説明

ESD有機EL装置及び方法

【課題】本発明は、処理対象とノズル部間の距離を調節でき、大面積への成膜レート向上できるESD有機EL装置及び方法を提供することである。
【解決手段】本発明は、有機材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し、前記印加を前記処理対象を搭載する搭載部との間で行なう際に、前記噴霧は前記溶液を有し噴霧口を有する複数のノズル部で行ない、前記溶媒の揮発を促進させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電噴霧法(ESD法:Electrospray Deposition)による有機材料を成膜するESD有機EL装置及び方法に関わり、特に大面積の成膜に好適なESD有機EL装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の半導体の主流はシリコンであるが、次世代の半導体として有機EL(エレクトロルミネッセンス)が脚光を浴びており、ディスプレイや照明などへの実用化が着目されている。また、有機ELディスプレイの製造方法は低分子有機EL材料の真空蒸着が主流である。将来的には、低価格化のために、大気中(非真空中)で高分子有機EL材料を塗布(印刷)プロセスで製造することが期待されている。
【0003】
有機材料の非真空中での大面積成膜は、スピンコータやスリットコータが用いられていたが、積層時に下地を溶かしてしまうためミキシングが起きてしまう問題があった。この為、溶剤による影響の少ない非真空中の大面積成膜方法が待ち望まれていた。
【0004】
ESD法はこれに応える方法である。ESD法は非真空中の成膜方法の一つとして1880年頃の古くから研究されており、農薬噴霧、液体静電塗装機、薄膜形成などの分野で応用されている。最近では、ナノファイバに応用された技術が特許文献1に開示されている。特許文献1は一つのノズルに対して原料液(供給液)の極性を定期的に変えることで堆積される原料液が交互の極性を持ち互いに静電反発をすることなくうまく堆積される技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−13535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ESD法のノズル当たりの噴霧量には限界があるので、大面積を短いタクトタイムで成膜するには、ノズル部を複数設ける必要がある。一般に、ESD法に必要な印加電圧は処理対象とノズル部との距離に比例することが知られている。ここで、特にノズル部を複数設ける場合には、噴霧に必要な電力を抑えるために、処理対象とノズル部をできるだけ近づけることが望ましい。一方、処理対象とノズル部の距離が近くなると、噴霧液の溶媒の揮発が不十分となり、成膜後に下地とのミキシングや膜厚にバラつきが生じる可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、上記の課題を鑑みてなされたもので、処理対象とノズル部間の距離を調節でき、大面積への成膜レートを向上できるESD有機EL装置及び方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の目的を達成するために、有機材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し、前記印加を前記処理対象を搭載する搭載部との間で行なう際に、前記噴霧は前記溶液を有し噴霧口を有する複数のノズル部で行ない、前記溶媒の揮発を促進させることを第1の特徴とする。
【0009】
また、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記揮発の促進は溶媒揮発促進ガスを前記噴霧液に供給して行なうことを第2の特徴とする。
【0010】
さらに、本発明の目的を達成するために、第2の特徴に加え、前記溶媒揮発促進ガスを前記ノズル部の前記溶液に沿って流すことを第3の特徴とする。
また、本発明の目的を達成するために、第2の特徴に加え、前記溶媒揮発促進ガスは窒素などの不活性ガスまたはドライエアーであることを第4の特徴とする。
さらに、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記揮発の促進は前記溶液または前記噴霧液を加熱させて行なうことを第5の特徴とする。
【0011】
また、本発明の目的を達成するために、第2の特徴に加え、前記加熱は前記溶媒揮発促進ガスを加熱して行ない、前記加熱された前記溶媒揮発促進ガスを前記噴霧液に供給して行なうことを第6の特徴とする。
さらに、本発明の目的を達成するために、第6の特徴に加え、前記加熱は前記ノズル部周囲に設けられたランプで行なうことを第7の特徴とする。
【0012】
また、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記噴霧液の噴霧角度を調整することを第8の特徴とする。
【0013】
さらに、本発明の目的を達成するために、第1の特徴に加え、前記印加は隣接するノズル部間に極性の異なる電圧を印加することを第9の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、処理対象とノズル部間の距離を調節でき、大面積への成膜レート向上できるESD有機EL装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のESD有機EL装置の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の溶媒揮発促進手段の第1の実施形態を示す図であり、ノズル部の部分と表示基板の搭載部分を示している。
【図3】本発明の溶媒揮発促進手段の第2の実施形態を示す図であり、ノズル部の部分と表示基板の搭載部分を示している。
【図4】本発明の噴霧角度調整手段の一実施形態を示す図であり、ノズル部の部分と表示基板の搭載部分を示している。
【図5】本発明の溶媒揮発促進手段と噴霧角度調整手段を有する噴霧部10の一実施形態を示した図である。
【図6】溶液への印加電圧として互いに180度位相がずれた交流電圧を用いる第2の実施例を示す図である。
【図7】ESD法の原理を示す図である。
【図8】隣接ノズル部間で発生する静電反発を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を用いて本発明の実施形態を説明する。図1は本発明のESD有機EL装置100の一実施形態を示した図であり、本実施形態の各部の実施形態に使用する構成要素をすべて示している。従って、各部の実施形態で実施しない構成要素も含んでいる。
ESD有機EL装置は、大別して有機EL溶液を噴霧する噴霧部10、隣接した他の処理装置(図示せず)から搬送されてきた処理対象(表示基板、フィルム等。以下代表して表示基板Pで説明)を載置するステージ部20、表示基板の処理部を規定するマスク部30、各部に必要なものを供給する又は駆動する施設を有する施設部40、各部にあるセンサからの情報を受取り施設部等を制御する制御装置50及び台座60を有する。
【0017】
噴霧部10は、有機EL材料(溶質)を溶媒に溶かした溶液12を噴霧口11aから噴霧する金属製キャピラリー11bと金属製キャピラリーの周囲にガス16が流れるガス流路11cとを有するノズル部11、各ノズル部に設けられノズル部から電荷を有して噴霧された噴霧液12dの噴霧範囲を規定するガードリング13、ノズル部の溶液を温めるランプ17、ノズル部内の溶液の液量を計測する液量センサ14、ノズル部11から噴霧量を計測する噴霧量センサ15及び溶液の温度を計測する溶液温度センサ18を有する。なお、ノズル部11は複雑さを避けるために図1では1本のみを記している。
【0018】
ステージ部20は接地され表示基板Pを載置する導電体で構成されたステージ21及び表示基板P上のアライメントマーク23を撮像する撮像手段22を有する。
【0019】
マスク部30は、ステージ21に載置された表示基板Pの所望の位置に成膜31bさせるためのマスク31、噴霧された溶液12をマスク31上の開口部31aに集束させるコリメータ32及び表示基板Pに余分な噴霧や成膜形成開始時の液ダレを防止する基板保護シャッタ33を有する。
【0020】
施設部40は、噴霧部10の各ノズル部11に溶液12を供給する溶液供給源12T、各ノズル部11の噴霧電圧を発生させる噴霧電圧発生源11D、ガードリング13に所定の電圧を発生させるガードリング電圧発生源13D、ガス16をノズル部に供給するガス供給源16T、ランプ17へ必要な電力を供給するランプ電源17D、ステージ21を移動させる基板位置制御駆動部21K、マスク31の位置を調整するためのマスク位置駆動部31K、コリメータ32にかける電圧を発生させるコリメータ電圧発生源32D及び33基板保護シャッタを駆動する基板保護シャッタ駆動部33Kを有する。
【0021】
制御装置50は、制御部51、計測結果や各部の正常、異常状態などのESD有機EL装置の稼動状態を記録する記録装置52Aやそれらを表示する表示装置52Bなどの周辺装置52を有する。
制御部51は、各種制御プログラム53P、計測結果やESD有機EL装置の稼動状態などの情報53J及び各部を制御するためのデータ、条件等の制御データ53Dを内蔵するメモリ53、施設部40や周辺装置52や各種センサとの信号の授受をするインターフェイス54及びこれ等を管理、制御する制御ユニット(CPU)55を有する。各制御手段は施設部の構成要素、その制御プログラム、制御データ及びこれを制御する制御ユニットから構成される。例えば、後述する溶媒揮発促進手段は、ガス供給源16T、ガス制御プログラム16P、ガス制御に必要な制御データ53D及び制御ユニットから構成されている。また、後述するランプによる加熱手段は、ランプ電源17D、溶液温度制御プログラム17P、溶液温度制御に必要な制御データ53D及び制御ユニットから構成されている。さらに、噴霧角度調整手段はガードリング電圧発生源13D、噴霧範囲制御プログラム13P、噴霧範囲制御に必要な制御データ53D及び制御ユニットから構成されている。他の制御手段についても同様である。
【0022】
制御プログラムには、液量センサ14、噴霧量センサ15、溶液温度センサ18及び撮像手段22からの計測結果並びに制御データ53Dに内蔵され予め決められている条件等に基づいて、溶液供給源12Tを制御しノズル部11内の溶液量を管理する溶液供給プログラム12P、噴霧電圧発生源11Dを制御しノズル部11から溶液12を噴霧させる噴霧量制御プログラム11P、ガードリング電圧発生源13Dを制御し噴霧範囲を規定する噴霧範囲制御プログラム13P、ガス供給源16Tを制御し必要なガスを供給するガス制御プログラム16P、ランプ17を制御し溶液12を決められた温度に制御する溶液温度制御プログラム17P、基板位置制御駆動部21Kを制御しアライメントマーク23による位置決めや成膜するために表示基板Pを一定間隔又は一定速度で移動させる基板位置制御プログラム21P、マスク位置駆動部31Kを制御しマスク31の位置を調整するマスク位置調整プログラム31P、コリメータ電圧発生源32Dを制御し噴霧液12dを集束させる噴霧液集束プログラム32P及び基板保護シャッタ駆動部33Kを制御し表示基板Pに余分な噴霧や液ダレを防止する表示基板保護プログラム33Pを有する。
【0023】
図1に示す構成によって、ノズル部を表示基板幅に対応して列状に設け、表示基板Pを紙面表側から裏側に移動させて、溶液12を連続または間欠的に噴霧し、マスク31上の複数の開口部31aに規定されるパターンを表示基板上に成膜する。
【0024】
まず図7を用いてESDの基本原理を説明する。金属製キャピラリー11bに数kVの正(負)電圧をかけると液体には表面張力や正電荷を有する静電気力等が作用する。静電気力が増加し表面張力を超えレイリー分裂が起こると溶液12が円錐形(テイラーコーンという)12aに歪められる。テイラーコーンの先端部から発生する正電荷の液柱12bの不安定性によって液注が分裂し、そこから正電荷を有する液滴12cが発生する。液滴の溶媒が揮発(気化)して電化密度が上昇し、液滴が静電(クーロン)反発で分裂を繰返す。乾燥した粒子は接地された導電体21a(図1のステージ21)に引き寄せられ導電体21a上の設けられたガラス製の表示基板Pに薄膜を形成する。なお、以下の説明では、テイラーコーン12a、液柱12b及び液滴12cを総称して噴霧液12dという。本図では金属製キャピラリー11bに電圧を印加したが、溶液に直接に電圧を印加してもよい。
【0025】
表示基板(処理対象)とノズル部間の距離を短縮するためには液滴の溶媒の揮発を促進する溶媒揮発促進手段が必要である。なぜならば、距離が短くなると溶媒を揮発させる時間が短くなり揮発が不十分になるからである。
溶媒揮発促進手段としては、溶液12や噴霧液12dを加熱する。
【0026】
図2は溶媒揮発促進手段の第1の実施形態を示す図であり、ノズル部11の部分と表示基板Pの搭載部分を示している。図2は2種類の有機材料有する溶液12A、12Bによる成膜を形成するために別々に噴霧できる複数溶液用キャピラリー11bを示している。
図1、図2に用いて本実施形態を説明する。図2においてノズル部11は金属製キャピラリー11bと溶媒揮発促進ガス16のガス流路11c及び噴霧口11aを有する。図1に示すガス供給源16Tから所定の速度、所定の流量を有する溶媒揮発促進ガス16がノズル部のガス流路11cに供給され、噴霧口から噴霧される。
【0027】
この溶媒揮発促進ガスはガス供給源16Tで所定の温度に温められている。従って、溶媒揮発促進ガスはガス流路11cを通過中に溶液12を温め、噴霧後は噴霧液12dを温める。従って、溶媒揮発促進ガス16は加熱する手段の機能を有している。溶液12や噴霧液12dの温度が高くなると溶媒が揮発し、溶質が乾燥する。
一方、噴霧されたガスはテイラーコーン12aや液滴12cなどと接触し乾燥させる共に、ガスの流れ(セン断力)によりテイラーコーン12aや液滴12cを分離し乾燥を促進する。従って、溶媒揮発促進ガス16は噴霧量増大の手段の機能も有している。
【0028】
本実施形態による肉厚1mm金属製キャピラリー11bの内径IDは0.4〜0.5mmであり、ガス流路11cの外側は更に0.15mm大きくなっている。0.15mm以上だと噴霧が不安定になる。また、このときのガス流量GVは2L/min程度であり、少ないと噴霧が不安定になり、大きいと噴霧濃度が下がる。また、有機材料の場合、ガスの温度は有機材料の劣化を避けるため150℃以下で使用する。なお、本実施形態では溶媒揮発促進ガスとして窒素を用いている。その他の溶媒揮発促進ガスとしては窒素以外の不活性ガスやドライエアーが利用できる。
【0029】
以上、本実施形態によれば、例えば表示基板Pとノズル部間の距離Lを150mmから50mm程度に縮めることができる。
【0030】
また、表示基板Pとノズル部間の印加電圧は距離Lに比例するので、印加電圧を1/3に低減することができ、図1に示す噴霧電圧発生源11Dもそれに応じて小型化でき、ESD有機EL装置の小型化とコストダウンに寄与できる。
【0031】
さらに、本実施形態によれば、ガスとして不活性ガスである窒素を用いているので、有機材料の劣化を低減できる。
【0032】
図3は溶媒揮発促進手段の第2の実施形態を示す図である。第2の実施形態の第1の実施形態と異なる点は次の2点であり、その他の点は第1の実施形態と同じである。
第1点は、溶媒揮発促進ガスは加温しない点である。
第2点は、溶媒揮発促進ガスで加熱する代わりに金属キャピラリー11bの周囲にランプ17を設け溶液12A、12Bを加温している。この場合の加温効果は直接的には溶液のみであるが、噴霧液12dも温度が高くなっている。ガスに比べて溶液の温度制御をより安定して制御できる利点がある。
【0033】
本第2の実施形態においても、基本的には第1の実施形態同様な効果を奏することができる。
【0034】
以上説明した第1及び第2の実施形態では、キャピラリー11bに沿って溶媒揮発促進ガスを供給したが、噴霧部10の全体に溶媒揮発促進ガスを流してもよい。その場合必要によっては表示基板Pやマスク31(図1参照)を冷却する。
【0035】
以上の実施形態では表示基板とノズル部間の印加電圧は距離Lを低減できたが、一般に噴霧(成膜)面積が小さくなる。
従って、噴霧角度を調整する噴霧角度調整手段が必要である。
【0036】
図4は噴霧角度調整手段の一実施形態を示す図である。図4は図3に示す溶媒揮発促進手段の第2の実施形態に表示基板Pとノズル部11間に噴霧角度調整用のガードリング12を設けた図である。ガードリング13に噴霧液12dの極性と同一の極性を有する電圧を印加する。電圧を高くすれば噴霧液12dは反発して噴霧角度は小さくなり、逆に低くすれば反発は弱まり噴霧角度は大きくなる。
【0037】
他の方法としては溶媒揮発促進ガスの噴霧速度を調節する方法がある。即ち、噴霧速度を上げれば溶媒揮発促進ガスは噴霧液12dに平行して流れ噴霧液の噴霧角度を押え、逆に噴霧角度を下げれば噴霧液12dを押える力も小さくなり噴霧液の噴霧角度も広がる。
【0038】
以上の噴霧角度調整手段の実施形態によれば、噴霧角度を調節できる、特に膜の均一性を保つために噴霧角度を調整できる。
【0039】
以上説明した溶媒揮発促進手段と噴霧角度調整手段を共に用いることにより、成膜レート向上させながら膜の均一性を保つことができるESD有機EL装置及び方法を提供することができる。
【0040】
図5は以上説明した溶媒揮発促進手段と噴霧角度調整手段を有する噴霧部10の一実施形態を示した図である。図5(a)は図1の紙面表面側から見たときの噴霧部の構成を示し、図5(b)は装置の上部から見たときのノズル部11の配置を示す。ノズル部11は図2に示すように2液タイプでもよいし図7に示すように1液タイプでもよい。図5(a)に示すように噴霧部10は、ノズル部11を表示基板Pの幅Wに対応して複数(本実施例では6個)行方向に列状に配置し、その列状配置を列方向に複数列(本実施例では4列)配置し、全体として計24個マトリックス状に配置している。後述の説明のために、行方向の列状配置に上から順にA1、A2・・の符号を付している。図5(a)はA1列の状態を示す。
【0041】
また、図5(b)で示す白丸印は印加電圧V1、黒丸印は印加電圧V2で印加されているノズル部11を示す。また、溶液12はA1からA4の列単位に設けられた溶液供給配管12hにより、溶媒揮発促進ガス16はガス供給配管16hより矢印12k方向に供給される。図2に示すように溶液が2液の場合、溶液供給配管12hはダブル配管とする。なお、行方向の列数は本実施例では4列にしたが1列でもよいし、場合によっては更に列数を増やしてもよい。
【0042】
図5に示す噴霧部10を図2または図3に示した溶媒揮発促進手段を用いることにより表示基板Pとノズル部11間の距離Lを低減でき、更に噴霧部10に図4に示した噴霧角度調整手段を用いることにより噴霧範囲を拡大でき、さらにノズル部を配置する密度を上げることで成膜レート向上させながら膜の均一性を保つことができるESD有機EL装置及び方法を提供することができる。
【0043】
図5(b)においては複数のノズル部をマトリックス状に配置している。図8に示すように、隣接する複数のノズル部間では、同じ極性を有する噴霧荷電粒子同士が静電反発し、中央部のノズル部からの噴霧量は抑えられ、中央部に噴霧液12dが存在しないあるいは密度の薄い領域12nが形成され、表示基板P上に成膜され難い領域12mが生じる。従って、単にマトリックス状に配置しても一様な成膜を形成することができない。そこで、静電反発が発生しないように隣接ノズル部間に電圧を印加する電圧印加手段が必要である。
【0044】
本実施形態における印加電圧V1と印加電圧V2は常に異なる極性に印加する手段である。即ち、隣接するノズル部11間は異なる極性を示す電圧を印加することにより、それぞれの隣接するノズル部から噴霧される噴霧液12dは異なる極性を持ち互いに静電反発の発生を抑制するまたは起すことはない。従って、各ノズル部から一定のプロファイルを持つ噴霧液12dを安定して得ることができる。なお、図5では印加電圧V1に負電圧を、印加電圧V2に正電圧を印加した状態を示す。また、抑制電圧印加手段は、図1で説明したように、噴霧電圧発生部11D、噴霧量制御プログラム11P、噴霧量制御に必要な制御データ53D及び制御ユニットから構成されている。
この結果、本実施形態ではマスク31によるパターンニングを持つ一様な膜を形成できる。
【0045】
さらに、上記実施形態ではA1からA4の4列の例を示した。列が多いほど表示基板の移動速度を上げることができるが、A1だけの1列だけでもよい。
【0046】
次に、上記のように構成した装置において一様な成膜形成する溶液への印加電圧V1、V2の実施例を図6を用いて説明する。これ等の波形データは図1に示す制御データ53Dとして格納されており、処理内容により作業員が表示装置52B等を介して条件を入力することにより形成される。
図6は印加電圧V1,V2の一例を示し、互いに180度位相がずれた一定の波高値を有する交流電圧を用いる例を示す図である。図6(a)は一定の波高値を有する矩形波電圧Vを示し、図6(b)は一定の波高値を有する正弦波電圧Vを示す。その他種々の印加電圧適用が考えられる。例えば一定の波高値を有する直流パルス電圧でもよい。交流電圧を用いると、静電反発を防止できるだけではなく、異なる極性を有する噴霧液が交互にくるので互いに反発することなく基板上の総電荷を中和しながら堆積するのでチャージアップすることなく厚膜を形成できる。交流周波数は低周波が望ましい。数百Hz以上では表示基板に対する付着力を失ってしまう。好ましくは60Hz以下とする。
【0047】
以上、以上説明した本発明の実施形態によれば、複数のノズル部を用いて噴霧できるので表示装置のような大面積に対して一様に成膜でき、また、マスクを用いれば一様な成膜を有するパターンを形成できる。
【0048】
本発明は表示装置の製造装置の他、有機薄膜太陽電池、有機EL照明、デジタル・サイネージ、有機センサなどの製造装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
10:噴霧部 11:ノズル部
11a:噴霧口 11b:金属製キャピラリー
11c:ガス流路 11D:噴霧電圧発生部
12:溶液 12a:テイラーコーン
12b:液柱 12c:液滴
12d:噴霧液 12h:溶液供給配管
12T:溶液供給部 13:ガードリング
13D:ガードリング電圧発生部 14:液量センサ
15:噴霧量センサ 16:ガス供給源
16h:ガス供給配管 17:ランプ
20:ステージ部 21:ステージ
21K:基板位置制御駆動部 22:アライメントマーク撮像手段
23:アライメントマーク 30:マスク部
31:マスク 31a:マスクの開口部
31K:マスク位置駆動部 32:コリメータ
32D:コリメータ電圧発生部 33:基板保護シャッタ
33K:基板保護シャッタ駆動部 40:施設部
50:制御装置 51:制御部
52:周辺装置 52A:記録装置
52B:表示装置 53:メモリ
53D:各部を制御するためのデータ、条件等の制御データ
53P:制御プログラム
53J:計測結果やESD有機EL装置の稼動状態などの情報
54:インターフェイス 55:制御ユニット(CPU)
60:台座 100:ESD有機EL装置
A1、A2・・:ノズル部の列番号 P:表示基板
V1,V2:溶液への印加電圧 V3,V4:ガードリング印加電圧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機材料を溶媒に溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し噴霧液を発生させる噴霧部と、前記処理対象を搭載する搭載部と、前記印加を搭載部との間で行ない、これを制御する電圧印加制御手段とを有するESD有機EL装置において、
前記噴霧部は前記溶液を有し噴霧口を有するノズル部を複数有し、前記溶媒の揮発を促進させる溶媒揮発促進手段を有することを特徴とするESD有機EL装置。
【請求項2】
前記溶媒揮発促進手段は溶媒揮発促進ガスを前記噴霧液に供給する手段であることを特徴とする請求項1に記載のESD有機EL装置。
【請求項3】
前記溶媒揮発促進手段は前記溶媒揮発促進ガスを前記ノズル部の前記溶液に沿って設けられたガス流路に供給する手段であることを特徴とする請求項2に記載のESD有機EL装置。
【請求項4】
前記溶媒揮発促進ガスは不活性ガスまたはドライエアーであることを特徴とする請求項2に記載のESD有機EL装置。
【請求項5】
前記流路の幅は0.15mm以下であり、前記溶媒揮発促進ガスの流量は2L/min程度であることを特徴とする請求項3に記載のESD有機EL装置。
【請求項6】
前記溶媒揮発促進手段は前記溶液または前記噴霧液を加熱させる加熱手段であることを特徴とする請求項1に記載のESD有機EL装置。
【請求項7】
前記加熱手段は前記溶媒揮発促進ガスを加熱させる手段であることを特徴とする請求項2に記載のESD有機EL装置。
【請求項8】
前記加熱手段は前記ノズル部周囲に設けられたランプであることを特徴とする請求項6に記載のESD有機EL装置。
【請求項9】
前記噴霧液の噴霧角度を調整する噴霧角度調整手段を有することを特徴とする請求項1に記載のESD有機EL装置。
【請求項10】
前記電圧印加制御手段は隣接するノズル部間に極性の異なる電圧を印加することを特徴とする請求項1に記載のESD有機EL装置。
【請求項11】
有機材料を溶かした溶液に電圧を印加し、前記印加によって生じる電荷を有する噴霧液を処理対象に向けて噴霧し、前記印加を前記処理対象を搭載する搭載部との間で行なうESD有機EL方法において、
前記噴霧は前記溶液を有し噴霧口を有する複数のノズル部で行ない、前記溶媒の揮発を促進させることを特徴とするESD有機EL方法。
【請求項12】
前記揮発の促進は溶媒揮発促進ガスを前記噴霧液に供給して行なうことを特徴とする請求項11に記載のESD有機EL方法。
【請求項13】
前記溶媒揮発促進ガスは不活性ガスまたはドライエアーであることを特徴とする請求項12に記載のESD有機EL方法。
【請求項14】
前記揮発の促進は前記溶液または前記噴霧液を加熱させて行なうことを特徴とする請求項11に記載のESD有機EL方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−181271(P2011−181271A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43028(P2010−43028)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】