより生物学的に作成できる。その動物における抗体産生細胞を単離し、ハイブリッド細胞またはハイブリドーマを作成するために骨髄腫細胞または異種骨髄腫細胞と融合させる。それゆえ、本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ細胞もまた提供される。この方法で産生されるモノクローナル抗体は、18E12、28C5、23G4、5G3、4F2、13A7、10B7および26F3と称するモノクローナル抗体を含むが、これらだけに限定されない。ハイブリドーマ細胞系18E12、28C5および23G4は、特許手続上の微生物の国際寄託に関するブダペスト条約の規定に基づいて American Type Culture Collection (ATCC) 12301 Parklawn Drive, Rockville,Maryland 20852, U.S.A.に寄託された。18E12および28C5は1993年5月27日に寄託され、それぞれATCC受託番号 HB11363およびHB11364を与えられた。23G4は1994年5月25日に寄託され、受託番号Xを与えられた。これらの寄託は、特許手続上の微生物の寄託の国際承認に関するブダペスト条約およびその規則(ブダペスト条約)の規定に基づいて行なわれた。これは、寄託日より30年間、生育しうる培養物の維持を保証する。これらの微生物は、当該米国特許の付与、または米国若しくは外国出願の公開のうちどちらか早い方が行なわれたならば、培養物の子孫を公衆に対して永久的および非制限的に入手可能であることを保証し、また米国特許商標庁長官によって35 U.S.C.§122およびそれに準じる長官規則(特に886 OG 638に関連してC.F.R.§1.14を含む) により資格があるとされた者に対する子孫の入手可能性を保証するブダペスト条約の条件に基づいて、ATCCにより入手可能とされるであろう。
【0023】
本願の譲受人は、もし培養寄託物が適切な条件下で培養されていて死滅、紛失または破壊された場合、通知があり次第、同一培養物の生育可能な標本と迅速に取り換えることに合意した。寄託された菌株の入手可能性は、政府当局によりその特許法に基づいて授与された権利に反してその発明を実施するためのライセンスであると解釈されるべきではない。
【0024】
ここまで記述してきた明細書は、当業者が本発明を実施するのを可能とするに十分であると考えられる。本発明は、寄託された細胞系によってその範囲を制限されるものではない。なぜなら、寄託された具体物は本発明の一側面の一つの説明として意図されるもので、機能的に等価な任意の細胞系は本発明の範囲内にあるからである。微生物の寄託は、本明細書に含有される記述が本発明の任意の側面(最も好ましい態様を含む)の実施を可能とするには不十分であるという承認を構成しない。また、微生物の寄託は、請求の範囲をその寄託物が表す特定の例証に制限するものと解釈されるべきではない。
【0025】
したがって、独自の可溶性CD14の全長組換えタンパク質および周知の方法を用いて、当業者は本発明のハイブリドーマ細胞および抗体を作成し、スクリーニングすることができる。
【0026】
本発明のモノクローナル抗体は、細胞表面CD14受容体および可溶性CD14と特異的に反応し、CD14媒介細胞活性化を抑制可能であるとして特徴付けることができる。結合特異性の測定方法は下記に要約されている。1つの態様において、本発明のモノクローナル抗体は、抗CD14抗体3C10(American Type Culture Collection より入手可能)の親和性よりも大きいCD14に対する結合親和性を有するものとしてさらに特徴付けることができる。そのようなモノクローナル抗体の一つは、28C5と称するモノクローナル抗体である。ジヒドロキシビタミンD3誘導THPI細胞への28C5結合のスキャッチャード分析は、3x10-9-1という親和性を示した。モノクローナル抗体28C5および23G4、ならびに類似の特異性および親和性を有する抗体は、活性化を抑制でき、またNF-κB活性化を誘導するリガンドとのCD14の結合を抑制することができる、としてさらに特徴付けることができる。さらに、本発明のすべてのモノクローナル抗体は、CD14+細胞が誘導性リガンドと接触した時に、これらの細胞からのサイトカイン放出を抑制する能力によって特徴付けることができる。本明細書で用いるサイトカインという用語はTNF-α、IL-1、IL-6およびIL-8を含むが、これらだけに限定されない。
【0027】
別の態様においては、モノクローナル抗体18E12および類似の特異性を有するモノクローナル抗体は、CD14媒介細胞活性化を抑制する能力を有するが、その抑制がなければCD14媒介細胞活性化を誘導できるリガンドとCD14との結合を有意に抑制しない(つまり、これらの抗体はCD14結合を許す)、としてさらに特徴付けることができる。18E12の特異性を有するモノクローナル抗体は、リガンドとCD14の間で少なくとも約50%から少なくとも約80%の結合が起こることを許す。
【0028】
ここに記述された好ましいモノクローナル抗体、すなわち18E12および23G4は、ヒトCD14およびヒヒCD14の両方に結合する。他方、28C5はヒヒCD14とは結合しない。
【0029】
LBPは、LPSのCD14に対する提示に関与する支配的な血清タンパク質であるが、他の血清タンパク質もまた適切な条件下でLPSに結合し、LPS−CD14相互作用を促進しうる(Wright, S.D.ら,J. Expt. Med., 176:719-727, 1992)。生理的条件下でLBPまたは他のタンパク質のどちらが優勢かに関わりなく、モノクローナル抗体18E12、23G4または28C5の効果は同一である。なぜなら、これらの抗体は血漿(または血清)の存在下でLPSのNF-κBまたはサイトカイン産生に及ぼす効果を妨げるからである。
【0030】
本発明はまた、上記のポリクローナルおよびモノクローナル抗体の生物学的に活性な断片を提供する。これらの「抗体断片」は、選択的に抗原または受容体と結合する若干の能力を保持している。このような抗体断片は以下のものを含むがそれらだけに限定されない。すなわち:
(1)Fab:酵素パパインで消化して作成され、無傷のL鎖1本および1本のH鎖の一部を生じる、抗体分子の一価の抗原結合性断片を含有する断片;
(2)Fab’:ペプシンで処理し、次に還元して得られ、無傷のL鎖1本およびH鎖の一部を生じる、抗体分子の断片;1個の抗体分子につき2個のFab’断片が得られる;
(3)(Fab’)2:酵素ペプシンで処理し、次に還元を行なわないで得られる、抗体の断片;(Fab’)2は2つのジスルフィド結合により結合している2個のFab’断片からなる二量体である;
(4)Fv:2本の鎖として発現されるL鎖の可変部およびH鎖の可変部を含有する遺伝子工学的に作成された断片と定義される;および
(5)一本鎖抗体(「SCA」):適切なポリペプチドリンカーによって結合されたL鎖の可変部およびH鎖の可変部を遺伝子工学的に融合させた一本鎖分子として含有する、遺伝子工学的に作成された断片と定義される。
【0031】
これらの断片の作成方法は当分野において公知である。例えば、前出のHarlowおよびLaneを参照されたい。
【0032】
「生物学的に活性な断片」のさらなる例は、以下に規定する抗体のCDRを特異的に含む抗体断片を含む。これらのCDR領域は、図2〜5および29〜30(配列番号:1〜8および配列番号:22〜24)に同定されている。これらの抗体のCDRは、下記のCDRグラフト(grafted) 抗体を作成するのに有用である。「生物学的に活性な断片」のさらなる例は、これもまた図2〜5および29〜30(配列番号:1〜8および配列番号:22〜24)に同定される抗体のフレームワーク構造領域を特異的に含む断片を含む。抗体のフレームワーク構造領域は、CDRのPCR増幅のためのプライマーとして有用である。
【0033】
遺伝子組換えによって作成され、生化学的に合成され、化学的に合成され、または化学的に修飾されたタンパク質またはポリペプチドであって、対応する天然ポリクローナルまたはモノクローナル抗体のCD14細胞表面受容体および可溶性CD14に結合する能力、ならびに活性化するリガンドのCD14+細胞への結合によるCD14媒介細胞活性化を抑制する能力を保持しているものも、本発明に包含される。抗原または受容体と結合する能力は、抗体捕獲アッセイ等の当分野の技術において公知の抗原結合アッセイによって測定される(例えば、前出のHarlowおよびLaneを参照)。
【0034】
上記の抗体または生物的に活性な抗体断片の任意のものが、CDRグラフト抗体およびキメラ抗体の作成に使用できる。
【0035】
「CDR」若しくは「相補性決定部位」または「超可変部」は、抗原結合部位の形成に寄与する三次元ループ構造を形成する、抗体のL鎖およびH鎖上のアミノ酸配列と定義される。
【0036】
本明細書に使用する「CDRグラフト」抗体という用語は、L鎖および/またはH鎖可変部の1個またはそれ以上のCDR配列の少なくとも一部が、所与の抗原または受容体に対して異なる結合特異性を有する抗体由来のCDR配列の類似部分によって置換されているアミノ酸配列を有する抗体を言う。
【0037】
本明細書で用いる「L鎖可変部」および「H鎖可変部」という用語は、L鎖およびH鎖のそれぞれのN末端部に存在する、各抗体ごとに変化した一次アミノ酸配列を有する領域またはドメインを言う。抗体の可変部は、一緒に折りたたまれて抗体の三次元結合部位を形成するL鎖およびH鎖のアミノ末端ドメインからなる。
【0038】
類似性CDR配列は基質またはレシピエント抗体に「グラフト(接ぎ木)される(grafted)」と言われている。「ドナー」抗体とはCDR配列を提供する抗体で、置換された配列を受け取る抗体が「基質」抗体である。当業者は、本明細書に提供する教示を当分野で周知の技法(参照のため全体をここに組み入れるBorrebeack, C.A., Antibody Engineering : A PracticalGuide, W.H. Freeman and Company, New York, 1992参照)と組み合わせて使用して、容易にこれらのCDRグラフト抗体を作成することができる。
【0039】
本発明はさらに、上記の抗体または生物学的に活性な断片のキメラ抗体を提供する。本明細書で用いる「キメラ抗体」という用語は、ある生物種から誘導された抗体の可変部が別の種から誘導された抗体の定常部と組み合わされている抗体を言う。キメラ抗体はDNA組換え技術によって構築され、例えば Shawら,J. Immun. 138:4534 (1987); Sun, L.K. ら,Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:214-218(1987)に記述されている。
【0040】
上記の抗体、モノクローナル抗体、生物学的に活性な断片、キメラ抗体およびCDRグラフト抗体をコードする核酸分子もまた本発明により提供される。「核酸」という用語は、1本鎖および2本鎖DNA、cDNAおよびRNAを含むことが意図される。これらの核酸分子は、RNA転写プロモーターに機能しうる形で連結することができる。本発明は上記の核酸分子とは異なるが、同一の表現型効果を生じる核酸分子をも包含する。本発明は、上記の核酸分子と比較したとき、産生されるポリペプチドの表現型を変化させない、非コード領域における変化によって特徴付けられる核酸分子を包含する。本発明はさらに、本発明の核酸分子とハイブリダイズする核酸分子を包含する。本明細書に使用する「核酸」という用語は、1本鎖および2本鎖のDNAおよびcDNAはもとよりRNAも包含する。
【0041】
1つの態様において、これらの核酸分子は前記の発現ベクターに挿入される。発現ベクターは適切な宿主細胞に挿入することができる。挿入された核酸配列の転写および翻訳に好ましい条件下で細胞の増殖を誘導すると、組換えタンパク質またはポリペプチドが産生され、次にこれらを単離して、以下に記述する診断または治療に使用することができる。組換えによりポリペプチドおよびタンパク質を産生する方法は広く知られている(前出のSambrookら、および Kreigler, M., Gene Transfer and Expression: A Laboratory Manual, W.H. Freeman and Company, New York, 1990参照。これらはそれぞれ参照のためここに組み入れている)。
【0042】
医薬組成物もまた本発明により提供される。これらの医薬組成物は、上記のポリペプチド、断片、抗体、モノクローナル抗体、抗体断片、キメラ抗体またはCDRグラフト抗体の任意のものを単独で、または相互に組み合わせて含有し、かつ製薬上許容されるキャリヤーを含有する。本明細書に使用される「製薬上許容されるキャリヤー」という用語は、任意の標準的医薬キャリヤーを含む。例えば、リン酸緩衝化生理食塩溶液、水、および油/水または水/油エマルジョン等のエマルジョン類、および種々の湿潤剤等である。これらの医薬組成物は診断または治療上の目的に有用である。
【0043】
本発明のモノクローナル抗体は、in vitroでの使用に適している。例えば、これらの抗体を液相で、または固相担体に結合して使用するイムノアッセイに適している。さらに、これらのイムノアッセイにおけるモノクローナル抗体は、種々の方法で検出可能に標識することができる。本発明のモノクローナル抗体を使用できるイムノアッセイの種類の例は、直接または間接様式の競合および非競合イムノアッセイである。このようなイムノアッセイの例は、ラジオイムノアッセイ(RIA)およびサンドイッチ( 免疫測定法)アッセイである。本発明のモノクローナル抗体を用いた抗原の検出は、前進、逆方向または同時様式で実施されるイムノアッセイ( 生理的試料に関する競合イムノアッセイおよび免疫組織化学的アッセイを含む)を用いて行なうことができる。当業者は過度の実験をすることなく他のイムノアッセイ様式を知るか、または容易に認識することができるであろう。
【0044】
本発明のモノクローナル抗体は、多数の異なる担体に結合させてCD14の検出に使用することができる。周知の担体の例には、ガラス、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミロース、天然および変性セルロース、ポリアクリルアミド、アガロースおよび磁鉄鉱が含まれる。担体の性質は、本発明の目的に応じて可溶性であることも、不溶性であることもある。当業者は、通常の実験によりモノクローナル抗体を結合させるための他の適切な担体を知るか、またはそのような担体を突き止めることができるであろう。
【0045】
当業者に公知の多数の異なる標識および標識化方法がある。本発明に使用できる標識の種類の例には、酵素、放射性同位体、蛍光化合物、コロイド金属、化学発光化合物および生体発光化合物が含まれる。当業者は、通常の実験により本発明のモノクローナル抗体に結合させる他の適切な標識を知るか、またはそのような標識を突き止めることができるであろう。さらに、このような標識を本発明のモノクローナル抗体に結合させることは、当業者に周知の標準的技法を用いて行なうことができる。
【0046】
さらに、LPS/LBP複合体の細胞表面CD14受容体への結合をブロックするための方法が提供される。この方法は、細胞を上記複合体と結合可能なモノクローナル抗体(例えば、28C5若しくは23G4の特異性および親和性を有するモノクローナル抗体、またはその生物学的に活性な断片)と接触させることによるものである。また、NF-κB活性化を誘導することが可能なリガンド(LPSまたはLPS/LBP等)の存在下におけるCD14受容体を発現する細胞のNF-κB活性化を抑制する方法も開示される。この方法は、上記細胞を細胞表面受容体CD14および全長ヒト可溶性CD14に特異的に結合する能力を有する抗体、またはその生物学的に活性な断片と接触させることを提供する。このような抗体の具体例は、28C5、23G4および18E12と称する抗体である。
【0047】
動物およびヒトに使用することができる幾つかの治療方法がここに提供される。1つの治療法は、細胞表面受容体CD14および可溶性CD14に特異的に結合する能力を有する抗体またはその生物学的に活性な断片を、疾患を有する被験者に有効量投与することによって、NF-κB活性化に関連する疾患(敗血症等)を治療または予防する手段である。上記の方法は、18E12の結合特異性を有するモノクローナル抗体を使用した場合に特に有利である。18E12およびそれに類似の抗体はLPSがCD14受容体と結合してしまった後でもNF-κB活性化を抑制できるので、そのような抗体は後期敗血症(later stage sepsis)の治療に使用することができる。本明細書に使用する後期敗血症という用語は、LPSがCD14細胞関連受容体と結合してしまった後の疾患過程を意味する。意味深いことに、18E12および類似の抗体は、抗体が結合した細胞にLPSまたはLPS/LBP複合体の該細胞内への輸送を継続することを許すことができる。この特性は、in vivo系からのLPSまたはLPS/LBP複合体の除去を可能とし、それによってどこか他のin vivo 部位において起こりうるLPSまたはLPS/LBP複合体の病理学的相互作用を抑制するという付加的利益をもたらす。
【0048】
あるいは、治療が予防的なものであるか、又はLPS/LBPがCD14と結合するのをブロックし、それによってサイトカイン放出および細胞活性化を抑制することが望ましい場合は、モノクローナル抗体28C5および23G4が本発明の方法に好ましい。
【0049】
本発明は、敗血症の症状を示しているか、または敗血症を発症する恐れのある被験者に、治療上有効量の、CD14に結合して細胞活性化を抑制する本発明のモノクローナル抗体を投与することを含む、敗血症自体または敗血症の1つまたはそれ以上の症状を改善する治療法を提供する。改善されうる症状は、血中TNFレベルの一過性の上昇に関連する症状、例えば熱、低血圧、好中球減少、白血球減少、血小板減少、汎発性血管内凝固症候群、成人呼吸促進症候群、ショックおよび多臓器不全を含む。このような治療を要する患者には、例えばグラム陰性菌感染、毒物中毒、または肝不全に由来する内毒血症等の毒血症の危険がある患者、またはこれを患っている患者が含まれる。さらに、グラム陽性菌感染、ウイルス感染または真菌感染を有する患者は、敗血症の症状を示すことがあり、ここに記述する治療方法によって利益を受けることができる。本発明の方法からより特別に利益を受けることのできる患者は、大腸菌、インフルエンザ菌B(Haemophilus influenza B)、髄膜炎菌(Neisseria meningitides)、ブドウ球菌、または肺炎球菌による感染を患っている患者である。敗血症の危険がある患者には、火傷、銃創、腎不全または肝不全を患う患者が含まれる。
【0050】
本明細書に用いる「治療上有効量」という表現は、用いられるモノクローナル抗体(CD14に結合し、サイトカイン放出等のシグナル発信現象をブロックする)の量が、被験者のLPSへの応答を減少させ、敗血症の症状を減少させるのに十分な量であることを言う。したがって「治療上有効」という表現は、例えば、血漿中のTNFレベルにおける臨床的に有意な上昇をさまたげる、そして好ましくは少なくとも50%減少させる、そしてより好ましくは90%減少させるのに十分なその抗体の量を含む。本発明のモノクローナル抗体、例えば18E12、28C5および23G4を投与する際の投与量範囲は、所望の効果を生じるに十分なだけ大きい。一般にこれらの抗体の用量は、患者の年齢、状態、性別、前記の細菌または他の作用物質による感染の程度によって変わり、当業者によって決定されうる。何らかの禁忌の場合、用量は個々の治療医により調節することができる。いずれにせよ、治療の有効性は、患者のLPSおよびTNFレベルをモニターすることにより確認できる。血清LPSおよびTNFレベルの低下は患者の回復と相互関連しているに相違ない。
【0051】
さらに、本発明の抗体の治療的投与と実質的に同時にTNF抑制剤、抗生物質またはその両方を投与することをさらに含む前記の方法によって、敗血症の危険のある、またはその症状を示している患者を治療することができる。例えば、抗TNF抗体および/またはTNF拮抗薬の使用等による、敗血症におけるTNFの役割への直接的または間接的干渉は、敗血症の症状を予防または改善することができる。特に好ましいのは有効成分としての抗TNF抗体、例えば Traceyら(Nature, 330:662, 1987) によって記述されているTNF特異性を有するモノクローナル抗体などの使用である。
【0052】
末端切断型(truncated) LBPまたは本発明の抗体を用いた治療に加えて、抗生物質を用いて敗血症の症状を示す患者を治療することができる。典型的抗生物質には、ゲンタマイシン等のアミノグリコシド、またはペニシリン、セファロスポリン等のβ−ラクタムが含まれる。したがって、本発明の好ましい治療法は、殺菌量の抗生物質の投与と実質的に同時に、治療上有効量の本発明の抗体を投与することを含む。
【0053】
本明細書に使用する「殺菌量(bactricidal amount)」という用語は、治療を受けている患者において細菌を殺す血中濃度を達成するのに十分な量を言う。ヒトに投与しても安全であると一般に承認されている抗生物質の殺菌量は、当分野の技術において周知であり、公知のように特定の抗生物質および治療すべき細菌感染の種類により変わる。
【0054】
好ましくは、本発明のモノクローナル抗体の投与は、抗生物質投与の約48時間以内に、より好ましくは約2〜8時間以内に、そして最も好ましくはそれと実質的に同時に行なわれる。
【0055】
本発明の目的のためには、被験者は動物またヒト患者であり、有効量は体重 1 kg あたり 0.25 mg から約 50 mgである。1つの態様において、有効量は体重 1 kg あたり 0.5 mg から約 10mgである。被験者がヒト患者である場合、好ましい量は体重 1 kg あたり約 0.5 mg から約 8 mg である。
【0056】
当業者に公知のように、上記の諸方法は治療および予防の効果を増強するために組み合わせることが可能である。医薬組成物を投与する手段は当業者には周知であり、これらの手段は静脈内投与、経口投与、腹腔内投与、皮下投与、または吸入療法による投与を含むが、これらだけに限定されない。
【実施例】
【0057】
以下の実施例は本発明を説明することを意図するものであって、制限するものではない。
実施例1
可溶性CD14(sCD14)の産生およびモノクローナル抗体の製造
A.sCD14のクローニング
ヒトCD14遺伝子の1コピーを入手した。ヒト単球細胞系(HL−60)(American Type Culture Collection,ATCC No.240)からのこの遺伝子のクローニングについての記述が Blood,73 :284(1989)にあり、ここで参考として引用する。CD14遺伝子をこの発現ベクターから切除し、哺乳動物の発現ベクターpEE14(Celtech)中にクローン化した。このベクターは誘導性グルタミンシンテターゼ遺伝子(GS)を有しており、これを使用してCD14遺伝子を含有する挿入DNAフラグメントを増幅させた。この遺伝子の完全DNA配列をpEE14中にクローン化した。市販の抗CD14mAbsとの反応性に関するELISA検定によって、可溶性CD14を発現する細胞を同定した。FACS分析によって検出したところ、523 と同定された1つのクローンが可溶性CD14と膜結合形態のものとの両方を発現することが証明された。可溶性形態のクローン 523は予測された翻訳タンパク質配列の20番目のアミノ酸残基の位置でN−末端プロセシングされていることがわかった。このタンパク質の配列を図1に示す。翻訳されたCD14配列の1〜19アミノ酸残基はシグナル配列であると予測された(Gene Works, Intelligenetics )。C−末端配列分析によって、C−末端は完全なままであることがわかった;ヒト血清から単離した可溶性CD14において言及されている(Bazil,et al.,Eur.J.Immunol.,16:1583,1986をここに参考として挙げる)のと同様のプロセシングは生起しなかったことになる。腎臓疾患患者の尿から単離した可溶性CD14は、C−末端から最大で8番目までのアミノ酸が欠如している(Bazil,Mol.Immunol.,26:657,1989)。クローン 523は、CHO細胞中での発現の結果、C−末端でのプロセシングステップがなかったのかも知れない。
【0058】
可溶性CD14の精製は、市販のmAb63D3 (American Type Culture Collectionより(ATCC No.HB44)入手可能)のアフィニティカラム上で抗原を精製することによって行なった。
【0059】
B.sCD14モノクローナル抗体の産生
上記の精製ヒト組換えCD14で免疫化したBALB/cマウスからの脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞系X63.Ag8.653間での体細胞融合によって、ヒト可溶性CD14に対するモノクローナル抗体を産生させた。ELISA検定においてCD14に対するスクリーニングによって同定したモノクローナル抗体の28C5 ,18E12,26F3 および23G4 は Ig G1mAbである。CD14+細胞上のフローマイクロフルオロメトリーおよび生合成標識したCD14の免疫沈降によって、天然CD14への結合を確認した。モノクローナル抗体28C5 ,23G4および18E12は細胞結合および可溶性CD14を認識する。競合試験により、これらのmAbはCD14の3つの異なるエピトープ(28C5 および23G4 では重複)に結合したことが示された。
【0060】
実施例2
モノクローナル抗体の特性決定
A.抗CD14モノクローナル抗体を使用したCD14+陽性細胞のFACS分析
THP−1細胞(American Type Culture Collection, ATCC
No. TIB 202 )をジヒドロキシビタミンD3で48時間誘導し、その後細胞をDMEM(4.5 g/L グルコース、90%ウシ胎児血清を有し、1%BSAおよび0.02%アジドを有するPBSを追加した、ダルベッコ改変イーグル培地)で洗浄した。1,000,000 cells/tube(1チューブ当たりの細胞数)を第1の抗体(抗CD14上清)の1:2の希釈物と4℃で45分間反応させた。細胞をPBS/BSA/アジドで洗浄した。第2の抗体(ヤギ抗マウスIgG、FITC標識(Cappel))を1:250 の希釈率で添加し、4℃で30分反応させた。細胞を同一の緩衝液で2回洗浄した。ペレットを緩衝液1mlに再懸濁させた。サイトフルオログラフ(Cytofluorograph)(Ortho Instruments)によって蛍光強度を測定した。この結果を図6〜10に示す。
【0061】
B.抗sCD14モノクローナル抗体の可溶性CD14に対する結合親和性の測定
可溶性CD14抗原に対する結合親和性について、すべての抗CD14mAbおよび市販の抗CD14のいくつかを評価した(図11)。抗体3C10は力価1:28、28C5は力価1:211であった。これは3C10に比較して28C5の力価が8倍であることを示す。これらの抗体の比親和性は、標識ヤギ抗マウス複合抗体でプローブ化した等濃度の精製抗体タンパク質で測定した。この方法によってわかった、sCD14に対して高親和性のある抗体は、4F2,5G3,26F3,28C5,23G4および63D3である。抗CD14mAbの3C10および18E12はsCD14に対し、最低の親和性を示した。抗CD14の28C5は、3C10に比較してずっと高い親和性を有していた。可溶性CD14をマイクロタイタープレート上に塗布し、抗CD14mAbの2μg/mlから2倍ずつの連続希釈物を添加した。ヤギ抗マウスHRP複合抗体を添加し、プレートをインキュベートし、洗浄した。その後基質を添加して、力価1:2nを記録した。これは、陰性対照のOD490nmの少なくとも3倍を与える抗体の最高希釈率によって表される。
【0062】
標識3C10と抗CD14mAbの1パネル間の競合試験によって、抗体28C5および10A1(IgAmMab)のみが塗布マイクロタイタープレート上でsCD14について3C10と競合することができることが明らかになった(図12)。さらに競合検定を実施し、18E12は28C5、3C10、または26F3と競合しないことが確認された。
【0063】
表1は28C5、23G4および18E12間での同様の競合検定の結果を示す。ELISA検定において、固相上にビオチン標識抗CD14mAb(A,C)とともにこれらの抗体を塗布した。
【0064】
【表1】

【0065】
これらの抗CD14mAbの、LPS/LBPのsCD14への結合をブロックする能力は、同様の形式のELISAを使用して評価した。
【0066】
mAbを、LPS/LBPのsCD14への結合を阻害する能力に関して評価したところ、28C5が最も効果的であった(図13)。図13は、各種抗CD14モノクローナル抗体4μg/ml存在下で、固相上に固定化された可溶性CD14へのLPB/ビオチニル化LPS複合体の結合強度を表す。抗CD14mAb28C5および3C10はこの結合作用をブロックする。抗CD14mAbは、OD値の減少で示されるように、このブロッキングにおいてより効果的である。抗CD14mAb18E12はブロッキング効果を何ら示さない。
【0067】
HL-60 細胞中でのLPS刺激に応答したサイトカインの放出をブロックする能力に関する抗CD14の評価では、28C5がTNF−αの発現をブロックすることが示された (図14) 。LPSの添加前に全血にex vivo で28C5、23G4および18E12を添加した場合にも、サイトカイン放出の阻害が観察された。驚くべきことに、18E12は、CD14へのLPS/LBPの結合をブロックしないことがすでに証明されたにもかかわらず、サイトカインの放出を阻害した(図13および27)。ヒヒ全血中におけるLPS誘導TNFに対する23G4、28C5および18E12の影響も、ex vivoで試験した。図28の結果は、LPS誘導ヒヒ血中でのTNF分泌の阻害について、23G4が最も影響力があることを示している。これらの結果は、18E12が、LPS/LBP結合を妨げないが、細胞のLPS刺激に関与するシグナル作用には重要なCD14上の領域に対して特異的であったことを示す。
【0068】
28C5および23G4はCD14へのLPS:LBPの結合のブロッキングについては共通の特異性を示すが、ヒヒCD14の認識については共通ではなく(23G4のみがヒヒを認識する)、28C5はLPSに応答したヒヒ全血からのTNFαの放出をブロックすることができない(図27)。
【0069】
抗CD14mAbの28C5、18E12および23G4のsCD14へのLPS/LBP結合をブロックする能力を、表1について述べたのと同様の形式のELISAを使用して同様に評価した。結果は、やはりsCD14結合について23G4と28C5が競合することを示す(表1参照)。
【0070】
C.サイトカイン放出の活性化
HL-60 細胞(American Type Culture Collectionより入手、ATCC No.CCL-240 )を濃度1.5×105cells/mlでプレートに塗布した。この細胞を10%ウシ血清、10-7M DHvD3(Biomol Research Laboratories)および50μM インドメタシン(Calbiochem)を含有するRPMI1640中で3〜4日間単球系列に誘導した。これらの分化した細胞を10%ヒトAB型血清(Irvine Scientific)存在または不在の50μMインドメタシン含有増殖培地1ml当たり1×106細胞数で再懸濁させ、その後平底クラスター皿に入れた。各種濃度のLPS(E.coli血清型 01217:B8;Sigma )を添加し、37℃で4〜5時間インキュベートすることによって、細胞を活性化した。培養皿中の細胞を低速遠心分離(170×g、室温で10分間)によってペレット化し、可溶性サイトカイン値のELISA(ヒトTNFα検出用ELISAキット;Genzyme )のために増殖培地を除去した。
【0071】
D.細胞CD14へのLPS結合の抗CD14モノクローナル抗体による阻害
細胞CD14とLPS間の相互作用のメカニズムを特性づけるため、Lee et al.,J.Exp.Med.,175:1697-1705,1992 に記載された、安定的にトランスフェクトされたヒトCD14発現ベクターを含有する70Z/3細胞を調製して、70Z/3-hCD14細胞を形成させた。細胞表面CD14を発現する安定的にトランスフェクトされた細胞は、前記したFITC複合抗ヒトCD14MabMY4で染色した細胞上のFACS分析を使用して確認した。CD14からの膜アンカーが除去され、崩壊促進因子(DAF)からの膜アンカーに替わった、70Z/3-hCD14DAFと称するもの、ヒト組織因子からの膜アンカーに替わった、70Z/3-hCD14TFと称するもの、およびマウスクラス分子、H2K2からの膜アンカーに替わった、70Z/3-hCD14CIと称する、CD14融合タンパク質を発現する別のトランスフェクトされた細胞系をも調製した。
【0072】
細胞CD14へのLPSの直接結合についてFITC標識LPS(FITC−LPS)を使用して特性決定した。Mab10μg/mlを有するかまたは有しない10%FCSを含有し、37℃で30分前培養した培地に、70Z/3−CD14細胞を懸濁させた。その後、FITC−Re595-LPSを1ng/mlとなるように添加し、37℃で15分保持した。その後すぐに等容量の氷冷RPMI1640培地を添加し、混合液をFACS分析まで4℃に保持した。細胞結合蛍光を上記のLee らによる記載にしたがって測定し、トランスフェクトされていない70Z/3細胞を使用して測定した蛍光を差し引くことによって、測定蛍光を補正した。
【0073】
図15に棒グラフを示すが、この結果は、細胞表面CD14タンパク質(wtまたは融合タンパク質)を含有するすべてのトランスフェクトされた細胞タイプに関し、抗CD14モノクローナル抗体MabMY4(斜線)はLPSの細胞への結合をブロックするが、Mab18E12(白ぬき)はLPSの細胞への結合をブロックしなかったことを示している。Mab18E12存在下でのFITC−LPS結合は抗体を使用しないで得られた結果(黒色)と同程度だった。MabMY4はCD14と免疫反応することが知られている抗体であるが、ここに示されたでデータによって、LPSのCD14への結合を阻害し、またLPS依存性のCD14が媒介する細胞の活性化を阻害することが示される。各種トランスフェクトされた細胞系において、FITC−LPS結合の程度の差異はCD14発現の程度の差異を反映する。hCD14トランスフェクト細胞は1細胞当たり約10,000のレセプターを含むが、hCD14DAFトランスフェクト細胞は1細胞当たり約50,000のレセプターを含み、hCD14TFおよびhCD14CIトランスフェクト細胞はそれぞれ1細胞当たり約15,000〜20,000のレセプターを含むと概算される。結果は3回の独立した測定の平均+/−標準偏差として表示している。
【0074】
E.抗CD14モノクローナル抗体を使用した、細胞のLPS依存性、CD14媒介活性化の阻害
細胞のLPSによるCD14媒介活性化を阻害する能力に関し、抗CD14モノクローナル抗体を特性決定した。このため、CD14トランスフェクト細胞システムを発生させ、LPS誘導活性化に応答性があることを証明した。実施例3に記載するように、前記した数種の膜結合形態のCD14を含有する数種のトランスフェクト70Z/3細胞系を調製した。
【0075】
このトランスフェクト細胞を上記 Leeらによって記載されているようにして培養し、10%ウシ胎児血清(FCS;56℃で30分熱不活性化)および図16に”+”によって示す抗体(MY4または18E12)10μg/mlを含有するRPMI1640培地中に懸濁し、37℃で30分保持した。その後、図16に”+”によって示すように、100μM タキソール(taxol )またはLPS(1 ng/ml Re595 LPS)を添加し、37℃で15分保持した。その後、細胞を回収し、Molitor et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:10028-10032(1990)に記載されているように、NF-κBの活性化を測定するため、核抽出物を調製した。NF-κBの存在を検出するため、4%未変性ポリアクリルアミドゲル上でのゲル遅延検定において、二本鎖形態のP32標識NF-κB特異的オリゴヌクレオチド(5'-CAGAGGGGACTTTCCGAGA-3' )を使用した。
【0076】
試験の結果を図16に示すが、これによると、LPSもタキソールもNF-κB活性化を誘導することが示される。予測されたように、LPSはCD14を含まない対照トランスフェクト細胞(70Z/3−RSV)において最低のNF-κB活性化を誘導し、CD14を発現する細胞において顕著な活性化を誘導した。このことは、LPS誘導NF-κB活性化が細胞表面でCD14によって媒介され、そしてCD14を必要とすることを示している。さらに、これらの結果は、MY4も18E12もLPS誘導NF-κB発現を阻害するが、タキソール誘導NF-κB発現は阻害せず、これらの抗体の阻害効果がCD14に特異的で依存性であることを示している。
【0077】
MabMY4および18E12でのこれらの結果は、細胞の活性化を誘導するためにはLPSのCD14への結合だけでは不十分で、LPS−CD14結合に付随する相互作用が細胞の活性化のために重要であることを示している。この結果はまた、細胞のCD14媒介活性化の阻害は、異なる程度で、まず誘導物質(LPS)がCD14に結合するのをブロックし、2番目に誘導物質がCD14に結合した後のステップをブロックすることによって生起するらしいことを示している。またこのデータは、誘導物質がLPS以外の分子である場合に、第二段階での阻害剤の使用が、CD14媒介細胞活性化をブロックすることの確証でもある。
【0078】
F.LPSのCD14+細胞による捕捉の阻害
敗血症の進行中、LPSは細胞表面のCD14に結合し、これらのCD14+細胞によって捕捉されることが知られている(Kitchens,et al.,J.Exp.Med., 176:485-494,1992 ; Pugin et al.,PNAS, 90:2744-2748,1993)。Mab28C5などの、LPSのCD14への結合をブロックする抗体と、Mab18E12などの、CD14への結合をブロックしない抗体との間の差異は、CD14+細胞によるLPS捕捉の観点によるものである。このため、抗CD14抗体のLPS捕捉を阻害する能力の特性決定をした。
【0079】
この目的のため、各種抗CD14抗体の存在下におけるトランスフェクト70Z/3-hCD14細胞上へのFITC−LPSの捕捉を測定した。CD14+トランスフェクト細胞を37℃に保持した後、抗体を使用しないでFITC−LPSにさらし、細胞内部のFITC−LPSから発生する蛍光を検出して、通常条件下ではLPSが細胞に捕捉されることを確認した。Mab28C5の存在下では、LPSの捕捉は完全に阻害されたが、Mab18E12の存在下では、捕捉は通常条件下で観察された量の約65%に減少しただけであった。これらの結果は、Mab18E12はLPSの捕捉を実質的に妨げないので、LPSを細胞に入り込ませることが必要な状態でのCD14+細胞の活性化の阻害のために、このMab18E12が特に有用であることを示している。続く試験において、Mab23G4の存在下では、Mab28C5で見られたのと同様に、LPSの捕捉が阻害されることが示された。
【0080】
CD14抗原検定(ELISA)
塗布:炭酸水素塩緩衝液中1μg/mlに希釈した抗CD14mAb28C5 150μl/well。4℃で一晩インキュベートした。
ブロッキング:プレートを4回洗浄した後、ブロッキング緩衝液150μl/wellを添加した。37℃で1時間インキュベートした。
【0081】
試料:プレートを1回洗浄した後、希釈用緩衝液に希釈した試料125μl/wellを添加した。37℃で1時間インキュベートした。
【0082】
複合体:プレートを5回洗浄した後、希釈用緩衝液中1μg/mlに希釈したビオチニル化抗CD14mAb18E12 0.100ml/well を添加した。37℃で1時間インキュベートした。
【0083】
Av-HRPO:プレートを5回洗浄した後、あらかじめ形成させたストレプトアビジン/ビオチン/ペルオキシダーゼ複合体 0.100 ml/wellを添加した。(ストレプトアビジン/ビオチニル化/HRPO調製物(Zymed SABC kit):洗浄用緩衝液中にストレプトアビジン 2μl/mlとビオチニル化HRPO2μl/mlを混合し、37℃で30分インキュベートした。ウェルに添加する前に希釈用緩衝液で1:2に希釈した。)37℃で30分インキュベートした。
【0084】
基質:プレートを5回洗浄した後、Sigma OPD 0.100ml/well を添加し、プレートを暗所に30分放置し、4N H2SO4 0.050 mlで発色を停止させた。490 nmにおいてプレートを測定した。
【0085】
CD14標準:100 ng/ml のクローン523 の2倍連続希釈物
血清の希釈:開始希釈率 1:25−1:50
【0086】
各種ELISA試薬
ブロッキング用緩衝液:PBS+10%w/v 脱脂乾燥乳(Carnation)。
洗浄用緩衝液:PBS+0.05%v/v Tween 20。
希釈用緩衝液:ブロッキング用緩衝液と洗浄用緩衝液をvol/vol 混合し、試料、標識抗体および前形成複合体の希釈に使用した。
【0087】
実施例3
モノクローナル抗体のクローニング
ここに参考として引用する、Chomczynkski and Sacchi,Anal.Bio., 162:156-159(1987)の方法を使用して、モノクローナル抗体産生細胞系から、メッセンジャーRNAを抽出した。マウス特異的3" 抗体プライマー(IgG1またはk)を使用して逆転写を行い、その結果生成したcDNAを、ここに参考として引用する、Huse,et al.,Science,246:1274-1281(1989)に記載されたマウス特異的5’抗体プライマーの1パネルを使用して、製造者の指示にしたがって、PCR(Supplier)に供した。重鎖および軽鎖DNAフラグメントをゲル精製し、適当な酵素で消化した。672塩基対の重鎖フラグメントをpBluescript II KS+のSpe1/Xho1 部位にクローン化し、自動 ABI Model 373A DNA シークエンサーを使用し、製造者の指示にしたがって、配列決定した。642 塩基対の軽鎖フラグメントをpBluescript II KS+のSst1/Xba 部位にクローン化し、同様の方法で配列決定した。
【0088】
配列番号1および2は、28C5重鎖のヌクレオチドおよびこれから推定されるアミノ酸配列であり、配列番号3および4は、28C5軽鎖のヌクレオチドおよびこれから推定されるアミノ酸配列である。配列番号5および6は、18E12重鎖のヌクレオチドおよびこれから推定されるアミノ酸配列であり、配列番号7および8は、18E12軽鎖のヌクレオチドおよびこれから推定されるアミノ酸配列である(図2〜5)。図30は3C10、28C5および18E12の重鎖の比較を示すものである。配列番号25および26は、23G4軽鎖のヌクレオチドおよびこれから推定されるアミノ酸配列である(図29参照)。図29はモノクローナル抗体3C10、28C5、23G4および18E12の軽鎖のアミノ酸配列を示すものである。図30はモノクローナル抗体3C10、28C5および18E12の重鎖のアミノ酸配列を示すものである。
【0089】
28C5および23G4は両者ともにCD14へのLPS:LBP結合をブロックし、sCD14結合に関して互いに競合し、そして同濃度でヒト全血中のTNFαの放出を妨害する(図27参照)という、共通の特異性を有するにもかかわらず、その軽鎖は共通するヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有してはいない(表2参照)ことに注目すべきである。
【0090】
核酸の組換え発現
本発明の核酸の組換え発現を以下の一般的戦略にしたがって実施する。抗体発現ハイブリドーマ細胞からPolyA+ mRNAを単離する。cDNA合成およびmRNAのPCR増幅を、上記の方法によって実施する。得られたcDNA配列のデータから、例えば DNAStar(Madison,Wisconsin)から市販されているMAPSEQなどのコンピュータソフトウェアプログラムによって、このDNA配列によってコードされるポリペプチドのアミノ酸配列を推定する。
【0091】
抗体フラグメントとして構築された発現生成物を、ハプテンもしくは抗原を利用するELISA(酵素結合イムノソルベント検定)、またはアフィニティーカラムなどの当業界で知られた方法によって、結合親和性についてスクリーニングする(例えば、参考としてここに引用する、Skerra and Pluckthun,Science,240:1038-1041,1988,に記載)。
【0092】
本発明を実施するのに、例えばプラスミド、DNAおよびRNAウイルスベクター、バキュロウイルスベクターおよび酵母中で使用するベクターなどの数タイプのベクターが入手でき、使用することができる。ベクターがプラスミドの場合は、一般にプロモーター、シグナル配列、表現型選択遺伝子、複製起点を含む種々の成分、および当業者に知られた他の必要成分を含む。
【0093】
原核生物ベクターにおいて最も一般的に使用されるプロモーターは、Lac Zプロモーター系、アルカリホスファターゼ phoAプロモーター、バクテリオファージλPLプロモーター(熱感受性プロモーター)、tac プロモーター(lacリプレッサーによって調節された、ハイブリッドtrp-lac プロモーター)、トリプトファンプロモーターおよびバクテリオファージT7プロモーターを含む。
【0094】
本発明を実施する際に使用したプロモーターは lacZプロモーターおよび phoAプロモーターである。 lacZプロモーターはlac リプレッサータンパク質 lac iで調節し、この lacリプレッサータンパク質レベルを操作することによって、ポリペプチドの転写を調節できるようにする。実例をあげると、 lacZプロモーターを含有するファージミド(phagemid)を、 lacZプロモーターのリプレッサーである lac iリプレッサー遺伝子の1コピーを含有する細胞種中で増殖させる。lac i 遺伝子を含有する細胞系の好例として、JM 101およびXL1-blueが含まれる。変法として、宿主細胞を、リプレッサーlac i と lacZプロモーターの両方を含有するプラスミドで同時トランスフェクトすることができる。場合によっては、上記の手法の両方を同時に使用し、すなわち、 lacZプロモーターを含有するファージミド粒子を lac i遺伝子を含有する細胞系中で増殖させ、この細胞系を lacZおよび lac i遺伝子の両方を含有するプラスミドで同時トランスフェクトする。普通、上記のようなトランスフェクトする宿主にある遺伝子を発現させようとするとき、イソプロピルチオガラクトシド(IPTG)のような誘発物質を添加するが、このステップは省略してもよい。
【0095】
本発明を実施するのに使用するベクターのもう1つの有用な成分はシグナル配列である。この配列はポリペプチドをコードする遺伝子の5’の直近に典型的に局在し、融合タンパク質のアミノ末端に転写される。しかし、ある場合には、シグナル配列が分泌されるタンパク質をコードする遺伝子の5’以外の位置に局在することが証明されている。この配列はバクテリア細胞の内膜を通って付着するタンパク質を標的とする。シグナル配列をコードするDNAは、シグナル配列を有するタンパク質をコードするいずれかの遺伝子からの制限エンドヌクレアーゼフラグメントとして得ることができる。好適な原核細胞シグナル配列は、例えばLamBまたはOmpF(ここに参考として引用する、Wong,et al.,Gene,68:193,1983)、MalE、PhoA、OmpAをコードする遺伝子および他の遺伝子から得ることができる。本発明を実施するのに好ましい原核細胞シグナルは、ここに参考として引用する、Chang,et al.,Gene,55:189,1987 に記載されている、E.coli熱安定性エンテロトキシン II(STII)シグナル配列である。
【0096】
本発明を実施するのに使用するベクターの、また別の有用な成分は、表現型選択遺伝子である。典型的な表現型選択遺伝子は宿主細胞に抗生物質耐性をもたらすタンパク質をコードする遺伝子である。実例をあげると、アンピシリン耐性遺伝子(amp)、およびテトラサイクリン耐性遺伝子(tet)はこの目的のために容易に使用される。
【0097】
前記の成分および必要なポリペプチドをコードする遺伝子を含む好適なベクターの構築は、標準的な組換えDNA操作を使用して調製される。組換え方法論に関する参考文献を下に示した。ベクターを形成するために組み合わせられる単離DNAフラグメントは、切断され、組合せられ、目的とするベクターを産生するように、特定の順番と方向性で連結される。
【0098】
DNAは好適な緩衝液中で、適当な制限酵素または酵素群を使用して切断される。一般に、緩衝液約20μl中、プラスミドまたはDNAフラグメント約0.2〜1μgが適当な制限酵素約1〜2単位とともに使用される。好適な緩衝液、DNA濃度、ならびにインキュベート時間および温度は、制限酵素の製造業者によって特定されている。一般に、37℃で1または2時間のインキュベート時間で十分であるが、いくつかの酵素はもっと高温を必要とする。インキュベート後、フェノールとクロロホルムの混合物を使用した消化溶液の抽出によって、酵素および他の混入物を除去し、水性画分からエタノールでの沈殿によってDNAを回収する。
【0099】
DNAフラグメント同士を連結してある機能を有するベクターを形成させるためには、DNAフラグメントの末端が互いに適合性でなければならない。場合によっては、この末端がエンドヌクレアーゼ消化後そのまま適合し得ることもあろう。しかし、連結に適合する末端を作るためには、エンドヌクレアーゼ消化によって普通生成する付着末端をまず平滑末端に変換する必要がある。末端を平滑末端にするため、DNAを好適な緩衝液中で、4種のデオキシヌクレオチドトリホスフェートの存在下、DNAポリメラーゼIのKlenowフラグメント(Klenow)10単位で、15℃において少なくとも15分処理する。その後、フェノール−クロロホルム抽出およびエタノール沈殿によって、DNAを精製する。
【0100】
DNAゲル電気泳動を使用して、切断されたDNAフラグメントをサイズ別に分離し、選択する。DNAはアガロースまたはポリアクリルアミドマトリックス上で電気泳動を行なう。マトリックスの選択は分離すべきDNAフラグメントのサイズによって行なわれるべきものである。電気泳動後、マトリックスから電気溶出によって、あるいは、マトリックスとして低溶融性のアガロースを使用した場合は、アガロースを溶融させ、DNAを抽出することによって、DNAを取り出す。
【0101】
互いに連結しようとするDNAフラグメント(連結するフラグメントのそれぞれの末端が適合性となるように、あらかじめ適当な制限酵素で消化する)をおよそ同モル量づつ溶液に入れる。この溶液は他にATP、リガーゼ緩衝液およびDNA 0.5μg当たり約10単位のT4DNAリガーゼなどのリガーゼを含む。DNAフラグメントをベクター中に連結する場合は、まずベクターを適当な制限エンドヌクレアーゼ(群)で切断することによって、線状化する。この線状化ベクターをその後アルカリホスファターゼまたはコウシ腸ホスファターゼで処理してもよい。このホスファターゼ処理によって、連結段階中のベクターの自己連結が阻止される。
【0102】
連結後、外来遺伝子を挿入し終えたベクターを好適なホスト細胞中に形質転換する。好適な原核宿主細胞は E.coli菌株 JM101、E.coli K12菌株 294(ATCC番号 31,446)、E.coli菌株 W3110(ATCC番号 27,325)、E.coli X1776(ATCC番号 31,537)、E.coli XL-1Blue (Stratagene)、およびE.coli Bである;しかし、HB 101、NM 522、NM 538、NM 539などのE.coliおよび原核生物の他の多くの種および属の他の多くの菌株も同様に使用することができる。上記のE.coli株に加えて、Bacillus subtilis などのバチルス、Salmonella typhimuniumまたは Serratia marcesans などの他の腸内細菌および各種Pseudomonas 種のすべてが宿主として使用し得る。
【0103】
原核細胞の形質転換は塩化カルシウムまたは当業者によく知られた他の方法を使用して、容易に実施される。これらの細胞を形質転換するために、エレクトロポレーション(ここで参考として引用する、Neumann,et al.,EMBO J.,1:841 1982)もまた使用することができる。形質転換された細胞は抗生物質、普通テトラサイクリン(tet)またはアンピシリン(amp)上で増殖させ、ベクター上に存在するtet および/またはamp耐性遺伝子に起因して、これらへの耐性が与えられたかどうかによって、選択される。
【0104】
形質転換された細胞の選択後、これらの細胞を培地中で増殖させ、その後プラスミドDNA(または外来遺伝子が挿入された他のベクター)を単離する。プラスミドDNAは当業界で知られた方法を使用して単離することができる。この精製プラスミドをその後、制限地図および/またはDNA配列決定によって分析する。
【0105】
上に概説した操作をするため、骨髄腫(P3-653)、ハイブリドーマ(SP2/0)、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、ミドリザル腎臓(COS1)およびマウス繊維芽細胞(L492)などの哺乳類細胞系がポリペプチドの発現用の好適な宿主細胞である。これらの”哺乳類”ベクターは1つのプロモーター、1つのエンハンサー、1つのポリアデニル化シグナル、シグナル配列およびジェネティシン(geneticin)(ネオマイシン耐性)、ミコフェノール酸(キサンチングアニンホスフォリボシルトランスフェラーゼ)またはヒスチジノール(ヒスチジノールデヒドロゲナーゼ)などの選択性マーカーをコードする遺伝子を含んでもよい。
【0106】
哺乳類宿主細胞において使用する好適なプロモーターとして、Ig Kappa、Ig Gamma、サイトメガロウイルス(CMV)即時型、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、シミアンウイルス40(SV40)初期型、マウス乳ガンウイルス(MMTV)およびメタロチオネインが含まれるが、これらに限定されるものではない。好適なエンハンサーとして、Ig Kappa、Ig Heavy、CMV初期型およびSV40が含まれるが、これに限定されるものではない。ポリアデニル化用配列には、Ig Kappa、Ig GammaまたはSV40大型T抗原が含まれる。好適なシグナル配列には、Ig Kappa、Ig Heavyおよびヒト成長ホルモン(HGH)が含まれる。
【0107】
ベクターがバキュロウイルスの場合は、好適なプロモーターおよびエンハンサーとして、AcMNPVポリヘドリン、AcMNPVETLおよびAcMNPV p10配列が含まれるが、これに限定されるわけではない。1つの特に好適なポリアデニル化シグナルはポリヘドリンAcMNPVである。Ig Kappa、Ig HeavyおよびAcMNPVは好適なシグナル配列の例である。これらのベクター類は以下の昆虫細胞系、中でもSF9、SF21およびHigh5において有用である。
【0108】
変法として、ポリペプチドを、PS23-6A、W301-18A、LL20、D234-3 、INVSC1、INVSC2、YJJ337 などの酵母菌株内で発現させることができる。gal 1およびpEFT-1などのプロモーターおよびエンハンサー配列が有用である。Vra-4 もまた好適なエンハンサー配列を提供する。機能的な”複製起点”として有用な配列にはars1および2μ環状プラスミドが含まれる。
【0109】
【表2】

【0110】
実施例4
in vivo でのCD14抗体処置
ウサギを3日間IFN-γ前処置した後LPS注射すると、ウサギに敗血症状態が発症する(G.J.Jurkovich,et al.,J.Surg.Res.,51:197-203,1991)。ここに記載されたin vivo 実験と同様の処方にしたがった。IFN-γ 5μg/kg(比活性:2.5×108unit/mg;5 μg=1.25×106unit/mg)を3日間連続して毎日注射し、その後、基準の心臓拍出および全身血圧を確定し、LPSの8時間の注入(総用量3mg/kgまたは 375μg/kg/時間×8時間)を開始した。3日間INF-γの皮下注射をし、3日目に、LPS注入開始の少なくとも1時間前に基準のデータを採った。これらの動物は実験の期間中ケタミン麻酔を続けた。ウサギの実験によると、これらの動物はLPSの注入にともなって眠くなることが示唆された。同じ確定処方をサルの2つのグループにも使用した。動物に、イソタイプが一致する対照モノクローナル抗体(MAb)またはCD14ブロッキングMAbのどちらかを、世話をする責任者には処置処方を報せないで、ランダムに割り当てた。LPS注入の開始30分前に、5mg/kg/mAbの投与(イソタイプまたはCD14特異性)をボーラス注射によって行なった。
【0111】
動物をケタミンで麻酔した後、大腿部動脈および静脈のそれぞれに、動脈および静脈カテーテルを入れた。動脈カテーテルは、心臓拍出の熱による希薄を測定するため、先端部にサーミスターを備えている。このカテーテル上の2番目の管腔部は動脈圧の測定に使用した。静脈カテーテルは、薬品および維持液の注入ならびに心臓拍出の測定の際の冷却注入のために使用した。各心臓拍出測定において、乳酸加リンゲル(3 ml)を使用した。
【0112】
血圧および心臓拍出を、基準期間には15分毎、その後の実験中は30分毎記録した。動脈PO2/PCO2、pll およびタンパク質を測定するために、1時間毎に血液(3 ml)を取り出した。この同じ血液試料を全身の白血球細胞数と部分的な数の測定に使用した。LPSの注入後、これらの動物に乳酸加リンゲル液を補給した。すべての動物に補液として4 ml/kg注入し、心臓拍出を基準値の10%以内に維持するため、必要に応じて注入を増加させた。
【0113】
総数6匹の動物のそれぞれをIgG1イソタイプ対照または28C5のいずれかで前処置し、5匹の動物を18E12で前処置した。抗体の注入30分後、すべての試験動物にLPSを抗原投与した。LPS注入の72時間前から、サルにヒト組換えインターフェロンガンマ(125,000 U/kg)を、24時間間隔で3回皮下注射した。麻酔動物中のMAP値を測定するため、上記のように、大腿部動脈および静脈中に動脈および静脈カテーテルをそれぞれ入れた。
【0114】
LPSを抗原投与したサルの平均動脈圧(MAP)
平均動脈圧(MAP)の試験結果によると、28C5で前処置したものは、対照グループに共通する、特に2時間後における血圧の有意な低下が回避されたことがわかる(図17)。しかし、18E12で前処置した動物は2時間目の血圧の低下を示すが、28C5前処置動物で測定されたパーセンテージまで回復することができた。18E12の機能は、シグナル効果だけが妨害され、28C5および23G4の重要な特徴である、LPSの結合の阻害は妨害しない点で、28C5とは異なっている。機能におけるこの差異はMAP応答において見られた差異を反映すると考えられる。18E12による保護は、後のLPS誘導効果にも及ぶと考えられる。この18E12によるプロフィールは、LPSに対する生理学的応答現象(低血圧化)においても、この抗CD14mAbがイソタイプ対照処置動物において見られた有害な影響を防止することができることを示している。
【0115】
CD14濃度に対するIFNの影響
動物に対する24時間間隔で3日間のインターフェロン−ガンマによる前処置は、CD14の濃度に対し、比較的小さい影響しか与えなかった(図18)。しかし、リポ多糖結合タンパク質(LBP)の循環量が、グラム陰性敗血症において見られる値まで有意に増加した(LBPは2つの非競合モノクローナル抗体を試料を捕捉し、プローブするのに使用したELISAによって測定した)。インターフェロン−ガンマは、これらの動物において生理学的および/または生化学的変化を何らもたらさないはずのLPSの投与量に対し、その動物に鋭敏な応答性を誘導し、感受性にするものと推測される。
【0116】
BSAの洗浄液/血漿比
BSAの洗浄液/血漿比は肺損傷の1指標であり、肺組織を透過したBSA(実験の終了時の1時間前に注射)量の目安でもある。肺は内毒素血症に影響を受ける主要な器官の1つである。BSA値はBSA特異性モノクローナル抗体を使用したイムノアッセイによって測定した。BSAモノクローナル抗体は容易に入手できる。この場合は、28C5で前処置した動物は、対照処置動物において明らかだった肺損傷から有意に保護された(図19)。18E12処置動物はLPSの影響から完全には保護されなかったが、グループとしては、対照動物よりはよかった。
【0117】
抗体半減期
抗体の半減期、すなわち、抗体の可溶性の循環型CD14ならびに単球および好中球上の膜結合CD14への結合による消失についての疑問が生じる。ヒト抗原を認識しないイソタイプ対照抗体と比較したところ、3つのグループすべてについて、消失速度論は等しかった(図20)。
【0118】
抗体処置したサルのCD14値
2つの非競合モノクローナル抗体を試料の捕捉し、プローブするのに使用するELISAによって、CD14を測定した。抗体のみで処置(LPS処理はしない)したサルのCD14値は、対照処置動物に比較して、28C5において有意に高かった(図21)。in vitroでの研究において、CD14産生細胞を抗CD14mAb28C5にさらすと、sCD14値が高くなることが明らかになってはいるが、上記の上昇の理由はわからない;多分、抗体がGPI連結タンパク質の脱離機構を強化するのであろう。18E12処置動物では36時間後に増加し、60時間目から減少し始めることが示された。抗体処置動物にLPSを抗原投与したとき、28C5グループにおいて、抗体のみの動物での値以上にCD14値がさらに上昇はしないので、これは明らかに抗体誘導効果であることを示めしている。
【0119】
LBP値
上記のように、インターフェロン−ガンマ処置後、LBP値が上昇する。抗CD14処置、LPS処置動物において、対照に比較して検出LBP値がわずかに低下する(図22)。これはLPSの結合または転移のための標的が得られない場合に複合体が消失することを示すものと考えられるが、理由はわからない。
【0120】
ALT/GPT値
酵素トランスアミナーゼ、ALT/GPT(同種の酵素と考えられるもの)は肝機能の指標であるので、これを測定して壊死の形跡を調べた。敗血症ショックの患者においては、肝不全の開始はMSOFシンドロームの中の初期症状である。損傷の程度に応じ、ヒトにおける最大値は4000U/mlにまで達し得る。Sigma Diagnostics の試験キットの製造業者の指示にしたがって、ALT/GPT値を測定した。
【0121】
ここで記録された値はどれもヒトの極限状態で得られる範囲にはないが、実験中24時間にわたって、対照グループにおいて酵素値の上昇傾向がある。抗体のみで処置したサルにおけるALT/GPTの正常値は平均で18U/ml(T=0)〜52.2U/ml(T=24)の範囲であり、試験中使用した麻酔(ケタミン)に起因したT=24における上昇があった。2つの抗CD14処置グループは同様の経過をたどった;平均で16.5U/ml(T=0)〜64.6U/ml(T=24)。対照グループの平均は22.8U/ml(T=0)〜98U/ml(T=24)だった。24時間の経過では、対照グループの動物中での上昇が続くかどうかを決めることができないと思われる(図23)。
【0122】
可溶性Eセレクチン値
CD14レセプターのブロッキングが内皮細胞からの可溶性Eセレクチンの放出を阻止するかどうかを決定するため、Parameter ELISAキット(British Biotechnology Products,Ltd. )によって、可溶性Eセレクチン値を測定した。内皮細胞表面でのEセレクチンの発現はこれらの細胞の活性化の指標であり、TNF、IL-1またはLPS刺激の結果生じる。可溶性Eセレクチン値は、24時間後、すべてのグループにおいて同レベルまで上昇した(図24)。
【0123】
IL-1、IL-6、IL-8およびTNF値
全グループの動物において、QuantikineTMキット(R&DSystems)を使用して製造業者の仕様書にしたがって、LPS抗原投与に応答したサイトカインを評価した。検定は固相ELISA形式でのイムノアッセイである。TNFα検定はBiokine (登録商標)酵素イムノアッセイキット(T細胞診断用)で、製造業者の仕様書にしたがって実施した。TNFαおよびIL-1βはLPS刺激の結果として誘導される炎症性応答の重要な媒介体であることが知られている。抗CD14処置グループにおいては、対照処置グループに対し、TNFαおよびIL-1β応答が減少し、18E12がこれらの炎症性サイトカインの発現の最低値を示した。また、抗CD14グループの両方において、TNF応答のピークが1時間遅くなった。この知見の意味は今のところわからない(図25)。
【0124】
ヒト敗血症におけるIL-1、IL-6およびIL-8のピークはTNFより遅れることが知られており、これはIL-1、IL-6およびIL-8の放出がTNFの産生に大きく依存するという知見に一致する。グラム陰性敗血症と診断されたヒトにおける死亡率に関連するとされてきたサイトカインの1つはIL-6値の上昇である。IL-6は組織損傷に対する宿主の各種の面での防御を調整する。この場合のモデルにおいては、LPSへの応答において、28C5が最低のIL-6値を示した。18E12で前処置された動物も、対照グループよりも低い値を有していたが、28C5ほど低くはなかった。IL-8応答は抗CD14グループの中ではそれほど低くはなかったが、わずかに低下した(図26)。ヒヒモデルにおけるIL-8値はTNF値に関連性があることが示された;TNFが減少した結果、IL-8が減少した。IL-8は化学誘引物質および顆粒球活性化作用を有する。抗CD14処置グループにおいて見られたような、天然のIL-8応答をなるべく保存することが、これらのLPSへの宿主の応答の重要な媒介体を完全なままに保つことになるようである。
【0125】
配列の要約
配列番号1:28C5重鎖の核酸および推定アミノ酸配列
配列番号2:28C5重鎖の推定アミノ酸配列
配列番号3:28C5軽鎖の核酸および推定アミノ酸配列
配列番号4:28C5軽鎖の推定アミノ酸配列
配列番号5:18E12重鎖の核酸および推定アミノ酸配列
配列番号6:18E12重鎖の推定アミノ酸配列
配列番号7:18E12軽鎖の核酸および推定アミノ酸配列
配列番号8:18E12軽鎖の推定アミノ酸配列
配列番号9:ヒト可溶性CD14レセプターをコードする核酸配列
配列番号10:3C10重鎖のCDR1のアミノ酸配列
配列番号11:3C10重鎖のCDR2のアミノ酸配列
配列番号12:3C10重鎖のCDR3のアミノ酸配列
配列番号13:28C5重鎖のCDR1のアミノ酸配列
配列番号14:28C5重鎖のCDR2のアミノ酸配列
配列番号15:28C5重鎖のCDR3のアミノ酸配列
配列番号16:3C10軽鎖のCDR1のアミノ酸配列
配列番号17:3C10軽鎖のCDR2のアミノ酸配列
配列番号18:3C10軽鎖のCDR3のアミノ酸配列
配列番号19:28C5軽鎖のCDR1のアミノ酸配列
配列番号20:28C5軽鎖のCDR2のアミノ酸配列
配列番号21:28C5軽鎖のCDR3のアミノ酸配列
配列番号22:23G4軽鎖のCDR1のアミノ酸配列
配列番号23:23G4軽鎖のCDR2のアミノ酸配列
配列番号24:23G4軽鎖のCDR3のアミノ酸配列
配列番号25:23G4軽鎖のアミノ酸配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2で表される重鎖と配列番号4で表される軽鎖を含むモノクローナル抗体28C5と同じ結合特異性を有するモノクローナル抗体又は生物学的に活性な抗体断片。
【請求項2】
配列番号13で表される重鎖CDR1、配列番号14で表される重鎖CDR2及び配列番号15で表される重鎖CDR3、及び配列番号19で表される軽鎖CDR1、配列番号20で表される軽鎖CDR2及び配列番号21で表される軽鎖CDR3を含む請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項3】
配列番号2における1〜113残基で表される重鎖可変領域と、配列番号4における1〜107残基で表される軽鎖可変領域を含む請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項4】
配列番号2で表される重鎖と配列番号4で表される軽鎖を含む請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項5】
マウス又はヒトの請求項1に記載のモノクローナル抗体。
【請求項6】
Fab、Fab’、又は(Fab’)から選択される請求項1に記載の生物学的に活性な抗体断片。
【請求項7】
請求項1に記載のモノクローナル抗体又は抗体断片をコードする核酸分子。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸分子を含む発現ベクター。
【請求項9】
請求項8に記載の発現ベクターを含む宿主細胞。
【請求項10】
ATCC受託番号HB11364が付されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるモノクローナル抗体28C5の可変領域を含むキメラ抗体。
【請求項11】
配列番号2の1〜113残基で表される重鎖可変領域と配列番号4における1〜107残基で表される軽鎖可変領域を含む請求項10に記載のキメラ抗体。
【請求項12】
ATCC受託番号HB11364が付されたハイブリドーマ細胞株によって産生されるモノクローナル抗体28C5のCDRを含むCDRグラフト抗体。
【請求項13】
請求項12に記載のCDRグラフト抗体であって、配列番号13で表される重鎖CDR1、配列番号14で表される重鎖CDR2及び配列番号15で表される重鎖CDR3、及び配列番号19で表される軽鎖CDR1、配列番号20で表される軽鎖CDR2及び配列番号21で表される軽鎖CDR3を含むCDRグラフト抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17A】
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【図17B】
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【図18A】
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【図18B】
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【図19】
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【図20】
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【図21A】
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【図21B】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23A】
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【図23B】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25A】
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【図25B】
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【図26A】
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【図26B】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【公開番号】特開2009−278979(P2009−278979A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−146819(P2009−146819)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【分割の表示】特願2008−39192(P2008−39192)の分割
【原出願日】平成6年5月27日(1994.5.27)
【出願人】(503070188)ザ スクリップス リサーチ インスティテュート (5)
【Fターム(参考)】