説明

CMOSインバータ型高周波分周器

【課題】無線通信機器等に用いられるCMOSインバータ型高周波分周器を低消費電流にて実現する。
【解決手段】各々インバータ及び1つ以上のスイッチから構成された第1〜第4のラッチ機能付インバータ4,5,6,7と、第1及び第2のトランス8,9とで分周器を構成する。従来用いていた“2つのインバータを正帰還にして構成されたラッチ”は、不要となり、その代役としてトランス8,9を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機器等に用いられるCMOSインバータ型高周波分周器に関し、より特定的には、その消費電流の低減に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、無線LAN、第三世代携帯電話、及びデジタル放送の無線通信ICの技術として、CMOSプロセスを用いたICの提案が主流になりつつある。GHz帯の周波数を分周する高周波分周器にも同様にCMOSプロセスが用いられるようになった。
【0003】
図6は、従来技術におけるCMOSプロセスを用いた高周波分周器のブロック図であり、差動入力信号であるCLK、CLKBの周波数を半分の周波数に変換して出力する2分周器である。構成は、ラッチ機能付インバータ1、ラッチ機能付インバータ2、インバータ3の3つのブロックを備えている。
【0004】
インバータ3は、入力の信号の反転信号を出力する機能ブロックであるが、ラッチ機能付インバータ1及びラッチ機能付インバータ2は、インバータに加えて、ON/OFFの機能を持ったスイッチを備えている。これにより、ラッチ機能付インバータ1は、スイッチがONのときのみ通常のインバータ動作をし、スイッチがOFFのときは、OFFになる直前の出力の状態を保つ。
【0005】
図7は、従来技術におけるCMOSプロセスを用いた高周波分周器の動作説明図である。差動入力信号であるCLKが“H”のときにラッチ機能付インバータ1がインバータとして動作状態である。その間、ラッチ機能付インバータ2は、出力の保持状態である。同様に、CLKが“L”のときにラッチ機能付インバータ1が出力の保持状態である。その間、ラッチ機能付インバータ2がインバータとして動作状態である。
【0006】
図7に示したように、入力信号であるCLKが“H”と“L”の期間に応じて、ラッチ機能付インバータ1及び2は、“出力の保持状態”と“インバータ動作状態”とを繰り返す。結果、ラッチ機能付インバータ1及び2の各出力IP及びQPは、入力信号であるCLKの2倍の周期の出力波形を生成している。
【0007】
また、高周波分周器の出力として、差動信号を得るためのブロック構成図として、図8及び図9が提案されている(非特許文献1、非特許文献2参照)。
【0008】
図8において、4、5、6、7はラッチ機能付インバータであり、17、18は2つのインバータを正帰還にして構成されたラッチである。また、図9において、10、11、12、13はラッチ機能付インバータであり、17、18は2つのインバータを正帰還にして構成されたラッチである。
【0009】
図8及び図9に示した差動出力の高周波分周器の動作原理は、図6及び図7で示した片相出力の高周波分周器と同様である。しかし、図6にて存在していたインバータ3が図8及び図9では存在しない。この理由は、図8及び図9の構成では、図6にて存在していたインバータ3の機能を得るために、お互いに反転関係にある出力QPと出力QNとをフィードバックするためである。つまり、分周器として正常に動作するには、QPとQNとの間及びIPとINとの間の位相は、必ず反転関係にある必要がある。このため、図8及び図9には、ラッチ16、ラッチ17が必須である。
【0010】
図8中のラッチ16は、IPが“H”のとき、INを“L”にしようと動作し、更にラッチ機能付インバータ4からの信号がなければ、常にその状態を保持しようとする。しかし、ラッチ機能付インバータ4がインバータとして動作状態であるとき、その出力が、ラッチ16が現在の状態を保持しようとする力を上回ったときに、ラッチ16は、保持状態を反転させる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C.−M. Hung, et al.,“An Ultra Low Phase Noise GSM Local Oscillator in a 0.09−μm Standard Digital CMOS Process with No High−Q Inductors”, IEEE RFIC Symp., pp.483−486, 2004
【非特許文献2】S. Peng, et al.,“A Wide−Band Mixer for WCDMA/CDMA2000 in 90nm Digital CMOS Process”, IEEE RFIC Symp., pp.179−182, 2005
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そもそも、図8及び図9に存在するラッチ16、ラッチ17の目的は、QPとQNとの間及びIPとINとの間の位相を、必ず反転関係にするためだけである。しかし、その弊害として、ラッチ16、ラッチ17での消費電流の増加を伴ってしまう。更に、ラッチ機能付インバータ4,5,10,11から見ると、ラッチ16、ラッチ17は、QP、QN、IP、INの出力論理を反転させる際の負荷として見えてしまい、分周器が許容する動作周波数の上限を劣化させてしまっていた。
【0013】
本発明の目的は、無線通信機器等に用いられるCMOSインバータ型高周波分周器を低消費電流にて実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記弊害を解決するために、本発明の高周波分周器は、各々インバータ及び1つ以上のスイッチから構成された第1〜第4のラッチ機能付インバータと、第1及び第2のトランスとから構成される。従来用いていた“2つのインバータを正帰還にして構成されたラッチ”は、不要となり、その機能を賄うものとして、トランス(変圧器)が用いられる。
【発明の効果】
【0015】
上述のように、本発明によれば、“2つのインバータを正帰還にして構成されたラッチ”は、不要となる。結果、消費電流の増大がなくなり、分周器が許容する動作周波数の上限の劣化もなくなる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るCMOSインバータ型分周器(差動出力)の構成図である。
【図2】本発明のCMOSインバータ型分周器(差動出力)の動作タイミング図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るCMOSインバータ型分周器(差動出力)の構成図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るCMOSインバータ型分周器(差動出力)の構成図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るCMOSインバータ型分周器(差動出力)の構成図である。
【図6】従来のCMOSインバータ型分周器(片相出力)の構成図である。
【図7】従来のCMOSインバータ型分周器(片相出力)の動作タイミング図である。
【図8】従来のCMOSインバータ型分周器(差動出力)の構成図である。
【図9】従来のCMOSインバータ型分周器(差動出力)の他の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0018】
《第1の実施形態》
まず、本発明の第1の実施形態を、図1、図2を参照しながら説明する。
【0019】
図1の高周波分周器は、各々インバータ及び1つ以上のスイッチから構成されたラッチ機能付インバータ4,5,6,7と、トランス8,9とで構成される。
【0020】
図2によれば、期間t0では、ラッチ機能付インバータ4及び6がデータ保持状態、ラッチ機能付インバータ5及び7がインバータ動作状態である。ラッチ機能付インバータ4の入力であるQNは“L”であるから、その反転論理であるQPは“H”である。
【0021】
期間t1になると、周波数を分周される入力信号であるCLKが“H”、CLKBが“L”となり、ラッチ機能付インバータ4及び6がインバータ動作状態、ラッチ機能付インバータ5及び7がデータ保持状態となる。ラッチ機能付インバータ4の入力であるQNは“L”、QPは“H”であるから、インバータ動作状態にあるラッチ機能付インバータ4及び6は、それぞれ入力信号の反転信号を出力する。つまり、INは“H”から“L”へ、またIPは“L”から“H”へと変化する。なお、データ保持状態であるラッチ機能付インバータ5及び7の出力QP,QNは、期間t0の状態を保持している。
【0022】
期間t2になると、周波数を分周される入力信号であるCLKが“L”、CLKBが“H”となり、ラッチ機能付インバータ4及び6がデータ保持状態、ラッチ機能付インバータ5及び7がインバータ動作状態となる。ラッチ機能付インバータ5の入力であるIPは“H”、INは“L”であるから、インバータ動作状態にあるラッチ機能付インバータ5及び7は、それぞれ入力信号の反転信号を出力する。つまり、QPは“H”から“L”へ、またQNは“L”から“H”へと変化する。データ保持状態であるラッチ機能付インバータ4及び6の出力IP,INは、期間t1の状態を保持している。
【0023】
期間t3になると、周波数を分周される入力信号であるCLKが“H”、CLKBが“L”となり、ラッチ機能付インバータ4及び6がインバータ動作状態、ラッチ機能付インバータ5及び7がデータ保持状態となる。ラッチ機能付インバータ4の入力であるQNは“H”、QPは“L”であるから、インバータ動作状態にあるラッチ機能付インバータ4及び6は、それぞれ入力信号の反転信号を出力する。つまり、INは“L”から“H”へ、またIPは“H”から“L”へと変化する。データ保持状態であるラッチ機能付インバータ5及び7の出力QP,QNは、期間t2の状態を保持している。
【0024】
期間t4になると、周波数を分周される入力信号であるCLKが“L”、CLKBが“H”となり、ラッチ機能付インバータ4及び6がデータ保持状態、ラッチ機能付インバータ5及び7がインバータ動作状態となる。ラッチ機能付インバータ5の入力であるIPは“L”、INは“H”であるから、インバータ動作状態にあるラッチ機能付インバータ5及び7は、それぞれ入力信号の反転信号を出力する。つまり、QPは“L”から“H”へ、またQNは“H”から“L”へと変化する。データ保持状態であるラッチ機能付インバータ4及び6の出力IP,INは、期間t3の状態を保持している。
【0025】
期間t5になると、周波数を分周される入力信号であるCLKが“H”、CLKBが“L”となり、ラッチ機能付インバータ4及び6がインバータ動作状態、ラッチ機能付インバータ5及び7がデータ保持状態となる。ラッチ機能付インバータ4の入力であるQNは“L”、QPは“H”であるから、インバータ動作状態にあるラッチ機能付インバータ4及び6は、それぞれ入力信号の反転信号を出力する。つまり、INは“H”から“L”へ、またIPは“L”から“H”へと変化する。データ保持状態であるラッチ機能付インバータ5及び7の出力QP,QNは、期間t4の状態を保持している。
【0026】
なお、IP、IN、QP、QNの電圧変化の際、トランス8及び9には電流が流れる。この電流は、ラッチ機能付インバータ4及び6又はラッチ機能付インバータ5及び7の入力容量に充放電される駆動電流となる。トランス8,9の特徴として、1次側と2次側との巻き数が等しいとき、1次側と2次側とを流れる電流が等しく、どちらの端子から取出すかによって、1次側に流れる電流の逆位相電流を2次側で得ることができる。このため、トランス8,9は、図8、図9に示したラッチ16,17と同様の機能を果たすことができる。更に、トランス8,9は、受動素子であるため、図8、図9に示したラッチ16,17と違って駆動電流以外の電流を消費しない。結果、低消費電流化を図ることができる。
【0027】
《第2の実施形態》
次に、本発明の第2の実施形態を、図3を参照しながら説明する。
【0028】
図3の構成は、図1と比べて、トランス8,9の接続が異なる。図1では、ラッチ機能付インバータ4及び6がインバータ動作状態のとき、ラッチ機能付インバータ4及び6が直接的に、ラッチ機能付インバータ5及び7の入力容量を充放電していた。あるいは、ラッチ機能付インバータ5及び7がインバータ動作状態のとき、ラッチ機能付インバータ5及び7が直接的に、ラッチ機能付インバータ4及び6の入力容量を充放電していた。しかし、図3の構成では、ラッチ機能付インバータ4及び6がインバータ動作状態のとき、ラッチ機能付インバータ4の出力が“H”かつラッチ機能付インバータ6の出力が“L”、あるいはラッチ機能付インバータ4の出力が“L”かつラッチ機能付インバータ6の出力が“H”になった瞬間に、ラッチ機能付インバータ4から6へ、あるいはラッチ機能付インバータ6から4へ、トランス8を経由して電流(1次電流)が流れる。この電流がトランス8を伝わり2次側へ伝達される。この2次電流がラッチ機能付インバータ5及び7の入力容量を充放電する。なお、1次側に流れる電流の逆位相電流を2次側で得る点は、図1と同様である。このようにして、図8、図9に示したラッチ16,17と同様の機能を果たすことができる。同様にトランス8,9は、受動素子であるため、図8、図9に示したラッチ16,17と違って駆動電流以外の電流を消費しない。結果、低消費電流化を図ることができる。
【0029】
なお、動作の時間波形である図2に関しては、図1と同様である。
【0030】
《第3及び第4の実施形態》
最後に、本発明の第3及び第4の実施形態を、図4、図5を参照しながら説明する。
【0031】
図4、図5に示した本発明の第3及び第4の実施形態は、前述の図1、図3に示した本発明の第1及び第2の実施形態と比べて、ラッチ機能付インバータ10,11,12,13が異なる。しかし、トランス14,15の接続は第1及び第2の実施形態と同様であり、機能と動作の時間波形である図2に関しては、図1と同様である。図4、図5に示した本発明の第3及び4の実施形態の特徴は、例えばラッチ機能付インバータ10の構成では、インバータの出力に、直列にON/OFFの機能を持ったスイッチを備えている。これにより、図1、図3に示した本発明の第1及び第2の実施形態と比べて、より低電源電圧動作に有効である。
【0032】
本発明の第1〜第4の実施形態に係る高周波分周器によれば、従来と比べて約30%低消費電流かつ分周器が許容する動作周波数の上限が30%高い高周波分周器が実現できる。
【0033】
なお、本発明は、非特許文献2で示されたような4分周へも適用できる。
【0034】
また、例えば図1中のトランス8,9のうちいずれか一方を、“2つのインバータを正帰還にして構成されたラッチ”に置き換えることは可能である。
【0035】
また、上記第1〜第4の実施形態に係る高周波分周器(差動出力)は、片相出力への変形が可能である。
【0036】
また、上記第1〜第4の実施形態に係る高周波分周器の分周比は一定の整数値である“2”に固定されていたが、分周比を可変とすることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、無線通信機器等に利用可能であり、特にCMOSプロセスによる高周波分周器を低消費電力で実現させたい場合等に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1,2 ラッチ機能付インバータ
3 インバータ
4,5,6,7 ラッチ機能付インバータ
8,9 トランス
10,11,12,13 ラッチ機能付インバータ
14,15 トランス
16,17 ラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々インバータ及び1つ以上のスイッチから構成された第1〜第4のラッチ機能付インバータと、第1及び第2のトランスとから構成された分周器であって、
前記第1のラッチ機能付インバータの出力が前記第1のトランスの1次側の第1の入力に接続され、前記第2のラッチ機能付インバータの出力が前記第1のトランスの2次側の第1の入力に接続され、前記第3のラッチ機能付インバータの入力が前記第1のトランスの1次側の第2の入力に接続され、前記第4のラッチ機能付インバータの入力が前記第1のトランスの2次側の第2の入力に接続され、
前記第3のラッチ機能付インバータの出力が前記第2のトランスの1次側の第1の入力に接続され、前記第4のラッチ機能付インバータの出力が前記第2のトランスの2次側の第1の入力に接続され、前記第2のラッチ機能付インバータの入力が前記第2のトランスの1次側の第2の入力に接続され、前記第1のラッチ機能付インバータの入力が前記第2のトランスの2次側の第2の入力に接続され、
前記第1及び第2のトランスの1次側と2次側とで180度信号の位相が異なることを特徴とする分周器。
【請求項2】
各々インバータ及び1つ以上のスイッチから構成された第1〜第4のラッチ機能付インバータと、第1及び第2のトランスとから構成された分周器であって、
前記第1のラッチ機能付インバータの出力が前記第1のトランスの1次側の第1の入力に接続され、前記第2のラッチ機能付インバータの出力が前記第1のトランスの1次側の第2の入力に接続され、前記第3のラッチ機能付インバータの入力が前記第1のトランスの2次側の第1の入力に接続され、前記第4のラッチ機能付インバータの入力が前記第1のトランスの2次側の第2の入力に接続され、
前記第3のラッチ機能付インバータの出力が前記第2のトランスの1次側の第1の入力に接続され、前記第4のラッチ機能付インバータの出力が前記第2のトランスの1次側の第2の入力に接続され、前記第2のラッチ機能付インバータの入力が前記第2のトランスの2次側の第1の入力に接続され、前記第1のラッチ機能付インバータの入力が前記第2のトランスの2次側の第2の入力に接続され、
前記第1及び第2のトランスの1次側と2次側とで180度信号の位相が異なることを特徴とする分周器。
【請求項3】
前記第1〜第4のラッチ機能付インバータのうち、第1及び第2のラッチ機能付インバータの出力、又は第3及び第4のラッチ機能付インバータの出力にのみ前記トランスが接続されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の分周器。
【請求項4】
前記分周器の出力が差動出力であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分周器。
【請求項5】
前記分周器の出力が片相出力であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の分周器。
【請求項6】
分周比が整数であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の分周器。
【請求項7】
分周比が可変であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の分周器。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の分周器を用いた無線通信機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−182364(P2011−182364A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−47535(P2010−47535)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】