説明

DNAハイブリダイゼーションチップおよびDNAハイブリダイゼーション法

【課題】DNA、RNAなどの試料液中のポリヌクレオチドと基板に固定したプローブDNAとのハイブリダイゼーションを高速かつ高収率で行うDNAプローブチップとハイブリダイゼーション法を提供する。
【解決手段】DNAプローブは、プローブ固定領域に設けられた多数のピラー7の表面に固定される。試料液を導入したとき、ピラー7の谷間にターゲットポリヌクレオチドが導入されるように電界を制御し、次いで電界を逆転させ、プローブ固定領域側のターゲットポリヌクレオチドの濃度が高くなるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリヌクレオチド混合試料中に含まれる種々のポリヌクレオチドを一度に検査するDNAプローブチップあるいはDNAプローブアレーと呼ばれるものに関するもので、対象はDNA、RNAなどのポリヌクレオチドで、基板に固定したプローブDNAと試料中のポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションを高速かつ高収率で行うチップ構造とハイブリダイゼーション法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゲノム計画の進展とともにDNAレベルで生体を理解し、病気の診断や生命現象の理解をしようとする動きが活発化してきた。生命現象の理解や遺伝子の働きを調べるには遺伝子の発現状況を調べることが有効である。この有力な方法として固体表面上に数多くのDNAプローブを種類毎に区分けして固定したDNAプローブアレー、あるいは、DNAプローブチップ(実際には固定されているのはオリゴヌクレオチドの誘導体であるのでオリゴチップと呼ぶこともある)が用いられている。
【0003】
DNAチップを作るには光化学反応と半導体工業でよく用いられるリソグラフィーを用いて区画された多数のセルに設計された配列のオリゴマーを一塩基づつ合成して行く方法(非特許文献1:Science 251, 767-773(1991))、あるいは、DNAプローブやタンパク質プローブを各区画に一つ一つ植え込んでいく方法(非特許文献2:Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 4613-4918 (1996))などがある。
【0004】
これらチップは、いずれもスライドガラスなどの平面状に多数のプローブを、区画を区切り、アレー状に整列させた構造をしている。どのプローブがどの位置にあるかは、プローブが固定されている物理的な位置のみでインデクシングされるのが一般的である。
【0005】
使用方法は、チップ基板上のプローブに蛍光標識したDNA断片やmRNAやこれを逆転写したcDNAなどの試料ポリヌクレオチド(以下単に試料ポリヌクレオチド)をハイブリダイズさせて、基板上に導入される蛍光体を蛍光スキャナーで検出する。あるいは、試料ポリヌクレオチドをハイブリダイズさせた後に、プローブと隣接して試料ポリヌクレオチドに相補な蛍光標識オリゴを連結反応(ライゲーション)で連結したり、DNAポリメラーゼを用いて蛍光標識dNTP基質を反応させたりして、基板上に導入する蛍光体を検出するのが主流である。
【0006】
最近では、酸化還元反応を利用した電気化学的な検出を行う方法も実用になっている。タンパク質の場合は抗原抗体反応のようなアフィニティー反応を利用して、基板上に特定タンパク質などを補足した後、質量分析機で分析する方法、蛍光標識抗体や酵素標識抗体でサンドイッチ反応をおこない、基板上に残る蛍光体や酵素活性を検出する方法、電気化学発光を用いる検出法がある。
【0007】
電気化学発光法では、電極表面に抗原捕捉用の抗体が存在する。サンドイッチ用抗体の標識物にはルテニウム錯体を用いる(非特許文献3:Clin. Chem., 37, 1534-1539(19991))。電極表面ではルテニウムが酸化され、TPAのレドックス反応とカップルさせて還元するときに励起状態となったルテニウムの電子が基底状態に落ちる時に光を発するので、これを検出する。
【0008】
DNAプローブチップにおけるハイブリダイゼーションのメカニズム検討に関していくつかの報告がある。Petersonらの非特許文献4:Nucleic Acids Research, 29, 5163-5168(2001)記載の内容によると、プローブ平均間隔が3〜7nmの範囲では、チップ表面のプローブ固定密度が高くなるとプローブのマイナス荷電と試料ポリヌクレオチドのマイナス荷電の斥力により、試料ポリヌクレオチドのチップ表面への接近速度とハイブリダイゼーション速度が低下するという。他方、Wattersonら(非特許文献5:Langmuir, 16, 4984-4992(2000))によると数〜数十nm間隔でプローブを固定すると高密度のほうが感度が上がるという。
【0009】
他方、ハイブリダイゼーションの高速化に関してもいくつかの報告がある。たとえば、岡野らはDNAチップと対抗する板に試料用液を挟み込み、DNAチップに対して対抗版を相対的に動かすことで平面状に広く広がっている試料用液とチップ上のエレメントに固定されているプローブとの分子衝突確率を向上させ、高速ハイブリダイゼーションを実現している(特開2004−144521)。
【0010】
【特許文献1】特開2004−144521号公報
【非特許文献1】Science 251, 767-773(1991)
【非特許文献2】Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93, 4613-4918(1996)
【非特許文献3】Clin. Chem., 37, 1534-1539 (19991)
【非特許文献4】Nucleic Acids Research, 29, 5163-5168 (2001)
【非特許文献5】Langmuir, 16, 4984-4992(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記従来技術の項で明らかなように、DNAプローブチップを用いる試料ポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションに関しては、ある程度の実験的なメカニズム検討がなされているものの、それらが実際のDNAチップの構造やハイブリダイゼーションのさせ方に反映されているわけではない。むしろ、チップ上に固定するプローブのコンテンツ開発や計測手段開発が主流であり、プローブごとの速度論的、熱力学的な原理に基づいて優れた条件でのハイブリダイゼーションを行おうとする試みは少ない。このために、従来の方法では、ハイブリダイゼーションの反応時間として12時間程度の長い時間が必要となる上、反応効率も低い。特開2004−144521では機械的に反応の高速化を実現しているが、チップ表面に動作用のかなり広いスペースを必要とする点で改良の余地がある。
【0012】
本発明は、このような難点を解決するためになされたもので、固体チップ表面でのハイブリダイゼーション速度を改善し、短時間で計測が可能で高感度、かつ、擬陽性ハイブリダイゼーションの少ないDNAプローブチップ、このような問題点を解決するDNAプローブチップの作成法、および、DNAプローブチップにおけるハイブリダイゼーション法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
1)隣接するプローブとの間隔を適度に保ちながら(プローブの密度を大きくしない)で、プローブとターゲットポリヌクレオチドの反応表面積を大きくすることの出来るとすること、このため従来の平面にプローブを固定する構造を改め、表面にピラーを立てて凹凸をつくり反応表面積を大きくする構造とすること、
2)ピラーの谷底に電極を設け、ターゲットポリヌクレオチドピラー谷底の電極表面近傍に濃縮できる構造とすること、により上記の目的を実現する。
【0014】
上記に加え、さらに、より工夫されたものとして、
3)プローブは、プローブ主鎖のマイナス電荷が除去されたものとすることにより、ターゲットポリヌクレオチドがプローブにハイブリダイゼーションしやすいようにする、
ものとして、固体チップ表面でのハイブリダイゼーション速度を、より改善し、短時間で計測が可能で高感度かつ擬陽性ハイブリダイゼーションの少ないものとする。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、DNAプローブチップ表面に固定したプローブ量を上げることができるため、プローブチップ上でのプローブのハイブリダイゼーション効率を数十倍以上に高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
プローブとターゲットポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションの過程を考察すると、効率よくハイブリダイゼーションを行うには、以下の点を考慮する必要があることに気づく。
【0017】
1)DNAプローブチップでは、プローブは固相表面に固定されており、プローブとターゲットポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションは、実質的に、固液界面での相補鎖結合反応となる。このため、溶液中のターゲットポリヌクレオチドがプローブと衝突するにはターゲットポリヌクレオチドが固液界面まで拡散する必要がある。固体表面の拡散層に達するまでは、十分攪拌するか、ターゲットポリヌクレオチドに濃度勾配をつけて、固液界面近傍の濃度を高めることが必要であるが、単に攪拌するだけでは拡散層内はターゲットポリヌクレオチドの拡散係数に頼ることになり時間がかかる。
【0018】
本発明では、DNAプローブチップ表面(プローブを固定している固相表面)をプラス電位として、マイナスの電荷を有するターゲットポリヌクレオチドをDNAプローブチップ表面に静電的に引き寄せる。この結果、DNAプローブチップ表面とターゲットポリヌクレオチドを含む試料液との固液界面から試料液に向かって、ターゲットポリヌクレオチドの濃度勾配を形成することができる。すなわち、DNAプローブチップ表面に近いほどターゲットポリヌクレオチドの濃度が高い状態とすることが出来る。特に、本発明では、プローブとターゲットポリヌクレオチドの反応表面積を大きくするため、プローブを固定する固相表面を大きくするために、従来の平面のプローブ固定領域に多数のピラーを建てて凹凸のプローブ固定領域とするので、プローブ固定領域の近傍のターゲットポリヌクレオチドの濃度を高くすることは重要である。
【0019】
DNAプローブチップ表面をプラス電位とするには、DNAプローブチップ表面にプラスに解離する残基(プラス電荷)を導入して調製するか、あるいは、DNAプローブチップ表面とDNAプローブチップ表面から離れた位置の試料液の部分とに電極を配し、DNAプローブチップ表面がプラス電位となるように電圧を印加することで実現する。
【0020】
2)DNAプローブチップ上のプローブとターゲットポリヌクレオチドは、いずれも、マイナスに荷電されたポリマーである。ハイブリダイゼーション形成の過程では、プローブとターゲットポリヌクレオチドの最もハイブリダイゼーションしやすい部分が核となり、ハイブリッドを形成し、その領域が広がることにより完全なハイブリダイゼーションが完了すると考えられる。このときに考慮しなくてはならないのが、DNAプローブチップ表面の影響と隣接するプローブの立体障害である。
【0021】
従来技術の項で示したNucleic Acids Research, 29, 5163-5168 (2001)とLangmuir, 16, 4984-4992(2000)の両者を比較すると、プローブ密度が、十分、疎な状態では熱力学的にプローブ量が多いほうがハイブリダイゼーションに有利であるが、密度が7nm以下になると、隣接するプローブの電荷反発力によりハイブリダイゼーション効率が低下すると解釈できる。また、本文献には記載されていないが、プローブ密度が高いと立体障害によりハイブリダイゼーション効率が低下する。反応速度や反応収率を上げるには、基本的にはDNAチップ表面に存在するプローブ量を多くすることである。しかし、プローブ密度を上げるとPetersonらの上記論文(Nucleic Acids Research, 29, 5163-5168 (2001))のように静電的な斥力によりハイブリダイゼーション効率が低下する。
【0022】
発明者らは、従来のように実質的に平面からなるエリアにプローブを固定するのではなく、表面を凸凹にすることでプローブ密度を上げずにプローブ固定量を上げればよいことに気づいた。本発明では、面積を稼ぐため表面をピラー構造とする。
【0023】
また、マクロ的な観察からは、最適なプローブ密度が存在することになる。しかし、本発明では、上記1)記載のように、ターゲットポリヌクレオチドをプローブ近傍に高密度に存在させて、プローブと衝突させるので、マクロ的な観察で言えるような、最適なプローブ密度が存在することにはならない。すなわち、本発明では、ターゲットポリヌクレオチドはチップ表面上のプローブに到達した状態からハイブリダイゼーションがスタートする。したがって、ハイブリダイゼーションの効率は、プローブの先端がハイブリダイゼーションの核になるか、プローブの根元(チップ表面)の方が核になるかにより、異なることに気づいた。
【0024】
すなわち、プローブの先端(自由端)がハイブリダイゼーションの核になる場合は、巨大なターゲットポリヌクレオチド分子がプローブDNAに巻き付く(2本鎖を形成する)過程で隣接するプローブと衝突したり、チップ表面に衝突したりすることになるので立体的に不利となり、巻き付く速度が遅くなる。一方、プローブが固定されている側、すなわち、プローブの根元(チップ表面)の方がハイブリダイゼーションの核になる場合は、チップ表面から遠ざかる方向でターゲットポリヌクレオチドがプローブに巻き付く(2本鎖を形成する)。この場合は、チップ表面から遠ざかる方向にハイブリダイゼーションが進行するので立体的な障害は少ない。さらに、隣接プローブの先端部もターゲットポリヌクレオチドが巻き付いた状態ではないので、障害は少ない。
【0025】
以下、図面を参照しながら、より具体的に説明する。
【0026】
(実施例1)
図1Aは、本発明の実施に好適なDNAプローブチップ100の概要を示す平面図、図1Bは、図1AのA−A位置で矢印方向に見た概要を示す断面図、図1Cは、本発明の実施に好適なDNAプローブチップ100のプローブ固定領域の詳細を示す断面図である。
【0027】
1はDNAプローブチップ基板としての溶融石英ガラス(20×40mm)である。2は電極であり、基板1の表面に蒸着されている。電極は10×10mmで300nmの厚さのITO(Indium-Tin Oxide)である。3はITO電極2の表面に形成された10nm厚のフッ素表面コーティングである。4はプローブ固定領域でる。フッ素表面コーティング3は、隣接するプローブ固定領域4間のクロスコンタミネーションを防ぐ目的で導入されている。それぞれのプローブ固定領域4には、ピンアレー装置により数百plのオーダーで、所定のプローブ液が塗布されるので、プローブ液が領域からはみ出さないように、フッ素表面コーティング3は撥水性の性質が要求される。プリント技術で塗布されたフッ素表面コーティング3表面に、マスクを用いて酸素プラズマでアッシングしてフッ素表面コーティングを除去することによりプローブ固定領域4を作成できる。酸素プラズマアッシングによりプローブ固定領域4を作成するため、この領域の露出しているITO電極2は親水性となる。
【0028】
図1Aでは、プローブ固定領域4は4×4個として大きな円形状で示したが、実際のプローブ固定領域4は30μmφ程度の広さとされ、例えば、100×100個設けられる。隣接するプローブ固定領域4とは60μm程度離れているとともに、隣接するプローブ固定領域4間はフッ素表面コーティングにより、それぞれ独立した形となっている。
【0029】
7はピラーである。反応速度や反応収率を上げるには、プローブ固定領域4のプローブの数を多くすれば良いと言えるが、上述したように、プローブ密度を上げると静電的な斥力によりハイブリダイゼーション効率が低下する。実施例1では、プローブ密度としては10〜30nmの平均間隔でプローブを固定する。これ以上の高密度は通常のポリヌクレオチドプローブを用いる限り良いことが無く、プローブ長が50塩基と長めなときは、むしろ10〜60nmとまばらな方が良いくらいである。本発明では、単純にプローブ密度を大きくするのではなく、プローブ固定領域4を形成している電極2の表面上にピラー7を立て、プローブ固定領域4の実質面積を大きくして、プローブ密度を大きくすることなく、固定できるプローブの数を増やす。
【0030】
フッ素表面コーティング3のなされた基板1の表面にエポキシ系の樹脂SU8をスピナーで塗布し、マスクを用いて露光することでプローブ固定領域4のITO電極表面にピラー7を形成する。ピラーは高さ50μmで基板部の直径は10μmである。ピラーの間隔は15μmとする。ピラーを立てないでプローブを固定する場合に比べプローブ固定面積を約7倍に増やすことができる。5−1,5−2は、それぞれ、プローブ固定領域4に形成されたピラー7のグループを示すエレメントである。
【0031】
ピラー7に代えて、プローブ固定領域4の表面を、たとえば、サンドブラスト法などででこぼこにして表面積を増すことも考えられるが、アスペクト比が大きくできないため、せいぜい、2倍程度である。
【0032】
プローブをプローブ固定領域4のITO電極2の表面に固定する方法を2種類述べる。第一の方法は酸素プラズマを照射後、ポリリジンをコートし、UV照射することで、アミノ基をピラー7の表面に導入する。DNAプローブ固定は二価性試薬を用いる。たとえば、N-(8-Maleimidocapryloxy)sulfosuccinimideをpH8の条件で反応させるとスルフォスクシンイミドエステル部がリジンのアミノ基と反応することにより、ピラー7の表面にマレイイミド基が導入される。pH6.5で5’末端にSH基を導入した合成DNAプローブを添加すると、DNAプローブに存在するSH基がマレイイミド基と反応するので、DNAプローブがピラー7の表面に固定される。あるいはポリリジンをコートした後、無水コハク酸で修飾し、アミノ基にカルボキシル基を導入する。N−ヒドロキシスクシンイミドをエステル結合させ、カルボキシル基を活性エステルとする。5’末端にアミノ基を持つ合成DNAプローブを添加し、ペプチド結合によりプローブをピラー表面に固定してもよい。第2の方法は、SU8でできたピラー部分を酸素プラズマで処理した後、シランカップリング反応を用いて官能基を導入する方法である。SU8を酸素プラズマ処理すると、表面にOH基や酸素ラジカルが発生する。これらは不安定な残基なので、経時的に現状するので、直ちに0.5%N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン水溶液(あらかじめ室温で30分間放置し、活性化シランカップリング溶液としたもの)に浸漬して、1時間放置する。純水でリンスした後、105〜110℃で空気中で乾燥させる。これでSU8のピラー部分にもアミノ基を得ることができる。アミノ基を無水コハク酸で修飾し、アミノ基にカルボキシル基を導入する。N−ヒドロキシスクシンイミドをエステル結合させ、カルボキシル基を活性エステルとする。5’末端にアミノ基を持つ合成DNAプローブを添加し、ペプチド結合によりプローブをピラー表面に固定する。
【0033】
(実施例2)
図2Aは、図1A−図1Cを参照して説明したDNAプローブチップ100の表面にターゲットポリヌクレオチドを含む試料液を導入した状態、図2BはDNAプローブチップ100の表面と試料液との固液界面から試料液に向かって、ターゲットポリヌクレオチドの濃度勾配を形成する最初の手順をとった状態、図2Cは濃度勾配を形成する次の手順をとった状態を、それぞれ、断面図の形で示す図である。
【0034】
DNAプローブチップ100の表面に、適当なスペーサー(図示しない)を入れて0.1mmのギャップを空け、カバーガラス11を乗せる。カバーガラス11の内面には、100nmの厚さのITO電極15を設ける。DNAプローブチップ100の表面とカバーガラス11との隙間に40マイクロリットルのmRNA試料液50を添加する。試料液50は、スライドガラスを一定の速度で往復運動させ、攪拌される。図2Aはこの状態を示す図であり、12−1、12−2および12−3は、それぞれ、プローブ固定領域4のピラー7の表面に固定されたプローブである。14は、試料液50内に分散しているターゲットポリヌクレオチドである。この状態では、ターゲットポリヌクレオチドはターゲットポリヌクレオチドの拡散係数に応じて拡散するに過ぎない。
【0035】
図2Bは、DNAプローブチップ100の電極2とカバーガラス11の電極15との間に、電源25により、電極2がプラスになるように+15V/cmになるように電界(実効的には電極間で0.15V)を印加した状態を示す図である。この結果、DNAプローブチップ表面側をプラス電位とすることで、マイナスの電荷を有するターゲットポリヌクレオチド14を静電的にプローブ固定領域4のピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)に引き寄せるプローブ12−1,12−2および12−3も電極に引き寄せられる力が働くので、プローブ分子は片方の末端を固定されているので自由端が電極のほうに引き寄せられので、プローブ分子はピラー側面にそって伸びるものと考えられる。なお、電極15はカバーガラス11に貼り付けてある必要はなく、試料液50内のDNAプローブチップ表面側から離れた部位にあれば良い。
【0036】
図2Cは、電源25により電圧を印加した30秒後に、DNAプローブチップ100の電極2とカバーガラス11の電極15との間に、電源26により、電極2がマイナスになるように−15V/cmの電界(実効的には電極間で0.15V)をかけ、0分間から30分間攪拌を続けた状態を示す図である。電極2がマイナスになるため、静電的に、プローブ固定領域4のピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)に引き寄せられていたマイナスの電荷を有するターゲットポリヌクレオチド14はピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)から電極15に向かって移動を始める。
【0037】
すなわち、図2Cに示すように、電界を反転させると電極2とターゲットポリヌクレオチド14のマイナス電荷との反発力が働き、これらがDNAプローブチップ表面から遠ざかる方向に働く。この際、ターゲットポリヌクレオチドは分子が大きいので、動きが鈍く、ピラー7の谷間近辺の表面に固定されたDNAプローブとハイブリダイゼーションをする確率が高くなる。
【0038】
図3は、実施例2の効果を示す図である。図2A、図2Bおよび図2Cで説明したようにしてプローブ12に捕捉されるターゲットポリヌクレオチドを評価するために、ターゲットポリヌクレオチドに蛍光色素を用いて標識とし、これを蛍光検出するものとする。金コロイドのようなナノ粒子を標識物にして直接粒子をカウントするものとしても良く、この場合は走査型電子顕微鏡で複数の画像を再構成するトモグラフィーの手法を用いることで実現できる。
【0039】
DNAプローブチップに印加する電界の条件をパラメータとして、ターゲットポリヌクレオチドを捕捉する時間を種々変えて、洗浄後、基板が発する蛍光強度を調べた。横軸は電界をかける時間、縦軸は蛍光強度である。
【0040】
特性曲線101は、電源25により、電極2−15間に、+15V/cmの電界を印加した後、電源26により、電極2−15間に、−15V/cmの電界を印加した場合のDNAプローブチップのターゲットポリヌクレオチドの捕捉結果、102は、コントロールとして、いかなる電界も加えないときのDNAプローブチップのターゲットポリヌクレオチドの捕捉結果、および、103は電源25により、+15V/cmを印加しただけで、電源26により、−15V/cmを印加しなかった場合のDNAプローブチップのターゲットポリヌクレオチドの捕捉結果を、それぞれ、示す。ここで、101と103は、最初の+15V/cmを印加する時間は同じとした。
【0041】
特性曲線101に明らかなように、まず、電源25により、電極2−15間に、+15V/cmの電界を印加して、マイナスの電荷を有するターゲットポリヌクレオチド14を静電的に、ピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)に引き寄せる。その後、電源26により、電極2−15間に、−15V/cmの電界を印加して、静電的に、ピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)に引き寄せられていたマイナスの電荷を有するターゲットポリヌクレオチド14を、ピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)から離す。この手順をとることにより、試料液50内のターゲットポリヌクレオチド14の濃度はピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)側ほど濃度が高い勾配を持ったものとなり、この結果、効率よくターゲットポリヌクレオチドを捕捉出来たことが分かる。なお、図からも分かるように、ある程度、ハイブリダイゼーションが進めば、捕捉できるターゲットポリヌクレオチドは飽和するので、ハイブリダイゼーション反応を長時間続ける価値はない。
【0042】
電源25により、電極2−15間に、+15V/cmの電界を印加して、マイナスの電荷を有するターゲットポリヌクレオチド14を静電的に、ピラー7の谷間(DNAプローブチップ表面)に引き寄せただけでは、この電界を取り去っても、引き寄せられたターゲットポリヌクレオチド14が図2Cに示すように、ピラー7の表面に分布しないので、ハイブリダイゼーションの反応が進みずらい。
【0043】
いかなる電圧も印加しないときは、試料液50内のターゲットポリヌクレオチド14の濃度勾配は生じないので、ターゲットポリヌクレオチド14の捕捉率は低いものとなるのは当然である。
【0044】
ここでは、電界をかける方向を1回変化させただけであるが、これを何回か繰り返しても良い。そうすると、図2Bと図2Cの状態が繰り返されることになり、ピラー7の表面のDNAプローブ近傍に、ハイブリダイズしていないターゲットポリヌクレオチド14が多く分布することになるので、ターゲットポリヌクレオチド14の捕捉率を向上させることが出来る。
【0045】
(実施例3)
実施例2では、DNAプローブとターゲットポリヌクレオチドがどういう形でハイブリダイズするのが効果的かということについては言及しなかったが、本発明の場合でも、DNAプローブの根元部がハイブリダイゼーションの核となる方が効率良くハイブリダイゼーションが進む。ここでは、そのための工夫について説明する。
【0046】
プローブの根元(チップ表面)の方がハイブリダイゼーションの核になるようにするためには、試料液50内のターゲットポリヌクレオチド14をDNAプローブチップ表面に引き、DNAプローブチップ表面に近い位置の試料液50内のターゲットポリヌクレオチド14の濃度勾配を大きくすることが有効であることは先に述べた。ここでは、プローブの配列を工夫してプローブの根元(チップ表面)の方がハイブリダイゼーションの核になるようにする例について述べる。
【0047】
プローブとしてはヒトmRNA配列から50塩基長の配列を抽出して用いる。配列は基板に近い20塩基とそのほかの部分でのGC量が15%以上異なる配列部分を優先的に採用する。すなわち、基板に近い方をGC含量を高くする。配列上できない場合は自由端から10塩基程度の位置から30塩基程度位置までの間に鋳型となるcDNA配列とミスマッチとなる配列あるいはACGTのいずれとも安定な相補鎖を形成しないブランク配列を入れた形でプローブ配列を設計する。ただし、ミスマッチ配列あるいはブランク配列を入れすぎると安定性が低下するので、この範囲で2箇所までとする。このような方法でハイブリダイゼーションの安定性を制御することは、プローブの固定端近傍にハイブリダイゼーションの核を形成させる上で重要である。
【0048】
図4は、プローブ12−1の一端が本発明の考え方で構成されてピラー7の表面に固定されている状態を模式的に示す図である。DNAプローブ12−1をピラー7の表面から順にエリアに分けて考える。プローブの配列を少なくとも3つのエリアに区切り、それぞれのエリアのハイブリダイゼーション安定性を制御する。すなわち、ピラー7の表面に近い方がハイブリダイゼーションの安定性が高い構造とする。ピラー7の表面に最も近い第1エリア33−1は15〜20塩基長程度で、ターゲットポリヌクレオチドと実質相補とする。第2エリア33−2は27で示す配列がACGTのいかなる塩基とも相補的な水素結合を形成しない塩基、あるいは、ターゲットポリヌクレオチドと非相補な塩基配列を少なくても1/3以上含む15〜20塩基長のエリアである。第3エリア33−3はターゲットポリヌクレオチドと実質相補とするが、第1エリアの塩基長より短くしたりして、第3エリアのハイブリダイゼーションの安定性を第1エリアより低くすることが重要となる。
【0049】
このように改変されたプローブ12−1について、第1エリア33−1と第2エリア33−2を比べると第1エリア33−1の方がハイブリダイゼーションの安定性が高い。一方、第3エリア33−3はターゲットポリヌクレオチドと実質相補であるので、ハイブリダイゼーションはするが、第1エリア33−1の方がハイブリダイゼーションの安定性が高いので、結局、ハイブリダイゼーションは第1エリア33−1から始まる。
【0050】
これで基本的にはプローブのピラー7の表面側からターゲットポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションが始まることとなるが、一般にプローブの選択性と安定性を考慮すると、プローブ長は40〜60塩基が適当であると言われている。第1エリアをあまり長くするとハイブリダイゼーションの核がプローブ固定領域4近傍にでき難くなる。また、第2エリアを長く取りすぎることも問題である。たまたま、第2エリアが第1エリアに比べATリッチであれば良いが、そうでないと、ターゲットポリヌクレオチドに対してハイブリダイズしない塩基やミスマッチ塩基を多量に入れなくてはならなくなる。これは、ハイブリダイゼーションの選択性を損ねる結果となりかねない。このような塩基は9塩基に1〜3塩基にとどめることが重要である。このため、第2エリア部分の塩基長は最長でも20塩基程度とするべきである。第3エリア33−3は、全体の塩基長を所定の長さにしながら、第1エリアのハイブリダイゼーションの安定性を高める効果がある。すなわち、ハイブリダイゼーションの安定性は第1エリア>第3エリア>第2エリアとなることが最も望ましい。塩基長としては全体として30〜50塩基長程度とする。
【0051】
具体例として、プローブ配列として、PON1(Homo sapiens paraoxonase 1)のmRNAで940〜989塩基部分の配列(配列番号1)を用いる。プローブは化学的方法で作ることは言うまでもない。
5’−AGAATCCTCC TGCATCAGAG GTGCTTCGAA TCCAGAACAT TCTAACAGAA−3’:配列番号1
配列番号1の配列を持ったプローブを5’末端でプローブ固定領域4に固定するとする。このプローブの配列を10塩基ごとに区切りGC%を計算すると、5’末端側から、50%、50%、50%、40%、30%となる。ここで、5’末端側の20塩基を第1エリア33−1、21〜30塩基を第2エリア33−2、31〜50塩基を第3エリア33−5とすると、第2エリアのGC量が多く、プローブ固定領域4近傍に位置するプローブの第1エリア(5’末端近傍)にハイブリダイゼーションの核が形成される確率が低下し、第2エリアがハイブリダイゼーションの核になる確率が上がる。そこで、塩基を改変し、21〜30塩基目のハイブリダイゼーション安定性を低下させる。また、第2エリアはパリンドローム構造を取り易いので、あわせてこれを破壊するように塩基を改変する。このような改変を行ったプローブ配列を配列番号2として示す。
5’−AGAATCCTCC TGCATCAGAG GTGBTTBGAA TCCAGAACAT TCTAACAGAA−3’:配列番号2
ここで、Bはいかなる塩基とも安定な相補鎖を形成しない擬似塩基か、ターゲットポリヌクレオチドと非相補になる塩基である。たとえば塩基部をもたない糖鎖部分のみのスペーサーと、2−チオウラシルのように、塩基部分に原子半径の大きな原子を導入した擬似塩基を用いる。2−チオウラシルはターゲットポリヌクレオチドの対応する配列であるシトシンと安定な水素結合を作ることはできない。これは、塩基に導入した硫黄原子の原子半径が大きいため、グアニンと水素結合を作れないためである。BとしてAを入れると、Cとミスハイブリダイゼーションを起こしやすい問題があるのでここでは使用しない。このケースではBとして2−チオウラシルの他にTに変換することが有効である。ミスマッチ塩基とする場合はA−G、A−A、C−C、T−Tミスマッチとなるようにプローブ内の塩基を改変すればよい。
【0052】
この改変された配列番号2の配列を持つプローブの配列を10塩基ごとに区切りGC%を計算すると、5’末端側から、50%、50%、30%、40%、30%となる。この改変プローブを用いてハイブリダイゼーションを行うと、5’末端側の20塩基が最初にハイブリダイズし、ここを核にしてプローブ3’末端側にハイブリダイゼーション領域が広がることになる。
【0053】
ハイブリダイゼーション用の試料の調製法を説明する。試料としては合成1本鎖DNAを用いる。モデルのため下記のようにコア部分に配列番号1に相補な配列を有し前後に20塩基からなるポリA(A20で表示)を結合し、全長を90塩基としている。
5’−A20−TTCTGTTAGA ATGTTCTGGA TTCGAAGCAC CTCTGATGCA GGAGGATTCT−A20−3’(配列番号3)
ここで、5’末端には、スルホローダミン101蛍光色素を結合し、ハイブリダイゼーションの評価に利用する。
【0054】
ここで、ハイブリダイゼーションの核がピラー7の表面に近い部分に出来るようにした場合と遠い部分に出来るようにした、それぞれのDNAプローブチップのハイブリダイゼーションの効果の比較をするため、二つの異なるDNAプローブチップを準備する。すなわち、一つのDNAプローブチップのピラー7の表面には、配列番号2の塩基配列を持つプローブを、5’末端で、上述した方法のいずれかで固定する。同時に、他のDNAプローブチップのピラー7の表面には、配列番号1の塩基配列を持つプローブを、5’末端で固定する。
【0055】
上記の二つの異なるDNAプローブチップのそれぞれを使用して、以下の実験を行う。スペーサーで0.1mmのギャップをあけてチップの上にカバーガラスをのせ、隙間に40マイクロリットルの配列番号3の蛍光標識DNAを添加する。試料は攪拌のためにスライドガラスを一定の速度で往復運動させ攪拌する。このとき、電極2と対抗電極3の間に電極4−1が+15V/cmになるように電界(実効的には電極間で0.15V)をかける。試料溶液中のmRNAは基板上のITO電極部に速やかに引き寄せられる。30秒後、電極4−1に−15V/cmの電界をかけ、0分間から30分間攪拌を続ける。洗浄し、エレメント表面からの蛍光(励起:545nm、蛍光:520nm以上)強度を測定する。
【0056】
図6は、配列番号3を持つ試料を、配列番号2のプローブを5’末端で固定したDNAプローブチップで処理した場合の結果(特性曲線111で示す)と配列番号1のプローブを5’末端で固定したDNAプローブチップで処理した場合の結果(特性曲線113で示す)とを比較する図である。ここで、電界の印加等の他の条件は、実施例2の結果を示す図3と同じである。明らかに配列番号2記載のプローブを固定したエレメントのからの蛍光強度111の方が、配列番号1記載のプローブを固定したエレメントからの蛍光強度113よりも、蛍光強度の時間に対する立ち上がりが速い。このことは、プローブ固定端である5’末端が安定なハイブリダイゼーションを形成しやすい方がハイブリダイゼーションの速度が速いことを示す。すなわち、ピラー7の表面に固定された5’末端近傍の方が3’末端側よりGCリッチであると、ハイブリダイゼーションの核が基板近傍にでき、ハイブリダイゼーションは基板近傍から自由端方向に進行し、立体障害や固相表面の影響を受けることが少なく、DNAプローブチップの構造を設計する上で重要であることがわかる。
【0057】
(実施例4)
本発明をより効果的にするには、プローブそのものの電荷をなくし、プローブの自由端にマイナス電荷を大量に導入するのが良い。電荷を持たないプローブとしては、合成オリゴヌクレオチドのリン酸ジエステル結合をペプチド結合に変えたPNA(Peptide Nucleic Acid)や、S−カルボキシメチル-L-システインを基本骨格とするCAS(Cysteine Antiesnse Compound)などを用いることができる。
【0058】
PNAもCASもポリマーとしたときの主鎖に電荷を持たないので、ターゲットポリヌクレオチドとの静電的斥力が働かない。これらは末端がアミノ基とカルボキシル基なので、アミノ基側を固定端に用いると、自由端側は、自ずと、マイナス電荷を持つカルボキシル基となる。もちろん、これに加えて、実施例4と同様にしてマイナス電荷を持つ残基を用いて、より多量のマイナス電荷を導入することで、基板表面の電極操作で速やかにプローブを起立するものとすることができる。また、PNAやCASは主鎖に電荷を持たないのでターゲットポリヌクレオチドとの間に斥力が働かない。プローブを起立させることで、ハイブリダイゼーションの席を空けると速やかにターゲットポリヌクレオチドとハイブリサイズする。
【0059】
プローブとしてPNAやCASを固定する場合は、以下の方法を採用する。3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの0.5%水溶液(触媒として0.5%の酢酸を含む。シランカップリング剤が溶解しない場合は溶解するまで酢酸を加える。)を30分間室温(25℃)で放置し、メトキシ基を加水分解により活性なシラノール基を形成させる。この活性化シラン液を基板表面に塗布し、室温で45分間放置する。純水で洗浄後、基板上に残る液体をブロアーで飛ばし、105℃、30分間空気中で過熱することでグリシドキシプロピル基を共有結合で導入したITO電極を有する基盤を得る。導入したグリシドキシプロピル基をなす原子団の一部がアミノ基との反応性が高いエポキシ基である。pH10の水溶液条件下で10pmol/μlの濃度の上記アミノ基を有するPNAあるいはCASと25〜100μMのLysを含む混合溶液を塗布する。ここでLysを混ぜ込むのは、PNAあるいはCASを均一に固定する目的とPNAあるいはCASの固定密度が密になり過ぎないように固定密度をコントロールするためである(PNAあるいはCASのみの溶液で固定しようとすると、これらが団子状態でITO表面を攻撃するので、アイランド状に固定密度の高い所と低い所ができる)。また、Lysは固定後にプラスとマイナスの荷電がつりあった両性電解質の形状を示しており、表面に水分子が配位したり吸着したりする量が少ない。このためDNAそのものの吸着も実は少なくできるメリットがある。溶液を1時間50℃で反応させる。この反応でPNA、あるいは、CASを固定したプローブチップを得ることができる。
【0060】
以上のプローブ固定で得られる基板表面は電気的にはニュートラルである。次に、表面が正電荷を帯びた基板とする方法について述べる。上記方法に用いるDNAプローブに25〜100μMのアルギニンオリゴマー(L−Arg)を混合して反応をさせる。プローブがPNAやCASの場合はLysの代わりにアルギニンオリゴマーを添加する。これにより、基板表面がプラスにチャージしているプローブチップを得ることができる。
【0061】
実施例2と同様に電極にかける電界を制御しても、電界の影響は固定するプローブが電荷を持たないので顕著ではない。しかし、プローブの自由端側にスルホン酸基を導入すると、実施例4で説明した過剰の解離基24と同様の効果が得られ、極めて高速なハイブリダイゼーションが可能となる。試料液を添加すると、基板表面のプラスチャージに試料液中のマイナス電荷を持つターゲットポリヌクレオチドが、プローブを固定したITO電極表面に濃縮される。電界を反転させると、プローブの自由端側に修飾してあるスルホン酸基のマイナス電荷が反発し、プローブが速やかに起立する。また、この例でも、実施例3と同様に基板に近いほうがGCリッチなようにプローブを固定するほうがハイブリダイゼーション速度が速く、ハイブリダイゼーション収率も高い。
[配列表]
SEQUENCE LISTING
<110> Onchip Cellomics Consortium
<120> DNA hybridization chip and DNA hybridization control method
<130> NT04P1113
<160> 3
<210> 1
<211> 50
<212> mRNA
<213> Homo sapiens paraoxonase 1 (PON1)
<400> 1
940 989
agaatcctcc tgcatcagag gtgcttcgaa tccagaacat tctaacagaa 50
<210> 2
<211> 50
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 2
agaatcctcc tgcatcagag gtgbttbgaa tccagaacat tctaacagaa 50
<210> 3
<211> 90
<212> DNA
<213> Artificial Sequence
<400> 3
20-ttctgttaga atgttctgga ttcgaagcac ctctgatgca ggaggattct-A20 90
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1A】本発明の実施に好適なDNAプローブチップ100の平面図である。
【図1B】図1AのA−A位置で矢印方向に見た断面図である。
【図1C】本発明の実施に好適なDNAプローブチップ100のプローブ固定領域の詳細を示す断面図である。
【図2A】図1A、図1Bを参照して説明したDNAプローブチップ100の表面にターゲットポリヌクレオチドを含む試料液を導入した状態を示す図である。
【図2B】DNAプローブチップ100の表面と試料液との固液界面から試料液に向かって、ターゲットポリヌクレオチドの濃度勾配を形成する最初の手順をとった状態を示す図である。
【図2C】濃度勾配を形成する次の手順をとった状態を、それぞれ、断面図の形で示す図である。本発明に係る第1の製造工程を示す図である。
【図3】実施例2の効果を示す図である。
【図4】プローブ12−1の一端が本発明の考え方で構成されてピラー7の表面に固定されている状態を模式的に示す図である。
【図5】配列番号3を持つ試料を、配列番号2のプローブを5’末端で固定したDNAプローブチップで処理した場合の結果(特性曲線111で示す)と配列番号1のプローブを3’末端で固定したDNAプローブチップで処理した場合の結果(特性曲線113で示す)とを比較する図である。
【符号の説明】
【0063】
1…DNAプローブチップ基板(フロートガラス)、2,15…電極、3…フッ素表面コーティング、4…プローブ固定領域、6…プラスに解離した残基(プラス電荷)、11…カバーガラス、12−1,12−2,12−3…プローブ、14…ターゲットポリヌクレオチド、25,26…電源、33−1…プローブ12−1の第1エリア、33−2…プローブ12−1の第2エリア、33−3…プローブ12−1の第3エリア、27…プローブ12−1の第2エリアの一部の配列、50…mRNA試料液、100…DNAプローブチップ、101,102,103,111,113…特性曲線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、該基板上に形成された複数の独立したプローブ固定領域が形成された電極、および、前記電極面上に複数のアレー状のピラーが形成され、該アレー状のピラーのそれぞれの面上に共有結合で固定された所定のDNAプローブを有するDNAプローブチップ。
【請求項2】
前記基板上に複数の異なるDNAプローブが各々固定されたプローブ固定領域を有する構造、前記各プローブ固定領域上にアレー状のピラーが存在しピラー間が谷間を形成する構造、前記各プローブ固定領域を形成する電極構造、DNAプローブの一端がピラー表面に共有結合で固定された構造、を有するDNAハイブリダイゼーションチップ。
【請求項3】
前記DNAプローブは、該DNAプローブが固定されているピラー表面側から順に少なくても3つのエリアを構成し、第1エリアはターゲットポリヌクレオチドと実質相補の塩基配列とされ、第2エリアはターゲットポリヌクレオチドのACGTのいかなる塩基とも相補的な水素結合を形成しない塩基を含む塩基配列とされ、第3エリアはターゲットポリヌクレオチドと実質相補の塩基配列とされるとともに、第1エリアの塩基長と等しいか、より短い請求項1または2記載のDNAプローブチップ。
【請求項4】
前記第2エリアがターゲットポリヌクレオチドと非相補な塩基配列を少なくても1/3以上含むものである請求項3記載のDNAプローブチップ。
【請求項5】
前記第2エリアがAGあるいはCT対に比べエネルギー的に不安定ではあるがターゲットポリヌクレオチドと水素結合を形成することができる塩基配列を含むものである請求項4記載のDNAプローブチップ。
【請求項6】
前記第1エリア、第2エリアおよび第3エリアのターゲットポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションの安定性が第1エリア、第3エリア、第2エリアの順で低下する請求項3ないし5のいずれかに記載のDNAプローブチップ。
【請求項7】
基板、該基板上に形成された複数の独立したプローブ固定領域が形成された電極、および、前記電極面上に複数のアレー状のピラーが形成され、該アレー状のピラーのそれぞれの面上に共有結合で固定された所定のDNAプローブを有するDNAプローブチップと、該DNAプローブチップ表面に対向して配置された部材との間に、ターゲットポリヌクレオチドを含む試料液を添加する工程、前記電極と前記試料液部位との間に所定の電界を印加して、前記ターゲットポリヌクレオチドをDNAプローブチップ表面のピラーの谷間に濃縮する工程、前記電極と前記試料液部位との間に印加する電界を反転させ、前記ターゲットポリヌクレオチドをピラー表面のプローブとハイブリダイゼーションを開始させる工程からなることを特徴とするDNAハイブリダイゼーション法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−98330(P2006−98330A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−287197(P2004−287197)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(504296024)有限責任中間法人 オンチップ・セロミクス・コンソーシアム (39)
【Fターム(参考)】