説明

DNAを用いた目的物の標識及び確認方法

【課題】DNAを用いた目的物の標識方法及び当該標識物の簡便な確認方法を提供すること。
【解決手段】目的物を標識する方法であって、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAで当該目的物を標識することを特徴とする目的物の標識方法。標識に使用されるDNAが、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物が例示される。本発明により、厳密な温度制御が必要なサーマルサイクラーを必要とせず、恒温槽とハンディトランスイルミネーターがあれば目的物を確認することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNAを用いた目的物の標識方法及び当該標識方法により標識された目的物の確認方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度なコンピューター技術等を用いた種々の模造品や模倣品が市場に流出し、純正品や正統品が被害を受けるケースが増大している。例えば、有名ブランド商品の偽物の販売、有価証券や紙幣の偽造の他、特に最近では商品ラベルの改ざんによる食品の不正流通が問題となっている。このような状況の中で、目的物の確認及び判定方法として開発された技術の1つが、DNAを用いて認証を行う「DNAインク」や「DNAタグ」技術である。
【0003】
これらは、(1)天然資源、例えば動物、植物、油、鉱物及び水、(2)化学物質、例えば薬剤、溶媒、石油生成物、及び爆薬物、(3)汚染物質を含む商業上の副産物、例えば放射性又はその他の危険な廃棄物、並びに(4)製品、例えば銃、タイプライター、自動車及び自動車部品を含む多数の様々な物質の製造及び流通の追跡調査に用いられている。この際、使用される標識は製品の同一性の確認に役立ち、製造者及び消費者に有用な情報を提供する(例えば、特許文献1、2)。
【0004】
例えば「DNAインク」は、特定の塩基配列のDNAを利用して、当該DNAを含むインク(DNAインク)を作製し、このDNAインクを商品等への印刷に使用することで真正品の確実な確認・同定を可能とし、もって商品等の偽造や改ざんを防止する技術である(例えば、特許文献3)。
【0005】
また、合成DNA及び当該合成DNAと異なるDNAの両者を含有する組成物を用いることで、偽造や複製をより困難とするインクや印刷物も検討されている(例えば、特許文献4)。
【0006】
通常、上記のようなDNAインクやDNAタグで用いられているDNAは単一の二本鎖DNAである。その確認又は判定方法は、当該DNA試料を直接シークエンシングするか、あるいはPCR法により目的のDNAを増幅後、ハイブリダイゼーションの工程を経る必要がある。しかしながら、これらの方法では、結果がでるまでに長い時間が必要である。また、結果が出る時間を短縮するために、ゲル電気泳動法のみで確認する方法が検討されているが、この場合、精度が極端に悪くなる。このため精度を上げるため、ゲル電気泳動後、目的のDNAを単離し、シークエンシングもしくはDNAチップ等で更に確認を行う方法も検討されているが、高度の技術と専用設備が必要であり、結局、時間もかかるという問題があった。またいずれの場合も、目的物が存在する場所で直ちに判定することができないという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3082942号公報
【特許文献2】特許第3059196号公報
【特許文献3】特開2003−157004号公報
【特許文献4】特開2008−187992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡便なDNAを用いた目的物の標識方法及び当該標識物の確認方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAであって、当該塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物を用いる目的物の標識方法を見出した。また、前記標識に使用されるDNAとして分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物を用いることにより、後の増幅及び確認(検出)工程において、通常、前記塩基配列を含有しないDNAの存在により、あらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAを鋳型とした増幅産物を検出するための蛍光値が減少すると予測されるが、驚くべきことに、実際には当該蛍光値が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明は、目的物を標識する方法であって、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAで当該目的物を標識することを特徴とする目的物の標識方法に関する。第1の発明の態様としては、標識に使用されるDNAが、当該DNAが含有するあらかじめ定められた塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物であってもよい。また、標識に使用されるDNAが、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物であってもよい。
【0011】
本発明の第2の発明は、本発明の第1の発明で標識された目的物を確認する方法であって、標識された目的物に含有されるDNAを当該DNAに含有されるあらかじめ定められた塩基配列に基づいて検出することを特徴とする目的物の確認方法に関する。第2の発明の態様としては、標識に使用されたDNAを鋳型としてあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA断片を増幅する工程を包含してもよい。また、等温核酸増幅法によりDNA断片の増幅が実施されてもよい。なお、等温核酸増幅法としてはICAN法が挙げられる。また、当該ICAN法とサイクリングプローブ法を用いることにより、短時間でかつ反応時間を大幅に短縮することが可能である。
【0012】
本発明の第3の発明は、本発明の第1の発明のための標識用DNA混合物であって、少なくとも1種類の分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、少なくとも1種類の前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物に関する。第3の発明の態様としては、1〜3種類、好ましくは1〜2種類の分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、1〜5種類、好ましくは1〜3種類の前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物である。
【0013】
本発明は更に、目的物を標識する方法であって、あらかじめ定められた検出用の塩基配列を分子内に複数コピー含有するDNAで当該目的物を標識することを特徴とする目的物の標識方法を提供する。当該DNAは、あらかじめ定められた検出用の塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物であってもよい。また当該DNAはあらかじめ定められた検出用の塩基配列を分子内に複数コピー含有するDNAと、あらかじめ定められた検出用の塩基配列を含有しないDNAとの混合物であってもよい。
【0014】
本発明はまた、前記方法により標識された目的物を確認する方法であって、標識された目的物に含有される検出用の塩基配列を確認することを特徴とする目的物の確認方法が提供される。当該確認方法においては、あらかじめ定められた検出用の塩基配列を鋳型として増幅する工程を包含する方法が挙げられる。またその好ましい態様としては、等温核酸増幅法によりあらかじめ定められた検出用の塩基配列の増幅が実施される。
【0015】
また本発明の標識方法のためのDNAであって、少なくとも1種類のあらかじめ定められた検出用の塩基配列を分子内に複数コピー含有するDNAと、少なくとも1種類のあらかじめ定められた検出用の塩基配列を含有しないDNAとの標識用DNA混合物が提供される。
【0016】
更に本発明により、あらかじめ定められた検出用の塩基配列を分子内に複数コピー含有するDNAで標識された目的物を提供する。当該DNAとしては、あらかじめ定められた検出用の塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物であってもよい。また当該DNAはあらかじめ定められた検出用の塩基配列を分子内に複数コピー含有するDNAと、あらかじめ定められた検出用の塩基配列を含有しないDNAとの混合物であってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、目的物を標識し、短時間で簡便に当該標識物を確認する事が可能であり、更に真贋判定等が求められる場所において、DNAに基づく確認や認証を行うことが可能となる。また当該方法は、温度を厳密に制御するためのサーマルサイクラーを必要とせず、恒温槽とハンディトランスイルミネーターがあれば実施可能である。従って、目的物を確認したい場所で実施可能な真贋判定方法としても有用である。すなわち本発明により、品質保証性が確立した被標識目的物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】リアルタイムCycleave ICAN増幅・検出曲線を示す。
【図2】リアルタイムCycleave ICAN増幅・検出曲線を示す。
【図3】本発明の確認方法における蛍光値の向上を示すグラフである。
【図4】本発明の確認方法の一態様の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本明細書において「分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA」とは、あらかじめ定められた検出用の塩基配列が並列して複数コピー存在するDNAのことを言う。当該コピーは、同一分子内に存在しているDNAが含まれる。特に限定はされないが、例えば、前記の「あらかじめ定められた塩基配列」が複数個、同じ向きで直接並んだもの、交互に対向しているもの、あるいはランダムな向きで並んだものが挙げられる。また、任意の塩基配列を介して同じ向き、交互に対向、あるいはランダムな向きに並んだものも、本明細書でいう「分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA」に包含される。
【0020】
本明細書において「あらかじめ定められた塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物」とは、あらかじめ定められた検出用の塩基配列が並列、対向又はランダムに複数コピー存在するDNAであって、前記コピー数が異なるDNAが少なくとも2種類含有されるもののことを言う。特に限定はされないが、例えば、「ラダーDNA(ラダータイプDNA)」が挙げられる。当該ラダーDNAは、電気泳動等により分析した場合に複数のバンドからなるラダー形態の泳動像を与えるものをいう。更に、電気泳動等により明確なバンドを示さない(スメア状態を呈する)ものも含まれる。
【0021】
本明細書において「分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物」とは、上記「分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA」あるいは「あらかじめ定められた塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物」に、更にあらかじめ定められた塩基配列を含有しない、すなわち異なる非検出用塩基配列を含有するDNAを添加したもののことを言う。この異なる塩基配列を含有するDNAは特に限定はされないが、例えば、あらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと全く異なる塩基配列を含有するDNA、又は一部塩基配列が類似するが、あらかじめ定められた塩基配列に基づいて検出や解析することができないDNAが好ましい(本明細書において「ダミーDNA」という場合がある)。また、当該DNAは電気泳動において単一バンドで得られるもの、ラダー形態のもの又はスメア状態のもののいずれであってもよく、ウシ胸腺DNA、サケ精子DNAやそれらの分解物のようなものであってもよい。本発明に使用される「分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA」の当該DNAで標識された物品からの単離を困難もしくは不可能としうるDNAは、本発明においてダミーDNAとして用いることができる。
【0022】
本明細書において「シングルDNA(シングルタイプDNA)」とは、分子内に1コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAであることを言う。
【0023】
本明細書において「等温核酸増幅法」とは、等温で実施可能な核酸増幅方法である。例えば、鎖置換型増幅(SDA;Strand Displacement Amplification)法、RCA(Rolling Circle Amplification)法、LAMP(Loop−mediated isothermal Amplification)法、ICAN(Isothermal and Chimeric primer−initiated Amplification of Nucleic acids)法あるいは種々の改良SDA法等が挙げられる。これらの等温核酸増幅法又はオリゴヌクレオチド合成法の反応においては、プライマーの伸長や、一本鎖伸長生成物(又は元の標的配列)へのプライマーのアニーリングや、それに続くプライマーの伸長は、一定温度で保温された反応混合物中で同時に起こる。
【0024】
本明細書において「Cycleave ICAN」とは、サイクリングプローブ反応(cycling probe reaction、例えば米国特許第5,660,988号公報)とICAN法(例えば、国際公開第00/56877号パンフレット)を組み合わせた検出方法である。
【0025】
ICAN法とは、
(a)鋳型となる核酸、デオキシリボヌクレオチド3リン酸、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ、少なくとも1種類のプライマー、及びRNaseHを混合して反応混合物を調製する工程;ここで該プライマーは、鋳型となる核酸の塩基配列に実質的に相補的であり、デオキシリボヌクレオチド及びリボヌクレオチドを含有し、該リボヌクレオチドが該プライマーの3’末端又は3’末端側に配置されたキメラオリゴヌクレオチドプライマーであり;及び
(b)鋳型となる核酸へのプライマーの特異的なアニーリング、DNAポリメラーゼによる伸長鎖合成反応及び鎖置換反応、並びにエンドヌクレアーゼによる伸長鎖の切断反応が行える一定の温度条件で増幅産物を生成するのに充分な時間、反応混合物をインキュベートする工程、
を包含する核酸の増幅方法である。例えば55〜70℃で活性を示すDNAポリメラーゼ、RNaseHを使用することにより、前記の温度範囲内の等温条件で標的DNAを増幅することができる。
【0026】
サイクリングプローブ反応とは、標的DNAに相補的な配列を有するRNAとDNAからなるキメラプローブと、RNaseHとの組み合わせによる検出法である。標的DNAにハイブリダイズしたキメラプローブのRNA部分はRNaseHにより切断されることから、このキメラプローブ分解産物が標的DNA検出の指標となる。
【0027】
本発明の標識方法は、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた検出用の塩基配列を含有するDNA(以下、本発明の標識用DNAと記載することがある)で目的物を標識する方法を言う。
【0028】
本発明の標識方法で用いる分子内に複数コピーのあらかじめ定められた検出用の塩基配列を含有するDNA及び/又は非検出用のダミーDNAは、例えば、核酸増幅用プライマーがアニーリングする部分のみ共通の塩基配列であってもよい。また、一対のプライマー間のアンプリコンサイズと塩基組成比率とが同じであるように設計されたものであってもよい。ダミーDNAを人為的に入れることで、本発明の標識用DNAを単離し、その塩基配列の情報が抽出されるのを防ぐことが可能である。また、ダミーDNAは検出の対象となるDNAと同量もしくは過剰に添加することが好ましい。更に試料中の本発明の標識用DNAとダミーDNAは、前記標識用DNAのあらかじめ定められた塩基配列の全長とダミーDNAの塩基配列の全長がほぼ同じものが好ましい。この場合、本発明の標識用DNAとダミーDNAの重量比で2倍以上、好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上、更に100倍以上、500倍以上、1000倍以上とすることが可能である。また、モル比の場合でも2倍以上、好ましくは5倍以上、更に好ましくは10倍以上、更に100倍以上、500倍以上、1000倍以上とすることが可能である。驚くべきことに、本発明者らは、ダミーDNAの添加は本発明の標識用DNAの単離や特定を困難にすることができるだけでなく、本発明の標識用DNAの検出感度の向上にも寄与する事を見出した。
【0029】
本発明の標識用DNAに含有される「あらかじめ定められた塩基配列」の由来は特に限定はされないが、例えばヒト、動物、植物、微生物などの各生物種のDNAの配列から選択したものが挙げられる。また、あらかじめ定められた暗号化の規則にしたがって人為的に作成した塩基配列、もしくは他の生物種のDNAと相同性(同一性)が低い又は他の生物種にない人為的に作成した塩基配列を使用してもよい。
【0030】
本発明の標識用DNAの調製は、増幅領域が連なったラダー形態のDNAを調製可能な種々の方法で実施することができる。例えば、RCA法、LAMP法、ICAN法等が挙げられる。特に好ましくは、増幅領域が複数個、任意の塩基配列を介していずれも同じ向きに重合した状態となり、電気泳動による増幅産物の解析ではラダー形態のバンドとして確認されるDNAが調製可能な核酸増幅方法が好ましく、ICAN法やBacillus cardotenax由来DNAポリメラーゼ(BcaDNAポリメラーゼ)、Bacillus stearothermophilus由来DNAポリメラーゼ(BstDNAポリメラーゼ)を用いた核酸増幅方法が好適に使用できる。また、適切な塩基配列を設計して人工合成する方法、人工合成したDNAを酵素的に連結する方法等により調製してもよい。更に、核酸分解酵素の作用に耐性を有するようなDNA(修飾塩基やホスホロチオエート結合を含有するDNA、末端修飾されたDNA等)としてもよい。
【0031】
本発明の標識用DNAの使用量としては、目的物の標識が行え、確認ができる量であれば特に限定はないが、例えば増幅・検出時間を10分間とした場合、100pg〜1μgの範囲、好ましくは1ng〜100ngの範囲、更に好ましくは2ng〜20ngの範囲である。
【0032】
本発明者らは、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAを鋳型としてDNA断片を増幅した場合に、従来の方法、すなわち上記のシングルタイプDNAを鋳型としてDNA断片を増幅した場合に比べて、反応初期のDNA断片の増幅量が顕著に多く、鋳型の有無を短時間で判定できることを見出した。
【0033】
検出の標的となる核酸(標的核酸)の存在の有無を確認するために、蛍光標識プローブや核酸インターカレーター等でDNA断片の増幅量をモニターする方法が知られている。当該方法においては、DNA断片の増幅に伴って反応液より発せられる蛍光の値が特定の閾値を超えるか否かによって、標的核酸の有無を判定できる。標的核酸を鋳型としたDNA断片の反応初期の増幅量が多ければ、蛍光値が閾値を超えるまでに要する時間が短縮され、標的核酸の存在の有無を早期に判定することが可能となる。なお、上記の閾値は、通常、陽性検体を陰性検体と区別可能な任意の値が設定されるが、特定のアルゴリズムや計算式に基づいて設定されてもよい。このように、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAを使用する本発明の標識方法は、従来の方法と比較して、当該DNAの検出を短時間で実施することが可能である。
【0034】
本発明の標識用DNAとして使用されるラダーDNAの調製方法は、増幅領域が連なったラダー形態の増幅産物を積極的に生成させることにより実施することができる。このようなラダー形態の増幅産物は増幅領域が複数個、任意の塩基配列を介していずれも同じ向きに重合したものであり、電気泳動による増幅産物の解析ではラダー状のバンドとして確認される。
【0035】
当該ラダー形態の増幅産物は、国際公開第2005/056790号パンフレットに記載のとおり、下記の工程により調製することができる:
(A)下記(a)又は(b)から選択される反応混合物を調製する工程、
(a)鋳型となる核酸、デオキシリボヌクレオチド3リン酸、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ、少なくとも2種類のキメラオリゴヌクレオチドプライマー、少なくとも1種類のラダー形成オリゴヌクレオチドプライマー、及びRNaseH、
(b)鋳型となる核酸、デオキシリボヌクレオチド3リン酸、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ、少なくとも2種類のキメラオリゴヌクレオチドプライマー、及びRNaseH、ここで、一方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーはラダー形成オリゴヌクレオチドプライマーとして作用し、
ここで、上記キメラオリゴヌクレオチドプライマーは、少なくともデオキシリボヌクレオチド及びヌクレオチドアナログから選択されるものとリボヌクレオチドとを含有し、該リボヌクレオチドは該プライマーの3’末端又は3’末端側に配置されており、
上記キメラオリゴヌクレオチドプライマーは、鋳型となる核酸の塩基配列に相補的な第一キメラオリゴヌクレオチドプライマーと、鋳型となる核酸の塩基配列に相同的な第二キメラオリゴヌクレオチドプライマーの少なくとも2種類を含んでおり、
上記ラダー形成オリゴヌクレオチドプライマーは、鋳型となる核酸の当該第一キメラオリゴヌクレオチドプライマーと相補的な領域及び/又はその領域より3’側の塩基配列に相補的な配列を有し、鋳型となる核酸と相同的な第二キメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側の塩基配列、鋳型となる核酸の当該第二キメラオリゴヌクレオチドプライマーと相同な領域の5’末端より更に5’側方向の領域に相当する塩基配列あるいはその両方に相補的な配列を5’側に有し、
及び
(B)鋳型となる核酸へのプライマーの特異的なアニーリング、DNAポリメラーゼによる伸長鎖合成反応及び鎖置換反応、並びにRNaseHによる伸長鎖の切断反応が行える一定の温度条件でラダー形態の増幅産物を生成するのに充分な時間、反応混合物をインキュベートする工程。
【0036】
本方法によるラダー形態の増幅産物の調製は、適切なラダー形成オリゴヌクレオチドプライマーの設計による他、鋳型となる核酸上にある塩基配列を利用して実施することができる。特に限定はされないが例えば、設定しようとする一方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側あるいはその上流にある塩基配列が、設定しようとするもう一方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側あるいはその上流にある塩基配列と相補的である場合、上記配置でキメラオリゴヌクレオチドプライマーを設定することにより、効率よくラダー形態の増幅産物を得ることができる。また、ラダー形成を行うことにより、検出感度及び検出速度が向上する。
【0037】
上記鋳型となる核酸上の双方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側あるいはその上流にある、相補的な塩基配列は、そのGC含量、その近接する配列、プライマーとの距離、増幅される長さ、反応条件等によって任意に設定することができ、特に限定するものではないが、例えば3塩基以上、好ましくは6塩基以上の相補的な塩基配列から選択することが好ましい。また当該配列は、特に限定するものではないが、例えば上記キメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’末端を0位とした場合、+20〜−100の領域、好ましくは+15〜−80の領域、更に好ましくは+10〜−60の領域、特に好ましくは+5〜−40の領域である。更に鋳型となる核酸上の双方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側、あるいはその上流にある配列の相補性は、当然、上記記載の条件によって任意に設定することができ、特に限定するものではないが、70%以上の範囲が好適である。
【0038】
本発明の標識方法は、目的物の真贋を判定するための標識方法として利用することもできる。すなわち、真正品を本発明の方法で標識することにより、真正品と標識されていない偽物とを区別することができる。下記実施例に記載のとおり、ラダーDNA形態の本発明の標識用DNA(標識用ラダーDNA)及びダミーラダーDNAの組み合わせは、シングルタイプDNA及びダミーラダーDNAの組み合わせよりも、短時間の増幅・検出に好適である。
【0039】
また、本発明の標識方法における目的物の標識の形態としては、本発明の標識用DNAを含むDNA混合物が付着可能で、かつ前記DNA混合物を安定に保持できる担体を使用する方法が例示される。例えば、前記DNA混合物を付着させたニトロセルロース、プラス荷電された若しくは荷電されていないナイロン、紙、カード、木材、プラスチック材料、布、金属、ガラス、セラミック、粘土類、ビーズ又はゲル状の有機材料、又は無機材料等の担体を目的物に付加する標識形態であってもよい。本発明の一態様では、前記の担体自体が標識される目的物となりうる。更に上記担体には、DNA混合物を分解から保護するよう紫外線吸収剤又は紫外線散乱剤のいずれかを含ませてもよい。前記紫外線吸収剤には、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤類やベンゾフェノン系紫外線吸収剤類、サリチル酸エステル系紫外線吸収剤類など、市販されているものの中から適宜選択して使用する。また、紫外線散乱剤には例えば微粒子の酸化チタンや酸化亜鉛が使用できる。DNA分解酵素に対する阻害剤を含有させることもできる。更に当該担体の表面は、その部分ないし全体を保護層で覆うことができる。保護層には紫外線吸収剤を添加してもよい。当該保護層としては、ラミネートコーティングのようにプラスチック樹脂などが好適に使用でき、熱や酸・アルカリによる分解を妨げ、DNA混合物をより確実に保護することができる。また、DNA混合物が担体から分離するのを防止できるので、それだけ確実にDNAを回収することができ、検出精度を向上させることができる。
【0040】
本発明の標識方法では、特に限定はされないが、標識用DNAは複数種類の混合物であってもよいし、ダミーDNAも複数種類の混合物であってもよい。この場合、複数種類のあらかじめ定められた塩基配列の異なる標識用DNAに対してそれぞれを検出するプローブを用いることにより、あらかじめ定められた塩基配列の異なる標識用DNA間の濃度比率(例えば、標識用DNA1と別の標識用DNA2の混合物における1と2の濃度比率を蛍光値で判断する)も目的物の確認のための指標とすることができる。
【0041】
本発明の目的物の確認方法は、本発明の方法で標識した目的物から当該本発明の標識用DNA、もしくは当該DNAを含むDNA混合物を抽出し、「あらかじめ定められた塩基配列」に基づいて当該DNAを検出することにより実施される、所望により、検出に先立って本発明の標識用DNAもしくはその一部の領域を増幅する工程を含んでもよい。好適な態様においては、等温核酸増幅法、例えば国際公開第00/56877号パンフレットに記載されたICAN法によりDNAの増幅が実施される。
【0042】
例えば、標識された目的物から本発明の標識用DNAを含む担体を取得する。この担体より適切な溶液、例えば水や緩衝液を用いてDNAの抽出を行う。例えばイオン性又は非イオン性の界面活性剤とエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム水塩を含む緩衝液(トリス塩酸緩衝液等)を用いてもよい。また、抽出操作の際には撹拌のような適当な物理的刺激を与えて抽出してもよいし、加熱処理を行ってもよい。その後、必要に応じて、DNAの精製操作、DNA濃縮操作を行ってもよい。DNAの精製・濃縮には公知の方法を用いる事ができる。
更に、標識された目的物の種類によっては全く抽出操作をせず、取得された前記の担体をそのまま後の検出工程に供してもよい。
【0043】
必要に応じ、抽出された本発明の標識用DNAを鋳型として、あらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA断片を増幅する。当該DNA断片を増幅する際、本発明においては、ラダー形態で増幅させる方法が好適である。
【0044】
上記ラダー形態の増幅産物は、増幅領域を複数個含むものであるので、例えば適切なプローブとのハイブリダイゼーションによって多数のプローブとハイブリダイズすることが可能である。当該プローブとしては、前記の「あらかじめ定められた塩基配列」及び/又は上記ラダー形態の増幅産物中の標的核酸配列間に存在する介在配列にハイブリダイズするもののいずれもが好適に使用できる。また、当該プローブとしては、増幅産物とのハイブリダイズの結果、蛍光等のシグナルを示すものが好適に使用できる。このようなプローブは、標識用DNAを鋳型として増幅した増幅産物が存在した場合に強いシグナルを発生することから、増幅領域を含む核酸の検出を目的とする場合に有用である。また、制限酵素消化等を組み合わせて、ラダー形態の増幅産物より増幅領域、又はその一部をモノマーとして得ることもできる。
【0045】
好適な態様では、ラダー形態のDNAの増幅と「あらかじめ定められた塩基配列」の検出を同時に実施することができる。例えば、前記のCycleave ICAN法を利用できる。この場合、(a)少なくともデオキシリボヌクレオチド及びヌクレオチドアナログから選択されるものとリボヌクレオチドとを含有し、該リボヌクレオチドは該プライマーの3’末端又は3’末端側に配置された少なくとも2種類のキメラオリゴヌクレオチドプライマーであって、標的DNA上の特定の塩基を含む領域を増幅できるプライマー、(b)標的DNA上の前記特定の塩基を含む領域にハイブリダイズすることができ、かつ標的DNAとハイブリダイズした場合にRNaseHによる切断を受けるプローブ、(c)鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼ、及び(d)RNaseH、を含有する組成物を用いて確認することが可能である。この場合、鎖置換活性を有するDNAポリメラーゼとしては、BcaDNAポリメラーゼ又はBstDNAポリメラーゼが好適である。検出には、サイクリングプローブ法以外の方法、例えばモレキュラービーコン法を用いてもよい。これら増幅・検出の反応条件は使用するプライマーやプローブの鎖長、塩基組成等をもとに適宜設定すればよい。
【0046】
上記方法においては、国際公開第2005/056790号パンフレットに記載されたラダー形成オリゴヌクレオチドプライマー及び/又はキメラオリゴヌクレオチドプライマーを使用し、増幅領域が連なった重合体を生成させることができる。このようなラダー形態の増幅産物は、複数個の増幅領域がラダー形成オリゴヌクレオチドプライマーと第二キメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側あるいはその上流領域に相補的な配列を介して同じ向きに連なったものである。更に本発明の方法においては、鋳型となる核酸上の一方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側あるいはその上流にある塩基配列がもう一方のキメラオリゴヌクレオチドプライマーの5’側あるいはその上流にある塩基配列と相補的な場合、当該位置にキメラオリゴヌクレオチドプライマーを設定することにより、標的核酸を感度良く検出することができる。
【0047】
上記のサイクリングプローブ法やモレキュラービーコン法で用いるプローブは、例えば、蛍光物質と該蛍光物質の発する蛍光を消光する作用を有する物質の両者で、適当な間隔をとって標識したものがよい。このようなプローブはインタクトな状態ではほとんど蛍光を発することはないが、標的配列へのハイブリダイゼーション又は切断によって蛍光を発するようになる。当該物質の組合わせとしては、6−FAM(6−carboxyfluorescein)とDABCYL(4−dimethylaminoazobenzene−4’−sulfone)、ROX(6−carboxy−X−rhodamine)とDABCYL、6−FAMとEclipse(Epoch Biosciences社製)、ROXとEclipse、TET(tetrachlorofluorescein)とDABCYL、TETとEclipse等が好適に使用できる。このようなプローブを使用することにより、反応中の反応液を直接観察することによって本発明の標識用DNAの有無を確認することが可能である。当該方法は、特に短時間で標識用DNAを高感度に検出できるという優れた効果を奏する。このような標識プローブとハンディトランスイルミネーターのような紫外線照射装置を用いることにより、蛍光検出器、写真、あるいは肉眼で検出操作を行うことができる。例えば、恒温槽部分、励起光照射部分、蛍光モニター部分を備えた装置を用いれば、本発明の方法で標識された目的物の確認を現場、すなわち十分な設備を備えた施設以外の場所で、かつ短時間に実施することができる。
【0048】
ICAN法とサイクリングプローブ法とを組み合わせた本発明の態様では、検出で使用する蛍光標識プローブの濃度は、例えば0.3μM〜1μMの範囲、好ましくは、0.4μM〜0.8μMの範囲である。前記濃度範囲のプローブを用いることにより、増幅・検出時間は、20分以下、好ましくは15分以下、特に好ましくは、10分以下で実施することができる。なお、標識した担体からの標識用DNAの抽出効率が低い場合は、それに合わせて前記蛍光標識プローブ濃度を調整するのは当然のことである。
【0049】
本発明の方法において、増幅・検出の際に、本発明の標識用DNAのみを増幅してもよいし、前記標識用DNA及びダミーDNAの両方を増幅してもよい。ダミーDNAとして本発明の標識用DNAの増幅に使用されるものと同一のプライマー対で増幅されるものを使用してもよい。この場合、蛍光標識プローブは標識用DNA中の標的配列にのみ完全にハイブリダイズ及び/又は切断によって蛍光を発することにより、検出が可能であることから、仮にプライマー配列に関する情報が漏洩しても、本発明の標識用DNAを単離もしくは特定することは困難である。また、増幅・検出後の産物を第3者が入手したとしても、その中の増幅された標識用DNAは、同様に増幅されたダミーDNAの存在のために特定が困難である。
【0050】
更に本発明の方法においては、ダミーDNAの存在により、本発明の標識用DNAの検出強度が向上するという予想外の効果が奏される。言い換えれば、検出反応系内のダミーDNAの存在により、ダミーDNAに由来するバックグラウンド値の上昇ではなく、標識用DNAを鋳型とした増幅産物を検出するための蛍光値の向上が見られる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例をもって本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例の範囲のみに何ら限定されるものではない。なお、本発明においてBca DNAポリメラーゼは、特許第2978001号に記載の方法で調製した。また、Thermococcus litoralis由来Ribonuclease H(以下、Tli RNaseH)は、国際公開第02/22831号パンフレットに記載の方法で調製した。
【0052】
実施例1
(1)シングルタイプDNAの調製
配列番号1〜4記載の塩基配列を有するプライマー、シロイヌナズナDNA、TaKaRa Ex Taq(登録商標、タカラバイオ社製)及びその添付試薬を用い、添付取扱説明書に従って50μLのPCR反応液を調製した。当該反応液を94℃ 2分加熱後、続けて94℃ 30秒、54℃ 30秒、72℃ 1分を1サイクルとする30サイクル反応に供した。配列番号1及び2記載の塩基配列を有するプライマーからは、Arab03DNA断片、配列番号3及び4記載の塩基配列を有するプライマーからは、Arab06(U)DNA断片が増幅される。反応終了後、イソプロパノール沈殿精製を行い、吸光度測定によりDNA濃度を算出した。以降の実験では、このDNAをシングルタイプDNAとして用いた。
【0053】
(2)ラダータイプDNAの調製
上記(1)で調製したArab03DNA断片 10pgを鋳型とし、A3IF4キメラオリゴヌクレオチドプライマー(A3IF4プライマー:配列番号5)及びA3IR4キメラオリゴヌクレオチドプライマー(A3IR4プライマー:配列番号6)をそれぞれ20pmol、32mM Hepes−KOH緩衝液(pH7.8)、100mM 酢酸カリウム、1% DMSO、5mM 酢酸マグネシウム、0.6mM dNTP混合物、0.04% プロピレンジアミン、0.11% BSA、BcaDNAポリメラーゼ 22U、Tli RNaseH 100Uを含む、25μLの反応液を調製した。ICAN反応は、60℃、60分間の条件で行った。反応終了後、反応液5μLを2%アガロース電気泳動に供し、増幅産物が約160bpを1単位とするラダー形態の増幅産物(ラダーDNA)になっていることを確認した。
【0054】
得られたラダーDNAの中から約480bpの断片をアガロースゲルから抜き出し、pUC118ベクター(タカラバイオ社製)のHincIIサイトにクローニングした。こうして得られたプラスミドをpUA33プラスミドと命名した。次に、前記pUA33プラスミド 1ngを鋳型とし、前記A3IF4プライマー及びA3IR4プライマーを用いて、前記のICAN反応条件でラダーDNA(A3ラダーDNA)を増幅した。反応終了後、反応液5μlを2%アガロース電気泳動に供し、増幅産物が約160bpを1単位とするラダー形態の増幅産物になっていることを確認した。
【0055】
次に、上記(1)で調製したArab06(U)DNA断片 1ngを鋳型とし、A6IF9キメラオリゴヌクレオチドプライマー(A6IF9プライマー:配列番号7)及びA6IR8キメラオリゴヌクレオチドプライマー(A6IR8プライマー:配列番号8)をそれぞれ20pmol用いて、前記反応条件でラダーDNAを増幅した。反応終了後、増幅産物が約130bpを1単位とするラダー形態の増幅産物(ラダーDNA)になっていることを確認した。
【0056】
得られたラダーDNAの中から約390bpの断片をアガロースゲルから抜き出し、pUC118ベクターのHincIIサイトにクローニングした。こうして得られたプラスミドをpUA63プラスミドと命名した。次に前記pUA63プラスミド 1ngを鋳型として前記A6IF9プライマー及びA6IR8プライマーをそれぞれ20pmol用いて、前記反応条件でラダーDNA(A6ラダーDNA)を増幅した。反応終了後、反応液5μLを2%アガロース電気泳動に供し、増幅産物が約130bpを1単位とするラダー形態の増幅産物になっていることを確認した。
【0057】
こうして得られたA3ラダーDNA及びA6ラダーDNAは、イソプロパノール沈殿で精製後、吸光度測定によりDNA濃度を算出した。これ以降の実験では、この2種類のDNAをラダータイプDNAとして用いた。
【0058】
実施例2 標識用DNAの選定
(1)シングルタイプDNAとラダータイプDNAの比較
実施例1で調製したシングルタイプDNA又はラダータイプDNAを鋳型としてICAN法とサイクリングプローブ法とを組み合わせたリアルタイム検出を行った(以下リアルタイムCycleave ICAN反応と記載する)。測定結果から検出時間と増幅曲線の関係について比較を行った。Arab03DNA及びA3ラダーDNA 各15ngをそれぞれ鋳型として、A3IF5キメラオリゴヌクレオチドプライマー(A3IF5プライマー:配列番号9)及びA3IR3キメラオリゴヌクレオチドプライマー(A3IR3プライマー:配列番号10)を各20pmolとA3プローブ2(配列番号11)を5pmol用いて、25μLの容量の反応液を調製した。前記A3プローブ2は、Arab03DNA及びA3ラダーDNA中の塩基配列にハイブリダイズするプローブであって、その5’末端側にクエンチャーとなるエクリプス(登録商標、エポック バイオサイエンシズ社製)、その3’末端側にレポーターとなるRox(登録商標、アプライド バイオシステムズ社製)を有している。反応液組成は、キメラオリゴヌクレオチドプライマー、プローブ以外は、実施例1記載と同様とした。
【0059】
こうして調製した反応液をThermal Cycler Dice(登録商標) Real Time System(タカラバイオ社製)にセットし、60℃、60分間反応させた。その検出結果を図1に示す。すなわち図1は、リアルタイムCycleave ICAN法による増幅・検出曲線であり、縦軸は、蛍光値、横軸は時間を示す。この結果より、同じ鋳型量の場合、シングルタイプDNAよりラダータイプDNAの方が短時間で増幅・検出曲線が立ち上がることが明らかとなった。このことから、短時間での検出にはラダータイプDNAが適していることが明らかとなった。
【0060】
(2)ダミーラダーDNAとの組み合わせの比較
実施例1−(1)で調製したArab03由来の塩基配列を有するシングルタイプDNA(Arab03DNA)又は実施例1−(2)で調製したラダータイプDNA(A3ラダーDNA)に、ダミーDNAとして実施例1−(2)で調製したArab06由来の塩基配列を有するラダータイプDNA(A6ラダーDNA)を混合したものを鋳型としてリアルタイムCycleave ICAN反応を行い、検出時間と増幅曲線の関係について比較を行った。Arab03DNA及びA3ラダーDNA 各20ngに対し、10倍量のA6ラダーDNAを混合したものをそれぞれ鋳型として、前記実施例2−(1)の反応条件でリアルタイムCycleave ICAN反応を行った。その検出結果を図2に示す。すなわち図2は、リアルタイムCycleave ICAN法による増幅・検出曲線であり、縦軸は、蛍光値、横軸は時間を示す。この結果より、ダミーDNAの添加の有無で増幅曲線はほとんど変わらないことが明らかとなった。すなわち、短時間での検出において、標識用DNAに対してダミーDNAが多く存在している場合でも、標識用DNAとしてはシングルタイプDNAよりラダータイプDNAが適していることが確認できた。更に、当該蛍光値から、6分〜15分の範囲、例えば10分間の反応時間で十分に検出できることが明らかとなった。
【0061】
(3)判別用DNAの蛍光値に対するダミーDNA(ダミーラダーDNA)の影響
上記実施例2−(2)の実験結果を踏まえ、標識用ラダーDNAの蛍光値に対するダミーラダーDNAの影響について検討した。すなわち、A3ラダーDNA 20ngに対し、10倍量又は100倍量のA6ラダーDNAを混合したものを鋳型として、前記実施例2−(1)の反応条件でリアルタイムCycleave ICAN反応を行った。なお、増幅・検出時間10分間と設定した。その結果の蛍光値を表1に示した。
【0062】
【表1】

【0063】
表1は、増幅・検出時間が10分間の場合の蛍光値を示している。この結果から、標識用ラダーDNAに対しダミーラダーDNAの濃度が上がるに従い、バックグラウンド値の上昇ではなく、標識用ラダーDNAに起因する蛍光値の増加が見られた。一方、標識用ラダーDNAとダミーラダーDNAの濃度を上記と同じにしたサンプルについて、実施例2−(1)で使用されたプライマーと同じ塩基配列を有するDNAプライマーを用いたリアルタイム PCRを行ったところ、ダミーラダーDNAの濃度が上がるに従い、標識用ラダーDNAに起因する蛍光値は下降する傾向であった。
【0064】
次に、上記A3ラダーDNA 2ngに対し、等量〜1000倍量のA6ラダーDNAを混合したものを鋳型として、前記実施例2−(1)の反応条件でリアルタイムCycleave ICAN反応を行った。なお、増幅・検出時間は10分間と設定した。その結果を図3に示す。すなわち図3は、標識用ラダーDNAの蛍光値の向上傾向を示すグラフであり、縦軸は蛍光値、横軸は標識用ラダーDNAに対するダミーラダーDNAの比率を示す。また、図3の縦軸の値は、標識用ラダーDNAの蛍光値から、共存するダミーラダーDNA自体の蛍光値(バックグラウンドの蛍光値)を差し引いた値で示している。
【0065】
図3から明らかなように、標識用ラダーDNAと等量のダミーラダーDNAを添加した場合に比べ、100倍量、500倍量、1000倍量添加した場合においても、標識用ラダーDNAに起因する蛍光値の増加が確認できた。すなわち、本発明の方法においては、標識用ラダーDNAに対してダミーラダーDNAの濃度を多くすることにより、バックグラウンド値の上昇ではない標識用ラダーDNAに起因する蛍光値の向上が起きるということに加え、更にダミーラダーDNAの濃度を上げることにより、標識用DNAの塩基配列解析をより高いレベルで防止できることが確認できた。
【0066】
実施例3
(1)担体からの抽出操作の省略
目的物を標識した担体から複雑な操作なく短時間でDNAを検出できるかどうかを検討した。まず、モデル実験系として、実施例1−(2)で調製したA3ラダーDNA 100ngをFTA Elute マイクロカード(ワットマン社製)にスポットし、風乾した。その後、前記カードからスポット部分を切り出した後、実施例2−(1)記載と同じ組成のCycleave ICAN反応液 125μLで、プローブ濃度が0.2μM〜0.8μMの反応液を調製し、60℃、10分間静置した。
【0067】
ネガティブコントロールとしてDNAをスポットしていないカードを同じ面積分切り出し、同様の反応を行った。反応終了後、各チューブにUVを照射したところ、A3ラダーDNAをスポットしたカード断片を含むチューブでは0.4μM〜0.8μMとプローブ濃度が増すに従い、反応チューブ内に肉眼で十分確認できる蛍光が発せられた。これらの蛍光のネガティブコントロールとの差は肉眼で確認することができた。
【0068】
(2)担体からの抽出操作の省略2
次に、標識用ラダーDNAとして実施例1−(2)で調製したA3ラダーDNA 100ngとダミーラダーDNAとして実施例1−(2)で調製したA6ラダーDNA 1μgの混合液、A3ラダーDNA 100ngの溶液、及びA6ラダーDNA 1μgの溶液のそれぞれ1μLをFTA Elute マイクロカード(ワットマン社製)にスポットし、風乾した。その後、スポット部分を切り出し、上記実施例2−(1)に記載の方法でプローブ濃度が0.8μMのCycleave ICAN反応を各2本ずつ行った。また、ネガティブコントロールとしてDNAをスポットしていないカードを同じ面積分切り出し、上記と同様の反応を2本行った。これらの反応チューブをUV照射した結果を図4に示す。すなわち図4は、ハンディトランスイルミネーターを用いてUV照射を行った反応チューブの写真であり、チューブ1、2はネガティブコントロール、チューブ3、4はA3ラダーDNA 100ngのみ、チューブ5、6はA3ラダーDNA 100ngとA6ラダーDNA 1μgの混合液、チューブ7、8はA6ラダーDNA 1μgのみの反応液である。図中、標識用DNAが標識用ラダーDNAを示し、ダミーDNAがダミーラダーDNAを示す。
【0069】
図4に示すように、標識用ラダーDNA及びダミーラダーDNAがない場合及びダミーラダーDNAのみの場合のチューブでは蛍光は見られない。また、標識用ラダーDNA量が同じであるにも関わらず、標識用ラダーDNA単独の場合に比べダミーラダーDNAが共存する方が蛍光値が増加していることが確認できた。更に標識用ラダーDNA単独の反応チューブよりもダミーラダーDNAが共存する反応チューブの方が、反応チューブ内の蛍光がハッキリとしており、肉眼で容易に確認できた。このことから、上記方法で判定を求められる場所で目的物を標識した担体から複雑な操作なしで、少なくとも10分間で標識用DNAの検出を肉眼で行える系を構築できた。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、判定が求められる現場において、DNAをベースとした判定を短時間で実施することができる。また本発明は、プローブハイブリダイゼーションに基づくため、非常に精度の高い判別方法を実施することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0071】
SEQ ID NO:1 ; Primer F to amplify the Arab03 DNA fragment.
SEQ ID NO:2 ; Primer R to amplify the Arab03 DNA fragment.
SEQ ID NO:3 ; Primer F to amplify the Arab06(U) DNA fragment.
SEQ ID NO:4 ; Primer R to amplify the Arab06(U) DNA fragment.
SEQ ID NO:5 ; A3IF4 chimeric primer to amplify the Arab03 DNA fragment using ICAN method. 3 bases of 3' end are RNA.
SEQ ID NO:6 ; A3IR4 chimeric primer to amplify the Arab03 DNA fragment using ICAN method. 3 bases of 3' end are RNA.
SEQ ID NO:7 ; A6IF9 chimeric primer to amplify the Arab06(U) DNA fragment using ICAN method. 3 bases of 3' end are RNA.
SEQ ID NO:8 ; A6IR8 chimeric primer to amplify the Arab06(U) DNA fragment using ICAN method. 3 bases of 3' end are RNA.
SEQ ID NO:9 ; A3IF5 chimeric primer to amplify the Arab03 DNA fragment using ICAN method. 3 bases of 3' end are RNA.
SEQ ID NO:10 ; A3IR3 chimeric primer to amplify the Arab03 DNA fragment using ICAN method. 3 bases of 3' end are RNA.
SEQ ID NO:11 ; A3 probe 2. 9th base is RNA.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的物を標識する方法であって、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAで当該目的物を標識することを特徴とする目的物の標識方法。
【請求項2】
分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAが、当該DNAが含有するあらかじめ定められた塩基配列のコピー数が異なる複数種のDNAの混合物である請求項1記載の方法。
【請求項3】
分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAが、分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物である請求項1記載の方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法で標識された目的物を確認する方法であって、標識された目的物に含有されるDNAを当該DNAに含有されるあらかじめ定められた塩基配列に基づいて検出することを特徴とする目的物の確認方法。
【請求項5】
標識に使用されたDNAを鋳型として、あらかじめ定められた塩基配列を含有するDNA断片を増幅する工程を包含する請求項4記載の方法。
【請求項6】
等温核酸増幅法によりDNA断片の増幅が実施される請求項5記載の方法。
【請求項7】
請求項3記載の標識方法のための標識用DNA混合物であって、少なくとも1種類の分子内に複数コピーのあらかじめ定められた塩基配列を含有するDNAと、少なくとも1種類の前記塩基配列を含有しないDNAとの混合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−273675(P2010−273675A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102982(P2010−102982)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】