説明

EMIガスケット

【課題】 厚さを抑制しつつ、良好な導電性を有するEMIガスケットを提供する。
【解決手段】 EMIガスケット1は、導電性を有するシート状の基材である導電布2と、柔軟性および導電性を有するシート状の多孔質体である導電ウレタンスポンジ3と、導電ウレタンスポンジ3に含浸された導電性粘着材4と、からなる。導電性粘着材4は、導電ウレタンスポンジ3における導電布2が配される側と反対(下側)の外縁部(下側の表面から、厚さ方向の一部の領域)において含浸されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機器からの電磁波漏洩を遮蔽するEMIガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性を有するシート状の基材と、柔軟性および導電性を有するシート状の多孔質体と、を層状に重ねてなるEMIガスケットがある。このようなEMIガスケットは、基材を基板や筐体などの対象物に接触させ、多孔質体を他の対象物に接触させることで対象物間の導通を得ることができる。
【0003】
柔軟性を有する多孔質体は、対象物の表面形状に良好に追従して接触するため、ガスケットの導電性を高めて電磁波遮蔽効果を向上することができる。この多孔質体は柔軟性を有するため単独では形状維持が難しく、また摩擦などによって破損しやすいが、基材と層状に重ねて用いられることで、形状が良好に保たれる。
【0004】
このようなEMIガスケットとして、例えば、基材として金属化した有機繊維構造シートを用い、多孔質体として金属化した合成樹脂多孔質を用いてなる導電性材料が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3306665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したEMIガスケットを筐体などに取り付ける場合には、粘着材や粘着テープが用いられる。これら粘着材や粘着テープは、例えば、特許文献1の図2,3などに示されるように、基材または多孔質体の表面に配される。
【0007】
しかしながら、基材または多孔質体の表面に粘着材や粘着テープを配することにより、EMIガスケット全体としての厚みが増し、導通させる対象物の間のスペースが狭い環境での使用が困難になってしまう。一方、粘着材や粘着テープを薄くすると、粘着性が低下してしまう。
【0008】
また、導電性を高めるために粘着材や粘着テープに導電性フィラーを配合して導電性を付与したものを用いる場合、それらを薄くすると導電性フィラーの密度が低下して導電性が低下してしまう。
【0009】
即ち、従来、上述したようなEMIガスケットを筐体に取り付ける際に、厚みが増加したり、導電性が低下してしまうという問題があった。
本発明は、上述した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、厚さを抑制しつつ、良好な導電性を有するEMIガスケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、本発明において採用した構成について説明する。
本発明のEMIガスケットは、導電性を有するシート状の基材と、柔軟性および導電性を有するシート状の多孔質体と、を層状に重ねてなるEMIガスケットであって、前記多孔質体は、少なくとも前記基材が配される側と反対の外縁部に、導電性粘着材が含浸されてなることを特徴とする。
【0011】
このように構成されたEMIガスケットは、導電性粘着材が含浸された側の面(以降、単に取付面ともいう)において筐体などの相手側部材に取り付けることができる。そのとき、EMIガスケットと相手側部材との接触(導通)が、導電性の多孔質体と導電性粘着材との両方で実現されるため、多孔質体または導電性粘着材のいずれか一方とのみ接触している場合と比較してEMIガスケットと相手側部材との間の導電性が向上する。
【0012】
また、導電性粘着材が多孔質体に含浸されているため、導電性粘着材によってEMIガスケットが厚くなることがない。従って、多孔質体の表面に粘着材層を形成したり粘着テープを貼り付けたりする場合と比較して、EMIガスケットを薄くすることができる。
【0013】
また、導電性粘着材は多孔質体に含浸されているため、導電性粘着材と多孔質体との接合状態が良好になる。その結果、EMIガスケットと相手方部材とを良好に接合できる。仮に多孔質体の表面に粘着材や粘着テープを配した場合、多孔質体は微細な空隙を有する構造であるため、粘着材や粘着テープと接触する面積が大きくできず、良好な接合状態を形成しにくい。
【0014】
さらに、上述したように、多孔質体と導電性粘着材との両方で導通することで取付面における導電性を高めているため、目的の導電性を得るために必要な導電性粘着材における導電性フィラーの配合量を少なくすることができる。導電性フィラーの配合量を増やすと導電性粘着材の粘着力が低下してしまうが、導電性フィラーの配合量を少なくできる結果、導電性粘着材の粘着力の低下が抑制できる。
【0015】
また、導電性粘着材は多孔質体に含浸されていることから、導電性粘着材が圧縮されることでフィラーが近接しフィラーの密度が上がり、多孔質体との接触面積が増えることによって、より導電性を高くすることができる。
【0016】
本発明のEMIガスケットにおいて、導電性粘着材は、多孔質体の厚さ方向の一部の領域において含浸されていてもよい。導電性粘着材を含浸する領域を制限することで、多孔質体の厚さ方向の一部に導電性粘着材が含浸されない領域を形成できる。そのような領域は含浸させた領域よりも柔軟性が高いため、EMIガスケットの柔軟性を高く維持することができる。
【0017】
また、導電性粘着材が含浸された領域は含浸しない場合と比較して強度が高まるため、多孔質体が破損し難くなる。
上述した導電性粘着材は、アクリル系粘着材,シリコーン系粘着材,ウレタン系粘着材,ゴム系粘着材からなる群から選択される少なくとも1種類からなるベース粘着材と、金属系フィラーおよびカーボンフィラーの少なくともいずれか一方を含む導電フィラーと、からなるものを用いることができる。
【0018】
上述した本発明の効果は、導電性粘着材を、導電性フィラーが配合されてなるホットメルト接着剤に置き換えても同様に得ることができる。
また、上述した基材としては、導電布,金属箔,およびスパッタリングまたは蒸着により前記多孔質体の表面に形成された金属膜,からなる群より選ばれるいずれか1つとすることができる。
【0019】
また、上述した多孔質体としては、合成樹脂多孔体(導電性粘着材の含浸が可能である連続気泡のもの)に金属めっきまたは金属コートを施したもの、あるいは、金属めっき繊維からなる織布,編物,不織布、あるいは、金属ワイヤーをメッシュ状,不織布状に加工したもの、のいずれかとすることができる。上述した材料は加工して用いても良い。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】EMIガスケットの斜視図(A)、側面断面図(B)
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
本発明のEMIガスケットの斜視図を図1(A)に示す。また、EMIガスケットの断面図を図1(B)に示す。EMIガスケット1は、本発明の基材に相当する導電布2と、本発明の多孔質体に相当する導電ウレタンスポンジ3と、導電ウレタンスポンジ3に含浸された導電性粘着材4と、からなる。
【0022】
導電布2と導電ウレタンスポンジ3はシート状に形成されており、それらは層状に重ねられている。
導電性粘着材4は、導電ウレタンスポンジ3における導電布2が配される側と反対(下側)の外縁部において含浸されている。なお、図1(B)においては、導電ウレタンスポンジ3の下側の表面(取付面)から、厚さ方向の一部の領域において含浸されている構成を示しているが、導電ウレタンスポンジ3の全体に含浸される構成であってもよい。
【0023】
導電布2は、合成繊維(例えばポリエステル)などの織布,編物、不織布に金属めっきや金属コート等の導電性加工を施したものなどが相当する。導電布は高い導電性を有しており、また導電ウレタンスポンジ3のような発泡材料などと比較すると丈夫であるためEMIガスケット1の形状を維持する基材となる。
【0024】
なお、導電布2に代えて、金属箔を用いてもよい。金属箔に用いることのできる金属の一例としては、銅やアルミニウムなどが挙げられる。
また、導電布2に代えて、導電ウレタンスポンジ3にスパッタリングや蒸着によって金属膜を形成してもよい。
【0025】
導電ウレタンスポンジ3は、ウレタンスポンジに金属めっきや金属コート等の導電性加工を施したものである。導電ウレタンスポンジ3は柔軟性が高く圧縮性があるため、筐体など接触する対象物の表面形状に追従して対象物と良好に接触することができる。
【0026】
なお、導電ウレタンスポンジ3に代えて、ウレタン以外の合成樹脂素材の多孔質体に金属めっきや金属コートなどの導電性加工を施したものを用いてもよい。
また、導電ウレタンスポンジ3に代えて、金属めっきされた繊維からなる織布,編物,および不織布であってその内部に空隙を有し弾力性のある素材や、金属ワイヤーや金属めっきされた繊維を編み込んだもの若しくはメッシュ状・不織布状に加工したものを用いてもよい。
【0027】
導電性粘着材4は、ベース粘着材としてのアクリル系粘着材に、導電フィラーとしての金属系フィラーを配合したものである。金属系フィラーとしてはNiパウダー,銀めっきガラスビーズ等を用いることが考えられる。粒径は一般的な数μm〜数十μm程度のものを用いることができる。
【0028】
なお、ベース粘着剤としては、シリコーン系粘着材,ウレタン系粘着材,ゴム系粘着材などを用いても良いし、熱可塑性樹脂(ホットメルト接着剤)を用いてもよい。
また、導電フィラーとして、カーボンフィラーを用いてもよい。
【0029】
次に、EMIガスケット1の製造方法(導電性粘着材の含浸方法)について説明する。なお、導電布2と導電ウレタンスポンジ3との接合については公知であるためその説明を割愛する。
【0030】
まず、導電性粘着材を離型フィルムへ塗工する。導電性粘着材の量は、導電ウレタンスポンジ3に含浸させて固化させた時に所望の厚みになるように調整する。導電性粘着材は、導電ウレタンスポンジ3全体に含浸させてもよいが、導電ウレタンスポンジ3に空隙を残すように含浸させてもよい。例えば、350μmの導電ウレタンスポンジ3に対しては、15〜25μmの厚さとなるように含浸させることで、充分な接着力および導電性を得ることができる。
【0031】
そして、導電布2および導電ウレタンスポンジ3からなるシートの導電ウレタンスポンジ3側の面を、導電性粘着材が塗工された離型フィルムに貼り合わせる。このとき、導電性粘着材が導電ウレタンスポンジ3の空隙内に含浸するように圧力をかけながら貼り合わせる。その後、熱をかけて導電性粘着材を固化させる。このようにしてEMIガスケット1を製造する。なお、導電性粘着材の材料の選定によっては、ベース粘着材に含まれる溶媒が揮発することによる固化を利用し、多孔質体の隙間に入りやすくすることもできる。
【0032】
次に、実施例により本発明のEMIガスケットの性能を調査する。
[実施例1]
導電布および導電ウレタンスポンジからなるシートとして、セーレン株式会社製 導電ウレタン(商品名)を用いた。上記導電ウレタンは、導電布の厚さが100μm、導電ウレタンスポンジの厚さが350μmであって、全体の厚さは約0.45mmである。
【0033】
導電性粘着材は、ベース粘着材として、一方社油脂工業株式会社製 アクリル系エマルション型粘着剤 AE−150Gを用い、導電フィラーとして、ヴァーレ・ジャパン株式会社製 ニッケルパウダー Type255を用いた。なお、同社製のニッケルパウダーType123を用いても同様に製造することができる。
【0034】
本実施例においては、導電ウレタンスポンジに導電性粘着材を取付面の表面から15μmの厚さとなるように含浸させた。
[実施例2]
実施例1と同様の材料を用い、導電ウレタンスポンジに導電性粘着材を表面から25μmの厚さとなるように含浸させた。
【0035】
[実施例3]
実施例1と同様の材料を用い、導電ウレタンスポンジに導電性粘着材を表面から350μmの厚さとなるように(即ち、導電ウレタンスポンジ全体に)含浸させた。
【0036】
<間隙量ごとの圧縮抵抗値、圧縮力の評価>
実施例1〜3にて作成したEMIガスケットの間隙量(厚さ方向に圧縮した時のEMIガスケット全体の厚さ)を変化させたときの圧縮抵抗値を表1に示す。表中の単位はmΩである。また、間隙量を変化させるために必要な圧縮力を表2に示す。表中の単位はNである。
【0037】
なお、評価に用いたEMIガスケットは□20mmのものを用いた。
また、比較例として、上記導電ウレタンの導電ウレタンスポンジ側に絶縁性のテープ(寺岡製作所製 アクリル系基材レステープ No.702A 厚さ25μm)を貼り付けたもの(比較例1)、実施例1にて用いた導電性粘着材を上記導電ウレタンの導電布側に塗工したもの(比較例2)、上記導電ウレタンの導電ウレタンスポンジ側に銅基材両面導電テープ(DIC製#8535ACD)を貼り付けたもの(比較例3)に対しても同様の評価を行った。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
表1において、間隙量が小さくなるほど抵抗値が小さくなる理由は、圧縮により導電ウレタンスポンジや導電性粘着材に含まれる導電フィラーなどの密着性が高まるためである。
【0041】
表1,2から明らかなように、実施例1〜3では、小さい圧縮力で間隙量を小さくして圧縮抵抗値を低くできる(導電性が高くなる)。即ち、これらのEMIガスケットは、導通をとるべき2つの対象物の間隔が薄い(狭い)場所において好適に使用できるといえる。実施例1〜3においては圧縮抵抗値および圧縮力の値に大きな差異はなく、導電性粘着材の含浸厚さに関わらず(含浸厚さが15〜25μmという非常に薄いものであっても)良好な値となった。
【0042】
圧縮抵抗値が小さくなった理由は、導電性粘着材が導電ウレタンスポンジに含浸されているため、取付面において対象物とは導電性粘着材の導電フィラーと導電ウレタンスポンジとの両方で接触して導電性が向上したためであると考えられる。
【0043】
また導電性粘着材が含浸されていることでEMIガスケットを薄く形成することができたため、所定の厚さに圧縮するために必要な力が小さくなった。
なお、実施例1,2のEMIガスケットは実施例3のものと比較してより高い柔軟性(クッション性)を有していた。
【0044】
比較例1のように絶縁性のテープによる接合を行ったものは抵抗値が大きく導電性が低かった。
また、比較例2は、表1から分かるように圧縮抵抗値は良好であった。これは導電性粘着材を導電布側に塗布することによりガスケット全体の厚さが大きくなった結果、所定の間隙量に圧縮するためにはより圧縮率を高める必要が生じ、それによりウレタンスポンジの密着性が高まったためである。しかしながら、表2に示されるように、所定の間隙量とするために必要な圧縮力が実施例1〜3と比較して大きくなっていて圧縮されにくいことから、導通をとるべき2つの対象物の間隔が薄い(狭い)場所での使いやすさが実施例1〜3と比較して劣ると言える。
【0045】
また、比較例3は、圧縮抵抗値、圧縮力の両方で実施例1〜3のものと比較して劣ることとなった。圧縮抵抗値については、導電ウレタンスポンジが多孔質体であるため銅基材両面導電テープとの接触面積が大きくとれない(点接触である)ために導電性が低くなったためと考えられる。圧縮力については比較例2と同様に、テープの厚みの分ガスケット全体の厚さが大きくなっているためであると考えられる。
【符号の説明】
【0046】
1…EMIガスケット、2…導電布、3…導電ウレタンスポンジ、4…導電性粘着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性を有するシート状の基材と、柔軟性および導電性を有するシート状の多孔質体と、を層状に重ねてなるEMIガスケットであって、
前記多孔質体は、少なくとも前記基材が配される側と反対の外縁部に、導電性粘着材が含浸されてなる
ことを特徴とするEMIガスケット。
【請求項2】
前記導電性粘着材は、前記多孔質体の厚さ方向の一部の領域において含浸されている
ことを特徴とする請求項1に記載のEMIガスケット。
【請求項3】
前記導電性粘着材は、
アクリル系粘着材,シリコーン系粘着材,ウレタン系粘着材,ゴム系粘着材からなる群から選択される少なくとも1種類からなるベース粘着材と、
金属系フィラーおよびカーボンフィラーの少なくともいずれか一方を含む導電フィラーと、からなる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のEMIガスケット。
【請求項4】
前記導電性粘着材に代えて、導電フィラーが配合されてなるホットメルト接着剤が含浸されてなる
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のEMIガスケット。
【請求項5】
前記基材は、導電布,金属箔,およびスパッタリングまたは蒸着により前記多孔質体の表面に形成された金属膜,からなる群より選ばれるいずれか1つである
ことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のEMIガスケット。
【請求項6】
前記多孔質体は、合成樹脂多孔体に金属めっきまたは金属コートを施したもの、あるいは、金属めっきされた繊維からなる織布,編物,および不織布、あるいは、金属ワイヤーまたは金属めっきされた繊維を編み込んだものおよびメッシュ状や不織布状に加工したもの、のいずれかである
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のEMIガスケット。

【図1】
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【公開番号】特開2012−104714(P2012−104714A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−253009(P2010−253009)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】