説明

FRPと金属の重ね板加工用ドリル

【課題】寿命向上と高品位の穴加工を実現したFRPと金属の重ね板加工用のドリルを提供することを課題としている。
【解決手段】シンニング部3と、そのシンニング部よりも外径側が正面視で緩やかに凹形に彎曲した切れ刃2を有するツイストドリルにおいて、ランド部5のドリル回転方向前方の縁に形成されるマージン6をランド部5から直角、かつ、マージンに沿ったねじれ溝4の溝面と平行に立ち上がる直角マージンにし、さらに、そのマージンの幅Wを0.3mm〜0.6mmに設定した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、FRP(繊維強化プラスチックス)と金属の重ね板を加工するのに適したドリルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FRP、中でもCFRP(炭素繊維強化プラスチックス)が、飛行機の胴体や翼用の構造材として特に脚光を浴びている。このCFRPは、チタンやアルミニウムなどの金属を組み合わせて複合板材として提供されることがある。
【0003】
その複合板材は、CFRPの一面に金属を重ねたもの(以下では単に重ね板と言う)が用いられている。その重ね板は、例えば、飛行機の胴体や翼などを構成する場合、ボルトやリベットなどの締結材を通す穴をあける必要がある。
【0004】
その穴あけには、標準的な刃型のソリッドドリルが利用されている。標準的な刃型とは、ねじれ溝の溝面と先端の逃げ面が交差した位置の稜線を切れ刃とし、さらに、回転中心部に、先端の芯厚を減少させるシンニング部を設けた形状を言う。
【0005】
また、FRPの単材の穴あけには、下記特許文献1に開示されるようなドリルも提供されている。同文献のドリルは、先端角を最外径部で0°になるように回転中心部から外径部に向けて連続的に減少させ、さらに、切れ刃の逃げ角も回転中心部から最外径部に向けて連続的に減少させている。
【0006】
下記特許文献2は、本発明が適用対象とするドリルの一形態を示している。このドリルは、刃先交換式と称されているものであって、本体部の先端に着脱自在の切削ヘッドを有しており、その切削ヘッドに切れ刃とねじれ溝の先端側が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−36759号公報
【特許文献2】特開2003−136319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記標準的な刃型のソリッドドリルは、重ね板の穴あけ用途では寿命が短い。被削材がCFRPと金属の重ね板であることから、耐摩耗性向上のために採用されている硬質被膜のコートも基本的に採用しづらく、短寿命となることが避けられない。
【0009】
また、マージンの摩耗に伴ってマージン幅が増加する構造になっている。そのために、マージンの擦り摩耗が生じやすいCFRPの加工では特に、マージンの摩耗による摩擦面積の増加が生じて摩耗が益々助長され、これによる寿命低下や摩擦熱による穴面の焦げ、金属の溶着などの問題が起こり易くなる。
【0010】
一方、前記特許文献1のドリルは、外径側ほどスラスト荷重が低減する構造になっているのでFRP単材の穴あけには適するが、金属を重ねた複合材の場合、金属層に加工される穴の出口部に円筒状のバリが発生しやすく、要求品位を満たす穴をあけるのが難しい。
【0011】
また、同文献は、マージンをランド部のねじれ溝に沿った両縁に設ける(いわゆるダブルマージンにする)ことを述べているが、ダブルマージンでは、被削材がCFRPと金属の重ね板であると加工穴の穴面の焦げや金属の溶着などがより起こり易くなる。
【0012】
この発明は、上記課題の解決策として、寿命向上と高品位の穴加工を実現したFRPと金属の重ね板加工用のドリルを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明においては、芯厚を減少させるシンニング部と、そのシンニング部よりもドリルの正面視で外径側が緩やかに凹形に彎曲した切れ刃を有するツイストドリルを以下の通りに構成した。即ち、ランド部のドリル回転方向前方の縁に形成されるマージンをランド部から直角、かつ、マージンに沿ったねじれ溝の溝面と平行に立ち上がる直角マージンにし、さらに、そのマージンの幅を0.3mm〜0.6mmに設定した。
【0014】
このドリルは、切れ刃の外径側に強化処理を施したものが好ましい。切れ刃の外径側のすくい面(ねじれ溝の溝面)に、その面のねじれ角を0°にするドリルの中心の軸線と平行な戻し面を加工してその強化処理となす。
【0015】
また、この発明は、前掲の特許文献2に開示されるような刃先交換式ドリルに適用すると、その有効性がより顕著に発揮されて好ましい。
【発明の効果】
【0016】
この発明のドリルは、マージンを直角マージンにしたので、マージンが摩耗してもマージン幅は変化せず、マージンの摩耗による摩擦面の増加が起こらない。また、マージンをシングルマージンとし、さらに、そのマージンの幅を標準設計よりも小さい0.3mm〜0.6mmにしたので、加工時の摩擦面積が減少し、摩擦の促進に起因した寿命低下や加工穴面の焦げ、金属の溶着などが起こり難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明のドリルの第1形態の要部を示す側面図
【図2】図1のドリルの先端側の端面図
【図3】図1のドリルを同図の矢視III方向に見た拡大側面図
【図4】この発明のドリルの第2形態の要部を示す側面図
【図5】図4のドリルの切削ヘッドの先端側の端面図
【図6】図4のドリルを、切削ヘッドを外した状態にして示す側面図
【図7】この発明のドリルの第3形態の要部を示す側面図
【図8】図7のドリルを同図の矢視III方向に見た拡大側面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面の図1〜図8に基づいて、この発明の重ね板加工用ドリルの実施の形態を説明する。図1〜図3は、この発明をソリッドドリルに適用した例を示している。このドリルは、超硬合金などを素材にしたドリル本体1の先端に中心対称形状の2枚の切れ刃2,2と、芯厚を減少させる中心対称位置に配置された2箇所のシンニング部3,3を有する。
【0019】
また、ドリル本体1の外周に2条のねじれ溝4,4を有し、さらに、2箇所のランド部5,5のドリル回転方向前縁にそれぞれマージン6,6を有する。
【0020】
切れ刃2は、先端中心に図には明確に現われない微小なチゼルエッジを有する。そのチゼルエッジを除いた部分は、すくい面7(ねじれ溝4の溝面)と先端の逃げ面8が交差した位置の稜線とシンニング部の面と逃げ面8が交差した位置の稜線で構成されており、シンニング部3よりも外径側がドリルの正面視で緩やかに凹形に彎曲した刃になっている。
【0021】
その切れ刃の凹形に彎曲した部分の凹み量は、ドリル径をDとしたとき、その径Dとの比で、0.01〜0.03D程度にしている。
【0022】
その彎曲した切れ刃を備えるものは、切屑を軽度にカールさせる働きが生じ、切屑処理の性能が向上して被削材に加工された穴の面に対する切屑の擦過が起こり難くなる。また、切屑にカール力が加わるため応力をかけなくても切屑が処理される。
【0023】
なお、切れ刃2は、CFRPやGFRPの切削では、シャープエッジが好ましいことから、刃先のホーニング処理を実施する場合にも、シャープな状態が保たれるようにしている。
【0024】
ドリルの先端角は、125°〜135°に設定しており、一般的な金属加工用のドリルの先端角(120°が一般的)よりも若干大きい。この範囲の先端角を選択することで、下穴があけられた重ね板を加工するときの下穴に対する喰いつきの挙動を安定させることができる。
【0025】
ねじれ溝4は、10°〜30°程度のねじれ角を有する。
【0026】
マージン6は、ランド部5から直角に立ち上がるマージンにしている。また、ランド部5から立ち上がる面をねじれ溝4の溝面と平行な面にしてマージン幅が同マージンの高さ方向(径方向)の全域において一定するようにしている。そして、さらに、そのマージンの幅W(図2参照)を0.3mm〜0.6mmに設定して被削材との接触面積を減少させている。
【0027】
先に説明したように、マージン幅Wを標準設計よりも小さくすることで加工時の摩擦面積を減少させており、摩擦の促進に起因した寿命低下や加工穴面の焦げ、金属の溶着などの抑制が図れる。
【0028】
このほか、逃げ面8は、3レーキの逃げ面にして一番逃げ面の前逃げ角γ(図3参照)を14°〜15°程度にしており、金属に比べて弾性変形し易いCFRPの加工でも2番当りが起こり難くい。これは、FRP加工での逃げ面の摩耗抑制に有効である。
【0029】
図4〜図6は、この発明を刃先交換式ドリルに適用した例を示している。このドリルは、切れ刃2と、シンニング部3と、ねじれ溝4及びランド部5の先端側と、マージン6をドリル本体1から独立させた切削ヘッド10に設け、その切削ヘッド10をドリル本体1の先端に着脱自在に取り付けている。
【0030】
ドリル本体1にはマージン6は設けられていない。また、切削ヘッド10の外周にはバックテーパが付されている。そのバックテーパは、1.0〜1.2mm/100mm(100mm長さ当りの勾配が1.0〜1.2mm)の範囲に設定している。その値は、ドリルのバックテーパとしては非常に大きく、ソリッドドリルにおいては製造面で設定不可能な数値である。
【0031】
切削ヘッド10のみにバックテーパを付すことで、そのような数値のバックテーパの設定を可能にしている。その大きなバックテーパは、CFRPの加工で被削材に悪影響を及ぼす発熱の抑制効果をもたらす。
【0032】
ドリル本体1に対する切削ヘッド10の取り付けは、2本の締結ボルト(図示せず)を用いて行っている。切削ヘッド10とドリル本体1は、両者の突き合わせ面に放射状のセレーション9を設け、そのセレーション9を噛み合わせることで求心効果と回り止め効果を生じさせているが、これ以外の締結構造を採用してもよい。
【0033】
図7及び図8は、刃先強化用として、先端外周側においてすくい面に正面戻しの処理を施したものである。ねじれ溝4の先端外径側に、溝のねじれを戻して溝面(すくい面)の一部をドリルの軸心と平行にする戻し面11を形成しており、この戻し面11の設置によって、切れ刃2の外径側が強化されている。
【0034】
この発明のドリルは、一番逃げ面の前逃げ角γを大きく設定していることもあって切れ刃がシャープになっている。そのシャープな切れ刃は、被削材がこの発明で言う重ね板であってその板の穴あけ箇所に予め下穴が形成されている場合、金属層に喰いつくときの負荷変動によって切れ刃が欠損し易い。
【0035】
上記戻し面11の設置は、その欠損対策として有効である。切れ刃の強化は、ネガランドの加工やホーニング処理でも行えるが、これ等の方法では、切れ味が鈍ってCFRPの穴出口部において層間剥離(デラミネーション。CFRPの剥離やCFRPと金属の剥離)が発生しやすくなる。これ等の方法に比べて戻し面11による強化は刃先の鈍化を抑えやすく、エッジのシャープさの保持と刃先の強度アップの両立が図れる。なお、戻し面11の設置による刃先強化策は、ソリッドドリルにも適用できる。
【0036】
刃先交換式ドリルは、ソリッドドリルに比べて刃先再生のための再研磨回数が少ない反面、切削ヘッドのみの交換によって傷んだ切れ刃を簡単に、短時間に再生できる利点がある。
【0037】
また、この刃先交換式ドリルは、切削ヘッドに大きなバックテーパを付すことが可能であり、さらに、マージンも切削ヘッドのみに形成することができるため、被削材との摩擦を低減が図れ、加工穴の品位を高めやすい。
【0038】
さらに、ソリッドドリルに比べて工具素材費のロスが少なくて経済性に優れることや、ドリル本体を加工機やハンドドリルに装着した切削ヘッドの交換作業を進めることができて穴加工の能率向上に寄与できる。
【0039】
従って、この発明は、刃先交換式ドリルに適用するとより良い効果を期待できる。また、切れ刃の摩耗、発熱による穴面の焦げや金属の溶着の問題は、CFRPの重ね板において特に顕著であるが、被削材に含まれるFRPが、GFRP(ガラス繊維強化プラスチックス)などである場合にも発生するので、この発明は、GFRPの重ね板の加工でも有効性が発揮される。
【0040】
なお、この発明のドリルは、刃型が被削材に対してある程度スラスト荷重が加わるものになっている。それが、むしろ良いほうに作用して金属に加工される穴の出口に円筒状のバリができ難い。
【0041】
また、FRP単材の穴あけでは、スラスト荷重のかかる工具は、加工中に層間剥離(デラミネーション)などを発生させやすいことから好ましくないとされているが、金属を重ねた複合材の場合、金属層を下にして加工することでスラスト荷重を金属層によって受け止めることができるため、スラスト荷重がさほど小さくならない刃型でも要求品位を満たす穴をあけることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ドリル本体
2 切れ刃
3 シンニング部
4 ねじれ溝
5 ランド部
6 マージン
7 すくい面
8 逃げ面
9 セレーション
10 切削ヘッド
11 戻し面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯厚を減少させるシンニング部(3)と、ドリル正面視で前記シンニング部よりも外径側が緩やかに凹形に彎曲した切れ刃(2)を有するツイストドリルであって、ランド部(5)のドリル回転方向前方の縁に形成されるマージン(6)をランド部から直角、かつ、マージンに沿ったねじれ溝(4)の溝面と平行に立ち上がる直角マージンにし、さらに、そのマージンの幅(W)を0.3mm〜0.6mmに設定したFRPと金属の重ね板加工用ドリル。
【請求項2】
前記切れ刃(2)の外径側を、当該部のすくい面にその面のねじれ角を0°にするドリルの中心の軸線と平行な戻し面(11)を加工して強化した請求項1に記載のFRPと金属の重ね板加工用ドリル。
【請求項3】
切れ刃(2)と、シンニング部(3)と、ねじれ溝(4)及びランド部(5)の先端側と、マージン(6)を備えた切削ヘッド(10)を有し、その切削ヘッド(10)をドリル本体(1)の先端に着脱自在に装着して刃先交換式ドリルとして構成した請求項1又は2に記載のFRPと金属の重ね板加工用ドリル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−75339(P2013−75339A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216234(P2011−216234)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(503212652)住友電工ハードメタル株式会社 (390)
【Fターム(参考)】