説明

EMC対策構造

【課題】セラミック層を有するノイズフィルターが複数の電線に沿った位置に配設されたEMC対策構造において、各電線のインピーダンスのばらつきを抑制すること。
【解決手段】EMC対策構造は、ノイズフィルター1がフラットケーブル2の外周に巻かれた構造になっている。ノイズフィルター1は、支持層11、第1粘着層13、セラミック層15A,15B、および第2粘着層17A,17Bを、この順序で積層した構造になっている。フラットケーブル2は、並列に配置された複数の電線21を備えている。セラミック層15A,15Bは、セラミック板をランダムに割ることによって形成された複数のセラミック片が面状に配置された構造になっているものである。しかも、複数のセラミック片の間に隙間を形成することにより、セラミック層15A,15Bのかさ密度を、割られる前のセラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミック層を有するシート状ノイズフィルターを、複数の電線に沿った位置に配設することで、それら複数の電線におけるノイズの伝播を抑制する構造とされたEMC対策構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、EMC対策構造として、フェライト層を有するシート状ノイズフィルターを、複数の電線に沿った位置に配設したものは、既に提案されている(例えば、下記特許文献1参照。)。
【0003】
具体的には、下記特許文献1には、フェライト層を有するノイズフィルターをフラットケーブルの表裏両面に取り付けることにより、電波の漏れや侵入を防止すること、信号に重畳するノイズを低減・除去することなどが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4063315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたノイズフィルターが備えるフェライト層は、複数のフェライト片が規則的かつ隙間なく配列された構造になっている(例えば、特許文献1:図15,図16参照。)。
【0006】
そのため、ノイズフィルターをフラットケーブルに対して取り付けた際、電線両端間のインピーダンスの抵抗成分(以下、単にインピーダンスともいう。)が、各電線毎にばらつきやすい、という問題があった。
【0007】
より具体的には、フラットケーブルとほぼ等幅のフェライト層を有するシート状ノイズフィルターをフラットケーブルに取り付けた場合、フラットケーブルの幅方向両縁に近い電線ほど電線両端間のインピーダンスが低くなり、フラットケーブルの幅方向中央に近い電線ほど同インピーダンスが高くなる、という傾向があった。
【0008】
そのため、この場合、フラットケーブルの幅方向両縁に近い電線ほどノイズ対策効果が弱くなってしまい、各電線のノイズ対策効果を均一にすることが容易ではない、という問題があった。
【0009】
また、同じフラットケーブルに対して同じノイズフィルターを取り付けた場合であっても、その取り付け位置がいくらかずれたり傾いたりすると、そのずれや傾きに応じて電線両端間のインピーダンスに変化が生じるため、ノイズフィルター装着後のフラットケーブルの特性に個体差が生じる要因となっていた。
【0010】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、その目的は、セラミック層を有するノイズフィルターが複数の電線に沿った位置に配設されたEMC対策構造において、各電線のインピーダンスのばらつきを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明のEMC対策構造は、複数の電線と、磁性体または誘電体のいずれかであるセラミック材料によって形成されたセラミック層を有するシート状のノイズフィルターとを備え、前記ノイズフィルターが前記複数の電線に沿った位置に配設された構造とされたEMC対策構造であって、前記セラミック層は、複数のセラミック片が面状に配置された構造になっており、前記複数のセラミック片は、前記セラミック材料によって形成されたセラミック板と、可撓性シートとを、粘着材料を介して貼り合わせることによって積層体を形成してから、前記積層体に外力を加えて前記セラミック板をランダムに割ることによって形成されたものであり、しかも、前記複数のセラミック片の間に隙間を形成することにより、前記セラミック層のかさ密度を、割られる前の前記セラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてあることを特徴とする。
【0012】
このように構成されたEMC対策構造によれば、セラミック層が、セラミック板を割ることによって形成された複数のセラミック片で構成されている。しかも、その割り方がランダムに割ってあり、かつ、セラミック層のかさ密度を、割られる前のセラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてある。
【0013】
このように構成されたEMC対策構造においては、ノイズフィルターに設けられたセラミック片がランダムに割られたものとなっている。そのため、セラミック層と複数の電線との相対的な位置や向きを変えた際にも、電線両端間のインピーダンスは各電線とも大きく変化することがなく、また、セラミック層の中央部付近に配設された電線か周縁部付近に配設された電線かを問わず、各電線とも電線両端間のインピーダンスは同程度になり、電線毎のばらつきは抑制される。
【0014】
具体例を交えて説明すれば、例えば、四角形のセラミック片が規則正しく配列された構造とされたセラミック層の場合、セラミック片間の境界が延びる方向と複数の電線の延びる方向が一致するか否かにより、電線両端間のインピーダンスに変化が生じる。
【0015】
また、セラミック片間の境界が延びる方向と複数の電線の延びる方向が一致する場合、ある電線はセラミック片間の境界に近い位置を維持したまま延びる一方、別の電線はセラミック片間の境界から離れた位置を維持したまま延びることになる。そのため、このようなこともインピーダンスのばらつきを発生させる要因となる。
【0016】
この点、セラミック片がランダムに割ってあると、電線に対するセラミック層の向きをどのように変えても、セラミック片間の境界が延びる方向と複数の電線の延びる方向が一致する状態にはならない。そのため、セラミック層の向きによらず、各電線とセラミック片間の境界との関係は均質なものとなり、電線両端間のインピーダンスのばらつきが抑制される。
【0017】
また、セラミック層のかさ密度を、割られる前のセラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてあると、電線両端間のインピーダンスが各電線毎に大きくばらつくことがない。この事実は、本件発明者が数多くの試験を重ねる中で見いだしたものである。
【0018】
ちなみに、かさ密度を0.87%未満しか低下させていない場合は、セラミック層の特性がバルクのセラミック焼結体に近くなるので、セラミック層の中央部付近に配線された電線と周縁部付近に配線された電線とで、電線両端間のインピーダンスは電線毎にばらつきやすくなる傾向がある。一方、かさ密度を15.2%超過まで低下させると、セラミック層の空隙率が過剰に高くなり、その結果、セラミック層によるEMC対策効果が弱まってしまうので好ましくない。
【0019】
したがって、本発明においては、上記のような傾向を踏まえて、上述したとおりの特徴的な構成を採用したのであり、その結果、本発明によれば、セラミック層の中央部付近に沿って配線された電線と、セラミック層の周縁部付近に沿って配線された電線とで、それらの電線について、電線両端間のインピーダンスのばらつきを抑制することができるのである。
【0020】
なお、以上説明した本発明のEMC対策構造は、さらに次のように構成されていてもよい。
まず、本発明のEMC対策構造において、前記ノイズフィルターは、FPC(Flexible Printed Circuits)、FFC(Flexible Flat Cable)、またはフラットケーブルのいずれかを取り付け対象として、前記取り付け対象の表裏両面のうち、いずれか一方または両方に取り付けられることにより、前記取り付け対象が備える前記複数の電線に沿った位置に配設されていると好ましい。
【0021】
このように構成されたEMC対策構造によれば、FPC、FFC、またはフラットケーブルを対象としてEMC対策を施すことができ、その際、それらが備える各電線のインピーダンスのばらつきを抑制することができる。
【0022】
また、本発明のEMC対策構造において、前記セラミック材料は、Ni−Zn系ソフトフェライト、Mn−Zn系ソフトフェライト、Mg−Zn系ソフトフェライト、Ba系フェライト、フェロックスプレーナ系フェライト、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、またはアルミナのいずれかであると好ましい。
【0023】
このように構成されたEMC対策構造によれば、Ni−Zn系ソフトフェライト、Mn−Zn系ソフトフェライト、Mg−Zn系ソフトフェライト、Ba系フェライト、またはフェロックスプレーナ系フェライトが、磁性体として良好な性能を発揮する。また、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、またはアルミナが、誘電体として良好な性能を発揮する。したがって、これら以外のセラミック材料でセラミック層を形成した場合に比べ、より優れたEMC対策効果を得ることができる。
【0024】
また、本発明のEMC対策構造において、前記複数のセラミック片は、前記積層体を複数回にわたって一対の圧延ロール間に通して前記セラミック板をランダムに割ることによって形成されたものであり、しかも、前記積層体を複数回にわたって一対の圧延ロール間に通す際には、前記複数回それぞれで前記圧延ロールに対する向きを変えて前記圧延ロール間に通されていると好ましい。
【0025】
このように構成されたEMC対策構造によれば、きわめて簡単な手法で、ランダムに割られたセラミック片を得ることができるので、他の面倒な手法でセラミック板を割る場合に比べ、容易に所期のEMC対策構造を得ることができる。
【0026】
さらに、本発明のEMC対策構造において、前記粘着材料が、熱可塑性の粘着材料であり、前記複数のセラミック片の間にある隙間は、加熱によって前記粘着材料を軟化させた状態で前記積層体に外力を加えることによって形成され、その後、放熱に伴って前記粘着材料が硬化することで、前記隙間が形成された状態が維持されていると好ましい。
【0027】
このように構成されたEMC対策構造によれば、きわめて簡単な手法で、セラミック片間に所期の隙間を形成することができるので、他の面倒な手法でセラミック片間に隙間を形成する場合に比べ、容易に所期のEMC対策構造を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】EMC対策構造を示す図であり、(a)はその平面図、(b)はA−A線切断面における内部構造を示す説明図。
【図2】(a)はノイズフィルターの正面図、(b)は一部が破断されて内部構造が併記されたノイズフィルターの平面図、(c)はセラミック層の拡大平面図。
【図3】(a)はセラミック層に対する圧延処理方法を示す説明図、(b)はノイズフィルターの一部を拡大して示した断面図。
【図4】(a)は密度低下率0%の場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフ、(b)は密度低下率0.65%の場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフ。
【図5】(a)は密度低下率0.87%の場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフ、(b)は密度低下率10.3%の場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフ。
【図6】(a)は密度低下率15.2%の場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフ、(b)は密度低下率23.4%の場合の周波数とインピーダンスの関係を示すグラフ。
【図7】セラミック層の中央部と周縁部における特性変化の違いに関する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、本発明の実施形態について一例を挙げて説明する。
[EMC対策構造の概要]
以下に説明するEMC対策構造は、図1(a)および同図(b)に示すように、ノイズフィルター1とフラットケーブル2によって構成されるもので、ノイズフィルター1がフラットケーブル2の外周に巻かれた構造になっている。
【0030】
これらのうち、ノイズフィルター1は、図2(a)および同図(b)に示すように、支持層11、第1粘着層13、セラミック層15A,15B、および第2粘着層17A,17Bを、この順序で積層した構造になっている。また、フラットケーブル2は、図1(b)に示したとおり、並列に配置された複数の電線21を備え、それらの電線21が樹脂製の被覆部23で覆われた構造になっている。
【0031】
第1粘着層13は、支持層11の一方の面を全面にわたって覆っており、図1(b)に示したように、ノイズフィルター1がフラットケーブル2の外周に巻かれた際には、支持層11の一端内周側にある第1粘着層13を支持層11の他端外周側に粘着させることで、ノイズフィルター1を環状にした状態を維持することができる。
【0032】
また、このようにノイズフィルター1がフラットケーブル2の外周に巻かれると、セラミック層15A,15Bは、図1(b)に示したように、フラットケーブル2を表裏から挟み込む位置に配置される。このとき、第2粘着層17A,17Bが、フラットケーブル2に粘着することで、ノイズフィルター1がフラットケーブル2に対して固定されることになる。
【0033】
次に、ノイズフィルター1が備える各層の構造について、さらに詳しく説明する。ノイズフィルター1が備える各層のうち、支持層11は、厚さ0.05mmのPET(Polyethylene terephthalate)フィルムで形成されている。
【0034】
また、第1粘着層13と第2粘着層17A,17Bは、アクリル樹脂系の両面粘着テープで形成されており、その厚さは、第1粘着層13が0.035mm、第2粘着層17A,17Bが0.03mmになっている。
【0035】
また、セラミック層15A,15Bは、薄板状のフェライト焼結体(本実施形態の場合、長さ22mm×幅14mm×厚さ0.3mm。)によって形成されたもので、このセラミック層15A,15Bは、図2(c)に例示するように、不規則な形状を持つ複数のセラミック片31が面状に配置された構造になっている。
【0036】
このような構造のセラミック層15A,15Bは、セラミック層15A,15Bとなる薄板状のフェライト焼結体と、支持層11となるPETフィルムとを、第1粘着層13となる両面粘着テープを介して貼り合わせることにより、中間製品となる積層体1Aを形成してから、この積層体1Aに外力を加えてフェライト焼結体をランダムに割ることによって形成することができる。
【0037】
本実施形態においては、図3(a)に示すように、積層体1Aを厚さ3mmのゴムシート41,43で挟み込んでから、それらを2軸のロール45,47(本実施形態においては直径50mmのロールを使用。)の間に通して圧延することにより、フェライト焼結体をランダムに割った。
【0038】
このとき、フェライト焼結体の割れ方をより均一にするには、ロール45,47の間隔については、圧延対象物の総厚に対して80%以下に設定すると好ましく、また、圧延方向については、少なくとも直交する二方向それぞれについて5回以上はロール45,47間に通すと好ましい。
【0039】
また、ロール45,47については、ゴムコートされたものを利用すると作業性が上がるので好ましい。このような圧延処理を施すことで、図2(c)に例示したような不規則な形状を持つ複数のセラミック片31が形成され、所期のセラミック層15A,15Bを得ることができる。
【0040】
圧延直後、複数のセラミック片31は、第1粘着層13となる両面粘着テープの粘着力により、積層体1A上に保持されているが、その後、さらに、セラミック層15A,15Bと同寸法の第2粘着層17A,17Bによって覆われ、これにより、図2(a)に示したような構造のノイズフィルター1が完成することになる。
【0041】
また、図3(a)に示すような方法で積層体1Aの圧延を行うと、上述したような複数のセラミック片31を形成することができるが、こうして形成された複数のセラミック片31間には、図3(b)に示すような隙間33が形成される。
【0042】
この隙間33の大きさは、積層体1Aの圧延条件を変えると変化し、例えば、圧延時に積層体1Aに作用する荷重が大きくなるほど隙間33は大きくなる傾向がある。あるいは、例えば、表面のタック性が異なるゴムシート41,43を利用するなど、ゴムシート41,43の摩擦係数を変えても、PETフィルム側とフェライト焼結体側で圧延方向への力の差が生じるので、フェライト焼結体が割られた後に形成される隙間33の大きさに影響が現れる。
【0043】
なお、本実施形態においては、第1粘着層13が熱可塑性樹脂で形成されており、しかも、圧延の際には、加熱されたロール45,47で圧延を行っているので、圧延時に第1粘着層13が変形しやすくなっており、これにより、隙間33が拡大しやすくなっている。このような加熱によって拡大させた隙間33は、第1粘着層13から放熱すれば、そのまま維持されることになるので、容易に隙間33ができた状態を保つことができる。
【0044】
以上のような方法で、隙間33の大きさを制御することができ、これにより、セラミック層15A,15Bのかさ密度を変えることができる。
[ノイズフィルターの性能とセラミック層のかさ密度との関係]
次に、ノイズフィルター1の性能とセラミック層15A,15Bのかさ密度との関係を調べるため、セラミック層15A,15Bのかさ密度を変更した複数のサンプルを作成し、それらのサンプルについて、ノイズフィルターとしての性能を測定してみた。
【0045】
より具体的には、各サンプルをフラットケーブル2に巻き付けて、図1(a)に示したとおりのEMC対策構造を形成した。そして、フラットケーブル2の一方の縁にある電線21、中央にある電線21、他方の縁にある電線21を、それぞれ電線A,B,Cとして、それら電線A,B,Cのインピーダンス(抵抗成分)を測定した。
【0046】
各電線A,B,Cのインピーダンスは、インピーダンス・マテリアル・アナライザ(アジレントテクノロジー社製、E4991A)で測定した。この測定で、各電線A,B,Cに与える交流信号の周波数を100〜500MHzにわたって変動させ、そのときの電線A,B,Cのインピーダンスの抵抗成分の変化を測定した。
【0047】
また、サンプルについては、セラミック層15A,15Bが割られていないもの(試料1、真密度5.24g/cm3)、セラミック層15A,15Bを割ってかさ密度を0.65%低下させたもの(試料2)、同じくかさ密度を0.87%低下させたもの(試料3)、同じくかさ密度を10.3%低下させたもの(試料4)、同じくかさ密度を15.2%低下させたもの(試料5)を用意し、さらに、上記試料1と同じセラミック材料からなる粉末をマトリクス樹脂中に充填した磁性シート(試料6,かさ密度23.4%低下)を用意した。
【0048】
これら各試料の測定結果を図4〜図6のグラフに示す。図4(a)が試料1、図4(b)が試料2、図5(a)が試料3,図5(b)が試料4,図6(a)が試料5,図6(b)が試料6に対応するグラフである。
【0049】
図4(a)を見ると明らかなように、セラミック層15A,15Bが割られていない試料1は、セラミック層の中央部付近に配線された電線Bのインピーダンスが高くなるが、その割りには電線A,Cのインピーダンスが低く、その差が大きくなる。より具体的には、電線Cのインピーダンスは、電線Bに対して最大で約32.4%も低下している(電線B:13.03Ω、電線C:8.82Ω、いずれも100MHz。)。
【0050】
そのため、このような特性のノイズフィルター1では、フラットケーブル2に対する相対的な位置がフラットケーブル2の幅方向について僅かにずれるだけでも、フラットケーブル2が有する複数の電線21かかる負荷が顕著に変化し、同様のEMC対策構造であってもEMC対策効果に個体差が生じやすくなる。
【0051】
一方、図6(b)を見ると明らかなように、上記試料1と同じセラミック材料からなる粉末をマトリクス樹脂中に充填した試料6は、電線A,B,Cともにほぼ同様の特性を示す点でばらつきは小さいといえる。より具体的には、電線Aのインピーダンスは、電線Bに対して最大でも約7.2%しか低下していない(電線A:18.63Ω、電線B:20.08Ω、いずれも500MHz。)。しかし、試料6の場合、インピーダンスの抵抗成分の絶対値は、最大でも18.6〜20.1Ω程度(500MHz時。)と低い数値を示し、そのEMC対策効果は弱いものとなっている。
【0052】
つまり、試料1は比較的EMC対策効果が大きいものの、フラットケーブルに対する取り付け位置が変わることで特性が変化しやすく、EMC対策構造の性能にばらつきが出やすいという問題があり、一方、試料6はフラットケーブルに対する取り付け位置が変わっても特性が変化しにくいので、EMC対策構造の性能にばらつきが出にくいものの、EMC対策効果が小さいという問題がある。
【0053】
したがって、このような事情から、本発明においては、ばらつきの幅が試料6と同等以下に抑制されていること、および、試料6よりもEMC対策効果が大きくなること、以上2点を満足するものであれば、試料1や試料6を利用したEMC対策構造よりも優れた性能を発揮できるものと判断した。
【0054】
このような観点で試料2〜5を見ると、試料2の場合、電線Cのインピーダンスは、電線Bに対して最大で約18.1%低下しており(電線B:9.98Ω、電線C:8.17Ω、いずれも100MHz。)、試料1よりはばらつきが抑制されているものの、試料6には及ばなかった。
【0055】
一方、試料3の場合、電線Aのインピーダンスは、電線Bに対して最大で約6.6%しか低下しておらず(電線A:5.38Ω、電線B:5.03Ω、いずれも125MHz。)、しかも、インピーダンスの抵抗成分の絶対値は、最大で52.96〜54.52Ω程度(500MHz時。)と試料6よりも高い数値を示している。
【0056】
同様に、試料4の場合、電線Aのインピーダンスは、電線Bに対して最大で約7.2%しか低下しておらず(電線A:17.97Ω、電線B:19.37Ω、いずれも200MHz。)、しかも、インピーダンスの抵抗成分の絶対値は、最大で36.52〜38.07Ω程度(500MHz時。)と試料6よりも高い数値を示している。
【0057】
さらに同様に、試料5の場合も、電線Cのインピーダンスは、電線Bに対して最大で約5%しか低下しておらず(電線C:1.94Ω、電線B:2.05Ω、いずれも100MHz。)、しかも、インピーダンスの抵抗成分の絶対値は、最大で34.42〜35.94Ω程度(500MHz時。)と試料6よりも高い数値を示している。
【0058】
したがって、この実験結果からは、試料3〜5のように、複数のセラミック片31の間に隙間33を形成することにより、セラミック層15A,15Bのかさ密度を、割られる前のセラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてあると、試料6のような磁性シートと同等以上に、複数の電線の両端間のインピーダンスについて、それらのばらつきを抑制でき、かつ、試料6のような磁性シート以上に、各電線のインピーダンスを平均的に高めてEMC対策効果を大きくすることができる、といえる。
【0059】
なお、セラミック層15A,15Bのかさ密度をいくらか低下させることにより、セラミック層15A,15Bの中央と周縁で、その付近に配線される電線のインピーダンスについて、そのばらつきを抑制できるのは、次のような理由によるものと推察している。
【0060】
すなわち、図7(a)〜同図(d)に示すように、セラミック片31の近傍に電線21が存在する場合、セラミック片31内部の磁束φ(Wb)は、下記の数式(1)で表される値になる。
【0061】
φ=Fm/(Rmc+Rma)…(1)
この数式(1)中、φはフェライト内部の磁束(Wb)、Fmは起磁力(AT)[ただし、Fm=NI、N:巻き数、I:電流]、Rmc=Lc/μcScはフェライトの磁気抵抗(AT/Wb)[ただし、Rmc=Lc/μcSc、Lc:磁路長、μc:透磁率、Sc:断面積]、Rma=La/μaSaは空気中の磁気抵抗(AT/Wb)[ただし、La:磁路長、μa:透磁率、Sa:断面積]である。
【0062】
フェライトの磁気抵抗Rmcについては、透磁率μcが空気中の透磁率μaに比べ数百倍であるため、Rma値の影響が大きい状態にある。また、フェライトの磁気抵抗Rmcに関し、断面積Sc、透磁率μcは一定であり、隙間33が増えることで磁路長Lcは大きくなるため、磁路長Lcが大きくなるほどフェライトの磁気抵抗Rmcの値が増加してゆく。そして、起磁力Fmも一定であることから、フェライト内部の磁束φは、図7(e)に例示するような、フェライトの磁気抵抗Rmaの値のみが大きくなってゆく反比例の曲線となる。
【0063】
セラミック層15A,15Bの中央部付近(図7(a)および同図(c))と周縁部付近(図7(b)および同図(d))とを比較すると、フェライトの磁気抵抗Rmcの比率が大きい中央部ほど、空気中の磁気抵抗Rmaの比率が大きい周縁部に比べ、内部磁束の低下影響を受けやすく、電線21への影響が大きい。
【0064】
そのため、結果的に中央部特性の方が周縁部特性に比べ、特性低下が大きく、その分、中央部付近と周縁部付近で特性が近づいてゆくことになり、中央部特性と周縁部特性のばらつきが解消されるものと考えられる。
【0065】
[効果]
以上説明したとおり、上記EMC対策構造によれば、ノイズフィルター1に設けられたセラミック層15A,15bが、セラミック板を割ることによって形成された複数のセラミック片31で構成され、しかも、その割り方がランダムに割ってあって、かつ、セラミック層15A,15Bのかさ密度を、割られる前のセラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてある。
【0066】
したがって、バルクの薄板状セラミック焼結体からなるノイズフィルターを利用した場合に比べ、セラミック層15A,15Bの中央部付近に沿って配線された電線21と、セラミック層15A,15Bの周縁部付近に沿って配線された電線21とで、それらの電線21について、電線両端間のインピーダンスのばらつきを抑制することができ、しかも、磁性粉末を樹脂材料に充填してなるノイズフィルターを利用した場合に比べ、EMC対策効果を向上させることができる。
【0067】
また、上記EMC対策構造において、複数のセラミック片31は、積層体1Aを複数回にわたって一対のロール45,47間に通してセラミック板をランダムに割ることによって形成されたものであり、しかも、積層体1Aを複数回にわたって一対のロール45,47間に通す際には、複数回それぞれでロール45,47に対する向きを変えてロール45,47間に通されているので、他の面倒な手法でセラミック板を割る場合に比べ、容易に所期のEMC対策構造を得ることができる。
【0068】
さらに、上記EMC対策構造において、セラミック片31の間にある隙間33は、加熱によって第1粘着層13を軟化させた状態で積層体1Aに外力を加えることによって形成され、その後、放熱に伴って第1粘着層13が硬化することで、隙間33が形成された状態が維持されている。したがって、きわめて簡単な手法で、セラミック片31間に所期の隙間33を形成することができるので、他の面倒な手法でセラミック片間に隙間を形成する場合に比べ、容易に所期のEMC対策構造を得ることができる。
【0069】
[変形例等]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の具体的な一実施形態に限定されず、この他にも種々の形態で実施することができる。
【0070】
例えば、上記実施形態では、複数の電線についての具体例として、フラットケーブル2が備える電線21を例示したが、上記のようなノイズフィルター1は、フラットケーブル2以外のものと組み合わせることもでき、この場合でも、本発明のEMC対策構造を構成することができる。具体的には、上記ノイズフィルター1をFPCやFFCと組み合わせてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、フラットケーブル2の表裏両面に、セラミック層15A,15Bを配置する例を示したが、セラミック層15A,15Bのいずれか一方だけがフラットケーブル2の片面に設けてあってもよい。
【0072】
さらに、上記実施形態では、セラミック層15A,15Bをフェライトで構成する例を示したが、フェライトのような磁性体の他、誘電体に相当するセラミック層を設けてあってもよい。ちなみに、磁性体を設ける場合であれば、Ni−Zn系ソフトフェライト、Mn−Zn系ソフトフェライト、Mg−Zn系ソフトフェライト、Ba系フェライト、またはフェロックスプレーナ系フェライトなどが好適である。また、誘電体を設ける場合であれば、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、またはアルミナなどが好適である。
【符号の説明】
【0073】
1・・・ノイズフィルター、1A・・・積層体、2・・・フラットケーブル、11・・・支持層、13・・・第1粘着層、15A,15B・・・セラミック層、17A,17B・・・第2粘着層、21・・・電線、23・・・被覆部、31・・・セラミック片、33・・・隙間、41,43・・・ゴムシート、45,47・・・ロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電線と、磁性体または誘電体のいずれかであるセラミック材料によって形成されたセラミック層を有するシート状のノイズフィルターとを備え、前記ノイズフィルターが前記複数の電線に沿った位置に配設された構造とされたEMC対策構造であって、
前記セラミック層は、複数のセラミック片が面状に配置された構造になっており、
前記複数のセラミック片は、前記セラミック材料によって形成されたセラミック板と、可撓性シートとを、粘着材料を介して貼り合わせることによって積層体を形成してから、前記積層体に外力を加えて前記セラミック板をランダムに割ることによって形成されたものであり、
しかも、前記複数のセラミック片の間に隙間を形成することにより、前記セラミック層のかさ密度を、割られる前の前記セラミック板に比べ0.87〜15.2%低下させてある
ことを特徴とするEMC対策構造。
【請求項2】
前記ノイズフィルターは、FPC(Flexible Printed Circuits)、FFC(Flexible Flat Cable)、またはフラットケーブルのいずれかを取り付け対象として、前記取り付け対象の表裏両面のうち、いずれか一方または両方に取り付けられることにより、前記取り付け対象が備える前記複数の電線に沿った位置に配設されている
ことを特徴とする請求項1に記載のEMC対策構造。
【請求項3】
前記セラミック材料は、Ni−Zn系ソフトフェライト、Mn−Zn系ソフトフェライト、Mg−Zn系ソフトフェライト、Ba系フェライト、フェロックスプレーナ系フェライト、チタン酸バリウム、炭化ケイ素、またはアルミナのいずれかである
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のEMC対策構造。
【請求項4】
前記複数のセラミック片は、前記積層体を複数回にわたって一対の圧延ロール間に通して前記セラミック板をランダムに割ることによって形成されたものであり、しかも、前記積層体を複数回にわたって一対の圧延ロール間に通す際には、前記複数回それぞれで前記圧延ロールに対する向きを変えて前記圧延ロール間に通されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載のEMC対策構造。
【請求項5】
前記粘着材料が、熱可塑性の粘着材料であり、
前記複数のセラミック片の間にある隙間は、加熱によって前記粘着材料を軟化させた状態で前記積層体に外力を加えることによって形成され、その後、放熱に伴って前記粘着材料が硬化することで、前記隙間が形成された状態が維持されている
ことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載のEMC対策構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−44549(P2011−44549A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−191134(P2009−191134)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】