説明

D−アロースの血糖上昇抑制効果の利用

【課題】 炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制する効果を持つ組成物の提供。
【解決手段】 D−アロースを含み、炭水化物および/または糖類を摂取した時の急激な血糖値上昇を抑制すること、を特徴とする組成物。D−アロースはD−アロースおよび/またはその誘導体である上記の組成物。D−アロースは、D−アロースとD-アロースより少ない重量割合のD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物である。人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常に起因する食事制限を、上記の組成物を用いることで緩和し、生活の質(QOL)を向上させる方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希少糖の1種であるD−アロース(D−allose)の有する血糖上昇抑制効果の利用に関する。また、D−アロースの血糖上昇抑制効果に対する希少糖の1種であるD−プシコース(D−psicose)の増強作用の利用に関する。
D−アロースは、D−アロースそのもの、D−アロースの誘導体そのもの、またはD−アロースおよびその誘導体の混合物の意味で用いている。以下、これら全部を含めてD−アロースと略称する場合がある。
【背景技術】
【0002】
希少糖は天然に存在するが、その存在量が微量である単糖をいう。希少糖は化学構造により、アルドース、ケトースおよびアルコールに分けられる。アルドース類としては例えばD−アロースが、ケトース類としては例えばD−プシコースが、アルコール類としては例えばアリトールがある。
【0003】
従来これら希少糖の大部分は大量生産ができず入手困難であったため、その生理活性や薬理活性に関する研究はほとんどなされていなかった。最近、香川大学農学部の何森らにより酵素を用いた大量生産方法が開発されその生物活性に関する研究が進んでいる。
【0004】
アルドースの1種であるD−アロースについては白血球を用いたin vitro実験で活性酸素産生抑制作用等が、ケトースの1種であるD−プシコースについては同様の実験で活性酸素消去作用やMCP−1分泌抑制作用などが、それぞれ見出されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】国際公開番号WO03/097820
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在我が国には、糖尿病患者が約200万人、糖尿病が強く疑われる人が約880万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約740万人、また肥満といわれている人が約2300万人いるとされている。糖尿病や肥満は、高血糖は勿論、高脂血症や高尿酸血症を併発していることが多く、最近では「メタボリックシンドローム」として生活習慣病のうちでも特に脳血管障害を現わしやすく、死亡やQOL低下を引き起こす危険因子と見なされている。検査値の異常や症状として現われていない高血糖症、高脂血症および高尿酸血症は特に危険で、その対策が急がれている。検査値の異常や症状が現れない限り治療の対象とはならないので、これらの予防や対処は薬物以外の方法に頼らざるを得ない。そのため、最近では血糖調節あるいは血中脂質調節をうたった各種の食品が市販されている。しかし、これらの食品は効果が不確実で味もよくないといった短所を持っており、確実に効果が現れ、使用しやすい成分が求められている。
【0007】
一般に、血糖とは血中に存在するD−グルコースを指し、化学構造から見ると、D−グルコースはアルドースであり、D−アロースと同じグループに属している。すなわちD−アロースはD−グルコースと構造的に第3番目の炭素についているHとOHの位置が逆転している3位のエピマーである。構造的に類似しているD−アロースは、細胞へのD−グルコースの取り込みに影響を与えることも想定される。従って、D−アロースについても、血糖上昇を抑制する効果が期待できる。そこで、本発明では、高血糖病態動物および肥満病態動物を用いて、D−アロースが血糖上昇抑制効果を有するか否かについて、ついでD−アロースのこの効果に対するD−プシコースの増強作用について検討した。
【0008】
本発明の目的は、D−アロース単独、あるいはD−アロースとD−プシコースの混合物を含み、炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制する効果を持つ組成物の提供である。
【0009】
また、本発明は、炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制することができ、肥満および/または糖尿病などを改善することによりメタボリクシンドロームを含む生活習慣病の発症あるいは進行の予防あるいは症状の改善が可能である、高脂血症および/または高血糖症などを示す人および/または動物用に適したD−アロース単独、あるいはD−アロースとD−プシコースの混合物を含有した組成物を提供することを目的とする。本組成物には、食品、食品素材、食品添加物、飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料等が含まれる。
【0010】
さらに、本発明は、D−アロース単独、あるいはD−アロースとD−プシコースの混合物を含有する組成物を用いることで、人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常に起因する食事制限を緩和し、生活の質(QOL)を向上させる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、D−アロースを含み、炭水化物および/または糖類を摂取した時の急激な血糖値上昇を抑制すること、を特徴とする組成物を要旨とする。
【0012】
D−アロースがD−アロースおよび/またはその誘導体であり、本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体を含み、炭水化物および/または糖類を摂取した時の急激な血糖値上昇を抑制すること、を特徴とする組成物を要旨とする。
【0013】
D−アロースが、D−アロースとD-アロースより少ない重量割合のD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物であり、本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体とD-アロースおよび/またはその誘導体より少ない重量割合のD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を含み、炭水化物および/または糖類を摂取した時の急激な血糖値上昇を抑制すること、を特徴とする組成物を要旨とする。
【0014】
また、本発明は、人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常に起因する食事制限を、上記に記載の組成物を用いることで緩和し、生活の質(QOL)を向上させる方法を要旨とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、D−アロースおよび/またはその誘導体単独、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を含み、炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制する効果を持つ組成物を提供することができる。すなわち、D−アロースおよび/またはその誘導体単独あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を含むことを特徴とする炭水化物および/または糖類摂取時の血糖上昇を抑制する組成物、高血糖状態および/または高脂血状態を改善する組成物を提供することができる。また、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームの発症あるいは悪化を防止、あるいは予防あるいは症状を改善する組成物および糖質代謝異常および/または脂質代謝異常を改善する組成物を提供することができる。
【0016】
本発明は、炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制することを特徴とし、D−アロースおよび/またはその誘導体単独あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体との混合物を有効成分として含有する組成物、食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および患獣用飼料を提供することができる。
【0017】
また、本発明により、人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常に起因する食事制限を緩和し、生活の質(QOL)を向上させる方法を提供することができる。実施例では、糖質代謝異常あるいは脂質代謝異常の病態モデル動物を用いて実験を行っており、これらの改善に効果があるということが認められている。
すなわち、本発明の上記の組成物を用いることを特徴とする炭水化物および/または糖類摂取時の血糖上昇を抑制する方法、高脂血状態を改善する方法、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームの発症あるいは悪化を防止、あるいは予防あるいは症状を改善する方法および糖質代謝異常および/または脂質代謝異常を改善する方法を提供することができる。
【0018】
また、本発明により、D−アロースまたはその誘導体単独あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を有効成分として含有する組成物を用いる、炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制する方法、高脂血状態を改善する方法、肥満、糖尿病および/またはメタボリックシンドロームの発症あるいは悪化を防止、あるいは予防あるいは症状を改善する方法および糖質代謝異常および/または脂質代謝異常を改善する方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体を単独で、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を含有することを特徴とする、炭水化物および/または糖類摂取時の血糖上昇を抑制する組成物である。本発明で用いるD−アロースおよび/またはその誘導体ならびにD−プシコースおよび/またはその誘導体について説明する。D−アロースおよびD−プシコースは共に希少糖であり、D−アロースはアルドースに、D−プシコースはケトースにそれぞれ属している。希少糖は天然に微量ではあるが存在する単糖であって、ヒトに対する毒性の報告はなく、動物に対する毒性は低いと考えられる。D−アロースの味は必ずしもよいとはいえないが、D−プシコース自体は甘みや保湿性があり、D−アロースと混合することにより、D−アロースの味をマスクすることができる。
【0020】
D−アロースまたはD-プシコースの誘導体について説明する。ある出発化合物から分子の構造を化学反応により変換した化合物を出発化合物の誘導体と呼称する。D−アロース、D-プシコースを含む六炭糖の誘導体には、それらのエステル体およびエーテル体、糖アルコール(単糖類を還元すると、アルデヒド基およびケトン基はアルコール基となり、炭素原子と同数の多価アルコールとなる)や、ウロン酸(単糖類のアルコール基が酸化したもので、天然ではD-グルクロン酸、ガラクチュロン酸、マンヌロン酸が知られている)、アミノ糖(糖分子のOH基がNH2基で置換されたもの、グルコサミン、コンドロサミン、配糖体などがある)などが一般的であるが、それらに限定されるものではない。
【0021】
D-アロースの生産はD-プシコースをL-ラムノースイソメラーゼを用いて異性化し、その混合物からD-アロースを分離することで生産可能である。特開平2004−298106号公報に記載されているように、L-ラムノースイソメラーゼ(L-RhI)を用いてD-プシコースから希少糖D-アロースを大量生産することができる。D−アロースとD−プシコースの混合物を製造するには、L-ラムノースイソメラーゼをD-プシコースに作用させ異性化反応して、D-プシコースおよびD-アロースの混合物を調製する方法が有利に実施できる。D-プシコースとD-アロースを分離することなく、混合結晶として得ることができる。結晶化前の溶液中のD-アロースの割合はD-プシコースよりも50%以下であるにも関わらず、その結晶ではD-アロースが等量もしくはD-プシコースよりも割合が多くなる。一方、D-プシコースとD-アロースが1:1で混合した場合の結晶の組成比もD-プシコースとD-アロースが約2:3でありD-アロースが結晶に多く含まれている。つまり、D-プシコースとD-アロースの混合糖が結晶化した場合、D-プシコースとD-アロースの比率がおよそ1:1から2:3の間で安定した結晶構造になるのではないかと考えられる(PCT/JP2006/304151)。
【0022】
上記の組成物で、D−アロースおよび/またはその誘導体あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体をそれぞれ0.1〜50重量%含む組成物である。すなわち、本発明の組成物においては、D−アロースおよび/またはその誘導体の単独あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を含有する場合は、組成物中にそれぞれ0.1〜50重量%含まれるように配合されている。好ましくはそれぞれ5〜40重量%、より好ましくはそれぞれ10〜30重量%である。 含有量が少ない場合には組成物の摂取量を増やせば良く含有量が多い場合には組成物の摂取量を少なくすれば良い。よって、配合割合について、通常飲食品には下限に近い配合割合で用いることができるが、医薬品、錠剤やカプセルに入れて用いるような場合は上限に近い配合割合で用いることができる。D−アロースおよび/またはその誘導体あるいはD−プシコースおよび/またはその誘導体の投与量は、経口投与の場合、成人に対しD-プシコースとして、1日量0.3〜50gを摂取するのが好ましいが、年令、症状により適宜増減することも可能である。前記1日量の本発明の血糖上昇抑制剤は、1日に1回、又は適当な間隔をおいて1日2もしくは3回に分けて、あるいは食前、食後あるいは食事とともに摂取することが好ましい。
【0023】
上記の組成物で、D−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体を1:1〜10:1の割合で含む組成物である。3:1での実施例があり、例えば「D−アロースが、D−アロースとD-アロースより少ない重量割合のD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物」が好ましい例として挙げられる。すなわち、D−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物における混合比率は、1:1〜10:1となるように配合される。好ましくは2:1〜8:1、より好ましくは3:1〜5:1である。D−アロースおよび/またはその誘導体の割合がD−プシコースおよび/またはその誘導体より小さい場合には前者に対する増強効果が弱くなる。
【0024】
これらの希少糖は共に水に溶けやすく、コーヒーやジュースなどの飲料や菓子類および各種の加工食品に有効成分として添加することは容易であり、これら食品製造のための食品素材あるいは食品添加物として用いることができる。希少糖D-アロースおよびD-プシコースはそれぞれ特有の生理活性を有しておりその用途には大きい期待がある(国際公開番号WO 03/097820 A1)。D-プシコースの血糖上昇抑制効果はすでに実験で証明されている(特開2005-213227号公報)。D−アロースの血糖上昇抑制効果、およびその効果はD−プシコースの同時投与により増強されることから、これら2種の希少糖の併用は本発明のより好ましい使用態様である。
すなわち、本発明は、D−アロースおよび/またはその誘導体を含み、人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常の改善およびこれら異常により発現する疾患の発症あるいは悪化防止、あるいは予防あるいは症状改善を目的とする組成物である。
【0025】
上述のように糖尿病ではないが糖尿病が強く疑われる人が約880万人、糖尿病の可能性を否定できない人が約740万人、また肥満といわれている人が約2300万人いるといわれている。これらの人々の多くは食事制限により糖尿病の発症や肥満の進行を防止している。本発明は、例えば糖尿病、潜在的糖尿病状態、肥満症、高脂血症、動脈硬化症、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の、食後の過血糖の繰り返しによる発症、症状悪化の予防および治療を目的とした医薬品、保健食ならびに病人食に係わるものである。従って、本発明により、これらの人たちへの医薬品、実効性のある保健食ならびに病人食の提供が可能となる。
【0026】
本発明が対象とする組成物(食品、保健用食品、患者用食品、食品素材、保健用食品素材、患者用食品素材、食品添加物、保健用食品添加物、患者用食品添加物、飲料、保健用飲料、患者用飲料、飲料水、保健用飲料水、患者用飲料水、薬剤、製剤原料、飼料、患畜および患獣用飼料)は、D−アロース単独あるいはD−アロースとD−プシコースの混合物を含む食用および/または薬用の組成物であれば何でもよい。
【0027】
また、本発明の上記の組成物を用いることにより、人および/または動物における炭水化物および/または糖類を摂取した時の急激な血糖値上昇を抑制することができる。上記の組成物を、人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常の改善およびこれら異常により発現する疾患の発症あるいは悪化防止、あるいは予防あるいは症状改善を目的として使用する方法である。人や動物が食品として摂取する炭水化物および/または糖類は、ほとんどがデンプンなどの多糖類で、ブドウ糖などの単糖類はまれである。さらに、炭水化物および/または糖類摂取時の急激な血糖上昇が問題となるのは、境界型糖尿病など血糖値が正常よりやや高い場合や軽度の肥満症の場合を初め、糖尿病や肥満症などの病態においてである。人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常の改善およびこれら異常により発現する疾患の発症あるいは悪化防止、あるいは予防あるいは症状改善を目的として使用する方法である。
【0028】
実施例に示すように、高血糖病態を示す動物および肥満動物を用いて、デンプンを経口投与した場合の血糖上昇に対するD−アロースの効果およびこの効果のD−プシコースによる増強について検討した。その結果、D−アロースがデンプン経口投与による血糖上昇を抑制し、D−アロースと同時に投与したD−プシコースがD−アロースの効果を増強することを見いだし、その発見をもとに鋭意研究を重ねて本発明を完成するに至った。
本発明は、炭水化物および/または糖類を摂取した場合の急激な血糖値上昇を抑制することができ、肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームなどの生活習慣病の発症や進行の予防あるいは治療が可能で、高脂血症、高血糖症および/またはメタボリックシンドロームなど糖質代謝異常および/または脂質代謝異常を示す人および/または動物用に適したD−アロース単独またはD−アロースとD−プシコースの混合物を含有した組成物に関する。本組成物には、食品、食品素材、食品添加物、飲料、飲料水、薬剤、製剤原料、飼料等が含まれる。
【0029】
また本発明は、D−アロース単独またはD−アロースとD−プシコースの混合物の血糖上昇抑制効果を利用することを特徴とする、炭水化物および/または糖類を摂取した場合の急激な血糖値上昇を抑制する方法に関する。
【0030】
本発明の患者用食品について説明する。上述のように糖尿病患者は約200万人、また肥満といわれている人が約2300万人いるといわれている。糖尿病は治療が困難で、副作用が少なく有用性の高い治療薬も少ない。本発明の組成物は、患者用食品として一般の食事とともに摂食、服用あるいは飲用することにより、これら疾患の発症や進行を予防し、患者のQOLをたかめるとともに、治療薬の使用量を低減することができる。
【0031】
D−アロースおよび/またはその誘導体の単独、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物をヒトが摂取する場合、個々人の年齢、体重および症状などによって用法用量が決定されるべきであるが、多くの場合有効な用量はD−アロースおよび/またはその誘導体およびD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれについて1日当たり0.3〜50gで、分割して食前、食後あるいは食事とともに摂取されるのが適当である。
【0032】
本発明の組成物の、炭水化物および/または糖類摂取時の血糖上昇の抑制を目的とした使用形態としては、錠剤、カプセル剤や、飲料などに溶解させる粉末あるいは顆粒などの固形剤、軟膏剤、貼付剤あるいはゼリー剤などの半固形体、飲料水などの液体、希釈して用いる高濃度溶液などがある。さらに、本発明の組成物を適宜食品に添加して炭水化物および/または糖類摂取時の血糖上昇の抑制を目的とした病人食または保健食とすることができる。任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D-ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0033】
本発明の飲料水について説明する。糖尿病、肥満症、潜在的糖尿病あるいはメタボリックシンドロームなど糖質代謝異常や脂質代謝異常を示す人たちの多くは、食事制限によりこれら疾患の発症と進行を防止している。しかし、カロリー低減などの食事制限はこれらの人たちに大きな負担を強いており、食事制限を継続することは困難であるといわざるを得ない。本発明の飲料水は、D−アロースおよび/またはその誘導体単独あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を0.1〜5重量%含む無色透明で無臭でほとんど無味の水溶液である。この割合は、好ましくは0.5〜3重量%、より好ましくは1〜2重量%である。
0.1重量%未満であると1日量0.3〜50gを摂取するのが困難であり、血糖上昇抑制効果が十分ではなく、5重量%を越えると無味ではなくなる。この飲料水は、無色透明でにおいはなく、かすかな甘みを有する。したがって、そのまま飲料水として飲用できるとともに、炊飯、調理やお茶、コーヒーなどを淹れるためにも使用できる。
【0034】
本発明の飲料水をこのように日常の食事や嗜好品を作るために使用することにより、これら食事や嗜好品と共に摂取される炭水化物および/または糖類による血糖の急激な上昇を抑制することができる。このことは、上記の食事制限を緩和できることを示すものであり、糖質代謝異常や脂質代謝異常を示す人たちにとっては、少ない制限のもとで食事などを楽しむことができ、QOLの向上に益するものである。
【0035】
本発明の薬剤について説明する。本発明者は、D−アロース単独の多糖類摂取時の血糖上昇を抑制する効果ならびにD−アロースのこの効果のD−プシコースによる増強について、病態実験動物を用いて詳細に検討した。
【0036】
その結果、D−アロースおよびD−プシコースに多糖類摂取時の急激な血糖上昇を抑制する強い効果があり、同時に投与したD−プシコースがD−アロースのこの効果を増強することを見出した。
【0037】
D−アロースおよび/またはその誘導体単独、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を有効成分とする上記の効果を目的とした薬剤は、これらのみで用いるほか、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの適当な添加剤を配合し、液剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、錠剤、外用剤、ゼリー剤あるいは注射剤等の適当な剤型を選んで製剤し、経口的、経静脈的、経鼻的あるいは経皮的に投与することができる。
【0038】
本発明の組成物を薬剤として臨床に適用するに際しては、有効成分としてD−アロースおよび/またはその誘導体の単独、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を、固体、半固体または液体の医薬用担体、例えば希釈剤、賦形剤、安定剤等の添加剤とともに含む製剤とすることが望ましい。
【0039】
前記有効成分の担体成分に対する割合は、1〜90重量%の間で変動させ得る。剤型および投与形態としては、顆粒剤、細粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、液剤、ゼリー剤などの経口剤として、あるいは原末のまま経口投与してもよい。もしくは軟膏、クリーム剤、貼付剤など外用剤の剤型にして、経皮的に投与してもよい。または液剤として使用する場合には、経口投与の他に経静脈的あるいは経鼻的に投与してもよい。
【0040】
経口投与、経静脈投与、経鼻投与あるいは経皮投与に適した医薬用の有機又は無機の固体、半固体又は液体の担体、溶解剤もしくは希釈剤を、本発明の組成物を薬剤として調製するために用いることができる。
【0041】
水、ゼラチン、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、タルク、動植物油、ベンジルアルコール、ガム、ポリアルキレングリコール、石油樹脂、ヤシ油、ラノリン、又は医薬に用いられる他のキャリアー(担体)は全て、本発明の組成物を含む薬剤の担体として用いることができる。
【0042】
また、安定剤、湿潤剤、乳化剤や、浸透圧調整や配合剤の適切なpHを維持するための塩類を補助薬剤として適宜用いることができる。
【0043】
さらに、本発明の組成物を含有する薬剤は、高血糖あるいは肥満を現わす疾患の治療において、本発明の薬剤とともに適切に投与することができる他の医薬として有効な成分、例えば他の適当な血糖調節薬、例えば血糖降下薬あるいは血糖上昇抑制薬などまたは肥満改善薬、例えば高脂血症治療薬、食欲減退薬などを含有していてもよい。
【0044】
顆粒剤、細粒剤、カプセル剤、散剤、錠剤等の経口剤および軟膏あるいは貼付剤等の外用剤の場合には、本発明の組成物を1〜50重量%含有しているのが好ましく、液剤の場合には、対応する量(割合)は1〜50重量%であるのが好ましい。
【0045】
臨床投与量は、経口投与の場合、成人に対してD−アロースおよび/またはその誘導体およびD−プシコースおよび/またはその誘導体のそれぞれについて1日量1〜50gを内服するのが好ましいが、年齢、症状などにより適宜増減することも可能である。前記1日量の本発明の組成物を含む薬剤は、1日1回または適当な間隔を置いて1日2回以上にわけて、あるいは食前、食後あるいは食事とともに投与することが好ましい。
【0046】
本発明の製剤原料について説明する。他の適当な血糖調節薬、例えば血糖降下薬あるいは血糖上昇抑制薬などまたは肥満改善薬、例えば高脂血症治療薬、食欲減退薬などを薬剤として製造するときに、D−アロースおよび/またはその誘導体の単独、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物を、製剤原料として、一般的賦形剤、安定剤、保存剤、結合剤、崩壊剤などの目的で使うこともできる。
【0047】
あるいは、例えば続発性に高血糖症や高脂血症が現れた場合には原因疾患の治療に加えて血糖調節や血中脂質調節が必要となるが、このような場合の原因疾患治療剤製造に、本発明の組成物を上記のような製剤原料としても用いることができる。
【0048】
この場合のD−アロースおよび/またはその誘導体の単独、あるいはD−アロースおよび/またはその誘導体とD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物の使用量や他の適当な薬物などとの割合は、これら薬物の製剤中含有量あるいは性質により適宜調整することができる。
【0049】
[作用]
ラット遺伝的高血糖モデルであるGKラットおよび遺伝的肥満モデルであるZucker(fa/fa)ラットにおいて、D−アロースを経口投与した場合に、デンプン投与による血糖上昇を強く抑制した。D−プシコースにも同様の強い血糖上昇抑制効果が見られ、D−アロースとD−プシコースを併用した場合には、それぞれ単独投与時と較べて血糖上昇抑制効果は増強した。
【実施例】
【0050】
以下、本発明を実施例および試験例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによってなんら限定されることではない。
【0051】
[実施例1]
(実験方法)
実験動物として、それぞれ11週齢のGKラットおよびZucker(fa/fa)ラットを1群8匹として用いた。動物を約24時間絶食させた後、体重と血糖値を測定した。血糖値は内側足底静脈から採血し、デキスターZII(バイエルメディカル株式会社)にて血糖値を測定した。これを初期値とし、ラット32匹を血糖値の平均値とばらつきが一定となるように群分けした。
【0052】
血糖を上昇させるために、アルファ化デンプン(αStarch)1g/kgを経口投与した。被験物質は全て蒸留水に溶解し、強制経口投与した。投与容量は10mL/kgとした。血糖値は、被験物質投与直前、投与30分、1時間および2時間後に測定した。
【0053】
GKラットおよびZucker(fa/fa)ラットのそれぞれに以下の試験群を作った。
アルファ化デンプン1g/kg単独投与群
アルファ化デンプン1g/kg+D−アロース3.0g/kg投与群
アルファ化デンプン1g/kg+D−プシコース1.0g/kg投与群
アルファ化デンプン1g/kg+D−アロース3.0g/kg+D−プシコース1.0g/kg投与群
【0054】
(統計学的方法)
得られた結果は平均値及び標準誤差で表し、統計学的処理は一元配置分散分析後、Turkeyの多重比較検定を使用した。
【0055】
(実験結果)
GKラットにアルファ化デンプン1g/kgを経口投与した場合、投与直前、投与30分、1時間および2時間後の血糖値は、それぞれ111.3±3.3、232.4±9.7、254.0±5.2および162.1±6.8mg/dLとなった。D−アロース3g/kgを投与した群では、投与30分および1時間後の血糖値はアルファ化デンプン単独投与群のそれと較べて有意に低かった。D−プシコース1g/kgを投与した群では、全ての測定時間において血糖値はアルファ化デンプン単独投与群のそれと較べて有意に低かった。D−アロース3g/kgとD−プシコース1g/kgの混合物を投与した群では、投与後の全ての測定時間において血糖値はアルファ化デンプン単独投与群のそれと較べて有意に低かった。D−アロース3g/kgとD−プシコース1g/kgの混合物を投与した場合、投与1時間後の血糖値はD−アロース3g/kgあるいはD−プシコース1g/kgを投与した場合と較べていずれも有意に低かった。D−プシコース1g/kg投与群とD−アロース3g/kgとD−プシコース1g/kgの混合物投与群の血糖値を較べた場合、投与30分および1時間後には後者の方が低く、投与2時間後では両者の間に有意差は見られなかった(図1)。実験に用いたGKラットの平均体重は265.2±1.8g(N=24)であった。
【0056】
Zucker(fa/fa)ラットにアルファ化デンプン1g/kgを経口投与した場合、投与直前、投与30分、1時間および2時間後の血糖値は、それぞれ93.5±4.6、132.2±6.7、122.7±9.0および83.0±14.5mg/dLとなった。D−アロース3g/kg、D−プシコース1g/kgあるいはD−アロース3g/kgとD−プシコース
1g/kgの混合物を投与した群では、いずれも投与30分後の血糖値はアルファ化デンプン単独投与群のそれと較べて有意に低かった。全ての投与群の各測定時点での血糖値に有意差は見られなかった(図2)。実験に用いたZucker(fa/fa)ラットの平均体重は353.7±10.6g(N=24)であった。
【0057】
Zucker(+/+)ラットにアルファ化デンプン1g/kgを経口投与した場合、投与直前、投与30分、1時間および2時間後の血糖値は、それぞれ81.5±3.4、103.2±5.1、100.7±4.3および82.5±3.0mg/dLとなった。Zucker(+/+)ラットにおいては、D−アロース3g/kg、D−プシコース1g/kgあるいはD−アロース3g/kgとD−プシコース1g/kgの混合物のいずれを投与した群のいずれの測定時間における血糖値にも、アルファ化デンプン1g/kgの対応する測定時間の血糖値との間に有意な差は見られなかった(図3)。実験に用いたZucker(+/+)ラットの平均体重は254.0±6.8g(N=24)であった。
【0058】
(考察)
本実験で使用したGKラットはII型糖尿病のモデル動物であり、非インスリン依存性糖尿病を発症する系統で、3週齢ないし4週齢から軽度の高血糖を現わすと言われている。この動物は、糖尿病研究や抗糖尿病薬の評価などによく使用されている。
【0059】
Zuckerラットは、肥満モデル動物として肥満の研究などによく使われている。このラットは、ホモ接合体であるZucker(fa/fa)ラットが肥満を現わし、野生型であるZucker(+/+)ラットは肥満を示さない。Zucker(+/+)ラットはZucker(fa/fa)ラットの対照として使用される。Zucker(fa/fa)ラットには、軽度であっても高血糖状態になった場合に尿中にブドウ糖が現れやすいという耐糖能異常が認められ、脂質代謝異常のみではなく、糖質代謝異常をも有していると考えられている。ヒトの肥満についても同様のことが認められることが多いので、本研究ではZuckerラットも実験動物として使用した。
【0060】
D−プシコースの血糖上昇抑制効果についてはすでに明らかにされている(平成15年度地域新生コンソーシアム)。本研究において、D−アロースにもD−プシコースと同様の血糖上昇抑制効果があることが明らかになった。しかし、GKラットにおける血糖上昇抑制効果の持続時間はD−プシコースと較べて短かった。また、アルファ化デンプンによる血糖上昇に対して、D−アロースとD−プシコースを併用することによる効果の増強が見られた。
【0061】
Zucker(fa/fa)ラットにおいては、アルファ化デンプンによる血糖上昇に対して、D−アロースはD−プシコースと同程度の強い抑制効果を現わした。D−アロースおよびD−プシコースそれぞれの単独投与による血糖上昇抑制効果が強かったため、これら2つの希少糖併用の効果は明らかではなかった。Zucker(fa/fa)ラットと同系統で肥満を示さないZucker(+/+)ラットにおいては、アルファ化デンプンによる血糖上昇に対して、D−アロース、D−プシコースおよびこれらの混合物それぞれの投与は有意な影響を与えなかった。このことは、これらの希少糖は体重が正常範囲にある場合には、血糖上昇には影響を及ぼさないことを示すものである。これは、病態においてのみ、その作用を現わすという、薬物あるいは食品として優れた性質をこれらの希少糖が持っていることを強く示唆するものである。
【0062】
本研究の結果から、D−アロースが血糖上昇抑制効果を持つことが明らかにされた。その強さはD−プシコースに較べてやや弱いが、D−アロースが活性酸素産生抑制作用、高血圧発症予防作用なども有することから、D−プシコースとは異なる有効性を持ち、糖質代謝あるいは脂質代謝異常により現れる疾患の発症予防、諸症状の改善あるいは症状の進行防止に有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】GKラットにおけるアルファ化デンプン(1g/kg)経口投与による血糖上昇に及ぼすD−アロース、D−プシコースの影響を示すグラフである。図中、**;p<0.01(vs α Starch 1g/kg),#;p<0.05(vs α Starch+D-Allose 3g/kg),N=8。
【図2】Zucker(fa/fa)ラットにおけるアルファ化デンプン(1g/kg)経口投与による血糖上昇に及ぼすD−アロース、D−プシコースの影響を示すグラフである。図中、**;p<0.01(vs α Starch alone),N=8。
【図3】Zucker(+/+)ラットにおけるアルファ化デンプン(1g/kg)経口投与による血糖上昇に及ぼすD−アロース、D−プシコースの影響を示すグラフである。図中、N=6。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
D−アロースを含み、炭水化物および/または糖類を摂取した時の急激な血糖値上昇を抑制すること、を特徴とする組成物。
【請求項2】
D−アロースがD−アロースおよび/またはその誘導体である請求項1の組成物。
【請求項3】
D−アロースが、D−アロースとD-アロースより少ない重量割合のD−プシコースおよび/またはその誘導体の混合物である請求項1または2の組成物。
【請求項4】
人および/または動物における糖質代謝および/または脂質代謝異常に起因する食事制限を、請求項1、2または3に記載の組成物を用いることで緩和し、生活の質(QOL)を向上させる方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−51135(P2007−51135A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−196751(P2006−196751)
【出願日】平成18年7月19日(2006.7.19)
【出願人】(000215958)帝國製薬株式会社 (44)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】