説明

COPDの処置用薬物としてのN−フェニルベンズアミド誘導体

【課題】 本発明は、下記式(I)で示されるN−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体またはその医薬的に許容しうる塩の新規な用途を提供する。
【化1】


[式中、R,R,R,R,R,Rは明細書の記載と同意義である]
【解決手段】 かかる化合物の用途は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療処置用薬剤の製造のための使用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体の、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の処置用薬剤の製造のための使用に関する。
【背景技術】
【0002】
COPDは、重大で増大する世界的な健康問題であり、2020年までには世界で廃疾の最も一般的な原因の中で5番目の原因となることが予測され、そのうえ、入院するますます一般的な原因でもある。この病気を処置する有効な治療剤の不足は、この病気と満足に取り組むことができる適切な薬理学的作用物質を認定するために、科学的地域社会内に多くの努力を促した。
【0003】
最新の情報によれば(National Institute of Health,National Heart,
Lung and Blood Institute:GOLD,Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:Global Strategy for Diagnosis,Management and Prevention of Chronic Obstructive Pulmonary Disease;改訂2003年)、COPDは、十分には逆転しない空気流の制限が特徴の疾患状態である。空気流の制限は通常、進行性でありかつ最も多くは喫煙に関係するが、有害な粒子またはガスに対する肺の異常な炎症性反応が付随する。COPDの症状、機能不全および合併症は全て、この根元的な炎症および結果として生ずる病状に基づき説明することができる。
【0004】
COPDの慢性的な空気流制限の特徴は、小さな気道疾患(閉塞性細気管支炎)および実質破壊(気腫)の混合によって起こり、これらの相対的な関与は、人によって変化する。慢性炎症は、小気道を再造形したり、狭くする。肺実質の破壊は、これも炎症プロセスによるが、小気道への肺胞付着のロスを招き、かつ肺の弾力ある反動を縮小し、次いでこれらの変化は、呼気作用中に開いたままでいる気道の能力を減少させる。語句“気腫”および“慢性気管支炎”とは、臨床上頻繁に用いられ、かつCOPDの定義に含まれる。
【0005】
肺(肺胞)の気腫、またはガス交換表面の破壊は、COPDを持った患者に存在する幾つかの構造異常の1つを示す。慢性気管支炎、またはそれぞれ2年続いた中で少なくとも3ヶ月にわたる咳および痰生成の出現は、臨床上および免疫上実用的な用語としてとどまる。しかしながら、それはCOPD患者における罹病率や死亡率に関して空気流制限の重大な衝撃を反映することはない。このため用語COPDは、この病気全体を正しく規定する。
【0006】
上記予想の如く、COPDは気道、実質および肺血管系の中の慢性炎症によって示される。炎症の強度並びに細胞および分子特性は、該病気の進行に準じて変化する。時間の経過に伴ない、炎症は肺を損傷し、かつCOPDの病的変化特性に導く(Sutherland E.R.ら,Management of Chronic Obstructive Pulmonary Disease,N.Engl.J.Med.2004,350:2689−97;Hogg J.C.ら,The nature
of small−airway obstruction in Chronic Obstructive Pulmonary Disease,N.Engl.J.Med.2004,350:2645−53)。
【0007】
実際に、COPDは肺の種々の部分における、好中球、マクロファージ、およびTリンパ球(特にCD8)の増加によって特徴づけられる。また幾人かの患者において、特に病状再燃中に好酸球の増加もありうる。これらの増加は、炎症性細胞の漸増(recruitment)、生存および/または活性化の増大によってひき起こされる。多くの研究によって、肺の中の種々タイプの炎症性細胞の数と、COPDの厳しさとに相関関係が明らかにされている。
【0008】
症状を予防およびコントロールし、病状再燃の頻度や厳しさを縮小し、健康状態を改善し、および運動耐性を改善するのに、薬理学的療法が用いられている。このため、COPDの処置は重々しく、抗炎症性および気管支拡張性薬物に依存している。
現存のCOPD用の薬物療法にあって、この病気の顕著な特徴である、肺機能の長期減退を緩和することが認められているものはない。
【0009】
我々グループの以前に出願した国際特許出願WO90/09989に、式(I):
【化1】

[式中、Rはシアノ、ニトロ、ハロゲン、ヒドロキシ、C−Cアルキル、メトキシまたはテトラゾール−5−イル基;
は水素、ヒドロキシまたはメトキシ;
はテトラゾール−5−イル基または水素;
およびRは、Rがテトラゾール−5−イル基のときは共に水素、またはRおよびRはそれぞれ独立して、Rが水素のときはカルボキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニルおよびカルバモイルからなる群から選ばれ;および
は水素またはメチルである]
で示されるN−フェニルベンズアミド誘導体が開示されている。
【0010】
これらの化合物はWO90/09989において、胃分泌をコントロールし、かつ胃腸粘膜の保護剤としてクレーム化されている。
最終的に、式(I)の化合物は、アレルゲン、たとえば気管支ぜん息、アレルギー性鼻炎および結膜炎に対する過敏症に帰すことができる種々病状の薬理学的処置のための適切な作用物質として述べられているにすぎない。
【0011】
式(I)の化合物の中で、下記式(Ia)の誘導体,[N−4−(1H−テトラゾール−5−イル)フェニル−4−(1H−テトラゾール−5−イル)ベンズアミド](アンドラスト(Andolast、以下同様),CR2039)(ここで、R,R,RおよびRは共に水素、およびRおよびRは共にテトラゾール−5−イル基である)は、特にぜん息の処置の見込みがある薬理学的性質を持つことが認められた(Revel L.ら,CR2039,a new bis−(1H−tetrazolyl−5−yl)phenylbenzamide derivative with potential for the topical treatment of asthma.Eur.J.Pharmacol.1992,229:45−53)。かかるぜん息処置における化合物(Ia)の使用のための適当な医薬配合物は、US特許No.5976576に記載されている。
式(Ia)の化合物(Andolast,CR2039):
【化2】

【0012】
ぜん息は、根元的な気道炎症を特徴とする気道の他の重大な慢性閉塞性疾患である。
ぜん息とCOPDは、その共通の重大な症状を有するが、これらの症状は概して、COPDよりもぜん息においての方が変わりやすい。加えて、ぜん息における空気流制限は、自発的にあるいは処置によって、非常にたびたび完全に逆転しうるが、一方、COPDにおいては、空気流制限が完全に逆転することは決してなく、通常は、有害な作用物質にさらすのを続けると進行する。ぜん息においては、気道過反応(AHR)、すなわち、刺激薬に対する異常な気管支収縮性反応を示す多くの証拠もある。
【0013】
また根元的な慢性気道炎症も、非常に異なり、すなわち、ぜん息のそれは主に好酸性で、かつ特にTh2副次集団の、IL−4、IL−5およびIL−13を含む前炎症性(
proinflammatory)サイトカインのファミリーを放出する、CD4Tリンパ球によって駆動される。逆に、COPDの慢性炎症は好中球性で、かつ増加した数のマクロファージおよびCD8Tリンパ球の存在によって特徴づけられる。
結局、ぜん息とCOPDの処置に対する反応は、劇的に異なる。両病状における主要な慢性炎症性成分(component)であるにも拘らず、コルチコステロイドは、COPDよりもぜん息の方が有意的に有効であり、COPDはβ2アドレナリン作用性アゴニストや抗コリン作用薬などの気管支拡張薬に対する感受性が大きい。
【0014】
COPDにおける炎症縮小のコルチコステロイドの限界値は、新規タイプの非ステロイド性抗炎症性治療薬が必要となるかもしれないことを示唆する。COPDにおける抗炎症性治療薬への新しい幾つかのアプローチがなされ、たとえば該治療薬として、ホスホジエステラーゼ・インヒビター、転写因子NF−Bインヒビター、癒着(adhesion)分子ブロッカー、細胞間質メタロプロテイナーゼ・インヒビター、およびカリウム(K)チャネル・インヒビターが含まれる。最後の治療薬は、以下に記載されるように、COPDにおいて有益となる幾つかの特徴を有する。
【0015】
式(I)の化合物、特に式(Ia)の化合物の薬理学的活性は、主にこの種化合物の抗アレルギー特性に基づくものと考えられており、かかる化合物はヒスタミン放出をブロックすることが証明されており(Makovec F.ら,Antiallergic and cytoprotective activity of new N−phenylbenzamido acid derivatives.J.Med.Chem.1992,35:3633−40)、このため、アレルギー性鼻炎およびぜん息処置の臨床指標であることがわかる。
【0016】
目下の予期しない薬理学的な知見によれば、上述の式(I)の化合物、特に化合物(Ia),Andolastは、以前に確認されていなかったメカニズムを介して作用し、気道炎症反応の種々の成分を除去する(relieve)。
実際に、Andolastは、アトピー性被検者の抗体−仲介および細胞−仲介炎症性反応を共に減少させる。
【0017】
抗体−仲介炎症性反応に関して、Andolastは、アレルギー性ドナーからのヒトBリンパ球によって、IL−4依存性IgE合成に対し強力な抑制効果を示した。この効果は、アレルゲン−誘発肥満細胞感作の減少に導き、その結果として、アトピー性気管支ぜん息における気道炎症およびAHRに反応しうる、ヒスタミンを含め、IgE−依存性メディエイタ放出の抑制に導く。
【0018】
細胞−仲介プロセスに関して、軽〜中位のぜん息患者からのデータは、Andolastによる標準処置過程が、好酸球漸増薬(recruiter)サイトカイン,IL−5のTリンパ球(Th2)生成に対し抑制効果を誘発することができ、その結果、痰における好酸球の割合が減少することを示した。これらの細胞−仲介プロセスは、アトピー性および非アトピー性被検者の両方に有効であることから、この効果は、両種の被検者において気道炎症およびAHRの減少に寄与することがある。
【発明の開示】
【0019】
本発明によれば、上述の式(I)の化合物は意外にも、カルシウム(Ca2+)−依存性Kチャネルにおいて優れた活性を持つことがわかり、このため、以下に詳述の通り、特にCOPDの処置のための予期しえない適切な薬理学的作用物質として、これらの化合物を強調した。
【0020】
すなわち、本発明の1つの側面は、上記式(I)の化合物の、COPDの処置用薬剤の製造のための使用である。
本発明での使用に好ましい化合物は、Rがテトラゾール−5−イル基である式(I)の化合物である。特に好ましい化合物は、R,R,RおよびRが共に水素、Rがテトラゾール−5−イル基である化合物(Ia)である。
【0021】
上記のKチャネル開口特性については、発明の詳細な説明で報告する実験で示す。これらの実験で、Andolastは、迷走神経一次感覚ニューロンの活性化を抑制して(電気刺激,EFSの脱分極で刺激される細胞内Ca2+動員の抑制によって測定)、タキキニンおよびカルシトニン遺伝子−関連ペプチド(CGRP)の神経放出によって誘導される、気道におけるいわゆる神経性炎症を抑制し、その結果、気管支収縮を抑制することができた。これらの効果は、選択的高コンダクタンスCa2+−活性化Kチャネル・インヒビター,カリブドトキシン(charybdotoxin)によって、完全に破壊され、これによって、これらの薬理学的効果がこれらKチャネルの開口により仲介されることが証明される。
【0022】
イオンチャネルは、膜内外たん白であって、細胞膜を横切る無機イオンの輸送を触媒する。Kチャネルは、イオンチャネルの中で最も大きくかつ最も多様なグループである。Kチャネルの活性は、広範にわたる種々の細胞型における休眠膜電位および再分極/過分極電流の発生に、有意的に寄与する。気道平滑筋および神経は、このレベルでの収縮活性および神経反射の調節に必要なKチャネルを発現する。少なくとも3タイプのかかるチャネル、すなわち、Ca2+−活性化Kチャネル、遅延−整流器電圧−依存性Kチャネル、およびATP−感受性Kチャネルが、気道に存在する。
【0023】
Ca2+−活性化K(Kca)チャネルは、ほとんど他のKチャネルとは、その活性化が二元コントロール下にある点で異なるが、それは、細胞内のCa2+濃度増加または膜脱分極のいずれかで活性化されるからである。
Kcaチャネルはさらに、それらの単一チャネル・コンダクタンスの生物物理学的特徴に基づき、3つの主なグループ、すなわち、小コンダクタンス(SKca)、中間コンダクタンス(IKca)、および大(高)コンダクタンス(BKca)に下位分類される。これらの3サブグループの中で、BKcaが最も多く研究されているが、最近ではSKcaやIKcaの薬理学的特性に取り組む研究が幾つかある(Jensen B.S.ら,WO00/33834,2000年6月15日;Use of isatin derivatives as ion channel activating agents)。
【0024】
気道平滑筋(ASM)細胞において、BKcaチャネルは負のフィードバック機構を活性化することにより、細胞膜の電気安定性を回復させる外部K移動によって生じる過分極の結果として、刺激薬および/またはCa2+動員剤を脱分極する作用が弱まったりあるいは終了する。
【0025】
上記予想の如く、多くのインビトロおよびインビボ研究が動物やヒトの両方で行なわれており、これらの研究により、Kチャネルオープナーは、ASM細胞の過分極、気管支拡張、気道過反応(AHR)の抑制、および神経反射の抑制を誘発しうることが示される。
【0026】
この最新のポイントに関して、気道神経と炎症間の密な相互作用があることに注目することが重要である。多くの炎症性メディエイタは、神経末端へのレセプタの活性化を介して、気道中のコリン作用性神経および感覚神経を調整しうる(Barnes P.J.,Modulation of neurotransmission in airways.Physiol.Rev.1992,72:699−729)。感覚神経は主に、神経ペプチド、たとえばタキキニン(P,SP物質および神経キニンA,NKAなど)およびCGRPを放出する。
【0027】
それらが中枢神経末端(終末)から放出されると、痛み伝達や保護反射(たとえば咳)の活性化が付随する。しかしながら、感覚神経もまた、機械的および化学的刺激(たとえばタバコの煙)で活性化されると、気道の炎症を増幅することにより、逆行性インパルスや、末梢神経末端から同じ神経ペプチドを放出する局所軸索反射を発生させたり、興奮性の非アドレナリン作用性非コリン作用性(eNANC)収縮や神経性炎症を招いたりする。
【0028】
この神経性炎症は、多くの機関紙に記載され、かつ幾つかの種の上および下気道で詳細に報道されている(Barnes P.J.,NANC nerves and neuropeptides.In:Barnes P.J.,Rogers I.W.,Thomson N.C.(Eds.)1998,Academic Press,London,423−58;Maggi C.A.ら,Neuropeptides as regulators of airway function:vasoactive intestinal peptide and the tachykinins.Physiol.Rev.1995,75:277−322)。実際に、平滑筋収縮、すなわち、直接の気管支収縮を除いて、これらの神経ペプチドは、粘膜下腺分泌の刺激、血管透過性の増加、肥満細胞の刺激、BおよびTリンパ球の刺激、マクロファージの刺激、好酸球および好中球の化学誘引、および好中球の血管癒着を含む、一連の炎症性反応を誘発する。
【0029】
感覚神経が炎症性反応を増幅し、広げうるという考えは、気道疾患、たとえばぜん息やCOPDにおける炎症に関与しうるので、かなりの注意をひく(Joos G.F.ら,The role of neural inflammation in asthma and Chronic Obstructive Pulmonary Disease.Ann.N.Y.Acad.Sci.2003,992:218−30)。またタキキニンは、コリン作用性神経末端でアセチルコリン放出を促進したり、神経節伝達を高めることにより、コリン作用性神経伝達も高める(Watson N.ら,Endogenous tachykinins facilitate transmission through parasympathetic ganglia in guinea pig trachea.Br.J.Pharmacol.1993,109:751−59)。
【0030】
COPDの病因論において、気道神経の役割に関し、他のことはともかくも同様に重要なのは、COPDで狭くなる気道の主要な逆転成分が、コリン作用性の気管支運動の増進した正常状態(increased tone)であるが、さもなければ、ぜん息において気管支閉塞に関与する多くのファクターの1つを構成するにすぎないという事実である。このため、COPD患者において、抗コリン作用薬がβ2アドレナリン作用性アゴニストよりも極めて有効である。
【0031】
COPD患者は、迷走神経において神経節伝達を害し、かつ神経末端からのアセチルコリン放出を縮小しうる、Kチャネルオープナーの薬理学的特性から利益を得ることができることが示唆される。これらの薬物のコリン作用性神経伝達に対する調整効果は神経過分極に基づくが、この効果は、迷走神経刺激によって誘発される気管支収縮に対し、モルモットで発揮されるその大きな抑制作用を、アセチルコリンの静脈内注入によって顕現するそれと比較することによって確認される。
【0032】
幾つかの炎症性メディエイタの放出および神経伝達におけるこれらチャネルの必要(involvement)と共に、気道平滑筋におけるBKca活性化作用物質の弛緩薬特性は、Kcaチャネルオープナーとして作用する薬理学的作用物質の将来有望な標的としてCOPDを示唆する(G.Pelaiaら,Potential role of potassium channel openers in the treatment of asthma and Chronic Obstructive Pulmonary Disease.Life Sci.2002,70:977−90)。
【0033】
指摘すべき点は、他のKチャネルオープナー、たとえばクロマカリン(Cromakalim)が、動物モデルで実験的に誘発される気管支収縮を有意的に抑制することが本当に証明されていることであり、そして、臨床試験でクロマカリンが慢性気道炎症に有効であることを立証した。しかしながら、この薬物並びにその同類のレマカリン(Lemakalim)やビマカリン(Bimakalim)は、BKcaとは異なるKチャネルである、別タイプのKチャネル,ATP感受性Kチャネル,KATPに作用する。KATPチャネルオープナーは、血管平滑筋の強力な弛緩薬であることが立証されており、従って、その使用は低血圧などの望ましくない副作用によって制限される。
【0034】
加えて、このチャネルの活性薬は、炎症性メディエイタ放出での抑制特性および気道への炎症性細胞漸増の抑制が欠けており、COPD処置の基本成分として提案されている。逆に、これらの特性は、BKcaチャネルの活性化を介して神経性炎症に対し有効であるのみならず、抗体−仲介および細胞−仲介炎症性反応をも減少させるAndolastの場合に証明される。
【0035】
チャネルは、気道慢性炎症に必然的に伴なうTリンパ球、好中球、好塩基球およびマクロファージなどの幾つかの炎症性および免疫性細胞によって発現されるので、これらのチャネルは多分、種々の気道炎症反応の調整に寄与するかもしれないことが提案される。従って、ここで証明されるKチャネルの開口はこの点でもAndolastの作用機構を説明することができ、これによって、種々のケモカイン(chemokines)やサイトカインの放出を調整することにより、この総合的で気道特異的な、炎症性細胞漸増(ひょっとしたらCOPD炎症の特性を示している好中球やマクロファージを含む)に対する抗炎症性特性および抑制効果が支持されるだろう。
【0036】
これら全ての証言をひとまとめにすると、本明細書記載の意外な知見に基づき、式(I)の誘導体、特に式(Ia)の化合物,Andolastの、COPDの処置用薬剤の製造のための使用が支持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
神経性炎症に対するAndolastの効果およびKcaチャネル必要の証明:
以下の事項を証明するために、特定の研究を行った。
a)Andolastは、ラットの後根神経節ニューロンにおいて刺激を脱分極することにより、誘発する細胞内Ca2+の動員を抑制する。
b)Andolastは、一次感覚ニューロンの末梢および中枢神経末端からの神経ペプチド(CGRP)を抑制する。
c)Andolastは、単離したモルモットの気管支において、電気刺激(EFS)の適用で誘発するアトロピン−耐性eNANC収縮を抑制する。この収縮性反応は、一次感覚ニューロンから放出され、かつ平滑筋のタキキニン・レセプタに作用するSP/NKAによって仲介される。
d)カリブドトキシン(Kcaの選択的インヒビター)は、上記のAndolast活性を逆にする(revert)。
【0038】
方法
ニューロンの培養実験:
生後1−3日のラットから、後根神経節(DRG)を取出し、十分確立した手順に従って単細胞に解離する。細胞をコーティングしたカバーガラスにて平板培養し、これにFura−2−AM−エステルを加え、相対細胞内カルシウム([Ca2+])変化を検出する。
Ca2+蛍光中、細胞を電気刺激(10Hz、1ms、40mA/cm、10秒間)で2回興奮させ、刺激と刺激の休止期間を20分とする。これらの実験は、100nMカリブドトキシンの存在または非存在下で行なう。
【0039】
モルモットの気道およびラツトの背面脊髄のスライス:
モルモットの気管および気管支またはラットの背面脊髄のスライスを用意し、これらを灌流室に移して灌流する。平衡期間の後、興奮性刺激薬(KCl 80mM)のデリバリーの前、途中および後に、サンプルを収集する。Andolastの効果を、そのビヒクルの効果と比較する。CGRP様免疫反応性(CGRP−LI)を、酵素イムノアッセイで測定する。
【0040】
ラットの背面脊髄において、Andolastを用いる実験も、100nMカリブドトキシンの存在下で行なう。
単離したモルモット気管支:
モルモット気管支輪を、器官浴(organ baths)に取付ける。平衡期間の後、アトロピン(1μM)の存在下、EFS(5Hz、20秒、40Vで0.5msパルス幅)に対するeNANC収縮性反応を調べる。100nMカリブドトキシンの存在または非存在下の平行実験で、eNANCに関するAndolastまたはそのビヒクルの効果を調べる。またSPの直接の気管支収縮活性に影響を及ぼすAndolastの能力も調べる。
【0041】
結果
ニューロンの培養実験:
EFSは、[Ca2+]動員の増加を誘発する(イオノマイシン(ionomycin)に対する反応の59±8%)。EFSに反応する全ての細胞は、0.1μMカプサイシンに対しても[Ca2+]の増加で反応し、これによって、これらが一次感覚ニューロン(多形態の(polymodal)侵害受容器)であることが示される。イオノマイシンに対する反応の[Ca2+]の動員は、Andolast(10μM)またはそのビヒクル(Veh)による前処置後と似ている。Andolastによる前処置は、Andolastビヒクルの効果と対照すれば、濃度に依存して縮小するEFSに対する反応を減少させる。カプサイシンに対する反応は、Andolast(10μM)による前処置では影響されない。Andolastの抑制効果は、100nMカリブドトキシン(ChTX)によって完全に逆転する。データを図1に示す。
図1によれば、Andolastは、新生ラットの培養DRGニューロンにおいて、EFS(40mA/cm、1m秒パルス持続、10秒間)によって誘発される[Ca2+]動員を抑制するが、カプサイシン(0.1μM)で誘発される[Ca2+]動員は抑制しない。EFSに関するAndolastの効果は、0.1μMカリブドトキシン(ChTX)によって逆になる(reverted)。
【0042】
ラットの背面脊髄およびモルモットの気道のスライス:
ラットの背面脊髄のスライスおよびモルモットの気道のスライスの両方において、Andolast(0.1〜1μM)は、CGRP−LIの流出においていずれの有意の増加も起こさない。
ラットの背面脊髄において、Andolastは、高K培地によって誘発されるCGRP−LIの流出の濃度依存の抑制を起こす。Andolast(1μM)によって、最大抑制(ビヒクルの48%)が得られる。この効果は、100nMカリブドトキシンによって完全に排除される(図2A参照)。
またモルモットの気道のスライスにおいても、Andolast(1μM)は、高K培地によって誘発されるCGRP−LI流出の著しい抑制(67%)を起こす(図2B参照)。
図2は、ラットの背面脊髄のスライト(A)、およびモルモットの気道のスライス(B)からの高Kによってひき起こすCGRPの流出に関する、Andolastおよびカリブドトキシン(ChTX)の効果を示す。
【0043】
単離したモルモットの気管支:
EFSは、モルモット気管支の輪において、アトロピンの存在下で遅延収縮性反応を起こす。Andolastによる前処置は、EFSに対する収縮性反応を用量に依存して減少させる。10μM−Andolastの場合に、最大抑制(45%)が得られる。Andolast(10μM)は、SPに対する収縮性反応に影響を及ぼさず、これによって特異性を示す。Andolastの効果は、特定BKcaインヒビター,カリブドトキシン(0.1μM)の存在下で、完全に排除される(図3A,B参照)。
図3は、モルモットの単離した気管支輪において、電界刺激(EFS、5Hz、1ms幅、10V)およびP物質によって誘発される収縮に関するAndolastおよびカリブドトキシン(ChTX)の効果を示す。
【0044】
結論
Andolastは、
a)培養した一次感覚ニューロンにおけるEFS−誘発Ca2+動員;
b)ラットの背面脊髄のスライス,一次感覚ニューロンの末端の富化(enriched)組織からの感覚神経ペプチド放出;
c)モルモット気道からの感覚神経ペプチド放出;
d)単離したモルモット気管支におけるEFSで誘発されるeNANC収縮
の抑制をひき起こす。
【0045】
これらの知見は、Andolastが一次感覚ニューロンの末梢および中枢末端の興奮に対し抑制作用を発揮することを示す。Andolastの抑制効果は、カプサイシンに反応し、神経ペプチドを放出する多形態の侵害受容器の母集団の方へ向けられる。これらのニューロンは、保護反射および前炎症性反射の開始に必然的に伴ない、神経性炎症性反応を仲介する。本研究で得た知見によれば、臨床実験設定におけるAndolastの抗炎症特性の少なくとも一部は、一次ニューロン興奮を抑制するその能力に帰すべきことが示唆される。
【0046】
2つの観測は、感覚ニューロンに対するAndolastの抑制作用が特異的であることを示す。Andolastは、使用する最大濃度(10μM)では、DRGニューロンの培養において、イオノマイシンにより誘発される[Ca2+]の増加に影響を及ぼさない。より重要な点は、Andolastは単離したモルモット気管支において、SPによって生じる収縮性反応に関していずれの抑制効果も生じさせない。この観測から、Andolastがタキキニンレセプタに作用せず、かつ平滑筋細胞へのCa2+流入に影響を及ぼさないが、最も考えられるのは、感覚神経末端に対する作用の前連結部位(pre−junctional site)で作用することが示される。
【0047】
これらAndolastの“抗炎症性”活性の全ては、カリブドトキシンによって逆転される。カリブドトキシンは、Kcaのインヒビターである。神経性炎症に関するAndolastの保護効果(すなわち、ラットDRGにおける[Ca2+]変化;ラットの背面脊髄におけるCGRP放出;および単離したモルモット気管支輪におけるeNANC)を完全に拮抗するカリブドトキシンの能力は、Andolastの作用の分子機構が、神経性炎症に必要とされる特定のKcaチャネルの活性化にリンクするという仮説を支持する。
本発明で用いる化合物は、WO90/09989に記載の方法に従って製造される。
【0048】
本発明はその技術的範囲内で、式(I)の化合物、特に式(Ia)の化合物の医薬的に許容しうる塩を包含する。式(I)および(Ia)の化合物の医薬製剤(薬剤)で利用される代表的な塩としては、ナトリウム、リチウムまたはカリウムなどのアルカリ金属塩;マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩等が挙げられる。本発明で用いる化合物の好ましい薬剤は、US特許No.5976576でクレーム化されているものである。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】ラットのDRGニューロンにおいてEFSまたはカプサイシン誘発の[Ca2+動員に対するAndolastの抑制効果を示す。
【図2】Aはラットの背面脊髄において、高K誘発のCGRP−LI流出に対するAndolastの抑制効果を示し、およびBはモルモットの気道において、高K誘発のCGRP−LI流出に対するAndolastの抑制効果を示す。
【図3】Aはモルモットの気管支輪において、電界刺激誘発の収縮に関するAndolastの効果を示し、およびBはモルモットの気管支輪において、P物質誘発の収縮に関するAndolastの効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、Rはシアノ、ニトロ、ハロゲン、ヒドロキシ、C−Cアルキル、メトキシまたはテトラゾール−5−イル基;
は水素、ヒドロキシまたはメトキシ;
はテトラゾール−5−イル基または水素;
およびRは、Rがテトラゾール−5−イル基のときは共に水素、またはRおよびRはそれぞれ独立して、Rが水素のときはカルボキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニルおよびカルバモイルからなる群から選ばれ;および
は水素またはメチルである]
で示されるN−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体またはその医薬的に許容しうる塩の、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の治療処置用薬剤の製造のための使用。
【請求項2】
がテトラゾール−5−イル基;Rが水素、ヒドロキシまたはメトキシ;Rがテトラゾール−5−イル基または水素;RおよびRが、Rがテトラゾール−5−イル基のときは共に水素、またはRおよびRがそれぞれ独立して、Rが水素のときはカルボキシ、メトキシカルボニル、エトキシカルボニルおよびカルバモイルからなる群から選ばれ;およびRが水素またはメチルである請求項1に記載の使用。
【請求項3】
N−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体が、式:
【化2】

で示される化合物(Ia)である請求項1に記載の使用。
【請求項4】
治療上有効量の請求項1乃至3のいずれか1つに記載の化合物またはその医薬的に許容しうる塩を含有する、COPDの処置用医薬組成物。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載のN−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体またはその医薬的に許容しうる塩の、肺気腫の処置用薬剤の製造のための使用。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載のN−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体またはその医薬的に許容しうる塩の、慢性気管支炎の処置用薬剤の製造のための使用。
【請求項7】
治療上有効量の請求項1または2に記載のN−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体またはその医薬的に許容しうる塩を含有する、肺気腫の処置用医薬組成物。
【請求項8】
治療上有効量の請求項1または2に記載のN−フェニルベンズアミドの医薬的に活性な誘導体またはその医薬的に許容しうる塩を含有する、慢性気管支炎の処置用医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−56890(P2006−56890A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−236644(P2005−236644)
【出願日】平成17年8月17日(2005.8.17)
【出願人】(598105824)ロッタファルム・ソシエタ・ペル・アチオニ (18)
【氏名又は名称原語表記】ROTTAPHARM S.p.A.
【Fターム(参考)】