説明

EL装置の製造方法及びEL装置

【課題】陽極と正孔注入層と間の密着性を向上することができるEL装置の製造方法及びEL装置を提供すること。
【解決手段】画素電極23を溶解可能な酸を発生する酸発生材料を当該画素電極23と正孔注入層70との間に配置し、酸発生材料から酸を発生させて画素電極23の表面を溶解し、画素電極23のうち溶解した部分を当該画素電極23と正孔注入層70との界面に溶出させて溶出層81を形成するので、この溶出層81によって画素電極23と正孔注入層70と間の密着性を向上することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、EL装置(ElectroLuminescence装置)の製造方法及びEL装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL装置は、一般的に、基板上に陽極、正孔注入層、発光層及び陰極が順に積層されており、正孔注入層と発光層とが陽極及び陰極で狭持された構成になっている。発光層には、正孔輸送層を介して陽極から正孔が注入されると共に、陰極からは電子が注入される。この正孔と電子とが発光層内で再結合し、再結合によって励起状態から失括する際に発光する。正孔注入層及び発光層は、例えば高分子化合物などの有機化合物や、無機化合物などから構成されている。
【特許文献1】特開2004−119074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
近年では、正孔注入層と陽極との間の密着性の向上が求められている。正孔注入層と陽極との間の密着性が不十分だと、陽極と正孔注入層との間で正孔の流動がスムーズに行われにくくなり、発光特性が下がってしまう虞がある。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、陽極と正孔注入層と間の密着性を向上することができるEL装置の製造方法及びEL装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記の課題を解決するため、本発明に係るEL装置の製造方法は、基板上に陽極を形成し、前記陽極上に正孔注入層を形成し、前記正孔注入層上に発光層を形成し、前記発光層上に陰極を形成するEL装置の製造方法であって、前記陽極を溶解可能な酸を発生する酸発生材料を陽極と正孔注入層との間に配置し、前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解し、前記陽極のうち溶解した部分を前記陽極と前記正孔注入層との界面に溶出させることを特徴とする。
本発明によれば、陽極を溶解可能な酸を発生する酸発生材料を陽極と正孔注入層との間に配置し、酸発生材料から前記酸を発生させて陽極の表面を溶解し、陽極のうち溶解した部分を陽極と正孔注入層との界面に溶出させるので、当該界面に溶出させた溶解部分によって陽極と正孔注入層と間の密着性を向上することができる。
【0005】
上記のEL装置の製造方法は、前記基板上に前記陽極を形成した後、前記陽極上に前記酸発生材料を含んだ酸発生層を形成し、前記酸発生層に含まれる前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解し、前記陽極のうち溶解した部分を前記陽極の表面に溶出させ、前記溶解した部分を溶出させた後、前記酸発生層上に、前記正孔注入層と前記発光層と前記陰極とを順に形成することを特徴とする。
本発明によれば、基板上に陽極を形成した後、陽極上に酸発生材料を含んだ酸発生層を形成し、酸発生層に含まれる酸発生材料から酸を発生させて陽極の表面を溶解し、陽極のうち溶解した部分を陽極の表面に溶出させ、溶解した部分を溶出させた後、酸発生層上に正孔注入層と発光層と陰極とを順に形成するので、正孔注入層と酸発生層とを別々に形成することになる。
正孔注入層として、自身が酸性の物質で構成されたPEDOT:PSS層と呼ばれる正孔注入層を設ける技術が知られている。酸性のPEDOT:PSS層により陽極表面が溶解され、この溶解部分を介して当該陽極と正孔注入層との間を接着するので、陽極と正孔注入層との間の密着性が向上する。このPEDOT:PSS層は、構成材料を水系の溶媒に溶解して塗布し、水分を蒸発させることによって成膜するのが一般的である。一方で、水分の蒸発が十分に行われず層中に水分が残留すると、残留した水分によって正孔の流動が妨げられ、ダークスポットなどが生じる場合があり、発光特性の低下の原因となる。
本発明によれば、正孔注入層と酸発生層とが別々に形成されるため、正孔注入層の形成に際して水系の溶媒に溶解させる場合及び有機溶媒に溶解させる場合にかかわらず、PEDOT:PSS層を形成しなくても良く、正孔注入層中に水分が残留するのを回避することができるという利点がある。
【0006】
上記のEL装置の製造方法は、前記基板上に前記陽極を形成した後、前記陽極上に前記酸発生材料を含んだ前記正孔注入層を形成し、前記正孔注入層上に前記発光層を形成し、前記正孔注入層に含まれる前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解し、前記陽極のうち溶解した部分を前記陽極の表面に溶出させることを特徴とする。
本発明によれば、陽極上に酸発生材料を含んだ正孔注入層を形成し、正孔注入層上に発光層を形成し、正孔注入層に含まれる酸発生材料から酸を発生させて陽極の表面を溶解し、陽極のうち溶解した部分を陽極の表面に溶出させるので、酸発生材料を配置する工程と正孔注入層を形成する工程とを同時に行うことができる。これにより、製造工程の短縮化を図ることができる。
【0007】
上記のEL装置の製造方法は、前記溶解した部分を溶出させた後、前記発光層上に前記陰極を形成することを特徴とする。
本発明によれば、溶解した部分を溶出させた後、発光層上に陰極を形成するため、陰極と正孔注入層との密着性を向上させてから陰極を形成することになる。これにより、陽極と正孔注入層との間の密着性を確実に向上させることができる。
【0008】
上記のEL装置の製造方法は、前記発光層上に前記陰極を形成した後、前記正孔注入層に含まれる前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解することを特徴とする。
本発明によれば、発光層上に陰極を形成した後、正孔注入層に含まれる酸発生材料から酸を発生させて陽極の表面を溶解するので、陰極形成までは従来の製造工程を活かすことができ、かつ、陽極と正孔注入層との間の密着性を高めることが可能となる。
【0009】
上記のEL装置の製造方法は、前記酸発生材料が、光を照射されることにより酸を発生する材料からなり、前記発光層で発光される光によって前記酸発生材料から前記酸を発生させることを特徴とする。
本発明によれば、酸発生材料が光を照射されることにより酸を発生する材料からなり、発光層で発光される光によって酸発生材料から酸を発生させるので、別途光を照射する機構や装置などが必要ない。これにより、製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0010】
本発明に係るEL装置は、基板上に設けられた陽極と、前記陽極上に設けられた正孔注入層と、前記正孔注入層上に設けられた発光層と、前記発光層上に設けられた陰極と、前記陽極と前記正孔注入層との間に設けられ、前記陽極と前記正孔注入層とを密着すると共に前記陽極と前記正孔注入層との間で正孔を流通可能な密着層とを具備することを特徴とする。
本発明によれば、陽極と正孔注入層との間に設けられ陽極と正孔注入層とを密着すると共に陽極と正孔注入層との間で正孔を流通可能な密着層を具備するので、陽極と正孔注入層と間の密着性を向上することができるEL装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基き、本発明の各実施形態を説明する。
[第1実施形態]
(有機EL装置)
図1は、第1実施形態に係る有機EL装置の側面断面図である。
有機EL装置1は、素子基板2と、素子基板2の表面に配設された駆動回路部5と、駆動回路部5の表面に配設された複数の有機EL素子3と、有機EL素子3を封止する封止基板30とを主として構成されている。この有機EL素子3は、素子基板2に垂直な方向から見て略円形状や略長円形状等に形成されている。本実施形態では、有機EL素子3における発光光を素子基板2側から取り出すボトムエミッション型の有機EL装置1を例にして説明する。
【0012】
ボトムエミッション型の有機EL装置1では、発光層60における発光光を素子基板2側から取り出すので、素子基板2としては透明あるいは半透明のものが採用される。例えば、ガラスや石英、樹脂(プラスチック、プラスチックフィルム)等を用いることが可能であり、特にガラス基板が好適に用いられる。
【0013】
素子基板2上には、有機EL素子3の駆動用TFT123(駆動素子4)などを含む駆動回路部5が形成されている。なお、駆動回路を備えたICチップを素子基板2に実装して有機EL装置を構成することも可能である。
【0014】
駆動回路部5の具体的な構成として、素子基板2の表面に絶縁材料からなる下地保護層281が形成され、その上に半導体材料であるシリコン層241が形成されている。このシリコン層241の表面には、SiO及び/又はSiNを主体とするゲート絶縁層282が形成されている。そのゲート絶縁層282の表面には、ゲート電極242が形成されている。このゲート電極242は、図示しない走査線の一部によって構成されている。なお前記シリコン層241のうち、ゲート絶縁層282を挟んでゲート電極242と対向する領域がチャネル領域241aとされている。一方、ゲート電極242およびゲート絶縁層282の表面には、SiOを主体とする第1層間絶縁層283が形成されている。
【0015】
またシリコン層241のうち、チャネル領域241aの一方側には低濃度ソース領域241bおよび高濃度ソース領域241Sが設けられ、チャネル領域241aの他方側には低濃度ドレイン領域241cおよび高濃度ドレイン領域241Dが設けられて、いわゆるLDD(Lightly Doped Drain )構造となっている。これらのうち、高濃度ソース領域241Sは、ゲート絶縁層282および第1層間絶縁層283を貫通するコンタクトホール243aを介して、ソース電極243に接続されている。このソース電極243は、図示しない電源線の一部によって構成されている。一方、高濃度ドレイン領域241Dは、ゲート絶縁層282および第1層間絶縁層283を貫通するコンタクトホール244aを介して、ソース電極243と同層に配置されたドレイン電極244に接続されている。
【0016】
上述したソース電極243およびドレイン電極244、並びに第1層間絶縁層283の上層には、アクリル系やポリイミド系等の耐熱性絶縁性樹脂材料などを主体とする平坦化膜284が形成されている。この平坦化膜284は、駆動用TFT123(駆動素子4)やソース電極243、ドレイン電極244などによる表面の凹凸をなくすために形成されたものである。
【0017】
平坦化膜284の表面における有機EL素子3の形成領域には、複数の画素電極23が配列形成されている。この画素電極23は、該平坦化膜284に設けられたコンタクトホール23aを介して、ドレイン電極244に接続されている。すなわち画素電極23は、ドレイン電極244を介して、シリコン層241の高濃度ドレイン領域241Dに接続されている。
【0018】
平坦化膜284の表面には、画素電極23を囲うようにSiO等の無機絶縁材料からなる無機隔壁25が形成されている。この無機隔壁25の開口部から露出した画素電極23の表面に、複数の機能膜が積層形成されて、有機EL素子3が構成されている。本実施形態の有機EL素子3は、陽極として機能する画素電極23と、この画素電極23からの正孔を注入/輸送する正孔注入層70と、有機EL物質からなる発光層60と、陰極50として機能する共通電極とを積層して構成されている。
【0019】
画素電極23と正孔注入層70との間には、密着層80が設けられている。密着層80は、画素電極23と正孔注入層70とを密着すると共に、当該画素電極23と正孔注入層70との間で正孔を流通可能に設けられている。密着層80の下層側は、画素電極23が溶出した溶出層81になっている。密着層80の上層側は、酸発生材料の残留層82になっている。
【0020】
ボトムエミッション型の有機EL装置1の場合、陽極として機能する画素電極23は、透明導電材料によって形成されている。その透明導電性材料として、ITO(インジウム錫酸化物)や、IZO(登録商標、インジウム亜鉛酸化物)等を採用することが可能である。そのうちITOは、酸化インジウム(In2O3)に錫(Sn)をドープした材料等で構成されている。
【0021】
密着層80の形成材料としては、光を照射することによって酸を発生する光酸発生材料が好適に用いられる。例えば、図2(a)に示すWPAG−367(和光純薬工業株式会社製:Diphenyl−2,4,6−trimethylphenylsulfonium p−toluene sulfonate)や、図2(b)に示すWPAG−145(和光純薬工業株式会社製:Bis(cyclohexylsulfonyl)diazomethane)や、図2(c)に示すCPI−100P(サンアプロ株式会社製)、その他にはCTPAG(アイバイツ株式会社)等が挙げられる。また、図3に示すように、光酸発生材料だけではなく、熱を加えることによって酸を発生する熱酸発生材料であっても良い。
【0022】
正孔注入層70の形成材料としては、例えば、特開昭63−70257号公報、特開昭63−175860号公報、特開平2−135359号公報、特開平2−135361号公報、特開平2−209988号公報、特開平3−37992号公報、及び特開平3−152184号公報等に記載されているような、トリフェニルアミン誘導体(TPD)、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、4,4’−ビス(N(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ)ビフェニル等で形成可能である。このほか、水系有機系、酸中性を問わず幅広く材料を選択することが可能である。
【0023】
発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料が用いられる。具体的には、(ポリ)フルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料や、ルブレン、ペリレン、9,10−ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の低分子材料をドープして用いることもできる。
【0024】
なお、赤色の発光層60の形成材料としては例えばMEHPPV(ポリ(3−メトキシ6−(3−エチルヘキシル)パラフェニレンビニレン)を、緑色の発光層60の形成材料としては例えばポリジオクチルフルオレンとF8BT(ジオクチルフルオレンとベンゾチアジアゾールの交互共重合体)の混合溶液を、青色の発光層60の形成材料としては例えばポリジオクチルフルオレンを用いる場合がある。また、このような発光層60については、特にその厚さについては制限がなく、各色毎に好ましい膜厚が調整されている。
【0025】
なお、発光層60の表面に正孔ブロック層を設けてもよい。正孔ブロック層は、画素電極23から供給された正孔が発光層60を通り抜けるのを防止して、発光層60における電子と正孔との再結合を促進させ、発光効率を向上させる機能を有する。この正孔ブロック層の構成材料として、フルオレン等を採用することが可能である。
【0026】
陰極50は、主陰極および補助陰極の積層構造とすることが望ましい。その主陰極として、仕事関数が3.0eV以下のCaやMg、LiF等の材料を採用することが望ましい。これにより、主陰極に電子注入層としての機能が付与されるので、低電圧で発光層を発光させることができる。また補助陰極は、陰極50全体の導電性を高めるとともに、主陰極を酸素や水分等から保護する機能を有している。そのため補助陰極として、導電性に優れたAlやAu、Ag等の金属材料を採用することが望ましい。
【0027】
一方、陰極50の上方には、接着層40を介して封止基板30が貼り合わされている。
なお、陰極50の全体を覆う封止キャップを素子基板2の周縁部に固着し、その封止キャップの内側に水分や酸素等を吸収するゲッター剤を配置してもよい。また、陰極50の表面にSiO等からなる無機封止膜を積層形成してもよい。
【0028】
上述した有機EL装置1では、駆動回路部5のソース電極243から供給された画像信号が、駆動素子4により所定のタイミングで画素電極23に印加される。そして、その画素電極23から注入された正孔と、陰極50から注入された電子とが、発光層60で再結合して所定波長の光が放出される。その発光光は、透明材料からなる画素電極23、駆動回路部5および素子基板2を透過して外部に取り出される。なお、無機隔壁25は絶縁材料で構成されているので、無機隔壁25の開口部の内側のみに電流が流れて発光層60が発光する。そのため、無機隔壁25の開口部の内側が有機EL素子3の画素領域となっている。
【0029】
(有機EL装置の製造方法)
次に、上記のように構成された有機EL装置1の製造方法を説明する。図4(a)〜図4(d)は、有機EL装置1の製造過程を模式的に示す工程図である。図4(a)〜図4(d)では、説明の簡単のため、駆動回路部5及び隔壁25の図示を省略している。
まず、基板2上に駆動回路部5を形成し、図4(a)に示すように、陽極である画素電極23と、隔壁25とを形成する。画素電極23及び隔壁25を形成したら、これら画素電極23及び隔壁25上に上述の酸発生材料を含んだ酸発生層85を形成する。酸発生層85は、例えば上記の酸発生材料のうち光照射によって酸を発生するものであって水溶性のものを水溶媒に溶解させ、インクジェット法やスピンコート法などの既知の方法により画素電極23及び隔壁25上に塗布し、乾燥させて形成する。この段階では、酸発生層85内には残留水分が存在している。
【0030】
次に、図4(b)に示すように、酸発生層85に光を照射する。このとき照射する光としては、酸発生材料の吸収帯(感度が高い波長帯域)の波長を用いることが好ましい。光源の一例として、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、蛍光灯、タングステンランプ、エキシマランプ、窒素レーザ、アルゴンレーザなどが挙げられる。これらの他、例えば150nm〜700nmの波長の光を射出する光源を用いることが好ましい。
【0031】
酸発生層85に光を照射すると、酸発生層85内の酸発生材料が水と反応し、酸が発生する。図4(c)に示すように、この酸によって画素電極23の表面が溶解し、画素電極23と酸発生層85との界面に溶出して溶出層81が形成される。酸発生層85は、酸を発生した後には残留層82となって残留する。
【0032】
溶出層81及び残留層82が形成されたら、図4(d)に示すように、正孔注入層70、発光層60及び陰極50を形成し、接着層40を介して封止基板30を貼り合わせる。このように、有機EL装置1が完成する。
【0033】
本実施形態によれば、画素電極23を溶解可能な酸を発生する酸発生材料を当該画素電極23と正孔注入層70との間に配置し、酸発生材料から酸を発生させて画素電極23の表面を溶解し、画素電極23のうち溶解した部分を当該画素電極23と正孔注入層70との界面に溶出させて溶出層81を形成するので、この溶出層81によって画素電極23と正孔注入層70と間の密着性を向上することができる。
【0034】
また、本実施形態によれば、画素電極23上に酸発生材料を含んだ酸発生層85を形成し、酸発生層85に含まれる酸発生材料から酸を発生させて画素電極23の表面を溶解し表面に溶出させて溶出層81を形成し、溶出層81形成後、残留層82上に正孔注入層70と発光層60と陰極50とを順に形成するので、正孔注入層70と酸発生層85とを別々に形成することになる。
【0035】
従来、正孔注入層として、自身が酸性の物質で構成されたPEDOT:PSS層と呼ばれる正孔注入層を設ける技術が知られている。酸性のPEDOT:PSS層により陽極(画素電極)表面が溶解され、この溶解部分を介して当該画素電極と正孔注入層との間を接着するので、画素電極と正孔注入層との間の密着性が向上する。このPEDOT:PSS層は、構成材料を水系の溶媒に溶解して塗布し、水分を蒸発させることによって成膜するのが一般的である。一方で、水分の蒸発が十分に行われず層中に水分が残留すると、残留した水分によって正孔の流動が妨げられ、ダークスポットなどが生じる場合があり、発光特性の低下の原因となる。
【0036】
本発明によれば、正孔注入層70と酸発生層85とが別々に形成されるため、正孔注入層70の形成に際して水系の溶媒に溶解させる場合及び有機溶媒に溶解させる場合にかかわらず、PEDOT:PSS層を形成しなくても良く、正孔注入層70中に水分が残留するのを回避することができるという利点がある。しかも、酸発生材料が酸発生層85中の水分と反応することで酸が発生するので、酸発生層85中の残留水分を減少させることができるという利点がある。
【0037】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を説明する。第1実施形態と同様、以下の図では、各部材を認識可能な大きさとするため、縮尺を適宜変更している。本実施形態では密着層の構成が第1実施形態とは異なっており、その他の構成は第1実施形態と同様である。以下、第1実施形態との相違点を中心に説明する。
有機EL装置101は、素子基板102の表面に駆動回路部105が設けられており、駆動回路部105の表面には有機EL素子103が設けられた構成になっている。
【0038】
有機EL素子103は、第1実施形態と同様、画素電極123からの正孔を注入/輸送する正孔注入層170と、有機EL物質からなる発光層160と、陰極150として機能する共通電極とを積層して構成されている。画素電極123と正孔注入層170との間には密着層180が設けられている。この密着層180は、画素電極123と正孔注入層170とを密着すると共に、当該画素電極123と正孔注入層170との間で正孔を流通可能に設けられている。密着層180は、第1実施形態とは異なり1層になっている。この層は画素電極123が溶出した溶出層である。
【0039】
次に、上記のように構成された有機EL装置101の製造方法を説明する。図6(a)〜図6(e)は、有機EL装置101の製造過程を模式的に示す工程図である。図6(a)〜図6(e)では、第1実施形態と同様、説明の簡単のため、駆動回路部105及び隔壁125の図示を省略している。
【0040】
まず、基板102上に駆動回路部105を形成し、図6(a)に示すように、画素電極123と、隔壁125とを形成する。画素電極123及び隔壁125を形成したら、これら画素電極123及び隔壁125上に上述の酸発生材料を含んだ正孔注入層170を形成する。
【0041】
正孔注入層170は、第1実施形態と同様の正孔注入層材料に、例えば上記の酸発生材料のうち光照射によって酸を発生するものであって水溶性のものを加えて水溶媒に溶解させ、画素電極123及び隔壁125上に塗布・乾燥して形成する。塗布する溶液には、酸発生材料が0.1〜10w%程度含まれるようにする。酸発生材料の含有率が0.1w%よりも小さいと酸が十分に発生しなくなる。一方、酸発生材料の含有率が10w%よりも大きくなっても、酸発生の効果はそれほど向上しない。
【0042】
次に、図6(b)に示すように、正孔注入層170上に発光層160を形成する。
発光層160を形成したら、正孔注入層170に光を照射する。上記実施形態に示した光源を用いて、酸発生材料の吸収帯(感度が高い波長帯域)の波長の光を照射することが好ましい。
【0043】
正孔注入層170に光を照射すると、図6(c)に示すように、正孔注入層170内の酸発生材料が水と反応し、酸が発生する。この酸によって図6(d)に示すように画素電極123の表面が溶解し、画素電極123と正孔注入層170との界面に溶出して密着層180が形成される。酸発生後の酸発生材料は、正孔注入層170に残留する。
密着層180が形成されたら、図6(e)に示すように、陰極150を形成し、接着層40を介して封止基板30を貼り合わせる。このように、有機EL装置1が完成する。
【0044】
本実施形態によれば、正孔注入層170内に酸発生材料が含まれるように形成するので、別途酸発生材料を有する層を形成する工程を省略することができる。これにより、製造工程の短縮化を図ることができる。
【0045】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態を説明する。本実施形態では有機EL装置の製造方法が上記実施形態とは異なっており、その他の構成は上記第2実施形態と同様である。以下、上記第2実施形態との相違点を中心に説明する。
【0046】
ここでは、第2実施形態と同一の構成の有機EL装置101の製造方法を説明する。図7(a)〜図7(c)は、有機EL装置101の製造過程を模式的に示す工程図である。図7(a)〜図7(c)では、第2実施形態と同様、説明の簡単のため、駆動回路部105及び隔壁125の図示を省略している。
【0047】
まず、基板102上に駆動回路部105を形成し、図7(a)に示すように、画素電極123と、隔壁125とを形成する。画素電極123及び隔壁125を形成したら、これら画素電極123及び隔壁125上に上述の酸発生材料を含んだ正孔注入層170を形成する。
【0048】
正孔注入層170は、第1実施形態と同様の正孔注入層材料に、例えば上記の酸発生材料のうち光照射によって酸を発生するものであって水溶性のものを加えて水溶媒に溶解させ、画素電極123及び隔壁125上に塗布・乾燥して形成する。塗布する溶液には、酸発生材料が0.1〜10w%程度含まれるようにする。酸発生材料の含有率が0.1w%よりも小さいと酸が十分に発生しなくなる。一方、酸発生材料の含有率が10w%よりも大きくなっても、酸発生の効果はそれほど向上しない。正孔注入層170を形成したら、当該正孔注入層170上に発光層160を形成し、発光層160上に陰極150を形成する。
【0049】
陰極150を形成したら、図7(b)に示すように、正孔注入層170に光を照射する。上記実施形態に示した光源を用いて、酸発生材料の吸収帯(感度が高い波長帯域)の波長の光を照射することが好ましい。正孔注入層170に光を照射すると、正孔注入層170内の酸発生材料が水と反応し、酸が発生する。
【0050】
この酸によって、図7(c)に示すように画素電極123の表面が溶解し、画素電極123と正孔注入層170との界面に溶出して密着層180が形成される。酸発生後の酸発生材料は、正孔注入層170に残留する。密着層180が形成されたら、接着層40を介して封止基板30を貼り合わせる。このように、有機EL装置1が完成する。
【0051】
本実施形態によれば、陰極150まで形成した後、正孔注入層170に含まれる酸発生材料から酸を発生させて画素電極123の表面を溶解するので、陰極150の形成までは従来の製造工程を活かすことができ、かつ、画素電極123と正孔注入層170との間の密着性を高めることが可能となる。
【0052】
なお、本実施形態では、正孔注入層170に光を照射する際、上記の光源によって正孔注入層170に光を照射する代わりに、陰極150と画素電極123との間に電圧を印加し、発光層160にて光を発光させ、当該発光した光を正孔注入層170に照射するようにしても構わない。これにより、別途光源を用意する必要がなく、製造コストを低く抑えることが可能となる。
【0053】
[第4実施形態]
次に、本発明に係る電子機器について、携帯電話を例に挙げて説明する。
図8は、携帯電話400の全体構成を示す斜視図である。
携帯電話400は、筺体401、複数の操作ボタンが設けられた操作部402、画像や動画、文字等を表示する表示部403を有する。表示部403には、本発明に係る有機EL装置1、101が搭載される。
【0054】
このように、画素電極と正孔注入層と間の密着性を向上することができる有機EL装置1、101を備えているので、表示特性の高い表示部を有する電子機器(携帯電話)400を得ることができる。
【0055】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、酸発生材料として、上記実施形態で述べたものの他に、ヨードニウム、スルホニウム、ホスホニウムなどの芳香族オニウム化合物のPF、AsF、SbF、CFSOの塩が挙げられる。また、スルホン酸を発生するスルホン化物を用いても良い。これらは、光酸発生材料として用いることができる。
【0056】
熱酸発生材料としては、スルホニウム塩型化合物、アニリニウム塩型化合物、ピリジウム塩型化合物、ホスホニウム塩型化合物などの既知の化合物が挙げられる。これらのオニウム塩型化合物のカウンターアニオンとしては、PF、AsF、SbF、CFSO、トルエンスルホネート、トリフレートなどが挙げられる。
【0057】
勿論、これらのイオン性材料のみならず、中性の有機分子から構成される材料を用いても構わない。中性の有機分子から構成される材料は、水系の溶媒だけでなく、各種有機溶媒に対して高い相溶性を得られるものもあり、これらの材料を選択することにより、膜厚を均一に形成することができるなどの利点がある。なお、上記に列挙した材料は例示に過ぎず、これらの材料のほか適宜材料を選択することが可能である。
【0058】
また、上記実施形態においては、ボトムエミッション型の有機EL装置を例に挙げて説明したが、これに限られることは無く、トップエミッション型の有機EL装置であっても本発明の適用は可能である。
【0059】
また、上記各実施形態では、正孔注入層及び発光層が有機化合物からなる有機EL装置を例に挙げて説明したが、これに限られることは無い。例えば、正孔注入層及び発光層が無機材料からなる無機EL装置であっても本発明の適用は可能であり、正孔注入層及び発光層が有機化合物及び無機化合物の両方を含んだ材料からなるEL装置であっても本発明の適用は可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1実施形態に係る有機EL装置を示す断面図。
【図2】酸発生材料の分子構成を示す図。
【図3】酸発生材料から酸が発生する反応過程を示す図。
【図4】本実施形態に係る有機EL装置の製造過程を示す工程図。
【図5】本発明の第2実施形態に係る有機EL装置の構成を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る有機EL装置の製造過程を示す工程図。
【図7】本発明の第3実施形態に係る有機EL装置の製造過程を示す工程図。
【図8】本発明の第4実施形態に係る電子機器の構成を示す図。
【符号の説明】
【0061】
1、101…有機EL装置 2、102…素子基板 3、103…EL素子 5、105…駆動回路部 23、123…画素電極 25、125…隔壁 50、150…陰極 60、160…発光層 70、170…正孔注入層 80、180…密着層 81…溶出層 82…残留層 85…酸発生層 400…携帯電話

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に陽極を形成し、前記陽極上に正孔注入層を形成し、前記正孔注入層上に発光層を形成し、前記発光層上に陰極を形成するEL装置の製造方法であって、
前記陽極を溶解可能な酸を発生する酸発生材料を陽極と正孔注入層との間に配置し、
前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解し、
前記陽極のうち溶解した部分を前記陽極と前記正孔注入層との界面に溶出させる
ことを特徴とするEL装置の製造方法。
【請求項2】
前記基板上に前記陽極を形成した後、前記陽極上に前記酸発生材料を含んだ酸発生層を形成し、
前記酸発生層に含まれる前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解し、
前記陽極のうち溶解した部分を前記陽極の表面に溶出させ、
前記溶解した部分を溶出させた後、前記酸発生層上に、前記正孔注入層と前記発光層と前記陰極とを順に形成する
ことを特徴とする請求項1に記載のEL装置の製造方法。
【請求項3】
前記基板上に前記陽極を形成した後、前記陽極上に前記酸発生材料を含んだ前記正孔注入層を形成し、
前記正孔注入層上に前記発光層を形成し、
前記正孔注入層に含まれる前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解し、
前記陽極のうち溶解した部分を前記陽極の表面に溶出させる
ことを特徴とする請求項1に記載のEL装置の製造方法。
【請求項4】
前記溶解した部分を溶出させた後、前記発光層上に前記陰極を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載のEL装置の製造方法。
【請求項5】
前記発光層上に前記陰極を形成した後、前記正孔注入層に含まれる前記酸発生材料から前記酸を発生させて前記陽極の表面を溶解する
ことを特徴とする請求項3に記載のEL装置の製造方法。
【請求項6】
前記酸発生材料が、光を照射されることにより酸を発生する材料からなり、
前記発光層で発光される光によって前記酸発生材料から前記酸を発生させる
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちいずれか一項に記載のEL装置の製造方法。
【請求項7】
基板上に設けられた陽極と、
前記陽極上に設けられた正孔注入層と、
前記正孔注入層上に設けられた発光層と、
前記発光層上に設けられた陰極と、
前記陽極と前記正孔注入層との間に設けられ、前記陽極と前記正孔注入層とを密着すると共に前記陽極と前記正孔注入層との間で正孔を流通可能な密着層と
を具備することを特徴とするEL装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−108604(P2008−108604A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291043(P2006−291043)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】