説明

DNA切断点の分析のための方法

本発明は、DNA切断点を同定するための方法およびその際に用いるための薬剤に関する。より詳細には、本発明は、新規なマルチプレックスDNA増幅技術の適用に基づく、遺伝子転座切断点を同定するための方法を提供する。本発明の方法は、切断点の位置の同定を促進するだけではなく、さらに、それをまたいで切断点が生じるDNAセグメントの単離を可能にする。これは、この領域をまたぐ配列などに対して、切断点領域のさらなる分析を行う貴重な機会を提供する。本発明の方法は、それだけには限定されないが、患者における疾患の発症に付随する遺伝子切断点を特徴付け、それによって対象の疾患状態の継続的なモニターのための患者に特異的なプローブおよびプライマーのデザインを可能にする日常的手段を提供することを含めた適用範囲において有用である。切断点の存在によって特徴付けられる状態の進行をモニターすることの他に、既存の治療用薬物および/または新たな治療用薬物の有効性の評価、ならびに状態が新生物である範囲で、寛解状態からの対象の再発の可能性の予測も可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DNA切断点を同定するための方法およびその際に用いるための薬剤に関する。より詳細には、本発明は、新規なマルチプレックスDNA増幅技術の適用に基づく、遺伝子転座切断点を同定するための方法を提供する。本発明の方法は、切断点の位置の同定を促進するだけではなく、さらに、切断点が内部に生じるDNAセグメントの単離を可能にする。これは、この領域をまたぐ配列などに対して、切断点領域のさらなる分析を行う貴重な機会を提供する。本発明の方法は、それだけには限定されないが、患者における疾患の発症に付随する遺伝子切断点を特徴付け、それによって対象の疾患状態の継続的なモニターのための患者に特異的なプローブおよびプライマーのデザインを可能にするルーチン手段を提供することを含む、様々な適用において有用である。切断点の存在によって特徴付けられる状態の進行をモニターすることの他に、既存の治療用薬物および/または新たな治療用薬物の有効性の評価、ならびに状態が新生物である範囲で、寛解状態からの対象の再発の可能性の予測も可能となる。
【背景技術】
【0002】
本明細書において、あらゆる以前の出版物(もしくはそれに由来する情報)、または知られているあらゆる事柄に対する言及は、以前の出版物(もしくはそれに由来する情報)または知られている事柄が、本明細書が関係する努力傾注分野における共通の一般的知識の部分を形成するという認知または承認またはあらゆる形態の示唆と理解せず、理解してはならない。
【0003】
本明細書において著者が言及する出版物の参考文献の詳細を、本明細書の終わりにアルファベット順に収集する。
【0004】
非相同の染色体間で部分を交換することによって、以前は連結されていなかったゲノムのセグメントは染色体の転座により一緒になる。転座の中には新しい表現型に関連しないものもあるが、タンパク質発現の変調または新しい融合タンパク質の合成により疾患をもたらし得るものもある。
【0005】
生じる染色体転座には2つの主なタイプが存在し、これらは相互(非ロバートソン転座としても知られる)転座およびロバートソン転座である。さらに、転座は平衡(遺伝情報の過剰または欠損のない均等な物質の交換における)または非平衡(染色体材料の交換が不平等であり過剰または欠損の遺伝子をもたらす)であり得る。
【0006】
相互(非ロバートソン)転座は、通常、非相同の染色体間の物質の交換をもたらし、新生児約600人中に1人に見出される。このような転座は通常無害であり、出生前診断によって見出され得る。しかし、平衡の相互転座の保有者は、非平衡の染色体の転座のある配偶子を生成するリスクの増大を示し、それによって流産または異常のある子供がもたらされる。
【0007】
ロバートソン転座は、短腕を喪失したセントロメア領域付近に融合する2つの末端動原体型染色体を伴う。2本の染色体は一緒に融合するので、得られた核型に染色体は45個しかない。ロバートソン転座は、末端動原体型染色体の組合せすべてに関して観察されている。最も一般的な転座は第13および第14染色体に関与するもので、約1300人中に1人に見られる。他の転座同様、ロバートソン転座の保有者は、表現型は正常であるが、流産または異常な子孫をもたらす非平衡の配偶子のリスクを示す。例えば、第21染色体に関与するロバートソン転座の保有者は、ダウン症候群の子供を有する高確率を示す。
【0008】
転座の発生に起因し得る疾患には以下が含まれる:
(i)癌-いくつかの形態の癌は転座によって引き起こされる。これは、主に白血病(例えば、急性骨髄性白血病および慢性骨髄性白血病)において記載されている。
(ii)不妊症-これは、親が無症候性であるが妊娠した胎児が生存可能でない場合、親候補者の片方が平衡型転座を保有する場合に生じ得る。
(iii)ダウン症候群-ある場合には、これは第21染色体の約3分の1の、第14染色体上へのロバートソン転座によって引き起こされる。
【0009】
染色体転座の詳しい例、およびこれらに付随する疾患には以下が含まれる:
・ t(2;5)(p23;q35)-未分化大細胞リンパ腫
・ t(8;14)-バーキットリンパ腫(c-myc)
・ t(9;22)(q34;q11)-フィラデルフィア染色体、CML、ALL
・ t(11;14)-マントル細胞リンパ腫(Bcl-1)
・ t(11;22)(q24;q11.2-12)-ユーイング肉腫
・ t(14;18)(q32;q21)-濾胞性リンパ腫(Bcl-2)
・ t(l7;22)-隆起性皮膚線維肉腫
・ t(15;17)-急性前骨髄急性白血病(pmlおよびレチノイン酸受容体遺伝子)
・ t(1;12)(q21;p13)-急性骨髄性白血病
・ t(9;12)(p24;p13)-CML、ALL(TEL-JAK2)
・ t(X;18)(p11.2;q11.2)-滑膜肉腫
・ t(1;11)(q42.1;q14.3)-統合失調症
・ t(1;19)-急性前駆B細胞白血病(PBX-1およびE2A遺伝子)。
【0010】
ショートハンドt(A;B)(p1;q2)は、A染色体とB染色体の間の転座を意味するために用いられる。2つ目のカッコ内における情報が与えられる場合は、A染色体およびB染色体それぞれに対する染色体内の正確な位置を表しており、pは染色体の短腕を示し、qは長腕を示し、pおよびqの番号は染色体を顕微鏡下で染色した場合に見られる領域、バンド、およびサブバンドを意味する。
【0011】
上記に詳述したように、慢性骨髄性白血病は、染色体転座によって引き起こされる新生物性の状態の例である。しかし、多くの新生物性の状態と異なり、効果的に診断およびモニターすることができる場合は、その治療の見込みはきわめて良好である。
【0012】
慢性骨髄性白血病の実質的にすべての場合において、特異的な転座が見られる。この転座は、第9および第22染色体の長腕からの小片の相互の融合を伴う。第22染色体の変更は、フィラデルフィア染色体(Ph1と省略される)として知られている。Ph1染色体の切断点を配列決定すると、転座により、c-ABLプロトオンコジーンからの配列と、別のBCR(切断点クラスター領域)を一緒にすることによって融合遺伝子が作成されることが見出された。BCR-ABL融合遺伝子は、調節不全のタンパク質チロシンキナーゼとして機能し、細胞を新生物性になりやすくするリンタンパク質(p210)をコードしている。この仮説は、p210の発現はin vitroで様々な造血性の細胞系の形質転換をもたらし、ヒトBCR-ABL遺伝子に対してトランスジェニックのマウスは数々の造血性の悪性腫瘍を発症する発見によって支持される。
【0013】
転座が生じている癌の、よく研究された別の例はバーキットリンパ腫に見られる。このB細胞腫瘍のいくつかの場合には、転座が、第8染色体および他の3つの染色体(第2、14、または22)のうちの1個に関してみられる。これらの場合において、融合タンパク質は産生されない。むしろ、第8染色体上のc-mycプロトオンコジーンは、免疫グロブリン遺伝子プロモーターの転写制御下に置かれる。B細胞において、免疫グロブリンプロモーターは転写活性が高く、単一遺伝子的性質を示すいくつかの他の系から知られているc-mycの過剰発現をもたらす。したがって、この転座は、発がん性タンパク質の異常な高発現をもたらす。
【0014】
慢性骨髄性白血病において観察されるものなどの染色体の転座を診断する古典的方法は、核型分析によるものである。しかし、今では多くの転座に対して、切断点をまたがるプライマーを用いて、PCRによって転座を検出することが可能である。いくつかの場合において、PCR技術を、高感度検出および治療のモニターにも用いることができる。治療の効果を決定するためのモニターは、ますます効果的な治療が開発されるとともに、慢性骨髄性白血病および急性前骨髄球性白血病などの疾患にとってますます重要になっている。これらの2疾患をモニターするには、PCRに対する開始材料はRNAである。転座切断点は、各遺伝子のイントロン中にあり、その結果、RNAスプライシングによりイントロンによって転写されたRNAの配列は除去され、患者集団に存在する異なる転座は非常に大きな数であるのにかかわらず、1個または非常に限られた数の最終mRNA産物しか産生されない。
【0015】
しかし、PCRにより転座を検出および定量するための出発材料としてRNAを使用することは、RNAが分解しやすいために取り扱うのが難しい分子であるという不利な点を有する。DNAは、より安定な分子である。しかし、DNAでの切断点の最初の同定および特徴付けはずっと困難である。なぜならば、染色体融合部位のクラスター領域は数万ヌクレオチドの大型のイントロンをまたがることが多いからである。これらのサイズは、1回のPCR反応による直接適用には大きすぎる。したがって、DNA試料に対して日常的に切断点分析を行うための手段を開発することが引き続き必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明を導く研究において、DNA試料における切断点の位置解析および分析を可能にする新規なマルチプレックスの増幅反応が開発された。切断点の正確な位置は不明であるが、本発明の方法はそれにもかかわらず相対的に簡素で簡単なマルチプレックス増幅反応を用いて、DNA試料における切断点の存在の診断、ならびに切断点領域の単離および分析を可能にしている。この増幅反応のデザインは、長いPCR産物を得ることを必要としないという利点をもたらす。さらに、増幅プライマーの5'末端にプライマーハイブリダイゼーションのタグ領域を任意選択で組み込むことで、これらのプライマーを用いた大量のコピー数の増幅産物を速やかに得ることが可能になり、したがって増幅産物の単離および分析が促進される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本明細書および以下の特許請求の範囲を通して、文脈上、他の解釈を要する場合を除き、「含む(comprise)」の言葉、ならびに「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」などの変形は、記載される整数またはステップまたは整数もしくはステップのグループを包むことを意味するが、あらゆる他の整数またはステップまたは整数もしくはステップのグループを排除するものではないことが理解されよう。
【0018】
本明細書で用いられる「に由来する」の語は、特定の整数または整数のグループが、特定される種に起源を持つが、必ずしも特定される供給源から直接得られるものではないことを指摘すると理解されたい。さらに、本明細書で用いられる単数形の「1つの(a)」、「および」、および「その(the)」は、文脈上、明らかに他の解釈を要する場合を除き複数の指示物を含む。
【0019】
別段の規定がなければ、本明細書で用いる技術用語および科学用語はすべて、本発明が属する技術分野の通常の技術者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。
【0020】
本明細書は、本明細書の参考文献の後に示す、PatentInバージョン3.1プログラムを用いて作成されるヌクレオチド配列情報を含んでいる。各ヌクレオチド配列は、数字表示<210>とその後の配列識別子(例えば、<210>1、<210>2など)によって、配列リストにおいて同定される。配列の長さ、タイプ(DNAなど)、および各配列に対する供給源の生物体は、それぞれ数字表示フィールド<211>、<212>、および、<213>において供給する情報によって示される。本明細書において言及するヌクレオチド配列は、配列番号とその後の配列識別子(例えば、配列番号1、配列番号2など)の表示によって同定される。本明細書において言及する配列識別子は、配列識別子が続く(例えば、<400>1、<400>2など)、配列リストにおける数字表示フィールド<400>において提供する情報に対応する。すなわち、本明細書において詳述するように配列番号1は、配列リストにおいて<400>1と示す配列に対応する。
【0021】
本発明の一態様は、遺伝子切断点を同定する方法を対象とし、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)の他のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと
を含む。
【0022】
したがって、本発明は、好ましくは染色体遺伝子転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)ゲノムDNA試料を、
(a)プライマーがその5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)プライマーがその5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドのタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーに位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点の5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーに位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点の3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0023】
したがって、好ましくは遺伝子切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)の他のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0024】
したがって、本発明は、遺伝子転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のアンチセンス鎖のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマーであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるプライマー、
(c)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(i)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー、
(c)ステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、
(d)ステップ(iii)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0025】
この好ましい実施形態に従って、染色体BCR-ABL転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0026】
したがって、本発明は、好ましくは、染色体BCR-ABL転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマーであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるプライマー、
(c)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(i)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー、
(c)ステップ(iii)(a)のフォワードプライマーオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(iii)(b)のリバースプライマーオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを単離および配列決定するステップと
を含む。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1ラウンドのPCRにおいて切断点領域を増幅するためのストラテジーを示す図である。遺伝子Aに対するフォワードプライマーおよび遺伝子Bに対するリバースプライマーは、個々にではなく、プールにおいて用いるのが好ましい。切断点の両側に位置するプライマー対だけが効率的な増幅を生成する。タグおよびタグプライマーは示していない。第2ラウンドのPCRに対するストラテジーは同じであるが、フォワードプライマーおよびリバースプライマーは、第1ラウンドにおけるそれらの対応するプライマーのちょうど内部にある。慢性骨髄性白血病の場合、遺伝子AはBCR遺伝子であり、遺伝子BはABL遺伝子である。プライマー結合部位は、増幅産物の最大サイズが1キロ塩基を超えないように位置する。
【図2】慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL転座切断点を単離するためのプロトコールを示す図である。
【図3】1名の患者の試験からの増幅したサンプルを示す電気泳動の結果の画像を示す図である。NFAは6個のフォワードBCRプライマーのプールであり、NFA13およびNFA14は各々12個のリバースABLプライマーを含むプール2個であった。NFA13/14は、プール13および14に属する24個のABLプライマーを含むプールであった。
【図4】慢性骨髄性白血病の患者4人における切断点の配列を示す図である。左の数字は、BCRおよびABL遺伝子に対するGenbank塩基番号である。
【図5】切断点を単離および同定した患者27人におけるABLおよびBCR遺伝子におけるDNA切断点の部位を示す図である。ABL遺伝子における青色領域はエキソン1a、1b、およびE2を表す。BCR遺伝子における赤色領域はエキソン13、14、および15を表す。〈慢性骨髄性白血病(CML)におけるBCR-ABL切断点の単離〉 CML患者29人からの試料を、本発明を用いて試験した。これらの患者27人において切断点の配列を単離し、得られた配列情報を詳述した。1人の患者では、BCR/ABL切断点を増幅することができなかった。残りの患者に対して疑われる切断点を増幅した。配列情報は5'末端のBCR遺伝子および3'末端のABL配列を示すが、この切断点は疑われる領域に特異的に作成されたプライマーで確認されなかった。
【図6】CML患者16人からの血液試料における微小残存病変(MRD)のDNAベースおよびRNAベースの定量の比較を示す図である。ND=検出されず。Y軸は細胞全体の割合としての白血病細胞数を示す。DNAベースのPCRは、試験した患者における切断点配列の知識を用いて合成した患者特異的なプライマーを用い、RNAベースのPCRは、リバース転写を用い、その後一般的なプライマーを用いたPCRを行った従来のアプローチであった。黒色記号はMRDが両方の技術によって検出されたことを示し、赤色記号は疾患がDNA-PCRによってのみ検出されたことを示し、青色記号は疾患が検出されなかったことを示す。DNAベースのPCRは、RNAベースのPCRよりも約2桁感度が良好であると思われる。
【図7】急性前骨髄球性白血病の患者1人からの試料からのPML-RARα切断点の単離を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、その5'末端で、プライマーハイブリダイゼーション部位として用いるのに適するDNA領域とそれ自体タグ付けされている、切断点に隣接する遺伝子に対する複数のプライマーを用いる2つのPCR反応を逐次的に行うことによって、遺伝子転座切断点はDNA分析によって日常的かつ容易に同定することができることに、部分的には基礎をなすものである。複数のプライマーを同時に用いることで、現在まで行われていたロングPCRよりむしろ、ショートPCRの実施を容易にする。第1の反応で用いられたものの内部の遺伝子領域に対するプライマーを用いた第2のPCRを逐次的に行うことによって、ゲノムDNAの分析に関して現在まで可能にされていたものよりも小型の増幅産物の同定および単離を可能にするやり方で、切断点領域をまたがるDNA分子の増幅を実現することができる。それ自体をプライマーが標的にし得る独特のタグ領域を組み込むことによって、最初の増幅産物の増幅を速やかに実現することができ、それによって切断点に隣接する遺伝子に対する開始プライマーの低濃度の使用に付随するあらゆる不利点が克服される。本発明の方法は、したがって、DNAを用いた遺伝子切断点を同定および分析する簡単であるが正確な手段を提供する。この目的のために、本発明の方法を慢性骨髄性白血病を参照によって例示するが、本方法はDNA試料によって遺伝子切断点を同定するように探求されるあらゆる状況に適用することができることが理解されるであろう。
【0029】
したがって、本発明の一態様において、遺伝子切断点を同定する方法を対象とし、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)の他のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0030】
本発明の好ましい一実施形態において、ステップ(i)(a)において1個のプライマーを用いる場合、ステップ(i)(b)において2個以上のプライマーを用いるのが好ましいことを理解されたい。ステップ(i)(b)において1個のプライマーを用いる場合、反対が適用される。同様に、別の好ましい一実施形態において、ステップ(iii)(a)において1個のプライマーを用いる場合、ステップ(iii)(b)において2個以上のプライマーを用いるのが好ましい。ステップ(iii)(b)において1個のプライマーを用いる場合、反対が適用される。
【0031】
切断点の5'および3'にある「隣接遺伝子」に対する言及は、切断点のいずれかの側にある遺伝子または遺伝子断片に対する言及と理解されたい。これらの遺伝子/遺伝子断片において利用される5'および3'の命名法に関して、これは、対象のDNAが由来する2重鎖DNAのセンス鎖の5'→3'方向に対する言及と理解されたい。したがって、「切断点の5'にある隣接遺伝子」に対する言及は、2重鎖DNAのセンス鎖に対する言及と理解されたい。この目的で、本明細書における「遺伝子」または「遺伝子断片」に対するあらゆる言及は、それが特定されない程度まで、2重鎖DNAのセンス鎖に対する言及である。したがって、切断点の5'にある隣接遺伝子のアンチセンス鎖に対するフォワードプライマーに対する言及は、フォワードプライマーが切断点の5'にあるセンス鎖の領域と同じDNA配列を保有し、したがってその領域に対応するアンチセンス鎖に結合し、増幅することを示している。
【0032】
「遺伝子」に対する言及は、タンパク質産物(それが完全なタンパク質であっても、またはタンパク質の断片であっても)をコードするDNA分子に対する言及と理解されたい。染色体DNAに関して、遺伝子はイントロンおよびエキソン両方の領域を含んでいる。しかし、対象のDNAがcDNAである限りにおいては、対象のDNAがベクターDNAである場合に生じ得るように、イントロン領域が存在しないことがある。このようなDNAは、それにもかかわらず5'または3'の非翻訳領域を含み得る。したがって、本明細書における「遺伝子」に対する言及は、例えば、ゲノムDNAおよびcDNAを含めたタンパク質またはタンパク質断片をコードするあらゆる形態のDNAを包含すると理解されたい。
【0033】
遺伝子の「切断点」に対する言及は、1つの遺伝子の断片が別の遺伝子またはその断片と組み換えられる点に対する言及と理解されたい。すなわち、一方または両方どちらかの遺伝子が、1遺伝子の始まりまたは末端が他の遺伝子の始まりまたは末端に連結せずに、一方または両方の遺伝子内の点で連結するようになるように、2つの遺伝子の組換えが生じている。すなわち、対象の遺伝子の少なくとも1つが切断され、別の遺伝子のすべてまたは部分と組み換えられている。2つの非相同遺伝子の領域の組換えは、それだけには限定されないが、染色体遺伝子の転座またはin vitroの相同組換え(DNAセグメントがベクターまたは人工染色体中に挿入されている場合、またはそのベクタータンパク質が宿主細胞において染色体的に組み込まれる場合に起こり得るなど)を含むあらゆる方法によって起こり得る。
【0034】
対象の遺伝子切断点が、染色体遺伝子転座切断点であるのが好ましい。本明細書において先に詳述したように、染色体遺伝子の転座は起こることが知られており、いくつかの場合においては疾患状態の開始をもたらす。2つの遺伝子間の遺伝子の転座が、転座の事象が起こるたびに2つの遺伝子上の正確に同じヌクレオチドの位置に起こる切断点を必ずしももたらすわけではないので、1患者における切断点の位置(例えば、あるCML患者におけるフィラデルフィア染色体切断点)が、別の患者において同じであると仮定することは不可能である。本発明の方法により、DNAを用いて、簡単であるが正確に遺伝子切断点を決定することが可能になる。
【0035】
したがって、本発明は、好ましくは、染色体遺伝子転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)ゲノムDNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点の5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点の3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)の他のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0036】
「DNA」に対する言及は、デオキシリボ核酸またはその誘導体もしくは類似体に対する言及と理解されたい。この点に関しては、cDNAおよびゲノムDNAを含めたDNAの全形態が包含されると理解されたい。本発明の核酸分子は、天然に存在するもの(生物学的試料に由来するものなど)、組換え生成されるもの、または合成的に生成されるものを含めたあらゆる起源であってよい。
【0037】
「誘導体」に対する言及は、天然の、合成の、または組換えの供給源からの前記DNAの断片、ホモログ、またはオーソログに対する言及を含むと理解されたい。「機能的な誘導体」は、DNAのあらゆる1つまたは複数の機能的活性を示す誘導体と理解されたい。前記DNA配列の誘導体には、他のタンパク質分子または非タンパク質分子に融合するDNA分子の特定の領域を有する断片が含まれる。本明細書において企図される「類似体」には、それだけには限定されないが、その化学的構成または全体の高次構造に対する改変など、ヌクレオチドまたは核酸分子に対する改変が含まれる。これには、例えば、バックボーンの形成または相補的な塩基対のハイブリダイゼーションのレベルなど、ヌクレオチドまたは核酸の分子が、他のヌクレオチドまたは核酸の分子と相互作用する様式に対する改変が含まれる。ヌクレオチドまたは核酸の分子の、ビオチン化または他の形態の標識化は、本明細書において規定する「機能的な誘導体」の一例である。
【0038】
本明細書において先に詳述したように、本発明の方法は、対象のDNA試料のマルチプレックス増幅を促進するための複数のオリゴヌクレオチドプライマーの使用に基づく。本発明の一実施形態において、対象のDNA試料は、転座切断点の5'に位置する第1の遺伝子(遺伝子A)の一部分、および転座切断点の3'に位置する第2の遺伝子(遺伝子B)の一部分を含むハイブリッドの遺伝子である。特定の一実施形態において、遺伝子AはBCRであり、遺伝子BはABLである。遺伝子転座切断点の存在および性質の同定は、遺伝子Aに対する2個以上のフォワードプライマーおよび遺伝子Bに対する2個以上のリバースプライマーを用いて実現される。遺伝子Aに対するプライマーは、遺伝子Aに沿って所々でハイブリダイズするようにデザインされており、遺伝子Bに対するプライマーは同様に、遺伝子Bに沿って所々でハイブリダイズするようにデザインされている。第1ラウンドのPCRにおいて、ハイブリッドの遺伝子を増幅するプライマーは、切断点の5'にある遺伝子Aの部分とハイブリダイズする上流のプライマー、および切断点の3'にある遺伝子Bの部分とハイブリダイズする下流のプライマーである。さらに、小型の増幅産物は長い増幅産物よりも効率的に増幅されるので、切断点に最も接近してハイブリダイズするプライマー対によって誘導される増幅に対して選択が生じる。同じ原理が第2ラウンドのプライマーに対して保持され、一実施形態において、各第2ラウンドのプライマーは個々の第1ラウンドのプライマーに対応するが切断点に関して内部でハイブリダイズするので、切断点に結合する第2ラウンドのプライマーの対によって増幅するためのさらなる選択が存在する。本発明を決して限定するものではないが、第2ラウンドのPCR増幅により切断点領域の増幅に対するさらなる特異性がもたらされる。第2ラウンドのPCRの後、切断点を囲む配列が上首尾に増幅されたことは、電気泳動上で増幅された物質のバンドとして明らかである。
【0039】
どこに切断点があるかは正確に知られていないので、この配列が転座の事象の間に効果的にスプライスアウトされることによって、1つまたは複数の内部プライマーがその標的の領域の配列にハイブリダイズしないことがある可能性がある。しかし、一実施形態において、第1ラウンドの増幅に対して選択されたフォワードプライマーおよびリバースプライマーは、切断点に隣接する遺伝子断片のそれぞれ5'および3'末端領域からの増幅を対象とする。次いで、第2ラウンドのプライマーは、切断点に隣接する遺伝子断片の内部領域、すなわち第1ラウンドのプライマーが標的にする領域よりも切断点に近い領域を対象とする。繰り返すと、切断点の正確な位置は知られていないので、これらのフォワードプライマーおよび/またはリバースプライマーの1つまたは複数は、それら標的領域の配列がスプライスアウトされているので、DNA試料にハイブリダイズしないことがあることが理解されよう。第2ラウンドの「内部プライマー」に関して、これは、少なくとも1つのプライマーであるが、好ましくはすべてのプライマーが、(アンチセンス鎖または増幅産物ではなく)転座された遺伝子それ自体の状況において考える場合、第1ラウンドの増幅において用いられるフォワードプライマーのほとんどの3'の3'、および第1ラウンドの増幅で用いられるリバースプライマーのほとんどの5'の5'である点から対象のDNAを増幅するようにデザインされているプライマーの集団に対する言及であることを理解されたい。連続的により内部に限局化されたプライマーを用いた2ステップの増幅のアプローチを用いることによって、ロングPCRを行う必要なしに、または非常に長く、煩雑な増幅産物を得る必要なしに、切断点領域をまたがるDNAの増幅を実現することができる。
【0040】
「プライマー」または「オリゴヌクレオチドプライマー」に対する言及は、ヌクレオチドの配列、またはその機能的な誘導体もしくは類似体を含むあらゆる分子に対する言及と理解されたく、その機能には、対象の核酸分子の領域に対するハイブリダイゼーション(対象のDNAは「標的DNA」とも言及される)、およびその領域の5'にあるDNA配列の増幅が含まれる。プライマーは、非核酸成分を含み得ることを理解されたい。例えば、プライマーは、蛍光または酵素のタグ、あるいは分子がプローブとして使用されるのを促進し、またはその他の方法で検出もしくは固定化を促進するいくつかの他の非核酸成分など、非核酸のタグも含むこともある。プライマーは、本明細書の以下により詳しく論じるオリゴヌクレオチドタグなどのさらなる核酸成分も含むことがある。別の一例において、プライマーは核酸側鎖を示すペプチドバックボーンを含む、タンパク質核酸であってよい。前記オリゴヌクレオチドプライマーがDNAプライマーであるのが好ましい。
【0041】
「フォワードプライマー」に対する言及は、標的DNAのアンチセンス鎖にハイブリダイズすることによって、対象のDNA試料における標的DNAを増幅するプライマーに対する言及と理解されたい。
【0042】
「リバースプライマー」に対する言及は、標的DNAのセンス鎖にハイブリダイズすることによって、対象のDNA試料における、およびPCRにおける標的DNAを増幅するプライマーに対する言及と理解されたい。
【0043】
本発明における使用に適するプライマーのデザインおよび合成は、当業者であればよく知っている。一実施形態において、対象のプライマーの長さはヌクレオチド4個から60個であり、別の一実施形態において長さ10個から50個であり、さらに別の一実施形態において長さ15個から45個であり、なお別の一実施形態において長さ20個から40個であり、さらに別の一実施形態において長さ25個から35個である。さらになお別の一実施形態において、プライマーの長さはヌクレオチド約26、27、28、29、30、31、32、33、または34個である。本発明を決して限定するものではないが、一実施形態において、プライマーのTMは65から70℃であるようにデザインされている。これにより、PCRは高いアニーリング温度を用いることができ、そのため非特異的なアニーリングおよび増幅が最小になる。第2ラウンドのPCRに対する各フォワードプライマーまたはリバースプライマーは、第1ラウンドのその対応するフォワードまたはリバースのプライマーに対するハイブリダイゼーション配列に対して、フォワードプライマーでは下流、またはリバースプライマーでは上流のいずれかに近い配列にハイブリダイズするようにデザインされている。ごく近接する配列にハイブリダイズするように対応するプライマーをデザインすれば、転座切断点がハイブリダイゼーション配列間に関与し、または生じる可能性が最小になる。これが起こったとしても、転座切断点を取り囲む配列は、状況に応じて、すぐ上流または下流のプライマー対によってなお増幅され得る。
【0044】
本明細書に記載する例示の実施形態において、プライマーは、その結合部位がねじれており、近接の結合部位間の分離が約500塩基であるように選択された。これは、増幅された材料のサイズが、約1キロ塩基の最大長さまでの範囲であるようになされた。この戦略は、より少ないプライマーを必要とし、複雑ではないマルチプレックスPCR反応を必要とする「ロングPCR」の戦略と対照的である。本発明の戦略の利点は、標準のより短いPCR反応がより頑強であり、配列決定に適する小型の増幅産物に切断するのに別のセットのPCR反応を必要とするのではなく、増幅された産物がすぐに配列決定され得ることである。
【0045】
本発明の方法において用いられるプライマーの数に関して、当業者であれば決定することができる。プライマーの総数に関して、考慮を必要とする変数は、標的とされる遺伝子領域のサイズ、およびそれに対してプライマーがハイブリダイズする配列間の距離である。約1kbを超えないPCR断片を増幅するために、プライマーを約500塩基の間隔でハイブリダイズするようにデザインすることができる。CMLに関して、ほぼすべてのBCR転座は、各々が長さ約3kbである2つの領域の1つを伴う。この場合、外側のフォワードプライマー12個、および対応する内側のプライマー12個を用いることができる。しかし、ABL遺伝子は、より長く、長さ約140kbであり、最高280個の外側のリバースプライマーおよび280個の内側のリバースプライマーを用いることができる。特定の一実施形態において、フォワードプライマー6個およびリバースプライマー24個の組合せを用い、別の一実施形態において、フォワードプライマー6個およびリバースプライマー140個の組合せを用いる。用いるために選択するプライマー数は、転座に関与する遺伝子に依存し、したがって転座によって変化してよく、行うことが必要とされるPCR反応の数対、PCR反応の間に得られる非特異的な産物の可能性のPCR反応の競合する問題を考慮することを伴う。当業者であれば理解されるように、各々の個々のPCR反応におけるプライマー数が大きいと、PCR反応の数は低減するが、非特異的な増幅反応の可能性は増大する。
【0046】
一実施形態において、本発明の方法は、少なくとも3個のプライマーを用いて、別の一実施形態においては少なくとも4個のプライマーを用いて行う。さらに別の一実施形態において、前記発明を、プライマー6〜10個、プライマー6〜15個、プライマー6〜20個、プライマー6〜25個、またはプライマー6〜30個用いて行う。なお別の一実施形態において、プライマー5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、または30個を用いる。
【0047】
したがって、好ましくは、遺伝子切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点の3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0048】
好ましくは、前記遺伝子切断点は遺伝子転座切断点であり、さらにより好ましくは染色体遺伝子転座切断点である。
【0049】
本発明の方法において用いられるプライマーは、出発のプライマーのプールが複数の個々のプライマーを含むことにより、個々の濃度が比較的低い。これによりPCRの阻害を引き起こすリスクが低減される。増幅結果を成功させるために、したがって、検出および単離に十分な増幅産物を得ることができる必要がある。本発明の一態様において、これはプライマーハイブリダイゼーション部位として用いることができるオリゴヌクレオチドでプライマーをタグ付けすることによって促進することができる。遺伝子AおよびBに対するプライマーの他に、各PCR反応は、したがって、タグに対する2つのオリゴヌクレオチドの集合も含むことができる。これらのオリゴヌクレオチド配列はプライマーとして働き、内部ハイブリダイゼーションによって得られた増幅産物の効率的な2次増幅、および遺伝子AおよびBに対するプライマーの伸長を可能にする。一実施形態において、タグに対するプライマーは、非特異的な増幅を最小にするために、65℃〜70℃のTMを示す。このように、これらのプライマーは、AおよびBに対するプライマーの濃度が低いことによって提起される潜在的な問題を克服することを対象とする。それにもかかわらず、ある場合では、一方または両方のタグプライマーを用いる必要がないことがある。例えば、BCR遺伝子に対するフォワードプライマーが6個しか存在しない場合、各プライマーは比較的効率的な増幅に十分である濃度であることができる。さらに、タグプライマーは配列決定にも用いることができるので、オリゴヌクレオチドタグは、最終ラウンドのPCRに存在する場合、さらなる使用を提供することを理解されたい。したがって、タグは、プライマーハイブリダイゼーションのための部位として用いるのに適するが、対象のタグは、サザンゲル分析の状況におけるプローブ結合部位、またはそこから伸長されるプライマーもしくは増幅産物の単離を可能にするためなど、他の目的にも有用であり得る。この目的で、タグは、例えば、アフィニティークロマトグラフィー、ストレプトアビジン結合、または可視化によって、単離を可能にするタンパク質分子またはビオチンなどの非核酸成分を含むことができる。
【0050】
これらのタグがプライマーの伸長を妨害しないことを確実にするために、プライマーはその5'末端でオリゴヌクレオチドタグに連結している。「オリゴヌクレオチドタグ」に対する言及は、したがって、本発明のフォワードプライマーおよびリバースプライマーの5'末端に連結している50個未満のヌクレオチドのヌクレオチド配列に対する言及と理解されたい。一実施形態において、タグの長さは25〜30塩基である。フォワードプライマーおよびリバースプライマーに関連して提供する定義と一致して、本明細書に記載するオリゴヌクレオチドタグは、単離または可視化のタグなどの非核酸成分(例えば、ビオチン、酵素標識、蛍光標識など)も含むことができることも理解されたい。これにより、非分子の方法によりタグ付けされたプライマーまたは増幅産物の、迅速かつ簡単な単離または可視化が可能になる。
【0051】
オリゴヌクレオチドタグがプライマーに「作動可能に連結している」ということは、本明細書に詳述するように、タグ付けされたプライマーの機能的な目的が達成され得るように、これらの領域が連結されることに対する言及と理解されたい。それによってこれらの領域が連結される手段、さらに、それによって対象のオリゴヌクレオチドプライマーがその標的のDNA領域に結合する手段に関して、これらは様々なタイプの相互作用に相当する。この点において「相互作用」に対する言及は、あらゆる形態の相互作用(例えば、相補的なヌクレオチドの塩基対間のハイブリダイゼーション)、またはいくつかの他の形態の相互作用(例えば、プライマー分子またはタグ分子のあらゆる核酸または非核酸の部分と、例えば、標的分子、可視化手段、単離手段などのあらゆる他の核酸または非核酸分子との間の結合の形成)に対する言及と理解されたい。このタイプの相互作用は、それだけには限定されないが、共有結合、水素結合、ファンデルワールス力、またはあらゆる他の相互作用のメカニズムなどの結合の形成によって起こり得る。好ましくは、相互作用がプライマーと標的DNAの領域の間で起こる程度では、前記相互作用は相補的なヌクレオチド塩基対間のハイブリダイゼーションである。この相互作用を促進するために、標的DNAが、プライマーとのハイブリダイゼーションが起こるのに十分な時間および条件下、部分的または完全に1本鎖になされているのが好ましい。
【0052】
本発明をあらゆる1つの理論または作用機序に限定することなしに、それ自体がプライマーハイブリダイゼーション部位として機能するオリゴヌクレオチドタグを含めることで、本発明のフォワードプライマーおよびリバースプライマーによって生成される増幅産物の便利かつ特異的な増幅の促進を助けることができる。したがって、これは開始濃度の比較的低いフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いる場合に固有である、ある低度の増幅の限界を克服する。フォワードプライマーおよびリバースプライマーの開始濃度が十分に高い場合、必ずしもタグを用いなくてもよい。したがって、好ましい一実施形態において、ステップ(ii)の増幅反応がこれらすべてのプライマーの状況において進行するように、対象のDNA試料を、本発明のフォワードプライマーおよびリバースプライマーの両方、ならびにフォワードプライマーおよびリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマーと接触させる。しかし、遺伝子プライマーおよびタグプライマーの両方をベースとする増幅を同時に行うことが好ましいが、遺伝子プライマーベースの増幅が完了した後にタグプライマーベースの増幅ステップを行うように方法を適用することができることを理解されたい。
【0053】
タグのDNA配列は同じでもよく、または異なってもよい。第1ラウンドの増幅に関して、目的が最初の増幅産物を増幅することであれば、タグは同じであってよい。しかし、隣接遺伝子の一方の配列を含む増幅産物を選択的に濃縮したいと思うのであれば、対象の遺伝子(例えば、遺伝子A)のプライマーのタグ領域に対するプライマーは、他の遺伝子(例えば、遺伝子B)のプライマーのタグ領域に対するプライマーと異ならなければならない。別の一例において、第2ラウンドまたはその後のラウンドの増幅に関して、配列決定に用いるタグは、両方の鎖の同時の配列決定を防ぐために異なることが必要とされる。
【0054】
したがって、本発明は、遺伝子転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のアンチセンス鎖のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマーであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるプライマー、
(c)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(i)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー、
(c)ステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(iii)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0055】
前記遺伝子転座切断点が、染色体遺伝子転座切断点であるのが好ましい。
【0056】
本発明のオリゴヌクレオチドプライマーおよびタグは、本明細書に例示する特定の構造(線状の一本鎖分子である)に限定すべきではないが、本明細書に詳述する機能的な目的を達成するあらゆる適切な構造の立体構造に拡張してもよい。例えば、オリゴヌクレオチドのすべてまたは部分は2本鎖であり、ループ領域(例えば、ヘアピンカーブ)を含み、または開環状の立体構造(すなわち、ヌクレオチドのプライマーが実質的に円の形状であるがその末端領域が接続していない)の形態をとることが望ましいことがある。
【0057】
核酸のプライマーの標的DNAとの相互作用の促進は、あらゆる適切な方法によって行うことができる。これらの方法は当業者であれば知っている。
【0058】
プライマー誘導増幅を達成するための方法も、当業者には非常に良く知られている。好ましい方法において、前記増幅は、ポリメラーゼ連鎖反応、NASBA、または鎖置換増幅である。最も好ましくは、前記増幅はポリメラーゼ連鎖反応である。この目的では、本発明の一実施形態において、第1ラウンドのPCRにおいて20分のハイブリダイゼーションにより良好な増幅がもたらされる。
【0059】
「試料」に対する言及は、生物学的試料または非生物学的試料いずれかに対する言及と理解されたい。非生物学的試料の例には、例えば、合成で生成された核酸の集団の核酸産物が含まれる。「生物学的試料」に対する言及は、例えば、それだけには限定されないが、細胞材料、血液、粘液、糞便、尿、組織バイオプシー検体、動物の体内に導入され引き続き除去された流体(例えば、肺洗浄後に肺から抜き取られた食塩水、もしくは浣腸洗浄から回収した溶液など)、種子、もしくは花、もしくは微生物コロニーなどの植物材料または植物繁殖材料など、動物、植物、あるいは微生物(微生物の培養物を含む)に由来する生物学的材料のあらゆる試料に対する言及と理解されたい。本発明の方法に従って試験する生物学的試料は、直接試験してもよく、または試験前にいくつかの形態の処理を必要とすることもある。例えば、バイオプシー試料は、試験前に均一化を必要とすることがあり、またはインサイチュー試験用に切片化を必要とすることもある。さらに、生物学的試料が液体の形態ではない程度まで(試験にそのような形態が必要とされる場合は)、試料に移動性を持たせるためにバッファーなどの試薬の添加を必要とすることがある。
【0060】
標的のDNAが生物学的試料に存在する程度まで、生物学的試料を直接試験してもよく、またはそうでなければ生物学的試料に存在する核酸材料のすべてまたはいくらかを試験前に単離してもよい。例えば生ウイルスの不活性化またはゲル上の泳動など、標的の核酸分子を試験前に前処理することは本発明の範囲内である。生物学的試料は収集直後でもよく、または試験前に貯蔵(例えば、冷凍によって)してあってもよく、または試験前にその他の方法で処理(例えば、培養を行うことによって)してあってもよい。
【0061】
試料をプライマーと「接触させる」ことに対する言及は、相互作用(例えば、ハイブリダイゼーション)が起きることができるようにプライマーの試料との混合の促進に対する言及と理解されたい。この目的を達成する手段は、当業者であればよく知っている。
【0062】
どのタイプの試料が本明細書に開示する方法による試験に最も適するかの選択は、モニターする状態の性質など、状況の性質に依存する。例えば、好ましい一実施形態において、新生物性の状態が分析の対象である。新生物性の状態がリンパ性白血病である場合、血液試料、リンパ液試料、または骨髄吸引液が適切な試験試料を提供する可能性がある。新生物性の状態がリンパ腫である場合、リンパ節のバイオプシー、または血液もしくは骨髄の試料が、試験用の組織の適切な供給源を提供する可能性がある。新生物性の細胞のもとの供給源をモニターするのか否か、または転移の存在もしくは発生点からの新生物の他の形態の拡散をモニターしているのか否かについて、考慮がやはり必要とされる。この点では、あらゆる1つの哺乳動物から数々の異なる試料を回収し、試験するのが望ましいことがある。あらゆる所与の検出のシナリオに好適な試料を選択することは、当業者の技術の範囲内である。
【0063】
本明細書でそれが用いられる程度まで、「哺乳動物」の語は、ヒト、霊長動物、家畜動物(例えば、ウマ、ウシ、ヒツジ、ブタ、ロバ)、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、モルモット)、コンパニオン動物(例えば、イヌ、ネコ)、および捕獲性の野生動物(例えば、カンガルー、シカ、キツネ)を含む。哺乳動物がヒトまたは実験動物であるのが好ましい。哺乳動物がヒトであるのがさらにより好ましい。
【0064】
本明細書において先に詳述したように、一実施形態において、本発明の方法を、各々が(フォワードプライマーでは)3'、または(リバースプライマーでは)5'のいずれかである遺伝子領域から対応する第1ラウンドのプライマーによって標的とされる遺伝子領域に対する、複数の第2ラウンドのプライマーを用いて逐次的な2ステップの増幅として行う。当業者であれば、ある場合では、第2ラウンドの増幅を行う必要がないことがあるのを理解するであろう。第2ラウンドの増幅を行う必要性は、以下に記載する選択または濃縮のステップを行う場合にも回避される場合もある。この状況は、切断点付近の配列が非常に効率よく増幅され、非特異的な増幅がほとんどなく、そのため増幅産物の明確に規定されたバンドが、第1ラウンドの増幅の産物の電気泳動上に観察される場合に、または引き続きの選択ステップが非常に効率的である場合に生じ得る。しかし、一般的に、非特異的な増幅を最小にし、切断点領域をまたぐ比較的短い増幅産物を得るために、逐次的な2ステップの増幅プロセスを用いることが予想される。一般的に、増幅産物は、1.5kb未満、1kb未満、0.8kb未満、または0.5kb未満であることが予想される。転座される遺伝子のサイズに応じて、非特異的な増幅をさらに最小にするために、本発明の方法を第3または第4ラウンドの増幅ステップを組み込むように適用してもよいことを理解されたい。これは、マルチプレックス反応に存在するプライマーの数のため、および転座に関与する遺伝子の1つがAluなどの複数の反復配列を含むことが多いという事実のために問題であり得る。それにもかかわらず、さらなるラウンドの増幅に対する必要性はありそうもないことが予想される。
【0065】
本発明の方法は、増幅ステップを以前の増幅の増幅産物に対して直接、逐次的に行うことができるようにデザインされているが、これは、濃縮/選択ステップなどのあらゆるさらなるステップを当業者が組み込むことを求めるか否かに関して限定するものと理解してはならない。例えば、第1ラウンドの増幅の後に望ましい増幅産物に対して選択し、その後これらの材料単独に対して第2ラウンドの増幅を行うことを求めてもよい。選択または濃縮を利用することができる方法は、以下を含む。
(i)プライマーに連結している独特のオリゴヌクレオチドタグをベースにした選択ステップ。それに応じて、タグ自体も増幅され、したがって増幅産物の部分を形成するので、これらを、フォワードプライマーおよびリバースプライマー両方の増幅の結果であり、したがって切断点をまたがなければならない増幅産物の単離を可能にするプローブ部位として用いることができる。あるいは、タグの1つをビオチン化することで、フォワードプライマーまたはリバースプライマーのいずれかによる伸長に起因する増幅産物を同定および単離する手段がもたらされる。例えば、増幅産物をビオチン化したプライマーで満たすことにより、プライマーは対象の増幅産物を同定するためのプローブとして作用することができ、ビオチン化はこれらの増幅産物を単離するためのベースを提供することができる。本発明のプライマーグループの各々が独特のタグを含むことを確実にすることによって、かなりの特殊性で、対象の特異的な増幅産物だけを選び出すことは可能である。特に、当業者であれば、フォワードプライマーによって増幅されたがリバースプライマーによって増幅されなかった増幅産物を排除し、それによって対象の増幅産物がおそらく切断点をまたがって伸長しないことを示すことを求める。切断点をまたがる可能性が最もある増幅産物を選び出すことによって、プライマーの固有のクロスハイブリダイゼーションまたは切断点の両側に隣接しない増幅産物の増幅いずれかの結果として、逐次的なラウンドの複製はより特異的に標的にされ、望まない増幅産物が得られる可能性は低くなる。
(ii)ゲル上で産物を泳動し、関連する可能性のあるバンドまたは領域だけを切り出し、その後これらをさらなる増幅ステップにかけることを求めてもよい。第2ラウンドの増幅の後にゲル上にバンドが存在する場合、配列決定において何らかの問題が存在する場合、産物をゲルから切り出し、個々のプライマーおよび/またはより小さいプールのプライマーを用いて一連のPCR反応を行う試みを行うことによってこれをクリーンアップする試みを行うことができる。例えば、個々のフォワードBCRプライマー、およびリバースABLプライマー12個だけを含むプールを用いることができる。
(iii)非特異的な増幅産物に対するネガティブ選択をもたらすために、増幅した産物を1つまたは複数のラウンドのボトルネックPCR(bottleneck PCT)に供してもよい。
【0066】
あらゆる1つの理論または作用機序に対する本発明の適用を限定するものではないが、古典的なPCRにおいて、プライマーおよび反応条件は、増幅産物の数は各サイクルで約2倍になり、効率的な指数関数的な増幅をもたらすようにプライマーのハイブリダイゼーション、ならびにフォワードプライマープライマーおよびリバースプライマーの伸長は最大効率で、または最大効率付近で起こるようにデザインされている。しかし、ボトルネックPCRは、1セットのプライマーがデザインされ、または他の方法ではこれらがハイブリダイズせず効率を拡張しない条件下で用いられる場合、フォワードプライマーおよびリバースプライマーのセットの使用を前提としている。したがって、効率的なプライマーのセットは正常に増幅するが、非効率的なセットは増幅しない。その結果、対象の配列が増幅される場合、単位反復配列の鎖の数は古典的なPCRにおいて生じるよりも著しく少ない。効率的な増幅は、一末端に非効率的なプライマーのタグ領域を組み込む単位反復配列が得られたら開始するだけである。この点では、タグ領域に対するプライマーは、正常の増幅速度をもたらす。したがって「ボトルネック」は、非効率的なプライマーセットから転写物が得られる点から効率的に生じる。
【0067】
より厳しいボトルネックは、通常、非効率的なプライマーが、一般に反復される配列、例えばalu配列を対象とする場合に生じる。望まれない産物の増幅は、このような結合部位が接近して並列する場合に、および非効率的なプライマーがフォワードプライマーおよびリバースプライマーとして作用することができる場合に起こり得る。しかし、両方のプライマーが非効率的であることにより、増幅は最初は極度に非効率的であり、厳しいボトルネックが存在する。効率的な増幅は、一末端に非効率的なプライマーのタグ領域、および他方にその相補体を含む増幅産物鎖が得られた後のみに開始する。しかし、あらゆる所与のサイクルの数の後、このような増幅産物の数は、対象の配列の増幅の間に起こるものよりも実質的に少ない。増幅反応の終わりの必要とされない産物の量は、相応じて低減される。
【0068】
対象の配列に正確にハイブリダイズし、その後のサイクルにおいて先に合成した増幅産物に対する効率的なプライマーのハイブリダイゼーションおよび伸長が続く、非効率的なプライマーのハイブリダイゼーションおよび伸長により、それに対してタグプライマーが効率的にハイブリダイズおよび伸長することができる鋳型が得られる。このような分子は、これらの相補体と一緒に、各々が効率的なプライマー(タグプライマーおよび効率的なセットの1メンバー)に対する上流および下流の結合部位を提供するので、このような鋳型からのその後の増幅のサイクルは効率的かつ指数関数的である。結果は、最初の遅れまたは「ボトルネック」後、増幅スピードの全体の速度は後のサイクルにおいて速まり、したがって各サイクルの結果で増幅産物数はほぼ2倍になる。しかし、最終結果は、前者では各末端での、後者では一末端だけでのボトルネックのために、対象の配列の増幅産物に比べて、望ましくない増幅産物の増幅に対する負の選択が存在するものである。
【0069】
したがって、同数の開始の標的配列が考慮され、古典的PCRによる増幅産物に対する比較がなされる場合、ボトルネックPCRの適用により、対象の配列の増幅産物数においてより少ない増大がもたらされ、望ましくない配列の増幅産物の数における増大もやはり少ない。望ましい産物および望ましくない産物両方の増幅が起こるが、望ましくない配列に対して対象の配列の相対的な濃縮が存在する。非効率的なプライマーセットの効率が低減すると、より少ない増幅を犠牲にして濃縮の増大がもたらされるので、絶対的な増幅と濃縮の間に逆相関が存在する。
【0070】
増幅のラウンドが完了したら、切断点領域をまたがる増幅産物を分析することができる。好ましい一実施形態において、対象の増幅産物を、その増幅産物を含むゲルのバンドを切り出すことによって単離し、切断点領域を特徴付けるために配列決定する。ゲルから切り出したバンドを分析する程度まで、配列決定するのに十分な材料を提供するために、その中に含まれるDNAをさらに増幅するのが必要なことがある。本明細書において先に記載したオリゴヌクレオチドタグにより、単離された増幅産物のさらなる増幅を促進するのに適するプライマーハイブリダイゼーション部位がもたらされる。
【0071】
本明細書において先に詳述したように、本発明の方法は、染色体またはベクター中への遺伝子の部位特異的挿入の性質、正確さ、および安定性(これは、遺伝子治療の状況において重要である)、特に、多くの疾患に特徴的である染色体遺伝子転座切断点など、あらゆる切断点領域を同定し、特徴付ける簡単な日常的手段を提供する。このような転座および疾患の例には、それだけには限定されないが、以下が含まれる:
・ t(2;5)(p23;q35)-未分化大細胞リンパ腫
・ t(8;14)-バーキットリンパ腫(c-myc)
・ t(9;22)(q34;q11)-フィラデルフィア染色体、CML、ALL(BCR-ABL組換え)
・ t(11;14)-マントル細胞リンパ腫(Bcl-1)
・ t(11;22)(q24;q11.2-12)-ユーイング肉腫
・ t(14;18)(q32;q21)-濾胞性リンパ腫(Bcl-2)
・ t(17;22)-隆起性皮膚線維肉腫
・ t(15;17)-急性前骨髄球性白血病(pmlおよびレチノイン酸受容体遺伝子)
・ t(1;12)(q21;p13)-急性骨髄性白血病
・ t(9;12)(p24;p13)-CML、ALL(TEL-JAK2)
・ t(X;18)(p11.2;q11.2)-滑膜肉腫
・ t(1;11)(q42.1;q14.3)-統合失調症
・ t(1;19)-急性前駆B細胞白血病(PBX-1およびE2A遺伝子)。
【0072】
前記染色体遺伝子転座がBCR-ABL転座、またはPML-RARα転座であるのが好ましい。
【0073】
この好ましい実施形態に従って、染色体BCR-ABL転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む。
【0074】
前記増幅ステップを、1〜30個のフォワードプライマーおよび24〜300個のリバースプライマーを用いて行うのが好ましい。
【0075】
本明細書に例示する本発明の実施形態に関して、プライマーは、その結合部位がねじれ、隣接する結合部位間の分離が約500塩基であるように選択された。これは、増幅された材料が、サイズにおいて、最大約1キロ塩基の長さまでの範囲を有するようになされた。この戦略は、より少ないプライマーを必要とし、より複雑でないマルチプレックスPCR反応である、先行技術の戦略である「ロングPCR」と対比することができる。本発明の戦略の利点の1つは、標準の、より短いPCR反応はより頑強であり、配列決定に適する小型の増幅産物に切断するための別のセットのPCR反応を必要とせずに、増幅した産物を即座に配列決定することができることである。
【0076】
したがって、本発明は、染色体BCR-ABL転座切断点を同定する方法を提供し、前記方法は、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマーであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるプライマー、
(c)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(i)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、BCRまたはその断片のDNA領域に対する1個から30個のフォワードプライマー、
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、ABLまたはその断片のDNA領域に対する24個から400個のリバースプライマー、
(c)ステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(iii)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを単離および配列決定するステップと
を含む。
【0077】
前記DNA配列が血液由来の試料であるのがより好ましい。
【0078】
本発明の方法には、それだけには限定されないが、以下を含めた広範な適用がある。
(i)染色体遺伝子転座を特徴とする疾患状態と診断される患者の継続的なモニターに用いることができる、患者に特異的なプローブをデザインおよび生成を可能にすること。慢性骨髄性白血病に対してこの手段によって得られた結果を図6に示す。
(ii)遺伝子または他のDNA領域を染色体、ベクター、プラスミド、人工染色体などの中に組み込むことを対象とするin vitroおよびin vivoの遺伝子トランスフェクションシステムの分析およびモニター。組換えが起こるべき一般的部位が知られている場合、本発明を適用して組込みの特異的な点および性質(例えば、切断点)を決定することができる。これは、特異的なプライマーの生成を可能にすることによって、遺伝子組換えの事象の継続的な安定性をモニターするのにも用いることができる。
【0079】
したがって、さらに別の一態様において、哺乳動物における疾患状態をモニターする方法を提供し、この疾患状態は遺伝子切断点によって特徴付けられ、前記方法は前記哺乳動物に由来する生物学的試料における前記切断点の存在についてスクリーニングするステップを含み、この切断点は本明細書において先に規定した方法に従って同定されている。
【0080】
対象の切断点に対してスクリーニングする方法は、当業者であればよく知っており、あらゆる適切なプローブベースのスクリーニング技術、例えばPCRベースの方法が含まれる。本発明の方法に従った切断点領域の同定のおかげで、対象の切断点を特異的に増幅するのに好適なプローブセットをデザインすることができる。
【0081】
一実施形態において、前記遺伝子切断点は、
・ t(2;5)(p23;q35)
・ t(8;14)
・ t(9;22)(q34;q11)
・ t(11;14)
・ t(11;22)(q24;q11.2-12)
・ t(14;18)(q32;q21)
・ t(17;22)
・ t(15;17)
・ t(1;12)(q21;p13)
・ t(9;12)(p24;p13)
・ t(X;18)(p11.2;q11.2)
・ t(1;11)(q42.1;q14.3)
・ t(1;19)
などの染色体遺伝子転座切断点である。
【0082】
別の一実施形態において、前記状態は、
・ 未分化大細胞リンパ腫
・ バーキットリンパ腫
・ CML、ALL
・ マントル細胞リンパ腫
・ ユーイング肉腫
・ 濾胞性リンパ腫
・ 隆起性皮膚線維肉腫
・ 急性前骨髄球性白血病
・ 急性骨髄性白血病
・ 滑膜肉腫
・ 統合失調症、または
・ 急性前駆B細胞白血病(acute pre-B cell leukemia)
である。
【0083】
本発明のさらに別の一態様はDNAプライマーセットを対象とし、このプライマーセットは遺伝子切断点を増幅および/または他の形で検出するようにデザインされており、この切断点は本明細書において先に規定した方法に従って同定されている。
【0084】
本発明を、次に、以下の非限定的な実施例および図を参照することにより説明する。
【実施例】
【0085】
(実施例1)
(患者1のgDNAからのBCR/ABL切断点産物の単離)
・ Qiagen Flexigeneキットによって抽出したゲノムDNA

・ 第1ラウンドのPCR(ゲノムDNA50ng)-反応はすべて2回ずつ行った
フォワードプライマーのプール-FA(各々同じ5'タグ配列(A)を有するフォワードBCRプライマーBCRF1〜BCRF7の7個を含む、全量50ng(各7.14ng))
リバースプライマーのプール-R3/4(各々同じ5'タグ配列(C)を有するオリゴヌクレオチドリバースABLプライマー24個のプール、全量50ng(各2.08ng))
フォワードおよびリバースのタグ配列プライマー(A、C)-各25ng
〈PCR条件〉
1×PCRバッファー、5mM MgCl2、0.75μl dUTP(各300uM)、0.4ul Platinum Taq(2U)
〈サイクル条件〉
95/4分
(97℃/1分、65℃/20分、72℃/1分)×5
(96℃/30秒、65℃/20分、72℃/1分)×5
(92℃/30秒、65℃/20分、72℃/1分)×10

・ 第2ラウンドのPCR(第1ラウンドの反応物を滅菌水で1/200希釈した)
フォワードプライマーのプール-NFA(各々同じ5'タグ配列(B)を有する7個のフォワード内部BCRプライマーBFN1〜BFN7を含む、全量50ng(各7.14ng))
リバースプライマーのプール-RN3/4(各々同じ5'タグ配列(D)を有するオリゴヌクレオチドリバース内部ABLプライマー24個のプール、全量50ng(各2.08ng))
フォワードおよびリバースのタグ(B、D)-各25ng
〈PCR条件〉
1×PCRバッファー、5mM MgCl2、0.75ul dUTP(300uM)、0.4ul Pt Taq(2U)
〈サイクル条件〉
95/4分
(94℃/30秒、65℃/10分、72℃/1分)×10
(94℃/30秒、65℃/5分、72℃/1分)×15

・ PCR産物(7ul)を1.5%(v/v)アガロースゲル12ボルトで分離
【0086】
(患者1からのBCR/ABL切断点の同定)
・ PCR産物を1.5%(v/v)アガロースゲル120ボルトで分離
バンドを切り出し、Flexigeneキットによって精製

・ PCRによるバンドの再増幅(精製した産物の1/1000希釈)
フォワードプライマー-タグB(25ng)
リバースプライマー-タグD(25ng)
〈PCR条件〉
1×PCRバッファー、5mM MgCl2、0.75ul dUTP(300uM)、0.4ul Pt Taq(2U)
〈サイクル条件〉
95/4分
(94℃/30秒、65℃/30秒、72℃/30秒)×35

・ PCR産物をタグBプライマーで配列決定(Flinders sequencing facility)
【0087】
(PCRによる切断点の確認)
・ 切断点を含むgDNA(50ng)に対するPCR
患者1 gDNA対10×正常gDNA(いくつかのプライマーの組合せ)
フォワードプライマー-BCR(患者特異的)(25ng)
リバースプライマー-ABL(患者特異的)(25ng)
〈PCR条件〉
1×PCRバッファー、5mM MgCl2、0.75ul dUTP(300uM)、0.4ul Pt Taq(2U)
〈サイクル条件〉
95/4分
(97℃/1分、65℃/30秒、72℃/3秒)×5
(96℃/30秒、65℃/30秒、72℃/30秒)×5
(92℃/30秒、65℃/30秒、72℃/30秒)×25

・ PCR産物を3%(v/v)アガロースゲル120ボルトで分離
バンドを切り出し、Qiagen minEluteキットによって精製
産物を5'BCR特異的プライマーで配列決定してBCR/ABL切断点を確認した(Flinders sequencing facility)。
【0088】
転座はほぼすべてが、BCR遺伝子の3kb領域およびABL遺伝子の140kb領域を伴う。BCR遺伝子の領域をカバーするのにフォワードプライマー6個を用い、ABL遺伝子の領域をカバーするのに282個のプライマーを用いた。6個のPCRを設定し、各々がBCRプライマー1個、ABLプライマーすべて、および通常のタグプライマーを含んでいた。
【0089】
必要であれば、内側のBCRプライマー(nested internal BCR primer)1個、および内側のABLプライマー(nested internal ABL primer)282個で、第2ラウンドのPCRを行う。あるいは、非特異的な増幅産物を除去し、増幅した転座配列を明らかにするために1〜3ラウンドのボトルネックPCRを行う。
【0090】
ABL遺伝子はAlu配列に非常に富んでおり、BCR遺伝子もそのような配列を1個含んでいる。ABLプライマーは、したがって、各々のABLプライマーに対して、以下を連続して行う選択手順に供した:
- 標準の判定基準を用いてデザインすること;
- 各BCRプライマーとペアを組ませ、BCR鋳型の増幅が行われないことについてPCRによって試験すること(この判定基準に合致しないプライマーは廃棄される);
- 12個または24個のABLプライマーのプールに組み込み、このプールを各BCRプライマーとペアを組ませ、PCR増幅によって以前に生成したBCR鋳型を用いた実験的PCRによる試験を行うこと(増幅を生成し、したがって、この試験に落第するあらゆるプールを、どれが増幅を担うかを決定するために個々のABLプライマーの各々を試験することによってさらに分析する。同定したら、このプライマーを廃棄する)。
【0091】
実施例1において用いたBCRおよびABLのプライマーを実施例2において示す。
【0092】
(実施例2)
(慢性骨髄性白血病におけるBCR-ABL転座切断点の単離に用いるプライマー)
【0093】
〈BCRプライマー〉
【表1】

【0094】
第2ラウンドのプライマーは、第1ラウンドのプライマーの内部にあり、内部ABLプライマーと一緒に第2ラウンドのために、または非特異的な増幅材料を除去し、転座切断点の単離を促進するためにボトルネックPCRを行うために、のいずれかで用いた。
【0095】
様々な組合せのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いることができる。一実施形態において、用いたプロトコールは、各々が異なるBCRプライマーおよび282個すべてのABLプライマーを含む6個のPCRを設定するためのものであった。
【0096】
〈第1ラウンドのPCRで用いた282個のリバースABLプライマーおよび各プライマーの5'末端のタグ配列〉
【表2A】

【0097】
【表2B】

【0098】
【表2C】

【0099】
【表2D】

【0100】
【表2E】

【0101】
【表2F】

【0102】
【表2G】

【0103】
〈第2ラウンドのPCRで用いた282個のリバースABLプライマーおよび各プライマーの5'末端のタグ配列〉
【表3A】

【0104】
【表3B】

【0105】
【表3C】

【0106】
【表3D】

【0107】
【表3E】

【0108】
【表3F】

【0109】
【表3G】

【0110】
(実施例3)
(PML-RARα切断点の同定)
増幅した患者のDNAを、2%アガロースゲル上で電気泳動した。Pは患者のDNAであり、Nは正常DNAであり、Wは水コントロールである。患者のDNAを、複数のRARαプライマーおよび単一のPMLプライマーを用いて増幅した。
a)増幅した患者のDNAを、2%アガロースゲル上で電気泳動し、Pは患者のDNAであり、Nは正常DNAであり、Wは水コントロールである。患者のDNAを、切断点配列を用いてデザインされたRARαプライマーおよびPMLプライマーを用いて、1ラウンドの間増幅した。
b)患者のDNAから得た配列のクロマトグラム。PMLとRARαの間の切断点を示す。
【0111】
〈急性前骨髄球性白血病におけるPML-RARα切断点の単離〉
患者2人を試験し、切断点を単離し、両方において配列決定した。用いたプライマーを実施例4に示す。
【0112】
(実施例4)
(急性前骨髄球性白血病におけるPML-RARα転座切断点の単離に用いたプライマー)
【0113】
〈PMLフォワードプライマー〉
【表4】

【0114】
第2ラウンドのプライマーは第1ラウンドのプライマーの内部にあり、非特異的な増幅材料を除去し、転座切断点の単離を促進するために、ボトルネックPCRを行うのに用いた。
【0115】
様々な組合せのフォワードプライマーおよびリバースプライマーを用いることができる。2つの例示のプロトコールは、各々が異なるPMLプライマーおよび34個すべてのRARαプライマーすべてを含む6個のPCRを設定するために、または6個すべてのフォワードプライマーおよび34個すべてのリバースプライマーすべてを含む1つのPCRを設定するためのいずれかであった。
【0116】
〈第1ラウンドのPCRに用いた34個のリバースRARαリバースプライマーおよび各プライマーの5'末端のタグ配列〉
【表5】

【0117】
ほぼすべての転座は、BCR遺伝子の3kb領域およびABL遺伝子の140kb領域を伴う。BCR遺伝子の領域をカバーするのに6個のフォワードプライマーを用い、ABL遺伝子の領域をカバーするのに282個のプライマーを用いた。各々がBCRプライマー1個、ABLプライマーすべて、および通常のタグプライマーを含む、6個のPCRを設定する。
【0118】
必要であれば、内側のBCRプライマー(nested internal BCR primer)1個、および内側のABLプライマー(nested internal ABL primer)282個で、第2ラウンドのPCRを行う。あるいは、非特異的な増幅産物を除去し、増幅した転座配列を明らかにするために1〜3ラウンドのボトルネックPCRを行う。
【0119】
ABL遺伝子はAlu配列に非常に富んでおり、BCR遺伝子もそのような配列を1個含んでいる。ABLプライマーは、したがって、各々のABLプライマーに対して、以下を連続して行う選択手順に供した:
- 標準の判定基準を用いてデザインすること;
- 各BCRプライマーとペアを組ませ、BCR鋳型の増幅が行われないことについてPCRによって試験すること(この判定基準に合致しないプライマーは廃棄される);
- 12個または24個のABLプライマーのプールに組み込み、このプールを各BCRプライマーとペアを組ませ、PCR増幅によって以前に生成したBCR鋳型を用いた実験的PCRによる試験を行うこと(増幅を生成し、したがって、この試験に落第するあらゆるプールを、どれが増幅を担うかを決定するために個々のABLプライマーの各々を試験することによってさらに分析する。同定したら、このプライマーを廃棄する)。
【0120】
実施例1において用いたBCRおよびABLプライマーを実施例2において示す。
【0121】
当業者であれば、本明細書に記載した本発明は、特に記載したもの以外に変形および改変の余地があることを理解するであろう。本発明にはこのような変形および改変がすべて含まれることを理解されたい。本発明には、また、本明細書において言及し、または指摘されるすべてのステップ、特徴、組成物、および化合物が個々に、または集合的にすべて含まれ、あらゆる2つ以上の前記ステップまたは特徴のありとあらゆる組合せが含まれる。
【0122】
【表6A】

【0123】
【表6B】

【0124】
【表6C】

【0125】
【表6D】

【0126】
【表6E】

【0127】
【表6F】

【0128】
【表6G】

【0129】
【表6H】

【0130】
【表6I】

【0131】
【表6J】

【0132】
【表6K】

【0133】
【表6L】

【0134】
【表6M】

【図4−1】

【図4−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
遺伝子切断点を同定する方法であって、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させるステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、および
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)の他のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む方法。
【請求項2】
遺伝子転座切断点を同定する方法であって、
(i)DNA試料を、
(a)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のアンチセンス鎖のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、
(b)その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマーであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なるプライマー、
(c)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(i)(b)のリバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させるステップと、
(ii)ステップ(i)のDNA試料を増幅するステップと、
(iii)ステップ(ii)で得られた増幅産物を、
(a)ステップ(i)の1つまたは複数のフォワードプライマーの3'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して5'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のフォワードプライマー、
(b)ステップ(i)の1つまたは複数のリバースプライマーの5'に位置するDNA領域に対するものであり、その5'末端でオリゴヌクレオチドタグに作動可能に連結していてもよい、遺伝子切断点に対して3'に位置する隣接遺伝子またはその断片のDNA領域に対する1つまたは複数のリバースプライマー、
(c)ステップ(iii)(a)のフォワードプライマーオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー、および
(d)ステップ(iii)(b)のリバースプライマーオリゴヌクレオチドタグに対するプライマー
と接触させてもよいステップであって、
フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のフォワードプライマーのタグに対して同じであり、リバースプライマーのオリゴヌクレオチドタグはステップ(iii)(a)のリバースプライマーのタグに対して同じであるが、フォワードプライマーのオリゴヌクレオチドタグはリバースプライマーのタグに対して異なり、ステップ(iii)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグはステップ(i)のフォワードプライマーおよびリバースプライマーのタグに対して異なるステップと、
(iv)ステップ(iii)のDNA試料を増幅するステップと、
(v)前記増幅したDNAを分析するステップと
を含む方法。
【請求項3】
少なくとも1セットの前記フォワードプライマーおよびリバースプライマーがオリゴヌクレオチドタグに連結している、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(i)(a)において1つのプライマーを用い、ステップ(i)(b)において2つ以上のプライマーを用いる、請求項1または2または3に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(i)(b)において1つのプライマーを用い、ステップ(i)(a)において2つ以上のプライマーを用いる、請求項1または2または3に記載の方法。
【請求項6】
ステップ(iii)を行い、ステップ(iii)(a)において1つのプライマーを用い、ステップ(iii)(b)において2つ以上のプライマーを用いる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
ステップ(iii)を行い、ステップ(iii)(b)において1つのプライマーを用い、ステップ(iii)(a)において2つ以上のプライマーを用いる、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記遺伝子切断点が遺伝子転座切断点または相同組換え点である、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子転座切断点が染色体遺伝子転座切断点である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記遺伝子転座切断点が、
(i)BCR-ABL転座
(ii)PML-RARα転座
(iii)t(2;5)(p23;q35)転座
(iv)t(8;14)転座
(v)t(9;22)(q34;q11)転座
(vi)t(11;14)転座
(vii)t(11;22)(q24;q11.2-12)転座
(viii)t(14;18)(q32;q21)転座
(ix)t(17;22)転座
(x)t(15;17)転座
(xi)t(1;12)(q21;p13)転座
(xii)t(9;12)(p24;p13)転座
(xiii)t(X;18)(p11.2;q11.2)転座
(xiv)t(1;11)(q42.1;q14.3)転座
(xv)t(1;19)転座
から選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
1〜30個のプライマーをステップ(i)(a)において用い、24〜400個のプライマーをステップ(i)(b)において用いる、請求項1または2または3に記載の方法。
【請求項12】
ステップ(iii)を行い、1〜30個のプライマーをステップ(iii)(a)において用い、24〜400個のプライマーをステップ(iii)(b)において用いる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップ(i)、(ii)、および(v)だけを行う、請求項1から5または8から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
ステップ(iii)および(iv)をさらに行う、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップ(ii)の前記増幅したDNAを、増幅、選択、または濃縮のさらなるステップにかける、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記増幅がボトルネックPCRである、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ステップ(iv)の前記増幅したDNAを、増幅、選択、または濃縮のさらなるステップにかける、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記増幅がボトルネックPCRである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記遺伝子切断点が染色体BCR-ABL転座であり、
(a)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーが配列番号10〜15に相当し、
(b)ステップ(i)(b)のリバースプライマーが配列番号23〜304に相当し、配列番号22によって規定されるオリゴヌクレオチドタグに連結しており、
ステップ(iii)を行う場合は、
(a)ステップ(iii)(a)のフォワードプライマーが配列番号16〜21に相当し、
(b)ステップ(iii)(b)のリバースプライマーが配列番号306〜587に相当し、配列番号305によって規定されるオリゴヌクレオチドタグに連結している、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項20】
前記遺伝子切断点が染色体RML-RARα転座であり、
(a)ステップ(i)(a)のフォワードプライマーが配列番号588〜593に相当し、
(b)ステップ(i)(b)のリバースプライマーが配列番号601〜634に相当し、配列番号22によって規定されるオリゴヌクレオチドタグに連結しており、
ステップ(ii)の後に、配列番号594〜599に相当するプライマーを用いて行うボトルネックPCRを行う、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項21】
哺乳動物における遺伝子切断点によって特徴付けられる疾患状態をモニターする方法であって、前記哺乳動物に由来する生物学的試料における前記切断点の存在についてスクリーニングするステップを含み、前記切断点が請求項1から20のいずれか一項に記載の方法に従って同定されたものである方法。
【請求項22】
前記状態が、
未分化大細胞リンパ腫
バーキットリンパ腫
CML、ALL
マントル細胞リンパ腫
ユーイング肉腫
濾胞性リンパ腫
隆起性皮膚線維肉腫
急性前骨髄球性白血病
急性骨髄性白血病
滑膜肉腫
統合失調症、または
急性前駆B細胞白血病
である、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
遺伝子切断点を増幅および/または検出するようにデザインされているDNAプライマーセットであって、切断点が請求項1から20のいずれか一項に記載の方法に従って同定されたものである、DNAプライマーセット。

【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−528592(P2010−528592A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−509632(P2010−509632)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【国際出願番号】PCT/AU2008/000779
【国際公開番号】WO2008/144841
【国際公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(509330264)モノクアント・ピーティーワイ・リミテッド (4)
【Fターム(参考)】