説明

EDLC用大容量/低酸素多孔質炭素

第1の炭素材料を形成するために天然の無リグノセルロース炭素前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、水性混合物を形成するために第1の炭素材料を無機化合物と混合する工程、無機化合物を第1の炭素材料に取り込むために水性混合物を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、第2の炭素材料を作製するために第1の炭素材料から無機化合物を除去する工程及び低含有酸素活性炭材料を形成するために第2の炭素材料を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程を含む、低含有酸素活性炭材料を作製する方法。活性炭材料は高エネルギー密度デバイスに用いるための改善された炭素系電極の形成に適する。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の説明】
【0001】
本出願は2010年1月22日に出願された米国仮特許出願第61/297478号の恩典を特許請求する。上記仮特許出願の明細書の内容並びに本明細書に言及される出版物、特許及び特許文書の全開示は本明細書に参照として含まれる。
【技術分野】
【0002】
本開示は全般的には活性炭材料に関し、さらに詳しくは低含有酸素量及び大容量を有する活性炭材料に関する。本開示は、そのような活性炭材料を含む炭素系電極を有する高電力密度エネルギー貯蔵デバイスにも関する。
【背景技術】
【0003】
ウルトラキャパシタのようなエネルギー貯蔵デバイスは、離散電力パルスが必要とされる場合のような、多くの用途で用いることができる。用途の例は携帯電話からハイブリッド車にわたる。エネルギー貯蔵デバイスは一般に、一対の炭素系電極の間に挟み込まれた、多孔質セパレータ及び/または有機電解質を備える。エネルギー貯蔵は、電解質と電極の間の界面における電気化学二重層に電荷を分離/貯蔵することで達成される。これらのデバイスの重要な特徴は、デバイスが提供できるエネルギー密度及び電力密度であり、これらはいずれも炭素系電極の特性によってほとんど決定される。
【0004】
高エネルギー密度デバイスへの組込みに適する炭素系電極は既知である。そのような電極の基礎をなす炭素材料は天然または合成の前駆体材料から作製することができる。既知の天然前駆体材料には、石炭、堅果の殻及びバイオマスがあり、合成前駆体材料は一般にフェノール樹脂を含む。天然前駆体及び合成前駆体のいずれを用いても、炭素材料は、前駆体を炭化し、得られた炭素を次いで活性化することで形成することができる。活性化には物理的(例えば水蒸気)活性化または化学的活性化を含めることができる。
【0005】
電気二重層キャパシタ(EDLC)のような高エネルギー密度デバイスに組み込まれたときの炭素の首尾に影響を与え得る炭素の特性は、材料の比容量である。上記に加えて、炭素材料内の酸素含有量の低減は、デバイスのサイクル寿命を延ばし得るので有益である。詳しくは、合成活性炭に対する通常のプロセス中に、酸素は表面官能基の形態で炭素に取り込まれることができ、そのような表面官能基は炭素の特性に悪影響を与え得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、活性炭材料を、高比容量及び低含有酸素量を有する活性炭材料を作製する方法とともに提供することが有益であろう。そのような材料は、エネルギー密度がさらに高いデバイスを可能にする炭素系電極を形成するために用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様にしたがえば、ウルトラキャパシタ及びその他のエネルギー貯蔵デバイスに用いるための炭素系電極への組込みに適する活性炭材料は天然の無リグノセルロース材料から得られる。活性炭材料のための前駆体として無リグノセルロース材料を用いることによって、経済的に実施が可能な、高電力密度/高エネルギー密度デバイスを形成することができる。本明細書に用いられるように、別途に明白に定められない限り、「天然の無リグノセルロース炭素前駆体」は少なくとも1つの天然無リグノセルロース炭素前駆体を意味する。
【0008】
本開示の別の態様にしたがえば、低含有酸素活性炭材料は、第1の炭素材料を形成するために不活性雰囲気または還元雰囲気内で天然の無リグノセルロース炭素前駆体を加熱する工程、水性混合物を形成するために第1の炭素材料を無機化合物と混合する工程、無機化合物を第1の炭素材料に取り込むために不活性雰囲気または還元雰囲気内で水性混合物を加熱する工程、第2の炭素材料を作製するために第1の炭素材料から無機化合物を除去する工程、及び低含有酸素活性炭材料を形成するために不活性雰囲気または還元雰囲気内で第2の炭素材料を加熱する工程によって作製される。
【0009】
一実施形態にしたがう活性炭材料は、0.08未満の構造秩序比(SOR),0.1重量%より多い窒素含有量及び5重量%未満の酸素含有量を有することができる。別の実施形態にしたがう活性炭材料は、3重量%未満の酸素含有量及び75F/cmより大きい体積比容量を有することができる。
【0010】
本発明のさらなる特徴及び利点は以下の詳細な説明に述べられ、ある程度は、当業者にはその説明から容易に明らかであろうし、詳細な説明及び添付される特許請求の範囲を含む、本明細書に説明されるように本発明を実施することによって認められるであろう。
【0011】
上述の全般的説明及び以下の詳細な説明のいずれもが本発明の実施形態を提示し、特許請求されるような本発明の本質及び特質の理解のための概要または枠組みの提供が目的とされていることは当然である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
活性炭材料を作製する方法は、第1の炭素材料を形成するために不活性雰囲気または還元雰囲気内で天然の無リグノセルロース炭素前駆体を加熱する工程、水性混合物を形成するために第1の炭素材料を無機化合物と混合する工程、無機化合物を第1の炭素材料に取り込むために不活性雰囲気または還元雰囲気内で水性混合物を加熱する工程、第2の炭素材料を作製するために第1の炭素材料から無機化合物を除去する工程及び、第2の炭素材料内の酸素含有量を減じ、低含有酸素活性炭材料を形成するために、不活性雰囲気または還元雰囲気内で第2の炭素材料を加熱する工程を含む。
【0013】
別の実施形態にしたがえば、活性炭材料を作製する方法は、天然の無リグノセルロース炭素前駆体と無機化合物の水性混合物を形成する工程、第1の炭素材料を形成するために水性混合物を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、第2の炭素材料を作製するために第1の炭素材料から無機化合物を除去する工程及び低含有酸素活性炭材料を形成するために第2の炭素材料を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程を含む。上述の方法にしたがって形成された活性炭材料は高エネルギー密度デバイス用の炭素系電極を形成するために用いることができる。
【0014】
炭素前駆体は天然の無リグノセルロース材料である。本明細書に定められるように、セルロース及びリグニンのいずれをも含む物質はリグノセルロース質であり、例えば、セルロースがリグニンに密に結び付けられている、植物の木質細胞壁の基本要素を構成するいくつかの近縁の物質のいずれも含むことができる。無リグノセルロース炭素前駆体はリグニン及びセルロースの少なくとも一方を実質的に含んでいない。実質的に含まないとは、リグニン及びセルロースの少なくとも一方が炭素前駆体の組成の多くとも0.5,1または2重量%しか占めていないことを意味する。
【0015】
一実施形態において、天然の無リグノセルロース炭素前駆体はセルロースを含み、実質的にリグニンを含んでいない。別の実施形態において、天然の無リグノセルロース炭素前駆体はリグニンを含むが、実質的にセルロースを含んでいない。また別の実施形態において、天然の無リグノセルロース炭素前駆体は実質的にリグニン及びセルロースのいずれも含んでいない。天然の無リグノセルロース炭素前駆体は、合成樹脂のような、合成材料ではない。
【0016】
木を表すラテン語である、リグニンは植物に硬さを与える化合物である。リグニンは、無定型構造及び高分子量を有する、三次元高分子である。植物繊維の3つの主要構成要素の内、リグニンは水への親和性が最も小さい。さらに、リグニンは熱可塑性である(すなわち、リグニンは比較的低温で軟くなり始め、温度が高くなるにしたがって、容易に流動するであろう)。
【0017】
セルロースは植物繊維の基本的構造成分である。セルロース分子は、例えば、長鎖をなして相互に連結し、続いて、超微小繊維と呼ばれる束をなして相互に連結する、グルコースユニットを有することができる。ヘミセルロースも植物繊維に見られる。ヘミセルロースは一般に、比較的短い側鎖をなす、相互に結合した多糖類である。ヘミセルロースは、通常は疎水性であり、通常はセルロース超微小繊維と密に結び付けられ、セルロースに埋め込まれてマトリックスをなしている。農業からの代表的なリグノセルロース繊維は、例えば、麦藁、大麻、亜麻、サイザル麻及びジュートに見られる。
【0018】
天然の無リグノセルロース炭素前駆体は、小麦粉、クルミ粉、トウモロコシ粉、コーンスターチ、米粉及びジャガイモ粉のような、食用穀物から得られる。その他の無リグノセルロース炭素前駆体には、コーヒーかす、ジャガイモ、ビート、キビ、大豆、アブラナ、オオムギ及び綿がある。無リグノセルロース材料は、遺伝子組み換えがなされていてもいなくても差し支えない、農作物または草木から得ることができる。
【0019】
無リグノセルロース炭素前駆体の一例は小麦粉である。小麦粉は、小麦の種子である、小麦の穀粒を碾くことで得られる。小麦の穀粒は3つの主要素、胚乳、胚芽及び籾殻を有する。全粒小麦粉は穀粒の3つの要素の全てを含むが、精白粉は胚乳だけから碾かれる。
【0020】
成分的には、精白粉のほとんどがデンプンであるが、さらに他の成分が天然に存在する。精白粉の主成分は、デンプン(68〜76%)、タンパク質(6〜18%)、水分(11〜14%)、ガム質(2〜3%)、脂質(1〜1.5%)、灰分(<0.5%)及び糖質(<0.5%)であり、括弧内は近似の重量%を示す。
【0021】
デンプンは精白粉の主体をなす。「低」デンプンと見なされる強力粉でさえ、組み合わされる他の全ての成分より多くのデンプンを含む。デンプンは一般に小麦粉内に小粒または顆粒として存在する。タンパク質塊がデンプン顆粒を相互に結び付けて胚乳内の所定の場所に保持する。グルテン形成タンパク質の、グルテニン及びグリアジンが一般に胚乳内のタンパク質の約80%を構成する。精白粉内のその他のタンパク質には、アミラーゼ、プロテアーゼ及びリパーゼのような、酵素がある。デンプン以外の炭水化物にはガム質、特にペントサンガムがある。ペントサンガムは可溶性食物繊維のもとである。脂質は油及び乳化剤が含まれ、灰分は、鉄、銅、カリウム、ナトリウム及び亜鉛を含めることができる、無機物(無機塩類)を含む。
【0022】
天然の無リグノセルロース炭素前駆体は前駆体材料を炭化するに有効な温度で加熱することができる。炭化温度の例は約450℃より高い(例えば、少なくとも450℃、500℃、550℃、600℃、650℃、700℃、750℃、800℃、850℃または900℃である)。炭素前駆体の炭化中に用いられる不活性雰囲気または還元雰囲気は、水素、窒素、アンモニア、ヘリウムまたはアルゴンの内の1つのガスまたは1つないしさらに多くのガス混合物を含むことができる。
【0023】
炭素前駆体の炭化後、得られる第1の炭素材料は無機化学活性剤と混合される。有利なことに、混合する工程は第1の炭素材料を無機化合物の水性混合液と混合する固定を含むことができる。第1の炭素材料を活性化するために用いられる無機化合物には、水酸化アルカリ元素または塩化アルカリ元素(例えば、NaOH,KOH,NaCl,KCl)、リン酸、あるいはCaClまたはZnClのようなその他の適する塩がある。
【0024】
混合中、無機化合物は一様にまたは実質的に一様に第1の炭素材料と混合される。一手法において、無機化合物は始め、水のような溶媒に溶解される。無機化合物を含む溶液は次いで第1の炭素材料と組み合わされ、得られた混合物は、無機化合物の第1の炭素材料との完全な混合を完了させるに有効な時間をかけて熟成させることができる。例として、混合物は、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間ないしさらに長時間(例えば0.5時間〜8時間)をかけて熟成させることができる。
【0025】
第1の炭素材料及び無機化合物は適するいかなる比でも組み合わせることができる。無機化合物に対する第1の炭素材料の比(重量%/重量%)は約10:1から1:10の範囲(例えば、9:1,8:1,7:1,6:1,5:1,4:1,3:1,2:1,1:1,1:2,1:3,1:4,1:5,1:6,1:7,1:8または1:8)とすることができる。
【0026】
無機化合物が第1の炭素材料と混合され、必要に応じて、熟成された後、混合物は無機化合物が第1の炭素材料に取り込まれるに有効な温度で加熱される。混合物は、炭素を活性化するため、あらかじめ定められた時間(例えば、0.5時間、1時間、2時間、4時間、8時間ないしさらに長時間)、不活性雰囲気または還元雰囲気内で約300℃〜1000℃の温度で加熱することができる。
【0027】
炭化/活性化に続いて、活性化炭素品は、無機化合物を、また無機化合物に関わる反応から生じたいかなる化学種も、除去するために洗浄し、乾燥させ、必要に応じて、研削して、実質的に一様な細孔分布を有する材料を作製することができる。
【0028】
無機化合物を抽出するに好ましい溶剤は水である。必要に応じて、抽出溶剤には酸を含めることができる。無機化合物を除去するための一プロセスは活性炭材料を水及び酸で順次にリンスする工程を含む。無機化合物を除去するための別のプロセスは活性炭材料を水性酸混合液(例えば酸と水の混合液)でリンスする工程を含む。抽出中に用いられる酸には塩酸を含めることができる。無機化合物を抽出するプロセスにより多孔質の活性炭材料が形成され、細孔は先に無機化合物によって満たされていた体積によって定められる。
【0029】
開示された方法にしたがって作製された活性炭材料はマイクロスケール及び/またはメソスケールの細孔を有することができる。本明細書に用いられるように、マイクロスケールの細孔は2nm以下の細孔径を有する。メソスケールの細孔は2〜50nmの範囲の細孔径を有する。一実施形態において、活性炭材料の細孔の大半はマイクロスケールの細孔である。微細孔活性炭材料は50%より大きな微細孔度を有することができる(例えば微細孔度は、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%または95%である)。この方法を用いて作製された炭素材料は、約300m/gより大きい、すなわち、350m/g,400m/g,500m/gまたは1000m/gより大きい、比表面積を有することができる。
【0030】
活性炭内の酸素含有量は追加の加熱処理工程を用いて低減することができる。酸素含有量低減熱処理工程は、活性炭を不活性雰囲気または還元雰囲気内で活性炭内の酸素含有量を低減するに有効な温度に加熱する工程を含む。活性炭内の酸素含有量を低減するために不活性ガスまたは還元ガスと合わせて用いられ得る炉温は、約200℃から1200℃の範囲にある(例えば、200℃,250℃,300℃,350℃,400℃,450℃,500℃,550℃,600℃,650℃,700℃,750℃,800℃,850℃,900℃,950℃,1000℃,1050℃,1100℃,1150℃または1200℃である)。適する不活性ガスには、窒素(N)及びアルゴン(Ar)がある。実施形態において、還元ガスには、水素(H)、アンモニア(NH)または水素及び窒素を含む混合気(すなわちフォーミングガス)を含めることができる。混合気内の水素含有量は6%以下(例えば、Hが6%未満、5%、4%、3%、2%または1%)とすることができる。一実施形態にしたがえば、低含有酸素活性炭は、5重量%未満(例えば、5重量%未満、4.5重量%、4重量%、3.5重量%、3重量%、2.5重量%、2重量%、1.5重量%、1重量%または0.5重量%)の酸素含有量を有する。
【0031】
活性体のさらなる態様は、共通に所有される米国特許出願第12/335044号の明細書に開示されており、この明細書の内容は本明細書に参照として含まれる。
【0032】
形成されると、低含有酸素活性炭は炭素系電極に組み込むことができる。炭素系電極を作製する方法は、第1の炭素材料を形成するために天然の無リグノセルロース炭素前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、水性混合物を形成するために第1の炭素材料を無機化合物と混合する工程、無機化合物を第1の炭素材料内に取り込むために水性混合物を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、第2の炭素材料を作製するために第1の炭素材料から無機化合物を除去する工程、低含有酸素活性炭材料を形成するために第2の炭素材料を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、及び低含有酸素活性炭材料から炭素系電極を形成する工程を含む。
【0033】
一般的な電気二重層キャパシタ(EDLC)においては、一対の炭素系電極が多孔質セパレータで隔てられ、電極/セパレータ/電極積層複合体が有機または無機の液体電解質に浸潤される。電極は、他の添加物(例えば結合剤)と混合され、薄いシートに押し固められて、支持体の導電金属電流コレクタに積層された、活性炭粉末を有する。
【0034】
例として、60〜90重量%の低含有酸素活性炭、5〜20重量%のカーボンブラック及び5〜20重量%のPTFEを含む粉末混合物を圧延することにより、厚さが約100〜300μmの範囲の炭素紙を作製することができる。炭素紙から炭素シートを打ち抜くかまたは別の手段で型をつくり、導電電流コレクタに積層して、炭素系電極を形成する。この炭素系電極はエネルギー貯蔵デバイスに組み込むことができる。使用中、対向する電極上に蓄積される蓄積電荷によって電気二重層が形成される。電気二重層に蓄積される電荷量はキャパシタの達成可能なエネルギー密度及び電力密度に大きく影響する。
【0035】
ウルトラキャパシタの性能(エネルギー密度及び電力密度)は電極を構成する活性炭材料の特性に大きく依存する。活性炭材料の特性は、炭素原子の構造秩序、材料の多孔度及び細孔径分布、窒素含有量、酸素含有量及び、炭素系電極に組み込まれたときの、活性炭材料の電気特性を評価することで測ることができる。該当する電気特性には面積比抵抗及び比静電容量がある。
【0036】
炭素構造秩序は低角X線回折(XRD)を用いて粉末試料から決定することができる。XRD用試料を作製するため、粉末化した活性炭材料を瑪瑙製の乳鉢及び乳棒で軽くすりつぶす。すりつぶした試料をBruker-AXS粉末試料ホルダに押し込む。Bruker-AXS D4 Endeavor X線回折計でCuKα線(1.5406Å)を用い、0.5°〜20°の2θ角度範囲にわたり0.02°刻み及び1秒の滞留時間で、X線回折結果を得る。
【0037】
炭素構造秩序比は60ÅにおけるX線反射の規格化強度として計算される。詳しくは、176Åのd間隔における強度(I176)と15Åのd間隔における強度(I15)の正の差で60Åのd間隔における回折ビームの強度(I60)を割る。すなわち、本明細書において炭素構造秩序比はSOR=I60/|I176−I15|として定められる。
【0038】
活性炭材料の電気特性は炭素系電極の特性を測定することで評価することができる。本明細書で評価される炭素系電極は、85重量%の活性炭材料、5重量%の導電性炭素(例えば、米国マサチューセッツ州ボストン(Boston)のCabot Corporationから市販されている、Black Pearls(登録商標))、及び10重量%のテフロン(登録商標)(PTFE)を含む。
【0039】
活性炭材料の比静電容量(体積比静電容量及び重量比静電容量)は材料を炭素系電極に形成することで測定することができる。直径が0.625インチ(15.875mm)の炭素電極を電極材料のシートから打ち抜くことでボタン型セルを形成することができる。同等の炭素電極の間にセパレータを配置し、続いて2枚の導電性カーボン被覆アルミニウム電流コレクタの間に挟み込む。1.5Mのテトラエチルアンモニウム-テトラフルオロボレート(TEA-TFB)のアセトニトリル溶液のような、有機電解質で満たされた電池を封止するため、熱硬化性ポリマーリングを炭素電極の周縁を囲んで形成する。
【0040】
別の実施形態にしたがえば、電気化学セルは、低含有酸素活性炭材料、多孔質セパレータ及び一対の導電性基板を有する第1の電極を有し、多孔質セパレータは第1の電極と第2の電極の間に配置され、第1の電極と第2の電極はそれぞれ、導電性基板のそれぞれと電気的に接触している。
【0041】
セルの静電容量(Cセル)は定電流放電によって測定される。初めにセルが定電流(i充電)で所望の電圧(例えば2.7V)まで充電され、続いて定電流(i放電)で放電される。オームの法則により、キャパシタ電流(i)は式(1):
【数1】

【0042】
にしたがい、キャパシタ電圧の時間微分に比例する。ここで、Cは静電容量、Vはセル電圧(単位:V)、tは時間(単位:秒)である。
【0043】
定電流放電曲線(セル電圧対時間)の勾配を測定することにより、セルの静電容量(単位:ファラッド)は式(2):
【数2】

【0044】
として計算することができる。
【0045】
セルの静電容量は炭素電極のそれぞれの電気化学二重層で表される2つの(直列キャパシタの)個々の静電容量の調和総和(ハーモニックサム)である。この関係は式(3):
【数3】

【0046】
として表すことができ、ここでC及びCはセル内の個々の炭素電極の二重層静電容量である。
【0047】
これらの静電容量の大きさは炭素電極の体積比静電容量に、式(4):
【数4】

【0048】
及び式(5):
【数5】

【0049】
として関係付けることができる。ここで、Csp,1及びCsp,2は個々の炭素電極の比静電容量(単位:F/cm)であり、V及びVは対応する電極体積である。試験セルには同じ寸法及び組成を有する電極が用いられるから、C=C,Csp,1=Csp,2(=Csp)及びV=V(=V/2,ここでVはセル内の炭素電極の総体積(cm)である)となる。式(3)、(4)及び(5)をまとめれば、体積静電容量,Cspを、式(6):
【数6】

【0050】
すなわち式(7)
【数7】

【0051】
として得ることができる。
【0052】
選ばれた試料の窒素含有量(重量%)はサーモフラッシュ元素分析装置を用いて決定した。この技法は、熱伝導度検出(TCD)を用いる、古典的なデュマ法であり、ASTM D5373及びASTM D5291によって説明されている。重量を測定した試料を酸素中950℃で燃焼させる。(N及びNOを含む)燃焼生成物を、燃焼触媒及びスクラバーを通し、還元銅を満たしたチューブを通して、ヘリウムキャリアガスで掃引する。銅は過剰な酸素を除去し、NOをNに還元する。次いでクロマトグラフカラム上でNを他のガスから分離し、TCDを用いて測定する。酸素含有量(重量%)はASTM D5291(Huffman Laboratories, Inc.)にしたがって測定される。
【0053】
上述した方法によって作製された活性炭は、大半の市販炭素に比較し、EDLCにおいてかなり高いエネルギー貯蔵容量を提供する。例えば、本開示にしたがう低含有酸素活性炭が、カーボンブラック及びPTFEの含むカーボン系電極に組み込まれると、重量比静電容量は110F/gより大きく(例えば、110F/g,120F/g,130F/g,140F/g,150F/g,160F/g,170F/gまたは140F/gであり)、体積比静電容量は70F/cmより大きい(例えば、70F/cm,75F/cm,80F/cm,85F/cm,90F/cm,92F/cm,94F/cm,96F/cm,98F/cmまたは100F/cmである)。
【0054】
エネルギー貯蔵デバイスにはウルトラキャパシタを含めることができる。ウルトラキャパシタは、ロールケーキ型構造、プリズム型構造またはその他の適する構成を有することができる。炭素系電極は、炭素−炭素型ウルトラキャパシタに、またはハイブリッド型ウルトラキャパシタに、組み込むことができる。炭素−炭素型ウルトラキャパシタにおいては、電極のいずれもが炭素系電極である。ハイブリッド型ウルトラキャパシタにおいては、電極の一方が炭素系電極であり、他方の電極は、酸化鉛、酸化ルテニウム、水酸化ニッケルのような擬静電容量性材料、または導電性ポリマー(例えば、パラフルオロフェニルチオフェン)のような別の材料とすることができる。低含有酸素活性炭は、エネルギー貯蔵デバイスにおける使用に加えて、触媒支持体として、または吸着/濾過のための基材として用いることができる。
【実施例】
【0055】
本発明は以下の実施例によってさらに明解になるであろう。
【0056】
実施例1
小麦粉(3000g)を黒鉛るつぼに入れ、レトルト炉(CM炉モデル1216FL)内で加熱した。炉温を150℃/時間の加熱レートで室温から800℃まで上げた、800℃に2時間維持し、次いで70℃以下まで自然冷却させた。上述の加熱/冷却サイクル中、Nで炉をパージした。
【0057】
流下での加熱の結果として、小麦粉は炭化され、第1の炭素材料に転換される。第1の炭素材料は、ハンマー打撃、粉砕及び振動微粉砕を用いて粗粉末にすることができる。粗炭素粉末は10μm以下(例えば、1μm,2μm,5μmまたは10μm)の粒径(d50)を有し得る。
【0058】
粉末化された第1の炭素材料(300g)を1500gの45重量%KOH水溶液と混合する。得られた混合物を撹拌し、ホットプレート上約100℃で、液体が除去されて固定ケーキが形成されるまで加熱する。ケーキを機械力で破砕して小体にすることができる。
【0059】
炭素/KOH混合物をSiCるつぼ(Hexoloy(登録商標)SAグレード)に入れ、レトルト炉内で加熱する。炉温を150℃/時間の加熱レートで室温から750℃まで上げて、750℃に2時間維持し、次いで約100℃の温度まで自然冷却させる。この加熱/冷却サイクル中、Nで炉をパージする。
【0060】
炭素/KOH混合物を加熱することにより、KOHを第1の炭素材料に取り込むことができる。
【0061】
冷却中、炉温が100℃に達すると、炉温をさらに3時間100℃に維持し、その間、水蒸気を含むNで炉をパージする。水蒸気飽和窒素ガスは95℃の脱イオン水を通してNをバブリングさせることでつくることができる。次いで炉を70℃以下まで自然冷却させる。
【0062】
得られた活性炭を次いで、過剰なカリウム、カリウム化合物及びその他の不純物を除去するため、洗浄することができる。洗浄する工程は、活性炭を水でリンスする工程、あるいは、一実施形態にしたがえば、活性炭を水及び水と酸の混合液でリンスする工程を含む。洗浄シーケンスの一例が以下に開示される。
【0063】
第1の洗浄工程において、活性炭を3000ミリリットルの脱イオン水と合わせ、この混合物を撹拌し、ホットプレート上で30分間約90℃から100℃の温度で加熱する。真空補助濾過により固体材料(すなわち炭素)を液体から分離する。
【0064】
第2の洗浄工程において、前工程で得られた炭素材料を、初めに1980ミリリットルの脱イオン水と合わせ、次いで990ミリリットルの37%HCl水溶液と合わせる。この混合物を撹拌し、ホットプレート上で60分間約90℃から100℃の温度で加熱した後、真空補助濾過により炭素材料を液体から分離する。
【0065】
第3の洗浄工程において、前工程で得られた炭素材料を、3000ミリリットルのDI(脱イオン)水と合わせる。この混合物を撹拌し、ホットプレート上で60分間約90℃から100℃の温度で加熱する。真空補助濾過により炭素材料を液体から分離する。
【0066】
次いで、流出液のpHが洗浄に用いられる脱イオン水のpHと同じになるまで、第3の洗浄工程を反復する。最後に活性炭を真空オーブン内で、18時間125℃で乾燥させて、第2の炭素材料を作製する。第2の炭素材料は活性炭粉末を含む。
【0067】
第2の炭素材料内の酸素含有量を低減するため、第2の炭素材料の不活性雰囲気または還元雰囲気内での加熱を含む、追加の熱処理で第2の炭素材料を処理する。
【0068】
一実施形態において、第2の炭素材料をSiCるつぼに入れ、炉(CM炉モデル1216FLまたは1212FL)内におく。炉温を150℃/時間の加熱レートで約800℃の温度まで上げて、この温度に2時間維持し、次いで自然冷却させる。上述の加熱/冷却サイクル中、NまたはHとNの混合気で定常的に炉をパージする。
【0069】
冷却中に、炉温が100℃に達すると、炉温をさらに3時間100℃に維持し、その間、水蒸気飽和Nで炉をパージする。次いで炉を70℃以下まで自然冷却させる。得られた活性炭品を真空オーブン内で、18時間125℃で乾燥する。
【0070】
実施例2
実施例1にしたがって作製した3つの相異なる活性炭材料の比静電容量及び酸素含有量を測定する。初めの試料は(酸素低減処理前に得られた)実施例1の第2の炭素材料に相当する。他の2つの試料は第2の炭素材料を不活性(N)雰囲気または還元(1%H/N)雰囲気内で加熱することによって得られる。
【0071】
静電容量値は、活性炭をボタン型セルの電極に入れ込むことによって得られる。ボタン型セルを形成するため、活性炭をカーボンブラック(Black Pearl 2000)及びPTFEと合わせる。カーボンブラックは導電性添加剤としてはたらき、PTFEは結合剤としてはたらく。活性炭、カーボンブラック及びPTFEを重量で85:5:10の比でブレンドし、圧延して、電極にする。1.5Mのテトラエチルアンモニウム-テトラフルオロボレート(TEA-TFB)のアセトニトリル溶液を電解質として用いる。
【0072】
比静電容量及び酸素含有量のデータを表1にまとめてある。表1において、Csp,mは重量比静電容量を表し、Csp,vは体積比静電容量を表す。
【表1】

【0073】
表1のデータを参照すれば、後活性化加熱処理の前の活性炭の酸素含有量は4.6重量%である。窒素中800℃の後活性加熱処理により、酸素含有量は3.00重量%まで減じるが、1%H/N中800℃の後活性加熱処理では、酸素含有量が1.64重量%まで減じ、比静電容量が大きく低下することはない。実施形態において、酸素含有量は3重量%未満(例えば2重量%未満)である。
【0074】
後活性加熱処理の温度を高めることによって酸素含有量のさらなる低減が達成され得ると考えられる。しかし、約800℃より高い後活性加熱処理温度では、そのような温度においては炭素細孔構造が損傷を受けることから比静電容量の望ましくない低下が生じ得るとも考えられる。後活性加熱処理温度を約800℃より高めると静電容量に有害な影響を与え得るが、反応性ガス雰囲気内で行われた中高温の後活性加熱処理は、活性炭内の酸素含有量を低減することができ、静電容量を有意には低下させないことが分かった。
【0075】
実施例3
活性炭試料を、1%H/N中で、3つの相異なる温度で熱処理する。表2に示されるように、400℃、600℃及び800℃の熱処理後に得られた酸素含有量はそれぞれ、3.28重量%、1.53重量%及び1.06重量%である。400℃及び600℃の後活性加熱処理の結果、比静電容量は事実上変化しないままであるが、800℃の後活性加熱処理の後では静電容量が低下している。
【表2】

【0076】
実施例4
活性炭試料を1%H/N中700℃で熱処理する。未熱処理試料と比較すると、酸素含有量は4.30重量%から1.58重量%まで低減されているが、比静電容量は3%未満しか減じていない。
【表3】

【0077】
対照実施例1
比較のため、市販炭素材料(Kuraray YP-50F)を上述した実施例の態様で特性評価する。納入された市販炭素の酸素含有量は1.85重量%である。しかし、ボタン型セル電極に組み込むと、市販炭素についての静電容量測定値は、本開示にしたがう炭素材料について達成される静電容量値よりかなり低いことが明らかになった。重量比静電容量(Csp,m)は123F/gであり、体積比静電容量(Csp,v)は67F/cmである。
【0078】
本開示は,EDLC用途のための、無リグノセルロース源から得られる活性炭材料を提供する。本活性炭材料の特徴は高微細孔度及び低酸素含有量とすることができる。そのような炭素は高比静電容量を提供し、したがって、EDLCにおいて高エネルギー貯蔵容量及び長期安定性を提供する。そのような活性炭材料を作製する方法も開示される。
【0079】
本発明の精神及び範囲を逸脱することなく本発明の様々な改変及び変形がなされ得ることが当業者には明らかであろう。当業者には、本発明の精神及び本質を組み込んでいる、開示され離実施形態の改変、組合せ、副組合せ及び変形が浮かぶであろうから、本発明は添付される特許請求項及びそれらの等価形態の範囲内に全てを包含すると解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭材料を作製する方法において、
第1の炭素材料を形成するために天然の無リグノセルロース炭素前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
水性混合物を形成するために前記第1の炭素材料を無機化合物と混合する工程、
乾燥混合物を形成するために前記水性混合物を乾燥する工程及び前記無機化合物を前記第1の炭素材料に取り込むために前記乾燥混合物を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
第2の炭素材料を作製するために前記第1の炭素材料から前記無機化合物を除去する工程、及び
低含有酸素活性炭材料を形成するために前記第2の炭素材料を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
を含み、
前記低含有酸素活性炭材料の酸素含有量が5重量%未満であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記第2の炭素材料がフォーミングガスを含む雰囲気内で加熱されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
活性炭材料を作製する方法において、
第1の炭素材料を形成するために天然の無リグノセルロース炭素前駆体を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
第2の炭素材料を形成するために前記第1の炭素材料を活性化する工程、及び
低含有酸素活性炭材料を形成するために前記第2の炭素材料を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項4】
活性炭材料において、
0.08以下の構造秩序比(SOR)、
0.1重量%より多い窒素含有量、及び
3重量%未満の酸素含有量、
を有することを特徴とする活性炭材料。
【請求項5】
活性炭材料を作製する方法において、
天然の無リグノセルロース炭素前駆体と無機化合物の水性混合物を形成する工程、
第1の炭素材料を形成するために前記水性混合物を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
第2の炭素化合物を作製するために前記第1の炭素材料から前記無機化合物を除去する工程、及び
低含有酸素活性炭材料を形成するために前記第2の炭素材料を不活性雰囲気または還元雰囲気内で加熱する工程、
を含み、
前記低含有酸素活性炭材料の酸素含有量が5重量%未満であることを特徴とする方法。

【公表番号】特表2013−518018(P2013−518018A)
【公表日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−550077(P2012−550077)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【国際出願番号】PCT/US2011/021661
【国際公開番号】WO2011/090993
【国際公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】