説明

Cu系材料のSnめっき層の剥離方法

【課題】加工油等が付着していても、Sn層および/またはCuSn層を含有するSnめっき層付きCu系材料のSn層およびCuSn層等を容易に剥離し、Cu系材料を再び原料化することができるCu系材料のSnめっき層の剥離方法を提供する。
【解決手段】Cu系材料5を、3.0〜37.5質量%の濃度の水酸化アルカリ水溶液10中に浸漬し、水酸化アルカリ水溶液10の水中において、3.0〜50.0質量%の濃度のH水溶液を添加し、Cu系材料5を浸漬したときの水酸化アルカリ水溶液10の温度が60〜105℃であり、水酸化アルカリ水溶液10の水酸化アルカリのmol数Aと前記H水溶液のHのmol数Bとの比A/Bが10以上であり、Sn層中のSnのmol数をC、CuSn層中のSnのmol数をDとすると、B≧C×2+D×6とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Cu系材料に形成されたSnめっき層のSn層および/またはCuSn層を剥離し、Cu系材料をリサイクルするためのSnめっき層の剥離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
純銅や黄銅、リン青銅の他、Fe、Ni、Si、Sn、P、Mg、Zr、Cr、Ti、Al、Ag等の元素を単体もしくは複数、数百質量ppm〜30質量%の範囲で含有する銅基合金を含むCu系材料は、インゴットから圧延、焼鈍等の工程を経て、板厚0.1〜4.0mmの条材や線材として仕上られた後、車載用、民生機器用または産業機器用の端子やバスバー、ばね等の通電部に広く使用されている。このようなCu系材料は、一般に、通電時の接触信頼性および耐食性を確保するために、めっき金属の中でも比較的安価なSnを0.5〜5.0μmの厚さでめっきして使用される。また、Snめっきのリフロー処理や経時変化により、Cu系材料とSnめっきとの間、あるいはCu系材料とSnめっきの間にCu下地めっきが施されている場合はCu下地めっきとSnめっきとの間に、主にCuSn、CuSn等の金属間化合物等からなるCuSn拡散層が形成され、その厚さは0.2〜2.0μm程度である。また、Snめっきの最表面側で、CuSn拡散層の形成に消費されずに残っているSnの層は、Sn層と呼ばれる。
【0003】
Snめっきが施された板材等のCu系材料が通電部の製品となるまでには、Snめっき後にスリット加工やプレス加工等が行われることが一般的であり、その際にスクラップが発生する。このスクラップを原料としてそのまま溶解すると、めっきしたSnの分だけSn成分が多くなり、元の素材であるCu系材料の原料として再利用できない。したがって、元の素材を再利用するためには、めっきされたSnを剥離、除去することが考えられる。
【0004】
従来、Cu系材料のSnめっきを剥離する方法として、水酸化ナトリウム中での電解や、特許文献1に開示されているようにCuイオンを含有する硫酸または硝酸への浸漬などの方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、高純度錫酸アルカリ化合物の製造方法において、Snの溶解方法として、水酸化アルカリ水溶液中に、反応促進剤として過酸化水素水を滴下しながら溶解する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−87275号公報
【特許文献2】特開2000−226214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、水酸化ナトリウム水溶液中で電解する場合には、スリット加工後およびプレス加工後に発生するスクラップのように細かくかつ重なり合ったSnめっき付きCu系材料の全ての表面に対して、電流密度を均一にすることが極めて困難である。そのため、電流が集中する部分は溶解が素材に及び、Cu系スラッジの発生原因となって、再原料化の際の無駄が生じる。一方、電流が集中する部分の剥離が終了した時点で電解を終了すると、電流密度が低い部分ではSnの残留が発生し、再原料化した際に、成分不良を生じてしまうという問題がある。
【0008】
前記特許文献1に開示されているCuイオンを含有した硫酸への浸漬は、Snめっきを置換反応により剥離するので、Snの剥離後にCu系材料素材を侵食しないという長所がある。ところが、例えばプレス加工により油が付着したスクラップには、プレスの金型を抜けてくる際に、プレスの圧力と油のために極めて強固にスクラップ同士が密着しているものがある。このようなときには、脱脂を行わなければ、置換反応が抑制されてSnが残留し成分不良となるため、前処理としての脱脂工程が不可欠となり、工程数の増加や薬品代の増加によるコストアップ及び生産性の低下が避けられない。
【0009】
また、硫酸系の水溶液中で剥離を行うと、剥離後に、表面に硫酸のS(硫黄)分が付着する。そのまま溶解、鋳造して再原料化すると、SがCu系素材の粒界中に偏析し、鋳造およびその後の熱間圧延の際の割れにつながるなど、多くの悪影響がある。そのため、剥離後の水洗を十分に行わなければならない。さらに、Cu置換反応では、水溶液中のSnイオン濃度が高まると置換反応が鈍化するため、水溶液中からSnイオンを除去するための操作が必要となり、コストアップが避けられない。
【0010】
前記特許文献2に開示されているSn溶解方法は、Snを高純度錫酸アルカリとして採取することを目的としているため、Sn単体の溶解のみに着眼しており、Snよりも溶解が困難なCuSn層については考慮されていない。すなわち、特許文献2に開示されている過酸化水素水の滴下方法では、Sn単体は溶解できてもCuSn層までを完全に剥離するのは極めて困難であることが、本発明者らの検討により判明した。更に、CuSn層を含むSnめっきが施されたCu系材料の素材の再原料化については記載されていない。また、特許文献2の実施例によれば、元のアルカリ水溶液の量に対する過酸化水素水溶液の量が極めて多く、滴下終了後にはアルカリ濃度が薄まってしまうため、濃縮などの処置をとらずにそのままの液で連続してSn溶解を行うことが困難である。
【0011】
本発明の目的は、加工油等が付着していても、Sn層および/またはCuSn層を含有するSnめっき層付きCu系材料のSn層およびCuSn層等を容易に剥離し、Cu系材料を再び原料化することができるCu系材料のSnめっき層の剥離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記問題を解決するため、本発明は、Sn層および/またはCuSn層を含むSnめっき層が形成されたCu系材料をリサイクルするための、Cu系材料のSnめっき層の剥離方法であって、前記Cu系材料を、3.0〜37.5質量%の濃度の水酸化アルカリ水溶液中に浸漬し、前記水酸化アルカリ水溶液の水中において、3.0〜50.0質量%の濃度のH水溶液を添加し、前記Cu系材料を浸漬したときの前記水酸化アルカリ水溶液の温度が60〜105℃であり、前記水酸化アルカリ水溶液の水酸化アルカリのmol数Aと前記H水溶液のHのmol数Bとの比A/Bが10以上であり、前記Sn層中のSnのmol数をC、前記CuSn層中のSnのmol数をDとすると、B≧C×2+D×6とすることを特徴とするCu系材料のSnめっき層の剥離方法を提供する。
【0013】
前記水酸化アルカリ水溶液が、NaOH(水酸化ナトリウム)またはKOH(水酸化カリウム)の水溶液でもよい。前記H水溶液(過酸化水素水)を、前記水酸化アルカリ水溶液の底部から添加し、前記水酸化アルカリ水溶液を撹拌しながら前記H水溶液を添加することが好ましい。
【0014】
前記水酸化アルカリ水溶液に所定量の前記H水溶液を連続添加した後、前記H水溶液の連続添加を停止して、前記Cu系材料を前記水酸化アルカリ水溶液に1時間以内の間浸漬保持してもよい。前記水酸化アルカリ水溶液中の炭酸アルカリの濃度が、20質量%以下であることが好ましい。
【0015】
前記Snめっきが施されたCu系材料が、切断加工またはプレス加工による加工油が付着したものでもよい。前記Cu系材料のSnめっきの厚さが5μm以下、また、前記CuSn層の厚さが、0.2〜2μmであってもよい。前記H水溶液の連続添加時間が5〜60分であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加工油等の油が付着したCuSn拡散層を有するCu系材料のSnめっき層のSn層およびCuSn拡散層を容易に剥離し、再原料化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明を実施するための装置の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図1においてH水溶液の添加方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0019】
本発明は、NaOHまたはKOH等を溶かした水酸化アルカリ水溶液に、CuSn、CuSnなどの金属間化合物等からなるCuSn層を含むSnめっき層が形成されたCu系材料を浸漬させて、H水溶液を、水酸化アルカリ水溶液の水中において添加することにより、Snめっき層を剥離するものである。
【0020】
Snめっき層とは、Sn層及び/またはCuSn層を含むものを指す。典型的なSnめっき層としては、Cu系材料の表面にSnめっきを施したもの、或いはCu系材料の表面に下地層としてCuめっきを施した後にSnめっきを施したものがある。さらには、そのSnめっき後にリフロー処理などの熱処理を施しCuSn層(CuSn拡散層)が形成されたSn層とCuSn層からなるものがある。なお、リフロー処理などの熱処理の熱処理条件によっては、Sn層が消滅し、Snめっき層がCuSn層のみとなる場合がある。CuSn層とはCuとSnの金属間化合物および/またはCu又はSnが母相に固溶した層等を指す。本発明におけるSn層とは、上記の通り熱処理していないSnめっきや、Snめっき後リフロー処理等の熱処理をした後CuSn拡散層とならなかった残存Sn層などを指す。Sn層は概ねSnの含有率が90%以上である。また、Snめっき層は、この他にも、溶融したSnにCu系材料を浸漬してSn層とCuSn層(CuSn拡散層)を形成する、いわゆる溶融Snめっき(Hot Dip)により形成してもよい。
【0021】
図1および図2は、本発明のSnめっき層の剥離方法を実施する装置の概略を示す。図1に示すように、水酸化アルカリ水溶液10を収容した例えば直方体状の槽1の中に、円筒形のバレル2が取り付けられている。バレル2は、例えばステンレスの金網で成形され、支持部材7を介して槽1上部のバレル固定部3に取り付けられる。バレル2は、バレルモータ4の駆動によって図示しないベルト等を介して回転力が伝達され、バレル2の中心軸線廻り(例えばR方向)に回転する。
【0022】
Snめっき層が形成された切断加工やプレス加工後のスクラップ等のCu系材料である被処理物5は、図1および図2に示されるようにバレル2の下方に収容されており、バレル2は、被処理物5とともに水酸化アルカリ水溶液10中に浸漬される。この水酸化アルカリ水溶液10中に、H水溶液を添加する。従来のようにH水溶液を水酸化アルカリ水溶液10の外側、例えば上方から滴下すると、Snめっき層の剥離スピードが遅く、特にCuSn層をSnめっき層中に有する場合は、時間をかけてもCuSn層を除去することが非常に困難である。本発明らが試験を繰り返した結果、H水溶液を水酸化アルカリ水溶液10中で添加することにより、Snめっき層の剥離の速度を十分大きくすることができ、さらにCuSn層も十分な速度で除去できることを見いだした。例えば図2に示すように、H供給管6の先端を槽1の底部付近まで差し込んで、水酸化アルカリ水溶液10の底部付近から供給する。あるいは、H供給管6の先端をバレル2の内部の水酸化アルカリ水溶液10中の任意の場所に差し込んでH水溶液を供給しても構わない。そして、バレル2を回転させ、H水溶液が混ざった水酸化アルカリ水溶液10を撹拌することで、被処理物5のSn層及びCuSn層を効果的に剥離することができる。
【0023】
なお、実際に、H水溶液を特許文献2に記載されているように水酸化アルカリ水溶液10の上方から滴下したところ、特にCuSn層の溶解が非常に遅く、実質的に剥離できなかった。この理由として、水酸化アルカリ水溶液10に触れた瞬間にHの分解反応が始まり、反応で生じる酸素が大気中に放散され易くなるため、水酸化アルカリ水溶液10中に酸素が十分には溶け込まず、十分な剥離効果が得られないのではないかと考えられる。
【0024】
本発明では、水酸化アルカリ水溶液中の水酸化アルカリの濃度は、質量%で3.0〜37.5%、好ましくは3.5〜30.0%の範囲とする。濃度が3.0%未満あるいは37.5%を超えると、Snめっき層の剥離効果が低くなる。濃度が高い場合は、添加するHの分解が速くなるために剥離効果が低下するものと推測される。特に、CuSn拡散層を剥離するためには、水酸化アルカリの濃度が5.0〜25.0%の範囲が、より好ましい。
【0025】
水酸化アルカリ水溶液中の水酸化アルカリのmol数をAとし、H水溶液中のHのmol数をBとしたときに、mol比A/Bが10以上となるようにする。A/Bが10未満では、コストが極めて高くなるうえ、Snめっき層の剥離効果が十分ではなくなる。さらに、Snめっきが施されたCu系材料のSn層中のSnのmol数をC、CuSn層中のSnのmol数をDとしたときに、B≧C×2+D×6とする。B≧C×2+D×6となるHのmol数Bが必要な理由は、CuSnの金属間化合物と関係があると考えられ、B<C×2+D×6の場合にはCuSn層が十分に溶解しない。また、水酸化アルカリのmol数AとSn層中のSnおよびCuSn層中のSnを合わせたmol数(C+D)との比A/(C+D)が50以上であることが好ましく、さらに100以上であることが好ましい。
【0026】
水酸化アルカリ水溶液の温度は、Cu系材料を浸漬した際に60〜105℃、好ましくは70〜100℃の範囲になるようにする。60℃を下回るとSnめっき層の剥離効果が低く(剥離スピードが遅く)、105℃を超えると、Hの投入時に突沸が起こる可能性があり、安全上100℃以下とした方が好ましい。
【0027】
アルカリ水溶液中のアルカリ分が大気中の二酸化炭素を吸収して、一部NaCO等の炭酸アルカリに置換されるが、炭酸アルカリの量が増えると剥離反応を低下させることがわかった。そのため、炭酸アルカリの濃度は20質量%以下とし、15質量%以下としておくことが好ましい。炭酸アルカリがこの濃度を超えないように、水酸化アルカリ水溶液の添加を行えばよい。
【0028】
添加するH水溶液の中のHの濃度は、質量%で3.0〜50.0%、好ましくは3〜35%とし、水酸化アルカリ水溶液中に連続添加する。濃度が3.0%を下回ると、必要なHのmol数Bを満たすためのH水溶液の量が多くなり、溶液質量(体積)増加率が大きくなって、水酸化アルカリ水溶液のアルカリ濃度が大きく薄まってしまう。そのため、連続的に剥離を行う場合、薄まった液を抜き取って廃棄し、水酸化アルカリを補充することが必要となり、コスト的に不利となる。50%を超えると、局所的な反応が起こりやすく、Hを必要以上に消費してしまうため、コスト的に不利となる。5質量%〜35質量%であることが、より好ましい。また、H水溶液の添加時間は5〜60分が好ましく、全添加量は、水酸化アルカリ水溶液の質量の10%以下が好ましく、さらに5%以下であることが好ましい。H水溶液の添加時間が5分未満で必要量を投入する場合、Snのめっき層の剥離に消費されるよりも、アルカリと反応して分解する方が多くなる。また、H水溶液の添加時間が60分を超えると生産性の低下を招くうえ、本発明の範囲で十分にSnめっき層の剥離が行える。
【0029】
水溶液を必要量投入した後、Cu系材料をすぐに引き上げず、水溶液中に浸漬したまま保持しても良い。この場合、生産性の観点から、保持時間は60分以内が好ましい。
【0030】
以上のように、アルカリおよびHを所定のmol数としてアルカリ溶液の水中においてH水溶液を添加することにより、Sn層およびCuSn層を容易に剥離できる。しかも、液量をほとんど増加させることがなく、剥離能力も劣化しないので、連続的にSnめっき層を剥離することができる。さらに、Cu系材料を浸漬する液の酸化還元力を利用してSnの剥離を行うので、例えば図1に示すようなバレル2、または撹拌羽の回転等の撹拌手段で撹拌を行うか、あるいは循環ポンプ等を設置して液を撹拌等することにより、従来の電解法では均一に剥離できなかった細かい屑状の表面のSn分も容易且つ均一に剥離できる。また、アルカリ溶液に浸漬することにより、切断加工(例えばスリット加工)やプレス加工により加工油が付着したCu系材料の脱脂を行いながら、同時にSn層およびCuSn層の剥離を行うことができる。
【0031】
さらに、所定のH水溶液を添加した後、H水溶液の添加を停止し、Cu系材料をそのまま液中に浸漬保持することにより、CuSn層を溶解して発生したCuイオンがCu系材料の表面に還元析出されるため、Cu分の無駄な漏出を防ぎ、有効に再利用することができる。
【0032】
本発明によれば、脱脂作用を有する水酸化アルカリ水溶液を用いるため、通電部製品とするためにスリット加工やプレス加工が行われて加工油が付着したCu系材料であっても、前処理として脱脂工程を行うことなく、上記のように、脱脂と同時にSnめっき層の剥離を行うことができる。なお、本発明のSnめっき層の剥離方法において、効率的に剥離を行うためには、Snめっきの厚さが5μm以下であることが好ましく、CuSn層の厚さは2μm以下であることが好ましい。
【0033】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。例えば、図1および図2に示した装置は一例であり、水酸化アルカリ水溶液の撹拌方法はバレルに限らず、またHの供給手段も図2の供給管には限らない。
【実施例1】
【0034】
図1に示す装置により、Snめっき層を有するCu系材料のSnめっき層の剥離試験を行った。Snめっき厚さが0.5〜4μm、板厚が0.25〜0.8mmのCu系材料を、本発明の剥離方法を適用して、本発明例1〜16の16種類について、Snめっき層の剥離試験を行った。アルカリ水溶液は、本発明例16のみKOH、他はNaOHの水溶液とし、水酸化アルカリ濃度を質量%で3.0〜37.5%、温度を60〜100℃の範囲で、各例についてそれぞれ設定した。また、H水溶液(過酸化水素水)の濃度は、質量%で3〜35%の範囲で各例についてそれぞれ設定し、アルカリ水溶液の底部付近の水中から添加した。さらに、H水溶液の添加を中止した後、本発明例6は15分間、本発明例9は10分間、Cu系材料をアルカリ水溶液中に保持し、他はH水溶液の添加を中止してすぐにアルカリ水溶液から取り出した。
【0035】
本発明例1〜16それぞれについて、Snめっき層のSn層中のSnのmol数C、CuSn拡散層中のSnのmol数Dから、H水溶液のHのmol数Bの必要mol数(B≧C×2+D×6)を求め、それ以上のmol数となるように、H水溶液のHのmol数を設定した。さらに、水酸化アルカリ溶液の水酸化アルカリのmol数Aと添加するH水溶液のHのmol数Bとの比A/Bが10以上となるように、アルカリ溶液のmol数を設定した。
【0036】
また、バレルの周速を2.6〜15.5m/minの範囲でそれぞれ設定した。
【0037】
本発明例においては、Cu系材料上にSnめっきを施しリフロー処理して形成されたSnめっき層について、剥離試験を行った。ここで、リフロー処理されたSnめっき層に対し、蛍光X線式膜厚計で測定されたSnの厚さの値を、Cu系材料上に施されたSnめっきの厚さと見なした。蛍光X線式膜厚計は、セイコーインスツルメンツ製SFT3300を使用した。蛍光X線式膜厚計でSnめっき層を測定する前に、Cu系材料の上に、蛍光X線式膜厚計用のSnの標準厚さのサンプルを載せ、機器の較正(キャリブレーション)を行った。また、上記Snめっき層に対して剥離試験を行った後のサンプルの表面に対し、蛍光X線式膜厚計でSnの厚さを同様に測定し、測定された値をSn分の残厚として、Snめっき層の剥離の度合を評価した。Snめっき層のSn層(純Sn層)厚さは、電解式膜厚計(中央製作所製TH11)で測定した。
【0038】
Snめっき層中に含まれる全Snのmol数は、Cu系材料の板厚と質量及び上記Snめっき層の厚さから算出した。Sn層中のSnのmol数は、同様に上記Sn層の厚さから算出した。CuSn層中のSnのmol数は、上記Snめっき層の全Snのmol数の内、Sn層中のSnのmol数を差し引いたものであるので、上記Snめっき層中の全Snのmol数から上記Sn層中のSnのmol数を引いて算出した。剥離試験後のSn分の残厚は、剥離試験後のCu系材料を50個抜き取り、上記の蛍光X線式膜厚計で測定した結果(測定値)とし、その平均値を示した。
【0039】
一方、比較例として、Snめっき厚さが1μm、板厚が0.25mmの同様のCu系材料をNaOH水溶液に浸漬した7種類の剥離試験を行った。比較例は、それぞれ、H水溶液をアルカリ溶液の上方から滴下したもの(比較例1)、アルカリ水溶液の濃度が高すぎるもの(比較例2)、A/Bが10未満のもの(比較例3)、アルカリ水溶液の温度が60℃未満のもの(比較例4)、H水溶液の濃度が3質量%未満であり、H水溶液の添加量がアルカリ水溶液の10質量%を超えたもの(比較例5)、アルカリ水溶液の濃度が3質量%未満であり、A/Bが10未満のもの(比較例6)、H水溶液のHのmol数Bが必要量以下であるもの(比較例7)とした。
【0040】
以上の各本発明例および比較例のCu系材料、アルカリ水溶液、H水溶液の条件および剥離試験結果を、それぞれ表1および表2に示す。なお、表1中の素材種類欄はCDA番号で示してあり、C2600は黄銅、C1020は無酸素銅、C19025はNi:1.0質量%、Sn:0.90質量%、P:0.05質量%、残部Cuからなる銅合金である。これらのCu系材料のスクラップ材として、加工油の付着したプレス屑を、全ての実施例および比較例のサンプルとした。また、表2の比較例について、本発明から外れる条件には下線を付した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
Cu系材料をリサイクルするに際しては、Sn分の残厚の目標値は0.1μm以下、好ましくは0.05μm以下であり、表1に示すように、本発明例においては、Cu系材料の条件に関わらず、残厚が0.00〜0.06μm(NaOH水溶液の場合には0.04μm以下)と、良好な結果となった。比較例では、比較例5以外の全てで残厚が0.1μmを超えており、十分にSn層、特にCuSn層を剥離できなかった。
【0044】
比較例5は、Sn分の残厚が0.09μmであり、Snめっき層の溶解(剥離)はできたが、処理液の液量が12.5質量%増加した。連続したSnめっき剥離処理をするためには、液を蒸発や濃縮等で減少させ薬液の濃度を調整する等の処置(工程)が必要であり、Cu系材料のSnめっき層の剥離方法として、手間とコストがかかり不適であった。
【実施例2】
【0045】
実施例1の本発明例1と同様の条件で、同じアルカリ水溶液を10回繰り返し使用する試験を行った。
【0046】
その結果、10回繰り返し使用しても、Sn分の残厚は0.01μmと良好な結果であった。
【実施例3】
【0047】
実施例1の本発明例1と同様の条件に、炭酸ナトリウムを質量%で5、10、20%添加した水溶液である以外は実施例1と同様の条件で、Sn剥離試験を行った。この結果、Sn分の残厚は、5、10%添加の場合、0.01μm、15%添加の場合、0.04μm、20%添加の場合、0.08μmであり、炭酸ナトリウム量の増加によって剥離能力は低下したが、20%添加までであれば、特に問題はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、Snめっき層の剥離に適用できる。
【符号の説明】
【0049】
1 槽
2 バレル
3 バレル固定部
4 バレルモータ
5 被処理物(Cu系材料)
6 H供給管
7 支持部材
10 水酸化アルカリ水溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn層および/またはCuSn層を含むSnめっき層が形成されたCu系材料をリサイクルするための、Cu系材料のSnめっき層の剥離方法であって、
前記Cu系材料を、3.0〜37.5質量%の濃度の水酸化アルカリ水溶液中に浸漬し、前記水酸化アルカリ水溶液の水中において、3.0〜50.0質量%の濃度のH水溶液を添加し、
前記Cu系材料を浸漬したときの前記水酸化アルカリ水溶液の温度が60〜105℃であり、
前記水酸化アルカリ水溶液の水酸化アルカリのmol数Aと前記H水溶液のHのmol数Bとの比A/Bが10以上であり、
前記Sn層中のSnのmol数をC、前記CuSn層中のSnのmol数をDとすると、B≧C×2+D×6とすることを特徴とする、Cu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項2】
前記水酸化アルカリ水溶液が、NaOHまたはKOHの水溶液であることを特徴とする、請求項1に記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項3】
前記H水溶液を、前記水酸化アルカリ水溶液の底部から添加することを特徴とする、請求項1または2に記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項4】
前記水酸化アルカリ水溶液を撹拌しながら前記H水溶液を添加することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項5】
前記水酸化アルカリ水溶液に所定量の前記H水溶液を連続添加した後、前記H水溶液の連続添加を停止して、前記Cu系材料を前記水酸化アルカリ水溶液に1時間以内の間浸漬保持することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項6】
前記水酸化アルカリ水溶液中の炭酸アルカリの濃度が、20質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項7】
前記Snめっきが施されたCu系材料が、切断加工またはプレス加工による加工油が付着したものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項8】
前記Cu系材料のSnめっきの厚さが5μm以下であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項9】
前記CuSn層の厚さが、0.2〜2μmであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。
【請求項10】
前記H水溶液の連続添加時間が5〜60分であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載のCu系材料のSnめっき層の剥離方法。

【図1】
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【図2】
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