説明

Crerecombinaseを神経細胞特異的に発現するマウス

【課題】 Cre recombinaseを神経細胞特異的に発現するマウスを提供する。
【解決手段】 染色体上のタウ遺伝子のプロモーターの下流にCre recombinase遺伝子を挿入することによりCre recombinaseノックインマウスを作製し、これを神経細胞特異的ノックアウトマウスの作製や、神経細胞特異的トランスジェニックマウスを作製するために用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞特異的に目的遺伝子を欠損したり、過剰発現したりするマウスを作製する際に有用な、Cre recombinaseを神経特異的に発現するマウスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経系は個体の正常な機能の維持に重要のみならず、記憶学習といった高次機能に重要な役割を果たしている。近年標的組み換え法により、任意の遺伝子を欠損させたマウスを作製することが可能となった。しかし、生体の機能に必須な遺伝子を全身で欠損させると発生途中で死亡することも多いため、ある組織特異的に遺伝子を欠損する手法(組織特異的ノックアウト法)が現在用いられつつある。
しかし、これまで神経細胞特異的にCre recombinaseを発現するマウスは存在したもののその効率が低かったことから、神経細胞特異的かつ高効率にCre recombinaseを発現するマウスの作製が待たれていた。
現在まで神経系でCre recombinaseを高発現するマウスとしては、nestin promoterでCre recombinaseを発現させたnestin-Creマウスが知られている(非特許文献1)。しかし、nestin promoterはneuronとgliaの前駆細胞で活性を示すことから、このマウスと交配して遺伝子欠損マウスを作製した場合、そのマウスはneuron及びglia細胞で遺伝子を欠損する(非特許文献2)。その上、nestin-Creマウスは交配能力が低く維持しにくい。
その他の神経細胞特異的にCre recombinaseを発現するマウスとしては、synapsin1やneurofilament-H(NF-H)のpromoterを用いたsynapsin1-Creマウス, NF-H-Creマウスが知られているが、これらはCre recombinaseが一部の神経細胞でしか発現しない(非特許文献3)。そのためほぼ全ての神経細胞でCre recombinaseを発現するようなマウスの開発が待たれていた。
【0003】
タウタンパク質は神経細胞、特にその軸索に豊富に存在して構造の維持に重要と考えられており、他の臓器にも若干発現はするものの、神経系での発現が圧倒的に高いことが知られている。一方、タウ欠損マウスは予想に反して、正常な生後発達を示すことが知られていた(非特許文献4)。しかしながら、タウ遺伝子のプロモーターを用いてCre recombinaseを神経細胞特異的に発現させることができるかは不明であり、そのようなことは試みられてこなかった。
【非特許文献1】Curr Biol 1996, 6(10):1307-16.
【非特許文献2】Nat. Genetics 1999 Sep;23(1):99-103.
【非特許文献3】Nat. Cell Biol. 2005 May;7(5):474-82.
【非特許文献4】Nature 1994 Jun 9;369(6480):488-91.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、神経細胞特異的遺伝子欠損マウスや神経細胞特異的遺伝子発現マウスの作製などに使用することのできる、神経細胞特異的にCre recombinaseを発現するマウスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、染色体上のタウ遺伝子のプロモーターの下流にCre recombinaseのcDNAを挿入したマウスが神経細胞特異的に効率よくCre recombinaseを発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)染色体上のタウ遺伝子のプロモーターの下流にCre recombinase遺伝子が挿入されたことにより、神経細胞特異的にCre recombinaseを発現するマウス。
(2)染色体上のタウ遺伝子の開始コドンの位置にCre recombinase遺伝子のオープンリーディングフレームが挿入された、(1)のマウス。
(3)(1)のマウスと、loxP配列を染色体上に保持するマウスとを掛け合わせることによって得られるマウス。
(4)Cre recombinaseがloxP配列で挟まれた領域を除去することにより、神経細胞特異的に目的遺伝子を過剰発現する、(3)のマウス。
(5)(3)または(4)のマウス又は該マウスから得られる細胞、組織もしくは器官を用いることを特徴とする、神経系疾患の解析方法。
(6)(3)または(4)のマウス又は該マウスから得られる細胞、組織もしくは器官を用いることを特徴とする、医薬をスクリーニングまたは評価する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の神経細胞特異的Cre recombinase発現マウスは広範囲の神経細胞で高率にCre recombinaseを発現することから、このマウスを、loxP配列で除去すべき遺伝子を挟んだコンストラクトを染色体上に保有するconditionalノックアウトマウスと交配することで、その遺伝子を神経細胞特異的に欠損させることが可能となる。神経細胞特異的に任意の遺伝子を欠損させることで基礎医学研究に用いることが出来る。また、このマウスを用いて外来遺伝子を過剰発現させることも可能となるため、ヒトの神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)のモデルマウスを作製し、その疾患のメカニズムの解明を行うことが出来る。さらに、このマウスに薬物等を投与することでこれらの疾患の治療のための薬物のスクリーニングや遺伝子治療の条件検討を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に本発明を詳しく説明する。
本発明のCre recombinaseを神経細胞特異的に発現するマウス(Creノックインマウスとも呼ぶ)は、染色体上のタウ遺伝子のプロモーターの下流にCre recombinase遺伝子が挿入されたことにより、神経細胞特異的にCre recombinaseを発現するマウスである。神経細胞特異的に発現するタウ遺伝子のプロモーターによってCre recombinase遺伝子の発現が制御され、Cre recombinase遺伝子が神経細胞特異的に発現する。なお、「Cre recombinaseを神経細胞特異的に発現する」とは、神経細胞において、神経以外の組織と比較して顕著に多くのCre recombinase遺伝子産物を発現することをいうが、Cre recombinase遺伝子の発現パターンが野生型マウスにおけるタウ遺伝子の発現パターンと同程度の神経特異性を示していればよい。
タウ遺伝子のプロモーターの下流とは、挿入されたCre recombinase遺伝子がタウ遺伝子のプロモーターによって発現しうる位置であればよく、例えば、タウ遺伝子の転写開始点から開始コドンまでの領域内のいずれかの位置が挙げられ、タウ遺伝子の5'非翻訳領域の直後にCre recombinase遺伝子のオープンリーディングフレーム(ORF)が挿入されることが好ましく、タウ遺伝子の開始コドンATG(例えば、配列番号1の塩基番号186〜188)の位置にCre recombinaseのATG(例えば、配列番号3の塩基番号485〜487)が位置するようにCre recombinase遺伝子のORFが挿入されることが特に好ましい。
マウス染色体上のタウ遺伝子としては、例えば、データベース「Ensembl」に、「ENSMUSG00000018411」として登録されている遺伝子を挙げることができる(http://www.ensembl.org/Mus_musculus/geneview?gene=ENSMUSG00000018411;db=core)。このURLの「Exon Information」を参照することによって塩基配列情報を入手することができる。また、マウ
スタウ遺伝子のcDNA配列としては、配列番号1に記載の塩基配列(GenBank Accession
No. NM_010838)を挙げることができる。
【0009】
Cre recombinase遺伝子としては、loxP配列を認識してそれに挟まれる配列を除去しうるタンパク質をコードする遺伝子であれば特に制限されないが、配列番号4のアミノ酸配列をコードする遺伝子、より具体的には配列番号3で示される塩基配列を有するバクテリオファージP1のCre recombinase遺伝子を挙げることができる。この塩基配列は、GenBankに Accession No. X03453で登録されている。
【0010】
本発明のCre recombinaseを神経細胞特異的に発現するマウスは、公知の遺伝子組み換え法(ジーンターゲッティング法)により作製することができる。例えば、以下のようにして作製することができる。
先ず、染色体上のタウ遺伝子と組換えを起こしうるタウ遺伝子の部分ゲノム断片を用意し、Cre recombinase遺伝子がタウ遺伝子の部分ゲノム断片に挟まれるようにつないで、Cre recombinase遺伝子をタウ遺伝子座に挿入するためのターゲティングベクター(ノックインベクター)を作製する(例えば、図1)。タウ遺伝子の部分ゲノム断片は染色体上のタウ遺伝子の塩基配列に基づいてPCRなどによって作製することができるが、染色体上のタウ遺伝子と相同組換えを起こす程度の相同性、具体的には80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上の相同性を有する遺伝子であればよい。
また、組み換え体の選別のため、ターゲティングベクターには薬剤耐性遺伝子を組み込むことが好ましい。薬剤選択のマーカー遺伝子として、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ遺伝子等を使用することができる。
【0011】
以下に、上記のようなターゲティングベクターを用いてCre recombinaseを神経細胞特異的に発現するマウスを得るための一般的な方法について述べる。ただし、本発明のマウスは以下の方法により得られるものには限定されない。
上記の方法により作製したターゲッティングベクターを使用して、相同組み換えを行う。相同組換えには胚性幹細胞(ES細胞)による方法を用いることができる。現在マウス由来のES細胞株がいくつか確立されており、TT2細胞株、AB−1細胞株、J1細胞株、R1細胞株、E14TG2a細胞株等を使用することができる。ターゲティングベクターは公知の方法に準じてマウスES細胞に導入することができる。例えば、エレクトロポレーション法、リポソーム法、リン酸カルシウム法、DEAE−デキストラン法等が利用できる。
次いで、染色体上のタウ遺伝子座にターゲティングベクター中のCre Recombinaseが挿入された細胞クローンを選択する。選択は薬剤耐性などに基づいて行うことができ、さらに、サザンブロッティングやPCRなどにより相同組み換えを確認することが好ましい。
【0012】
こうして得たCre Recombinase遺伝子を持つES細胞を、野生型マウスの胚に導入する。そして、このES細胞胚を偽妊娠状態の仮親マウスの子宮に移植し、出産させることによりキメラ動物を作製することができる。ES細胞を胚盤胞等の胚に導入する方法としては、マイクロインジュクション法や凝集法が知られているが、マイクロインジュクション法がより好ましい。仮親とするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを、精管結紮などにより去勢した雄マウスと交配することにより得ることができる。
【0013】
次いで、このキメラマウスを純系のマウスと交配し、ES細胞をキメラマウスの生殖系列へ移行させる。胚内に移植された組み換えES細胞が生殖系列に移行した動物を選択し、その動物を繁殖させることにより、一方のタウ遺伝子座にCre Recombinase遺伝子が挿入されたヘテロ接合体(ノックインマウス)を得ることができる。
得られたCre Recombinase遺伝子挿入ヘテロ接合体マウス(ノックインマウス)同士を交配させることにより、両方のタウ遺伝子座にCre遺伝子が挿入されたホモ接合マウスを
得ることができる。
本発明のマウスにはヘテロ接合マウスとホモ接合マウスのいずれもが含まれる。
【0014】
なお、本発明のノックインマウスを作製後、薬剤耐性遺伝子を除去するため、コンディショナルなノックアウトマウスの作製において汎用されている、FLP/FRTのシステム(Rodriguez et al. Nat Genet 25:139-40.)を用いることも可能である。FLP/FRTのシステムを用いる場合、分裂酵母由来の組み換え酵素であるFLP組換え酵素を発現している動物と交配させるか、またはFLP遺伝子を有する遺伝子をもつウイルスベクターを感染させることにより、FLP組換え酵素はFRT配列で挟まれた配列を認識して除去するために、薬剤耐性遺伝子を除去したノックインマウスを作出することができる。
【0015】
上記のようにして作製されたノックインマウスは、神経細胞特異的に高率にCre recombinaseを発現する。
Cre recombinaseはloxP配列で挟まれた遺伝子領域を除去する(R.Kuhn et al.Science,269,1427-1429,1995)ことから、このマウスを、標的遺伝子をloxP配列で挟んだコンストラクトを染色体上に保持するconditionalノックアウトマウスと交配することで、その遺伝子を神経細胞特異的に欠損させたマウスを得ることが可能となる。
また、loxP配列で挟まれた発現抑制配列の下流に標的遺伝子をつないだコンストラクトを染色体上に保持するマウス(標的遺伝子は発現抑制配列の存在により発現しない)と本発明のマウスを交配することにより、神経特異的にCre recombinaseが発現抑制配列を除去し、標的遺伝子を神経細胞特異的に過剰発現するマウスを得ることも可能である。過剰発現させる遺伝子はマウスの遺伝子であってもよいし、異種遺伝子であってもよい。
このような神経特異的遺伝子欠損マウスまたは神経特異的遺伝子過剰発現マウスは、ヒトの神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)のモデルマウスとして使用することができ、該マウス自身や該マウスから得られる細胞、組織もしくは器官を用いることで、その疾患のメカニズムの解明を行うことが出来る。
【0016】
また、この神経特異的遺伝子欠損マウスまたは神経特異的遺伝子過剰発現マウスに薬物等を投与することでこれらの疾患の治療のための薬物のスクリーニングや遺伝子治療の条件検討を行うことが可能である。例えば、神経細胞特異的な遺伝子欠損マウス又は神経特異的に遺伝子を過剰発現するマウスや該マウスから得られる細胞に化合物を投与し、化合物の神経保護効果などを評価することにより、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)の治療薬をスクリーニングすることができる。
更には、脳室、くも膜下腔からのウイルスベクターなどを用いた遺伝子導入によって、症状の回復を図ることもできると考えられるため、遺伝子治療のモデルとして用いることも可能である。
【実施例】
【0017】
<Creノックインマウスの作製>
タウ遺伝子を含む13kbのフラグメント(図1)をマウスJ1細胞から作製したゲノムDNAライブラリーから単離し、pBlueScript(+)(Stratagene)に組み込んだ。タウの第1エクソンのATGからの翻訳の読み枠に合うようにCre recombinaseのcDNA(東京大学医科学研究所の斉藤泉教授より供与を受けた)を挿入し、その後にFRTサイトで挟まれたネオマイシン耐性遺伝子(PGK neo pA)を挿入した。(図1)。
次に得られたターゲッティングベクターをES細胞にエレクトロポレーションにより導入した。ES細胞はJ1系統のものを使用し、Joyner et al.(Gene Targeting: Practical Approach. IRL Press, New York, p234, 1993)に記載の方法にしたがって培養及びエレクトロポレーションを行った。ES細胞をネオマイシン含有培地で培養し、形質転換体を選抜してセルライン化し、ターゲティングベクターへの相同組換えをサザンブロッティングによ
って確認した。
ターゲティングベクターが染色体上に組み込まれたES細胞をC57BL/6マウスの胚盤胞に注入した。擬制妊娠させた仮親マウスに、ES細胞を注入した胚盤胞を移植し、出産させてキメラマウスを得た。
このキメラマウスを野生型マウスと交配してヘテロ接合体を得た。一部のヘテロ接合体については、FLP組換え酵素を発現するトランスジェニックマウス(B6;SJL-Tg(ACTFLPe)9205Dym/J;Jackson Laboratory)と交配して、PGK neo pAを除いた。
【0018】
このCreノックインマウスを、loxPに挟まれた発現抑制配列がCreによって除去されることにより、Creが発現した部位でLacZを発現しうるレポーターマウス(129S-Gt(ROSA)26Sortm1Sor/J: Soriano P. 1999. Generalized lacZ expression with the ROSA26 Cre reporter strain. Nat. Genet. 21(1):70-1.)と交配し、神経特異的にLacZを発現するマウスを得た。
そのLacZ染色パターンについて下記の方法によって調べた。
【0019】
<LacZ染色および免疫組織染色>
レポーターマウス(129S-Gt(ROSA)26Sortm1Sor/J)と交配した8週齢のCreノックインマウスをエーテルとネンブタールで麻酔し、3%パラホルムアルデヒド/0.1Mリン酸バッファー(pH7.4)で灌流した。脳、肝臓、小腸、腎臓、膵臓などの種々の器官を摘出し、室温で一晩固定液に入れて保存した。凍結保護、凍結、切片作製の手順はHarada et al. (Cell Struct. Funct. 15(6), 329-342, 1990)に記載の方法に従って行った。このうちの大脳皮質、小脳、脊髄、肝臓、膵臓、小腸、腎臓、筋肉の切片についてX-Galを用いたLacZの染色、及び蛍光免疫組織染色によりLacZの発現分布を調べた。
【0020】
LacZ染色の手法を下に記す。
溶液A :100mMリン酸カリウムバッファーPH7.4
溶液B(固定液) :16% PFA 、0.5M EGTA 、 1M MgCl2 、5XKPPを含むPBS
溶液C(Wash):0.01%デオキシ胆汁酸ナトリウム、0.02%Nonidant P-40、5mM EGTA、2mM MgCl2を含む溶液A
溶液D(stain): 0.5mg/mlのX-gal、10mM K3[Fe(CN)6]、10mM K4[Fe(CN)6]、を含む溶液C
1)PBS wash x 2
2)溶液B(固定液) x 5min
3)溶液C(wash buffer) x 5min x 3回
4)溶液D(染色液) x 1-24hr 37℃
という手法で発色を行った。
【0021】
蛍光免疫染色の手法を下に記す。
組織切片をまず1次抗体(ウサギ抗LacZ抗体(Cappel社)、マウス抗GFAP抗体(Progen社)またはマウス抗NeuN抗体(Chemicon社))に反応させ、次いで2次抗体(Alexa 488-conjugated ロバ抗ウサギIgGまたはAlexa 594-conjugated ロバ抗マウスIgG;Molecular Probes社)に反応させた。観察は走査型共焦点顕微鏡(モデルMRC1024;Zeiss社)を用いて行った。
なお、NeuNは神経細胞特異的な各タンパク質であり(Development. 1992 Sep;116(1):201-11.)、GFAPはastrocyte特異的なフィラメント結合タンパク質である(Proc Natl Acad Sci U S A. 1984 May;81(9):2743-6.)。
【0022】
LacZの組織染色の結果では、大脳皮質(図2に写真を提示した)、海馬、小脳、脊髄においては多くの細胞でLacZ由来の青い染色が認められた。特に大脳皮質、海馬においては殆どの細胞で染色が認められた。一方、肝臓、筋肉では殆ど染色が認められず、小腸でも
平滑筋内の神経細胞と思われるごく一部の細胞に染色が認められるのみであった。
【0023】
染色陽性の細胞の比率を更に詳しく調べるため、さらに、LacZ抗体、NeuN抗体およびGFAP抗体を用いて免疫染色をおこなった。
大脳皮質、海馬においてはNeuN+の神経細胞のほぼ100%でLacZのシグナルが認められた。小脳では比率が若干低下していたものの、Purkinje細胞はほぼ100%染色されていた。
これに対して、GFAP+のastrocyteはこれらの神経組織で殆どLacZの染色が認められなかった。
【0024】
上記の結果から、上記のCreノックインマウスは神経細胞特異的にCre recombinaseを発現しており、上記レポーターマウスと掛け合わせることで神経細胞特異的にLacZを発現するマウスが作製できることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】タウ遺伝子にCre recombinaseを挿入するために用いたDNA断片(targeting vector)の模式図。「Chromosome locus」は染色体上のタウ遺伝子座を表し、「Knock-in vector」はCre recombinase遺伝子導入用ベクター、「Targeted locus」は組換え後のタウ遺伝子座を表し、「Flp recombinase」はさらにネオマイシン耐性遺伝子が除去された遺伝子座を示す。
【図2】Creノックインマウスにおける大脳皮質でのCreの発現を示した写真。Cre recombinaseを発現している箇所が青くLacZで染色されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
染色体上のタウ遺伝子のプロモーターの下流にCre recombinase遺伝子が挿入されたことにより、神経細胞特異的にCre recombinaseを発現するマウス。
【請求項2】
染色体上のタウ遺伝子の開始コドンの位置にCre recombinase遺伝子のオープンリーディングフレームが挿入された、請求項1に記載のマウス。
【請求項3】
請求項1に記載のマウスと、loxP配列を染色体上に保持するマウスとを掛け合わせることによって得られるマウス。
【請求項4】
Cre recombinaseがloxP配列で挟まれた領域を除去することにより、神経細胞特異的に目的遺伝子を過剰発現する、請求項3に記載のマウス。
【請求項5】
請求項3または4に記載のマウス又は該マウスから得られる細胞、組織もしくは器官を用いることを特徴とする、神経系疾患の解析方法。
【請求項6】
請求項3または4に記載のマウス又は該マウスから得られる細胞、組織もしくは器官を用いることを特徴とする、医薬をスクリーニングまたは評価する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−61557(P2008−61557A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242026(P2006−242026)
【出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】