説明

CNSにおけるイズロン酸2−スルファターゼ活性を増加させるための方法および組成物

本出願は、CNSにおけるイズロン酸 2−スルファターゼ欠乏症を患っている対象を治療するための方法および組成物を提供する。該方法は、血液脳関門(BBB)を通過する抗体およびイズロン酸 2−スルファターゼを含む二機能性の融合抗体の全身投与を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本出願は、35U.S.C.§119(e)の下、2009年10月9日に出願された米国仮出願第61/250,378号、および2009年10月29日に出願された米国仮出願第61/256,049号の利益を主張するものであって、両出願はそれらの全体において参照することによって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ムコ多糖症(MPS)II型は、ハンター症候群としても知られており、ムコ多糖を分解する機能を果たす酵素イズロン酸 2−スルファターゼ(IDS)の欠損に起因する遺伝性代謝疾患である。不十分なレベルのIDSは、例えば、心臓、肝臓、および中枢神経系(CNS)において、ヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸の病理学的蓄積を引き起こす。神経変性および精神遅滞を含む症状が小児期に現れる;さらに、脳内の臓器障害に起因して、早期死亡が起こりえる。典型的には、治療は組換えIDSによる静脈内酵素補充療法を含む。しかしながら、全身投与された組換えIDSは血液脳関門(BBB)を通過せず、それゆえCNSにおける疾患の作用に対してほとんど影響がない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
発明の概略
本明細書は、イズロン酸 2−スルファターゼ(「IDS」)欠乏症を患っている対象を治療するための方法および組成物を記載している。本明細書で提供する組成物は、血液脳関門(BBB)を通過することができる構造(例えば、抗体、免疫グロブリン)と融合したIDSポリペプチドを含む融合抗体を含む。いくつかの実施態様では、BBBを通過することができる構造は、内在性BBB受容体上でBBBを通過する。いくつかの実施態様では、内在性BBB受容体はインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびIGF受容体である。いくつかの実施態様では、内在性BBB受容体はインスリン受容体である。いくつかの実施態様では、該方法は、二機能性のヒトインスリン受容体抗体(例えば、HIR Ab)−IDS融合抗体の治療的有効量を全身投与することによって、CNSへのIDSの送達を可能にする。いくつかの実施態様では、HIR Ab−IDS融合抗体はインスリン受容体の細胞外ドメインに結合し、血液脳関門(「BBB」)を越えてCNS内へ輸送され、一方で、イズロン酸 2−スルファターゼ活性を保持している。いくつかの実施態様では、HIR AbはBBB上の内在性インスリン受容体に結合し、分子的トロイの木馬として作用し、IDSを脳内へ運ぶ。全身投与のためのHIR Ab−IDS融合抗体の治療的に有効な全身投与量(systemic dose)は、本明細書に記載されているように、部分的には、末梢血からの融合抗体の特異的CNS取り込み特性に基づいている。
【0004】
いくつかの実施態様では、本発明は血液脳関門(BBB)を通過することができる構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)と共有結合しているIDSを含有する組成物であって、該構造およびIDSが、それぞれ独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している組成物を提供する。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも30%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも40%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも50%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも60%を保持している。
【0005】
いくつかの実施態様では、IDSを含む融合抗体は、スルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって翻訳後修飾されている。いくつかの実施態様では、翻訳後修飾はシステインをホルミルグリシンへ変換することを含む。いくつかの実施態様では、融合抗体はホルミルグリシン残基を含む。
【0006】
1つの態様では、本明細書は、治療を必要とする対象の中枢神経系におけるIDS欠乏症を治療する方法であって、IDS活性を有する融合抗体の治療的有効量を対象に全身投与することを含む方法を提供する。本態様のいくつかの実施態様では:(i)融合抗体は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列、IDSのアミノ酸配列、および免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列を含み;(ii)融合抗体は、ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに結合し、かつ、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸またはヘパリンのL−イズロン酸 2−硫酸(L-iduronate 2-sulfate)単位の2−硫酸基の加水分解を触媒し;かつ、(iii)IDSのアミノ酸配列は、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している。いくつかの実施態様では、免疫グロブリン重鎖はIgGの免疫グロブリン重鎖である。いくつかの実施態様では、免疫グロブリン重鎖はκクラスの免疫グロブリン重鎖である。
【0007】
いくつかの実施態様では、少なくとも約250,000ユニットのIDS活性が脳に送達されるが、ここで蛍光定量的アッセイを用いると1ユニット=1nmol/hrである。いくつかの実施態様では、融合抗体の治療的有効量は、少なくとも約2.5x10ユニットのIDS活性または少なくとも約50,000ユニット/Kg体重を含む。いくつかの実施態様では、融合抗体のIDS比活性は少なくとも30,000ユニット/mgである。いくつかの実施態様では、全身投与は非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経鼻投与、動脈内投与、経皮投与、または呼吸器投与である。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された(normalized per 50 kg body weight)、少なくとも約25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000、200,000、210,000、220,000、230,000、250,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。
【0008】
いくつかの実施態様では、融合抗体はキメラ抗体である。
【0009】
いくつかの実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、最大4個の単一アミノ酸変異を有する配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、最大6個の単一アミノ酸変異を有する配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、または最大3個の単一アミノ酸変異を有する配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含み、ここで単一アミノ酸変異は置換、欠失、または挿入である。
【0010】
他の実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、最大3個の単一アミノ酸変異を有する配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、最大6個の単一アミノ酸変異を有する配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、および最大3個の単一アミノ酸変異を有する配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0011】
他の実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0012】
さらなる実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0013】
いくつかの実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、最大3個の単一アミノ酸変異を有する配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、最大5個の単一アミノ酸変異を有する配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、または最大5個の単一アミノ酸変異を有する配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含み、ここで単一アミノ酸変異は置換、欠失、または挿入である。
【0014】
他の実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、最大3個の単一アミノ酸変異を有する配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、最大5個の単一アミノ酸変異を有する配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、および最大5個の単一アミノ酸変異を有する配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0015】
他の実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0016】
さらなる実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0017】
いくつかの実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は、配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、および配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含み;かつ、免疫グロブリン軽鎖は、配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、および配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む。
【0018】
いくつかの実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7と少なくとも90%同一であり、かつ、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも90%同一である。
【0019】
いくつかの実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖は配列番号7を含み、かつ、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含む。
【0020】
さらなる実施態様では、IDSは配列番号9と少なくとも90%(例えば、95%、または100%)同一のアミノ酸配列を含む。
【0021】
他の実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列は、配列番号7と少なくとも90%同一であり;免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列は配列番号8と少なくとも90%同一であり;かつ、IDSのアミノ酸配列は配列番号9と少なくとも95%同一であるか、または配列番号9を含む。
【0022】
さらに他の実施態様では、融合抗体の免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含み、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列は配列番号8を含み、かつ、IDSのアミノ酸配列は配列番号9を含む。
【0023】
いくつかの態様では、本明細書は、融合抗体の治療的有効量および医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0024】
いくつかの態様では、本明細書は、融合抗体をコードしている単離されたポリヌクレオチドを提供する。いくつかの実施態様では、単離されたポリヌクレオチドは配列番号14の核酸配列を含む。
【0025】
いくつかの実施態様では、本明細書は、融合抗体をコードしている単離されたポリヌクレオチドを含むベクターを提供する。いくつかの実施態様では、ベクターは配列番号14の核酸配列を含む。
【0026】
いくつかの実施態様では、本明細書は、融合抗体をコードしている単離されたポリヌクレオチドを含むベクターを含む宿主細胞を提供する。いくつかの実施態様では、宿主細胞はチャイニーズハムスター卵巣(CHO)である。
【0027】
さらなる態様では、本明細書は、治療を必要とする対象の中枢神経系におけるIDS欠乏症を治療する方法であって、IDS活性を有する融合抗体の治療的有効量を対象に全身投与することを含む方法であって、(i)融合抗体が:(a)配列番号10と少なくとも95%同一の融合タンパク質、および(b)免疫グロブリン軽鎖を含み;かつ、(ii)融合抗体がヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに結合し、かつ、デルマタンまたはヘパラン硫酸における結合の加水分解を触媒する、方法を提供する。
【0028】
さらに別の態様では、本明細書は、治療を必要とする対象の中枢神経系におけるIDS欠乏症を治療する方法であって、IDS活性を有する融合抗体の治療的有効量を対象に全身投与することを含む方法であって、
(i)融合抗体が免疫グロブリン重鎖およびIDSのアミノ酸配列を含有する融合タンパク質を含むか、または免疫グロブリン軽鎖およびIDSのアミノ酸配列を含有する融合タンパク質を含み;融合抗体がヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに結合し;かつ、融合抗体がデルマタンまたはヘパラン硫酸における結合の加水分解を触媒し;かつ、(ii)IDSのアミノ酸配列が免疫グロブリン重鎖または免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している、方法を提供する。
【0029】
参照による援用
本明細書中で言及されている全ての出版物、特許、および特許出願は、個々の出版物、特許、または特許出願が参照することによって援用されることを具体的かつ個々に示されている場合と同一の範囲まで、参照することによって本明細書に援用される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲にて詳細に説明されている。本発明の特徴および利点のより良い理解は、本発明の原理が利用されている実例となる実施態様を説明する下記の詳細な記載、および下記の通り説明される添付の図面を参照することにより得られるであろう:
【0031】
【図1】ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに対する代表的なヒトインスリン受容体抗体に由来する、免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列可変領域。下線を引いた配列は、それぞれシグナルペプチド、CDR1、CDR2、およびCDR3である。ヒトIgG1から採取した重鎖定常領域は、イタリック体で示している。
【0032】
【図2】ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに対する代表的なヒトインスリン受容体抗体に由来する、免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列可変領域。下線を引いた配列は、それぞれシグナルペプチド、CDR1、CDR2、およびCDR3である。ヒトκ軽鎖に由来する定常領域は、イタリック体で示している。
【0033】
【図3】ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに対する代表的なヒトインスリン受容体抗体の重鎖および軽鎖に由来する、CDR1、CDR2、およびCDR3アミノ酸配列を示す表。
【0034】
【図4】最初の25個のアミノ酸のシグナルペプチドを含まないヒトイズロン酸 2−スルファターゼ(IDS)(成熟IDS)のアミノ酸配列(ジェンバンクNP_000193)。
【0035】
【図5】代表的なヒトインスリン受容体抗体重鎖と成熟ヒトIDSの融合のアミノ酸配列。下線を引いた配列は、順にIgGシグナルペプチド、CDR1、CDR2、CDR3、および重鎖のカルボキシ末端とIDSのアミノ末端を結合するペプチドリンカーである。イタリック体の配列は、ヒトIgG1から採取した重鎖定常領域に相当する。太字の配列は、ヒトIDSに相当する。
【0036】
【図6】代表的なHIR Ab−IDS融合抗体は、成熟IDSのアミノ末端とHIR Abの重鎖のCH3領域のカルボキシル末端の融合によって形成される。
【0037】
【図7】融合抗体が分子的トロイの木馬(TH)として作用する、ヒトインスリン受容体(IR)の細胞外ドメインに対する抗体、およびリソソーム酵素(E)であるIDSを含む、「分子的トロイの木馬」戦略の模式図。
【0038】
【図8】(A)ヒト肝臓cDNA、およびIDS特異的プライマー(表2)によるPCRによって作製された、ヒトIDS cDNAのアガロースゲルのエチジウムブロマイド染色(レーン1)。レーン2および3:PhiX174 HaeIII消化DNAスタンダード、およびλHindIII消化DNAスタンダード。(B)HIRMAb−IDS融合タンパク質の重鎖はpCD−HIRMAb−IDSプラスミドによって発現され、ここで該プラスミドはpCD−HIRMAb−HCプラスミドのHpaI部位にIDS cDNAをサブクローニングすることによって作製される。
【0039】
【図9】分子量標準(STD)、精製HIRMAb、および精製HIRMAb−IDS融合タンパク質のSDS−PAGE。
【0040】
【図10】抗ヒト(h)IgG一次抗体(A)または抗ヒトIDS一次抗血清(B)でのウエスタンブロット。HIRMAb−IDS融合タンパク質の免疫反応性をキメラHIRMAbおよび組換えヒトIDSと比較している。HIRMAb−IDS融合タンパク質およびHIRMAbは、いずれも抗hIgGウエスタン上に同一の軽鎖を有している。HIRMAb−IDS融合重鎖は抗hIgGおよび抗ヒトIDS抗体の両方と反応するが、一方、HIRMAb重鎖は抗hIgG抗体のみと反応する。HIRMAb−IDS融合重鎖のサイズ130kDaは、HIRMAbの重鎖のサイズよりも約80kDa大きいが、これは80kDaのIDSと50kDaのHIRMAb重鎖の融合によるものである。
【0041】
【図11】キメラHIRMAbまたはHIRMAb−IDS融合タンパク質とHIR細胞外ドメイン(ECD)の結合は、飽和性(saturable)である。HIR ECDへのHIRMAb−IDS結合のED50は、キメラHIRMAbの結合のED50に匹敵する。
【0042】
【図12】(A)IDS酵素活性の2ステップ酵素蛍光定量的アッセイの基質(4−MUS)、中間体(MUBI)、および生成物(4−MU)。(B)蛍光定量的ユニット(FU)は精製HIRMAb−IDS融合タンパク質の質量に比例し、融合タンパク質の平均酵素比活性は51±7nmol/hr/ugタンパク質であるが、これは51ユニット/ugタンパク質、または51,000ユニット/mgタンパク質に等しい。
【0043】
【図13】ハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)において、細胞内IDS酵素活性は、培地の(medium)HIRMAb−IDS融合タンパク質の濃度に比例して増加する。データは平均値±標準誤差(n=3ディッシュ/ポイント)である。水平バーは健常なヒト線維芽細胞におけるIDS酵素活性である(平均値±標準偏差)。
【0044】
【図14】培地中の0.3ug/mLのHIRMAb−IDS融合タンパク質の1回処理による、ハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)におけるグリコサミノグリカン(GAG)蓄積の好転。健常なヒト線維芽細胞における35S取り込みと比較して、GAG蓄積の84%減少が見られる(p<0.0005)。データは平均値±標準誤差である(n=4ディッシュ/ポイント)。
【0045】
【図15】重鎖(HC)融合遺伝子、軽鎖(LC)遺伝子、DHFR遺伝子、およびneo遺伝子をコードしている4つに分離したタンデム発現カセットをコードしている、遺伝子組換えタンデムベクター(TV−HIRMAb−IDS)。
【0046】
【図16】代表的なHIRMAb−IDS融合抗体の免疫グロブリン軽鎖(LC)領域のヌクレオチド配列。
【0047】
【図17】代表的なHIRMAb−IDS融合抗体の免疫グロブリン重鎖(HC)領域のヌクレオチド配列。
【0048】
【図18】代表的なHIRMAb−IDS融合抗体のDHFR領域のヌクレオチド配列。
【0049】
【図19】代表的なHIRMAb−IDS融合抗体の免疫グロブリン軽鎖(LC)領域のアミノ酸配列。
【0050】
【図20】代表的なHIRMAb−IDS融合抗体のDHFR領域のアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0051】
発明の詳細な記載
イントロダクション
血液脳関門(BBB)は、全身投与されたIDS(例えば、組換えIDS)の中枢神経系への送達に対する深刻な障害である。本開示は、治療的に有意なレベルのIDS活性を、BBBを越えてCNSに送達するための方法および組成物を提供する。いくつかの実施態様では、IDSはBBBを通過することができるように修飾されている。いくつかの実施態様では、全身投与された修飾IDSのCNS内への取り込みの量および速度が提供される。いくつかの実施態様では、IDSは修飾後またはBBB通過後に特定の活性を保持している。本開示は、とりわけ、以下を提供する:(1)BBBを通過することができる免疫グロブリン(重鎖または軽鎖)に(介在配列を介して、または介さずに)融合したIDSを含むIDS融合抗体、ならびに関連する方法および組成物;(2)ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに対する免疫グロブリン(重鎖または軽鎖)に(介在配列を介して、または介さずに)融合したIDSを含むヒトインスリン受容体(HIR)抗体(Ab)−IDS融合抗体、ならびに関連する方法および組成物;(3)IDS欠乏症を治療する方法;ならびに(4)治療的に有効な融合抗体の全身投与量(systemic doses)を、CNSにおけるそれらの取り込みおよびそれらの比活性の特徴付けに基づいて確立する方法。いくつかの実施態様では、本発明は、IDS活性を有し、かつ、受容体媒介BBB輸送系(例えば、ヒトインスリン受容体の細胞外ドメイン)に選択的に結合する二機能性のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)の治療的有効量を、治療を必要とする対象に全身投与することによって中枢神経系におけるIDS欠乏症を治療する組成物および方法を提供する。
【0052】
いくつかの定義
本明細書で用いられている「治療」または「治療すること」は、治療効果および/または予防効果を達成することを含む。治療効果は、治療されている基礎的な障害または状態の根絶または改善を意味する。例えば、ハンター症候群を患っている個体において、治療効果は障害の進行の部分的もしくは完全な停止、または障害の部分的もしくは完全な好転を含む。また、治療効果は、基礎的な状態と関連する生理的または心理的症状の1つ以上の根絶または改善と共に達成されるため、患者が依然として該状態を患っている可能性があるという事実にもかかわらず、患者に改善が観察される。治療の予防効果は、状態の予防、状態の進行の遅延(例えば、リソソーム蓄積症の進行の遅延)、または状態の発生の可能性の減少を含む。本明細書で用いられている「治療すること」または「治療」は、予防を含む。
【0053】
本明細書で用いられている用語「有効量」は、全身投与された場合に、CNSにおいて有利な、または所望の結果、例えば有利な、もしくは所望の臨床結果、もしくは認知、記憶、気分の上昇、または他の所望のCNS結果を達成するために十分な量であってよい。有効量は、予防効果を生じる量でもあり、例えば、病理学的状態または望ましくない状態の出現を遅延、減少、または除去する量である。該状態は、限定されるものではないが、精神遅滞、難聴、および神経変性を含む。有効量は1つ以上の投与にて投与されてよい。治療に関して、本発明の組成物の「有効量」は、障害、例えば神経障害の進行を緩和、改善、安定化、逆転または遅延させるために十分な量である。「有効量」は、単独で、または疾患もしくは障害を治療するために用いられる1つ以上の薬剤と併用して用いられる本発明の組成物のいずれかの量であってよい。本発明の意味の範囲内にある治療薬の「有効量」は、患者の主治医または獣医師によって決定される。該量は当業者によって容易に特定され、本発明に従って投与された場合に治療効果を示すであろう。治療的有効量がどの程度の量になるかに影響する因子は、投与されるIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)のIDS比活性、その吸収特性(例えば、その脳内への取り込み速度)、障害の開始からの経過時間、ならびに治療されている個体の年齢、身体的状態、他の疾患状態の存在、および栄養状態を含む。さらに、患者が摂取している可能性がある他の薬物は、投与される治療薬の治療的有効量の決定に影響するであろう。
【0054】
本明細書で用いられている「対象」または「個体」は動物、例えば哺乳類である。いくつかの実施態様では、「対象」または「個体」はヒトである。いくつかの実施態様では、対象はムコ多糖症II型(「ハンター症候群」)を患っている。
【0055】
いくつかの実施態様では、IDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS融合抗体)を含む薬理組成物は、「末梢投与される(administered peripherally)」か、または「末梢投与される(peripherally administered)」。本明細書で用いられているこれらの用語は、CNSへの直接投与ではない、すなわち、薬剤を血液脳関門の非脳側と接触させる、個体への薬剤、例えば治療薬のいずれかの投与形態を指す。本明細書で用いられている「末梢投与」は、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、腹腔内投与、経皮投与、吸入による投与、経頬投与、鼻腔内投与、直腸投与、経口投与、非経口投与、舌下投与、または経鼻投与を含む。
【0056】
本明細書の「医薬的に許容される担体」または「医薬的に許容される賦形剤」は、それ自体、組成物を摂取している個体に有害な抗体の産生を誘発しないいずれかの担体を指す。該担体は当業者に周知である。医薬的に許容される担体/賦形剤の徹底的な考察は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Gennaro, AR, ed., 20th edition, 2000: Williams and Wilkins PA, USA.に見ることができる。代表的な医薬的に許容される担体は塩、例えば鉱酸塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、および硫酸塩等;ならびに有機酸の塩、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、および安息香酸塩等を含んでよい。例えば、本発明の組成物は液体形態にて提供されてよく、0.01〜1%のポリソルベート−80等の界面活性剤、または炭水化物添加剤、例えばマンニトール、ソルビトール、もしくはトレハロースを含む、または含まない、様々なpH(5〜8)の生理食塩水ベースの水溶液に製剤化されてよい。通常用いられる緩衝液は、ヒスチジン緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、またはクエン酸緩衝液を含む。
【0057】
「組換え宿主細胞」または「宿主細胞」は、挿入に用いられる方法にかかわらず、例えば、直接取り込み、形質導入、f接合、または組換え宿主細胞を作製するための当該技術分野で周知の他の方法が用いられたか否かにかかわらず、外因性ポリヌクレオチドを含む細胞を指す。外因性ポリヌクレオチドは組み込まれていない(nonintegrated)ベクター、例えばプラスミドとして維持されてよく、あるいは宿主ゲノムに組み込まれていてよい。
【0058】
用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、アミノ酸残基のポリマーを指す用語として本明細書で互換的に用いられている。すなわち、ポリペプチドに向けられた記載はペプチドの記載およびタンパク質の記載に同様に適用され、逆もまた同様である。該用語は、天然のアミノ酸ポリマー、および1つ以上のアミノ酸残基が非天然のアミノ酸、例えばアミノ酸類似体であるアミノ酸ポリマーに適用する。本明細書で用いられている該用語は、アミノ酸残基が共有結合性のペプチド結合によって結合している、全長タンパク質(すなわち、抗原)を含むいずれかの長さのアミノ酸鎖を包含する。
【0059】
用語「アミノ酸」は、天然および非天然アミノ酸、ならびに天然アミノ酸と類似の様式で機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣薬を指す。天然にコードされているアミノ酸は、20種の通常のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリン)、ピロリジン(pyrolysine)およびセレノシステインである。アミノ酸類似体は、天然アミノ酸と同一の基本的な化学構造、すなわち、水素、カルボキシル基、アミノ基、およびR基に結合したα炭素を有する化合物、例えばホモセリン、ノルロイシン、メチオニンスルホキシド、およびメチオニンメチルスルホニウム等を指す。該類似体は修飾R基(例えば、ノルロイシン)または修飾ペプチド主鎖を有するが、天然アミノ酸と同一の基本的な化学構造を保持している。
【0060】
アミノ酸は、それらの通常知られている3文字記号またはIUPAC−IUB生化学命名委員会(Biochemical Nomenclature Commission)によって推奨されている1文字記号のいずれかによって本明細書で言及されるであろう。同様に、ヌクレオチドは、それらの通常許容されている1文字コードによって言及されるであろう。
【0061】
用語「核酸」は、デオキシリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオシド、リボヌクレオシド、またはリボヌクレオチド、および1本鎖または2本鎖形態のいずれかであるそのポリマーを指す。特に限定しない限り、該用語は基準核酸と類似の結合特性を有し、かつ、天然ヌクレオチドと類似の様式で代謝される天然ヌクレオチドの周知の類似体を含有する核酸を包含する。特に限定しない限り、該用語はPNA(ペプチド核酸)、アンチセンス技術で用いられるDNAの類似体(ホスホロチオエート、およびホスホロアミデート等)を含むオリゴヌクレオチド類似体も指す。特に示さない限り、特定の核酸配列は、明示的に示された配列のみならず、その保存的に修飾された変異体(限定されるものではないが、縮重コドン置換を含む)および相補的配列も黙示的に包含する。特に、縮重コドン置換は、1つ以上の選択された(または全ての)コドンの3番目の位置が混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換された配列を作製することによって達成されうる(Batzer et al., Nucleic Acid Res. 19:5081 (1991); Ohtsuka et al., J. Biol. Chem. 260:2605-2608 (1985);およびCassol et al. (1992); Rossolini et al., Mol. Cell. Probes 8:91-98 (1994))。
【0062】
用語「単離された」および「精製された」は、その自然環境から実質的または本質的に除去され、または濃縮された物質を指す。例えば、単離された核酸は、通常はそれに隣接している核酸またはサンプル中の他の核酸もしくは成分(タンパク質、脂質等)から分離されたものであってよい。別の例では、その自然環境から実質的に除去され、または濃縮されている場合、ポリペプチドは精製されている。核酸およびタンパク質の精製および単離のための方法は、当該技術分野で周知である。
【0063】
血液脳関門
いくつかの実施態様では、本発明は血液脳関門(BBB)を通過することができるIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)を利用する組成物および方法を提供する。該組成物および該方法は、IDSを末梢血から血液脳関門を越えてCNS内へ輸送するのに有用である。本明細書で用いられている「血液脳関門」は、末梢循環と脳および脊髄の間の関門を指し、脳毛細血管内皮血漿膜内の密着結合によって形成され、脳内への分子の輸送を制限する非常に密着した関門を作り出す;BBBは非常に密着しているため、分子量60Daの尿素のような小分子でさえ制限することができる。脳内の血液脳関門、脊髄内の血液脊髄関門、および網膜内の血液網膜関門は、中枢神経系(CNS)内にある近接した毛細血管関門であり、まとめて血液脳関門またはBBBとして言及される。
【0064】
BBBは、脳およびCNSのための新たな神経治療、診断法、および研究道具の開発を制限するものである。ほとんどの治療用の巨大分子(large molecule therapeutics)、例えば組換えタンパク質、アンチセンス薬、遺伝子医薬、精製抗体、またはRNA干渉(RNAi)ベースの薬物等は、薬理学的に有意な量にてBBBを通過しない。一般的に小分子薬物はBBBを通過することができると想定されているが、実際には、BBBを越えた輸送が不十分であるために、全小分子薬物の<2%のみが脳内で活性を有する。薬理学的に有意な量にてBBBを通過するために、分子は脂溶性かつ分子量400ダルトン(Da)未満でなければならないが、小分子の大部分はこれらの二重の分子特性を有さない。それゆえ、ほとんどの潜在的な治療用、診断用、または研究用分子は、薬理学的活性量にてBBBを通過しない。BBBをバイパスするために、侵襲性の経頭蓋薬物送達戦略、例えば脳室内(ICV)注入、脳内(IC)投与、および対流増強拡散(convection enhanced diffusion)(CED)等が用いられる。脳への経頭蓋薬物送達は高価で、侵襲性で、かつ、大部分は無効である。ICV経路はIDSを脳の上衣表面にのみ送達し、脳実質内へは送達しないが、これはICV経路によって与えられた薬物に典型的である。IDS等の酵素のIC投与は、脳内でのタンパク質拡散の非常に低い効率のために、局所送達のみを提供する。CEDは脳の白質路を通る優先的な流体の流れをもたらし、脱髄およびアストログリオーシスを引き起こす。
【0065】
本明細書に記載されている方法は、BBBをバイパスするためのこれらの高度に侵襲性かつ一般的に不十分な方法の代替手段を提供し、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)組成物の全身投与後に、機能性IDSが末梢血からBBBを通過してCNS内へ至ることを可能にする。本明細書に記載されている方法は、BBB上のインスリン受容体(例えば、ヒトインスリン受容体)または他の受容体の発現を利用し、所望の二機能性のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)を末梢血からCNS内へ往復させる(shuttle)。
【0066】
内在性BBB受容体媒介輸送系
BBBは、いくつかの巨大分子の血液から脳への輸送を可能にする特異的受容体を有することが示されている;これらの輸送体は、本発明の組成物のための輸送体として適している。本発明に有用な内在性BBB受容体媒介輸送系は、インスリン、トランスフェリン、インスリン様成長因子1および2(IGF1およびIGF2)、レプチン、ならびにリポタンパク質を輸送するものを含む。いくつかの実施態様では、本発明は、内在性インスリンBBB受容体媒介輸送系、例えば、ヒト内在性インスリンBBB受容体媒介輸送系を経由してBBBを通過することができる構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)を利用する。いくつかの実施態様では、BBBを通過することができる構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)は、以下の1つ以上のための受容体に結合することによってBBBを通過する:インスリン、トランスフェリン、インスリン様成長因子1および2(IGF1およびIGF2)、レプチン、ならびに/またはリポタンパク質。
【0067】
BBBは、いくつかの巨大分子の血液から脳への輸送を可能にする、インスリン受容体を含む特異的受容体を有することが示されている。特に、インスリン受容体は、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)のための輸送体として適している。本明細書に記載されているHIR−IDS融合抗体は、ヒトインスリン受容体の細胞外ドメイン(ECD)に結合する。
【0068】
インスリン受容体およびそれらの細胞外インスリン結合ドメイン(ECD)は、当該技術分野で、構造的および機能的に、広範囲に特徴付けられている。例えば、Yip et al (2003), J Biol. Chem, 278(30):27329-27332;およびWhittaker et al. (2005), J Biol Chem, 280(22):20932-20936を参照のこと。ヒトインスリン受容体のアミノ酸およびヌクレオチド配列は、ジェンバンク受入番号NM_000208で見ることができる。
【0069】
BBB受容体媒介輸送系に結合する構造
CNSに薬物を送達するための1つの非侵襲的アプローチは、興味のある薬剤を構造、例えばBBB上の受容体と結合する分子と付着することである。次いで、該構造はBBBを越えて薬剤を輸送するためのベクターとして機能する。該構造は、本明細書で「分子的トロイの木馬(MTH)」として言及されている。必ずしもというわけではないが、典型的には、MTHは内在性BBB受容体媒介輸送系でBBBを横切る、内在性BBB受容体媒介輸送系に結合することができる外因性ペプチドまたはペプチド模倣部分(例えば、MAb)である。特定の実施態様では、MTHは輸送系の受容体、例えばインスリン受容体に対する抗体であってよい。いくつかの実施態様では、抗体はモノクローナル抗体(MAb)である。いくつかの実施態様では、MAbはキメラMAbである。それゆえ、Absは通常、脳から排除されるという事実にもかかわらず、それらはBBB上の受容体に対する特異性を有する場合、脳実質内へ分子を送達するための有効なビヒクルとなりうる。
【0070】
いくつかの実施態様では、該方法は、BBB受容体媒介輸送系に結合することができる抗体と融合したIDSを含む融合抗体を用いることによって、BBBを越えてIDSを輸送する方法を含む。いくつかの実施態様では、該方法は、BBB受容体媒介輸送系(例えば、以下の1つ以上のための受容体:インスリン、トランスフェリン、インスリン様成長因子1および2(IGF1およびIGF2)、レプチン、ならびに/またはリポタンパク質)に選択的に結合することができる抗体と融合したIDSを含む融合抗体を用いることによって、BBBを越えてIDSを輸送する方法を含む。
【0071】
いくつかの実施態様では、該方法は、インスリン受容体のECDに選択的に結合することができる抗体と融合したIDSを含む融合抗体を用いることによって、BBBを越えてIDSを輸送する方法を含む。BBB上に発現されるインスリン受容体は、それによってBBBを越えてIDSを輸送するためのベクターとして機能しうる。特定のECD特異的抗体は内在性リガンドを模倣し得、それによって特異的受容体系上の輸送を経由して血漿膜関門を横切る。該インスリン受容体抗体は、図7に模式的に描写しているように、分子的「トロイの木馬」または「TH」として作用する。通常は、IDS単独では血液脳関門(BBB)を通過しない。しかしながら、IDSとTHの融合後、該酵素は脳内の両方の膜で発現されているIR上の輸送によって、BBBおよび脳細胞膜を通過することができる。
【0072】
それゆえ、抗体および他の巨大分子が通常は脳から排除されるという事実にもかかわらず、それらはBBB上に発現される受容体、例えばインスリン受容体の細胞外ドメインに対する特異性を有する場合、脳実質内への分子の送達のための有効なビヒクルとなりうる。特定の実施態様では、HIR Ab−IDS融合抗体はヒトBBB HIR上の細胞外表面エピトープと結合し、この結合は、ヒトBBBインスリン受容体によって媒介される輸送反応を経由して融合抗体がBBBを横切ることを可能にする。
【0073】
用語「抗体」は、天然の、または部分的もしくは完全に合成によって作製された免疫グロブリンを記載するものである。該用語は、抗原結合ドメインまたはこれと相同の結合ドメインを有するいずれかのポリペプチドまたはタンパク質も含む。CDR移植抗体もこの用語に含まれる(contemplated)。
【0074】
「天然抗体」および「天然免疫グロブリン」は通常、2つの同一の軽(L)鎖および2つの同一の重(H)鎖で構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質である。各軽鎖は典型的には1つの共有ジスルフィド結合によって重鎖に結合しているが、一方、ジスルフィド結合の数は異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖の間で変動する。各重鎖および軽鎖も、規則的に間隔が空いた鎖内ジスルフィド架橋を有している。各重鎖はその一端に可変ドメイン(「VH」)を有し、次いで多数の定常ドメイン(「CH」)を有する。各軽鎖はその一端に可変ドメイン(「VL」)を有し、他端に定常ドメイン(「CL」)を有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の第一定常ドメインと並んでおり、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと並んでいる。特定のアミノ酸残基は、軽鎖と重鎖可変ドメインの間のインターフェースを形成すると考えられている。
【0075】
用語「可変ドメイン」は、ファミリーメンバーの間で(すなわち、異なるアイソフォームの間、または異なる種において)配列が広範囲に異なるタンパク質ドメインを指す。抗体に関して、用語「可変ドメイン」は、その特定の抗原についての各特定の抗体の結合および特異性に用いられる抗体の可変ドメインを指す。しかしながら、可変性は抗体の可変ドメイン全体にわたって均一に分布されているのではない。それは、軽鎖および重鎖可変ドメインの両方における超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中している。可変ドメインのより高度に保存された部分は、「フレームワーク領域」または「FR」と呼ばれる。未修飾の重鎖および軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFRs(それぞれ、FR1、FR2、FR3およびFR4)を含み、大部分はβ−シート立体配置の形をとり、3つの超可変領域によって結合しているが、該領域はβ−シート構造を結合するループを形成し、場合によってはβ−シート構造の一部を形成している。各鎖の超可変領域がFRsによってごく接近して結びついており、他の鎖由来の超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与している(Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991), pages 647-669を参照のこと)。定常ドメインは抗原に対する抗体の結合に直接的に関与していないが、様々な効果または機能、例えば抗体依存性細胞毒性における抗体の関与等を示す。
【0076】
用語「超可変領域」は、本明細書で用いられる場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、相補的様式にて抗原に直接的に結合し、それぞれCDR1、CDR2、およびCDR3として知られている3つの「相補性決定領域」または「CDRs」に由来するアミノ酸残基を含む。
【0077】
軽鎖可変ドメインにおいて、CDRsは典型的にはおよそ残基24〜34(CDRL1)、50〜56(CDRL2)および89〜97(CDRL3)に相当し、重鎖可変ドメインにおいて、CDRsは典型的にはおよそ残基31〜35(CDRH1)、50〜65(CDRH2)および95〜102(CDRH3)に相当し;Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, Md. (1991))、ならびに/または「超可変ループ」由来の残基(すなわち、軽鎖可変ドメインにおいて、残基26〜32(L1)、50〜52(L2)および91〜96(L3)、重鎖可変ドメインにおいて、26〜32(H1)、53〜55(H2)および96〜101(H3);Chothia and Lesk, J. Mol. Biol. 196:901 917 (1987))に相当する。
【0078】
本明細書で用いられている「可変フレームワーク領域」または「VFR」は、抗原結合ポケットもしくは溝の一部を形成し、および/または抗原と接触しうるフレームワーク残基を指す。いくつかの実施態様では、フレームワーク残基は、抗原結合ポケットまたは溝の一部であるループを形成する。ループ内のアミノ酸残基は、抗原と接触してもしなくてもよい。1つの実施態様では、VFRのループアミノ酸は、抗体、抗体重鎖または抗体軽鎖の三次元構造を検査することによって決定される。三次元構造は、溶媒接触可能なアミノ酸位置のために分析されうるが、これは該位置がループを形成し、および/または抗体可変ドメインにおいて抗原接触を提供する可能性があるからである。一部の溶媒接触可能な位置はアミノ酸配列多様性を許容しうるが、他の位置(例えば構造的位置)は多様化の程度がより低い。抗体可変ドメインの三次元構造は、結晶構造またはタンパク質モデリングに由来しうる。いくつかの実施態様では、VFRは重鎖可変ドメインのアミノ酸位置71〜78に相当するアミノ酸位置を含み、本質的に該位置からなり、または該位置からなるが、これはKabat et al., 1991に従って定義された位置である。いくつかの実施態様では、VFRはCDRH2とCDRH3の間に位置するフレームワーク領域3の一部を形成する。VFRは標的抗原と接触するために良い位置にあるループを形成し得、または抗原結合ポケットの一部を形成しうる。
【0079】
免疫グロブリンは、それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に依存して、異なるクラスに分類されうる。5つの主要な免疫グロブリンのクラスがある:IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMがあり、これらのいくつかはさらにサブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、およびIgA2に分けることができる。異なるクラスの免疫グロブリンに相当する重鎖定常ドメイン(Fc)は、それぞれα、δ、ε、γ、およびμと呼ばれる。異なるクラスの免疫グロブリンのサブユニット構造および三次元立体配置は周知である。
【0080】
いずれかの脊椎動物種に由来する抗体(免疫グロブリン)の「軽鎖」は、それらの定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパまたは(「κ」)およびラムダまたは(「λ」)と呼ばれる2つの明確に異なる型の1つに分類することができる。
【0081】
抗体または融合抗体に関して、本明細書に記載されている用語「選択的に結合する」、「選択的に結合すること」、「特異的に結合する」、または「特異的に結合すること」は、抗体または融合抗体がその標的抗原に解離定数(Kd)約10−6M以下、すなわち10−7、10−8、10−9、10−10、10−11、または10−12Mで結合することを指す。
【0082】
本明細書で用いられている用語「抗体」は、抗原に特異的に結合する能力を保持している抗体の1つ以上の断片も意味すると理解されるであろう(一般的には、Holliger et al., Nature Biotech. 23 (9) 1126-1129 (2005)を参照のこと)。該抗体の非限定的例は、(i)Fab断片、すなわちVL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価の断片;(ii)F(ab’)2断片、すなわちヒンジ領域でジスルフィド架橋によって結合した2つのFab断片を含む二価の断片;(iii)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVLおよびVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al., (1989) Nature 341:544 546);ならびに(vi)単離された相補性決定領域(CDR)を含む。さらに、Fv断片の2つのドメイン、すなわちVLおよびVHは別々の遺伝子によってコードされているが、それらは、組換え法を用いて、VLおよびVH領域が対になって一価の分子(単鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Bird et al. (1988) Science 242:423 426;およびHuston et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879 5883;およびOsbourn et al. (1998) Nat. Biotechnol. 16:778を参照のこと)を形成している単一タンパク質鎖としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって連結することができる。該単鎖抗体は、用語「抗体」に包含されることも意図されている。特異的scFvのいずれかのVHおよびVL配列は、完全IgG分子または他のアイソタイプをコードしている発現ベクターを作製するために、ヒト免疫グロブリン定常領域cDNAまたはゲノム配列に結合されてよい。VHおよびVLは、タンパク質化学または組換えDNA技術のいずれかを用いた免疫グロブリンのFab、Fvまたは他の断片の作製にも用いられうる。他の形態の単鎖抗体、例えば二重特異性抗体も包含される。
【0083】
「F(ab’)2」および「Fab’」部分は、免疫グロブリン(モノクローナル抗体)をプロテアーゼ、例えばペプシンおよびパパイン等で処理することによって作製することができ、2つのH鎖のそれぞれのヒンジ領域の間に存在しているジスルフィド結合の近くで免疫グロブリンを消化することによって産生される抗体断片を含む。例えば、パパインは、2つのH鎖のそれぞれのヒンジ領域の間に存在しているジスルフィド結合の上流でIgGを切断し、VL(L鎖可変領域)およびCL(L鎖定常領域)で構成されるL鎖、ならびにVH(H鎖可変領域)およびCHγ1(H鎖の定常領域のγ1領域)で構成されるH鎖断片がそれらのC末端領域でジスルフィド結合を通じて結合している2つの相同抗体断片を産生する。これら2つの相同抗体断片のそれぞれは、Fab’と呼ばれている。ペプシンも、2つのH鎖のそれぞれのヒンジ領域の間に存在しているジスルフィド結合の下流でIgGを切断し、2つの上記Fab’がヒンジ領域で結合した断片よりもわずかに大きな抗体断片を産生する。この抗体断片は、F(ab’)2と呼ばれている。
【0084】
Fab断片は、軽鎖の定常ドメインおよび重鎖の第一定常ドメイン(CH1)も含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域由来の1つ以上のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシル末端で数残基が付加されている点がFab断片と異なっている。本明細書で、Fab’−SHは、定常ドメインのシステイン残基が遊離チオール基を有しているFab’を指す。F(ab’)2抗体断片は、最初は、その間にヒンジシステインを有しているFab’断片のペアとして作製された。抗体断片の他の化学的カップリングも知られている。
【0085】
「Fv」は、完全な抗原認識および抗原結合部位を含有する最小抗体断片である。この領域は、堅固な非共有結合性会合の1つの重鎖および1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる。この立体配置によって、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用して、VH−VL二量体の表面上の抗原結合部位を規定する。合計で、6つの超可変領域が抗体に抗原結合特異性を与える。しかしながら、単一可変ドメイン(または抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)でさえ、全結合部位よりも低親和性ではあるが、抗原を認識および結合する能力を有する。
【0086】
「単鎖Fv」または「sFv」抗体断片は、抗体のVH、VL、またはVHおよびVLドメインの両方を含み、両ドメインが単一ポリペプチド鎖に存在している。いくつかの実施態様では、Fvポリペプチドは、VHとVLドメインの間にポリペプチドリンカーをさらに含み、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成することを可能にする。sFvの総説については、例えばPluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore eds. Springer-Verlag, New York, pp. 269 315 (1994)を参照のこと。
【0087】
「キメラ」抗体は、異なる哺乳類の組み合わせに由来する抗体を含む。哺乳類は、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ヤギ、またはヒトであってよい。異なる哺乳類の組み合わせは、ヒトおよびマウス由来の断片の組み合わせを含む。
【0088】
いくつかの実施態様では、本発明の抗体はモノクローナル抗体(MAb)であり、典型的にはマウスモノクローナル抗体のヒト化によって得られるキメラヒト−マウス抗体である。該抗体は、例えば抗原投与に応答して特異的ヒト抗体を産生するように「設計され」た遺伝子導入マウスから得られる。この技術では、ヒト重鎖および軽鎖遺伝子座の要素は、内在性重鎖および軽鎖遺伝子座の標的破壊を含有する胚性幹細胞株に由来するマウスの系統に導入される。遺伝子導入マウスはヒト抗原に特異的なヒト抗体を合成することができ、該マウスはヒト抗体分泌ハイブリドーマを産生するために用いることができる。
【0089】
ヒトに使用するために、キメラ抗体(例えば、HIR Ab、BBBを通過することができる他の抗体)はヒトに投与された場合に有意な免疫原性を有さないように十分なヒト配列を含有することが好ましく、例えば、約80%ヒトおよび約20%マウス、約85%ヒトおよび約15%マウス、約90%ヒトおよび約10%マウス、約95%ヒトおよび5%マウス、または約95%を越えるヒトおよび約5%未満のマウスであることが好ましい。抗体(例えば、HIR Ab、BBBを通過することができる他の抗体)のより高度にヒト化した形態も設計することができ、ヒト化抗体(例えばHIR Ab)はマウスHIR Abに匹敵する活性を有し、本発明の実施態様に用いることができる。例えば、2002年11月27日に出願された米国特許出願公開第20040101904号、および2005年2月17日に出願された米国特許出願公開第20050142141号を参照のこと。本発明に用いるための十分なヒト配列を有するヒトBBBインスリン受容体に対するヒト化抗体は、例えば、Boado et al. (2007), Biotechnol Bioeng, 96(2):381-391に記載されている。
【0090】
代表的な実施態様では、HIR抗体またはそれに由来するHIR−IDS融合抗体は、図3に記載されているHC CDRs(配列番号1〜3)の少なくとも1つまたはその変異体の配列に相当するCDRsを含む免疫グロブリン重鎖を含有する。例えば、最大1、2、3、4、5、もしくは6個の単一アミノ酸変異を有する配列番号1のアミノ酸配列に相当するHC CDR1、最大1、2、3、4、5、6、7、8、9、もしくは10個の単一アミノ酸変異を有する配列番号2のアミノ酸配列に相当するHC CDR2、または最大1、もしくは2個の単一アミノ酸変異を有する配列番号3のアミノ酸配列に相当するHC CDR3であり、ここで単一アミノ酸変異は置換、欠失、または挿入である。
【0091】
他の実施態様では、HIR AbsまたはHIR Ab−IDS融合Absは、配列番号7(図1に示している)と少なくとも50%同一の(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95、または最大100%のいずれかのパーセント同一の)アミノ酸配列の免疫グロブリンHCを含有する。
【0092】
いくつかの実施態様では、HIR AbsまたはHIR Ab−IDS融合Absは、図3に記載されているLC CDRs(配列番号4〜6)の少なくとも1つまたはその変異体の配列に相当するCDRsを含む免疫グロブリン軽鎖を含む。例えば、最大1、2、3、4、もしくは5個の単一アミノ酸変異を有する配列番号4のアミノ酸配列に相当するLC CDR1、最大1、2、3、もしくは4個の単一アミノ酸変異を有する配列番号5のアミノ酸配列に相当するLC CDR2、または最大1、2、3、4、もしくは5個の単一アミノ酸変異を有する配列番号6のアミノ酸配列に相当するLC CDR3である。
【0093】
他の実施態様では、HIR AbsまたはHIR Ab−IDS融合Absは、配列番号8(図2に示している)と少なくとも50%同一の(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95、または最大100%のいずれかのパーセント同一の)アミノ酸配列の免疫グロブリンLCを含有する。
【0094】
さらに他の実施態様では、HIR AbsまたはHIR Ab−IDS融合Absは、上記HIR重鎖およびHIR軽鎖のいずれかに相当する重鎖および軽鎖の両方を含有する。
【0095】
本発明に用いられるHIR抗体は、グリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい。抗体がグリコシル化されている場合、抗体の機能に有意に影響しないいずれかのグリコシル化パターンが用いられてよい。グリコシル化は抗体が産生された細胞に典型的なパターンで起こり得、細胞型によって異なりうる。例えば、マウス骨髄腫細胞によって産生されたモノクローナル抗体のグリコシル化パターンは、トランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されたモノクローナル抗体のグリコシル化パターンと異なりうる。いくつかの実施態様では、抗体は、トランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞によって産生されたパターンでグリコシル化されている。
【0096】
当業者であれば、現在の技術は膨大な数の候補抗体(例えば、HIR Ab、BBBを通過することができる他の抗体)の配列変異体を(例えば、インビトロで)作製することができ、標的抗原、例えばヒトインスリン受容体のECDまたはその単離されたエピトープに結合することについてスクリーニングすることを可能にすることを理解できるであろう。抗体配列変異体の超ハイスループットスクリーニングの一例については、例えばFukuda et al. (2006) "In vitro evolution of single-chain antibodies using mRNA display," Nuc. Acid Res., 34(19)(オンラインで発表)を参照のこと。Chen et al. (1999), "In vitro scanning saturation mutagenesis of all the specificity determining residues in an antibody binding site," Prot Eng, 12(4): 349-356も参照のこと。インスリン受容体ECDは、例えばColoma et al. (2000) Pharm Res, 17:266-274に記載されているようにして精製することができ、HIR Absおよび既知HIR AbsのHIR Ab配列変異体についてスクリーニングするために用いられる。
【0097】
従って、いくつかの実施態様では、所望のレベルのヒト配列を有する遺伝的に設計されたHIR Abは、IDSと融合しており、二機能性の分子である組換え融合抗体となっている。HIR Ab−IDS融合抗体は、末梢投与後:(i)ヒトインスリン受容体の細胞外ドメインに結合し;(ii)デルマタンおよび/またはヘパラン硫酸の結合の加水分解を触媒し;かつ、(iii)BBB HIR上の輸送を経由してBBBを通過することができ、かつ、脳内に入った時点でIDS活性を保持している。
【0098】
イズロン酸 2−スルファターゼ(IDS)
組換えIDS(例えば、エラプラーゼ(Elaprase(登録商標)))の全身投与(例えば、静脈内注射による)は、ハンター症候群を患っている患者のCNSにおけるIDS欠乏症を救出できない。IDSはBBBを通過しないため、BBBを越えた酵素の輸送の不足は、末梢投与後、CNSにおける有意な治療効果を発揮する妨げとなる。しかしながら、本発明のいくつかの実施態様では、IDSがBBBを通過することができる抗体(例えば、HIR Ab)と融合した場合、IDSは、非侵襲性の末梢投与経路、例えば静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、もしくは経口投与、または他の本明細書に記載されている経路での投与後、血液からCNSに入ることができる。IDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)の投与は、末梢血から脳内へのIDS活性の送達を可能にする。本明細書に記載されているのは、CNSにおけるIDS欠乏症を治療するための治療的に有効なIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)の全身投与量(systemic dose)の決定である。本明細書に記載されているように、IDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)の適切な全身投与量(systemic doses)は、HIR Ab−酵素融合抗体のCNS取り込み特性および酵素活性の定量的決定に基づいて確立される。
デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンは可変的に硫酸化されたグリコサミノグリカンであり、二糖単位の反復によって作製される長鎖の非分岐鎖多糖である。L−イズロネート(またはL−イズロン酸)は、デルマタン硫酸およびヘパリンの主成分である。それはヘパラン硫酸にも存在している。本明細書で用いられているIDS(例えば、ジェンバンク受入番号NP_000193で登録されているヒトIDS配列)は、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸およびヘパリンのL−イズロン酸 2−硫酸(L-iduronate 2-sulfate)単位の2−硫酸基の加水分解または除去を触媒することができるいずれかの天然または人工の酵素を指す。
【0099】
IDSは、IDS酵素活性の発現に特異的翻訳後修飾を必要とする、スルファターゼファミリーのメンバーである。IDS酵素の活性は、スルファターゼ修飾因子1(SUMF1)(ホルミルグリシン生成酵素(FGE)とも呼ばれる)によってCys−59がホルミルグリシン残基へ変換された後に活性化される。いくつかの実施態様では、IDSを含む融合抗体は、スルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって翻訳後修飾されている。いくつかの実施態様では、翻訳後修飾はシステインをホルミルグリシンへ変換することを含む。いくつかの実施態様では、融合抗体はホルミルグリシン残基を含むIDSを含む。
【0100】
いくつかの実施態様では、対象組成物(または方法)は、ジェンバンク受入番号NP_000193で登録されている550個のアミノ酸のタンパク質であるヒトIDSのアミノ酸配列、または25個のアミノ酸のシグナルペプチドを欠き、配列番号9(図4)に相当するその525個のアミノ酸サブ配列と、少なくとも50%同一の(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95、または最大100%のいずれかのパーセント同一の)アミノ酸配列を有するIDSを含む。ヒトIDSの構造機能相関は、例えばSukegawa-Hayasaka et al. (2006), "Effect of Hunter disease (mucopolysaccharidosis type II) mutations on molecular phenotypes of iduronate-2-sulfatase: enzymatic activity, protein processing and structural analysis," J. Inherit. Metab. Dis., 29: 755-761に記載されているように、十分に確立されている。特に、IDSの機能に重大な意味を持つ残基は、例えばArg48、Ala85、Pro86、Ser333、Trp337、Ser349、Arg468、およびGln531を含む。
【0101】
いくつかの実施態様では、IDSは、配列番号9(図4に示している)と少なくとも50%同一の(すなわち、少なくとも55、60、65、70、75、80、85、90、95、または最大100%のいずれかのパーセント同一の)アミノ酸配列を有する。配列番号9等の標準的なIDS配列の配列変異体は、例えば全配列または特定のドメインに相当する特定のサブ配列のランダム変異誘発によって作製することができる。あるいは、上記のようなIDS機能に重大な意味を持つことが知られている残基に対する変異を回避しながら、部位特異的変異誘発が反復的に行われてよい。さらに、IDS配列の多重変異体の作製において、完全にランダムな変異誘発によって作製されるであろう非機能性の配列変異体の数を大きく減少させるために、変異許容予測プログラムを用いることができる。タンパク質配列におけるアミノ酸置換のタンパク質機能に対する効果を予測するための様々なプログラム(例えば、SIFT、PolyPhen、PANTHER PSEC、PMUT、およびTopoSNP)は、例えばHenikoff et al. (2006), "Predicting the Effects of Amino Acid Substitutions on Protein Function," Annu. Rev. Genomics Hum. Genet., 7:61-80に記載されている。例えば、当該技術分野で周知の4−メチルウンベリフェリル −L−イズロニド−2−サルフェート(4−MUS)蛍光定量的IDSアッセイによって、IDS活性/IDS活性の保持についてIDS配列変異体をスクリーニングすることができる。例えば、Voznyi et al. (2001), J. Inherit. Metab. Dis.24: 675-680を参照のこと。IDS活性の1ユニットは、1nmole基質/時間の加水分解として定義される。従って、当業者であれば、非常に多数の操作可能なIDS配列変異体は、上述したように、当該技術分野でありふれた方法により、IDS配列変異体の非常に多様な「ライブラリー」を作製およびスクリーニングすることによって得ることができることを理解できるであろう。
【0102】
配列相同性パーセントは、通常の方法によって決定される。例えば、Altschul et al., Bull. Math. Bio. 48:603 (1986)、およびHenikoff and Henikoff, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10915 (1992)を参照のこと。簡潔に述べると、2つのアミノ酸配列を並べて、ギャップオープニングペナルティー(gap opening penalty)を10で用い、ギャップエクステンションペナルティー(gap extension penalty)を1で用い、かつ、Henikoff and Henikoff(前記)の「BLOSUM62」スコアリングマトリックスを用いてアライメントスコアを最適化する。次いで、相同性パーセントは:([完全な一致の全数]/[より長い配列の長さ+2つの配列を並べるためにより長い配列に導入されたギャップの数])(100)として計算される。
【0103】
当業者であれば、2つのアミノ酸配列を並べるために多くの確立されたアルゴリズムが入手可能であることを理解しているであろう。ピアソン(Pearson)とリップマン(Lipman)の「FASTA」類似性検索アルゴリズムは、本明細書で開示されているアミノ酸配列と別のペプチドのアミノ酸配列によって共有されている相同性のレベルを調べるために適切なタンパク質アライメント法である。FASTAアルゴリズムは、Pearson and Lipman, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 85:2444 (1988)、およびPearson, Meth. Enzymol. 183:63 (1990)に記載されている。簡潔に述べると、FASTAは、最初に、保存的アミノ酸置換、挿入、または欠失を考慮することなく、最も高密度の相同性(ktup変数が1の場合)または相同性のペア(ktup=2の場合)のいずれかを有する、問い合わせ配列(例えば、配列番号9または配列番号16)とテスト配列によって共有されている領域を同定することによって配列類似性を特徴付ける。次いで、アミノ酸置換マトリックスを用いて、全ての対になったアミノ酸の類似性を比較することによって、最も高密度の相同性を有する10個の領域をリスコアし(rescored)、該領域の末端を「切り取り(trimmed)」、最も高いスコアに寄与している残基のみを含むようにする。「カットオフ」値(配列の長さおよびktup値に基づいて所定の式によって計算される)を越えるスコアを有するいくつかの領域がある場合は、切り取られた(trimmed)最初の領域を調べて、該領域を連結してギャップを含む近似のアライメントを形成することができるかどうかを決定する。最終的に、ニードルマン(Needleman)−ブンシュ(Wunsch)−セラーズ(Sellers)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol. 48:444 (1970); Sellers, SIAM J. Appl. Math. 26:787 (1974))の修正を用いて、2つのアミノ酸配列の最も高スコアの領域を並べ、アミノ酸挿入および欠失を考慮する。FASTA分析についての説明に役立つパラメーターは:ktup=1、ギャップオープニングペナルティー(gap opening penalty)=10、ギャップエクステンションペナルティー(gap extension penalty)=1、および置換マトリックス=BLOSUM62である。Pearson, Meth. Enzymol. 183:63 (1990)のAppendix2に説明されているように、スコアリングマトリックスファイル(「SMATRIX」)を修正することによって、FASTAプログラムにこれらのパラメーターを導入することができる。
【0104】
本発明は、本明細書で開示されているアミノ酸配列と比較して保存的アミノ酸変化を有するタンパク質も含む。例えば、通常のアミノ酸の中で、「保存的アミノ酸置換」は、下記の群のそれぞれの範囲内のアミノ酸の中での置換によって説明される:(1)グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシン、(2)フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファン、(3)セリンおよびスレオニン、(4)アスパラギン酸およびグルタミン酸、(5)グルタミンおよびアスパラギン、ならびに(6)リジン、アルギニンおよびヒスチジン。BLOSUM62表はタンパク質配列セグメントの約2,000個の局所的多重アライメントに由来するアミノ酸置換マトリックスであり、500群を超える関連タンパク質の高度に保存された領域を表している(Henikoff and Henikoff, Proc. Nat'l Acad. Sci. USA 89:10915 (1992))。従って、BLOSUM62置換頻度は、本発明のアミノ酸配列に導入されてよい保存的アミノ酸置換を規定するために用いることができる。(上記のような)化学的性質のみに基づいてアミノ酸置換を設計することが可能であるが、用語「保存的アミノ酸置換」は、好ましくは−1を越えるBLOSUM62値によって表される置換を指す。例えば、0、1、2、または3のBLOSUM62値によって置換が特徴付けられている場合、アミノ酸置換は保存的である。このシステムに従うと、好ましい保存的アミノ酸置換は、少なくとも1(例えば、1、2または3)のBLOSUM62値によって特徴付けられ、一方、より好ましい保存的アミノ酸置換は、少なくとも2(例えば、2または3)のBLOSUM62値によって特徴付けられる。
【0105】
配列が本発明の組成物および方法において機能を有する十分な生物学的タンパク質活性を保持している限り、アミノ酸配列は付加的な残基、例えば付加的なN末端またはC末端アミノ酸を含んでよく、本明細書で開示されている配列の1つに依然として本質的に記載されていることも理解されるであろう。
【0106】
組成物
本発明の組成物は:BBBを越えてIDSを輸送する、IDSの治療的有効用量を送達する、および/またはBBBを越えて輸送された時点、もしくは標的抗体と融合した時点でIDSの活性を保持するのに有用であることを含む複数の理由で有用である。本発明の組成物は、融合抗体の中でIDSおよび/またはそれが結合している構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)が、独立体(separate entity)としてのその活性と比較してある程度の活性をそれぞれ保持している点においても有用である。
【0107】
いくつかの実施態様では、本発明は血液脳関門(BBB)を通過することができる構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)と共有結合しているIDSを含有する組成物であって、IDSが独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している組成物を提供する。いくつかの実施態様では、本発明は血液脳関門(BBB)を通過することができる構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)と共有結合しているIDSを含有する組成物であって、構造が独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している組成物を提供する。いくつかの実施態様では、本発明は血液脳関門(BBB)を通過することができる構造(例えば、免疫グロブリン、抗体)と共有結合しているIDSを含有する組成物であって、構造およびIDSがそれぞれ独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している組成物を提供する。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも30%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも40%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも50%を保持している。いくつかの実施態様では、IDSは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも60%を保持している。
【0108】
本発明は、ヒトBBBインスリン受容体に対するキメラMAbと共有結合しているIDSを含有する組成物も提供する。本発明は、本発明の1つ以上の組成物および医薬的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物も提供する。
【0109】
いくつかの実施態様では、対象組成物は、IDS融合抗体であって、末梢血からBBBを越えたその取り込みの結果として、全身投与されたIDS融合抗体の少なくとも約0.3%(すなわち、約0.32%)、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、5%、または約0.3%〜約12%のいずれかの%)が脳に送達されうるIDS融合抗体を含む。いくつかの実施態様では、組成物は、IDS融合抗体であって、全身投与されたIDS融合抗体の用量の少なくとも0.5%(すなわち、約0.32%、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、5%、または約0.3%〜約12%のいずれかの%)が、全身投与後2時間以内、すなわち、1.8、1.7、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、0.9、0.8、0.6、0.5または約0.5〜約2時間の間のいずれかの時間で脳に送達されるIDS融合抗体を含む。
【0110】
いくつかの実施態様では、本発明のIDS融合抗体はBBBを通過することができ、それによって対象の脳内に少なくとも0.125ユニットのIDS活性/mgタンパク質、例えば対象の脳内に0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.3、0.4、0.5、0.75、1.0、1.5、2、または0.125〜2.5の間のいずれかのユニットのIDS活性/mgタンパク質を提供する。いくつかの実施態様では、対象の脳に送達されるIDS活性の全ユニット数は、少なくとも12,500ユニット、例えば少なくとも25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000、200,000、210,000、220,000、230,000、250,000または約12,500〜250,000ユニットのIDS活性の間のいずれかの全IDSユニット数である。いくつかの実施態様では、対象の脳に送達されるIDS活性の全ユニット数は、少なくとも10,000ユニット、例えば、少なくとも10,000、12,500、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000、200,000、210,000、220,000、230,000、250,000、300,000、5000,000または約10,000〜500,000ユニットのIDS活性の間のいずれかの全IDSユニット数である。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された、少なくとも約10,000、15,000、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000、200,000、210,000、220,000、230,000、250,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000 000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。いくつかの実施態様では、治療的に有効な全身投与量(systemic dose)は、少なくとも5x10、1x10、2x10、3x10、4、10、5x10、6x10、7x10、8x10、9x10、1x10、1.1x10、1.2x10、1.5x10、1.6x10、1.7x10、1.8x10、1.9x10、2x10、2.1x10、3x10、または約5x10〜3x10ユニットのIDS活性の間のいずれかの全身投与量(systemic dose)を含む。他の実施態様では、治療的に有効な全身投与量(systemic dose)は、少なくとも約20,000ユニット、または少なくとも約10,000ユニットのIDS活性/kg体重、少なくとも約10,000、15,000、20,000、22,000、24,000、25,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、125,000、150,000、200,000、もしくは500,000ユニット/kg体重である。
【0111】
当業者であれば、IDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)の治療的に有効な全身投与量(systemic dose)の全量(mass amount)は、部分的には、そのIDS比活性に依存するであろうことを理解できるであろう。いくつかの実施態様では、IDS融合抗体のIDS比活性は、少なくとも10,000U/mgタンパク質、少なくとも約11,000、12,000、13,000、14,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、30,000、32,000、34,000、35,000、36,000、37,000、40,000、45,000、50,000、または約10,000ユニット/mg〜約50,000ユニット/mgの間のいずれかの比活性値である。
【0112】
いくつかの実施態様では、BBBを通過することができる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送系、例えばインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、LDL受容体、またはIGF受容体を利用する系を利用する。いくつかの実施態様では、内在性BBB受容体媒介輸送系は、インスリンBBB受容体媒介輸送系であろう。いくつかの実施態様では、BBBを通過することができる構造は抗体、例えばモノクローナル抗体(MAb)、例えばキメラMAbである。抗体は、ヒトへの投与に適した十分なヒト配列を有するキメラ抗体であってよい。上記融合タンパク質の実施態様では、血液脳関門を通過することができる構造は、内在性BBB受容体媒介輸送体、例えばインスリン輸送体、トランスフェリン輸送体、レプチン輸送体、LDL輸送体、およびIGF受容体からなる群から選択される輸送体上でBBBを通過する。いくつかの実施態様では、内在性BBB受容体媒介輸送体は、インスリン輸送体およびトランスフェリン輸送体からなる群から選択される。いくつかの実施態様では、内在性BBB受容体媒介輸送体はインスリン輸送体、例えばヒトインスリン輸送体である。BBBを通過することができる構造は抗体であってよく、例えばMAb、例えばキメラMAbであってよい。抗体は、本明細書に記載されているような内在性BBB受容体媒介輸送体に対する抗体であってよい。
【0113】
抗体は、グリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい;いくつかの実施態様では、抗体は、例えば、そのCHO細胞内での合成によって生じたグリコシル化パターンにてグリコシル化されている。構造が抗体である実施態様では、IDS融合抗体が血液脳関門を通過し、および/またはIDSがCNSにおいてその活性の治療的に有用な部分を保持できる限り、抗体とIDSの間の共有結合は、抗体のいずれかの適切な部分とIDSの間の結合であってよい。特定の実施態様では、共有結合は、抗体の1つ以上の軽鎖とIDSの間にある。IDSは、そのカルボキシまたはアミノ末端が、抗体の軽鎖(LC)または重鎖(HC)のカルボキシまたはアミノ末端と共有結合していてよい。いずれかの適切な結合が用いられてよく、例えば、軽鎖のカルボキシ末端とペプチドのアミノ末端、重鎖のカルボキシ末端とペプチドのアミノ末端、軽鎖のアミノ末端とペプチドのアミノ末端、重鎖のアミノ末端とペプチドのアミノ末端、軽鎖のカルボキシ末端とペプチドのカルボキシ末端、重鎖のカルボキシ末端とペプチドのカルボキシ末端、軽鎖のアミノ末端とペプチドのカルボキシ末端、または重鎖のアミノ末端とペプチドのカルボキシ末端の結合が用いられてよい。いくつかの実施態様では、結合はHCのカルボキシ末端とペプチドのアミノ末端に由来する。末端アミノ酸の間の結合は必要ではなく、本発明の要求を満たすいずれかの結合が用いられてよく;ペプチドの非末端アミノ酸の間の該結合は当業者によって容易に達成されることが理解されるであろう。
【0114】
いくつかの実施態様では、2分子以上のIDSがBBBを通過する構造に付着している。いくつかの実施態様では、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10を超えるIDS分子(またはその断片)が、血液脳関門を通過することができる構造に付着していてよい。
【0115】
本明細書に記載されている二機能性のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)は、それらの独立した構成タンパク質の活性、例えばIR ECDへのHIR Abの結合、およびIDSの酵素活性を高比率で保持していてよい。本明細書に記載されているタンパク質のいずれかをコードしているcDNAsおよび発現ベクターの構築、ならびにそれらの発現および精製は、十分に当業者の技術の範囲内であり、例えば本明細書で実施例1〜3に詳細に記載されており、Boado et al (2007), Biotechnol Bioeng 96:381-391、米国特許出願第11/061,956号、および米国特許出願第11/245,710号に記載されている。
【0116】
本明細書に記載されているのは、IDSと融合したBBBを通過することができる本明細書に記載されている標的抗体(例えば、HIR Ab)を含有する二機能性のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)であって、血液脳関門を通過することができる標的抗体(例えば、HIR Ab)およびIDSがそれぞれ、独立体(separate entities)としてのそれらの活性と比較して、それらの活性の少なくとも平均約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している融合抗体である。いくつかの実施態様では、本発明はHIR Ab−IDS融合抗体であって、HIR AbおよびIDSがそれぞれ、独立体(separate entities)としてのそれらの活性と比較して、それらの活性の少なくとも平均約50%を保持している融合抗体を提供する。いくつかの実施態様では、本発明はHIR Ab−IDS融合抗体であって、HIR AbおよびIDSがそれぞれ、独立体(separate entities)としてのそれらの活性と比較して、それらの活性の少なくとも平均約60%を保持している融合抗体を提供する。いくつかの実施態様では、本発明はHIR Ab−IDS融合抗体であって、HIR AbおよびIDSがそれぞれ、独立体(separate entities)としてのそれらの活性と比較して、それらの活性の少なくとも平均約70%を保持している融合抗体を提供する。いくつかの実施態様では、本発明はHIR Ab−IDS融合抗体であって、HIR AbおよびIDSがそれぞれ、独立体(separate entities)としてのそれらの活性と比較して、それらの活性の少なくとも平均約80%を保持している融合抗体を提供する。いくつかの実施態様では、本発明はHIR Ab−IDS融合抗体であって、HIR AbおよびIDSがそれぞれ、独立体(separate entities)としてのそれらの活性と比較して、それらの活性の少なくとも平均約90%を保持している融合抗体を提供する。いくつかの実施態様では、HIR Abは、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持しており、IDSは独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している。従って、本明細書に記載されているのは、BBBを通過することができる二機能性のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)を含有する組成物であって、構成抗体(例えば、HIR Ab)およびIDSがそれぞれ、独立のタンパク質としてのそれらの活性と比較して、融合抗体の一部として、それらの活性、例えばそれぞれHIR結合およびIDS活性の少なくとも平均約10、20、30、40、50、60、70、80、90、95、99、または100%を保持している組成物である。HIR Ab IDS融合抗体は、本明細書に記載されているHIR抗体のいずれかおよびIDSsを含む融合タンパク質を指す。
【0117】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)は、抗体(例えば、HIR Ab)のカルボキシ末端とIDSのアミノ末端の間(または、抗体のアミノ末端とIDSのカルボキシ末端の間)に共有結合を含み、IDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)が受容体媒介BBB輸送系に(例えば、IRのECDに)結合し、血液脳関門を通過する。いくつかの実施態様では、IDSは、その活性の治療的に有用な部分を保持している。本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)を含む本発明のいくつかの実施態様では、抗体とIDSの間の共有結合は標的抗体(例えば、HIR抗体)のカルボキシまたはアミノ末端とIDSのアミノまたはカルボキシ末端の結合であってよく、結合はHIR Ab−IDS融合抗体がIRのECDに結合して血液脳関門を通過することを可能にし、IDSがその活性の治療的に有用な部分を保持することを可能にする。特定の実施態様では、共有結合は抗体のHCとIDSの間、または抗体のLCとIDSの間にある。いずれかの適切な結合が用いられてよく、例えば、軽鎖のカルボキシ末端とIDSのアミノ末端、重鎖のカルボキシ末端とIDSのアミノ末端、軽鎖のアミノ末端とIDSのアミノ末端、重鎖のアミノ末端とIDSのアミノ末端、軽鎖のカルボキシ末端とIDSのカルボキシ末端、重鎖のカルボキシ末端とIDSのカルボキシ末端、軽鎖のアミノ末端とIDSのカルボキシ末端、または重鎖のアミノ末端とIDSのカルボキシ末端の結合が用いられてよい。いくつかの実施態様では、結合はHCのカルボキシ末端とIDSのアミノ末端に由来する。
【0118】
IDSは、リンカーを通じて標的抗体(例えば、MAb、HIR−MAb)と融合または共有結合していてよい。末端アミノ酸の間の結合は、融合アミノ酸配列の一部を形成する介在性ペプチドリンカー配列によって達成されうる。ペプチド配列リンカーは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、または10を超えるアミノ酸長であってよい。いくつかの好ましい実施態様を含むいくつかの実施態様では、、ペプチドリンカーは20未満、15、14、13、12、11、10、9、8、7、6、5、4、3、2、または1のアミノ酸長である。いくつかの好ましい実施態様を含むいくつかの実施態様では、ペプチドリンカーは少なくとも0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10のアミノ酸長である。いくつかの実施態様では、IDSは標的抗体に直接結合し、それゆえアミノ酸長は0である。いくつかの実施態様では、IDSと標的抗体を結合するリンカーはない。いくつかの実施態様では、IDSのアミノ末端は標的抗体(例えば、HIR MAb)のカルボキシル末端と直接融合し、それゆえIDSと標的抗体(例えば、HIR MAb)を結合するリンカーはない。いくつかの実施態様では、IDSのカルボキシ末端は標的抗体(例えば、HIR MAb)のアミノ末端と直接融合し、それゆえIDSと標的抗体(例えば、HIR MAb)を結合するリンカーはない。いくつかの実施態様では、IDSのアミノ末端は、標的抗体(例えば、HIR MAb)のHCのカルボキシル末端と直接融合している。いくつかの実施態様では、IDSのアミノ末端は、リンカー(例えば、本明細書に記載されているいずれかのリンカー)を通じて、標的抗体(例えば、HIR MAb)のカルボキシル末端と融合している。いくつかの実施態様では、IDSのカルボキシ末端は、リンカー(例えば、本明細書に記載されているいずれかのリンカー)を通じて、標的抗体(例えば、HIR MAb)のアミノ末端と融合している。いくつかの実施態様では、IDSのアミノ末端は、リンカー(例えば、本明細書に記載されている)いずれかのリンカーを通じて、HIRのHCのカルボキシル末端と融合している。
【0119】
いくつかの実施態様では、リンカーはグリシン、セリン、および/またはアラニン残基をいずれかの組み合わせまたは順序で含む。いくつかの場合には、リンカーにおけるグリシン、セリン、およびアラニン残基を合わせたパーセンテージは、リンカー内の全残基数の少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%である。いくつかの好ましい実施態様では、リンカーにおけるグリシン、セリン、およびアラニン残基を合わせたパーセンテージは、リンカー内の全残基数の少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、90%、または95%である。いくつかの実施態様では、リンカー用に、いずれかの数のアミノ酸(天然または合成アミノ酸を含む)の組み合わせ用いることができる。いくつかの実施態様では、2つのアミノ酸のリンカーが用いられる。いくつかの実施態様では、リンカーは配列Ser−Serを有する。いくつかの実施態様では、2つのアミノ酸のリンカーは、グリシン、セリン、および/またはアラニン残基をいずれかの組み合わせまたは順序で含む(例えば、Gly−Gly、Ser−Gly、Gly−Ser、Ser−Ser、Ala−Ala、Ser−Ala、またはAla−Serリンカー)。いくつかの実施態様では、2つのアミノ酸のリンカーは、1つのグリシン、セリン、および/またはアラニン残基と別のアミノ酸からなる(例えば、Ser−X、ここでXはいずれかの周知のアミノ酸)。さらに他の実施態様では、2つのアミノ酸のリンカーは、gly、ser、またはalaを除くいずれか2つのアミノ酸からなる(例えば、X−X)。
【0120】
本明細書に記載されているように、いくつかの実施態様では、本開示に用いるためのリンカーは、2を超えるアミノ酸長を有する。本明細書でさらに記載されているように、該リンカーはグリシン、セリン、および/またはアラニン残基をいずれかの組み合わせまたは順序で含んでもよい。いくつかの実施態様では、リンカーは1つのグリシン、セリン、および/またはアラニン残基と他のアミノ酸からなる(例えば、Ser−nX、ここでXはいずれかの周知のアミノ酸、nはアミノ酸の数)。さらに他の実施態様では、リンカーはいずれか2つのアミノ酸からなる(例えば、X−X)。いくつかの実施態様では、該いずれか2つのアミノ酸はいずれかの組み合わせまたは順序のGly、Ser、またはAlaであって、可変数のアミノ酸がその間に介在している。1つの実施態様の1つの例では、リンカーは少なくとも1つのGlyからなる。1つの実施態様の1つの例では、リンカーは少なくとも1つのSerからなる。1つの実施態様の1つの例では、リンカーは少なくとも1つのAlaからなる。いくつかの実施態様では、リンカーは少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、または10個のGly、Ser、および/またはAla残基からなる。好ましい実施態様では、リンカーはGlyおよびSerを反復配列で、かつ、いずれかの組み合わせまたは数で含み、例えば(GlySer)、または他のバリエーションである。
【0121】
本発明に用いるためのリンカーは、当該技術分野で周知のいずれかの方法を用いることによって設計されてよい。例えば、融合タンパク質の設計において、最適なアミノ酸リンカーを決定するための複数の公的に入手可能なプログラムがある。タンパク質の配列および所望のリンカーの長さのユーザーによる入力に基づいて、最適なリンカーのアミノ酸配列を自動的に作製する公的に入手可能なコンピュータープログラム(例えばLINKERプログラム)が、本発明の方法および組成物に用いられてよい。しばしば、タンパク質設計に用いるのに最適なタンパク質リンカーを予測するために、該プログラムはタンパク質サブドメインを結合する天然リンカーの観察される傾向を用いることができる。いくつかの場合には、該プログラムは、最適なリンカーを予測する他の方法を用いる。本発明のためのリンカーを予測するのに適したいくつかのプログラムの例は、当該技術分野で記載されており、例えば、Xue et al. (2004) Nucleic Acids Res. 32, W562-W565(機能性の融合タンパク質を構築するためのリンカー配列の設計を支援するためのLINKERプログラムへのインターネットリンクを提供しているウェブサーバー版);George and Heringa, (2003), Protein Engineering, 15(11):871-879(リンカー(linker)プログラムへのインターネットリンクを提供し、タンパク質リンカーの合理的設計を記載している);Argos, (1990), J. Mol. Biol. 211:943-958; Arai et al. (2001) Protein Engineering, 14(8):529-532; Crasto and Feng, (2000) Protein Engineering 13(5):309-312を参照することができる。
【0122】
ペプチドリンカー配列はプロテアーゼ切断部位を含んでよいが、しかしながらこれはIDSの活性に必要というわけではない;実際、本発明のこれらの実施態様の利点は、本明細書に記載されている二機能性のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)が、切断されることなく、輸送およびBBBを越えた時点での活性の両方について、部分的または完全に活性である点にある。図5は、HIR Ab−IDS融合抗体のアミノ酸配列の代表的な実施態様(配列番号10)を示しており、HCがそのカルボキシ末端を通じて2つのアミノ酸「ser−ser」リンカーを経由してIDSのアミノ末端と融合している。いくつかの実施態様では、図4に示しているように、融合IDS配列はその25個のアミノ酸のシグナルペプチドを欠いている。
【0123】
いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)はHCとLCの両方を含む。いくつかの実施態様では、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)は、一価の抗体である。他の実施態様では、本明細書の実施例セクションに記載されているように、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)は、二価の抗体である。
【0124】
IDS融合抗体の一部として用いられる標的抗体(例えば、HIR Ab)は、グリコシル化されていてもグリコシル化されていなくてもよい;いくつかの実施態様では、抗体は、例えばCHO細胞内でのその合成によって生じたグリコシル化パターンにてグリコシル化されている。
【0125】
本明細書で用いられている「活性」は、生理的活性(例えば、BBBを通過する能力および/または治療活性)、結合親和性(受容体媒介BBB輸送系に対する標的抗体(例えば、HIR MAb)の結合親和性を含む)、またはIDSの酵素活性を含む。
【0126】
BBBを越えたIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)の輸送は、標準的な方法によって、標的抗体(例えば、HIR Ab)単独のBBBを越えた輸送と比較することができる。例えば、モデル動物、例えば哺乳類、例えば霊長類によるHIR Ab−IDS融合抗体の薬物動態および脳取り込みが用いられてよい。同様に、IDSの機能を単独の場合とHIR Ab−IDS融合抗体の一部としての場合で比較するために、IDS活性を決定するための標準的なモデルも用いられてよい。例えば、IDS対HIR Ab−IDS融合抗体の酵素活性を立証する実施例3を参照のこと。HIR Ab−IDS融合抗体対HIR Ab単独について、IR ECDに対する結合親和性を比較することができる。例えば、本願明細書の実施例3を参照のこと。
【0127】
本明細書は、本明細書に記載されている1つ以上のIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)および医薬的に許容される賦形剤を含有する医薬組成物も含む。医薬的に許容される担体/賦形剤の徹底的な考察は、Remington's Pharmaceutical Sciences, Gennaro, AR, ed., 20th edition, 2000: Williams and Wilkins PA, USAに見ることができる。本発明の医薬組成物は、いずれかの末梢経路、例えば静脈内、皮下、筋肉内、腹腔内注射;経口、直腸、経頬、経肺、経皮、鼻腔内、または他の適切な末梢投与経路を経由した投与に適した組成物を含む。
【0128】
本発明の組成物は特に注射に適しており、例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、または腹腔内投与用の医薬組成物として適している。本発明の水性組成物は、医薬的に許容される担体または水性媒体に溶解または分散されていてよい本発明の組成物の有効量を含む。語句「医薬的または薬理学的に許容される」は、動物、例えば適切にはヒトに投与された場合に、有害な、アレルギー性の、または他の有害な反応を生じない分子実体(molecular entities)および組成物を指す。本明細書で用いられている「医薬的に許容される担体」は、ありとあらゆる溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、ならびに等張剤および吸収遅延剤等を含む。医薬活性物質のための該媒体および薬剤の使用は、当該技術分野で周知である。いずれかの通常の媒体または薬剤が有効成分と適合しない場合を除いて、治療用組成物におけるその使用が期待される。補助的な有効成分も組成物に組み込まれてよい。
【0129】
注射用組成物のための代表的な医薬的に許容される担体は、塩、例えば鉱酸塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、および硫酸塩等;ならびに有機酸の塩、例えば酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、および安息香酸塩等を含んでよい。例えば、本発明の組成物は液体形態にて提供されてよく、様々なpH(5〜8)で、0.01〜1%のポリソルベート−80等の界面活性剤、またはマンニトール、ソルビトール、もしくはトレハロース等の炭水化物添加剤を含むまたは含まない生理食塩水ベースの水溶液に製剤化されてよい。通常用いられる緩衝液は、ヒスチジン緩衝液、酢酸緩衝液、リン酸緩衝液、またはクエン酸緩衝液を含む。通常の保存および使用条件下で、これらの製剤は微生物の増殖を防ぐための防腐剤を含有してよい。微生物の作用の予防は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール;フェノール、ソルビン酸、およびチメロサール等によってもたらされうる。多くの場合、等張剤、例えば糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましいであろう。注射用組成物の持続的吸収は、吸収を遅延させる薬剤、例えばモノステアリン酸アルミニウム、およびゼラチンの組成物における使用によってもたらされうる。
【0130】
ヒト投与のために、製剤はFDAおよび他の規制当局基準によって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性、および純度基準を満たす。活性化合物は、一般的に、非経口投与用に製剤化され、例えば、静脈内、筋肉内、皮下、病巣内、または腹腔内経路を経由する注射用に製剤化されるであろう。活性成分(component)または成分(ingredient)を含有する水性組成物の製造は、本開示を考慮すれば当業者は知ることができるであろう。典型的には、該組成物は、溶液または懸濁液のいずれかとして注射用に製造することができる;注射前の液体の添加の際の溶液または懸濁液の製造における使用に適した固体形態も製造されてよい;製剤は乳化されていてもよい。
【0131】
無菌注射用溶液は、活性化合物を、必要であれば上で列挙した様々な他の成分と共に適切な溶媒に必要量にて組み込み、次いで無菌濾過することによって製造される。一般的に、分散液は、様々な無菌化有効成分を、基礎となる分散媒および上で列挙したものから選択される必要な他の成分を含有する無菌ビヒクルに組み込むことによって製造される。無菌注射用溶液の製造のための無菌粉末の場合、製造方法は、その前もって無菌濾過した溶液から、有効成分に加えていずれかの付加的な所望の成分の粉末を生じる、真空乾燥および凍結乾燥技術を含む。
【0132】
製剤化すると、溶液は、投薬製剤(dosage formulation)に適合する様式および本明細書に記載されている判断基準に基づく治療的に有効な量にて全身投与されるであろう。製剤は様々な剤形、例えば上記注射用溶液の形態で容易に投与されるが、薬物放出カプセル剤等も利用されてよい。
【0133】
投与される医薬組成物の適切な量、治療の数、および単位用量は、本明細書に記載されているIDS融合抗体(例えば、HIR Ab−IDS)のCNS取り込み特性に従って、ならびに治療される対象、対象の状態および所望の効果に従って変動するであろう。投与に関与する人は、いずれの場合も、個々の対象に適切な用量を決定するであろう。
【0134】
化合物は非経口投与、例えば静脈内または筋肉内注射用に製剤化される場合に加えて、本発明の他の代替投与方法も用いられてよく、例えば、限定されるものではないが、皮内投与(米国特許第5,997,501号;第5,848,991号;および第5,527,288号を参照のこと)、経肺投与(米国特許第6,361,760号;第6,060,069号;および第6,041,775号を参照のこと)、頬側投与(米国特許第6,375,975号;および第6,284,262号を参照のこと)、経皮投与(米国特許第6,348,210号;および第6,322,808号を参照のこと)ならびに経粘膜投与(米国特許第5,656,284号を参照のこと)が用いられてよい。該投与方法は当該技術分野で周知である。例えば点鼻液もしくは鼻腔用スプレー、エアロゾルまたは吸入剤による本発明の鼻腔内投与も用いられてよい。点鼻液は、通常、液滴またはスプレーにて鼻腔に投与されるように設計された水溶液である。点鼻液は多くの点で鼻汁に類似するように製造される。それゆえ、水性点鼻液は通常、等張性で、わずかに緩衝化され、pH5.5〜6.5を維持している。さらに、必要であれば、点眼薬に用いられるものと類似の抗菌性防腐剤および適切な薬物安定剤が製剤に含まれてよい。様々な市販の点鼻剤が知られており、例えば抗生物質および抗ヒスタミン剤を含み、喘息予防に用いられている。
【0135】
他の投与様式に適したさらなる製剤は、坐剤およびペッサリーを含む。直腸ペッサリーまたは坐剤も用いられてよい。坐剤は様々な重量および形状の固体剤形であり、通常、直腸または尿道への挿入によって投薬される。挿入後、坐剤は軟化し、融解し、または腔液(cavity fluids)に溶解する。坐剤のための伝統的な結合剤および担体は、一般的に、例えばポリアルキレングリコールまたはトリグリセリドを含む;該坐剤は、有効成分をいずれかの適切な範囲、例えば0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲で含有する混合物から形成されてよい。
【0136】
経口製剤は、通常利用される賦形剤、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、および炭酸マグネシウム等を含む。これらの組成物は、溶液、懸濁液、錠剤、丸剤、カプセル剤、持続放出製剤、または粉末の形態をとる。特定の定義された実施態様では、経口医薬組成物は不活性希釈剤もしくは同化可能な食用担体を含み、ハードもしくはソフトシェルゼラチンカプセルに封入されてよく、錠剤に圧縮されてよく、または食事の食物と共に直接組み込まれてよい。治療的経口投与のために、活性化合物は賦形剤と共に組み込まれてよく、摂取可能な錠剤、頬側錠剤、トローチ剤、カプセル剤、エリキシル剤、懸濁液、シロップ剤、およびウエハー等の形態で用いられてよい。該組成物および製剤は、少なくとも0.1%の活性化合物を含有してよい。組成物および製剤のパーセンテージはもちろん変化してよく、好都合には、単位の重量の約2〜約75%、または約25〜60%であってよい。そのような治療的に有用な該組成物中の活性化合物の量によって、適切な投薬量が得られるであろう。
【0137】
錠剤、トローチ剤、丸剤、およびカプセル剤等は、下記も含有してよい:結合剤、例えばトラガカントゴム、アラビアゴム、コーンスターチ、またはゼラチン;賦形剤、例えばリン酸二カルシウム;崩壊剤、例えばコーンスターチ、ジャガイモデンプン、およびアルギン酸等;滑沢剤、例えばステアリン酸マグネシウム;ならびに甘味剤、例えばスクロース、ラクトースまたはサッカリンが添加されてよく、または香味剤、例えばペパーミント、ウィンターグリーンの油、またはサクランボ香味料が添加されてよい。投薬単位形態がカプセル剤である場合、それは上記形態の物質に加えて、液体担体を含有してよい。様々な他の物質がコーティングとして存在してよく、あるいは投薬単位の物理的形態を修正するために存在してよい。例えば、錠剤、丸剤、またはカプセル剤は、シェラック(shellac)、糖またはその両方でコーティングされていてよい。エリキシル剤のシロップは、活性化合物を、スクロースを甘味剤として、メチレンおよびプロピルパラベンを防腐剤として含有してよく、色素および香味料、例えばサクランボまたはオレンジ香料を含有してよい。いくつかの実施態様では、経口医薬組成物は、胃の環境から有効成分を保護するために腸溶コーティングされていてよい;腸溶コーティングの方法および製剤は、当該技術分野で周知である。
【0138】
方法
本明細書に記載されているのは、本明細書に記載されているようなHIR Ab−IDS融合抗体の治療的有効量を全身投与することによって、BBBを越えてCNSにIDSの有効用量を送達する方法である。本明細書に記載されているように、IDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の送達のための適切な全身投与量(systemic doses)は、そのCNS取り込み特性およびIDS比活性に基づく。IDS欠乏症を患っている対象へのIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の全身投与は、CNSへのIDSの非侵襲的送達に対する有効なアプローチである。
【0139】
治療的に有効な全身投与量(systemic dose)であるIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の量は、本明細書に記載されているように、部分的には、投与されるIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)のCNS取り込み特性、例えばCNSに取り込まれる全身投与された用量のパーセンテージに依存する。
【0140】
いくつかの実施態様では、0.3%(すなわち、約0.32%)、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、5%、または約0.3%〜約12%のいずれかの%)の全身投与されたIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)が、末梢血からBBBを越えたその取り込みの結果として脳に送達される。いくつかの実施態様では、少なくとも0.5%(すなわち、約0.32%、0.4%、0.48%、0.6%、0.74%、0.8%、0.9%、1.05、1.1、1.2、1.3%、1.5%、2%、2.5%、5%、または約0.3%〜約12%のいずれかの%)の全身投与されたIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の用量が、全身投与後2時間以内、すなわち、1.8、1.7、1.5、1.4、1.3、1.2、1.1、0.9、0.8、0.6、0.5または約0.5〜約2時間の間のいずれかの時間で脳に送達される。
【0141】
従って、いくつかの実施態様では、本発明はIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の治療的有効量を全身投与する方法を提供し、それによってBBBを通過するIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の量が対象の脳内に少なくとも0.125ユニットのIDS活性/mgタンパク質、例えば、対象の脳内に0.14、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.21、0.22、0.23、0.24、0.25、0.3、0.4、0.5、0.75、1.0、1.5、2、または0.125〜2.5の間のいずれかのユニットのIDS活性/mgタンパク質を提供する方法を提供する。
【0142】
いくつかの実施態様では、対象の脳に送達されるIDS活性の全ユニット数は、少なくとも12,500ユニット、例えば、少なくとも12,500、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000、200,000、210,000、220,000、230,000、250,000または約12,500〜250,000ユニットのIDS活性の間のいずれかの全IDSユニット数である。
【0143】
いくつかの実施態様では、治療的に有効な全身投与量(systemic dose)は、少なくとも5x10、1x10、2x10、3x10、4、10、5x10、6x10、7x10、8x10、9x10、1x10、1.1x10、1.2x10、1.5x10、1.6x10、1.7x10、1.8x10、1.9x10、2x10、2.1x10、3x10、または約5x10〜3x10ユニットのIDS活性の間のいずれかの全身投与量(systemic dose)を含む。
【0144】
他の実施態様では、治療的に有効な全身投与量(systemic dose)は、少なくとも約20,000ユニットのIDS活性/kg体重、少なくとも約22,000、24,000、25,000、30,000、40,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、100,000、125,000、150,000、200,000または約20,000〜200,000ユニットのIDS活性/kg体重の間のいずれかのIDSユニット数である。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された、少なくとも約10,000、15,000、25,000、30,000、35,000、40,000、45,000、50,000、60,000、70,000、80,000、90,000、110,000、120,000、130,000、140,000、150,000、160,000、170,000、180,000、190,000、200,000、210,000、220,000、230,000、250,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。いくつかの実施態様では、体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000 000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される。
【0145】
当業者であれば、IDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の治療的に有効な全身投与量(systemic dose)の全量(mass amount)は、部分的には、そのIDS比活性に依存するであろうことを理解できるであろう。いくつかの実施態様では、IDS融合抗体(例えば、HIR MAb)のIDS比活性は、少なくとも10,000U/mgタンパク質、少なくとも約11,000、12,000、13,000、14,000、20,000、21,000、22,000、23,000、24,000、25,000、26,000、27,000、28,000、30,000、32,000、34,000、35,000、36,000、37,000、40,000、45,000、50,000、または約10,000ユニット/mg〜約50,000ユニット/mgの間のいずれかの比活性値である。
【0146】
それゆえ、IDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の比活性および治療される対象の体重を十分に考慮すると、IDS融合抗体(例えば、HIR MAb)の全身投与量(systemic dose)は、少なくとも2mg、例えば、5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、100、または約2mg〜約100mgの間のいずれかの値のIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)であってよい。
【0147】
本明細書で用いられている用語「全身投与」または「末梢投与」は、CNS内への直接投与ではないいずれかの投与方法、すなわち、身体的貫通またはBBBの破壊を含まないいずれかの投与方法を含む。「全身投与」は、限定されるものではないが、静脈内投与、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、経頬投与、経皮投与、直腸投与、経肺(transalveolar)投与(吸入)、または経口投与を含む。本明細書に記載されているように、いずれかの適切なIDS融合抗体(例えば、HIR MAb)が用いられてよい。
【0148】
本明細書で言及されているIDS欠乏症は、ハンター症候群、ハンター病、およびムコ多糖症II型として知られている1つ以上の状態を含む。IDS欠乏症は、体内(心臓、肝臓、脳等)に起こるヘパラン硫酸およびデルマタン硫酸の蓄積によって特徴付けられる。
【0149】
本発明の組成物、例えばHIR Ab−IDS融合抗体は、併用療法の一部として投与されてよい。該併用療法は、IDS欠乏症を患っている患者に典型的に見られる症状の治療または軽減のための別の治療と組み合わせた本発明の組成物の投与を含む。本発明の組成物が別のCNS障害の方法または組成物と組み合わせて用いられる場合、本発明の組成物と付加的な方法または組成物のいずれかの組み合わせが用いられてよい。それゆえ、例えば、本発明の組成物が別のCNS障害治療薬と組み合わせて用いられる場合、その2つは、同時に、連続的に、重複する持続期間、類似した、同一の、または異なる頻度等で投与されてよい。いくつかの場合には、本発明の組成物を1つ以上の他のCNS障害治療薬と組み合わせて含有する組成物が用いられるであろう。
【0150】
いくつかの実施態様では、組成物、例えばHIR Ab−IDS融合抗体は、別の薬物と、同一の製剤内または別々の組成物として患者に同時投与される。例えば、HIR Ab−IDS融合抗体は、同様にヒト血液脳関門を越えてIDS以外の組換えタンパク質を送達するように設計された別の融合タンパク質と共に製剤化されてよい。さらに、HIR Ab−IDS融合抗体は、他の巨大分子または小分子と組み合わせて製剤化されてよい。
【表1】

【表2】

【0151】
実施例
下記の特定の実施例は、単に説明の目的で提供されていると解釈されるべきであり、いかなる場合であっても決して本開示の残りの部分を限定するものではない。これ以上詳述しなくても、当業者であれば、本明細書の記載に基づいて、本発明をその最大限の範囲まで利用することができると考えられる。本明細書で引用されている全ての出版物は、それらの全体において参照することによって本明細書に援用される。参照がURLなどの識別名またはアドレスでなされている場合、該識別名は変化してよく、インターネット上の特定の情報は現れたり消えたりしうるが、インターネットを検索することによって等価な情報を見ることができると理解されるべきである。それに対する参照は、該情報が入手可能であり、公に普及していることを証明するものである。
【0152】
実施例1.HIR Ab−GUSB融合タンパク質の発現および機能分析
スライ症候群とも呼ばれるMPS−VIIで変異しているリソソーム酵素は、 −グルクロニダーゼ(GUSB)である。MPS−VIIは、脳内のグリコサミノグリカンの蓄積をもたらす。GUSB酵素はBBBを通過しないため、MPS−VIIの酵素補充療法(ERT)は、脳の治療に有効ではないようである。BBBを通過するヒトGUSBを再設計する試みにおいて、HIR Ab−GUSB融合タンパク質プロジェクトを開始した。
【0153】
22個のアミノ酸のシグナルペプチドおよび18個のアミノ酸のカルボキシル末端プロペプチドを含む、ヒトGUSBタンパク質(NP_000172)のアミノ酸Met−Thr651に相当するヒトGUSB cDNAを、逆転写(RT)ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)およびカスタムオリゴデオキシヌクレオチド(ODNs)によってクローン化した。PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で分離し、ヒトGUSB cDNAに相当する〜2.0kbの予想される主要な単一バンドを単離した。クローン化されたヒトGUSBを真核生物発現プラスミドに挿入し、このGUSB発現プラスミドをpCD−GUSBと命名した。プラスミドの全発現カセットを双方向DNAシークエンシングによって確認した。6ウェルフォーマット中、COS細胞をpCD−GSUBでトランスフェクションすると、条件培地中、7日で高GUSB酵素活性をもたらし(表1、実験A)、これにより機能性のヒトGUSB cDNAが成功裏に設計されたことが立証された。GUSB酵素活性を、市販の4−メチルウンベリフェリル β−L−グルクロニド(MUGlcU)を用いた蛍光定量的アッセイで決定した。この基質をGUSBによって4−メチルウンベリフェロン(4−MU)に加水分解し、発光波長450nmおよび励起波長365nmを用いた蛍光光度計で4−MUを蛍光定量的に検出する。既知量の4−MUで検量線を作成した。アッセイは37℃で60分間インキュベーション、pH=4.8で行い、グリシン−炭酸塩緩衝液(pH=10.5)の添加によって終結させた。
【0154】
HIR Abの重鎖(HC)のカルボキシル末端が、22個のアミノ酸のGUSBシグナルペプチドを除き、18個のアミノ酸のカルボキシル末端GUSBプロペプチドを含まないヒトGUSBのアミノ末端と融合している融合タンパク質を発現する、新たなpCD−HC−GUSBプラスミド発現プラスミドを設計した。GUSB cDNAを、pCD−GUSBをテンプレートとして用いたPCRによってクローン化した。フォワードPCRプライマーに「CA」ヌクレオチドを導入することによりオープンリーディングフレームを維持し、HIR Ab HCのCH3領域のカルボキシル末端と、酵素の22個のアミノ酸のシグナルペプチドを含まないGUSBのアミノ末端の間にSer−Serリンカーを導入した。GUSBリバースPCRプライマーは、成熟ヒトGUSBタンパク質の末端Thrの直後にストップコドン「TGA」を導入する。pCD−HC−GUSBの発現カセットのDNAシークエンシングは、714ntのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、9ntのコザック部位(GCCGCCACC)、3,228ntのHC−GUSB融合タンパク質オープンリーディングフレーム、および370ntのウシ成長ホルモン(BGH)転写終結配列を含む4,321ヌクレオチド(nt)を包含した。プラスミドは、19個のアミノ酸のIgGシグナルペプチド、443個のアミノ酸のHIRMAb HC、2個のアミノ酸のリンカー(Ser−Ser)、および酵素シグナルペプチドおよびカルボキシル末端プロペプチドを除く611個のアミノ酸のヒトGUSBで構成される、1,075個のアミノ酸タンパク質をコードしていた。GUSB配列は、ヒトGUSB(NP_000172)のLeu23−Thr633と100%同一であった。グリコシル化を除く重鎖融合タンパク質の予測される分子量は119,306Daであり、予測される等電点(pI)は7.83である。
【0155】
COS細胞を6ウェルクラスターディッシュに蒔き、pCD−LCおよびpCD−HC−GUSBで二重トランスフェクトしたが、ここでpCD−LCはキメラHIR Abの軽鎖(LC)をコードしている発現プラスミドである。トランスフェクションはリポフェクタミン2000を用いて行い、1:2.5のug DNA:uL リポフェクタミン2000の比率とし、無血清条件培地を3日および7日で収集した。しかしながら、pCD−HC−GUSBおよびpCD−LC発現プラスミドによるCOS細胞の二重トランスフェクション後、GUSB酵素活性の特異的増加はなかった(表1、実験B)。しかしながら、培地のIgGは、ヒトIgG特異的ELISAによって決定すると、わずか23±2ng/mLであったため、培地中の低GUSB活性はHIRMAb−GUSB融合タンパク質の低分泌に起因しうるものであった。それゆえ、COS細胞トランスフェクションを10xT500プレートまで拡大し、HIRMAb−GUSB融合タンパク質をタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。IgGウエスタンブロッティングは、融合タンパク質重鎖のサイズの予想された増加を示した。しかしながら、HIRMAb−GUSB融合タンパク質のGUSB酵素活性は低く、6.1±0.1nmol/hr/ugタンパク質であった。対照的に、ヒト組換えGUSBの比活性は2,000nmol/hr/ugタンパク質である[Sands et al (1994) Enzyme replacement therapy for murine mucopolysaccharidosis type VII. J Clin Invest 93, 2324-2331]。これらの結果により、HIR Ab−GUSB融合タンパク質のGUSB酵素活性は、GUSBとHIR AbのHCのカルボキシル末端の融合後、>95%失われたことが立証された。HIR Ab−GUSB融合タンパク質とHIRの細胞外ドメイン(ECD)の結合親和性を、ELISAで調べた。HIR ECDで永続的にトランスフェクトされたCHO細胞を無血清培地(SFM)中で培養し、HIR ECDをコムギ胚芽凝集素アフィニティーカラムで精製した。HIR ECDを96ウェルディッシュに蒔き、HIR Ab、およびHIR Ab−GUSB融合タンパク質とHIR ECDの結合を、ビオチン化ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体で検出し、次いでアビジンおよびビオチン化ペルオキシダーゼで検出した。最大結合の50%を与えるタンパク質の濃度、ED50を、非線形回帰分析で決定した。HIR受容体アッセイは、611個のアミノ酸のGUSBとHIRMAb重鎖のカルボキシル末端の融合後、HIRの親和性に減少がないことを示した。HIR AbとHIR ECDの結合のED50は0.77±0.10nMであり、HIR Ab−GUSB融合タンパク質の結合のED50は0.81±0.04nMであった。
【0156】
要約すれば、GUSBとHIR Ab HCのカルボキシル末端の融合は、融合タンパク質とHIRの結合親和性を減少させなかった。しかしながら、融合タンパク質のGUSB酵素活性は、>95%減少した。
【0157】
HIR AbとGUSBの融合タンパク質を成功裏に産生する試みにおいて、GUSBシグナルペプチドを含む成熟ヒトGUSBのカルボキシル末端をHIR AbのHCのアミノ末端と融合させる新たなアプローチを行った。この融合タンパク質をGUSB−HIR Abと命名した。第一のステップは、この新たな融合タンパク質をコードしている新たな発現プラスミドを設計することである;このプラスミドをpCD−GUSB−HCと命名した。pCD−GUSB−HCプラスミドは、その19個のアミノ酸のシグナルペプチドを含まないHIRMAbの重鎖(HC)のアミノ末端が、22個のアミノ酸のGUSBシグナルペプチドを含むが、18個のアミノ酸のカルボキシル末端GUSBプロペプチドを含まないヒトGUSBのカルボキシル末端と融合した融合タンパク質を発現する。pCD−GUSBベクターは、22個のアミノ酸のGUSBシグナルペプチドを含有するが、GUSBカルボキシル末端の18個のアミノ酸のプロペプチドを欠いているGUSBタンパク質を発現するGUSB cDNAのPCR増幅のためのテンプレートとして用いられる。pCD−GUSBにおけるGUSBの18個のアミノ酸のカルボキシル末端プロペプチドは、部位特異的変異誘発(SDM)によって除去した。その後(The latter)、GUSBのThr633残基の3’−隣接領域にAfeI部位を作製し、pCD−GUSB−AfeIと命名した。次いで、カルボキシル末端プロペプチドを、AfeIおよびHindIII(GUSBの3’−非コード領域に位置する)で除去した。19個のアミノ酸のIgGシグナルペプチドを含まずHIRMAb HCストップコドンを含むHIRMAb HCオープンリーディングフレームは、HIRMAb HC cDNAをテンプレートとして用いたPCRによって作製した。PCRによって作製されたHIRMAb HC cDNAをpCD−GUSB−AfeIのAfeI−HindIII部位に挿入し、pCD−GUSB−HCを作製した。GUSBのカルボキシル末端とHIRMAb HCのアミノ末端の間のSer−Serリンカーを、AfeI部位内に、HIRMAb HC cDNAのクローニングに用いられるPCRプライマーによって導入した。pCD−GUSB−HC発現カセットのDNAシークエンシングは、プラスミドが、22個のアミノ酸のGUSBシグナルペプチド、611個のアミノ酸のGUSB、2個のアミノ酸のリンカー(Ser−Ser)、および443個のアミノ酸のHIRMAb HCで構成される1,078個のアミノ酸のタンパク質を発現することを示した。GUSB配列は、ヒトGUSB(NP_000172)のMet−Thr633と100%同一であった。
【0158】
6ウェルフォーマット中、COS細胞をpCD−LCおよびpCD−GUSB−HC発現プラスミドで二重トランスフェクションすると、pCD−LCおよびpCD−HC−GUSBプラスミドでの二重トランスフェクションと比較して、条件培地中、7日でより高いGUSB酵素活性をもたらした(表1、実験C)。しかしながら、ELISAによって決定した7日目の条件培地中の培地のヒトIgG濃度がわずか13±2ng/mLであったため、GUSB−HIRMAb融合タンパク質もCOS細胞によって分泌されにくいものであった。COS細胞トランスフェクションを10xT500プレートまで拡大し、GUSB−HIRMAb融合タンパク質をタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。SDS−PAGEは、融合タンパク質重鎖のサイズの予想された増加を示した。精製GUSB−HIRMAb融合タンパク質のGUSB酵素活性は高く、226±8nmol/hr/ugタンパク質であったが、これはHIRMAb−GUSB融合タンパク質の特異的GUSB酵素活性よりも37倍高い。しかしながら、HIR受容体アッセイによると、GUSBとHIRMAb重鎖のアミノ末端の融合後、HIRに対する親和性が著しく減少し、受容体結合親和性の95%減少をもたらすことが示された。HIR AbとHIR ECDの結合のED50は0.25±0.03nMであり、HIR Ab−GUSB融合タンパク質の結合のED50は4.8±0.4nMであった。
【0159】
要約すれば、GUSBとHIR Ab HCのアミノ末端の融合は融合タンパク質のGUSB酵素活性の保持をもたらしたが、GUSB−HIR Ab融合タンパク質とHIRの結合の95%減少を引き起こした。対照的に、GUSBとHIR Ab HCのカルボキシル末端の融合は、HIR Ab−GUSB融合タンパク質とHIRの結合親和性の減少をもたらさなかった。しかしながら、この融合タンパク質のGUSB酵素活性は>95%減少した。
【0160】
実施例2.ヒトHIR Ab重鎖−IDS融合タンパク質発現ベクターの構築
ハンター症候群とも呼ばれるMPS−IIで変異しているリソソーム酵素は、イズロン酸 2−スルファターゼ(IDS)である。MPS−IIは、脳内のグリコサミノグリカンの蓄積をもたらす。IDS酵素がBBBを通過しないため、MPS−IIの酵素補充療法は脳の治療に有効ではないようである。BBBを通過し、かつ酵素活性を示すことができる二機能性の分子を開発するために、IDSをHIR Abと融合させた。
【0161】
HIR Abと融合した時にIDSの酵素活性が保持されているかどうかは不明であった。これは、IDSが小胞体内で翻訳後修飾を起こすが、IDSがHIR Abと融合した場合にそのプロセスが損なわれるかどうかが分からなかったからである。IDSはスルファターゼファミリーのメンバーであり、該酵素の活性は、小胞体内でスルファターゼ修飾因子によってCys−59がホルミルグリシン残基に変換された後に活性化される[Zito et al, Sulphatase activities are regulated by the interaction of sulphatase-modifying factor 1 with SUMF2. EMBO Rep 6 (2005) 655-660]。内部システインのホルミルグリシン残基へのこの変換がなければ、該酵素は活性を有さない。例えば融合タンパク質とHIRの高結合親和性を保持する試みにおいて、IDSがHIR AbのHCのカルボキシル末端と融合した場合、IgG重鎖は宿主細胞内での翻訳後、3次元構造にフォールドし、次いで融合タンパク質のIDS部分がフォールディングするであろう。HIR Ab HC−IDS融合タンパク質のIDS部分が、小胞体内のIDS修飾因子によって認識および活性化されるであろう3次元構造にフォールドし、HIR Ab−IDS融合タンパク質内で完全なIDS酵素活性の発現がもたらされるかどうかについては不明であった。
【0162】
25個のアミノ酸のシグナルペプチドを含まないSer26−Pro550をコードしているヒトIDS cDNA(ジェンバンクNP_000193)は、ヒト肝臓ポリA+RNA(クロンテック社)で開始した逆転写およびPCRによって作製した。ヒト肝臓cDNAは、スーパースクリプト・ファースト−ストランド(SuperScript first-strand)合成キット(インビトロジェン社、サンディエゴ、カリフォルニア州)およびオリゴデオキシチミジンプライミングを用いて製造した。IDS cDNAは、2μl肝臓cDNA逆転写反応、0.2μM IDSフォワードおよびリバースODNプライマー(表2)、0.2mMデオキシヌクレオチド三リン酸ならびに2.5U PfuUltra DNAポリメラーゼ(ストラタジーン社、サンディエゴ、カリフォルニア州)を50μl Pfu緩衝液(ストラタジーン社)中で用いてクローン化した。増幅はマスターサイクラー(Mastercycler)温度サイクラー(エッペンドルフ社、ハンブルグ、ドイツ)中で行い、最初の変性ステップを95℃で2分間、次いで30サイクルの変性を95℃で30秒間、アニーリングを55℃で30秒間、および増幅を72℃で1分間行った。PCR産物を1%アガロースゲル電気泳動で分離し、ヒトIDS cDNAに相当する〜1.6kbの予想される主要な単一バンドを単離した(図8A)。図8Bに概略を示しているように、クローン化されたヒトIDSをpCD−HIRMAb HC真核生物発現プラスミドのHpaI部位に挿入し、この発現プラスミドをpCD−HIRMAb−IDSと命名した;pCD−HIRMAb−HC発現プラスミドはキメラHIRMAbの重鎖(HC)をコードしている。プラスミドの全発現カセットを双方向DNAシークエンシングによって確認した。IDSフォワードPCRプライマー(配列番号11)は、成熟IDSタンパク質の最初の7個のアミノ酸をコードしている23塩基であった。このプライマーに「CC」ヌクレオチドを導入することによりオープンリーディングフレームを維持し、HIRMAb HCのCH3領域のカルボキシル末端と、酵素の25個のアミノ酸のシグナルペプチドを含まないIDSのアミノ末端の間にSer−Serリンカーを導入する。IDSリバースPCRプライマー(配列番号12)は、成熟ヒトIDSタンパク質の末端Proの直後にストップコドン、「TGA」を含むIDS cDNAの末端と相補的な27塩基であった。IDSモノマーと各HCのカルボキシル末端の融合は、図6に描写している。プラスミドの全発現カセットは、両鎖をシークエンシングすることによって確認した。
【0163】
pCD−HIRMAb−IDSプラスミドの発現カセットのDNAシークエンシングは、714ntのサイトメガロウイルスプロモーター、9ntの全コザック部位(GCCGCCACC)、2,970ntのHIRMAb HC−IDS融合タンパク質オープンリーディングフレーム、および370ntのウシ成長ホルモンポリA配列を含む、4,063ヌクレオチド(nt)を包含していた。プラスミドは、19個のアミノ酸のIgGシグナルペプチド、443個のアミノ酸のHIRMAb HC、2個のアミノ酸のリンカー(Ser−Ser)、および酵素シグナルペプチドを含まない525個のアミノ酸のヒトIDSで構成される、989個のアミノ酸のタンパク質(配列番号10)をコードしていた。グリコシル化を除く重鎖融合タンパク質の予測される分子量は108,029Daであり、予測される等電点(pI)は6.03である。
【0164】
実施例3.COS細胞内のHIR Ab−IDS融合タンパク質の発現分析
COS細胞を6ウェルクラスターディッシュに蒔き、pCD−HC−IDS、およびpCD−LCで二重にトランスフェクトしたが、ここでpCD−LCは、HIR Ab−IDS融合タンパク質にも用いられるキメラHIRMAbの軽鎖(LC)をコードしている発現プラスミドである。融合タンパク質の発現を、ヒトIgGに特異的なELISAでスクリーニングした。より大量の融合タンパク質の産生のために、COS細胞を10xT500フラスコ中でトランスフェクトした。3日目および7日目の培地をプールし、2Lの無血清条件培地を接線流濾過(ミリポア社)で400mLまで濃縮し、次いでタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーで精製した。
【0165】
COS細胞によって産生されたタンパク質A精製融合タンパク質の純度を、5%β−メルカプトエタノールを含む12%ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDSPAGE)で評価すると、精製HIR Abに匹敵する均一性を有していることが示された(図9)。免疫活性を、ヒトIDSに対するヤギ抗体、またはヒトIgG重鎖および軽鎖に対する一次ヤギ抗血清で検査した。
【0166】
精製HIR Ab−IDS融合タンパク質のウエスタンブロッティング上で、抗ヒトIgG抗体を融合タンパク質の135kDaのHC、およびキメラHIR Abの50kDaのHCと反応させたが、サイズの差である85kDaは、IDSの融合に起因するものである(図10A)。抗ヒトIgG抗体は、HIR Ab−IDS融合タンパク質またはHIR Abの軽鎖と等しく反応するが、これは両タンパク質が同一の軽鎖で構成されているからである。抗IDS抗体は135kDaの融合タンパク質のHCと反応するが、キメラHIR AbのHCとは反応しない(図10B)。
【0167】
実施例4.HIR結合およびIDS活性の分析
HIR細胞外ドメイン(ECD)に対する融合タンパク質の親和性は、ELISAで決定した。前にColoma et al. (2000) Pharm Res, 17:266-274に記載されているように、HIR ECDで永続的にトランスフェクトされたCHO細胞を無血清培地(SFM)中で培養し、HIR ECDをコムギ胚芽凝集素アフィニティーカラムで精製した。HIR ECDをNunc−Maxisorb 96ウェルディッシュに蒔き、HIR Ab、またはHIR Ab−IDS融合タンパク質と、HIR ECDの結合を、ビオチン化ヤギ抗ヒトIgG(H+L)二次抗体で検出し、次いでアビジンおよびビオチン化ペルオキシダーゼ(ベクターラボラトリーズ社、バーリンゲーム、カリフォルニア州)で検出した。最大結合の50%を与えるHIR AbまたはHIR Ab−IDS融合タンパク質の濃度を、非線形回帰分析で決定した。図11に示しているように、キメラHIR AbまたはHIR Ab−IDS融合タンパク質はHIR ECDに対して同程度の結合を示し、ED50はそれぞれ0.32±0.05nMおよび0.40±0.05nMであった。
【0168】
IDS酵素活性は、モサーダム・サブストレイツ(Moscerdam Substrates)社(ロッテルダム、オランダ)から購入した4−メチルウンベリフェリル a−L−イズロニド−2−サルフェート(4−MUS)を用いた蛍光定量的アッセイで決定した。この基質は、IDSによって4−メチルウンベリフェリル a−L−イズロニド(MUBI)に加水分解され、MUBIはイズロニダーゼ(IDUA、アルデュラザイム、ジェンザイム社、ボストン、マサチューセッツ州)によって4−メチルウンベリフェロン(4−MU)に加水分解され、これはファーランド(Farrand)フィルター蛍光光度計で発光波長450nmおよび励起波長365nmを用いて蛍光定量的に検出される。既知量の4−MU(シグマ−アルドリッチ社、セントルイス、ミズーリ州)で検量線を作成した。アッセイは、マキルベン(McIlvaine's)緩衝液中、37℃、pH=4.5で4時間インキュベーションし、次いで12ugのIDUAを添加し、さらに37℃で24インキュベーションすることによって行った。0.2mLの0.5M炭酸ナトリウム(pH=10.3)の添加によってインキュベーションを終結させた。1ユニット=1nmol/hrである。2ステップ酵素蛍光定量的アッセイの概略を図12Aに示している。蛍光定量的ユニットは、精製HIRMAb−IDS融合タンパク質の質量に比例し、融合タンパク質の酵素活性は51±7nmol/hr/ugタンパク質であったが(図12B)、これはヒト組換えイズルスルファーゼについて報告されているIDS酵素活性に匹敵するものである(G. Zareba, Idursulfase in Hunter syndrome treatment. Drugs Today (Barc) 43 (2007) 759-767)。
【0169】
実施例5.MPS II型線維芽細胞におけるHIR Ab−IDS融合タンパク質取り込みおよび生物学的活性
MPS II型ハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)(GM000298)および健常なヒト線維芽細胞(GM000497)は、コーリエル医学研究所(Coriell Institute for Medical Research)(カムデン、ニュージャージー州)から得、6ウェルクラスターディッシュ内で高密集度になるまで(to confluency)培養した。培地を吸引し、ウェルをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、血清を含まない1mLのダルベッコ変法イーグル培地で、一定濃度範囲のHIRMAb−IDS融合タンパク質と共に、37℃で2時間インキュベートした。培地を吸引し、PBSでウェルを広範囲に洗浄し(1mL/ウェル、5回洗浄)、単層を0.3mL/ウェルの溶解緩衝液(5mMギ酸ナトリウム、0.2%トリトンX−100、pH=4.0)中で抽出し、次いで4回の凍結/融解サイクルを行い、4℃で10分間微量遠心した。IDS酵素活性およびビシンコニン酸タンパク質(BCA)アッセイのために、上清を除去した。融合タンパク質の取り込みは、IDS酵素活性/mg細胞タンパク質のnmol/hrとして表した。
【0170】
HIRMAb−IDS融合タンパク質は、MPS II型線維芽細胞によって取り込まれた(図13)。未処理のこれらの細胞における基礎IDS活性は非常に低く、<10nmol/hr/mgである。細胞内IDS酵素活性は、培地のHIRMAb−IDSの濃度に比例して増加する(図13)。健常なヒト線維芽細胞における正常なIDS酵素活性は、図13に水平バーで示している。
【0171】
細胞のグリコサミノグリカン(GAG)蓄積に対するHIRMAb−IDS融合タンパク質の効果を、35S取り込みアッセイで評価した。MPS II型または健常なヒト線維芽細胞を250,000細胞/ウェルで6ウェルクラスターディッシュに蒔き、10%ウシ胎児血清を含むDMEM中で4日間培養した。培地を捨て、ウェルをPBSで洗浄し、10%透析ウシ胎児血清を含む1mL/ウェルの低サルフェート(low sulfate)F12培地を添加すると共に、5mM CaCl2、HIRMAb−IDS融合タンパク質(0.3ug/mL)、および10uCi/mLの35S−硫酸ナトリウム(パーキンエルマー社、ボストン、マサチューセッツ州)を添加した。37℃で24時間インキュベーションした後、培地を吸引し、ウェルを冷PBSで洗浄し(1mL、5回洗浄)、細胞を0.4mL/ウェルの1N NaOHで溶解した。溶解物を60℃で60分間加熱してタンパク質を可溶化し、BCAタンパク質アッセイ用に一定分量を除去し、パーキンエルマーTri−Carb2100液体シンチレーションカウンターでサンプルの放射能をカウントした。データは、35Sカウント毎分(CPM)/ugタンパク質として表した。GAG蓄積のパーセント標準化は[(A−B/(A−C)]x100から計算したが、ここでA=未処理のハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)に取り込まれた35S放射能、B=HIRMAb−IDS融合タンパク質で処理されたハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)に取り込まれた35S放射能、C=健常なヒト線維芽細胞に取り込まれた35S放射能である。
【0172】
培地中の0.3ug/mLのHIRMAb−IDS融合タンパク質で処理した、または未処理のハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)、および健常なヒト線維芽細胞を、細胞内GAGsに取り込まれる35S−硫酸ナトリウムの存在下で24時間インキュベートした。HIRMAb−IDS融合タンパク質による処理は、健常な線維芽細胞と比較して、ハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)におけるGAG蓄積を84%減少させた(p<0.0005)(図14)。ハンター症候群の線維芽細胞(Hunter fibroblasts)におけるGAG蓄積の予防(図14)は、HIR Ab−IDS融合抗体が、GAGが蓄積する細胞のリソソーム区画に向けられていることを示すものである。
【0173】
実施例6.宿主細胞の永続的トランスフェクションのための発現ベクター
HIRAb−IDS融合タンパク質は2つの重鎖(HC)および2つの軽鎖(LC)で構成されるヘテロ四量体タンパク質であり(図6)、別々のHCおよびLCタンパク質は別々のHCおよびLC遺伝子から産生される。それゆえ、永続的にトランスフェクトされた宿主細胞による全融合タンパク質の高産生を保証するために、HCおよびLCの両方について宿主細胞内で同様に高い発現を達成することが必要である。さらに、宿主細胞は、導入遺伝子の挿入部位周辺の宿主ゲノムの選択的増幅を可能にするマーカー遺伝子で、永続的にトランスフェクトされていなければならない。例えば、宿主細胞をメトトレキセート(MTX)等の薬物に持続的に曝露すると、標的酵素、すなわちジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)遺伝子を高発現しているクローンを選択することができるであろう。HC融合遺伝子、LC遺伝子、およびDHFR遺伝子の同様に高い発現を保証するために、これら3つの遺伝子をコードしている発現カセットを全て、図15に概略を示しているタンデムベクターと呼ばれる一本鎖のDNA上に配置した。HC融合遺伝子およびLC遺伝子は、5’側にサイトメガロウイルス(CMV)由来プロモーターが隣接し、5’側にウシ成長ホルモン(BGH)遺伝子由来のポリA+配列が隣接している。DHFR遺伝子は5’側にSV40プロモーターが隣接し、3’側に肝炎Bウイルス(HBV)ゲノム由来のポリA配列が隣接していた。TV−HIRMAb−IDSは、neo、すなわちネオマイシン耐性遺伝子をコードしている発現カセットも含み、G418による選別を可能にした(図15)。
【0174】
TVの設計を(a)アガロースゲル電気泳動、(b)COS細胞内のIgG発現、および(c)双方向DNAシークエンシングによって確認した。
【0175】
LC、HC融合タンパク質、およびDHFRのオープンリーディングフレームをコードしているヌクレオチド(nt)配列は、それぞれ配列番号13、配列番号14、および配列番号15に示している(それぞれ図16、17、および18)。タンデムベクター上のHC融合遺伝子、LC遺伝子、およびDHFR遺伝子によってコードされているアミノ酸(AA)配列は、それぞれ配列番号10、配列番号16、および配列番号17に示している(それぞれ図5、19、および20)。
【0176】
実施例7.TV−HIRMAb−IDSによるチャイニーズハムスター卵巣細胞の永続的トランスフェクション
チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を、1xHTサプリメント(ヒポキサンチンおよびチミジン)を含有する無血清HyQ SFM4CHOユーティリティ培地(ハイクローン社)中で培養した。CHO細胞(5x10個の生細胞)を、5μgのPvuIで直線状にした(linearized)TV−HIRMAb−IDSプラスミドDNAと共にエレクトロポレーションした。次いで、細胞−DNA懸濁液を氷上で10分間インキュベートした。CHO細胞についてのバイオラド・プリセットプロトコール(BioRad pre-set protocol)、すなわち、15msecおよび160ボルトのパルスを有する方形波で細胞をエレクトロポレーションした。エレクトロポレーション後、細胞を氷上で10分間インキュベートした。細胞懸濁液を50mL培地に移し、125μl/ウェルで4x96ウェルプレートに蒔いた(10,000細胞/ウェル)。計10回のエレクトロポレーションおよび4,000ウェルを1回の研究で行った。
【0177】
エレクトロポレーション(EP)後、CHO細胞を37℃で8%CO2のインキュベーター内に置いた。TV内のneo遺伝子の存在のために、トランスフェクトされた細胞株は最初にG418で選別した。TV−HIRMAb−IDSはDHFR遺伝子も含有するため(図15)、トランスフェクトされた細胞は20nMメトトレキセート(MTX)およびHT欠損培地によっても選別することができた。EP後約21日で目に見えるコロニーが検出された時点で、ELISAによるヒトIgG検査用に条件培地をサンプリングした。ELISAで高ヒトIgGシグナルを示すウェルを、96ウェルプレートから1mLのHyQ SFM4CHO−ユーティリティを含む24ウェルプレートへ移した。24ウェルプレートを37℃で8%CO2のインキュベーターに戻した。翌週、IgG ELISAを24ウェルプレート内のクローンに対して行った。これを、6ウェルプレートからT75フラスコ、ならびに最終的にはオービタルシェーカー上の60mLおよび125mLの正方形のプラスチックビンまで繰り返した。この段階で、最終MTX濃度は80nMであり、培地中のHIRMAb−IDS融合タンパク質の尺度である培地のIgG濃度は細胞密度10/mLで>10mg/Lであった。
【0178】
希釈クローニング(DC)用に選択されたクローンを、インキュベーター内のオービタルシェーカーから除去し、無菌フードに移した。5%透析ウシ胎児血清(d−FBS)およびペニシリン/ストレプトマイシンを含むF−12K培地で細胞を500mLまで希釈し、最終希釈度を8細胞/mLとし、40x96ウェルプレート内の4,000ウェルに1細胞/ウェル(CPW)の細胞密度で蒔くことができるようにする。無菌フード内で細胞懸濁液を調製した時点で、8チャネルピペッターまたは高精度ピペッターシステムを用いて125uL分量を96ウェルプレートの各ウェルに分注した。プレートを37℃で8%CO2のインキュベーターに戻した。1細胞/ウェルまで希釈した細胞は、血清なしでは生存できない。6日目または7日目に、DCプレートをインキュベーターから除去し、無菌フードに移し、そこで5%透析ウシ胎児血清(d−FBS)を含む125μlのF−12K培地を各ウェルに添加した。この時点で、この選択培地は、5%d−FBS、30nM MTXおよび0.25mg/mLジェネテシンを含有していた。最初の1CPWプレーティングから21日目、ヒトIgG ELISA用に、ロボット装置を用いて4,000ウェルのそれぞれから一定分量を除去した。DCプレートをインキュベーターから除去し、無菌フードに移し、そこで96ウェルプレートの1ウェル当たり100μlの培地を除去し、8チャネルピペッターまたは高精度ピペッターシステムを用いて新たな無菌サンプル96ウェルプレートに移した。
【0179】
最初の1CPWプレーティングから20日目、40x96ウェルイムノアッセイプレートに、100uLの1μg/mLの一次抗体溶液、マウス抗ヒトIgGの0.1M NaHCO3溶液を蒔いた。プレートを4℃の冷蔵庫内で一晩インキュベートする。翌日、ELISAプレートを1xTBSTで5回洗浄し、100uLの1ug/mLの二次抗体溶液およびブロッキング緩衝液を添加した。プレートを1xTBSTで5回洗浄する。100uLの1mg/mLの4−ニトロフェニルホスフェート ジ(2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール)塩の0.1Mグリシン緩衝液中溶液を、96ウェルイムノアッセイプレートに添加する。マイクロプレートリーダーでプレートを読んだ。アッセイにより、4,000ウェル/実験についてのIgG出力データが得られた。最も生産性の高い24〜48ウェルをさらなる増殖用に選択した。
【0180】
1CPW DCに由来する最も生産性の高い24ウェルプレートを無菌フードに移し、6ウェルディッシュ、T75フラスコ、およびオービタルシェーカー上の125mLの正方形のプラスチックビンを通じて徐々にサブクローンした。このプロセスの間、細胞の遠心分離の最終段階で血清をゼロまで減少させ、SFMへ再懸濁した。
【0181】
上記手順を、2回目の希釈クローニングで、0.5細胞/ウェル(CPW)で繰り返した。この段階で、およそ40%のウェルが何らかの細胞増殖を示し、増殖を示している全てのウェルはヒトIgGの分泌も示した。これらの結果により、これらの手順でウェル当たり平均1細胞のみが蒔かれ、CHO細胞株が単一細胞から生ずることが確認された。
【0182】
HIR Ab−IDS融合タンパク質は、安定的にトランスフェクトされたCHO細胞によって、細胞密度1〜2百万細胞/mLで、培地濃度10〜20mg/Lで多量に培地に分泌された。CHO由来HIRMAbをタンパク質Aアフィニティークロマトグラフィーによって精製すると、SDS−PAGEおよびIgGまたはIDSウエスタンブロッティング上の融合タンパク質の遊走パターンは、一時的にトランスフェクトされたCOS細胞によって産生されたHIR Ab−IDS融合タンパク質について図9および10に示しているものと同一であった。CHO由来融合タンパク質は、サイズ排除HPLC上で、凝集することなく単一ピークとして遊走した。CHO由来融合タンパク質は、HIRに対する高結合親和性を保持していた。図11の研究で行われた方法と同一の方法を用いると、CHO由来融合タンパク質はHIRに対する高結合親和性を有することを示し、EC50は0.36±0.04nMであったが、これは融合IDSを有さないHIR AbについてのEC50、0.41±0.09nMと有意な違いはなかった。CHO由来HIR Ab−IDS融合タンパク質は、IDSとHIR Abの融合にもかかわらず、高IDS酵素活性を保持していた。図12に記載されているIDS酵素アッセイを用いると、CHO由来HIR Ab−IDS融合タンパク質のIDS酵素比活性は115±7nmol/ugタンパク質/時間であるが、これはCOS由来融合タンパク質のIDS比活性よりもさらに高い(図12B)。
【0183】
IDSはIDS酵素活性の発現に特異的翻訳後修飾を必要とするスルファターゼファミリーのメンバーであるため、CHO由来HIR Ab−IDS融合タンパク質の高IDS酵素活性は驚くべきものである。IDS酵素の活性は、ホルミルグリシン生成酵素(FGE)とも呼ばれるスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によるCys−59のホルミルグリシン残基への変換後に活性化される。安定的にトランスフェクトされたCHO細胞によって産生されたHIRMAb−IDS融合タンパク質におけるIDS酵素活性の保持は、HIRMAb重鎖と融合しているにもかかわらず、IDS酵素が宿主細胞内で活性化されていることを示すものである。
【0184】
実施例8.融合タンパク質からのIDSプロペプチドの除去
25個のアミノ酸のシグナルペプチドに続くIDSの最初の8個のアミノ酸はプロペプチドを構成しているが(Flomen et al, Determination of the organization of coding sequences within the iduronate sulphate sulphatase (IDS) gene, Hum. Mol. Genet. 2, 5-10, 1993)、これはエンドプロテアーゼによって切断されうる。該切断はHIR AbからのIDSの分離をもたらしうるが、この場合、IDSはHIR Abトロイの木馬によってBBBを越えて輸送され得ない。この場合、IDS cDNAは、表2に記載されている新たなフォワードODN(配列番号19)を用いたPCRによって再増幅されうる。表2に記載されているIDS FWD2 ODNおよびIDS REV ODNによるPCRは、25個のアミノ酸のシグナルペプチド、Met−1〜Gly−25を含まず、8個のアミノ酸のプロペプチド、Ser−26〜Thr−33を含まず、Thr−34で始まり、Pro−550で終わるヒトIDS配列(NP_000193)であるIDS酵素をコードするIDS cDNAを増幅するであろう。IDS FWD2 ODNは5’末端に「CC」を有し、それによりHIR AbのHCのCH3領域のカルボキシル末端を含むオープンリーディングフレームを維持し、HIR Ab HCのカルボキシル末端とIDSのアミノ末端の間にSer−Serリンカーを配置する。
【0185】
実施例9.IDSと標的抗体を結合するアミノ酸リンカー
成熟ヒトIDSは、HIR AbのHCのカルボキシル末端と、2個のアミノ酸のリンカー、Ser−Ser(図5で下線を引いている)で融合している。多数のリンカーのバリエーションがSer−Serリンカーの代わりに用いられる。2個のアミノ酸のリンカーは保持されてよいが、アミノ酸配列は代替のアミノ酸、例えばGly−Gly、Ser−Gly、もしくはAla−Ser、または20個の天然アミノ酸の多数の組み合わせに変化してよい。または、リンカーは1個のアミノ酸、または0個のアミノ酸に減少している。0個のアミノ酸のリンカーの場合、IDSのアミノ末端はHIR AbのHCのカルボキシル末端と直接融合している。あるいは、リンカーの長さは3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15個のアミノ酸まで伸長してよい。融合タンパク質の設計における最適なアミノ酸リンカーを決定するための複数の公に入手可能なプログラムがあるため、該リンカーは当該技術分野で周知である。頻繁に用いられるリンカーは、反復配列におけるGlyおよびSerの様々な組み合わせ、例えば(GlySer)、または他のバリエーションを含む。
【0186】
実施例10.(理論的実施例)ヒト脳へのIDSの受容体媒介送達
ムコ多糖症(MPS)II型(MPS−II)、またはハンター症候群は、リソソーム酵素、イズロン酸−2−スルファターゼ(IDS)をコードしている遺伝子の欠損に起因するリソソーム蓄積症である。MPS−IIは酵素補充療法(ERT)において組換えヒトIDSで治療される[Muenzer, et al, A phase II/III clinical study of enzyme replacement therapy with idurosulfase in mucopolysaccharidosis II (Hunter syndrome). Genet. Med. 8 (2006) 465-473]。しかしながら、MPS−IIの多くの症例は中枢神経系に影響する[Al Sawaf, et al, Neurological findings in Hunter disease: pathology and possible therapeutic effects reviewed. J Inherit Metab Dis 31 (2008) 473-480]。IDSはBBBを通過しないためERTは脳に有効ではなく、脳に影響するMPS−II症例において、ERTの使用は任意であると考えられている[Wraith, et al, Mucopolysaccharidosis type II (Hunter syndrome): a clinical review and recommendations for treatment in the era of enzyme replacement therapy. Eur J Pediatr 167 (2008) 267-77]。MPS−IIを患う対象の脳を治療することは現在不可能であり、MPS−IIと関連する容赦ない神経機能の低下および死を防ぐための新たな治療が必要とされている。
【0187】
HIR Ab等のBBBの分子的トロイの木馬との融合タンパク質(図6)としての酵素の再設計後、IDSはヒトBBBを通過する。アカゲザルにおけるHIR Abの脳取り込みは、脳100グラム当たり注入量(ID)の約1%である[Boado et al. (2007), Biotechnol Bioeng, 96(2):381-391.]。アカゲザル脳のサイズはおよそ100グラムである;それゆえ、注入量の約1%が霊長類脳に分布している。ハンター症候群において静脈内の組換えHIR Ab−IDS用量を約1.0mg/kgで与える場合、50kgの患者であれば50mgの融合タンパク質が注入されるであろうが、これは5x10ngの融合タンパク質に等しい。脳による融合タンパク質の取り込みは、ID/グラムの%として表され、ヒトでは、霊長類と比較して、体重に比例して減少していると予想される。それゆえ、ヒト脳における融合タンパク質の予想される脳取り込みは、ヒト脳当たり注入量の約1%、または1000gのヒト脳当たりIDの約1%である。1グラムの脳は、約100mgの脳タンパク質を含有する。融合タンパク質の脳取り込みは、約10−2/ヒト脳、約10−5/グラム脳、または約10−7/mg脳タンパク質である。それゆえ、HIR Ab−IDS融合タンパク質の脳濃度は、約[(10−7/mgタンパク質)x(5x10ngの注入された融合タンパク質)]または約5ng融合タンパク質/mg脳タンパク質である。HIR Ab−IDS融合タンパク質についてIDS酵素比活性が115ユニット/ug融合タンパク質である場合(図12B)、すなわち0.12ユニット/ngの融合タンパク質である場合、脳内のIDS活性は約0.6ユニット/mg脳タンパク質であり、ここで1ユニット=1nmol/hrである。ヒト脳当たり10mgタンパク質を与えると、ヒト脳に送達されるIDS活性は約60,000ユニットであると予想される。脳内の正常なIDS酵素活性は約2.5ユニット/mgタンパク質である(Tomatsu et al, Murine model of MPS IVA with missense mutation at the active site cysteine conserved among sulfatase proteins. Molec. Genet. Metab. 91, 251-258, 2007)。
【0188】
それゆえ、HIR Ab−IDS融合タンパク質の投与は、1mg/kgの用量で、かつ体重50kgで、正常な脳IDS酵素活性の20%補充(replacement)を生じると予想される。リソソーム蓄積症における治療効果は、正常な組織酵素活性の<5%の補充(replacement)で達成される[Muenzer and Fisher, Advances in the treatment of mucopolysaccharidosis type I. N Engl J Med 350 (2004) 1932-1934]。ヒト脳におけるIDS酵素活性のより高度の補充(replacement)は、HIR Ab−IDS融合タンパク質の投薬量を増加させることによって可能になるであろう。
【0189】
本発明の好ましい実施態様は本明細書に示され、記載されているが、一方、該実施態様はほんの一例として提供されていることは当業者には明らかなことであろう。ここで、本発明から逸脱することなく、多数のバリエーション、変化、および置換が当業者になされるであろう。本発明を実施するにあたり、本明細書に記載されている本発明の実施態様の様々な代替物が利用されてよいと理解されるべきである。下記の請求項は本発明の範囲を規定し、これらの請求項の範囲内にある方法および構造ならびにそれらの均等物がそれに包含されることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療を必要とする対象の中枢神経系におけるイズロン酸−2−スルファターゼ欠乏症を治療する方法であって、イズロン酸−2−スルファターゼ活性を有する融合抗体の治療的有効量を対象に全身投与することを含む方法であって、融合抗体が、
(a)免疫グロブリン重鎖およびイズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、イズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列が免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端に共有結合している融合タンパク質;ならびに
(b)免疫グロブリン軽鎖;
を含み、融合抗体が血液脳関門(BBB)を通過し、かつ、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸またはヘパリンのL−イズロン酸 2−硫酸単位の2−硫酸基の加水分解を触媒する、方法。
【請求項2】
融合抗体がスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって翻訳後修飾されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
融合抗体がホルミルグリシンを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
IDSが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%を保持している、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
IDSおよび免疫グロブリンが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%をそれぞれ保持している、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
治療的有効量が少なくとも約250,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性または少なくとも約25,000ユニット/Kg体重を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
融合抗体のイズロン酸−2−スルファターゼ比活性が少なくとも10,000ユニット/mgである、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
免疫グロブリン重鎖がIgGの免疫グロブリン重鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
免疫グロブリン重鎖がκクラスの免疫グロブリン重鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
免疫グロブリン重鎖が配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
免疫グロブリン軽鎖がIgGの免疫グロブリン軽鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
免疫グロブリン軽鎖がκクラスの免疫グロブリン軽鎖である、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
免疫グロブリン軽鎖が配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
融合抗体が内在性BBB受容体媒介輸送系に結合することによってBBBを通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
融合抗体がインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびIGF受容体からなる群から選択される内在性BBB受容体を通ってBBBを通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
融合抗体がインスリン受容体に結合することによってBBBを通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
治療を必要とする対象の中枢神経系におけるイズロン酸−2−スルファターゼ欠乏症を治療する方法であって、イズロン酸−2−スルファターゼ活性を有する融合抗体の治療的有効量を対象に全身投与することを含む方法であって、融合抗体が、
(a)配列番号10と少なくとも95%同一であるアミノ酸配列を含む融合タンパク質、および
(b)免疫グロブリン軽鎖;
を含み、融合抗体が血液脳関門(BBB)を通過し、かつ、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸またはヘパリンのL−イズロン酸 2−硫酸単位の2−硫酸基の加水分解を触媒する、方法。
【請求項19】
融合抗体がスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって翻訳後修飾されている、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
融合抗体がホルミルグリシンを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される、請求項18に記載の方法。
【請求項22】
治療的有効量が少なくとも約250,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性または少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性/Kg体重を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項23】
融合抗体のイズロン酸−2−スルファターゼ比活性が少なくとも約10,000ユニット/mgである、請求項18に記載の方法。
【請求項24】
IDSが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%を保持している、請求項1に記載の方法。
【請求項25】
IDSおよび免疫グロブリンが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%をそれぞれ保持している、請求項18に記載の方法。
【請求項26】
全身投与が非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、経鼻投与、動脈内投与、経皮投与、または呼吸器投与である、請求項18に記載の方法。
【請求項27】
免疫グロブリン軽鎖がIgGの免疫グロブリン軽鎖である、請求項18に記載の方法。
【請求項28】
免疫グロブリン軽鎖がκクラスの免疫グロブリン軽鎖である、請求項18に記載の方法。
【請求項29】
免疫グロブリン軽鎖が配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項30】
融合抗体が内在性BBB受容体媒介輸送系に結合することによってBBBを通過する、請求項18に記載の方法。
【請求項31】
融合抗体がインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびIGF受容体からなる群から選択される内在性BBB受容体を通ってBBBを通過する、請求項18に記載の方法。
【請求項32】
融合抗体がインスリン受容体に結合することによってBBBを通過する、請求項18に記載の方法。
【請求項33】
治療を必要とする対象の中枢神経系におけるイズロン酸−2−スルファターゼ欠乏症を治療する方法であって、イズロン酸−2−スルファターゼ活性を有する融合抗体の治療的有効量を対象に全身投与することを含む方法であって、融合抗体が、
(a)免疫グロブリン軽鎖およびイズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、イズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列が免疫グロブリン軽鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端と共有結合している融合タンパク質;または
(b)免疫グロブリン重鎖;
を含み、融合抗体が血液脳関門(BBB)を通過し、かつ、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸またはヘパリンのL−イズロン酸 2−硫酸単位の2−硫酸基の加水分解を触媒する、方法。
【請求項34】
融合抗体がスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって翻訳後修飾されている、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
翻訳後修飾がシステインをホルミルグリシンへ変換することを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
体重50kg当たり標準化された、少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性が脳に送達される、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
治療的有効量が少なくとも約250,000ユニットのα−L−イズロニダーゼ活性または少なくとも約25,000ユニットのイズロン酸−2−スルファターゼ活性/Kg体重を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項38】
融合抗体のイズロン酸−2−スルファターゼ比活性が約10,000ユニット/mgである、請求項33に記載の方法。
【請求項39】
IDSが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%を保持している、請求項33に記載の方法。
【請求項40】
IDSおよび免疫グロブリンが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%をそれぞれ保持している、請求項33に記載の方法。
【請求項41】
免疫グロブリン重鎖がIgGの免疫グロブリン重鎖である、請求項33に記載の方法。
【請求項42】
免疫グロブリン重鎖がκクラスの免疫グロブリン重鎖である、請求項33に記載の方法。
【請求項43】
免疫グロブリン重鎖が配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項44】
免疫グロブリン軽鎖がIgGの免疫グロブリン軽鎖である、請求項33に記載の方法。
【請求項45】
免疫グロブリン軽鎖がκクラスの免疫グロブリン軽鎖である、請求項33に記載の方法。
【請求項46】
免疫グロブリン軽鎖が配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項47】
融合抗体が内在性BBB受容体媒介輸送系に結合することによってBBBを通過する、請求項33に記載の方法。
【請求項48】
融合抗体がインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびIGF受容体からなる群から選択される内在性BBB受容体を通ってBBBを通過する、請求項33に記載の方法。
【請求項49】
融合抗体がインスリン受容体に結合することによってBBBを通過する、請求項33に記載の方法。
【請求項50】
(a)免疫グロブリン重鎖およびイズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列を含む融合タンパク質であって、イズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列が免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端に共有結合している融合タンパク質;ならびに
(b)免疫グロブリン軽鎖;
を含む融合抗体であって、血液脳関門(BBB)を通過し、かつ、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸またはヘパリンのL−イズロン酸 2−硫酸単位の2−硫酸基の加水分解を触媒する、融合抗体。
【請求項51】
融合抗体がスルファターゼ修飾因子1(SUMF1)によって翻訳後修飾されている、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項52】
融合抗体がホルミルグリシンを含む、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項53】
融合タンパク質が、イズロン酸−2−スルファターゼのアミノ酸配列と免疫グロブリン重鎖のアミノ酸配列のカルボキシ末端の間のリンカーをさらに含む、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項54】
融合抗体のイズロン酸−2−スルファターゼ比活性が少なくとも約10,000ユニット/mgである、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項55】
IDSが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%を保持している、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項56】
IDSおよび免疫グロブリンが、独立体(separate entity)としてのその活性と比較して、その活性の少なくとも20%をそれぞれ保持している、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項57】
免疫グロブリン重鎖がIgGの免疫グロブリン重鎖である、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項58】
免疫グロブリン重鎖がκクラスの免疫グロブリン重鎖である、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項59】
免疫グロブリン重鎖が配列番号1のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号2のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号3のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項60】
免疫グロブリン軽鎖がIgGの免疫グロブリン軽鎖である、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項61】
免疫グロブリン軽鎖がκクラスの免疫グロブリン軽鎖である、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項62】
免疫グロブリン軽鎖が配列番号4のアミノ酸配列に相当するCDR1、配列番号5のアミノ酸配列に相当するCDR2、または配列番号6のアミノ酸配列に相当するCDR3を含む、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項63】
融合抗体が内在性BBB受容体媒介輸送系に結合することによってBBBを通過する、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項64】
融合抗体がインスリン受容体、トランスフェリン受容体、レプチン受容体、リポタンパク質受容体、およびIGF受容体からなる群から選択される内在性BBB受容体を通ってBBBを通過する、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項65】
融合抗体がインスリン受容体に結合することによってBBBを通過する、請求項50に記載の融合抗体。
【請求項66】
請求項50に記載の融合抗体の治療的有効量および医薬的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。
【請求項67】
請求項50に記載の融合抗体をコードしている単離されたポリヌクレオチド。
【請求項68】
単離されたポリヌクレオチドが配列番号14の核酸配列を含む、請求項67に記載の単離されたポリヌクレオチド。
【請求項69】
請求項67に記載の単離されたポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項70】
配列番号14の核酸配列を含む請求項67に記載のベクター。
【請求項71】
請求項69に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項72】
宿主細胞がチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞である、請求項71に記載の宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10A】
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【図10B】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公表番号】特表2013−507131(P2013−507131A)
【公表日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−533375(P2012−533375)
【出願日】平成22年10月8日(2010.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/052113
【国際公開番号】WO2011/044542
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(508105751)アーメイゲン・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】ARMAGEN TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】