説明

Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】太陽電池に用いられるCu−Ga合金スパッタリングターゲットにおいて、従来問題になっていたスパッタリング時の放電やスパッタ膜の濃度分布不均一性という問題を解決する品質の高いCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明に係るCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットであり、凝固方向と平行な面において、不可避的空隙のうち50μm以上の空隙の面積率が、0.05%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。特に、本発明は、太陽電池に用いられるCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化合物半導体によるCIGS薄膜太陽電池の量産が開始されたが、変換効率向上には課題は多い。この課題に対して使用材料の見直しや構造の改良等が検討されている。
【0003】
このCIGS系薄膜太陽電池は、基板、裏面電極、光吸収層、バッファ層、透明電極等で構成される。基板としては耐熱性が高く、Na効果による性能向上が見込めるソーダライムガラスが一般的に用いられるが、量産時にRoll to Roll法を適用しにくいため、金属やプラスチックの箔も検討されている。裏面電極としては、Moが使われているが、材料コスト面で薄膜化や代替金属が検討されている。また金属箔を用いることで、基板との統合も検討されている。光吸収層として、Cu−In−Ga−Se及びCu−In−Ga−Sが使用されている。結晶シリコン系太陽電池などに比べて光吸収特性が高く、薄膜化でき、コスト面において量産性が高い。バッファ層とし、CdS等が使われているが、Cdの有毒性から代替化合物が検討されている。透明電極としては、ZnOが用いられており、導電率及び透明性の向上について検討されている。
【0004】
このCIGS太陽電池の光吸収層の形成方法として、多元蒸着法、セレン化法、スパッタ法などが検討および実用化されている。しかし、多元蒸着法やセレン化法のような蒸着法では、高変換効率が得られるが大面積化が難しく量産が容易ではない。そのため、スパッタ法によってCIGS層を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
このCu−In−Ga−Se四元系合金膜をスパッタ法により成膜する方法として、まず、Inターゲットを使用してスパッタによりIn膜を成膜し、このIn膜の上にCu−Ga二元系合金ターゲットを使用してスパッタすることによりCu−Ga二元系合金膜を成膜し、得られたIn膜およびCu−Ga二元系合金膜からなる積層膜をSe雰囲気中で熱処理してCu−In−Ga−Se四元系合金膜を形成する方法が提案されている(特許文献1参照)。Cu−Ga二元系合金ターゲットとして、1〜40重量%のGaを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなるCu−Ga二元系合金ターゲットが従来から知られている(特許文献2参照)。
【0006】
このCu−Ga二元系合金ターゲットには、近年、様々な改良がなされている。例えば、特許文献3には、太陽電池の変換効率を高めるために、Gaの含有量が多いCu−Ga二元系合金ターゲットが提案されている。具体的には、30〜60重量%のGaを含有し、残部がCuからなる成分組成と、30重量%を越えるGaを含有し、残部がCuからなる高いGaを含有したCu−Ga二元系合金粒を、15質量%以下の低いGaを含有するCu−Ga二元系合金からなる粒界相で包囲した二相共存組織を備えるCu−Ga二元系合金スパッタリングターゲットが提案されている。また、特許文献4には、スパッタリング時に異常放電等の不具合の発生を防止するために、複数の相を含むCu−Ga合金で、40重量%以上60重量%以下のGaを含み、残部がCu及び不可避的不純物からなり、Gaを80重量%以上含む偏析相を含むCu−Ga合金スパッタリングターゲットが提案されている。
【0007】
これらのCu−Ga二元系合金ターゲットは、一般に溶解鋳造で作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−282908号公報
【特許文献2】特許第3249408号公報
【特許文献3】特開2008−138232号公報
【特許文献4】特開2010−280944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記のように、従来からスパッタリングターゲットの改良がなされてきた。しかし、スパッタリングターゲットに粗大な空隙がある場合がある。そのような空隙があると、スパッタリング時に放電が発生してスパッタ膜の表面品質を低下させるという問題がある。また、スパッタリングターゲットの面内濃度分布の差が増加すると、光吸収層内のGaの濃度がバラつき、品質を低下させる。 そのため、スパッタリングターゲットの粗大な空隙の除去と面内濃度分布の均質化が必須となるが、一般的な溶解鋳造では容易に達成できない。
【0010】
そこで、本発明では、溶解鋳造時に凝固面での温度勾配と凝固速度との比を制御し、さらに平滑に成長させることで、粗大な空隙の発生及び面内濃度分布のムラが抑制されたCu−Ga合金スパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットであって、凝固方向と平行な面において、前記空隙のうち50μm以上の空隙の面積率が、0.05%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲットを提供する。
【0012】
また、Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットであって、Gaの面内濃度分布差が、±0.4%以内であることが好ましい。
【0013】
また、Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットの製造方法であって、凝固面の温度勾配と凝固速度の比が2×10Ks/m以上で凝固させる工程を備えることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【0014】
また、上記スパッタリングターゲットの製造方法は、結晶の成長方向に垂直な同一面内上の中心と端点の温度差を30℃以内にして、凝固面を平滑に保ち凝固させる工程を備えることが好ましい。
【0015】
さらに、上記スパッタリングターゲットの製造方法は、鋳造に使用するルツボとして、高純度カーボンルツボを使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の製造方法によるCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、50μm以下の空隙欠陥が無く、面内の濃度分布差を十分低下させたことで、従来のCu−Ga合金スパッタリングターゲットよりも優れた組織を兼備する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】凝固界面での樹枝状成長の概略図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるインゴット製造装置の断面の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態におけるスパッタリングターゲットの製造工程フローを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(Cu−Ga系合金の概要)
一般に液相線温度を有するCu−Ga系合金では、図1に示すように固相1と液相2が共存する領域4を持つ。また、図1に示されるように固相2は樹枝状に成長する。ここで、凝固する過程で、体積が減少する。このため、凝固収縮分も含めた量の溶湯を樹枝の間に供給する必要がある。
【0019】
しかし、固液共存領域4では固相率(固液共存領域に占める固相の割合)が増加するに従い溶湯の粘性が増加し、固相率が50〜80%程度で溶湯が流動できなくなる。すなわち、冷却装置側ほど、固相率が高くなるため、樹枝の間を溶湯が透過できず凝固収縮分を補給できない。
【0020】
そのため溶湯供給ができない樹枝の根元では圧力低下が起こる。さらに圧力の低下が進むと、溶湯中の圧力が溶湯中に溶存しているガスの平衡圧以下になったときに、溶存するガスが、圧力低下している樹枝の間に集まってきて、樹枝の間で気泡3(ボイド)となる。この気泡3が凝固中にトラップされて金属組織中に残る。また気泡同士が集まり粗大化し、ザク巣と呼ばれる粗大な空隙を生む。
【0021】
気泡発生に起因する圧力低下を抑制するためには凝固速度に対する温度勾配の比αを一定以上維持しなければならない。その理由を以下で詳述する。
【0022】
液相の圧力差をΔpは、透過係数をμ、凝固収縮率をβ、凝固速度に対する温度勾配の比をαとして、Δp=μβ/αで表される。すなわち、凝固速度に対する温度勾配の比αが低下すると、液相の圧力差Δpが大きくなる。凝固速度に対する温度勾配の比αは温度勾配Gと、凝固速度vにより表されるが、それらは以下のとおりである。
【0023】
(1)温度勾配
ルツボの底面からの全ての位置で固相となっている最小の高さをXminとし、最大の高さをXmaxとする。Xminでの温度は、固相線温度θsと定義され、Xmaxでの温度は液相線温度θLと定義される。本発明における温度勾配Gは、G=(θ−θ)/(Xmax−Xmin)で表される。
【0024】
(2)凝固速度
本発明における凝固速度vは、時間をtとXminを用いて、dXmin/dtで表される。
【0025】
よって、温度勾配と凝固速度の比αは、以下の式で表される。
α=G/v=(θ−θ)/(Xmax−Xmin)÷(dXmin/dt)
一般に鋳型の中に溶湯を流し込んで、加熱しないで鋳造する重力鋳造では、凝固が進行するに従い、上記の温度勾配と凝固速度の比αが低下するため、液相の圧力差Δpが大きくなり、ザク巣の発生が不可避である。そのため、押湯と呼ばれる欠陥を集める部位が必要となる。
【0026】
本発明の実施の形態では、図2に示すようなインゴット製造装置を使用する。図2のインゴット製造装置は、ルツボ5、ヒーター6、断熱壁7、冷却チル8、引下げ装置9、チャンバー壁10及び熱電対11により構成される。この加熱する部位(ヒーター6)と冷却する部位(冷却チル8)と、凝固面での温度勾配を強くつけて維持できる機構と、ルツボ5を引下げ装置9で引下げ、凝固速度を制御する機構を持つ凝固炉を使用することで、温度勾配と凝固速度の比αを高く(すなわち液相の圧力差Δpを小さく)維持しながら凝固させることができる。そのため、上記の押湯部分が不要であり、材料、コスト面で、非常に優位性がある。
【0027】
また、スパッタリング材として用いる場合は、冷却装置からの距離がほぼ等しい方向に切り出すため、その面に濃度差が存在すると、スパッタリングによって形成される膜の面内にGaの濃度差ができ、最終製品、例えば、太陽電池の性能を著しく悪化させる。このため、冷却装置からの同一高さに温度差を小さく(差がゼロを含む)することで溶質の濃度分布を一定化し、凝固面を平滑にすることが望まれる。
【0028】
本発明の実施の形態では、ルツボ5の引下げ時に、凝固面を水平に保ちながら溶湯を凝固させるとで、凝固面からの液相中へのGaの排出を制御し、凝固面と平行な面での濃度勾配を無くすことができ、面方向の濃度バラつきを抑制できる。
【0029】
(Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造工程)
図3に発明に係るスパッタリングターゲットの製造工程フローを示す。本発明のスパッタリングターゲットは、Cu−Ga合金の溶解工程(Ar雰囲気中でバルク金属を溶解:ステップ1、以下、ステップを「S」と表記する)、凝固工程(S2)、凝固材加工工程(S3)を経て製造する。以下、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットの製造工程を工程ごとに詳述する。
【0030】
(i)溶解工程(S1)
すなわち、Ar雰囲気中でバルク金属を溶解させる工程である。金属溶湯の酸化を防ぐ目的で、まずチャンバーの中に大気を油回転ポンプで10Paまで減圧した後、Arガスを流入させて大気圧に戻す。大気圧に戻した後、CuとGaのバルク材を加熱して溶解させる。溶解を速やかにする目的で、溶湯の底部の温度を目標組成の液相線温度より50〜100℃高くするのが好ましい。例えば、Gaを30重量%有するCu−Ga合金溶湯の液相線温度は870℃である場合、溶湯の底部の温度を920〜970℃に保持するとよい。またCuとGaの反応面積を増加させる目的で、Cuのバルク材を小さく加工することがさらに望まれる。
【0031】
(ii)凝固工程(S2)
すなわち、凝固面の位置の調整とルツボ5を引下げて、溶湯をルツボ5内で凝固させる工程である。凝固工程では凝固面の温度勾配を急にし、さらに凝固面の位置を変動させない必要がある。
【0032】
温度勾配は加熱帯と冷却帯の境界で最も急となり、境界から離れるにつれて緩やかになる。そのため凝固面をより境界に近い位置に置くことで温度勾配を急にすることができる。
【0033】
凝固面の位置は、温度を一定に維持しつつ、ルツボ5を引下げることにより、ヒーター6の位置に対して、ほぼ同じ位置を保つ。温度を一定に維持するには、加熱帯と冷却帯の境界において、固液共存領域4となるように温度を保てばよい。すなわち、加熱帯と冷却帯の境界が、固相線温度となるように維持する。実際は、若干の温度の変動があるため、加熱帯と冷却帯の境界付近の温度を、固相線温度から液相線温度となるよう維持すればよい。
【0034】
Cu−Ga合金溶湯を作製後、温度勾配が最も急になる加熱帯と冷却帯の境界付近に、凝固面が出来るように加熱出力を調整する。調整後、所望の凝固速度に応じて、ルツボを引下げる。ここで、凝固速度は、遅い方がよいが、実際には温度勾配と凝固速度の比αが2×10Ks/m以上となればよいことがわかっているので、量産性を考慮すれば、式α=G/vを満たす最も早い速度vを用いることになる。
【0035】
凝固面の位置を維持するために凝固面と考えられる面から約10mm上の温度を熱電対11で計測し、PID制御による温調計にて加熱出力を調整して、凝固面の位置の変動を抑える。
【0036】
ルツボの引抜き完了後、すなわち凝固完了後は、自然冷却させる。その後、インゴットをルツボから取り出す。
【0037】
(iii)凝固材加工工程(S3)
すなわちインゴットの表面の切除および、所定の寸法に加工する工程である。材料凝固工程で凝固させたCu−Ga合金の表面には、スパッタリング時に無視できない薄い酸化皮膜層が形成されるため、希硫酸により除去する。次に、所定の寸法に切断する。Cu−Ga合金は、靭性が低いため容易に破壊するので、研削材のついた金属バンド等での負荷のかからないよう加工することが好ましい。切断面としては、凝固方向(地面と垂直な方向)に水平な面を選択するのが好ましい。凝固方向に水平な面で切断することにより、面内濃度分布の差が低いスパッタリングターゲットが作製できる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
本発明の一実施形態として、200mm角、厚さ10mmのCu−Ga合金スパッタリングターゲットを作製した。製造方法は以下の通りである。
【0040】
まず、Cu−Ga合金の目標組成としてGaの濃度が32重量%となるように純Cu27.2kgと純Ga12.8kgをルツボ5に装填し、真空チャンバー内にいれて、油回転ポンプで10Pa程度まで引き、Arガスで置換した。ルツボ5には、Cu−Ga溶湯と濡れ性がよくない材質を使用する。特にCuと、Gaとの反応が極めて少なく、不純物が混入しにくい、高純度カーボンが好ましい。ルツボ5の下には、冷却用の冷却チル8が備えてあり、ルツボ5を囲むように四方にヒーター6が備えてある。その後、ヒーター6を用いて、ルツボ5を加熱してCuとGaを溶解した(溶解工程S1)。
【0041】
溶解後、固液界面での温度勾配を4200K/mになるようにして、ルツボ5を100mm/hrで下方向に引抜き、溶湯を徐々に凝固させて凝固材を作製した。溶湯は、冷却されている下方側から凝固していく(凝固工程S2)。
【0042】
その後、この凝固材の表面の酸化皮膜を、希硫酸を用いて除去し、研削材のついた金属バンドで凝固方向に平行な面、すなわち、ルツボ5の底面、地面と垂直な面で切り出し、評価サンプルを作製した(凝固材加工工程S3)。
【0043】
この評価サンプルについて、空隙量、スパッタ面内での濃度分布を調査した。まず評価サンプルから任意の場所から寸法2cm角×10mmの立方体を10個切出し、凝固面と平行な面を研磨等で調整して断面組織を画像解析ソフト(Image Pro PlusJ)において、輝度を基準に合金相と空隙を分離し、その中から半径50μm以上の空隙を検索する。
【0044】
評価サンプルの凝固面と平行な面上の任意の場所8点から切子を採取して硫酸に溶かし、ICP発光分析によりGaの濃度を測定する。
【0045】
評価した結果、50μm以上の空隙の面積率が0.05%以下であり、面内濃度分布差が目標組成から0.3重量%以内に収まりスパッタリングターゲットとしての品質は良好であるといえる。
【0046】
このCu−Ga合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あたり印加電圧33W/mmの条件でスパッタリングを10分間行った結果、異常放電は無く、さらにGa濃度分布差は±0.4重量%以内となるスパッタ膜が得られる。
【0047】
本発明の材料について、その製造条件の限定理由について実施例No1、No2、No3と比較例No4、No5をあげて説明する。
【0048】
表1は、実施例(No1、No2、No3)と比較例(No4、No5)の製造条件と50μmを越える空隙の断面に対する面積率及び面内Ga濃度分布を表す表である。
【0049】
【表1】

【0050】

また、表2は、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あたり印加電圧33W/mmの条件でスパッタリングを10分間行った場合の異常放電の回数とGaの濃度分布の測定結果である。
【0051】
【表2】

【0052】

表1より、No1からNo3の実施例のような温度勾配と凝固速度の比(2×10Ks/m)、及び温度分布差(30℃以内)について規定した値で凝固させると、50μm以上の空隙の面積率が0.05%以下であり、面内Ga濃度分布においても平均組成から±0.5重量%におさまるCu−Ga合金スパッタリングターゲットが得られる。
【0053】
これらのCu−Ga合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あたり印加電圧33W/mmの条件スパッタリングを10分間行った場合、表2に示すように異常放電は無く、さらにGa濃度分布差は±0.4重量%以内となり良好なスパッタ膜が得られる。
【0054】
比較例No4は、温度勾配と凝固速度の比が低下することで50μmを越える空隙の断面に対する面積率が1.0%を越える(表1参照)。このNo4のCu−Ga合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あたり印加電圧33W/mmの条件スパッタリングを10分間行った場合、異常放電発生した(表2参照)。
【0055】
比較例No5は、凝固面内での中心と端点の温度分布差が62℃であり、Cu−Ga合金スパッタリングターゲットのスパッタ面に垂直な面での濃度分布が±0.6重量%以上となる(表1参照)。このNo5のCu−Ga合金スパッタリングターゲットをArフロー0.5Pa、面積あたり印加電圧33W/mmの条件スパッタリングを10分間行った場合、異常放電は無いが、スパッタ膜中のGa濃度分布差は±0.7重量%となり、品質が良好とはいえない(表2参照)。
【0056】
以上のように、本発明の製造方法によるCu−Ga合金スパッタリングターゲットは、50μm以上の空隙欠陥の面積率が0.05%以下であり、面内の濃度分布差を十分に低減させたことで、従来問題になっていたスパッタリング時の放電やスパッタ膜の濃度分布不均一性という問題を解決され、品質の高いCu−Ga合金膜を製造することができる。 本発明の製造方法によるCu−Ga合金スパッタリングターゲットを太陽電池に用いることで、その変換効率を向上させ、CIGS太陽電池製造技術の向上を優れた材料を供給するという面からささえ、その発展に大きく寄与するものである。
【符号の説明】
【0057】
1…液相、2…固相、3…気泡(ボイド)、4…固液共存領域、5…ルツボ、6…ヒーター、7…断熱壁、8…冷却チル、9…引下げ装置、10…チャンバー壁、11…熱電対。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットであって、
凝固方向と平行な面において、前記空隙のうち50μm以上の空隙の面積率が、0.05%以下であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項2】
Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットであって、
Gaの面内濃度分布差が、±0.4%以内であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
【請求項3】
Ga濃度が、27.4重量%以上32重量%以下であり、不可避的空隙を含み、残部がCuからなるスパッタリングターゲットの製造方法であって、
凝固面の温度勾配と凝固速度の比が6×10Ks/m以上で凝固させる工程を備えることを特徴とするスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
結晶の成長方向に垂直な同一面内上の中心と端点の温度差を30℃以内にして、凝固面を平滑に保ち凝固させる工程を備えることを特徴とする請求項3に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
鋳造に使用するルツボとして、高純度カーボンルツボを使用することを特徴とする請求項3又は4に記載のスパッタリングターゲットの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−79411(P2013−79411A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218969(P2011−218969)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】