CV特性を強化したリヨセル繊維
【課題】小石状の表面を有すること、ならびに繊維に沿って及び繊維間に種々の断面と直径を有することを特徴とするリヨセル繊維を提供する。
【解決手段】遠心紡糸法、メルトブローイング法、またはそのスパンボンディング変法によって製造することができる。平均重量が1デニール以下という小さな値にてマイクロデニールの範囲で製造することができる。本質的に光沢が低く、滑らかで柔らかな手触りの布帛を製造するための密なヤーンに形成することができる。これとは別に、自己結合した不織布に形成することもできる。
【解決手段】遠心紡糸法、メルトブローイング法、またはそのスパンボンディング変法によって製造することができる。平均重量が1デニール以下という小さな値にてマイクロデニールの範囲で製造することができる。本質的に光沢が低く、滑らかで柔らかな手触りの布帛を製造するための密なヤーンに形成することができる。これとは別に、自己結合した不織布に形成することもできる。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
優先権
本特許出願は1998年3月16日付け出願の出願番号09/039,737の一部係属出願であり、前記出願番号09/039,737は1997年8月22日付け出願の出願番号08/916,652の一部係属出願であり、前記出願番号08/916,652号は仮出願番号60/023,909と60/024,462(いずれも1996年8月23日付け出願)からの優先権を主張している。
【0002】
発明の分野
本発明は、新規特性を有するリヨセル繊維、および前記繊維の製造法に関する。新規特性とは、具体的には、繊維長に沿った直径変動性等の表面モルホロジーを含む。本発明はさらに、リヨセル繊維から製造されるヤーン、およびリヨセル繊維を含有する織布と不織布に関する。本発明の製造法は、具体的に説明すると、先ずセルロースをアミンオキシド中に溶解して濃厚溶液(dope)を形成させることを含む。次いで、小さな開口を通して濃厚溶液を空気流れ中に押し出すことによって、あるいは小さな開口を通して濃厚溶液を遠心力で吐出させることによってラテント繊維(latent fibers)を得る。次いで、液体非溶剤中にてこのラテント繊維を再生することによって本発明のリヨセル繊維を形成させる。どちらの方法も、自己結合不織布の製造に対して適用可能である。本発明の特定の方法は、リヨセル繊維に対し、従来の連続延伸繊維を凌ぐユニークな表面特性を付与する。
【0003】
発明の背景
再生セルロースの高強度繊維は、一世紀以上にわたってビスコース法と銅アンモニア法によって製造されてきた。銅アンモニア法は1890年に特許権を得、ビスコース法はその2年後に特許権を得た。ビスコース法においては、先ずマーセル化用濃度の苛性ソーダ溶液中にセルロースを浸漬してアルカリセルロースを形成させる。これを二硫化炭素と反応させてキサントゲン酸セルロースを形成させ、次いでこれを希薄苛性ソーダ溶液中に溶解する。濾過と脱気を行った後、キサントゲン酸塩溶液を、浸漬したスピナレットから、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛、およびグルコースを含んだ再生浴中に押し出して連続フィラメントを形成させる。このようにして得られるいわゆるビスコースレーヨンが、現在では繊維素材中に使用されており、またかつてはゴム物品(例えば、タイヤや駆動ベルト)における強化材として使用された。
【0004】
セルロースはさらに、アンモニア性酸化銅溶液中に溶解する。この性質が、銅アンモニアレーヨンの製造に対するベースとなった。セルロース溶液を、浸漬したスピナレットを通して5%苛性ソーダ溶液中または希硫酸中に押し出して繊維を形成させる。銅除去処理と洗浄の後、得られる繊維は大きな湿潤強度を有する。銅アンモニアレーヨンは極めて小さなデニールの繊維として得られ、ほとんど繊維素材に限って使用されている。
【0005】
ごく最近では、他のセルロース溶媒が検討されている。こうした溶媒の1つは、四酸化二窒素のジメチルホルムアミド溶液をベースにしている。多くの研究がなされてきたけれども、この溶媒を使用して再生セルロース繊維を形成する工業的なプロセスは確立されていない。
【0006】
第三アミンN-オキシドがセルロース溶媒として有用であることは、かなり前から知られている。Graenacherは、米国特許第2,179,181号において、溶媒として適切な一群のアミンオキシド物質を開示している。しかしながら、該発明者は、低濃度のセルロース溶液を形成できただけであって、溶媒の回収という点で大きな問題を生じた。Johnsonは、米国特許第3,447,939号において、無水のN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)と他のアミンN-オキシドを、セルロースおよび他の多くの天然高分子や合成高分子に対する溶媒として使用することを開示している。この場合も、溶液の固形分は比較的低かった。Johnsonは、その後の米国特許第3,508,941号において、多種多様な天然高分子や合成高分子を溶解状態で混合して、セルロースとの均質ブレンドを形成させることを提唱した。セルロースに対する非溶媒(例えばジメチルスルホキシド)を加えて濃厚溶液にした。ポリマー溶液を冷メタール中に直接紡糸したが、得られたフィラメントの強度は比較的低かった。
【0007】
しかしながら、種々のアミンオキシドを溶媒として使用する再生セルロース繊維の製造に対し、1979年から一連の特許が公布された。特に、約12%の水が存在する状態のN-メチルモルホリン-N-オキシド、極めて有用な溶媒であることがわかった。加熱条件下(通常は90℃〜130℃の範囲)にて該溶媒中にセルロースを溶解し、多数の小さな開口を備えたスピナレットもしくはダイから、空気または他の非沈殿性流体(nonprecipitating fluids)(例えば窒素)中に押し出した。セルロース濃厚溶液のフィラメントを、約3〜10の範囲のスピン-ストレッチ比(a spin-stretch ratio)にて連続的・機械的に延伸して分子配向を起こさせる。次いでこれらのフィラメントを非溶媒流体(通常は水)中に送り込んで、セルロースを再生させる。他の再生溶媒(例えば低級脂肪族アルコール)も有用であることが示されている。これらのプロセスの例が、McCorsleyおよびMcCorsleyらによる、米国特許第4,142,913号、第4,144,080号、第4,211,574号、第4,246,221号、第4,416,698号、および他の特許中に詳細に記載されている。Jurkovicらによる米国特許第5,252,284号とMichelsらによる米国特許第5,417,909号は、特に、NMMO中に溶解したセルロースを紡糸するための押出ノズルの形状寸法について検討している。Brandnerらによる米国特許第4,426,228号は、加熱されたHMMO溶液中でのセルロース及び/又は溶媒の劣化を防ぐべく、安定剤として作用する種々の化合物を使用することを開示している数多くの特許の代表的なものである。Franksらによる米国特許第4,145,532号と第4,196,282号は、セルロースをアミンオキシド溶媒中に溶解することの困難さ、およびより高いセルロース濃度を達成することの難しさについて説明している。
【0008】
NMMO溶液から防止されるセルロース織物繊維はリヨセル繊維(lyocell fibers)と呼ばれている。リヨセルは、有機溶液から沈殿させたセルロースで構成される繊維に対する一般に認められた総称であり、有機溶液からの沈殿においてヒドロキシル基の置換は起こらず、また化学的中間体も形成されない。コートールズ社(Courtaulds, Ltd.)製造のリヨセル製品が現在、テンセル(Tencel)(登録商標)繊維として市販されている。これらの繊維は、0.9〜2.7デニール重量および場合によってはそれ以上のデニール重量の繊維として入手可能である。デニールとは、繊維の9000メートル長さ当たりの重量(g)である。これらの繊維から造られるヤーンは、繊細であることから極めて手触りのよい布帛となる。
【0009】
現在製造されているリヨセル繊維の1つの制約は、それらの形状によるものである。現在製造のリヨセル繊維は、連続的・機械的に延伸されていて、一般にはかなり均一で円形もしくは長円形の断面を有しており、紡糸の際にひだができず、比較的滑らかで光沢のある表面を有する。このため現在のリヨセル繊維がステープルファイバーとして理想的なものとなっていない。なぜなら、カーディング・プロセスにおいて均一な分離を達成することが困難であり、従ってブレンディングが不均一になったり、また不均一なヤーンが得られたりするからである。ストレート繊維の問題をある程度解消するために、人造ステープルファイバーが、所定の長さに切断される前に、二次的プロセスにおいてほとんど常にひだ付けされている。ひだ付け(crimping)の例がSellarsらによる米国特許第5,591,388号または第5,601,765号に記載されており、該特許によれば、ファイバー・トウ(fiber tow)がスタッファー・ボックス(stuffer box)中で圧縮され、乾燥蒸気で加熱される。連続的で均一な断面と光沢のある表面を有する繊維により、“プラスチック”のような外観をもつ傾向のあるヤーンが得られる、ということにも留意しておかなければならない。熱可塑性ポリマーから製造されるヤーンは、二酸化チタン等の艶消剤(紡糸の前に加えられる)を含んでいなければならない場合が多い。Wilkesらによる米国特許第5,458,835号は、十字形断面および他の断面を有するビスコース・レーヨン繊維の製造について開示している。Michelsらによる米国特許第5,417,909号は、輪郭付けスピナレット(profiled spinnerets)を使用して非円形断面を有するリヨセル繊維を製造することを開示しているが、該特許の発明者らは、この製造法のいかなる工業的利用についても言及していない。
【0010】
リヨセル布帛について広く認識されている2つの問題点は、湿潤磨耗(例えば、洗浄中に生じる)の条件下での繊維のフィブリル化によって引き起こされる。フィブリル化は“ピリング”(すなわち、フィブリルがもつれて小さくて比較的密な球状物になる)を引き起こしやすい。フィブリル化はさらに、染色した布帛における“艶消し”外観の原因となる。フィブリル化は、高度の配向および繊維内でのプールされた見かけの横方向凝集によって引き起こされると考えられている。こうした問題および提唱されている解決策について説明している技術文献と特許文献が多数ある。例えば、Mortimer, S.A.とA.A. Peguyによる“Journal of Applied Polymer Science, 60:305-316(1996)”、ならびにNicholai M., A. Nechwatal, およびK.P. Mieckによる“Textile Research Journal, 66(9):575-580(1996)”が挙げられる。こうした問題に対して最初の文献の著者らがとった取り組みは、温度、相対湿度、ギャップ長、および押出と溶解との間のエアギャップ・ゾーンにおける滞留時間を変更することであった。Nicholaiらは、繊維を架橋することを示しているが、“...現在のところ、(種々の提案の)技術的実現は得られそうにない”と述べている。関連した米国特許としては、Taylorによる第5,403,530号、第5,520,869号、第5,580,354号、および第5,580,356号; Urbenによる第5,562,739号; ならびにWeigelらによる第5,618,483号; などがある。これらの特許はほとんどが、繊維を反応性物質で処理して表面変性または架橋を起こさせることに関するものである。現時点では、ヤーンまたは布帛を酵素処理することが、フィブリル化によって引き起こされる問題を緩和する上での好ましい方法である。しかしながら、上記処理のいずれもが幾つかの欠点を有しており、またコストの増大をきたす。繊維がフィブリル化を起こしにくいということは大きな利点となる。
【0011】
Kanekoらによる米国特許第3,833,438号は、銅アンモニアレーヨン法によって造られる自己結合したセルロース不織材料の製造について開示している。本発明者らの知見の及ぶ限りでは、自己結合したリヨセル不織ウェブについては説明されていない。
【0012】
低デニールの繊維が、合成ポリマーから種々の押出法によって製造されている。これら押出法のうちの3つ方法が本発明に関連している。1つは、“メルトブローイング”と一般に呼ばれている。溶融ポリマーを、一連の小直径オリフィスを通して、押し出される繊維に対してほぼ平行に流れている空気流れ中に押し出す。これにより、繊維が冷却したときに延伸される。この延伸は、2つの目的を果たしている。すなわち、ある程度の長さ方向の分子配向を引き起こし、最終的に繊維の直径を減少させている。2つめの方法は、上記の方法に幾らか類似していて“スパンボンディング”と呼ばれており、この方法によれば、チューブ中に繊維を押し出し、遠位端での減圧によって引き起こされる空気流れによりチューブを通して延伸する。一般には、スパンボンデッド繊維はメルトブローン繊維より長く、メルトブローン繊維は通常、より短くてばらばらの長さとなる。他の方法は“遠心紡糸”と呼ばれている方法であり、高速回転ドラムの側壁における開口から溶融ポリマーが追い出されるという点が異なる。ドラムが回転するときに、空気抵抗によって繊維が幾らか延伸される。しかしながら、メルトブローイングの場合のように、通常は強い空気流れが存在しない。これら3つの方法のいずれをを使用しても不織布材料を製造することができ、またいずれの方法も、繊維を連続的・機械的に延伸する方法を使用していない。これらの方法は、長年にわたって工業的に重要であることから、これらの方法に関する特許や一般的技術文献が多数ある。メルトブローイングに対する代表的な特許は、Weberらによる米国特許第3,959,421号およびMilliganらによる米国特許第5,075,068号である。Weberらの特許では、繊維を急速に冷却するために、ガス流中にて水噴霧を使用する。幾らか関連した方法がPCT公開WO91/18682に記載されており、これは変更を加えたメルトブローイングによって紙を被覆する方法に関するものである。示されている被覆材料は、“スターチ、カルボキシメチルセルロース、またはポリビニルアルコールの水溶液; ラテックス; バクテリア・セルロースの懸濁液; あるいは水性物質(aqueous material)の溶液もしくはエマルジョン”等の水性液体である。しかしながら、この方法は、押し出された物質をラテント繊維に形成するよりむしろ実際には霧状にする。Zikeliらによる米国特許第5,589,125号と第5,607,639号では、押し出されたリヨセル濃厚溶液がスピナレットを出ていくときに、空気の流れを、該濃厚溶液のストランドを横方向に横切るように方向付けしている。この空気流は、フィラメントを冷却するためだけに作用しており、フィラメントを延伸する作用はしていない。
【0013】
遠心紡糸の例が、Rookらによる米国特許第5,242,633号と第5,326,241号に示されている。Okadaらによる米国特許第4,440,700号は、熱可塑性材料に対する遠心紡糸法を開示している。熱可塑性性材料が排出されると、繊維が、スピニング・ヘッドを取り囲んで環状形にて捕捉され、流れつつある冷却用液体のカーテンによって下方に移動される。この方法に適しているポリマーには、ポリビニルアルコールとポリアクリロニトリルが含まれる。これら2つの材料の場合は、“湿潤”紡糸(すなわち、溶液中にて紡糸)が行われ、冷却用液体のカーテンの代わりに“凝固浴”が使用される。
【0014】
上記Kanekoらの特許を除き、セルロース系材料の場合には、メルトブローイング、スパンボンディング、および遠心紡糸に類似した方法は使用されていない。なぜなら、セルロース自体が基本的に不溶解性だからである。
【0015】
“マイクロデニール繊維”と呼ばれている極めて微細な繊維は、一般には、1.0以下のデニールを有する繊維と見なされている。種々の合成ポリマー(例えば、ポリプロピレン、ナイロン、またはポリエステル)から製造されるメルトブローン繊維は、0.4μmという小さな直径を有する繊維(約0.001デニール)として得られる。しかしながら、これらの繊維のほとんどは強度もしくは靭性が低い傾向があり、また一般には水吸収性がよいとは言えず、衣料用の布帛に使用される場合にはこの点が悪材料となる。0.5デニールという小さなデニールのマイクロデニール繊維は、本発明より前に、ビスコース法によってのみ製造されていた。
【0016】
本発明の方法により、合成ポリマーやレーヨンから製造されている繊維および現在得られているリヨセル繊維がもつ制約の多くを解消した新規のリヨセル繊維が得られる。本発明の方法により、低デニールで且つ種々のデニールが配分された繊維の形成が可能となる。同時に、各繊維の表面はきめが粗くなる傾向があり(高倍率での観察においてわかるように)、また繊維は、長さに沿って種々の形状と直径の断面を有していて、天然のひだをかなり有し、湿潤磨耗の条件下にてフィブリル化を起こしにくい。これらの特性はいずれも、ほとんどの天然繊維においては見られるものであるが、連続的・機械的な延伸手段を使用する方法によって製造されるリヨセル繊維においては見られない望ましい特性である。
【0017】
発明の概要
本発明は、繊維長に沿って直径の変動を有する再生セルロースから製造される繊維に関する。本明細書で使用している“セルロース”および“再生セルロース”という用語は、セルロースと他の天然ポリマーおよび合成ポリマーとのブレンド(いずれも紡糸溶媒に溶解し、このとき重量の点でセルロースが主要な成分である)を包含するよう充分に広く解釈すべきである。さらに詳細には、本発明は、セルロースのアミンN-オキシド溶液から、メルトブローイング法や遠心紡糸法に類似した方法によって製造される低デニール繊維に関する。“メルトブローイング”、“スパンボンディング”、および“遠心紡糸”という用語が使用されている場合、これらの用語は、たとえセルロースが溶解状態であって、紡糸温度を幾らか上昇させたとしても、熱可塑性繊維の製造に使用される方法と類似した方法について述べているものとする。“連続的に延伸する”および“連続的・機械的に延伸する(continuously mechanically drawn)”とは、先ず伸びと分子配向を引き起こすためにエアギャップを通して繊維を機械的に引っ張り、次いで再生浴を通して繊維を機械的に引っ張る、という本発明のリヨセル繊維製造法を表わしている。
【0018】
本発明の方法は、セルロース系原料をアミンオキシド〔好ましくは、幾らかの水が存在するN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)〕中に溶解することによって始まる。この濃厚溶液(すなわち、セルロースのNMMO溶液)は、公知の技術(例えば、前記したMcCorsleyまたはFrankらの特許のいずれかに記載されている)によって作製することができる。本発明においては、この濃厚溶液を、幾らか温度を上げた状態で、約90℃〜約130℃の温度のポンプもしくは押出機によって紡糸装置に移送する。最終的には、濃厚溶液は、多数の小さなオリフィスを通って空気中に導かれる。メルトブローイングの場合は、セルロース濃厚溶液の押出スレッドを、ほぼ平行方向に流れている乱流ガス流れによって拾い上げてフィラメントの通路にする。セルロース溶液がオリフィスから排出されると、オリフィスを出た後の連続した軌道進行中に、液状ストランドまたはラテント・フィラメント(latent filaments)が延伸される(あるいは、直径がかなり減少し、長さがかなり増大する)。この乱流によって天然のひだが生じ、また個々の繊維の長さに沿って最終的な繊維直径に幾らかの変動がもたらされる。繊維長に沿ったこの変動性は、個々の繊維の顕微鏡検査によって定量化することができる。こうした変動性の有用な尺度が“変動係数(coefficient of variability)”またはCVと呼ばれている。CVは、平均直径サイズを得ることによって算出する。次いで、平均直径からの標準偏差を平均直径で割ってCVを得る。得られた値を、100を掛けることによってパーセント値に変換する。本発明に従って得られるフィラメントは、連続的に延伸された繊維のCV値より大きなCV値を示す。例えば、本発明のフィラメントは約6.5%以上(好ましくは約7%以上、最も好ましくは10%)のCV値を示す。これとは大きく異なって、均一な直径を有していてひだがないか、あるいはひだを後の紡糸プロセスにおいて導入した連続延伸繊維は、本発明の繊維と比較して、繊維直径に高度の変動性(繊維長に沿って測定)を示さない。本発明の繊維は、不規則なひだを有していて、約1繊維長より大きい頂点間振幅(a peak to peak amplitude)と約5繊維直径より大きい周期(a period)を有する。
【0019】
スパンボンディングは、繊維が、機械的に引っ張られることなく空気流中において拾い上げられて延伸される、という点においてメルトブローイングの1種と見なすことができる。本発明の関連において、メルトブローイングとスパンボンディングは機能時に同等な方法であると見なすべきである。
【0020】
繊維を遠心防止によって製造する場合は、濃厚溶液のストランドを、小さなオリフィスを通して空気中に吐出し、紡糸ヘッドによって与えられる慣性によって延伸する。次いでフィラメントを再生溶液中に導くか、あるいは再生溶液をフィラメントに噴霧する。再生溶液は、水、低級脂肪族アルコール、またはこれらの混合物等の非溶媒である。溶媒として使用されるNMMOは、再生浴から回収して再使用することができる。
【0021】
メルトブローイング法または遠心紡糸法によって製造されるとき、ラテント繊維ストランドの周囲の空気における乱流と振動が、ユニークな形状が得られることの原因であると考えられる。
【0022】
0.1デニール以下という小さな平均サイズのフィラメントを容易に形成することができる。デニールは、オリフィスの直径、ガス流の速度、スピニングヘッドの速度、および濃厚溶液の粘度(これらに限定されない)を含めた多くのファクターによって制御することができる。したがって濃厚溶液の粘度が、セルロースD.P.と濃度の大きなファクターとなる。押出オリフィスを取り囲んでいる空気流の設計と速度によって、繊維長を同様に制御することができる。紡糸条件を変えることによって連続繊維または比較的短いステープル繊維を製造することができる。装置を簡単に変更して、独立した繊維を形成したり、あるいは独立した繊維を使用してセルロース系不織布のマットにしたりすることができる。後者の場合、セルロースの再生前に、マットを形成して自己結合させてもよい。再生媒体から繊維を回収し、洗浄し、必要に応じて漂白処理し、乾燥し、本発明の方法のポイントを考慮しつつ従来の手順に従って処置する。
【0023】
本発明に従って形成される繊維の光沢(gloss)又はつや(luster)は、つや消し剤を含まない連続延伸リヨセル繊維よりかなり低く、従って本発明の繊維は“プラスチック”様の外観をもたない。特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明者らは、上記の事実が、繊維のユニークな“きめの粗い(pebbled)”表面(高倍率の顕微鏡写真にて明らか)によるものと考えている。
【0024】
紡糸条件を適切に調節することにより、本発明に従って製造される繊維を、種々の断面形状と比較的狭い繊維直径分布を有するようにして形成することができる。直径と断面形状のある程度の変動は、一般には個別の繊維の長さに沿って起こり、連続延伸法を使用して製造されるリヨセル繊維より高いCVが付与される。本発明の繊維は、再生セルロース繊維に対する繊維長に沿った直径の変動性が高い、という点でユニークである。本発明に従って製造される繊維は、多くの天然繊維に類似したモルホロジーを有する。
【0025】
本発明に従ってメルトブローイング法または遠心紡糸法によって製造される繊維は、スタッファー・ボックス(a stuffer box)によってもたらされるものとは全く異なった天然のひだを有する。スタッファー・ボックスによってもたらされるひだは、割合規則的であって、比較的小さな振幅(通常は、1繊維直径未満)と短い頂点間周期(通常は、2または3繊維直径以下)を有する。本発明に従って製造される繊維は、1繊維直径より大きな不規則な振幅と約5繊維直径を越える不規則な周期を有し、ねじれた外観または波状の外観を有するのが特徴である。
【0026】
まったく予想外のことであるが、本発明の繊維は、湿潤磨耗の条件下で極めてフィブリル化を起こしにくいようである。このことは、紡糸のあとのプロセス(例えば、架橋や酵素による処理)が不必要であるという点で大きな利点である。
【0027】
本発明の繊維の特性は、従来の織物製造プロセスにおけるカーディングや紡糸に対してよく適合している。本発明の繊維は、天然繊維の特性の多くを有していながら、天然には得られないマイクロデニール直径にて製造することができる。本発明に従って行われるこれらのプロセスによって、0.1デニールという小さな繊維直径が達成された。さらに、自己結合ウェブ又はきつく巻き取った複層ヤーンを本発明の繊維から直接製造することもできる。
【0028】
本発明の特定の利点は、セルロースと、通常はセルロースに対して不相溶性のポリマー物質として考えられている物質とのブレンドを形成できることである。アミンオキシドが極めて強力な溶媒であり、セルロースに加えて他の多くのポリマーを溶解することができる。従って、リグニン、ナイロン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、スターチ、ポリ(ビニルアルコール)、ポリエステル、ポリケトン、カゼイン、酢酸セルロース、アミロース、アミロペクチン、カチオン性スターチ、およびその他の多くの物質等、種々の物質とセルロースとのブレンドを形成することができる。セルロースとの均質ブレンドとしてのこれら物質のそれぞれにより、新規でユニークな特性を有する繊維が得られる。
【0029】
本発明の目的は、アミンオキシド-水媒体中に溶解して得られる溶液から、メルトブローイング、スパンボンディング、または遠心紡糸に類似したプロセス(但し、非連続延伸プロセスである)によって、低デニール再生セルロース繊維もしくはセルロースブレンド繊維を形成する方法を提供することにある。
【0030】
本発明の他の目的は、ヤーンに形成するための有利な形状と表面特性を有する低デニールセルロース繊維を提供することにある。前記繊維は、連続延伸手段を使用するプロセスによって得られるリヨセル繊維と比べて、比較的高いCVを示すのが好ましい。
【0031】
本発明のさらに他の目的は、天然のひだを有していて低光沢の繊維を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、湿潤磨耗の条件下でフィブリル化を起こしにくいリヨセル繊維を提供することにある。
【0032】
本発明のさらに他の目的は、天然繊維と同等であるか、あるいは天然繊維を凌ぐ多くの特性を有する再生セルロース繊維を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、製造用化学物質の全てを容易に回収して再使用できるようなプロセスによって上記タイプの繊維を形成する方法を提供することにある。
【0033】
本発明のさらに他の目的は、自己結合のリヨセル不織布を提供することにある。
本発明の上記態様、および本発明の付随的な利点の多くは、添付の図面と関連させつつ下記の詳細な説明を参照すれば容易に理解できるであろう。
【0034】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明の場合、使用するセルロース系原料の種類は重要なことではない。種々のプロセスによって製造できる漂白処理した木材パルプであっても未漂白の木材パルプであってもよく、例えばクラフト、前加水分解クラフト、または亜硫酸パルプなどが挙げられる。他の多くのセルロース系原料(例えば精製リンター)も適切である。セルロースをアミンオキシド溶媒中に溶解する前に、通常は、速やかな溶解を促進するためにセルロース(シート状になっている場合)を細断して細かなフラフ(fluff)にする。
【0035】
セルロースの溶液は、公知の方法(例えば、McCorsleyによる米国特許第4,246,221号に記載の方法)にて作製することができる。例えば、セルロースを、約40%のNMMOと60%の水との非溶媒混合物中にて湿潤させることができる。セルロース対湿潤用NMMOの比は約1:5.1(重量比)であってよい。NMMOを基準として約12〜14%の水が残存するよう充分な量の水を留去し、これによってセルロース溶液が形成されるまで、本混合物をダブルアーム・シグマブレード・ミキサー(a double arm sigma blade mixer)中にて、減圧下、約120℃で約1.3時間混合する。こうして得られる濃厚溶液は、約30%のセルロースを含有する。これとは別に、適切な水含量のNMMOを初めから使用して、減圧蒸留を不要にすることもできる。これは、実験室で紡糸用濃厚溶液を調製するのに好都合な方法であり、この場合、約40〜60%濃度の市販NMMOと、約3%だけの水を含有する実験室用のNMMO試剤と混合して7〜15%の水を含有するセルロース溶媒を得ることができる。溶媒中に存在する必要な水を調節する際には、セルロース中に通常存在する水分を考慮しなければならない。NMMO-水溶媒に対するセルロース濃厚溶液の実験室的調製に対しては、Chanzy, H.とA. Peguyによる“Journal of Polymer Science, Polymer Physics Ed., 18:1137-1144(1980)”およびNavard. P.とJ.M. Haudinによる“British Polymer Journal, p.174, Dec(1980)”を参照のこと。
【0036】
図1は、本発明の方法のブロック図を示している。前述したように、水性NMMO中セルロース濃厚溶液の調製は従来法に従って行う。従来と異なるのは、これらの濃厚溶液を紡糸する方法である。本発明の方法においては、セルロース溶液を押出オリフィスから、ビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨンの場合のように直接再生浴中に送り込むのではなく乱流空気流れ中に送り込む。直ちにラテント・フィラメントが再生される。しかしながら、本発明の方法はさらに、リヨセル繊維を形成するための従来の方法とは異なる。なぜなら、濃厚溶液が、エアギャップを通して再生浴中に、切れ目のないスレッド(unbroken threads)として直線的に下方に連続延伸されないからである。
【0037】
図2は、遠心紡糸プロセスを示している。閉じられた基部と多数の開口4を含んだ側壁6とを有するほぼ中空の加熱したシリンダーもしくはドラム中に、加熱したセルロース濃厚溶液1を送り込む。シリンダーが回転すると、濃厚溶液が、細いストランド8として開口を通して水平に強制的に追い出される。これらのストランドが周囲空気からの抵抗に会うと、強く引っ張られるか又は引き伸ばされる。引き伸ばしの程度は、制御の容易なファクター(例えば、シリンダーの回転速度、オリフィスのサイズ、および濃厚溶液の粘度)に依存する。濃厚溶液のストランドが、重力によって落下するか、又は空気流によってゆるやかに下方に送られて水盤12中に保持されている非溶媒10中に入り、そこで凝固して個別の配向繊維となる。これとは別に、濃厚溶液のストランド8は、再生溶液18の供給源に装備されている噴霧ノズル16のリングからの水噴霧によって、ある程度もしくは完全に再生することができる。さらに後述するように、濃厚溶液のストランドを、再生前あるいは再生時に不織布に形成することもできる。水が好ましい凝固用非溶媒であるが、エタノールや水-エタノール混合物も有用である。繊維を採集し、洗浄して残留しているNMMOを除去し、必要に応じて漂白処理し、そして乾燥する。後述の実施例2では、実験室的に作製される遠心紡糸繊維について詳細に説明している。
【0038】
図3と4は、典型的なメルトブローイング・プロセスの詳細について示している。図3に示されているように、セルロース濃厚溶液の供給物(図示せず)が押出機32に送られ、押出機32がセルロース溶液を、多数のオリフィス36を有するオリフィスヘッド34に強制的に送る。ライン38を介して空気もしくは他のガスが供給され、このガスが押出溶液ストランド40を取り囲んで移送する。浴またはタンク42は再生用溶液44を収容しており、押出溶液ストランドがこの再生用溶液中にてセルロース溶液からセルロース繊維に再生される。これとは別に、ラテント繊維に水噴霧を浴びせて、再生もしくはある程度再生することもできる。非機械的な延伸もしくは伸長(non-mechanical draw or stretch)の程度は、容易に制御可能なファクター(例えば、オリフィスのサイズ、濃厚溶液の粘度、濃厚溶液中のセルロース濃度、空気の速度、温度、およびノズルの形状)に依存する。
【0039】
図4は、標準的な押出オリフィスを示している。オリフィスプレート20には、多数のオリフィス36が設けられている。オリフィスは、一連の押さえネジ18によって押出ヘッドのボディに保持されている。内部部材24は、セルロース溶液のための押出ポート26を形成する。内部部材24は、押出溶液フィラメント40を取り巻く空気通路によって取り囲まれており、これによって押出溶液フィラメンが延伸され、再生用媒体へのフイラメントの移送が促進される。後述の実施例3では、メルトブローイングによる実験室スケールの特定の繊維製造が詳細に説明されている。
【0040】
図5〜6に示されている走査電子顕微鏡写真は、従来の連続延伸プロセスによって製造されたリヨセル繊維の写真である。それぞれの個別の繊維に対する繊維長に沿った場所における断面エリアの形状がほぼ円形であることに注意していただきたい。繊維長に沿ってほぼ均一な直径を有する繊維は、これに対応して低いCV値を有する(CV値は、直径変動性の直接的な尺度である)。ある程度連続的に延伸されるリヨセル繊維(図示せず)の場合は、約6.1%以下の値が得られる。図6における倍率10,000で観察される表面はかなり滑らかである。
【0041】
図7〜10は、本発明の遠心紡糸法によって造られた繊維である。図7に示されている繊維は、ある範囲の直径を有していて、幾分カールしている傾向があり、繊維に天然のひだをもたらしている。この天然のひだは、スタッファー・ボックスにおいて得られる規則的な波状形状とは全く異なる。振幅も周期も不規則であり、高さと長さが少なくとも7繊維直径である。繊維のほとんどが幾分平らになっており、また一部が相当程度のねじれを示している。繊維の直径は約1.5μm〜20μm(<0.1〜3.1デニール)の極限値間で変わり、繊維は、12μmという平均直径(c.
1デニール)付近の直径を有しているのがほとんどである。天然のひだに加えて、他の独特の特徴があることが顕微鏡写真からわかる。例えば、図5と6の連続延伸繊維と異なって、遠心紡糸法によって製造される繊維は、繊維長に沿った断面積の変動がより大きい。こうした変動性は、他の繊維より遠心紡糸繊維において広く認められる。しかしながら、あらゆることを考慮して、遠心紡糸法によって製造される繊維は繊維に沿った直径変動性が連続延伸繊維より高い、ということが言える。遠心紡糸繊維の種類によっては(図示せず)、少なくとも約10.9%〜約25.4%の範囲のCV値が得られた。
【0042】
しかしながら一般には、本発明の方法によって製造されるリヨセル繊維は、約6.5%〜約25.4%およびそれ以上の変動性を達成することができる。後述の実施例は、このような繊維を得るために使用される方法について説明している。本明細書に記載の方法に対する条件を変えることによって、リヨセル繊維が当該範囲内の変動係数を有するようになる、と本発明者らは考える。
【0043】
図8は、図7の繊維を10,000倍の倍率にて示したものである。表面の外観は均一な小石状(uniformly pebbly)であって、市販の繊維とは全く異なる。この結果、より低い光沢と改良された紡糸特性が得られる。
【0044】
図9と10は、単一の遠心紡糸繊維に関して約5mmの間隔を置いて撮った繊維断面の走査顕微鏡写真である。繊維に沿った断面と直径の変動がはっきりと示されている。この変動は、遠心紡糸繊維とメルトブローン繊維の両方にとって特徴的である。
【0045】
図11と12は、メルトブローン繊維の低倍率走査顕微鏡写真と高倍率走査顕微鏡写真である。これらのサンプルのひだは、遠心紡糸繊維のひだより大きいと思われる。図12の10,000倍率の顕微鏡写真は、遠心紡糸繊維の場合とよく似た小石状表面(pebbly surface)を示している。遠心紡糸法によって造られた繊維の場合がそうであるように、メルトブローン法によって造られた繊維も、連続延伸法によって造られた繊維と比較して繊維長に沿ってより高度の直径変動性を示す。ある種のメルトブローン繊維(図示せず)においては、CVに基づいて測定される繊維直径変動性は約12.6%〜14.8%またはそれ以上であった。
【0046】
種々の装置と条件を使用して行った実験から得られた全体的な結果から、本発明の方法に従って繊維を製造すると、約6.5%〜約25.4%の範囲内および場合によってはそれ以上の変動係数を有する繊維が得られる、ということがわかる。これらの値は、連続延伸繊維〔例えば、TITKによって製造される繊維、またはテンセル(Tencel)(登録商標)という商品名で市販されている繊維〕から得られる値の範囲外である。
【0047】
それにもかかわらず、2つの製造法から得られる繊維の全体としてのモルホロジーは繊細で密なヤーンを形成するのに遊離である。なぜなら、特徴の多くが天然繊維のもつ特徴に似ているからである。この点は、本発明のリヨセル繊維にとってユニークなものであると考えられる。
【0048】
図13は、改良されたメルトブローイング法を使用して自己結合リヨセル不織材料を製造するための方法を示している。セルロース濃厚溶液50を押出機52に供給し、そこから押出ヘッド54に送る。エアサプライ56は、押出オリフィスにおいて、濃厚溶液ストランド58が押出ヘッドから下降するときに濃厚溶液ストランドを引っ張るように作用する。プロセス・パラメータは、得られる繊維がランダムでより短くなるよりむしろ連続的になるように選択するのが好ましい。ローラー62と64によって支持・駆動される小孔のあるエンドレス移動ベルト上に繊維が落下する。そこで繊維が、ラテント不織布マット66を形成する。トップ・ローラー(図示せず)を使用して繊維を密に接触するようプレスし、交差点におけるボンディングを確実に形成させることができる。マット66が、ベルト60上に保持されつつ通路に沿って進むとき、再生用溶液68の噴霧を噴霧器70によって浴びせる。再生された生成物72をベルトの端部から取り除き、そこで生成物をさらに処理することができる(例えば、さらなる洗浄、漂白、および乾燥によって)。
【0049】
図14は、遠心紡糸法を使用して自己結合不織ウェブを形成する別の方法を示している。側壁に多数のオリフィス84を有する高速回転ドラム82中にセルロース濃厚溶液80を供給する。回転ドラムによって与えられる慣性と空気抵抗によって、ラテント繊維86がオリフィス84を通して追い出され、引っ張られるか又は伸長される。ラテント繊維が、ドラムの周りに同心円状に配置されたレシーバー表面(a
receiver surface)88の内側側壁に衝突する。レシーバーは、フラストコニカル(frustoconical)な下部90を有していてもよい。再生用溶液92のカーテンまたはスプレーが、レシーバー88の壁体の周りのリング94から下方に流れて、レシーバーの側壁に衝突したセルロースマットをある程度凝固させる。リング94は、図示のように配置してもよいし、あるいはラテント繊維が自己結合して不織ウェブになるのにより多くの時間が必要とされる場合は、より下方の部分に移動してもよい。ある程度凝固させた不織ウェブ96を、レシーバーの下部90から容器100の凝固浴98中へと連続的に機械的に引っ張る。ウェブがその通路に沿って移動するにつれて、ウェブが崩壊して、円筒形状物から平面的な二層不織構造物になる。ウェブが浴内に保持されつつ、ローラー102と104の下で移動する。テイクアウト・ローラー106により、完全に凝固した二層ウェブ108が浴から取り出される。ローラー100、102、または104のどれを駆動してもよいし、あるいは全てを駆動してもよい。ウェブ108が連続的に洗浄および/または漂白装置(図示せず)に送られ、処理された後、乾燥して貯蔵される。ウェブは、分割して開いて単層の不織布にしてもよいし、あるいは必要に応じて二層材料として保持することもできる。
【0050】
フィブリル化は、単一繊維の表面部分の超極細繊維もしくはフィブリルへのスプリッティングと定義される。スプリッティングは、繊維と繊維との摩擦による湿潤磨耗の結果として、あるいは繊維を硬い表面に対してこすることによる湿潤磨耗の結果として起こる。磨耗の条件に依存して、フィブリルの殆ど又は多くが、一方の端において基繊維(mother fiber)に結びついたままである。フィブリルは極めて細いのでほぼ透明状になり、従って最終的な布帛に白っぽい霜白の外観を与える。より高度なフィブリル化の場合は、微小繊維が絡み合うようになり、従ってピリングの外観と感触をもたらす。
【0051】
フィブリル化抵抗性を測定するための標準的な業界試験はないが、一般には下記の手順が使用されている。0.003gの個別化繊維を計量し、10mlの水と共に蓋の付いた25ml試験管(13×110mm)中に入れる。小さい振幅にて約200サイクル/分の回数で作動するシェーカーにサンプルを配置する。試験の持続時間は4〜80時間の範囲で変わってよい。図15〜18に示されているサンプルは、4時間振盪したものである。
【0052】
図15と16は、2つの業者から入手して上記のように試験したときの、市販ヤーンからの繊維において引き起こされたフィブリル化を示している。図15および16と、本発明の“メルトブローン”繊維の2サンプルである図17および18とを比較すれば、相当程度のフィブリル化が起きていることがわかる。
【0053】
図19、20、および21は最近のメルトブローン繊維を示しており、これらから、メルトブローン繊維においてはフィブリル化が極めて少ないことがわかる。このことに対する理由は、完全には解明されていない。しかしながら、特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明の繊維は、現行の工業的プロセスによって製造される繊維よりやや低い結晶化度と配向を有する、と考えられる。本発明の繊維はさらに、フィブリル化しにくいことの他に、より高くてより均一な染料受容性を有することがわかった。使用後に“つや消し(frosted)”外観を有する傾向(フィブリル化によって引き起こされる)は、本発明のリヨセル繊維には殆ど全く見られない。図19は、本発明の方法で製造される繊維のモルホロジーを示している。特に、繊維長に沿って繊維直径が変動していることがはっきり分かる。図21は、本発明の方法によって製造される繊維の表面が小石状であることを示している。
【0054】
実施例1
セルロース濃厚溶液の作製
本実施例と後述の実施例において使用したセルロースパルプは、特に明記しない限り、標準的な漂白クラフトサザン軟材マーケットパルプ(bleached kraft southern softwood market pulp)(グレードNB416、ノースカロライナ州ニューバーンのウェイヤーハウザー社から市販)であった。このパルプは、α-セルロースの含量が約88〜89%であり、D.P.が約1200である。使用前に、シート状の木材パルプをフラッファー(a fluffer)に通して破砕し、実質的に個別の繊維と小さな繊維塊にした。250mlのガラス製3つ口フラスコ中に、5.3gの毛羽立てしたセルロース、66.2gの97%NMMO、24.5gの50%NMMO、および0.05の没食子酸プロピルを仕込んだ。フラスコを120℃にて油浴中に浸漬し、撹拌棒を挿入し、撹拌を約0.5時間続けた。直接紡糸するのに適した流動性の濃厚溶液が得られた。
【0055】
実施例2
遠心紡糸法による繊維の製造
使用した紡糸装置は、改良された“コットン・キャンディー(cotton candy)”タイプで、Fuiszらによる米国特許第5,447,423号に記載のものと類似の装置であった。ローター(120℃に予熱)の直径は89mmであり、2800rpmにて回転させた。オリフィスの数は、オリフィスを塞ぐことによって1〜84の間で変えることができた。流れ状態を試験するために、直径700μmの8つのオリフイスを使用した。セルロース濃厚溶液(これも120℃)を紡糸ローターの中心部に注いだ。出てきた濃厚溶液の細いストランドを、ローターを取り囲んでいる水盤中に収容された室温水中に重力落下させた。ここでストランドが再生された。一部の繊維は互いに結びつくが、ほとんどの繊維が個別化されたままであり、長さが数センチメートルであった。
【0056】
上記プロセスのほかに、漂白クラフトパルプと未漂白クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、微晶質セルロース、およびセルロースと最高30%までのコーンスターチもしくはポリ(アクリル酸)とのブレンドから、非常によく似たマイクロデニール繊維を適切に製造することができた。
【0057】
繊維の直径(またはデニール)は、幾つかの手段によって確実に制御することができた。濃厚溶液の粘度が高くなるほど、より重質の繊維(heavier fibers)を形成しやすい。濃厚溶液の粘度は、セルロース固形分やセルロースの重合度を含めた種々の手段によって制御することができる。紡糸オリフィスのサイズが小さくなるほど、あるいはドラムの回転速度が高くなるほど、小さな直径の繊維が得られる。約5〜20μmの直径(0.2〜3.1デニール)を有する繊維を再現性よく製造することができた。直径が20〜50μmの範囲(3.1〜19.5デニール)のより重質の繊維も簡単に製造することができた。繊維長は、形状とシステムの操作パラメーターによってかなり変動した。
【0058】
実施例3
メルトブローイング法による繊維の製造
実施例1において作製した濃厚溶液を120℃に保持し、元々はメルトブローン合成ポリマーを形成するのに開発された装置に供給した。オリフィスは全体の長さが約50mmで直径は635μmであり、排出端にて400μmに先細りさせた。乱流の空気ブラスト中にて約20cm移行した後、繊維が水浴中に落下し、そこで繊維が再生された。再生された繊維の長さはいろいろであった。短繊維が幾らか形成されたが、ほとんどの繊維は数センチメートルから数十センチメートルの長さであった。押出パラメーターを変えることによって連続繊維を形成させることができた。全く驚くべきことに、繊維の多くの断面は、繊維長に沿って均一ではなかった。この特徴は、本発明のマイクロデニール材料を使用して密なヤーンを紡糸する際に特に有利であると思われる。なぜなら、これらの繊維は、全体的なモルホロジーが天然繊維に極めてよく似ているからである。
【0059】
上記プロセスの変形においては、移動しつつあるステンレス鋼メッシュベルトに繊維を衝突させてから、繊維を再生浴中に送った。充分に結合した不織マットが形成された。
【0060】
言うまでもないことであるが、リヨセル不織布は自己結合させる必要がない。リヨセル不織布は、部分的にのみ自己結合させてもよいし、あるいは全く自己結合させなくてもよい。これらの場合においては、リヨセル不織布は、ハイドロエンタングリング(hydroentangling)、接着性結合剤(例えば、スターチや種々のポリマーエマルジョン)の使用、あるいはこれらの方法の幾つかの組合せ(これらに限定されない)を含めたよく知られている方法のいずれかによって結合させることができる。
【0061】
実施例4
微晶質セルロースの使用によるメルトブローン・リヨセルの製造
濃厚溶液の固形分を増大させるために、木材パルプではなく微晶質完成紙料を使用して、実施例1の方法を繰り返した。使用した製品は、デラウェア州ニューアークのFMC社から市販のアビセル(Avicel)(登録商標)タイプpH-101微晶質セルロースであった。15gおよび28.5gの微晶質セルロース(乾燥重量)と、66.2gの97%NMMO、24.5gの50%NMMO、および0.05gの没食子酸プロピルとを使用して濃厚溶液を作製した。これ以外の手順は実施例1に記載した通りに行った。得られた濃厚溶液は、それぞれ約14%と24%のセルロースを含有した。これらの濃厚溶液を、実施例3に記載のようにメルトブローした。このようにして得られた繊維は、モルホロジーの点で実施例2と3と実質的に同等であった。
【0062】
言うまでもないことであるが、繊維のデニールは多くの制御可能なファクターに依存する。これらのファクターとしては、溶液の固形分、押出機ヘッドにおける溶液の圧力と温度、オリフィスの直径、空気の圧力、およびメルトブローイング技術や遠心紡糸技術における当業者に公知の他のファクターなどがある。平均0.5デニールの、あるいはそれ以下のデニールのリヨセル繊維を、メルトブローイング法または遠心紡糸法によってばらつきなく製造することができる。0.5デニールの繊維は約7〜8μmの平均直径(同等の円形断面積に基づいて算出)に対応する。
【0063】
本発明の繊維をX線分析により調べて結晶化度とクリスタリットのタイプを決定した。下記の表に示すように、幾つかのセルロース系繊維との比較を行った。マイクロデニール繊維に対するデータは、実施例2の遠心紡糸材料からとった。
【0064】
【表1】
【0065】
個々の繊維の引張強さの測定に際してはある困難が生じ、従って靭性に関して下記の表に記載されている数は推定値である。さらに、本発明のマイクロデニール繊維を他の多くの繊維と比較した。
【0066】
【表2】
【0067】
約5μmの平均直径を有する遠心紡糸リヨセルは、約0.25デニールの繊維に対応する。
本発明の繊維の小石状表面により望ましい低光沢がもたらされ、内部艶消し剤を使用する必要はない。光沢(gloss)や艶(luster)は測定するのが困難な特性であるが、次の試験が、実施例2の方法によって造られた繊維サンプルと市販のリヨセル繊維との間の差異を明らかにする代表的なものである。それぞれの繊維から小さな湿潤形成ハンドシーツ(wet formed handsheets)を造り、光の反射率を測定した。実施例2の材料の反射率は5.4%であったが、市販リヨセル繊維の反射率は16.9%であった。
【0068】
実施例5
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するための遠心紡糸繊維の製造
本実施例において使用したセルロース濃厚溶液と繊維の作製は、前記の実施例1と2に記載の手順に従って行った。
【0069】
実施例6
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのメルトブローン繊維(1ホール)の製造
下記の手順に従って濃厚溶液を作製した。2300gの乾燥NB416クラクトパルプと14kgの5.0%H2SO4溶液とをプラスチック容器中にて混合した。酸で処理する前の未乾燥NB416の平均D.P.は1400であり、ヘミセルロース含量は13.6%であり、銅価は0.5であった。パルプと酸との混合物を97℃で1.5時間保持し、室温にて約2時間冷却し、pHが5.0〜7.0の範囲に入るまで水で洗浄した。酸処理したパルプの平均D.P.は約600(ASTM D1795-62に記載の方法に従って測定)であり、ヘミセルロースの含量は約13.8%であった(すなわち、実験的に測定した酸処理パルプのD.P.と未処理パルプのD.P.との差は統計的に有意ではなかった)。酸処理したパルプの銅価は約2.5であった。
【0070】
酸処理したパルプを乾燥し、その一部をNMMO中に溶解した。0.025gの没食子酸プロピル、61.7gの97%NMMO、および21.3gの50%NMMOを含んだ混合物中に、9gの乾燥した酸処理パルプを溶解した。混合物を収容したフラスコを約120℃の油浴中に浸漬し、撹拌棒を挿入し、パルプが溶解するまで撹拌を約0.5時間続けた。
【0071】
得られた濃厚溶液を約120℃に保持し、単一オリフィスの実験用メルトブローイングヘッドに供給した。ノズル部分のオリフィスは、直径が483μmであって、その長さが約2.4mmであり、従ってL/D比は5となった。オリフィスのすぐ上に位置している着脱可能な同軸キャピラリーは、直径が685μmで長さが80mmであり、従ってL/D比は116となった。オリフィスとキャピラリーとの間の移行ゾーンの角度は約118°であった。空気供給ポートは平行なスロットであり、それらの間にオリフィスの開口が等距離で配置されている。空気ギャップの幅は250μmであり、ノーズピース(nosepiece)の端部における全幅は1.78mmであった。キャピラリーおよびノズルの中心線と空気スロットとの間の角度は30°であった。スクリュー駆動による容量型ピストンポンプによって、濃厚溶液を押出ヘッドに供給した。ホットワイヤー機器を使用して空気の速度を測定し、3660m/分の値を得た。電気加熱した押出ヘッド内で、空気を排出個所にて60〜70℃に加温した。濃厚溶液が存在しないキャピラリー内の温度は、入口端での約80℃からノズル部分の出口直前の約140℃という範囲であった。操作条件下では、キャピラリーとノズルにおける濃厚溶液の温度を測定することはできなかった。安定的な運転条件が確実に得られたときは、それぞれの濃厚溶液から連続繊維が形成された。それぞれの濃厚溶液を使用して類似の繊維直径を得ようとする試みにおいて押出量をやや変えた。繊維の直径は、最適の運転条件にて約9〜14μmの間で変わった。
【0072】
押出ヘッドの約200mm下の個所にて下降しつつある繊維に細かな水噴霧を当て、下降繊維の線速度の約1/4の表面速度で作動しているロールに繊維を巻き取った。
【0073】
押出ヘッドのキャピラリー部分を取り除くと、コットンのデニール範囲における連続繊維は形成することができなかった。このキャピラリーは、連続繊維を形成する上で、またダイのうねりを減少させる上で極めて重要のようである。
【0074】
言うまでもないことであるが、繊維のデニールは多くの制御可能なファクターに依存する。これらのファクターとしては、溶液の固形分、押出機ヘッドにおける溶液の圧力と温度、オリフィスの直径、空気の圧力、およびメルトブローイング技術における当業者に公知の他のファクターなどがある。オリフイス1つ当たり約1g/分より大きい押出速度にてメルトブローイングすることによって、コットン繊維のデニール範囲(直径が約10〜20μm)を有するリヨセル繊維を簡単かつ安定的に製造することができた。
【0075】
実施例7
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのメルトブローン繊維(20ホール)の製造
下記の手順に従って濃厚溶液を作製した。2300gの乾燥NB416クラクトパルプと14kgの5.0%H2SO4溶液とをプラスチック容器中にて混合した。酸で処理する前の未乾燥NB416の平均D.P.は1400であり、ヘミセルロース含量は13.6%であり、銅価は0.5であった。パルプと酸との混合物を97℃で1.5時間保持し、室温にて約2時間冷却し、pHが5.0〜7.0の範囲に入るまで水で洗浄した。酸処理したパルプの平均D.P.は約600(ASTM D1795-62に記載の方法に従って測定)であり、ヘミセルロースの含量は約13.8%であった(すなわち、実験的に測定した酸処理パルプのD.P.と未処理パルプのD.P.との差は統計的に有意ではなかった)。酸処理したパルプの銅価は約2.5であった。
【0076】
酸処理したパルプを、NaBH4で0.6の銅価になるまで還元し、pHが6〜7になるまで洗浄し、乾燥し、その一部をNMMO中に溶解した。0.25gの没食子酸プロピルと1100gのNMMO一水和物との混合物中に、約110℃にて90gの乾燥・酸処理したパルプを溶解した。混合物を収容したステンレス鋼製フラスコを約120℃の油浴中に浸漬し、撹拌棒を挿入し、パルプが溶解するまで撹拌を約1時間続けた。
【0077】
得られた濃厚溶液を約120℃に保持し、20オリフィスの実験用メルトブローイングヘッドに供給した。ノズル部分のオリフィスは、直径が400μmであって、その長さが約2.0mmであり、従ってL/D比は5となった。オリフィスのすぐ上に位置している着脱可能な同軸キャピラリーは、直径が626μmで長さが20mmであり、従ってL/D比は32となった。オリフィスとキャピラリーとの間の移行ゾーンの角度は約118°であった。空気供給ポートは平行なスロットであり、それらの間にオリフィスの開口が等距離で配置されている。空気ギャップの幅は250μmであり、ノーズピースの端部における全幅は1.0mmであった。キャピラリーおよびノズルの中心線と空気スロットとの間の角度は30°であった。スクリュー駆動による容量型ピストンポンプによって、濃厚溶液を押出ヘッドに供給した。ホットワイヤー機器を使用して空気の速度を測定し、3660m/分の値を得た。電気加熱した押出ヘッド内で、空気を排出個所にて60〜70℃に加温した。濃厚溶液が存在しないキャピラリー内の温度は、入口端での約80℃からノズル部分の出口直前の約130℃という範囲であった。操作条件下では、キャピラリーとノズルにおける濃厚溶液の温度を測定することはできなかった。安定的な運転条件が確実に得られたときは、それぞれの濃厚溶液から連続繊維が形成された。それぞれの濃厚溶液を使用して類似の繊維直径を得ようとする試みにおいて押出量をやや変えた。繊維の直径は、最適の運転条件にて約9〜14μmの間で変わった。
【0078】
押出ヘッドの約200mm下の個所にて下降しつつある繊維に細かな水噴霧を当て、下降繊維の線速度の約1/4の表面速度で作動しているロールに繊維を巻き取った。
【0079】
押出ヘッドのキャピラリー部分を取り除くと、コットンのデニール範囲における連続繊維は形成することができなかった。このキャピラリーは、連続繊維を形成する上で、またダイのうねりを減少させる上で極めて重要のようである。
【0080】
言うまでもないことであるが、繊維のデニールは多くの制御可能なファクターに依存する。これらのファクターとしては、溶液の固形分、押出機ヘッドにおける溶液の圧力と温度、オリフィスの直径、空気の圧力、およびメルトブローイング技術における当業者に公知の他のファクターなどがある。オリフイス1つ当たり約0.6g/分より大きい押出速度にてメルトブローイングすることによって、コットン繊維のデニール範囲(直径が約10〜20μm)を有するリヨセル繊維を簡単かつ安定的に製造することができた。
【0081】
比較例1
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのTITKリヨセル繊維の製造
“Thuringisches Institut fur Textil und Kunstoff Forschunge V., Breitscheidstr. 97, D-07407 Rudolstadt, Germany.(TITK)”によってTITK繊維を製造した。酸処理したパルプ(ヘミセルロース含量が13.5%、平均セルロースD.P.が600)から濃厚溶液を作製した。処理したパルプをNMMO中に95℃で約2時間溶解し(セルロース濃度は13.0重量%)、繊維を連続的に引っ張るドライ/ジェット湿潤法〔米国特許第5,417,909号(該特許を参照により本明細書に含める)に開示〕によって繊維に紡糸した。
【0082】
比較例2
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのテンセル繊維およびテンセルA-100繊維の製造
テンセル繊維は現在、広く市販されている。しかしながら、本実施例において使用したサンプルは、アコリディス社(Acoridis)およびテキサス・テク・ユニバーシティ(Texas Tech University)のインタナショナル・テキスタイル・センター(ITC)から入手した。テンセルA-100はアコリディス社(UK)から入手した。
【0083】
実施例8
繊維長に沿った変動係数の算出
実施例5〜7および比較例1と2に記載の方法によって得た繊維サンプルの関連母集団(relevant populations)のそれぞれから、1種以上のサンプル繊維をランダムに選び出した。繊維を約2インチ以下に切断した。切断した個々の繊維サンプルのそれぞれから200回以上の読み取りを行った。光学顕微鏡を使用して、個々の繊維サンプルの直径を測定した。顕微鏡には、繊維の直径を読み取るための均等目盛を有する接眼レンズが取り付けてあるのが好ましい。1060倍という倍率を使用して直径を正確に測定した。直径の読み取りは、繊維に沿って約1/100インチごとに行った。この直径は、繊維の一方の側から反対側までの長さである。直径読み取り値の総和を読み取り数で割って平均直径を算出した。次いで、それぞれの読み取り値に関して、平均からの標準偏差を算出した。次いで、全ての標準偏差の総和を平均直径で割って変動係数(CV)を算出した。この数値に100を掛けてパーセント値を得た。
【0084】
CV値算出の結果を表3に示す。表3に記載のデータからわかるように、約25.4%という最も高いCVを示している繊維は、約11.5ミクロンの平均直径を有する遠心紡糸繊維であった。試験したメルトブローン繊維に対する最も高いCV値は約14.8%であり、このとき直径は約24.9ミクロンであった。約13〜14ミクロンの範囲の平均直径を有するメルトブローン繊維は、約13.6〜13.7%のCV値を示した。大きな直径のメルトブローン繊維も、小さな直径のメルトブローン繊維も、比較的小さなCV値を示した。連続的に延伸したTITK繊維は、約5.4〜6.1%の範囲のCV値を示した。連続的に延伸したテンセル繊維とテンセルA-100繊維は、それぞれ約5.2%と約5.9%のCV値を示した。しかしながら、重要なことは、連続延伸法によって製造されたリヨセル繊維と比較すると、メルトブローン繊維と遠心紡糸繊維のほうが高いCV値を示した、という点である。
【0085】
【表3】
【0086】
本発明の好ましい実施態様について例示して説明してきたが、本発明の精神と範囲を逸脱しない範囲において、種々の変更を行ってよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の実施に際して使用される工程のブロック図である。
【図2】図2は、本発明において使用される典型的な遠心紡糸装置の一部切り取り透視図である。
【図3】図3は、本発明において使用すべく造られたメルトブローイング装置の一部切り取り斜視図である。
【図4】図4は、上記メルトブローイング装置において使用されることのある典型的な押出ヘッドの断面図である。
【図5】図5は、市販リヨセル繊維の100倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、市販リヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、遠心紡糸法によって製造したリヨセル繊維の200倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、遠心紡糸法によって製造したリヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、単一の遠心紡糸繊維に沿った断面を示している2,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、単一の遠心紡糸繊維に沿った断面を示している2,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の100倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図12】図12は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は、メルトブローイング法の使用による自己結合リヨセル不織布の製造を示している図面である。
【図14】図14は、遠心紡糸法の使用による自己結合リヨセル不織布の製造を示している類似の図面である。
【図15】図15は、湿潤磨耗試験によって引き起こされるフィブリル化を示している、工業製品からの繊維の1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図16】図16は、湿潤磨耗試験によって引き起こされるフィブリル化を示している、別の工業製品からの繊維の1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図17】図17は、本発明の方法によって製造した繊維サンプルの、同様に湿潤磨耗試験にかけたときの1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、本発明の方法によって製造した別の繊維サンプルの、同様に湿潤磨耗試験にかけたときの1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図19】図19は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の100倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図20】図20は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図21】図21は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【発明の詳細な説明】
【0001】
優先権
本特許出願は1998年3月16日付け出願の出願番号09/039,737の一部係属出願であり、前記出願番号09/039,737は1997年8月22日付け出願の出願番号08/916,652の一部係属出願であり、前記出願番号08/916,652号は仮出願番号60/023,909と60/024,462(いずれも1996年8月23日付け出願)からの優先権を主張している。
【0002】
発明の分野
本発明は、新規特性を有するリヨセル繊維、および前記繊維の製造法に関する。新規特性とは、具体的には、繊維長に沿った直径変動性等の表面モルホロジーを含む。本発明はさらに、リヨセル繊維から製造されるヤーン、およびリヨセル繊維を含有する織布と不織布に関する。本発明の製造法は、具体的に説明すると、先ずセルロースをアミンオキシド中に溶解して濃厚溶液(dope)を形成させることを含む。次いで、小さな開口を通して濃厚溶液を空気流れ中に押し出すことによって、あるいは小さな開口を通して濃厚溶液を遠心力で吐出させることによってラテント繊維(latent fibers)を得る。次いで、液体非溶剤中にてこのラテント繊維を再生することによって本発明のリヨセル繊維を形成させる。どちらの方法も、自己結合不織布の製造に対して適用可能である。本発明の特定の方法は、リヨセル繊維に対し、従来の連続延伸繊維を凌ぐユニークな表面特性を付与する。
【0003】
発明の背景
再生セルロースの高強度繊維は、一世紀以上にわたってビスコース法と銅アンモニア法によって製造されてきた。銅アンモニア法は1890年に特許権を得、ビスコース法はその2年後に特許権を得た。ビスコース法においては、先ずマーセル化用濃度の苛性ソーダ溶液中にセルロースを浸漬してアルカリセルロースを形成させる。これを二硫化炭素と反応させてキサントゲン酸セルロースを形成させ、次いでこれを希薄苛性ソーダ溶液中に溶解する。濾過と脱気を行った後、キサントゲン酸塩溶液を、浸漬したスピナレットから、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸亜鉛、およびグルコースを含んだ再生浴中に押し出して連続フィラメントを形成させる。このようにして得られるいわゆるビスコースレーヨンが、現在では繊維素材中に使用されており、またかつてはゴム物品(例えば、タイヤや駆動ベルト)における強化材として使用された。
【0004】
セルロースはさらに、アンモニア性酸化銅溶液中に溶解する。この性質が、銅アンモニアレーヨンの製造に対するベースとなった。セルロース溶液を、浸漬したスピナレットを通して5%苛性ソーダ溶液中または希硫酸中に押し出して繊維を形成させる。銅除去処理と洗浄の後、得られる繊維は大きな湿潤強度を有する。銅アンモニアレーヨンは極めて小さなデニールの繊維として得られ、ほとんど繊維素材に限って使用されている。
【0005】
ごく最近では、他のセルロース溶媒が検討されている。こうした溶媒の1つは、四酸化二窒素のジメチルホルムアミド溶液をベースにしている。多くの研究がなされてきたけれども、この溶媒を使用して再生セルロース繊維を形成する工業的なプロセスは確立されていない。
【0006】
第三アミンN-オキシドがセルロース溶媒として有用であることは、かなり前から知られている。Graenacherは、米国特許第2,179,181号において、溶媒として適切な一群のアミンオキシド物質を開示している。しかしながら、該発明者は、低濃度のセルロース溶液を形成できただけであって、溶媒の回収という点で大きな問題を生じた。Johnsonは、米国特許第3,447,939号において、無水のN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)と他のアミンN-オキシドを、セルロースおよび他の多くの天然高分子や合成高分子に対する溶媒として使用することを開示している。この場合も、溶液の固形分は比較的低かった。Johnsonは、その後の米国特許第3,508,941号において、多種多様な天然高分子や合成高分子を溶解状態で混合して、セルロースとの均質ブレンドを形成させることを提唱した。セルロースに対する非溶媒(例えばジメチルスルホキシド)を加えて濃厚溶液にした。ポリマー溶液を冷メタール中に直接紡糸したが、得られたフィラメントの強度は比較的低かった。
【0007】
しかしながら、種々のアミンオキシドを溶媒として使用する再生セルロース繊維の製造に対し、1979年から一連の特許が公布された。特に、約12%の水が存在する状態のN-メチルモルホリン-N-オキシド、極めて有用な溶媒であることがわかった。加熱条件下(通常は90℃〜130℃の範囲)にて該溶媒中にセルロースを溶解し、多数の小さな開口を備えたスピナレットもしくはダイから、空気または他の非沈殿性流体(nonprecipitating fluids)(例えば窒素)中に押し出した。セルロース濃厚溶液のフィラメントを、約3〜10の範囲のスピン-ストレッチ比(a spin-stretch ratio)にて連続的・機械的に延伸して分子配向を起こさせる。次いでこれらのフィラメントを非溶媒流体(通常は水)中に送り込んで、セルロースを再生させる。他の再生溶媒(例えば低級脂肪族アルコール)も有用であることが示されている。これらのプロセスの例が、McCorsleyおよびMcCorsleyらによる、米国特許第4,142,913号、第4,144,080号、第4,211,574号、第4,246,221号、第4,416,698号、および他の特許中に詳細に記載されている。Jurkovicらによる米国特許第5,252,284号とMichelsらによる米国特許第5,417,909号は、特に、NMMO中に溶解したセルロースを紡糸するための押出ノズルの形状寸法について検討している。Brandnerらによる米国特許第4,426,228号は、加熱されたHMMO溶液中でのセルロース及び/又は溶媒の劣化を防ぐべく、安定剤として作用する種々の化合物を使用することを開示している数多くの特許の代表的なものである。Franksらによる米国特許第4,145,532号と第4,196,282号は、セルロースをアミンオキシド溶媒中に溶解することの困難さ、およびより高いセルロース濃度を達成することの難しさについて説明している。
【0008】
NMMO溶液から防止されるセルロース織物繊維はリヨセル繊維(lyocell fibers)と呼ばれている。リヨセルは、有機溶液から沈殿させたセルロースで構成される繊維に対する一般に認められた総称であり、有機溶液からの沈殿においてヒドロキシル基の置換は起こらず、また化学的中間体も形成されない。コートールズ社(Courtaulds, Ltd.)製造のリヨセル製品が現在、テンセル(Tencel)(登録商標)繊維として市販されている。これらの繊維は、0.9〜2.7デニール重量および場合によってはそれ以上のデニール重量の繊維として入手可能である。デニールとは、繊維の9000メートル長さ当たりの重量(g)である。これらの繊維から造られるヤーンは、繊細であることから極めて手触りのよい布帛となる。
【0009】
現在製造されているリヨセル繊維の1つの制約は、それらの形状によるものである。現在製造のリヨセル繊維は、連続的・機械的に延伸されていて、一般にはかなり均一で円形もしくは長円形の断面を有しており、紡糸の際にひだができず、比較的滑らかで光沢のある表面を有する。このため現在のリヨセル繊維がステープルファイバーとして理想的なものとなっていない。なぜなら、カーディング・プロセスにおいて均一な分離を達成することが困難であり、従ってブレンディングが不均一になったり、また不均一なヤーンが得られたりするからである。ストレート繊維の問題をある程度解消するために、人造ステープルファイバーが、所定の長さに切断される前に、二次的プロセスにおいてほとんど常にひだ付けされている。ひだ付け(crimping)の例がSellarsらによる米国特許第5,591,388号または第5,601,765号に記載されており、該特許によれば、ファイバー・トウ(fiber tow)がスタッファー・ボックス(stuffer box)中で圧縮され、乾燥蒸気で加熱される。連続的で均一な断面と光沢のある表面を有する繊維により、“プラスチック”のような外観をもつ傾向のあるヤーンが得られる、ということにも留意しておかなければならない。熱可塑性ポリマーから製造されるヤーンは、二酸化チタン等の艶消剤(紡糸の前に加えられる)を含んでいなければならない場合が多い。Wilkesらによる米国特許第5,458,835号は、十字形断面および他の断面を有するビスコース・レーヨン繊維の製造について開示している。Michelsらによる米国特許第5,417,909号は、輪郭付けスピナレット(profiled spinnerets)を使用して非円形断面を有するリヨセル繊維を製造することを開示しているが、該特許の発明者らは、この製造法のいかなる工業的利用についても言及していない。
【0010】
リヨセル布帛について広く認識されている2つの問題点は、湿潤磨耗(例えば、洗浄中に生じる)の条件下での繊維のフィブリル化によって引き起こされる。フィブリル化は“ピリング”(すなわち、フィブリルがもつれて小さくて比較的密な球状物になる)を引き起こしやすい。フィブリル化はさらに、染色した布帛における“艶消し”外観の原因となる。フィブリル化は、高度の配向および繊維内でのプールされた見かけの横方向凝集によって引き起こされると考えられている。こうした問題および提唱されている解決策について説明している技術文献と特許文献が多数ある。例えば、Mortimer, S.A.とA.A. Peguyによる“Journal of Applied Polymer Science, 60:305-316(1996)”、ならびにNicholai M., A. Nechwatal, およびK.P. Mieckによる“Textile Research Journal, 66(9):575-580(1996)”が挙げられる。こうした問題に対して最初の文献の著者らがとった取り組みは、温度、相対湿度、ギャップ長、および押出と溶解との間のエアギャップ・ゾーンにおける滞留時間を変更することであった。Nicholaiらは、繊維を架橋することを示しているが、“...現在のところ、(種々の提案の)技術的実現は得られそうにない”と述べている。関連した米国特許としては、Taylorによる第5,403,530号、第5,520,869号、第5,580,354号、および第5,580,356号; Urbenによる第5,562,739号; ならびにWeigelらによる第5,618,483号; などがある。これらの特許はほとんどが、繊維を反応性物質で処理して表面変性または架橋を起こさせることに関するものである。現時点では、ヤーンまたは布帛を酵素処理することが、フィブリル化によって引き起こされる問題を緩和する上での好ましい方法である。しかしながら、上記処理のいずれもが幾つかの欠点を有しており、またコストの増大をきたす。繊維がフィブリル化を起こしにくいということは大きな利点となる。
【0011】
Kanekoらによる米国特許第3,833,438号は、銅アンモニアレーヨン法によって造られる自己結合したセルロース不織材料の製造について開示している。本発明者らの知見の及ぶ限りでは、自己結合したリヨセル不織ウェブについては説明されていない。
【0012】
低デニールの繊維が、合成ポリマーから種々の押出法によって製造されている。これら押出法のうちの3つ方法が本発明に関連している。1つは、“メルトブローイング”と一般に呼ばれている。溶融ポリマーを、一連の小直径オリフィスを通して、押し出される繊維に対してほぼ平行に流れている空気流れ中に押し出す。これにより、繊維が冷却したときに延伸される。この延伸は、2つの目的を果たしている。すなわち、ある程度の長さ方向の分子配向を引き起こし、最終的に繊維の直径を減少させている。2つめの方法は、上記の方法に幾らか類似していて“スパンボンディング”と呼ばれており、この方法によれば、チューブ中に繊維を押し出し、遠位端での減圧によって引き起こされる空気流れによりチューブを通して延伸する。一般には、スパンボンデッド繊維はメルトブローン繊維より長く、メルトブローン繊維は通常、より短くてばらばらの長さとなる。他の方法は“遠心紡糸”と呼ばれている方法であり、高速回転ドラムの側壁における開口から溶融ポリマーが追い出されるという点が異なる。ドラムが回転するときに、空気抵抗によって繊維が幾らか延伸される。しかしながら、メルトブローイングの場合のように、通常は強い空気流れが存在しない。これら3つの方法のいずれをを使用しても不織布材料を製造することができ、またいずれの方法も、繊維を連続的・機械的に延伸する方法を使用していない。これらの方法は、長年にわたって工業的に重要であることから、これらの方法に関する特許や一般的技術文献が多数ある。メルトブローイングに対する代表的な特許は、Weberらによる米国特許第3,959,421号およびMilliganらによる米国特許第5,075,068号である。Weberらの特許では、繊維を急速に冷却するために、ガス流中にて水噴霧を使用する。幾らか関連した方法がPCT公開WO91/18682に記載されており、これは変更を加えたメルトブローイングによって紙を被覆する方法に関するものである。示されている被覆材料は、“スターチ、カルボキシメチルセルロース、またはポリビニルアルコールの水溶液; ラテックス; バクテリア・セルロースの懸濁液; あるいは水性物質(aqueous material)の溶液もしくはエマルジョン”等の水性液体である。しかしながら、この方法は、押し出された物質をラテント繊維に形成するよりむしろ実際には霧状にする。Zikeliらによる米国特許第5,589,125号と第5,607,639号では、押し出されたリヨセル濃厚溶液がスピナレットを出ていくときに、空気の流れを、該濃厚溶液のストランドを横方向に横切るように方向付けしている。この空気流は、フィラメントを冷却するためだけに作用しており、フィラメントを延伸する作用はしていない。
【0013】
遠心紡糸の例が、Rookらによる米国特許第5,242,633号と第5,326,241号に示されている。Okadaらによる米国特許第4,440,700号は、熱可塑性材料に対する遠心紡糸法を開示している。熱可塑性性材料が排出されると、繊維が、スピニング・ヘッドを取り囲んで環状形にて捕捉され、流れつつある冷却用液体のカーテンによって下方に移動される。この方法に適しているポリマーには、ポリビニルアルコールとポリアクリロニトリルが含まれる。これら2つの材料の場合は、“湿潤”紡糸(すなわち、溶液中にて紡糸)が行われ、冷却用液体のカーテンの代わりに“凝固浴”が使用される。
【0014】
上記Kanekoらの特許を除き、セルロース系材料の場合には、メルトブローイング、スパンボンディング、および遠心紡糸に類似した方法は使用されていない。なぜなら、セルロース自体が基本的に不溶解性だからである。
【0015】
“マイクロデニール繊維”と呼ばれている極めて微細な繊維は、一般には、1.0以下のデニールを有する繊維と見なされている。種々の合成ポリマー(例えば、ポリプロピレン、ナイロン、またはポリエステル)から製造されるメルトブローン繊維は、0.4μmという小さな直径を有する繊維(約0.001デニール)として得られる。しかしながら、これらの繊維のほとんどは強度もしくは靭性が低い傾向があり、また一般には水吸収性がよいとは言えず、衣料用の布帛に使用される場合にはこの点が悪材料となる。0.5デニールという小さなデニールのマイクロデニール繊維は、本発明より前に、ビスコース法によってのみ製造されていた。
【0016】
本発明の方法により、合成ポリマーやレーヨンから製造されている繊維および現在得られているリヨセル繊維がもつ制約の多くを解消した新規のリヨセル繊維が得られる。本発明の方法により、低デニールで且つ種々のデニールが配分された繊維の形成が可能となる。同時に、各繊維の表面はきめが粗くなる傾向があり(高倍率での観察においてわかるように)、また繊維は、長さに沿って種々の形状と直径の断面を有していて、天然のひだをかなり有し、湿潤磨耗の条件下にてフィブリル化を起こしにくい。これらの特性はいずれも、ほとんどの天然繊維においては見られるものであるが、連続的・機械的な延伸手段を使用する方法によって製造されるリヨセル繊維においては見られない望ましい特性である。
【0017】
発明の概要
本発明は、繊維長に沿って直径の変動を有する再生セルロースから製造される繊維に関する。本明細書で使用している“セルロース”および“再生セルロース”という用語は、セルロースと他の天然ポリマーおよび合成ポリマーとのブレンド(いずれも紡糸溶媒に溶解し、このとき重量の点でセルロースが主要な成分である)を包含するよう充分に広く解釈すべきである。さらに詳細には、本発明は、セルロースのアミンN-オキシド溶液から、メルトブローイング法や遠心紡糸法に類似した方法によって製造される低デニール繊維に関する。“メルトブローイング”、“スパンボンディング”、および“遠心紡糸”という用語が使用されている場合、これらの用語は、たとえセルロースが溶解状態であって、紡糸温度を幾らか上昇させたとしても、熱可塑性繊維の製造に使用される方法と類似した方法について述べているものとする。“連続的に延伸する”および“連続的・機械的に延伸する(continuously mechanically drawn)”とは、先ず伸びと分子配向を引き起こすためにエアギャップを通して繊維を機械的に引っ張り、次いで再生浴を通して繊維を機械的に引っ張る、という本発明のリヨセル繊維製造法を表わしている。
【0018】
本発明の方法は、セルロース系原料をアミンオキシド〔好ましくは、幾らかの水が存在するN-メチルモルホリン-N-オキシド(NMMO)〕中に溶解することによって始まる。この濃厚溶液(すなわち、セルロースのNMMO溶液)は、公知の技術(例えば、前記したMcCorsleyまたはFrankらの特許のいずれかに記載されている)によって作製することができる。本発明においては、この濃厚溶液を、幾らか温度を上げた状態で、約90℃〜約130℃の温度のポンプもしくは押出機によって紡糸装置に移送する。最終的には、濃厚溶液は、多数の小さなオリフィスを通って空気中に導かれる。メルトブローイングの場合は、セルロース濃厚溶液の押出スレッドを、ほぼ平行方向に流れている乱流ガス流れによって拾い上げてフィラメントの通路にする。セルロース溶液がオリフィスから排出されると、オリフィスを出た後の連続した軌道進行中に、液状ストランドまたはラテント・フィラメント(latent filaments)が延伸される(あるいは、直径がかなり減少し、長さがかなり増大する)。この乱流によって天然のひだが生じ、また個々の繊維の長さに沿って最終的な繊維直径に幾らかの変動がもたらされる。繊維長に沿ったこの変動性は、個々の繊維の顕微鏡検査によって定量化することができる。こうした変動性の有用な尺度が“変動係数(coefficient of variability)”またはCVと呼ばれている。CVは、平均直径サイズを得ることによって算出する。次いで、平均直径からの標準偏差を平均直径で割ってCVを得る。得られた値を、100を掛けることによってパーセント値に変換する。本発明に従って得られるフィラメントは、連続的に延伸された繊維のCV値より大きなCV値を示す。例えば、本発明のフィラメントは約6.5%以上(好ましくは約7%以上、最も好ましくは10%)のCV値を示す。これとは大きく異なって、均一な直径を有していてひだがないか、あるいはひだを後の紡糸プロセスにおいて導入した連続延伸繊維は、本発明の繊維と比較して、繊維直径に高度の変動性(繊維長に沿って測定)を示さない。本発明の繊維は、不規則なひだを有していて、約1繊維長より大きい頂点間振幅(a peak to peak amplitude)と約5繊維直径より大きい周期(a period)を有する。
【0019】
スパンボンディングは、繊維が、機械的に引っ張られることなく空気流中において拾い上げられて延伸される、という点においてメルトブローイングの1種と見なすことができる。本発明の関連において、メルトブローイングとスパンボンディングは機能時に同等な方法であると見なすべきである。
【0020】
繊維を遠心防止によって製造する場合は、濃厚溶液のストランドを、小さなオリフィスを通して空気中に吐出し、紡糸ヘッドによって与えられる慣性によって延伸する。次いでフィラメントを再生溶液中に導くか、あるいは再生溶液をフィラメントに噴霧する。再生溶液は、水、低級脂肪族アルコール、またはこれらの混合物等の非溶媒である。溶媒として使用されるNMMOは、再生浴から回収して再使用することができる。
【0021】
メルトブローイング法または遠心紡糸法によって製造されるとき、ラテント繊維ストランドの周囲の空気における乱流と振動が、ユニークな形状が得られることの原因であると考えられる。
【0022】
0.1デニール以下という小さな平均サイズのフィラメントを容易に形成することができる。デニールは、オリフィスの直径、ガス流の速度、スピニングヘッドの速度、および濃厚溶液の粘度(これらに限定されない)を含めた多くのファクターによって制御することができる。したがって濃厚溶液の粘度が、セルロースD.P.と濃度の大きなファクターとなる。押出オリフィスを取り囲んでいる空気流の設計と速度によって、繊維長を同様に制御することができる。紡糸条件を変えることによって連続繊維または比較的短いステープル繊維を製造することができる。装置を簡単に変更して、独立した繊維を形成したり、あるいは独立した繊維を使用してセルロース系不織布のマットにしたりすることができる。後者の場合、セルロースの再生前に、マットを形成して自己結合させてもよい。再生媒体から繊維を回収し、洗浄し、必要に応じて漂白処理し、乾燥し、本発明の方法のポイントを考慮しつつ従来の手順に従って処置する。
【0023】
本発明に従って形成される繊維の光沢(gloss)又はつや(luster)は、つや消し剤を含まない連続延伸リヨセル繊維よりかなり低く、従って本発明の繊維は“プラスチック”様の外観をもたない。特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明者らは、上記の事実が、繊維のユニークな“きめの粗い(pebbled)”表面(高倍率の顕微鏡写真にて明らか)によるものと考えている。
【0024】
紡糸条件を適切に調節することにより、本発明に従って製造される繊維を、種々の断面形状と比較的狭い繊維直径分布を有するようにして形成することができる。直径と断面形状のある程度の変動は、一般には個別の繊維の長さに沿って起こり、連続延伸法を使用して製造されるリヨセル繊維より高いCVが付与される。本発明の繊維は、再生セルロース繊維に対する繊維長に沿った直径の変動性が高い、という点でユニークである。本発明に従って製造される繊維は、多くの天然繊維に類似したモルホロジーを有する。
【0025】
本発明に従ってメルトブローイング法または遠心紡糸法によって製造される繊維は、スタッファー・ボックス(a stuffer box)によってもたらされるものとは全く異なった天然のひだを有する。スタッファー・ボックスによってもたらされるひだは、割合規則的であって、比較的小さな振幅(通常は、1繊維直径未満)と短い頂点間周期(通常は、2または3繊維直径以下)を有する。本発明に従って製造される繊維は、1繊維直径より大きな不規則な振幅と約5繊維直径を越える不規則な周期を有し、ねじれた外観または波状の外観を有するのが特徴である。
【0026】
まったく予想外のことであるが、本発明の繊維は、湿潤磨耗の条件下で極めてフィブリル化を起こしにくいようである。このことは、紡糸のあとのプロセス(例えば、架橋や酵素による処理)が不必要であるという点で大きな利点である。
【0027】
本発明の繊維の特性は、従来の織物製造プロセスにおけるカーディングや紡糸に対してよく適合している。本発明の繊維は、天然繊維の特性の多くを有していながら、天然には得られないマイクロデニール直径にて製造することができる。本発明に従って行われるこれらのプロセスによって、0.1デニールという小さな繊維直径が達成された。さらに、自己結合ウェブ又はきつく巻き取った複層ヤーンを本発明の繊維から直接製造することもできる。
【0028】
本発明の特定の利点は、セルロースと、通常はセルロースに対して不相溶性のポリマー物質として考えられている物質とのブレンドを形成できることである。アミンオキシドが極めて強力な溶媒であり、セルロースに加えて他の多くのポリマーを溶解することができる。従って、リグニン、ナイロン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ(アクリロニトリル)、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アクリル酸)、スターチ、ポリ(ビニルアルコール)、ポリエステル、ポリケトン、カゼイン、酢酸セルロース、アミロース、アミロペクチン、カチオン性スターチ、およびその他の多くの物質等、種々の物質とセルロースとのブレンドを形成することができる。セルロースとの均質ブレンドとしてのこれら物質のそれぞれにより、新規でユニークな特性を有する繊維が得られる。
【0029】
本発明の目的は、アミンオキシド-水媒体中に溶解して得られる溶液から、メルトブローイング、スパンボンディング、または遠心紡糸に類似したプロセス(但し、非連続延伸プロセスである)によって、低デニール再生セルロース繊維もしくはセルロースブレンド繊維を形成する方法を提供することにある。
【0030】
本発明の他の目的は、ヤーンに形成するための有利な形状と表面特性を有する低デニールセルロース繊維を提供することにある。前記繊維は、連続延伸手段を使用するプロセスによって得られるリヨセル繊維と比べて、比較的高いCVを示すのが好ましい。
【0031】
本発明のさらに他の目的は、天然のひだを有していて低光沢の繊維を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、湿潤磨耗の条件下でフィブリル化を起こしにくいリヨセル繊維を提供することにある。
【0032】
本発明のさらに他の目的は、天然繊維と同等であるか、あるいは天然繊維を凌ぐ多くの特性を有する再生セルロース繊維を提供することにある。
本発明のさらに他の目的は、製造用化学物質の全てを容易に回収して再使用できるようなプロセスによって上記タイプの繊維を形成する方法を提供することにある。
【0033】
本発明のさらに他の目的は、自己結合のリヨセル不織布を提供することにある。
本発明の上記態様、および本発明の付随的な利点の多くは、添付の図面と関連させつつ下記の詳細な説明を参照すれば容易に理解できるであろう。
【0034】
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明の場合、使用するセルロース系原料の種類は重要なことではない。種々のプロセスによって製造できる漂白処理した木材パルプであっても未漂白の木材パルプであってもよく、例えばクラフト、前加水分解クラフト、または亜硫酸パルプなどが挙げられる。他の多くのセルロース系原料(例えば精製リンター)も適切である。セルロースをアミンオキシド溶媒中に溶解する前に、通常は、速やかな溶解を促進するためにセルロース(シート状になっている場合)を細断して細かなフラフ(fluff)にする。
【0035】
セルロースの溶液は、公知の方法(例えば、McCorsleyによる米国特許第4,246,221号に記載の方法)にて作製することができる。例えば、セルロースを、約40%のNMMOと60%の水との非溶媒混合物中にて湿潤させることができる。セルロース対湿潤用NMMOの比は約1:5.1(重量比)であってよい。NMMOを基準として約12〜14%の水が残存するよう充分な量の水を留去し、これによってセルロース溶液が形成されるまで、本混合物をダブルアーム・シグマブレード・ミキサー(a double arm sigma blade mixer)中にて、減圧下、約120℃で約1.3時間混合する。こうして得られる濃厚溶液は、約30%のセルロースを含有する。これとは別に、適切な水含量のNMMOを初めから使用して、減圧蒸留を不要にすることもできる。これは、実験室で紡糸用濃厚溶液を調製するのに好都合な方法であり、この場合、約40〜60%濃度の市販NMMOと、約3%だけの水を含有する実験室用のNMMO試剤と混合して7〜15%の水を含有するセルロース溶媒を得ることができる。溶媒中に存在する必要な水を調節する際には、セルロース中に通常存在する水分を考慮しなければならない。NMMO-水溶媒に対するセルロース濃厚溶液の実験室的調製に対しては、Chanzy, H.とA. Peguyによる“Journal of Polymer Science, Polymer Physics Ed., 18:1137-1144(1980)”およびNavard. P.とJ.M. Haudinによる“British Polymer Journal, p.174, Dec(1980)”を参照のこと。
【0036】
図1は、本発明の方法のブロック図を示している。前述したように、水性NMMO中セルロース濃厚溶液の調製は従来法に従って行う。従来と異なるのは、これらの濃厚溶液を紡糸する方法である。本発明の方法においては、セルロース溶液を押出オリフィスから、ビスコースレーヨンや銅アンモニアレーヨンの場合のように直接再生浴中に送り込むのではなく乱流空気流れ中に送り込む。直ちにラテント・フィラメントが再生される。しかしながら、本発明の方法はさらに、リヨセル繊維を形成するための従来の方法とは異なる。なぜなら、濃厚溶液が、エアギャップを通して再生浴中に、切れ目のないスレッド(unbroken threads)として直線的に下方に連続延伸されないからである。
【0037】
図2は、遠心紡糸プロセスを示している。閉じられた基部と多数の開口4を含んだ側壁6とを有するほぼ中空の加熱したシリンダーもしくはドラム中に、加熱したセルロース濃厚溶液1を送り込む。シリンダーが回転すると、濃厚溶液が、細いストランド8として開口を通して水平に強制的に追い出される。これらのストランドが周囲空気からの抵抗に会うと、強く引っ張られるか又は引き伸ばされる。引き伸ばしの程度は、制御の容易なファクター(例えば、シリンダーの回転速度、オリフィスのサイズ、および濃厚溶液の粘度)に依存する。濃厚溶液のストランドが、重力によって落下するか、又は空気流によってゆるやかに下方に送られて水盤12中に保持されている非溶媒10中に入り、そこで凝固して個別の配向繊維となる。これとは別に、濃厚溶液のストランド8は、再生溶液18の供給源に装備されている噴霧ノズル16のリングからの水噴霧によって、ある程度もしくは完全に再生することができる。さらに後述するように、濃厚溶液のストランドを、再生前あるいは再生時に不織布に形成することもできる。水が好ましい凝固用非溶媒であるが、エタノールや水-エタノール混合物も有用である。繊維を採集し、洗浄して残留しているNMMOを除去し、必要に応じて漂白処理し、そして乾燥する。後述の実施例2では、実験室的に作製される遠心紡糸繊維について詳細に説明している。
【0038】
図3と4は、典型的なメルトブローイング・プロセスの詳細について示している。図3に示されているように、セルロース濃厚溶液の供給物(図示せず)が押出機32に送られ、押出機32がセルロース溶液を、多数のオリフィス36を有するオリフィスヘッド34に強制的に送る。ライン38を介して空気もしくは他のガスが供給され、このガスが押出溶液ストランド40を取り囲んで移送する。浴またはタンク42は再生用溶液44を収容しており、押出溶液ストランドがこの再生用溶液中にてセルロース溶液からセルロース繊維に再生される。これとは別に、ラテント繊維に水噴霧を浴びせて、再生もしくはある程度再生することもできる。非機械的な延伸もしくは伸長(non-mechanical draw or stretch)の程度は、容易に制御可能なファクター(例えば、オリフィスのサイズ、濃厚溶液の粘度、濃厚溶液中のセルロース濃度、空気の速度、温度、およびノズルの形状)に依存する。
【0039】
図4は、標準的な押出オリフィスを示している。オリフィスプレート20には、多数のオリフィス36が設けられている。オリフィスは、一連の押さえネジ18によって押出ヘッドのボディに保持されている。内部部材24は、セルロース溶液のための押出ポート26を形成する。内部部材24は、押出溶液フィラメント40を取り巻く空気通路によって取り囲まれており、これによって押出溶液フィラメンが延伸され、再生用媒体へのフイラメントの移送が促進される。後述の実施例3では、メルトブローイングによる実験室スケールの特定の繊維製造が詳細に説明されている。
【0040】
図5〜6に示されている走査電子顕微鏡写真は、従来の連続延伸プロセスによって製造されたリヨセル繊維の写真である。それぞれの個別の繊維に対する繊維長に沿った場所における断面エリアの形状がほぼ円形であることに注意していただきたい。繊維長に沿ってほぼ均一な直径を有する繊維は、これに対応して低いCV値を有する(CV値は、直径変動性の直接的な尺度である)。ある程度連続的に延伸されるリヨセル繊維(図示せず)の場合は、約6.1%以下の値が得られる。図6における倍率10,000で観察される表面はかなり滑らかである。
【0041】
図7〜10は、本発明の遠心紡糸法によって造られた繊維である。図7に示されている繊維は、ある範囲の直径を有していて、幾分カールしている傾向があり、繊維に天然のひだをもたらしている。この天然のひだは、スタッファー・ボックスにおいて得られる規則的な波状形状とは全く異なる。振幅も周期も不規則であり、高さと長さが少なくとも7繊維直径である。繊維のほとんどが幾分平らになっており、また一部が相当程度のねじれを示している。繊維の直径は約1.5μm〜20μm(<0.1〜3.1デニール)の極限値間で変わり、繊維は、12μmという平均直径(c.
1デニール)付近の直径を有しているのがほとんどである。天然のひだに加えて、他の独特の特徴があることが顕微鏡写真からわかる。例えば、図5と6の連続延伸繊維と異なって、遠心紡糸法によって製造される繊維は、繊維長に沿った断面積の変動がより大きい。こうした変動性は、他の繊維より遠心紡糸繊維において広く認められる。しかしながら、あらゆることを考慮して、遠心紡糸法によって製造される繊維は繊維に沿った直径変動性が連続延伸繊維より高い、ということが言える。遠心紡糸繊維の種類によっては(図示せず)、少なくとも約10.9%〜約25.4%の範囲のCV値が得られた。
【0042】
しかしながら一般には、本発明の方法によって製造されるリヨセル繊維は、約6.5%〜約25.4%およびそれ以上の変動性を達成することができる。後述の実施例は、このような繊維を得るために使用される方法について説明している。本明細書に記載の方法に対する条件を変えることによって、リヨセル繊維が当該範囲内の変動係数を有するようになる、と本発明者らは考える。
【0043】
図8は、図7の繊維を10,000倍の倍率にて示したものである。表面の外観は均一な小石状(uniformly pebbly)であって、市販の繊維とは全く異なる。この結果、より低い光沢と改良された紡糸特性が得られる。
【0044】
図9と10は、単一の遠心紡糸繊維に関して約5mmの間隔を置いて撮った繊維断面の走査顕微鏡写真である。繊維に沿った断面と直径の変動がはっきりと示されている。この変動は、遠心紡糸繊維とメルトブローン繊維の両方にとって特徴的である。
【0045】
図11と12は、メルトブローン繊維の低倍率走査顕微鏡写真と高倍率走査顕微鏡写真である。これらのサンプルのひだは、遠心紡糸繊維のひだより大きいと思われる。図12の10,000倍率の顕微鏡写真は、遠心紡糸繊維の場合とよく似た小石状表面(pebbly surface)を示している。遠心紡糸法によって造られた繊維の場合がそうであるように、メルトブローン法によって造られた繊維も、連続延伸法によって造られた繊維と比較して繊維長に沿ってより高度の直径変動性を示す。ある種のメルトブローン繊維(図示せず)においては、CVに基づいて測定される繊維直径変動性は約12.6%〜14.8%またはそれ以上であった。
【0046】
種々の装置と条件を使用して行った実験から得られた全体的な結果から、本発明の方法に従って繊維を製造すると、約6.5%〜約25.4%の範囲内および場合によってはそれ以上の変動係数を有する繊維が得られる、ということがわかる。これらの値は、連続延伸繊維〔例えば、TITKによって製造される繊維、またはテンセル(Tencel)(登録商標)という商品名で市販されている繊維〕から得られる値の範囲外である。
【0047】
それにもかかわらず、2つの製造法から得られる繊維の全体としてのモルホロジーは繊細で密なヤーンを形成するのに遊離である。なぜなら、特徴の多くが天然繊維のもつ特徴に似ているからである。この点は、本発明のリヨセル繊維にとってユニークなものであると考えられる。
【0048】
図13は、改良されたメルトブローイング法を使用して自己結合リヨセル不織材料を製造するための方法を示している。セルロース濃厚溶液50を押出機52に供給し、そこから押出ヘッド54に送る。エアサプライ56は、押出オリフィスにおいて、濃厚溶液ストランド58が押出ヘッドから下降するときに濃厚溶液ストランドを引っ張るように作用する。プロセス・パラメータは、得られる繊維がランダムでより短くなるよりむしろ連続的になるように選択するのが好ましい。ローラー62と64によって支持・駆動される小孔のあるエンドレス移動ベルト上に繊維が落下する。そこで繊維が、ラテント不織布マット66を形成する。トップ・ローラー(図示せず)を使用して繊維を密に接触するようプレスし、交差点におけるボンディングを確実に形成させることができる。マット66が、ベルト60上に保持されつつ通路に沿って進むとき、再生用溶液68の噴霧を噴霧器70によって浴びせる。再生された生成物72をベルトの端部から取り除き、そこで生成物をさらに処理することができる(例えば、さらなる洗浄、漂白、および乾燥によって)。
【0049】
図14は、遠心紡糸法を使用して自己結合不織ウェブを形成する別の方法を示している。側壁に多数のオリフィス84を有する高速回転ドラム82中にセルロース濃厚溶液80を供給する。回転ドラムによって与えられる慣性と空気抵抗によって、ラテント繊維86がオリフィス84を通して追い出され、引っ張られるか又は伸長される。ラテント繊維が、ドラムの周りに同心円状に配置されたレシーバー表面(a
receiver surface)88の内側側壁に衝突する。レシーバーは、フラストコニカル(frustoconical)な下部90を有していてもよい。再生用溶液92のカーテンまたはスプレーが、レシーバー88の壁体の周りのリング94から下方に流れて、レシーバーの側壁に衝突したセルロースマットをある程度凝固させる。リング94は、図示のように配置してもよいし、あるいはラテント繊維が自己結合して不織ウェブになるのにより多くの時間が必要とされる場合は、より下方の部分に移動してもよい。ある程度凝固させた不織ウェブ96を、レシーバーの下部90から容器100の凝固浴98中へと連続的に機械的に引っ張る。ウェブがその通路に沿って移動するにつれて、ウェブが崩壊して、円筒形状物から平面的な二層不織構造物になる。ウェブが浴内に保持されつつ、ローラー102と104の下で移動する。テイクアウト・ローラー106により、完全に凝固した二層ウェブ108が浴から取り出される。ローラー100、102、または104のどれを駆動してもよいし、あるいは全てを駆動してもよい。ウェブ108が連続的に洗浄および/または漂白装置(図示せず)に送られ、処理された後、乾燥して貯蔵される。ウェブは、分割して開いて単層の不織布にしてもよいし、あるいは必要に応じて二層材料として保持することもできる。
【0050】
フィブリル化は、単一繊維の表面部分の超極細繊維もしくはフィブリルへのスプリッティングと定義される。スプリッティングは、繊維と繊維との摩擦による湿潤磨耗の結果として、あるいは繊維を硬い表面に対してこすることによる湿潤磨耗の結果として起こる。磨耗の条件に依存して、フィブリルの殆ど又は多くが、一方の端において基繊維(mother fiber)に結びついたままである。フィブリルは極めて細いのでほぼ透明状になり、従って最終的な布帛に白っぽい霜白の外観を与える。より高度なフィブリル化の場合は、微小繊維が絡み合うようになり、従ってピリングの外観と感触をもたらす。
【0051】
フィブリル化抵抗性を測定するための標準的な業界試験はないが、一般には下記の手順が使用されている。0.003gの個別化繊維を計量し、10mlの水と共に蓋の付いた25ml試験管(13×110mm)中に入れる。小さい振幅にて約200サイクル/分の回数で作動するシェーカーにサンプルを配置する。試験の持続時間は4〜80時間の範囲で変わってよい。図15〜18に示されているサンプルは、4時間振盪したものである。
【0052】
図15と16は、2つの業者から入手して上記のように試験したときの、市販ヤーンからの繊維において引き起こされたフィブリル化を示している。図15および16と、本発明の“メルトブローン”繊維の2サンプルである図17および18とを比較すれば、相当程度のフィブリル化が起きていることがわかる。
【0053】
図19、20、および21は最近のメルトブローン繊維を示しており、これらから、メルトブローン繊維においてはフィブリル化が極めて少ないことがわかる。このことに対する理由は、完全には解明されていない。しかしながら、特定の理論に拘束されるつもりはないが、本発明の繊維は、現行の工業的プロセスによって製造される繊維よりやや低い結晶化度と配向を有する、と考えられる。本発明の繊維はさらに、フィブリル化しにくいことの他に、より高くてより均一な染料受容性を有することがわかった。使用後に“つや消し(frosted)”外観を有する傾向(フィブリル化によって引き起こされる)は、本発明のリヨセル繊維には殆ど全く見られない。図19は、本発明の方法で製造される繊維のモルホロジーを示している。特に、繊維長に沿って繊維直径が変動していることがはっきり分かる。図21は、本発明の方法によって製造される繊維の表面が小石状であることを示している。
【0054】
実施例1
セルロース濃厚溶液の作製
本実施例と後述の実施例において使用したセルロースパルプは、特に明記しない限り、標準的な漂白クラフトサザン軟材マーケットパルプ(bleached kraft southern softwood market pulp)(グレードNB416、ノースカロライナ州ニューバーンのウェイヤーハウザー社から市販)であった。このパルプは、α-セルロースの含量が約88〜89%であり、D.P.が約1200である。使用前に、シート状の木材パルプをフラッファー(a fluffer)に通して破砕し、実質的に個別の繊維と小さな繊維塊にした。250mlのガラス製3つ口フラスコ中に、5.3gの毛羽立てしたセルロース、66.2gの97%NMMO、24.5gの50%NMMO、および0.05の没食子酸プロピルを仕込んだ。フラスコを120℃にて油浴中に浸漬し、撹拌棒を挿入し、撹拌を約0.5時間続けた。直接紡糸するのに適した流動性の濃厚溶液が得られた。
【0055】
実施例2
遠心紡糸法による繊維の製造
使用した紡糸装置は、改良された“コットン・キャンディー(cotton candy)”タイプで、Fuiszらによる米国特許第5,447,423号に記載のものと類似の装置であった。ローター(120℃に予熱)の直径は89mmであり、2800rpmにて回転させた。オリフィスの数は、オリフィスを塞ぐことによって1〜84の間で変えることができた。流れ状態を試験するために、直径700μmの8つのオリフイスを使用した。セルロース濃厚溶液(これも120℃)を紡糸ローターの中心部に注いだ。出てきた濃厚溶液の細いストランドを、ローターを取り囲んでいる水盤中に収容された室温水中に重力落下させた。ここでストランドが再生された。一部の繊維は互いに結びつくが、ほとんどの繊維が個別化されたままであり、長さが数センチメートルであった。
【0056】
上記プロセスのほかに、漂白クラフトパルプと未漂白クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、微晶質セルロース、およびセルロースと最高30%までのコーンスターチもしくはポリ(アクリル酸)とのブレンドから、非常によく似たマイクロデニール繊維を適切に製造することができた。
【0057】
繊維の直径(またはデニール)は、幾つかの手段によって確実に制御することができた。濃厚溶液の粘度が高くなるほど、より重質の繊維(heavier fibers)を形成しやすい。濃厚溶液の粘度は、セルロース固形分やセルロースの重合度を含めた種々の手段によって制御することができる。紡糸オリフィスのサイズが小さくなるほど、あるいはドラムの回転速度が高くなるほど、小さな直径の繊維が得られる。約5〜20μmの直径(0.2〜3.1デニール)を有する繊維を再現性よく製造することができた。直径が20〜50μmの範囲(3.1〜19.5デニール)のより重質の繊維も簡単に製造することができた。繊維長は、形状とシステムの操作パラメーターによってかなり変動した。
【0058】
実施例3
メルトブローイング法による繊維の製造
実施例1において作製した濃厚溶液を120℃に保持し、元々はメルトブローン合成ポリマーを形成するのに開発された装置に供給した。オリフィスは全体の長さが約50mmで直径は635μmであり、排出端にて400μmに先細りさせた。乱流の空気ブラスト中にて約20cm移行した後、繊維が水浴中に落下し、そこで繊維が再生された。再生された繊維の長さはいろいろであった。短繊維が幾らか形成されたが、ほとんどの繊維は数センチメートルから数十センチメートルの長さであった。押出パラメーターを変えることによって連続繊維を形成させることができた。全く驚くべきことに、繊維の多くの断面は、繊維長に沿って均一ではなかった。この特徴は、本発明のマイクロデニール材料を使用して密なヤーンを紡糸する際に特に有利であると思われる。なぜなら、これらの繊維は、全体的なモルホロジーが天然繊維に極めてよく似ているからである。
【0059】
上記プロセスの変形においては、移動しつつあるステンレス鋼メッシュベルトに繊維を衝突させてから、繊維を再生浴中に送った。充分に結合した不織マットが形成された。
【0060】
言うまでもないことであるが、リヨセル不織布は自己結合させる必要がない。リヨセル不織布は、部分的にのみ自己結合させてもよいし、あるいは全く自己結合させなくてもよい。これらの場合においては、リヨセル不織布は、ハイドロエンタングリング(hydroentangling)、接着性結合剤(例えば、スターチや種々のポリマーエマルジョン)の使用、あるいはこれらの方法の幾つかの組合せ(これらに限定されない)を含めたよく知られている方法のいずれかによって結合させることができる。
【0061】
実施例4
微晶質セルロースの使用によるメルトブローン・リヨセルの製造
濃厚溶液の固形分を増大させるために、木材パルプではなく微晶質完成紙料を使用して、実施例1の方法を繰り返した。使用した製品は、デラウェア州ニューアークのFMC社から市販のアビセル(Avicel)(登録商標)タイプpH-101微晶質セルロースであった。15gおよび28.5gの微晶質セルロース(乾燥重量)と、66.2gの97%NMMO、24.5gの50%NMMO、および0.05gの没食子酸プロピルとを使用して濃厚溶液を作製した。これ以外の手順は実施例1に記載した通りに行った。得られた濃厚溶液は、それぞれ約14%と24%のセルロースを含有した。これらの濃厚溶液を、実施例3に記載のようにメルトブローした。このようにして得られた繊維は、モルホロジーの点で実施例2と3と実質的に同等であった。
【0062】
言うまでもないことであるが、繊維のデニールは多くの制御可能なファクターに依存する。これらのファクターとしては、溶液の固形分、押出機ヘッドにおける溶液の圧力と温度、オリフィスの直径、空気の圧力、およびメルトブローイング技術や遠心紡糸技術における当業者に公知の他のファクターなどがある。平均0.5デニールの、あるいはそれ以下のデニールのリヨセル繊維を、メルトブローイング法または遠心紡糸法によってばらつきなく製造することができる。0.5デニールの繊維は約7〜8μmの平均直径(同等の円形断面積に基づいて算出)に対応する。
【0063】
本発明の繊維をX線分析により調べて結晶化度とクリスタリットのタイプを決定した。下記の表に示すように、幾つかのセルロース系繊維との比較を行った。マイクロデニール繊維に対するデータは、実施例2の遠心紡糸材料からとった。
【0064】
【表1】
【0065】
個々の繊維の引張強さの測定に際してはある困難が生じ、従って靭性に関して下記の表に記載されている数は推定値である。さらに、本発明のマイクロデニール繊維を他の多くの繊維と比較した。
【0066】
【表2】
【0067】
約5μmの平均直径を有する遠心紡糸リヨセルは、約0.25デニールの繊維に対応する。
本発明の繊維の小石状表面により望ましい低光沢がもたらされ、内部艶消し剤を使用する必要はない。光沢(gloss)や艶(luster)は測定するのが困難な特性であるが、次の試験が、実施例2の方法によって造られた繊維サンプルと市販のリヨセル繊維との間の差異を明らかにする代表的なものである。それぞれの繊維から小さな湿潤形成ハンドシーツ(wet formed handsheets)を造り、光の反射率を測定した。実施例2の材料の反射率は5.4%であったが、市販リヨセル繊維の反射率は16.9%であった。
【0068】
実施例5
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するための遠心紡糸繊維の製造
本実施例において使用したセルロース濃厚溶液と繊維の作製は、前記の実施例1と2に記載の手順に従って行った。
【0069】
実施例6
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのメルトブローン繊維(1ホール)の製造
下記の手順に従って濃厚溶液を作製した。2300gの乾燥NB416クラクトパルプと14kgの5.0%H2SO4溶液とをプラスチック容器中にて混合した。酸で処理する前の未乾燥NB416の平均D.P.は1400であり、ヘミセルロース含量は13.6%であり、銅価は0.5であった。パルプと酸との混合物を97℃で1.5時間保持し、室温にて約2時間冷却し、pHが5.0〜7.0の範囲に入るまで水で洗浄した。酸処理したパルプの平均D.P.は約600(ASTM D1795-62に記載の方法に従って測定)であり、ヘミセルロースの含量は約13.8%であった(すなわち、実験的に測定した酸処理パルプのD.P.と未処理パルプのD.P.との差は統計的に有意ではなかった)。酸処理したパルプの銅価は約2.5であった。
【0070】
酸処理したパルプを乾燥し、その一部をNMMO中に溶解した。0.025gの没食子酸プロピル、61.7gの97%NMMO、および21.3gの50%NMMOを含んだ混合物中に、9gの乾燥した酸処理パルプを溶解した。混合物を収容したフラスコを約120℃の油浴中に浸漬し、撹拌棒を挿入し、パルプが溶解するまで撹拌を約0.5時間続けた。
【0071】
得られた濃厚溶液を約120℃に保持し、単一オリフィスの実験用メルトブローイングヘッドに供給した。ノズル部分のオリフィスは、直径が483μmであって、その長さが約2.4mmであり、従ってL/D比は5となった。オリフィスのすぐ上に位置している着脱可能な同軸キャピラリーは、直径が685μmで長さが80mmであり、従ってL/D比は116となった。オリフィスとキャピラリーとの間の移行ゾーンの角度は約118°であった。空気供給ポートは平行なスロットであり、それらの間にオリフィスの開口が等距離で配置されている。空気ギャップの幅は250μmであり、ノーズピース(nosepiece)の端部における全幅は1.78mmであった。キャピラリーおよびノズルの中心線と空気スロットとの間の角度は30°であった。スクリュー駆動による容量型ピストンポンプによって、濃厚溶液を押出ヘッドに供給した。ホットワイヤー機器を使用して空気の速度を測定し、3660m/分の値を得た。電気加熱した押出ヘッド内で、空気を排出個所にて60〜70℃に加温した。濃厚溶液が存在しないキャピラリー内の温度は、入口端での約80℃からノズル部分の出口直前の約140℃という範囲であった。操作条件下では、キャピラリーとノズルにおける濃厚溶液の温度を測定することはできなかった。安定的な運転条件が確実に得られたときは、それぞれの濃厚溶液から連続繊維が形成された。それぞれの濃厚溶液を使用して類似の繊維直径を得ようとする試みにおいて押出量をやや変えた。繊維の直径は、最適の運転条件にて約9〜14μmの間で変わった。
【0072】
押出ヘッドの約200mm下の個所にて下降しつつある繊維に細かな水噴霧を当て、下降繊維の線速度の約1/4の表面速度で作動しているロールに繊維を巻き取った。
【0073】
押出ヘッドのキャピラリー部分を取り除くと、コットンのデニール範囲における連続繊維は形成することができなかった。このキャピラリーは、連続繊維を形成する上で、またダイのうねりを減少させる上で極めて重要のようである。
【0074】
言うまでもないことであるが、繊維のデニールは多くの制御可能なファクターに依存する。これらのファクターとしては、溶液の固形分、押出機ヘッドにおける溶液の圧力と温度、オリフィスの直径、空気の圧力、およびメルトブローイング技術における当業者に公知の他のファクターなどがある。オリフイス1つ当たり約1g/分より大きい押出速度にてメルトブローイングすることによって、コットン繊維のデニール範囲(直径が約10〜20μm)を有するリヨセル繊維を簡単かつ安定的に製造することができた。
【0075】
実施例7
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのメルトブローン繊維(20ホール)の製造
下記の手順に従って濃厚溶液を作製した。2300gの乾燥NB416クラクトパルプと14kgの5.0%H2SO4溶液とをプラスチック容器中にて混合した。酸で処理する前の未乾燥NB416の平均D.P.は1400であり、ヘミセルロース含量は13.6%であり、銅価は0.5であった。パルプと酸との混合物を97℃で1.5時間保持し、室温にて約2時間冷却し、pHが5.0〜7.0の範囲に入るまで水で洗浄した。酸処理したパルプの平均D.P.は約600(ASTM D1795-62に記載の方法に従って測定)であり、ヘミセルロースの含量は約13.8%であった(すなわち、実験的に測定した酸処理パルプのD.P.と未処理パルプのD.P.との差は統計的に有意ではなかった)。酸処理したパルプの銅価は約2.5であった。
【0076】
酸処理したパルプを、NaBH4で0.6の銅価になるまで還元し、pHが6〜7になるまで洗浄し、乾燥し、その一部をNMMO中に溶解した。0.25gの没食子酸プロピルと1100gのNMMO一水和物との混合物中に、約110℃にて90gの乾燥・酸処理したパルプを溶解した。混合物を収容したステンレス鋼製フラスコを約120℃の油浴中に浸漬し、撹拌棒を挿入し、パルプが溶解するまで撹拌を約1時間続けた。
【0077】
得られた濃厚溶液を約120℃に保持し、20オリフィスの実験用メルトブローイングヘッドに供給した。ノズル部分のオリフィスは、直径が400μmであって、その長さが約2.0mmであり、従ってL/D比は5となった。オリフィスのすぐ上に位置している着脱可能な同軸キャピラリーは、直径が626μmで長さが20mmであり、従ってL/D比は32となった。オリフィスとキャピラリーとの間の移行ゾーンの角度は約118°であった。空気供給ポートは平行なスロットであり、それらの間にオリフィスの開口が等距離で配置されている。空気ギャップの幅は250μmであり、ノーズピースの端部における全幅は1.0mmであった。キャピラリーおよびノズルの中心線と空気スロットとの間の角度は30°であった。スクリュー駆動による容量型ピストンポンプによって、濃厚溶液を押出ヘッドに供給した。ホットワイヤー機器を使用して空気の速度を測定し、3660m/分の値を得た。電気加熱した押出ヘッド内で、空気を排出個所にて60〜70℃に加温した。濃厚溶液が存在しないキャピラリー内の温度は、入口端での約80℃からノズル部分の出口直前の約130℃という範囲であった。操作条件下では、キャピラリーとノズルにおける濃厚溶液の温度を測定することはできなかった。安定的な運転条件が確実に得られたときは、それぞれの濃厚溶液から連続繊維が形成された。それぞれの濃厚溶液を使用して類似の繊維直径を得ようとする試みにおいて押出量をやや変えた。繊維の直径は、最適の運転条件にて約9〜14μmの間で変わった。
【0078】
押出ヘッドの約200mm下の個所にて下降しつつある繊維に細かな水噴霧を当て、下降繊維の線速度の約1/4の表面速度で作動しているロールに繊維を巻き取った。
【0079】
押出ヘッドのキャピラリー部分を取り除くと、コットンのデニール範囲における連続繊維は形成することができなかった。このキャピラリーは、連続繊維を形成する上で、またダイのうねりを減少させる上で極めて重要のようである。
【0080】
言うまでもないことであるが、繊維のデニールは多くの制御可能なファクターに依存する。これらのファクターとしては、溶液の固形分、押出機ヘッドにおける溶液の圧力と温度、オリフィスの直径、空気の圧力、およびメルトブローイング技術における当業者に公知の他のファクターなどがある。オリフイス1つ当たり約0.6g/分より大きい押出速度にてメルトブローイングすることによって、コットン繊維のデニール範囲(直径が約10〜20μm)を有するリヨセル繊維を簡単かつ安定的に製造することができた。
【0081】
比較例1
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのTITKリヨセル繊維の製造
“Thuringisches Institut fur Textil und Kunstoff Forschunge V., Breitscheidstr. 97, D-07407 Rudolstadt, Germany.(TITK)”によってTITK繊維を製造した。酸処理したパルプ(ヘミセルロース含量が13.5%、平均セルロースD.P.が600)から濃厚溶液を作製した。処理したパルプをNMMO中に95℃で約2時間溶解し(セルロース濃度は13.0重量%)、繊維を連続的に引っ張るドライ/ジェット湿潤法〔米国特許第5,417,909号(該特許を参照により本明細書に含める)に開示〕によって繊維に紡糸した。
【0082】
比較例2
繊維長に沿った変動係数の算出に使用するためのテンセル繊維およびテンセルA-100繊維の製造
テンセル繊維は現在、広く市販されている。しかしながら、本実施例において使用したサンプルは、アコリディス社(Acoridis)およびテキサス・テク・ユニバーシティ(Texas Tech University)のインタナショナル・テキスタイル・センター(ITC)から入手した。テンセルA-100はアコリディス社(UK)から入手した。
【0083】
実施例8
繊維長に沿った変動係数の算出
実施例5〜7および比較例1と2に記載の方法によって得た繊維サンプルの関連母集団(relevant populations)のそれぞれから、1種以上のサンプル繊維をランダムに選び出した。繊維を約2インチ以下に切断した。切断した個々の繊維サンプルのそれぞれから200回以上の読み取りを行った。光学顕微鏡を使用して、個々の繊維サンプルの直径を測定した。顕微鏡には、繊維の直径を読み取るための均等目盛を有する接眼レンズが取り付けてあるのが好ましい。1060倍という倍率を使用して直径を正確に測定した。直径の読み取りは、繊維に沿って約1/100インチごとに行った。この直径は、繊維の一方の側から反対側までの長さである。直径読み取り値の総和を読み取り数で割って平均直径を算出した。次いで、それぞれの読み取り値に関して、平均からの標準偏差を算出した。次いで、全ての標準偏差の総和を平均直径で割って変動係数(CV)を算出した。この数値に100を掛けてパーセント値を得た。
【0084】
CV値算出の結果を表3に示す。表3に記載のデータからわかるように、約25.4%という最も高いCVを示している繊維は、約11.5ミクロンの平均直径を有する遠心紡糸繊維であった。試験したメルトブローン繊維に対する最も高いCV値は約14.8%であり、このとき直径は約24.9ミクロンであった。約13〜14ミクロンの範囲の平均直径を有するメルトブローン繊維は、約13.6〜13.7%のCV値を示した。大きな直径のメルトブローン繊維も、小さな直径のメルトブローン繊維も、比較的小さなCV値を示した。連続的に延伸したTITK繊維は、約5.4〜6.1%の範囲のCV値を示した。連続的に延伸したテンセル繊維とテンセルA-100繊維は、それぞれ約5.2%と約5.9%のCV値を示した。しかしながら、重要なことは、連続延伸法によって製造されたリヨセル繊維と比較すると、メルトブローン繊維と遠心紡糸繊維のほうが高いCV値を示した、という点である。
【0085】
【表3】
【0086】
本発明の好ましい実施態様について例示して説明してきたが、本発明の精神と範囲を逸脱しない範囲において、種々の変更を行ってよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】図1は、本発明の実施に際して使用される工程のブロック図である。
【図2】図2は、本発明において使用される典型的な遠心紡糸装置の一部切り取り透視図である。
【図3】図3は、本発明において使用すべく造られたメルトブローイング装置の一部切り取り斜視図である。
【図4】図4は、上記メルトブローイング装置において使用されることのある典型的な押出ヘッドの断面図である。
【図5】図5は、市販リヨセル繊維の100倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図6】図6は、市販リヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図7】図7は、遠心紡糸法によって製造したリヨセル繊維の200倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図8】図8は、遠心紡糸法によって製造したリヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図9】図9は、単一の遠心紡糸繊維に沿った断面を示している2,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図10】図10は、単一の遠心紡糸繊維に沿った断面を示している2,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図11】図11は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の100倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図12】図12は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図13】図13は、メルトブローイング法の使用による自己結合リヨセル不織布の製造を示している図面である。
【図14】図14は、遠心紡糸法の使用による自己結合リヨセル不織布の製造を示している類似の図面である。
【図15】図15は、湿潤磨耗試験によって引き起こされるフィブリル化を示している、工業製品からの繊維の1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図16】図16は、湿潤磨耗試験によって引き起こされるフィブリル化を示している、別の工業製品からの繊維の1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図17】図17は、本発明の方法によって製造した繊維サンプルの、同様に湿潤磨耗試験にかけたときの1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図18】図18は、本発明の方法によって製造した別の繊維サンプルの、同様に湿潤磨耗試験にかけたときの1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図19】図19は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の100倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図20】図20は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の1000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【図21】図21は、メルトブローイング法によって製造したリヨセル繊維の10,000倍率の走査電子顕微鏡写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続延伸法によって製造されるリヨセル繊維の繊維長に沿った断面直径と断面形状の変動性と比較して、繊維長に沿った断面直径と断面形状の変動性がより大きいことを特徴とするリヨセル繊維。
【請求項2】
前記リヨセル繊維が、リヨセル繊維の少なくとも一部の直径が約1デニール未満である、種々の直径を有するリヨセル繊維の混合物を含んでなる、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項3】
請求項1記載のリヨセル繊維を多数含んでなるスパンヤーン。
【請求項4】
湿潤磨耗の条件下にてフィブリル化する傾向が極めて小さいこと、および染料受容性が強化されていることをさらに特徴とする、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項5】
個別化されていて本質的に連続的である、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項6】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約5.5ミクロンの平均直径を有する、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項7】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約6.5%の変動係数を有する、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項8】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約7.0%の変動係数を有する、請求項7記載のリヨセル繊維。
【請求項9】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも10%の変動係数を有する、請求項8記載のリヨセル繊維。
【請求項10】
前記リヨセル繊維がメルトブローされている、請求項7記載のリヨセル繊維。
【請求項11】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約12.6%の変動係数を有する、請求項10記載のリヨセル繊維。
【請求項12】
前記リヨセル繊維が遠心紡糸されている、請求項7記載のリヨセル繊維。
【請求項13】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約10.9%の変動係数を有する、請求項12記載のリヨセル繊維。
【請求項14】
前記リヨセル繊維の一部が約6.5%〜約25.4%の範囲の変動係数を有する、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項1】
連続延伸法によって製造されるリヨセル繊維の繊維長に沿った断面直径と断面形状の変動性と比較して、繊維長に沿った断面直径と断面形状の変動性がより大きいことを特徴とするリヨセル繊維。
【請求項2】
前記リヨセル繊維が、リヨセル繊維の少なくとも一部の直径が約1デニール未満である、種々の直径を有するリヨセル繊維の混合物を含んでなる、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項3】
請求項1記載のリヨセル繊維を多数含んでなるスパンヤーン。
【請求項4】
湿潤磨耗の条件下にてフィブリル化する傾向が極めて小さいこと、および染料受容性が強化されていることをさらに特徴とする、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項5】
個別化されていて本質的に連続的である、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項6】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約5.5ミクロンの平均直径を有する、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項7】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約6.5%の変動係数を有する、請求項1記載のリヨセル繊維。
【請求項8】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約7.0%の変動係数を有する、請求項7記載のリヨセル繊維。
【請求項9】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも10%の変動係数を有する、請求項8記載のリヨセル繊維。
【請求項10】
前記リヨセル繊維がメルトブローされている、請求項7記載のリヨセル繊維。
【請求項11】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約12.6%の変動係数を有する、請求項10記載のリヨセル繊維。
【請求項12】
前記リヨセル繊維が遠心紡糸されている、請求項7記載のリヨセル繊維。
【請求項13】
前記リヨセル繊維の一部が少なくとも約10.9%の変動係数を有する、請求項12記載のリヨセル繊維。
【請求項14】
前記リヨセル繊維の一部が約6.5%〜約25.4%の範囲の変動係数を有する、請求項1記載のリヨセル繊維。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【公開番号】特開2012−46861(P2012−46861A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−232463(P2011−232463)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2001−582624(P2001−582624)の分割
【原出願日】平成13年4月9日(2001.4.9)
【出願人】(302009279)ウェヤーハウザー・カンパニー (36)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【分割の表示】特願2001−582624(P2001−582624)の分割
【原出願日】平成13年4月9日(2001.4.9)
【出願人】(302009279)ウェヤーハウザー・カンパニー (36)
【Fターム(参考)】
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