説明

EUV放射線及び/又は軟X線を発生させる放射線源を短絡から保護する方法

本発明は、極紫外(EUV)放射線及び/又は軟X線を発生させる放射線源を短絡から保護する方法に関する。当該方法は、電気的に作用される放電によって前記EUV放射線及び/又は軟X線を発生させる放射線源にも適用される。電気的に作用される放電は、放電空間中の少なくとも2の電極(1,2)間に存在する蒸気中で生じる。前記蒸気は金属溶融物によって生成される。金属溶融物は、前記放電空間内の表面に塗布され、少なくとも一部はエネルギービーム(9)によって蒸発する。そのような放射線源は、前記電極(1,2)間、及び/又は該電極(1,2)と電気的に接続する部品(4,5)間に1以上の小さなギャップ(17)を有する。これらのギャップ(17)は、蒸発した金属がそこに凝集するときに、短絡を引き起こす恐れがある。当該方法では、放射線源の動作中、前記ギャップ(17)と接する少なくとも1の表面、及び/又は、前記ギャップ(17)を覆う、若しくは前記ギャップ(17)内部に備えられている、1以上の保護素子(16,18)は、ある温度にまで加熱される。その温度にまで加熱されることで、前記金属の蒸気圧は、前記表面又は保護素子上に凝集する金属材料を蒸発させるのに十分な程度に高くなる。本方法によって、放射線源の寿命は延びる。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極紫外(EUV)放射線及び/又は軟X線を発生させる放射線源を短絡から保護する方法に関する。前記放射線源は、電気的に作用される放電によって前記EUV放射線及び/又は軟X線を発生させる。前記電気的に作用される放電は、放電空間中の少なくとも2の電極間に存在する蒸気中で生じる。前記蒸気は金属溶融物によって生成される。前記金属溶融物は、前記放電空間内の表面に塗布され、少なくとも一部はエネルギービーム、具体的にはレーザービーム、によって蒸発する。そのような放射線源は、前記電極間、及び/又は該電極と電気的に接続する部品間に1以上の小さなギャップを有する。
【背景技術】
【0002】
EUV放射線及び/又は軟X線を放出する放射線源は、特にEUVリソグラフィの分野において必要とされている。その放射線は、パルス電流によって生成される熱プラズマによって放出される。現時点において知られている最も強力なEUV放射線源は、金属蒸気によって必要なプラズマを生成することで動作する。そのようなEUV放射線源の例が特許文献1で示されている。この既知の放射線源では、金属蒸気は、金属溶融物によって生成される。その金属溶融物は、放電空間内の表面に塗布され、少なくとも一部はエネルギービーム、具体的にはレーザービーム、によって蒸発する。この放射線源についての好適実施例では、2の電極は、回転可能なようにマウントされている電極を形成する輪である。これらの輪は、放射線源の動作中に回転する。電極輪は、回転中に、金属溶融物を格納容器から引き出す。パルスレーザービームは、固まっている金属溶融物から金属蒸気を生成して放電を起こすために、放電空間中の1の電極表面に直接導かれる。金属蒸気は、数kAから最大で数十kAの電流によって加熱される。それによって、所望のイオン化段階が励起され、かつ所望の波長を有する光が放出される。この放電後、金属蒸気は冷却され、放射線源の部品の冷たい表面上に凝集する。
【0003】
係る放射線源の主要な問題の1つは、電極間、及び/又は該電極と電気的に接続する部品間でのギャップの保護である。記載された放射線源では、係る部品はたとえば、金属溶融物を介して電極と電気的に接続する2の格納容器である。前記格納容器から引き出す電極は、低いインダクタンスでもプラズマ放電を十分に起こすことができるように近接していなければならないので、これらの格納容器は、小さな距離を置いて備えられている。そのようなギャップ中に金属蒸気が凝集する、又は金属液滴が堆積されることで、放射線源の寿命を強く制限してしまう短絡が生じる恐れがある。本明細書においては、放射線源の動作中では、その動作時間に依存して、数gから最大で1kgの金属が放電空間中で蒸発し、その蒸発した金属は、放射線源の冷たい部品上に凝集する。
【0004】
上述の特許文献1では、ギャップへの金属蒸気の拡散、又はギャップへの液滴の堆積を防止するため、そのギャップを少なくとも部分的に覆う保護素子を、放射線源内に備えることが提案されている。これらの保護素子は、金属蒸気がこれらの素子上に凝集し、かつ格納容器へ逆流しうる温度に保たれる。たとえ係る方法が用いられたとしても、放射線源の寿命は1桁又は2桁の長さで延びるが、これでも商用の放射線源としてはまだ十分ではない。
【特許文献1】国際公開第2005/025280号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、短絡に対する上述の型の放射線源の保護方法の提供である。当該方法が供された結果、当該放射線源の寿命は延びる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
その目的は、請求項1に記載の方法によって実現される。当該方法の有利な実施例は、従属請求項の主題であるか、又は以降の説明及び例の中で開示される。
【0007】
本発明は、電気的に作用される放電によって極紫外(EUV)放射線及び/又は軟X線を発生させる放射線源を短絡から保護する方法に関する。電気的に作用される放電は、放電空間中の少なくとも2の電極間に存在する蒸気中で生じる。前記蒸気は金属溶融物によって生成される。金属溶融物は、前記放電空間内の表面に塗布され、少なくとも一部はエネルギービーム、具体的にはレーザービーム、によって蒸発する。前記放射線源は、前記電極間、及び/又は該電極と電気的に接続する部品間に1以上の小さなギャップを有する。これらのギャップは、蒸発した金属がそこに凝集するときに、短絡を引き起こす恐れがある。同じことは、これらのギャップ中に堆積する恐れのある金属液滴についても当てはまる。当該方法では、放射線源の動作中、前記ギャップと接する少なくとも1の表面、及び/又は、前記ギャップを覆う、若しくは前記ギャップ内部に備えられている、1以上の保護素子は、前記金属の蒸気圧が、前記表面又は保護素子上に凝集する金属材料を蒸発させるのに十分な程度に高さになる温度にまで加熱される。前記表面は、小さなギャップ領域内の電極表面、又はギャップを形成し、かつ電極と電気的に接続する部品の表面であって良い。保護素子は、ギャップを保護するように備えられた金属シールドであって良い。具体的には特許文献1の知られた放射線源内ですでに用いられている金属シールドであって良い。これらの表面又は素子を、このような高温に加熱するので、金属蒸気はこれらの表面又は素子上に凝集できない。また堆積された金属液滴はこれらの表面又は素子から蒸発する。そのため、短絡を材料の橋が前記表面又は素子上に成長できない。以降の説明では、金属蒸気及び金属液滴は燃料と呼ばれる。
【0008】
たとえばSn、In、Sb、Te又はLiのような、放射線源に用いられている燃料に依存して、上記表面又は素子は、400℃から1500℃に加熱されなければならない。その表面又は素子は、前記燃料の堆積が生じない温度にまで加熱されることが好ましい。このことは、時間が経つことで、前記表面又は素子上に堆積又は凝集した燃料の量が増加しないことを意味する。良好な結果は、放射線源に用いられる燃料の蒸気圧が少なくとも10Paとなるような温度が選ばれるときに、得られる。本方法では、加熱は、前記保護素子、並びに/又は、電極及び/若しくは部品の表面内で一体化した特殊な加熱素子によって実現可能である。他の可能性は、発生したEUV放射線及び/又は軟X線の吸収によって生じる加熱効果を用いることである。本明細書においては、放射線源の部品は通常、放射線源の燃料の融点よりもわずかに高い温度を維持するように冷却されることに留意して欲しい。この温度は、燃料を蒸発させるのに十分な高さではない。ギャップの特殊領域でより高い温度を実現するために、前記領域での冷却を緩和させることで、EUV放射線及び/又は軟X線の加熱硬化によってより高い温度を実現することが可能である。本発明に従って加熱された表面又は素子は、たとえばモリブデンやタングステンのような高融点を有する材料で作られることが好ましい。
【0009】
短絡から保護される放射線源が保護素子を有していない場合、本発明の方法に従って、そのような保護素子を前記放射線源内部に備えることは有利である。これは、突起状の縁を、ギャップを形成する2の部品のいずれかに固定して、前記縁がギャップの入り口を少なくとも部分的に覆うようにすることで実現可能となる。他の可能性は、ギャップを形成する2の表面間に金属プレートを備えることで、そのギャップを2の部分に分離することである。
【0010】
本発明の方法の例は、添付の図と共に以降で記載されている。その例は、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の方法が適用可能な放射線源の断面を概略的に図示している。この放射線源は、事前に設定可能なガス圧を有する放電空間内に備えられた2の電極を有する。ディスク形状の電極1,2が回転可能なようにマウントされている。つまり電極1,2は、動作中に回転軸3の周りを回転する。回転中、電極1,2の一部は、それぞれに対応する格納容器4,5に入り込んでいる。これらの格納容器4,5の各々は、金属溶融物6、本例では液体スズ、を含む。金属溶融物6は、約300℃、つまりスズの融点である230℃よりもわずかに高温、に保持されている。格納容器4,5内の金属溶融物は、前記格納容器と接続する加熱装置又は冷却装置(図示されていない)によって、上記の動作温度に維持される。回転中、電極1,2の表面は、液体金属によって濡れた状態になる。それにより、液体金属膜が前記電極上に形成される。電極1,2上の液体金属の層の厚さは、スキマー11によって制御される。電極1,2への電流は、金属溶融物6を介して供給される。金属溶融物6は、絶縁貫通孔8を介してキャパシタバンク7と接続する。
【0012】
レーザーパルス9は、電極1,2のうちのいずれか1上でかつ、2の電極間の最も狭くなっている地点で集光される。その結果、電極1,2上に位置する金属膜の一部が蒸発して、電極ギャップに橋を架ける。これにより、この点で破壊的放電が生じ、及びキャパシタバンク7から非常に大きな電流が発生する。その電流は、金属蒸気すなわち燃料が、ピンチプラズマ15中でイオン化されて、所望のEUV放射線を放出するような高温にまで、燃料を加熱する。
【0013】
燃料が放射線源から逃げるのを防ぐため、残骸を減少させるユニット10が、放射線源の前方に備えられている。この残骸を減少させるユニットは、放射線源から外れるような放射線の直線経路を可能にするが、その経路の途中に多量の残骸粒子を保持している。放射線源の筐体の汚染を回避するため、スクリーン12が、電極1,2と放射線源の筐体との間に備えられて良い。
【0014】
係る放射線源の問題は、2の格納容器4,5が、互いに非常に近接するように備えられなければならず、それによって蒸気である燃料が凝集し、又は液滴である燃料が堆積することで、EUVランプの短絡を招く恐れがあることである。図1に図示された既知のランプでそのような短絡が起こるのを回避するため、金属シールド13が、2の格納容器間のギャップ内に備えられている。前記金属シールド13は、前記ギャップへの燃料の拡散を減少させるため、そのギャップを覆っている。そのような保護素子が設けられているにもかかわらず、拡散を完全に抑制することはできない。従って燃料は、2の金属製格納容器4,5間の、たとえば図1の構成であれば、各格納容器4,5と金属シールド13との間の、ギャップ内に凝集又は堆積することで、ランプの短絡を引き起こす恐れがある。
【0015】
この短絡は、本発明に係る方法を係る放射線源に適用することによって回避できる。図2は、係る放射線源の2の部品、本例では2の格納容器4,5、を非常に概略的に示した図である。放射線源のプラズマ放電15の金属蒸気又は金属液滴14は、これらの格納容器4,5の表面上に堆積することで、2の部品間のギャップ17に橋を架ける恐れがある。表面上での凝集を回避する1の可能性は、ギャップ17と接するこれらの表面のいずれか又は両方を、プラズマの生成に用いられる燃料の蒸気圧が燃料を蒸発させるのに十分な高さとなる温度にまで加熱することである。この加熱は、図2において概略的に示されている特殊な加熱素子19、又は格納容器4,5のこれらの表面の冷却効果をなくすことによって実現可能である。よって表面は、生成されたEUV放射線によって、発生したEUV放射線によって、格納容器の他の部分の表面よりも高い温度に加熱される。なお他の部分の表面は燃料の融点よりもわずかに高い温度に保持されなければならない。
【実施例1】
【0016】
図3は、本発明による方法を適用した別の例を図示している。この場合では、金属製突起状の縁16は、格納容器4,5のうちの1に固定されることで、格納容器間のギャップ17を覆う。このように覆われていることで、格納容器4,5の間のギャップ17に入り込む燃料を少なくすることができる。さらに縁16は、燃料が前記縁上に凝集しない程度に高い温度にまで加熱されるため、縁16と隣接格納容器5との間では短絡が起こりえない。
【実施例2】
【0017】
図4は、金属プレート18が2の格納容器4,5の間に備えられている、本発明に係る方法の別な例を図示している。この金属プレートは、燃料がこの金属プレート上に凝集しない温度にまで加熱される。このように加熱されることにより、ギャップ17に入り込む燃料の金属蒸気又は金属液滴14は、格納容器4,5と金属プレート18との間で短絡ブリッジを形成するように成長することができない。係る金属プレート18は、たとえば図1に図示されている金属シールド13によって形成されて良い。よってこの金属シールド13は、燃料の凝集を避けるために、本発明に従って蒸気温度にまで加熱される。
【0018】
本例では、当該方法は、図1に示された格納容器4,5を参照しながら説明された。しかし本発明に係る方法はまた、電極と電気的に接続する他の部品であって、係る小さなギャップを形成する部品にも適用されて良い。さらに保護素子を加熱するときには、電極又は部品の隣接する表面をさらに加熱することも可能である。いずれの場合においても、加熱それ自体は、たとえば加熱ワイヤ、加熱素子、放射線源それ自身による加熱、又は別な放射線源による加熱のような一般的な加熱手段によって実現されて良い。加熱は、短絡を引き起こすギャップの領域を局所的に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る方法が適用可能な放射線源の概略図である。
【図2】ギャップを形成する、放射線源の2の部品の概略図である。
【図3】保護素子によって覆われているギャップを形成する、放射線源の2の部品の概略図である。
【図4】ギャップを形成する、放射線源の2の部品であって、内部に保護素子が備えられている部品の概略図である。
【符号の説明】
【0020】
1 電極
2 電極
3 回転軸
4 格納容器
5 格納容器
6 金属溶融物
7 キャパシタバンク
8 貫通孔
9 レーザーパルス
10 残骸を減少させるユニット
11 スキマー
12 シールド
13 金属シールド
14 金属蒸気/液滴
15 ピッチプラズマ
16 突起状の縁
17 ギャップ
18 金属プレート
19 加熱素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気的に作用される放電によって極紫外(EUV)放射線及び/又は軟X線を発生させる放射線源を短絡から保護する方法であって、
前記放射線源は、電気的に作用される放電によって前記EUV放射線及び/又は軟X線を発生させ、
前記電気的に作用される放電は、放電空間中の少なくとも2の電極間に存在する蒸気中で生じ、
前記蒸気は金属溶融物によって生成され、
前記金属溶融物は、前記放電空間内の表面に塗布され、少なくとも一部はエネルギービーム、具体的にはレーザービーム、によって蒸発し、
前記放射線源は、前記電極間、及び/又は該電極と電気的に接続する部品間に1以上の小さなギャップを有し、
前記放射線源の動作中、前記1以上のギャップと接する少なくとも1の表面、及び/又は、前記1以上のギャップを覆う、若しくは前記1以上のギャップ内部に備えられている、1以上の保護素子は、前記金属の蒸気圧が、前記表面又は保護素子上に凝集する金属材料を蒸発させるのに十分な程度に高さとなる温度にまで加熱される、
ことを特徴とする、
方法。
【請求項2】
前記表面及び/又は1以上の保護素子が、正味で前記金属が堆積しない温度にまで加熱される、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記表面及び/又は1以上の保護素子が、400℃よりも高温にまで加熱される、ことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記1以上の保護素子が、前記電極及び/又は部品に固定され、かつ前記1以上のギャップを覆う突起状の輪である、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記1以上の保護素子が、前記ギャップ内部に備えられていることで、該ギャップを2の部分に分離する、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
前記表面及び/又は1以上の保護素子が、一体化した電気加熱素子によって加熱される、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項7】
前記表面及び/又は1以上の保護素子が、前記放射線源の前記極紫外(EUV)放射線及び/又は軟X線によって加熱される、ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項8】
放射線源内での短絡を防止する方法であって、
前記電極が、動作中、回転可能なように設けられ、かつ回転しながら、前記金属溶融物を含む格納容器から引き出し、
前記部品を表す前記格納容器は、前記電極と電気的に接続する、
請求項1又は2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−544448(P2008−544448A)
【公表日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516461(P2008−516461)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【国際出願番号】PCT/IB2006/051796
【国際公開番号】WO2006/134513
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】