説明

Cr含有条鋼材の製造方法

【課題】スケール剥離性に悪影響を与えるCrを含有するCr含有条鋼材であっても、スケール剥離性を改善でき、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造する。
【解決手段】Crを0.10〜2.0%含むCr含有条鋼材を製造する方法であって、
加熱炉から鋼片を取り出した後、鋼片に対してデスケーリングを行う工程a、
前記工程aの後に、鋼片に対して大気雰囲気下で熱間圧延を行う工程b、および
前記工程bの後に、鋼片に対してデスケーリングを行う工程cを含み、かつ、
前記工程bにおける熱間圧延を、下記式(1)および(2)を満たす条件で行う。




[式(1)および(2)において、
R(気体定数):8.31×10−3kJ/mol・K
T:圧延温度(℃)、但し、700≦T≦1000
x:鋼材のCr含有量(質量%)
t:圧延時間(秒)、但し、20≦t≦200]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はCr含有条鋼材の製造方法に関するものであり、特に、スケール除去(以下、「デスケーリング」ということがある)により良好にスケールが剥離されて(特には、圧延時に生じる2次スケールが良好に剥離されて)、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばSCR420、SCM435等の機械構造用合金鋼鋼材や、SUJ2等の高炭素クロム軸受鋼鋼材といった、Cr含有鋼材からなる冷間圧延用条鋼材(Cr含有条鋼材)に求められる表面品質は年々厳しくなってきている。上記Cr含有条鋼材の製造工程では、加熱過程でCrとFeの酸化物(クロマイト:FeCrなど、以下「サブスケール」という)が、最表面に形成される外層スケール(鉄酸化物からなるスケール)と地鉄との間にスケール最下層として生成する。このサブスケールは鋼との密着性が高いため、高圧水によるスケール剥離(高圧水デスケーリング)を行っても残留し易い。この残留したサブスケールが熱間圧延時に鋼表面に押し込まれてスケール疵となり、その外観を悪化させるばかりか破壊や脆化の起点となる。
【0003】
この様な事情に鑑みて、デスケーリング(例えば上記高圧水デスケーリング)によりスケールを良好に剥離すべく(以下、この様な特性を「スケール剥離性」ということがある)、従来より、鋼材(例えばビレット)を加熱する温度や、加熱炉雰囲気の調整等について検討されている。
【0004】
例えば特許文献1には、スケール内の気孔の成長を促進させて剥離しやすいスケールを形成すべく、熱間圧延前の加熱時に、条鋼材に直接水を供給しながら炉内温度を1200℃以上として条鋼材を加熱処理し、その後、高圧水デスケーリングと圧延処理とを逐次行うことが示されている。また、特許文献2には、スケール内の気孔の成長を促進させて剥離しやすいスケールを形成すべく、加熱炉へ水蒸気を供給しながら条鋼材を加熱処理する方法において、熱間圧延前の加熱時に2段階加熱を行っており、各加熱段階の加熱温度・時間および水蒸気濃度を規定している。
【0005】
このように加熱炉で生成するスケール(以下、「1次スケール」という)に関しては、加熱炉温度・雰囲気の調整によりスケール剥離性の改善がなされつつあるが、1次スケールを除去しても、ビレットは依然として高温の状態で圧延されるため、熱間圧延過程で新たにスケール(以下、「2次スケール」という)が発生する。
【0006】
2次スケール形成時にも、1次スケール形成時と同様に、FeとCrの複合酸化物からなり、スケールと地鉄の密着性を高める作用があるサブスケールが、外層スケールと地鉄との間にスケール最下層として形成される。よって、1次スケール形成時の場合と同様にサブスケールが残留して、圧延後にスケール疵が生じ表面品質が劣化する、といった問題が生じる。
【0007】
このCr含有条鋼材の2次スケール剥離性を改善すべく、例えば特許文献3では、圧延中に水蒸気を短時間添加する技術が提案されている。しかしながら、加熱炉で水蒸気添加を行う場合と比較して、低温かつ短時間であるため、水蒸気添加による加速酸化作用が小さく、十分なスケール剥離性の向上効果が得られにくいと思われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−316207号公報
【特許文献2】特開2003−119517号公報
【特許文献3】特開2005−305519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、スケール除去により良好にスケールが剥離されて(特には、圧延時に生じる2次スケールの剥離性を向上させて)、表面性状に優れたCr含有条鋼材を製造する方法を確立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明のCr含有条鋼材の製造方法は、Crを0.10〜2.0%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)含むCr含有条鋼材を製造する方法であって、
加熱炉から鋼片を(好ましくは抽出温度:1000℃以上1200℃以下で)取り出した後、鋼片に対してデスケーリングを行う工程a、
前記工程aの後に、鋼片に対して大気雰囲気下で熱間圧延を行う工程b、および
前記工程bの後に、鋼片に対してデスケーリングを行う工程cを含み、かつ、
前記工程bにおける熱間圧延を、下記式(1)および(2)を満たす条件で行うところに特徴を有する。
【0011】
【数1】

【0012】
【数2】

【0013】
[式(1)および(2)において、
R(気体定数):8.31×10−3kJ/mol・K
T:圧延温度(℃)、但し、700≦T≦1000
x:鋼材のCr含有量(質量%)
t:圧延時間(秒)、但し、20≦t≦200]
【0014】
好ましい実施形態として、加熱炉から鋼片を取り出した後の、隣接するデスケーリング工程間で行われる全ての熱間圧延を、上記式(1)および(2)を満たす条件で行うことが挙げられる。
【0015】
前記鋼片としては、例えばその成分組成が更に、
C:0.1〜2.0%、
Si:0.1〜0.5%、
Mn:0.01〜3.0%、
Cu:0.03%以下(0%を含む)、および
Ni:0.03%以下(0%を含む)
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものが挙げられる。前記鋼片は、更に、Mo:0.01〜0.4%を含むものであってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によれば、例えば条鋼製品の製造工程において、デスケーリング時のスケール剥離性が向上し、熱間圧延後の、スケールが起因の微細な表面疵や肌荒れなどの表面欠陥が十分に抑制されて、表面性状に優れたCr含有鋼(機械構造用合金鋼鋼材、高炭素クロム軸受鋼鋼材)からなる条鋼材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、スケール厚さと残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図2】図2は、サブスケール中の平均Cr濃度と残留スケール面積率の関係を示すグラフである。
【図3】図3は、酸化温度(圧延温度)とスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図4】図4は、酸化温度(圧延温度)とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図5】図5は、酸化時間(圧延時間)とスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図6】図6は、酸化時間(圧延時間)とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【図7】図7は、鋼材のCr含有量とスケール厚さの関係を示すグラフである。
【図8】図8は、鋼材のCr含有量とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、大気雰囲気中での圧延時に生じる2次スケールが、デスケーリングにより良好に剥離されて、表面性状に優れたCr含有条鋼材を得るべく検討を行った。その結果、まず2次スケールの厚さ(大気雰囲気中での圧延時に生じる、外層スケールやサブスケールを含めた全スケールの厚さ)と、2次スケールにおけるサブスケール中の平均Cr濃度が、この2次スケールのスケール剥離性と相関があることを見出した。以下、詳細について説明する。
【0019】
〔(A)スケール厚さ(2次スケール厚さ)とスケール剥離性の関係について〕
様々な濃度(x質量%)のCrを含有するFe−x%Cr鋼(標準鋼)を用いて、大気雰囲気で、サブスケール中の平均Cr濃度が7質量%となるように酸化温度と酸化時間を調整しながら、種々のスケール厚さ(2次スケールを模擬したスケールの厚さ)のサンプル(φ10mm×10mmの円筒形)を用意した。
【0020】
そしてこのサンプルを用い、デスケーリングを模擬して試料を圧縮することでスケールを剥離させ、残留したスケールの面積率からスケール剥離性を評価した。上記圧縮は、900℃の大気中において圧縮歪率50%、歪速度10mm/sec.の条件で行った。圧縮後は、サンプル側面の外観をスキャナで取り込み、画像を白黒に2値化し(例えば、スケール残留部を黒、スケール剥離部を白とし)、圧縮後の試料におけるスケール残留部の面積率(残留スケール面積率)を算出した。
【0021】
また、スケール厚さは、上記サンプルの断面(上記円筒形試料の中心軸に垂直な任意の1断面)を、光学顕微鏡観察にて観察して求めた。上記スケール厚さと残留スケール面積率の関係を図1に示す。この図1から、スケール厚さが減少すると、スケール剥離性が悪化することが分かる。
【0022】
〔(B)サブスケール中の平均Cr濃度とスケール剥離性の関係について〕
上記(A)と同様に、様々な濃度(x質量%)のCrを含有するFe−x%Cr鋼(標準鋼)を用いて、スケール厚さが5μmで一定でサブスケール中の平均Cr濃度が種々のサンプル(φ10mm×10mmの円筒形)を、大気雰囲気中、酸化温度を900℃で一定とし、酸化時間を変化させて作製した。そして上記(A)と同様にして残留スケール面積率を求めた。
【0023】
また、サブスケール中の平均Cr濃度は、上記サンプルの断面(上記円筒形試料の中心軸に垂直な任意の1断面)において、EPMA(Electron Probe Micro Analyzer)によりCr元素に対してマッピング像を写真撮影し、この写真における3視野のサブスケール中のCr濃度(質量%)の平均値を求めたものである。
【0024】
上記サブスケール中の平均Cr濃度と残留スケール面積率の関係を図2に示す。この図2から、サブスケール中の平均Cr濃度が増加すると、スケール剥離性が悪化することが分かる。
【0025】
これら図1および図2より、優れたスケール剥離性を確保するには、2次スケール厚さを増加させると共に、サブスケール中の平均Cr濃度を低減させることが有効であることが分かる。ところで本発明者らは、別の実験で、上記残留スケール面積率が30%以下であれば(具体的には、上記残留スケール面積率が30%以下となるような条件で圧延すれば)、圧延後の高圧水デスケーリングで良好にスケールを剥離でき、得られる条鋼製品の表面には、表面品質で問題となる深さ0.02mm以上のスケール疵は発生しないことを確認している。好ましくは、上記残留スケール面積率が20%以下であれば、条鋼製品の表面に深さ0.01mm以上のスケール疵が生じないことも確認している。
【0026】
このことから、上記深さ0.02mm以上のスケール疵を発生させないようにするには、図1からスケール厚さ:3μm以上、かつ図2からサブスケール中の平均Cr濃度:10質量%以下を満たすようにすればよいことがわかる。尚、好ましくは深さ0.01mm以上のスケール疵を発生させないようにするには、図1からスケール厚さ:4μm以上、かつ図2からサブスケール中の平均Cr濃度:8質量%以下を満たすようにすればよいこともわかる。
【0027】
そして本発明者らは、スケール剥離性に優れた、上記スケール厚さかつサブスケール中の平均Cr濃度を満たすスケール(2次スケール)を、圧延工程で形成するための条件について種々の観点から検討したところ、特に、圧延温度(酸化温度)、圧延時間(酸化時間)、および鋼材のCr含有量が、上記スケール厚さやサブスケール中の平均Cr濃度に影響を及ぼすことを見出した。検討結果について以下詳述する。
【0028】
〔(C)圧延温度(酸化温度)と、スケール厚さ、サブスケール中の平均Cr濃度との関係について〕
Fe−2.0質量%Cr標準鋼を、形状がφ10mm×10mmのサンプルに加工し、種々の酸化温度(700〜1000℃)で90秒間大気酸化処理を行った。酸化処理後のサンプルについて、上記(A)と同様にしてスケール厚さを測定した。また上記(B)と同様にしてサブスケール中の平均Cr濃度を求めた。
【0029】
上記酸化温度とスケール厚さの関係を図3に示す。この図3から、スケール厚さは酸化温度の逆数に対して、指数関数的に減少している(アレニウスプロット)ことがわかる。
また、上記酸化温度とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図4に示す。この図4から、サブスケール中の平均Cr濃度は、酸化温度:700〜1000℃の範囲内において、酸化温度に対しほぼ直線的に増加することが分かる。
【0030】
〔(D)圧延時間(酸化時間)と、スケール厚さ、サブスケール中の平均Cr濃度との関係について〕
Fe−2.8質量%Cr標準鋼を、形状がφ10mm×10mmのサンプルに加工し、酸化温度:720℃で種々の時間(0〜200秒)で保持する大気酸化処理を行った。酸化処理後のサンプルについて、上記(A)と同様にしてスケール厚さを測定した。また上記(B)と同様にしてサブスケール中の平均Cr濃度を求めた。
【0031】
上記酸化時間とスケール厚さの関係を図5に示す。また、上記酸化時間とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図6に示す。この図5、図6から、スケール厚さ、サブスケール中の平均Cr濃度ともに、酸化時間に対し放物線則に従って増加することが分かる。
【0032】
〔(E)鋼材のCr含有量と、スケール厚さ、サブスケール中の平均Cr濃度との関係について〕
様々な濃度(x質量%)のCrを含有するFe−x%Cr標準鋼を、形状がφ10mm×10mmのサンプルに加工し、酸化温度:900℃、酸化時間:60秒間の条件で大気酸化処理を行った。酸化処理後のサンプルについて、上記(A)と同様にしてスケール厚さを測定した。また上記(B)と同様にしてサブスケール中の平均Cr濃度を求めた。
【0033】
上記鋼材のCr含有量とスケール厚さの関係を図7に示す。この図7から、スケール厚さは鋼材のCr含有量に対して指数関数的に減少することがわかる。また、上記鋼材のCr含有量とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を図8に示す。この図8から、サブスケール中の平均Cr濃度は、鋼材のCr含有量に対し放物線則に従って増加することが分かる。
【0034】
以上(C)〜(E)の結果に基づき、スケール厚さ(μm)を、酸化温度、酸化時間、および鋼材のCr含有量の影響を考慮して表すと、下記(I)のように示される。また、サブスケール中の平均Cr濃度(質量%)を、酸化温度、酸化時間、および鋼材のCr含有量の影響を考慮して表すと、下記(II)のように示される。
【0035】
【数3】

【0036】
【数4】

【0037】
[上記(I)および(II)において、
R(気体定数):8.31×10−3kJ/mol・K
T:酸化温度(後記する、各デスケーリング処理間の鋼材の圧延温度)(℃)、但し、700≦T≦1000
x:鋼材中のCr濃度(質量%)
t:酸化時間(後記する、各デスケーリング処理間の鋼材の圧延時間)(秒)、但し、20≦t≦200]
【0038】
そして、前記(A)(B)で図1、図2として表した通り、スケール厚さが3μm以上、かつサブスケール中の平均Cr濃度が10質量%以下であれば、表面品質が問題となる深さ0.02mm以上のスケール疵が発生しないため、上記(I)で示したスケール厚さは、下記式(1)に示す通り3(μm)以上(好ましくは、4(μm)以上)、かつ上記(II)で示したサブスケール中の平均Cr濃度は、下記式(2)に示す通り10(質量%)以下(好ましくは、8(質量%)以下)となるよう規定した。
【0039】
つまり、本発明においては、圧延条件として、下記式(1)および式(2)を満たすよう、鋼材のCr含有量に応じて圧延温度(酸化温度)および圧延時間(酸化時間)を制御すれば、圧延後に行われるデスケーリング時に剥離し易い、スケール厚さが3μm以上、かつサブスケール中の平均Cr濃度が10質量%以下のスケールが形成されるのである。
【0040】
【数5】

【0041】
【数6】

【0042】
[式(1)および(2)において、
R(気体定数):8.31×10−3kJ/mol・K
T:各デスケーリング処理間の鋼材の圧延温度(℃)、但し、700≦T≦1000
x:鋼材中のCr濃度(質量%)
t:各デスケーリング処理間の鋼材の圧延時間(秒)、但し、20≦t≦200]
【0043】
尚、上記の通り、上記圧延温度(T)を700℃以上1000℃以下、上記圧延時間(t)を20秒以上200秒以下とした理由は次の通りである。
【0044】
即ち、各デスケーリング処理間の鋼材の圧延温度が700℃未満では圧延負荷が大きくなるため、圧延温度は700℃以上とする。好ましくは750℃以上である。一方、上記温度が1000℃を超えると、水冷工程での巻き取り温度の調整が困難になるため、圧延温度は1000℃以下とする。好ましくは850℃以下である。
【0045】
また、上記圧延時間が20秒未満では、圧延負荷が大きくなるため好ましくない。圧延時間は30秒以上が好ましい。一方、圧延時間が200秒を超えると、圧延時間の増加により生産性が悪化するとともに、スケールロスの増大を招くため好ましくない。好ましくは180秒以下である。
【0046】
本発明は、熱間圧延を上記条件を満たすよう行うことにより、その後に行うデスケーリング工程で良好にスケールを剥離できる点に、最大の特徴を有している。
【0047】
本発明にかかるCr含有条鋼材を製造する方法は、上記特徴を含むものであって、
加熱炉から鋼片を取り出した後、鋼片に対してデスケーリングを行う工程a(1次スケールのデスケーリング工程)、
前記工程aの後に、鋼片に対して大気雰囲気下にて、本発明の特徴である上記式(1)および(2)を満たす条件で熱間圧延を行う工程b、および
前記工程bの後に、鋼片に対してデスケーリングを行う工程c(2次スケールのデスケーリング工程)を含んでいる。
【0048】
前記工程bの熱間圧延は、粗圧延、中間圧延、および必要に応じて行われる仕上げ圧延のうちの1以上の圧延を示している。上記粗圧延とは、加熱炉抽出後最初に行う圧延をいい、中間圧延とは、上記粗圧延後に行われる所望のサイズ・品質とするための圧延をいう。また、仕上げ圧延は、中間圧延後に必要に応じて行われる圧延であって、更にサイズ・品質の調整を行うための圧延である。この様に本発明は工程bが複数の場合を含みうる。また、工程cは、上記粗圧延、中間圧延、および必要に応じて行われる仕上げ圧延よりなる群から選択される1以上の圧延の後に、鋼片に対してデスケーリングを行う工程であり、この工程cも複数の場合を含みうる。
【0049】
好ましい実施形態として、加熱炉から鋼片を取り出した後の、隣接するデスケーリング工程間で行われる全ての熱間圧延を、上記式(1)および(2)を満たす条件で行うことが挙げられる。例えば、熱間圧延(工程b)として粗圧延および中間圧延を行う場合、加熱炉から抽出→1次スケールのデスケーリング→粗圧延→2次スケールのデスケーリング(第1回目)→中間圧延→2次スケールのデスケーリング(第2回目)を含む工程において、上記1次スケールのデスケーリング(工程a)と上記第1回目の2次スケールのデスケーリング(工程c)の間で行われる粗圧延、および、上記第1回目の2次スケールのデスケーリング(工程c)と上記第2回目の2次スケールのデスケーリング(別の工程c)の間で行われる中間圧延のいずれの圧延も、上記式(1)および(2)を満たす条件で行うことが挙げられる。
【0050】
また、粗圧延開始後から巻き取りまでのデスケーリング(工程c)の回数は3回以上であることが好ましい。上記デスケーリングの時期として、具体的に例えば、粗圧延の後や、中間圧延の後、必要に応じて行われる仕上圧延の後、該仕上圧延の後であって線材巻取り前などが挙げられる。外層スケールおよびサブスケールは高温になるほど発生しやすいため、上記工程aでデスケーリングを行うと共に、工程cとして、粗圧延後にデスケーリングを行う工程を必須とすることが好ましい。
【0051】
前記工程aにおいて、加熱炉からは、鋼片を抽出温度(鋼片の表面温度):1000℃以上1200℃以下で取り出すことが好ましい。
【0052】
加熱炉からの抽出温度が1000℃未満であると、ビレットの延性が不足し、粗圧延時のロール負荷が大きくなるため好ましくない。よって、加熱炉からの抽出温度は1000℃以上であることが好ましい。1050℃以上であることがより好ましい。一方、加熱炉からの抽出温度が1200℃を超えると、加熱炉内での酸化が過剰に促進されてスケールロスが多くなるため、生産性の悪化を招く。よって、抽出温度の上限は1200℃とすることが好ましい。より好ましくは1150℃以下である。
【0053】
加熱炉抽出後のデスケーリング(工程a)において、加熱炉抽出後からデスケーリングまでのヒートパタンや雰囲気を、1次スケールが剥離しやすいよう従来の条件(例えば特許文献1に示された条件)を満たすようにしてもよい。
【0054】
工程aや工程cにおけるデスケーリングの方法としては、例えば水圧10〜20MPaの高圧水デスケーリング法を採用することができる。
【0055】
その他の製造条件については特に限定されず、例えば、連続鋳造にてビレットを得た場合、該ビレットを加熱炉に導入し、予熱帯、加熱帯、均熱帯を経て、ビレットを規定の抽出温度まで昇温する方法が挙げられる。そして、該抽出温度でビレットを加熱炉から取り出し、デスケーリング(工程a)した後、上記の通り圧延(粗圧延、中間圧延、必要に応じて仕上げ圧延)(工程b、複数の場合を含む)とデスケーリング(工程c、複数の場合を含む)を行い、水冷、巻取りを順次経て鋼線材を得ることができる。
【0056】
尚、本発明は、強度を付与するために必要な元素であるがスケール剥離性に悪影響を与えるCrを含有する鋼材を対象に、スケール剥離性を改善するものである。よって本発明は、Crを0.10%以上(好ましくは0.5%以上)含むCr含有条鋼材を対象とする。
【0057】
さらに本発明によれば、Crを多量に含有していても、スケール剥離性を良好にでき、Cr含有量は、例えば、より好ましくは1.0%以上、更に好ましくは1.1%以上、特に好ましくは1.2%以上にすることもできる。この様にCrを添加すると、強度を向上させることができるが、Cr量が過剰になると、延性の確保が困難となるため、Cr量は、2.0%以下、好ましくは1.5%以下とする。
【0058】
本発明はCrに起因するサブスケールを制御するものであるため、鋼材として使用できる限り、Cr以外の鋼成分は特に限定されないが、Cr以外の元素とその量が、例えば、C:0.1〜2.0%、Si:0.1〜0.5%、Mn:0.01〜3.0%、Cu:0.03%以下(0%を含む)、およびNi:0.03%以下(0%を含む)を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものが挙げられる。更に、Mo:0.01〜0.4%を含むものであってもよい。以下、上記各元素について説明する。
【0059】
〔C:0.1〜2.0%〕
Cも、強度を確保するための重要な元素であり、0.1%以上(より好ましくは0.3%以上)含有させることが好ましい。一方、優れた冷間加工性を確保するにはC量を2.0%以下(より好ましくは1.5%以下)とすることが好ましい。
【0060】
〔Si:0.1〜0.5%〕
Siは、強度を確保するための重要な元素であり、冷間圧延用鋼(CH鋼)に最低限必要なSi量として、その下限を0.1%とすることが好ましい。より好ましくは0.2%以上である。一方、延性を確保する観点からは、Si量を0.5%以下(より好ましくは0.4%以下)とすることが好ましい。
【0061】
〔Mn:0.01〜3.0%〕
Mnは、鋼材の強度の確保に重要な元素であり、冷間圧延用鋼(CH鋼)に最低限必要なMn量として、その下限を0.01%とすることが好ましい。より好ましくは0.1%以上である。一方、延性を確保する観点からは、Mn量を3.0%以下(より好ましくは2.0%以下)とすることが好ましい。
【0062】
〔Cu:0.03%以下(0%を含む)〕
Cuは1356Kで液相となり、熱間圧延時の変形中にオーステナイト結晶粒界に浸入して、表面割れを発生させる原因となる。よって、Cu量は0.03%以下(より好ましくは0.02%以下)に抑えることが好ましい。
【0063】
〔Ni:0.03%以下(0%を含む)〕
Niは、鋼材表面に不均一に濃化し、スケールの表面の凹凸を大きくしてスケール剥離性を悪化させる元素である。この様な悪影響を抑制するため、Ni量は0.03%以下(より好ましくは0.02%以下)に抑えることが好ましい。
【0064】
上記Cr、C、Si、Mn、Cu、Ni以外の残部は、鉄および不可避不純物であってもよい。不可避不純物として、例えば、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不純物が鋼中に含まれることは、当然に許容される。不純物として含まれるP、Sについては、下記に詳述する通り鋼材の表面性状や特性に悪影響を及ぼすことから、下記範囲内に抑えることが好ましい。
【0065】
即ち、Pの微量添加は鋼材の強度を高めるが、過剰に含まれると脆性が高まるため、P量は0.05%以下に抑えることが好ましい。またSは、Mnと反応して硫化物系介在物MnSを形成する。このMnSは熱間加工時に偏析して鋼材を脆化させ、鋼材割れを引き起こす。従ってS量を少なくすることが推奨される。S量は0.05%以下(より好ましくは0.03%以下)に抑えることが好ましい。
【0066】
本発明のCr含有条鋼材は、必要に応じて下記に示す通りMoを更に含んでいてもよい。
【0067】
〔Mo:0.01〜0.4%〕
Moは、鋼材の強度を高めるのに有効な元素であり、該効果を発揮させるには、0.01%以上含有させることが好ましい。一方、Mo量が過剰になると、鋼材の延性が低下するため、Mo量は0.4%以下とすることが好ましい。
【0068】
本発明の条鋼材としては、例えば棒状または線状の鋼材が挙げられ、例えば自動車用の懸架ばね、弁ばね、軸受などに用いられうる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0070】
下記表1に示す鋼材を溶製し、鋳造してビレットを得た。そして、該ビレットを、加熱炉にて1150℃で20分間加熱した後、表面が該温度である鋼を加熱炉から抽出し、次いで、ビレット表面に形成された1次スケールを15MPaの高圧水デスケーラで除去した。それから粗圧延を、910℃で40秒間の条件で行った。尚、いずれの鋼種についても、粗圧延を、上記条件(深さ0.01mm以上のスケール疵が発生しない条件(式(1)および(2)を満たす条件))で行うことにより、後工程の中間圧延の圧延条件のみを考慮できるようにした。次いで、高圧水デスケーラにより2次スケールを除去してから、下記表2に示す条件で中間圧延を行った。そして再度、デスケーリング(高圧水デスケーラによる2次スケールの除去)、水冷、巻き取りの工程を順次経てφ15mmの線材を得た。
【0071】
【表1】

【0072】
【表2】

【0073】
中間圧延終了後でデスケーリング前のビレットを用いて、鋼材表面に生成した2次スケールの厚さを上記(A)の通り測定すると共に、2次スケールにおけるサブスケール中の平均Cr濃度を、上記(B)の通りEPMAにて求めた。
【0074】
また、製品(線材)表面の深さ0.02mm以上のスケール疵と0.01mm以上0.02mm未満のスケール疵の有無を、線材の中心軸に垂直な任意の1断面の表層域全域を観察して調べた。これらの結果を表2に併記する。
【0075】
表2より、式(1)の左辺の値(式(1)により計算したスケール厚さ)と、実測したスケール厚さの値は、ほぼ一致していることがわかる。また、式(2)の左辺の値(式(2)により計算したサブスケール中の平均Cr濃度)と実測したサブスケール中の平均Cr濃度も、ほぼ一致しており、鋼中Cr量に応じて圧延条件を制御することにより、2次スケールのスケール厚さ、およびサブスケール中の平均Cr濃度を制御できることがわかる。
【0076】
更に、表2より次の様に考察することができる。即ち、No.1〜3、5および6は、本発明で規定の条件を満たすよう製造したものであるので、スケール厚さは3μm以上、かつサブスケール中の平均Cr濃度が10質量%以下と、好ましい態様のスケールが形成されており、その結果、スケール疵が抑制されていることがわかる。
【0077】
この中でも特にNo.1、2は、規定の条件の中でも好ましい条件で圧延を行ったので、スケール厚さ:4μm以上、かつサブスケール中の平均Cr濃度:8質量%以下と、好ましい態様のスケールが形成されており、その結果、スケール疵が十分に抑制されていることがわかる。
【0078】
No.3、5は、規定の条件で圧延を行ったので、深さ0.02mm以上のスケール疵は生じていない。
【0079】
尚、No.3と上記No.1、2との対比から、深さ0.01mm以上0.02mm未満のスケール疵の発生も抑制するには、好ましい条件で圧延してサブスケール中の平均Cr濃度を8質量%以下と好ましい態様のスケールにするのがよいことがわかる。またNo.5、6と上記No.1、2との対比から、深さ0.01mm以上0.02mm未満のスケール疵の発生も抑制するには、好ましい条件で圧延してスケール厚さが4μm以上の好ましい態様のスケールにするのがよいことがわかる。
【0080】
これに対し、No.4、7、8は、規定の条件で製造しなかったため、好ましい態様のスケールが形成されず、深いスケール疵が発生する結果となった。詳細には、No.4は、鋼中Cr濃度、圧延温度、および圧延時間とサブスケール中の平均Cr濃度の関係を示した式(2)を満たさないため、形成されたスケールの厚さはより好ましい厚さだが、サブスケール中の平均Cr濃度が10質量%を上回っており、深さ0.02mm以上のスケール疵が生じた。
【0081】
No.7、8は、鋼中Cr濃度、圧延温度、および圧延時間とスケール厚さの関係を示した式(1)を満たさないため、形成されたスケールの厚さが薄く、その結果、深さ0.02mm以上のスケール疵が生じた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Crを0.10〜2.0%(質量%の意味。鋼の化学成分において以下同じ。)含むCr含有条鋼材を製造する方法であって、
加熱炉から鋼片を取り出した後、鋼片に対してデスケーリングを行う工程a、
前記工程aの後に、鋼片に対して大気雰囲気下で熱間圧延を行う工程b、および
前記工程bの後に、鋼片に対してデスケーリングを行う工程cを含み、かつ、
前記工程bにおける熱間圧延を、下記式(1)および(2)を満たす条件で行うことを特徴とするCr含有条鋼材の製造方法。
【数1】

【数2】

[式(1)および(2)において、
R(気体定数):8.31×10−3kJ/mol・K
T:圧延温度(℃)、但し、700≦T≦1000
x:鋼材のCr含有量(質量%)
t:圧延時間(秒)、但し、20≦t≦200]
【請求項2】
加熱炉から鋼片を取り出した後の、隣接するデスケーリング工程間で行われる全ての熱間圧延を、上記式(1)および(2)を満たす条件で行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱炉から、鋼片を抽出温度:1000℃以上1200℃以下で取り出す請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記鋼片は、更に、
C:0.1〜2.0%、
Si:0.1〜0.5%、
Mn:0.01〜3.0%、
Cu:0.03%以下(0%を含む)、および
Ni:0.03%以下(0%を含む)
を満たし、残部が鉄および不可避不純物からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記鋼片は、更に、Mo:0.01〜0.4%を含むものである請求項4に記載の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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