説明

CD44機能抑制因子による抗アレルギー薬、免疫抑制薬および抗腫瘍薬

【課題】重篤な副作用が多いなどという欠点のない、抗炎症薬、抗アレルギーや免疫抑制薬として広く用いられているグルココルチコイドや、FK-506等の免疫抑制剤に代わる有利な正常の薬剤や、正常な細胞への影響が少なく腫瘍細胞などに作用する薬剤を開発する。
【解決手段】ガレクチン-9、特には安定化ガレクチン-9は、CD44のリガンド(ヒアルロン酸)に対する結合を抑制する活性を示し、活性型CD44発現細胞がヒアルロン酸に接着すること(細胞接着)をも阻害する。ガレクチン-9及びその改変体(安定化ガレクチン-9)から選択されたものをCD44機能抑制因子として使用し、抗アレルギー薬、免疫抑制薬および抗腫瘍薬を提供でき、例えば、気管支喘息などでの気道過敏性亢進の抑制、気道炎症の抑制用治療・予防剤並びに治療・予防法が提供される。制癌技術も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガレクチン9及びその改変体(安定化ガレクチン9)からなる群から選択されたものを有効成分とするCD44機能抑制因子剤、並びに該CD44機能抑制作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びにその活性利用の治療及び/又は予防法に関する。
【背景技術】
【0002】
炎症疾患、アレルギー性疾患や自己免疫疾患の治療にはステロイドホルモンや免疫抑制剤が用いられる。しかしながら、ステロイドは副作用が強いことから、問題が多い。またこれまで知られた免疫抑制剤にも副作用の点でそれが強いことから問題のあるものが多い。さらに抗腫瘍剤においても、腫瘍細胞のみならず正常な細胞にも作用することから、重篤な副作用の問題が多い。
【0003】
CD44はリンパ球の表面抗原として同定された糖タンパク質で、接着分子の一種であり、種々の細胞に広範に発現していることが認められている。例えば、リンパ球や白血球全般、さらには線維芽細胞、上皮細胞、腫瘍細胞など広範な細胞系に発現している。CD44はリンパ球の活性化やホーミング現象に関わるだけでなく上皮細胞と細胞外マトリックス (extracellular matrix; ECM)との接着、細胞運動、さらには癌細胞の増殖能、浸潤・転移能に関与することが多くの研究によって示され、また近年では、単なる細胞-細胞間、細胞-マトリックス間接着としての機能のみならず様々なシグナル伝達に関わることが解明されてきている。CD44の主要なリガンドとしてヒアルロン酸が報告されている。リンパ球や好酸球は通常ヒアルロン酸結合性を有しない不活性型のCD44を発現している。これらの細胞は活性化に伴いCD44のヒアルロン酸結合性が誘導されることが報告されている。一方、CD44は糖鎖を修飾することでヒアルロン酸結合性が誘導されることが知られている。そして、CD44は、慢性関節リウマチ、癌の転移および糖尿病の病態形成に重要な役割を果たしていることが報告されている。本発明者のグループは、これまでに、マウスの抗原誘発性好酸球性気道炎症モデルを使用して、抗CD44抗体を投与することにより気道炎症および気道過敏性の亢進を抑制できることを報告している(非特許文献1)。
【0004】
ガレクチンはβ-ガラクトシドに親和性を持ち、一次配列上に保存された領域を持つレクチンファミリーである。現在までに、10種類以上の哺乳類ガレクチンが発見され、細胞-細胞接着又は細胞-細胞外基質接着、細胞活性化、細胞増殖、アポトーシスなど多彩な生物活性が報告されている。
本発明者等のグループはヒトT細胞由来好酸球遊走因子のクローニングに成功し、それによりそれが Tureci 等が報告したヒトガレクチン9 (human galectin 9: hGal9、非特許文献2)のバリアント、エカレクチンであることを見出した(非特許文献3)。さらに、本発明者等のグループはエカレクチンとGal9は同一の物質であることを明らかにし、ヒトのGal9はそのリンクペプチドの長さの違いにより、ショートタイプ、メディアムタイプ、ロングタイプの3 種類があることをも明らかにした(非特許文献4)。Gal9含有医薬が、抗腫瘍剤(抗ガン剤)、抗アレルギー剤、免疫抑制剤、自己免疫疾患用剤、抗炎症剤及び副腎皮質ステロイドホルモン代替用剤として有望であることは、WO 2004/064857 (2004.08.05) 〔特許文献1〕に開示してある。Gal9は、活性化T細胞にアポトーシスを誘導することも報告されている。さらに、安定化Gal9(Gal9改変体)及びその用途についてPCT/JP2005/006580 (2005.03.29) 〔特許文献2〕に開示を行っている。
【0005】
【特許文献1】WO 2004/064857 (2004.08.05)
【特許文献2】PCT/JP2005/006580 (2005.03.29)
【非特許文献1】Katoh S. et al, J Clin Invest., 2003, 111:1563-1570
【非特許文献2】Tureci O. et al., J Biol Chem., 1997, 272(10):6416-22
【非特許文献3】Matsumoto R. et al., J Biol Chem., 1998, 273:16976-84
【非特許文献4】Matsushita N. et al., J Biol Chem., 2000, 275:8355-60
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、グルココルチコイドが抗炎症薬、抗アレルギーや免疫抑制薬として広く用いられており、また、難治性の自己免疫疾患やアレルギー疾患にFK-506等の免疫抑制剤が使用されている。しかし、これらの薬剤は重篤な副作用が多いことが欠点として知られている。
生体内の生理活性物質は、これまで多く見出されているが、それらの多くのものは、例えば腫瘍細胞などに作用すると同様に、正常な細胞にも作用することから、必ずしもその一部の活性が解明されたからといって、それを医薬などへの利用が簡単にはかれるものではない。ガレクチン9はその局在によって機能が異なっている一方で、様々な生体機能への関与が予測される。ガレクチン9の詳しい生物活性を解明すること、そしてその解明に基づいた医薬品の開発を初めとしたガレクチン9の関連技術開発が求められている。
本発明は、CD44の機能を制御することによる活性剤、該CD44機能制御作用を利用してCD44機能の発現に起因する病気又は疾患治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法、さらには炎症反応、アレルギー反応、免疫応答反応などCD44機能に関連する疾患を治療及び/又は予防するための薬剤並びに治療及び/又は予防法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))が、CD44のリガンド(ヒアルロン酸)に対する結合を抑制することを見出すことに成功した。すなわち、ガレクチン9は、CD44機能抑制因子として有用であることが認められ、さらに当該Gal9 (特には安定化ガレクチン9)は活性型CD44発現細胞がヒアルロン酸に接着すること(細胞接着)をも阻害することが確認された。さらに、それらは、気管支喘息などにおける症状、例えば、気道過敏性亢進の抑制、気道炎症の抑制に有効な活性を有することも見出した。したがって、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))により、CD44の機能を抑制することが可能であり、該CD44機能抑制により副作用の少ない腫瘍転移抑制効果や炎症反応の制御を達成でき、該腫瘍転移抑制効果や炎症反応の制御による抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫抑制薬あるいは抗腫瘍剤を提供できる可能性をあたえるものである。
【0008】
本発明では、次なる態様が提供される。
〔1〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものをCD44機能抑制因子として含有することを特徴とするCD44機能制御剤。
〔2〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものをコードする核酸をCD44機能抑制因子として含有することを特徴とするCD44機能制御剤。
〔3〕(a)CD44又はCD44発現細胞と(b)ヒアルロン酸又はヒアルロン酸含有物との間でのCD44-ヒアルロン酸結合を、ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを共存せしめることにより抑制することを特徴とするCD44機能制御法。
〔4〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものをコードする核酸をCD44発現細胞に遺伝子導入することを特徴とするCD44機能の制御された細胞の調製法。
〔5〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、CD44のリガンド(ヒアルロン酸)に対する結合を抑制する及び/又は活性型CD44発現細胞がヒアルロン酸に接着すること(細胞接着)を阻害することを特徴とするCD44機能抑制剤。
〔6〕CD44発現細胞に、ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを接触せしめ、CD44の活性化により生ずる細胞接着を抑制することを特徴とする細胞接着の抑制法。
【0009】
〔7〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し且つCD44の機能を制御することを特徴とする活性化CD44が発症に関与する病気又は疾患の治療及び/又は予防剤。
〔8〕病気又は疾患が、アレルギー疾患、免疫性疾患、炎症性疾患及び腫瘍疾患からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔7〕記載の治療及び/又は予防剤。
〔9〕病気又は疾患が、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、接触性皮膚炎、リウマチなどを含むアレルギー疾患又は免疫性疾患、および炎症性腸疾患、間質性膀胱炎、腫瘍細胞の浸潤、転移又は増殖及びその他の活性化CD44が発症に関与する病気又は疾患からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔7〕記載の治療及び/又は予防剤。
〔10〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し且つCD44の活性化により生ずるヒアルロン酸結合能を抑制することを特徴とする活性化CD44が発症に関与する病気又は疾患の治療及び/又は予防剤。
〔11〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し且つCD44機能を制御することを特徴とする制癌剤。
〔12〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分又はCD44機能抑制因子として含有し且つCD44の機能を抑制することで、腫瘍転移効果、又は炎症反応の制御を行い、抗炎症薬、抗アレルギー薬、免疫抑制薬又は抗腫瘍薬であることを特徴とする薬剤。
〔13〕ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分又はCD44機能抑制因子として含有し且つ気道過敏性亢進及び/又は気道炎症といった気管支喘息における症状を抑制することを特徴とする抗喘息薬。
【発明の効果】
【0010】
本発明で、CD44の機能を制御する技術、特にはCD44が活性化されてリガンドであるヒアルロン酸に結合するするというCD44のリガンド結合を阻害する技術が、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))からなる群から選択されたものを使用することで可能となった。かくして、CD44機能制御技術が提供され、CD44の活性化及び/又はCD44のヒアルロン酸への結合が一因である疾患の治療及び/又は予防技術が開発できる。CD44の活性化及び/又はCD44のヒアルロン酸への結合は、アレルギー疾患、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、接触性皮膚炎、リウマチなどを含む免疫性疾患、および炎症性疾患などを含む病気又は疾患に関与していると考えられることから、CD44の活性化及び/又はCD44のヒアルロン酸への結合を、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))からなる群から選択されたもので制御することにより(例えば、抑制あるいは阻害することにより)、当該病気又は疾患を効果的に治療及び/又は予防し得る薬剤を提供できるし、その治療法の開発が可能となる。癌の転移にには細胞接着などの相互作用が関与するが、ガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))からなる群から選択されたものでCD44発現細胞の細胞接着を制御できることから、副作用の少ない腫瘍転移抑制剤を含めた抗腫瘍・制癌技術の開発に有用である。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態につき説明するに、本発明のガレクチン9、特には安定化ガレクチン9 (例えば、G9NC(null))からなる群から選択されたもののCD44機能抑制因子としての機能を利用したCD44機能制御剤(CD44機能抑制剤又はCD44機能阻害剤を包含する)、並びに該CD44機能制御作用を利用した病気又は疾患の治療及び/又は予防用剤並びにCD44の活性化及び/又はCD44のヒアルロン酸への結合に起因した病的症状及び/又は疾患(異常)の治療剤及び/又は予防剤で、有効成分として含有するガレクチン9 (galectin 9: Gal9)とは、例えば、Gal9産生能を有するヒトの白血球や培養株化細胞から産生される天然型ガレクチン9 (native Gal9 or naturally-occurring Gal9)、及び、前記白血球や特定の培養株化細胞由来のGal9をコードする遺伝子を遺伝子組換え技術により動物細胞や大腸菌などの微生物に組み込んで得られる組換え型ガレクチン9 (recombinant galectin 9: rGal9)などを意味し、その何れも有利に用いることができる。本発明に於いては、高度に精製した高純度Gal9は言うに及ばず、所期の目的を達成し得る限り、医薬として許容し得る程度の不純物を含む粗な状態のGal9も好適に使用できる。又、本発明の薬剤は非経口的又は経口的に投与されてよく、比較的高純度のものが好ましい筋肉内注射や静脈内注射ばかりでなく、必ずしも最高純度の高純度Gal9を用いる必要性のない、比較的低純度のGal9であっても不都合なく使用することができる経口であることも好ましい。このようなGal9を用いる場合には、より低コストで本発明の薬剤を製造できることとなる。また、当該Gal9として、2種以上のガレクチン 9混合物を用いることも可能である。尚、当該Gal9は、抗原性の面から見て、ヒトGal9 (hGal9)が有利に使用できる。
【0012】
本明細書中、「ガレクチン9」(galectin 9: Gal9)としては典型的には天然型Gal9が挙げられる。天然型Gal9としては、現在、ロングタイプ(L 型)ガレクチン9(galectin 9 long isoform or long type galectin 9: Gal9L)、ミディアムタイプ(M 型)ガレクチン9(galectin 9 medium isoform or medium type galectin 9: Gal9M)及びショートタイプ(S 型)ガレクチン9(galectin 9 short isoform or short type galectin 9: Gal9S)が報告されているが、Gal9LはWO 02/37114 A1に開示の配列番号4 の推定リンクペプチド領域によりN端ドメイン(N末端側糖鎖認識部位、N-terminal carbohydrate recognition domain: NCRD)とC端ドメイン(C末端側糖鎖認識部位、C-terminal carbohydrate recognition domain: CCRD)とが連結されたもの、Gal9Mは該WO 02/37114 A1の配列番号5の推定リンクペプチド領域によりNCRDとCCRDとが連結されたもの、そしてGal9Sは該WO 02/37114 A1の配列番号6 の推定リンクペプチド領域によりNCRDとCCRDとが連結されたものであると考えられており、Gal9MではGal9Lの当該リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号7の配列のアミノ酸残基が欠失している点でGal9Lと異なること、そしてGal9SではGal9Mの当該リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号8の配列のアミノ酸残基が欠失している点でGal9Mと異なること、すなわちGal9SではGal9L推定リンクペプチド領域より該WO 02/37114 A1の配列番号9 のアミノ酸残基が欠失している点でL 型ガレクチン9と異なる。ところで、Gal9Lのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号1に、Gal9Mのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号2に、そしてGal9Sのアミノ酸配列は、WO 02/37114 A1に開示の配列番号3に、それぞれその典型的な配列のものが示されている。
【0013】
本明細書において、ガレクチン9としては、上記Gal9L、Gal9M及びGal9S、その他、それらガレクチン9ファミリーの天然に生ずる変異体、さらにそれらに人工的な変異(すなわち、一個以上のアミノ酸残基において、欠失、付加、修飾、挿入など)を施したものあるいはそれらの一部のドメインや一部のペプチドフラグメントを含むものを意味してよい。WO 2004/064857 (2004.08.05)、J. Biol. Chem., 275 (12): pp. 8355-8360 (2000)に開示のものはすべて含まれてよい。例えば、GST、FLAG (registered trademark, Sigma-Aldrich)、ポリヒスチジンなどのタグ、オワンクラゲ (Aequorea victorea)などの発光クラゲ由来の緑色螢光タンパク質(green fluorescent protein: GFP)、それを改変した変異体(GFPバリアント) 、例えば、EGFP (Enhanced-humanized GFP), rsGFP (red-shift GFP), 黄色螢光タンパク質 (yellow fluorescent protein: YFP), 緑色螢光タンパク質 (green fluorescent protein: GFP),藍色螢光タンパク質 (cyan fluorescent protein: CFP), 青色螢光タンパク質 (blue fluorescent protein: BFP), ウミシイタケ (Renilla reniformis) 由来のGFP などとの融合rGal9などが含まれてよく、例えば、poly-His-hGal9などが挙げられる。当該ガレクチン9には、天然のガレクチン9バリアント、さらにPCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)に開示の「ガレクチン9改変体」、「ガレクチン9改変体ポリペプチド」、さらには「ガレクチン9改変体治療剤」はすべて含まれてよい。特に好ましいものとしては、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)の実施例1で製造取得されているG9NC(null)〔PCT/JP 2005/006580(出願日2005.03.29)の配列番号1で示される塩基配列によりコードされ、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド〕が挙げられる。「ガレクチン9改変体」又は「ガレクチン9改変体ポリペプチド」のうちには、天然型ガレクチン9に比して、より安定化された性状を示すものが得られることが認識されており、そうしたものは本明細書において、「安定化ガレクチン9」と称されてもいる。該安定化ガレクチン9の代表的なものとしては、上記したG9NC(null)が挙げられるが、これに限定されるものではなく、同様な性状を示すものはそれに含まれてよい。
本発明の治療及び/又は予防剤並びにその治療及び/又は予防法は、WO 2004/064857 (2004.08.05)や、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)の開示に準じてそれを実施でき、それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる。
【0014】
本発明では、「遺伝子組換え技術」を利用して所定の核酸(ポリヌクレオチド)や所定のペプチド(ポリペプチド)を構築したり取得すること、また単離・配列決定したり、組換え体を作製したりできる。本明細書中使用できる遺伝子組換え技術(組換えDNA技術を含む)としては、当該分野で知られたものが挙げられ、例えば J. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition (1989) & 3rd edition (2001) ", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995);日本生化学会編、「続生化学実験講座1、遺伝子研究法II」、東京化学同人 (1986);日本生化学会編、「新生化学実験講座2、核酸 III(組換えDNA 技術)」、東京化学同人 (1992); M. J. Gait (Ed), Oligonucleotide Synthesis, IRL Press (1984); B. D. Hames and S. J. Higgins (Ed), Nucleic Acid Hybridization, A Practical Approach, IRL Press Ltd., Oxford, UK (1985); B. D.Hames and S. J. Higgins (Ed), Transcription and Translation: A Practical Approach (Practical Approach Series), IRL Press Ltd., Oxford, UK (1984); B. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning (2nd Edition), John Wiley & Sons, New York (1988); J. H. Miller and M. P. Calos (Ed), Gene Transfer Vectors for Mammalian Cells, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, New York (1987); R. J. Mayer and J. H. Walker (Ed), Immunochemical Methods in Cell and Molecular Biology, Academic Press, (1987); R. K. Scopes et al. (Ed), Protein Purification: Principles and Practice (2nd Edition, 1987 & 3rd Edition, 1993), Springer-Verlag、N.Y.; D. M. Weir and C. C. Blackwell (Ed), Handbook of Experimental Immunology, Vol.1, 2, 3 and 4, Blackwell Scientific Publications, Oxford, (1986); L. A. Herzenberg et al. (Ed), Weir's Handbook of Experimental Immunology, Vol. 1, 2, 3 and 4, Blackwell Science Ltd. (1997); R. W. Ellis (Ed), Vaccines new approaches to immunological problems, Butterworth-Heinemann, London (1992); R. Wu ed., "Methods in Enzymology", Vol. 68 (Recombinant DNA), Academic Press, New York (1980); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 100 (Recombinant DNA, Part B) & 101(Recombinant DNA, Part C), Academic Press, New York (1983); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 153 (Recombinant DNA, Part D), 154 (Recombinant DNA, Part E) & 155 (Recombinant DNA, Part F), Academic Press, New York (1987); J. H. Miller ed., "Methods in Enzymology", Vol. 204, Academic Press, New York (1991); R. Wu et al. ed., "Methods in Enzymology", Vol. 218, Academic Press, New York (1993); S. Weissman (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 303, Academic Press, New York (1999); J. C. Glorioso et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 306, Academic Press, New York (1999); Jeremy Thorner et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 326 to 328, Academic Press, New York (2000); David R. Engelke et al. (ed.), "Methods in Enzymology", Vol. 392, Academic Press, New York (2005)などに記載の方法あるいはそこで引用された文献記載の方法あるいはそれらと実質的に同様な方法や改変法により行うことができる (それらの中にある記載はそれを参照することにより本明細書の開示に含められる) 〔以下、これら全てを「遺伝子組換え技術」という)。
【0015】
本発明のガレクチン9ポリペプチドを製造するためには広範な単細胞および多細胞発現系(すなわち宿主−発現ベクターの組み合わせ)を使用しうる。可能なタイプの宿主細胞には細菌、酵母、昆虫、哺乳動物、植物などが含まれるが、これらに限定されない。大腸菌の場合、例えば大腸菌K12株あるいはB株に由来するものなどを挙げることができ、例えば、NM533, XL1-Blue, C600, DH1, DH5, DH11S, DH12S, DH5α, DH10B, HB101, MC1061, JM109, STBL2, B834株由来としては、BL21(DE3)pLysSなどが挙げられ、それに適した発現ベクターを選択して使用できる。酵母菌として、パン酵母、分裂酵母などが含まれてよく、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、シゾサッカロミセス(Schizosaccharomyces)属、ピキア(Pichia)属菌などである。より具体的には、サッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)などを挙げることができ、それに適した発現ベクターを選択して使用できる。代表的な発現ベクターとしては、例えば、pBR322、pUC18, pUC19, pUC118, pUC119, pSP64, pSP65, pTZ-18R/-18U, pTZ-19R/-19U, pGEM-3, pGEM-4, pGEM-3Z, pGEM-4Z, pGEM-5Zf(-), pGEMEX-1(Promega), pBC KS (Stratagene), pBC SK (Stratagene), pBluescriptTM SK (Stratagene), pBluescriptTM II SK (Stratagene社), pBluescriptTM II KS (Stratagene), pBS (Stratagene), pAS, pKK223-3(Amersham Pharmacia Biotech), pMC1403, pMC931, pKC30, pRSET-B (Invitrogen), pSE280(Invitrogen), pBTrp2(Boehringer Mannheim), pBTac1(Boehringer Mannheim), pBTac2(Roche社), pGEX(Amersham Biosciences), pQE series(QIAGEN), pET Expression System (Novagen), YEP13(ATCC37115)、YEp24(ATCC37051)、YCp50(ATCC37419)、pHS19、pHS15、さらには、invitrogen vectors for Mammalian Expression (例えば、BsdCassetteTM Vectors, Epitope-Tagged pcDNATM Vectors, Eukaryotic TA Expression Kit, Flp-InTM Expression Vectors and Kits, Flp-InTM T-RExTM Expression Vectors, FreeStyleTM 293 Expression System, GeneSwitchTM System, pBC1 Milk Expression Vector Kit, pBudCE4.1, pcDNATM GatewayTM Vectors, pcDNATM3.1 Directional TOPOTM Expression Kit, pcDNATM3.1-E EchoTM Expression Vector Kit, pcDNATM3.1/V5-His TOPOTM Expression Kit, pcDNATM4/HisMax and pcDNATM4/HisMax TOPOTM TA Expression Kit, pcDNATM4/TO-E EchoTM Vector Expression Kit, pcDNATM6 BioEaseTM GatewayTM Biotinylation System, pcDNA/V5-GW/D-TOPOTM Vectors, pCEP4 and pREP4, pDisplayTM Vector, pEF6/V5-His TOPOTM TA Expression Kit, pFRT/lacZeo and pFRT/lacZeo2, pSecTag2 and pSecTag2/Hygro, pShooterTM Vectors, pVAXTM200-DEST Vector System, pVAX1, pZeoSV2, T-RExTM GatewayTM Vectors, T-RExTM System, Tag-On-DemandTM Technology, Untagged pcDNATM Vectors, Vivid ColorsTM pcDNATM 6.2 Fluorescent Protein GatewayTM Destination Vectors, ZeoCassetteTM Vectorsなど), Clontech vectors (例えば、Adenoviral Expression Vectors, CreatorTM System Vectors, IRES Bicistronic Expression Vectors, Living ColorsTM Fluorescent Protein Vectors, MATCHMARJER Vectors, Retroviral Expression Vectors, Signal Transduction Vectors, Tet Expression System Vectors, BacPak Baculovirus Expression Vectors, HAT Protein Expression System Vectorsなど), HaloTagTM pHT2 Vector, pACT Vectors, pBIND Vectors, pCATTM3 Vectors, pCI Vectors, phRG Vectors, phRL Vectors (Promega Corp.), Novagen vectors for protein expression (例えば、pTriEXTM Multisystem Expression Vectors, pBiEXTM Multisystem Expression Vectors, pTandemTM-1 Vector, pTK-neo DNAなど)などが挙げられるが、その他当該分野で知られていたり、市販されているものも適宜選択して使用できる。
【0016】
細胞(培養細胞を含む)、培養上清、あるいは抽出液中に含まれる目的生成物は、自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせてその精製を行なうことができ、例えば硫酸アンモニウム沈殿法などの塩析、セファデックスなどによるゲルろ過法、例えばジエチルアミノエチル基あるいはカルボキシメチル基などを持つ担体などを用いたイオン交換クロマトグラフィー法、例えばブチル基、オクチル基、フェニル基など疎水性基を持つ担体などを用いた疎水性クロマトグラフィー法、色素ゲルクロマトグラフィー法、電気泳動法、透析、限外ろ過法、アフィニティ・クロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー法などにより精製して得ることができる。好ましくは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、リガンドなどを固定化したアフィニティー・クロマトグラフィーなどで処理し精製分離処理できる。該リガンドとしては、特異的認識をするモノクローナル抗体を含めた抗体又はそのフラグメント、レクチン、糖、結合ペアーの一方などが挙げられる。例えば、イムノ・アフィニティー・クロマトグラフィー、ゼラチン−アガロース・アフィニティー・クロマトグラフィー、ヘパリン−アガロース・クロマトグラフィーなどが挙げられる。特には遺伝子組換え技術を利用し、融合タンパク質あるいは融合ポリペプチドとして産生せしめ、融合部(タグ)を利用して、それに対する抗体などの特異的結合リガンドを利用して、アフィニティー・クロマトグラフィーなどで簡便に精製できる。
【0017】
ガレクチン9、及びその改変体は、化学合成されたものであってよい。例えば、タンパク質及びその一部のペプチドの合成には、当該ペプチド合成分野で知られた方法、例えば液相合成法、固相合成法などの化学合成法を使用することができる。こうした方法では、例えばタンパク質あるいはペプチド合成用樹脂を用い、適当に保護したアミノ酸を、それ自体公知の各種縮合方法により所望のアミノ酸配列に順次該樹脂上で結合させていく。縮合反応には、好ましくはそれ自体公知の各種活性化試薬を用いるが、そうした試薬としては、例えばジシクロヘキシルカルボジイミドなどカルボジイミド類を好ましく使用できる。生成物が保護基を有する場合には、適宜保護基を除去することにより目的のものを得ることができる。例えば、フォスフォトリエステル法、フォスフォジエステル法、フォスファイト法、フォスフォアミダイト法、フォスフォネート法などの方法により化学合成されることができる。通常合成は、修飾された固体支持体上で合成を便利に行うことができることが知られており、例えば、自動化された合成装置を用いて行うことができ、該装置は市販されている。
【0018】
本発明の活性成分を医薬として用いる場合、通常単独或いは薬理的に許容される各種製剤補助剤と混合して、医薬組成物又は医薬調製物などとして投与することができる。好ましくは、経口投与、局所投与、または非経口投与等の使用に適した製剤調製物の形態で投与され、目的に応じていずれの投与形態(吸入法、あるいは直腸投与も包含される)によってもよい。
また、本発明の活性成分は、各種医薬、例えば抗腫瘍剤(抗ガン剤)、抗生物質、腫瘍移転阻害剤、血栓形成阻害剤、関節破壊治療剤、鎮痛剤、消炎剤、抗アレルギー剤、免疫調節剤及び/又は免疫抑制剤と配合して使用することもでき、それらは、有利な働きを持つものであれば制限なく使用でき、例えば当該分野で知られたものの中から選択することができる。
そして、非経口的な投与形態としては、局所、経皮、静脈内、筋肉内、皮下、皮内もしくは腹腔内投与を包含し得るが、患部への直接投与も可能であり、またある場合には好適でもある。好ましくはヒトを含む哺乳動物に経口的に、あるいは非経口的(例、細胞内、組織内、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内、胸腔内、脊髄腔内、点滴法、注腸、経直腸、点耳、点眼や点鼻、歯、皮膚や粘膜への塗布など)に投与することができる。具体的な製剤調製物の形態としては、溶液製剤、分散製剤、半固形製剤、粉粒体製剤、成型製剤、浸出製剤などが挙げられ、例えば、錠剤、被覆錠剤、糖衣を施した剤、丸剤、トローチ剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、マイクロカプセル剤、埋込剤、粉末剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、注射剤、液剤、エリキシル剤、エマルジョン剤、灌注剤、シロップ剤、水剤、乳剤、懸濁剤、リニメント剤、ローション剤、エアゾール剤、スプレー剤、吸入剤、噴霧剤、軟膏製剤、硬膏製剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤、クリーム剤、油剤、坐剤(例えば、直腸坐剤)、チンキ剤、皮膚用水剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、塗布剤、輸液剤、注射用液剤などのための粉末剤、凍結乾燥製剤、ゲル調製品等が挙げられる。
【0019】
医薬用の組成物は通常の方法に従って製剤化することができる。例えば、適宜必要に応じて、生理学的に認められる担体、医薬として許容される担体、アジュバント剤、賦形剤、補形剤、希釈剤、香味剤、香料、甘味剤、ベヒクル、防腐剤、安定化剤、結合剤、pH調節剤、緩衝剤、界面活性剤、基剤、溶剤、充填剤、増量剤、溶解補助剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、崩壊剤、噴射剤、保存剤、抗酸化剤、遮光剤、保湿剤、緩和剤、帯電防止剤、無痛化剤などを単独もしくは組合わせて用い、それとともに本発明のタンパク質等を混和することによって、一般に認められた製剤実施に要求される単位用量形態にして製造することができる。
非経口的使用に適した製剤としては、活性成分と、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る媒体との無菌性溶液、または懸濁液剤など、例えば注射剤等が挙げられる。一般的には、水、食塩水、デキストロース水溶液、その他関連した糖の溶液、エタノール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコール類が好ましい注射剤用液体担体として挙げられる。注射剤を調製する際は、蒸留水、リンゲル液、生理食塩液のような担体、適当な分散化剤または湿化剤及び懸濁化剤などを使用して当該分野で知られた方法で、溶液、懸濁液、エマルジョンのごとき注射しうる形に調製する。
【0020】
注射用の水性液としては、例えば生理食塩液、ブドウ糖やその他の補助薬(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)を含む等張液などが挙げられ、薬理的に許容される適当な溶解補助剤、たとえばアルコール(たとえばエタノールなど)、ポリアルコール(たとえばプロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、非イオン性界面活性剤(たとえばポリソルベート 80TM, HCO-50など)などと併用してもよい。油性液としてはゴマ油、大豆油などが挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどと併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液など)又は浸透圧調節のための試薬、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤(例えば、ベンジルアルコール、フェノールなど)、アスコルビン酸などの酸化防止剤、吸収促進剤などと配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填される。
【0021】
非経口投与には、界面活性剤及びその他の薬学的に許容される助剤を加えるか、あるいは加えずに、水、エタノール又は油のような無菌の薬学的に許容される液体中の溶液あるいは懸濁液の形態に製剤化される。製剤に使用される油性ベヒクルあるいは溶剤としては、天然あるいは合成あるいは半合成のモノあるいはジあるいはトリグリセリド類、天然、半合成あるいは合成の油脂類あるいは脂肪酸類が挙げられ、例えばピーナッツ油、トウモロコシ油、大豆油、ゴマ油などの植物油が挙げられる。例えば、この注射剤は、通常本発明化合物を0.1〜10重量%程度含有するように調製されることができる。
局所的、例えば口腔、又は直腸的使用に適した製剤としては、例えば洗口剤、歯磨き剤、口腔噴霧剤、吸入剤、軟膏剤、歯科充填剤、歯科コーティング剤、歯科ペースト剤、坐剤等が挙げられる。洗口剤、その他歯科用剤としては、薬理的に許容される担体を用いて慣用の方法により調製される。口腔噴霧剤、吸入剤としては、本発明化合物自体又は薬理的に許容される不活性担体とともにエアゾール又はネブライザー用の溶液に溶解させるかあるいは、吸入用微粉末として歯などへ投与できる。軟膏剤は、通常使用される基剤、例えば、軟膏基剤(白色ワセリン、パラフィン、オリーブ油、マクロゴール400 、マクロゴール軟膏など)等を添加し、慣用の方法により調製される。
【0022】
歯、皮膚への局所塗布用の薬品は、適切に殺菌した水または非水賦形剤の溶液または懸濁液に調剤することができる。添加剤としては、例えば亜硫酸水素ナトリウムまたはエデト酸二ナトリウムのような緩衝剤;酢酸または硝酸フェニル水銀、塩化ベンザルコニウムまたはクロロヘキシジンのような殺菌および抗真菌剤を含む防腐剤およびヒプロメルローズのような濃厚剤が挙げられる。
坐剤は、当該分野において周知の担体、好ましくは非刺激性の適当な補形剤、例えばポリエチレングリコール類、ラノリン、カカオ脂、脂肪酸トリグリセライド等の、好ましくは常温では固体であるが腸管の温度では液体で直腸内で融解し薬物を放出するものなどを使用して、慣用の方法により調製されるが、通常本発明化合物を0.1 〜95重量%程度含有するように調製される。使用する賦形剤および濃度によって薬品は、賦形剤に懸濁させるかまたは溶解させることができる。局部麻酔剤、防腐剤および緩衝剤のような補助薬は、賦形剤に溶解可能である。 経口的使用に適した製剤としては、例えば錠剤、丸剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、トローチのような固形組成物や、液剤、シロップ剤、懸濁剤のような液状組成物等が挙げられる。製剤調製する際は、当該分野で知られた製剤補助剤などを用いる。錠剤及び丸剤はさらにエンテリックコーティングされて製造されることもできる。調剤単位形態がカプセルである場合には、前記タイプの材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。経口投与用製剤においては、好適には安定化剤を配合してある。当該安定化剤としては、ガレクチン 9及びその改変体を安定化し得る薬剤を意味し、例えば、グルコース、ガラクトース、キシロース、フラクトース、スクロース、マルトース、トレハロース、ネオトレハロース、イソトレハロース、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ラクトスクロース、マルトオリゴ糖、及び多糖類などの糖類及び糖アルコール、シクロデキストリン、ヒドロキシエチル澱粉、デキストリン及びデキストラン、グルクロン酸ナトリウム、リン酸塩及び金属塩などの塩類、血清アルブミン、ゼラチン、アミノ酸及び非イオン界面活性剤などから選ばれる1種又は2種以上を使用することができる。
【0023】
また、活性成分がタンパク質やポリペプチドである場合、ポリエチレングリコール(PEG)は、哺乳動物中で極めて毒性が低いことから、それを結合させることは特に有用である。また、PEG を結合せしめると、異種性化合物の免疫原性及び抗原性を効果的に減少せしめることができる場合がある。該化合物は、マイクロカプセル装置の中に入れて与えてもよい。PEG のようなポリマーは、アミノ末端のアミノ酸のα-アミノ基、リジン側鎖のε-アミノ基、アスパラギン酸又はグルタミン酸側鎖のカルボキシル基、カルボキシ末端のアミノ酸のα-カルボキシル基、又はある種のアスパラギン、セリン又はトレオニン残基に付着したグリコシル鎖の活性化された誘導体に、簡便に付着させることができる。
タンパク質との直接的な反応に適した多くの活性化された形態のPEG が知られている。タンパク質のアミノ基と反応させるのに有用なPEG 試薬としては、カルボン酸、カルボネート誘導体の活性エステル、特に、脱離基がN-ヒドロキシスクシンイミド、p-ニトロフェノール、イミダゾール、又は1-ヒドロキシ-2-ニトロベンゼン-4-スルフォネートであるものが挙げられる。同様に、アミノヒドラジン又はヒドラジド基を含有するPEG 試薬は、タンパク質中の過ヨウ素酸酸化によって生成したアルデヒドとの反応に有用である。
【0024】
遺伝子治療用ビヒクルは、遺伝子組換え技術を利用して、簡便に得ることができ、哺乳動物における発現のために哺乳動物に送達されるべき本発明の治療薬たるコード配列(例えば、ガレクチン9コード配列)を含んでいる構築物(コンストラクト、construct)を送達するためのもの、あるいは、ガレクチン9の全てもしくは部分であって且つ送達のためのものである核酸配列をも含んでいる該構築物を送達するためのものであって、局所的または全身的のいずれかの方法で投与されることのできるものである。これらの構築物は、インビボまたはエキソビボの形で、ウイルスベクターによるアプローチまたは非ウイルスベクター形式でのアプローチを利用することのできるものである。このようなコード配列を発現するには、内因性の哺乳動物プローモーターまたは異種プロモーターを使用して誘導することにより行うことができる。インビボでのコード配列の発現は、構築的になされるか、または調節されて行われるかのいずれかである。ガレクチン9が哺乳動物において発現される場合、可溶性のガレクチン9として発現されることができるし、ある場合には前駆体型ガレクチン9として発現されることもできる。これらの両方においてまたはそのいずれかにおいて、それらは、例えば、全てのガレクチン9、またはガレクチン9の生物学的に活性な部分、バリアント、改変体、誘導体、もしくは融合体などであってよい。
【0025】
本発明は、所要のガレクチン9の核酸配列を発現することのできる遺伝子導入ベクターを提供する。遺伝子導入ベクターとしては、好ましくは、ウイルスベクターが挙げられ、より好ましくは、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ヘルペスウイルス、またはアルファウイルスなどのウイルスベクターなどが挙げられる。ウイルスベクターとしては、さらに、アストロウイルス、コロナウイルス、オルトミクソウイルス、パポバウイルス、パラミクソウイルス、パルボウイルス、ピコルナウイルス、ポックスウイルス、トガウイルスなどのウイルスベクターも挙げられ、例えば、HVJ Envelope Vector(石原産業)なども挙げられる。当該遺伝子導入ベクターに関しては、一般には、D. Jolly, Cancer Gene Therapy, 1(1): 51-64 (1994); O. Kimura et al., Human Gene Therapy, 5: 845-852 (1994); S. Connelly et al., Human Gene Therapy, 6: 185-193 (1995); M.G. Kaplitt et al., Nature Genetics, 8: 148-153 (1994)などを参照することができる。
【0026】
ヒアルロン酸は様々な組織(ほとんどすべての組織)の細胞外基質で、細胞の挙動に直接影響するいくつかの機能を含む且つ多岐にわたった機能を有するものであることが知られている。CD44は、一般的なリンパ球抗原群(Clusters of Differentiation, CD)またはそのファミリー(International Workshop on Human Leucocyte Differentiation Antigensで決められる)の一つと同一分子であることから「CD」を付されて呼ばれる1回膜貫通型糖タンパク質であるが、細胞膜に局在するいくつかのレセプター(別名、ヒアルロン酸結合タンパク質)の一つとしてとりわけ注目されている分子である。この同じタンパク質はこれまでPgp-1 (phagocytic glycoprotein-1)、In [Lu]-related p80、Hermes antigen、HUTCH-1、gp90、gp85、H-CAM、ECMRIII (extracellular matrix receptor type III)などという名前でも呼ばれることのあったものである。CD44は、4つの機能的なドメインからなり、CD44の遺伝子は20個のエキソンからなり、ヒト第11染色体の短腕上にCD44をコードする単一遺伝子として存在し、20個のエキソンのうち12個の選択的スプライシングから複数のmRNA転写産物が形成されることが同定されることが報告されている。
【0027】
CD44は、細胞凝集、細胞周囲のマトリックスの保持、マトリックス−細胞間のシグナリング、レセプターを介するヒアルロン酸の取り込み/分解や細胞遊走などを含む様々な細胞機能に関与することが知られている。CD44-ヒアルロン酸の相互作用は細胞-マトリックス間の架橋により細胞凝集を仲介すると予想されている。また、CD44-ヒアルロン酸の相互作用を介して、CD44は細胞-マトリックスの相互作用を細胞内に伝達(外から内へのシグナル伝達)したり及び/又は細胞内のシグナルに反応してマトリックスを変化させる(内から外へのシグナル伝達する)ことも推測されている。CD44には3種の機能的に異なる状態に分類されるものがあることがいくつかの報告から認められており、それはヒアルロン酸結合に関して、(a)結合しないCD44、(b)活性化されないため結合しないCD44、そして(c)活性化され結合するCD44というものである。多くの結合組織細胞は恒常的に活性化されているCD44を発現していることから、そこではCD44は細胞表面で高度に配置されているとの予想もされている。かくして、ある細胞ではヒアルロン酸の結合は何らかの形のCD44の配列化を誘導し、そしてそれは次に、その下にある細胞内骨格を再構成するとの考えの提案にも繋がっている。こうしたことは、細胞-マトリックス間の情報伝達に必要なダイナミックな変化を可能にしていることも推定させるものである。
【0028】
CD44については、その発現と癌細胞の悪性化及び転移との間の相関性にも注目が集まってきている。悪性の癌細胞の多くはCD44を多量に産生していることが知られている。ところで、ラット膵癌細胞の高転移細胞株と非転移細胞株との間でそれらの細胞表面に発現する抗原の違いを調査した結果、CD44v6と名付けたCD44の新規な選択的スプライシングアイソフォームが単離され、それがCD44の細胞外ドメインにアミノ酸配列を余分に含んでいるもので、このDNA塩基配列は選択的スプライシングにより、エキソン11のはいったものに由来するものであることが報告されている。CD44の遺伝子のエキソン6〜15の発現は比較的に少なく、正常な細胞ではCD44v6(エキソン11)はほとんど発現していない(例えば、v6はBリンパ球細胞の活性化の際に一時的に発現される)。実験的にCD44v6を特異的に認識する抗体を転移能を持つ膵癌細胞とともに投与すると、転移巣の癌細胞増殖は抑制され、ホストの延命効果をもたらし、そして、転移能のない癌細胞にCD44v6を導入すると局部リンパ節への転移活性が上昇するということが見出されている。また、癌細胞、特にヒトの癌組織が、ヒアルロン酸を多く含んでいることが多いという観察も存在する。そして、ヒトメラノーマ細胞においてpCD44遺伝子を導入し、安定に発現しているクローンを作成したところ、その細胞はCD44を発現していない親株の細胞と比べて細胞表面にヒアルロン酸リッチマトリックスを持ち、細胞の移動能が上昇していたとの報告もある。〔参照: Glyco forum (http://www.glycoforum.gr.jp/index.html), Warren Knudson/Cheryl Knudson, The Hyaluronan Receptor, CD44 (05.01.13)〕
【0029】
ガレクチン9及びその改変体(安定化ガレクチン9)は、活性型のCD44のヒアルロン酸結合能を抑制(又は阻害)することでCD44の機能を制御している(又はCD44の機能を抑制(又は阻害)している。本活性は、活性型のCD44を発現している細胞株、例えば、ヒト未分化マスト細胞(肥満細胞)株HMC-1細胞(human mastocytoma cell line: HMC)、マウス胸腺腫細胞株BW5147細胞(thymoma cell line)などを使用してアッセイできる。
CD44は、慢性関節リウマチ、癌の転移および糖尿病の病態形成に重要な役割を果たしていることが報告されている。そして、抗CD44抗体を投与によりマウスの抗原誘発性好酸球性気道炎症モデルを使用して、気道炎症および気道過敏性の亢進を抑制できることが報告されている。抗CD44抗体の代わりにリガンド(ヒアルロン酸)結合阻害剤としてガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))を投与することで、気管支喘息の主要な病態である気道過敏性の亢進を抑制することが示された。ガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))は、気管支喘息の治療に応用可能性を示している。
【0030】
ガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))は、CD44の機能を抑制することで、副作用の少ない腫瘍転移抑制効果や炎症反応の制御による抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫抑制薬あるいは抗腫瘍剤として使用できる可能性が高い。ガラクトシド結合性動物レクチンの一種であるガレクチン9のCD44とヒアルロン酸の結合における影響について検討してみると、例えば、活性型のCD44を発現している細胞株を用いて蛍光ラベルヒアルロン酸とこれらの細胞株の結合性をフローサイトメトリーで調べたところ、ガレクチン9はこれらの結合を阻害する作用を有していた。また、ガレクチン9はこれらの細胞株とヒアルロン酸をコーティングしたプレートの接着を阻害した。さらにこのガレクチン9の作用は糖鎖結合性(レクチン活性)によることが判明した。マウスダニ喘息モデルを使用してガレクチン9による治療効果を確かめることができるが、その際のアレルゲンたるダニ抗原のダニとしては、チリダニが挙げられ、チリダニの代表的なアレルゲンとしては、ヤケヒョウヒダニ(Dermatophagoides pteronyssinus)抗原(Der p) と コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)抗原(Der f)などが挙げられる。
明細書及び図面において、用語は、IUPAC-IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによるか、あるいは当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものである。
PBS: リン酸緩衝(化)食塩水(phosphate-buffered saline)
FITC: フルオレッセイン イソチオシアネート(fluorescein isothiocyanate)
RPMI: RPMI培地(動物細胞培養用基礎培地)
BSA: 牛血清アルブミン(bovine serum albumin)
mAb: モノクローナル抗体(monoclonal antibody)
【0031】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
なお、以下の実施例において、特に指摘が無い場合には、具体的な操作並びに処理条件などは、DNA クローニングではJ. Sambrook et al., "Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2nd edition (1989) & 3rd edition (2001) ", Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York及び D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1 to 4, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995); PCR 法を使用する場合には、H. A. Erlich ed., PCR Technology, Stockton Press, 1989 ; D. M. Glover et al. ed., "DNA Cloning", 2nd ed., Vol. 1, (The Practical Approach Series), IRL Press, Oxford University Press (1995) 及び M. A. Innis et al. ed., "PCR Protocols", Academic Press, New York (1990)に記載の方法に準じて行っているし、また市販の試薬あるいはキットを用いている場合はそれらに添付の指示書(protocols) や添付の薬品等を使用している。
G9NC(null)は、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)に開示され、PCT/JP 2005/006580の実施例1で製造取得されている。また、G8NC(null)は、PCT/JP2005/009211 (出願日: 2005.05.13) に開示され、PCT/JP2005/009211の実施例1で製造取得されている。
【実施例1】
【0032】
〔ガレクチン9によるCD44のリガンド(ヒアルロン酸)結合能の抑制〕
ヒアルロン酸結合性マウスT細胞株BW5147を用い、蛍光標識ヒアルロン酸との結合性をフローサイトメトリーにて解析した。その際、抗CD44抗体あるいは種々のガレクチンを共存させBW5147細胞のヒアルロン酸結合性に及ぼす影響を検討した。
ヒト未分化マスト細胞(肥満細胞)株HMC-1細胞(human mastocytoma cell line: HMC)あるいはマウス胸腺腫細胞株BW5147細胞(thymoma cell line)をPBS、抗CD44抗体(1μg)、あるいは種々のガレクチン(1μM)と4℃で15分間反応後、さらにFITC標識ヒアルロン酸と4℃で15分間反応させた。0.1%NaN3/1%FCS/PBSにて洗浄後、フローサイトメトリー(flow cytometry; FACS)を用いて細胞のヒアルロン酸結合能を解析した。細胞のヒアルロン酸結合能は平均蛍光強度(mean fluorescent intensity; MFI)で示した。得られた結果を図1に示す。
いずれの細胞もヒアルロン酸結合能を有し、抗CD44抗体(αCD44)およびガレクチン9(ga19: G9NC(null))の前処置によりヒアルロン酸結合能が有意に抑制された。しかし、ガレクチン1(gall)、ガレクチン3(ga13)、ガレクチン8(ga18)および糖鎖認識部位変異型ガレクチン9(ga19R65D)はヒアルロン酸結合能には影響を及ぼさなかった。また、ガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)の抑制効果はラクトース(30mM)の共存により消失した。かくして、BW5147細胞のヒアルロン酸結合能はCD44依存性であり、ガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)によりその結合は抑制された。また、この抑制効果はラクトース添加により消失した。
【実施例2】
【0033】
〔ガレクチン9によるヒアルロン酸に対する細胞接着の阻害〕
96-wellプレートをヒアルロン酸(5mg/mL)で4℃24時間インキュベートしコーティングする。PBSで3回洗浄後、1%BSA/RPMIで37℃2時間ブロッキングする。0.02%BSA/RPMIで3回洗浄後、調製した細胞をプレートに4×104/well入れ、37℃1時間インキュベートする。PBSで3回洗浄後、WST-1(Cell Proliferation Reagent, Roche)を添加し、37℃3時間インキュベート後、吸光度をプレートリーダーで計測する。
細胞の調製は、HMC-1細胞はMouse IgG(MIgG)10μg/mL,抗CD44抗体(αCD44mAb)10μg/mL、ガレクチン9(ga19)0.1μM、糖鎖認識部位変異型ガレクチン9(ga19R65D)0.1μM、ガレクチン9(ga19)0.1μM+ラクトース30mM(ga19+1actose)、あるいはガレクチン8(ga18)0.1μMを室温で30分間反応させた。
また、BW5147細胞はRat IgG(RIgG)10μg/mL、抗CD44抗体(αCD44mAb)10μg/mL、ガレクチン9(ga19: G9NC(null))0.03μM、糖鎖認識部位変異型ガレクチン9(ga19R65D)0.03μM、ガレクチン9(ga19: G9NC(null))0.03μM+ラクトース30mM(ga19+lactose)、あるいはガレクチン8(ga18)0.03μMを室温で30分間反応させた。ヒアルロン酸コーティングプレートヘの結合能はMIgGあるいはRIgG前処置群を100%として各群の結合能を示した。
得られた結果を図2に示した。抗CD44抗体およびガレクチン9(安定型ガレクチン9)前処置により細胞のヒアルロン酸コーティングプレートヘの接着は有意に抑制されたが、ga19R65Dおよびガレクチン8前処置は無効であった。また、このガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)の抑制作用はラクトースの添加により消失した。
【実施例3】
【0034】
〔ガレクチン9による喘息マウスモデルにおける気道過敏性の抑制〕
マウス(BALB/cマウス)にダニ抗原〔コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)抗原(Der f)〕を経鼻的に週1回、2週投与し感作を行う。3週目に同抗原をネブライザー吸入および経鼻的に投与し抗原チャレンジを行ないダニ抗原誘発マウス喘息モデルを作成した。抗原チャレンジの24時間前に抗CD44抗体(300μg)あるいはガレクチン9(G9NC(null): 100μg)を腹腔内投与し、抗原チャレンジの24時間後にメサコリン吸入した後気道過敏性の評価としてメサコリン吸入後の気道抵抗をDouble-flow plethysmograph system(PULMOS/MIPS)にて測定した。得られた結果を図3に示す。
PBS投与群(Sham)に比して抗原投与群(Vehicle)では有意に気道過敏性が亢進していた。この喘息モデルにおいてRat IgGを投与しても気道過敏性に影響を与えないが、抗CD44抗体を投与すると気道過敏性の亢進を有意に抑制した。さらにCD44機能抑制因子としてガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)を投与したところ、気道過敏性の亢進は抑制された。また、本喘息モデルの気道過敏性の亢進はデキサメサゾン(Dex)投与によっても抑制された。
抗原感作/Rat IgG投与/抗原チャレンジ(Der/RIgG)群ではPBS投与群に比して気道抵抗の有意な上昇を認め、抗CD44抗体投与あるいはガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)投与により有意に抑制された。
【実施例4】
【0035】
〔ガレクチン9による喘息マウスモデルにおける気道炎症の抑制〕
マウス(BALB/cマウス)にダニ抗原〔コナヒョウヒダニ(Dermatophagoides farinae)抗原(Der f)〕を経鼻的に週1回、2週投与し感作を行う。3週目に同抗原をネブライザー吸入および経鼻的に投与し抗原チャレンジを行ないダニ抗原誘発マウス喘息モデルを作成した。抗原チャレンジの24時間前に抗CD44抗体(300μg)あるいはガレクチン9(100μg)を腹腔内投与し、抗原チャレンジの48時間後に気管支肺胞洗浄(BAL)を行い、気道炎症の評価としてBAL中細胞を検討した(BAL液中の炎症細胞について検討)。得られた結果を図4に示す。
PBS投与群(PBS)に比して抗原投与群(Derf)ではリンパ球数および好酸球数が有意に増加していた。この喘息モデルにおいてRat IgGを投与してもBAL中リンパ球数および好酸球数に変化は認めないが抗CD44抗体を投与するとこれらの炎症細胞数の増加を有意に抑制した(図4(a))。さらにCD44機能抑制因子としてガレクチン9 (G9NC(null))を投与したところ、BAL中リンパ球数および好酸球数の増加は有意に抑制された(図4(b))。また、デキサメサゾン(Dex)投与によっても本喘息モデルにおけるBAL中リンパ球数および好酸球数の増加は有意に抑制された(図4(b))。
Der/RIgG群ではPBS投与群に比してBAL液中の好酸球数およびリンパ球数の有意な増加を認めた。これらのBAL液中の炎症細胞数の増加は抗CD44抗体投与あるいはガレクチン9(G9NC(null))の投与により有意に抑制された。
以上より、ガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)がCD44上の糖鎖と結合することでCD44のヒアルロン酸結合能が抑制された。さらにガレクチン9(特には、安定型ガレクチン9)投与により気管支喘息における気道炎症および気道過敏性の亢進を抑制できる可能性が示唆された。
【実施例5】
【0036】
上記実施例1〜4で使用のガレクチン9は、PCT/JP 2005/006580 (出願日2005.03.29)の実施例1で製造取得されている安定型ガレクチン9, G9NC(null)〔PCT/JP 2005/006580(出願日2005.03.29)の配列番号1で示される塩基配列によりコードされ、配列番号2で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド〕を使用した。
該安定型ガレクチン9(ガレクチン9改変体)、すなわちG9NC(null)は次のようにしても調製できる。
安定型ガレクチン9 (G9NC(null))の発現誘導は、pET-G9NC(null)でエレクトロポレーション法で形質転換した大腸菌(BL21(DE3))を2%(w/v)グルコース及び100 μg/mlアンピシリン含有2 x YT培地で培養し、600 nmの吸光度が0.7に達した時点でイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドを最終濃度0.15 mMになるように添加して行った。20℃で 22.5時間培養した後、遠心により菌体を集め、これを-80℃で精製まで保存した。凍結保存した菌体を10 mM Tris-HCl (pH7.5), 0.5 M NaCl, 1 mM DTT, 1 mM PMSF, 10 mM MgCl2, 25 μg/ml DNase, 0.2 mg/ml 卵白リゾチーム中によく懸濁した後に、最終濃度1%になるようにTriton X-100を加えて18分間超音波処理した。18,800 x gで75分間遠心し、得られた上清中の組み換えタンパク質をラクトースアガロースを用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製した後に、透析によってバッファーをPBSに置換した。これを0.22 μmの滅菌フィルターを通して沈殿物を除去した後に、セルロファイン ET-Clean L処理でエンドトキシンを除去し、さらに0.22 μmの滅菌フィルターを通して雑菌及び沈殿物を除去して G9NC(null) の最終標品とした。
【0037】
このようにして調製された G9NC(null) はタンパク質ポリアクリルアミド電気泳動で夾雑バンドを認めず、エンドトキシン量は 0.5 EU/ml 以下である。凍結・融解に安定で、4℃保存でも半年以上安定に生物活性を保持する。
ガレクチン9としては、ネイティブなL 型ガレクチン9、M 型ガレクチン9及びS 型ガレクチン9を「遺伝子組換え技術」を用い、宿主細胞中で発現して得られたリコンビナント体を使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、有効成分としてガレクチン9及びその改変体からなる群から選択されたものを含有せしめてなるCD44機能抑制因子、ガレクチン9及びその改変体からなる群から選択されたものが発揮するCD44機能抑制生物活性を利用して活性型CD44-ヒアルロン酸相互作用に起因する病気又は疾患に対する治療剤及び/又は予防剤、さらにはアレルギー疾患などのCD44の活性化に関連する疾患に対する治療剤及び/又は予防剤とすることにより、治療が困難な対象に対して、効果的に優れた活性を得ている。例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、接触性皮膚炎、リウマチなどを含む免疫性疾患、および炎症性疾患などを含む活性化CD44が発症に関与すると考えられている疾患の治療及び/又は予防技術が提供される。ガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))は、気管支喘息の治療に応用可能である。ガレクチン9及びその改変体(ヒト安定型ガレクチン9、例えば、G9NC(null))は、CD44の機能を抑制することで、副作用の少ない腫瘍転移抑制効果や炎症反応の制御による抗炎症剤、抗アレルギー剤、免疫抑制薬あるいは抗腫瘍剤として使用できる可能性を与えている。本発明では、ガレクチン9及びその改変体からなる群から選択されたものの遺伝子を導入することによる上記の作用効果を得る病気又は疾患治療及び/又は予防技術、さらにはアレルギー疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、悪性腫瘍疾患などの治療及び/又は予防技術も提供する。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】ガレクチン9(G9NC(null))によるCD44のリガンド(ヒアルロン酸)結合能に及ぼす作用効果をアッセイした結果を示す。ガレクチン9はCD44のリガンド(ヒアルロン酸)結合能を抑制した。
【図2】ガレクチン9(G9NC(null))によるヒアルロン酸に対する細胞接着に及ぼす作用効果をアッセイした結果を示す。ガレクチン9はヒアルロン酸に対する細胞接着を阻害した。
【図3】ガレクチン9(G9NC(null))による喘息マウスモデルにおける気道過敏性に及ぼす作用効果を調べた結果を示す。ガレクチン9は喘息疾患における気道過敏性を抑制した。
【図4】ガレクチン9(G9NC(null))による喘息マウスモデルにおける気道炎症に及ぼす作用効果を調べた結果を示す。ガレクチン9は喘息疾患における気道炎症を抑制した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものをCD44機能抑制因子として含有することを特徴とするCD44機能制御剤。
【請求項2】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものをコードする核酸をCD44機能抑制因子として含有することを特徴とするCD44機能制御剤。
【請求項3】
(a)CD44又はCD44発現細胞と(b)ヒアルロン酸又はヒアルロン酸含有物との間でのCD44-ヒアルロン酸結合を、ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを共存せしめることにより抑制することを特徴とするCD44機能制御法。
【請求項4】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものをコードする核酸をCD44発現細胞に遺伝子導入することを特徴とするCD44機能の制御された細胞の調製法。
【請求項5】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し、且つ、CD44のリガンド(ヒアルロン酸)に対する結合を抑制する及び/又は活性型CD44発現細胞がヒアルロン酸に接着すること(細胞接着)を阻害することを特徴とするCD44機能抑制剤。
【請求項6】
CD44発現細胞に、ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを接触せしめ、CD44の活性化により生ずる細胞接着を抑制することを特徴とする細胞接着の抑制法。
【請求項7】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し且つCD44の機能を制御することを特徴とする活性化CD44が発症に関与する病気又は疾患の治療及び/又は予防剤。
【請求項8】
病気又は疾患が、アレルギー疾患、免疫性疾患、炎症性疾患及び腫瘍疾患からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項7記載の治療及び/又は予防剤。
【請求項9】
病気又は疾患が、喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、接触性皮膚炎、リウマチなどを含むアレルギー疾患又は免疫性疾患、および炎症性腸疾患、間質性膀胱炎、腫瘍細胞の浸潤、転移又は増殖及びその他の活性化CD44が発症に関与する病気又は疾患からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項7記載の治療及び/又は予防剤。
【請求項10】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し且つCD44の活性化により生ずるヒアルロン酸結合能を抑制することを特徴とする活性化CD44が発症に関与する病気又は疾患の治療及び/又は予防剤。
【請求項11】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分として含有し且つCD44機能を制御することを特徴とする制癌剤。
【請求項12】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分又はCD44機能抑制因子として含有し且つCD44の機能を抑制することで、腫瘍転移効果、又は炎症反応の制御を行い、抗炎症薬、抗アレルギー薬、免疫抑制薬又は抗腫瘍薬であることを特徴とする薬剤。
【請求項13】
ガレクチン9、及びその改変体からなる群から選択されたものを有効成分又はCD44機能抑制因子として含有し且つ気道過敏性亢進及び/又は気道炎症といった気管支喘息における症状を抑制することを特徴とする抗喘息薬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−131540(P2007−131540A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323251(P2005−323251)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(500507630)株式会社ガルファーマ (7)
【Fターム(参考)】